説明

試料調製方法および液体クロマトグラフィ装置

【課題】試料中の溶存酸素が分析結果に与える影響を適切に抑制する。
【解決手段】充填剤を保持したカラム60と、カラム60に導入する試料を調製するための試料調製手段5と、を備えた液体クロマトグラフィ装置Xにおいて、試料調製手段5を、試料中の酸素飽和度を高めるように構成した。試料調製手段5は、試料中の酸素飽和度を85%以上とするように構成されている。試料調製手段5は、たとえば試料を1分間以上大気開放させることにより、試料中の酸素飽和度を85%以上とするように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラムに導入される試料中の溶存酸素の影響を低減することができる試料調製方法および液体クロマトグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液などの生体試料を用いて生体成分を分離分析する場合には、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を利用した高速液体クロマトグラフィ装置(HPLC装置)が広く用いられている(たとえば特許文献1,2参照)。一般的なHPLC装置は、図5に示したように、生体成分を含んだ試料が、インジェクションバルブ90を介して分析カラム91に導入され、分析カラム91の充填剤に生体成分が吸着させられる。その一方で、充填剤に吸着したに生体成分は、溶離液ボトル92から送液ポンプ93の動力によって分析カラム91に送られた溶離液によって脱着させられる。分析カラム91からの脱着液は、測光機構94によって吸光度が連続的に測定され、これにより、生体成分の分離分析が行なわれる。
【0003】
その一方で、分析カラム91に導入する試料としては、たとえばグリコヘモグロビンを測定する場合には全血中の赤血球から調製されたものが使用される。試料の調製は、全血から血球成分を採取するとともに、希釈槽95において赤血球を溶血させた後、この溶血液を蒸留水や希釈液によって希釈することにより行なわれている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−133445号公報
【特許文献2】特開2000−275229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、希釈槽95からインジェクションバルブ90への試料の供給は、希釈槽95における試料の調整が完了した後、時間をおかずに直ぐに行なわれている。そのため、試料中の溶存酸素濃度が低いために、測定されるグリコヘモグロビン濃度が真値からずれたものとなることがある。これは、血液試料中のグリコヘモグロビン濃度を測定する場合には、グリコヘモグロビンがヘモグロビン総量におけるグリコヘモグロビンの割合として把握される一方で、試料中の酸素飽和度(溶存酸素濃度)は、調製対象となる血液が長期保存された場合や遠心分離により血漿と血球に分離された場合に変動しうるからである。すなわち、血液を長期保存した場合には、経時的に溶存酸素が消費されて酸素飽和度(溶存酸素濃度)が低くなる。一方、遠心分離した血液では、血球層における下層部分は、上層部分に比べて酸素飽和度(溶存酸素濃度)が低く、血球層における酸素飽和度(溶存酸素濃度)は、血球層の位置(深さ)によって異なったものとなる。そのため、血球層における上層部から採取した血球から試料を調製した場合と、下層部から採取した血球から試料を調製した場合では、試料中の酸素飽和度(溶存酸素濃度)が異なったものとなる。
【0006】
このようにして酸素飽和度(溶存酸素濃度)が異なる場合には、ヘモグロビン中におけるオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとの比率が変動する。その一方で、血液試料を希釈して酸素が比較的多い状態で分析カラム91に導入することから、測光機構94においては、オキシヘモグロビンの最大吸収波長である415nmを測定波長として使用している。そのため、酸素飽和度(溶存酸素濃度)の異なる試料を用いる場合には、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとの比率が異なることとなるため、それらを同一の波長において測定する場合には正確な測定が困難となる。
【0007】
本発明は、試料中の溶存酸素が分析結果に与える影響を適切に抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面においては、液体クロマトグラフィ装置のカラムに導入するための試料を調製する方法であって、試料中の酸素飽和度を高めるための酸素富化工程を含んでいることを特徴とする、試料調製方法が提供される。
【0009】
酸素富化工程においては、試料中の酸素飽和度は、たとえば85%以上とされる。
【0010】
本発明に係る試料調製方法は、たとえば酸素富化工程に先んじ行なわれ、かつ検体の希釈および検体に含まれる赤血球の溶血を行なう工程をさらに含んでいる。この場合、酸素富化工程は、希釈・溶血後の試料を一定時間放置することにより行なわれる。
【0011】
酸素富化工程は、たとえば希釈・溶血後の試料を一定時間大気開放することにより行なわれる。この場合の大気開放時間は、たとえば1分間以上とされ、好ましくは1〜2分間とされる。
【0012】
酸素富化工程は、たとえば希釈液として酸素飽和度の高いものを用いるとともに、希釈・溶血後において一定時間放置することにより行なわれる。希釈・溶血後における放置時間は、1分以上であるのが好ましい。希釈液として、酸素飽和度が85%以上のものを用いるのが好ましい。
【0013】
ここで、本発明において「希釈液」という場合には、特段の言及がない限りは、専ら希釈の目的のために使用されるものばかりでなく、溶血剤を含む希釈液などのように、希釈目的以外に他の目的をも達成するために使用されるものも含まれる。
【0014】
酸素富化工程は、空気または酸素リッチなガスを用いて試料をバブリングすることにより行なうようにしてもよい。
【0015】
本発明の第2の側面においては、充填剤を保持したカラムと、上記カラムに導入する試料を調製するための試料調製手段と、を備えた液体クロマトグラフィ装置であって、上記試料調製手段は、試料中の酸素飽和度を高めるように構成されていることを特徴とする、液体クロマトグラフィ装置が提供される。
【0016】
試料調製手段は、たとえば試料中の酸素飽和度を85%以上とするように構成される。
【0017】
試料調製手段は、たとえば赤血球を含む検体の希釈および赤血球の溶血を行い、かつ、希釈・溶血後の試料を一定時間放置することにより、試料中の酸素飽和度を高めるように構成される。
【0018】
試料調製手段は、たとえば希釈・溶血後の試料を一定時間大気開放させることにより、試料中の酸素飽和度を高めるように構成される。この場合の大気開放時間は、たとえば1分間以上とされ、好ましくは1〜2分間とされる。
【0019】
試料調製手段はまた、たとえば希釈液として酸素飽和度の高いものを用いるとともに、希釈・溶血後において一定時間放置するように構成される。希釈・溶血後における放置時間は、1分以上であるのが好ましい。希釈液として、酸素飽和度が85%以上のものを用いるのが好ましい。
【0020】
試料調製手段としてはさらに、空気または酸素リッチなガスを用いて試料をバブリングするためのバブリング機構を有する構成であってもよい。
【0021】
本発明の液体クロマトグラフィ装置は、たとえば試料中のグルコヘモグロビンを測定するように構成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な例について、図1ないし図3を参照して説明する。
【0023】
図1に示したHPLC装置Xは、ラック10に保持させた採血管11をテーブル20にセットして、全血中のグリコヘモグロビン濃度を自動で測定するように構成されたものである。このHPLC装置Xは、複数の溶離液ボトル12A,12B,12C(図面上は3つ)、および装置本体2を備えている。
【0024】
各溶離液ボトル12A,12B,12Cは、後述する分析カラム60に供給すべき溶離液を保持したものであり、装置本体2におけるホルダ部21に配置されている。溶離液としては、たとえばpHや塩濃度の異なるバッファが使用される。
【0025】
装置本体2は、上述のテーブル20およびホルダ部21の他に、筐体3の内部に収容された、脱気ユニット4、試料調製ユニット5、分析ユニット6、および測光ユニット7を有している。
【0026】
テーブル20は、所定部位にセットされたラック10を移動させることにより、ラック10に保持させた採血管11を、後述する試料調製ユニット5におけるノズル51により採取可能な位置に移動させるように構成されている。
【0027】
筐体3には、操作パネル30および表示パネル31が設けられている。操作パネル30は、複数の操作ボタン32が設けられたものであり、操作ボタン32を操作することにより、各種の動作(分析動作や印字動作など)を行わせるための信号を生成させ、あるいは各種の設定(分析条件の設定や被験者のID入力など)を行うことができる。表示パネル31は、分析結果やエラーである旨を表示するとともに、設定時における操作手順や操作状況などを表示するためのものである。
【0028】
図2に示したように、脱気ユニット4は、分析ユニット6(分析カラム60)に溶離液を供給する前に、溶離液から溶存気体を除去するためのものであり、配管80A,80B,80Cを介して溶離液ボトル12A,12B,12Cに、配管81A,81B,81Cを介して分析ユニット6のマニホールド61に連結されている。
【0029】
試料調製ユニット5は、採血管11から採取した血球成分から、分析カラム60に導入する試料を調製するためのものである。この試料調製ユニット5は、ノズル51、調製液タンク52および希釈槽53を有している。
【0030】
ノズル51は、採血管11の血液試料13をはじめとする各種の液体を採取するためのものであり、液体の吸引・吐出が可能であるとともに、上下方向および水平方向に移動可能とされている。このノズル51の動作は、図外の制御手段によって制御されている。
【0031】
調製液タンク52は、血液試料13をもとに、分析カラム60に導入するための導入用試料を調製するための調製液を保持したものである。この調製液タンク52には、調製液として、赤血球の溶血させるための溶血剤を含む希釈液などが保持されている。希釈液としては、酸素飽和度の高いもの、たとえば酸素飽和度が85%以上のものを使用するのが好ましい。調製液タンク52からの調製液の採取には、ノズル51が使用される。
【0032】
なお、調製液タンク52には、希釈液として溶血剤を含むものが保持されているが、調製液タンク52に溶血剤を含まない希釈液と溶血剤とを個別に保持させてもよい。
【0033】
希釈槽53は、血液試料13中の赤血球の溶血および血液試料13の希釈を行って導入用試料を調製する場であるとともに、導入用試料を大気に接触させて導入用試料における酸素飽和度を高めるためのものである。この希釈槽53は、後述する分析ユニット6におけるインジェクションバルブ63に配管83を介して接続されており、希釈槽53において調製された導入用試料がインジェクションバルブ63を介して分析カラム60に導入できるように構成されている。希釈槽53はまた、導入用試料を大気に接触させるために上部が開放されている。
【0034】
分析ユニット6は、分析カラム60の充填剤に対する生体成分の吸着・脱着をコントロールし、各種の生体成分を測光ユニット7に供するためのものであり、図外の温調機構により温度コントロールされている。分析ユニット6における設定温度は、たとえば40℃程度とされる。分析カラム60は、試料中のヘモグロビンを選択的に吸着させるための充填剤を保持させたものである。充填剤としては、たとえばメタクリル酸アクリル共重合体が使用される。
【0035】
分析ユニット6は、分析カラム60の他に、マニホールド61、送液ポンプ62、およびインジェクションバルブ63を有している。
【0036】
マニホールド61は、複数の溶離液ボトル12A,12B,12Cのうちの特定の溶離液ボトル12A,12B,12Cから、インジェクションバルブ63に選択的に溶離液を供給させるためのものである。このマニホールド61は、配管81A,81B,81Cを介して脱気ユニット4に接続され、配管84を介してインジェクションバルブ63に接続されている。
【0037】
送液ポンプ62は、溶離液をインジェクションバルブ63に移動させるための動力を付与するためのものであり、配管84の途中に設けられている。送液ポンプ62は、たとえば溶離液の流量が1.0〜2.0ml/minとなるように動作させられる。
【0038】
インジェクションバルブ63は、一定量の導入用試料を採取するとともに、その導入用試料を分析カラム60に導入可能とするものであり、複数の導入ポートおよび排出ポート(図示略)を備えている。このインジェクションバルブ63には、インジェクションループ64が接続されている。このインジェクションループ64は、一定量(たとえば数μL)の液体を保持可能なものであり、インジェクションバルブ63を適宜切り替えることにより、インジェクションループ64が希釈槽53と連通して希釈槽53からインジェクションループ64に導入用試料が供給される状態、インジェクションループ64が配管85を介して分析カラム60と連通してインジェクションループ64から導入用試料が分析カラム60に導入される状態、あるいはインジェクションループ64に図外の洗浄槽から洗浄液が供給される状態を選択することができる。このようなインジェクションバルブ63としては、たとえば六方バルブを使用することができる。
【0039】
図3に示したように、測光ユニット7は、分析カラム60からの脱着液に含まれるヘモグロビンを光学的に検出するためのものであり、測光セル70、光源71、ビームスプリッタ72、測定用受光系73および参照用受光系74を有している。
【0040】
測光セル70は、測光エリアを規定するためのものである。この測光セル70は、導入流路70A、測光流路70Bおよび排出流路70Cを有しており、これらの流路70A,70B,70Cが一連に連通している。導入流路70Aは、分析カラム60(図2参照)からの脱離液を測光流路70Bに導入するためのものであり、分析カラム60に配管86を介して接続されている。測光流路70Bは、測光対象となる脱離液を流通させ、かつ脱離液を測光するための場を提供するものであり、直線状に形成されている。この測光流路70Bは、両端が開放しているとともに、両端部が透明カバー75により塞がれている。排出流路70Cは、測光流路70Bの脱離液を排出するためのものであり、配管87を介して廃液槽88に接続されている(図2参照)。
【0041】
光源71は、測光流路70Bを流通する脱離液に光を照射するためのものである。この光源71は、光軸Lが測光流路70Bの中心を通過するように、測光流路70Bの端面70Ba(透明カバー75)に対面した状態で配置されている。光源71としては、オキシヘモグロビンの最大吸収波長である415nmおよび参照波長である500nmの光を含んだ波長範囲の光を出射可能なもの、たとえばハロゲンランプが使用されている。もちろん、光源71としては、ハロゲンランプ以外のもの、たとえば1または複数のLED素子を備えたものを使用することもできる。
【0042】
ビームスプリッタ72は、光源71から出射された光のうち、測光流路70Bを透過した光を分割して測定用受光系73および参照用受光系74に入射させるためのものであり、光軸L上において、45度傾斜した状態で配置されている。ビームスプリッタ72としては、ハーフミラーなどの公知の種々のものを使用することができる。
【0043】
測定用受光系73は、ビームスプリッタ72を透過した光のうち、オキシヘモグロビンの最大吸収波長である415nmの光を選択的に受光するものであり、光軸L上に配置されている。この測定用受光系73は、415nmの光を選択的に透過させる干渉フィルタ73Aと、干渉フィルタ73Aを透過した光を受光するための受光素子73Bと、を備えている。受光素子73Bとしては、フォトダイオードを使用することができる。
【0044】
参照用受光系74は、ビームスプリッタ72において反射して光路が変えられた光のうち、参照波長である500nmの光を選択的に受光するものである。この測定用受光系74は、500nmの光を選択的に透過させる干渉フィルタ74Aと、干渉フィルタ74Aを透過した光を受光するための受光素子74Bと、を備えている。受光素子74Bとしては、フォトダイオードを使用することができる。
【0045】
次に、HPLC装置Xの動作について説明する。
【0046】
HPLC装置Xを用いてグリコヘモグロビンを測定する場合には、まず血液試料13が入った採血管11をラック10に保持させた状態で、ラック10をテーブル20の所定の部位にセットする。採血管11の血液試料13は、予め血漿層と血球層に分離させられる。このような分離は、遠心分離機を用いて、あるいは血球成分を自然沈降させることにより行なうことができる。
【0047】
血漿層13Aと血球層13Bとの分離は、HPLC装置Xに遠心分離機を組み込んでHPLC装置Xにおいて行なうようにしてもよく、また、テーブル20に採血管11をセットした状態で一定時間静置することにより行ってもよい。
【0048】
HPLC装置Xにおいては、測定開始の指示が確認された場合には、テーブル20においてラック10を移動させ、目的とする採血管11から、血液試料13を採取する。測定開始の指示は、使用者がHPLC装置Xの所定の操作ボタン32を操作することにより行なわれる。
【0049】
次いで、ノズル51を動作させることによって採血管11から血液試料13を採取する。ノズル51によって採取された血液試料13は、ノズル51を動作させることによって希釈槽53に供給される。希釈槽53にはさらに、調製液タンク52から希釈液が供給され、ノズル51を利用したピペッティング操作によって希釈槽53内の液体を混合することによって導入用試料が調製される。なお、溶血剤を含まない希釈液と溶血剤とを併用する場合には、希釈槽53に対して希釈液および溶血液を同時的に供給して血液試料13の希釈および血液試料13の血球の溶血を同時的に行なってもよいし、それらを時間をおいて個別に供給し、血液試料13の希釈および血液試料13の血球の溶血を別工程として行なってもよい。
【0050】
希釈槽53において調製された導入用試料は、希釈槽53において大気と一定時間接触させた後、インジェクションループ64に供給され、インジェクションループ64において保持される。
【0051】
導入用試料を一定時間大気と接触させた場合には、導入用試料の溶存酸素量が増加させられる。このようにして導入用試料の酸素飽和度を高めた場合には、インジェクションループ64ひいては分析カラム60に対して溶存酸素量の大きな導入用試料を供給することができる。すなわち、導入用試料に含まれるヘモグロビンにおいて、オキシヘモグロビンの割合が大きなものとすることができる。
【0052】
ここで、導入用試料と大気との接触時間(大気開放時間)は、たとえば1〜2分とされる。これは、大気開放時間が短すぎる場合には導入用試料に対して十分な量の酸素を溶存させることができない一方で、大気開放時間が長すぎる場合には導入用試料調製後からインジェクションループ64へ導入用試料を導入するまでの時間が大きくなって測定時間が長くなってしまうからである。
【0053】
また、希釈液として酸素飽和度の高いもの、たとえば酸素飽和度が85%以上のものを使用する場合には、必ずしも希釈後の導入用試料を大気開放する必要はない。すなわち、酸素飽和度の高い希釈液を用いる場合には、希釈槽53として閉鎖されたものを用いる場合であっても一定時間(たとえば1分以上)放置することにより、希釈後の導入用試料の酸素飽和度を高めることができ、ヘモグロビン中のオキシヘモグロビンの割合を大きなものとすることができる。
【0054】
インジェクションバルブ63に供給された溶離液は、配管85を介して分析カラム60に供給される。その一方で、インジェクションバルブ63の切替操作を行うことにより、インジェクションループ64の導入用試料が溶離液とともに分析カラム60に導入される。導入用試料の導入開始から一定時間経過した場合には、インジェクションバルブ63の切替操作を行うことにより、分析カラム60に対して引き続き溶離液を供給するとともに、インジェクションループ64の洗浄を行なう。一方、インジェクションループ64の洗浄と同時的に、先に説明したのと同様にして、先とは異なる採血管11の血液試料13から導入用試料を調製し、インジェクションループ64の洗浄後においては、再び導入用試料をインジェクションループ64に導入する。このような導入用試料の調製、導入、洗浄は、インジェクションバルブ63を適宜切り替えつつ、測定対象となる採血管11(血液試料13)の数に応じて繰り返し行なわれる。
【0055】
一方、分析カラム60においては、導入用試料が導入されることにより、充填剤にグリコヘモグロビンが吸着する。充填剤にグリコヘモグロビンを吸着させた後においては、マニホールド61によって、分析カラム60に供給する溶離液の種類を適宜切り替え、充填剤に吸着したグリコヘモグロビンを脱着させる。
【0056】
分析カラム60から排出されるグリコヘモグロビンを含む脱着液は、配管81A,81B,81Cを介して測光ユニット7の測光セル70に供給される。測光セル70に対しては、導入流路70Aを介して脱着液が導入され、この脱着液は測光流路70Bおよび排出流路70Cを通過した後に、配管87を介して廃液槽88に導かれる。
【0057】
測光ユニット7においては、脱離液が測光流路70Bを通過する際に、光源71によって脱離液に対して連続的に光が照射される。その一方で、測光流路70Bを透過した光は、ビームスプリッタ72において分割された後、測定用受光系73および参照用受光系74において受光される。測定用受光系73では、干渉フィルタ73Aを透過したオキシヘモグロビンの最大吸収波長である415nmの光が受光素子73Bにおいて選択的に受光される。一方、参照用受光系74では、干渉フィルタ74Aを透過した参照波長である500nmの光が受光素子74Bにおいて選択的に受光される。
【0058】
受光素子73A,74Aでの受光結果は、図外の演算回路に出力され、この演算回路においてヘモグロビンのクロマトグラム、グリコヘモグロビンの濃度(ヘモグロビン総量におけるグリコヘモグロビンの割合)が演算される。演算回路での演算結果は、表示パネル31に表示され、また自動的あるいは使用者のボタン操作によってプリントアウトされる。
【0059】
このようなHPLC装置Xでは、分析カラム60に導入するための導入用試料における酸素飽和度(溶存酸素量)は、導入用試料の調製後において、分析カラム60に導入する前に、希釈槽53において高められている。そのため、分析カラム60に導入される導入用試料は、各回の測定における酸素飽和度(溶存酸素濃度)のバラツキが抑制されるため、導入用試料におけるオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの比率を一定化して分析カラム60に供給することが可能となる。その結果、導入用試料ごとのオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとの比率のバラツキに起因する測定結果のバラツキを抑制することが可能となる。
【0060】
本発明は、上述した実施の形態には限定されず、種々に変更可である。たとえば、希釈槽53において調製された導入用試料を実質的に飽和させるための酸素飽和手段としては、たとえば図4に示したように希釈槽53の導入用試料を、酸素リッチなガス、あるいは空気によりバブリングするバブリング機構54を採用することもできる。
【0061】
本発明はさらに、血液中のグリコヘモグロビン濃度を測定するためのHPLC装置に限らず、血液以外の検体を用いる場合、グリコヘモグロビン濃度以外の成分を測定する場合、あるいはHPLC装置以外の液体クロマトグラフィ装置についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係るHPLC装置の一例を示す全体斜視図である。
【図2】図1に示したHPLC装置の概略構成図である。
【図3】図1に示したHPLC装置における測光ユニットを説明するための断面図である。
【図4】本発明に係るHPLC装置におけるバブリング機構を示す模式図である。
【図5】従来のHPLC装置(高速液体クロマトグラフィ装置)の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0063】
X HPLC装置
13 血液試料
5 試料調製ユニット
54 バブリング機構
60 分析カラム
7 測光ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィ装置のカラムに導入するための試料を調製する方法であって、
試料中の酸素飽和度を高めるための酸素富化工程を含んでいることを特徴とする、試料調製方法。
【請求項2】
上記酸素富化工程においては、試料の酸素飽和度が85%以上とされる、請求項1に記載の試料調製方法。
【請求項3】
上記酸素富化工程に先んじ行なわれ、かつ検体の希釈および検体に含まれる赤血球の溶血を行なう工程をさらに含んでおり、
上記酸素富化工程は、希釈・溶血後の試料を一定時間放置することにより行なわれる、請求項1または2に記載の試料調製方法。
【請求項4】
上記酸素富化工程は、希釈・溶血後の試料を一定時間大気開放することにより行なわれる、請求項3に記載の試料調製方法。
【請求項5】
大気開放時間は、1分間以上である、請求項4に記載の試料調製方法。
【請求項6】
上記酸素富化工程は、希釈液として酸素飽和度の高いものを用いるとともに、希釈・溶血後において一定時間放置することにより行なわれる、請求項3に記載の試料調製方法。
【請求項7】
希釈・溶血後における放置時間は、1分間以上である、請求項6に記載の試料調製方法。
【請求項8】
上記希釈液として、酸素飽和度が85%以上のものを用いる、請求項6または7に記載の試料調製方法。
【請求項9】
上記酸素富化工程は、空気または酸素リッチなガスを用いて試料をバブリングすることにより行なわれる、請求項1ないし3のいずれかに記載の試料調製方法。
【請求項10】
充填剤を保持したカラムと、
上記カラムに導入する試料を調製するための試料調製手段と、
を備えた液体クロマトグラフィ装置であって、
上記試料調製手段は、試料中の酸素飽和度を高めるように構成されていることを特徴とする、液体クロマトグラフィ装置。
【請求項11】
上記試料調製手段は、上記試料中の酸素飽和度を85%以上とするように構成されている、請求項10に記載の液体クロマトグラフィ装置。
【請求項12】
上記試料調製手段は、赤血球を含む検体の希釈および赤血球の溶血を行い、かつ、希釈・溶血後の試料を一定時間放置することにより、上記試料中の酸素飽和度を高めるように構成されている、請求項10または11に記載の液体クロマトグラフィ装置。
【請求項13】
上記試料調製手段は、希釈・溶血後の試料を一定時間大気開放させることにより、上記試料中の酸素飽和度を高めるように構成されている、請求項12に記載の液体クロマトグラフィ装置。
【請求項14】
上記試料調製手段は、1分間以上大気開放させることにより、上記試料中の酸素飽和度を高めるように構成されている、請求項13に記載の液体クロマトグラフィ装置。
【請求項15】
上記試料調製手段は、上記希釈液として酸素飽和度の高いものを用いるとともに、希釈・溶血後において一定時間放置することにより、上記試料中の酸素飽和度を高めるように構成されている、請求項12に記載の液体クロマトグラフィ装置。
【請求項16】
上記試料調製手段は、希釈・溶血後において、1分間以上放置することにより、上記試料中の酸素飽和度を高めるように構成されている、請求項15に記載の液体クロマトグラフィ装置。
【請求項17】
上記希釈液として、酸素飽和度が85%以上のものを用いる、請求項15または16に記載の液体クロマトグラフィ装置。
【請求項18】
上記試料調製手段は、空気または酸素リッチなガスを用いて上記試料をバブリングするためのバブリング機構を有している、請求項10ないし12のいずれかに記載の液体クロマトグラフィ装置。
【請求項19】
血液試料中のグルコヘモグロビン濃度を測定するように構成されている、請求項10ないし18のいずれかに記載の液体クロマトグラフィ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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