説明

誘導加熱反応容器および高温高圧処理装置

【課題】亜臨界水の存在下において有機性廃棄物を加水分解する際に、電磁誘導の加熱機構によって容器内で被処理物の液温を上げるのでエネルギロスが非常に少ない誘導加熱反応容器を提供する。
【解決手段】誘導加熱反応容器は、容器上端部または周壁部に投入口を且つ下端部に排出口を形成し、容器下方部において電磁誘導の加熱機構を設置し、該加熱機構は、容器下方部に位置させる円筒ケースと、該円筒ケースに取り付けた電磁誘導コイルと、容器下方部と円筒ケースとの介在する断熱材とを有し、容器内部で加熱された被処理物中の水が気化することによって容器内部を高圧化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜臨界水を用いて有機性廃棄物を加水分解処理する縦型の誘導加熱反応容器および該反応容器を組み込んだ高温高圧処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭や工場から日々排出される有機性廃棄物は、近年、国民生活の向上とともに激増し、単なる焼却や埋め立てでは完全処理が不可能になって、廃棄物処理を関する事態は深刻化し、既に重大な社会問題となっている。多量発生の有機性廃棄物は、ごみ収集や最終処理施設が不足していることにより、リサイクルなどの推進によって総排出量を削減することが重要であり、廃棄物処理がその発生量に追いつかないと、上水道の汚染や埋設廃棄物の腐敗などによって、住民の快適な生活環境を維持することが困難になってしまう。
【0003】
有機性廃棄物の処理対策として、亜臨界水や超臨界水により加水分解反応を利用して多量の有機性廃棄物を比較的短時間に処理し、有用物を回収可能である方法が種々提案されている。例えば、特開2004−290819号は、有機性廃棄物を連続的に酸化処理できる反応器を備える高温高圧の処理装置を開示し、横長の筒状容器である反応器の外周に加熱装置を配置している。加熱装置の出力は、筒状容器に温度センサを取り付けて容器内部の温度を検知し、その温度情報に基づいて制御する。この容器内の横長空間が、超臨界水または亜臨界水の処理条件下において酸化処理を行う反応領域になる。また、特開2006−263486号は、PCB脱塩素化スラッジに含まれる油分と無機塩類と固形残渣とを連続的に分離回収する装置を開示している、この分離回収装置は、PCB脱塩素化スラッジと水とを混合した混合物を亜臨界反応させる亜臨界反応装置を備え、亜臨界反応装置は、蛇行状に屈曲したパイプと、該パイプを加熱する加熱装置とで構成する。
【特許文献1】特開2004−290819号公報
【特許文献1】特開2006−263486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2004−290819号に開示の高温高圧の処理装置では、横長の筒状容器の外周に加熱装置を配置していても、この加熱装置の具体的構造は不明であり、スラリー状被処理物は予熱装置で加熱されてから反応器に供給されるため、この加熱装置は通常のヒータ程度のものと推定できる。この処理装置では、被処理物がスクリュー羽根で移送されながら排出口から連続的に排出されていくので、反応器の内部を亜臨界水や超臨界水の高温高圧状態で長時間安定して反応させることは困難であり、被処理物に酸化剤を添加するのでCOが発生しやすく、地球温暖化について悪影響を及ぼす。
【0005】
一方、特開2006−263486号では、蛇行状に屈曲したパイプからなる亜臨界反応装置に加熱装置を付設していても、この加熱装置の具体的構造は不明であり、混合・攪拌用容器から排出されたPCB脱塩素化スラッジと水の混合物を亜臨界反応装置に供給している。この亜臨界反応装置は、蛇行状のパイプ内に入口から出口まで連通する反応用通路が形成されているため、パイプの内部を亜臨界水の高温高圧状態で長時間安定して反応させることは困難である。亜臨界反応装置付設の加熱装置は、通常のヒータであれば、蛇行状のパイプを均一に高温加熱することも難しい。
【0006】
本発明は、亜臨界水や超臨界水を用いる高温高圧装置に関する前記の問題点を改善するために提案されたものであり、容器内部で被処理物を一気に加熱し、発生した水蒸気で高圧化するのでエネルギロスが少ない誘導加熱反応容器を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、蛇行状のパイプ配置やスクリューの取付けがなく、容器内部は単なる空洞であるので容器内部の掃除がしやすい誘導加熱反応容器を提供することである。本発明の別の目的は、縦型の誘導加熱反応容器を組み込むことにより、有用な有機物を高能率で回収できる高温高圧処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る誘導加熱反応容器は、主として亜臨界水の存在下において有機性廃棄物を加水分解する縦型の密閉反応容器である。この誘導加熱反応容器は、上端部または周壁部に投入口を且つ下端部に排出口を形成し、容器下方部において電磁誘導の加熱機構を設置する。この加熱機構は、容器下方部に位置させる円筒ケースと、該円筒ケースに取り付けた電磁誘導コイルと、容器下方部と円筒ケースとの間に介在する断熱材とを有し、容器内部で加熱された被処理物中の水が気化することによって容器内部を高圧化する。
【0008】
本発明の誘導加熱反応容器において、容器下方部は、電磁誘導の加熱機構の内径と対応する外径を有し、容器上方部に比べて小径且つ肉厚であると好ましく、投入口を容器上端部に形成し、排出口から導出した有機分解物を別の静置分離装置に送り込むことが可能である。また、有機分解物用の吐出口を容器上端部および周壁部に設けてもよく、1個または複数個の吐出口の高さ位置は投入口の高さ位置と異なっている。
【0009】
本発明に係る高温高圧処理装置は、有機性廃棄物と水とを混合してスラリー化する攪拌容器と、亜臨界水の存在下において廃棄物スラリーを加水分解する縦型の誘導加熱反応容器と、この密閉反応容器で加水分解処理された有機分解物を静置分離する分離容器とを備える。この誘導加熱反応容器は、上端部または周壁部に投入口を且つ下端部に排出口を設置し、容器下方部において電磁誘導の加熱機構を設置しており、送液手段によって廃棄物スラリーを誘導加熱反応容器の投入口へ送り込む。
【0010】
本発明を図面によって説明すると、図1に例示の反応容器1では、電磁誘導の加熱機構12で容器内を加熱・加圧することにより、被処理物の加水分解を主として亜臨界水を用いて行う。この被処理物には、食品類、木材、天然有機物、有機塩素系化合物、ゴム、繊維などの有機物質、およびこれらの廃棄物であるバイオマス、廃プラスチック、食品廃棄物、生ゴミ、厨芥、下水汚泥などが例示でき、これらが複数含まれていてもよい。通常、被処理物には水を添加してスラリーとし、さらに所望に応じて酸やアルコールなどを加えることも可能である。
【0011】
反応容器1内で発生する亜臨界水は、超臨界水に比べて酸化力は弱い反面、アミノ酸やアルコール類のような比較的低分子の有機化合物に分解するための加水分解力と油や脂肪酸などに対する抽出力とを十分に備えている。亜臨界水による加水分解の反応温度は、通常、130〜374℃の範囲であり、反応圧力が、反応温度の飽和水蒸気圧以上であることを要する。亜臨界水は、温度134〜374℃、圧力0.3〜100MPaであればよく、一般的には、温度150〜350℃、圧力0.5〜100MPaであって、好ましくは、温度170〜300℃、圧力0.8〜50MPaである。
【0012】
本発明の反応容器1では、被処理物の酸化処理だけを目的とするならば、亜臨界水とともに超臨界水を使用してもよい。超臨界水は、液体の水に比べて強い酸化力を有し、拡散係数が大きいので非常に優れた反応溶媒である反面、超臨界水は殆んど全ての被処理物を二酸化炭素にまで分解してしまうので、被処理物から有用な低分子の有機化合物を回収することは実際上困難である。
【0013】
亜臨界水は、超臨界水に比べて金属などに対する腐食性が低い。反応容器1内で亜臨界水だけを発生させる場合、該反応容器の素材には、通常の耐圧容器で適用される安価な炭素鋼などを用い、インコネルやハステロイのような高価な素材を使用する必要はなく、有機酸を生成するような比較的腐食性の高い条件下でも、安価なSUS316程度の材質で反応容器1を製造できる。また、耐圧・耐熱性を十分に考慮して、インコネルなどのNi−Cr合金またはハステロイなどのNi−Mo合金を適用してもよい。
【0014】
反応容器1の形状は、図1や図5に示すように縦長の円筒状であればよく、一般に、電磁誘導の加熱機構12を設置する容器下方部10を容器上方部8に比べて小径且つ肉厚にすると好ましい。反応容器1は縦型の密閉タンクであり、容器内の空気を除去するためのコック付きの透孔や容器内清掃用の開閉蓋を設ける。反応容器1内において、被処理物を酸化剤の存在下に亜臨界水または超臨界水によって酸化処理する場合などには、酸素または空気などの酸化剤を供給する管路(図示しない)を接続してもよい。
【0015】
加熱機構12を容器下方部10に設置すると、容器内部で液状物が少なくなっても反応容器1を空焚きすることが少なくなる。容器下方部10の外径は、通常円筒形の加熱機構12の内径に応じて容器下方部10を定めることにより、該容器下方部が容器上方部8に比べて小径にすることが多く、全体がより小径な図5の反応容器ではほぼ完全な円筒形になる。容器下方部10には、未反応の液状物および亜臨界水に溶解しない無機物や炭化物などを滞留するので、これらの放熱を抑制し且つ加熱効率を高めるために容器上方部8に比べて肉厚にすることが望ましい。
【0016】
加熱機構12は、交流の電磁誘導によって容器金属壁中に渦電流が流れ、この渦電流によるジュール熱および磁気ヒステリシスに基づく損失電力による発熱によって反応容器1を加熱する。加熱機構12では、磁界を作る交流として,50または60Hzの商用周波電源を直接利用する低周波誘導加熱、または数百Hz〜数MHzの高周波電源を設ける高周波誘導加熱のいずれも適用可能である。低周波誘導加熱は,設備費が比較的安価であり、一方、高周波誘導加熱は加熱効率がよく、容器内部の雰囲気の制御が容易である。
【0017】
加熱機構12は、一般に大型であり、電気容量標準規格が2000kW以上のものを利用してもよい。大型の加熱機構12では、2分割または3分割などの電磁誘導コイル16を空冷するだけでなく、水冷を行う場合もある。加熱機構12による反応容器1の発熱状態は,容器素材の導電率、透磁率および周波数に支配される表皮効果に大きく依存し,さらに反応容器1および電磁誘導コイル16の形状や配置などによって著しく変化する。
【0018】
反応容器1には、図1に例示するように、その上端部または周壁下方部の少なくとも一方に投入口2を形成し、且つ下端部に排出口3を形成する。投入口2および排出口3には、通常、バルブ5,7をそれぞれ取り付ける。スラリーなどの被処理物は、適宜の送液手段を介して投入口2を通って反応容器1内に導入され、該送液手段としてポンプ30、スクリュ、油圧機器、落差による送液機構などが例示できる。一方、排出口3において、管路36を経て、反応処理物を次の静置分離容器34(図3)や冷却器40(図4)などへ送り出しても、亜臨界水に溶解しない無機物や炭化物などを冷却器40などを通して回収してもよい。
【0019】
本発明の反応容器には、排出口3に加えて、反応処理物を直接回収する1個または複数個の取出口46〜53を形成してもよく、各取出口にバルブを取り付ける。取出口46〜53を有する反応容器43(図5)は、各取出口が適切に縦配列できるように、取出口を有しない反応容器1に比べて縦長に設計する。各取出口46〜53について、最上方の取出口46は容器上端部に設ければよい。取出口47〜53は、投入口44を設けた位置とは異なる高さに配置し、このために投入口44は容器下方部に形成する。取出口47〜53は、投入口を設けた位置より下流側に配置することも可能であり、この場合には投入口を容器上方部に形成する。
【0020】
図5において、各取出口46〜53と投入口44との位置は、被処理物中の固形物の密度および亜臨界水の密度に基づいて定めればよい。例えば、導入する被処理物中の固形物の密度が亜臨界水のそれよりも大きければ、投入口44を反応容器43の下方部に配置し、各取出口は投入口44を設けた位置よりも上方に配置する。一方、導入する被処理物中の固形物の密度が亜臨界水のそれよりも小さければ、投入口44を反応容器の上端部に配置し、各取出口は投入口44を設けた位置よりも下方に設置する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る誘導加熱反応容器は、主として亜臨界水の存在下において有機性廃棄物を加水分解する密閉反応容器であり、電磁誘導の加熱機構によって容器内で被処理物の液温を上げるのでエネルギロスが非常に少ない。本発明の反応容器では、被処理物の水は、加熱機構による容器内での加熱によって蒸発を起こし、発生した水蒸気が容器内に充満することによって容器内を簡単に高圧化できる。
【0022】
本発明の反応容器において、電磁誘導の加熱機構は、水蒸気を発生させる水を含む被処理物と近接した構造であるので、高温・高圧化に要するエネルギの発生ロスが少なくなる。本発明の反応容器は、容器内部で被処理物を直接加熱するので、最短時間で目的温度に到達させることができる。また、本発明の高温高圧処理装置では、反応容器の運転に際してボイラー技師資格などが一切不要である反面、圧力容器の資格が必要になるが、この資格は、ボイラー技師資格と比べていっそう容易に取得できる。
【0023】
本発明に係る反応容器は、容器内部に複雑な発熱部がないので、定期的な容器内清掃において内部の滓などを除去しやすい。本発明の反応容器は、誘導加熱でエネルギを発生させ且つ反応温度と圧力を制御して亜臨界水で加水分解反応させると、炭酸ガスが一切発生しないので生活環境を損なうことがない。また、本発明の反応容器を用いると、加水分解反応を完了して反応処理物を取り出す際に、温度調節や比重の差によって低分子の有機化合物である有用成分だけを簡単に分画して抽出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。図1に示す誘導加熱反応容器1は縦型の円筒形密閉タンクであり、上端部に投入口2を且つ下端部に排出口3を形成し、スラリーなどの被処理物は、投入口2を経て反応容器1内に導入する。投入口2および排出口3には、管路を遮断できるバルブ5または7を取り付ける。反応容器1および直接関連する部材は、通常、SUS316などのFe−Ni−Cr合金またはインコネルなどのNi−Cr合金を選択し、十分な耐圧および耐熱強度を得ることを要する。図示しないけれども、反応容器1には、容器内の空気を除去するためのコック付きの透孔や容器内清掃用の開閉蓋を設けておく。
【0025】
反応容器1では、容器下方部10を容器上方部8に比べて小径且つ肉厚に定める。図2に示すように、円筒形の下方部10において、その外周に電磁誘導の加熱機構12を設置する。加熱機構12は、容器下方部に位置させる円筒ケース14と、該円筒ケースに取り付けた2分割や3分割の電磁誘導コイル16とを有し、加熱機構12によって加熱された水が容器内で気化することで容器内を高圧化する。円筒ケース14は、セラミックス製またはプラスチック製の一体成形品などであり、該ケースの外周に電磁誘導コイル16を取り付け、容器下方部10と円筒ケース14との間に、セラミックス製の断熱材17を円筒状に介在させる。
【0026】
電磁誘導コイル16の外周には、絶縁体であるシリコンシート18を複層に巻き付け、該シリコンシートの間に電磁波の漏洩を防止するフェライト製のシールド片(図示しない)を適宜分散させて挟持する。円筒形のカバー19は、熱伝導性の良好なアルミニウム製などであり、円筒状に巻いたシリコンシート18を被覆する。カバー19には、反応容器1の温度を検知するサーミスタなどの温度センサ(図示しない)を取り付ける。
【0027】
図示しないけれども、電磁誘導コイル16には、該コイルを含む共振回路を経て作動させるインバータ回路と、該インバータ回路を容器内部温度に応じて調整する制御回路とを備えた電気回路部を接続する。この共振回路は、電磁誘導コイル16および共振コンデンサからなり、インバータ回路は、パワートランジスタのようなスイッチング素子を有する。この共振回路には整流回路を介して給電し、交流電源を全波整流して給電する。
【0028】
図3は、誘導加熱反応容器1を含む高温高圧処理装置20の一例を示す。高温高圧処理装置20は、スラッジタンク21および水タンク22を有し、両タンクは管路24を経て撹拌容器26と連通する。攪拌容器26には攪拌機27を取り付け、所望に応じて攪拌容器26内にpH調整剤を導入して混合液のpHをほぼ中性に調整する。撹拌容器26は、管路28を経て誘導加熱反応容器1と接続され、該管路にはポンプ30またはスクリュおよびバルブ5を設置している。
【0029】
高温高圧処理装置20は、誘導加熱反応容器1に加えて公知の静置分離容器34を含むことにより、有機性廃棄物を連続的に処理する一連の機器から構成されている。被処理物を反応容器1内で亜臨界で加水分解反応させた後、反応処理物を反応容器1から管路36を通って静置分離容器34へ送り出し、該管路36にはバルブ7を設置している。
【0030】
高温高圧処理装置20において、水分含有の有機性廃棄物が処理対象とされ、スラッジタンク21には、バイオマス、食品廃棄物、生ゴミ、厨芥、下水汚泥などの被処理物を収容し、水タンク22には水を収容する。攪拌容器26は、これらの被処理物を濃度約40%以下のスラリー状態で保留し、得たスラリー状の被処理物は、ポンプ30の作動によって管路28を通って反応容器1へ強制的に投入する。
【0031】
反応容器1は、亜臨界水の存在下において被処理物を加水分解する密閉反応容器であり、電磁誘導の加熱機構12によって容器内で被処理物の温度を迅速に上げ、付設のボイラなどを介して容器内へ被処理物を加熱してから送り込む必要がないのでエネルギロスが少ない。スラリー状の被処理物の水は、加熱機構12による反応容器1内での加熱によって蒸発を起こし、容器内の空気を適宜除去した後に、発生した水蒸気が容器内に充満することによって容器内を簡単に高圧化する。電磁誘導の加熱機構12は、反応容器1内において、水蒸気を発生させる水を含む被処理物と近接した構造であるので、高温・高圧化に要するエネルギの発生ロスが少ない。
【0032】
図3の反応容器1において、亜臨界水の処理条件は、温度が大気圧下の水の沸点である100℃以上および臨界温度である374℃以下であり、圧力が所定の処理温度における飽和蒸気圧以下であればよい。加水分解反応に好適な亜臨界水は、例えば温度が150〜350℃および処理圧力が0.5〜100MPa好ましくは0.8〜50MPaである。反応容器1内での亜臨界水反応時間は、通常、約2分から25分の間である。反応容器1内の圧力は、加熱による水蒸気の発生で所定の気圧に保たれ、この際に、バルブ7を閉鎖または閉方向に操作して管路36の流路断面積を縮小すると容器内圧力が上昇し、一方、バルブ7を開方向に操作すると、管路36の流路断面積が拡大して容器内圧力が下降する。したがって、バルブ7の開閉操作により、容器内圧力を好適な気圧に調整できる。
【0033】
得た反応処理物は、管路36を通して静置分離容器34へ送り、自然放冷しながら静置分離される。この反応処理物は、被処理物の種類で層が異なるけれども、例えば、静置分離容器34内において、油分層と、低分子の有機物が溶解した複数の水性有機物層と、固形残渣からなる固形分層とに分離される。これにより、被処理物から容易に油分と低分子有機物類と固形残渣とを分離回収することができ、各種の有用物質をリサイクルすることが可能である。
【0034】
図4は、反応容器1を含む高温高圧処理装置の別の例を示し、該反応容器では亜臨界水または超臨界水を利用し、その処理対象は有用成分を殆ど含まない有機性廃棄物であり、該廃棄物は単に酸化処理される。高温高圧処理装置38は、前記と同様に、スラッジタンク21および水タンク22を有し、両タンクは管路24を経て撹拌容器26と連通する。攪拌容器26には攪拌機27を取り付ける。撹拌容器26は、管路28を経て誘導加熱反応容器1と接続され、該管路にはポンプ30およびバルブ5を設置している。
【0035】
高温高圧処理装置38は、誘導加熱反応容器1に加えて、公知の熱交換型の冷却器40および処理物分画装置42を含む。反応容器1には、酸素または空気などの酸化剤を供給する管路(図示しない)を接続し、被処理物を反応容器1内において、酸化剤の存在下に亜臨界水または超臨界水によって酸化処理し、この際に、酸化剤の添加量は酸素基準で理論要求値の1〜3倍が適当である。被処理物を反応容器1内で亜臨界反応させた後、反応処理物を反応容器1から管路36を通って冷却器40へ送り出す。
【0036】
攪拌容器26は、濃度約40%以下の被処理物をスラリー状態で保留し、得たスラリー状の被処理物は、高圧ポンプ30によって管路28を通って反応容器1へ投入する。図示しないけれども、被処理物がごく低温または多量の場合には、被処理物をあらかじめ加熱するために、反応容器1の前方に予熱装置を設置することも可能である。この予熱装置は、後方の反応容器1において所定の加水分解化反応が円滑に行われるように、所望に応じて付設する装置である。
【0037】
反応容器1では、電磁誘導の加熱機構12によって容器内で被処理物の温度を上げる。スラリー状の被処理物の水は、反応容器1内での加熱によって蒸発し、容器内の空気を除去した後に、発生した水蒸気が容器内に充満することによって容器内を簡単に高圧化できる。亜臨界水の処理条件は、温度が大気圧下の水の沸点である100℃以上および臨界温度である374℃以下であり、水蒸気圧が所定の処理温度における飽和蒸気圧以下であることを要する。また、超臨界水の処理条件は、温度374℃以上、圧力22MPa以上、好ましくは500〜650℃、22〜30MPaである。
【0038】
反応容器1内において、加熱された被処理物は迅速に気化して酸化され、反応しない無機物は残留固形分のまま反応残渣として残留する。得た反応処理物は、管路36を通して冷却器40へ送られ、約60℃以下に冷却する。冷却した反応処理物は、次の処理物分画装置42において、凝縮水および残留固形物からなる廃スラリーaと、酸化反応で発生した炭酸ガスや窒素ガスなどの廃ガスbに分離され、それぞれを廃棄処分する。
【0039】
図5に示す別の誘導加熱反応容器43は、縦型の円筒形密閉タンクであり、前記の反応容器1に比べていっそう縦長である。反応容器43では、容器下方部は容器上方部とほぼ同径であり、その下方部において、その外周に電磁誘導の加熱機構を設置する。この加熱機構は、図示しないけれども、容器下方部に位置させる円筒ケースと、該円筒ケースに取り付けた電磁誘導コイルとを有し、該加熱機構によって加熱された水が容器内で気化することで容器内を高圧化する。
【0040】
反応容器43には、周壁下方部に投入口44を且つ下端部に排出口45を形成し、該投入口にバルブ41を取り付る。また、分離した有機物の取出口46を上端部に形成し、さらに所望に応じて、図番47〜53で示すように複数個の取出口を容器側壁部に垂直方向に並べて形成する。取出口47〜53は、投入口44を設けた位置とは異なる高さに配置することを要する。取出口47〜53には、それぞれバルブ(図番なし)を取り付け、全ての取出口を回収タンク54に接続する。取出口48〜53が、反応容器43内の亜臨界水の流れ方向に沿って設けることにより、プラグフローを取り出すことができる。
【0041】
スラリーなどの被処理物は、投入口44を経て反応容器43内に導入され、容器内で加熱するとともに高圧化される。投入口44は、その内径が反応容器43の内径の1/3〜1/15であれば、反応容器43内での被処理物の流速を制御できる。反応容器43内へ導入されたスラリーの流速は、該容器内の内径が投入口44の内径より大きいので遅くなる結果、スラリーの流速は、粒子の流動化開始速度以上に調整されるので、反応容器43内において、固液流動層を形成できる。反応容器43内において、亜臨界水が流動化開始速度以下の速度で流れると固形物は移動せずに固定層を生じ。亜臨界水が流動化開始速度以上の速度で流れると固形物は流動層を生じることにより、固液流動層を形成する。
【0042】
投入口44には、前記と同様に、管路56を介してスラリー供給手段などが接続されている。反応容器43に設ける投入口44と取出口48〜53の位置は、被処理物中の固形物の密度および亜臨界水の密度に基づいて定め、例えば、導入する被処理物中の固形物の密度が、亜臨界水の密度よりも大きければ、投入口44を反応容器43の下方部に配置し、取出口48〜53は投入口44を設けた高さ位置よりも上方に設置すればよい。取出口48〜53から、各種の亜臨界水溶液層を取り出し、有用な低分子の有機物を回収することができる。
【0043】
排出口45は、反応容器43の下端部つまり底壁に形成する。被処理物中に含まれる亜臨界水に溶解しない無機物や炭化物などの密度は、有機性固形分の密度より大きいので、容器内で底部に沈降する。底部に沈降する無機物や炭化物などは、排出口45から容易に排出することができる。排出口45に取り付けた管路56には、反応圧力を制御するためのバルブ58を設置するとともに、バルブ58の前方に冷却器60を設置してもよい。冷却器60によって、反応終了物を安全に回収タンクなどに収容できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る誘導加熱反応容器を示す概略側面図である。
【図2】図1の誘導加熱反応容器の要部を示す拡大断面図である。
【図3】本発明に係る高温高圧処理装置を示す概略側面図である。
【図4】高温高圧処理装置の変形例を示す概略側面図である。
【図5】誘導加熱反応容器の変形例を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 誘導加熱反応容器
2 投入口
3 排出口
5,7 バルブ
12 電磁誘導の加熱機構
14 円筒ケース
16 電磁誘導コイル
17 断熱材
18 シリコンシート
20 高温高圧処理装置
21 スラッジタンク
22 水タンク
26 攪拌容器
30 ポンプ
34 静置分離容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として亜臨界水の存在下において有機性廃棄物を加水分解する縦型の密閉反応容器であって、容器上端部または周壁部に投入口を且つ下端部に排出口を形成し、容器下方部において電磁誘導の加熱機構を設置し、該加熱機構は、容器下方部に位置させる円筒ケースと、該円筒ケースに取り付けた電磁誘導コイルと、容器下方部と円筒ケースとの間に介在する断熱材とを有し、容器内部で加熱された被処理物中の水が気化することによって容器内部を高圧化する誘導加熱反応容器。
【請求項2】
容器下方部は、電磁誘導の加熱機構の内径と対応する外径を有し、容器上方部に比べて小径且つ肉厚である請求項1記載の誘導加熱反応容器。
【請求項3】
投入口を容器上端部に形成し、排出口から導出した有機分解物を別の静置分離装置に送り込む請求項1記載の誘導加熱反応容器。
【請求項4】
有機分解物用の吐出口を容器上端部および周壁部に形成し、1個または複数個の吐出口の高さ位置は投入口の高さ位置と異なる請求項1記載の誘導加熱反応容器。
【請求項5】
有機性廃棄物と水とを混合してスラリー化する攪拌容器と、亜臨界水の存在下において廃棄物スラリーを加水分解する縦型の誘導加熱反応容器と、この密閉反応容器で加水分解処理された有機分解物を静置分離する分離容器とを備え、前記誘導加熱反応容器は、上端部または周壁部に投入口を且つ下端部に排出口を設置し、容器下方部において電磁誘導の加熱機構を設置しており、送液手段によって廃棄物スラリーを誘導加熱反応容器の投入口へ送り込む高温高圧処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−119314(P2009−119314A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292788(P2007−292788)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(390021566)株式会社サンエツ (7)
【Fターム(参考)】