説明

試料像観察方法とそれに用いる電子顕微鏡

【課題】試料観察再開時での作業効率の向上が充分に図れるようにした電子顕微鏡を提供すること。
【解決手段】電子銃制御装置11、照射レンズ制御装置12、対物レンズ制御装置13、拡大レンズ系制御装置14、それに試料ステージ制御装置15からなる観察条件設定装置を制御する制御装置18を設け、或る試料の画像データが指定されたとき、当該試料の観察条件データを呼出し、それに基づいて当該試料の画像データを保存したときと同じ観察条件が自動的に電子顕微鏡上に再現され、記憶された画像と同じ画像が忠実に再現されるようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の観察結果を画像データとして保存する方式の電子顕微鏡に係り、特に、同一試料について観察作業を繰り返すことが多い用途に好適な試料像観察方法と、それに用いられる電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡による試料の観察作業では、観察作業の開始に先立って、当該試料の観察に適した倍率や電子線の加速電圧、観察モードなどの観察条件を設定する必要がある。
【0003】
ここで、これらの観察条件は、例えば電子銃を制御する装置、照射レンズを制御する装置、対物レンズを制御する装置、拡大レンズ系を制御する装置、それに試料ステージを制御する装置など、総称して観察条件設定装置と呼ばれる装置により設定される。
【0004】
そして、この観察条件は、試料の観察結果の評価に欠かせない情報の一部を占めており、従って、画像を保存する場合には、記録した画像の観察条件も併せて保存するのが望ましい。
【0005】
ところで、電子顕微鏡の観察結果を画像として記録する場合、写真フィルムなどの画像記録媒体に実画像として保存する方法と、TVカメラ(テレビジョンカメラ)などにより画像データとしてメモリに保存する方法の何れかの方法が従来から一般的に採用されている。
【0006】
ここで、何れの方法でも、記録した画像と共に、その観察条件の記録が可能であるが、フィルムなどに記録した場合には、記録領域に限りがあるため、全ての観察条件を記録するのは難しい。
【0007】
一方、TVカメラなどによる画像データの場合は、記録領域の問題は少なく、その観察条件も、直ちにリアルタイムで画像と共に表示できる。
【0008】
そこで、従来技術では、例えば或る試料について観察作業中、何等かの理由で作業を中断した後、観察作業を再開する場合は、画像データによる記録方法を用い、画像と一緒に観察条件を表示させ、表示された観察条件を見ながら、それをを参照してマニュアル(手動)操作により電子顕微鏡に各条件を設定している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術は、観察作業再開時での観察条件の設定について配慮がされておらず、作業効率に問題があった。
【0010】
既に説明したように、電子顕微鏡の使用に際しては、対象とする試料に応じて所望の観察条件の設定を要するが、これにはかなり煩雑な作業を要する。
【0011】
ここで、観察条件の設定に煩雑な作業を要する理由は、上記したように、観察条件が、倍率や加速電圧のほか、観察モードとして、例えば回折モード、高分解能モード、ハイコントラストモード、極低倍モードなどを含み、条件が多岐にわたっているためである。
【0012】
ところで、或る試料について最初に観察を開始する場合は、たとえ煩雑な作業であっても当然のことで、やむを得ないが、しかし、従来技術では、たとえ同一試料の場合でも、作業開始時には、その都度、マニュアルによる観察条件の設定作業を、各観察条件設定装置毎に要するので、作業効率が低下してしまうのである。
【0013】
本発明の目的は、試料観察再開時での作業効率の向上が充分に図れるようにした試料像観察方法と、それに用いられる電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、電子顕微鏡を操作して所定の観察条件を設定し、試料の拡大像を観察する電子顕微鏡を用いた試料像観察方法において、電子顕微鏡を操作して電子顕微鏡の観察条件を設定し、当該観察条件設定に基づいて得られる画像信号を、TIF形式に変換し、当該TIF形式に変換した画像データのタグ領域に、当該画像データを取得したときの前記観察条件データを保存し、前記画像データを読み出したときに、併せて前記タグ領域に保存された観察条件を読み出し、当該観察条件を設定することにより達成される。
【0015】
このとき、前記観察条件が、倍率と加速電圧に加えて、回折モード、高分解能モード、ハイコントラストモード、極低倍モードの何れかの観察モードを含むようにしても良く、前記観察条件が、少なくとも試料ステージの座標位置を含むようにしても良い。
【0016】
同じく、上記目的は、電子顕微鏡を操作して所定の観察条件を設定し、試料の拡大像を観察する試料像観察方法に用いられる電子顕微鏡において、TIF形式に変換された画像データのタグ領域に、当該画像データを取得するときに設定した電子顕微鏡の観察条件データを記憶しておき、当該画像データを読み出したときに、併せて前記観察条件データを読み出して、電子顕微鏡の観察条件として設定することによっても達成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、記録画像とその画像の観察条件を完全に合致させることができる。
【0018】
また、記録画像の表示と同時に、自動的に観察条件が電子顕微鏡にフィードバックされるので、記録された画像を、容易に、しかも忠実に電子顕微鏡上に再現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明による電子顕微鏡について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明を透過型電子顕微鏡に適用した場合の一実施形態で、図示のように、電子顕微鏡本体1の上端(図において)に電子銃2が設けられていて、この電子銃2から放出された電子線Bが照射レンズ4により、試料ステージ5に保持されている試料Sに照射されるようになっている。
【0021】
そして、この試料Sを透過した電子線Bは、対物レンズ6と拡大レンズ系7によって拡大され、TVカメラ8に投影される。
【0022】
このとき電子銃2は、電子銃制御装置11により制御され、照射レンズ4と対物レンズ6、それに拡大レンズ系7は夫々照射レンズ制御装置12、対物レンズ制御装置13、拡大レンズ系制御装置14により制御され、また、試料ステージ5は試料ステージ制御装置15により制御される。
【0023】
従って、これらの装置、すなわち、電子銃制御装置11、照射レンズ制御装置12、対物レンズ制御装置13、拡大レンズ系制御装置14、それに試料ステージ制御装置15が、観察条件設定装置を構成していることになる。
【0024】
TVカメラ8は、シンチレータ板とCCDなどの撮像素子を備え、これに投影された電子線Bを光に変換して各画素毎に検出し、検出された信号をTVカメラ制御装置16に供給して時系列的な画像信号に変換する。そして、この画像信号がモニタ17に供給され、ここで画像として表示される。
【0025】
また、このときTVカメラ制御装置16から出力された画像信号は、制御装置18にも供給され、ここでメモリに画像データとして記憶し保存される。
【0026】
電子顕微鏡本体1の下端部はカメラ室9を形成し、その中に蛍光板10が設けてある。従って、図示してない機構を用い、TVカメラ8を電子線3の経路から外すことにより、電子線Bによる試料Sの拡大画像が蛍光板10の面上で観察できる。
【0027】
ところで、ここまでは、普通の電子顕微鏡とあまり変わらないが、この実施形態では、電子顕微鏡の観察条件設定装置、すなわち電子銃制御装置11、照射レンズ制御装置12、対物レンズ制御装置13、拡大レンズ系制御装置14、それに試料ステージ制御装置15の夫々が、制御装置18と所定の伝送線路で結合され、相互にデータの授受が行えるようになっていて、制御装置18により観察条件が設定できるように実行されるように構成されている点で、従来技術とは大きく異なっている。
【0028】
このため、制御装置18は、例えば所定のプログラムが搭載されたコンピュータを備え、これにより、上記した観察条件設定装置に供給して、それらを制御するのに必要な制御データを生成することができるように構成されている。
【0029】
次に、図2のフローチャートにより、動作について説明する。
【0030】
まず、この実施形態では、“画像記録処理”と“画像呼出し処理”の2種の処理が制御装置18により実行される。
【0031】
ここで、“画像記録処理”とは、或る所望の試料を観察するときの処理のことであり、次に“画像呼出し処理”とは、或る所望の試料について観察を終わった後、同じ試料について、前回、観察したときと同じ観察条件で、試料の同じ部分の画像を再現して観察するときの処理のことである。
【0032】
そして、図2のフローチャートでは、処理A1の後に続く処理A2から処理A4までが画像記録処理で、処理A5の後に続く処理A6から処理A9までが画像呼出し処理であり、これらの処理は、何れも操作者の意向に応じて、制御装置18により実行される。
【0033】
まず、“画像記録処理”について説明する。
【0034】
始めに、操作者は、観察対象となる試料Sを準備し、電子顕微鏡を操作して所定の観察条件を設定し、TVカメラ8により試料Sの所定の部分の拡大画像が撮像されるようにする。このとき、モニタ17に表示される試料Sの拡大像を見ながら操作するのであるが、勿論、蛍光板10の画像を見てもよい。
【0035】
このときの操作は、図1には示されていないが、例えばキーボードなど所定の入力機器を用いて行われ、電子銃制御装置11と照射レンズ制御装置12、対物レンズ制御装置13、それに拡大レンズ系制御装置14に夫々所定の制御データを入力し、所望の加速電圧と倍率、所望の観察モードが得られるようにする。
【0036】
また、これと共に、試料ステージ制御装置15にも制御データを入力し、試料Sの所望の部分が観察視野になるように、試料ステージ5を動かす。
【0037】
この結果、所望の試料Sについて、所望の観察条件による所望の部分(座標)の画像が得られる。
【0038】
従って、ここまでは通常の電子顕微鏡による観察の場合と同じであるが、この実施形態では、こうして所望の試料Sについて、所望の観察条件による所望の部分の画像が得られたら、ここで、操作者は、この画像を制御装置18に記録させるのに必要な所定の操作を実行する(処理A1)。なお、この操作もキーボードなど所定の入力機器を用いて行う。
【0039】
そこで、制御装置18は、まずTVカメラ8から取り込んだ画像信号をTIF形式(TIFF)のデータに変換する(処理A2)。そして、このTIF形式に変換された画像データをメモリに記憶し、保存する(処理A3)。
【0040】
一方、この画像データの保存と並行して、制御装置18は、電子銃制御装置11、照射レンズ制御装置12、対物レンズ制御装置13、それに拡大レンズ制御装置14から、このときの画像の観察条件をデータとして取り込む。
【0041】
また、試料ステージ制御装置15からも、同じく、このとき観察している試料Sの座標位置をデータとして取り込む。
【0042】
そして、これら観察条件と座標位置を表わすデータを、このときの画像データのタグデータとして、TIF形式のタグ領域に記憶させる(処理A4)。
【0043】
従って、この実施形態によれば、“画像記録処理”を実行することにより、或る所望の試料について観察を行った後は、その画像データと共に、その画像の観察条件がTIF形式のタグ領域に全て記憶され、保存されることになる。
【0044】
そして、この結果、或る試料について、その観察を行った後は、その画像データを読出すだけで、その画像の観察条件もデータとして一緒に読出せることになる。
【0045】
次に、“画像呼出し処理”について説明する。
【0046】
この画像呼出し処理は、操作者が或る所望の試料を選定し、それを試料Sとして試料ステージ5に載置し、制御装置18に所定の指示を入力することにより開始される。
【0047】
このときの所定の指示とは、いま、ここで選定した試料Sについて、上記した画像記録処理により既にTIF形式として保存されている画像データを指定するものである。
【0048】
従って、このときの所望の試料については、上記した画像記録処理により既にTIF形式の画像データが保存されているものに限られる。
【0049】
なお、このような状況は、例えば或る試料について観察作業中、何等かの理由により作業を中断し、その後、同じ試料について観察作業を再開した場合などが該当する。
【0050】
こうして画像呼出し処理が開始されると、制御装置18から指定された試料の画像データが呼び出される(処理A5)。
【0051】
そこで、制御装置18は、この画像データをモニタ17に供給し、モニタ面に保存されている観察像を表示させ(処理A6)、希望している画像データが正しく呼び出されたか否かが確認できるようにする。
【0052】
このとき、このTIF形式の画像データには、そのタグ領域に、対応する試料の観察条件と座標位置がタグデータとして付属して保存されている。
【0053】
そこで、制御装置18は、この画像データからタグデータを呼び出し(処理A7)、このタグデータの中の加速電圧や倍率などの観察条件を表わすデータは、電子銃制御装置11と各レンズ制御装置12〜14に供給し、制御にフィードバックさせる(処理A8)。
【0054】
すなわち、電子銃制御装置11と照射レンズ制御装置12、対物レンズ制御装置13、それに拡大レンズ系制御装置14に夫々タグデータの中の対応する制御データを入力し、これによりタグデータで指示された加速電圧と倍率が得られ、観測モード(例えば回折モード、高分解能モード、ハイコントラストモード、極低倍モードなど)が得られるように制御するのである。
【0055】
また、試料ステージ制御装置15には、タグデータの中の座標位置を表わすデータを供給して、同じく制御にフィードバックさせる(処理A9)。
【0056】
すなわち、試料ステージ制御装置15にタグデータの中の座標位置データを入力し、試料Sのタグデータで指示された部分が観察視野になるように、試料ステージ5を動かすのである。
【0057】
この結果、この実施形態の場合、試料の画像データを指定するだけで、電子顕微鏡は自動的にその試料の画像データを保存したときと同じ観察条件にされ、試料ステージ5も自動的に同じ座標位置に設定されることになる。
【0058】
従って、この実施形態によれば、例えば試料Sの観察中、何等かの理由により観察作業を中断した場合でも、その後、同じ試料Sの観察作業を再開したときには、直ちに中断前と全く同じ状態が電子顕微鏡上に自動的に再現できることになり、この結果、観察作業を効率良く進めることができる。
【0059】
ここで、従来技術の場合、例えば所定のホルダーの画像データに対応する格納場所にリンクして観察条件を記憶しているが、この場合、他のPC(パソコン)や記録媒体に画像を移動すると、リンクデータは切り離されてしまい、画像から観察条件を呼び出すことは、ほぼ不可能である。
【0060】
しかし、上記実施形態では、画像データをTIF形式のデータに変換し、観察条件をタグ領域に保存するようにしているので、常に対応する観察条件の保存が確実に得られる上、画像データの呼出しだけで対応する観察条件データも同時に得られることになり、且つ保存可能なデータ量の制約が少ないので、完全な観察条件の再現が容易である。
【0061】
なお、以上の実施形態では、本発明を透過型電子顕微鏡に適用した場合について説明したが、本発明は、例えば走査型電子顕微鏡など、他の形式の電子顕微鏡にも適用可能なことは言うまでもない。
【0062】
ここで走査型電子顕微鏡の場合は、試料ステージの座標位置データの保存に代えて、試料面に対する電子ビームの照射座標データを保存し、電子ビーム走査制御装置にフィードバックしてやればよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明による電子顕微鏡の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1:電子顕微鏡本体
2:電子銃
4:照射レンズ
5:試料ステージ
6:対物レンズ
7:拡大レンズ系
8:TVカメラ
9:カメラ室
10:蛍光板
11:電子銃制御装置
12:照射レンズ制御装置
13:対物レンズ制御装置
14:拡大レンズ系制御装置
15:試料ステージ制御装置
16:TVカメラ制御装置
17:モニタ
18:制御装置
B:電子線
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡を操作して所定の観察条件を設定し、試料の拡大像を観察する電子顕微鏡を用いた試料像観察方法において、
電子顕微鏡を操作して電子顕微鏡の観察条件を設定し、
当該観察条件設定に基づいて得られる画像信号を、TIF形式に変換し、
当該TIF形式に変換した画像データのタグ領域に、当該画像データを取得したときの前記観察条件データを保存し、
前記画像データを読み出したときに、併せて前記タグ領域に保存された観察条件を読み出し、当該観察条件を設定することを特徴とする試料像観察方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記観察条件は、倍率と加速電圧に加えて観察モードを含み、この観察モードには、回折モード、高分解能モード、ハイコントラストモード、極低倍モードがふくまれることを特徴とする試料像観察方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記観察条件は、少なくとも試料ステージの座標位置を含むことを特徴とする試料像観察方法。
【請求項4】
電子顕微鏡を操作して所定の観察条件を設定し、試料の拡大像を観察する試料像観察方法に用いられる電子顕微鏡において、
TIF形式に変換された画像データのタグ領域に、当該画像データを取得するときに設定した電子顕微鏡の観察条件データを記憶しておき、当該画像データを読み出したときに、併せて前記観察条件データを読み出して、電子顕微鏡の観察条件として設定することを特徴とする電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−32366(P2006−32366A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293636(P2005−293636)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【分割の表示】特願2001−157405(P2001−157405)の分割
【原出願日】平成13年5月25日(2001.5.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233550)株式会社日立サイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】