説明

試料ガス捕集装置及びガスクロマトグラフ装置

【課題】冷却及び加熱に要する時間の短縮を図り、加熱脱離時における脱離ガス濃度の時間分布の短縮を図る。
【解決手段】脱離した試料ガスが捕集部材10内を流動するパージガスによって搬送される試料ガス捕集装置1であって、捕集部材10との間で熱伝導が可能なように設けられるヒートパイプ20と、捕集部材10に導入された試料ガスの捕集を促すように、ヒートパイプ20を介して捕集部材10を冷却する冷却手段35と、捕集部材10に捕集した試料ガスの脱離を促すように、ヒートパイプ20を介して捕集部材10を加熱する加熱手段45と、試料ガスの導入に応じて冷却手段35が捕集部材10を冷却するように、加熱手段45とヒートパイプ20とを断熱し、且つ、ヒートパイプ20の冷却により捕集した試料ガスの脱離に応じて、加熱手段45が捕集部材10を加熱するように、冷却手段35とヒートパイプ20とを断熱する断熱手段50と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導入された試料ガスを低温状態のときに捕集し且つ前記捕集した試料ガスを高温状態のときに脱離する捕集部材を有する試料ガス捕集装置及びガスクロマトグラフ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ装置(以下、GC装置)は、例えば、大気等の試料ガスに含まれる揮発性有機化合物等の検出対象成分の検出に用いられる装置であり、該試料ガスに含まれる微量な成分の検出を可能とするため、分離カラムおよび検出センサなどの検出装置のほかに、検出対象成分を捕集して濃縮するための捕集装置を備えた構成のものが一般的に用いられている。
【0003】
特許文献1で提案されているGC装置100は、図8に示されるように、試料ガス成分を搬送するキャリアガスを発生するガスボンベなどのキャリアガス源108、キャリアガスによって搬送された試料ガスの成分を検出(分析)する分析装置110、試料ガスを導入する試料導入口101、試料導入口101から導入された試料ガスを吸引して排出口115から排出する吸引ポンプ104、試料ガスから検出対象成分を捕集して濃縮する捕集管102、および、捕集管102を試料導入口101と吸引ポンプ104との間またはキャリアガス源108と分析装置110との間に選択的に接続するバルブ105、などから構成されている。
【0004】
このGC装置100において、検出対象成分を捕集(濃縮)するときは、捕集管102が試料導入口101と吸引ポンプ104との間に直列に接続されるようバルブ105を切り替え、吸引ポンプ104が試料ガスを吸引することにより、試料導入口101に導入された試料ガスが捕集管102内を流動されて検出対象成分が捕集される。そして、検出対象成分を検出するときは、捕集管102がキャリアガス源108と分析装置110との間に直列に接続されるようバルブ105を切り替えて、キャリアガス源108がキャリアガスを発生して捕集管102内を流動させることにより、検出対象成分をキャリアガスによって捕集管102から分析装置110まで搬送して、分析装置110内に導入していた。
【特許文献1】特開2006−337158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の捕集管は、冷却手段によって試料ガスを捕集管内の捕集剤に吸着するのに十分な温度まで冷却され、その後、捕集剤に吸着した試料ガスを気化温度以上に加熱手段によって加熱することで、試料ガスの脱離を促してキャリアガスと共に分析装置に送り出しているが、加熱離脱の際に脱離ガス濃度に時間分布が生じてしまい、分析装置による分析ピークがブロード(幅広)になり、急激な分析ピークを得ることが難しいという問題があった。また、捕集管に対する冷却と加熱の切り換えに時間を要するため、試料ガスを連続して分析するときに、冷却、加熱の待ち時間が増えてしまうという問題があった。
【0006】
よって本発明は、上述した問題点に鑑み、冷却及び加熱に要する時間の短縮を図り、加熱脱離時における脱離ガス濃度の時間分布を短縮する試料ガス捕集装置及びガスクロマトグラフ装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明によりなされた請求項1記載の試料ガス捕集装置は、導入された試料ガスを低温状態のときに捕集し且つ前記捕集した試料ガスを高温状態のときに脱離する捕集部材を有し、前記脱離した試料ガスが前記捕集部材内を流動するパージガスによって搬送される試料ガス捕集装置であって、前記捕集部材との間で熱伝導が可能なように設けられるヒートパイプと、前記捕集部材に導入された試料ガスの捕集を促すように、前記ヒートパイプを介して前記捕集部材を冷却する冷却手段と、前記捕集部材に捕集した試料ガスの脱離を促すように、前記ヒートパイプを介して前記捕集部材を加熱する加熱手段と、前記試料ガスの導入に応じて前記冷却手段が前記捕集部材を冷却するように、前記加熱手段と前記ヒートパイプとを断熱し、且つ、前記ヒートパイプの冷却により捕集した試料ガスの脱離に応じて、前記加熱手段が前記捕集部材を加熱するように、前記冷却手段と前記ヒートパイプとを断熱する断熱手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の試料ガス捕集装置において、前記断熱手段が、前記加熱手段、前記冷却手段、及び、前記捕集部材の温度が均一となるように、前記ヒートパイプに対する前記加熱手段と前記冷却手段の接触を制御する手段であることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するため本発明によりなされた請求項3記載のガスクロマトグラフ装置は、請求項1又は2に記載の試料ガス捕集装置と、前記試料ガス捕集装置で脱離した試料ガスの成分を分析する分析手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように請求項1に記載した本発明の試料ガス捕集装置によれば、捕集部材との間で熱伝達可能にヒートパイプを設け、断熱手段によってヒートパイプに対する冷却手段と加熱手段とを選択的に断熱して、捕集部材の加熱及び冷却を制御するようにしたことから、断熱手段の制御だけで捕集部材を迅速に目標温度に制御することができる。従って、冷却及び加熱に要する時間の短縮を図ることができるため、加熱脱離時における脱離ガス濃度の時間分布を短縮化できる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、断熱手段によって加熱手段、冷却手段、及び、捕集部材の温度を均一化するように、ヒートパイプに対する加熱手段と冷却手段の接触を制御するようにしたことから、短時間で捕集部材をクールダウンさせることができるため、試料ガスの捕集、脱離に要する時間のより一層の短縮を図ることができる。
【0012】
以上説明したように請求項3に記載した本発明のガスクロマトグラフ装置によれば、加熱脱離時における脱離ガス濃度の時間分布を短縮化できる試料ガス捕集装置を有していることから、試料ガス捕集装置は分析手段に短時間で試料ガスを送出することができ、分析手段は急激な検出ピークを得ることができるため、ガスの成分を効率的に分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る試料ガス捕集装置および該試料ガス捕集装置を有するガスクロマトグラフ(GC)装置の一実施形態について、図1〜7の図面を参照して説明する。
【0014】
図1において、試料ガス捕集装置1は、捕集部材10と、ヒートパイプ20と、冷却装置30と、加熱装置40と、断熱手段50と、を有している。そして、捕集部材10とヒートパイプ20とは、接触した状態で並ぶように断熱部材2によって固定されている。
【0015】
捕集部材10は、管状に形成された捕集管11を有している。捕集管11は、公知であるように内部に吸着剤(図示せず)を封入しており、流路の一部として流路に組み込まれることで、その内部を試料ガスやキャリアガスが流れる構成となっている。吸着剤は、サンプルガスを吸着する部材、例えば、TENAX系、活性炭系、ゼオライト系等のガス分子を吸着捕集する材料を用いることができる。
【0016】
このように構成した捕集部材10は、低温状態時に捕集管11内を流れる試料ガスを吸着剤に吸着して捕集する。そして、捕集剤に吸着した試料ガスを気化温度以上とする高温状態に遷移すると、捕集した試料ガスは脱離して捕集管11内を流れるキャリアガスと共に分析装置に送り出される。
【0017】
ヒートパイプ20は、ヒートパイプ本体21と、ヒートパイプ本体21の一端側に形成された冷却部22と、ヒートパイプ本体21の他端側に形成された加熱部23と、を有している。そして、ヒートパイプ本体21と冷却部22と加熱部23とは、熱伝導性部材によって一体に形成されている。
【0018】
ヒートパイプ20は、冷却部22が加熱部23よりも高い位置に位置付けられるように、冷却装置30と加熱装置40とにわたって設けられている。このような構成とすることで、加熱部23からの加熱気体を冷却部22にスムーズに移動させることができるが、冷却部22と加熱部23を平行にする実施形態とすることもできる。
【0019】
ヒートパイプ20は、高い熱伝導性を有する密閉容器内に少量の液体(作動液)を真空封入し且つ内壁に毛細管構造(ウイック)を備えており、その容器の加熱部23が加熱されると、加熱部23で作動液が蒸発し、冷却部22に向かって蒸気が移動して凝縮し、凝縮した液が毛細管現象で加熱部分に環流するという、一連の相変化が連続的に生じることで、熱の移動を素早く行うことができる。
【0020】
ヒートパイプ本体21は、捕集管11よりも長手方向の長さが長く形成することで、捕集管11との接触面積を増やし、これにより、ヒートパイプ本体21と捕集管11との熱伝導率を向上させている。
【0021】
冷却部22及び加熱部23は、冷却装置30及び加熱装置40に差し込まれた状態で固定されており、各先端部分には金属フィン等の熱交換部22a,23aを設けている。そして、熱交換部22a,23aが、冷却装置30及び加熱装置40の冷却液、加熱液に触れる状態と触れない状態に切り換えられることで、ヒートパイプ本体21の冷却、加熱が切り換えられる構成となっている。
【0022】
冷却装置30は、捕集部材10に導入された試料ガスの捕集を促すように、ヒートパイプ20を介して捕集部材10を冷却する。冷却装置30は、冷却液(冷却媒体)Cを収容するケース31と、そのケース31の内部の区画壁32によって区切られた大気室33および圧力室34と、ケース31の外面下部に設けられた冷却手段35と、圧力室34に圧縮空気を供給し又は排出するための給排気口36と、大気室33内の大気をケース31外に給排気するためのリリーフバルブ37と、ケース31と冷却手段35を覆う断熱材38と、を有している。
【0023】
ケース31は、例えば、熱導電性の金属部材等を基材として直方体形状に形成されており、その内部は、区画壁32によって2つの大気室33および圧力室34に区切られている。区画壁32は、ケース31の一方の側面の内面側中央付近から、相対するケース31の他方の側面に向かって水平方向に立設された壁32aと、壁32aの先端からケース31底面に向かって垂直方向に延設された壁32bと、を有している。
【0024】
壁32bのケース31底面寄りの箇所には、大気室33と圧力室34とを連通する複数の連通孔32cが設けられている。ケース31の他方の側面の中央付近にはヒートパイプ20の冷却部22を挿通する穴が設けられており、ヒートパイプ20は、該穴を通して冷却部22がケース31内の大気室33に位置付くように配設される。
【0025】
大気室33および圧力室34は、区画壁32の下部に設けられた連通孔32cによって互いの空間が接続されている。大気室33および圧力室34は、それぞれの空間の上部には大気が、下部には冷却液(冷却媒体)Cが存在しており、圧力室34の大気の圧力に応じて、冷却液Cの高さが上下して、ヒートパイプ20の冷却部22に冷却液Cまたは大気が接触される。
【0026】
冷却手段35は、ペルチェ素子、放熱フィン等の各種冷却装置が用いられ、ケース31底面に接触した状態で設けられている。そして、冷却手段35は、上述したケース31に収容している冷却液Cを冷却し、その冷却温度を維持させている。このように本実施形態では、冷却手段35が、ヒートパイプ20に接触させる冷却液Cを冷却し、該冷却液Cによって捕集部材10を冷却する手段となっている。
【0027】
給排気口36は、圧力室34上部に位置するようにケース31の一方の側面に設けられており、外部に設けられた断熱手段50に接続されて、圧力室34内に圧縮空気を供給又は排出するものである。
【0028】
リリーフバルブ37は、ケース31の上面、即ち、大気室33の上方に設けられており、大気室33の大気の圧力が所定値より上昇または下降したときに、大気室33とケース31外部とを連通して大気室33の圧力を調整する安全装置である。
【0029】
冷却液Cは、例えば、シリコンオイルなどの耐熱性および熱伝導性を有する液体が用いられており、ヒートパイプ20の冷却部22に接触されることによって、ヒートパイプ20の冷却を促進するものである。
【0030】
加熱装置40は、捕集部材10に捕集された試料ガスの脱離を促すように、ヒートパイプ20を介して捕集部材10を加熱する。なお、加熱装置40は、上述した冷却装置30と基本構成が同一であるため、従来の技術のところで説明したものと同一あるいは相当する部分には同等の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0031】
加熱装置40は、加熱液(加熱媒体)Hを収容するケース41と、そのケース41の内部の区画壁42によって区切られた大気室43および圧力室44と、ケース31の外面下部に設けられた加熱手段45と、圧力室44に圧縮空気を供給し又は排出するための給排気口46と、大気室43内の大気をケース41外に給排気するためのリリーフバルブ47と、ケース41と加熱手段45を覆う断熱材48と、を有している。
【0032】
ケース41は、例えば、熱導電性の金属部材等を基材として直方体形状に形成されており、その内部は、区画壁42によって2つの大気室43および圧力室44に区切られている。区画壁42は、ケース41の一方の側面の内面側中央付近から、相対するケース41の他方の側面に向かって水平方向に立設された壁42aと、壁42aの先端からケース41底面に向かって垂直方向に延設された壁42bと、を有している。
【0033】
壁42bのケース41底面寄りの箇所には、大気室43と圧力室44とを連通する複数の連通孔42cが設けられている。ケース41の他方の側面の中央付近にはヒートパイプ20の加熱部23を挿通する穴が設けられている。
【0034】
大気室43および圧力室44は、区画壁32の下部に設けられた連通孔42cによって互いの空間が接続されている。大気室43および圧力室44は、それぞれの空間の上部には大気が、下部には加熱壁Hが存在しており、圧力室44の大気の圧力に応じて、加熱液Hの高さが上下して、ヒートパイプ20の加熱部23に加熱液Hまたは大気が接触される。
【0035】
加熱手段45は、ヒータ等の各種加熱装置が用いられ、ケース41底面に接触した状態で設けられている。そして、加熱手段45は、上述したケース41に収容している加熱液Hを加熱し、その加熱温度を維持させている。このように本実施形態では、加熱手段45が、ヒートパイプ20に接触させる加熱液Hを加熱し、該加熱液Hによって捕集部材10を加熱する手段となっている。
【0036】
給排気口46は、圧力室44上部に位置するようにケース31の一方の側面に設けられており、外部に設けられた断熱手段50に接続されて、圧力室44内に圧縮空気を供給又は排出するものである。
【0037】
リリーフバルブ47は、ケース41の上面、即ち、大気室43の上方に設けられており、大気室43の大気の圧力が所定値より上昇または下降したときに、大気室43とケース41外部とを連通して大気室43の圧力を調整する安全装置である。
【0038】
加熱液Hは、上述した冷却液Cと同様に、例えば、シリコンオイルなどの耐熱性および熱伝導性を有する液体が用いられており、ヒートパイプ20の加熱部23に接触されることによって、ヒートパイプ20の加熱を促進するものである。
【0039】
断熱手段50は、ポンプ51と、第1三方弁52と、第2三方弁53と、制御部54と、を有している。
【0040】
ポンプ51は、第1三方弁52と第2三方弁53とに流路55を介して接続されている。ポンプ51は、制御部54の制御に応じた駆動による圧力の働きによって、吸気口56から導入した大気をポンプ排出口から排出して流路55内を流動させる装置であり、例えば往復ポンプ・回転ポンプ・遠心ポンプ(渦巻ポンプ)・軸流ポンプ等の各種構造のものを用いることができる。
【0041】
第1三方弁52は、制御部54の制御に応じて、加熱側流路57の接続先を流路55と排気口59に選択的に切り換える。また、第2三方弁53は、制御部54の制御に応じて、冷却用流路58の接続先を流路55と排気口59に選択的に切り換える。
【0042】
制御部54は、CPU(中央処理装置)、ROM(読み出し専用メモリ)、及びRAM(随時書き込み読み出しメモリ)を有するマイクロプロセッサユニット等で構成されている。そして、制御部20は、ポンプ51、第1三方弁52、第2三方弁53等の各々に電気的に接続されており、各々の制御を行っている。制御部54は、請求項中の断熱手段としてCPU等のコンピュータを機能させるためのプログラムをROM等に記憶しており、そのプログラムを実行することで、各種処理を行う。
【0043】
また、制御部54は、冷却装置30の冷却手段35と加熱装置40の加熱手段45の各々に電気的に接続されており、冷却手段35及び加熱手段45の制御が可能な構成となっている。
【0044】
このように構成した試料ガス捕集装置1における制御部54の本発明に係る制御例を、図2の図面を参照して以下に説明する。
【0045】
制御部54は、ステップS11において、冷却手段35及び加熱手段45の駆動開始を要求することで、冷却手段35及び加熱手段45の各々は、冷却及び加熱を行う。そして、ステップS12において、加熱用流路57と排気口59を接続するように、第1三方弁52を切り換えることで、加熱装置40の圧力室44内の大気を加熱液Hの重さを利用して排気口59から排気する。その結果、加熱液Hとヒートパイプ20の加熱部23とが非接触状態になる。
【0046】
ステップS12において、第1三方弁52の状態を維持したまま、流路55と冷却用流路58とを接続するように第2三方弁53を切り換え、ポンプ51を駆動させることで、吸気口56からの大気を冷却装置30の圧力室34に送り込む。この圧力室34内の圧力に増加に応じて冷却液Cの高さが上昇し、ヒートパイプ20の冷却部22に冷却液Cが接触することになる。その結果、冷却液Cとヒートパイプ20の冷却部22とが接触状態となり、ヒートパイプ20が冷却されることで、それに接触している捕集部材10も冷却される。
【0047】
ステップS14において、予め定められた所定時間(捕集に要する時間)が経過したか否かを判定する。所定時間経過していない場合は(S14でN)、この判定処理を繰り返すことで、所定時間の経過を待つ。一方、所定時間経過した場合は(ステップS14でY)、ステップS15に進む。
【0048】
ステップS15において、冷却用流路58と排気口59を接続するように、第2三方弁53を切り換えることで、冷却装置30の圧力室34内の大気を冷却液Cの重さを利用して排気口59から排気する。その結果、冷却液Cとヒートパイプ20の冷却部22とが非接触状態になる。
【0049】
ステップS16において、第2三方弁53の状態を維持したまま、流路55と加熱用流路57とを接続するように第1三方弁52を切り換え、ポンプ51を駆動させることで、吸気口56からの大気を加熱装置40の圧力室44に送り込む。この圧力室44内の圧力に増加に応じて加熱液Hの高さが上昇し、ヒートパイプ20の加熱部23に加熱液Hが接触することになる。その結果、加熱液Hとヒートパイプ20の加熱部23とが接触状態となり、ヒートパイプ20が加熱されることで、それに接触している捕集部材10も加熱される。
【0050】
ステップS17において、終了要求があるか否かを判定する。終了要求がないと判定した場合(S17でN)、ステップS12に戻り、一連の処理が繰り返される。一方、終了要求があると判定した場合(S17でY)、処理を終了する。
【0051】
このように制御部54が制御することで、試料ガスの捕集部材10への導入に応じて冷却手段35がヒートパイプ20を介して捕集部材10を冷却するように、加熱手段45とヒートパイプ20とを断熱し、且つ、ヒートパイプ20の冷却により捕集した試料ガスの脱離に応じて、加熱手段45が捕集部材10を加熱するように、冷却手段35とヒートパイプ20とを断熱する断熱手段50として機能することになる。
【0052】
次に、上述した本発明の試料ガス捕集装置1の動作(作用)の一例を以下に説明する。
【0053】
試料ガス捕集装置1は、捕集部材10への試料ガスの導入する場合、冷却装置30の冷却手段35によって冷却した冷却液Cをヒートパイプ20に接触させ、且つ、加熱装置40の加熱手段45によって加熱した加熱液Hをヒートパイプ20に接触させないようにすることで、ヒートパイプ20を冷却して捕集部材10を冷却する。その結果、捕集部材10は導入された試料ガスを捕集することになる。
【0054】
また、捕集部材10に捕集した試料ガスを脱離させる場合、加熱装置40の加熱手段45によって加熱した加熱液Hをヒートパイプ20に接触させ、且つ、冷却装置30の冷却手段35によって冷却した冷却液Cをヒートパイプ20に接触させないようにすることで、ヒートパイプ20を加熱して捕集部材10を加熱する。その結果、捕集部材10に捕集した試料ガスは、気化によって脱離することになる。
【0055】
また、試料ガス捕集装置1は、冷却と加熱の切り替え時に、第1三方弁52を加熱装置40側、第2三方弁53を冷却装置30側にそれぞれ接続されるように切り換えることで、ヒートパイプ20は冷却装置30側と加熱装置40側の温度が均一になるように動作させて中間温度としている。これにより、クーリングダウンの時間の短縮を図っている。
【0056】
以上説明した本発明の試料ガス捕集装置1によれば、捕集部材10との間で熱伝達可能にヒートパイプ20を設け、断熱手段50によってヒートパイプ20に対する冷却手段35と加熱手段45とを選択的に断熱して、捕集部材10の加熱及び冷却を制御するようにしたことから、断熱手段50の制御だけで捕集部材10を迅速に目標温度に制御することができる。従って、冷却及び加熱に要する時間の短縮を図ることができるため、加熱脱離時における脱離ガス濃度の時間分布を短縮化できる。
【0057】
また、断熱手段50によって加熱手段45、冷却手段35、及び、捕集部材10の温度を均一化するように、ヒートパイプ20に対する加熱手段45と冷却手段35の接触を制御するようにしたことから、短時間で捕集部材10をクールダウンさせることができるため、試料ガスの捕集、脱離に要する時間のより一層の短縮を図ることができる。
【0058】
次に、上述した試料ガス捕集装置1を組み込んだガスクロマトグラフ装置3について、図3〜図6の図面を参照して説明する。
【0059】
図3〜図6において、ガスクロマトグラフ装置(以下、GC装置)3は、上述した試料ガス捕集装置1と、活性炭フィルタ4と、分析手段5と、バッファ6と、流動手段7と、を有し、それらを成分検出経路Rに順次組み込んでいる。
【0060】
成分検出経路Rは、試料ガス捕集装置1と活性炭フィルタ4とを接続する流路R1と、試料ガス捕集装置1と分析手段5とを接続する流路R2と、分析手段5とバッファ6とを接続する流路R3と、活性炭フィルタ4と分析手段5とを接続するバイパス経路R4と、を有している。
【0061】
活性炭フィルタ4は、大気口から大気を吸入して、フィルタ内の活性炭により大気に含まれる不純物を取り除いてキャリアガスを生成するものである。
【0062】
分析手段5は、図示しないが、カラムとガスセンサとを有している。カラムは、公知であるガスクロマトグラフの分離カラム等が用いられる。カラムは、ヒータによって加熱されることで、流路R2から導入された試料ガスをその種類(測定対象成分)により時間軸上(所定の測定期間)で分離して送出する。
【0063】
ガスセンサは、接触燃焼式ガスセンサ、吸着燃焼式ガスセンサ等が用いられ、例えば感応素子部と感応素子部の抵抗差に基づいて、ガス濃度を示すセンサ信号を図示しない制御部に出力する。なお、制御部は、説明を簡単化するために、上述した制御部54として以下説明する。よって、制御部54は、三方弁V1,V2、分析手段5、流動部7等に電気的に接続され、各々の制御を行う。
【0064】
制御部54は、前記ガスセンサからのセンサ出力を所定のサンプリング間隔で取得し、それらのセンサ出力に基づいて試料ガスを前記カラムで分離した各分離ガスの濃度を算出することで、サンプルガスを分析する。
【0065】
バッファ6は、流動手段7による流動の乱れを抑制し、流動量を一定に保つための既存のものであり、バッファ6を配設することで流動量が安定するため検出精度を高めることができる。また、流動手段7の流動の乱れによる誤差が許容範囲内であれば、バッファ6を省略してもよい。
【0066】
流動手段7は、ポンプ7aと、流動方向切替バルブ7bとを有している。ポンプ7aは、ポンプ吸入口7a1から吸入したガスをポンプ排出口7a2から排出して成分検出経路内における試料ガス等を流動させるものである。流動方向切替バルブ7bは、例えば、四方電磁弁などが用いられ、成分検出経路R内を通過するように、試料ガスおよびキャリアガスを流動させ、また、それぞれのガスが適切に流動されるように、状況に応じて、その流動の速さや流動量を細かく制御できる、既存のものである。
【0067】
ポンプ7aの流動方向は一定方向に固定されており、後述する流動方向切替バルブ7bによって、成分検出経路Rに接続される向きが切り替えられることで、成分検出経路R内を流れるガスの流動方向が切り替えられる。
【0068】
三方弁V1は、流路R1に設けられている。そして、三方弁V1は、3つのポートa、b、cを備え、ポートaには活性炭フィルタ4、ポートbには給排気口8、ポートcには試料ガス捕集装置1がそれぞれ接続されている。三方弁V1は、試料ガスの導入に応じて、試料ガス捕集装置1と給排気口8とを接続し(b−c接続)、キャリアガスの導入に応じて、活性炭フィルタ4と試料ガス捕集装置1とを接続する(a−c接続)。
【0069】
三方弁V2は、流路R2に設けられている。三方弁V2は、試料ガス捕集装置1と分析手段5との間に位置するバイパス経路R4の端部に設けられている。また、3つのポートa、b、cを備え、ポートaには分析手段5側に位置する試料ガス捕集装置1の端部、ポートbにはバイパス経路R4、ポートcには分析手段5、がそれぞれ接続されている。三方弁V2は、キャリアガスを流動させる経路として、試料ガス捕集装置1またはバイパス経路R4のどちらか一方を選択して切り替えるものである。即ち、試料ガス捕集装置1と分析手段5(a−c接続)、または、バイパス経路R4と分析手段5(b−c接続)、を選択的に接続するものである。
【0070】
次に、ガスクロマトグラフ装置1の制御部54(即ち、CPU)が実行する本発明に係る処理の一例を、図3〜図6の概略動作図及び図7に示すフローチャートを参照して説明する。
【0071】
ガスクロマトグラフ装置1は、電源投入により起動されると、流動方向切替バルブ7bによって、ポンプ7aによる流動方向を試料ガス捕集装置1から分析手段5に向かう方向(以下、検出方向X)に切り替え、三方弁V2によって分析手段5と試料ガス捕集装置1とを接続し、三方弁V1によって活性炭フィルタ22と試料ガス捕集装置1とを接続する、などの所定の初期化動作を実行したあと、ステップS110に進む。
【0072】
ステップS110において、試料ガス捕集装置1および分析手段5のカラムを高温に加熱してそれぞれに吸着されている不純成分を脱離させたのち、ポンプ7aによる流動を開始する。これにより、キャリアガスが試料ガス捕集装置1および分析手段5のカラムを通過するように流動され、脱離された不純成分がキャリアガスによってGC装置3外に排出される(以上、図3参照、クリーニング1動作)。そして、不純成分の排出が完了したのち、ステップS120に進む。
【0073】
ステップS120において、試料ガス捕集装置1を上述したように冷却状態にする。そして、ステップS130において、流動方向切替バルブ7bによって、ポンプ7aによる流動方向を分析手段5から試料ガス捕集装置1に向かう方向(以下、捕集方向Y)に切り替え、三方弁V1によって、試料ガス捕集装置1と給排気口8とを接続し、また、分析手段5のカラムの加熱を継続して行う。そして、試料ガスを導入することにより、試料ガスが分析手段5を通過して試料ガス捕集装置1に導入され、試料ガス捕集装置1により試料ガス成分の捕集が行われたのち、試料ガス捕集装置1を通過した試料ガスが給排気口8から排出される(以上、図4参照、サンプリング動作)。そして、サンプリング動作において、前記カラムの加熱を継続して行うことにより、前記分離カラムに試料ガス成分が吸着されることを防ぎ、試料ガス捕集装置1を冷却することにより、捕集管11に試料ガスが吸着(捕集)されやすくしている。そして、試料ガスの捕集が完了したのち、ステップS140に進む。
【0074】
ステップS140では、流動方向切替バルブ7bによって、ポンプ7aによる流動方向を検出方向Xに切り替えてキャリアガスを流動させ、三方弁V2によって、分析手段5と流路R4とを接続し、ポンプ7aによる流動を開始する。これにより、キャリアガスが分析手段5のカラムを通過するように流動され、脱離された不純成分がキャリアガスによってGC装置3外に排出される(以上、図5参照、クリーニング2動作)。そして、不純成分の排出が完了したのち、ステップS150に進む。
【0075】
ステップS150において、試料ガス捕集装置1を上述したように冷却状態から加熱状態に切り換える。そして、ステップS160において、三方弁V2によって分析手段5と試料ガス捕集装置1とを接続するとともに、三方弁V1によって試料ガス捕集装置1と給排気口8を接続する。これにより、試料ガス捕集装置1内に脱離されて滞留している高濃度の試料ガスが、給排気口8から吸入された大気によって分析手段5(即ち、カラム)に排出(導入)される。そして、前記カラムを試料ガス成分分離に適した高温に加熱したのち、該カラムに高濃度の試料ガスが導入される。これにより、前記カラム内に導入された試料ガスに含まれる試料ガス成分が分離され、キャリアガスによって、それぞれの試料ガス成分が時間差をもって分析手段5のガスセンサに搬送されて、各成分の検出が行われる(以上、図6 検出動作)。そして、全ての検出対象成分が搬送されたのち、ステップS170に進む。
【0076】
ステップS170において、上述したように試料ガス捕集装置1は、加熱手段45、冷却手段35、及び、捕集部材10の温度を均一化するように、ヒートパイプ20に対する加熱手段45と冷却手段35の接触を制御して、捕集部材10をクールダウンを行った後に、処理を終了する。
【0077】
以上説明した本発明のガスクロマトグラフ装置3によれば、加熱脱離時における脱離ガス濃度の時間分布の短縮化した試料ガス捕集装置1を有していることから、試料ガス捕集装置1は分離分析手段5に短時間で試料ガスを送出することができ、分離分析手段5は急激な検出ピークを得ることができるため、ガスの成分を効率的に分析することができる。
【0078】
なお、上述した各実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の試料ガス捕集装置の概略構成を示す断面模式図である。
【図2】図1中の制御部が実行する本発明に係る処理概要の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明のガスクロマトグラフ装置のクリーニング1に係る概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明のガスクロマトグラフ装置のサンプリングに係る概略構成を示すブロック図である。
【図5】本発明のガスクロマトグラフ装置のクリーニング2係る概略構成を示すブロック図である。
【図6】本発明のガスクロマトグラフ装置の分析に係る概略構成を示すブロック図である。
【図7】本発明のガスクロマトグラフ装置の処理概要の一例を示すフローチャートである。
【図8】従来のガスクロマトグラフ装置の構成図である。
【符号の説明】
【0080】
1 試料ガス捕集装置
3 ガスクロマトグラフ装置
10 捕集部材
20 ヒートパイプ
30 冷却装置
35 冷却手段
40 加熱装置
45 加熱手段
50 断熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入された試料ガスを低温状態のときに捕集し且つ前記捕集した試料ガスを高温状態のときに脱離する捕集部材を有し、前記脱離した試料ガスが前記捕集部材内を流動するパージガスによって搬送される試料ガス捕集装置であって、
前記捕集部材との間で熱伝導が可能なように設けられるヒートパイプと、
前記捕集部材に導入された試料ガスの捕集を促すように、前記ヒートパイプを介して前記捕集部材を冷却する冷却手段と、
前記捕集部材に捕集した試料ガスの脱離を促すように、前記ヒートパイプを介して前記捕集部材を加熱する加熱手段と、
前記試料ガスの導入に応じて前記冷却手段が前記捕集部材を冷却するように、前記加熱手段と前記ヒートパイプとを断熱し、且つ、前記ヒートパイプの冷却により捕集した試料ガスの脱離に応じて、前記加熱手段が前記捕集部材を加熱するように、前記冷却手段と前記ヒートパイプとを断熱する断熱手段と、
を有することを特徴とする試料ガス捕集装置。
【請求項2】
前記断熱手段が、前記加熱手段、前記冷却手段、及び、前記捕集部材の温度が均一となるように、前記ヒートパイプに対する前記加熱手段と前記冷却手段の接触を制御する手段であることを特徴とする請求項1に記載の試料ガス捕集装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の試料ガス捕集装置と、前記試料ガス捕集装置で脱離した試料ガスの成分を分析する分析手段と、を有することを特徴とするガスクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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