説明

誘導加熱用コイル

【課題】 損失が少なく高効率であり、尚且つ、寸法が小型で構造がシンプルで製法が容易な誘導加熱用コイルを提供することにある。
【解決手段】 隣接する複数の導体2aを互いに接触した状態で平行配置した複合導体の外周に絶縁体2bが一括被覆された電線2を所定の長さにカット後、円環状に巻回する。さらに、円環状に巻回された電線束の固定を補強するため、電線束の外周4箇所に結束テープ4を貼り、最後に両面テープからなる基材3上に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IH炊飯器等の誘導過熱装置に使用される誘導加熱用コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導加熱用コイルとして図3及び図4に示すような、耐熱樹脂電線を円環状に巻回した電線束を固定テープにて結束したものを両面テープ等の基材の上に貼付した誘導加熱用コイルが知られている。そして、誘導過熱装置の仕様により、上記の誘導加熱用コイルを複数個層状に接続し、発生させる磁界の強度を調整している。(複数個層状にする為にコイルとコイルの間に両面テープを用いる構造が使われている。図4の上コイルと下コイルの間に両面テープが配置されている。)
ところが、誘導加熱用コイルを複数個層状に多層構造にすると、コイルのインダクタンス、あるいは直流抵抗分が上昇、ひいては、インピーダンスが単層時より大きくなってしまい、所要の磁界が得られなく、損失が大きく加熱効率が低いと言う問題があった。
また、上記の多層構造では、基材の両面テープの厚さや固定テープの厚さが加算されるので思った程、多層化できないというスペース上の問題もあった。
そこで、この問題を解消する方法として、絶縁体が被覆された素線である線コイルを複数本垂直方向に並べて渦巻き状に巻回した誘導加熱用コイルが提案されている。(特許文献1)
【0003】
しかしながら、この提案の方法においても、素線である線コイル自体、絶縁体によって被覆されているので、この絶縁体の厚さにより自ずと垂直方向に並べるには限界があり、垂直方向にスペースが取れない機器では所定の磁界が得られないという問題、あるいは、コイルを機器内に設置できないという問題もある。
また、この方法では素線が絶縁体により被覆されているので、並列配置された素線間の結合のために両端部の素線の被覆層を除去あるいは剥離したあと結合する必要があり端末加工に工数が掛かるという製造工程上の問題がある。
さらには、並列配置された素線を両端部で結合するために、かしめ端子等の結合部材が必要となり、構成が複雑化するとともに、並列配置された素線は両端部でしか結合されていないので、接触不良等の製品の信頼性に係る問題も懸念される。
【0004】
それゆえ、多層構造であっても、損失が少なく高効率であり、しかも、寸法が小型化された誘導加熱用コイルが切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−210460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、損失が少なく高効率であり、尚且つ、寸法が小型で構造がシンプルな誘導加熱用コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、複数本の導体を平行配置し複合導体化した電線を利用することに着目し上記の課題を一挙に解決するに至った。
【0008】
本発明者によれば、隣接する複数の導体が互いに接触した状態で平行配置された複合導体の外周に絶縁体が一括被覆された電線を円環状に巻回したことを特徴とする誘導加熱用コイルが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の誘導加熱用コイルにあっては、以下の効果が期待できる。
(a)絶縁体が被覆されていない裸導体を平行配置し、複合導体化しているので、導体部の有効断面積を大きくすることができるので、損失が少なく効率が上がる。
(b)絶縁体が被覆されていない複数本の裸導体を平行配置した複合導体に絶縁体を
一括被覆しているだけなので、コイルの外形寸法が小型化できる。
(c)従来のような素線(導体)両端部にて絶縁体を剥離し複数の素線を結合させる必要がないので、結合具が不要になり構成が簡略化されるとともに、工数削減となる。
(d)コイルの全長で隣合う導体が接触状態で平行配置されているので、接触不良の問題を生ずることがないので信頼性が上がる。
(e)特殊な形状の導体を用いる必要が無く、電線に一般的に使用されている導体
を使用できるので、入手性に優れ価格的にも安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る誘導加熱用コイルの一例を示す上面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】従来の誘導加熱用コイルの一例を示す上面図である。
【図4】図4のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】

以下、本発明の一態様を、2本の導体で構成される複合導体とし、これを円環状に巻回した誘導加熱用コイルにつき、図1および図2に基づいて説明する。
同図において、1は誘導加熱用コイルで、2は2本の導体2aを複合導体化した電線、2bは複合導体2aの外周に被覆された絶縁体、3は電線2を円環状に固定するための両面テープからなる基材、4は電線2の外周を固定するための結束テープである。
【0012】
本発明で特徴的なのは、隣接する2本の導体が互いに接触した状態で平行配置した複合導体を使用するとともに、絶縁体を一括被覆したことにある。
こうすることで、従来のように素線(導体)に余分な絶縁体が被覆されていないので
コイルの断面積あたりの有効導体部が増え、この結果、コイルのインダクタンス及びインピーダンスを下げることが可能となり、損失が少なくなるとともに加熱効率が上がる。
さらに、絶縁体が被覆されていない複数本の裸導体を平行配置した複合導体に絶縁体を
一括被覆しているだけなので、コイルの外形寸法が小型化できる。
【0013】
以下、図1及び図2を基に、さらに詳細な説明をする。
図2の断面図が示すように、本発明の誘導加熱用コイルは隣接する2本の導体2aが
互いに接触した状態で平行配置され、複合導体を形成している。そして、この複合導
体の外周には、絶縁体2bが一括被覆されている電線2を使用し、これを両面テープ
からなる基材3上に平面状に巻回されている。ここで、より高磁界を発生させるため
にはコイルの巻数(ターン数)をできるだけ多くする必要がある。
そこで、本発明の誘導加熱用コイルでは平行配置された複合導体の配列方向を巻き
方向と直交する方向、即ち、コイルの厚さ方向になるよう、両面テープからなる基材3上に円環状に巻回されている。そして、電線2の固定をより、強固なものとするため、図1に示すように電線束の外周4箇所で固定テープからなる結束テープにて固定している。
【0014】
本発明で使用する導体2aは銅あるいは銅銀合金線等の銅合金等通常の電線に使用する金属でよい。導体を構成する素線に関しては、高周波による表皮効果あるいは巻回性を考慮すると単線でなく複数本の素線を撚った導体が望ましい。導体径についても発生させる磁界の強さに応じて、適宜選択すればよい。
次に絶縁体2bについては、耐熱性に優れた素材であればよく、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリオフィン樹脂等各種樹脂が選択可能である。
また、基材3については、アクリル系粘着剤付両面接着テープ、粘着剤付金属箔テープ、耐熱樹脂テープ等からなる部材から構成されている。基材の肉厚は強度、厚さ寸法を考慮して0.1mm〜0.3mmの範囲が好ましい。
さらに、結束テープ4についても、特段のものは必要なく、通常の粘着剤付紙テープ、金属箔テープ、耐熱樹脂テープ、ポリエステルテープ等が使用可能である。厚さ寸法については0.03mm〜0.05mmの程度の範囲が好ましい。
【0015】
次に、本発明の誘導加熱用コイルの製造方法について説明する。
先ず、最初に複合導体からなる長尺電線の製法について説明する。
公知の押出成形による電線の製造で使用されるダイス及び二ップルを使用すればよく、2本の長尺の導体2aを互いに接触した状態で平行配置し複合導体を形成する。
それから、この複合導体の外周に押出機(図示せず)にて絶縁体2bを一括被覆すればよい。次に、上記の製法にて得られた長尺電線を所定長にカットし、これを巻回固定するわけであるが、平行配置された複合導体の配列方向を巻き方向と直交する方向、即ち、コイルの厚さ方向になるよう巻回・固定する。こうすることで、コイルの周方向の幅は従来と同じであるのでターン数は従来と同じになる。一方、導体部の断面積が図3,4に示す従来方法と比較すると2倍となるので、インピーダンスが下がり電流容量も2倍となり、発生磁界を増加させることが可能となる。
そして、最後に巻回固定された電線束の外周4箇所に固定テープ4を巻き、基材3上に固定すれば、本発明の誘導加熱用コイルが得られる。
【0016】
なお、上記の説明では、コイルの両端部に接続される、コネクタ、接続子等の接続部材についての説明は割愛したが、各種接続部材が接続できる。
巻形状についても、円環状としたが、この他、渦巻状、楕円状、方形状等仕様用途に合わせて最適な形状を選択すれば良い。
以上述べたように、本発明では、複数の導体が内部で結合している複合導体を使用しているので、従来のような素線(導体)両端部にて絶縁体を剥離し複数の素線を結合させる必要がないので、結合具が不要になり構成が簡略化されるとともに、大幅な工数削減となる。
また、従来のリッツ線のように素線をさらに複合撚りする必要がないので、この点においても工数削減となる。
さらに、コイルの全長で隣合う導体が接触状態で平行配置された状態で絶縁体で固定されているので、接触不良の問題を生ずる懸念がないので信頼性も上がる。
最後に、上記の説明では複合導体として2本の導体を列状に平行配置した複合導体の例を示したが、3本以上の列状の平行配置からなる複合導体に展開できることは言うまでもなく、さらに、本発明思想の範囲内において、列状に限ることなく、3角形状、4角形状等多角形状に密接した状態で平行配置した複合導体にも展開できることを付記しておく。
【実施例】
【0017】
本発明の実施の形態について、実施例に基づいて説明する。
【0018】
[実施例1]
素線径0.18mmの銅からなる素線19本を同心撚りした長さ100mの長尺導体2を2本用意した。
【0019】
ついで、上記の2本の導体をダイス・二ツプルが取付られた押出機に平行配置する。
【0020】
次に平行配置された導体上に押出機から絶縁体3としてふっ素樹脂を押出被覆する。
こうして横幅が2.0mm、高さが1.1mmの外形がひょうたん形状の複合導体電線がえられた。この際、絶縁体の肉厚は0.1mmとした。
【0021】
上記で作成した長尺電線を5mにカットし、電線の該導体の配列方向が円環状平面に直交する方向、言い換えれば、電線の高さがコイルの幅方向になる向きでこれを円環状に巻き、コイルの4箇所を結束テープ4にて固定した。この際の円環の内径126mm、円環幅12.1mm、ターン数は11ターンとした。
最後に、円環状に固定されたコイルを両面テープからなる基材3上に固定して、本発明の誘導加熱用コイルが得られる。
【0022】
このようにして得られた誘導加熱用コイルについて、コイルの両端に所定の電圧を印加し従来のコイルとの性能比較を行なった。
【0023】
[比較例1]
1つの導体の導体径は実施例と同一とし、1つの導体の外周に実施例と同じ絶縁体種類、厚さの絶縁層を押出被覆して形成したコイルを図3、4に示すような2層に重ねた構造
とした。
【0024】
この結果、本発明の誘導加熱用コイルでは比較例の誘導加熱用コイルに比較してほぼ2倍の磁界を発生することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の誘導加熱用コイルはIH炊飯器に限らず、電磁調理器、コピー機の誘導加熱定着装置あるいはその他の誘導加熱機器に対しても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 誘導加熱用コイル
2 電線
2a 導体(複合導体)
2b 絶縁体
3 基材(両面テープ)
4 結束テープ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する複数の導体が互いに接触した状態で平行配置された複合導体の外周に絶縁体が一括被覆された電線を平面状に巻回した誘導加熱用コイル。
【請求項2】
該複数の導体が列状に平行配置されるとともに、該電線の該導体の列方向が該平面に直交する方向で巻回されていることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱用コイル。
【請求項3】
該平面が円環状である請求項1または2に記載の誘導加熱用コイル。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−60436(P2011−60436A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205507(P2009−205507)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】