説明

試料の評価方法及び評価装置

【課題】測定対象となる薄膜等の試料を破壊すること無く、品質をより正確に評価することが可能な試料の評価方法及び評価装置を提供する。
【解決手段】本発明の試料の評価方法は、試料保持部2にて保持された試料Sを、移動部4によりその面内の一方向に沿って一定の速度にて移動するとともに、この移動しつつある試料Sに電子線発生源5により電子線Eを照射し、CL分光検出器6により試料Sから発生するカソードルミネッセンスCLを検出し、このカソードルミネッセンスCLの検出結果に基づき試料Sを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の評価方法及び評価装置に関し、更に詳しくは、オプティカルデバイス用または高周波デバイス用の窒化ガリウム(GaN)薄膜等の化合物半導体薄膜、あるいはプラズマディスプレイ(PDP)用の絶縁保護膜である酸化マグネシウム(MgO)薄膜等の金属酸化物薄膜等の試料の面内特性を非破壊にて評価することが可能な試料の評価方法及び評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オプティカルデバイス用または高周波デバイス用の半導体薄膜としては、III−V族化合物半導体である窒化ガリウム(GaN)薄膜が知られている。
このGaN薄膜は、有機金属化学気相堆積法(MO−CVD法)やクロライド法等の化学的蒸着法、あるいは分子線エピタキシー法(MBE法)や反応性蒸着法等の物理的蒸着法により成膜される。このGaN薄膜の特性評価は、電気的特性を測定して評価するのが一般的であり、電気的特性としては、通常、キャリヤー濃度と電子移動度が用いられ、これらキャリヤー濃度及び電子移動度の測定結果により膜の品質を評価するのが一般的である。
GaN薄膜の電気的特性を評価する場合、例えば、4インチウェーハの大きさに対応した特性分布を測定するためには、測定点を75点確保する必要がある。そこで、この4インチウェーハから10mm角の評価用試料を75点切り出して測定する方法が採られる。
【0003】
また、GaN薄膜の結晶性を評価する方法としては、この薄膜に電子線を照射し、この薄膜から発生するカソードルミネッセンス(CL)を検出し、この検出結果に基づき結晶性を評価する方法が提案されている(特許文献1)。このGaNのバンドギャップエネルギー(Eg)は3.4eVであり、カソードルミネッセンス(CL)の場合、膜の結晶性が波長360nm付近に現れる波形の形状に影響を及ぼす。例えば、膜の結晶性が良好な場合には、鋭くかつ強いピークが観察され、膜の結晶性が良くない場合には、ブロードかつ弱いピークが観察される。また、この薄膜に不純物が含まれている場合、550nm付近にピークが出現するために、このピークの有無により、GaN薄膜の結晶性の良否を判定することができる。
さらに、GaN薄膜の品質管理の方法として、膜中の不純物を二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)により評価する方法も提案されている。
【0004】
一方、プラズマディスプレイ(PDP)用の絶縁保護膜としては、酸化マグネシウム(MgO)薄膜が広く知られており、このMgO薄膜の成膜法としては、蒸着法、スパッタリング法、粉末塗布法等が知られており、現在では、一般的に、蒸着法が主流となっている。
このMgO薄膜の膜質特性は、プラズマディスプレイ(PDP)の放電開始電圧やパネル寿命に非常に大きな影響を与える。この膜質特性は、成膜条件や膜中の不純物濃度により異なるために、成膜条件や膜中の不純物濃度がその後のPDPの特性や寿命等に非常に大きな影響を与えることになる。そこで、実パネルとする前の段階で、このMgO薄膜がPDP用絶縁保護膜として適するか否かを判断する必要があるが、現在では、成膜条件の経験値から膜の結晶構造や屈折率等を類推し、適否を判断するのが一般的である。
【0005】
また、光学半導体結晶では、この結晶から発生するカソードルミネッセンス(CL)を測定し、この測定結果に基づき種々の特性評価を行うことが行われており、MgO薄膜についても、その成膜条件による膜質の変化を、カソードルミネッセンス(CL)を用いて評価する試みが提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−83087号公報
【特許文献2】特開2005−353455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来のGaN薄膜の評価方法では、次のような問題点があった。
(1)電気的特性による評価方法では、評価の対象となるウェーハから一定の大きさの評価用試料を複数個切り出すために破壊的な測定となる。したがって、非破壊にて測定することができない。
(2)カソードルミネッセンス(CL)による評価方法では、非破壊にて測定することはできるものの、電子線の照射により試料が加熱されるので、カソードルミネッセンス(CL)の測定結果に電子線による加熱効果も含まれることとなり、薄膜自体の正確な評価を行うことができない。
(3)二次イオン質量分析法(SIMS)による評価方法では、GaN薄膜中の不純物濃度が極めて低い場合、評価が難しい。特に、最近の成膜法によるGaN薄膜中の不純物濃度は、検出限界に近いために、この方法では評価が困難である。
【0007】
一方、上述した従来のMgO薄膜の評価方法では、次のような問題点があった。
(1)成膜条件の経験値から判断する評価方法では、成膜条件の経験値から膜の結晶構造や屈折率等を類推して適否を判断しているために、実際に得られたMgO薄膜の膜質が成膜条件の経験値から類推されたMgO薄膜の膜質と異なる場合も多く、実際には、MgO薄膜の正確な膜質はパネル化してみないと分からない。
(2)カソードルミネッセンス(CL)を用いて評価する方法では、MgO薄膜が有する結晶構造及び幾何学的構造のために、カソードルミネッセンス(CL)を測定しただけでは、膜質を評価するのに必要な測定結果を得ることができない。
このように、プラズマディスプレイ(PDP)のパネル特性を左右するMgO薄膜については、より高機能性のMgO薄膜を開発する際に、パネル化後の特性の指針を与える様なMgO薄膜の膜特性の評価方法が求められていた。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、測定対象となる薄膜等の試料を破壊すること無く、品質をより正確に評価することが可能な試料の評価方法及び評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、カソードルミネッセンス(CL)を用いて試料の特性を評価する際に、この試料をその面内の一方向に沿って一定の速度にて移動し、この移動しつつある試料から発生するカソードルミネッセンスを検出することとすれば、試料に照射される単位時間当たりの電子線のエネルギー量が抑制され、よって、試料を非破壊的に評価することが可能であり、この試料の特性の面内分布が容易に得られ、しかも、この試料の特性と、この試料を所望のデバイスに適用した場合のデバイス特性との間に相関があれば、この試料の特性によりデバイス特性の指針を与えることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の試料の評価方法は、試料をその面内の一方向に沿って一定の速度にて移動するとともに、この移動しつつある試料に電子線を照射して該試料から発生するカソードルミネッセンスを検出し、このカソードルミネッセンスの検出結果に基づき前記試料を評価することを特徴とする。
【0011】
この試料の評価方法では、電子線のスポットが試料上をその面内の一方向に沿って一定の速度にて移動することにより、この電子線が試料上の特定の一点に集中して照射することがなくなり、よって、試料に照射される単位時間当たりの電子線のエネルギー量が抑制され、この電子線のエネルギーによる試料へのダメージが小さくなる。これにより、試料を非破壊的に評価することが可能になる。
また、移動しつつある試料に電子線を照射して該試料から発生するカソードルミネッセンスを検出することにより、この試料の特性の面内分布が容易に得られる。
また、この試料の特性と、この試料を所望のデバイスに適用した場合のデバイス特性との間に相関があれば、この試料の特性に基づきデバイス特性への指針を与えることが可能になる。
【0012】
前記試料は、III−V族化合物またはII−VI族化合物からなる試料であることが好ましい。
前記試料は、金属酸化物からなる試料であることが好ましい。
前記速度は、0.5mm/分以上かつ5mm/分以下であることが好ましい。
前記速度を0.5mm/分以上かつ5mm/分以下とすることにより、電子線のエネルギーによる試料へのダメージが極めて小さくなる。
【0013】
本発明の試料の評価装置は、真空容器と、この真空容器内に設けられ試料を保持する試料保持手段と、この試料保持手段を所定の方向へ一定の速度で移動する移動手段と、前記試料保持手段に保持される試料に電子線を照射する電子線発生手段と、前記試料から発生するカソードルミネッセンスを検出する検出手段とを備えてなることを特徴とする。
【0014】
この試料の評価装置では、移動手段により試料を保持する試料保持手段を所定の方向へ一定の速度で移動し、電子線発生手段により試料保持手段に保持される試料に電子線を照射し、検出手段により試料から発生するカソードルミネッセンスを検出する。
これにより、電子線のスポットが試料上をその面内の一方向に沿って一定の速度にて移動することとなり、よって、試料に照射される単位時間当たりの電子線のエネルギー量が抑制され、試料に電子線のエネルギーによるダメージを与えることなく、試料を非破壊的かつ容易に評価することが可能になる。
また、移動しつつある試料に電子線を照射して該試料から発生するカソードルミネッセンスを検出することにより、この試料の特性の面内分布を容易に測定する。
【0015】
前記試料保持手段は、保持する前記試料を加熱する加熱手段を備えてなることを特徴とする。
この試料の評価装置では、試料保持手段に試料を加熱する加熱手段を備えたことにより、試料を所望の温度範囲内に加熱することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の試料の評価方法によれば、試料をその面内の一方向に沿って一定の速度にて移動するとともに、この移動しつつある試料に電子線を照射して該試料から発生するカソードルミネッセンスを検出し、このカソードルミネッセンスの検出結果に基づき前記試料を評価するので、試料を非破壊的に評価することができ、この試料の特性の面内分布を容易に得ることができる。したがって、より高品質の試料を得ることができる。
また、この試料の膜特性と、この試料を所望のデバイスに適用した場合のデバイス特性との間の相関を取ることで、この試料の特性によりデバイス特性に指針を与えることができる。
【0017】
本発明の試料の評価装置によれば、試料を保持する試料保持手段を所定の方向へ一定の速度で移動する移動手段と、前記試料保持手段に保持される試料に電子線を照射する電子線発生手段と、前記試料から発生するカソードルミネッセンスを検出する検出手段とを備えたので、試料に電子線によるダメージを与えることなく、試料を非破壊的かつ容易に評価することができる。
また、移動しつつある試料に電子線を照射して該試料から発生するカソードルミネッセンスを検出するので、この試料の特性の面内分布を容易に測定することができる。
【0018】
前記試料保持手段に、保持する前記試料を加熱する加熱手段を備えることにより、試料を所望の温度範囲内に加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の試料の評価方法及び評価装置を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0020】
図1は、本実施形態の試料の評価装置を示す模式図であり、図において、1は真空チャンバー(真空容器)、2は真空チャンバー1内に設けられて試料Sを保持する試料保持部(試料保持手段)、3は試料保持部2に内蔵されたヒータ(加熱手段)、4は試料保持部2を移動させる移動部(移動手段)、5は試料保持部2に保持される試料Sに電子線Eを照射して励起する電子線発生源(電子線発生手段)、6は試料Sから発生するカソードルミネッセンス(CL)を検出するカソードルミネッセンス(CL)分光検出器(検出手段)、7は真空封止窓を兼ねる石英製カソードルミネッセンス(CL)集光レンズ、8は試料S表面にレーザ光等を照射するための予備窓、9はターボ分子ポンプ排気系である。
【0021】
ヒータ3は、試料保持部2に保持された試料Sを所定の温度、例えば、室温(25℃)以上かつ400℃以下の温度範囲に加熱するもので、例えば、タングステン(W)線、タンタル(Ta)線等が好適に用いられる。
移動部4は、試料保持部2を試料Sの面内の一方向に沿って(図1中矢印方向)一定の速度で移動させるもので、この速度としては、0.5mm/分以上かつ5mm/分以下が好ましく、より好ましくは1mm/分以上かつ2mm/分以下である。
【0022】
ここで、試料S、すなわち試料保持部2の移動速度を0.5mm/分以上かつ5mm/分以下と限定した理由は、速度が0.5mm/分より遅いと、試料に照射される単位時間当たりの電子線のエネルギー量が多くなり過ぎて試料にダメージを与えてしまい、破壊に至る虞があるからである。一方、速度が5mm/分より速いと、試料から発生するカソードルミネッセンス(CL)が不安定なものになり、このカソードルミネッセンス(CL)の測定結果が試料の特性を正確に反映しなくなってしまうからである。
また、5mm/分以下という速度範囲は、移動部4を構成する機構部品を高精度で制御するのに望ましい範囲であり、速度が5mm/分を越えると、機構部品の制御精度が低下し、試料保持部2の移動速度が極めて不安定になる。
【0023】
電子線発生源5は、1×10−3より小さい変動幅を持つ安定度があればよく、ホットフィラメント、サーマルフィールドエミッタ等が好適に用いられる。
この電子線発生源5から発生される電子線Eのエネルギーは10keV、電子線量は80nA以下であり、そのビーム径は、100μm以上かつ200μm以下が好ましく、より好ましくは140μm以上かつ160μm以下である。
ここで、電子線Eのビーム径を100μm以上かつ200μm以下と限定した理由は、ビーム径が100μm未満であると、試料に電子線照射によるダメージが生じ易くなるからであり、一方、ビーム径が200μmを越えると、集光の焦点位置外となるからである。
【0024】
ターボ分子ポンプ排気系9は、真空チャンバー1内を所定の真空度、例えば10−3〜10−4Paの範囲内で安定させることができるものであればよく、補助真空ポンプに油回転ポンプまたはドライポンプを用いたものが用いられる。
CL分光検出器6は、波長範囲が200nm以上かつ900nm以下のカソードルミネッセンス(CL)を検出するものである。
CL集光レンズ7は、カソードルミネッセンス(CL)をCL分光検出器6に集光させるもので、このCL集光レンズ7の替わりに放物面の凹面鏡を用いてもよい。
【0025】
次に、本実施形態の試料の評価方法について説明する。
まず、試料保持部2に試料Sを固定し、この試料保持部2を真空チャンバー1内の所定位置に固定し、真空チャンバー1内を気密にする。次いで、ターボ分子ポンプ排気系9を駆動させて真空チャンバー1内を所定の真空度、例えば10−3〜10−4Paの範囲内の真空度とする。
試料Sとしては、GaN等のIII−V族化合物、ZnS等のII−VI族化合物、MgO等の金属酸化物、等からなる試料、特に薄膜が好ましい。
次いで、移動部4を駆動させて試料保持部2を試料Sの面内の一方向に沿って0.5mm/分以上かつ5mm/分以下の範囲内の一定の速度で移動させると同時に、電子線発生源5により試料Sに電子線Eを照射する。
【0026】
ここでは、電子線Eのエネルギーを10keV、電子線量を8nA、ビーム径を100μm以上かつ200μm以下、より好ましくは140μm以上かつ160μm以下に調整する。
この試料Sがその面内の一方向に沿って一定の速度で移動する間に、電子線Eの照射により励起され、この励起によりカソードルミネッセンスCLが発光し、放射される。
このようにして放射されたカソードルミネッセンスCLは、石英製CL集光レンズ7にて集光され、CL分光検出器6にて検出される。
【0027】
このCL分光検出器6にて検出されたCL分光特性を、標準試料から検出されたCL分光特性と比較することにより、試料Sの特性を評価することができる。
このCL分光特性により、試料Sの結晶性、微小不純物等の膜特性を評価することができる。
また、予め、試料SのCL分光特性と電気的特性との相関を調べておき、この試料SのCL分光特性を上記の相関と比較することにより、試料Sのデバイス化後あるいはパネル化後の特性を推定することができる。
また、試料Sの所定の領域内にジグザグ状に電子線Eを照射することにより、試料Sの所定の領域内におけるCL分光特性の面内分布を得ることができ、試料Sの面内の特性分布を知ることができる。
【0028】
本実施形態の試料の評価方法によれば、試料Sをその面内の一方向に沿って一定の速度にて移動しつつ試料Sに電子線Eを照射し、この試料Sから発生するカソードルミネッセンスCLを検出し、このカソードルミネッセンスCLの検出結果に基づき試料Sの特性を評価するので、試料Sの結晶性、微小不純物等の膜特性、あるいは電気的特性を、破壊することなく評価することができる。
また、この試料Sの特性により、この試料SをPDPや光学素子等の所望のデバイスに適用した場合のデバイス特性を正確に推定することができ、この試料Sの特性に基づきデバイス特性に指針を与えることができる。
【0029】
本実施形態の試料の評価装置によれば、試料Sを保持する試料保持部2と、試料保持部2を移動させる移動部4と、試料Sに電子線Eを照射して励起する電子線発生源5と、試料Sから発生するカソードルミネッセンスCLを検出するCL分光検出器6とを備えたので、試料Sに電子線Eによるダメージを与えることなく、試料Sを非破壊的かつ容易に評価することができる。
また、この試料Sの特性の面内分布をも容易に測定することができる。
また、試料保持部2にヒータ3を内蔵することで、試料Sの表面温度を精度良く制御することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
「実施例1」
まず、試料Sとして、MOCVD法により3種類のGaN薄膜(GaN−A、GaN−B、GaN−C)をサファイア基板上に成膜し、これらGaN−A、GaN−B、GaN−C各々の移動度(cm/V・s)の温度依存性を調べた。
【0031】
図2は、GaN−Aにおける移動度(cm/V・s)の温度依存性を示す図であり、図3は、GaN−B及びGaN−C各々における移動度(cm/V・s)の温度依存性を示す図である。これらの図では、温度範囲は室温(300K)から77Kまでとしてある。
図3中、「●」及び「□」はGaN−Bを、「○」、「△」及び「×」はGaN−Cをそれぞれ示している。
図2及び図3によれば、室温(300K)における移動度は、GaN−A>>GaN−B>GaN−Cの順で優れていることが分かる。この傾向は、低温になればなるほど顕著になっていることが分かる。
【0032】
次いで、3種類のGaN薄膜(GaN−A、GaN−B、GaN−C)各々の微量不純物を二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。
ここでは、微量不純物として、水素(H)、炭素(C)、酸素(O)及びガリウム(Ga)の4元素を選んだ。
図4はGaN−Aの微量不純物のSIMS強度を示す図、図5はGaN−Bの微量不純物のSIMS強度を示す図、図6はGaN−Cの微量不純物のSIMS強度を示す図である。
これらGaN−A、GaN−B、GaN−C各々の試料では、炭素(C)の強度に若干の相違があるのみで不純物に差異は認められないことが分かる。
【0033】
次いで、3種類のGaN薄膜(GaN−A、GaN−B、GaN−C)各々を一定の速度で移動しつつ電子線Eを照射したときの、GaN−A、GaN−B及びGaN−C各々のカソードルミネッセンス(CL)強度を測定した。
ここでは、真空チャンバー1の真空度を5.0×10−4Pa、GaN薄膜の移動速度を1.0mm/分、GaN薄膜の表面温度を30℃、電子線Eのエネルギーを10keV、電子線量を20nA、ビーム径を150μmとした。
【0034】
図7は、GaN−A、GaN−B、GaN−C各々のCL強度を示す図であり、360nm付近のバンド端の発光強度は、GaN−Aが最も強く、GaN−B及びGaN−C各々のバンド端の発光強度は、移動度(cm/V・s)に対応して低下していることが分かる。なお、720nm付近の発光は、CL分光検出器6にグレーティングを用いていることから生じる発光であり、360nmの発光の干渉によるピークである。
【0035】
次いで、比較のために、3種類のGaN薄膜(GaN−A、GaN−B、GaN−C)各々の位置を固定した状態で電子線Eを30分照射したときの、GaN−A、GaN−B及びGaN−C各々のカソードルミネッセンス(CL)強度を測定した。
図8は、GaN−A、GaN−B、GaN−C各々のCL強度を示す図であり、360nm付近のバンド端の発光強度は、GaN−Aは変化していないが、GaN−B及びGaN−C各々のバンド端の発光強度は、1.0mm/分の移動速度にて移動した場合と比べて逆転していることが分かる。
【0036】
また、新たに550nm付近にピークを有する発光が現れるが、これらの発光は炭素(C)等の不純物によるもので、図4〜図6のSIMSによる炭素(C)強度とは異なる挙動を示している。
この図7及び図8に示すように、電子線Eの照射時間を制御することにより、GaN薄膜の膜特性である結晶性、不純物、電子線照射によるダメージ等を容易に評価することができる。
【0037】
次いで、3種類のGaN薄膜(GaN−A、GaN−B、GaN−C)各々の位置を固定した状態で電子線Eを照射したときの、GaN−A、GaN−B及びGaN−C各々のバンド端の発光ピーク強度と電子線照射時間との関係を調べた。
図9は、GaN−A、GaN−B、GaN−C各々の電子線照射時間に対するバンド端のCL強度を示す図であり、電子線照射時間を変化させることによりバンド端のCL強度が変化することが分かる。よって、電子線照射時間を厳密に制御することにより、GaN薄膜から発生するバンド端のCL強度を正確に測定することができ、この測定結果によりGaN薄膜の結晶性、不純物、ダメージ等の膜質の評価を行うことができる。
【0038】
「実施例2」
まず、試料Sとして、蒸着法により2種類のMgO薄膜(MgO−A、MgO−B)をサファイア基板上に成膜し、これらMgO−A、MgO−B各々におけるカソードルミネッセンス(CL)スペクトルを測定した。
ここでは、不純物濃度が数10ppm以下の高純度のMgO蒸発母材を用いて成膜したものをMgO−A、不純物濃度が0.5重量%のMgO蒸発母材を用いて成膜したものをMgO−Bとした。
また、真空チャンバー1の真空度を5.0×10−4Pa、MgO薄膜の移動速度を1.0mm/分、MgO薄膜の温度を30℃、電子線Eのエネルギーを10keV、電子線量を80nA、ビーム径を150μmとした。
【0039】
図10は、MgO−A及びMgO−Bにおけるカソードルミネッセンス(CL)スペクトルを示す図である。
MgO薄膜では、膜中の酸素欠陥が膜特性に大きく影響することが知られており、この酸素欠陥量がCLスペクトルに反映することにより、380nm、450nm及び700nm付近に主ピークを有するCLスペクトルとして観察される。図10では、380nm付近のピークが酸素欠陥に電子が1つ注入されたF+センター(発光中心)による発光であり、450nm付近のピークが酸素欠陥に電子が2つ注入されたFセンター(発光中心)による発光であり、700nm付近のピークが金属不純物による発光である。この金属不純物による発光は、サファイア基板における金属不純物によるルビー発光と類似している。
【0040】
MgO薄膜のCLスペクトルでは、380nmと450nm付近の発光強度がPDPの発光特性と関連性があり、380nm及び450nmにおける発光強度が強いほど、PDPの輝度及び解像度が向上する。
図10では、MgO−Aの380nm及び450nmにおける発光強度が、MgO−Bに比べて強く、MgO−Aは酸素欠陥型のMgO薄膜であることが分かる。また、このCLスペクトルでは、700nm付近のピークが弱く、金属不純物の量が極めて少ないことが分かる。
よって、このMgO−AをPDPに適用した場合、膜質に優れた絶縁保護膜となることが分かる。
【0041】
図11は、MgO−Aにおける真空導入後の経過時間に対するカソードルミネッセンス(CL)ピーク強度を示す図である。
この図によれば、真空導入後10時間経過すれば、CLピーク強度が安定することが分かる。したがって、10時間経過した後にCL強度を測定すれば、安定したCL特性が得られることが分かる。
【0042】
次いで、上記のMgO−AをPDPに適用した場合の特性について調べた。
図12は上記のMgO−AをPDPに適用した場合のCLスペクトルを示す図である。
このMgO−AをPDPに適用した場合においても、上記のMgO−AのCLスペクトルと同様のCLスペクトルを示しており、膜質に優れた絶縁保護膜となっていることが分かる。
【0043】
次いで、酸素欠陥型MgOと酸素無欠陥型MgOとの特性の違いをCLスペクトルを用いて調べた。
図13はMgO単結晶基板におけるCLスペクトルを示す図である。ここでは、酸素欠陥型(O/Mg=0.992)のMgO単結晶基板を用いた。
このMgO単結晶基板は、F+センターやFセンターによる発光が金属不純物による発光と比べて弱く、上記のMgO−Aと比べて酸素欠陥量が少ないことが分かる。
【0044】
図14は上記の酸素欠陥型(O/Mg=0.992)のMgO単結晶基板を1050℃にて2時間焼成した後におけるCLスペクトルを示す図である。
このMgO単結晶基板は、F+センター、Fセンター等の酸素欠陥に起因する発光中心からの発光が消失しており、酸素無欠陥型(O/Mg=1.000)のMgO単結晶基板になっていることが分かる。
【0045】
図15は上記のMgO−AをPDPに適用した後におけるF+センターからのCL強度に対する書き込み速度を、図16はFセンターからのCL強度に対する書き込み速度を、それぞれ示す図である。
これらの図によれば、CL強度と書き込み速度との間に強い相関があることが分かる。したがって、CL強度を測定すれば、PDPに適用した場合の書き込み速度を推定することができる。
【0046】
このように、MgO薄膜のCLスペクトルを測定することにより、発光中心がF+センター、Fセンター、金属不純物のいずれかであるかを判断することができ、この発光中心に対応するCLスペクトルにより、MgO薄膜をPDPに適用した場合の膜特性を容易に知ることができることが分かった。その結果、MgO薄膜のCLスペクトルを測定すれば、PDPに適用する以前にMgO薄膜の膜質を容易に評価できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態の試料の評価装置を示す模式図である。
【図2】GaN−Aにおける移動度(cm/V・s)の温度依存性を示す図である。
【図3】GaN−B及びGaN−C各々における移動度(cm/V・s)の温度依存性を示す図である。
【図4】GaN−Aの微量不純物のSIMS強度を示す図である。
【図5】GaN−Bの微量不純物のSIMS強度を示す図である。
【図6】GaN−Cの微量不純物のSIMS強度を示す図である。
【図7】GaN薄膜のCL強度を示す図である。
【図8】GaN薄膜のCL強度を示す図である。
【図9】GaN薄膜の電子線照射時間に対するバンド端のCL強度を示す図である。
【図10】MgO薄膜におけるCLスペクトルを示す図である。
【図11】MgO−Aにおける真空導入後の経過時間に対するCLピーク強度を示す図である。
【図12】MgO−AをPDPに適用した後におけるCLスペクトルを示す図である。
【図13】MgO単結晶基板におけるCLスペクトルを示す図である。
【図14】MgO単結晶基板を1050℃にて2時間焼成した後のCLスペクトルを示す図である。
【図15】MgO−AをPDPに適用した後のF+センターからのCL強度に対する書き込み速度を示す図である。
【図16】MgO−AをPDPに適用した後のFセンターからのCL強度に対する書き込み速度を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 真空チャンバー
2 試料保持部
3 ヒータ
4 移動部
5 電子線発生源
6 CL分光検出器
7 石英製CL集光レンズ
8 予備窓
9 ターボ分子ポンプ排気系
S 試料
E 電子線
CL カソードルミネッセンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をその面内の一方向に沿って一定の速度にて移動するとともに、この移動しつつある試料に電子線を照射して該試料から発生するカソードルミネッセンスを検出し、このカソードルミネッセンスの検出結果に基づき前記試料を評価することを特徴とする試料の評価方法。
【請求項2】
前記試料は、III−V族化合物またはII−VI族化合物からなる試料であることを特徴とする請求項1記載の試料の評価方法。
【請求項3】
前記試料は、金属酸化物からなる試料であることを特徴とする請求項1記載の試料の評価方法。
【請求項4】
前記速度は、0.5mm/分以上かつ5mm/分以下であることを特徴とする請求項1、2または3記載の試料の評価方法。
【請求項5】
真空容器と、この真空容器内に設けられ試料を保持する試料保持手段と、この試料保持手段を所定の方向へ一定の速度で移動する移動手段と、前記試料保持手段に保持される試料に電子線を照射する電子線発生手段と、前記試料から発生するカソードルミネッセンスを検出する検出手段とを備えてなることを特徴とする試料の評価装置。
【請求項6】
前記試料保持手段は、前記試料を加熱する加熱手段を備えてなることを特徴とする請求項5記載の試料の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−46040(P2008−46040A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223315(P2006−223315)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】