説明

試料電位情報検出方法及び荷電粒子線装置

【課題】本発明の目的は、荷電粒子線の照射によって誘起される試料の電位変化を抑制しつつ、荷電粒子線を用いた試料表面の電位測定、或いは試料帯電によって変化する装置条件の変動の補償値を検出する方法、及び装置の提供にある。
【解決手段】上記目的を達成するために、荷電粒子線を試料に向けて照射している状態において、当該荷電粒子線が試料へ到達しない状態(以下ミラー状態と称することもある)となるように、試料に電圧を印加し、そのときに得られる信号を用いて、試料電位に関する情報を検出する方法、及び装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に荷電粒子線を照射する荷電粒子線の照射方法、及び荷電粒子線装置に係り、特に、試料電位を測定するのに好適な試料電位情報検出方法、及び試料電位を検出する荷電粒子線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、特に半導体デバイスの進歩に伴って、半導体の測定・検査技術は益々、その重要性を増している。CD−SEM(Critical Dimension-Scanning Electron Microscope)に代表される走査電子顕微鏡は、電子ビームを試料上に走査し、試料から放出される二次
電子等の電子を検出することによって、半導体デバイスに形成されたパターンの測定を行うための装置である。このような装置において、高精度な測定,検査を行うためには、装置の条件を適正に設定する必要があるが、昨今のデバイスの中には、電子ビームの照射、或いは半導体プロセスの影響によって帯電が付着する試料がある。特にレジスト,絶縁膜,Low−k材等の絶縁試料は、帯電が付着し易い試料として知られている。
【0003】
試料が帯電していると、電子の軌道が曲げられ、非点や画像のぼけの原因となる。このような帯電した試料に対して、適正に焦点を合わせるために、帯電量を測定し、帯電の影響をキャンセルするように、試料に印加する電圧を制御する技術が、特許文献1,特許文献2,特許文献3に説明されている。
【0004】
また、試料電位を非接触で測定するために、先端が尖った金属針から放出されるフィールドエミッション電流、或いはトンネル電流を検出する技術が特許文献4に説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−229541号公報
【特許文献2】特開平10−125271号公報
【特許文献3】特開2001−236915号公報
【特許文献4】特開平1−214769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1乃至3に記載の技術は、いずれも試料上の帯電量を測定し、その測定に基づいて装置条件を調整する技術に関するものであるが、試料に対する電子ビームの照射に基づいて得られる信号を検出することで、帯電量を測定しているため、電子ビームの照射によって帯電を誘起してしまうことになり、電子ビーム照射前の帯電量を測定することが困難であるという問題がある。
【0007】
一方、特許文献4に記載の技術によれば、電子ビームによる帯電の誘起なしに、試料表面の電位測定が可能であるが、金属針を試料に近づけることによる試料電位の変化や、帯電量が大きいときは放電の問題がある。
【0008】
本発明の目的は、荷電粒子線の照射によって誘起される試料の電位変化を抑制しつつ、荷電粒子線を用いた試料表面の電位測定、或いは試料帯電によって変化する装置条件の変動の補償値を検出する方法、及び装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によれば、荷電粒子線を試料に向けて照射している状態において、当該荷電粒子線が試料へ到達しない状態(以下ミラー状態と称することもある)となるように、試料に電圧を印加し、そのときに得られる信号を用いて、試料電位に関する情報を検出する方法、及び装置を提供する。
【0010】
本発明の好適な一例では、荷電粒子源から放出される荷電粒子線が試料に向かって照射されている状態で、前記試料に到達することなく反射される荷電粒子に基づいて、前記試料の電位を求める試料電位測定方法において、当該荷電粒子源から放出される荷電粒子線を加速させる加速電圧の値よりも、前記荷電粒子線を減速させるリターディング電圧の値が大きいときに、前記荷電粒子源と、前記荷電粒子線を集束する対物レンズとの間に配置された荷電粒子検出器に検出される前記荷電粒子の軌道に関する情報と、所定の試料電位において前記荷電粒子検出器に検出される荷電粒子の軌道に関する情報との違いに基づいて、前記試料の電位を求める方法、及び装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
以上のような構成によれば、試料に荷電粒子線を照射しない状態にて得られる情報から、試料電位、或いは装置の調整条件を検出しているため、試料の電位変化を抑制しつつ、試料電位等の検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】走査電子顕微鏡の概略を説明する図。
【図2】走査電子顕微鏡の他の構成を説明する図。
【図3】ミラー電子によって形成される画像の帯電電位による変化を表す図。
【図4】ミラー電子のずれ量を検出する方法を説明する図(実施例3)。
【図5】ミラー電子のずれ量を検出する方法を説明する図(実施例4)。
【図6】ミラー電子のずれ量を検出する方法を説明する図(実施例5)。
【図7】ミラー電子のずれ量を検出する方法を説明する図(実施例6)。
【図8】ミラー電子のずれ量を検出する方法を説明する図(実施例7)。
【図9】走査電子顕微鏡の更に他の構成を説明する図。
【図10】加工信号形成方法の例を示す図。
【図11】ミラー電子を用いた電位測定の原理を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
昨今、ULSI素子の微細化や高集積化が急速に進められ、加工寸法が数10nmのデバイス加工が行われつつある。また高速化のために低誘電率膜やメタルゲート膜の採用,対エッチング耐性を高めるための3層レジストなど、多種類の新材料を用いた多層化が進行している。そのために、ULSI加工時の寸法精度(CD)管理に対する要請が厳しくなっている。
【0014】
レジストや絶縁膜,Low−k材等の絶縁体は半導体加工工程で多く用いられているが、この絶縁体表面は、電子線照射により帯電する。帯電すると試料表面から脱出しようとする2次電子の量を変えたり、また1次電子線の軌道を曲げたりするため、走査電子顕微鏡の画像を歪ませることになる。その結果として、真の加工寸法や形状を測定することが困難になっている。例えばArFレジストでは、エッチング工程でラインエッジラフネス(LER)が発生したのか、また電子顕微鏡での帯電による寸法の誤測定なのかの判定ができなくなる。また高アスペクトのコンタクトホール観察では、コンタクトホールの形状が歪んで観測されたり、ホールの上部径と下部径の識別が困難となったりする問題が発生する。
【0015】
帯電は電子の移動・拡散による空間的変化に加え、ホール・電子再結合などによる減衰など、空間的/時間的に変化する。また試料表面に入射する電子のエネルギーによって、正に帯電したり、負に帯電したりする。そのために、帯電を制御することが重要になっている。帯電によって電子の軌道が曲げられる結果、像を結ぶことができない箇所(非点)や画像のボケが発生したりする。電子を所定位置に集束させて、自動的にフォーカスを合わせる(オートフォーカス)機能も帯電によって、当初のフォーカス位置からずれるなどの問題が生じ、フォーカスを合わせるのに時間が掛かっている。帯電電位の大きさや分布を知ることが重要になっている。
【0016】
以下に図面を用いて、本発明の好適な実施例について説明する。
【0017】
図1は、走査電子顕微鏡の概略を説明する図である。なお、以下の説明では電子ビームを試料上にて走査する走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を例にとって説明するが、これに限られることはなく、例えばFIB(Focused Ion beam)装置
(集束イオンビーム装置)等の他の荷電粒子線装置にも適用することも可能である。但し、ビームの電荷の極性によって、試料に印加する電圧の極性を変化させる必要がある。また、図1は走査電子顕微鏡の一例を説明しているに過ぎず、図1とは異なる構成からなる走査電子顕微鏡においても、発明の趣旨を変えない範囲において、本発明の適用が可能である。
【0018】
図1に説明する走査電子顕微鏡では、電界放出陰極11と、引出電極12との間に引出電圧が印加され、一次電子ビームが引き出される。
【0019】
このようにして引き出された一次電子ビーム1は、加速電極13によって加速され、コンデンサレンズ14による集束と、上走査偏向器21、及び下走査偏向器22による走査偏向を受ける。上走査偏向器21、及び下走査偏向器22の偏向強度は、対物レンズ17のレンズ中心を支点として試料23上を二次元走査するように調整されている。
【0020】
偏向を受けた一次電子ビーム1は、対物レンズ17の通路に設けられた加速円筒18でさらに後段加速電圧19の加速をうける。後段加速された一次電子ビーム1は、対物レンズ17のレンズ作用で絞られる。筒状円筒20は、接地されており、加速円筒18との間に、一次電子ビーム1を加速させる電界を形成する。
【0021】
試料から放出された二次電子や後方散乱電子等の電子は、試料に印加される負電圧(以下リターディング電圧と称することもある)と、加速円筒18との間に形成される電界によって、一次電子ビーム1の照射方向とは逆の方向に加速され、検出器29によって検出される。
【0022】
検出器29にて検出された電子は、走査偏向器に供給される走査信号と同期して図示しない画像表示装置上に表示される。また、得られた画像は図示しないフレームメモリに記憶される。なお、図1に示す走査電子顕微鏡の各構成要素に供給,印加する電流或いは電圧は、走査電子顕微鏡本体とは別に設けた制御装置を用いて、制御するようにしても良い。
【実施例1】
【0023】
以下に、電子ビームを用いて、試料の電位を測定する方法、及びそれを実現するための装置について説明する。
【0024】
まず、電子の加速エネルギーをEe、試料電位をVrとすると、|−Vr|をEeより大きい状態に設定する。加速エネルギーEeは、電界放射陰極11と加速電極13との間の電位差によって決定される。
【0025】
この状態で電子ビームを試料に向かって出射すると、入射電子は試料に入射することなく、直上で反射される(この電子をミラー電子と呼ぶ)。反射されたミラー電子は、レンズ系の中を反対方向に移動して行く。レンズ系に検出器を配置してミラー電子の到達位置を検出し、入射電子の通過位置とミラー電子の到達位置の差『ずれ』を検出する。試料帯電がなければ、入射電子と同じ軌道を辿って、電子が反射されるため、このずれ量は、試料電位Vrの値を反映していることになる。よってずれ量とVrの関係を、予め測定しておくことによって、ずれ量から試料電位を求めることが可能となる。
【0026】
なお、本例における『ずれ』(違い)は、検出器に投影されるミラー電子の広がりや位置の変化、或いはミラー電子によって形成される画像の二次元的なずれを検出することによって得られる。また、画像間の回転や画像のぼけの違いを検出することによっても、試料電位を求めることが可能である。
【0027】
ずれ量と試料電位の関係は、例えば次のようにして求めることができる。試料の高さをZ、試料電位をVr1にした時の物点の位置をZcとし、この状態でレンズ系のパラメータを調整してフォーカスが合った状態にする。
【0028】
検出器の位置は高さ方向z1の位置にあるとする。この時のミラー電子の検出位置をZr1(x1,y1,z1)とする。これを基準値として用いる。次に試料電位をVr2に設定して、同じエネルギーでビームを出射し、この時のミラー電子の到達位置Zr2(x2,y2,z1)を検出器から求める。Zr1とZr2のずれ量を求め、この差と電位との相関を表すVr−Zr相関曲線を求める。この際、(Vr,Zr)のデータの組の数が多い程、より高い精度の相関曲線を得ることができる。この状態で、帯電した試料を観察した時のミラー電子の到達位置がZr3であるとすると、Vr−Zr相関曲線から試料電位を求めることができる。試料には電子線を入射させないので、状態を変えることなく帯電電位が測定できることになる。
【0029】
ここでは、相関曲線を得る方法としてVrを変化させたが、他にも方法がある。例えば対物レンズが磁場コイルで構成されている場合、像面位置Zと対物レンズを励磁する零時電流Icとの関係は既知となっていると考えられるので、基準値でのミラー電子のZr1だけ測定しておけば、励磁電流を変化させたときのずれ量の変化から、任意の帯電状態Vr3を推定することができる。この他にも、試料高さやブースタ電圧Vb,対物レンズに対する一次電子の物点位置、その他のパラメータを変えたりしても、Vr−Zr相関曲線が得られる。
【0030】
検出器に投影されるビームの広がりやずれを検出する場合、検出器は複数の検出素子が二次元的に拡がったものを用いることが望ましい。これら複数の検出素子の出力信号からミラー電子の到達位置、もしくは分布を求め、基準値からのずれを求めることが可能となる。
【0031】
また、画像を用いてずれ量を検出するようにすれば、より簡単にずれ量を検出することができる。ミラー電子は、試料直上で反射され、レンズ系の中を通過する際に、ビームの通路や構造物の影響を受ける。画像を取得するためには、入射ビームの位置を走査させてもよい。これによってビームの経路の構造物の形状が、画像として形成される。
【0032】
更に画像の回転を検出する場合には、投影される画像内に表示される構造物の回転量をモニタする。具体的には、基準のミラー条件で構造物に励磁電流を変化させフォーカスを合わせた時の回転角度から試料電位を求める方法や、基準条件から励磁電流を変化させた時の回転角の変化量(dθ/dIobj) から試料電位を求める方法がある。対物レンズの励磁電流−回転角度の関係を利用した方法について上述したが、励磁電流を試料電位Vr若しくは一次電子の物点位置,ブースタ電圧,試料高さ等、ミラーリング時の光学条件に関係するパラメータに置き換えても試料電位を計測することができる。また、構造物の形状は、片矢印や「上」の字のような対照性の少ない形状が望ましい。更に回転量と試料電位の相関を求めておくことで、モニタによって得られた複数の条件下の回転量から試料電位を推定すれば、より精度良く試料電位を測定できる。また、試料への印加電圧を調整することによって、電子ビームの焦点が変化するため、画像のぼけの程度と、試料電位との相関を予め求めておけば、ぼけの程度に応じた試料電位を検出することができる。ボケの検出は、複数の検出器を二次元上に配置することで、1.直接検出面のビーム分布を測定する方法と、2.検出面のスポット系と同程度の大きさの構造物のエッジだれを利用する方法がある。2.の方法を用いた場合、複数の大きさの構造物を配置すれば、広範囲のボケ量を高精度に測定できる。
【0033】
以上のように、回転量,ぼけ,倍率,画像歪み、或いはこれらの複合的な情報等をモニタすることによって、試料電位を特定することができる。
【0034】
以下、図面に沿って、試料電位を測定するための好適な一例を説明する。
【0035】
試料23がある電位に帯電しているとする。ステージ電圧制御系43で、試料に電位Vrを与える。ここでVrは電子の加速エネルギーEeよりも十分大きいように与える。なお、ここで言うところの加速エネルギーEeとは、試料に印加された電圧によって減速される前の値を示す。例えばEeが2keVの時は、−2200V程度より大きく与える。試料帯電量は、マイナス数百から大きくともプラス200V程度と考えられるので、−2200Vよりも絶対値が大きければよい。こうすると、試料より上の位置に−2000Vの等電位面2ができる。この電位面はミラー面と呼び、ここで一次電子ビームは反射されて上方に戻ることになる。
【0036】
この電子をミラー電子3と呼ぶことにする。レンズ系を通過したミラー電子3は検出器29に到達する。検出器29はミラー電子3の位置Zr3(x3,y3,zr)を検出する。ここでzrは高さ方向の位置である。演算器40はこのZr3の情報を、予め用意してある基準値Zr1からの‘ずれ’を算出する。この‘ずれ’量から‘ミラー電子位置と電位の相関曲線’を基に、試料の帯電電位Vr3を算出する。この情報は分析器41に送られ、その中で帯電状態を制御するために、制御系のパラメータの信号を設定する。制御系としては、例えば対物レンズ制御系42,ステージ電圧制御系43,加速電圧制御系44があり、各々励磁電流や、ステージ電圧,電子の引出し/加速エネルギーの設定を行い、これによって帯電状態を制御する。
【0037】
ずれ量と試料電位の関係は、例えば次のようにして求めることができる。試料の高さをZ、試料電位をVr1にした時の物点の位置をZcとし、この状態でレンズ系のパラメータを調整してフォーカスが合った状態にする。検出器の位置は高さ方向z1の位置にあるとする。図11に示すように、この時のミラー電子の検出位置をZr1(x1,y1,z1)とする。これを基準値として用いる。この時試料は帯電しないもしくはしない導体や半導体の試料を用いる方がよい。次に試料電位をVr2に設定して、同じエネルギーでビームを出射し、この時のミラー電子の到達位置Zr2(x2,y2,z1)を検出器から求める。
【0038】
Zr1とZr2のずれ量を求め、この差と電位との相関を表すVr−Zr相関曲線を求める。この際、(Vr,Zr)のデータの組が多くあれば、より高い精度の相関曲線を得ることができる。この状態で、帯電した試料を観察した時のミラー電子の到達位置がZr3であるとすると、Vr−Zr相関曲線から試料電位を求めることができる。
【0039】
上記の基準値での画像をS1として、これを参照画像とする。上記と同様に、参照画像として、試料電位Vr2に変化させた時の画像も取得して、Vr−S相関曲線を作成しておく。この状態にして、測定すべき試料での画像信号を検出器で検出し、その画像S3を、先の参照画像と比較することで、帯電電位Vr3を算出する。
【0040】
入射位置からのずれを画像で検出する場合、上述のように、走査電子顕微鏡の構成に応じて、様々な検出画像対象が考えられる。
【0041】
例えば、穴や構造物の位置,穴や構造物の画像のボケ具合を穴や構造物のエッジ部のコントラストの変化量から求める。他には穴や構造物のボケ具合を、その面積変化から求めることが考えられる。また、穴や構造物の基準画像からの回転角を検出することが考えられる。他に画像全体の輝度を見ることも考えられる。
【0042】
レンズ系の他にも、反射板(本例の説明では、リターディング電圧によって加速された電子を衝突させるための電極であって、別に設けられた二次電子検出器によって発生した二次電子が検出される。)やメッシュなどの構造物も対象にしても良いし、また意図的に目印になるもの、例えば参照用として穴形状を三角形や多角形にしたり、レンズ系の中に矢印を置いても良い。
【0043】
以下の実施例では、ずれを検出するための他の手法について、具体的に説明する。
【実施例2】
【0044】
図2は試料電位を検出するための第2の実施例を説明するための図である。コンデンサレンズ14で集束され、絞り15を通過した一次電子ビーム1を上走査偏向器21及び下走査偏向器22を用いて偏向させる。
【0045】
この際も上記実施例1と同じく、対物レンズ17を通過する時の一次電子ビーム1の加速エネルギーよりも、試料電圧の絶対値が大きくなるように試料に掛ける電位を設定しておく。一次電子ビーム1は試料23に到達することなく、ミラー面2で反射され、ミラー電子3となって検出器29の方へ戻る。一次電子ビーム1を上走査偏向器21及び下走査偏向器22で偏向させると、ミラー電子3の戻る軌道も変化するので、検出器29で検出し、演算器40で画像化すると、ミラー電子が通過した穴や構造物の形状が画像に反映される。
【0046】
例えばレンズ系の中にメッシュ30(エネルギーフィルタを構成する)を置き、また検出器29にビームの透過口31があると、ミラー電子3が通過することにより、図3のようなメッシュや穴が写った画像が得られる。
【0047】
図3(a)は試料の帯電電位を、帯電電位=試料電位−試料の設定電位で定義した時の帯電電位が0の状態を示している。
【0048】
すなわち帯電していない時の画像であり、図3(b)は帯電電位が100Vの時の画像である。電位を変えるもしくは変わると、中心部の穴の位置やメッシュの影の部分が移動することを示している。これらの画像は、電位が既知の画像(参照画像)として、演算器40にその情報を予め登録しておく。
【0049】
次に電位が未知の試料23に対して、一次電子ビーム1を走査して、ミラー電子3の画像を取得する。この画像を上記参照画像とを比較し、演算することで試料23の電位を求める。
【0050】
なお、本例ではミラー電子を検出することによって得られるメッシュ像と、予め取得されているメッシュ像とを比較し、そのずれ量を検出することによって、帯電量を検出している。この際、ずれ量と試料電位の相関を示す近似関数に、検出されたずれ量を代入することで、試料電位を測定することができる。
【0051】
この際、比較の対象となる画像は、ずれ量を検出する意味では試料電位が0Vの時に得られた画像とすることが望ましいが、これに限られることはなく、例えば試料電位が100Vのときに得られる画像と、検出された画像を比較することによって、実質的に、試料電位が0Vのときに得られる画像とのずれ量を求めるようにしても良い。
【実施例3】
【0052】
図4は試料電位を検出するための第3の実施例を説明するための図である。電位が既知の参照画像の内、例えば、ビーム通過口の画像50a,メッシュの画像50bを観察しておく、これに対して電位が未知の試料23を観察し、画像(ビーム通過口の画像51a,メッシュの画像51b)を得る。穴の位置の移動距離lを検出し、予め準備している相関曲線より帯電電位φを求める。ここでは移動距離として穴の中心位置を取ったが、メッシュの特定箇所の移動距離でもよい。
【実施例4】
【0053】
図5は試料電位を検出するための第4の実施例を説明する図であり、帯電によって生じるずれを求める方法を説明するためのものである。本例ではずれを、画像の輝度Iの分布変化から求める。ビーム通過口の画像51aを横切る方向をxとして、この方向の輝度Iの分布を求める。このとき、表示された穴のエッジ部Xmaxでの強度をImax、穴の中心部Xminの強度をIminとして求め、画像強度Iが、(Imax+Imin)/2に等しくなる箇所をXhを求める。Δx=|Xmax−Xh|と定義すると、Δxは半値幅となる。
【0054】
このΔxをずれ量の判定値とする。ここで、帯電電位が変わると(下のグラフ)、半値幅Δxも変化する。信号強度の反値幅Δxの変化を検出器29及び演算器40を用いて求めると、帯電電位を求めることができる。輝度の半値幅の代わりに、ビーム通過開口の画像51aに表示された穴の半径を用いても良い。
【実施例5】
【0055】
図6は試料電位を検出するための第5の実施例を説明する図であり、帯電によるずれを求める方法を説明するためのものである。ずれの指標として、画像の面積の変化を用いる。電位が既知の参照画像内のビーム通過口の画像50aもしくはメッシュの画像50b輪郭の面積S0を、電圧を数種類変えて求めておく。
【0056】
電位が未知の試料23に対して、一次電子ビーム1を走査し、ミラー電子3が作る画像を取得する。この時のビーム通過開口の画像51a内の穴もしくはメッシュの画像51b輪郭の面積S1を求める。この面積を上記S0とを演算器40で比較し、演算することで試料23の電位を求める。
【実施例6】
【0057】
図7は、試料電位を検出するための第6の実施例を説明する図であり、帯電によるずれを求める方法を説明するためのものである。画像で得られた穴や、構造物の特定箇所の位置の画像から、その回転角を検出する。電位が既知の試料23を数種類用意して、ミラー電子3による画像を取得する。例えば電位測定時のビーム通過口位置53の電位変化に伴うビーム通過口の変化位置52a,52b及び52cを取得し、ビーム通過口の位置の軌跡54をフィッティングした曲線から、曲率半径R及び中心位置Oを求めておく。
【0058】
帯電電位が未知の試料の場合、走査して得られた電位測定時のビーム通過口位置53を検出し、電位測定時のビーム通過口位置53の電位変化に伴うビーム通過口の変化位置52aからの角度θを求める。
【0059】
演算器40を用いて、このθに相当するビーム通過口位置の軌跡54から帯電電位を算出する。ここではビームが通過する穴で説明したが、その他の構造物の画像の角度変化から求めてもよい。
【実施例7】
【0060】
図8は、試料電位を検出するための第7の実施例を説明するための図であり、帯電によるずれを求める方法を説明するためのものである。具体的にはミラー電子3の入射位置からのずれを、画像で得られた穴や構造物の輝度の変化から求める方法である。
【0061】
穴の画像57のうち、特定箇所55の部分の輝度を積算し、輝度積分値Itを求める。
試料23の電位が異なると特定箇所55の面積や輝度が変化することを利用して、Itの大きさから試料の帯電電位を求める。
【実施例8】
【0062】
図9は試料電位を検出するための第8の実施例を説明するための図であり、本例における電位測定方法を実施するための走査電子顕微鏡の概略図である。ミラー電子3を検出する位置に複数個の検出器29bを配置し、ミラー電子3の到達位置と量を検出する。
【0063】
検出した信号は、第2の演算器45に伝達され、信号の加減算やピーク位置Pの検出,フィルタリングを行い、加工信号データを作成する(図10参照)。この信号を演算器40で、基準値の信号と比較,演算して、帯電電位を求める。
【0064】
以上のように、本発明の好適な実施例によれば、電子ビームを試料に到達させなくとも、帯電量を測定することができるため、電子ビーム照射による新たな帯電を誘起することなく、正確な帯電測定が可能となる。なお、上述の例では、試料電位と、ミラー電子の到達位置との関係などから、帯電量を測定する例について説明しているが、これに限られることはなく、例えばミラー電子の到達位置等と、調整すべき他の装置パラメータとの相関関係を予め求めておくことで、帯電量を測定することなしに、調整すべきパラメータの補償値を検出するようにしても良い。
【符号の説明】
【0065】
1 一次電子ビーム
2 等電位面(ミラー面)
3 ミラー電子
11 電界放射陰極
12 引出電極
13 加速電極
14 コンデンサレンズ
15 絞り
17 対物レンズ
18 加速円筒
20 筒状円筒
21 上走査偏向器
22 下走査偏向器
23 試料
24 ホルダー
29 検出器
29b 複数の検出器
40 演算器
41 分析器
42 対物レンズ制御系
43 ステージ電圧制御系
44 加速電圧制御系
45 第2の演算器
50a,51a ビーム通過口の画像
50b,51b メッシュの画像
51 電位測定時の画像
52a,52b,52c 電位変化に伴うビーム通過口の変化位置
53 電位測定時のビーム通過口位置
54 ビーム通過口の位置の軌跡
55 特定箇所
58 相関曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源から放出される荷電粒子線が試料に向かって照射されている状態で、前記試料に到達することなく反射される荷電粒子に基づいて、前記試料の電位を求める試料電位測定方法において、
当該荷電粒子源から放出される荷電粒子線を加速させる加速電圧の値よりも、
前記荷電粒子線を減速させるリターディング電圧の値が大きいときに、
前記荷電粒子源と、前記荷電粒子線を集束する対物レンズとの間に配置された荷電粒子検出器に検出される前記荷電粒子の軌道に関する情報と、
所定の試料電位において前記荷電粒子検出器に検出される荷電粒子の軌道に関する情報との違いに基づいて、
前記試料の電位を求めることを特徴とする試料電位測定方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記荷電粒子の軌道に関する情報は、
前記リターディング電圧により形成された電界によって前記試料に到達することなく反射された荷電粒子の前記荷電粒子検出器に対する到達位置に関する情報であることを特徴とする試料電位測定方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記荷電粒子の前記荷電粒子検出器に対する到達位置と、前記所定の試料電位において得られた前記荷電粒子の前記粒子検出器に対する到達位置との違いに基づいて、前記試料の電位を求めることを特徴とする試料電位測定方法。
【請求項4】
請求項2において、
当該反射された荷電粒子の前記荷電粒子検出器に対する到達位置に関する情報は、
前記荷電粒子検出器に投影される前記荷電粒子の広がり、あるいは位置であることを特徴とする試料電位測定方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記荷電粒子の軌道に関する情報は、
前記荷電粒子検出器に検出された、
前記リターディング電圧により形成された電界によって前記試料に到達することなく反射された荷電粒子に基づいて形成される画像に関するものであることを特徴とする試料電位測定方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記荷電粒子に基づいて形成される画像と、
前記所定の試料電位で得られた画像間の移動量、ぼけ量、及び/又は回転量の違いに基づいて、
前記試料の電位を求めることを特徴とする試料電位測定方法。
【請求項7】
請求項1において、
前記所定の試料電位において前記荷電粒子検出器に検出される荷電粒子の軌道に関する情報と、前記所定の試料電位との関係を予め求めておき、
当該求めた関係に基づいて、前記試料の電位を求めることを特徴とする試料電位測定方法。
【請求項8】
荷電粒子源と、
当該荷電粒子源より放出された荷電粒子線を集束する対物レンズと、
前記荷電粒子源と、前記対物レンズとの間に配置された荷電粒子検出器と、
試料に前記荷電粒子線を減速する電圧を印加する電源と、
前記電圧を制御する制御装置を備えた荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、
前記荷電粒子源から試料に向かって前記荷電粒子線を照射している状態で、
当該荷電粒子源から放出される荷電粒子線を加速させる加速電圧の値よりも、高い電圧を試料に印加したときに検出される荷電粒子の軌道に関する情報と、
所定の試料電位において検出される荷電粒子の軌道に関する情報との違いに基づいて、
前記試料の電位を求めることを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−43816(P2012−43816A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−264205(P2011−264205)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【分割の表示】特願2006−340650(P2006−340650)の分割
【原出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】