説明

誘電性樹脂組成物およびそれから得られる成形品

【課題】本発明は、成形品設計自由度および生産性を向上させ、加工時の歪みによる成形品の不良の抑制および誘電率、機械強度および耐熱性に優れた誘電性樹脂組成物におよびそれから得られる成形品の提供。
【解決手段】(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂10〜90容量%および(b)誘電セラミックス90〜10容量%からなり、かつ(b)誘電セラミックスが、平均粒径0.2〜5.0μmで、BET比表面積を平均粒径で除した値が1〜50の範囲であることを特徴とする誘電性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品設計自由度および生産性を向上させ、加工時の歪みによる成形品の不良の抑制および誘電率、機械強度および耐熱性に優れた誘電性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファインセラミックス製品は、新素材の1つとして金属材料や高分子材料にはない独特の優れた特性または機能を持つことから、あらゆる産業分野で利用され注目されている。中でも電気・電子関連産業分野において、誘電性磁器は大きく成長してきている。
【0003】
また、衛星通信機器、携帯電話・PHS等の移動通信機器、無線LANシステム、あるいは高速道路のETCシステムやGPSなどの車載用通信機器など無線による情報通信網の目覚ましい普及、発達に伴い、通信信号の高周波化および通信機の一層の小型精密化かつ安価であることが要求されている。従来は誘電セラミックスを焼結、部品一つ一つを切削加工するため、小型精密化が困難であり、生産効率が悪いことから部品単価が高くなる。そこで、さらなる小型精密化のための製品設計自由度の向上、生産性向上による低コスト化を実現するために、樹脂化が熱望されている。例えば、合成樹脂と、誘電セラミックスのチタン酸バリウムを主成分とする材料と耐熱性オイルを混合した誘電性樹脂組成物(特許文献1)、ポリ(フェニレンスルフィド)樹脂に高誘電率および低損失正接のセラミックを添加したポリマー性組成物(特許文献2)、熱可塑性樹脂にチタン酸バリウムを主成分とする材料と特定のエステル化合物、カルボン酸塩、アミド化合物などを混合した誘電性樹脂組成物(特許文献3)、液晶性樹脂、ポリアリーレンスルフィドなどの熱可塑性樹脂にセラミックス粉を混合したアンテナ部品用錠剤(特許文献4)、芳香族液晶ポリエステルにチタン酸ストロンチウム粉末を混合した誘電樹脂組成物と誘電樹脂フィルム(特許文献5)、合成樹脂マトリックス中に、メジアン径10μm以上の粒状無機充填材を混合した誘電性樹脂組成物(特許文献6)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献3に開示されている技術においては、熱可塑性樹脂にチタン酸バリウムを配合し、さらに誘電性と溶融成形性を付与やさせるために耐熱性オイルなどの添加剤を配合しているが、単なる添加剤の配合のみでは、フィラーの充填密度が上げられないため、誘電率をはじめとする特性が十分とはいえず、特許文献2記載の方法において、樹脂に誘電セラミックスを配合するのみでは流動性が低く、展開が制限される。また、特許文献4記載の方法は、確かに、錠剤にすることで高充填組成物が得られるが、フィラーの充填密度が上げられないため、本来得られるであろう特性が十分に発揮されていない。また、特許文献5記載の方法は、フィラー粒径を制御することで高充填による特性向上は望まれるものの、用いる粒子径が小さいことから、溶融成形時の流動性が低く、それにより成形品の歪みが発生し、利用が制限される。また、特許文献6記載の方法は、用いるフィラーの粒径が大きいことから、流動性は高いものの、充填密度が低く、成形品中に空隙が発生するため、誘電率等の特性が十分満足するものではなかった。
【特許文献1】特開平5−98069号公報(第2頁、実施例)
【特許文献2】特表2000−501549号公報(第2〜7頁、実施例)
【特許文献3】特開2003−73555号公報(第2頁、実施例)
【特許文献4】特開2004−161953号公報(第2頁、実施例)
【特許文献5】特開2005−78806号公報(第2頁、実施例)
【特許文献6】特開2005−146009号公報(第2頁、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は上述の問題を鑑み、解消すること、即ち、溶融成形が可能で、成形時の歪みを抑制することにより、加工時の低不良数に優れ、かつ、用いる誘電セラミックスの粒子の凝集や空隙低減による粒子の充填性が優れることにより、得られた成形品は、誘電率、機械強度および耐熱性が高位で優れた誘電性樹脂組成物およびそれから得られる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、(1)(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂10〜90容量%および(b)誘電セラミックス90〜10容量%からなり、かつ(b)誘電セラミックスが、平均粒径0.2〜5.0μmで、BET比表面積を平均粒径で除した値が1〜50の範囲であることを特徴とする誘電性樹脂組成物、
(2)(b)誘電セラミックスがチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ネオジムバリウム、及びチタン酸ストロンチウムバリウム/ジルコン酸マグネシウムから選択される少なくとも1種または2種以上である上記(1)記載の誘電性樹脂組成物、
(3)さらに(c)脂肪族金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物、およびリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種以上を、(a)熱可塑性樹脂と(b)誘電セラミックスの合計量100重量部に対し0.5〜10重量部含有してなる上記(1)または(2)記載の誘電性樹脂組成物、
(4)上記(1)〜(3)のいずれか記載の誘電性樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする成形品、および
(5)成形品が自動車部品または電気電子部品である上記(4)記載の成形品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の誘電樹脂組成物およびそれから得られる成形品は、誘電セラミックスの平均粒径、BET比表面積を制御することによって、耐熱性、機械特性、誘電率が高位で優れ、かつ、溶融加工時の成形品の歪みによる不良の抑制が可能となるため、小型精密化などの製品設計自由度が必要な自動車部品、電気電子部品関連用途に適している。また、セラミックス製のものと比較し、射出成形可能であるため生産性が高く、形状選択性に優れるため、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0010】
本発明で用いられる(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂について説明する。
【0011】
まず、液晶性樹脂とは、異方性溶融相を形成し得る樹脂であり、エステル結合を有するものが好ましい。例えば芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶ポリエステル、あるいは、上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルアミドなどが挙げられ、具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルなど、また液晶性ポリエステルアミドとしては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位以外にさらにp−アミノフェノールから生成したp−イミノフェノキシ単位を含有した異方性溶融相を形成するポリエステルアミドである。上記した液晶性樹脂のうち、液晶性ポリエステルが好ましく、なかでもp−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位の液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位の液晶性ポリエステルを特に好ましく用いることができる。
【0012】
本発明に使用する液晶性ポリエステルは、フィラーを高充填した場合の流動性低下を抑制するため、溶融粘度は0.5〜80Pa・sが好ましく、特に1〜50Pa・sがより好ましい。また、流動性がより優れた組成物を得ようとする場合には、溶融粘度を40Pa・s以下とすることが好ましい。
【0013】
なお、この溶融粘度は融点(Tm)+10℃の条件で、ずり速度1,000(1/秒)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0014】
ここで、融点(Tm)とは示差熱量測定において、重合を完了したポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )を指す。
【0015】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略す場合もある)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0016】
中でもポリフェニレンスルフィドが特に好ましく使用される。かかるポリフェニレンスルフィドは、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む重合体であり、上記繰り返し単位が70モル%以上の場合には、耐熱性が優れる点で好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
また、かかるポリフェニレンスルフィドは、その繰り返し単位の30モル%以下を、下記の構造式を有する繰り返し単位などで構成することが可能であり、ランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0019】
【化2】

【0020】
かかるポリアリーレンスルフィド樹脂は、通常公知の方法、つまり特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0021】
本発明においては、上記のようにして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などの種々の処理を施した上で使用することも、もちろん可能である。
【0022】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を加熱により架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。この場合の加熱処理温度としては、好ましくは150〜280℃、より好ましくは200〜270℃の範囲が選択して使用され、処理時間としては、好ましくは0.5〜100時間、より好ましくは2〜50時間の範囲が選択されるが、この両者をコントロールすることによって、目標とする粘度レベルを得ることができる。
【0023】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧(好ましくは7,000Nm−2以下)下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で加熱処理する方法を例示することができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは攪拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0024】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を有機溶媒で洗浄する場合に、洗浄に用いる有機溶媒としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく使用することができる。例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが使用される。これらの有機溶媒のなかでも、特にN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどが好ましく使用される。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0025】
かかる有機溶媒による洗浄の具体的方法としては、有機溶媒中にポリアリーレンスルフィド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜攪拌または加熱することも可能である。有機溶媒でポリアリーレンスルフィド樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分な効果が得られる。なお、有機溶媒洗浄を施されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、残留している有機溶媒を除去するため、水で数回洗浄することが好ましい。上記水洗浄の温度は50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることがより好ましい。
【0026】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を熱水(好ましくは100〜220℃)で処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるポリアリーレンスルフィド樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のポリアリーレンスルフィド樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、攪拌することにより行われる。ポリアリーレンスルフィド樹脂と水との割合は、水の多い方がよく、好ましくは水1リットルに対し、ポリアリーレンスルフィド樹脂200g以下の浴比で使用される。
【0027】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を酸処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にポリアリーレンスルフィド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜攪拌または加熱することも可能である。用いられる酸としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、および硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などが用いられる。これらの酸のなかでも、特に酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水で数回洗浄することが好ましい。上記水洗浄の温度は50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることが特に好ましい。また、洗浄に用いる水は、酸処理によるポリアリーレンスルフィド樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
【0028】
本発明で用いられるポリアリーレンスルフィド樹脂の重量平均分子量は、フィラーを多く充填することを可能とするためにポリスチレン換算における重量平均分子量が50000以下であることが好ましく、40000以下がより好ましく、25000以下であることが特に好ましい。重量平均分子量の下限については特に制限はないが、滞留安定性等を考慮した場合、1500以上であることが好ましい。ここで重量平均分子量はGPCにより測定し、スチレン換算で求めた値である。また重量平均分子量の異なる2種以上のポリアリーレンスルフィド樹脂を併用して用いてもよい。
【0029】
本発明に用いる(b)誘電セラミックスとしては、セラミックスに電界を加えると正電荷はマイナス方向に、負電荷はプラス方向に引かれて分極を生じる電気的絶縁体のことをいい、具体的には、フォルステライト系セラミックス、アルミナ系セラミックス、チタン酸カルシウム系セラミックス、チタン酸マグネシウム系セラミックス、チタン酸ストロンチウム系セラミックス、ジルコニア−鉛−チタン系セラミックス、ジルコニア−スズ−チタン系セラミックス、チタン酸バリウム系セラミックス、鉛−カルシウム−ジルコニア系セラミックス、鉛−カルシウム−鉄−ニオブ系セラミックス、鉛−カルシウム−マグネシウム−ニオブ系セラミックスなどを例示することができ、(b)誘電セラミックスの誘電率を効率よく発揮する点から、例えばチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ネオジムバリウム、およびチタン酸ストロンチウム/ジルコン酸マグネシウム等が好ましく、誘電率の高いチタン酸バリウムが特に好ましい。これら(b)誘電セラミックスをいずれか1種、または2種以上併用して用いても良い。
【0030】
なお、本発明に使用する上記の(b)誘電セラミックスは、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミ系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。これらはチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていてもよい。
【0031】
また、(b)誘電セラミックスにおいて、(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂との混合時における生産性および誘電樹脂組成物の成形加工性を向上させるために、用いる(b)誘電セラミックスの平均粒径が0.2μm以上5.0μm以下の範囲であることが必須であり、平均粒径が0.2μm以上4.0μm以下であるのが好ましく、0.2μm以上3.0μm以下であるのがさらに好ましい。平均粒径が0.2μm未満の誘電セラミックスを用いた場合、樹脂に混合する際に流動性が低下すると共に十分に混合ができないために、特性が得られず、一方、平均粒径が5.0μmを超えると、得られる成形品の充填性が不十分で誘電性、機械強度に悪影響を与える。
【0032】
ここでいう、平均粒径とは、誘電セラミックスを水系スラリーとし、分散剤と超音波処理により十分に分散させた後にレーザー回析散乱法により測定された体積基準の平均粒径である。
さらに、用いる(b)誘電セラミックスにおいて誘電セラミックス間の空隙率を減少させ、より密に充填することで高誘電特性を発現させると共に、溶融成形加工時の成形品の歪みを抑制、即ち歪みによる不良低減と耐熱性を向上させるために、用いる誘電セラミックスの粒径とBET比表面積と平均粒径の関係が制御することが必要であり、BET比表面積を平均粒径で除した値が1以上50以下の範囲である。好ましくは、1以上40以下で、さらに好ましくは、1以上30以下である。BET比表面積を平均粒径で除することは、用いる誘電セラミックスの粒子径分布の指標を意味し、BET比表面積を平均粒径で除した値が、1未満の誘電セラミックスを用いた場合、平均粒径に対し、BET比表面積の小さい粒子、つまり、平均粒径よりも粒径の大きい粒子が存在する。または、粒径分布における粒径が単一に近い粒子、つまり、同粒径の粒子が多く存在する。このような誘電セラミックスを用いた場合、熱可塑性樹脂と誘電セラミックスの接触面積が少なくなることで、成形時の成形品に歪みが発生しやすくなり、機械強度低下へ悪影響をおよぼす。一方、BET比表面積を平均粒径で除した値が50を超える誘電セラミックスを用いた場合、平均粒径に対し、BET比表面積の大きい粒子、つまり、平均粒径よりも粒径の小さい粒子が存在する。または、粒径分布における粒径が平均粒径と異なる粒子、つまり、非常に広い粒径分布である粒子である。このような誘電セラミックスを用いた場合、熱可塑性樹脂と誘電セラミックスを充填する際、粒子径の小さい粒子は凝集体になり、充填性が不十分になり、成形品の強度や耐熱性に悪影響を及ぼすのみならず、誘電率低下にも影響を及ぼす。また、非常に広い粒径分布の粒子の場合、粒子の小さい粒子は凝集体になり、粒子径の大きい粒子は、誘電セラミックスの接触面積が少なくなることで、成形時の成形品に歪みが発生しやすくなり、機械強度低下へ悪影響をおよぼす。
【0033】
ここでいう、BET比表面積とは、十分に乾燥させ真空脱気した誘電セラミックスに窒素ガスを吸着させ、吸着したガス量と誘電セラミックスの質量から求めた誘電セラミックスの単位質量あたりの表面積である。
【0034】
本発明において(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂と(b)誘電セラミックスとの比率は、用いる誘電セラミックスの特性を発揮し、かつ溶融加工性とのバランスの点から、配合される(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂と(b)誘電セラミックスの合計量100容量%に対し、(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂10〜90容量%、(b)誘電セラミックス90〜10容量%であり、(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂10〜70容量%、(b)誘電セラミックス90〜30容量%が好ましく、(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂10〜50容量%、(b)誘電セラミックス90〜50容量%であることがより好ましい。
【0035】
また、本発明の組成物には、(b)誘電セラミックス界面の接合性および加工時流動性付与の観点から(c)脂肪族金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物およびリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することが好ましい。このような添加剤としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸リチウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウムなどの脂肪族金属塩、およびその誘導体、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ステレートなどのステアリン酸エステル、ミリスチン酸ミリスチルなどのミリスチン酸エステル、モンタン酸エステル、メタクリル酸ベヘニルなどのメタクリル酸エステル、ペンタエリスリトールモノステアレート、2−エチルヘキサン酸セチル、ヤシ脂肪酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸2−エチルへキシル、ステアリン酸イソトリデシル、カプリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸ラウリル、オレイン酸オレイル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチドデシル、オレイン酸イソブチルなどの脂肪酸の一価アルコールエステルおよびその誘導体、フタル酸ジステアリル、トリメリット酸ジステアリル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジオレイル、アジピン酸エステル、フタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジブチルグリコール、フタル酸2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジデシル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリイソデシルなどの多塩基酸の脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセライド、パルミチン酸、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノ・ジグリセライド、ステアリン酸・オレイン酸・モノ・ジグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライドなどのグリセリンの脂肪酸エステルおよびそれらの誘導体、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリプロピレングリコールモノステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセキスオレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシメチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシメチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシメチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシメチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシメチレンソルビタンテトラオレート、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリオキシエチレンビスフェノールAラウリン酸エステル、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトールモノオレート、などの多価アルコールの脂肪酸エステル、およびそれらの誘導体、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、ステアリルエルカミドなどのアミド基含有化合物、ノボラックフェノール型、ビスフェノール型単官能および多官能エポキシ系化合物、トリフェニルホスフェートなどの芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステルなどのリン酸エステルが挙げられる。
【0036】
特にリン酸エステルについては、リン酸のモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステルから選ばれ、好ましくは、下記式(1)表されるものが挙げられる。
【0037】
【化3】

【0038】
まず前記式(1)で表されるリン酸エステルの構造について説明する。前記式(1)の式中nは0以上の整数であり、好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜5である。上限は分散性の点から、40以下が好ましい。
【0039】
またk、mは、それぞれ0以上2以下の整数であり、かつk+mは、0以上2以下の整数であるが、好ましくはk、mはそれぞれ0以上1以下の整数、特に好ましくはk、mはそれぞれ1である。
【0040】
また前記式(1)の式中、R〜R10は同一または相違なる水素または炭素数1〜5のアルキル基表す。ここで炭素数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−ペンチル基などが挙げられるが、水素、メチル基、エチル基が好ましく、とりわけ水素が好ましい。
【0041】
またAr1、Ar2、Ar3、Ar4は同一または相異なる芳香族基あるいは
ハロゲンを含有しない有機残基で置換された芳香族基を表す。かかる芳香族基としては、ベンゼン骨格、ナフタレン骨格、インデン骨格、アントラセン骨格を有する芳香族基が挙げられ、なかでもベンゼン骨格、あるいはナフタレン骨格を有するものが好ましい。これらはハロゲンを含有しない有機残基(好ましくは炭素数1〜8の有機残基)で置換されていてもよく、置換基の数にも特に制限はないが、1〜3個であることが好ましい。具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、インデニル基、アントリル基などの芳香族基が好ましく、特にフェニル基、トリル基、キシリル基が好ましい。
【0042】
またYは直接結合、O、S、SO、C(CH)2、CHPhを表し、Phはフェニル基を表す。
【0043】
このようなリン酸エステルの具体例としては、大八化学社製PX−200、PX−201、PX−130、CR−733S、TPP、CR−741、CR−747、TCP、TXP、CDPから選ばれる1種または2種以上が使用することができ、中でも好ましくはPX−200、TPP、CR−733S、CR−741、CR−747から選ばれる1種または2種以上、特に好ましくはPX−200、CR−733S、CR−741を使用することができるが、最も好ましくはPX−200である。
【0044】
本発明において上記(c)脂肪酸金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物およびリン酸エステルから選ばれる化合物は、いずれか1種、または2種以上の混合物であってもよい。このような添加剤の添加量は、(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂と(b)高誘電セラミックスの合計量100重量部に対し、0.5〜10重量部、好ましくは0.5〜8重量部、より好ましくは1〜6重量部の範囲が選択される。
【0045】
(c)脂肪族金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物およびリン酸エステルから選ばれる化合物の添加量を上記の量とすることで、得られた成形品表面にブリードアウトすることがなく、それによって(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂と(b)誘電セラミックス界面の剥離を引き起こし、機械物性が低下することがないので好ましい。
【0046】
本発明における誘電性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で繊維状もしくは、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など非繊維状の充填剤を添加することが可能である。具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。ガラス繊維あるいは炭素繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。本発明においては、上記フィラーのうち、繊維状、板状、鱗片状の形状および破砕品が誘電樹脂組成物における成形品の強度等の点から好ましく用いられる。
【0047】
本発明における誘電性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で多の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンジアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの組み合わせ等)、他の重合体を添加することができる。
【0048】
本発明の誘電性樹脂組成物の調整方法には特に制限はないが、原料の混合物を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して、280〜380℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれかの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。
【0049】
本発明の誘電性樹脂組成物を成形するにあたっての成形方法は、通常の成形方法(射出成形、プレス成形、インジェクションプレス成形など)やガスインジェクション成形、“ミューセル”成形法により、三次元成形品、シート、ケース(筐体)などに加工することができるが、生産性を考慮した場合、射出成形あるいはインジェクションプレス成形等が好ましく採用される。また、溶着部を有する場合は、熱板、振動、超音波、レーザーなどの一般的な溶着方法を用いることが可能である。
【0050】
かくして得られる成形品は、成形時の成形品の歪みよる不良が少なく、かつ、溶融成形可能であることを生かし、例えば、コンデンサー用途、マルチチップモジュール用途、アンテナ用途、マイクロ波回路要素用途に特に適している他、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電機・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、ファクシミリ関連部品;排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、プレーキパッド摩耗センサー、エアコンパネルスイッチ基板、ヒューズ用コネクター、車速センサーなどの自動車・車両関連部品、パソコンハウジング、携帯電話ハウジング、携帯電話基地局のアンテナケース、その他情報通信分野においてチップアンテナ、無線LAN用アンテナ、ETC(エレクトロリックトールコレクションシステム)用、衛星通信などのアンテナおよびその他の各種用途で有用に用いられ、特に小型精密化による製品設計自由度および成形時の成形品の歪みによる割れの抑制、かつ、誘電性、機械強度、耐熱性が要求され、セラミックス代替が熱望されている情報通信用途、自動車部品用途、電気・電子部品用途に有用である。
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0053】
参考例1 熱可塑性樹脂
(1)液晶性樹脂
LCP(液晶ポリエステル):p−ヒドロキシ安息香酸995重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部および無水酢酸960重量部を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、室温から150℃まで昇温しながら3時間反応させ、150℃から250℃まで2時間で昇温し、250℃から320℃まで1.5時間で昇温させた後、320℃、1.5時間で0.5mmHg(67Pa)に減圧し、さらに約0.25時間反応させ重縮合を行った結果、芳香族オキシカルボニル単位80モル当量、芳香族ジオキシ単位7.5モル当量、エチレンジオキシ単位12.5モル当量、芳香族ジカルボン酸単位20モル当量からなるペレットを得た。
【0054】
(2)ポリアリーレンスルフィド樹脂
PPS―1の調製
攪拌機および底に弁の付いた20リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム(三協化成)2383g(20.0モル)、96%水酸化ナトリウム831g(19.9モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3960g(40.0モル)、およびイオン交換水3000gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水4200gおよびNMP80gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は0.17モルであった。また、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの硫化水素の飛散量は0.021モルであった。
【0055】
次に、p−ジクロロベンゼン(シグマアルドリッチ)2942g(20.0モル)、NMP1515g(15.3モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。その後、400rpmで攪拌しながら、200℃から227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、次いで274℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、274℃で50分保持した後、282℃まで昇温した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら、内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく攪拌して大半のNMPを除去し、ポリアリーレンスルフィド(PPS)と塩類を含む固形物を回収した。
【0056】
得られた固形物およびイオン交換水15120gを攪拌機付きオートクレーブに入れ70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した17280gのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0057】
得られたケークおよびイオン交換水11880gを、攪拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0058】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水17280gを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを80℃で熱風乾燥し、さらに120℃で24時間で真空乾燥することにより、乾燥PPSを得た。得られたPPS−1は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が20000であった。
【0059】
PPS―2の調整
攪拌機付きの20リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム(三協化成)2383g(20.0モル)、96%水酸化ナトリウム848g(20.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3267g(33モル)、酢酸ナトリウム531g(6.5モル)、及びイオン交換水3000gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水4200gおよびNMP80gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.018モルであった。次に、p−ジクロロベンゼン(シグマアルドリッチ)2974g(20.2モル)、NMP2594g(26.2モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで攪拌しながら、227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、その後270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し270℃で140分保持した。その後250℃まで1.3℃/分の速度で冷却しながら684g(38モル)のイオン交換水をオートクレーブに圧入した。その後200℃まで0.4℃/分の速度で冷却した後、室温近傍まで急冷した。
【0060】
内容物を取り出し、10リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を20リットルの温水で数回洗浄、濾別した。次いで得られた粒子を9.8gの酢酸を含む20リットルの温水で洗浄、濾別した後、20リットルの温水で洗浄、濾別してポリアリーレンスルフィドポリマー粒子を得た。これを、80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS−2は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が52000であった。
【0061】
なお、重量平均分子量は以下の方法で測定した。
ポリマー5mg、1−クロロナフタレン 5gをサンプル瓶に計り取り、210℃に設定した高温濾過装置(センシュー科学製SSC−9300)に入れ、5分間(1分間予備加熱、4分間攪拌)加熱した後、高温濾過装置から取り出し、室温になるまで放置し、サンプル調整を行った。ついで以下の測定条件で重量平均分子量を測定した。
【0062】
・GPC測定条件
装置 : センシュー科学 SSC−7100
カラム名 : センシュー科学 GPC3506×1
溶離液 : 1−クロロナフタレン(1−CN)
検出器 : 示差屈折率検出器
検出器感度 : Range 8
検出器極性 : +
カラム温度 : 210℃
プレ恒温槽温度 : 250℃
ポンプ恒温槽温度 : 50℃
検出器温度 : 210℃
サンプル側流量 : 1.0mL/min
リファレンス側流量 : 1.0mL/min
試料注入量 : 300μL
検量線作成試料 : ポリスチレン。
【0063】
参考例2 誘電セラミックス
チタン酸バリウム(TB1):BT−01(平均粒径0.1μm、BET比表面積13.0m2/g、BET比表面積を平均粒径で除した値130、堺化学工業社製)
チタン酸バリウム(TB2):BT―05(平均粒径0.5μm、BET比表面積2.3m2/g、BET比表面積を平均粒径で除した値5、堺化学工業社製)
チタン酸バリウム系セラミックス(TB3):MBRT−95(平均粒径1.15μm、BET比表面積1.0m2/g、BET比表面積を平均粒径で除した値0.9、富士チタン工業社製)
チタン酸ストロンチウム(TS1):ST−03(平均粒径0.3μm、BET比表面積4.3m2/g、BET比表面積を平均粒径で除した値14、堺化学工業社製)
チタン酸ストロンチウム(TS2):炭酸ストロンチウム(SW−K、堺化学工業社製、BET比表面積7.7m2/g)、二酸化チタン(PT−401M、石原テクノ製、BET比表面積20.7m2/g、ルチル化率50.7%)の強熱減量(700℃に加熱して水分や揮発成分を除去したときの重量減少)を測定し、水分等の揮発成分による重量のずれを補正して、炭酸ストロンチウムと二酸化チタンのモル比が1:1となるように計約1.1kgの粉末を秤量した。10Lポリエチレン製ポットおよび15mmφの鉄芯入りプラスチックボールを用い、乾式ボールミルで秤量した混合粉末を20時間混合した。混合後のBET比表面積は22.8m2/gであった。混合物をTG−DTAにより分析した結果、チタン酸ストロンチウムの生成温度は880℃であった。混合物を石英ガラス製炉芯管を有する管状炉(炉芯管体積20L)を用いて焼成した。炉内を窒素雰囲気として昇温を開始し、600℃で塩化水素3体積%−窒素97体積%の雰囲気を導入し、700℃で空気雰囲気に切り替えて950℃まで昇温し、950℃で2時間保持して1回目の焼成を行った。なお、焼成雰囲気の圧力は全て大気圧(約0.1MPa)である。焼成後、得られたチタン酸ストロンチウム粉末を濃度0.8重量%炭酸水素アンモニウム水溶液に分散させ、濾過し、洗浄した。洗浄後の粉末を130℃で乾燥させ、空気雰囲気中において900℃、3時間保持して2回目の焼成を行った。さらに粉末を10Lポリエチレン製ポットおよび15mmφの鉄芯入りプラスチックボールを用いたボールミルにより20時間粉砕し、粒子の平均粒径0.154μm、BET比表面積8.15m2/g、BET比表面積を平均粒径で除した値は53、比重5.12のチタン酸ストロンチウム粉末を得た。
【0064】
チタン酸ストロンチウムバリウム(TSB1):炭酸バリウム56.83g、炭酸ストロンチウム42.51g、及び酸化チタン46.02gの3種類の粉末(Ba/Sr/Ti=0.5/0.5/1 モル比)を溶媒にエタノールを用い、ボールミルにより24時間の混合を行った。混合終了後の粉末分散液は粉末と、ボール及びエタノールとを分離し、粉末は110℃、12時間の乾燥を行い、原料として用いた。乾燥した粉末はアルミナるつぼに入れ、電気炉を用いて1300℃、24時間の焼成を行った。焼成を行った粉末はアルミナ乳鉢で粉砕を行いながら、篩に通し、粒子の平均粒径4.0μm、BET比表面積10.0m2/g、BET比表面積を平均粒径で除した値2.5、比重5.6のチタン酸ストロンチウムバリウム粉末を得た。
【0065】
チタン酸ストロンチウムバリウム(TSB2):炭酸バリウム56.83g、炭酸ストロンチウム42.51g、及び酸化チタン46.02gの3種類の粉末(Ba/Sr/Ti=0.5/0.5/1 モル比)を溶媒にエタノールを用い、ボールミルにより24時間の混合を行った。混合終了後の粉末分散液は粉末と、ボール及びエタノールとを分離し、粉末は110℃、12時間の乾燥を行い、原料として用いた。乾燥した粉末はアルミナるつぼに入れ、電気炉を用いて1300℃、24時間の焼成を行った。焼成を行った粉末はアルミナ乳鉢で粉砕を行いながら、篩に通し、粒子の平均粒径15μm、BET比表面積0.6m2/g、BET比表面積を平均粒径で除した値0.04、比重5.6のチタン酸ストロンチウムバリウム粉末を得た。
【0066】
なお、上記において平均粒径は、誘電セラミックス1gを水:エタノール=1:1溶液200mlのスラリーとし、10分間超音波による分散後、島津製作所社製レーザー光回析式粒度分布測定装置SALD−2200を用いて、測定した。
【0067】
粉末のBET比表面積は、誘電セラミックス1gを試料セルに充填し、窒素雰囲気中300℃で30分間乾燥処理を行い、ヘリウム:窒素=70/30容量%の混合ガスを用い、BET1点法によるBET比表面積測定装置(島津製作所社製、フローソーブIII2305モデル)により測定した。
【0068】
参考例3 添加剤
HWE:モンタン酸エステルワックス“リコワックスE”(クラリアントジャパン社製)
PX:PX−200(粉末状芳香族縮合リン酸エステル、大八化学工業社製、CAS No.139189-30-3)
PPE−OIL:OS−124(米国モンサント社製)
実施例1〜8、比較例1〜5
参考例1の熱可塑性樹脂、参考例2に示した誘電セラミックス、および参考例3の添加剤を表1に示す量でブレンドし、ヘッド部をはずしたPCM30(2軸押出機;池貝鉄鋼社製)にて表1に示す樹脂温で溶融混廉を行い、不定形の組成物を得た。ついで大きい粒子を取り除き、140℃の熱風乾燥機で3時間乾燥した後、以下に示す評価を行った。
【0069】
比較例6
参考例1の熱可塑性樹脂、参考例2に示した誘電セラミックス、および参考例3の添加剤をヘンシェルミキサーで表1に示す量でブレンドし、自動供給フィーダーを備えた月島機械製ロータリー打錠機を用いて常温で錠剤化し、6.5mm直径×3.5mm長の円柱形の錠剤を得た。ついで140℃の熱風乾燥機で3時間乾燥した後、以下に示す評価を行った。
【0070】
【表1】

【0071】
(1)誘電率測定
UH1000(80t)射出成形機(日精樹脂工業社製)を用い、表1に示す樹脂温度、金型温度の温度条件で、80mm×30mm×1.6mm厚の成形品を最低圧力+5MPaで射出成形し、損失分離法により、1GHzの誘電率を測定した。
【0072】
(2)曲げ強度
UH1000(80t)射出成形機(日精樹脂工業社製)を用い、表1に示す樹脂温度、金型温度の温度条件で、100×100×3mm厚(フィルムゲート)の角形成形品を最低圧力+5MPaで成形し、中心から流れ方向に沿って幅12.7mmに2枚切削し、ASTM D790に準拠し、曲げ強度の測定を行い、その平均値を算出した。
【0073】
(3)成形品低歪み性
UH1000(80t)射出成形機(日精樹脂工業社製)を用い、表1に示す樹脂温度、金型温度の温度条件で、一辺および高さがいずれも50mmの四角形の鉄製角柱を1.5mm厚みの試料で包み込める形状の金型を用い、最低圧力+10MPaで50個を射出成形し、その50個の成形品について目視で表面に歪みによるクラックが発生した個数を評価した(歪みによるクラックの発生数が少ないほど、成形品低歪み性に優れる)。
【0074】
(4)耐熱性
上記(3)で得られた成形品50個をパーフェクトオーブン(エスペック社製PVH−331)を用いて250℃、3時間加熱処理を行った後、成形品をオーブンから取りだし、20℃の雰囲気下に放置した。その後、50個の成形品について目視で表面にクラックが発生した個数を評価した(クラックの発生数が少ないほど耐熱性に優れる)。
【0075】
比較例5は耐熱性において、クラックは発生しなかったが、50個全ての成形品が変形した。
【0076】
表1の結果から明らかなように本発明の誘電性樹脂組成物は、用いる誘電性セラミックスの粒径とBET比表面積の関係を制御し、誘電セラミックスの成形品への充填時の粒子の凝集や空隙を低減することで、成形時の成形品の歪みによる不良を低減することを可能にし、また、得られた成形品は誘電率を保有すると共に、機械強度および耐熱性を高位に達成していることがわかる。また、射出成形が可能であることから、小型精密化や生産性向上を目的としてセラミックス代替を熱望されている情報通信分野、電気・電子部品、自動車部品用途等への展開を図ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)液晶性樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂10〜90容量%および(b)誘電セラミックス90〜10容量%からなり、かつ(b)誘電セラミックスが、平均粒径0.2〜5.0μmで、BET比表面積を平均粒径で除した値が1〜50の範囲であることを特徴とする誘電性樹脂組成物。
【請求項2】
(b)誘電セラミックスがチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ネオジムバリウム、及びチタン酸ストロンチウムバリウム/ジルコン酸マグネシウムから選択される少なくとも1種または2種以上である請求項1記載の誘電性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに(c)脂肪族金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物、およびリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種以上を、(a)熱可塑性樹脂と(b)誘電セラミックスの合計量100重量部に対し0.5〜10重量部含有してなる請求項1または2記載の誘電性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の誘電性樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする成形品。
【請求項5】
成形品が自動車部品または電気電子部品である請求項4記載の成形品。

【公開番号】特開2007−161835(P2007−161835A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358533(P2005−358533)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】