説明

誘電体導波管スロットアンテナ

【課題】簡単な構造で円偏波放射が可能な誘電体導波管スロットアンテナを提供する。
【解決手段】表面の導電膜の一部に誘電体が露出するスロットを具えた誘電体導波管と、前記スロットに対向する位置に前記スロットと略同形状のビアホールが形成されたプリント基板と、前記ビアホールに対向する位置に前記ビアホールと略同形状の第1の貫通孔と、前記第1の貫通孔の近傍に一対の第2の貫通孔とを具えた導体板とからなる誘電体導波管スロットアンテナであって、前記誘電体導波管と前記プリント基板と前記導体板とが、前記スロット、前記ビアホールおよび前記第1の貫通孔の位置を合わせて接合され、前記プリント基板は、前記第2の貫通孔と対峙する位置に導体層を有し、前記第2の貫通孔は、前記第1の貫通孔の中心点に対して点対称かつ、前記第1の貫通孔の長手方向に対して回転して配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯やミリ波帯において誘電体導波管によって給電されるスロットアンテナに係るもので、簡便な構造で円偏波を放射できる誘電体導波管スロットアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
伝送線路の一種の誘電体導波管を利用したアンテナとして、誘電体導波管スロットアンテナが提案されている。誘電体導波管スロットアンテナは、マイクロ波帯やミリ波帯に適している。図9に従来の誘電体導波管スロットアンテナの分解斜視図を示す。
図9に示すように、従来の誘電体導波管スロットアンテナは、誘電体導波管100の底面に誘電体が露出するスロット110を具え、そのスロット110に対向する位置にスロット110と略同じ形状のビアホール210が形成されたプリント基板200に搭載され、そのビアホール210に対向する位置に第1の貫通孔310を具えた導体板300が接合されている。
【0003】
図9に示した従来の誘電体導波管スロットアンテナは、構造が簡単で、単一のスロットでも広帯域特性が得られるので、有用性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−221714公報
【特許文献2】特開平3−173204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、受信感度は直線偏波よりも円偏波の方が偏波に依存しにくいので、移動体通信端末のように常に受信する位置が変わるような用途では、直線偏波より円偏波を利用することが望まれる。しかし、図9に示した誘電体導波管スロットアンテナは、直線偏波しか放射できないという制約があった。
スロットアンテナを円偏波化する方法として、偏波の方向と位相の異なる2つ以上のアンテナを組み合わせたり、導波管に複数のスロットを設けたりする方法が知られている。
【0006】
上記の方法は、分岐回路等の給電回路の形成に伴うアンテナシステムの大型化や、構造の複雑化に伴う量産コストの上昇や、アンテナのアレー化による導波管の大型化などの問題を招くため、移動体通信端末のように、軽量・薄型化や低価格化が要求される用途への適用が難しく、これが導波管型円偏波アンテナの普及の妨げになっていた。
本発明は、簡単な構造で円偏波放射が可能な誘電体導波管スロットアンテナを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決するために、本発明の誘電体導波管スロットアンテナは、
表面の導電膜の一部に誘電体が露出したスロットを具えた誘電体導波管と、
前記スロットに対向する位置に前記スロットと略同形状のビアホールが形成されたプリント基板と、
前記ビアホールに対向する位置に第1の貫通孔と、
前記第1の貫通孔の近傍に一対の第2の貫通孔とを具えた導体板とからなる誘電体導波管スロットアンテナであって、
前記誘電体導波管と前記プリント基板と前記導体板とが、
前記スロット、前記ビアホールおよび前記第1の貫通孔の位置を合わせて接合され、
前記プリント基板は、
前記第2の貫通孔と対峙する位置に導体層を有し、
前記第2の貫通孔は、
前記第1の貫通孔の中心点に対して点対称かつ、
前記第1の貫通孔の長手方向に対して回転して配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の誘電体導波管スロットアンテナは、誘電体導波管とプリント基板と導体板とを積み重ねて、導体板に複数の貫通孔を形成するだけで、円偏波を放射することができるので、移動体通信端末のように軽量・薄型化が要求される用途に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の誘電体導波管スロットアンテナの構造を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の誘電体導波管スロットアンテナの動作を説明する図である。
【図3】第1の貫通孔と第2の貫通孔を説明する平面図である。
【図4】本発明の実施例において第2の貫通孔の回転角度θ2による正面方向軸比軸比を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例において第1の貫通孔と第2の貫通孔の距離Dによる正面方向軸比を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例において第2の貫通孔の長さL2による正面方向軸比を示すグラフである。
【図7】本発明の誘電体導波管スロットアンテナの放射特性を示すグラフである。
【図8】本発明の別の実施例を示す図である。
【図9】従来の誘電体導波管スロットアンテナの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の誘電体導波管スロットアンテナについての一実施例を用いて説明する。
図1は本発明の誘電体導波管スロットアンテナの分解斜視図である。図1に示すように、10は誘電体導波管、20はプリント基板、30は導体板の構成である。
誘電体の表面に導電膜を形成し、その導電膜の一部に誘電体が露出したスロット11を具えた誘電体導波管10が、前記スロット11に対向する位置に前記スロット11と略同形状のビアホール21が形成されたプリント基板20に搭載され、前記ビアホール21に対向する位置に前記ビアホール21と略同形状の第1の貫通孔31と前記第1の貫通孔31の近傍に一対の第2の貫通孔32、32とを具えた導体板30と接合されている。
【0011】
スロット11の長手方向は、誘電体導波管の長手方向(電波の伝搬方向)に対して垂直方向に設けてある。
ビアホール21と第1の貫通孔31は、スロット11と略同形状であるが、自由空間への放射効率を高めるためには、スロット11の長手方向の長さよりビアホール21の長手方向の長さが長く、ビアホール21の長手方向の長さより第1の貫通孔31の長手方向の長さが長い方がよい。
【0012】
一対の第2の貫通孔32は直線状の長穴であり、前記第1の貫通孔31の中心点に点対称に配置する。前記第2の貫通孔32の長手方向は、前記第1の貫通孔31の長手方向に対して略45°傾いていて、第1の貫通孔31の中心と第2の貫通孔32の中心との距離は使用する周波数の半波長より短い。
【0013】
スロット11とビアホール21と第1の貫通孔31との中心位置と長手方向とが同じになるように前記誘電体導波管10と前記プリント基板20と前記導体板30とを積み重ねて接合されている。
プリント基板20は、第2の貫通孔と対峙する位置に導体層22を備えている。
【0014】
図2は、本発明の誘電体導波管スロットアンテナの動作原理を説明する図である。図2(a)は平面図であり、図2(b)は模式断面図である。
【0015】
スロット11の近傍に貫通孔31、32、32がある場合、図2(b)に示すように、第1の貫通孔31から直接放射される直接波5aと、直接波5aの一部がプリント基板20の表面に設けられた導体層22によって第2の貫通孔32、32から再放射される間接波5bを合成して指向性を制御していると考えられる。
【0016】
通常は、直接波5aと間接波5bの偏波の向きを揃えて、直接波5aと間接波5bが干渉しやすいように、第2の貫通孔32とスロット11の長手方向を平行に配置する。しかし、本発明の誘電体導波管スロットアンテナでは、図2(a)に示すように、第2の貫通孔32の長手方向を第1の貫通孔31の長手方向に対して回転角θ2回転して配置している。
【0017】
第2の貫通孔32の長手方向と第1の貫通孔31の長手方向が平行でない場合、第2の貫通孔32から再放射される間接波5bは、直接波5aの偏波に対して平行な成分と、直接波5aの偏波に対して垂直な成分に分解して考える。合成波は、
(a)「間接波に含まれる直接波の偏波に平行な成分」と「直接波」との合成波
(b)「間接波に含まれる直接波の偏波に垂直な成分」
の2つから構成される。(a)と(b)とは直交しているため、(a)と(b)とが同じ振幅かつ位相差が90°となるように設計することで、合成波を最適な円偏波とすることができる。間接波5bの振幅および位相は、第2の貫通孔32の形状や位置などで調節する。
第1の貫通孔31の長手方向と第2の貫通孔32の長手方向とが直交する場合(θ2=−90°または90°)と平行な場合(θ2=0°)とは、間接波に含まれる直接波の偏波に平行な成分または間接波に含まれる直接波の偏波に垂直な成分がないので、合成波は円偏波にはならない。θ2=45°または−45°とするのが好適である。
【0018】
円偏波の回転方向は、第2の貫通孔32の回転角θ2の方向によって決まる。放射方向から導体板30を見たときに時計回りを正、−90°<θ2<90°とした場合、θ2>0の場合は右旋円偏波となり、θ2<0の場合は左旋円偏波となる。
【0019】
図3は、導体板30に配置された第1の貫通孔31と第2の貫通孔32、32との位置を説明する平面図である。
図3に示すように、第1の貫通孔31の中心点に対して一対の第2の貫通孔32、32が点対称に配置されている。第1の貫通孔31は長さL1×幅W1の直線状の長穴であり、第2の貫通孔32、32は、長さL2×幅W2の直線状の長穴である。そして、第2の貫通孔32の中心点は、第1の貫通孔31の長手方向から回転角θ1回転していて、第1の貫通孔31の中心点と第2の貫通孔32、32の中心点との距離D離れている。さらに、第2の貫通孔32は、第2の貫通孔32の中心点を中心に第1の貫通孔31の長手方向から回転角θ2回転している。
【0020】
(実験1)
誘電体導波管10は、幅2.5mm×高さ1.2mm×長さ10mm、
誘電体材料の比誘電率εr=2.31、
誘電体導波管の端から1.8mmの位置にスロット11が設けられ、
スロット11は、長さ2.1mm×幅1.0mm、
導体板30は、縦20mm×横20mm×厚さ1.0mm、
プリント基板20は、縦20mm×横20mm×厚さ0.2mm、
第1の貫通孔31は、L1×W1=2.7mm×1.0mm、
第2の貫通孔32は、L2×W2=3.8mm×1mm、
第2の貫通孔32の第1の貫通孔31に対する回転角θ1=45°、
第2の貫通孔32と第1の貫通孔31の距離D=1.95mm、
とした場合、図4は第2の貫通孔32の回転角θ2を変化させた時の、正面方向軸比を電磁界シミュレータで計算した結果である。図4において、横軸は回転角θ2、縦軸は正面方向軸比[dB]を表す。使用した周波数は61GHzである。
図4より、θ2=45°付近の時に、軸比最適値な右旋円偏波が得られた。
【0021】
(実験2)
図5は、実験1において、第2の貫通孔32の回転角θ2=45°とし、第2の貫通孔32の第1の貫通孔31に対する距離Dを変化させた時の、正面方向軸比を電磁界シミュレータで計算した結果である。その他の条件は、実験1の場合と同様である。図において、横軸は距離D/波長λ、縦軸は正面方向軸比[dB]を表す。
図5より、第2の貫通孔32の第1の貫通孔31に対する距離Dが使用する周波数の波長λの0.5倍より大きくなると軸比特性が急激に劣化することがわかる。
【0022】
(実験3)
図6は、実験1において、第2の貫通孔32の回転角θ2=45°とし、第2の貫通孔32の長さL2を変化させた時の、正面方向軸比を電磁界シミュレータで計算した結果である。その他の条件は、実験1の場合と同様である。図において、横軸は、第2の貫通孔32の長手方向の長さL2/第1の貫通孔31の長手方向の長さL1、縦軸は正面方向軸比[dB]を表す。
図6より第2の貫通孔の長手方向の長さL2は、第1の貫通孔31の長手方向の長さL1の略1.4倍の場合に、最適な軸比が得られることがわかる。
【0023】
(実験4)
図7は、実験1において、第2の貫通孔32の回転角θ2=45°とし、第2の貫通孔32の回転角θ2を変化させた時の、放射特性を電磁界シミュレータで計算した結果である。その他の条件は、実験1の場合と同様である。
図7(a)は、XZ平面における右旋円偏波(RHCP)と左旋円偏波(LHCP)を示し、図7(b)は、YZ平面における右旋円偏波(RHCP)と左旋円偏波(LHCP)を示す。ただし、導体板30の表面をXY平面とし、第1の貫通孔31の長手方向をX軸方向、電波の放射方向をZ軸方向とする。
図7より、極めて良好な円偏波が得られることがわかる。
【0024】
実験1〜4の結果より、第2の貫通孔32を、
第1の貫通孔31の中心点に対して点対称かつ、
第1の貫通孔31の長手方向に対して略45°回転し、
第1の貫通孔31の中心点から第2の貫通孔32の距離は、使用する周波数の半波長より短い距離に配置し、
第1の貫通孔31の長手方向の長さは、使用する周波数の波長の略1.4倍にすることにより、最適な円偏波を得られる誘電体導波管スロットアンテナとすることができる。
【0025】
なお、実験1〜4において第2の貫通孔32は、θ2=45°に配置したので右旋円偏波が得られた。第2の貫通孔32をθ2=−45°に配置すれば左旋円偏波が得られる。
【0026】
第2の貫通孔の形状は直線状の長穴に限定されるものではなく、円弧状や折れ曲がった形状の長穴でも良い。図8は本発明の他の実施例である。
図8(a)に示すように、円弧状の第2の貫通孔32aや、図8(b)に示すように、くの字の第2の貫通孔32bとすれば、導体板上の第2の貫通孔の占有する面積を減らすことが可能となる。また、図8(c)に示すように、誘電体導波管10cに複数のスロット11cを設け、導体板30cに第1の貫通孔31cと第2の貫通孔32cをアレー状に配置にすれば、誘電体導波管スロットアンテナの利得や指向性を高めることができる。
【0027】
導体板はプリント基板や金属メッキした樹脂等に置き換えても良い。また、第2の貫通孔は導体板を貫通していない溝でもよい。間接波は、溝の底部で反射するので、合成波を円偏波とすることができる。
【0028】
また、本発明の誘電体導波管スロットアンテナは、従来の誘電体導波管スロットアンテナの導体板の構造を変更するだけなので、従来の誘電体導波管を使用できる。したがって、直線偏波用の誘電体導波管とは別に、円偏波用の誘電体導波管を設計する必要はなく、生産コストを抑えた円偏波用の誘電体導波管スロットアンテナを提供できる。
【符号の説明】
【0029】
10、100 誘電体導波管
11、11c、110 スロット
20、200 プリント基板
21、210 ビアホール
22 導体層
30、30a〜30c、300 導体板
31、310 第1の貫通孔
32、32a〜32c 第2の貫通孔
5a 直接波
5b 反射波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の導電膜の一部に誘電体が露出したスロットを具えた誘電体導波管と、
前記スロットに対向する位置に前記スロットと略同形状のビアホールが形成されたプリント基板と、前記ビアホールに対向する位置に前記ビアホールと略同形状の第1の貫通孔と、前記第1の貫通孔の近傍に一対の第2の貫通孔とを具えた導体板とからなる誘電体導波管スロットアンテナであって、
前記誘電体導波管と前記プリント基板と前記導体板とが、前記スロット、前記ビアホールおよび前記第1の貫通孔の位置を合わせて接合され、前記プリント基板は、
前記第2の貫通孔と対峙する位置に導体層を有し、前記第2の貫通孔は、前記第1の貫通孔の中心点に対して点対称かつ、前記第1の貫通孔の長手方向に対して回転して配置されたことを特徴とする誘電体導波管スロットアンテナ
【請求項2】
前記第2の貫通孔の回転角は、前記第1の貫通孔の長手方向に対して略45°であることを特徴とする請求項1記載の誘電体導波管スロットアンテナ
【請求項3】
前記第2の貫通孔の長手方向の長さは、前記第1の貫通孔の長手方向の長さの略1.4倍であることを特徴とする請求項1乃至2記載の誘電体導波管スロットアンテナ
【請求項4】
前記第2の貫通孔は、前記第1の貫通孔の中心点から使用する周波数の半波長より短い距離に配置したことを特徴とする請求項1乃至3記載の誘電体導波管スロットアンテナ
【請求項5】
前記ビアホールの長手方向の長さは前記スロットの長手方向の長さより長く、前記前記第1の貫通孔の長手方向の長さは前記ビアホールの長手方向の長さより長いことを特徴とする請求項1記載の誘電体導波管スロットアンテナ
【請求項6】
表面の導電膜の一部に誘電体が露出したスロットを具えた誘電体導波管と、前記スロットに対向する位置に前記スロットと略同形状のビアホールが形成されたプリント基板と、前記ビアホールに対向する位置に前記ビアホールと略同形状の貫通孔と、前記貫通孔の近傍に一対の溝とを具えた導体板とからなる誘電体導波管スロットアンテナであって、
前記誘電体導波管と前記プリント基板と前記導体板とが、前記スロット、前記ビアホールおよび前記貫通孔の位置を合わせて接合され、前記溝は、前記貫通孔の中心点に対して点対称かつ、前記貫通孔の長手方向に対して回転して配置されたことを特徴とする誘電体導波管スロットアンテナ
【請求項7】
前記溝の回転角は、前記貫通孔の長手方向に対して略45°であることを特徴とする請求項6記載の誘電体導波管スロットアンテナ
【請求項8】
前記溝の長手方向の長さは、前記貫通孔の長手方向の長さの略1.4倍であることを特徴とする請求項6乃至7記載の誘電体導波管スロットアンテナ
【請求項9】
前記溝は、前記貫通孔の中心点から使用する周波数の半波長より短い距離に配置したことを特徴とする請求項6乃至8記載の誘電体導波管スロットアンテナ
【請求項10】
前記ビアホールの長手方向の長さは前記スロットの長手方向の長さより長く、前記貫通孔の長手方向の長さは前記ビアホールの長手方向の長さより長いことを特徴とする請求項6記載の誘電体導波管スロットアンテナ


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate