説明

誘導加熱装置および誘導加熱方法

【課題】誘導加熱コイルを垂直方向に複数配置した場合であっても、誘導加熱コイル間における相互誘導の影響を抑制し、良好な加熱制御を可能とする熱処理装置を提供する。
【解決手段】コア40を有する3組の誘導加熱コイルのそれぞれに接続されるインバータ(14a〜14c)とを有し、コア40を積層配置すると共に、主加熱コイル30、上段従属加熱コイル32、下段従属加熱コイル34と定めて構成する誘導加熱装置であって、上段従属加熱コイル32のコア40には逆結合コイル36を設け、下段従属加熱コイル34のコアには逆結合コイル38を設け、3つのインバータのうち、第1のインバータ14aと上段従属加熱コイル32とを接続し、第3のインバータ14cと下段従属加熱コイル34とを接続し、第2のインバータ14bに対して逆結合コイル36と逆結合コイル38、および主加熱コイル30を直列に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置、および方法に係り、特に大径のウエハ等の基板を処理する場合に、被加熱物の温度制御を行う際に好適な半導体基板熱処理用の装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱を利用して半導体ウエハ等の基板を熱処理する装置としては、特許文献1や特許文献2に開示されているようなものが知られている。特許文献1に開示されている熱処理装置は図5に示すように、バッチ型の熱処理装置であり、多段積みされたウエハ2を石英のプロセスチューブ3に入れ、このプロセスチューブ3の外周にグラファイト等の導電性部材で形成した加熱塔4を配置し、その外周にソレノイド状の誘導加熱コイル5を配置するというものである。このような構成の熱処理装置1によれば、誘導加熱コイル5によって生じた磁束の影響により加熱塔4が加熱され、加熱塔4からの輻射熱によりプロセスチューブ3内に配置されたウエハ2が加熱される。
【0003】
また、特許文献2に開示されている熱処理装置は図6に示すように、枚葉型の熱処理装置であり、同心円状に多分割されたサセプタ7をグラファイト等で形成し、このサセプタ7の上面側にウエハ8を載置、下面側に複数の円環状の誘導加熱コイル9を同心円上に配置しこれら複数の誘導加熱コイル9に対する個別電力制御を可能としたものである。このような構成の熱処理装置6によれば、各誘導加熱コイル9による加熱範囲に位置するサセプタ7と、他のサセプタ7との間の伝熱が抑制されるため、誘導加熱コイル9に対する電力制御によるウエハ8の温度分布制御性が向上する。
【0004】
また、特許文献2においては、ウエハ8を載置するサセプタ7を分割する事で発熱分布を良好に制御する旨記載されているが、特許文献3には、サセプタの断面形状を工夫することで、発熱分布を改善することが開示されている。特許文献3に開示されている熱処理装置は、円環状に形成される誘導加熱コイルの径が小さい内側において発熱量が小さくなる事に注目し、サセプタにおける内側部分の厚みを厚くすることで、外側部分よりも内側部分の方が誘導加熱コイルからの距離が近くなるようにし、発熱量の増大と熱容量の増大を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−71596号公報
【特許文献2】特開2009−87703号公報
【特許文献3】特開2006−100067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような構成の熱処理装置ではいずれも、グラファイトに対して磁束が垂直に作用することとなる。このため、被加熱物としてのウエハ表面に金属膜等を形成していた場合にはウエハが直接加熱されてしまう場合があり、温度分布制御が乱れることが生じ得る。
【0007】
これに対し、グラファイト(サセプタ)に対して水平方向の磁束を与えることで加熱を促すようにした場合、多数のサセプタを積層配置して加熱することが困難となる。これを解消するために誘導加熱コイルを複数、積層方向(垂直方向)に近接配置した場合には、誘導加熱コイル間における相互誘導の影響により、加熱制御が不安定になるといった問題が生ずる。
【0008】
そこで本発明では、上記問題点を解消し、サセプタに対して水平磁束を与えつつ誘導加熱コイルを垂直方向に複数配置した場合であっても、誘導加熱コイル間における相互誘導の影響を抑制し、良好な加熱制御を可能とすることのできる誘導加熱装置、および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る誘導加熱装置は、コアの端面から放出する磁束で誘導加熱する、コアを有する3組の誘導加熱コイルと、前記誘導加熱コイルのそれぞれに接続される3つのインバータとを有し、3組の前記誘導加熱コイルは、前記コアの端面を揃えて積層配置すると共に、その中段を主加熱コイル、上段を上段従属加熱コイル、下段を下段従属加熱コイルと定めて構成する誘導加熱装置であって、前記上段従属加熱コイルのコアには上段従属加熱コイルと磁気結合する別のコイルを設け、前記下段従属加熱コイルのコアには下段従属加熱コイルと磁気結合する別のコイルを設け、前記3つのインバータのうち、第1のインバータと前記上段従属加熱コイルとを接続し、第3のインバータと前記下段従属加熱コイルとを接続し、第2のインバータに対して前記上段従属加熱コイルのコアに設けられた別のコイルと前記下段従属加熱コイルのコアに設けられた別のコイル、および前記主加熱コイルを直列に接続したことを特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成するための誘導加熱方法は、コアの端面から放出する磁束で誘導加熱する、コアを有する3組の誘導加熱コイルと、前記誘導加熱コイルのそれぞれに接続される3つのインバータとを有し、3組の前記誘導加熱コイルは、前記コアの端面を揃えて積層配置すると共に、その中段を主加熱コイル、上段を上段従属加熱コイル、下段を下段従属加熱コイルと定めて構成する誘導加熱装置を用いた誘導加熱方法であって、前記主加熱コイルと前記上段従属加熱コイル及び前記下段従属加熱コイルの結合インダクタンスに対して、逆結合インダクタンスを発生するように、前記上段従属加熱コイル用コアに設けられた別のコイル及び前記下段従属加熱コイル用コアに設けられた別のコイルを接続し、前記インバータを運転することを特徴とする。
【0011】
さらに、上記のような誘導加熱方法では、前記第1のインバータ、前記第2のインバータ、および前記第3のインバータからそれぞれの加熱コイルへ給電する電流を同期させることが望ましい。
【0012】
このような特徴を有する誘導加熱方法によれば、隣接配置した主加熱コイルと上段従属加熱コイル、下段従属加熱コイル間における相互誘導の影響を回避して電力制御(ゾーンコントロール制御)を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
上記のような特徴を有する誘導加熱装置、および方法によれば、サセプタに対して水平磁束を与えつつ誘導加熱コイルを垂直方向に複数配置した場合であっても、誘導加熱コイル間における相互誘導の影響を抑制することができ、良好な加熱制御を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る熱処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る熱処理装置における電源部の構成を説明するためのブロック図である。
【図3】段積みした誘導加熱コイル間における磁束の打ち消しの様子を説明するためのブロック図である。
【図4】第2の実施形態に係る熱処理装置の構成を示すブロック図である。
【図5】従来のバッチ式誘導加熱装置の構成を示す図である。
【図6】従来の枚葉式誘導加熱装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の誘導加熱装置、および誘導加熱方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、図1、2を参照して、第1の実施形態に係る誘導加熱装置(以下、単に熱処理装置と称す)の概要構成について説明する。なお、図1(A)は熱処理装置の平面構成を示すブロック図であり、図1(B)は熱処理装置の側面構成を示すブロック図である。また、図2は、電源部の構成を説明するための図である。
【0016】
本実施形態に係る熱処理装置10は、被加熱物としてのウエハ54と発熱体としてのサセプタ52を多段に重ねて熱処理を行うバッチ式のものとする。
熱処理装置10は、ウエハ54と水平配置されたサセプタ52を垂直方向に多段に積層配置したボート50と、サセプタ52を加熱する誘導加熱コイル(詳細を後述する主加熱コイル30、従属加熱コイル32,34、逆結合コイル36,38)、および誘導加熱コイルに電力を供給する電源部12とを基本として構成される。
【0017】
サセプタ52は、導電性部材で構成されれば良く、例えばグラファイト、SiC、SiCコートグラファイト、および耐熱金属等により構成すれば良い。本実施形態におけるサセプタ52は、平面形状を円形としている。
【0018】
ボート50を構成するサセプタ52は、それぞれ支持部材56を介して積層配置される。なお、支持部材56は電磁誘導による加熱の影響を受けない石英などで構成すると良い。
【0019】
また、本実施形態におけるボート50は、図示しないモータを備えた回転テーブル58に載置されており、熱処理工程中のサセプタ52及びウエハ54を回転させることができる。このような構成とすることにより、サセプタ52を加熱する際の発熱分布の偏りを抑制することができる。また、詳細を後述するように、加熱源である誘導加熱コイルの配置形態をサセプタ52の中心から偏らせた場合であっても、サセプタ52を均一加熱することが可能となる。
【0020】
実施形態に係る誘導加熱コイルは、1つの主加熱コイル30と、主加熱コイル30に対して電磁的に結合するように隣接配置された2つの従属加熱コイル32,34から成り、それぞれ、サセプタ52の外周側における円周上に配置されている。主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34はそれぞれ、サセプタ52の積層方向と同一方向に隣接して段積みされている。また、実施形態に係る主加熱コイル30には、2つの従属加熱コイル32,34に対して電磁的に逆結合する逆結合コイル36,38が備えられる。ここで、電磁的結合とは、例えば、主加熱コイル30に供給する電流の変化に基づいて、従属加熱コイル32,34に、主加熱コイル30によって生ずる磁束を打ち消す方向の誘導起電力を生じさせるような、相互誘導関係にある状態、すなわち相互インダクタンスを生じさせる状態をいう。また、電磁的に逆結合とは、主加熱コイル30を一次巻線(一次コイル)、従属加熱コイル32,34をそれぞれ二次巻線(二次コイル)として見た場合に、主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34間との間に生ずる相互インダクタンスと逆極性の相互インダクタンスを生じさせる結合状態をいう。
【0021】
各誘導加熱コイル(主加熱コイル30、および従属加熱コイル32,34)は、ボート50の外周側に配置されたコア40に銅線を巻回されて構成される。コア40は、フェライト系セラミックなどにより構成すると良く、粘土状の原料を形状形成した上で焼成して成るようにすれば良い。このような部材により構成すれば、形状形成を自由に行うことが可能となるからである。また、コア40を用いることにより、誘導加熱コイル単体の場合に比べて磁束の拡散を防止することができ、磁束を集中させた高効率な誘導加熱を実現することができる。
【0022】
本実施形態では、主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34のコア40に対する巻回方向は同一としている。また、逆結合コイル36,38は、従属加熱コイル32,34を先端側(サセプタ52配置側)に配置したコア40の後端側に、巻回方向を従属加熱コイル32,34と逆にした状態で配置される。このような構成とすることにより、主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34に供給する電流の向きを一致させることで、主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34との間に生ずる相互インダクタンスと、逆結合コイル36,38と従属加熱コイル32,34との間に生ずる相互インダクタンスとが逆極性となり、相互誘導電力の影響を互いに打ち消しあうこととなる。このため、互いに隣接配置された主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34との間で生ずる相互誘導の影響が小さくなり、個別の電力制御性を向上させることができる。なお、従属加熱コイル32,34と、逆結合コイル36,38との巻回割合は、7:1程度とすることが望ましい。なおこの場合、主加熱コイル30の巻回数は、従属加熱コイル32,34の巻回数と合わせるようにすると良い。
【0023】
例えば図2に示す形態の場合において、従属加熱コイル32に投入される電流をI、電流の電圧をVとし、主加熱コイル30に投入される電流をI、電流の電圧をVとし、従属加熱コイル34に投入される電流をI、電流の電圧をVとしたとき、逆結合コイル36と従属加熱コイル32との間に生ずる相互インダクタンス+M12(+M21)と従属加熱コイル32と主加熱コイル30との間に生ずる相互インダクタンス−M12(−M21)とが等しく、逆結合コイル38と従属加熱コイル34との間に生ずる相互インダクタンス+M23(+M32)と、従属加熱コイル34と主加熱コイル30との間に生ずる相互インダクタンス−M23(−M32)とが等しい場合には、数式1〜3が成り立つこととなる。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
ここで、Lは従属加熱コイル32の自己インダクタンスであり、Lは主加熱コイル30の自己インダクタンス、Lは従属加熱コイル34の自己インダクタンスである。
【0028】
相互インダクタンスMは、
【0029】
【数4】


と示すことができる(L1、L2は、一次巻線、二次巻線における自己インダクタンス)。なお、自己インダクタンスLは、数式5で求めることができる。
【0030】
【数5】

【0031】
ここで、Nはコイルの巻回数、φは磁束(wb)を示し、Iは電流値を示す。上述したように、主加熱コイル30と逆結合コイル36,38とでは、コイルの巻回数が異なる。このため、単位電流(dI)あたりの磁束(dφ)が等しい場合であっても、自己インダクタンスLの値は異なることとなる。よって、従属加熱コイル32,34との間に生ずる相互インダクタンスMを同一(極性は逆)とするためには、結合係数kを調整する必要がある。結合係数kは、コイル間の距離や配置形態により変化させることができる。よって、主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34間における相互インダクタンス−Mに基づいて、逆極性の相互インダクタンス+Mを得るための結合係数kを算出する。逆結合コイル36,38は、算出された結合係数kを得るために、配置形態やコイル間距離を調整された上で配置される。
【0032】
このような関係が満たされることにより、主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34との間における相互誘導による相互インダクタンスを含む項は相殺されることとなり、隣接配置される誘導加熱コイル間における相互誘導の影響を回避することができる。
【0033】
主加熱コイル30や従属加熱コイル32,34を巻回させるコア40はその中心軸が、サセプタ52におけるウエハ54の載置面と平行(載置状態における中心軸と直行する方向)となるように配置される。磁極面となるコア40の先端面は、サセプタ52に対向することとなる。このような構成から、主加熱コイル30や従属加熱コイル32,34が巻回された磁極面からは、サセプタ52のウエハ54載置面に平行な方向に交流磁束が生ずることとなる。
【0034】
ここで上述したように、主加熱コイル30を一次巻線、従属加熱コイル32,34を二次巻線とみた場合、両者には投入される電流の向きが同一となるように、詳細を後述するインバータ14a〜14cが接続されている。このため、垂直方向に段積みされた主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34は互いに減極性となる。
【0035】
このような配置関係とされる主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34とは図3に示すように、サセプタ52の載置面に対して垂直方向に交わるように放射される磁束の向きが、互いに逆向きとなり相殺される。このため、サセプタ52に載置するウエハ54の表面に金属膜等が形成されていた場合であっても、垂直方向の磁束の影響によりウエハ54が直接加熱される虞が無く、ウエハ54の温度分布がばらつく虞が無い。
【0036】
また、主加熱コイル30や従属加熱コイル32,34、および逆結合コイル36,38は、内部を中空とした管状部材(例えば銅管)とすることが望ましい。熱処理中に銅管内部に冷却部材(例えば冷却水)を挿通させることにより、主加熱コイル30や従属加熱コイル32,34、および逆結合コイル36,38自体の加熱を抑制することが可能となるからである。
【0037】
上述したように、主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34はそれぞれ、ウエハ54を載置したサセプタ52を垂直方向に積層させたボート50に沿って垂直方向に、隣接させて配置されている。このような構成とすることにより、より多くのサセプタ52、およびウエハ54を一度に加熱することが可能となり、ウエハ54の熱処理を効率的に行うことが可能となる。また、積層配置した誘導加熱コイルに対する電力制御をそれぞれ個別に行うようにすれば、ボート50内に積層配置された複数のサセプタ52における垂直方向の温度分布を制御することができ、サセプタ52間の温度ばらつきを抑制することも可能となる。
【0038】
上記のように構成される主加熱コイル30、および従属加熱コイル32,34は、単一の電源部12に接続される。電源部12には、インバータ14a〜14cと、チョッパ16a〜16c、コンバータ18、三相交流電源20、およびゾーンコントロール手段22が設けられ、各誘導加熱コイル(主加熱コイル30、および従属加熱コイル32,34)に供給する電流や電圧、および周波数等を調整することができるように構成されている。図2に示す実施形態の場合、インバータ14a〜14cとして直列共振型のものを採用している。このため、周波数切替を簡易に行うための構成として、共振コンデンサ26を並列に接続し、共振周波数に合わせて、スイッチ28により、容量の増減を図るようにすると良い。
【0039】
また、実施形態に係る熱処理装置10は、各誘導加熱コイル(主加熱コイル30、および従属加熱コイル32)と各インバータ14a〜14cとの間に、トランス24を配置している。
【0040】
ゾーンコントロール手段22は、隣接配置された主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34間に生ずる相互誘導の影響を回避しつつ、主加熱コイル30と各従属加熱コイル32,34に対する電力制御を行う役割を担う。
【0041】
積層して隣接配置された主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34とは、各々が個別に稼動されるため、主加熱コイル30と従属加熱コイル32、または主加熱コイル30と従属加熱コイル34において相互誘導が生じ、個別の電力制御に悪影響を与える事がある。このためゾーンコントロール手段22は、検出された電流の周波数や波形(電流波形)に基づいて、隣接配置された主加熱コイル30や従属加熱コイル32,34に投入する電流の周波数を一致させ、かつ電流波形の位相を同期(位相差を0または位相差を0に近似させる事)、あるいは所定の位相差を保つように制御することで、隣接配置した主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34間における相互誘導の影響を回避した電力制御(ゾーンコントロール制御)を可能としている。
【0042】
このような制御は例えば、各誘導加熱コイル(主加熱コイル30および従属加熱コイル32,34)に投入されている電流値や電流の周波数、および電圧値等を検出し、これをゾーンコントロール手段22に入力する。ゾーンコントロール手段22では、主加熱コイル30に投入されている電流波形と、従属加熱コイル32,34に投入されている電流波形との位相を検出し、これを同期、あるいは所定の位相差を保つように制御するため、インバータ14b、あるいはインバータ14cに対して従属加熱コイル32、あるいは従属加熱コイル34に投入する電流の周波数を瞬時的に変化させる信号を出力することで成される。
【0043】
また、電力制御に関しては、電源部12に設けられた図示しない記憶手段(メモリ)に記憶された制御マップ(垂直温度分布制御マップ)に基づいて、熱処理開始からの経過時間単位に変化させる信号をインバータ14a〜14cや、チョッパ16a〜16cに出力したり、図示しない温度計測手段からフィードバックされるサセプタ52の温度に基づいて、所望する垂直温度分布を得るための電力制御を行うようにすれば良い。なお、制御マップは、熱処理開始から熱処理終了に至るまでの積層配置されたサセプタ52間の温度変化を補正し、任意の温度分布(例えば均一な温度分布)を得るために主加熱コイル30および従属加熱コイル32,34に与える電力値を、熱処理開始からの経過時間と共に記録したものであれば良い。
【0044】
このようにして電源部12では、ゾーンコントロール手段22からの信号に基づいて従属加熱コイル32,34に投入する電流の周波数を瞬時的に調整し、電流波形の位相制御を実施すると共に、各誘導加熱コイル間における電力制御を実施することで、ボート50内における垂直方向の温度分布を制御することができる。
【0045】
また、実施形態に係る熱処理装置10では、従属加熱コイル32,34に対して磁気的に逆結合する逆結合コイル36,38を設けたことにより、主加熱コイル30と従属加熱コイル32,34間における相互誘導の影響を、あらかじめ抑制することができる。このため、ゾーンコントロール手段22により回避する相互誘導の影響が小さくなり、主加熱コイル30、および従属加熱コイル32,34に対する電力制御の制御性を向上させることができる。
【0046】
また、上記のような構成の熱処理装置10によれば、ウエハ54の表面に金属膜等の導電性部材が形成されていた場合であっても、当該金属膜が発熱し、ウエハ54の温度分布が乱れるといった虞が無い。
【0047】
次に、本発明の熱処理装置に係る第2の実施形態について、図4を参照して説明する。本実施形態に係る熱処理装置の殆どの構成は、上述した第1の実施形態に係る熱処理装置と同様である。よって、その構成を同一とする箇所には、図面に100を足した符号を付して、その詳細な説明は省略することとする。
【0048】
図4(A)は、第2の実施形態に係る熱処理装置110における平面構成を示すブロック図であり、図4(B)は、本実施形態に係る熱処理装置110に用いられるコアの平面構成を示すブロック図である。なお、同図においては、電源部の記載を省略しているが、上記実施形態と同様な構成を持った電源部が接続されているものとする。
【0049】
本実施形態に係る熱処理装置110は、第1の実施形態に係る従属加熱コイル32、主加熱コイル30、および従属加熱コイル34に相当する誘導加熱コイルをそれぞれ複数設けるようにした点を特徴としている(図4においては、従属加熱コイル132a,132bのみを表示している:以下、説明を簡単化するために、単に誘導加熱コイル132a,132bと称す)。
【0050】
サセプタ152の円周方向に沿った方向に、複数の誘導加熱コイル132a,132bを配置することにより、水平方向の加熱可能範囲が増え、ウエハ154の面内における温度分布を安定させることが可能となる。
【0051】
また、実施形態に係る熱処理装置110では、複数(図4に示す形態では2つ)の誘導加熱コイル132a,132bを巻回させるコア140を単一とし、ヨーク141から突出させた磁極141a,141bに、それぞれ誘導加熱コイル132a,132bを巻回させる構成としている。また、本実施形態に係る熱処理装置110では、サセプタ152の円周方向(水平方向)に配置した誘導加熱コイル132a,132bは、電源部(実際には電源部におけるインバータ)に対して並列に接続する構成としている。このような構成とすることにより、並列に配置した誘導加熱コイル132a,132b間においては、相互誘導の影響を考慮する必要が無くなるからである。
【0052】
また、各誘導加熱コイル132a,132bは、コア140の磁極141a,141bに対する巻回方向両者により発生する磁束が加極性となるようにする。このような構成とした場合には、発生磁束が破線a〜cで示すような軌跡で生ずることとなり、1つの誘導加熱コイルによって生ずる磁束よりも、サセプタ152の中心側を加熱することが可能となる。
【0053】
なお、2つの誘導加熱コイル132a,132bは、図示しない切替スイッチにより、単一稼動と相互稼動の選択可能としても良い。このような構成とした場合、稼動させる誘導加熱コイルの組み合わせによりサセプタ152の加熱範囲が変化するため、ウエハ154面内における温度分布制御を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
10………半導体基板熱処理装置(熱処理装置)、12………電源部、14a〜14c………インバータ、16a〜16c………チョッパ、18………コンバータ、20………三相交流電源、22………ゾーンコントロール手段、24………トランス、26………共振コンデンサ、28………スイッチ、30………主加熱コイル、32,34………従属加熱コイル、36,38………逆結合コイル、40………コア、50………ボート、52………サセプタ、54………ウエハ、56………支持部材、58………回転テーブル。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの端面から放出する磁束で誘導加熱する、コアを有する3組の誘導加熱コイルと、前記誘導加熱コイルのそれぞれに接続される3つのインバータとを有し、3組の前記誘導加熱コイルは、前記コアの端面を揃えて積層配置すると共に、その中段を主加熱コイル、上段を上段従属加熱コイル、下段を下段従属加熱コイルと定めて構成する誘導加熱装置であって、
前記上段従属加熱コイルのコアには上段従属加熱コイルと磁気結合する別のコイルを設け、
前記下段従属加熱コイルのコアには下段従属加熱コイルと磁気結合する別のコイルを設け、
前記3つのインバータのうち、第1のインバータと前記上段従属加熱コイルとを接続し、第3のインバータと前記下段従属加熱コイルとを接続し、第2のインバータに対して前記上段従属加熱コイルのコアに設けられた別のコイルと前記下段従属加熱コイルのコアに設けられた別のコイル、および前記主加熱コイルを直列に接続したことを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
コアの端面から放出する磁束で誘導加熱する、コアを有する3組の誘導加熱コイルと、前記誘導加熱コイルのそれぞれに接続される3つのインバータとを有し、3組の前記誘導加熱コイルは、前記コアの端面を揃えて積層配置すると共に、その中段を主加熱コイル、上段を上段従属加熱コイル、下段を下段従属加熱コイルと定めて構成する誘導加熱装置を用いた誘導加熱方法であって、
前記主加熱コイルと前記上段従属加熱コイル及び前記下段従属加熱コイルの結合インダクタンスに対して、逆結合インダクタンスを発生するように、
前記上段従属加熱コイル用コアに設けられた別のコイル及び前記下段従属加熱コイル用コアに設けられた別のコイルを接続し、前記インバータを運転することを特徴とする誘導加熱方法。
【請求項3】
前記第1のインバータ、前記第2のインバータ、および前記第3のインバータからそれぞれの加熱コイルへ給電する電流を同期させることを特徴とする請求項2に記載の誘導加熱方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−186186(P2012−186186A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152412(P2012−152412)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2010−178725(P2010−178725)の分割
【原出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】