説明

試料の前処理方法及びこれを利用する免疫学的測定方法

種々の多量体が混在する生体試料中のアディポネクチンの総量を免疫学的測定法により、簡便、迅速かつ正確に測定するための試料の前処理方法の提供。
試料中のアディポネクチンの総量を免疫学的に測定するためのアディポネクチン測定用試料の前処理方法であって、アディポネクチンを含む試料に、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを作用させることを特徴とする、アディポネクチン測定用試料の前処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のアディポネクチンの総量を免疫学的測定法により、簡便、迅速かつ正確に測定するための前処理方法及びこれを利用するアディポネクチン総量の免疫学的測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチン(非特許文献1〜4)は、白色脂肪組織において特異的にかつ最も多く発現している分泌蛋白質のひとつで、244個のアミノ酸より成る約30kDaのC1qファミリーに属する血漿蛋白質である。
【0003】
アディポネクチンは、N末端側のコラーゲン様ドメインとC末端側のグロブラー(globular:球状)ドメインからなる単量体が、コラーゲン様ドメイン中のGly−X−Yの繰り返し構造により、トリプルヘリックスの3量体を形成した構造をとっている。そして、血中では3量体同士がさらに結合し、種々の多量体を形成して存在していることが報告されている(以下、総称して「種々の多量体」ということがある)。
【0004】
近年、アディポネクチンはヒト血中に5〜10μg/mLという高濃度で存在し、様々な生理活性を有することが報告されている。特に平滑筋細胞の増殖を抑制することや単球の内皮細胞への接着を抑制することから、動脈硬化の抑制効果があるものと考えられている(非特許文献5)。また、アディポネクチンを2型糖尿病や脂肪萎縮性糖尿病の病態マウスに投与するとインスリン抵抗性と高FFA(遊離脂肪酸)血症、高TG(中性脂肪)血症が改善することから、インスリン感受性ホルモンとして糖尿病の改善効果が報告されている(非特許文献6)。さらに、アディポネクチンの血中濃度が低値の腎不全患者群は心血管合併症発症率が高く、生存率が低下すること、インスリン抵抗性や2型糖尿病を高頻度で発症するピマインディアンの研究において、血中アディポネクチン高値群では2型糖尿病発症が抑制されていることが報告されている(非特許文献7)。
【0005】
これらの報告より、アディポネクチンは内臓脂肪の過剰蓄積とインスリン抵抗性発症を直接リンクさせる内分泌因子である可能性が示唆され、血中アディポネクチン濃度を測定することは、糖尿病や動脈硬化などの発症予測因子として、生活習慣病の良い指標となる可能性が考えられている。
【0006】
種々の多量体が混在する血液試料においてアディポネクチンの総量を測定する方法としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下に煮沸して、種々の多量体において立体構造上隠れていた抗体の認識部位を露出させる処理を行った後、免疫学的測定を行う方法(特許文献1)が報告されている。しかしながら、この方法には、煮沸(100℃)処理のための装置が必要である点、煮沸処理に引き続いて免疫学的測定をする二つの工程を自動化することが実際上困難である点などの問題があった。
【0007】
また、LINCO RESEARCH,INC.から「HUMAN ADIPONECTIN RIA KIT(Cat.#HADP−61HK)が市販されているものの、当該キットは、125Iで標識したマウスアディポネクチンとヒトアディポネクチンを競合させ抗アディポネクチン−ポリクローナル抗体で捕捉する二抗体/PEG法を利用していることから、操作が煩雑であり、安全性、特異性や試薬の品質の面に問題がある。競合反応を原理とする本法の特異性を一定にするには、125Iで標識したマウスアディポネクチン及び種々の多量体ヒトアディポネクチンに対する抗アディポネクチン−ポリクローナル抗体の反応性が一定である必要があるが、前述したように、生体試料中には種々の多量体が混在しており、また各多量体の存在割合も一定でないことから、アディポネクチンの総量を正確に測定できないという問題を内包している。
【0008】
さらに、SDSや熱による変性処理をしていない状態の特定の立体構造を保持しているアディポネクチン(特許文献2明細書中では天然型と称している)を認識するモノクローナル抗体とそれを利用した測定方法(特許文献2)も報告されているものの、試料中のアディポネクチンの存在形態(3量体がいくつ、どのように集まっているかなど)によって前記モノクローナル抗体との反応性が異なるため、各多量体の存在割合が一定でない生体試料中のアディポネクチンの総量は正確に測定できないという問題があった。
【0009】
アディポネクチンの存在形態については、生体試料中のアディポネクチンについての検討ではないものの、リコンビナントのアディポネクチンを用いた検討がある。それによれば、低pH、ジチオスレイトール(DTT)処理(非特許文献8)あるいは、トリプシン処理(非特許文献9)することでアディポネクチンの形態が変わるという報告がなされているが、処理後のアディポネクチンの免疫学的測定についての記載はない。
【0010】
上記したように、試料中のアディポネクチン総量を免疫学的に測定するには、使用する抗体との反応性を各多量体(3量体及び3量体同士がさらに結合した種々の多量体)間で一定にする前処理が必要であったが、簡便でかつ、前処理に引き続いて免疫学的測定をする二つの工程を自動化することが可能な方法は提案されていなかった。
【特許文献1】特開2000−304748公報
【特許文献2】国際公開 WO03/016906公報
【非特許文献1】Scherer P.E.,et al, J.Biol.Chem. 270, 26746−26749, 1995
【非特許文献2】Hu E.,et al, J.Biol.Chem. 271, 10697−10703, 1996
【非特許文献3】Maeda K.,et al, Biochem. Biophys. Res. Commun. 221, 286−289, 1996
【非特許文献4】Nakano Y.,et al, J.Biochem. 120, 803−812, 1996
【非特許文献5】Ouchi N,et al, Circulation, 102, 1296−1301, 2000
【非特許文献6】Yamautchi T, et al, Nature Med. 7, 941−946, 2001
【非特許文献7】Lindsay R.S, et al, Lancet, 360, 57−58, 2002
【非特許文献8】Utpal B. Pajvani, et al. J.Biol.Chem. 278, 9073−9085, 2003
【非特許文献9】Fruebis,J, et al. Proc. Natil. Acad. Sci. 98, 2005−2531, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、3量体及び3量体同士がさらに結合した種々の多量体が混在する生体試料中のアディポネクチンの総量を免疫学的測定法により、簡便、迅速かつ正確に測定するための前処理方法及びこれを利用するアディポネクチン総量の免疫学的測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、3量体及び3量体同士がさらに結合した種々の多量体を還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つで処理し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(ポリアクリルアミド濃度2−15%)(以下PAGE(2−15%)のように表記する)で解析したところ、処理前に存在した種々の多量体の染色バンドが消失もしくは減少するとともに、処理前に存在した染色バンドのいずれよりも低分子側に染色検出されるアディポネクチン由来変換物(以下、変換物という)の出現を確認した。そして、当該変換物が抗アディポネクチン抗体と反応性を有していること、及び抗アディポネクチン抗体を使用して当該変換物を測定できることを確認した。
【0013】
本発明者らは、上記知見をもとにさらに検討した結果、試料を還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを含む前処理剤で処理した後、免疫学的測定を行えば、試料を前処理剤とともに煮沸処理することなく、種々の多量体が混在する生体試料中のアディポネクチン総量を測定できることを見い出し本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、試料中のアディポネクチンの総量を免疫学的に測定するためのアディポネクチン測定用試料の前処理方法であって、アディポネクチンを含む試料に対し、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを加え、試料とともに煮沸することなく作用させることを特徴とする、アディポネクチン測定用試料の前処理方法を提供するものである。
また、本発明は、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを含む、アディポネクチン総量の免疫学的測定用試料の前処理剤であって試料を煮沸することなく前処理する前処理剤を提供するものである。
また本発明は、アディポネクチンを含む試料に、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを加え、試料とともに煮沸することなく作用させた後、免疫学的にアディポネクチンを測定することを特徴とする、試料中のアディポネクチン総量の測定方法を提供するものである。
さらに本発明は、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを含む第一試薬とアディポネクチンを測定するための抗体を担持させた不溶性担体を含む第二試薬よりなるアディポネクチン総量の免疫学的測定試薬であって、試料と第一試薬の反応を煮沸することなく行うための免疫学的測定試薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、種々の多量体が混在する生体試料中のアディポネクチン総量を簡便、迅速かつ正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ヒト血清中のアディポネクチンをウエスタンブロティング法により解析した図である。
【図2】LTIA試薬とプロテアーゼ処理したアディポネクチンとの反応性を示した図である。
【図3】ELISA試薬とプロテアーゼ処理したアディポネクチンとの反応性を示した図である。
【図4】参考例3においてヒト血清から精製されたアディポネクチンを、PAGE(2−15%)にて分離し、CBBにより蛋白染色した泳動像の図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
前述したように、生体試料中のアディポネクチンには種々の多量体が存在し、しかも各多量体の存在割合(比率)は一定でない。このため免疫学的測定の際、測定に使用する抗体と種々の多量体間の反応性が異なることが考えられるが、この場合、特定の多量体が測定されにくくなることが考えられる。また、サンドイッチ免疫測定系において、測定試料中に6量体と3量体が一分子ずつ存在する場合を仮想すると、試料中には9個の単量体が存在するが、測定結果としては、3量体が2分子存在する場合、6量体が2分子存在する場合などを測定結果の上では区別できないことが考えられる。いずれの場合も、アディポネクチンの総量を反映した測定結果を得ることはできない。また、SDS共存下、煮沸して多量体を分解する前処理を利用した方法においては、アディポネクチン総量を反映した測定結果が得られるものの、前処理が煩雑であり、引き続いて免疫学的測定を行う、二つの工程を自動化することが困難である。
【0018】
前記した知見より、本発明者らは、免疫学的測定の際、測定に使用する抗体と測定試料中の種々の多量体との反応性が一定となり、アディポネクチンの総量を反映した測定結果が得られるような一定の形態に、試料を煮沸することなく、種々の多量体が変換されていれば、前記課題が解決できることを見出した。
【0019】
前記の目的にかなう測定試料中の種々のアディポネクチンの前処理方法として、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つをアディポネクチンを含む試料に加え、試料とともに煮沸することなく作用させる処理方法を挙げることができる。これらの前処理方法によって得られる変換物の性状は各前処理方法間で同一であっても、異なっていても良い。種々の多量体が、すべて単量体である場合、3量体である場合、特定の多量体である場合などを含む。また、前処理により、ある分子量域に収束している変換物であっても良い。別の見方をすれば、免疫学的測定系を構築するために選ばれた抗体が一定の反応性で認識できる性状を有していれば良い。
【0020】
本発明に使用される試料としては、ヒト、サル、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット及びその他の哺乳動物から得られた血液、尿などの体液、組織抽出液や組織由来の細胞の培養上清液などアディポネクチンの種々の多量体を含有する生体試料が挙げられる。このうち、糖尿病や動脈硬化性疾患に関する情報との関係で注目されている血液(血清・血漿)が好適である。試料の採取方法は、アディポネクチン総量を測定する目的を考慮し、試料中に存在するアディポネクチンに影響を与えない方法であれば使用することが可能である。
【0021】
本発明の前処理方法、前処理剤、免疫学的測定方法、免疫学的測定試薬に使用される還元剤としては、アディポネクチンのジスルフィド結合を解離できる還元力を有し、免疫学的測定において実質的に影響を与えない物質であれば特に制限することなく使用することができる。例えば、DTT(ジチオスレイト−ル)、2−メルカプトエタノール、システアミン、チオグリセロールなどのチオール化合物、水素化ホウ素化合物やホスフィン類などが挙げられる。使用する濃度は、所望の変換物が得られよう適宜選択して決定できる。例えばチオール化合物の場合には、DTTや2−メルカプトエタノールを使用するのが好ましい。還元剤による処理の条件としては、4〜60℃、5分〜24時間が好ましい。
【0022】
酸又はその塩としては、種々の多量体のアディポネクチンの結合を解離することができる有機酸、無機酸であれば特に制限することなく使用することができる。例えば、酢酸、クエン酸、塩酸、ギ酸、酒石酸、シュウ酸などが挙げられる。使用する濃度は、所望の変換物が得られよう適宜選択して決定できるが、1〜1000mMが好ましく、10〜200mMがさらに好ましい。また、緩衝液として使用することもできる。緩衝液とした際のpHとしては、pH4以下が好ましい。酸又はその塩による処理の条件としては、4〜60℃、5分〜24時間が好ましい。
【0023】
界面活性剤としては、種々の多量体に作用し、免疫学的測定においてアディポネクチン総量を反映する形態に変化させうるものであって、アディポネクチンと特異抗体との反応性を維持することが出来るものであれば、イオン性又は非イオン性などの制限なく使用することができる。なかでも陰イオン性界面活性剤が好ましく、ドデシル硫酸塩等のアルキル硫酸塩やドデシルベンゼンスルホン酸塩等のアルキルベンゼンスルホン酸塩などが好適である。これらの界面活性剤は、単独でも複数を組合わせて使用しても良い。使用濃度は、概ね0.01〜10%で使用されるが、0.1〜5%がさらに好ましい。酸又はその塩による処理と組み合わせて使用すると、さらに好ましい。
【0024】
プロテアーゼとしては、種々の多量体に作用して、種々の多量体を免疫学的測定においてアディポネクチン総量を反映する形態に変化させうるプロテアーゼであれば特に制限することなく使用することができる。使用する濃度も、所望の変換物が得られよう適宜選択して決定できる。プロテアーゼの起源も、微生物由来、動物由来、植物由来など、特に制限はないが、好適には、バチルス属、ストレプトミセス属やアスペルギルス属等の微生物由来のプロテアーゼが使用できる。バチルス属由来のプロテアーゼの市販品の例としては、Protease typeX(シグマ社)、プロチン(Protin)AC、プロチン(Protin)PC(ともに大和化成社)、プロテアーゼS「アマノ」(アマノエンザイム社)、スミチームCP(新日本化学工業社)などが挙げられる。ストレプトミセス属由来のプロテアーゼの市販品の例としては、Protease typeXIV(シグマ社)、プロナーゼ(ロシュ社)、アクチナーゼAS(科研製薬社)などが挙げられる。また、アスペルギルス属由来のプロテアーゼの市販品の例としては、プロテアーゼA「アマノ」、プロテアーゼP「アマノ」、ウマミザイム(いずれもアマノエンザイム社)、スミチームMP(新日本化学工業社)などが挙げられる。これらプロテアーゼは遺伝子組み換え技術によって得られるものであっても差し支えない。また化学修飾を施されていても良い。生体試料のプロテアーゼによる処理の条件は、用いるプロテアーゼによって異なるが、リン酸、トリス、グッド等の緩衝液中、4〜60℃で、5分〜24時間行うことが好ましい。プロテアーゼの使用濃度は、反応温度及び反応時間等を考慮して決定されるが、概ね0.01〜100mg/mlの範囲で使用される。
【0025】
これら還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの使用方法にも特に制限はない。適宜単独又は組み合わせて使用することが可能である。例えば、還元剤や酸を、アディポネクチンを含む試料に作用させた後に、さらにプロテアーゼ処理を行なうことも可能である。また、これら還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの使用にあたっては、これらの物質がアディポネクチンに作用する環境を整えたり、これら物質の保存安定性の向上などを目的として、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液などの緩衝成分、種々の多量体には作用しない界面活性剤、牛血清アルブミン(BSA)、ショ糖、防腐剤(アジ化ナトリウムなど)、塩濃度調整剤(塩化ナトリウムなど)などを適宜添加して使用しても良い。
【0026】
本発明の免疫学的測定方法に使用される抗体は、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを種々の多量体アディポネクチンに煮沸処理することなく作用させた後、アディポネクチン総量を測定可能なものであれば、特に制限なく使用できる。かかる抗体の内、ポリクローナル抗体は一定の形態となったアディポネクチンに存在する複数のエピトープと特異的に結合する複数の抗体を含むポリクローナル抗体である。ポリクローナル抗体はアディポネクチンを適当な動物、例えば、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、マウス、ラットなどの動物に、それ自体公知の手法によって免疫して得ることができる。一方、モノクローナル抗体は、一定の形態となったアディポネクチンに対して特異的に結合する1種類以上の異なるモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、細胞融合技術分野において、それ自体公知の手法を適宜に選択し、また、それらを組み合わせてモノクローナル抗体産生融合細胞株を形成し、該細胞株を利用して取得することができる。また、一定の形態となったアディポネクチンに特異的に結合するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体は、市販品として入手することも可能であり、本発明に使用できる。例えば、Goatαhuman Acrp30 antibody(コスモバイオ社、GT社)、rabbitαhu adiponectin−PoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、hu Acrp30−MoAb(藤沢薬品工業社、BD社)、Mouseαhu Adiponectin MoAb(コスモバイオ社、chemicon社)、抗ヒトACRP30モノクローナル抗体(AX773、AX741、Ne,Na、和光純薬工業社)など、アディポネクチンの形態に応じて適宜利用できる。
【0027】
本発明に使用される抗体を得るための抗原としては、常法に従い試料から精製、単離したアディポネクチンを使用することができる。還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの少なくともいずれかを含む前処理液で煮沸処理することなく処理したアディポネクチンを用いることもできる。また、該抗原はその蛋白質の遺伝子配列情報に基づき通常の遺伝子工学的手法により組み換え蛋白として製造することもできる。
【0028】
本発明の免疫学的測定方法としては、一定の形態に変化させたアディポネクチンに対して特異的に結合する抗体を不溶性担体に結合させ、これによって一定の形態に変化させたアディポネクチンを捕捉し、試料中に存在するアディポネクチンの有無の確認(定性)又は定量する方法が使用され、なかでも、LTIA(ラテックス免疫比濁法)、ELISA(酵素免疫測定法)、CLEIA(化学発光酵素免疫測定法)、RIA(ラジオイムノアッセイ)などといった方法が挙げられる。このうち、LTIAは一定の形態に変化させたアディポネクチンと特異的に結合する抗体を担持させた不溶性担体と一定の形態に変化させたアディポネクチンとを混合することにより一定の形態に変化させたアディポネクチンを介した不溶性担体の架橋(凝集)が起こり、その結果生じる濁りを光学的に測定することでアディポネクチンの有無の確認(定性)又は定量する方法であり、アディポネクチンを簡便、迅速かつ正確に測定するには好ましい。
【0029】
本発明に使用される不溶性担体としては、通常の免疫学的測定試薬に使用され工業的に大量生産可能な有機系の不溶性担体が使用される。LTIAにおいては抗体の吸着性に優れかつ生物学的活性を長期間安定的に保持できるポリスチレン系のラテックス粒子、ELISAにおいてはポリスチレンなどの96穴のマイクロプレートが好ましい。
【0030】
上記不溶性担体の表面に抗体を担持させる手法は種々知られており、本発明において適宜利用できる。例えば、担持(感作)方法として不溶性担体表面に抗体を物理的に吸着させる方法や、官能基を有する不溶性担体表面に既知の方法である物理結合法や化学結合法により抗体を効率的に感作する方法が挙げられる。
【0031】
抗体を担持させた抗体不溶性担体と一定の形態に変化させたアディポネクチンとの反応は、抗原抗体反応が起こり得る条件であれば、その反応条件は特に限定されない。反応液としては、前処理した後の一定の形態に変化させたアディポネクチンとの抗原抗体反応が起こり得る溶液であればどのようなものでも良い。例えば、pHを制御するための緩衝成分としてリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液など、非特異反応を回避するための界面活性剤や塩化ナトリウムなど、安定化剤としてのウシ血清アルブミン(BSA)、ショ糖、高分子多糖類など、反応性を制御する前記物質の他にデキストランなどの水溶性多糖類、前処理剤中の還元剤や酸を中和するための中和剤、プロテアーゼの不活性化剤などの添加剤を適宜溶解させても良い。
【0032】
前記したLTIAやELISAにおける検出方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。LTIAにおける不溶性担体の凝集程度を測定する方法は特に限定されない。例えば、凝集を定性的ないし半定量的に測定する場合は、既知濃度試料の濁度の程度と測定試料の濁度の程度との比較から、凝集の程度を目視によって判定することも可能である。また、該凝集を定量的に測定する場合は、簡便性及び精度の点からは、光学的に測定することが好ましい。凝集の光学的測定法としては、公知の方法が利用可能である。より具体的には、例えば、いわゆる比濁法(凝集塊の形成を濁度の増加として捕らえる)、粒度分布による測定法(凝集塊の形成を粒度分布ないしは平均粒径の変化として捕らえる)、積分球濁度法(凝集塊の形成による前方散乱光の変化を積分球を用いて測定し、透過光強度との比を比較する)などの種々の方式が利用可能である。ELISAにおける酵素標識抗体の酵素活性に由来する、基質と酵素の反応生成物を測定する方法は特に限定されない。例えば、酵素反応生成物固有の波長、例えば492nmにおける吸光度として96穴マイクロプレートリーダーで読み取ることが可能である。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0034】
実施例及び試験例で用いた試薬及び材料は以下の通りである。
<試薬及び材料>
a.抗体結合樹脂用洗浄液:0.5M NaCl を含む 0.1M NaHCO−NaOH (pH 8.3)。
b.抗体結合樹脂用溶出液:0.1M Glycine−HCl (pH 2.5)。
c.抗体結合樹脂用中和液:2M Tris−HCl (pH 8.0)。
d.ラテックス:平均粒径0.2μmのポリスチレン粒子ラテックス(固形分10%(w/v)、積水化学工業社)。
e.抗体担持ラテックス調製用緩衝液:20mM Tris−HCl (pH 8.0)。
f.ブロッキング用緩衝液:2% BSA を含む 20mM Tris−HCl (pH 8.0)。
g.LTIA用緩衝液(R1):0.15% BSA、0.15M NaCl を含む 20mM Tris−HCl (pH 8.0)。
h.ELISA用プレート:96穴マイクロプレート(NUNC社)。
i.ELISA用抗体感作溶液:PBS (pH 7.4)。
j.ELISA用緩衝液:1% BSA, 0.1% Tween 20 を含む PBS (pH 7.4)。
k.Goatαhuman Acrp30 antibody:コスモバイオ社、GT社、Cat No.421065(抗ヒトアディポネクチン−ポリクローナル抗体の市販品)。
l.hu Acrp30−MoAb:藤沢薬品工業社、BD Transduction Laboratories社、商品コードA12820(抗ヒトアディポネクチン−モノクローナル抗体の市販品)。
m.Goatαrabbit IgG HRP標識抗体:コスモバイオ社、capple社。
n.ELISA用洗浄液:0.05% Tween 20 を含む PBS (pH 7.4)。
o.ELISA用緩衝液2:1% BSA, 0.05% Tween 20 を含む PBS (pH 7.4)。
【0035】
参考例1. 大腸菌リコンビナント マウスグロブラーアディポネクチン(rMgAd)の調製
マウスアディポネクチンの遺伝子配列(NCBI accession #U37222)のグロブラードメイン配列(104−247残基相当)を6×His タグを含むpQE30ベクターのBamHI、 HindIIIに挿入し、大腸菌に組み込んだ。リコンビナント マウスグロブラーアディポネクチン(rMgAd)を発現した大腸菌からのrMgAdの精製は以下で行った。すなわち、大腸菌の可溶画分をNi−NTAアガロース(QIAGEN社)に4℃、16時間添加してrMgAdを結合させた後、イミダゾールにより段階的に溶出させ、アディポネクチンを含む画分を回収し、3日間PBSで透析を行なった。得られたrMgAdの蛋白質濃度は、Bio−Rad DC protein assay kit を用いて求めた。
【0036】
参考例2. 抗rMgAd抗体の調製
前記1により得られたrMgAdの50μgを等量のフロイドのコンプリートアジュバントと混合して、2匹のウサギにそれぞれ2週間おきに6回免疫して抗血清を作製した。抗血清中の特異抗体(IgG)の精製は、Protein A樹脂を用いて常法により行なった(抗rMgAd抗体) 。
【0037】
参考例3. ヒト血中由来アディポネクチン(mAd)の精製
前記参考例2で作製した抗rMgAd抗体 500mgをCNBr−activated Sepharose 4B(アマシャム バイオサイエンス社)50mLに結合させ抗rMgAd抗体結合Sepharose 4B樹脂を作製した。ヒト血清 2.5Lを抗rMgAd抗体結合Sepharose 4B樹脂に添加し、抗体結合樹脂用洗浄液で十分洗浄した後、抗体結合樹脂用溶出液でヒト血清アディポネクチン(mAd)画分を溶出し、溶出画分に抗体結合樹脂用中和液を1/10容量添加して中和した。さらに中和した溶出画分を、Protein A樹脂に添加し、Protein A樹脂への非吸着画分を精製mAdとして回収し、「ヒトアディポネクチンELISAキット」(大塚製薬社)によりアディポネクチン含量を測定した。
【0038】
参考例4. 抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体の作製
前記参考例3で得た精製mAd20μgを等量のフロイドのコンプリートアジュバントと混合して、各2匹のマウスに2週間おきに3又は4回免疫を行った後、さらに細胞融合3日前に再投与した。当該免疫したマウスより脾臓細胞を摘出し、ポリエチレングリコールを用いた常法により、P3U1ミエローマ細胞と細胞融合を行った。抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体産生融合細胞の選択は、ELISA法によりmAdとの反応性の高いウエルを選択し、ついで限界希釈法にて選択する常法により行なった。抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体は、選択した融合細胞をプリスタン処理したマウス腹空内に投与し腹水として回収した。腹水からの特異抗体(IgG)の精製は、Protein A樹脂を用いて常法により行なった。上記により認識番号;64401−64411で識別される11のモノクローナル抗体産生融合細胞とモノクローナル抗体が得られた。
【0039】
参考例5. 抗体感作ラテックスの調製
ラテックス液1容に抗体担持ラテックス調製用緩衝液4容を混合し希釈ラテックス液を調製した。一方、抗rMgAd抗体あるいは抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64401)を1mg/mLとなるように抗体担持ラテックス調製用緩衝液で希釈し希釈抗体液を調製した。前記希釈ラテックス液1容を攪拌しながら、前記2種類の希釈抗体液1容を別個に添加・混合し、さらに攪拌の後、ブロッキング用緩衝液2容を追加添加し、攪拌を続けた。得られた抗体感作ラテックスそれぞれを抗rMgAd抗体担持ラテックス原液及び抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64401)担持ラテックス原液とした。
【0040】
(試験例1)ヒト血清中の多量体アディポネクチンのウェスタンブロッティングによる解析
健常者8名から得た血清0.2μLそれぞれを、PAGE(2−15%)にて分離し、セミドライブロッティングでPVDF膜に転写後、免疫染色を行なった。免疫染色の手順は以下である。先ず、転写後の膜を5% スキムミルク及び0.1% NaNを含むPBS液(pH7.4)でブロッキングした後、0.1% Tween20(pH7.4)を含むPBS液で洗浄し、市販の抗ヒトアディポネクチン−モノクローナル抗体(hu Acrp30−MoAb;藤沢薬品工業社、BD Transduction Laboratories社)1μg/mLを室温で1時間反応させた。次いで、0.1% Tween20を含むPBS液(pH7.4)で十分に洗浄した後、Vector ABC kit (Mouse) 及びDAB基質キット(フナコシ社)を用いて発色させた。以上の結果、主要なバンドとして3種のバンドが染色検出された。これより血中に存在する種々の多量体アディポネクチンは、主に3種類存在することが判明した(図1)。これら3種の染色バンドに相当するアディポネクチンを泳動像の上部(高分子側)から、「HMW−Ad」、「MMW−Ad」及び「LMW−Ad」画分とした。
【0041】
実施例1 精製mAdの還元剤、酸又はその塩及びプロテアーゼによる処理
参考例3で得た精製mAdを試料として、還元剤、酸又はその塩及びプロテアーゼを、単独又は組合せて作用させて処理し、精製mAdの形態変化を観察した。
【0042】
1)還元剤、酸処理
精製mAdを含む50mM の各種緩衝液(Tris−HCl pH8.5、酢酸ナトリウム pH3.0及びpH4.0)について、還元剤として10mM DTT非添加あるいは添加の条件で、37℃で60分間加温した。処理後の液をPAGE(2−15%)にて分離し、CBBにより蛋白染色した。Tris−HCl pH8.5、DTT非添加(処理条件1)の染色像を対照として、各処理条件における、HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Ad各画分に相当するバンドの増減及び新たな変換物バンドの生成を観察した(表1)。
【0043】
その結果、還元剤非添加の処理条件では、pH3.0及びpH4.0の酢酸ナトリウム緩衝液(処理条件3、5)においてHMW−Ad画分の染色バンドが消失し、MMW−Ad画分の増加が確認された。還元剤添加の処理条件では、pH3.0及びpH4.0の酢酸ナトリウム緩衝液 (処理条件4、6)では、HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Adの3画分すべての染色バンドが消失するとともに、各画分の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。Tris−HCl (pH8.5)(処理条件2)では、各画分の変換物である新たな染色バンドの出現が確認されたが、HMW−Ad画分が完全に消失しなかった。
【0044】
以上より、多量体アディポネクチン(HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Ad)に還元剤、酸又はその塩を作用させると、多量体アデイポネクチンより新たな変換物が生じることが確認された。上記処理により生成した変換物は、3量体アディポネクチンであると推定された。
【0045】
【表1】

【0046】
2)プロテアーゼ処理
50mM リン酸緩衝液(pH8.0)に、精製mAd及び各種プロテアーゼ(いずれも市販品)を添加し、37℃で60分間加温した。処理後の液をPAGE(2−15%)にて分離し、CBBにより蛋白染色した。Tris−HCl (pH8.5)、DTT非添加(処理条件1)の染色像を対照として、各処理条件における、HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Ad各画分に相当するバンドの増減及び新たな変換物バンドの生成を観察した(表2)。
【0047】
処理条件7〜9では、HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Adの3画分すべての染色バンドが消失するとともに、低分子量域に各画分の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。処理条件10〜12では、LMW−Ad及びMMW−Ad画分は消失し、低分子量域に各画分の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。このとき、HMW−Ad画分の染色バンドに変化は見られなかった。
【0048】
以上より、多量体アディポネクチン(HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Ad)にプロテアーゼを作用させると、多量体アデイポネクチンより新たな変換物を生じることが確認された。これら変換物のPAGE(2−15%)での染色バンドの検出位置は、作用させたプロテアーゼにより異なるものの、30〜42kDaの範囲にあった。
また、処理条件10〜12のプロテアーゼに関しては、酸又はその塩による処理を行ない、HMW−Ad画分をMMW−Ad画分に変換させた後、プロテアーゼ処理を行うことで、すべての画分について新たな変換物への変換が可能であることがわかった。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例2 ラテックス試薬と各アディポネクチンとの反応性
プロテアーゼ処理した精製mAdを、ELISA用緩衝液で1/5、1/25倍希釈し検体とした。また、参考例5で調製したそれぞれのラテックス原液を抗体担持ラテックス調製用緩衝液で1/10倍に希釈したものを試薬2として測定に用い、検体量:10μL、試薬1(LTIA用緩衝液(R1)):100μL、試薬2:100μL、測定波長:570nm、測光ポイント:18−34の測定条件で生化学自動分析装置日立7170形(日立製作所社)を用いて測定した。測定結果を図2に示す。
【0051】
抗rMgAd抗体及び抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64401)のラテックス試薬それぞれが、プロチン(Protin)AC、Protease TypeXのプロテアーゼで処理したヒト血清アディポネクチンの濃度に依存して吸光度が変化した。
【0052】
プロチン(Protin)AC、Protease TypeXのプロテアーゼは多量体アディポネクチンを、抗rMgAd抗体及び抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64401)が認識する抗体認識部位を保持した状態で、新たな変換物に変換しうることが判明し、試料中のアディポネクチン総量を測定するための前処理に使用できることが確認された。
【0053】
実施例3 ELISA試薬と各アディポネクチンとの反応性
ELISA用プレートにGoatαhuman Acrp30 antibody又は抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64401)をELISA用抗体感作溶液で1μg/m Lに希釈した後、感作した。ELISA用緩衝液でブロッキング後、プロテアーゼ処理したmAdをELISA用緩衝液で1/2、1/20、1/200倍希釈して得た検体を、室温で1時間反応させた。ELISA用緩衝液でプレートを洗浄後、ELISA用緩衝液で1/10000倍希釈した抗rMgAd抗体液を室温で1時間反応させた後、ELISA用緩衝液でプレートを洗浄、ELISA用緩衝液で1/1000倍希釈したGoatαrabbit IgG HRP標識抗体液を室温で1時間反応させた。ELISA用緩衝液でプレートを洗浄後、TMB(テトラメチルベンチジン)と過酸化水素を用いたHRPの酵素反応により発色させ、2N 硫酸を添加して反応を停止させた後、450nmの吸光度を測定した。測定結果を図3に示す。
【0054】
抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64401)と抗rMgAd抗体の組合わせ及びGoatαhuman Acrp30 antibodyと抗rMgAd抗体の組合わせのELISA試薬は、プロチン(Protin)AC、Protease TypeXのプロテアーゼで処理したヒト血清アディポネクチンの濃度に依存して吸光度が変化した。
【0055】
プロチン(Ptotin)AC、Protease TypeXのプロテアーゼは、多量体アディポネクチンを、Goatαhuman Acrp30 antibody、抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64401)及び抗rMgAd抗体が認識する抗体認識部位を保持した状態で、新たな変換物に変換しうることが判明し、試料中のアディポネクチン総量を測定するための前処理に使用できることが確認された。
【0056】
(試験例2)ヒト血中由来多量体アディポネクチンの解析
参考例3に準じて新たに調製した精製mAdを、PAGE(2−15%)にて分離し、クマシーブリリアントブルー(CBB)により蛋白染色した(図4)。さらに試験例1と同様の操作により、市販の抗ヒトアディポネクチン−モノクローナル抗体(hu Acrp30−MoAb)を用いて免疫染色を行った。染色像を解析した結果、ヒト血清から精製された多量体アディポネクチンは、試験例1で確認された3種類以外に、量的に少ないものの、もう1種類検出され、少なくとも4種類存在することが判明した。これら4種のCBB染色バンドに相当するアディポネクチンを泳動像の上部(高分子側)から、「HMW−Ad」、「MMW−Ad」、「LMW−Ad」及び「ULMW−Ad」画分とした。
【0057】
実施例4 精製mAdの還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼによる処理
試験例2で解析された精製mAdを試料として、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼを、単独又は組み合わせて作用させて処理し、精製mAdの形態変化を観察した。
【0058】
1) 還元剤、酸処理の組み合わせ
精製mAdを含む100mM の各種緩衝液(Tris−HCl pH8.5、クエン酸ナトリウム pH3.0〜6.0)について、還元剤として10mM 2−メルカプトエタノール非添加あるいは添加の条件で、37℃で30分間加温した。処理後の液をPAGE(2−15%)にて分離し、CBBにより蛋白染色した。Tris−HCl pH8.5、2−メルカプトエタノール非添加(処理条件13)の染色像を対照として、各処理条件における、HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Ad、ULMW−Ad各画分に相当するバンドの増減及び新たな変換物バンドの生成を観察した(表3)。
【0059】
その結果、還元剤非添加の処理条件では、pH4.0以上のクエン酸ナトリウム緩衝液(処理条件15,17,19)においてHMW−Ad画分の染色バンドがクエン酸ナトリウム緩衝液の酸性化と共に消失傾向示し、MMW−Ad画分の増加が確認された。更に、pH3.0(処理条件21)では、ULMW−Adより泳動距離が長い変換物である染色バンドが新たに認められた。一方、還元剤添加の処理条件では、pH6.0以上で(処理条件14,16)では、HMW−Adの染色バンドが残存したが、pH5.0及び4.0の処理条件18,20では、すべての画分の染色バンドが消失し、ULMW−Adとほぼ同じ位置に、ブロードな染色バンドが新たに認められた。又、pH3.0(処理条件22)では、処理条件21とほぼ同じ位置に、ブロードな変換物のバンドが新たに認められた。
【0060】
以上より、多量体アディポネクチン(HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Ad及びULMW−Ad)に還元剤、酸又はその塩を作用させると、多量体アデイポネクチンより新たな変換物が生じることが確認された。処理条件21で生成した変換物は2量体、還元剤を添加した条件(14,16,18,20)で生成した変換物は3量体、さらに処理条件22で生成した変換物は、1量体であると、それぞれ推定された。さらに、染色バンド切り出しによる解析では、ULMW−Adは3量体、そして、LMW−Adはアルブミンが結合している3量体アディポネクチンであることが確認された。
【0061】
【表3】

【0062】
2)プロテアーゼ処理
50mM リン酸緩衝液(pH8.0)に、精製mAd及び各種プロテアーゼ(いずれも市販品)を1mg/mlとなるように添加し、37℃で60分間加温した。処理後の液をPAGE(2−15%)にて分離し、CBBにより蛋白染色した。Tris−HCl (pH8.5)、DTT非添加(処理条件1)の染色像を対照として、各処理条件における、HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Ad及びULMW−Adの各画分に相当するバンドの増減及び新たな変換物バンドの生成を観察した(表4)。
【0063】
処理条件23〜25では、HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Ad及びULMW−Adの4画分すべての染色バンドが消失するとともに、低分子量域に各画分の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。処理条件26〜28では、ULMW−Ad、LMW−Ad及びMMW−Ad画分は消失し、低分子量域に各画分の変換物である新たな染色バンドの出現が確認された。このとき、HMW−Ad画分の染色バンドに変化は見られなかった。
【0064】
以上より、多量体アディポネクチン(HMW−Ad、MMW−Ad、LMW−Ad及びULMW−Ad)にプロテアーゼを作用させると、多量体アデイポネクチンより新たな変換物を生じることが確認された。これら変換物のPAGE(2−15%)での染色バンドの検出位置は、作用させたプロテアーゼにより異なるものの、30〜42kDaの範囲にあった。これらの変換物のゲル切り出しによるアミノ酸分析結果から、グロブラーアディポネクチンであることが判明している。
また、処理条件26〜28のプロテアーゼに関しては、酸又はその塩による処理を行ない、HMW−Ad画分をMMW−Ad画分に変換させた後、プロテアーゼ処理を行うことで、すべての画分について新たな変換物への変換が可能であることがわかった。
【0065】
【表4】

【0066】
実施例5 酸処理、界面活性剤を組み合わせた血中アディポネクチン総量の測定
(1) 前処理液の調製
酸処理の条件として100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)を選び、ここに市販されている各種界面活性剤を添加した。添加する界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤として、SDS及びネオペレックスF65(花王社製)、陽イオン性界面活性剤としては、コータミン24P及びコータミン86P(花王社製)、非イオン性界面活性剤としては、Triton X−100及びTween 20を用いた。添加濃度は、SDSが2%である他は、すべて0.5%とした。
(2) 検体の処理
8名のボランティアから採取された各血清検体10μLに、上述した各種前処理液を490μL添加し十分に攪拌した後、煮沸しないで、ELISA用緩衝液2で5250倍希釈した。効果を比較するため、前記各血清10μLに、50mM Tris−HCl(pH6.8, 2%SDS)溶液490μLを前処理液として添加し十分に攪拌した後、煮沸処理し、ELISA用緩衝液2で5250倍希釈し対照とした。濃度をもとめるための標準品として、試験例2で解析された精製mAdを、50mM Tris−HCl(pH6.8, 2%SDS)溶液にて煮沸処理し、ELISA用緩衝液2で希釈系列を作成したものを用いた。
(3) アディポネクチン総量測定
ELISA用プレートに抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64405)をPBSで5μg/mLに希釈した後、感作した。次に、ELISA用緩衝液2でブロッキング後、前記標準品及び血清処理液を添加し、室温で1時間反応させた。ELISA用洗浄液でプレートを洗浄後、ELISA用緩衝液2で2000倍希釈したBiotin標識抗ヒトアディポネクチンモノクローナル抗体(64404)を室温で1時間反応させた後、さらに、ELISA用緩衝液2で2000倍希釈したHRP−Avidinを添加し、室温で30分間反応させた。ELISA用洗浄液でプレートを洗浄し、OPD発色液(2mg/mlオルトフェニレンジアミン塩酸塩、0.02%過酸化水素を含む、250mMクエン酸緩衝液、pH5.0)により発色させ、停止液(1.5N硫酸、1mM EDTA−2Na)を添加して反応を停止させた後、492nmの吸収を測定した。標準品の発色値から、各前処理液による血清中のアディポネクチン総量(濃度)を換算し、50mM Tris−HCl(pH6.8, 2%SDS)溶液による煮沸処理した条件を対照にして、相関分析を行った(表5)。
【0067】
その結果、界面活性剤無添加の酸処理条件では、相関係数は良好であったが、回帰式の傾きが0.45となり、対照の換算値に対して低値となっていることが確認された。界面活性剤を共存させた場合、相関係数が向上するとともに、対照の換算値に測定値が近似する傾向が確認された。特に、陰イオン性界面活性剤を共存させた場合、その効果は顕著であり、本発明の前処理方法を使用すれば、試料を煮沸することなく、試料中のアディポネクチン総量の測定が可能であることが判明した。
【0068】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のアディポネクチンの総量を免疫学的に測定するためのアディポネクチン測定用試料の前処理方法であって、アディポネクチンを含む試料に対し、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを加え、試料とともに煮沸処理することなく作用させることを特徴とする、アディポネクチン測定用試料の前処理方法。
【請求項2】
免疫学的に測定する方法が、抗アディポネクチン抗体を担持させた不溶性担体を利用する方法である請求項1に記載の前処理方法。
【請求項3】
プロテアーゼが、微生物由来のプロテアーゼ又は遺伝子組み換え技術により得られたプロテアーゼである請求項1又は2に記載の前処理方法。
【請求項4】
微生物が、バチルス属、ストレプトミセス属及びアスペルギルス属からなる群より選ばれる微生物である請求項3に記載の前処理方法。
【請求項5】
還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを含む、アディポネクチン総量の免疫学的測定用試料の前処理剤であって、試料とともに煮沸処理することなく試料に作用させるための前処理剤。
【請求項6】
免疫学的に測定する方法が、抗アディポネクチン抗体を担持させた不溶性担体を利用する方法である請求項5に記載の前処理剤。
【請求項7】
プロテアーゼが、微生物由来のプロテアーゼ又は遺伝子組み換え技術により得られたプロテアーゼである請求項5又は6に記載の前処理剤。
【請求項8】
微生物が、バチルス属、ストレプトミセス属及びアスペルギルス属からなる群より選ばれる微生物である請求項7項に記載の前処理剤。
【請求項9】
アディポネクチンを含む試料に、還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを加え、試料とともに煮沸処理することなく作用させた後、免疫学的にアディポネクチンを測定することを特徴とする、試料中のアディポネクチン総量の測定方法。
【請求項10】
免疫学的に測定する方法が、抗アディポネクチン抗体を担持させた不溶性担体を利用する方法である請求項9に記載の測定方法。
【請求項11】
プロテアーゼが、微生物由来のプロテアーゼ又は遺伝子組み換え技術により得られたプロテアーゼである請求項9又は10に記載の測定方法。
【請求項12】
微生物が、バチルス属、ストレプトミセス属及びアスペルギルス属からなる群より選ばれる微生物である請求項11に記載の測定方法。
【請求項13】
還元剤、酸又はその塩、界面活性剤、及びプロテアーゼの内の少なくとも一つを含む第一試薬とアディポネクチンを測定するための抗体を担持させた不溶性担体を含む第二試薬よりなるアディポネクチン総量の免疫学的測定試薬であって、試料と第一試薬の反応を煮沸することなく行う方法に用いられる該測定試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/038458
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514797(P2005−514797)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015261
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(390037327)第一化学薬品株式会社 (111)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【Fターム(参考)】