認知状態判定装置
【課題】 被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあるか否かを客観的に判定することができる認知状態判定装置を提供する。
【解決手段】脳波差信号演算手段2は、被験者の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ脳波差信号を求める。自己アフィンフラクタル次元演算手段3は、複数の脳波差信号のそれぞれから、自己アフィンフラクタル次元を求める。認知状態判定手段4が、安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得た脳波信号をリファレンスデータとして用いて予め定めた判定基準に基づいて、自己アフィンフラクタル次元のデータを入力として、被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるのかを判定する。
【解決手段】脳波差信号演算手段2は、被験者の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ脳波差信号を求める。自己アフィンフラクタル次元演算手段3は、複数の脳波差信号のそれぞれから、自己アフィンフラクタル次元を求める。認知状態判定手段4が、安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得た脳波信号をリファレンスデータとして用いて予め定めた判定基準に基づいて、自己アフィンフラクタル次元のデータを入力として、被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるのかを判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあることを判定することができる認知状態判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの感性は、一般的に脳の活動によって特徴付けられていると考えられている。脳の活動状態は脳波などにより観測する事が可能であり、それによって現在さまざまな研究が行われている。脳波信号は、筋運動を必要とせず、MEGやfMRIなどに比べ、比較的容易に測定でき、脳の活動状態を反映しているという長所を持っているため、様々な分野への応用が注目されている。また、脳波がフラクタル性を持つ事が示され、脳波信号にフラクタル解析を施すことにより脳の活動状態を解明しようとする研究が行われてきた[非特許文献1:小河清隆及び中川匡弘が発表した”脳波におけるカオスとフラクタル性”,信学論,Vol. J78−A, No.2,pp. 161−168,(1995).]、[非特許文献2:小河清隆及び中川匡弘が発表した ”On the Chaosand Fractal Properties in EEG Data”, Electronics andCommunications in Japan Part III−FundamentalsVol.78−10 pp27−36, (1995).]、[非特許文献3:中川匡弘が発表した”Chaos and Fractals inEngineering”, World Scientific, Inc (1999).]。
【0003】
また被験者が測定した帯域制限された複数の脳波信号から選択した2つの脳波信号の差や積をとることにより、それらの信号をフラクタル次元解析することにより得たフラクタル次元を特徴的に用いて、感性(「怒り」、「悲しみ」、「喜び」、「リラックス」)を定量的に評価する手法として、感性フラクタル次元解析手法が提案されている[非特許文献4:佐藤高弘及び中川匡弘が発表した”フラクタル次元解析を用いた感情の定量化手法”, 信学技報,HIP2002−12,pp.13−18, 2002.及び特許文献1:特開2004−194924号公報]。感性フラクタル次元解析手法を利用した技術としては、光トポグラフィによる感性情報解析技術[非特許文献5:松下晋及び中川匡弘が発表した”光トポグラフィによる感性情報解析”,信学論,Vol.J88−A,No.8,pp.994−1001.]やヒューマンインターフェースへの応用技術[非特許文献6:飯塚拓也及び中川匡弘が発表した”脳波のフラクタル次元解析を用いたヒューマンインターフェースへの応用”,信学技報,CAS2005−42,NLP2005−54,(2005).]などもある。
【非特許文献1】”脳波におけるカオスとフラクタル性”,信学論,Vol. J78−A, No.2,pp. 161−168,(1995).
【非特許文献2】”On the Chaosand Fractal Properties in EEG Data”, Electronics andCommunications in Japan Part III−FundamentalsVol.78−10 pp27−36, (1995)
【非特許文献3】”Chaos and Fractals inEngineering”, World Scientific, Inc (1999).
【非特許文献4】”フラクタル次元解析を用いた感情の定量化手法”, 信学技報,HIP2002−12,pp.13−18, 2002.
【非特許文献5】”光トポグラフィによる感性情報解析”,信学論,Vol.J88−A,No.8,pp.994−1001.
【非特許文献6】”脳波のフラクタル次元解析を用いたヒューマンインターフェースへの応用”,信学技報,CAS2005−42,NLP2005−54,(2005).
【特許文献1】特開2004−194924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、教育工学の分野でメタ認知[三宮真智子,”思考におけるメタ認知と注意”,東京大学出版会,pp157−180,(1996).]活用の有効性が注目されている。
【0005】
「メタ認知」は図1に示すように分類される。「メタ認知的モニタリング」活動は学習効果に大きな影響を与えるとされている。自己の思考・感情そのものを対象としてモニタリングすることが「メタ認知的モニタリング」であり、メタ認知をしている自分とそれを取り巻く世界を対象としてモニタリングすることが「メタメタ認知的モニタリング」である。「メタ認知的モニタリング」は、自己の思考の誤りに気付き修正を行う上で不可欠であり、自己学習能力に影響を与えると考えられている。なお本願明細書では、「メタ認知的モニタリング」を「メタ認知」、「メタメタ認知的モニタリング」を「メタメタ認知」と略称する。
【0006】
しかしながら従来は、被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあるか否かを客観的に判定する技術は全く提案されていない。発明者等が以前に特開2004−194924号において提案した脳機能計測装置を用いて、被験者の感性(「怒り」、「悲しみ」、「喜び」、「リラックス」)を定量的に計測しても、その計測結果から被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあるか否かを判定することはできなかった。
【0007】
本発明の目的は、被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあるか否かを客観的に判定することができる認知状態判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
メタ認知活用の有効性が注目されてはいるものの、メタ認知をどのように判定するかについての研究は全くなされていない。そのためにメンタルトレーニングの指導者と呼ばれる人の中に、本来的にメタ認知状態またはメタメタ認知状態に任意になることができない人が含まれていることも、実際上は判定することができないのが実情である。そこで発明者は、前述の特開2004−194924号において提案した脳機能計測装置を用いて、被験者の感性(「怒り」、「悲しみ」、「喜び」、「リラックス」)を定量的に計測して、その計測結果すなわち被験者が「怒り」、「悲しみ」、「喜び」または「リラックス」の状態にあることと、被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあることとの間に、特定の関係があるか否かを試験してみた。しかしながら両者の間には、客観的な特定の関係を見出すことができなかった。これは感性に関しては、外部からの刺激情報に対して被験者が感性状態を自分自身で認知できるのに対して、メタ認知及びメタメタ認知は、外部からの刺激情報に対する認知ではなく、自己認知によるものであり、被験者がそれを自分自身で認知できないためである。そのためフラクタル次元解析を利用しても、メタ認知状態またはメタメタ認知状態を判定することは無理であると発明者は当初考えていた。
【0009】
しかしながら研究を進めていくうちに、脳波の測定箇所を限定し、フラクタル次元解析の対象とする脳波信号の種類を限定し、さらに判定基準を工夫することによって、感性フラクタル次元解析を利用して被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあることを判定できることを見出した。本発明は、この研究を基礎としてなされたものである。もし当初の試験結果だけを信じて研究を中止していたならば、メタ認知状態またはメタメタ認知状態の定量的な計測は、実現し得なかった。
【0010】
発明者の継続研究によって案出された本発明の認知状態判定装置は、脳波差信号演算手段と、自己アフィンフラクタル次元演算手段と認知状態判定手段とを備える。脳波差信号演算手段は、被験者の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号を求め、これら差信号を複数の脳波差信号として出力する。自己アフィンフラクタル次元演算手段は、脳波差信号演算手段から出力される複数の脳波差信号のそれぞれから、自己アフィンフラクタル次元を求める。脳波差信号演算手段及び自己アフィンフラクタル次元演算手段は、微小時間間隔毎に差信号を求め、この微小時間間隔毎に求めた差信号について感性フラクタル次元解析を行って微小時間間隔毎の自己アフィンフラクタル次元を求める。特開2004−194924号のように、帯域制限された複数の脳波信号から選択した2つの脳波信号の差をとり、帯域分離した複数の脳波信号の相互相関の信号を作って、この相互相関の信号をフラクタル次元解析しても、メタ認知またはメタメタ認知を判定するのに十分に役立つ情報が含まれていないことは研究により確認された。発明者の研究によると、側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ求めた差信号を複数の脳波差信号として、その脳波差信号のそれぞれから求めた自己アフィンフラクタル次元には、メタ認知またはメタメタ認知を判定するのに十分に役立つ情報が含まれていることが確認された。脳の測定領域に側頭葉を含めない場合には、メタ認知またはメタメタ認知を判定することは難しい。最も少ない脳波信号に基づいて判定を行う場合には、脳の左右の側頭葉から得た2以上脳波信号だけを用いても良い。
【0011】
そして本発明では、認知状態判定手段が、安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号をリファレンスデータとして用いて予め定めた判定基準に基づいて、自己アフィンフラクタル次元のデータを入力として、被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるのかを判定する。ここで基準者は、メタ認知研究において、メタ認知及びメタメタ認知状態になるための訓練を指導することができるインストラクタと呼ばれる人である。本発明においては、この基準者から得た複数の脳波信号をリファレンスデータとして判定基準を定めているので、客観的な判定を行うことができる。
【0012】
認知状態判定手段は、判定基準を記憶する記憶部と、判定基準と自己アフィンフラクタル次元のデータとに基づいて被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるかを判定する判定部とを備えている。記憶部に記憶されている判定基準は、基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号から複数の脳波差信号を演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求め、安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元が判定部にそれぞれ入力されたときに、判定部が入力された自己アフィンフラクタル次元に対応する認知状態を正しく判定するように定められている。したがって本発明によれば、基準者から得た客観的な基準データに基づいて定めた判定基準を用いるので、被験者から得た自己アフィンフラクタル次元を判定部に入力することにより、被験者のメタ認知状態またはメタメタ認知状態を定量的に判定することが可能になった。
【0013】
なお判定部は、線形写像判別法により下記の判定式を用いて判定するように構成することができる。
【数1】
【0014】
上記式において
【数2】
【0015】
は線形写像である状態分離マトリックスであり、
【数3】
【0016】
は入力信号ベクトルであり、
【数4】
【0017】
は定数ベクトルであり、
【数5】
【0018】
は安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態を判定するための感性の状態を示す演算結果である。
【0019】
そして前述の状態分離マトリックスが判定基準となる。したがって状態分離マトリックス及び定数ベクトルを定めるには、まず任意に安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態を作ることができる判定基準となり得る者(基準者)の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ脳波差信号を脳波差信号演算手段により求める。次に自己アフィンフラクタル次元演算手段により複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求める。そして判定式の入力信号ベクトルとして入力し、基準者が安静状態にあるとき、メタ認知状態にあるとき及びメタメタ認知状態にあるときに、それぞれ判定式の演算結果がそれらの状態を正しく示すように状態分離マトリックス及び定数ベクトルを設定する。
【0020】
また認知状態判定手段は、判定基準としてニューラルネットを用いて認知状態を判定するように構成することができる。この場合、ニューラルネットは、その内部状態を次のように決定する。まず基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号から複数の脳波差信号を演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求める。そして安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元を3種類の学習用入力パターンと定め、3種類の学習用入力パターンから所定時間幅間隔で規則正しくまたは不規則に選択した学習入力パターンのデータを順次入力として学習を行ってニューラルネットの内部状態を決定する。判断基準として、このようなニューラルネットを用いると、線形写像の状態分離マトリックスを判断基準として用いる場合よりも、判定精度を高めることができる。特に、ニューラルネットの内部状態を学習により決定する場合に、安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元を3種類の学習用入力パターンと定めて、これら3種類の学習用入力パターンから所定時間幅間隔で規則正しくまたは不規則に選択した学習入力パターンのデータを順次入力として学習を行ってニューラルネットの内部状態を決定すると、短い学習時間で内部状態を精度の高い判定をするのに必要なレベルまで高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来できなかった被験者のメタ認知またはメタメタ認知を定量的に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。図2は、本発明の認知状態判定装置の実施の形態の一例の構成を概略的に示すブロック図である。この実施の形態では、側頭葉を含む16ヶ所の脳の領域から測定した16Chの脳波信号を用いる。そしてフラクタル次元解析法を用いた信号処理と判定処理によって、人間(被験者)のメタ認知状態またはメタメタ認知状態を定量的に評価する。図2に示した認知状態判定装置は、基本的な構成手段として、測定手段1と、脳波差信号演算手段2と、自己アフィンフラクタル次元演算手段3と、認知状態判定手段4とを備えている。認知状態判定手段4は、記憶部5と判定部6とから構成される。なおこの実施の形態においては、後に説明する判定基準としての状態分離マトリックスを決定する状態分離マトリックス決定手段7をさらに備えている。
【0023】
測定手段1は、図3に示す16ヶ所の脳の領域に電極を配置して16Chの脳波信号を測定する公知の脳波測定器によって構成されている。したがって測定手段1からは、16Chの脳波信号が脳波差信号演算手段2に出力される。図3の特に、7番、8番、9番及び10番の位置が脳の側頭葉の位置である。
【0024】
脳波差信号演算手段2は、16Chの脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号(120組の差信号)を求め、これら差信号を120組の脳波差信号として出力するように構成されている。脳波差信号演算手段2は、微小時間間隔毎(例えば0.1〜0.25sec毎)に差信号を求めている。また自己アフィンフラクタル次元演算手段3は、脳波差信号演算手段2から出力される120組の脳波差信号のそれぞれから、自己アフィンフラクタル次元を求めるように構成されている。自己アフィンフラクタル次元の求め方については後に説明する。なお自己アフィンフラクタル次元演算手段3でも、微小時間間隔毎に求めた差信号について感性フラクタル次元解析を行って微小時間間隔毎のフラクタル次元を求めている。
【0025】
そして認知状態判定手段4は、安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号をリファレンスデータとして用いて予め定めた判定基準を状態分離マトリックスとして記憶部5に記憶している。そして判定部6においては、自己アフィンフラクタル次元演算手段3で演算した自己アフィンフラクタル次元のデータを入力として、被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるのかを判定する。記憶部5に記憶されている判定基準は、状態分離マトリックス決定手段7によって決定されている。状態分離マトリックス決定手段7で状態分離マトリックスを決定するためには次のようにする。まず基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号(リファレンスデータ)から複数の脳波差信号を脳波差信号御演算手段2で演算する。該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を自己アフィンフラクタル次元演算手段3で求める。そして安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元が判定部6にそれぞれ入力されたときに、判定部6が入力された自己アフィンフラクタル次元に対応する認知状態を正しく判定するように、状態分離マトリックスを決定する。最後に記憶部5に状態分離マトリックスを記憶させる。
【0026】
なお判定部6は、線形写像判別法により下記の判定式を用いて判定するように構成することができる。
【数6】
【0027】
上記式において
【数7】
【0028】
は線形写像である状態分離マトリックスである。
【数8】
【0029】
は入力信号ベクトルであり、
【数9】
【0030】
は定数ベクトルであり、
【数10】
【0031】
は安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態を判定するための感性の状態を示す演算結果である。
【0032】
すなわち上記式の[C1,1・・・C1,120]は、基準者の脳波差信号(リファレンスデータ)に基づいて得られたフラクタル次元の線形写像(状態分離マトリックス)である。この状態分離マトリックスが、記憶部5に記憶されている判定基準である。前述のように、状態分離マトリックスを得るためには、具体的には、任意に安静状態、メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態を作ることができる判定基準となり得る者(基準者)の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から16Chの脳波信号(リファレンスデータ)を得る。そして16Chの脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号を脳波差信号演算手段2により求める。そして自己アフィンフラクタル次元演算手段3により複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求める。次にこれら自己アフィンフラクタル次元を上記判定式の入力信号ベクトルとして入力し、基準者が安静状態にあるとき、メタ認知状態にあるとき及びメタメタ認知状態にあるときに、それぞれ判定式の演算結果[Z1,Z2,Z3]がそれらの状態を示すように状態分離マトリックスを設定する。安静状態では、出力が[Z1,Z2,Z3]=[+1,−1,−1]となり、メタ状態では、出力が[Z1,Z2,Z3]=[−1,+1,−1]となり、メタメタ状態では、出力が[Z1,Z2,Z3]=[−1,−1,+1]となるように、状態分離マトリックスを決定することが、状態分離マトリックス決定手段7が実行する判定条件の決定作業である。
【0033】
本実施の形態の認識状態判定手段4で用いる判定法を、自己アフィンフラクタル次元演算手段3における演算方法を含めて、さらに詳細に説明する。脳波信号のフラクタル次元を推定する方法として、分散のスケーリング特性に基づいたフラクタル次元推定法が知られている。自己アフィンフラクタル次元がDである時系列データf(t)と時刻τだけ離れたデータf(t+τ)のα次のモーメントは、次のように表される。
【数11】
【0034】
もし、解析データが一様なフラクタル性を有するならばHurst指数Hはモーメントの次数αに依存しない。このとき、Hurst指数Hは、
【数12】
【0035】
によって求められる。α=2の場合、[数11]の式において時系列データの分散のスケーリング特性が求められる。この分散のスケーリング特性から自己アフィンフラクタル次元を推定する。自己アフィンフラクタル次元の推定値
【数13】
【0036】
は、[数12]より求められるHurst指数Hを用いて、下記の式で演算することができる。
【数14】
【0037】
感性フラクタル次元解析手法では、脳波測定によって得られる16Chのデータを用いて、4種類程度の感性(本実施の形態では認知状態)を識別することができる。フラクタル次元解析を行う前処理として、16個の電極から得られる16Chの脳波信号間の差分信号が、前述の通り脳波差信号演算手段2により作成される。この処理により、120組(=16C2)の差分信号が作成される。電極間の差分信号yij(t)は、サンプリング間隔を単位とした時間をt、i番目の電極からの入力値をxi(t)、j番目の電極からの入力値をxj(t)とすると、
【数15】
【0038】
で与えられる。これら16Chのデータに対して得られる120個の電極間電位差信号yij(t)を、時間領域で窓幅tW=4[sec]の矩形窓で切り出し、tW点の差分信号を得る。窓の移動幅をtstep、窓の位置をnとすると、切り出された信号yijnはベクトルを用いて次のように表される。
【数16】
【0039】
ここで、窓の移動幅tstepは、0.25[sec]である。切り出された差分信号
【数17】
【0040】
それぞれに対して、分散のスケーリング特性に基づいたフラクタル次元解析を行い、16C2次元の入力信号ベクトル
【数18】
【0041】
を作成する。フラクタル次元を求める処理をFract(・)とすると、入力信号ベクトル[数18]は以下のように表される。
【数19】
【0042】
この入力信号ベクトル[数17]を線形写像などの認識部にて学習及び認識することにより感性フラクタル次元解析が可能となる。線形写像を用いる場合、入力信号ベクトル[数18]に線形写像である状態分離マトリックス
【数20】
【0043】
を用いて、
【数21】
【0044】
に線形変換を行う。ここで、Tは転置を表す。これらの大きさが認知の状態に相当する特徴量となる。これは、以下のように表される。以下の式は、上記[数1]及び[数6]と同じものである。
【数22】
【0045】
ここで
【数23】
【0046】
は定数ベクトルである。
【0047】
解析を行うにあたり、学習に用いるリファレンスデータとなる脳波信号を基準者から測定する必要がある。まず、基準者に「安静」、「メタ認知」、「メタメタ認知」、を想起してもらい、16Chの脳波信号を測定する。状態分離マトリックスの値は、それぞれの認知状態が
【数24】
【0048】
となるように最小自乗法を用いて決定する。
【数25】
【0049】
の各構成要素を、それぞれ関連付けられた認知状態の指標とし、大きさをその認知の発現レベルとみなす。これにより、認知状態を定量的に解析することが可能となる。
【0050】
すなわち、例えば上記[数24]中の例であれば、(1,−1,−1)の中の数字が発現レベルを示している。この発現レベルによって認知状態の定量化が実現されている。実際に被験者の認知状態を判定する場合には、被験者から測定した16Chの脳波信号に基づく入力信号ベクトル[数18]を入力することにより、被験者の認知状態を判定することができる。
【0051】
次に、本発明の実施の形態により、安静状態と、メタ認知状態と、メタメタ認知状態とを定量的に判定することができることを試験した結果について説明する。
【0052】
[試験内容]
まず、脳波計により得た「安静状態」と「メタ認知状態」での脳波にフラクタル次元解析を行い、思考状態によって違いに差異が見られることを確認した。その後、「安静」、「メタ認知」、「メタメタ認知」の3種類の思考状態を維持し、その脳波信号のフラクタル次元推定値を特徴量として、前述の感性フラクタル次元解析手法と同様の方法で認識処理を行い、それぞれの思考状態を識別できるか評価を行った。意図した思考状態を識別することできたことを確認後、ストループ試験を行い、思考状態が学習効果(試験の得点)に与える影響を評価した。ここで用いたストループ試験とは、様々な色で書かれた文字を見て、色に惑わされず色を示す漢字の意味を答える試験である。この試験は簡単な試験だが、色と意味が混同して出題されるため脳の中で葛藤が生じる。さらにこの試験は、慣れによって葛藤が生じにくくなるため、試験を繰り返すことにより成績が向上する学習効果を判断できる最適な試験である。
【0053】
[測定条件]
脳波測定装置は日本光電社製MEG−6116Mを使用した。測定データはA/D変換ボード(ComputerBoards社製PCM−DAS16S/16、A/D変換分解能16bits、チャンネル数16Ch)を通し、パーソナルコンピュータで記録を行った。測定時のサンプリング周波数を512Hzとし、1.5Hzのローカットフィルタおよび、100Hzのハイカットフィルタを設定した。また、商用電源に対するHUMフィルタを脳波測定時に使用した。測定部位は国際10−20電極法に基づき、1Ch〜16Chの単極測定とし、右耳朶A2を基準電極とした(図3)。測定は通常環境下での測定を行った。被験者は心身共に健康な44歳の男性で、メタ認知・メタメタ認知を修得し、脳波測定に関する基礎的な知識と被験者としの経験を持っている者である。
【0054】
[思考想起試験]
タスク中は「安静状態」、「メタ認知状態」、「メタメタ認知状態」の3種類の思考状態を維持する。試験は以下の手順で行う。
【0055】
1.最初の60秒間は閉眼安静とする。
【0056】
2.実験者の合図と共にランダムに思考状態を指示し、意図した思考状態を120秒保持する。
【0057】
3.休息をとり、その後、1.に戻り、次の思考ついて同様に測定を行う。
【0058】
という手順で測定を行った。リファレンスデータと評価用データは同様の実験であり、各思考を数回繰り返し測定する。測定の流れを図4に示す。
【0059】
[ストループ試験]
ストループ試験には「赤」、「青」、「緑」、「黄」4種類の色を用い、文字の色に関係なく文字の意味をコントローラを用いて答えていく方法である。1問あたりの回答時間は1秒、全16問を1セットとして各思考状態10回測定を繰り返す。10セット通じて意図した思考状態を維持し続けながら試験を行う。試験は以下の手順で行う。
【0060】
1.最初の10秒間は開眼安静とする。
【0061】
2.実験者の合図と共に試験を開始し、16問回答終了後、任意の思考を維持したまま待機する。
【0062】
3.その後、1.に戻り、次の思考について同様に測定を行う。
【0063】
4.以上を10回1セットとし、3種類の思考状態に対して繰り返し行う。
【0064】
ストループ試験の測定の流れを図5に示す。
【0065】
[解析結果]
フラクタル次元解析結果
脳波測定によって得られる16Chの脳波信号のうち、側頭葉に対応する7〜10Chの信号にフラクタル次元解析を施した結果の一例を図6に示す。なお、示す波形は、60秒間の安静の後、継続して120秒間安静状態を維持したもの(A)と、メタ認知状態へ思考を移行した結果(B)である。結果より、安静状態を維持している結果では、7〜10Chすべてのチャンネルで次元の変化が少ない。しかし安静状態からメタ認知へ思考を移行し始めてからフラクタル次元推定値が一様に下がり変化している。このことから、安静状態とメタ認知時の脳の変化をフラクタル次元解析により抽出できることが確認できる。このようにして得られたフラクタル次元推定値を特徴量として感性フラクタル次元解析を行い思考想起試験や、ストループ試験を行った。
【0066】
[思考想起試験解析結果]
リファレンスデータに対する解析結果
脳波測定によって得られる16Ch脳波信号の差分信号を求め、図6に示すようなフラクタル次元解析した120組(=16C2)の入力ベクトルを入力とし、3種類の思考状態(安静、メタ認知、メタメタ認知)について解析を行った。学習に用いたリファレンスデータを再入力した際の、時々刻々の割合を算出した結果を図7に示す。図7の結果は、(a)に安静、(b)にメタ認知、(c)にメタメタ認知の思考状態を行った時のそれぞれの思考状態対する出力の割合を示したものである。その結果、3つの思考状態に対し識別できていることが確認でき、状態分離マトリックスが正確に決定されていることが確認できる。(a)の安静状態では、安静(relax)の出力が+1に近く、(b)のメタ認知状態では、メタ認知(meta-cognition)の出力が+1に近く、(c)のメタメタ認知状態では、メタメタ認知(meta-meta-congnition)の出力が+1に近い状態になっている。なお一部でもマイナス方向の出力が出ている場合には、発現レベルを−1と考えることとする。
【0067】
評価用データに対する解析結果
状態分離マトリックスを決定する際に用いていない、評価用データを入力データとしたとき時々刻々の出力に対する割合を図8に示す。図8の結果は、(a)に安静、(b)にメタ認知、(c)にメタメタ認知の思考状態を行ったときのそれぞれの思考に対する出力を示したものである。その結果60秒まで安静をした後、思考状態に安静を選択した際には、引き続き安静の出力が高く出ている事が確認できる。また、メタ認知、メタメタ認知状態へ変化させた際には60秒からそれぞれ意図した思考状態の出力が大きくなっていくことが確認できる。
【0068】
[ストループ試験解析結果]
思考状態に対する解析結果
実際に2種類の思考状態を保ちながらストループ試験を行った際に、学習効果に与える影響を検討した。思考想起試験と同様な解析を10回行った。そのとき同様な解析をした思考状態ごとの平均出力と、標準偏差の結果を図9に示す。この結果より、被験者は任意の思考状態を十分再現して保ちながらストループ試験を行えると言える。結果より、各思考状態で10回ずつ実験を行った際に十分に意図した思考状態で試験ができたといえる。
【0069】
[思考状態とストループ試験得点の関係の検討]
安静状態とメタ認知状態をそれぞれ保ち、52セットずつストループ試験を行った結果を図10に示す。図10(A)は安静状態における試験結果であり、図10(B)はメタ認知状態における試験結果である。図10の結果より、ストループ試験中の思考をメタ認知状態で行ったほうが得点のばらつきが少なく、且つ、より高得点側に分布している事が分かる。これにより、単純作業を繰り返して、慣れによって脳内の混乱が起きにくくなるようなストループ試験を行う場合、自己の行動をモニタリングし、修正していく事が学習効果に影響を及ぼす事が確認できた。
【0070】
上記試験では、思考状態が学習効果に与える影響について検討を行った。まず、3種類の思考状態の脳波からそれぞれの思考を判別することを行った。脳波信号の差分信号に対しフラクタル次元解析を行うことにより脳波信号の特徴量を抽出し、被験者がどの思考状態にあるか識別できるか検討した。学習に用いていない未知のデータを入力した結果、1つの思考時に、その思考に対応する出力の割合が大きいことから、着目している思考を識別できることが確認された。このことから、意図した思考を識別することが可能であり、メタ認知、メタメタ認知の修得度を評価する際に有効だと言える。またメタ認知を行いながらストループ試験をすることでも、安静状態とメタ認知状態の状態を認識できる事を確認した。さらに単純作業を繰り返すストループ試験において、安静状態で繰り返し試験を行うよりも、メタ認知状態で行うことで、より安定した結果を出せることが確認できた。
【0071】
[ニューラルネットを利用した判定]
次に判定基準としてニューラルネットを利用した本発明の認知状態判定装置の他の実施の形態について説明する。図11はこの実施の形態の構成を示す図である。この実施の形態では、ニューラルネットNNの内部状態を決定する学習作業を事前に行って、ニューラルネットNNを構築する。図11に示したニューラルネットワークNNは、入力層11と、1以上の中間層12と、出力層13とを備えている。なおこの例では中間層12は1層である。入力層11は、r個(r前述の脳波差信号の組み合わせの数すなわち16C2=120)の自己アフィンフラクタル次元がそれぞれ入力される120個のニューロンn1〜n120からなる第1のニューロン群N1を含んでいる。また中間層12は、q(2×16C2=240)個のニューロンn201〜n440からなる第2のニューロン群N2を備えている。そして出力層13は、3個のニューロンn501〜n503からなる第3のニューロン群N3を備えている。第1のニューロン群N1を構成する120個のニューロンn1〜n120には入力パターン切り替え手段14の端子T1〜T120を介して後述する3種類の学習用入力パターンP1〜P3と入力信号ベクトルとが入力される。
【0072】
まずニューラルネットNNの内部状態を学習により決定するために、前述の基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号から複数の脳波差信号を微小時間間隔毎に演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を微小時間間隔毎に求める[例えば図6(A)及び(B)に示す波形]。そして安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元を3種類の学習用入力パターンP1〜P3と定める。1種類の学習入力パターンには、それぞれ120組の自己アフィンフラクタル次元が含まれる。すなわち第1の学習用入力パターンP1には、基準者の脳波信号から求めた120組の安静時の自己アフィンフラクタル次元(安静時入力信号ベクトル)が含まれ、第2の学習用入力パターンP2には、基準者の脳波信号から求めた120組のメタ認知時の自己アフィンフラクタル次元(メタ認知時入力信号ベクトル)が含まれ、第3の学習用入力パターンP3には、基準者の脳波信号から求めた120組のメタメタ認知時の自己アフィンフラクタル次元(メタメタ認知時入力信号ベクトル)が含まれる。入力パターン切り替え手段14は、入力基準者から得た3種類の学習用入力パターンP1〜P3から所定時間幅間隔(0.25s)で規則正しくまたは不規則に選択して、選択した学習入力パターンの120組のデータを順次第1のニューロン群N1を構成する120個のニューロンn1〜n120に入力する。ニューロンn1〜n120には、3種類の学習用パターンP1〜P3に対応した3種類のメモリがそれぞれ装備されている。規則正しく選択する場合には、パターンP1→パターンP2→パターンP3の順に、時間幅間隔(0.25s)毎に各パターンから120組のデータを取得して、120個のニューロンn1〜n120に入力することになる。また不規則に選択する場合には、パターンP1→パターンP1→パターンP3→パターン2→パターン3・・・のように、不規則にパターンが選択される。規則正しくパターンを選択する場合と、不規則にパターンを選択する場合と比べて、不規則にパターンを選択するほうが、短い時間で学習が完了することが試験により確認されている。
【0073】
学習時には、入力層11の第1のニューロン群N1に学習用入力パターン1が入力されているときには、出力層3の第3のニューロン群N3を構成する3個のニューロン501〜503の出力に安静状態であることを示す出力が出力され、入力層11の第1のニューロン群N1に学習用入力パターン2が入力されているときには、出力層3の第3のニューロン群N3を構成する3個のニューロン501〜503の出力にメタ状態であることを示す出力が出力され、入力層11の第1のニューロン群N1に学習用入力パターン3が入力されているときには、出力層3の第3のニューロン群N3を構成する3個のニューロン501〜503の出力にメタメタ状態であることを示す出力が出力されるようにニューロンn1乃至n120、n201乃至n440、n501乃至n503の内部状態と、各ニューロン群N1乃至N3間の結合荷重が定められる。
【0074】
このニューラルネットNNでは、シグモイド関数を用いており、そのダイナミクスは、離散時間tに対して以下のように定式化することができる。
【数26】
【0075】
上記式において、
【数27】
【0076】
は、入力層11から出力層13が、L層のニューロン群で構成されていると考えた場合における、L層のi番目のニューロンの入力パターンp(3種類の入力パターンP1〜P3に対応)に対する内部状態を示す。本例では、L層とは出力層13であり、L−1層とは中間層13であり、入力層はL0層となる。そして
【数28】
【0077】
は、L−1層のニューロンjとL層のニューロンiとの間の結合荷重である。この例の場合には、入力層11のニューロンn1〜n120と中間層12のニューロンn201〜n440との間の結合荷重と、中間層12のニューロンn201〜n440と出力層13のニューロンn501〜n503との間の結合荷重である。またN(L―1)は、L−1層のニューロンの総数を表している。また
【数29】
【0078】
は、L−1層のj番目のニューロンのp番目のパターンに対する出力であり、
【数30】
【0079】
は、閾値である。
【0080】
またこの例では入力層には、線形ニューロンを用い、中間層12と、出力層13で用いられる各ニューロンの活性化関数には、下記に示す活性化関数を用いている。
【数31】
【0081】
上記各式において、εは温度パラメータである。そして出力層13の出力は、以下のように表される。
【数32】
【0082】
学習時には、下記の評価関数E(t)がなるべく小さくなるように、各ニューロンの内部状態を決定する。
【数33】
【0083】
上記式において、Pはパターンの数であり、N(L0)は出力層13のニューロンの数であり、tpiは出力層のi番目のニューロンに対するp番目のパターンの教師信号であり、
【数34】
【0084】
は、出力層のi番目のニューロンのp番目に対するパターンに対する出力である。
【0085】
上記のように3種類の学習用入力パターンP1〜P3に基づいて、ニューラルネットNNの各ニューロンの内部状態を決定した後、入力パターン切り替え手段14が入力として被験者の入力信号ベクトル(120組)を所定の時間幅でニューラルネットNNの入力層11のニューロンn1〜n120に入力すると、ニューラルネットNNの出力層13のニューロンn501〜n503からは、判定結果が出力される。
【0086】
図12には、ニューラルネットNNを判定基準として用いて、前述の線形写像を用いる場合と同様にストループ試験を行った結果を示している。試験の条件は、すべて前述の条件と同じものとした。図12(A)は安静状態における試験結果であり、図12(B)はメタ認知状態における試験結果であり、図12(C)はメタメタ認知状態における試験結果である。図12の結果より、ストループ試験中の思考をメタ認知状態で行ったほうが得点のばらつきが少なく、且つ、より高得点側に分布していることが分かる。これにより、単純作業を繰り返して、慣れによって脳内の混乱が起きにくくなるようなストループ試験を行う場合、自己の行動をモニタリングし、修正していくことが学習効果に影響を及ぼすことが確認できた。また前述の図10の試験結果と比べると判るように、ニューラルネットNNを用いた場合のほうが、線形写像を用いる場合と比べて、ばらつきが少ない。
【0087】
図13は、前の実施の形態のように線形写像を用いた線形解析でメタ認知を判定した場合の認識率と、ニューラルネットを用いた非線形解析によりメタ認知を判定した場合の認識率をそれぞれ示している。図13から、安静時及びメタ認知時のいずれにおいても、ニューラルネットを用いた非線形解析のほうが、認識率が高くなることが判る。
【0088】
非線形解析または線形解析のいずれを用いる場合でも、本発明では、被験者ではなく、安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得たリファレンスデータを用いて、判定基準(状態分離マトリックス、ニューラルネット等)を定めているので、メタ状態及びメタメタ状態を客観的に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】メタ認知の分類を示す図である。
【図2】本発明の認知状態判定装置の実施の形態の一例の構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】16Chの電極の配置図である。
【図4】思考想起実験測定の流れを示す図である。
【図5】ストループ試験測定の流れを示す図である。
【図6】(A)及び(B)は、安静時及びメタ認知時のフラクタル次元推定値の例を示す図である。
【図7】リファレンス再入力時の解析結果を示す図である。
【図8】評価用データ入力時の解析結果を示す図である。
【図9】ストループ試験中の状態出力を示す図である。
【図10】(A)及び(B)は、安静時とメタ認知時のストループ試験得点分布を示す図である。
【図11】ニューラルネットを利用した本発明の認知状態判定装置の他の実施の形態の構成を示す図である。
【図12】(A)乃至(C)は、ニューラルネットNNを判定基準として用いて、前述の線形写像を用いる場合と同様にストループ試験を行った結果を示す図である。
【図13】線形写像を用いた線形解析でメタ認知を判定した場合の認識率と、ニューラルネットを用いた非線形解析によりメタ認知を判定した場合の認識率をそれぞれ比較した図である。
【符号の説明】
【0090】
1 測定手段
2 脳波差信号演算手段
3 自己アフィンフラクタル次元演算手段
4 認知状態判定手段
5 記憶部
6 判定部
7 状態分離マトリックス決定手段
11 入力層
12 中間層
13 出力層
NN ニューラルネット
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあることを判定することができる認知状態判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの感性は、一般的に脳の活動によって特徴付けられていると考えられている。脳の活動状態は脳波などにより観測する事が可能であり、それによって現在さまざまな研究が行われている。脳波信号は、筋運動を必要とせず、MEGやfMRIなどに比べ、比較的容易に測定でき、脳の活動状態を反映しているという長所を持っているため、様々な分野への応用が注目されている。また、脳波がフラクタル性を持つ事が示され、脳波信号にフラクタル解析を施すことにより脳の活動状態を解明しようとする研究が行われてきた[非特許文献1:小河清隆及び中川匡弘が発表した”脳波におけるカオスとフラクタル性”,信学論,Vol. J78−A, No.2,pp. 161−168,(1995).]、[非特許文献2:小河清隆及び中川匡弘が発表した ”On the Chaosand Fractal Properties in EEG Data”, Electronics andCommunications in Japan Part III−FundamentalsVol.78−10 pp27−36, (1995).]、[非特許文献3:中川匡弘が発表した”Chaos and Fractals inEngineering”, World Scientific, Inc (1999).]。
【0003】
また被験者が測定した帯域制限された複数の脳波信号から選択した2つの脳波信号の差や積をとることにより、それらの信号をフラクタル次元解析することにより得たフラクタル次元を特徴的に用いて、感性(「怒り」、「悲しみ」、「喜び」、「リラックス」)を定量的に評価する手法として、感性フラクタル次元解析手法が提案されている[非特許文献4:佐藤高弘及び中川匡弘が発表した”フラクタル次元解析を用いた感情の定量化手法”, 信学技報,HIP2002−12,pp.13−18, 2002.及び特許文献1:特開2004−194924号公報]。感性フラクタル次元解析手法を利用した技術としては、光トポグラフィによる感性情報解析技術[非特許文献5:松下晋及び中川匡弘が発表した”光トポグラフィによる感性情報解析”,信学論,Vol.J88−A,No.8,pp.994−1001.]やヒューマンインターフェースへの応用技術[非特許文献6:飯塚拓也及び中川匡弘が発表した”脳波のフラクタル次元解析を用いたヒューマンインターフェースへの応用”,信学技報,CAS2005−42,NLP2005−54,(2005).]などもある。
【非特許文献1】”脳波におけるカオスとフラクタル性”,信学論,Vol. J78−A, No.2,pp. 161−168,(1995).
【非特許文献2】”On the Chaosand Fractal Properties in EEG Data”, Electronics andCommunications in Japan Part III−FundamentalsVol.78−10 pp27−36, (1995)
【非特許文献3】”Chaos and Fractals inEngineering”, World Scientific, Inc (1999).
【非特許文献4】”フラクタル次元解析を用いた感情の定量化手法”, 信学技報,HIP2002−12,pp.13−18, 2002.
【非特許文献5】”光トポグラフィによる感性情報解析”,信学論,Vol.J88−A,No.8,pp.994−1001.
【非特許文献6】”脳波のフラクタル次元解析を用いたヒューマンインターフェースへの応用”,信学技報,CAS2005−42,NLP2005−54,(2005).
【特許文献1】特開2004−194924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、教育工学の分野でメタ認知[三宮真智子,”思考におけるメタ認知と注意”,東京大学出版会,pp157−180,(1996).]活用の有効性が注目されている。
【0005】
「メタ認知」は図1に示すように分類される。「メタ認知的モニタリング」活動は学習効果に大きな影響を与えるとされている。自己の思考・感情そのものを対象としてモニタリングすることが「メタ認知的モニタリング」であり、メタ認知をしている自分とそれを取り巻く世界を対象としてモニタリングすることが「メタメタ認知的モニタリング」である。「メタ認知的モニタリング」は、自己の思考の誤りに気付き修正を行う上で不可欠であり、自己学習能力に影響を与えると考えられている。なお本願明細書では、「メタ認知的モニタリング」を「メタ認知」、「メタメタ認知的モニタリング」を「メタメタ認知」と略称する。
【0006】
しかしながら従来は、被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあるか否かを客観的に判定する技術は全く提案されていない。発明者等が以前に特開2004−194924号において提案した脳機能計測装置を用いて、被験者の感性(「怒り」、「悲しみ」、「喜び」、「リラックス」)を定量的に計測しても、その計測結果から被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあるか否かを判定することはできなかった。
【0007】
本発明の目的は、被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあるか否かを客観的に判定することができる認知状態判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
メタ認知活用の有効性が注目されてはいるものの、メタ認知をどのように判定するかについての研究は全くなされていない。そのためにメンタルトレーニングの指導者と呼ばれる人の中に、本来的にメタ認知状態またはメタメタ認知状態に任意になることができない人が含まれていることも、実際上は判定することができないのが実情である。そこで発明者は、前述の特開2004−194924号において提案した脳機能計測装置を用いて、被験者の感性(「怒り」、「悲しみ」、「喜び」、「リラックス」)を定量的に計測して、その計測結果すなわち被験者が「怒り」、「悲しみ」、「喜び」または「リラックス」の状態にあることと、被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあることとの間に、特定の関係があるか否かを試験してみた。しかしながら両者の間には、客観的な特定の関係を見出すことができなかった。これは感性に関しては、外部からの刺激情報に対して被験者が感性状態を自分自身で認知できるのに対して、メタ認知及びメタメタ認知は、外部からの刺激情報に対する認知ではなく、自己認知によるものであり、被験者がそれを自分自身で認知できないためである。そのためフラクタル次元解析を利用しても、メタ認知状態またはメタメタ認知状態を判定することは無理であると発明者は当初考えていた。
【0009】
しかしながら研究を進めていくうちに、脳波の測定箇所を限定し、フラクタル次元解析の対象とする脳波信号の種類を限定し、さらに判定基準を工夫することによって、感性フラクタル次元解析を利用して被験者がメタ認知状態またはメタメタ認知状態にあることを判定できることを見出した。本発明は、この研究を基礎としてなされたものである。もし当初の試験結果だけを信じて研究を中止していたならば、メタ認知状態またはメタメタ認知状態の定量的な計測は、実現し得なかった。
【0010】
発明者の継続研究によって案出された本発明の認知状態判定装置は、脳波差信号演算手段と、自己アフィンフラクタル次元演算手段と認知状態判定手段とを備える。脳波差信号演算手段は、被験者の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号を求め、これら差信号を複数の脳波差信号として出力する。自己アフィンフラクタル次元演算手段は、脳波差信号演算手段から出力される複数の脳波差信号のそれぞれから、自己アフィンフラクタル次元を求める。脳波差信号演算手段及び自己アフィンフラクタル次元演算手段は、微小時間間隔毎に差信号を求め、この微小時間間隔毎に求めた差信号について感性フラクタル次元解析を行って微小時間間隔毎の自己アフィンフラクタル次元を求める。特開2004−194924号のように、帯域制限された複数の脳波信号から選択した2つの脳波信号の差をとり、帯域分離した複数の脳波信号の相互相関の信号を作って、この相互相関の信号をフラクタル次元解析しても、メタ認知またはメタメタ認知を判定するのに十分に役立つ情報が含まれていないことは研究により確認された。発明者の研究によると、側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ求めた差信号を複数の脳波差信号として、その脳波差信号のそれぞれから求めた自己アフィンフラクタル次元には、メタ認知またはメタメタ認知を判定するのに十分に役立つ情報が含まれていることが確認された。脳の測定領域に側頭葉を含めない場合には、メタ認知またはメタメタ認知を判定することは難しい。最も少ない脳波信号に基づいて判定を行う場合には、脳の左右の側頭葉から得た2以上脳波信号だけを用いても良い。
【0011】
そして本発明では、認知状態判定手段が、安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号をリファレンスデータとして用いて予め定めた判定基準に基づいて、自己アフィンフラクタル次元のデータを入力として、被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるのかを判定する。ここで基準者は、メタ認知研究において、メタ認知及びメタメタ認知状態になるための訓練を指導することができるインストラクタと呼ばれる人である。本発明においては、この基準者から得た複数の脳波信号をリファレンスデータとして判定基準を定めているので、客観的な判定を行うことができる。
【0012】
認知状態判定手段は、判定基準を記憶する記憶部と、判定基準と自己アフィンフラクタル次元のデータとに基づいて被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるかを判定する判定部とを備えている。記憶部に記憶されている判定基準は、基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号から複数の脳波差信号を演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求め、安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元が判定部にそれぞれ入力されたときに、判定部が入力された自己アフィンフラクタル次元に対応する認知状態を正しく判定するように定められている。したがって本発明によれば、基準者から得た客観的な基準データに基づいて定めた判定基準を用いるので、被験者から得た自己アフィンフラクタル次元を判定部に入力することにより、被験者のメタ認知状態またはメタメタ認知状態を定量的に判定することが可能になった。
【0013】
なお判定部は、線形写像判別法により下記の判定式を用いて判定するように構成することができる。
【数1】
【0014】
上記式において
【数2】
【0015】
は線形写像である状態分離マトリックスであり、
【数3】
【0016】
は入力信号ベクトルであり、
【数4】
【0017】
は定数ベクトルであり、
【数5】
【0018】
は安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態を判定するための感性の状態を示す演算結果である。
【0019】
そして前述の状態分離マトリックスが判定基準となる。したがって状態分離マトリックス及び定数ベクトルを定めるには、まず任意に安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態を作ることができる判定基準となり得る者(基準者)の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ脳波差信号を脳波差信号演算手段により求める。次に自己アフィンフラクタル次元演算手段により複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求める。そして判定式の入力信号ベクトルとして入力し、基準者が安静状態にあるとき、メタ認知状態にあるとき及びメタメタ認知状態にあるときに、それぞれ判定式の演算結果がそれらの状態を正しく示すように状態分離マトリックス及び定数ベクトルを設定する。
【0020】
また認知状態判定手段は、判定基準としてニューラルネットを用いて認知状態を判定するように構成することができる。この場合、ニューラルネットは、その内部状態を次のように決定する。まず基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号から複数の脳波差信号を演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求める。そして安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元を3種類の学習用入力パターンと定め、3種類の学習用入力パターンから所定時間幅間隔で規則正しくまたは不規則に選択した学習入力パターンのデータを順次入力として学習を行ってニューラルネットの内部状態を決定する。判断基準として、このようなニューラルネットを用いると、線形写像の状態分離マトリックスを判断基準として用いる場合よりも、判定精度を高めることができる。特に、ニューラルネットの内部状態を学習により決定する場合に、安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元を3種類の学習用入力パターンと定めて、これら3種類の学習用入力パターンから所定時間幅間隔で規則正しくまたは不規則に選択した学習入力パターンのデータを順次入力として学習を行ってニューラルネットの内部状態を決定すると、短い学習時間で内部状態を精度の高い判定をするのに必要なレベルまで高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来できなかった被験者のメタ認知またはメタメタ認知を定量的に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。図2は、本発明の認知状態判定装置の実施の形態の一例の構成を概略的に示すブロック図である。この実施の形態では、側頭葉を含む16ヶ所の脳の領域から測定した16Chの脳波信号を用いる。そしてフラクタル次元解析法を用いた信号処理と判定処理によって、人間(被験者)のメタ認知状態またはメタメタ認知状態を定量的に評価する。図2に示した認知状態判定装置は、基本的な構成手段として、測定手段1と、脳波差信号演算手段2と、自己アフィンフラクタル次元演算手段3と、認知状態判定手段4とを備えている。認知状態判定手段4は、記憶部5と判定部6とから構成される。なおこの実施の形態においては、後に説明する判定基準としての状態分離マトリックスを決定する状態分離マトリックス決定手段7をさらに備えている。
【0023】
測定手段1は、図3に示す16ヶ所の脳の領域に電極を配置して16Chの脳波信号を測定する公知の脳波測定器によって構成されている。したがって測定手段1からは、16Chの脳波信号が脳波差信号演算手段2に出力される。図3の特に、7番、8番、9番及び10番の位置が脳の側頭葉の位置である。
【0024】
脳波差信号演算手段2は、16Chの脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号(120組の差信号)を求め、これら差信号を120組の脳波差信号として出力するように構成されている。脳波差信号演算手段2は、微小時間間隔毎(例えば0.1〜0.25sec毎)に差信号を求めている。また自己アフィンフラクタル次元演算手段3は、脳波差信号演算手段2から出力される120組の脳波差信号のそれぞれから、自己アフィンフラクタル次元を求めるように構成されている。自己アフィンフラクタル次元の求め方については後に説明する。なお自己アフィンフラクタル次元演算手段3でも、微小時間間隔毎に求めた差信号について感性フラクタル次元解析を行って微小時間間隔毎のフラクタル次元を求めている。
【0025】
そして認知状態判定手段4は、安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号をリファレンスデータとして用いて予め定めた判定基準を状態分離マトリックスとして記憶部5に記憶している。そして判定部6においては、自己アフィンフラクタル次元演算手段3で演算した自己アフィンフラクタル次元のデータを入力として、被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるのかを判定する。記憶部5に記憶されている判定基準は、状態分離マトリックス決定手段7によって決定されている。状態分離マトリックス決定手段7で状態分離マトリックスを決定するためには次のようにする。まず基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号(リファレンスデータ)から複数の脳波差信号を脳波差信号御演算手段2で演算する。該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を自己アフィンフラクタル次元演算手段3で求める。そして安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元が判定部6にそれぞれ入力されたときに、判定部6が入力された自己アフィンフラクタル次元に対応する認知状態を正しく判定するように、状態分離マトリックスを決定する。最後に記憶部5に状態分離マトリックスを記憶させる。
【0026】
なお判定部6は、線形写像判別法により下記の判定式を用いて判定するように構成することができる。
【数6】
【0027】
上記式において
【数7】
【0028】
は線形写像である状態分離マトリックスである。
【数8】
【0029】
は入力信号ベクトルであり、
【数9】
【0030】
は定数ベクトルであり、
【数10】
【0031】
は安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態を判定するための感性の状態を示す演算結果である。
【0032】
すなわち上記式の[C1,1・・・C1,120]は、基準者の脳波差信号(リファレンスデータ)に基づいて得られたフラクタル次元の線形写像(状態分離マトリックス)である。この状態分離マトリックスが、記憶部5に記憶されている判定基準である。前述のように、状態分離マトリックスを得るためには、具体的には、任意に安静状態、メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態を作ることができる判定基準となり得る者(基準者)の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から16Chの脳波信号(リファレンスデータ)を得る。そして16Chの脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる脳波信号についてそれぞれ差信号を脳波差信号演算手段2により求める。そして自己アフィンフラクタル次元演算手段3により複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求める。次にこれら自己アフィンフラクタル次元を上記判定式の入力信号ベクトルとして入力し、基準者が安静状態にあるとき、メタ認知状態にあるとき及びメタメタ認知状態にあるときに、それぞれ判定式の演算結果[Z1,Z2,Z3]がそれらの状態を示すように状態分離マトリックスを設定する。安静状態では、出力が[Z1,Z2,Z3]=[+1,−1,−1]となり、メタ状態では、出力が[Z1,Z2,Z3]=[−1,+1,−1]となり、メタメタ状態では、出力が[Z1,Z2,Z3]=[−1,−1,+1]となるように、状態分離マトリックスを決定することが、状態分離マトリックス決定手段7が実行する判定条件の決定作業である。
【0033】
本実施の形態の認識状態判定手段4で用いる判定法を、自己アフィンフラクタル次元演算手段3における演算方法を含めて、さらに詳細に説明する。脳波信号のフラクタル次元を推定する方法として、分散のスケーリング特性に基づいたフラクタル次元推定法が知られている。自己アフィンフラクタル次元がDである時系列データf(t)と時刻τだけ離れたデータf(t+τ)のα次のモーメントは、次のように表される。
【数11】
【0034】
もし、解析データが一様なフラクタル性を有するならばHurst指数Hはモーメントの次数αに依存しない。このとき、Hurst指数Hは、
【数12】
【0035】
によって求められる。α=2の場合、[数11]の式において時系列データの分散のスケーリング特性が求められる。この分散のスケーリング特性から自己アフィンフラクタル次元を推定する。自己アフィンフラクタル次元の推定値
【数13】
【0036】
は、[数12]より求められるHurst指数Hを用いて、下記の式で演算することができる。
【数14】
【0037】
感性フラクタル次元解析手法では、脳波測定によって得られる16Chのデータを用いて、4種類程度の感性(本実施の形態では認知状態)を識別することができる。フラクタル次元解析を行う前処理として、16個の電極から得られる16Chの脳波信号間の差分信号が、前述の通り脳波差信号演算手段2により作成される。この処理により、120組(=16C2)の差分信号が作成される。電極間の差分信号yij(t)は、サンプリング間隔を単位とした時間をt、i番目の電極からの入力値をxi(t)、j番目の電極からの入力値をxj(t)とすると、
【数15】
【0038】
で与えられる。これら16Chのデータに対して得られる120個の電極間電位差信号yij(t)を、時間領域で窓幅tW=4[sec]の矩形窓で切り出し、tW点の差分信号を得る。窓の移動幅をtstep、窓の位置をnとすると、切り出された信号yijnはベクトルを用いて次のように表される。
【数16】
【0039】
ここで、窓の移動幅tstepは、0.25[sec]である。切り出された差分信号
【数17】
【0040】
それぞれに対して、分散のスケーリング特性に基づいたフラクタル次元解析を行い、16C2次元の入力信号ベクトル
【数18】
【0041】
を作成する。フラクタル次元を求める処理をFract(・)とすると、入力信号ベクトル[数18]は以下のように表される。
【数19】
【0042】
この入力信号ベクトル[数17]を線形写像などの認識部にて学習及び認識することにより感性フラクタル次元解析が可能となる。線形写像を用いる場合、入力信号ベクトル[数18]に線形写像である状態分離マトリックス
【数20】
【0043】
を用いて、
【数21】
【0044】
に線形変換を行う。ここで、Tは転置を表す。これらの大きさが認知の状態に相当する特徴量となる。これは、以下のように表される。以下の式は、上記[数1]及び[数6]と同じものである。
【数22】
【0045】
ここで
【数23】
【0046】
は定数ベクトルである。
【0047】
解析を行うにあたり、学習に用いるリファレンスデータとなる脳波信号を基準者から測定する必要がある。まず、基準者に「安静」、「メタ認知」、「メタメタ認知」、を想起してもらい、16Chの脳波信号を測定する。状態分離マトリックスの値は、それぞれの認知状態が
【数24】
【0048】
となるように最小自乗法を用いて決定する。
【数25】
【0049】
の各構成要素を、それぞれ関連付けられた認知状態の指標とし、大きさをその認知の発現レベルとみなす。これにより、認知状態を定量的に解析することが可能となる。
【0050】
すなわち、例えば上記[数24]中の例であれば、(1,−1,−1)の中の数字が発現レベルを示している。この発現レベルによって認知状態の定量化が実現されている。実際に被験者の認知状態を判定する場合には、被験者から測定した16Chの脳波信号に基づく入力信号ベクトル[数18]を入力することにより、被験者の認知状態を判定することができる。
【0051】
次に、本発明の実施の形態により、安静状態と、メタ認知状態と、メタメタ認知状態とを定量的に判定することができることを試験した結果について説明する。
【0052】
[試験内容]
まず、脳波計により得た「安静状態」と「メタ認知状態」での脳波にフラクタル次元解析を行い、思考状態によって違いに差異が見られることを確認した。その後、「安静」、「メタ認知」、「メタメタ認知」の3種類の思考状態を維持し、その脳波信号のフラクタル次元推定値を特徴量として、前述の感性フラクタル次元解析手法と同様の方法で認識処理を行い、それぞれの思考状態を識別できるか評価を行った。意図した思考状態を識別することできたことを確認後、ストループ試験を行い、思考状態が学習効果(試験の得点)に与える影響を評価した。ここで用いたストループ試験とは、様々な色で書かれた文字を見て、色に惑わされず色を示す漢字の意味を答える試験である。この試験は簡単な試験だが、色と意味が混同して出題されるため脳の中で葛藤が生じる。さらにこの試験は、慣れによって葛藤が生じにくくなるため、試験を繰り返すことにより成績が向上する学習効果を判断できる最適な試験である。
【0053】
[測定条件]
脳波測定装置は日本光電社製MEG−6116Mを使用した。測定データはA/D変換ボード(ComputerBoards社製PCM−DAS16S/16、A/D変換分解能16bits、チャンネル数16Ch)を通し、パーソナルコンピュータで記録を行った。測定時のサンプリング周波数を512Hzとし、1.5Hzのローカットフィルタおよび、100Hzのハイカットフィルタを設定した。また、商用電源に対するHUMフィルタを脳波測定時に使用した。測定部位は国際10−20電極法に基づき、1Ch〜16Chの単極測定とし、右耳朶A2を基準電極とした(図3)。測定は通常環境下での測定を行った。被験者は心身共に健康な44歳の男性で、メタ認知・メタメタ認知を修得し、脳波測定に関する基礎的な知識と被験者としの経験を持っている者である。
【0054】
[思考想起試験]
タスク中は「安静状態」、「メタ認知状態」、「メタメタ認知状態」の3種類の思考状態を維持する。試験は以下の手順で行う。
【0055】
1.最初の60秒間は閉眼安静とする。
【0056】
2.実験者の合図と共にランダムに思考状態を指示し、意図した思考状態を120秒保持する。
【0057】
3.休息をとり、その後、1.に戻り、次の思考ついて同様に測定を行う。
【0058】
という手順で測定を行った。リファレンスデータと評価用データは同様の実験であり、各思考を数回繰り返し測定する。測定の流れを図4に示す。
【0059】
[ストループ試験]
ストループ試験には「赤」、「青」、「緑」、「黄」4種類の色を用い、文字の色に関係なく文字の意味をコントローラを用いて答えていく方法である。1問あたりの回答時間は1秒、全16問を1セットとして各思考状態10回測定を繰り返す。10セット通じて意図した思考状態を維持し続けながら試験を行う。試験は以下の手順で行う。
【0060】
1.最初の10秒間は開眼安静とする。
【0061】
2.実験者の合図と共に試験を開始し、16問回答終了後、任意の思考を維持したまま待機する。
【0062】
3.その後、1.に戻り、次の思考について同様に測定を行う。
【0063】
4.以上を10回1セットとし、3種類の思考状態に対して繰り返し行う。
【0064】
ストループ試験の測定の流れを図5に示す。
【0065】
[解析結果]
フラクタル次元解析結果
脳波測定によって得られる16Chの脳波信号のうち、側頭葉に対応する7〜10Chの信号にフラクタル次元解析を施した結果の一例を図6に示す。なお、示す波形は、60秒間の安静の後、継続して120秒間安静状態を維持したもの(A)と、メタ認知状態へ思考を移行した結果(B)である。結果より、安静状態を維持している結果では、7〜10Chすべてのチャンネルで次元の変化が少ない。しかし安静状態からメタ認知へ思考を移行し始めてからフラクタル次元推定値が一様に下がり変化している。このことから、安静状態とメタ認知時の脳の変化をフラクタル次元解析により抽出できることが確認できる。このようにして得られたフラクタル次元推定値を特徴量として感性フラクタル次元解析を行い思考想起試験や、ストループ試験を行った。
【0066】
[思考想起試験解析結果]
リファレンスデータに対する解析結果
脳波測定によって得られる16Ch脳波信号の差分信号を求め、図6に示すようなフラクタル次元解析した120組(=16C2)の入力ベクトルを入力とし、3種類の思考状態(安静、メタ認知、メタメタ認知)について解析を行った。学習に用いたリファレンスデータを再入力した際の、時々刻々の割合を算出した結果を図7に示す。図7の結果は、(a)に安静、(b)にメタ認知、(c)にメタメタ認知の思考状態を行った時のそれぞれの思考状態対する出力の割合を示したものである。その結果、3つの思考状態に対し識別できていることが確認でき、状態分離マトリックスが正確に決定されていることが確認できる。(a)の安静状態では、安静(relax)の出力が+1に近く、(b)のメタ認知状態では、メタ認知(meta-cognition)の出力が+1に近く、(c)のメタメタ認知状態では、メタメタ認知(meta-meta-congnition)の出力が+1に近い状態になっている。なお一部でもマイナス方向の出力が出ている場合には、発現レベルを−1と考えることとする。
【0067】
評価用データに対する解析結果
状態分離マトリックスを決定する際に用いていない、評価用データを入力データとしたとき時々刻々の出力に対する割合を図8に示す。図8の結果は、(a)に安静、(b)にメタ認知、(c)にメタメタ認知の思考状態を行ったときのそれぞれの思考に対する出力を示したものである。その結果60秒まで安静をした後、思考状態に安静を選択した際には、引き続き安静の出力が高く出ている事が確認できる。また、メタ認知、メタメタ認知状態へ変化させた際には60秒からそれぞれ意図した思考状態の出力が大きくなっていくことが確認できる。
【0068】
[ストループ試験解析結果]
思考状態に対する解析結果
実際に2種類の思考状態を保ちながらストループ試験を行った際に、学習効果に与える影響を検討した。思考想起試験と同様な解析を10回行った。そのとき同様な解析をした思考状態ごとの平均出力と、標準偏差の結果を図9に示す。この結果より、被験者は任意の思考状態を十分再現して保ちながらストループ試験を行えると言える。結果より、各思考状態で10回ずつ実験を行った際に十分に意図した思考状態で試験ができたといえる。
【0069】
[思考状態とストループ試験得点の関係の検討]
安静状態とメタ認知状態をそれぞれ保ち、52セットずつストループ試験を行った結果を図10に示す。図10(A)は安静状態における試験結果であり、図10(B)はメタ認知状態における試験結果である。図10の結果より、ストループ試験中の思考をメタ認知状態で行ったほうが得点のばらつきが少なく、且つ、より高得点側に分布している事が分かる。これにより、単純作業を繰り返して、慣れによって脳内の混乱が起きにくくなるようなストループ試験を行う場合、自己の行動をモニタリングし、修正していく事が学習効果に影響を及ぼす事が確認できた。
【0070】
上記試験では、思考状態が学習効果に与える影響について検討を行った。まず、3種類の思考状態の脳波からそれぞれの思考を判別することを行った。脳波信号の差分信号に対しフラクタル次元解析を行うことにより脳波信号の特徴量を抽出し、被験者がどの思考状態にあるか識別できるか検討した。学習に用いていない未知のデータを入力した結果、1つの思考時に、その思考に対応する出力の割合が大きいことから、着目している思考を識別できることが確認された。このことから、意図した思考を識別することが可能であり、メタ認知、メタメタ認知の修得度を評価する際に有効だと言える。またメタ認知を行いながらストループ試験をすることでも、安静状態とメタ認知状態の状態を認識できる事を確認した。さらに単純作業を繰り返すストループ試験において、安静状態で繰り返し試験を行うよりも、メタ認知状態で行うことで、より安定した結果を出せることが確認できた。
【0071】
[ニューラルネットを利用した判定]
次に判定基準としてニューラルネットを利用した本発明の認知状態判定装置の他の実施の形態について説明する。図11はこの実施の形態の構成を示す図である。この実施の形態では、ニューラルネットNNの内部状態を決定する学習作業を事前に行って、ニューラルネットNNを構築する。図11に示したニューラルネットワークNNは、入力層11と、1以上の中間層12と、出力層13とを備えている。なおこの例では中間層12は1層である。入力層11は、r個(r前述の脳波差信号の組み合わせの数すなわち16C2=120)の自己アフィンフラクタル次元がそれぞれ入力される120個のニューロンn1〜n120からなる第1のニューロン群N1を含んでいる。また中間層12は、q(2×16C2=240)個のニューロンn201〜n440からなる第2のニューロン群N2を備えている。そして出力層13は、3個のニューロンn501〜n503からなる第3のニューロン群N3を備えている。第1のニューロン群N1を構成する120個のニューロンn1〜n120には入力パターン切り替え手段14の端子T1〜T120を介して後述する3種類の学習用入力パターンP1〜P3と入力信号ベクトルとが入力される。
【0072】
まずニューラルネットNNの内部状態を学習により決定するために、前述の基準者から得た安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における複数の脳波信号から複数の脳波差信号を微小時間間隔毎に演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を微小時間間隔毎に求める[例えば図6(A)及び(B)に示す波形]。そして安静状態、メタ認知状態及びメタメタ認知状態における自己アフィンフラクタル次元を3種類の学習用入力パターンP1〜P3と定める。1種類の学習入力パターンには、それぞれ120組の自己アフィンフラクタル次元が含まれる。すなわち第1の学習用入力パターンP1には、基準者の脳波信号から求めた120組の安静時の自己アフィンフラクタル次元(安静時入力信号ベクトル)が含まれ、第2の学習用入力パターンP2には、基準者の脳波信号から求めた120組のメタ認知時の自己アフィンフラクタル次元(メタ認知時入力信号ベクトル)が含まれ、第3の学習用入力パターンP3には、基準者の脳波信号から求めた120組のメタメタ認知時の自己アフィンフラクタル次元(メタメタ認知時入力信号ベクトル)が含まれる。入力パターン切り替え手段14は、入力基準者から得た3種類の学習用入力パターンP1〜P3から所定時間幅間隔(0.25s)で規則正しくまたは不規則に選択して、選択した学習入力パターンの120組のデータを順次第1のニューロン群N1を構成する120個のニューロンn1〜n120に入力する。ニューロンn1〜n120には、3種類の学習用パターンP1〜P3に対応した3種類のメモリがそれぞれ装備されている。規則正しく選択する場合には、パターンP1→パターンP2→パターンP3の順に、時間幅間隔(0.25s)毎に各パターンから120組のデータを取得して、120個のニューロンn1〜n120に入力することになる。また不規則に選択する場合には、パターンP1→パターンP1→パターンP3→パターン2→パターン3・・・のように、不規則にパターンが選択される。規則正しくパターンを選択する場合と、不規則にパターンを選択する場合と比べて、不規則にパターンを選択するほうが、短い時間で学習が完了することが試験により確認されている。
【0073】
学習時には、入力層11の第1のニューロン群N1に学習用入力パターン1が入力されているときには、出力層3の第3のニューロン群N3を構成する3個のニューロン501〜503の出力に安静状態であることを示す出力が出力され、入力層11の第1のニューロン群N1に学習用入力パターン2が入力されているときには、出力層3の第3のニューロン群N3を構成する3個のニューロン501〜503の出力にメタ状態であることを示す出力が出力され、入力層11の第1のニューロン群N1に学習用入力パターン3が入力されているときには、出力層3の第3のニューロン群N3を構成する3個のニューロン501〜503の出力にメタメタ状態であることを示す出力が出力されるようにニューロンn1乃至n120、n201乃至n440、n501乃至n503の内部状態と、各ニューロン群N1乃至N3間の結合荷重が定められる。
【0074】
このニューラルネットNNでは、シグモイド関数を用いており、そのダイナミクスは、離散時間tに対して以下のように定式化することができる。
【数26】
【0075】
上記式において、
【数27】
【0076】
は、入力層11から出力層13が、L層のニューロン群で構成されていると考えた場合における、L層のi番目のニューロンの入力パターンp(3種類の入力パターンP1〜P3に対応)に対する内部状態を示す。本例では、L層とは出力層13であり、L−1層とは中間層13であり、入力層はL0層となる。そして
【数28】
【0077】
は、L−1層のニューロンjとL層のニューロンiとの間の結合荷重である。この例の場合には、入力層11のニューロンn1〜n120と中間層12のニューロンn201〜n440との間の結合荷重と、中間層12のニューロンn201〜n440と出力層13のニューロンn501〜n503との間の結合荷重である。またN(L―1)は、L−1層のニューロンの総数を表している。また
【数29】
【0078】
は、L−1層のj番目のニューロンのp番目のパターンに対する出力であり、
【数30】
【0079】
は、閾値である。
【0080】
またこの例では入力層には、線形ニューロンを用い、中間層12と、出力層13で用いられる各ニューロンの活性化関数には、下記に示す活性化関数を用いている。
【数31】
【0081】
上記各式において、εは温度パラメータである。そして出力層13の出力は、以下のように表される。
【数32】
【0082】
学習時には、下記の評価関数E(t)がなるべく小さくなるように、各ニューロンの内部状態を決定する。
【数33】
【0083】
上記式において、Pはパターンの数であり、N(L0)は出力層13のニューロンの数であり、tpiは出力層のi番目のニューロンに対するp番目のパターンの教師信号であり、
【数34】
【0084】
は、出力層のi番目のニューロンのp番目に対するパターンに対する出力である。
【0085】
上記のように3種類の学習用入力パターンP1〜P3に基づいて、ニューラルネットNNの各ニューロンの内部状態を決定した後、入力パターン切り替え手段14が入力として被験者の入力信号ベクトル(120組)を所定の時間幅でニューラルネットNNの入力層11のニューロンn1〜n120に入力すると、ニューラルネットNNの出力層13のニューロンn501〜n503からは、判定結果が出力される。
【0086】
図12には、ニューラルネットNNを判定基準として用いて、前述の線形写像を用いる場合と同様にストループ試験を行った結果を示している。試験の条件は、すべて前述の条件と同じものとした。図12(A)は安静状態における試験結果であり、図12(B)はメタ認知状態における試験結果であり、図12(C)はメタメタ認知状態における試験結果である。図12の結果より、ストループ試験中の思考をメタ認知状態で行ったほうが得点のばらつきが少なく、且つ、より高得点側に分布していることが分かる。これにより、単純作業を繰り返して、慣れによって脳内の混乱が起きにくくなるようなストループ試験を行う場合、自己の行動をモニタリングし、修正していくことが学習効果に影響を及ぼすことが確認できた。また前述の図10の試験結果と比べると判るように、ニューラルネットNNを用いた場合のほうが、線形写像を用いる場合と比べて、ばらつきが少ない。
【0087】
図13は、前の実施の形態のように線形写像を用いた線形解析でメタ認知を判定した場合の認識率と、ニューラルネットを用いた非線形解析によりメタ認知を判定した場合の認識率をそれぞれ示している。図13から、安静時及びメタ認知時のいずれにおいても、ニューラルネットを用いた非線形解析のほうが、認識率が高くなることが判る。
【0088】
非線形解析または線形解析のいずれを用いる場合でも、本発明では、被験者ではなく、安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得たリファレンスデータを用いて、判定基準(状態分離マトリックス、ニューラルネット等)を定めているので、メタ状態及びメタメタ状態を客観的に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】メタ認知の分類を示す図である。
【図2】本発明の認知状態判定装置の実施の形態の一例の構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】16Chの電極の配置図である。
【図4】思考想起実験測定の流れを示す図である。
【図5】ストループ試験測定の流れを示す図である。
【図6】(A)及び(B)は、安静時及びメタ認知時のフラクタル次元推定値の例を示す図である。
【図7】リファレンス再入力時の解析結果を示す図である。
【図8】評価用データ入力時の解析結果を示す図である。
【図9】ストループ試験中の状態出力を示す図である。
【図10】(A)及び(B)は、安静時とメタ認知時のストループ試験得点分布を示す図である。
【図11】ニューラルネットを利用した本発明の認知状態判定装置の他の実施の形態の構成を示す図である。
【図12】(A)乃至(C)は、ニューラルネットNNを判定基準として用いて、前述の線形写像を用いる場合と同様にストループ試験を行った結果を示す図である。
【図13】線形写像を用いた線形解析でメタ認知を判定した場合の認識率と、ニューラルネットを用いた非線形解析によりメタ認知を判定した場合の認識率をそれぞれ比較した図である。
【符号の説明】
【0090】
1 測定手段
2 脳波差信号演算手段
3 自己アフィンフラクタル次元演算手段
4 認知状態判定手段
5 記憶部
6 判定部
7 状態分離マトリックス決定手段
11 入力層
12 中間層
13 出力層
NN ニューラルネット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号についてそれぞれ差信号を求め、これら差信号を複数の脳波差信号として出力する脳波差信号演算手段と、
前記脳波差信号演算手段から出力される前記複数の脳波差信号のそれぞれから、自己アフィンフラクタル次元を求める自己アフィンフラクタル次元演算手段と、
安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得た前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記複数の脳波信号をリファレンスデータとして用いて予め定めた判定基準に基づいて、前記自己アフィンフラクタル次元のデータを入力として、前記被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるのかを判定する認知状態判定手段とを備えていることを特徴とする認知状態判定装置。
【請求項2】
前記認知状態判定手段は、前記判定基準を記憶する記憶部と、前記判定基準と前記自己アフィンフラクタル次元のデータとに基づいて前記被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるかを判定する判定部とを備え、
前記記憶部に記憶されている前記判定基準は、前記基準者から得た前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記リファレンスデータとしての前記複数の脳波信号から前記複数の脳波差信号を演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求め、前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記自己アフィンフラクタル次元が前記判定部にそれぞれ入力されたときに、入力された前記自己アフィンフラクタル次元に対応する認知状態を前記判定部が正しく判定するように定められている請求項1に記載の認知状態判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、線形写像判別法により下記の判定式を用いて判定するように構成され、
【数1】
前記式において
【数2】
は線形写像である状態分離であり、
【数3】
は入力信号ベクトルであり、
【数4】
は定数ベクトルであり、
【数5】
は前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態を判定するための感性の状態を示す演算結果である請求項2に記載の認知状態判定装置。
【請求項4】
前記状態分離マトリックス及び前記定数ベクトルは、任意に前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態を作ることができる前記基準者の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号について、それぞれ脳波差信号を脳波差信号演算手段により求め、前記自己アフィンフラクタル次元演算手段により前記複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求めて、前記判定式の入力信号ベクトルとして入力し、前記基準者が前記安静状態にあるとき、前記メタ認知状態にあるとき及び前記メタメタ認知状態にあるときに、それぞれ前記判定式の前記演算結果がそれらの状態を示すように事前に設定されたものである請求項3に記載の認知状態判定装置。
【請求項5】
前記認知状態判定手段は、判定基準としてニューラルネットを用いて認知状態を判定するように構成されており、
前記ニューラルネットはその内部状態が、前記基準者から得た前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記複数の脳波信号から前記複数の脳波差信号を演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求め、前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記自己アフィンフラクタル次元を3種類の学習用入力パターンと定め、前記3種類の学習用入力パターンから所定時間幅間隔で規則正しくまたは不規則に選択した前記学習入力パターンのデータを順次入力として学習を行って決定されたものである請求項1に記載の認知状態判定装置。
【請求項1】
被験者の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号についてそれぞれ差信号を求め、これら差信号を複数の脳波差信号として出力する脳波差信号演算手段と、
前記脳波差信号演算手段から出力される前記複数の脳波差信号のそれぞれから、自己アフィンフラクタル次元を求める自己アフィンフラクタル次元演算手段と、
安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態に意図的になることができる基準者から得た前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記複数の脳波信号をリファレンスデータとして用いて予め定めた判定基準に基づいて、前記自己アフィンフラクタル次元のデータを入力として、前記被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるのかを判定する認知状態判定手段とを備えていることを特徴とする認知状態判定装置。
【請求項2】
前記認知状態判定手段は、前記判定基準を記憶する記憶部と、前記判定基準と前記自己アフィンフラクタル次元のデータとに基づいて前記被験者が安静状態、メタ認知状態またはメタメタ認知状態のいずれにあるかを判定する判定部とを備え、
前記記憶部に記憶されている前記判定基準は、前記基準者から得た前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記リファレンスデータとしての前記複数の脳波信号から前記複数の脳波差信号を演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求め、前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記自己アフィンフラクタル次元が前記判定部にそれぞれ入力されたときに、入力された前記自己アフィンフラクタル次元に対応する認知状態を前記判定部が正しく判定するように定められている請求項1に記載の認知状態判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、線形写像判別法により下記の判定式を用いて判定するように構成され、
【数1】
前記式において
【数2】
は線形写像である状態分離であり、
【数3】
は入力信号ベクトルであり、
【数4】
は定数ベクトルであり、
【数5】
は前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態を判定するための感性の状態を示す演算結果である請求項2に記載の認知状態判定装置。
【請求項4】
前記状態分離マトリックス及び前記定数ベクトルは、任意に前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態を作ることができる前記基準者の脳の複数の領域のうち側頭葉を含む複数の領域から測定した複数の脳波信号から、順列組み合わせにより選択した複数組の2つの異なる前記脳波信号について、それぞれ脳波差信号を脳波差信号演算手段により求め、前記自己アフィンフラクタル次元演算手段により前記複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求めて、前記判定式の入力信号ベクトルとして入力し、前記基準者が前記安静状態にあるとき、前記メタ認知状態にあるとき及び前記メタメタ認知状態にあるときに、それぞれ前記判定式の前記演算結果がそれらの状態を示すように事前に設定されたものである請求項3に記載の認知状態判定装置。
【請求項5】
前記認知状態判定手段は、判定基準としてニューラルネットを用いて認知状態を判定するように構成されており、
前記ニューラルネットはその内部状態が、前記基準者から得た前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記複数の脳波信号から前記複数の脳波差信号を演算し、該複数の脳波差信号のそれぞれから自己アフィンフラクタル次元を求め、前記安静状態、前記メタ認知状態及び前記メタメタ認知状態における前記自己アフィンフラクタル次元を3種類の学習用入力パターンと定め、前記3種類の学習用入力パターンから所定時間幅間隔で規則正しくまたは不規則に選択した前記学習入力パターンのデータを順次入力として学習を行って決定されたものである請求項1に記載の認知状態判定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【公開番号】特開2009−56231(P2009−56231A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228058(P2007−228058)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月6日 社団法人 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告(IEICE Technical Report)」に発表
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(399124473)株式会社 ジェック (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月6日 社団法人 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告(IEICE Technical Report)」に発表
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(399124473)株式会社 ジェック (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]