説明

誘電特性を利用したノイズ抑制体

【課題】従来の磁性体を利用したノイズ抑制体よりも、軽く、薄く、高いノイズ抑制効果が発現するノイズ抑制体を提供する。
【解決手段】誘電特性を利用したノイズ抑制体であって、厚みt(mm)、複素比誘電率の実部εr’、複素比誘電率の虚部εr”が下記の式1及び式2を満たすノイズ抑制体。
εr’・t ≦300(mm) ・・・・・ (1)
εr’’・t ≧ 3(mm) ・・・・・ (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器において発生する不要電磁波の外部への漏洩や内部回路間での干渉、また外部電磁波による誤動作等の影響を防止するために装着もしくは塗布するノイズ抑制体又は電磁干渉抑制体に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器や各種電子機器から意図せずに電磁波が外部に放射、伝送されたり、外部及び内部干渉による機器自身の誤動作などを起こしたりする、EMI やイミュニティに関する問題は、最近の最新技術、デジタル技術の進化に伴い、ますます高周波帯域へ移行している。
【0003】
これまでフェライトや軟磁性合金の粉末を高充填した樹脂複合材料が用いられてきたが(例えば、特許文献1参照)、使用電波が300MHz以上のUHF領域に高周波化するにつれ、透磁率が低下し、吸収特性を発現するのに必要な厚みが増加してしまうという問題が生じている。また比重10程度の非常に重い軟磁性合金の粉末を高充填することになるため、樹脂複合材料の比重3以上と大きくなり、特に携帯通信機器の軽量化に適さないという課題もある。また、ノイズ抑制効果の厚み依存性が強く、特にノイズ抑制体の厚みが300μm以下になるとノイズ抑制効果が低下するという問題が発生する。
【0004】
また、導電性充填材や誘電体充填材を加えた樹脂シートの表面に磁性金属を蒸着した複合体としてのノイズ抑制体も提案されているが(例えば、特許文献2参照)、この場合ノイズ抑制体の形状がシート状に制約されるばかりではなく、製造工程が煩雑化する上構造が複雑になりノイズ抑制効果が不安定になってしまう。
このため、商業的に製造されず、実際には先に述べたフェライトや軟磁性合金の粉末を高充填する方法が用いられているのが現状である。
【特許文献1】特開2005−281783号公報
【特許文献2】特開2005−251918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、軽量かつ、ノイズ抑制効果の厚み依存性が少ないノイズ抑制体を提供するものである。本発明によれば、樹脂シートを磁性金属などで蒸着する必要もなくなるので、ノイズ抑制体を塗料としてノイズ発生源に塗布することも可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、誘電特性を利用することで、従来の磁性体を利用したノイズ抑制体よりも、軽く、薄く、高いノイズ抑制効果が発現することを見出した。すなわち本発明はつぎの通りである。
1. 誘電特性を利用したノイズ抑制体であって、厚みt(mm)、複素比誘電率の実部εr’、複素比誘電率の虚部εr”が下記の式1及び式2を満たすノイズ抑制体。
εr’・t ≦300(mm) ・・・・・ (1)
εr’’・t ≧ 3(mm) ・・・・・ (2)
2. IEC規格(No.:IEC62333−1,IEC62333−2)により測定した1GHz以下における反射係数が−10dB以下、1GHz以上3GHz以下の反射係数S11が−16dB以下であり、かつ1GHzにおける透過係数S21が−2dB以下である第1項記載のノイズ抑制体。
3. 導電性充填材と樹脂からなり、表面抵抗率が10Ω/□以上10Ω/□以下である第2項記載のノイズ抑制体。
4. 前記導電性充填材が、粒子直径が10nm以上10μm以下の球状、断面直径が10nm以上10μm以下繊維状又は厚さが10nm以上10μm以下の板状の導電性粉末である第3項記載のノイズ抑制体。
5. 前記導電性粉末が導電性炭素材料である第4項記載のノイズ抑制体。
6. 導電性充填材と樹脂とを、体積比(導電性充填材/樹脂)35/65〜60/40の範囲で配合して得られる第3項又は第4項記載のノイズ抑制体。
7. 第2の充填材を含有する第1項〜第6項のいずれかに記載のノイズ抑制体。
8. 第1項〜第7項のいずれかに記載のノイズ抑制体からなる筐体を用いた電子機器。
9. 第1項〜第7項のいずれかに記載のノイズ抑制体からなるノイズ抑制フィルム。
10. 第1項〜第7項のいずれかに記載のノイズ抑制体を筐体内部において用いた電子機器。
11. 第1項〜第7項のいずれかに記載のノイズ抑制体を筐体内部において用いたデジタルカメラ。
12. 第1項〜第7項のいずれかに記載のノイズ抑制体を筐体内部において用いた携帯電話。
13. 第9項記載のノイズ抑制フィルムを筐体内部において用いた電子機器。
14. 第9項記載のノイズ抑制フィルムを筐体内部において用いたデジタルカメラ。
15. 第9項記載のノイズ抑制フィルムを筐体内部において用いた携帯電話。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定の条件を満たすノイズ抑制体をノイズ発生源に貼付けもしくは塗布することによって、電子機器から外部への不要輻射や内部での回路間の干渉を効果的に抑制することができる。また、本発明のノイズ抑制体は、従来技術と異なり、比重が一般には大きい磁性金属を用いる必要がないため、その比重を2以下に軽量化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、誘電特性を利用したノイズ抑制体であって、厚みt(mm)、複素比誘電率の実部εr’、複素比誘電率の虚部εr”が上記の式1及び式2を満たすノイズ抑制体である。ここで、比誘電率とは、ある物質が真空(εr'=1、εr’’=0)と比較して、如何に充電しやすいかを示す量である。複素比誘電率とは、充電によって実際に蓄えられる電荷量を実部、電流として損失する電荷量を虚部に対応させた、複素数で表わされる比誘電率である。
【0009】
本発明においては、ノイズ抑制体の厚みをt(mm)とし、複素比誘電率の実部εr’とした場合、εr’・tを300mm以下にする必要がある。望ましくは100mm以下、さらに望ましくは30mm以下である。これより大きいと、不要輻射の発信源となっている回路自体の動作に悪影響を与える。
【0010】
また、ノイズ抑制体の厚みt(mm)と複素比誘電率の虚部εr’’の積が3mmよりも大きいことが必要となる。望ましくは6mm以上、さらに望ましくは10mm以上である。これより小さいと、不要輻射や内部での回路間の干渉を効果的に抑制することができない。尚、本発明では厚み0.3mm以下のノイズ抑制体をノイズ抑制フィルムと呼称する。
【0011】
ノイズ抑制効果は、IEC規格(No.:IEC62333−1,IEC62333−2)により評価法が定められている。図1にあるネットワークアナライザ5に接続したマイクロストリップライン1に、フィルムもしくはシート状のノイズ抑制体を載せ、ネットワークアナライザ5のポート1(図1−6)から送信された信号が、ノイズ抑制体を載せたマイクロストリップラインを経由して、ポート2(図1−7)に到達する信号の電力と、ポート1自体に反射される信号の電力を測定する。ポート1(図1−6)からポート2(図1−7)への到達信号の電力比Tが小さいほどノイズ抑制効果が大きいとされ、通常は以下の量が用いられる。
透過係数:S21(dB)=10・log(T) ・・・・・ (3)
また、マイクロストリップラインにおける反射信号の電力比Rが小さいほど、ノイズ抑制体が発信源回路へ与える影響が小さいとされ、通常は以下の量が用いられる。
反射係数:S11(dB)=10・log(R) ・・・・・ (4)
【0012】
ノイズ抑制体は、単にノイズ抑制効果が大きいだけではなく、発信源回路への影響は小さいことが必要となる。このため、IEC規格に指定された測定法で、1GHz以下における反射係数S11が−10dB以下、1GHz以上3GHz以下の反射係数S11が−16dB以下、かつ1GHzにおける透過係数S21が−2dB以下であることが望ましい。反射係数S11が上記範囲より大きいと回路の動作自体が正常でなくなる。また透過係数S21が上記範囲より大きいとノイズ抑制効果が小さくなる。この範囲の内でさらに望ましいのは、上記の条件を満たしさらに1GHzから3GHzまでの反射係数S11が−20dB以下のノイズ抑制体である。
【0013】
本発明のノイズ抑制体は、導電性充填材と樹脂からなり、表面抵抗率が10Ω/□以上10Ω/□以下である。この範囲より大きいと、ノイズ抑制効果が小さくなる。また、この範囲より小さいと、回路の動作自体が正常でなくなる。ここで、表面抵抗率とは、測定体の表面で測定する抵抗率であり、等方的な材質の場合、体積抵抗率ρv、厚みtとすると、表面抵抗率はρs=ρv/tであり、単位は通常の抵抗と同一のΩであるが、表面抵抗率であることを強調するためにΩ/□と記載する。測定法については、例えばJIS規格C6481に定められている。
【0014】
本発明で用いる導電性充填材とは、樹脂に添加した場合には導電性を付与する効果を有する充填材である。このような充填材として、金属、導電性金属酸化物、炭素材料のいずれかからなる粉末が挙げられる。金属粉末としては銅、アルミニウムなどの磁性を示さない金属および鉄などの磁性を示す金属のいずれも本発明には利用できる。
【0015】
導電性金属酸化物としては、いわゆるATOすなわちアンチモン(Sb)をドープした二酸化錫(SnO)、いわゆるITOすなわち錫(Sn)をドープした三酸化二インジュウム(In)、アルミニウム(Al)をドープした酸化亜鉛(ZnO)が挙げられる。
【0016】
導電性充填材の中でも、特に望ましいのは炭素材料からなる導電性粉末すなわち導電性炭素材料微粉末である。具体的には天然黒鉛、人造黒鉛、ファーネスカーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの導電性炭素材料が用いられる。炭素材料が比重2.2と小さく、他の導電性物質にはない特長を有しノイズ抑制体の軽量化という効果もある。
【0017】
本発明で用いる導電性超微粉末としては、粒子直径が10nm以上10μm以下、望ましくは10nm以上3μm以下、より望ましくは30nm以上1μm以下の球状の炭素材料が挙げられる。このような球状の炭素材料、例えば、カーボンブラックは、炭化水素原料を気相で熱分解することによって得られる。また、黒鉛化カーボンブラックは、He、CO、またはこれら混合ガスの雰囲気系により内圧2〜19Torrに保持された減圧容器内において、炭素材料をアーク放電によって気化させ、気化した炭素蒸気を冷却凝固することによって得られる。具体的には、東海カーボン(株)製のシーストSやトーカブラック(#7100F)、導電性カーボンブラック#5500、#4500、#4400、#4300や黒鉛化カーボンブラック#3855、#3845、#3800、あるいは、三菱化学(株)製の#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、MA7、MA8、MA11、あるいは、ライオン(株)製のケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックEC600JDなどが例示できる。なお、ここで球状とは必ずしも厳密な球状である必要はなく、等方的な形状であればよい。例えば角が発生した多面体状であってもよい。
【0018】
また、本発明で用いる導電性超微粉末としては、10nm以上10μm以下以下、望ましくは10nm以上3μm以下、より望ましくは30nm以上1μm以下の繊維状の炭素材料が挙げられる。その長さは断面直径の3倍以上300倍以下であることが好ましい。このような繊維状の炭素材料、例えばカーボンナノファイバーや、カーボンナノチューブは触媒となるコバルトや鉄の有機金属化合物と炭化水素原料を気相で混合し、加熱することによって得られる。また、カーボンナノファイバーはフェノール系樹脂を溶融紡糸し、非活性雰囲気下で加熱することによって得られるものもある。具体的には、昭和電工(株)製のVGCFおよびVGNFや、(株)GSIクレオス製のカルベール、群栄化学工業(株)製のカーボンナノファイバーなどが例示できる。なお、ここで繊維状とは一方向に伸びた形状を意味し、例えば角材状、丸棒状や長球状であってもよい。
【0019】
さらに、本発明で用いる導電性超微粉末としては、10nm以上10μm以下、望ましくは10nm以上3μm以下、より望ましくは30nm以上1μm以下の板状の炭素材料が挙げられる。その長さおよび幅は、厚さの3倍以上300倍以下であることが好ましい。このような板状の炭素材料は、例えば天然黒鉛や人造黒鉛を精製・粉砕・分級することによって得られる。例えば、(株)エスイーシー製のSNEシリーズ、SNOシリーズ等や日本黒鉛製、鱗状黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末等が挙げられる。また、これらをさらに粉砕し、精密分級してもよい。なお、ここで板状とは、一方向が縮んだ形状を意味し、例えば扁平球状や鱗片状であってもよい。
【0020】
本発明において用いる樹脂としては、PVC樹脂、フェノキシ樹脂、フッ化炭素系樹脂、PPS樹脂、PPE樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂、あるいはこれらの混合系樹脂を挙げることができる。
【0021】
また、導電性充填材と配合する際の樹脂は、重合体の形態としてのみならず重合性化合物の形態として、すなわち、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂のモノマーやオリゴマーなどの重合性化合物として配合しておいて、後で重合させてもよい。
【0022】
本発明のノイズ抑制体は、ノイズ抑制以外の目的で必要に応じて、第2の充填材をさらに添加して用いることができる。第2の充填材としては、弾性率改善のためのガラス繊維、成形収縮率を低下させるための炭酸カルシウム、表面平滑性や耐摩耗性の改善に用いられるタルク、寸法安定性を改善するために用いられるマイカが挙げられる。また、難燃性を付与する充填材、すなわち難燃剤としてハロゲン系またはリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが挙げられる。また、ノイズ抑制特性の調整に従来技術で用いられているフェライト粉末や鉄を主成分とした磁性金属体粉末や難燃剤としての効果も有する導電性粉末である膨張黒鉛粉末などを充填材として、さらに添加することができる。
【0023】
本発明のノイズ抑制体は、携帯電話やスマートフォン、デジタルテレビ送受信機などの通信機器やデジタルカメラやPDAなどの、各種電子機器から意図せずに電磁波が外部に放射、伝送されたり、外部及び内部干渉による機器自身の誤動作などを起こしたりする、EMI やイミュニティに関する問題の解決に有用である。
【0024】
本発明のノイズ抑制体は、シート状、特に厚み300μm以下のフィルム状に成形、もしくはポリエチレンテレフタレートやポリイミドなどのフィルム状基材に塗布したフィルムを、携帯電話等の通信機器やデジタルカメラ等の電子機器の筐体内部の部品、たとえばデータ信号を処理するLSIや液晶ディスプレイなどの表示機器と表示信号の処理回路を接続するフレキブルプリント基板ケーブルなどに、貼り付けるまたは塗布することで、不要電磁波を抑制することができる。また、筐体自体をノイズ抑制体で形成、もしくは筐体内面にノイズ抑制体を貼り付けまたは塗布することでも不要電磁波を抑制できる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
なお、ノイズ抑制効果については、IEC規格(No.:IEC62333−1,IEC62333−2)に従い、図1に示したマイクロストリップラインに、ノイズ抑制体からなるシートを載せて、ネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製8722ES)により、反射係数S11および透過係数S21を測定した。
また、比重の測定については、ノイズ抑制体を形成する樹脂複合材料を30mmφ、厚さ3mmのディスクに成形し、この重量を測定し、さらに水をはったメスシリンダーに入れ体積を測定することにより求めた。
【0027】
実施例1
ポリウレタン樹脂のワニス(重合性ウレタンの50wt%キシレン溶液)と、導電性カーボンブラック(球状体、粒径30nm〜50nm、平均粒径40nm)を、樹脂分すなわちワニス固形分とカーボンブラックを体積比で、62.5/37.5となるように混合し、ペットフィルムに塗布した。このときの厚みは、0.03mmであった。
このシートをIEC規格(No.:IEC62333−1,IEC62333−2)に従い、図1に示したマイクロストリップラインに乗せて、反射係数S11および透過係数S21を測定した。1GHzにおいて、透過係数S21は−2(dB)であった、また反射係数S11は、1GHz以下の帯域において、−15dB、1GHz〜3GHzでは−20dBであった。尚、複素比誘電率の実部は403、虚部は468であった、したがってεr’・t=12、εr’’・t=14となる。比重は1.1であった。表面抵抗率は2.4kΩ/□であった。
【0028】
実施例2
実施例1におけるカーボンブラックに替えて、人造黒鉛粒子(球状体、粒径1.5〜4μm、平均粒径3μm)を用いた。
実施例1と同様にして反射係数S11および透過係数S21を測定した。1GHzにおいて、透過係数S21は−3dBであった、また反射係数S11は、1GHz以下の帯域において、−15dB以下、1GHz〜3GHzでは−21dB以下であった。尚、複素比誘電率の実部は170、虚部は203であった。したがって、εr’・t=5.2、εr’’・t=6.1となる。比重は1.2であった。また表面抵抗率は7.8kΩ/□であった。
【0029】
実施例3
実施例1におけるカーボンブラックに替えて、サーマルカーボンブラック(球状体、粒径200〜400mm、平均粒径300nm)を用いた。
実施例1と同様に反射係数S11および透過係数S21を測定した。1GHzにおいて、透過係数S21は−2dBであった、また反射係数S11は、1GHz以下の帯域において、−15dB、1GHz〜3GHzでは−21dBであった。 尚、複素比誘電率の実部は365、虚部は431であった、したがってεr’・t=11、εr’’・t=13となる。比重は2.8であった。また表面抵抗率は5.3kΩ/□であった。
【0030】
実施例4
実施例1で用いたカーボンブラックとイミダゾール系硬化触媒を添加したビスフェノールA型エポキシモノマーとを、体積比(混合粉末/エポキシモノマー)を65/35で、メチルエチルケトンに分散・溶解し、ワニスを調合した。このワニスを図1に示したマイクロストリップラインに、ドクターブレードを用いて塗布し、120℃・1時間で硬化し87μm厚の塗膜層を形成した。実施例1と同様にして反射係数S11および透過係数S21を測定した。1GHzにおいて、透過係数S21は−2dBであった、また反射係数S11は、1GHz以下の帯域において、−15dB、1GHz〜3GHzでは−16dBであった。ワニスを乾燥し得られたペーストを用いて30mmφ、3mm厚のタブレットを作製し、比重を測定したところ、2.5であった。尚、複素誘電率の実部は36、虚部は48であった。したがって、εr’・t=3.1、εr’’・t=4.2となる。また表面抵抗率は4.7kΩ/□であった。
【0031】
比較例1
水アトマイズ法により作製した平均粒径45μmの鉄アルミニウム珪素(10 wt%Si−5.5wt% Al−残部Fe及び不可避不純物)合金粉末を用意し、この粉末をn−ヘキサンと共にサンドグラインドミルに投入して1 2 時間摩砕した後、酸化処理を施し、Arガス雰囲気下にて850℃ で3時間焼鈍処理し、扁平状粉末を得た。この扁平粉末と塩化ポリエチレンを体積比50/50で、トルエンに分散および溶解し、ペーストを調製した。
このペーストを用いて、ドクターブレード法により製膜し、熱処理を施した後に85℃ にて24時間キュアリングし、300μm厚のシートを作製した。
実施例1と同様にして反射係数S11および透過係数S21を測定した。1GHzにおいて、透過係数S21は−1.2dBであった。また反射係数S11は、1GHz以下の帯域において−7dB、1GHz〜3GHzでは−5dBであった。また比重は3.5であった。また表面抵抗率は10MΩ/□で
あった。
【0032】
比較例2
実施例1において、ワニス固形分とカーボンブラックを体積比で、60/40となるように混合した以外は、実施例1と同様にした。
実施例1と同様にして反射係数S11および透過係数S21を測定した。1GHzにおいて、透過係数S21は−5dBであったが、反射係数S11は、1GHz以下の帯域において、−5dBまで増加し、1GHz〜3GHzでは平均して−8dBであった。尚、複素比誘電率の実部は10070、虚部は11060であった、したがってεr’・t=315、εr’’・t=348となる。比重は1.2であった。また表面抵抗率は0.8kΩ/□であった。
【0033】
比較例3
実施例1において、ワニス固形分とカーボンブラックを体積比で、65/35となるように混合した以外は、実施例1と同様にした。
実施例1と同様にして反射係数S11および透過係数S21を測定した。1GHzにおいて、透過係数S21は−1dBまで低下した、また反射係数S11は、1GHz以下の帯域において、−5dBまで増加し、1GHz〜3GHzでは平均して−8dBであった。尚、複素比誘電率の実部は103、虚部は96であった、したがってεr’・t=3.1、εr’’・t=2.9となる。比重は1.2であった。また表面抵抗率は12kΩ/□であった。
【0034】
実施例5
一連の実施例で作製したノイズ抑制体を、市販の携帯電話のデジタルカメラユニットに張り付けてあるノイズ抑制体の替わりに取り付けた。暗い場面を撮影するときに発生していた、デジタルカメラの画像のちらつきが、従来のノイズ抑制体に比べて小さくなっていた。
【0035】
比較例4
一連の比較例で作製したノイズ抑制体を、市販の携帯電話のデジタルカメラユニットに張り付けてあるノイズ抑制体の替わりに取り付けた。既に取り付けてあったノイズ抑制体に比べ、画像のチラツキ程度が変わらなかった。
【0036】
実施例6
電波状態がきわめて微弱であるとの表示状態となるエレベータ内において、一連の実施例で作製したノイズ抑制体を用いたところ、通話状態が改善されていた。
【0037】
比較例5
電波状態がきわめて微弱であるとの表示状態となるエレベータ内において、一連の比較例で作製したノイズ抑制体を用いたところ、既に取り付けてあったノイズ抑制体に比べ、通話状態に変化はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ノイズ抑制効果の測定に用いた装置の概略図
【符号の説明】
【0039】
1 マイクロストリップラインの信号ライン
2 マイクロストリップラインのポリテトラフルオロエチレン製絶縁層
3 マクロストリップラインのグランド面
4 50Ωの同軸ケーブル
5 ネットワークアナライザ
6 ネットワークアナライザのポート1
7 ネットワークアナライザのポート2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電特性を利用したノイズ抑制体であって、厚みt(mm)、複素比誘電率の実部εr’、複素比誘電率の虚部εr”が下記の式1及び式2を満たすノイズ抑制体。
εr’・t ≦300(mm) ・・・・・ (1)
εr’’・t ≧ 3(mm) ・・・・・ (2)
【請求項2】
IEC規格(No.:IEC62333−1,IEC62333−2)により測定した1GHz以下における反射係数が−10dB以下、1GHz以上3GHz以下の反射係数S11が−16dB以下であり、かつ1GHzにおける透過係数S21が−2dB以下である請求項1記載のノイズ抑制体。
【請求項3】
導電性充填材と樹脂からなり、表面抵抗率が10Ω/□以上10Ω/□以下である請求項2記載のノイズ抑制体。
【請求項4】
前記導電性充填材が、粒子直径が10nm以上10μm以下の球状、断面直径が10nm以上10μm以下繊維状又は厚さが10nm以上10μm以下の板状の導電性粉末である請求項3記載のノイズ抑制体。
【請求項5】
前記導電性粉末が導電性炭素材料である請求項4記載のノイズ抑制体。
【請求項6】
導電性充填材と樹脂とを、体積比(導電性充填材/樹脂)35/65〜60/40の範囲で配合して得られる請求項3又は4記載のノイズ抑制体。
【請求項7】
第2の充填材を含有する請求項1〜6のいずれかに記載のノイズ抑制体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のノイズ抑制体からなる筐体を用いた電子機器。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のノイズ抑制体からなるノイズ抑制フィルム。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のノイズ抑制体を筐体内部において用いた電子機器。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載のノイズ抑制体を筐体内部において用いたデジタルカメラ。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載のノイズ抑制体を筐体内部において用いた携帯電話。
【請求項13】
請求項9記載のノイズ抑制フィルムを筐体内部において用いた電子機器。
【請求項14】
請求項9記載のノイズ抑制フィルムを筐体内部において用いたデジタルカメラ。
【請求項15】
請求項9記載のノイズ抑制フィルムを筐体内部において用いた携帯電話。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−177002(P2009−177002A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14948(P2008−14948)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】