説明

認知症検査支援システム及び認知症検査支援装置

【課題】医療従事者の認知症検査に対する習熟度に依存せず、均一な検査結果を得ることが可能な、認知症検査支援システムを提供する。
【解決手段】本発明の認知症検査支援システムは、通信回線を介して接続された検査支援サーバと医療従事者端末とを含み、検査支援サーバが、認知症検査に含まれるテスト項目毎に、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及び医療従事者の言動に対する被検者の応答の評価方法、及びテストにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データを、医療従事者端末に送信する。医療従事者が送信された情報に従って認知症検査を被検者に対して行って、評価結果を医療従事者端末に入力すると、医療従事者端末が評価結果を上記点数データに従って採点し、採点結果を検査支援サーバに送信する。採点結果と評価結果とが検査支援サーバに記憶される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医師等による認知症検査を支援する認知症検査支援システム及び認知症検査支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平均寿命が延びて高齢者が増加するにつれ、高齢者の介護、特に、いまや200万人を超えるとも言われている、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症等の認知症を発症した高齢者の介護の問題が社会的に重要になってきた。
【0003】
認知症は基本的に治癒することがないと考えられているものの、ドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト(登録商標)、エーザイ株式会社製)などのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤やその他の医薬の適切な使用により、或いは適切なリハビリテーションやトレーニングにより、認知症の進行を遅らせ、認知症発症者が自分らしさを発揮することができる時間、認知症発症者が家族と共に在る時間を長期化させることが可能である。従って、認知症が疑われる場合には、できるだけ早期に医師による適切な診断を受けることが重要である。
【0004】
従来から、認知症を発症しているか、発症している認知症のレベルはどの程度であるか、或いは、認知症がどの程度進行しているか、などの知見を得るために、さまざまな認知症検査が提案され、医師等の医療従事者により実施されてきた。
【0005】
例えば、非特許文献1に示されているAlzheimer´s Disease Assessment Scale 日本版(以下、「ADAS−Jcog」と表す)は、認知症経過観察のための検査であるが、このADAS−Jcogを実施する際には、医療従事者は、書面に示された施行マニュアルを参照しながら一定の手順で被検者に対して11項目のテストを行い、書面に示された記録表に各テストの評価結果を書き込み、予め定められた点数データに従って書き込まれた評価結果を点数に変換する作業を行う。そして、得られた点数の変化により被検者の認知機能の変化を把握する。ADAS−Jcog以外にも、認知症のスクリーニング検査、認知症経過観察検査、知能検査等のために多くの認知症検査が提案され、実施されている(表1参照)が、いずれの検査も、書面に示された施行マニュアルを参照しながら検査を行い、書面に示された記録表に検査結果を書き込み、予め定められた点数データに従って検査結果を点数に変換し、得られた点数を集計して認知症の症状を評価するものである。
【0006】
一方、医師による診断の負担軽減を図るために、認知症発症者或いは認知症の発症が疑われる者に対してコンピュータを使用して検査を行う認知症診断支援システムも提案されている。例えば、特許文献1は、患者側装置とサーバとを有する認知症診断支援システムを開示しているが、このシステムでは、患者側装置の患者情報読取部により患者の個人情報を読み取り、サーバが患者側装置から送信された患者の個人情報に基づいて患者を特定し、サーバの質問・回答生成部により特定した患者のスケジュールや属性、日々変わる情報(例えば気象情報、ニュース情報)に依存した質問と回答を生成し、生成した質問をサーバから患者側装置に送信し、上記質問に対する患者の回答を患者側装置からサーバに送信し、サーバが患者の回答の正誤により認知症のレベルを判断するシステムである。
【0007】
特許文献1に開示されているような認知症診断支援システムによると、患者の認知症のレベルを簡易診断することができる。医師は、このシステムにおける患者に対する質問、正解、患者の回答、正解率、正解数、判定された認知症レベルなどの結果情報を見ることにより、医学的見地からさらに詳細な問診などを行うことによって、最終的に患者の状態を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−282992号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】老年精神医学雑誌,3(6),647−655,(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されているような認知症診断支援システムでは、患者からの質問に対する回答の正誤と認知症のレベルとの相関がわかっていないため、認知症レベルの簡易診断のためには有用であるものの、正確に認知症の症状を把握するためにはやはり、従来から書面を用いて行われてきたような、検査における点数と認知症のレベルとの相関が明らかとなっている認知症検査に依らなければならない。
【0011】
また、上述したように認知症発症者はいまや200万人を超えると言われているのに対し、従来から書面を用いて行われてきた認知症検査に熟練した医療従事者は驚くほど少ないのが現状である。認知症検査の実施は一般に複雑であるため、この検査に対する習熟度が低い医療従事者にとっては施行マニュアルを熟読して検査を適正に行うことが容易でなく、従って、同じ検査であっても医療従事者の習熟度に依存して評価結果が大きくばらつくという問題がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、医療従事者による認知症検査を支援する認知症検査支援システム或いは認知症検査支援装置であって、認知症検査に対する習熟度が低い医療従事者であっても認知症検査を適正に行うことができ、しかも誰が検査を行っても均一な検査結果を得ることができるシステム或いは装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の認知症検査支援システムは、通信回線を介して接続された検査支援サーバと医療従事者端末とを含む、医療従事者による複数のテスト項目を含む認知症検査を支援する認知症検査支援システムであって、上記検査支援サーバが、上記認知症検査に含まれるテスト項目毎に、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法を含む検査情報と、テストにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データとを記憶する検査内容記憶部と、該検査内容記憶部に記憶された検査情報と点数データとを上記医療従事者端末に送信する検査内容送信部と、上記医療従事者端末から送信された、上記検査内容送信部が送信した検査情報に従ってなされたテストにおける被検者の応答を医療従事者が評価した評価結果及び/又は該評価結果を上記検査内容記憶部に記憶された点数データに基づいて採点した採点結果を受信する検査結果受信部と、該検査結果受信部が受信した評価結果及び/又は採点結果を記憶する検査結果記憶部とを備えており、上記医療従事者端末が、上記検査支援サーバから送信された検査情報と点数データを受信する検査内容受信部と、該検査内容受信部で受信した検査情報を表示する検査内容表示部と、該検査内容表示部に表示された検査情報に従ってなされたテストにおける被検者の応答を医療従事者が評価した評価結果を取得する評価結果取得部と、該評価結果取得部で取得された評価結果を、上記検査内容受信部が受信した点数データに基づいて採点する採点結果生成部と、上記採点結果生成部が生成した採点結果を出力する検査結果出力部と、上記評価結果取得部で取得された評価結果及び/又は上記採点結果生成部が生成した採点結果を上記検査支援サーバに送信する検査結果送信部とを備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の認知症検査支援システムにおける「認知症検査」は、新規な検査であっても良いが、従来から書面を用いて行われてきたADAS−Jcog等の認知症検査であると、検査における点数と認知症のレベルとの相関が既に明らかとなっているため、認知症の評価を正確に行うことができ、好ましい。また、本発明における「医療従事者」の語は、医療行為として認知症検査を行うことができる者を意味し、具体的には、医師、臨床心理士、言語聴覚士、作業療法士、ソーシャルワーカー、医師の監督の下で医師の指示により検査を行うことが可能な看護師等を意味する。
【0015】
本発明のシステムでは、実施される認知症検査に含まれるテスト項目毎に、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動及びテストにおける被検者の応答の評価方法を含む検査情報が医療従事者に示されるので、実施される認知症検査について十分な知識を有していない医療従事者であっても、或いは初めて上記認知症検査を行う医療従事者であっても、示された検査情報を基にして簡単に適正な検査を実施することができ、誰が検査を行っても均一な検査結果を得ることができ、医療従事者の習熟度に依存して検査結果がばらつくことがない。従って、このシステムにより、高齢化に伴い認知症発症者数が急激に増加しつつあるのに認知症検査に熟練した医療従事者が驚くほど少ないという問題を解決することができる。
【0016】
また、本発明では検査で得られた採点結果或いは評価結果が検査支援サーバの検査結果記憶部に記憶されるため、記憶された採点結果或いは評価結果を、同じ被検者が同じ認知症検査を受検した場合には、その被検者の検査における経時変化を示すために利用することができる。また、医療従事者にとっては、従来の書面を用いた認知症検査と比較して、記録表に検査結果を記入し、記入した検査結果を予め定められた点数データに従って点数に変換し、得られた点数を集計する作業がなくなるので、負担軽減につながる。
【0017】
さらに、本発明のシステムは、いわゆるサーバ・クライアント方式のシステムであるため、新規な認知症検査或いは新規なテスト項目の追加などのバージョンアップが容易であり、また、多数の医療従事者端末と検査支援サーバとの接続により、多数の被検者に対する検査が可能になり、多数の医療従事者端末から送信された採点結果或いは評価結果を集計管理することが可能であり、また管理された多数の採点結果或いは評価結果を集計、分析することにより、分析結果を新たな認知症医療のために役立てることもできる。
【0018】
上記認知症検査支援システムにおいて、上記医療従事者端末における評価結果取得部が、上記評価結果に加えて、医療従事者が記録として残すべきと判断した被検者に関する特記事項をさらに取得し、上記医療従事者端末における検査結果送信部が、上記特記事項を含めて送信し、上記検査支援サーバにおける検査結果受信部が、上記特記事項を含めて受信し、上記検査支援サーバにおける検査結果記憶部が、上記特記事項を含めて記憶するのが好ましい。一般に、認知症検査は、テストにおける被検者の応答を点数に変換して評価するものであるが、被検者に特有の事項を取得することにより、検査結果が採点表としての意味を超えて、いわば電子カルテとしての意味を有するようになる。
【0019】
上記認知症検査支援システムにおいて、上記医療従事者端末が、上記評価結果取得部で取得された評価結果及び/又は上記採点結果生成部が生成した採点結果に対する医療従事者による修正を受け付ける検査結果修正部と、該検査結果修正部で受け付けられた修正後の採点結果及び/又は評価結果を上記検査支援サーバに送信する修正結果送信部とをさらに備え、上記検査支援サーバが、上記医療従事者端末から送信された修正後の採点結果及び/又は評価結果を受信する修正結果受信部をさらに備え、上記検査支援サーバにおける検査結果記憶部が、修正後の採点結果及び/又は評価結果を記憶するのが好ましい。認知症検査の過程で、医療従事者が間違いに気付くこともあり、また、認知症検査に含まれるテスト項目によっては、検査の過程で医療従事者の評価が変化することがあるが、採点結果に対する医療従事者による修正を受け付けることにより、より正確な検査結果を得ることができる。
【0020】
上記認知症検査支援システムにおいて、上記検査支援サーバにおける検査内容記憶部が、検査情報として、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準をさらに記憶し、上記検査支援サーバにおける検査内容送信部が、上記判断基準をさらに送信し、上記医療従事者端末における検査内容受信部が、上記判断基準をさらに受信し、上記医療従事者端末における検査内容表示部が、上記判断基準をさらに表示するのが好ましい。この好ましい構成によると、初めて上記認知症検査を行う医療従事者であっても、被検者の応答の正誤を正確に判断できるため、医療従事者の習熟度に依存した検査結果のばらつきをさらに抑制することができる。
【0021】
好ましい構成では、上記検査支援サーバにおける検査内容記憶部が、上記検査情報として、上記認知症検査支援システムを使用した認知症検査方法を説明する画像をさらに記憶し、上記検査支援サーバにおける検査内容送信部が、上記認知症検査に不慣れな医療従事者の要求に応じ、上記画像をさらに送信し、上記医療従事者端末における検査内容受信部が、上記画像をさらに受信し、上記医療従事者端末における検査内容表示部が、上記画像をさらに表示する。上記画像には、この認知症検査支援システムを使用した認知症検査方法を説明するために、医療従事者と被検者による検査風景を撮影した画像を含めても良い。この好ましい構成の認知症検査支援システムによると、上記認知症検査に不慣れな医療従事者による検査がさらに正確且つ円滑に実施されるようになる。
【0022】
また、別の好ましい構成では、上記医療従事者端末における検査内容表示部が、上記認知症検査に熟練した医療従事者の要求に応じ、上記検査内容受信部で受信した上記検査情報のうちの少なくともいずれかの表示を省略する。認知症検査に熟練した医療従事者にとっては、認知症検査を行うたびに、認知症検査に含まれるテスト項目毎のテストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法を含む検査情報を示されると、かえって検査が妨害されるという印象を有する場合がある。このような場合には、上記検査情報の表示を省略することにより、検査の円滑性が保たれる。
【0023】
上記認知症検査支援システムにおける好ましい構成では、上記認知症検査に含まれるテスト項目が、テストの実施において医療従事者がなすべき言動として複数の選択肢を有する場合には、上記検査支援サーバにおける検査内容記憶部が、上記複数の選択肢の全てを記憶し、上記認知症検査を二回以上受検した被検者に対する検査において、上記検査内容送信部が、受検回数によって被検者の慣れが予想されるテスト項目の場合には、テストの実施において医療従事者がなすべき言動として、異なった言動を選択して送信し、受検回数によらずに同じ条件下で評価されるべきテスト項目の場合には、テストの実施において医療従事者がなすべき言動として、常に同じ言動を選択して送信する。この好ましい構成によると、上記認知症検査を二回以上受検した被検者に対する検査において、医療従事者が自ら被検者に対する指示や質問を選択する必要がないため、より円滑で正確な検査結果を得ることができる。
【0024】
以上の認知症検査支援システムは、通信回線を介して接続された検査支援サーバと医療従事者端末とを含むシステムであるが、通信回線を介して接続されていない単一の装置であっても同様の効果を得ることができる。従って、本発明はまた、医療従事者による複数のテスト項目を含む認知症検査を支援する認知症検査支援装置であって、上記認知症検査に含まれるテスト項目毎に、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法を含む検査情報と、テストにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データとを記憶する検査内容記憶部と、該検査内容記憶部に記憶された検査情報を表示する検査内容表示部と、該検査内容表示部に表示された検査情報に従ってなされたテストにおける被検者の応答を医療従事者が評価した評価結果を取得する評価結果取得部と、該評価結果取得部で取得された評価結果を、上記検査内容記憶部に記憶された点数データに基づいて採点する採点結果生成部と、該採点結果生成部で得られた採点結果を出力する検査結果出力部と、該検査結果出力部が出力した採点結果及び/又は上記評価結果取得部が取得した評価結果を記憶する検査結果記憶部とを備えたことを特徴とする認知症検査支援装置に関する。
【0025】
この装置においても、上記採点結果生成部が生成した採点結果及び/又は上記評価結果取得部で取得された評価結果に対する医療従事者による修正を受け付ける検査結果修正部をさらに備え、上記検査結果記憶部が、修正後の採点結果及び/又は修正結果を記憶するのが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の認知症検査支援システム及び認知症検査支援装置によると、認知症検査に対する習熟度が低い医療従事者であっても適正な認知症検査が可能であり、また、誰が認知症検査を行っても均一な検査結果を得ることができる。従って、本発明の認知症検査支援システム及び認知症検査支援装置により、高齢化に伴い認知症発症者数が急激に増加しつつあるのに認知症検査に熟練した医療従事者が驚くほど少ないという問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の認知症検査支援システムの構成の概略を示す図である。
【図2】図1に示す認知症検査支援システムの機能ブロック図である。
【図3】図1、2に示す認知症検査支援システムを用いた認知症検査支援プロセスを示すフローチャートである。
【図4】医療従事者端末のディスプレーに表示された認証画面を示す図である。
【図5】「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストに対する事前知識を提供する表示である。
【図6】「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストに対する注意事項を提供する表示である。
【図7】「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストにおいて医療従事者がなすべき質問を指定した表示である。
【図8】「単語再生」テストに対する事前知識を提供する表示である。
【図9】「単語再生」テストに対する注意事項を提供する表示である。
【図10】「単語再生」テストにおいて医療従事者がなすべき言動を指定した表示である。
【図11】「手指及び物品呼称」テストにおける被検者の応答の正誤を判断するための判断基準が示されている表示である。
【図12】「手指及び物品呼称」テストにおける被検者の応答に対する特記事項の入力を示す図である。
【図13】「構成行為」テストにおける2つの重なった長方形の模写の正誤を判断するための判断基準が示されている表示である。
【図14】「見当識」テストにおける医療従事者がなすべき質問を指定した表示である。
【図15】採点表を示す表示である。
【図16】本発明の認知症検査支援装置の構成の概略を示す図である。
【図17】図16に示す認知症検査支援装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、認知症検査としてADAS−Jcogを実施する場合を例として本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【0029】
ADAS−Jcogの基礎となるADAS−cogは、アルツハイマー型認知症患者を対象としたコリン作動薬による認知機能の変化を評価することを目的として提案された認知機能検査尺度であり、「口語言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」、「単語再生」、「口頭命令に従う」、「手指及び物品呼称」、「構成行為」、「観念運動」、「見当識」、「単語再認」、「テスト教示の再生能力」の11個のテスト項目を含んでいる。ADAS−Jcogは、ADAS−cogとほぼ等価な日本版にあたり、ADAS−cogを基礎としつつも、「単語再生」、「単語再認」、「(手指及び)物品呼称」における単語として、日本の高齢者の口頭言語に用いられる使用頻度の高い単語を採用することにより、日本人の評価をより適正に行うことができるように改善された検査尺度である。
【0030】
ADAS−Jcogの得点は、年齢及び教育年数を反映せず、これらに関係なくアルツハイマー型認知症の重症度を評価することができ、さらに、検査を繰り返した際のADAS−Jcogの得点の推移によって、認知症の進行の度合い・治療による認知症の改善の度合いを確認することができるため、大変有用な検査であるが、現在のところ十分に活用されているとはいえない。
【0031】
第一実施形態
本発明の第一実施形態は、通信回線を介して接続された検査支援サーバと医療従事者端末とを含む認知症検査支援システムである。図1は、本実施の形態の認知症検査支援システムの構成の概略を示している。本発明の認知症検査支援システム1は、検査支援サーバ10と、タッチパネル式ディスプレーを備えた医療従事者端末20とを有しており、検査支援サーバ10と医療従事者端末20とはインターネット等の通信回線30により接続されている。医療従事者端末20は、病院等に配置されており、医療従事者がこの端末20を見ながら認知症検査を行う。なお、本実施形態は、いわゆるサーバ・クライアント方式のシステムであり、検査支援サーバ10から医療従事者端末20に提供されるアプリケーションソフトにより、医療従事者端末20が以下の機能を有する端末として動作するようになる。
【0032】
図2は、図1に示す検査支援サーバ10、医療従事者端末20、通信回線30から構成される認知症検査支援システム1の機能ブロック図である。理解の容易のため、医療従事者端末は1台のみを示している。
【0033】
認知症検査支援システム1を構成する検査支援サーバ10は、検査内容記憶部11、検査内容送信部12、検査結果受信部13、検査結果記憶部14及び修正結果受信部15から構成されている。
【0034】
検査内容記憶部11は、ADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目のそれぞれのテストに関する、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、すなわち、テストにおいて被検者に何を質問すべきか、被検者に何を指示すべきか、被検者に何を見せるべきかなどの医療従事者の言動に対する具体的な指定内容、及び、テストにおける被検者の応答の評価方法、すなわち、医療従事者からの質問に対する回答が正解であれば「○」を、不正解であれば「×」を評価結果として入力するなどの具体的な指定内容、及び、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準を検査情報として記憶し、この他、検査における被検者の応答を点数に変換するための点数データを記憶するものである。
【0035】
検査内容送信部12は、検査内容記憶部11に検査情報として記憶されている、ADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目のそれぞれのテストに関する、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、テストにおける被検者の応答の評価方法、及び、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準を、検査における被検者の応答を点数に変換するための点数データとともに、医療従事者端末20に対して送信するものである。
【0036】
検査結果受信部13は、医療従事者が上記検査情報に従って検査を実施した過程で得られた医療従事者による被検者の応答に対する評価結果と、この評価結果を検査内容記憶部11に記憶された点数データに従って採点した採点表とを、医療従事者端末20から受信するものである。検査結果記憶部14は、検査結果受信部13が受信した上記評価結果と上記採点表とを記憶するものである。
【0037】
また、修正結果受信部15は、医療従事者が被検者の応答に対する評価結果或いは採点表を修正すべきと判断した場合に、修正後の評価結果或いは採点表を受信するものである。上述の検査結果記憶部14は、修正結果受信部15が修正を受信した場合には、修正後の評価結果或いは採点表と、修正前の評価結果或いは採点表とを入れ替えて記憶するようになっている。
【0038】
医療従事者端末20は、検査内容受信部21、検査内容表示部22、評価結果取得部23、採点結果生成部24、検査結果送信部25、検査結果出力部26、検査結果修正部27、及び修正結果送信部28から構成されている。
【0039】
検査内容受信部21は、検査支援サーバ10の検査内容送信部12から送信された、ADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目のそれぞれのテストに関する、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、テストにおける被検者の応答の評価方法、及び、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準を、検査における被検者の応答を点数に変換するための点数データとともに受信するものである。
【0040】
検査内容表示部22は、検査内容受信部22で受信した、ADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目のそれぞれのテストに関する、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、テストにおける被検者の応答の評価方法、及び、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準を、検査の進行に従って順次表示するものである。
【0041】
評価結果取得部23は、医療従事者が上記検査情報に従って検査を実施した過程で得られた、医療従事者による被検者の応答に対する評価結果の入力を受け付けるものである。
採点結果生成部24は、評価結果取得部23が取得した、検査を実施した過程で得られた医療従事者による被検者の応答に対する評価結果を、検査内容受信部21が受信した被検者の応答を点数に変換するための点数データに従って採点し、採点表を作成するものである。検査結果送信部25は、評価結果取得部23で取得された医療従事者による被検者の応答に対する評価結果と採点結果生成部24が生成した採点表とを、検査支援サーバ10に送信するものである。
【0042】
検査結果出力部26は、採点結果生成部24が生成した採点表を出力するものである。また、検査結果修正部27は、検査結果出力部26に出力された採点表を医療従事者が確認し、医療従事者が被検者の応答に対する評価結果或いは採点表を修正すべきと判断した場合に、評価結果或いは採点表の修正を受け付けるものである。修正結果送信部28は、検査結果修正部27で受け付けられた修正後の評価結果或いは採点表を、検査支援サーバ10に送信するものである。
【0043】
次に、認知症検査支援システム1における具体的な処理について説明する。図3は、処理の流れを示すフローチャートである。
【0044】
ADAS−Jcogの実施を予定している医療従事者が、認知症検査支援システム1の医療従事者端末20を起動させ、通信回線30を介して検査支援サーバ10にアクセスし、図4に示すタッチパネル式ディスプレーの画面表示に従って医療従事者の識別番号及び被検者の識別番号を入力する(S1)と、検査支援サーバ10の検査内容記憶部11に記憶されているADAS−Jcogの11個のテスト項目の各テスト、すなわち、「口語言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」、「単語再生」、「口頭命令に従う」、「手指及び物品呼称」、「構成行為」、「観念運動」、「見当識」、「単語再認」、「テスト教示の再生能力」の各テストに関する、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、テストにおける被検者の応答の評価方法、及び、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準が、検査情報として、検査における被検者の応答を点数に変換するための点数データとともに、検査支援サーバ10の検査内容送信部12から送信され(S2)、医療従事者端末20の検査内容受信部21に受信され(S3)、受信された検査情報はタッチパネル式ディスプレーに検査の進行に従って順次表示される。
【0045】
ADAS−Jcogでは、まず、「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」の3項目のテストが同時に実施される。
【0046】
「口頭言語能力」テストとは、言葉の明瞭さ、自分の言うことを他人にわからせるなど、被検者の発語の質的側面を評価するテストであり、全体の会話における不明瞭な発語或いは意味不明な発語の割合を評価する。「言語の聴覚的理解」テストとは、医療従事者から話された言葉を被検者が理解する能力を評価するテストであり、了解障害の頻度を評価する。「自発話における喚語困難」テストとは、被検者の自発話において言うべき言葉がでてくるか評価するテストであり、喚語障害の頻度を評価する。
【0047】
これら3つのテストは、医療従事者と被検者との自由会話を通して評価される。これらのテストにおける自由会話のために、「体調」、「気分」、「視聴覚」、「利き手」、「趣味」、「生活歴」、「現在の生活」、「検査当日」に関する質問が、合計で18個用意されており(図5〜図7参照)、18個の質問の中の5〜8個の質問により、被検者の「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」が評価される。
【0048】
図5〜図7は、「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストの実施を支援するための、医療従事者端末20の検査内容表示部22及び評価結果取得部23として機能するタッチパネル式ディスプレーの画面表示を示している。図5の上部が事前知識の表示(S4)であり、図6の上部が注意事項の表示(S5)であり、図7の上部がこれらのテストにおいて医療従事者が被検者に対して質問すべき質問の表示(S6)であり、下部が評価方法の表示(S7)と医療従事者による評価結果の入力部とを兼ねた表示である。
【0049】
図7の画面表示例の上部には、「体調はいかがですか?」という質問と、「どこか痛いところはないですか?」という質問が示されており、「体調はいかがですか?」の表示の前に「2008/10/21」の日付が示されている。この表示は2008年10月21日に同じ被検者に対して行った以前の検査において、「体調はいかがですか?」という質問をしたことを示している。「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストでは、同一の被検者に対する繰り返しの検査では、原則として同じ質問をすべきであるため、予め質問が選択されて表示されている。この選択は、図4の認証画面に入力された被検者の識別番号と、検査支援サーバ10の検査結果記憶部14に記憶された検査結果とを参照して行われる。
【0050】
医療従事者は、このタッチパネル式ディスプレーの画面表示を見ながら、「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストのための事前知識を得、注意事項を確認し、ディスプレーに示された質問を行うことによりテストを実施する(S8)。例えば医療従事者が質問しても被検者が無言であれば、医療従事者がタッチパネル式ディスプレーの「無言」の表示部分(図7下部参照)に触れることにより、「無言」の評価結果が評価結果取得部23に受け付けられる(S9)。
【0051】
続いて、「単語再生」テストが実施される。「単語再生」テストとは、医療従事者が被検者に対してカードに書かれた単語10個を1個ずつ提示して読ませた後、被検者に読んだ単語の中で覚えているものを回答させるテストであり、3回同じテストを繰り返し、平均不正解数を評価する。
【0052】
図8〜10は、「単語再生」テストの実施を支援するための、検査内容表示部22及び評価結果取得部23として機能するタッチパネル式ディスプレーの画面表示を示している。図8の上部が事前知識の表示(S4)であり、図9の上部が注意事項の表示(S5)であり、図10の上部がこれらのテストにおいて医療従事者が被検者に対してなすべき言動の表示と評価方法の表示(S6、S7)であり、下部が医療従事者による評価結果の入力部となる表示である。
【0053】
医療従事者は、このタッチパネル式ディスプレーの画面表示を見ながら、「単語再生」テストのための事前知識を得、注意事項を確認し、ディスプレーに示されたとおりに被検者にカードを見せてテストを実施する(S8)。そして、ディスプレーに示されたとおりの評価方法により、被検者の回答が得られた場合には医療従事者が評価結果の入力部となる表示部分(図10下部参照)に触れることにより、被検者の正答数がカウントされ、評価結果が評価結果取得部23に受け付けられる(S9)。
【0054】
図8〜10では、「犬」、「包丁」、「電車」、「野球」、「猫」、「鍋」、「飛行機」、「馬」、「水泳」、「自転車」の10個の単語が示されているが、「単語再生」テストは認知症検査を繰り返し受検した被検者にとっては慣れが予想されるテストであるため、検査の間隔が短い場合には、異なる単語の組み合わせを使用するよう、医療従事者に指示される。この単語の組み合わせの選択も、図4の認証画面に入力された被検者の識別番号と、検査支援サーバ10の検査結果記憶部14に記憶された検査結果とを参照して行われる。
【0055】
以下、同様にして、「口頭命令に従う」、「手指及び物品呼称」、「構成行為」、「観念運動」、「見当識」のテストがこの順番で行われ、最後に「単語再認」と「テスト教示の再生能力」のテストが同時に行われる。それぞれのテストにおいて、図5〜図7、或いは、図8〜図10に示したのと同様に、事前知識、注意事項、医療従事者がなすべき言動、評価方法がタッチパネル式ディスプレーに示され(S4,S5,S6,S7)、医療従事者はこの表示に従って検査を実施し(S8)、被検者の応答に対する評価結果をタッチパネル式ディスプレーを介して入力すると、評価結果が評価結果取得部23に受け付けられる(S9)。
【0056】
「口頭命令に従う」テストとは、医療従事者が「こぶしを握ってください」、「天井を指差し、次に床を指差してください」、「目を閉じたまま2本の指で両方の肩を二度ずつたたいてください」、「鉛筆を白い紙の上に置き、次に元に戻してください」、「時計を鉛筆の反対側に置き、白い紙を裏返してください」という5段階の動作を順に口頭で被検者に指示し、被検者がそれを実行する能力を通じて口頭言語の聴覚的理解力を評価するテストであり、被検者が実行できなかった命令数を評価する。
【0057】
「手指及び物品呼称」テストとは、被検者の利き手の5指の名前及びランダムに被検者に示される12個の物品の名前を被検者にたずね、不正解数を評価するテストである。12個の物品は、日常生活における出現頻度に応じて、4個の高頻度物品(イス、自転車、はさみ、カナヅチ)、4個の中頻度物品(つめきり、くし、そろばん、筆)、及び4個の低頻度物品(ハンカチ、手帳、指輪、扇子)で構成されている。
【0058】
図11は、「手指及び物品呼称」テストにおける被検者の応答の正誤を判断するための判断基準として、正解例と不正解例をタッチパネル式ディスプレーに表示した画面表示を示している。この表示により、例えば被検者が「中指」を「たかたかゆび」と表現した場合にも、医療従事者は被検者の応答を正解として容易に認識することができる。また、図11の画面表示の下部の正解(○)・不正解(×)の入力部の横に「メモ」の表示があるが、医療従事者がこのメモの表示に触れると、検査を受けている被検者における特記事項として、被検者が実際に回答した単語などの特記事項を記入できるようになっている。図12は、医療従事者が「タオル」を被検者に示して「これは何ですか」とたずねたときに、被検者が「ぞうきん」と答えたことを特記事項として記録したことを示している。この特記事項も評価結果取得部23に受け付けられる。特記事項を記録しておくと、被検者が繰り返し検査を受けた際の物品への認識の変化などを追跡することができるため、より詳細な認知症評価が可能となる。
【0059】
「構成行為」テストとは、円、2つの重なった長方形、ひし形、立方体からなる図形を被検者が模写する能力を評価するテストであり、模写できなかった図形数を評価する。図13は、2つの重なった長方形の模写における被検者の応答の正誤を判断するための判断基準として、正解例と不正解例をタッチパネル式ディスプレーに表示した画面表示を示している。この表示により、ADAS−Jcogに不慣れな医療従事者であっても、被検者の応答の正解・不正解を容易に判断することができる。
【0060】
「観念運動」テストとは、被検者に便箋、封筒、及び切手を与え、手紙を出すことを想定して、便箋を折りたたみ、便箋を封筒に入れ、封筒に封をし、封筒にあて名を書き、封筒に切手を貼る動作ができるかを評価するテストであり、できなかった動作数を評価する。「見当識」テストとは、年、月、日、曜日、時間、季節、場所、人物の8項目について被検者にたずね、不正解の項目数を評価するテストである。図14の上部は、「見当識」のテストにおいて医療従事者が被検者に対して質問すべき質問を示した表示であり、下部は医療従事者による評価結果の入力部となる表示である。上部の「今年は何年ですか」の表示の後に「平成20年西暦2008」と示されており、「今月は何月ですか」の表示の後に「12月」と示されているが、これらの表示は、医療従事者に正解を示すことにより、医療従事者の勘違いによる被検者の応答に対する不当な評価を防止するための表示である。また、この画面にも「メモ」の表示があり、図14では、「今月は何月ですか」という質問に対し、「12月」が正解であるにもかかわらず「4月」と回答したことを特記事項として記録したことを示している。この特記事項も評価結果取得部23に受け付けられる。特記事項を記録しておくと、被検者が繰り返し検査を受けた際の見当識の変化などを追跡することができるため、より詳細な認知症評価が可能となる。
【0061】
「単語再認」テストとは、具体的な単語が1語ずつ書かれた12枚のカードを医療従事者が被検者に提示して声を出して読ませ、次に、被検者が見ていない新たな単語の書かれたカード12枚を混ぜた計24枚のカードを被検者に1枚ずつランダムに提示し、最初に提示した単語か否かを被検者に識別させ、不正解数を評価するテストであり、3回同じテストを繰り返し、平均不正解数を評価する。「テスト教示の再生能力」とは、単語再認テストにおける医療従事者の被検者に対する教示を被検者が覚えているかどうかを評価するテストであり、教示を忘れた回数を評価する。
【0062】
一連のテストが終了した後(S10)、医療従事者端末20の採点結果生成部24は、評価結果取得部23が取得した評価結果を、検査内容受信部21が受信したテストにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データに基づいて採点し、採点表を作成する(S11)。採点表は、医療従事者端末20の検査結果送信部25から送信され(S12)、検査支援サーバ10の検査結果受信部13に受信され(S13)、検査結果記憶部14に記憶される(S14)。また、採点表は、医療従事者端末20の検査結果出力部26でもあるタッチパネル式ディスプレーに表示される。図15は、タッチパネル式ディスプレーに表示された採点表を示している。
【0063】
医療従事者は、タッチパネル式ディスプレーに表示された採点表を見て、自らの評価に問題が無かったかをチェックする。そして、問題があったと判断した場合には、検査結果修正部27でもあるタッチパネル式ディスプレーの表示の該当箇所に触れることにより、採点結果を修正する(S15)。この修正は、認知症検査の過程で医療従事者が評価結果を間違って入力したために行われることもあるが、認知症検査の過程で医療従事者の評価が変化したため、修正が必要となる場合もある。例えば、「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストは、ADAS−Jcogの開始直後に行われるが、これらのテストを実施している間は、「言語の聴覚的理解」の了解障害が「ごく軽度」であると評価したものの、一連のテストが終了した時点でふりかえると、了解障害が「ごく軽度」であるとはいえず、「軽度」に修正すべきと判断したような場合である。このように、採点結果に対する医療従事者による修正を受け付けることにより、より正確な検査結果を得ることができる。
【0064】
次いで、修正後の採点表は、医療従事者端末20の修正結果送信部28から検査支援サーバ10に向けて送信され(S16)、検査支援サーバ10の修正結果受信部15により受信され(S17)、最終的に検査結果記憶部14に記憶されていた修正前の採点表と置き換えられて記憶される(S18)。
【0065】
以上、本実施の形態の認知症検査支援システム1の基本的な機能構成及び動作について説明したが、医療従事者の認知症検査に対する習熟度に依存して、医療従事者に対して提供する情報を変更することもできる。例えば、認知症検査に不慣れな医療従事者の検査支援のために、認知症検査支援システム1を使用した認知症検査の方法、例えば、医療従事者端末の使い方、評価方法の入力の仕方、被検者に対する単語カードの提示の仕方などを具体的に表した画像を、トレーニング用の検査情報として検査支援サーバ10から医療従事者端末20に送信することができる。また、認知症検査に熟練した医療従事者の要求に応じ、検査内容受信部21で受信した、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、テストにおける被検者の応答の評価方法、及び、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準からなる検査情報のうちの1つ以上の表示を省略することもできる。
【0066】
第二実施形態
本発明の第二実施形態は、通信回線を介さずに単一の装置として働く認知症検査支援装置である。図16は、本実施の形態の認知症検査支援装置として働くコンピュータシステム40の構成を示している。本発明の第二実施形態としての認知症検査支援装置は、このコンピュータシステム40のハードウェアとその内部で実行されるソフトウェアとの組合せにより実現される。
【0067】
コンピュータシステム40は、CPU、RAMメモリ、ハードディスク等を内蔵した本体と、画面表示のためのCRTディスプレーと、医療従事者が評価結果等を入力するためのキーボード、マウスを備えている。そして、認知症検査支援プログラムがコンピュータシステム40のハードディスク内にインストールされ、インストールされた認知症検査支援プログラムが起動されると、コンピュータシステム40は、本実施の形態の認知症検査支援装置40として動作する。
【0068】
図17は、この実施の形態の認知症検査支援装置40の機能ブロック図である。認知症検査支援装置40は、検査内容記憶部41と、検査内容表示部42と、評価結果取得部43と、採点結果生成部44と、検査結果出力部45と、検査結果記憶部46と、検査結果修正部47から構成されている。
【0069】
認知症検査支援装置40における検査内容記憶部41は、ADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目のテスト毎に、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、すなわち、テストにおいて被検者に何を質問すべきか、被検者に何を指示すべきか、被検者に何を見せるべきかなどの医療従事者に対する具体的な指定内容、及び、テストにおける被検者の応答の評価方法、すなわち、医療従事者からの質問に対する回答が正解であれば「○」を、不正解であれば「×」を評価結果として入力するなどの医療従事者に対する具体的な指定内容、及び、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準を検査情報として記憶し、この他、検査における被検者の応答を点数に変換するための点数データを記憶するものである。
【0070】
検査内容表示部42は、検査内容記憶部41に検査情報として記憶されている、ADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目のテスト毎の、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、これらの医療従事者の言動に対する被検者の応答の評価方法、及び、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準を、検査の進行に従って表示するものである。
【0071】
評価結果取得部43は、医療従事者が上記検査情報に従って検査を実施した過程で得られた、医療従事者による被検者の応答に対する評価結果の入力を受け付けるものである。採点結果生成部44は、検査を実施した過程で得られた医療従事者による被検者の応答に対する評価結果を、検査内容記憶部41に記憶されている被検者の応答を点数に変換するための点数データに従って採点し、採点表を作成するものである。
【0072】
検査結果出力部45は、検査結果生成部44で生成された採点表を出力するものである。検査結果記憶部46は、評価結果取得部43で取得された検査を実施した過程で得られた医療従事者による被検者の応答に対する評価結果と、採点結果生成部44が生成した採点表とを記憶するものである。検査結果修正部47は、検査結果出力部45に出力された採点表を医療従事者が確認し、医療従事者が被検者の応答に対する評価結果或いは採点表を修正すべきと判断した場合に、評価結果或いは採点表の修正を受け付けるものである。上述の検査結果記憶部46は、検査結果修正部47が修正を受け付けた場合には、修正後の評価結果或いは採点表と、修正前の評価結果或いは採点表とを入れ替えて記憶するようになっている。
【0073】
上述の第二実施形態の認知症検査支援装置40における検査内容記憶部41と、検査内容表示部42と、評価結果取得部43と、採点結果生成部44と、検査結果出力部45と、検査結果記憶部46と、検査結果修正部47の動作は、通信回線を介さない点を除いて、第一実施形態の認知症検査支援システム1における、検査内容記憶部11、検査内容表示部22、評価結果取得部23、採点結果生成部24、検査結果出力部26、検査結果記憶部14、検査結果修正部27とほぼ同じであるため、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0074】
以上、ADAS−Jcogの実施を例として本発明の実施の形態について説明したが、本発明の認知症検査支援システム及び認知症検査支援装置は、上述のADAS−Jcogばかりでなく、表1に示した、認知症が疑われる者、認知症発症者、或いは、介護者等の情報提供者に対するさまざまな認知症検査のために極めて有用である。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の認知症検査支援システム及び認知症検査支援装置は、医療従事者の認知症検査に対する習熟度に依存せず均一な検査結果を与えるため、病院等に医療従事者端末や認知症検査支援装置を配置することにより、高齢化に伴い急激に増加しつつある認知症発症者の診療のために広く使用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 認知症検査支援システム
10 検査支援サーバ
11 検査内容記憶部
12 検査内容送信部
13 検査結果受信部
14 検査結果記憶部
15 修正結果受信部
20 医療従事者端末
21 検査内容受信部
22 検査内容表示部
23 評価結果取得部
24 採点結果生成部
25 検査結果送信部
26 検査結果出力部
27 検査結果修正部
28 修正結果送信部
30 通信回線
40 認知症検査支援装置
41 検査内容記憶部
42 検査内容表示部
43 評価結果取得部
44 採点結果生成部
45 検査結果出力部
46 検査結果記憶部
47 検査結果修正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信回線を介して接続された検査支援サーバと医療従事者端末とを含む、医療従事者による複数のテスト項目を含む認知症検査を支援する認知症検査支援システムであって、
前記検査支援サーバが、
前記認知症検査に含まれるテスト項目毎に、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法を含む検査情報と、テストにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データとを記憶する検査内容記憶部と、
該検査内容記憶部に記憶された検査情報と点数データとを前記医療従事者端末に送信する検査内容送信部と、
前記医療従事者端末から送信された、前記検査内容送信部が送信した検査情報に従ってなされたテストにおける被検者の応答を医療従事者が評価した評価結果及び/又は該評価結果を前記検査内容記憶部に記憶された点数データに基づいて採点した採点結果を受信する検査結果受信部と、
該検査結果受信部が受信した評価結果及び/又は採点結果を記憶する検査結果記憶部と
を備えており、
前記医療従事者端末が、
前記検査支援サーバから送信された検査情報と点数データを受信する検査内容受信部と、
該検査内容受信部で受信した検査情報を表示する検査内容表示部と、
該検査内容表示部に表示された検査情報に従ってなされたテストにおける被検者の応答を医療従事者が評価した評価結果を取得する評価結果取得部と、
該評価結果取得部で取得された評価結果を、前記検査内容受信部が受信した点数データに基づいて採点する採点結果生成部と、
前記採点結果生成部が生成した採点結果を出力する検査結果出力部と、
前記評価結果取得部で取得された評価結果及び/又は前記採点結果生成部が生成した採点結果を前記検査支援サーバに送信する検査結果送信部と
を備えている
ことを特徴とする認知症検査支援システム。
【請求項2】
前記医療従事者端末における評価結果取得部が、前記評価結果に加えて、医療従事者が記録として残すべきと判断した被検者に関する特記事項をさらに取得し、
前記医療従事者端末における検査結果送信部が、前記特記事項を含めて送信し、
前記検査支援サーバにおける検査結果受信部が、前記特記事項を含めて受信し、
前記検査支援サーバにおける検査結果記憶部が、前記特記事項を含めて記憶する、請求項1に記載の認知症検査支援システム。
【請求項3】
前記医療従事者端末が、前記評価結果取得部で取得された評価結果及び/又は前記採点結果生成部が生成した採点結果に対する医療従事者による修正を受け付ける検査結果修正部と、該検査結果修正部で受け付けられた修正後の採点結果及び/又は評価結果を前記検査支援サーバに送信する修正結果送信部とをさらに備え、
前記検査支援サーバが、前記医療従事者端末から送信された修正後の採点結果及び/又は評価結果を受信する修正結果受信部をさらに備え、
前記検査支援サーバにおける検査結果記憶部が、修正後の採点結果及び/又は評価結果を記憶する、請求項1又は2に記載の認知症検査支援システム。
【請求項4】
前記検査支援サーバにおける検査内容記憶部が、検査情報として、被検者の応答の正誤を判断するための判断基準をさらに記憶し、
前記検査支援サーバにおける検査内容送信部が、前記判断基準をさらに送信し、
前記医療従事者端末における検査内容受信部が、前記判断基準をさらに受信し、
前記医療従事者端末における検査内容表示部が、前記判断基準をさらに表示する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の認知症検査支援システム。
【請求項5】
前記検査支援サーバにおける検査内容記憶部が、前記検査情報として、前記認知症検査支援システムを使用した認知症検査方法を説明する画像をさらに記憶し、
前記検査支援サーバにおける検査内容送信部が、前記認知症検査に不慣れな医療従事者の要求に応じ、前記画像をさらに送信し、
前記医療従事者端末における検査内容受信部が、前記画像をさらに受信し、
前記医療従事者端末における検査内容表示部が、前記画像をさらに表示する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の認知症検査支援システム。
【請求項6】
前記医療従事者端末における検査内容表示部が、前記認知症検査に熟練した医療従事者の要求に応じ、前記検査内容受信部で受信した前記検査情報のうちの少なくともいずれかの表示を省略する、請求項5に記載の認知症検査支援システム。
【請求項7】
前記認知症検査に含まれるテスト項目が、テストの実施において医療従事者がなすべき言動として複数の選択肢を有する場合には、前記検査支援サーバにおける検査内容記憶部が、前記複数の選択肢の全てを記憶し、
前記認知症検査を二回以上受検した被検者に対する検査において、前記検査内容送信部が、受検回数によって被検者の慣れが予想されるテスト項目の場合には、テストの実施において医療従事者がなすべき言動として、異なった言動を選択して送信し、受検回数によらずに同じ条件下で評価されるべきテスト項目の場合には、テストの実施において医療従事者がなすべき言動として、常に同じ言動を選択して送信する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の認知症検査支援システム。
【請求項8】
前記認知症検査がADAS−Jcogである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の認知症検査支援システム。
【請求項9】
医療従事者による複数のテスト項目を含む認知症検査を支援する認知症検査支援装置であって、
前記認知症検査に含まれるテスト項目毎に、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法を含む検査情報と、テストにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データとを記憶する検査内容記憶部と、
該検査内容記憶部に記憶された検査情報を表示する検査内容表示部と、
該検査内容表示部に表示された検査情報に従ってなされたテストにおける被検者の応答を医療従事者が評価した評価結果を取得する評価結果取得部と、
該評価結果取得部で取得された評価結果を、前記検査内容記憶部に記憶された点数データに基づいて採点する採点結果生成部と、
該採点結果生成部で得られた採点結果を出力する検査結果出力部と、
該検査結果出力部が出力した採点結果及び/又は前記評価結果取得部が取得した評価結果を記憶する検査結果記憶部と
を備えたことを特徴とする認知症検査支援装置。
【請求項10】
前記採点結果生成部が生成した採点結果及び/又は前記評価結果取得部で取得された評価結果に対する医療従事者による修正を受け付ける検査結果修正部をさらに備え、前記検査結果記憶部が、修正後の採点結果及び/又は修正結果を記憶する、請求項9に記載の認知症検査支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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