説明

誘導加熱用コイル導線

【課題】可撓性に優れるとともに、組付け時や端末加工時の作業性に優れ、安価な誘導加熱用コイル導線を提供すること。
【解決手段】導体線と、該導体線の外周に形成され絶縁性繊維を編組してなる編組層と、該編組層の外表面に形成された皮膜層とからなる誘導加熱用コイル導線。導体線と、該導体線の外周に形成され絶縁性繊維を横巻してなる横巻層と、該横巻層の外周に形成され絶縁性繊維を編組してなる編組層と、該編組層の外表面に形成された皮膜層とからなる誘導加熱用コイル導線。上記導体線が、導体の外周に絶縁層を設けた導体素線、又は、該導体素線を複数本撚り合せて形成したものである誘導加熱用コイル導線。上記編組層が、ガラス繊維から構成されている誘導加熱用コイル導線。皮膜層が、シリコーンゴムからなる誘導加熱用コイル導線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、調理器、炊飯器、ポット等の加熱に使用される誘導加熱用コイル導線に係り、特に、可撓性に優れるとともに、組付け時や端末加工時の作業性に優れるものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、家庭用加熱調理器具として、電磁誘導加熱方式を利用したものが普及しているが、そのような器具の加熱手段として、主に、導体上に絶縁層が形成されてなるコイル導線が使用されている。絶縁層としては、加熱調理器のような高温環境に耐え得るような優れた耐熱性を有していることが必要であるため、主に、フッ素樹脂が使用されている。また、昨今の家庭用加熱調理器具では、透磁率の低い銅鍋やアルミニウム鍋にも対応するためにコイル導線に40〜100kHzの高周波を流していることから、耐コロナ性が必要となっており、この点からも誘電率の低いフッ素樹脂が好適に使用されている。このようなフッ素樹脂からなる絶縁層が形成されたコイル導線として、例えば、特許文献1、特許文献2等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−58251公報:クラベ
【特許文献2】特許第3601533公報:松下電器産業
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したようなフッ素樹脂を被覆したコイル導線の場合、フッ素樹脂が硬いために可撓性に劣り、取付け時の作業性に問題を生じていた。また、端末加工の際にも、フッ素樹脂の被覆はストリップがし難いものであり、この点でも作業性に問題を生じていた。こういった作業性の問題と、フッ素樹脂製品である点から、価格も非常に高価なものとなっていた。
【0005】
本発明はこのような点に基づいてなされたもので、その目的とするところは、可撓性に優れるとともに、組付け時や端末加工時の作業性に優れ、安価な誘導加熱用コイル導線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するべく、本発明の請求項1による誘導加熱用コイル導線は、導体線と、該導体線の外周に形成され絶縁性繊維を編組してなる編組層と、該編組層の外表面に形成された皮膜層とからなるものである。
又、請求項2記載の誘導加熱用コイル導線は、上記導体線が、導体の外周に絶縁層を設けた導体素線、又は、該導体素線を複数本撚り合せて形成したものであることを特徴とするものである。
又、請求項3記載の誘導加熱用コイル導線は、上記編組層が、ガラス繊維から構成されていることを特徴とするものである。
又、請求項4記載の誘導加熱用コイル導体は、上記皮膜層が、シリコーンゴムからなることを特徴とするものである。
又、請求項5記載の誘導加熱用コイル導線は、導体線と、該導体線の外周に形成され絶縁性繊維を横巻してなる横巻層と、該横巻層の外周に形成され絶縁性繊維を編組してなる編組層と、該編組層の外表面に形成された皮膜層とからなるものである。
又、請求項6記載の誘導加熱用コイル導線は、上記導体線が、導体の外周に絶縁層を設けた導体素線、又は、該導体素線を複数本撚り合せて形成したものであることを特徴とするものである。
又、請求項7記載の誘導加熱用コイル導線は、上記編組層が、ガラス繊維から構成されていることを特徴とするものである。
又、請求項8記載の誘導加熱用コイル導体は、上記皮膜層が、シリコーンゴムからなることを特徴とするものである。
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明による誘導加熱用コイル導線によれば、導体線の外周で絶縁を奏するものが編組層と皮膜層であるため、可撓性に優れ、取付け時の作業性が向上する。また、本発明の構成によれば、編組層を扱き寄せると編組目が開いて縮む(図2参照)ことになる。そのため、端子打ちをする際に編組層を扱き寄せて導体線を露出させ、端子打ち作業後に編組層を元に戻す、という手順によって、端末加工を行うことができる。これは、従来のフッ素樹脂被覆コイル導線のような、フッ素樹脂被覆をカットする方式と比べて、カット用の刃により導体線に傷が付くことも無く、注意深い作業も必要なくなるため、非常に作業性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1を示す図で、誘導加熱用コイル導線の構成を示す一部切欠き斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1を示す図で、(A)は通常の状態、(B)は編組層を扱き寄せて縮めた状態の誘導加熱用コイル導線の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態2を示す図で、誘導加熱用コイル導線の構成を示す一部切欠き斜視図である。
【図4】本発明のコイル導線を製造するための装置の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1〜図4を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
(実施の形態1)
実施の形態1は、図1に示す構成のものである。まず、外径0.05mmの軟銅線にポリエステルアミド−ポリイミドアミド絶縁層を形成して導体素線とし、この導体素線30本をS撚りした後、この撚った線40本をZ撚りして導体線1とした。この導体線1について、図4に示すように、給線ドラム11から製紐機12に供給し、導体線1の外周に、無アルカリ性ガラス繊維の糸13を編組密度30、編組厚さ0.20mmの条件で編組し、編組層2aとした。これをそのまま連続工程で皮膜塗布タンク14に導入して、粘度300〜50000cpの液状シリコーンゴムを編組層2aの外表面に塗布及び含浸させ、更に連続的に加熱炉16に導入して液状シリコーンゴムを加熱硬化させ皮膜層3を形成して、完成したコイル導線10が巻取装置18に巻取られることとなる。尚、図中の符号17はガイドプーリーを示す。
【0011】
(実施の形態2)
実施の形態2は、図3に示す構成のものである。導体線1の外周に、無アルカリ性ガラス繊維の糸を横巻して横巻層2bを形成し、この横巻層の外周に編組層2aを形成した他は、実施の形態1と同様にしてコイル導線10を製造した。
【0012】
(比較の形態1)
実施の形態1と同様に導体線1を構成し、この導体線1の外周にPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオルオロアルコキシエチレン共重合体)からなる厚さ0.15mmの内側絶縁層を設け、更にこの内側絶縁層の外周にFEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)からなる厚さ0.10mmの外側絶縁層を設けてコイル導線10を製造した。
【0013】
このようにして得られたコイル導線10について、それぞれN=3として、可撓性、コロナ開始電圧、コロナ開始距離を測定した。また、絶縁破壊電圧についても併せて測定した。可撓性は、試料をφ82mmのマンドレルに巻き付けた時の張力を測定した。コロナ開始電圧は、長さ200mmで片端をストリップした試料について、100mm×100mmの金属板上に固定して金属板にアースを取った状態とし、試料に所定周波数(40kHz,60kHz,80kHz)の電圧を均一に上昇させて加え、コロナが発生した電圧を測定した。コロナ発生距離は、長さ160mmで片端をストリップした試料について、40mm×20mmの金属板にアースを取った状態とし、試料に所定周波数(80kHz×4.5kVrms×1分)の電圧を加え、金属板に放電を開始する距離を測定した。絶縁破壊電圧はACとDCとで分けて測定をした。AC絶縁破壊電圧は、試料に商用周波数の電圧を500V/秒の割合で均一に上昇させて加え、絶縁破壊を起こした電圧を測定した。DC絶縁破壊電圧は、試料に直流電圧を均一に上昇させて加え、絶縁破壊を起こした電圧を測定した。可撓性、コロナ開始電圧、コロナ開始距離の試験結果を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に示すように、本発明の実施の形態1及び実施の形態2によるコイル導線は、従来のフッ素樹脂被覆である比較の形態によるコイル導線と比べて、可撓性において非常に優れた値を得ることができた。また、コロナ開始電圧、コロナ発生距離の点では、本発明の実施の形態1及び実施の形態2によるコイル導線は、従来のフッ素樹脂被覆である比較の形態によるコイル導線と同レベルの優れたコロナ開始電圧、コロナ発生距離の値を得ることができた。また、絶縁破壊電圧を測定した結果、本発明の実施の形態1では、AC2.63kV、DC3.24kV、実施の形態2では、AC1.67kV、DC2.90kVの値を得られ、加熱装置に使用される誘導加熱用コイルとして十分な実力を得られることができた。
【0016】
また、実施の形態1によるコイル導線10について、端部において編組層2aを扱き寄せることで編組層2aが縮み、容易に導体線1を露出させることができた。また、実施の形態2によるコイル導線10について、端部において編組層2aを扱き寄せることで編組層2aが縮み、横巻層2bが露出した。この横巻層2bは容易に取り除くことができるので、容易に導体線1を露出させることができた。このように、実施の形態1、2いずれのコイル導線10も、端末加工性に優れるものであった。尚、上記特許文献2には、半硬化のゴム又は熱硬化性樹脂の何れかを含浸した織布もしくは不織布を、コイル導線の外周に設けた絶縁体として使用することが記載されている。しかし、このような織布や不織布による絶縁体は、本発明による編組層とは編目(織目)の構成が異なり、扱き寄せたとして織目が開いて縮むようなことはなく、本発明の編組層のような端末加工時における作業性の向上を図ることはできない。
【0017】
このようなコイル導線10は、所定のコイル形状に成形され、加熱コイルとして加熱調理器等に設置されることとなる。
【0018】
本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。導体線1は、通常コイルとして使用されるような導体線であればなんでもよく、導体素線の構成も目的に応じて適宜設定すれば良い。導体素線に形成される絶縁層についても、従来公知の材料を適宜選択すれば良く、場合によっては絶縁層を形成しなくても良い。また、導体素線を撚って導体線1とする場合、撚りピッチや撚りの向きは適宜設定すれば良いし、撚った線を更に撚るというような多段撚りを繰り返しても良い。また、素線集合体の形態も同芯円形態に限らず、楕円、扇形、扁平形態でもよい。
【0019】
編組層2aや横巻層2bを構成する繊維は、絶縁性のものであれば限定はないが、加熱装置という機能上、耐熱性に優れるものが好ましい。例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ−シリカ繊維、カーボン繊維等の無機繊維、ポリエステル繊維、全芳香族ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ナイロン繊維等の有機繊維、これらの繊維の混合使用、などが挙げられ、耐熱性、強度、価格などの点よりガラス繊維が好ましい。また、編組密度や横巻ピッチも適宜設定すれば良いが、必要な絶縁破壊電圧を得るため、遮蔽率が75%以上となることが好ましい。尚、本発明でいう「編組密度」とは、25mm間に交差している糸の束数をいう。
【0020】
編組層2aや横巻層2bの構成は、最外層の形態が編組層であれば限定されるものではない。使用条件・経済性・加工性等を鑑みて設計者が任意に選択できるものである。
【0021】
皮膜層3を構成する材料としては、粘度が300〜50000cpの範囲のものを使用することが好ましい。これらは使用条件、塗布条件等を考慮して適宜選択すれば良いが、これらの中でも好ましくは、2000〜10000cpの範囲のワニスを使用する。
【0022】
皮膜層3を構成する材料としては、例えば、液状シリコーンゴム、ウレタン系ワニス、エポキシ系ワニス、アクリル系ワニス、不飽和ポリエステル系ワニス、アミドイミドエステル系ワニス、ポリブタジエン系ワニス、ポリイミド系ワニスなどが挙げられ特に限定されない。これらは使用条件等を考慮して適宜選択すれば良いが、これらの中でも耐熱性に優れる液状シリコーンゴムが好ましい。
【0023】
皮膜層3を構成する方法としては、塗布、コーティング、押し出し成型、圧縮成型等が考えられるが、経済性・加工性等を鑑みて設計者が任意に選択できるものである。
【0024】
製造工程について、上記の実施の形態では、編組工程と液状シリコーンゴム塗布工程が同時となった工程により、誘導加熱用コイル導線を作成したが、この製造工程に限定されることはない。例えば、導体素線に編組を実施して一度巻取り装置で巻取り、その後改めて液状シリコーンゴムで満たされたタンクに導入して、液状シリコーンゴムを塗布するというように、これらの工程を別工程としても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上詳述したように本発明によれば、組付け時や端末加工時の作業性に優れ、安価なコイル導線を提供することができる。このコイル導線は、例えば、調理器、炊飯器、ポット等をはじめとした、種々の加熱装置に使用される誘導加熱用コイル導線として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 導体線
2a 編組層
2b 横巻層
3 皮膜層
10 コイル導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体線と、該導体線の外周に形成され絶縁性繊維を編組してなる編組層と、該編組層の外表面に形成された皮膜層とからなる誘導加熱用コイル導線。
【請求項2】
上記導体線が、導体の外周に絶縁層を設けた導体素線、又は、該導体素線を複数本撚り合せて形成したものであることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱用コイル導線。
【請求項3】
上記編組層が、ガラス繊維から構成されていることを特徴とする請求項2記載の誘導加熱用コイル導線。
【請求項4】
上記皮膜層が、シリコーンゴムからなることを特徴とする請求項3記載の誘導加熱用コイル導体。
【請求項5】
導体線と、該導体線の外周に形成され絶縁性繊維を横巻してなる横巻層と、該横巻層の外周に形成され絶縁性繊維を編組してなる編組層と、該編組層の外表面に形成された皮膜層とからなる誘導加熱用コイル導線。
【請求項6】
上記導体線が、導体の外周に絶縁層を設けた導体素線、又は、該導体素線を複数本撚り合せて形成したものであることを特徴とする請求項5記載の誘導加熱用コイル導線。
【請求項7】
上記編組層が、ガラス繊維から構成されていることを特徴とする請求項6記載の誘導加熱用コイル導線。
【請求項8】
上記皮膜層が、シリコーンゴムからなることを特徴とする請求項7記載の誘導加熱用コイル導体。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate