説明

誘導灯

【課題】通常時に、白色の基準を満たし、かつ、停電時に、シンボルを歩行者等に視認性よく示すことができる誘導灯を提供する。
【解決手段】誘導灯100は、開口部21が形成されたフレーム20の内部に配置される蛍光管30と、開口部21に設けられたパネル10等とを備え、パネル10は、誘導部11Aを有する基材11と、蛍光管30側から基材11側に積層され、残光性を有する蛍りん光体15と、白色着色剤16と、バインダー17とを含み、層厚が45〜50μmであり、白色着色剤16の質量を蛍りん光体15の質量で割ることにより得られる白色着色剤16の配合比が1.33〜3.56%である蓄光層14と、3.18〜5.91%である蓄光層13と、5.58〜8.37%である蓄光層12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者等に避難場所や避難経路を視認させる誘導灯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導灯は、蛍光管が配置されたフレームと、フレームの開口部に設けられた乳白色のパネルと、蛍光管に電力を供給する電源装置等とからなり、このパネルには、災害時に備えて避難場所や避難経路を示す文字や記号等からなるシンボルが施されている。
誘導灯は、災害時に停電が発生したときには、電源装置に含まれる蓄電池により蛍光管が発光することにより、歩行者等に避難場所や避難経路を視認させることができる。このため、シンボルの視認性は、災害時に備える上で非常に重要視されている。
しかし、蓄電池は、メンテナンス等を怠った状態で長時間使用すると、劣化してしまい、災害時に僅かな時間しか蛍光管を発光できず、歩行者等がシンボルを視認できない可能性があった。
【0003】
一方、太陽光や人工照明の光などを照射すると、暗所で比較的長い時間りん光(残光)を発する性質をもち、この現象を何回でも繰り返すことができる顔料が知られている。この顔料は、蓄電池の充電と放電のように光を吸収し(以下、蓄光という)、暗所で発光することから蓄光顔料と呼ばれている。
【0004】
特許文献1は、蛍りん光体(蓄光顔料等)とバインダーとを含むりん光層と、着色剤と蛍りん光体とバインダーとを含む着色層とからなり、赤や緑等だけでなく、金色、銀色の金属色又は黒色に着色可能であり、かつ、高い発光輝度を有する残光性複合体を開示している。
特許文献1の残光性複合体は、光源と観察者とが残光性複合体の同一側に位置しているときには、観察側に各種の色彩を有する光を反射させることができる。
【0005】
特許文献1の残光性複合体を誘導灯に適用した場合には、誘導灯は、いわゆる透過型であって、通常時には、フレームの内部に配置された光源が点灯しており、その光が残光性複合体を透過することになる。このため、残光性複合体を透過した透過光は、蓄光顔料の非発光時(蓄光時)の色(黄色)に見える。
しかし、誘導灯は、消防法により、光源が点灯しているときに観察者が目視で確認して、シンボルの地の色彩は白色に見える必要がある。
【0006】
また、この透過光を白色にするために、着色層に白色着色剤を含有させることも考えられるが、白色着色剤は遮光性を有するので、蓄光顔料が蓄光しないことがある。
【0007】
【特許文献1】特許第3127198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、通常時に、白色の基準を満たし、かつ、停電時に、シンボルを歩行者等に視認性よく示すことができる誘導灯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施例に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
請求項1の発明は、光源(30)と、開口部(21)を有し、その内部に前記光源(30)が配置される基台(20)と、前記開口部(21)に設けられた透明又は半透明の基板層(11)と、前記基板層(11)の前記光源(30)側に配置され、残光性を有する発光体(15)と、白色着色剤(16)と、バインダー(17)とを含み、前記白色着色剤(16)の質量を前記発光体(15)の質量で割ることにより得られる前記白色着色剤(16)の配合比が、前記基板層(11)側ほど大きい蓄光層と、を備えた誘導灯である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の誘導灯において、前記蓄光層は、前記白色着色剤(16)の配合比が異なる複数の層を積層した積層構造を有すること、を特徴とする誘導灯である。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の誘導灯において、前記蓄光層は、前記光源(30)側に配置され、前記配合比が1.33〜3.56%である第1蓄光層(14)と、前記第1蓄光層(14)の前記基板層(11)側に配置され、前記配合比が3.18〜5.91%である第2蓄光層(13)と、前記第2蓄光層(13)の前記基板層(11)側に配置され、前記配合比が5.58〜8.37%である第3蓄光層(12)と、を備えたことを特徴とする誘導灯である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3に記載の誘導灯において、前記第1蓄光層(14)、前記第2蓄光層(13)及び前記第3蓄光層(12)は、それぞれ厚さが45〜50μmであること、を特徴とする誘導灯である。
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明の誘導灯は、基板層の光源側に配置され、白色着色剤の配合比が、基板層側ほど大きい蓄光層を備えたので、蓄光層は、基板層側に白色着色剤を多く含有することになり、基板層側の蓄光が白色着色剤により多少損なわれたとしても、光源が点灯している通常時に、観察側では白色に見え、白色の基準を満たすことができる。
また、蓄光層は、光源側に発光体を多く含有することになり、発光体に光源の光が十分に吸収されるので、蓄光が損なわれることがない。このため、誘導灯は、停電時に、発光体が十分な発光輝度を有するので、歩行者等に所望のシンボルを視認性よく示すことができる。
【0014】
(2)蓄光層は、白色着色剤の配合比が異なる複数の層を積層した積層構造を有するので、白色着色剤の配合比が基板層側ほど大きい蓄光層を形成することができる。
【0015】
(3)第1蓄光層、第2蓄光層及び第3蓄光層は、それぞれ厚さが45〜50μmであるので、通常時に、光源の映り込みが観察されず、明るさの均一性が損なわれてしまうことがなく、かつ、停電時に、発光体の蓄光が損なわれることがなく、歩行者等に所望のシンボルを視認性よく示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、通常時に、白色の基準を満たし、かつ、停電時に、シンボルを歩行者等に視認性よく示すという目的を、基板層の光源側に配置され、残光性を有する発光体と白色着色剤とバインダーとを含み、白色着色剤の質量を発光体の質量で割ることにより得られる白色着色剤の配合比が、基板層側ほど大きい蓄光層を備えることによって実現する。
【実施例】
【0017】
以下、図面等を参照して、本発明の実施例をあげて、さらに詳しく説明する。
図1は、本発明の実施例による誘導灯100を示す図である。なお、図1(a)は、誘導灯100の概略断面図であり、図1(b)は、誘導灯100の正面図である。
誘導灯100は、例えば、地下鉄構内等に設置され、歩行者等に避難場所や避難経路等の誘導部11Aを視認させる避難誘導灯であり、開口部21が形成されたフレーム20と、フレーム20の内部に配置される蛍光管30と、開口部21に設けられたパネル10等とを備えている。
蛍光管30は、不図示の電源装置から電力が供給されることにより、パネル10に励起光である光L1を照射する。光L1は、蛍光物質を光らせる作用があるので、後述するパネル10に含まれる残光性を有する蛍りん光体15に蓄積され易いので好ましい(図2参照)。なお、蛍りん光体15が光を吸収、蓄積した後に、暗所で、光を徐々に放出、発光するときの光をりん光という。
【0018】
パネル10は、図1(a)に示すように、観察側(図中、上側)に設けられ、UVカット剤を含まない透明な基材11と、基材11側から蛍光管30側に積層された蓄光層12,13,14とを備えている。
【0019】
図2は、パネル10の積層構造を示す概略断面図である。
基材11は、観察側に誘導部11A(図1(b)参照)が形成されている。基材11は、蛍光管30の光L1や蛍りん光体15のりん光が観察側に透過し易いように、UVカット剤を含まないものであれば、透明に限らず半透明であってもよい。また、基材11としては、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)等、適宜の材質からなるものを用いてもよい。
【0020】
誘導部11Aは、災害時に備えて避難場所や避難経路を示す文字や記号等からなるシンボルを有しており、このシンボルは、所望の色(例えば、緑色)で、基材11上に直接印刷されている。なお、シンボル以外の部分(すなわち、地の部分)の色は、基材11が透明であるときには、パネル10を通過する観察光L2の色と同一となる。
【0021】
蓄光層12,13,14は、蛍りん光体15と、白色着色剤16と、バインダー17とを含み、白色着色剤16の重量を蛍りん光体15の重量で割ることにより得られる白色着色剤16の重量%(以下、白色着色剤16の配合比という)が基材11側ほど大きい。すなわち、この白色着色剤16の配合比は、蓄光層14、蓄光層13、蓄光層12の順に大きくなり、それぞれの白色着色剤16の配合比は異なる。
【0022】
蓄光層14は、白色着色剤16の配合比が1.33〜3.56%であることが好ましく、より好ましくは、2.22%である。
蓄光層13は、白色着色剤16の配合比が3.18〜5.91%であることが好ましく、より好ましくは、4.55%である。
蓄光層12は、白色着色剤16の配合比が5.58〜8.37%であることが好ましく、より好ましくは、6.98%である。
また、蓄光層12,13,14は、層厚が45〜50μmであることが好ましい。
【0023】
ここで、誘導灯100に要求される機能について説明する。
誘導灯100は、蛍光管30の点灯時(すなわち、通常時)に、蛍光管30の光L1がパネル10を透過することで得られる観察光L2により、歩行者等に誘導部11Aを視認させる。このとき、誘導灯100は、目視で確認して白色に見えることが要求されている。
【0024】
また、誘導灯100は、災害等による停電時に(図3参照)、蛍りん光体15のりん光による観察光Lにより、歩行者等に誘導部11Aを視認性よく示すことが要求されており、りん光の発光輝度はある程度高くなければならない。このため、誘導灯100は、通常時に、蛍光管30の光Lから十分な蓄光を行っている必要がある。
【0025】
ここで、誘導灯100の機能と、白色着色剤16の配合比及び層厚との関係について概略的に説明する。
蓄光層12,13,14は、白色着色剤16の配合比が大きく、また、層厚が厚くなるほど、蛍りん光体15の蓄光の程度が低下する傾向がある。
この理由としては、白色着色剤16が酸化チタン等を含んでおり、蛍光管30の光L1を遮光してしまうので、白色着色剤16の配合比が大きくなり過ぎると、蛍りん光体15に十分な光L1が吸収されず、蓄光が十分に行われないことが考えられる。この場合には、誘導灯100は、災害等の停電時に、誘導部11Aを歩行者等に視認性よく示すことができない。
【0026】
一方、蓄光層12,13,14は、白色着色剤16の配合比が小さくなり過ぎると、観察光L2の色が白色ではなく、黄色に見えてしまう。この場合には、誘導灯100は、通常時に、白色の基準を満たさない。
また、蓄光層12,13,14は、層厚が薄くなり過ぎると、蛍光管30が映り込んでしまう。この場合には、誘導灯100は、通常時に、誘導部11Aの明るさの均一性が損なわれてしまう。
したがって、誘導灯100では、蛍りん光体15の蓄光の程度、観察光L2の色、誘導部11Aの明るさの均一性や視認性を考慮して、蓄光層12,13,14の白色着色剤16の配合比、層厚を設定する必要がある。
【0027】
蛍りん光体15は、りん光を発生する物質であり、例えば、白色蓄光顔料等、適宜の物質であってもよい。なお、この蛍りん光体15は、粒径が15〜25μmである。白色蓄光顔料は、用途が制限されず、りん光の発光輝度が高いという観点から、放射性物質を含まず、アルミン酸塩化化合物を主成分に稀土類元素を付活剤とした蓄光性顔料が好ましい。
この白色蓄光顔料は、例えば、高輝度長残光性蛍光体として知られているN夜光ルミノーバ(ルミノーバ:根本特殊化学株式会社の登録商標)が好ましく、具体的には、根本特殊化学(株)製のWA300Mがより好ましい。
【0028】
白色着色剤16は、例えば、酸化チタンを主成分とする着色剤であり、遮光性を有するが、観察光L2を白色に見せることができる。なお、この白色着色剤16は、粒径が15〜25μmである。
この白色着色剤16は、通常のインキや塗料等に使用されるものをそのまま使用でき、有機又は無機の染料又は顔料であってもよいが、残光性を有していない蛍光染料が好ましく、具体的には、白元(株)製のKG、又はシンロイヒ(株)製の白色蛍光顔料がより好ましい。
【0029】
バインダー17は、蛍りん光体15と白色着色剤16と共に層を形成できるものであればよく、高い発光輝度を得るという観点から、透明性が高いものが好ましい。バインダー17の主成分となる樹脂としては、アクリル系、アルキッド系、エポキシ系、ウレタン系、アクリルシリコン系、シリコン系、フッ素系、メラミン系等の樹脂(例えば、ビニル、塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネイト、ポリオレフィン、アミノアルキッド、スチロール)があり、ウレタン系がより好ましい。
【0030】
また、パネル10は、高い発光輝度を得るために比較的厚い層を形成するという観点から、塗膜やコーティング膜等の形成に常用されているスクリーン印刷によって、基材11上に蓄光層12,13,14を形成することで製造される。
【0031】
スクリーン印刷に用いるスクリーンのメッシュは、蛍りん光体15の蓄光が損なわれず、かつ、誘導部11Aの明るさの均一性が損なわれない程度の層厚(例えば、45〜50μm)の蓄光層12,13,14を形成できるのであれば、特に限定されないが、70〜90メッシュのスクリーンを用いることが好ましく、具体的には、80メッシュのNBC株式会社製のEX31−100/80PWがより好ましい。
【0032】
つぎに、誘導灯100の通常時での発光過程について説明する。なお、誘導灯100は、通常時には、上述したように観察光L2が白色に見えること、蛍りん光体15に十分な蓄光が行われること、誘導部11Aの明るさの均一性が損なわれないこと、が要求される。
まず、蛍光管30は、通常時に、光L1を照射する。
蓄光層14は、最も蛍光管30側に配置されており、白色着色剤16の配合比が1.33〜3.56%であって、蓄光層12,13の白色着色剤16の配合比よりも小さい。このため、蓄光層14では、蛍りん光体15に光L1が十分に吸収され、十分な蓄光が行われる。
【0033】
また、蓄光層14を通過した光L1は、蓄光層13に到達し、その一部が蓄光層13の蛍りん光体15に蓄光される。ここで、蓄光層13は、白色着色剤16の配合比が3.18〜5.91%であり、蓄光層14の白色着色剤16の配合比よりも大きい。
このため、蓄光層13は、蓄光層14に比べて、蓄光の程度が低下してしまうが、その内部を通過する光L1を黄色から白色に近づけることができる。
【0034】
さらに、蓄光層13を通過した光L1は、蓄光層12に到達し、その一部が蓄光層12の蛍りん光体15に蓄光される。ここで、蓄光層12は、白色着色剤16の配合比が5.58〜8.37%であり、蓄光層13の白色着色剤16の配合比よりも大きい。
このため、蓄光層12は、蓄光層13に比べて、蓄光の程度が低下してしまうが、その内部を通過する光L1を白色にすることができる。
そして、蓄光層14,13,12を通過した光Lは、基材11を通過して、パネル10を透過する観察光L2となり、目視で確認して白色に見え、白色の基準を満たすことができる。
【0035】
このように、誘導灯100によれば、白色着色剤16の配合比の異なる蓄光層12,13,14が積層されており、基材11側ほど白色着色剤16を多く含有しているので、たとえ、白色着色剤16により蛍光管30の光Lの一部が遮光され、基材11側の蓄光層12の蓄光が多少損なわれたとしても、観察側では白色に見え、白色の基準を満たすことができる。
また、蓄光層12,13,14は、蛍光管30側ほど蛍りん光体15を多く含有しているので、基材11側の蓄光層12の蓄光が多少損なわれたとしても、蛍光管30側の蓄光層14の蛍りん光体15に蛍光管30の光L1が十分に蓄光される。このため、誘導灯100は、蓄光層12,13,14全体では、蛍りん光体15に十分な蓄光を行うことができる。
【0036】
さらに、蓄光層12,13,14は、その層厚が45〜50μmであって、3層全体の層厚が135μm以上であるので、通常時に、蛍光管30が映り込んでしまうことがなく、誘導部11Aの明るさの均一性が損なわれることがなく、さらに、3層全体の層厚が150μm以下であるので、蓄光を行うことができる。
【0037】
つぎに、災害等により停電が発生した場合について説明する。
図3は、停電が発生した場合における誘導灯100を示す図である。なお、誘導灯100は、停電時には、蛍りん光体15のりん光により、誘導部11Aを歩行者等に視認性よく示すことが要求される。
誘導灯100は、例えば、地下鉄構内等で停電が発生した場合には、蛍光管30が消灯してしまい、パネル10を透過する観察光L2が得られない状態となる。
しかし、誘導灯100は、通常時に、蛍光管30側の蓄光層14の蛍りん光体15に蛍光管30の光L1が十分に蓄光されているので、蛍光管側30側ほど発光輝度の高いりん光を得ることができる。
さらに、蓄光層14のりん光は、蓄光層12,13を通過することにより、蓄光層12,13の蛍りん光体15の蓄光及び発光を促進する。そして、蓄光層12,13,14の蛍りん光体15によるりん光は、それぞれ重なり合い、十分な輝度を有した状態となり、基材11を通過して観察光Lとなる。
【0038】
このように、誘導灯100は、地下鉄構内等に設置され、災害時に停電が発生した場合であっても、十分な輝度を有する観察光Lを得ることができるので、歩行者等に誘導部11Aを視認性よく示すことができ、災害時の被害が拡大することを防止できる。
【0039】
(実験例)
以下、具体的な例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
本件発明者は、誘導灯100が通常時に要求される機能(観察光L2が白色に見えること、蛍りん光体15に十分な蓄光が行われること、誘導部11Aの明るさの均一性が損なわれないこと)と、停電時に要求される機能(蛍りん光体15のりん光により、誘導部11Aを歩行者等に視認性よく示すこと)とを得るために、鋭意研究を行った。
(実験例1〜8)
表1は、基材11の蛍光管30側に1層の蓄光層を配置した場合での実験例1〜8を示し、蓄光の程度と、色とを評価したものである。なお、以下に示す各実験例では、白色蓄光顔料を根本特殊化学(株)製のWA300Mとし、白色着色剤を白元(株)製のKGとし、バインダーをウレタン系バインダーとし、スクリーンをNBC株式会社製のEXスクリーンとした。さらに、基材をタキロン(株)製のUVカット剤を含まないPETからなる厚さ2.0mmのものとした。
実験例1は、白色蓄光顔料230gとバインダー100gと白色着色剤69gとを十分に攪拌混合して、蓄光層形成用インキを形成した。この蓄光層形成用インキを100メッシュのスクリーンを用いてスクリーン印刷を行い、蓄光層を形成した。
実験例1の蓄光層は、白色着色剤の重量を白色蓄光顔料の質量で割ることにより得られる白色着色剤の重量%である白色着色剤の配合比は、30%であり、通常時での色は「白」であったが、蓄光が行われず蓄光の程度は「×」であった。このため、実験例1の誘導灯は、停電時に、歩行者等に誘導部11Aを視認させることができない。
実験例2〜4は、白色着色剤の配合比をそれぞれ20%、15%、10%として、実験例1と同様に、蓄光の程度、色を評価したが、結果は、実験例1と同様であった。
【0040】
実験例5,6は、白色着色剤の配合比をそれぞれ8%、6%とし、その結果は、色は「白」であり、蓄光が僅かに行われ蓄光の程度は「△」であった。このため、実験例5,6の誘導灯は、停電時のりん光の発光輝度が小さく、好ましくない。
実験例7,8は、白色着色剤の配合比をそれぞれ4%、2%とし、その結果は、蓄光は十分行われ蓄光の程度は「○」であったが、色は「黄」であった。このため、実験例7,8の誘導灯は、通常時に黄色に見えてしまい、白色の基準を満たさない。
【0041】
すなわち、実験例1〜8によれば、白色着色剤の配合比を小さくすることで蓄光の程度を改善することができるが、その一方で、色が黄色に見えてしまい、1層で蓄光の程度、色共に良好な評価を得ることが困難であるとわかった。
【0042】
【表1】

【0043】
(実験例9〜12)
つぎに、蓄光層を1層ではなく、3層の積層構造を有するものを形成し、蓄光の程度、色について評価した。
表2は、実験例1〜4の蓄光層を、それぞれ蓄光層12,13,14として積層した実験例9〜12を示したものである。
実験例9〜12は、実験例1〜4の評価結果と同様に、色は「白」であるが、蓄光は行われず蓄光の程度は「×」となり、誘導灯には使用できないことがわかった。
すなわち、実験例9〜12によれば、たとえ、蓄光層を積層構造にしても、白色着色剤の配合比が同一であれば、蓄光の程度、色共に良好な評価を得ることが困難であるとわかった。
【0044】
【表2】

【0045】
(実験例13〜19)
そこで、蓄光層12,13,14の白色着色剤16の配合比を、基材11側ほど大きく、蛍光管30側ほど小さくして、蓄光の程度、色を評価した。
表3は、蓄光層14、蓄光層13、蓄光層12の順で、白色着色剤16の配合比が徐々に大きくなるように調整された実験例13〜19を示したものである。
実験例13は、蓄光層14を2.22%、蓄光層13を4.55%、蓄光層12を6.98%としたものであり、その結果は、蓄光が十分に行われ蓄光の程度は「◎」であり、色も「白」であった。
実験例14〜17は、表3に示すように、白色着色剤16の配合比が、蓄光層14、蓄光層13、蓄光層12の順で大きくなるように調整したものであり、蓄光層14を1.33〜3.56%、蓄光層13を3.18〜5.91%、蓄光層12を5.58〜8.37%とした。
実験例14〜17は、蓄光の程度が「○」である以外は、実験例13と同様の結果を得た。
【0046】
実験例18は、蓄光層14を4.44%、蓄光層13を6.82%、蓄光層12を9.3%としたものであり、その結果は、色は「白」であったが、蓄光が行われず蓄光の程度は「×」であった。
実験例18で蓄光が行われなかった理由としては、蓄光層12,13,14の白色着色剤16の配合比が大き過ぎたことが考えられ、たとえ、蓄光層12,13,14を積層した場合であっても、白色着色剤16の配合比に上限があることがわかった。
実験例19は、蓄光層14を0.8%、蓄光層13を2.27%、蓄光層12を4.65%としたものであり、その結果は、蓄光が行われ蓄光の程度は「○」であったが、色は「黄」であった。
実験例18で色が黄色に見えた理由としては、蓄光層12,13,14の白色着色剤16の配合比が小さ過ぎたことが考えられ、白色着色剤16の配合比に下限があることがわかった。
【0047】
すなわち、実験例13〜19では、白色着色剤16の配合比が最も好ましいのは実験例13であり、実験例18,19の白色着色剤16の配合比は所定の範囲外にあり、好ましくないことがわかった。
【0048】
しかし、この実験例13〜19の誘導灯を、通常時に用いて、目視により確認したところ、蛍光管30が映り込んでしまい、誘導部11Aの明るさの均一性が損なわれ、誘導灯として使用不可であることがわかった。この原因は、蓄光層12,13,14の層厚にあると考えられた。なお、100メッシュのスクリーンを用いてスクリーン印刷を行った場合には、層厚は約40μmであった。
【0049】
【表3】

【0050】
(実験例20〜26)
このため、蓄光層12,13,14の層厚を調整して、均一性を向上させることにした。
表4は、実験例13〜19に対して、スクリーン印刷に用いたスクリーンのメッシュを100から60に変更して、層厚を厚くした実験例20〜26を示したものである。なお、60メッシュのスクリーンを用いてスクリーン印刷を行った場合には、層厚は約60μmであった。
実験例20〜24は、実験例13〜17と比べると、層厚が厚くなったことにより、蛍光管30が映り込まず、均一性は「○」になったが、その一方で、蓄光が行われず蓄光の程度は「×」となった。
実験例25は、実験例18と比べると、均一性が「○」になったことが異なる。
実験例26は、実験例19と比べると、均一性が「○」になり、その一方で、蓄光が「×」となった。
すなわち、実験例20〜26では、層厚が均一性だけではなく、蓄光の程度にも影響することがわかった。このため、蓄光層12,13,14の層厚は、蓄光が行われるために薄くする必要があり、その一方で、均一性が損なわれないように厚くする必要がある。
【0051】
【表4】

【0052】
(実験例27〜33)
つぎに、蓄光層12,13,14の層厚を、均一性だけでなく、蓄光の程度も考慮して調整した。
表5は、実験例20〜26に対して、スクリーン印刷に用いたスクリーンのメッシュを60から70に変更して、層厚を薄くした実験例27〜33を示したものである。なお、70メッシュのスクリーンを用いてスクリーン印刷を行った場合には、層厚は約50μmであった。
実験例27は、実験例20と比べると、層厚が薄くなったことにより、蓄光が行われ「○」となった。
実験例28〜31は、実験例21〜24と比べると、蓄光が多少行われ蓄光の程度が「△」となった。なお、蓄光の程度が「△」とは、蓄光は十分ではないが、りん光の発光輝度は、誘導部11Aを歩行者等に視認させる程度はあることを示している。
【0053】
実験例32は、上述したように、白色着色剤16の配合比が大き過ぎるので、層厚を薄くしても、実験例25と同様の結果しか得られなかった。
実験例33は、白色着色剤16の配合比が小さ過ぎるので、層厚を薄くしても、実験例26と比べると、蓄光が多少行われ蓄光の程度が「△」となっただけであり、色は「黄」であった。
すなわち、実験例27〜33では、実験例27〜31の誘導灯は、蓄光の程度は「△」以上であり、色は「白」、均一性は「○」であるので、通常時、停電時共に、要求されている機能を有していることがわかった。
しかし、実験例28〜31では、蓄光の程度が「△」であるので、層厚をさらに薄くする必要があると考えられる。
【0054】
【表5】

【0055】
(実験例34〜40)
表6は、実験例27〜33に対して、スクリーン印刷に用いたスクリーンのメッシュを70から80に変更して、層厚をさらに薄くした実験例34〜40を示したものである。なお、80メッシュのスクリーンを用いてスクリーン印刷を行った場合には、層厚は約48μmであった。
実験例34は、実験例20と比べると、層厚が薄くなったことにより、蓄光が十分に行われ蓄光の程度が「◎」となった。
【0056】
実験例35〜38は、実験例28〜31と比べると、蓄光が行われ蓄光の程度が「○」となった。
実験例39は、白色着色剤16の配合比が大き過ぎるので、層厚を薄くしても、実験例32と同様の結果しか得られなかった。
実験例40は、白色着色剤16の配合比が小さ過ぎるので、層厚を薄くしても、実験例33と比べると、蓄光が行われ蓄光の程度が「○」となっただけであり、色は「黄」であった。
すなわち、実験例34〜40では、実験例34〜38の誘導灯は、蓄光の程度は「○」以上であり、色は「白」、均一性は「○」であるので、通常時、停電時共に、要求されている機能を有していることがわかった。特に、実験例34は、蓄光の程度は「◎」であり、誘導灯として最適であった。
【0057】
【表6】

【0058】
(実験例41〜47)
そして、層厚をさらに薄くして、より好ましい結果が得られるかを確認した。但し、スクリーンのメッシュが100である場合には、実験例13〜19により、均一性が損なわれており、層厚が薄くなり過ぎて好ましくないことがわかっている。
表7は、実験例33〜40に対して、スクリーン印刷に用いたスクリーンのメッシュを80から90に変更して、層厚をさらに薄くした実験例41〜47を示したものである。なお、90メッシュのスクリーンを用いてスクリーン印刷を行った場合には、層厚は約45μmであった。
実験例41〜47は、実験例34〜40と比べると、均一性が「△」となった。なお、均一性が「△」とは、通常時に、誘導部の明るさの均一性が多少損なわれているが、蛍光管30は映り込んでいないことを示している。
すなわち、実験例41〜47では、実験例41〜45の誘導灯は、蓄光は「○」以上であり、色は「白」、均一性は「△」であるので、通常時、停電時共に、要求されている機能を有していることがわかった。
【0059】
【表7】

【0060】
図4は、各実験例による誘導灯の適性を比較したグラフである。なお、横軸を蓄光層12,13,14とし、縦軸をそれぞれの白色着色剤16の配合比とした。
このグラフには、蓄光層12,13,14の白色着色剤16の配合比を変化させなかった実験例9〜12と、この白色着色剤16の配合比を所定範囲にすると共に、白色着色剤16の配合比が基材11側ほど大きくなるように蓄光層12,13,14を積層した実験例27〜33,34〜40,41〜47とを示した。なお、グラフに示す「◎」を最適、「○」を良好、「△」を実用範囲内、「×」を使用不可とした。
実施例9〜12,32,33,39,40,46,47は、誘導灯として使用不可であり、「×」であった。
実験例28〜31,42〜45は、誘導灯として実用範囲内であり、「△」であった。
実験例27,35〜38,41は、誘導灯として良好であり、「○」であった。
実験例34は、誘導灯として最適であり、「◎」であった。
【0061】
したがって、誘導灯100は、白色着色剤16の配合比が基材11側ほど大きく、白色着色剤16の配合比が1.33〜3.56%である蓄光層14と、白色着色剤16の配合比が3.18〜5.91%である蓄光層13と、白色着色剤16の配合比が5.58〜8.37%である蓄光層12とを、蛍光管30側から基材11側に積層し、さらに、蓄光層12,13,14の層厚が45〜50μmであることが好ましい。
【0062】
(変形例)
以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の均等の範囲内である。
(1)上述した各実験例では、白色着色剤を白元(株)製のKGとしたが、これに限られず、紫外線を照射することで白色を発光させることができるオーロレインボー(根本特殊化学株式会社の登録商標)を用いてもよく、蓄光層12,13,14の白色着色剤16の配合比及び層厚を上述した好適な範囲にすることで、KGを用いたときと近い評価を得ることができる。
(2)誘導灯100の光源としては、蛍光管30を用いたが、蛍りん光体15に励起光を照射するものであれば、LED等適宜の発光手段を用いてもよい。特に、LEDは、通常の蛍光灯に比べて、応答時間が短く、消費電力が小さく、寿命が長いので、誘導灯100のメンテナンスを行う頻度を少なくすることができ、さらに、指向性も広いので、フレーム20に配置される蛍光管30の数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例による誘導灯100を示す図である。
【図2】パネル10の積層構造を示す概略断面図である。
【図3】停電が発生した場合における誘導灯100を示す図である。
【図4】各実験例による誘導灯の適性を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0064】
10 パネル
11 基材
11A 誘導部
12,13,14 蓄光層
15 蛍りん光体
16 白色着色剤
17 バインダー
20 フレーム
21 開口部
30 蛍光管
100 誘導灯
L1 励起光
L2,L 観察光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
開口部を有し、その内部に前記光源が配置される基台と、
前記開口部に設けられた透明又は半透明の基板層と、
前記基板層の前記光源側に配置され、残光性を有する発光体と、白色着色剤と、バインダーとを含み、前記白色着色剤の質量を前記発光体の質量で割ることにより得られる前記白色着色剤の配合比が、前記基板層側ほど大きい蓄光層と、
を備えた誘導灯。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導灯において、
前記蓄光層は、前記白色着色剤の配合比が異なる複数の層を積層した積層構造を有すること、
を特徴とする誘導灯。
【請求項3】
請求項2に記載の誘導灯において、
前記蓄光層は、
前記光源側に配置され、前記配合比が1.33〜3.56%である第1蓄光層と、
前記第1蓄光層の前記基板層側に配置され、前記配合比が3.18〜5.91%である第2蓄光層と、
前記第2蓄光層の前記基板層側に配置され、前記配合比が5.58〜8.37%である第3蓄光層と、
を備えたことを特徴とする誘導灯。
【請求項4】
請求項3に記載の誘導灯において、
前記第1蓄光層、前記第2蓄光層及び前記第3蓄光層は、それぞれ厚さが45〜50μmであること、
を特徴とする誘導灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−155992(P2006−155992A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341862(P2004−341862)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(504426104)有限会社丸亀紙工 (3)
【出願人】(595042807)
【Fターム(参考)】