説明

試料物質を濃縮した表面機能性粒子への励起光の直接照射による高感度蛍光分析法の開発

【課題】 溶液に含有する極微の試料物質を官能基を有するシリカまたは金属酸化物を加え、試料物質を結合濃縮させ、直接励起光を照射し、生じる蛍光を分析する、高感度で操作が簡便な蛍光分析法を提供する。
【解決手段】 本分析法は励起光源、分光器、計測用ガラス細管、検出器からなる蛍光分光システムで行うもので、上記試料物質を濃縮したシリカまたは金属酸化物を封入した該ガラス細管に直接励起光を照射することによって、簡便で、かつ高感度で定量分析を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光性試料溶液中に表面機能性物質を添加し、試料を濃縮した表面機能性粒子に励起光を直接照射して、生じる蛍光を分析することを特徴とする微量蛍光性物質の高感度蛍光分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光分析法は、蛍光性試料に励起光を照射し、試料物質の分子軌道電子が励起した後、基底状態に戻るとき発光する蛍光を測定する分析法である。そのため測定をしようとする試料は蛍光性物質でなければならず、試料が蛍光性物質でない場合には、当該試料に蛍光性物質を結合させて測定する必要がある。
【0003】
蛍光分析法には、試料溶液に励起光を直接照射して、生じる蛍光を測定する方法および液体クロマトグラフと蛍光分析を結合して用いる方法(例えばK.Todoroki等 J.Chromatography,1038巻,113−120頁,2003年)や表面機能性物質を充填したカラムに試料溶液を通し、試料をカラムに濃縮させ、その後適当な溶剤をカラムに通すことによって、試料を回収した溶液を液体クロマトグラフ−蛍光分析で定量測定する方法(例えば残留動物用医薬品試験法、GLサイエンス(株))などが用いられている。これらの 従来の蛍光分析法による定量可能な試料の濃度範囲は数ppbから数十ppmの範囲である。
【0004】
前記の液体クロマトグラフによる方法は、数ppbオーダーの高感度分析が可能であるが、液体クロマトグラフを用い蛍光分析を行うこと、場合によっては一旦試料を表面機能性物質に結合濃縮させ、その後試料を適当な溶剤を用い、表面機能性物質から再度抽出し、抽出液を液体クロマトグラフを用い蛍光分析するなどの煩雑な行程を含むものであった。
【0005】
一方試料溶液を前記の行程なしに直接蛍光分析を行う方法には、以降で示すように、検出感度に限界があった。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来知られている最も感度の高い蛍光分析方法と同等な感度で蛍光性試料の定量分析が可能な蛍光分析法であって、かつ操作がはるかに簡便な蛍光分析法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本蛍光分析法は、表面機能性物質およびガラス細管を用いる蛍光分析法であることを要旨とする。
【0008】
請求項1記載の本蛍光分析法は蛍光性試料の検出感度を増強するために、一定量の表面機能性物質を試料溶液に添加し、表面機能性物質に試料を結合濃縮することを特徴とする蛍光分析法である。試料溶液には水溶液またはメタノール溶液を用いる。
【0009】
請求項2および3記載の本蛍光分析法は、前記の方法によって、溶液中に存在する極微の試料物質を結合濃縮させた表面機能性物質をガラス細管に封入し、該細管に励起光を直接照射し、生じる蛍光を分析することを特徴とする蛍光分析法である。
【0010】
したがって本蛍光分析法は、励起光光源と分光器および検知器以外の液体クロマトグラフや試料抽出装置が不必要で、簡便で、操作が容易であり、迅速に測定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下図面を用いて本発明の蛍光分析法の詳細について説明する。
【0012】
図1は本発明にかかわる蛍光分析法の測定システムの概略図である。光源からの励起光は光路上に固定されたガラス細管(内径0.4mm)に封入した、試料分子を結合濃縮させた−SH官能基を有するシリカ粒子(富士シリシア(株)、以降SHシリカと呼ぶ)に照射される。生じた蛍光は光源と直角方向に配置した検出器によって測定される。
【実施例】
【0013】
実施形態1について説明する。
【0014】
上記発明の実施の形態において説明した本発明の蛍光分析システムを用いてローダミンBの定量測定を行った。ローダミンBのカルボキシル基はSHシリカ表面のチオール基(SH基)と結合して、SHシリカに図2のように固定される。
【0015】
12.5、25、50および100nMの濃度の異なる4種類のローダミンB溶液を作成し、ガラス細管を用い毛管現象によって各溶液を細管中にとり、一方の端をペースト(CRITOSEAL,HELIX Co.Ltd)で閉じ、図1に示した測定システムによって、それぞれの溶液の蛍光スペクトル測定を行った。
【0016】
次に前述の濃度の異なる4種類のローダミンB溶液を各3mlとり、それぞれの溶液にSHシリカを12.5mg加え、ローダミンBを結合させ、得られたローダミンBの結合したシリカそれぞれ約2.5mgを4個のガラス細管中に封入し、蛍光スペクトル測定を行った。
【0017】
上記の測定はすべての濃度のローダミンB溶液についてそれぞれ4回ずつ測定を行った。測定結果の一例として、ローダミンB濃度100nM溶液で得られた蛍光スペクトルを図3に示す。この結果はメタノール溶液中の試料で得られた結果で、以降の図はすべてメタノール溶液中の試料で得られた結果を示す。この図から明らかなように、再現性のよいスペクトルが得られた。
【0018】
蛍光スペクトル強度はローダミンB溶液のサンプリング量2mlまではサンプリング量の増加で増加するが、サンプリング量が2mlから3mlで最大となり、その後のサンプリング量の増加で減少に転ずる。この減少はSHシリカに結合濃縮したローダミンBの構造変化に起因すると思われる。したがって試料溶液のサンプリング量は2mlまたは3mlとした。
【0019】
次に図3に示したスペクトル曲線の極大のスペクトル強度と、スペクトル強度が波長に対して一定になる波長700nmのスペクトル強度との差をそれぞれのローダミン溶液で得られたスペクトル曲線から求め、得られたスペクトル強度差をローダミンB溶液濃度に対してプロットした。図4は上述の濃度の異なる4種類のローダミンB溶液について、それぞれの溶液中に添加後のSHシリカとSHシリカ無添加のローダミンB溶液で得られた蛍光分析結果を示す。
【0020】
得られた蛍光強度差とローダミンBの濃度との間には、ローダミンB濃度5ppbから50ppbにわたって良い直線関係がなりたつ。
【0021】
ローダミンBの溶液に添加したSHシリカの励起光照射で得られた蛍光強度差はローダミンB溶液の励起光照射で得られた蛍光強度差に比べ著しく大きく、SHシリカによるローダミンBの濃縮効果が蛍光スペクトル強度差に顕著に現れている。
【0022】
この結果から、SHシリカを痕跡のローダミンBを含むメタノールまたは水溶液中に添加し、ローダミンBを結合濃縮させたSHシリカを蛍光分析することによって、感度を10倍程度高めることができ、本発明の蛍光分析法はローダミンBについて、検出限界濃度5ppbに達する高感度を有することが確かめられた。
【0023】
SHシリカに濃縮されたローダミンB量のローダミンB濃度に対する等温線を調べた。以下にこの実験行程を示す。
【0024】
まず上記の4種のローダミンBメタノール溶液2mlをそれぞれガラス細管にとり、蛍光スペクトルを測定し、ローダミンB溶液濃度とスペクトル強度の検量線を作成した。
【0025】
次にそれぞれの溶液2mlにSHシリカを12.5mg加え、SHシリカにローダミンBを結合濃縮させた後、溶液のみをガラス細管にとり、蛍光スペクトル測定を行った。得られたスペクトル強度と前記検量線から以下の関係を用いてローダミンBの濃縮による濃度の減少量−ΔCおよびSHシリカ1グラムあたりのローダミンBの濃縮量Aを各溶液について求め、SHシリカ添加後のローダミンB濃度に対してプロットし、等温線を作成した。
−ΔC=C−C (式1)
=(−ΔC)×2×(1/12.5) (式2)
ここでCはそれぞれの溶液におけるローダミンB濃度、CはSHシリカを加えた後のそれぞれの溶液のローダミンB濃度である。
【0026】
得られた結果を図5に示す。この結果から10nMから95nMの濃度にわたって直線性のよい等温線が得られ、SHシリカ1グラム当りに濃縮されたローダミンBの量は0.4から2.3ミリモルとなることがわかる。
【0027】
次に実施形態2について説明する。
【0028】
上記の発明の実施の形態において説明した本発明の蛍光分析システムを用いて、メチレンブルーの定量分析を行った。メチレンブルーは溶液中で陽イオンとなり、シリカゲルのヒドロキシル基とイオン結合することによって、シリカ表面に図6のように固定される。
【0029】
0.625、1.25、2.5および5μMの濃度の異なる4種類のメチレンブルーメタノール溶液を作成し、実施形態1と同じ方法でそれぞれの溶液をガラス細管にとり、図1に示した測定システムによって、蛍光スペクトルを測定した。
【0030】
次に前述の4種類のメチレンブルー溶液を各1mlとり、それぞれの溶液にシリカ(CARiACT Q−10,富士シリシア(株),粒子径100nm)12.5mgを加え、メチレンブルーを結合させ、得られたメチレンブルーの結合したシリカ2.5mgをそれぞれ4個のガラス細管中に封入し、蛍光スペクトルを測定した。蛍光スペクトルは実施形態1の場合と同様、再現性良く測定された。
【0031】
得られた濃度の異なるメチレンブルー溶液の蛍光スペクトルから、実施形態1の場合と同じ方法で得られたスペクトル強度差をメチレンブルー濃度に対してプロットした。結果を図7に示す。
【0032】
得られた蛍光強度差とメチレンブルー濃度の間には、濃度0.15−1.5ppmの範囲にわたってよい直線性が成り立つことがわかる。
【0033】
メチレンブルーメタノール溶液に添加したシリカの励起光照射で得られた蛍光強度はメチレンブルー溶液の励起光照射で得られた蛍光強度に比べ著しく大きく、ローダミンB同様シリカによるメチレンブルーの濃縮効果が蛍光強度に顕著に現れることがわかる。
【0034】
この結果から、シリカを痕跡のメチレンブルーを含む溶液に添加し、メチレンブルーをシリカ上に濃縮させ、これを蛍光分析することによって、感度を15倍程度増強することができ、本発明の蛍光分析はメチレンブルーについて、検出限界濃度30ppbに達する感度を有することが確かめられた。
【0035】
(式1)、(式2)を用い、上記ローダミンBの場合と同じ方法で求めたシリカ1gあたりに濃縮されたメチレンブルーの量は45nmolから310nmolの範囲であった。
【0036】
水溶液の場合は、メタノール溶液の場合に比ベローダミンB、ベチレンブルー双方の場合とも蛍光強度差と溶液濃度の関係は直線性が成立するが、測定プロットにメタノール溶液に比べいくらかばらつきがみられた。測定感度に関しては双方の溶液で本質的な違いがみられなかった。
【利用分野】

【技術分野】
【0037】
本発明は生体細胞や生乳、奨液、脳脊髄液など多くの生体物質を含む測定対象からがん細胞や、これらの物質に含まれる微量の抗生物質をローダミンBやメチレンブルーなど種々の蛍光性物質を結合させることによって、定量分析を行うための簡便で高感度を有する蛍光分析法の開発に関する。
【発明の効果】
以上説明したように本発明の蛍光分析法は下記の効果を有する。
【0038】
1.本蛍光分析法は極めて高感度であり、ローダミンBでは5ppb以上の濃度範囲、メチレンブルーでは30ppb以上の濃度範囲で定量的に測定することができる。
【0039】
2 メタノール溶液や水溶液中に含まれる極微の試料は表面機能性物質の官能基によって結合濃縮され、該表面機能性物質に直接励起光を照射することによって、蛍光分析感度を著しく高めた。
【0040】
3.前記に示したように、試料に直接励起光を照射し、蛍光を測定する方式により、蛍光測定システムが簡便であり、測定操作が容易である。
【0041】
4.したがって本発明の蛍光分析法は医療分野、生理学分野、食品工業分野を問わず、広い産業および科学研究分野で応用されることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1 蛍光測定システムの側面図および平面図を示す図である。
図2 ローダミンBのSHシリカへの結合を示す図である。
図3 ローダミンB濃度100mM溶液中でローダミンBを結合濃縮させた4つの異なるSHシリカ試料で測定した蛍光スペクトルを示す図である。
図4 SHシリカに結合濃縮されたローダミンBと用いたローダミンB溶液濃度およびローダミンB溶液のローダミンB濃度に対する蛍光強度を示す図である。
図5 4つの濃度の異なるそれぞれのローダミンB溶液にSHシリカを添加後に到達するローダミンB濃度に対する該SHシリカに結合濃縮したローダミンB量の関係を示す図である。
図6 シリカに結合濃縮されたメチレンブルーと用いたメチレンブルー溶液濃度およびメチレンブルー溶液のメチレンブルー濃度に対する蛍光強度を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
11光源
12検出器
13分光器
14励起光光路
15蛍光光路
16レンズ
17SHシリカまたはシリカ
18ガラス細管
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
極微の蛍光性試料を含む溶液に、試料に対し活性な特有の官能基を有するシリカまたは金属酸化物(以下表面機能性物質)を加え、試料物質を結合濃縮させた該表面機能性物質に直接励起光を照射する方法によって、試料物質の検出感度を著しく向上させた高感度蛍光分析法。
【請求項2】
前記濃縮法により、試料物質を濃縮させた表面機能性物質をガラス細管中に封入し、ガラス細管を通して表面機能性物質に直接励起光を照射し、生じる蛍光を測定することを特徴とする高感度蛍光分析法。
【請求項3】
前記測定方法により、試料物質を結合濃縮させた表面機能性物質から試料物質をなんらかの溶剤によって抽出し、液体クロマトグラフを使用する煩雑な行程を経ることなく分析することを可能にした、簡易化された高感度蛍光分析法。

【公開番号】特開2008−180683(P2008−180683A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41414(P2007−41414)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「民間実用化研究促進事業/(生乳混入抗菌性物質の自動検知センシングシステムおよび搾乳あるいは出荷自動管理システムの開発)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(507056553)十勝テレホンネットワーク株式会社 (4)
【出願人】(500487550)株式会社アドヴァンストテクノロジ (8)
【出願人】(596067386)
【出願人】(594066017)
【Fターム(参考)】