説明

試料導入装置および試料導入方法

【課題】検出する試料を迅速に効率よく分析装置に導入することができ、検出速度を向上させて大量の検査を短時間で行うことを目的とする。
【解決手段】試料導入装置1は、収容部41に収容した試料を、排気ポンプ51を備えた質量分析装置45に導入するための装置であって、一端が収容部41に流通可能に接続された差動排気配管3と、差動排気配管3の他端に接続され、差動排気配管3内を排気して減圧する差動排気ポンプ5と、差動排気管3と質量分析装置45とを流通可能に接続するキャピラリ管7とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料導入装置および試料導入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、空港内や公共施設内に危険物が持ち込まれることを防止する危険物検出装置として、検査対象から採取した試料を加熱・気化することにより危険物を検出する技術が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1によれば、試料となる爆発物の粉末等が付着していると考えられる箇所、例えばパソコンのキーボードや鞄のハンドル等を検査片で拭き取ることにより試料を採取し、検査片等ごとに加熱・気化した試料を質量分析装置に導入して検出する技術が開示されている。
【0003】
質量分析装置は、気化した試料を、例えば、10−3Paの減圧状態のイオン化チャンバに導入してイオン化し,その構造、組成を分析する。試料導入装置は、試料が付着している媒体等を収容する収容部を質量分析装置に流通可能に接続して、収容部から質量分析装置に試料を導入するためのものである。
ところで、大気圧条件下の収容部内部を減圧状態の質量分析装置内部と流通可能に接続するには、収容部内と質量分析装置内との圧力差を保ちながら接続する必要がある。そのため、収容部と質量分析装置は、圧力損失の大きいキャピラリ管等によって接続される。一般に、直線流路の配管では、圧力損失は長さに比例し、管径の4乗に逆比例する。
【0004】
例えば、図4に示すように、収容部41に大気圧条件下で収容されている切符43に付着している試料を、10−3Paの減圧状態の質量分析装置45内のイオン化チャンバ(図示略)に導入するために、内径が0.3mm程度で長さが10m以上あるキャピラリ管47を用いて収容部41内部と質量分析装置45内部とを流通可能に接続することにより、収容部41内と質量分析装置45内との圧力差が保たれる。
図4において、符号49はヒータを示し、符号51は排気ポンプを示している。
【特許文献1】特開2004−301479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、大気圧条件下にある試料を含む気流を一度で大量に質量分析装置45に導入すると、イオン化チャンバを10−3Paの減圧状態に保つことができないため、試料を含む気流を約1sccmの流量でイオン化チャンバに導入することとなる。そのため、従来の技術では、収容部41と質量分析装置45との圧力差を保つことはできるものの、試料を含む気流をキャピラリ管47の吸引口にかざしてから、質量分析装置45において検出信号を得るまでに約5分近くかかってしまうという不都合がある。すなわち、試料を質量分析装置に導入するのに時間がかかり、大量の検査を短時間で行うことができないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、検出する試料を迅速に効率よく分析装置に導入することができ、検出速度を向上させて大量の検査を短時間で行うことができる試料導入装置および試料導入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、収容部に収容した試料を、排気装置を備えた分析装置に導入するための試料導入装置であって、一端が前記収容部に流通可能に接続された差動排気配管と、該差動排気配管の他端に接続され、該差動排気配管内を排気して減圧する差動排気装置と、前記差動排気管と前記分析装置とを流通可能に接続する接続流路とを備えた試料導入装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、差動排気装置の作動により、差動排気配管内が排気されて収容部内の圧力よりも減圧されるので、該差動排気配管の一端に流通可能に接続された収容部に収容されている試料が、気流とともに差動排気配管内に吸引される。吸引された試料を含む気流の一部は、差動排気配管と分析装置とを流通可能に接続する接続流路を通って分析装置に導入される。この場合に、差動排気配管内が減圧されて分析装置内との圧力差が小さくなっているので、圧力損失の少ない接続流路を用いて差動排気配管内と分析装置内との圧力差を保つことができる。したがって、接続流路を、従来の流路断面積の大きさを維持したまま長さを短くすることができる。これにより、分析装置への試料の導入時間を短縮することができ、試料の検出時間を短縮することが可能となる。
【0009】
上記発明においては、前記分析装置内部の圧力が、10−3Pa以下とされることとしてもよい。
分析装置内部の圧力を10−3Pa以下にすることにより、試料をイオン化して生成したイオンを、安定かつ分解させずに精度よく検出することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記差動排気配管内部の圧力が、10Pa以上10Pa以下とされることとしてもよい。
差動排気配管内部の圧力が10Pa未満では、差動排気装置が大型になり実用的でない。一方、差動排気配管内部の圧力が10Paを超えると、分析装置への試料の導入時間が数秒(5秒〜10秒程度)以上かかり、検出時間を要してしまうので好ましくない。
したがって、差動排気配管内部の圧力を10Pa以上10Pa以下にすれば、差動排気配管内部と分析装置内部との圧力差を効果的に小さくすることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記排気装置が、流量1sccm以上30sccm以下で排気可能であることとしてもよい。
排気装置による排気流量が1sccm未満では、試料導入量が少なくなり、試料を検出できなくなる場合があるので好ましくない。一方、排気装置による排気流量が30sccmを超えると、排気装置が大型になり実用的でない。
【0012】
また、上記発明においては、前記差動排気装置が、流量10sccm以上3000sccm以下で排気可能であることとしてもよい。
差動排気装置の排気流量が10sccm未満では、試料吸引量が少なくなり、試料を検出できなくなる場合があるので好ましくない。一方、差動排気装置の排気流量が3000sccmを超えると、差動排気装置が大型になり実用的でない。
【0013】
また、上記発明においては、前記差動排気配管において、前記接続流路と前記差動排気装置との間に、該差動排気装置の排気量を調整可能な調整弁を設けることとしてもよい。
このような構成によれば、調整弁の作動により、差動排気装置の排気流量を適切な範囲に制御することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記接続流路の下流側に圧力計を設けることとしてもよい。
このような構成によれば、圧力計の作動により分析装置内部の圧力を検知できるので、その圧力に応じて差動排気配管内部の圧力を制御することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記差動排気配管に、該差動排気配管を加熱する配管加熱部を設けることとしてもよい。
このような構成によれば、配管加熱部の作動により、差動排気配管が加熱されるので、差動排気配管内の気流に含まれる試料が差動排気配管の内壁に付着滞留することを防ぐことができる。したがって、試料の導入効率の低下を防止することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記差動排気配管に、固体状の前記試料を捕集するフィルタと、該フィルタを加熱するフィルタ加熱部とが設けられ、前記フィルタが前記接続流路の接続位置近傍に配置されていることとしてもよい。
【0017】
このような構成によれば、差動排気配管内に吸引された固体状の試料が、フィルタで捕集される。この場合に、フィルタ加熱部の作動によりフィルタが加熱されるので、捕集した試料をフィルタ表面で気化することができる。また、フィルタが接続流路の接続位置近傍に配置されているので、気化した試料を接続流路に容易に取り込むことができる。したがって、試料を効率よく分析装置に導入することができる。さらに、差動排気配管内のフィルタ表面で試料を気化するので、収容部において試料を気化する必要がない。したがって、試料が付着している媒体等を加熱しないか、あるいは、加熱温度を抑えることができ、媒体等に対して加熱による焦げや磁気情報の破壊等の損傷を与えることを防ぐことができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記フィルタが、前記接続流路の上流側に設けられていることとしてもよい。
このような構成によれば、フィルタ表面で気化した試料を効率よく接続流路に取り込むことができる。
また、上記発明においては、前記分析装置が、質量分析装置であることとしてもよい。
【0019】
本発明は、試料を収容する収容部よりも減圧状態の分析装置に前記試料を導入する試料導入方法であって、一端が前記収容部に流通可能に接続された配管内を排気して、該配管内を前記収容部内の圧力と前記分析装置内の圧力との間の圧力に減圧する差動排気工程と、前記収容部から前記配管内に前記試料を気流とともに吸引する吸引工程と、前記吸引工程において吸引した前記試料を含む気流の一部を前記配管から前記分析装置に導入する導入工程とを備える試料導入方法を提供する。
【0020】
本発明によれば、差動排気工程において、一端が前記収容部に流通可能に接続された配管内が排気されて、配管内が収容部内の圧力と分析装置内の圧力との間の圧力に減圧されるので、吸引工程において、収容部に収容されている試料を気流とともに配管内に吸引し、導入工程において、配管内に吸引された気流の一部を分析装置内に導入することができる。
【0021】
この場合に、分析装置内に配管から圧力差が低い状態で試料を導入することができるので、導入工程における圧力損失を少なくしても配管内と分析装置内との圧力差を保つことができる。したがって、例えば、配管内部と分析装置内部とを流通可能に接続する流路を、従来の流路断面積の大きさを維持したまま長さを短くし、導入工程にかける時間を短縮することができる。これにより、分析装置への試料の導入時間を短縮することができ、試料の検出時間を短縮することが可能となる。
本発明に係る試料導入方法は、主に質量分析装置への試料の導入に好適に用いられるものである。
【0022】
上記発明においては、前記吸引工程において、前記配管を加熱して前記試料を吸引することとしてもよい。
このような構成によれば、吸引工程において、配管内に吸引される気流に含まれる試料が、配管の内壁に付着滞留することを防止することができる。したがって、試料の導入効率の低下を防止することができる。
【0023】
また、上記発明においては、前記吸引工程が、固体状の前記試料をフィルタ表面で捕集して気化する捕集工程を備えることとしてもよい。
このような構成によれば、吸引工程において固体状の試料を気流とともに吸引し、捕集工程において試料を気化するので、予め試料を気化する必要がない。したがって、収容部において試料が付着している媒体等を加熱しないか、あるいは、加熱温度を抑えることができ、媒体等に対して加熱による焦げや磁気情報の破壊等の損傷を与えることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、検出する試料を迅速に効率よく分析装置に導入することができ、検出速度を向上させて大量の検査を短時間で行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態に係る試料導入装置について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る試料導入装置1は、収容部41に収容されている切符43に付着している危険物質等の試料を質量分析装置(分析装置)45に導入させるものである。
【0026】
収容部41は、特に限定されるものではないが、例えば、ヒータ49を備え、該ヒータ49が、切符43を加熱可能に配置されている。収容部41は、ヒータ49の作動により、切符43に付着している試料を加熱気化して切符43から分離させ、気化した試料を大気圧条件下で収容するようになっている。
【0027】
質量分析装置45としては、公知の装置を用いることができ、特に限定されるものではない。質量分析装置45は、例えば、試料をイオン化するイオン化チャンバ(図示略)と、生成したイオンを検出する検出部(図示略)と、質量分析装置45内を高真空状態に維持する排気ポンプ(排気装置)51とを備えている。イオン化チャンバにおいては、導入された試料がイオン化されてイオンが生成される。生成したイオンは、排気ポンプ51の作動により質量分析装置45内が高真空状態に維持されているので、安定かつ分解せずに検出部に送られる。検出部においては、イオンが質量の違いによって分離されて検出され、その構造・組成等が分析されるようになっている。
【0028】
試料導入装置1は、切符43が収容されている収容部41に一端が接続された差動排気配管3と、該差動排気配管3の他端と接続された差動排気ポンプ(差動排気装置)5と、差動排気配管3と質量分析装置45とを接続するキャピラリ管(接続流路)7とを備えている。
【0029】
差動排気配管3は、上流側が収容部41に流通可能に接続され、下流側が差動排気ポンプ5に流通可能に接続されている。差動排気配管3は、収容部41側の流路(以下、単に「収容部側流路3a」という。)の流路断面積が、差動排気ポンプ5側の流路(以下、単に「ポンプ側流路3b」という。)の流路断面積に比べて小さく形成されている。
【0030】
差動排気ポンプ5は、図示しない吸気口と排気口とを備え、吸気口が差動排気配管3のポンプ側流路3bの端部と流通可能に接続されている。差動排気ポンプ5は、差動排気配管3内の気体を吸気口から吸引して排気口から外部に排出し、差動排気配管3内を排気して減圧するようになっている。
【0031】
差動排気配管3のポンプ側流路3bには、差動排気配管3と質量分析装置45とを流通可能に接続するキャピラリ管7と、差動排気ポンプ5の排気流量を調整する調整弁9とが設けられている。
キャピラリ管7は、内径が約0.3mmで長さが約1メートルからなる細管であり、質量分析装置45に接続される端部がイオン化チャンバに直結されている。キャピラリ管7は、差動排気配管3と質量分析装置45との所定の圧力差を保ち、差動排気配管3内の気流の一部をイオン化チャンバに導入するようになっている。
【0032】
キャピラリ管7と排気ポンプ51との間には、質量分析装置45内の圧力を測定する圧力計(図示略)が設けられている。
調整弁9は、差動排気ポンプ5の吸気口の近傍に配置されている。調整弁9は、図示しない弁機構を備え、弁を開閉させて差動排気ポンプ5の排気流量を制御するようになっている。
【0033】
次に、このように構成された本実施形態に係る試料導入装置1の作用について説明する。
収容部41においては、ヒータ49の作動により、切符43の表面に付着した危険物質等の試料が気化されて大気圧条件下で収容されている。
差動排気ポンプ5の作動により、差動排気配管3内が排気されて減圧される。この場合に、調整弁9の作動により差動排気ポンプ5の排気流量が制御されて、収容部41から試料が気流とともに差動排気配管3内に吸引される。
【0034】
差動排気配管3内の試料を含む気流は、流路断面積の小さい収容部側流路3aを通って減圧され、下流側の流路断面積の大きいポンプ側流路3bへと吸引される。この場合に、上記圧力計によって質量分析装置45内の圧力を検知することができるので、排気ポンプ51の作動により、例えば、質量分析装置45内を約10−3Paの高真空状態に維持することとし、調整弁9の作動により、差動排気配管3内に約100sccmの流量で試料とともに気流を吸引して、差動排気配管3のポンプ側流路3b内を約1Paの減圧状態にするのが望ましい。
【0035】
差動排気配管3内の気流は、差動排気ポンプ5の作動により、約99sccmの流量で外部に排出される。また、差動排気配管3内の気流の一部は、差動排気配管3のポンプ側流路3b内部と質量分析装置45内部とを流通可能に接続するキャピラリ管7を通って、約1sccmの流量で質量分析装置45に導入される。この場合に、約10−3Paの高真空状態に維持する質量分析装置45に対して、差動排気配管3のポンプ側流路3b内を約1Paの減圧状態にすることにより、差動排気配管3のポンプ側流路3b内部と質量分析装置45内部との圧力差が小さくなるので、大気圧条件下の収容部41内部と質量分析装置45内部との圧力差を保つ場合の流路に比べて、圧力損失の少ない流路を用いて差動排気配管3のポンプ側流路3b内と質量分析装置45内との圧力差を保つことができる。
【0036】
一般に、直線流路の配管では、圧力損失は長さに比例し、管径の4乗に逆比例する。本実施形態に係る試料導入装置1によれば、圧力損失の少ない、すなわち、従来のキャピラリ管の流路断面積の大きさを維持したまま長さを短くしたキャピラリ管7を用いて、差動排気配管3と質量分析装置45との圧力差を保つことができる。これにより、キャピラリ管7を通過するのにかかる時間を削減することができ、収容部41に収容されている試料を質量分析装置45へ短時間で導入することが可能となる。具体的には、収容部41に収容されている試料を差動排気配管3の収容部側流路3a内に吸引してから、約5秒後に質量分析装置45においてイオンの検出信号を得ることができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る試料導入装置1によれば、試料を迅速に効率よく質量分析装置45に導入することができ、危険物質等の試料の検出速度を向上させて大量の検査を短時間で行うことが可能となる。
【0038】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る試料導入装置21について、図2を用いて説明する。
本実施形態に係る試料導入装置21は、差動排気配管3の外周回りにヒータ(配管加熱部)23を備えている点で、第1の実施形態と異なる。
以下、第1の実施形態に係る試料導入装置1と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0039】
ヒータ23は、差動排気配管3の収容部側流路3aおよびポンプ側流路3bの配管周りに設けられている。ヒータ23は、試料導入装置21の作動中において継続して作動し、差動排気配管3全体の内壁に熱が伝達するように配置されている。ヒータ23としては、例えば、公知のリボンヒータを採用することとしてもよい。リボンヒータは、やわらかいリボン状で取扱いやすいので、差動排気配管3の外周面に沿って簡単に巻き付けることができる。
【0040】
ヒータ23は、例えば、100℃以上200℃以下に加熱されることが望ましい。ヒータ23の加熱温度が100℃未満では、差動排気配管3内に気流とともに吸引される試料が内壁に付着滞留するおそれがあるので好ましくない。また、ヒータ23の加熱温度が200℃を超えると、試料によっては分解してしまうおそれがあるので好ましくない。
【0041】
このような構成によれば、ヒータ23の作動により、差動排気配管3全体の内壁が加熱されるので、気流に含まれる試料が差動排気配管3の内壁に付着滞留することを防ぐことができる。したがって、試料の導入効率の低下を防止することができる。
なお、差動排気配管3を石英から形成することとしてもよいし、あるいは、差動排気配管3の内壁を石英で覆うこととしてもよい。このようにすることで、試料が差動排気配管3の内壁に付着滞留するのを効果的に防止することができる。
【0042】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係る試料導入装置31について、図3を用いて説明する。
本実施形態に係る試料導入装置31は、差動排気配管3内にフィルタ33を備えている点で、第2の実施形態と異なる。
以下、第2の実施形態に係る試料導入装置21と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
フィルタ33は、グラスウール等のガラスから形成されている。より好ましくは、石英から形成されていることが望ましい。また、フィルタ33は、差動排気配管3のポンプ側流路3bの内部に設置され、気流とともに吸引された固体状の試料を捕集するように配置されている。より好ましくは、ポンプ側流路3b内部のキャピラリ管7の接続位置の下流側近傍に設置されていることが望ましい。フィルタ33は、差動排気配管3の外周周りに設けられたヒータ(配管加熱部,フィルタ加熱部)23の作動により、配管を介して約200℃に加熱されるようになっている。
なお、本実施形態においては、収容部41においては、ヒータ49を作動させず、切符43を加熱しないようになっている。
【0044】
このように構成された本実施形態に係る試料導入装置31の作用について説明する。
収容部41においては、切符43の表面に危険物質等の試料が付着している状態、すなわち、大気圧条件下において試料が固体状で収容されている。
差動排気ポンプ5の作動により、差動排気配管3内が排気されて減圧されることにより、収容部41内の固体状の試料が気流とともに差動排気配管3内に吸引される。
【0045】
差動排気配管3においては、気流とともに吸引された固体状の試料がフィルタ33表面に捕集される。フィルタ33は、ヒータ23の作動により約200℃に加熱されているので、捕集した試料をフィルタ33表面で気化することができる。気化した試料の一部は、気流とともにキャピラリ管7を通って、質量分析装置45に導入される。この場合に、フィルタ33をキャピラリ管7の接続位置の下流側近傍に配置することとしたので、フィルタ33表面で気化した試料をキャピラリ管7に容易に取り込むことができる。したがって、試料を効率よく質量分析装置45に導入することができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る試料導入装置31によれば、固体状の試料を気流とともに吸引し、差動排気配管3内に設置したフィルタ33表面で気化するので、収容部41において試料を気化する必要がない。すなわち、切符43を加熱する必要がない。したがって、切符43に対して加熱による焦げや磁気情報の破壊等の損傷を与えることを防ぐことができる。また、フィルタ33をグラスウール等のガラス、好ましくは石英から形成することにより、金属焼結フィルタ等を用いる場合に比べて、フィルタ33表面で試料が加熱される際に分解されにくい。したがって、試料を分解することなく質量分析装置45に導入し易くすることができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、フィルタ33をキャピラリ管7の接続位置の下流側近傍に配置することを例示して説明したが、例えば、フィルタ33をキャピラリ管7の接続位置の上流側近傍に配置することとしてもよい。
また、本実施形態においては、差動排気配管3の外周周りに配置したヒータ23の作動により、配管を介してフィルタ33を間接的に加熱することとしたが、これに代えて、フィルタ33にヒータ23を接続して、フィルタ33を直接加熱することとしてもよい。
【0048】
また、本実施形態においては、収容部41において、切符43加熱しないことを例示して説明したが、加熱による切符43の損傷を防ぐことができればよく、例えば、切符43に損傷を与えない程度に切符43を加熱することとしてもよい。
【0049】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではない。
例えば、上記各実施形態においては、上流側の収容部側流路3aの流路断面積が下流側のポンプ側流路3bの流路断面積に比べて小さい差動排気配管3を例示して説明したが、差動排気ポンプ5の作動により差動排気配管3内が排気されて所定の減圧状態にできればよく、全体として均等な流路断面積の差動排気配管を採用することとしてもよい。
また、本発明を上記の実施形態に適用したものに限られることなく、これらの実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る試料導入装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る試料導入装置の概略構成図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る試料導入装置の概略構成図である。
【図4】従来の試料導入装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0051】
1 試料導入装置
3 差動排気配管
5 差動排気ポンプ
7 キャピラリ管
41 収容部
45 質量分析装置
51 排気ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容部に収容した試料を、排気装置を備えた分析装置に導入するための試料導入装置であって、
一端が前記収容部に流通可能に接続された差動排気配管と、
該差動排気配管の他端に接続され、該差動排気配管内を排気して減圧する差動排気装置と、
前記差動排気管と前記分析装置とを流通可能に接続する接続流路と
を備えた試料導入装置。
【請求項2】
前記分析装置内部の圧力が、10−3Pa以下とされる請求項1に記載の試料導入装置。
【請求項3】
前記差動排気配管内部の圧力が、10Pa以上10Pa以下とされる請求項1または請求項2に記載の試料導入装置。
【請求項4】
前記排気装置が、流量1sccm以上30sccm以下で排気可能である請求項1から請求項3のいずれかに記載の試料導入装置。
【請求項5】
前記差動排気装置が、流量10sccm以上3000sccm以下で排気可能である請求項1から請求項4のいずれかに記載の試料導入装置。
【請求項6】
前記差動排気配管において、前記接続流路と前記差動排気装置との間に、該差動排気装置の排気量を調整可能な調整弁を設けた請求項1から請求項5のいずれかに記載の試料導入装置。
【請求項7】
前記接続流路の下流側に圧力計を設けた請求項1から請求項6のいずれかに記載の試料導入装置。
【請求項8】
前記差動排気配管に、該差動排気配管を加熱する配管加熱部を設けた請求項1から請求項7のいずれかに記載の試料導入装置。
【請求項9】
前記差動排気配管に、固体状の前記試料を捕集するフィルタと、該フィルタを加熱するフィルタ加熱部とが設けられ、
前記フィルタが前記接続流路の接続位置近傍に配置されている請求項1から請求項8のいずれかに記載の試料導入装置。
【請求項10】
前記フィルタが、前記接続流路の上流側に設けられている請求項9に記載の試料導入装置。
【請求項11】
前記分析装置が、質量分析装置である請求項1から請求項10のいずれかに記載の試料導入装置。
【請求項12】
試料を収容する収容部よりも減圧状態の分析装置に前記試料を導入する試料導入方法であって、
一端が前記収容部に流通可能に接続された配管内を排気して、該配管内を前記収容部内の圧力と前記分析装置内の圧力との間の圧力に減圧する差動排気工程と、
前記収容部から前記配管内に前記試料を気流とともに吸引する吸引工程と、
前記吸引工程において吸引した前記試料を含む気流の一部を前記配管から前記分析装置に導入する導入工程と
を備える試料導入方法。
【請求項13】
前記吸引工程において、前記配管を加熱して前記試料を吸引する請求項12に記載の試料導入方法。
【請求項14】
前記吸引工程が、固体状の前記試料を前記フィルタ表面で捕集して気化する捕集工程を備える請求項12または請求項13に記載の試料導入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−241533(P2008−241533A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84063(P2007−84063)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度文部科学省科学技術総合研究委託業務、「重要課題解決型研究等の推進 テロ対策のための爆発物検出・処理統合システムの開発」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】