課電式電路事故探査装置
【課題】 放射電波を受信することで事故点の探査を地上で行うことができ、受信した検出信号の解析により事故点の特定を適正に行い得る課電式電路事故探査装置を提供すること
【解決手段】 電波受信のためのアンテナ3と、アンテナ3に接続して電路1から放射した電波を検出する検出手段と、検出手段の検出信号が電路1の位置に応じて相違することにより事故点の判別を行う判別処理手段とを備えて探査装置2とする。事故点の探査は、事故区間の電路1に課電装置50によりパルス電圧を課電し、当該電路1から放射する電波fを地上で受信し、これを判定基準に照らし合わせることで事故点の判別を行う。判別処理手段としては、検出信号のレベルを検査する構成や、検出信号の波形パターンを検査する構成を採る。
【解決手段】 電波受信のためのアンテナ3と、アンテナ3に接続して電路1から放射した電波を検出する検出手段と、検出手段の検出信号が電路1の位置に応じて相違することにより事故点の判別を行う判別処理手段とを備えて探査装置2とする。事故点の探査は、事故区間の電路1に課電装置50によりパルス電圧を課電し、当該電路1から放射する電波fを地上で受信し、これを判定基準に照らし合わせることで事故点の判別を行う。判別処理手段としては、検出信号のレベルを検査する構成や、検出信号の波形パターンを検査する構成を採る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、課電式電路事故探査装置に関するもので、より具体的には、事故区間の電路にパルス電圧を課電し、当該電路から放射する電波を地上で受信して事故点の判別を行う構成の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られるように、電路の事故点の探査に関して、事故区間の電路にパルス電圧を課電することで探査を行う方法(課電式)がある。例えば特許文献1〜3などに開示があり図1に示すように、事故区間の電路1に課電装置50を接続して直流の高電圧パルスを課電し、当該事故区間において線路1に流れる充電電流と放電電流の様子から事故点の探査を行うものであり、カレントトランスなどの近接式の電流センサ100を有した受信機101を電路1に接触させてパルス電流を検出し、事故点の位置を判別している。
【0003】
課電装置50は、例えば特許文献4〜6などに開示があり図2に示すように、直流の高電圧を発生する電源装置51,電荷蓄積用のコンデンサC1,放電用の抵抗R1,抵抗R2とコンデンサC2およびコンデンサC3をπ型に接続した波形整形回路52,放電切り替えのための真空スイッチVS1,電圧出力のための真空スイッチVS2,スイッチ制御回路53などを備えており、コンデンサC1にエネルギを蓄積し、これをスイッチ切り替えに応じて放電することでパルス電圧を出力する構成になっている。
【0004】
つまり課電装置50は所定周期でパルス電圧を出力し、これには、電源装置51は商用電源などを入力して例えば15kVの直流高電圧に変換し、コンデンサC1を充電する。コンデンサC1に蓄積した電荷エネルギは、波形整形回路52を通して真空スイッチVS2により電路1側に放電し、そして例えば10msec後に真空スイッチVS1により強制的に接地させて電路1に充電した電荷は抵抗R1を通して放電する。この一連の動作を例えば4秒おきに繰り返すようになっており、その結果、図3に示すようにパルス幅10msec,繰返し周期4sec,波高値15kVの矩形パルスを出力する。
【0005】
しかしこの方式は、検出測定のために近接式の電流センサ100を電路1に引っかけることから、作業員が電柱に登る昇柱作業が必要になり、あるいはバケット車での作業が必要になる。このため、事故点を検出するまでに多くの手間と時間がかかり、電路1と地上とにそれぞれ作業員が必要であり作業性が悪い。
【0006】
そこで、例えば特許文献7〜12などに見られるように、事故点の探査を地上で行い得るような技術の提案がある。当該技術にあっては、電路を流れるパルス電流はアンテナを備えた受信機で受信し、受信信号を所定に判別処理することで事故点の探査を行うものである。
【特許文献1】特開昭57−3056号公報
【特許文献2】特開昭57−3057号公報
【特許文献3】特開昭59−24272号公報
【特許文献4】特開昭48−50238号公報
【特許文献5】特開昭54−140929号公報
【特許文献6】特開昭54−140931号公報
【特許文献7】特開昭55−134365号公報
【特許文献8】特開昭56−3516号公報
【特許文献9】特開昭57−179764号公報
【特許文献10】特開昭58−5676号公報
【特許文献11】特開昭63−243769号公報
【特許文献12】特開昭63−243771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、そうしたアンテナ受信により地上で事故点の探査を行う装置構成のものでは、以下に示すような問題がある。
【0008】
上記した特許文献7〜12などに見られる技術にあっては、判別処理のロジックは検出信号を単発にタイミング処理する考えのものであり、単位パルスに対しては理論的には判別動作し得るようではあるが、ノイズレベルが高い現場環境では理想動作は望めなく実用性に疑問がある。
【0009】
この発明は上記した課題を解決するもので、その目的は、放射電波を受信することで事故点の探査を地上で行うことができ、受信した検出信号の解析により事故点の特定を適正に行い得る課電式電路事故探査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明に係る課電式電路事故探査装置は、事故区間の電路に課電装置によりパルス電圧を課電し、当該課電状態において前記電路の電気的な性状から事故点の探査を行う課電式電路事故探査装置であって、電波受信のためのアンテナと、前記アンテナに接続して前記電路から放射した電波を検出する検出手段と、前記検出手段の検出信号が前記電路の位置に応じて相違することにより事故点の判別を行う判別処理手段とを備える構成にした。
【0011】
前記判別処理手段は、前記放射電波の強さと発生回数が事故点の様相と検出場所によって相違することを判定基準とし、その発生回数を一定時間カウントして比較することで事故点の探査を行う構成としたり、あるいは前記放射電波の波形パターンが事故点の様相と検出場所によって相違することを判定基準とし、前記波形パターンを比較することで事故点の探査を行う構成にしたりすると良い。
【0012】
係る構成にすることにより本発明では、検出手段による検出信号は電路からの放射電波となり、これは、電路にパルス電圧を課電することで流れるパルス電流により発生した放射電波なので、電路を流れているパルス電流を検出していることになる。したがって、検出信号(パルス電流)は電路の位置に応じて相違し、事故の状況に応じた電気的な性状を示すことから、これを判定基準に照らし合わせることで事故点の判別が行える。
【0013】
判別処理手段としては、検出信号のレベルを検査する構成を採ることができ、あるいは検出信号の波形パターンを検査する構成を採ってもよく、何れにしても事故の状況は判定基準に照らし合わせることで判断でき、事故点の判別が行える。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る課電式電路事故探査装置では、放射電波を受信することで電路の事故点の探査を地上で行うことができ、作業員が電柱に登る昇柱作業やバケット車での作業が不要となり、安全にかつ効率よく作業が行える。また、受信した検出信号は、判定基準に照らし合わせる解析を行うことによって、放射電波の受信位置が、事故点より課電側にあるのかそうでないかといった、事故点との相対的な位置関係の特定を適正に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(事故点探査の概要)
図4は、本発明の好適な一実施の形態を示している。本実施形態において、課電式電路事故探査装置2は、電波受信のためのアンテナ3を有し、課電装置50により事故区間の電路1に課電することで当該電路1から放射する電波fを地上で受信して事故点の判別を行う構成になっている。課電装置50は前述した図2に示す構成のものであり、図3のようなパルス幅10msec,繰返し周期4sec,波高値15kVの矩形パルスを出力するようになっている。
【0016】
本発明に係る課電式電路事故探査装置2は、受信した検出信号の解析について複数の方式を有し、数量的にパルス計数する計数方式と、波形パターンを判別する波形判別方式との2つの方式がある。計数方式は、パルス電流による放射電波の強さと発生回数が事故点の様相と検出場所によって相違することから、その発生回数を一定時間カウントして比較することで事故点の判別を行う。波形判別方式は、パルス電流による放射電波の波形パターンが事故点の様相と検出場所によって相違することから、波形パターンを比較することで事故点の判別を行う。
【0017】
(アナログ計数方式)
図5は、本発明に係る課電式電路事故探査装置の第1の実施形態を示し、アナログ計数方式とした構成例のブロック図である。第1の実施形態の探査装置2は、アンテナ3,高周波フィルタ4と高周波増幅器5と検波器6とからなる高周波受信機7,レベル比較器8,計数回路9,表示部10などを備えており、パルス電流による放射電波はアンテナ3で受信し、高周波増幅器5によって所定レベルに増幅して検波器6により包絡線検波を行って検出し、レベル比較器8により検出信号のレベルをアナログ的に判別し、これを計数回路9により計数する構成になっている。
【0018】
検出に係る放射電波は波形が減衰振動となり、後述するようにパルス電流のエッジに対して減衰振動する波形を検出することになる。このとき、パルス電流の立ち上がりが早いことから周波数帯域は図6に示すように数kHz〜1GHzと広帯域となっている。このため、高周波受信機7では周波数帯域を所定に制限して検波することが好ましく、具体的には中心周波数は100MHz〜500MHzの範囲で放送波がない周波数を選択し、帯域幅は数10kHz〜10MHzに制限して受信を行う設定を採る。
【0019】
アンテナ3は指向性が高いアンテナが好ましく、例えば八木アンテナやツインクワッド,キュービカルクワッド等の指向性アンテナを使用し、電路1から放射した電波を的確に検出し得るように向きを調整する。もちろん、受信したい電波の周波数帯に適合した周波数特性のものを使用し、周波数帯は例えば100〜500MHzとする。
計数動作はいわゆるエッジトリガとし、基準レベルを下から上に超えた場合にのみ計数対象として計数を行う。
【0020】
つまり計数方式においては、事故点よりも手前側の電波(検出信号)だけが超えられる基準レベルを設定し、その基準レベルを超えた電波(検出信号)を所定タイミングで所定時間の計数を行い、その計数値を表示部10に表示する。所定タイミングとは、パルス電圧を課電する際のタイミングであり、例えば最初に基準レベルを超えた時間を原点とする場合と、非同期に検出をスタートしたときを原点とする場合がある。計数する所定時間は、課電するパルス電圧の1周期以上、つまり本実施形態では4sec以上であればよいが、統計的な処理とするため計数時間は長く設定することが好ましく、例えば10周期に相当する40sec程度がよい。
【0021】
(電路における事故状況)
パルス電圧を課電することでの放射電波は、電路における事故の状況に応じて相違があり、事故の状況としては、無事故,完全地絡事故,抵抗性地絡事故,放電性地絡事故の4つの状況を考慮することでよく、探査装置2では各状況における検出波形の特徴を判別動作の判定基準にしている。
【0022】
(無事故における検出波形)
図7は無事故における検出波形を説明する図である。電路1の区間において何も事故がない状態(無事故)にある場合、電路1にパルス電圧を課電することで、課電装置50から線路1に向かって充電電流が流れる。この充電電流は順次に減衰してゆき、指数関数的に減衰する。パルス電圧の課電は10msec後には抵抗R1側に切り替わるので、線路1は当該抵抗R1側が接地状態となり、線路1に充電した電荷は課電装置に向かって放電し、この放電電流の波形は課電時の電流波形と同様であり極性が逆になる。
【0023】
したがって検出に係る放射電波は、パルス電圧の課電時における電流立ち上がり(充電電流)と、強制接地時における電流立下り(放電電流)の2つの部分で発生し、何れもピークが速やかに減衰していく減衰振動の波形として検出することができる。そして、この放射電波のピーク値は、線路1の遠方側つまり課電装置50から離れるに連れて距離とともに減衰していくことになる。
【0024】
(完全地絡事故における検出波形)
図8は完全地絡事故における検出波形を説明する図である。電路1の区間において何れかの部位が接地状態にあり、接地抵抗が比較的に小さい状態(完全地絡事故)にある場合、電路1にパルス電圧を課電することで、課電装置50から線路1に向かって充電電流が流れて線路1を充電するが、これは接地状態(地絡)にある事故点を通して放電することになり、課電装置50の側で接地切り替えを行う以前に、課電時から概ね2〜5msec後に放電が完了してしまう。
【0025】
このため、事故点よりも手前では、充電電流はそのまま放電電流となり電流波形が単に1つとなる。そして、事故点よりも遠方側では手前側よりも極端に小さな充電電流が流れることになり、これは事故点を通して充電時とは逆方向に放電する。
【0026】
したがって検出に係る放射電波は、事故点の手前では充電電流の立ち上がり時に発生し、減衰振動の波形が1つとなる。そして、事故点よりも遠方側では充電電流と放電電流との2つの部分で発生し、減衰振動の波形ピーク値は2つの何れも振幅が極めて小さくなる。
【0027】
(抵抗性地絡事故における検出波形)
図9は抵抗性地絡事故における検出波形を説明する図である。電路1の区間において何れかの部位が接地状態にあり、接地抵抗が比較的に大きい状態(抵抗性地絡事故)にある場合、電路1にパルス電圧を課電することでは、課電装置50から線路1に向かって充電電流が流れて線路1を充電するが、これは接地状態(抵抗性地絡)にある事故点を通して放電することになる。
【0028】
ここで、地絡抵抗が数10kΩ程度に大きいときは、課電装置50の側で接地切り替えを行うまでの期間には事故点からの放電が完了しなく、つまり10msecの期間では線路1にある電荷は零にならないので残存した電荷は課電装置50に向かって放電し、この放電電流の波形は課電時の電流波形とは極性が逆になる。そして、事故点よりも遠方側では、手前側よりも極端に小さな充電電流が流れることになり、これもやはり10msecの期間では線路1にある電荷は零にならなく、残存した電荷は接地切り替えの際に課電装置50に向かって放電する。
【0029】
したがって検出に係る放射電波は、無事故における検出波形と同様に、パルス電圧の課電時(充電電流)と、強制接地時(放電電流)の2つの部分で発生し、事故点よりも遠方側でも同様に減衰振動の波形が2つ検出に係る。しかしこの場合は、事故点よりも遠方側での検出波形は、手前側と比べてピークが極端に小さくなる。
【0030】
(放電性地絡事故における検出波形)
図10は放電性地絡事故における検出波形を説明する図である。電路1の区間において何れかの部位が空隙(ギャップ)を持つ接地状態にあり、当該ギャップ部位で放電現象を起こし得る状態(放電性地絡事故)にある場合、電路1にパルス電圧を課電することで、課電装置50から線路1に向かって充電電流が流れて線路1を充電し、これは事故点を通して放電する。そして、ある程度放電すると電圧が落ちるので放電が停止するが、課電装置50の側で接地切り替えを行うまでの期間には電圧が回復上昇することで放電が再開し、複数回の放電を繰り返すことになり、しかし課電時から概ね3〜8msec後に放電が完了してしまう。
【0031】
事故点よりも遠方側では、放電が開始するまでは充電電流が流れるが、放電が始まると当該事故点に向けて逆方向に流れて放電し、これが複数回繰り返すことになる。
【0032】
したがって検出に係る放射電波は、事故点よりも手前側では繰り返し放電の立ち上がりに同期して発生し、減衰振動の波形が検出に係る。また、事故点よりも遠方側では、パルス電圧の課電時(充電電流)と、事故点での放電時(放電電流)とに発生し、これは連続的に連なり、減衰振動の波形が複数回繰り返しに検出に係り、事故点よりも遠方側での検出波形は手前側と比べてピークが極端に小さくなる。
【0033】
何れにしても放射電波は、事故点よりも手前側では強く発生し、遠方側では発生が弱く、上記したように事故点の様相に応じて性状が相違するので、探査装置2での計数値から事故点の判別が行える。
【0034】
このように、検波器6による検出信号は電路1からの放射電波であって、これは、電路1にパルス電圧を課電することで流れるパルス電流により発生した放射電波なので、電路1を流れているパルス電流を検出していることになる。したがって、検出信号(パルス電流)は電路1の位置に応じて相違し、事故の状況に応じた電気的な性状を示すことから、これを判定基準に照らし合わせることで事故点の判別が行える。
【0035】
したがって、放射電波を受信することで事故点の探査を地上で行うことができ、作業員が電柱に登る昇柱作業やバケット車での作業が不要であり、安全に効率よく作業が行える。また、受信した検出信号は判定基準に照らし合わせる解析を行うので、事故点の特定を適正に行うことができる。
【0036】
(ディジタル計数方式)
計数方式の構成としてはアナログ的に計数する構成の他にディジタル的に計数する構成があり、図11は本発明に係る課電式電路事故探査装置の第2の実施形態を示し、ディジタル計数方式とした構成例のブロック図である。
【0037】
第2の実施形態の探査装置2は、アンテナ3,高周波フィルタ4と高周波増幅器5と検波器6からなる高周波受信機7,A/D変換器11,レベル比較器8,遅延回路12,NOT回路13,AND回路14,計数回路9,メモリ15,表示部10などを備えており、検波器6の出力はA/D変換器11に取り込んでディジタル変換し、続く後段回路においてディジタル的に計数する構成になっている。
【0038】
ディジタル的に計数する構成を採るので、サンプリング周波数は、検波帯域幅つまり高周波フィルタ4の帯域幅の2倍以上とし、1つのパルスで重複計数が起こらないようにするため、前回基準レベルを超えて今回も超えている場合には計数しない設定とする。そして、遅延回路12,NOT回路13の経路ではレベル比較信号を1クロック遅延させて、1クロック前のレベル比較信号(フラグF)としている。
【0039】
サンプリングのタイミングとレベル判定の真理値は、図12に示す設定とする。つまり、レベル比較信号C(n),フラグF(n),判定(計数)信号D(n)とするとき、下記式に従ってレベル判定を行い、計数することになる。
【数1】
【0040】
したがって、完全地絡事故に対する設定1としては、基準レベルは、10周期の計数で事故点よりも手前側で受信できるレベルの平均値と、事故点よりも遠方側で受信できるレベルの平均値との中間程度に設定する。この設定1によれば、完全地絡事故にあるときは事故点よりも手前側では10、遠方側では3あるいは3以下となり、計数値の違いで事故点よりも手前側か遠方側かの判別ができる。
【0041】
また、完全地絡事故に対する設定2としては、基準レベルを、1周期の計数で事故点よりも遠方側で受信できるレベルの平均値よりも下で周囲雑音よりは上に設定する。この設定2によれば、完全地絡事故にあるときは事故点よりも手前側では1、遠方側では2となり、計数値の違いで事故点の位置が探査できる。
【0042】
その結果、設定1により完全地絡事故点,抵抗性地絡事故点の探査を行うことができ、設定2により完全地絡事故点の探査を行うことができる。なお、放電性地絡事故点については判別が困難であるが、これは後述する波形判別方式の構成のもので対応することができる。
【0043】
(アナログ波形判別方式)
図13は、本発明に係る課電式電路事故探査装置の第3の実施形態を示し、アナログ波形判別方式とした構成例のブロック図である。
【0044】
第3の実施形態の探査装置2は、アンテナ3,高周波フィルタ4と高周波増幅器5と検波器6からなる高周波受信機7,レベル比較器8,走査回路16,表示部10などを備えており、検波器6の出力は表示部10のY軸側に送り出すと共に、X軸制御のためにレベル比較器8,走査回路16の側へ送り出して時間掃引信号を生成し、表示部10において検出信号の波形を表示する構成になっている。
【0045】
なお、電路のパルス電流は4秒間に10msec(信号存在率0.25%)しかないので、表示部10に検出信号の波形を表示するにはトリガ信号が必要であり、このためレベル比較器8において基準レベルを超えたときに信号出力するエッジトリガを行い、これをトリガ信号として走査回路16に出力している。
【0046】
この場合、図7〜10に示したような各事故状況における検出波形を比較例としてデータ化しておき、これは過去の実測波形またはシミュレーション波形をデータ化することでよく、事故点の探査は、表示部10に表示した検出波形を比較例データと比較することにより事故点の探査を行う。
【0047】
例えば完全地絡事故の状況(図8)にあるときは、事故点よりも手前側では放射電波の検波によるパルスが1つの波形、事故点よりも遠方側では放射電波の検波によるパルスが2つの波形を表示することになり、この違いから事故点の位置が探査できる。
【0048】
また、放電性地絡事故の状況(図10)にあるときは、放電による放射電波の検波によるパルスが複数の波形を表示することになり、これらは事故点の手前側と遠方側とで波形に違いは無いものの事故点の近くで最も強く放射するため、アンテナ3の指向性による検出波形のレベル変化から事故点の位置(方向)を探査できる。
【0049】
検出波形の判別は、人間が目視により行ってもよく、あるいはパターン認識の回路構成を設けて自動化することもよい。パターン認識の回路構成を設ける場合は、各事故における放射電波について包絡線検波の波形を実測あるいはシミュレーションし、それら典型例データはテスト関数として予め用意しておき、事故探査に際して検出データとテスト関数との相互相関を取ることにより比較を行い、パターン認識する。
【0050】
波形判別による探査を行うことで、パルス電流による放射電波は、表示部10に時間領域波形として直接的に表示になり、このため放射電波の検出を直感的に容易に判断でき、確実性が高い。
【0051】
放電性地絡事故の探査は、放電による放射電波を指向性アンテナで直接的に検出して事故点を追跡するような方法が容易であり確実性が高くなる。したがって、本実施形態のような波形判別による探査が好ましい。
【0052】
また、計数方式による装置では予め基準レベルを設定しておく必要があるが、本実施形態のような波形判別方式の装置を用いてパルス電流による放射電波の波形を予備的に取得して、これを参照しつつ基準レベルの設定を行う方法を採ることもよい。
【0053】
(ディジタル波形判別方式)
図14は、本発明に係る課電式電路事故探査装置の第4の実施形態を示し、ディジタル波形判別方式とした構成例のブロック図である。
【0054】
第4の実施形態の探査装置2は、アンテナ3,高周波フィルタ4と高周波増幅器5と検波器6からなる高周波受信機7,A/D変換器11,レベル比較器8,メモリ15,表示部10などを備えており、検出信号はディジタル化してメモリ15に蓄積し、これを表示部10に波形データの形式に表示する構成になっている。
【0055】
つまり、検波器6の出力はA/D変換器11に取り込んでディジタル変換し、レベル比較器8においてトリガ検出したときに、メモリ15に蓄積した波形データについてトリガ検出の時点を原点として0.2画面程度前の時間から1画面分を表示部10に出力し、当該波形データは次回のトリガ検出があるまで持続的に表示させる表示動作を行う。
【0056】
(装置構成の変更例)
高周波受信機7としては、図示した回路構成に限定されるものではない。例えば検波器6の後段にログアンプを設けることもよく、ログアンプにより、熱雑音レベルに近い低レベル信号の検出やダイナミックレンジの改善が行える。
【0057】
また、高周波受信機7として、ヘテロダイン方式あるいはスーパーヘテロダイン方式に構成することも好ましい。
【0058】
つまり、高周波増幅器5の後段に周波数変換器を接続してヘテロダイン方式にすれば、周波数変換器への局発周波数を任意に換えることで、受信周波数を任意に変更することが可能になる。また、帯域制限,増幅,検波を中間周波数で行えば、検波帯域幅をより狭くでき、受信感度をより高くすることができる。ヘテロダイン方式の周波数配置の例としては、受信周波数300MHz〜1GHz,局発周波数260〜860MHz,中間周波数140MHz,検波帯域幅100kHzという設定がある。
【0059】
そして、周波数変換器を2段として中間周波数に変換後に第2中間周波数に変換するスーパーヘテロダイン方式にすることで、受信周波数を数GHzといった非常に高い周波数とする際に有用性がある。
【0060】
また、検波器6とA/D変換器11の間にピークホールド回路を設ける構成も採ることができる。電路に課電するパルス電圧は、一般にパルス幅10msec,立ち上がり数10nsec,周期4secとすることから、立ち上がりは高速であるが周期は非常に長く、このため、パルス検出を確実化するためサンプリングを短周期に設定することで、必要となるメモリ容量が非常に大きくなる。しかし、検波器6とA/D変換器11の間にピークホールド回路を接続する構成を採ることにより、サンプリングを長周期に設定でき、メモリ容量を低減することができる。
【0061】
また、判別処理のための構成、つまり基準レベルのコントロール,クロック生成,レベル比較,計数判定,波形判別,データ蓄積(メモリ)などのディジタルデータ処理部分は、機能素子を物理的に回路化してなるハードウェア構成に限らなく、MPU(Micro Processor Unit)とそれのファームウェアにより実現する構成にしてもよい。この場合、ハードウェアによって実現していた機能をソフトウェアにより実現できるため、装置を小型化することができ、計数方式,波形判別方式の2方式が1台の装置で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】従来の一例を示し、電路における事故点探査の概要を説明する図である。
【図2】課電装置の基本構成を示す回路図である。
【図3】課電するパルス電圧の波形を示すグラフ図である。
【図4】本発明に係る一例を示し、電路における事故点探査の概要を説明する構成図である。
【図5】本発明に係る課電式電路事故探査装置の第1の実施形態を示し、アナログ計数方式とした構成例のブロック図である。
【図6】パルス電圧を課電することでの放射電波を示すグラフ図である。
【図7】無事故における検出波形を説明する図である。
【図8】完全地絡事故における検出波形を説明する図である。
【図9】抵抗性地絡事故における検出波形を説明する図である。
【図10】放電性地絡事故における検出波形を説明する図である。
【図11】本発明に係る課電式電路事故探査装置の第2の実施形態を示し、ディジタル計数方式とした構成例のブロック図である。
【図12】ディジタル計数方式における真理値を説明するグラフ図である。
【図13】本発明に係る課電式電路事故探査装置の第3の実施形態を示し、アナログ波形判別方式とした構成例のブロック図である。
【図14】本発明に係る課電式電路事故探査装置の第4の実施形態を示し、ディジタル波形判別方式とした構成例のブロック図である。
【符号の説明】
【0063】
1 電路
2 課電式電路事故探査装置
3 アンテナ
4 高周波フィルタ
5 高周波増幅器
6 検波器
7 高周波受信機
8 レベル比較器
9 計数回路
10 表示部
11 A/D変換器
12 遅延回路
13 NOT回路
14 AND回路
15 メモリ
16 走査回路
50 課電装置
f 電波
【技術分野】
【0001】
本発明は、課電式電路事故探査装置に関するもので、より具体的には、事故区間の電路にパルス電圧を課電し、当該電路から放射する電波を地上で受信して事故点の判別を行う構成の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られるように、電路の事故点の探査に関して、事故区間の電路にパルス電圧を課電することで探査を行う方法(課電式)がある。例えば特許文献1〜3などに開示があり図1に示すように、事故区間の電路1に課電装置50を接続して直流の高電圧パルスを課電し、当該事故区間において線路1に流れる充電電流と放電電流の様子から事故点の探査を行うものであり、カレントトランスなどの近接式の電流センサ100を有した受信機101を電路1に接触させてパルス電流を検出し、事故点の位置を判別している。
【0003】
課電装置50は、例えば特許文献4〜6などに開示があり図2に示すように、直流の高電圧を発生する電源装置51,電荷蓄積用のコンデンサC1,放電用の抵抗R1,抵抗R2とコンデンサC2およびコンデンサC3をπ型に接続した波形整形回路52,放電切り替えのための真空スイッチVS1,電圧出力のための真空スイッチVS2,スイッチ制御回路53などを備えており、コンデンサC1にエネルギを蓄積し、これをスイッチ切り替えに応じて放電することでパルス電圧を出力する構成になっている。
【0004】
つまり課電装置50は所定周期でパルス電圧を出力し、これには、電源装置51は商用電源などを入力して例えば15kVの直流高電圧に変換し、コンデンサC1を充電する。コンデンサC1に蓄積した電荷エネルギは、波形整形回路52を通して真空スイッチVS2により電路1側に放電し、そして例えば10msec後に真空スイッチVS1により強制的に接地させて電路1に充電した電荷は抵抗R1を通して放電する。この一連の動作を例えば4秒おきに繰り返すようになっており、その結果、図3に示すようにパルス幅10msec,繰返し周期4sec,波高値15kVの矩形パルスを出力する。
【0005】
しかしこの方式は、検出測定のために近接式の電流センサ100を電路1に引っかけることから、作業員が電柱に登る昇柱作業が必要になり、あるいはバケット車での作業が必要になる。このため、事故点を検出するまでに多くの手間と時間がかかり、電路1と地上とにそれぞれ作業員が必要であり作業性が悪い。
【0006】
そこで、例えば特許文献7〜12などに見られるように、事故点の探査を地上で行い得るような技術の提案がある。当該技術にあっては、電路を流れるパルス電流はアンテナを備えた受信機で受信し、受信信号を所定に判別処理することで事故点の探査を行うものである。
【特許文献1】特開昭57−3056号公報
【特許文献2】特開昭57−3057号公報
【特許文献3】特開昭59−24272号公報
【特許文献4】特開昭48−50238号公報
【特許文献5】特開昭54−140929号公報
【特許文献6】特開昭54−140931号公報
【特許文献7】特開昭55−134365号公報
【特許文献8】特開昭56−3516号公報
【特許文献9】特開昭57−179764号公報
【特許文献10】特開昭58−5676号公報
【特許文献11】特開昭63−243769号公報
【特許文献12】特開昭63−243771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、そうしたアンテナ受信により地上で事故点の探査を行う装置構成のものでは、以下に示すような問題がある。
【0008】
上記した特許文献7〜12などに見られる技術にあっては、判別処理のロジックは検出信号を単発にタイミング処理する考えのものであり、単位パルスに対しては理論的には判別動作し得るようではあるが、ノイズレベルが高い現場環境では理想動作は望めなく実用性に疑問がある。
【0009】
この発明は上記した課題を解決するもので、その目的は、放射電波を受信することで事故点の探査を地上で行うことができ、受信した検出信号の解析により事故点の特定を適正に行い得る課電式電路事故探査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明に係る課電式電路事故探査装置は、事故区間の電路に課電装置によりパルス電圧を課電し、当該課電状態において前記電路の電気的な性状から事故点の探査を行う課電式電路事故探査装置であって、電波受信のためのアンテナと、前記アンテナに接続して前記電路から放射した電波を検出する検出手段と、前記検出手段の検出信号が前記電路の位置に応じて相違することにより事故点の判別を行う判別処理手段とを備える構成にした。
【0011】
前記判別処理手段は、前記放射電波の強さと発生回数が事故点の様相と検出場所によって相違することを判定基準とし、その発生回数を一定時間カウントして比較することで事故点の探査を行う構成としたり、あるいは前記放射電波の波形パターンが事故点の様相と検出場所によって相違することを判定基準とし、前記波形パターンを比較することで事故点の探査を行う構成にしたりすると良い。
【0012】
係る構成にすることにより本発明では、検出手段による検出信号は電路からの放射電波となり、これは、電路にパルス電圧を課電することで流れるパルス電流により発生した放射電波なので、電路を流れているパルス電流を検出していることになる。したがって、検出信号(パルス電流)は電路の位置に応じて相違し、事故の状況に応じた電気的な性状を示すことから、これを判定基準に照らし合わせることで事故点の判別が行える。
【0013】
判別処理手段としては、検出信号のレベルを検査する構成を採ることができ、あるいは検出信号の波形パターンを検査する構成を採ってもよく、何れにしても事故の状況は判定基準に照らし合わせることで判断でき、事故点の判別が行える。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る課電式電路事故探査装置では、放射電波を受信することで電路の事故点の探査を地上で行うことができ、作業員が電柱に登る昇柱作業やバケット車での作業が不要となり、安全にかつ効率よく作業が行える。また、受信した検出信号は、判定基準に照らし合わせる解析を行うことによって、放射電波の受信位置が、事故点より課電側にあるのかそうでないかといった、事故点との相対的な位置関係の特定を適正に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(事故点探査の概要)
図4は、本発明の好適な一実施の形態を示している。本実施形態において、課電式電路事故探査装置2は、電波受信のためのアンテナ3を有し、課電装置50により事故区間の電路1に課電することで当該電路1から放射する電波fを地上で受信して事故点の判別を行う構成になっている。課電装置50は前述した図2に示す構成のものであり、図3のようなパルス幅10msec,繰返し周期4sec,波高値15kVの矩形パルスを出力するようになっている。
【0016】
本発明に係る課電式電路事故探査装置2は、受信した検出信号の解析について複数の方式を有し、数量的にパルス計数する計数方式と、波形パターンを判別する波形判別方式との2つの方式がある。計数方式は、パルス電流による放射電波の強さと発生回数が事故点の様相と検出場所によって相違することから、その発生回数を一定時間カウントして比較することで事故点の判別を行う。波形判別方式は、パルス電流による放射電波の波形パターンが事故点の様相と検出場所によって相違することから、波形パターンを比較することで事故点の判別を行う。
【0017】
(アナログ計数方式)
図5は、本発明に係る課電式電路事故探査装置の第1の実施形態を示し、アナログ計数方式とした構成例のブロック図である。第1の実施形態の探査装置2は、アンテナ3,高周波フィルタ4と高周波増幅器5と検波器6とからなる高周波受信機7,レベル比較器8,計数回路9,表示部10などを備えており、パルス電流による放射電波はアンテナ3で受信し、高周波増幅器5によって所定レベルに増幅して検波器6により包絡線検波を行って検出し、レベル比較器8により検出信号のレベルをアナログ的に判別し、これを計数回路9により計数する構成になっている。
【0018】
検出に係る放射電波は波形が減衰振動となり、後述するようにパルス電流のエッジに対して減衰振動する波形を検出することになる。このとき、パルス電流の立ち上がりが早いことから周波数帯域は図6に示すように数kHz〜1GHzと広帯域となっている。このため、高周波受信機7では周波数帯域を所定に制限して検波することが好ましく、具体的には中心周波数は100MHz〜500MHzの範囲で放送波がない周波数を選択し、帯域幅は数10kHz〜10MHzに制限して受信を行う設定を採る。
【0019】
アンテナ3は指向性が高いアンテナが好ましく、例えば八木アンテナやツインクワッド,キュービカルクワッド等の指向性アンテナを使用し、電路1から放射した電波を的確に検出し得るように向きを調整する。もちろん、受信したい電波の周波数帯に適合した周波数特性のものを使用し、周波数帯は例えば100〜500MHzとする。
計数動作はいわゆるエッジトリガとし、基準レベルを下から上に超えた場合にのみ計数対象として計数を行う。
【0020】
つまり計数方式においては、事故点よりも手前側の電波(検出信号)だけが超えられる基準レベルを設定し、その基準レベルを超えた電波(検出信号)を所定タイミングで所定時間の計数を行い、その計数値を表示部10に表示する。所定タイミングとは、パルス電圧を課電する際のタイミングであり、例えば最初に基準レベルを超えた時間を原点とする場合と、非同期に検出をスタートしたときを原点とする場合がある。計数する所定時間は、課電するパルス電圧の1周期以上、つまり本実施形態では4sec以上であればよいが、統計的な処理とするため計数時間は長く設定することが好ましく、例えば10周期に相当する40sec程度がよい。
【0021】
(電路における事故状況)
パルス電圧を課電することでの放射電波は、電路における事故の状況に応じて相違があり、事故の状況としては、無事故,完全地絡事故,抵抗性地絡事故,放電性地絡事故の4つの状況を考慮することでよく、探査装置2では各状況における検出波形の特徴を判別動作の判定基準にしている。
【0022】
(無事故における検出波形)
図7は無事故における検出波形を説明する図である。電路1の区間において何も事故がない状態(無事故)にある場合、電路1にパルス電圧を課電することで、課電装置50から線路1に向かって充電電流が流れる。この充電電流は順次に減衰してゆき、指数関数的に減衰する。パルス電圧の課電は10msec後には抵抗R1側に切り替わるので、線路1は当該抵抗R1側が接地状態となり、線路1に充電した電荷は課電装置に向かって放電し、この放電電流の波形は課電時の電流波形と同様であり極性が逆になる。
【0023】
したがって検出に係る放射電波は、パルス電圧の課電時における電流立ち上がり(充電電流)と、強制接地時における電流立下り(放電電流)の2つの部分で発生し、何れもピークが速やかに減衰していく減衰振動の波形として検出することができる。そして、この放射電波のピーク値は、線路1の遠方側つまり課電装置50から離れるに連れて距離とともに減衰していくことになる。
【0024】
(完全地絡事故における検出波形)
図8は完全地絡事故における検出波形を説明する図である。電路1の区間において何れかの部位が接地状態にあり、接地抵抗が比較的に小さい状態(完全地絡事故)にある場合、電路1にパルス電圧を課電することで、課電装置50から線路1に向かって充電電流が流れて線路1を充電するが、これは接地状態(地絡)にある事故点を通して放電することになり、課電装置50の側で接地切り替えを行う以前に、課電時から概ね2〜5msec後に放電が完了してしまう。
【0025】
このため、事故点よりも手前では、充電電流はそのまま放電電流となり電流波形が単に1つとなる。そして、事故点よりも遠方側では手前側よりも極端に小さな充電電流が流れることになり、これは事故点を通して充電時とは逆方向に放電する。
【0026】
したがって検出に係る放射電波は、事故点の手前では充電電流の立ち上がり時に発生し、減衰振動の波形が1つとなる。そして、事故点よりも遠方側では充電電流と放電電流との2つの部分で発生し、減衰振動の波形ピーク値は2つの何れも振幅が極めて小さくなる。
【0027】
(抵抗性地絡事故における検出波形)
図9は抵抗性地絡事故における検出波形を説明する図である。電路1の区間において何れかの部位が接地状態にあり、接地抵抗が比較的に大きい状態(抵抗性地絡事故)にある場合、電路1にパルス電圧を課電することでは、課電装置50から線路1に向かって充電電流が流れて線路1を充電するが、これは接地状態(抵抗性地絡)にある事故点を通して放電することになる。
【0028】
ここで、地絡抵抗が数10kΩ程度に大きいときは、課電装置50の側で接地切り替えを行うまでの期間には事故点からの放電が完了しなく、つまり10msecの期間では線路1にある電荷は零にならないので残存した電荷は課電装置50に向かって放電し、この放電電流の波形は課電時の電流波形とは極性が逆になる。そして、事故点よりも遠方側では、手前側よりも極端に小さな充電電流が流れることになり、これもやはり10msecの期間では線路1にある電荷は零にならなく、残存した電荷は接地切り替えの際に課電装置50に向かって放電する。
【0029】
したがって検出に係る放射電波は、無事故における検出波形と同様に、パルス電圧の課電時(充電電流)と、強制接地時(放電電流)の2つの部分で発生し、事故点よりも遠方側でも同様に減衰振動の波形が2つ検出に係る。しかしこの場合は、事故点よりも遠方側での検出波形は、手前側と比べてピークが極端に小さくなる。
【0030】
(放電性地絡事故における検出波形)
図10は放電性地絡事故における検出波形を説明する図である。電路1の区間において何れかの部位が空隙(ギャップ)を持つ接地状態にあり、当該ギャップ部位で放電現象を起こし得る状態(放電性地絡事故)にある場合、電路1にパルス電圧を課電することで、課電装置50から線路1に向かって充電電流が流れて線路1を充電し、これは事故点を通して放電する。そして、ある程度放電すると電圧が落ちるので放電が停止するが、課電装置50の側で接地切り替えを行うまでの期間には電圧が回復上昇することで放電が再開し、複数回の放電を繰り返すことになり、しかし課電時から概ね3〜8msec後に放電が完了してしまう。
【0031】
事故点よりも遠方側では、放電が開始するまでは充電電流が流れるが、放電が始まると当該事故点に向けて逆方向に流れて放電し、これが複数回繰り返すことになる。
【0032】
したがって検出に係る放射電波は、事故点よりも手前側では繰り返し放電の立ち上がりに同期して発生し、減衰振動の波形が検出に係る。また、事故点よりも遠方側では、パルス電圧の課電時(充電電流)と、事故点での放電時(放電電流)とに発生し、これは連続的に連なり、減衰振動の波形が複数回繰り返しに検出に係り、事故点よりも遠方側での検出波形は手前側と比べてピークが極端に小さくなる。
【0033】
何れにしても放射電波は、事故点よりも手前側では強く発生し、遠方側では発生が弱く、上記したように事故点の様相に応じて性状が相違するので、探査装置2での計数値から事故点の判別が行える。
【0034】
このように、検波器6による検出信号は電路1からの放射電波であって、これは、電路1にパルス電圧を課電することで流れるパルス電流により発生した放射電波なので、電路1を流れているパルス電流を検出していることになる。したがって、検出信号(パルス電流)は電路1の位置に応じて相違し、事故の状況に応じた電気的な性状を示すことから、これを判定基準に照らし合わせることで事故点の判別が行える。
【0035】
したがって、放射電波を受信することで事故点の探査を地上で行うことができ、作業員が電柱に登る昇柱作業やバケット車での作業が不要であり、安全に効率よく作業が行える。また、受信した検出信号は判定基準に照らし合わせる解析を行うので、事故点の特定を適正に行うことができる。
【0036】
(ディジタル計数方式)
計数方式の構成としてはアナログ的に計数する構成の他にディジタル的に計数する構成があり、図11は本発明に係る課電式電路事故探査装置の第2の実施形態を示し、ディジタル計数方式とした構成例のブロック図である。
【0037】
第2の実施形態の探査装置2は、アンテナ3,高周波フィルタ4と高周波増幅器5と検波器6からなる高周波受信機7,A/D変換器11,レベル比較器8,遅延回路12,NOT回路13,AND回路14,計数回路9,メモリ15,表示部10などを備えており、検波器6の出力はA/D変換器11に取り込んでディジタル変換し、続く後段回路においてディジタル的に計数する構成になっている。
【0038】
ディジタル的に計数する構成を採るので、サンプリング周波数は、検波帯域幅つまり高周波フィルタ4の帯域幅の2倍以上とし、1つのパルスで重複計数が起こらないようにするため、前回基準レベルを超えて今回も超えている場合には計数しない設定とする。そして、遅延回路12,NOT回路13の経路ではレベル比較信号を1クロック遅延させて、1クロック前のレベル比較信号(フラグF)としている。
【0039】
サンプリングのタイミングとレベル判定の真理値は、図12に示す設定とする。つまり、レベル比較信号C(n),フラグF(n),判定(計数)信号D(n)とするとき、下記式に従ってレベル判定を行い、計数することになる。
【数1】
【0040】
したがって、完全地絡事故に対する設定1としては、基準レベルは、10周期の計数で事故点よりも手前側で受信できるレベルの平均値と、事故点よりも遠方側で受信できるレベルの平均値との中間程度に設定する。この設定1によれば、完全地絡事故にあるときは事故点よりも手前側では10、遠方側では3あるいは3以下となり、計数値の違いで事故点よりも手前側か遠方側かの判別ができる。
【0041】
また、完全地絡事故に対する設定2としては、基準レベルを、1周期の計数で事故点よりも遠方側で受信できるレベルの平均値よりも下で周囲雑音よりは上に設定する。この設定2によれば、完全地絡事故にあるときは事故点よりも手前側では1、遠方側では2となり、計数値の違いで事故点の位置が探査できる。
【0042】
その結果、設定1により完全地絡事故点,抵抗性地絡事故点の探査を行うことができ、設定2により完全地絡事故点の探査を行うことができる。なお、放電性地絡事故点については判別が困難であるが、これは後述する波形判別方式の構成のもので対応することができる。
【0043】
(アナログ波形判別方式)
図13は、本発明に係る課電式電路事故探査装置の第3の実施形態を示し、アナログ波形判別方式とした構成例のブロック図である。
【0044】
第3の実施形態の探査装置2は、アンテナ3,高周波フィルタ4と高周波増幅器5と検波器6からなる高周波受信機7,レベル比較器8,走査回路16,表示部10などを備えており、検波器6の出力は表示部10のY軸側に送り出すと共に、X軸制御のためにレベル比較器8,走査回路16の側へ送り出して時間掃引信号を生成し、表示部10において検出信号の波形を表示する構成になっている。
【0045】
なお、電路のパルス電流は4秒間に10msec(信号存在率0.25%)しかないので、表示部10に検出信号の波形を表示するにはトリガ信号が必要であり、このためレベル比較器8において基準レベルを超えたときに信号出力するエッジトリガを行い、これをトリガ信号として走査回路16に出力している。
【0046】
この場合、図7〜10に示したような各事故状況における検出波形を比較例としてデータ化しておき、これは過去の実測波形またはシミュレーション波形をデータ化することでよく、事故点の探査は、表示部10に表示した検出波形を比較例データと比較することにより事故点の探査を行う。
【0047】
例えば完全地絡事故の状況(図8)にあるときは、事故点よりも手前側では放射電波の検波によるパルスが1つの波形、事故点よりも遠方側では放射電波の検波によるパルスが2つの波形を表示することになり、この違いから事故点の位置が探査できる。
【0048】
また、放電性地絡事故の状況(図10)にあるときは、放電による放射電波の検波によるパルスが複数の波形を表示することになり、これらは事故点の手前側と遠方側とで波形に違いは無いものの事故点の近くで最も強く放射するため、アンテナ3の指向性による検出波形のレベル変化から事故点の位置(方向)を探査できる。
【0049】
検出波形の判別は、人間が目視により行ってもよく、あるいはパターン認識の回路構成を設けて自動化することもよい。パターン認識の回路構成を設ける場合は、各事故における放射電波について包絡線検波の波形を実測あるいはシミュレーションし、それら典型例データはテスト関数として予め用意しておき、事故探査に際して検出データとテスト関数との相互相関を取ることにより比較を行い、パターン認識する。
【0050】
波形判別による探査を行うことで、パルス電流による放射電波は、表示部10に時間領域波形として直接的に表示になり、このため放射電波の検出を直感的に容易に判断でき、確実性が高い。
【0051】
放電性地絡事故の探査は、放電による放射電波を指向性アンテナで直接的に検出して事故点を追跡するような方法が容易であり確実性が高くなる。したがって、本実施形態のような波形判別による探査が好ましい。
【0052】
また、計数方式による装置では予め基準レベルを設定しておく必要があるが、本実施形態のような波形判別方式の装置を用いてパルス電流による放射電波の波形を予備的に取得して、これを参照しつつ基準レベルの設定を行う方法を採ることもよい。
【0053】
(ディジタル波形判別方式)
図14は、本発明に係る課電式電路事故探査装置の第4の実施形態を示し、ディジタル波形判別方式とした構成例のブロック図である。
【0054】
第4の実施形態の探査装置2は、アンテナ3,高周波フィルタ4と高周波増幅器5と検波器6からなる高周波受信機7,A/D変換器11,レベル比較器8,メモリ15,表示部10などを備えており、検出信号はディジタル化してメモリ15に蓄積し、これを表示部10に波形データの形式に表示する構成になっている。
【0055】
つまり、検波器6の出力はA/D変換器11に取り込んでディジタル変換し、レベル比較器8においてトリガ検出したときに、メモリ15に蓄積した波形データについてトリガ検出の時点を原点として0.2画面程度前の時間から1画面分を表示部10に出力し、当該波形データは次回のトリガ検出があるまで持続的に表示させる表示動作を行う。
【0056】
(装置構成の変更例)
高周波受信機7としては、図示した回路構成に限定されるものではない。例えば検波器6の後段にログアンプを設けることもよく、ログアンプにより、熱雑音レベルに近い低レベル信号の検出やダイナミックレンジの改善が行える。
【0057】
また、高周波受信機7として、ヘテロダイン方式あるいはスーパーヘテロダイン方式に構成することも好ましい。
【0058】
つまり、高周波増幅器5の後段に周波数変換器を接続してヘテロダイン方式にすれば、周波数変換器への局発周波数を任意に換えることで、受信周波数を任意に変更することが可能になる。また、帯域制限,増幅,検波を中間周波数で行えば、検波帯域幅をより狭くでき、受信感度をより高くすることができる。ヘテロダイン方式の周波数配置の例としては、受信周波数300MHz〜1GHz,局発周波数260〜860MHz,中間周波数140MHz,検波帯域幅100kHzという設定がある。
【0059】
そして、周波数変換器を2段として中間周波数に変換後に第2中間周波数に変換するスーパーヘテロダイン方式にすることで、受信周波数を数GHzといった非常に高い周波数とする際に有用性がある。
【0060】
また、検波器6とA/D変換器11の間にピークホールド回路を設ける構成も採ることができる。電路に課電するパルス電圧は、一般にパルス幅10msec,立ち上がり数10nsec,周期4secとすることから、立ち上がりは高速であるが周期は非常に長く、このため、パルス検出を確実化するためサンプリングを短周期に設定することで、必要となるメモリ容量が非常に大きくなる。しかし、検波器6とA/D変換器11の間にピークホールド回路を接続する構成を採ることにより、サンプリングを長周期に設定でき、メモリ容量を低減することができる。
【0061】
また、判別処理のための構成、つまり基準レベルのコントロール,クロック生成,レベル比較,計数判定,波形判別,データ蓄積(メモリ)などのディジタルデータ処理部分は、機能素子を物理的に回路化してなるハードウェア構成に限らなく、MPU(Micro Processor Unit)とそれのファームウェアにより実現する構成にしてもよい。この場合、ハードウェアによって実現していた機能をソフトウェアにより実現できるため、装置を小型化することができ、計数方式,波形判別方式の2方式が1台の装置で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】従来の一例を示し、電路における事故点探査の概要を説明する図である。
【図2】課電装置の基本構成を示す回路図である。
【図3】課電するパルス電圧の波形を示すグラフ図である。
【図4】本発明に係る一例を示し、電路における事故点探査の概要を説明する構成図である。
【図5】本発明に係る課電式電路事故探査装置の第1の実施形態を示し、アナログ計数方式とした構成例のブロック図である。
【図6】パルス電圧を課電することでの放射電波を示すグラフ図である。
【図7】無事故における検出波形を説明する図である。
【図8】完全地絡事故における検出波形を説明する図である。
【図9】抵抗性地絡事故における検出波形を説明する図である。
【図10】放電性地絡事故における検出波形を説明する図である。
【図11】本発明に係る課電式電路事故探査装置の第2の実施形態を示し、ディジタル計数方式とした構成例のブロック図である。
【図12】ディジタル計数方式における真理値を説明するグラフ図である。
【図13】本発明に係る課電式電路事故探査装置の第3の実施形態を示し、アナログ波形判別方式とした構成例のブロック図である。
【図14】本発明に係る課電式電路事故探査装置の第4の実施形態を示し、ディジタル波形判別方式とした構成例のブロック図である。
【符号の説明】
【0063】
1 電路
2 課電式電路事故探査装置
3 アンテナ
4 高周波フィルタ
5 高周波増幅器
6 検波器
7 高周波受信機
8 レベル比較器
9 計数回路
10 表示部
11 A/D変換器
12 遅延回路
13 NOT回路
14 AND回路
15 メモリ
16 走査回路
50 課電装置
f 電波
【特許請求の範囲】
【請求項1】
事故区間の電路に課電装置によりパルス電圧を課電し、当該課電状態において前記電路の電気的な性状から事故点の探査を行う課電式電路事故探査装置であって、
電波受信のためのアンテナと
前記アンテナに接続して前記電路から放射した電波を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出信号が前記電路の位置に応じて相違することにより事故点の判別を行う判別処理手段と、を備えることを特徴とする課電式電路事故探査装置。
【請求項2】
前記判別処理手段は、前記放射電波の強さと発生回数が事故点の様相と検出場所によって相違することを判定基準とし、その発生回数を一定時間カウントして比較することで事故点の探査を行うことを特徴とする請求項1に記載の課電式電路事故探査装置。
【請求項3】
前記判別処理手段は、前記放射電波の波形パターンが事故点の様相と検出場所によって相違することを判定基準とし、前記波形パターンを比較することで事故点の探査を行うことを特徴とする請求項1に記載の課電式電路事故探査装置。
【請求項1】
事故区間の電路に課電装置によりパルス電圧を課電し、当該課電状態において前記電路の電気的な性状から事故点の探査を行う課電式電路事故探査装置であって、
電波受信のためのアンテナと
前記アンテナに接続して前記電路から放射した電波を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出信号が前記電路の位置に応じて相違することにより事故点の判別を行う判別処理手段と、を備えることを特徴とする課電式電路事故探査装置。
【請求項2】
前記判別処理手段は、前記放射電波の強さと発生回数が事故点の様相と検出場所によって相違することを判定基準とし、その発生回数を一定時間カウントして比較することで事故点の探査を行うことを特徴とする請求項1に記載の課電式電路事故探査装置。
【請求項3】
前記判別処理手段は、前記放射電波の波形パターンが事故点の様相と検出場所によって相違することを判定基準とし、前記波形パターンを比較することで事故点の探査を行うことを特徴とする請求項1に記載の課電式電路事故探査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−275831(P2006−275831A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96724(P2005−96724)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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