説明

試料の気液平衡化装置

【課題】迅速で、再現性を有する気液平衡を実現し、なお且つコンパクトでオンサイト計測などにも適する、試料の気液平衡化装置を提供する。
【解決手段】液体試料を所定の容器内で気化させて気液平衡状態とし、該容器内で気化された気体を分析に供するための気液平衡化装置(10)において、試料を微小液滴化する微小液滴化デバイス(20)と、前記微小液滴化デバイスの出口部に連結し該出口部から微小液滴状に吐出された試料を受容し貯留する受容貯留容器(9)とを備え、前記受容貯留容器は、前記微小液滴化デバイス(6)により微小液滴化された試料からの揮発性成分が気化する気化領域を提供するとともに、前記気化領域が所定の気密性を有することにより、気化した気体を保持できる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス化された試料を調製するための技術に関し、より詳細には、ガスクロマトグラフィーなどの気体分析に供するための前処理として適用される、試料の気液平衡化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料を、ガスクロマトグラフィー分析などの気体分析に供するには、その試料をガス化(またはコロイド粒子化)しなければならないが、そのような方法としては、例えば、ヘッドスペース法やパージトラップ法などが知られている。
【0003】
ヘッドスペース法は、揮発性有機化合物のガスクロマトグラフィー分析の前処理としてよく知られている。この方法では、まず、所定量の試料をエアタイトバイアルと称される蓋付密閉容器に入れる。これを一定温度にて一定時間保管すると、時間の経過と共に、試料からこの密閉容器内に揮発性有機化合物の成分が気化して気液平衡状態に到達し、もしくは近づく。この揮発性有機化合物の成分を含む気体は、バイアル上空部からニードルシリンジにて採取され、ガスクロマトグラフィーに導入される。
【0004】
パージトラップ法は、揮発性有機化合物などの目的成分を強制的に液体試料中から追い出し、短時間で気液平衡状態へ移行させる方法である。具体的には、液体試料を密閉容器に入れた後、その液相中に不活性ガスを送り込むことで、液相中の目的成分を強制的に気相中に追い出している。気相空間中は、途中に濃縮カラムを有する管路を介して、ガスクロマトグラフィーに接続されている。気相中に追い出された成分は、濃縮カラムで捕集・濃縮された後、ガスクロマトグラフィーへ導入される。
【0005】
近年、環境汚染が世界的な問題となっており、環境試料を採取した現場で迅速に検査する、いわゆるオンサイト計測と称される分析への需要が高まっている。このような要請に対し、上記のヘッドスペース法は、気液平衡状態へ移行するまでに長時間を要するため、迅速性を求められるオンサイト計測などには適さなかった。また、パージトラップ法では、所要時間は短くて済むが、再現性に乏しく、更に、装置が大掛かりとなるため、現場への携帯が困難であった。
【0006】
一方、ガスクロマトグラフィーなどの気体分析に供するための前処理として適用される技術に関し、下記特許文献1には、目的成分をふくむ試料水と、水に溶解しない抽出媒体とを混合し、抽出管内に注入する注入手段と、前記混合流体が、前記抽出管内を移動中に、前記目的成分を分配平衡状態にならしめ、その状態にて前記抽出媒体中に抽出させる抽出手段と、前記混合流体を前記目的成分がふくまれた抽出媒体と前記目的成分が抽出された試料水とにそれぞれ分離する分離手段と、前記分離された抽出媒体より前記目的成分を捕集する捕集手段と、前記捕集手段から流出する前記目的成分を含まない抽出媒体を上記注入手段にもどす循環手段と、これらを制御する制御手段とから構成したことを特徴とする試料水中の脂溶性または揮発性物質の抽出装置が記載されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、試料を微小の液滴として吐出させる試料導入部と、吐出された液滴を検出部へ導入するためのインターフェース部とを有し、吐出された液滴をガス化して検出部へ導入可能にした試料ガス化装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−159387号公報
【特許文献2】特開2005−300484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の試料水中の脂溶性または揮発性物質の抽出装置は、目的成分をふくむ試料水と、水に溶解しない抽出媒体とを混合し、その混合流体が抽出管内を移動中に、目的成分を分配平衡状態にならしめ、その状態にて抽出媒体中に抽出させた後、更に、その混合流体を、前記目的成分がふくまれた抽出媒体と前記目的成分が抽出された試料水とにそれぞれ分離するための、水−ガスセパレータ等の分離手段を要するものであった。そのため、装置も大掛かりとなるため、現場への携帯が困難であり、オンサイト計測などには適さないものであった。
【0010】
また、上記引用文献2に記載の試料ガス化装置は、装置の高感度化,超小型化を可能にすることを目的として、試料の全てをガス化するものであるので、溶媒や目的成分以外の夾雑成分をもガス化してしまい、ガスクロマトグラフィー内のカラムで分離できれば分析結果に支障は無いが、夾雑成分の種類や量によっては、分離不十分となり、分析結果に支障を及ぼすという問題があった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、迅速で、再現性を有する気液平衡を実現し、なお且つコンパクトでオンサイト計測などにも適する、試料の気液平衡化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するにあたり、本発明の試料の気液平衡化装置は、液体試料を所定の容器内で気化させて気液平衡状態とし、該容器内で気化された気体を分析に供するための気液平衡化装置において、試料を微小液滴化する微小液滴化デバイスと、前記微小液滴化デバイスの出口部に連結し該出口部から微小液滴状に吐出された試料を受容し貯留する受容貯留容器とを備え、前記受容貯留容器は、前記微小液滴化デバイスにより微小液滴化された試料からの揮発性成分が気化する気化領域を提供するとともに、前記気化領域が所定の気密性を有することにより、気化した気体を保持できるように構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の試料の気液平衡化装置は、前記微小液滴化デバイスにより、液体試料を微小液滴状にして前記受容貯留容器へ吐出させるので、試料の気液界面の面積を増大させて、迅速な気液平衡化を実現することができる。そして、サイズの揃った液滴を連続的に形成するので、再現性に優れている。また、所定の容器内で気化させて気液平衡状態とするので、試料の全てをガス化する必要はなく、溶媒や目的成分以外の夾雑成分が、以後の分析結果に影響を及ぼすおそれが少ない。更に、コンパクトな構造であるので、現場で迅速に検査する、いわゆるオンサイト計測などにも適している。
【0014】
本発明の試料の気液平衡化装置においては、液体試料を貯留するための液体供給容器と、前記液体供給容器と前記微小液滴化デバイスとを連結する配管とを備え、前記微小液滴化デバイスの出口部を含む一部が前記受容貯留容器に挿入され、その挿入部が前記受容貯留容器に対して封止され、前記出口部が前記気化領域に配置されていることが好ましい。
【0015】
この態様によれば、前記微小液滴化デバイスへの液体試料の供給が、前記配管を通じてスムーズに行われ、更に、前記微小液滴化デバイスへ供給された試料のうちの所定量を微小液滴状にして前記受容貯留容器へ吐出させ、その全量を前記受容貯留容器に貯留させることができる。
【0016】
本発明の試料の気液平衡化装置においては、前記微小液滴化デバイスは、試料を供給するための供給口と、前記供給口に連通し試料を輸送するための試料流路と、一端が前記試料流路に連通し他の一端が前記出口部に連通する吐出ノズルとを有し、前記試料流路の一部には、圧電素子を装着した振動板で構成した加圧部が設けられ、前記吐出ノズルの形状は、該吐出ノズルを通る試料に前記出口部方向への毛細管作用による移動力を付与する形状とされ、前記圧電素子を駆動して前記振動板を振動させることにより、前記加圧部を移動する試料を加圧し、該試料を、前記吐出ノズルを介して前記出口部から吐出させるように構成されていることが好ましい。
【0017】
この態様によれば、前記圧電素子の駆動条件の設定により、微小液滴のスピード、サイズ、数量等を調整することができる。これにより、目的物質や用いられる溶媒の特性に合うように、気液界面の面積総計や、微小液滴が空中に滞在する時間などを設定することができ、より再現性の高い気液平衡化を実現することができる。
【0018】
本発明の試料の気液平衡化装置においては、前記微小液滴化デバイスに、前記試料流路と、前記吐出ノズルと、前記加圧部とからなる微小液滴化手段が、複数並列して設けられ、前記吐出ノズルに連通する複数の出口部が前記受容貯留容器の気化領域に配置されていることが好ましい。この態様によれば、前記微小液滴化デバイスから吐出させる微小液滴の単位時間当たりの液滴数を増大させることができる。
【0019】
本発明の試料の気液平衡化装置においては、前記受容貯留容器には、その一部にシリコンとテフロンの二層の膜からなるニードル挿入部が配されていることが好ましい。この態様によれば、気化された気体を採取するために、ニードル挿入部にニードルの抜き差しを繰り返しても、所定の気密性を保持することができる。
【0020】
本発明の試料の気液平衡化装置においては、更に、前記液体試料の気化に伴って増大する前記気化領域の圧力を緩和する圧力緩和手段を有することが好ましい。この態様によれば、気化に伴って増大する前記受容貯留容器内の圧力変動を緩和することができるので、前記微小液滴化デバイスから試料を微小液滴状に吐出させる際に、容器内の圧力に押し戻されることなく、吐出させることができる。
【0021】
前記圧力緩和手段は、一端を外気に開放され、他端を前記受容貯留容器に挿入された、曲げ加工の施されたパイプからなることが好ましい。また、前記圧力緩和手段は、前記微小液滴化デバイス上に設けられ、その一端を外気に開放され、他端を前記受容貯留容器に挿入された気体通路からなることも好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の試料の気液平衡化装置は、微小液滴化デバイスを備え、その微小液滴化デバイスにより、液体試料を微小液滴状にして受容貯留容器へ吐出させるので、試料の気液界面の面積を増大させて、迅速な気液平衡化を実現することができる。そして、サイズの揃った液滴を連続的に形成するので、再現性に優れている。また、所定の容器内で気化させて気液平衡状態とするので、試料の全てをガス化する必要はなく、溶媒や目的成分以外の夾雑成分が、以後の分析結果に影響を及ぼすおそれが少ない。更に、コンパクトな構造であるので、現場で迅速に検査する、いわゆるオンサイト計測などにも適している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の試料の気液平衡化装置の一実施形態を示す全体説明図である。
【図2】同気液平衡化装置における微小液滴化デバイスを示し、(a)は微小液滴化デバイスの全体図、(b)は同デバイスにおける微小液滴化ユニットの側面図、(c)は同微小液滴化ユニットの平面図、(d)は同微小液滴化ユニットの流路を示す説明図である。
【図3】同気液平衡化装置の動作手順を示し、(a)は同動作手順の第1工程を示す説明図、(b)同動作手順の第2工程を示す説明図である。
【図4】同気液平衡化装置の動作手順の第3工程を示す説明図である。
【図5】同気液平衡化装置の動作手順の第4工程を示す説明図である。
【図6】同気液平衡化装置の動作手順の第5工程を示す説明図である。
【図7】同気液平衡化装置の動作手順の第6工程を示す説明図である。
【図8】同気液平衡化装置の微小液滴化デバイスの圧電素子を駆動する駆動回路により与えられる波形形状の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の試料の気液平衡化装置に備えられる微小液滴化デバイスの他の実施形態を示す説明図である。
【図10】本発明の試料の気液平衡化装置に備えられる微小液滴化デバイスの更に他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の試料の気液平衡化装置は、液体試料の液滴サイズを小さくすれば、溶媒中の目的物質が液滴表面に到達する時間を短縮でき、ひいては迅速な気液平衡化を実現することができる、という作用原理を利用するものである。
【0025】
すなわち、例えば、溶媒中の目的物質の拡散係数が2×10-9m2/sであるとすると、0.25nLの液滴なら、その中央部にある成分の拡散にかかる時間はわずか0.19秒程度である。一方、従来のヘッドスペース法では、例えば、1mLの液体を内径25mmのバイアルに入れた場合を考えると、液相深さは2mmとなり、バイアル底面の成分が液面に到達するまでの拡散時間は500秒の時間を要する。ここで、気体中の拡散スピードは、液体中より数桁速いため、液相内部での拡散が、気液平衡の律速段階となる。したがって、この例では、本発明の方式を採用することにより、従来方式よりも約2600倍も速く気液平衡に到達できることになる。
【0026】
上記のような作用原理を利用するため、本発明の試料の気液平衡化装置は、試料を微小液滴化する微小液滴化デバイスと、前記微小液滴化デバイスの出口部に連結し該出口部から微小液滴状に吐出された試料を受容し貯留する受容貯留容器とを備える。
【0027】
上記微小液滴化デバイスとしては、液体試料を微小液滴化できるという性能を有するものであれば、特に制限はないが、得られる液滴サイズが0.20〜0.45nLに調整できるものを用いることが好ましい。また、その吐出速度が2.0〜3.2メートル/秒に調整できるものを用いることが好ましい。
【0028】
上記受容貯留容器は、上記微小液滴化デバイスから吐出された試料を受容し貯留するためのものである。したがって、液体試料の溶媒や目的物質たる揮発性成分によって容易に腐食が起こらない材質であることが好ましく、ガラス製、樹脂製のものが好ましく例示できる。
【0029】
本発明においては、上記受容貯留容器は、上記微小液滴化デバイスにより微小液滴化された試料からの揮発性成分が気化する気化領域を提供するとともに、その気化領域が所定の気密性を有することにより、気化した気体を保持できるように構成されている。
【0030】
すなわち、後述する実施例でも説明するように、上記受容貯留容器の内側空間は、上記微小液滴化デバイスから吐出された試料を受容し貯留するために提供され、更になお余っている空間が、上記微小液滴化デバイスにより微小液滴化された試料からの揮発性成分が気化する気化領域を提供する。この気化領域は所定の気密性を有することによって、気化した気体を保持する領域ともなる。その気密性の程度は、完全密閉でなくても、気体の損失割合に再現性があり、バイアル内気相体積に対して、損失する基体量が十分に少ない程度の密閉度であればよい。
【0031】
本発明の好ましい態様においては、液体試料を貯留するための液体供給容器と、前記液体供給容器と前記微小液滴化デバイスとを連結する配管とを備え、前記微小液滴化デバイスの出口部を含む一部が前記受容貯留容器に挿入され、その挿入部が前記受容貯留容器に対して封止され、前記出口部が前記気化領域に配置されている。
【0032】
上記液体供給容器は、上記微小液滴化デバイスに供給する液体試料を貯留するためのものである。したがって、液体試料の溶媒や目的物質たる揮発性成分によって容易に腐食が起こらない材質であることが好ましく、ガラス製、樹脂製のものが好ましく例示できる。
【0033】
上記配管は、上記液体供給容器から上記微小液滴化デバイスに液体試料を供給するためのものである。したがって、液体試料の溶媒や目的物質たる揮発性成分によって容易に腐食が起こらない材質であることが好ましい。更に、上記液体供給容器と上記微小液滴化デバイスとの相対的な位置関係を柔軟に変更できるように、柔軟な材質であることが好ましく、樹脂製のものが好ましく例示できる。
【0034】
本発明の好ましい態様においては、上記微小液滴化デバイスは、試料を供給するための供給口と、前記供給口に連通し試料を輸送するための試料流路と、一端が前記試料流路に連通し他の一端が前記出口部に連通する吐出ノズルとを有し、前記試料流路の一部には、圧電素子を装着した振動板で構成した加圧部が設けられ、前記吐出ノズルの形状は、該吐出ノズルを通る試料に前記出口部方向への毛細管作用による移動力を付与する形状とされ、前記圧電素子を駆動して前記振動板を振動させることにより、前記加圧部を移動する試料を加圧し、該試料を、前記吐出ノズルを介して前記出口部から吐出させるように構成されている。
【0035】
上記のような構造を有する微小液滴化デバイスとしては、後述の実施例で用いた液滴噴霧デバイスが挙げられる。本構成の液滴噴霧デバイスによれば、駆動回路を制御することにより、圧電素子の変位量を精密に調整できるため、サイズの揃った液滴を、連続的に、且つ再現性よく形成できる。
【0036】
本発明の好ましい態様においては、上記受容貯留容器には、その一部にシリコンとテフロンの二層の膜からなるニードル挿入部が配されている。このような構成の容器としては、後述の実施例で用いたガスタイトバイアルが挙げられる。
【0037】
本発明の好ましい態様においては、更に、前記液体試料の気化に伴って増大する前記気化領域の圧力を緩和する圧力緩和手段を有する。圧力緩和手段としては、一端を外気に開放され、他端を上記受容貯留容器に挿入された、曲げ加工の施されたパイプからなるものであってもよい。この場合、例えば、長さ5cm程度のパイプにて内径0.4mm程度以上を確保する必要がある。すなわち、これより細いパイプでは、前記気化領域内の圧力緩和が満足に得られず、微小液滴化デバイスの吐出ノズル内を液が押し戻されてしまうおそれがある。なお、要求されるパイプの太さは、主に吐出される液滴量の増加速度との関係で決まるため、吐出ノズルの本数や駆動周波数を変更する場合は、それらに応じてパイプ太さも適宜選択する。また、気化成分の損失割合を抑制するためには、パイプの長さを短くし過ぎない方がよい。
【0038】
圧力緩和手段は、上記微小液滴化デバイス上に設けられ、その一端を外気に開放され、他端を前記受容貯留容器に挿入された気体通路からなるものであってもよい。このような気体通路は、後述の実施例でも説明するように、微小液滴化デバイスの微小液滴化ユニットを、基板を貼り合わせて形成するときに、その基板表面のエッチングにより形成することができる。この場合、気体通路の曲がり形状や、通路孔径を調製することによって、圧力緩和効率や、気化成分の損失割合を制御することができる。
【実施例】
【0039】
以下、図1〜7を参照して、本発明について更に詳細に説明する。
【0040】
図1には、本発明の一実施形態である試料の気液平衡化装置10(以下、「装置10」という)を表す。この装置10は、図2に表す液滴噴霧デバイス20(本発明における微小液滴化デバイスを構成する)を備えている。
【0041】
図1に示すように、この液滴噴霧デバイス20は、駆動回路24と、駆動回路24からの電気信号を供給するためのフレキシブルケーブル25と、フレキシブルケーブル25が接続された微小液滴化ユニット6とを備える。図2(a)、(b)に示すように、この微小液滴化ユニット6は、シリコン基板2の表面にエッチングにより溝を形成し、ガラス基板1で蓋をして流路3を形成したものである。その流路3の一端は、試料が導入される供給口26aをなし、流路3の他端は、液滴の吐出口26をなしている。また、図2(c)、(d)に示すように、流路3は、試料流路3aと、次第に流路幅を狭められて、上記吐出口26に連通する吐出ノズル3bとで構成されている。
【0042】
また、試料流路3aの途中には、所定の空間を有する加圧室4が設けられており、その位置に対応するガラス基板1の外側面には、圧電素子5が貼り付けられている。この加圧室4に対応するガラス基板は、圧電素子5の装着によって、振動板としての機能が付与されている。駆動回路24からの電気信号を供給するためのフレキシブルケーブル25は、その一方の電極が圧電素子5に接続され、その他方の電極がガラス基板1に接続されている。なお、ガラス基板1には、予めITO膜をコーティングしておくことで、ガラス基板1側をコモン電極とすることができる。
【0043】
上記加圧室4と、圧電素子5を有する振動板とが、本発明における加圧部を構成し、駆動回路24からの電気信号によって圧電素子5を駆動することにより、加圧室4内の試料を加圧して、吐出ノズル3bの吐出口26から液滴を噴霧できるようになっている。また、試料流路3aと、吐出ノズル3bと、上記加圧部とを備える微小液滴化ユニット6は、本発明における微小液滴化手段の最小ユニットを構成している。
【0044】
図1を併せて参照すると、液滴噴霧デバイス20の微小液滴化ユニット6の出口部26を含む先端部は、本発明における受容貯留容器を構成するガスタイトバイアル9に挿入され、封止されている。すなわち、ガスタイトバイアル9の開口部には、中央部が開口して隔壁を有しない環状の蓋8と、その蓋8の中央部の開口を閉塞するように取付けられた、シリコン層11とテフロン層12の二層から成るセプタム13とが装着されている。このセプタム13には、微小液滴化ユニット6の出口部26を含む先端部が挿入できる大きさの貫通孔が形成され、液滴噴霧デバイス20がセプタム13を貫通し、接着剤14にて封止され、固定されている。また、この蓋8はセプタム13とともにガスタイトバイアル9に対して開閉可能に設けられており、この蓋8はセプタム13とともに閉じた状態にあるときに、ガスタイトバイアル9内には気密性を有する空間が与えられる。
【0045】
本実施形態の装置10では、更に、液滴噴霧デバイス20の微小液滴化ユニット6の供給口26a側に配設されたジョイント7によって、樹脂製の配管21の一端が前記液滴噴霧デバイス20の供給口26aに連結し、その配管21の他端は液体試料を貯留するための液体供給容器16に導かれている。また、圧力緩和の目的で、ステンレス製のパイプ15がセプタム13を貫通し、セプタム13の弾性塑性力によって封止され、固定されている。このパイプ15が本発明における圧力緩和手段を構成している。
【0046】
なお、後述の動作手順についての説明の便宜から、図1に表す装置10では、その液体供給容器16の中には、揮発性成分17と溶媒18から成る液体試料19が封入されている。そして、液体供給容器16の空間部には、気体用チューブ22を接続し、その他方の端に圧力調整用の注射器23が接続している。
【0047】
次に、図3〜7を参照して、上記構成からなる装置10の動作手順について説明する。
【0048】
まず、図3(a)に示すように、液滴噴霧デバイス20が封止、固定された蓋8及びセプタム13をガスタイトバイアル9から外した状態にしておく。そして、液体試料19を入れた液体供給容器16の空間部へ注射器23のプランジャーを押して圧力を付与すると、図3(b)に示すように、液体試料19は配管21と通じて液滴噴霧デバイス20へと供給され、液滴噴霧デバイス20の流路3は、液体試料19で満たされる。その後、注射器23による加圧を解除する。
【0049】
次に、図4に示すように、液滴噴霧デバイス20が封止、固定されたままの状態で、蓋8をセプタム13とともにガスタイトバイアル9の開口部に装着し、蓋8を閉じて密閉する。その後、駆動回路24にて、液滴噴霧デバイス20の圧電素子5に電圧を印加すると、その圧電素子5を装着した加圧室4に対応する部分のガラス基板が振動板として機能する。そして、その振動により加圧室4の体積がマイクロ秒単位の周期で増減し、その周期的な体積の増減に応じた押出し力が働いて、図5に示すように、液体試料19が吐出ノズル3bから押し出され、液滴噴霧デバイス20の出口部26から微小液滴状に吐出させることができる。吐出直後の液滴27中の揮発性成分17は、主に液滴内部に在るが、拡散により液滴表面に移動してゆき、更に、気相28中へと移動する(図5)。これに対し、夾雑成分は、その極性や沸点などの性状のために、殆どが液相29に残留する。この状態において、ガスタイトバイアル9の気相部から気体を採取すれば、夾雑物分離された目的成分が捕集できる。
【0050】
所定の液滴数の噴霧が完了すると、図6に示すように、液滴のサイズ効果により速やかに、ガスタイトバイアル9内は気液平衡もしくは、それに近い状態へと到達する。この状態で、図7に示すように、ガスタイトバイアル9の蓋のセプタム部より、ニードルシリンジ30を挿入し、ガスタイトバイアル9内の気相28中の気体を採取する。採取した気体は、ガスクロマトグラフィーなどの分析機器(図示せず)へ導入し、分析の工程へ移行することができる。
【0051】
次に、液滴噴霧デバイス20の動作について説明する。
【0052】
液滴噴霧デバイス20では、駆動回路24の設定にて、振動板の圧電素子5へ与える電圧、パルス幅、周期等の波形形状を調整することができる。これらのパラメータにより、液滴噴霧デバイス20の出口部26から飛び出す吐出液滴の液滴サイズと吐出速度を制御し得る。図8には、その波形形状の一例を示す。また、吐出液滴の総数量は、圧電素子5への印加回数の設定により制御できる。更に、総吐出液量を設定することで、気液界面の総表面積を制御できる。例えば、液滴サイズ0.25nL、吐出速度を3メートル/秒となるように調製し総吐出液量1mLとした場合では、1滴当りのサイズ0.25nLから換算すると、液滴数が4百万発となる。気液界面の面積総計はおよそ192cm2となる。
【0053】
図9には、本発明の試料の気液平衡化装置に備えられる微小液滴化デバイスの他の実施形態を示す。すなわち微小液滴化デバイスを構成する液滴噴霧デバイス20を、微小液滴化ユニット60で構成した例である。この微小液滴化ユニット60においては、試料流路3aと、吐出ノズル3bと、加圧室4とからなる微小液滴化手段の最小ユニットが、複数並列して設けられている。そして、複数の吐出ノズル3bは、微小液滴化デバイスの複数の出口部26に連通し、その複数の出口部26を、液滴噴霧デバイス20と同じようにガスタイトバイアル9内に配置させる(図示せず)。この態様によれば、単位時間当たり噴霧液滴数を増大させることができる。
【0054】
図10には、本発明の試料の気液平衡化装置に備えられる微小液滴化デバイスの更に他の実施形態を示す。すなわち、この微小液滴化ユニット61においては、更に、圧力緩和のための気体通路31を配設してある。この態様によれば、圧力緩和用のパイプ15を設置せずに済むため、よりコンパクトな形態とすることができる。更に、気体通路31はエッチングにより形成できるため、任意の曲がり形状や、孔径にデザインすることが容易である。
【符合の説明】
【0055】
1:ガラス基板
2:シリコン基板
3:流路
3a:試料流路
3b:吐出ノズル
4:加圧室
5:圧電素子
6,60、61:微小液滴化ユニット
7:ジョイント
8:蓋
9:ガスタイトバイアル
10:試料の気液平衡化装置
11:シリコン層
12:テフロン層
13:セプタム
14:接着剤
15:パイプ
16:液体供給容器
17:揮発性成分
18:溶媒
19:液体試料
20:液滴噴霧デバイス
21:配管
22:気体用チューブ
23:注射器
24:駆動回路
25:フレキシブルケーブル
26:出口部
26a:供給口
27:液滴
28:気相
29:液相
30:ニードルシリンジ
31:気体通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を所定の容器内で気化させて気液平衡状態とし、該容器内で気化された気体を分析に供するための気液平衡化装置において、試料を微小液滴化する微小液滴化デバイスと、前記微小液滴化デバイスの出口部に連結し該出口部から微小液滴状に吐出された試料を受容し貯留する受容貯留容器とを備え、前記受容貯留容器は、前記微小液滴化デバイスにより微小液滴化された試料からの揮発性成分が気化する気化領域を提供するとともに、前記気化領域が所定の気密性を有することにより、気化した気体を保持できるように構成されていることを特徴とする試料の気液平衡化装置。
【請求項2】
液体試料を貯留するための液体供給容器と、前記液体供給容器と前記微小液滴化デバイスとを連結する配管とを備え、前記微小液滴化デバイスの出口部を含む一部が前記受容貯留容器に挿入され、その挿入部が前記受容貯留容器に対して封止され、前記出口部が前記気化領域に配置されている請求項1記載の試料の気液平衡化装置。
【請求項3】
前記微小液滴化デバイスは、試料を供給するための供給口と、前記供給口に連通し試料を輸送するための試料流路と、一端が前記試料流路に連通し他の一端が前記出口部に連通する吐出ノズルとを有し、前記試料流路の一部には、圧電素子を装着した振動板で構成した加圧部が設けられ、前記吐出ノズルの形状は、該吐出ノズルを通る試料に前記出口部方向への毛細管作用による移動力を付与する形状とされ、前記圧電素子を駆動して前記振動板を振動させることにより、前記加圧部を移動する試料を加圧し、該試料を、前記吐出ノズルを介して前記出口部から吐出させるように構成されている請求項1又は2記載の試料の気液平衡化装置。
【請求項4】
前記微小液滴化デバイスに、前記試料流路と、前記吐出ノズルと、前記加圧部とからなる微小液滴化手段が、複数並列して設けられ、前記吐出ノズルに連通する複数の出口部が前記受容貯留容器の気化領域に配置されている請求項3記載の試料の気液平衡化装置。
【請求項5】
前記受容貯留容器には、その一部にシリコンとテフロンの二層の膜からなるニードル挿入部が配されている請求項1〜4のいずれか1つに記載の試料の気液平衡化装置。
【請求項6】
更に、前記液体試料の気化に伴って増大する前記気化領域の圧力を緩和する圧力緩和手段を有する請求項1〜5のいずれか1つに記載の試料の気液平衡化装置。
【請求項7】
前記圧力緩和手段は、一端を外気に開放され、他端を前記受容貯留容器に挿入された、曲げ加工の施されたパイプからなる請求項6記載の試料の気液平衡化装置。
【請求項8】
前記圧力緩和手段は、前記微小液滴化デバイス上に設けられ、その一端を外気に開放され、他端を前記受容貯留容器に挿入された気体通路からなる請求項6記載の試料の気液平衡化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−27557(P2011−27557A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173871(P2009−173871)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月2日 社団法人日本分析化学会発行の「第70回分析化学討論会 講演要旨集」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】