説明

調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜及び合わせガラス

【課題】電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シート、該調光シートを用いてなる調光体、該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスを提供する。
【解決手段】電解質層と、前記電解質層の一方の面に形成されたアノードエレクトロクロミック層と、前記電解質層の他方の面に部分的に形成されたカソードエレクトロクロミック層とを有する調光シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シート、該調光シートを用いてなる調光体、該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することにより光の透過率が変化する調光体は、広く用いられている。この調光体を建築物等や、電光板等の表示装置に応用することを目的とする検討が重ねられてきた。近年、自動車等の車内の温度を制御するために、調光体を合わせガラス用中間膜として用いた合わせガラスが提案されている。このような合わせガラス用中間膜を用いることにより、合わせガラスの光線透過率を制御することができると考えられている。
【0003】
上記調光体は、液晶材料を用いた調光体と、エレクトロクロミック化合物を用いた調光体とに大別される。なかでも、エレクトロクロミック化合物を用いた調光体は、液晶材料を用いた調光体に比べて光散乱が少なく、偏光の影響を受けない等の優れた性質を有している。
【0004】
エレクトロクロミック化合物として、無機エレクトロクロミック化合物と、有機エレクトロクロミック化合物とが知られている。また、有機エレクトロクロミック化合物として、低分子量の有機エレクトロクロミック化合物と、エレクトロクロミック性を示す高分子化合物とが検討されている。
【0005】
エレクトロクロミック化合物を用いた調光体として、対向する一対の電極基板の間に、エレクトロクロミック層と電解質層とからなる調光シートが挟み込まれている調光体が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層、イオン伝導層、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層の3層が順次積層された積層体が、2枚の導電性基板間に挟み込まれている調光体が開示されている。また、特許文献3及び特許文献4には、対向する一対の電極基板の間に、有機エレクトロクロミック化合物を含有するエレクトロクロミック層と電解質層とが挟み込まれている調光体が開示されている。
しかしながら、従来の調光体は、応答性が劣るため、電圧を印加しても光の透過率の変化が完了するまでに時間を要するという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−062030号公報
【特許文献2】特開2005−062772号公報
【特許文献3】特表2002−526801号公報
【特許文献4】特表2004−531770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シート、該調光シートを用いてなる調光体、該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電解質層と、前記電解質層の一方の面に形成されたアノードエレクトロクロミック層と、前記電解質層の他方の面に部分的に形成されたカソードエレクトロクロミック層とを有する調光シートである。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、エレクトロクロミック層と電解質層との積層体において、電解質層の一方の面にアノードエレクトロクロミック層を積層し、他方の面にカソードエレクトロクロミック層を積層することにより、著しく応答性が高く、電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シートが得られることを見出した。これは、電解質層の一方の面に形成されたアノードエレクトロクロミック層と他方の面に形成されたカソードエレクトロクロミック層との酸化還元反応が対になるため、光の透過率の変化に必要な酸化還元電位を低下させることができるためであると考えられる。
【0010】
しかしながら、電解質層の表面にカソードエレクトロクロミック層を形成すると、透過率の応答速度は向上するものの、透明導電膜と調光シートとの接着力が低下して、得られる調光体の信頼性が低下するという問題があった。そこで本発明者らは、更に鋭意検討の結果、カソードエレクトロクロミック層を電解質層表面の全面に形成するのではなく、部分的に形成することにより、高い応答速度を維持したまま、透明導電膜に対する接着力の低下を抑えて、信頼性に優れた調光体を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明の調光シートは、電解質層と、電解質層の一方の面に形成されたアノードエレクトロクロミック層と、電解質層の他方の面に部分的に形成されたカソードエレクトロクロミック層とを有する。
上記電解質層は、イオンを伝導することにより上記エレクトロクロミック層に電圧を印加し、エレクトロクロミック層の光の透過率を変化させる役割を有する。
【0012】
上記電解質層は、バインダー樹脂、支持電解質塩及び溶媒を含有することが好ましい。例えば、上記電解質層は、バインダー樹脂、支持電解質塩及び溶媒を含有する樹脂組成物を用いて形成されることが好ましい。
【0013】
上記支持電解質塩は特に限定されず、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム等の無機酸アニオンリチウム塩や、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム等の有機酸アニオンリチウム塩が挙げられる。
【0014】
上記支持電解質塩は、アンモニウムカチオンと、アニオンとの塩であってもよい。
上記アンモニウムカチオンは特に限定されず、例えば、テトラエチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、メチルプロピルピロリジニウム、メチルブチルピロリジニウム、メチルプロピルピペリジニウム、メチルブチルピペリジニウム等のアルキルアンモニウムカチオンや、エチルメチルイミダゾリウム、ジメチルエチルイミダゾリウム、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム等が挙げられる。
上記アニオンは特に限定されず、過塩素酸アニオン、ホウフッ化アニオン、リンフッ化アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドアニオン等が挙げられる。
【0015】
上記電解質層中における上記支持電解質塩の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は3重量部、好ましい上限は60重量部である。上記支持電解質塩の配合量が3重量部未満であると、イオン伝導性が低くなって、電圧を印加してもエレクトロクロミック層の光の透過率が変化しないことがある。上記支持電解質塩の配合量が60重量部を超えると、エレクトロクロミック層の応答性が低くなることがある。上記支持電解質塩の配合量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は50重量部である。
【0016】
上記電解質層は溶媒を含有することが好ましい。上記溶媒は特に限定されず、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の置換テトラヒドロフラン化合物や、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、t−ブチルエーテル、イソブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン等のエーテル化合物や、エチレングリコール、ポリエチレングリコールスルホラン、3−メチルスルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が挙げられる。
また、上記溶媒として、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート等のジエステル化合物を使用してもよい。
【0017】
上記電解質層中における溶媒の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は30重量部、好ましい上限は150重量部である。上記溶媒の配合量が30重量部未満であると、イオン伝導性が低くなって、電圧を印加してもエレクトロクロミック層の光の透過率が変化しないことがある。上記溶媒の配合量が150重量部を超えると、電解質層が形状を維持できないことがある。上記溶媒の配合量のより好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は100重量部である。
【0018】
上記バインダー樹脂は特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。透明性が高い電解質層が得られることから、ポリビニルアルコールをアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂が更に好適である。特に、上記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルブチラール樹脂であることが好適である。
【0019】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が15mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が15mol%を超えると、電解質層が白化することがある。
上記ポリビニルアセタール樹脂は水酸基量が30mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が30mol%を超えると、上記溶媒との相溶性が低下し、電解質層の透明性が低下することがある。
なお、上記アセチル基量及び上記水酸基量はJIS K 6728に準拠して、滴定法により求めることができる。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することで得られる。上記アルデヒドは炭素数4又は5のアルデヒドであることが好ましい。上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度が500未満であると、上記電解質層の形状を維持できないことがある。上記ポリビニルアルコールの平均重合度が50
00を超えると、イオン伝導性が低くなって、電圧を印加してもエレクトロクロミック層の光の透過率が変化しないことがある。
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算により求めた上記ポリビニルアルコールの重量平均分子量をポリビニルアルコール1セグメント当りの分子量で除して求められる。GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、Shodex LF−804(昭和電工社製)等が挙げられる。
【0021】
上記電解質層は熱線吸収剤を含有してもよい。
上記熱線吸収剤は、赤外線を遮蔽する性能を有すれば特に限定されないが、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、亜鉛以外の元素がドープされた酸化亜鉛粒子、六ホウ化ランタン粒子、アンチモン酸亜鉛粒子、及び、フタロシアニン構造を有する赤外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。
【0022】
上記電解質層は接着力調整剤を含有してもよい。
上記接着力調整剤は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。なかでも、炭素数2〜16のカルボン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好適であり、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、2−エチルブタン酸マグネシウム、2−エチルブタン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等が挙げられる。これらの接着力調整剤は単独で用いられてもよく、併用されてもよい。電解質層にバインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を含有する場合、電解質層は接着力調整剤を含有することが好ましい。
【0023】
上記電解質層は単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。上記電解質層が多層構造であるとは、上記電解質層が2層以上積層された構造であることを意味する。
上記電解質層が多層構造である場合、上記電解質層は、上記支持電解質塩と、上記バインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂と、上記溶媒としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、ジヘキシルアジペート(DHA)等の液状可塑剤とを含有することが好ましい。
例えば、上記液状可塑剤の含有量の異なる電解質層を積層したり、上記バインダー樹脂として水酸基量の異なるポリビニルアセタール樹脂を含有する電解質層を積層したりすることにより、得られる合わせガラスの遮音性等を向上させることができる。
【0024】
上記電解質層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.1mm、好ましい上限は3.0mmである。上記電解質層の厚さが0.1mm未満であると、上記エレクトロクロミック層に電圧を印加しても光の透過率が変化しないことがあり、3.0mmを超えると、上記エレクトロクロミック層に電圧を印加した場合、光の透過率の変化速度が低下することがある。上記電解質層の厚さのより好ましい下限は0.3mm、より好ましい上限は1.0mmである。
【0025】
上記電解質層を形成する方法は特に限定されず、例えば、上記溶媒に上記支持電解質塩を溶解した溶液を調製し、得られた溶液を上記バインダー樹脂と混合した混合物を熱プレス等の方法により電解質層を形成する方法や、該混合物を押出機により押出成形し電解質層を形成する方法等が挙げられる。
【0026】
上記アノードエレクトロクロミック層は、導電性高分子を含有することが好ましい。上記アノードエレクトロクロミック層は、酸化により可視光線透過率が増加する性質を有する。
なお、エレクトロクロミック性を有するとは、電圧を印加することにより光の透過率が変化する性質を有することを意味する。上記アノードエレクトロクロミック層は電解質層の一方の面の全面に形成されていることが好ましい。
【0027】
上記導電性高分子として、例えば、ポリピロール化合物、ポリアセチレン化合物、ポリチオフェン化合物、ポリパラフェニレンビニレン化合物、ポリアニリン化合物、ポリエチレンジオキシチオフェン化合物等が挙げられる。なかでも、ポリアセチレン化合物が好ましく、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物がより好ましい。
【0028】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、エレクトロクロミック性と導電性とを有し、かつ、アノードエレクトロクロミック層の形成が容易である。従って、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物を用いれば、優れた調光性能を有するアノードエレクトロクロミック層を容易に形成できる。また、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、構造が変化することにより、吸収特性の変化を示す。その結果、吸収スペクトルが近赤外線の波長領域に及ぶため、アノードエレクトロクロミック層は広い波長領域について優れた調光性能を有する。
【0029】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は特に限定されないが、例えば、一置換又は二置換の芳香族を側鎖に有するポリアセチレン化合物等が好適である。
【0030】
上記芳香族側鎖を構成する置換基は特に限定されないが、例えば、フェニル、p−フルオロフェニル、p−クロロフェニル、p−ブロモフェニル、p−ヨードフェニル、p−ヘキシルフェニル、p−オクチルフェニル、p−シアノフェニル、p−アセトキシフェニル、p−アセトフェニル、ビフェニル、o−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、p−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、o−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、p−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、o−(トリフェニルシリル)フェニル、p−(トリフェニルシリル)フェニル、o−(トリルジメチルシリル)フェニル、p−(トリルジメチルシリル)フェニル、o−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、p−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、o−(フェネチルジメチルシリル)フェニル、p−(フェネチルジメチルシリル)フェニル等のフェニル基や、ビフェニル基や、1−ナフチル、2−ナフチル、1−(4−フルオロ)ナフチル、1−(4−クロロ)ナフチル、1−(4−ブロモ)ナフチル、1−(4−ヘキシル)ナフチル、1−(4−オクチル)ナフチル等のナフチル基や、ナフタレン基や、1−アントラセン、1−(4−クロロ)アントラセン、1−(4−オクチル)アントラセン等のアントラセン基や、1−フェナントレン等のフェナントレン基や、1−フルオレン等のフルオレン基や、1−ペリレン等のペリレン基等が挙げられる。
【0031】
上記アノードエレクトロクロミック層は、熱線吸収剤や接着力調整剤を含有してもよい。上記熱線吸収剤は、上記電解質層に含有される熱線吸収剤と同様の熱線吸収剤を用いることができる。上記接着力調整剤は、上記電解質層に含有される接着力調整剤と同様の接着力調整剤を用いることができる。
【0032】
上記アノードエレクトロクロミック層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は2μmである。上記アノードエレクトロクロミック層の厚さが0.05μm未満であると、上記アノードエレクトロクロミック層に電圧を印加しても充分に光の透過率が変化しないことがあり、2μmを超えると、調光体の透明性が低下することがある。上記アノードエレクトロクロミック層の厚さのより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は1μmである。
【0033】
上記アノードエレクトロクロミック層は上記バインダー樹脂を含有してもよい。上記バイ
ンダー樹脂は上記電解質層に含まれるバインダー樹脂と同様のバインダー樹脂を用いることができる。
【0034】
上記アノードエレクトロクロミック層を形成する方法として、上記導電性高分子を有機溶剤に溶解させた溶液を調整し、得られた溶液を上記電解質層の一方の面に塗布し、有機溶剤を揮発させる方法等が挙げられる。
【0035】
上記カソードエレクトロクロミック層は、混合原子価錯体を含有することが好ましい。上記カソードエレクトロクロミック層は、還元により可視光線透過率が高くなる性質を有する。
【0036】
上記混合原子価錯体として、例えば、プルシアンブルー型錯体(KFe[Fe(CN)])等が挙げられる。上記カソードエレクトロクロミック層に上記混合原子価錯体を含有させることにより、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体を得ることができる。
【0037】
上記カソードエレクトロクロミック層は、熱線吸収剤や接着力調整剤を含有してもよい。上記熱線吸収剤は、上記電解質層に含有される熱線吸収剤と同様の熱線吸収剤を用いることができる。上記接着力調整剤は、上記電解質層に含有される接着力調整剤と同様の接着力調整剤を用いることができる。
【0038】
上記カソードエレクトロクロミック層は上記バインダー樹脂を含有してもよい。上記バインダー樹脂は上記電解質層に含まれるバインダー樹脂と同様のバインダー樹脂を用いることができる。
【0039】
上記カソードエレクトロクロミック層は、上記電解質層の上記アノードエレクトロクロミック層が形成された面とは反対側の面に部分的に形成されている。上記カソードエレクトロクロミック層を上記電解質層の全面に形成すると、透過率の応答速度は向上するものの、透明導電膜と調光シートとの接着力が低下して、得られる調光体の信頼性が低下してしまう。上記カソードエレクトロクロミック層を電解質層表面の全面に形成するのではなく、部分的に形成することにより、高い応答速度を維持したまま、透明導電膜に対する接着力の低下を抑えて、信頼性に優れた調光体を得ることができる。
上記部分的に形成されたカソードエレクトロクロミック層の形状は特に限定されず、網目状、線状又は斑点状等が挙げられる。
【0040】
上記電解質層の面積に対する上記カソードエレクトロクロミック層の面積の好ましい下限は10%、好ましい上限は99%である。上記カソードエレクトロクロミック層の面積が10%未満であると、充分な透過率の応答速度の向上効果が得られないことがあり、99%を超えると、透明導電膜と調光シートとの接着力が低下して、得られる調光体の信頼性が低下することがある。上記カソードエレクトロクロミック層の面積のより好ましい下限は50%、より好ましい上限は95%である。
なお、電解質層の面積に対するカソードエレクトロクロミック層の面積X(%)は、以下の式で表される。
X(%)=(Amm)/(10mm)×100
カソードエレクトロクロミック層を形成した後の電解質層を光学顕微鏡で観察し、カソードエレクトロクロミック層が形成された任意の10箇所(1mm/1箇所)における、カソードエレクトロクロミック層の存在する合計面積A(mm)を測定し、カソードエレクトロクロミック層の面積X(%)を算出する。
【0041】
上記カソードエレクトロクロミック層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は2μmである。上記カソードエレクトロクロミック層の厚さが0.05μm未満であると、上記カソードエレクトロクロミック層に電圧を印加しても充分に光の透過率が変化しないことがあり、2μmを超えると、調光体の透明性が低下することがある。上記カソードエレクトロクロミック層の厚さのより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は1μmである。
【0042】
上記カソードエレクトロクロミック層を形成する方法として、上記混合原子価錯体を水や有機溶剤に分散させた分散液を調製し、得られた溶液を上記電解質層にスクリーン印刷法等の従来公知の印刷法により部分的に塗布する方法や、透明板の導電膜上に電着法により上記混合原子価錯体を析出させる方法等が挙げられる。例えば、上記電解質層の一方の面に、上記導電性高分子を有機溶剤に溶解させた溶液を塗布し、有機溶剤を揮発させ、アノードエレクトロクロミック層を形成する工程と、上記電解質層の他方の面に、上記混合原子価錯体を有機溶剤に分散させた溶液をスクリーン印刷法により部分的に塗布し、有機溶剤を揮発させ、カソードエレクトロクロミック層を形成する工程とを行なうことが好ましい。
上記混合原子価錯体を水や有機溶剤に分散させる方法は特に限定されないが、例えば、サンドミル、ビーズミル、ミキサー、超音波による分散等公知の方法で上記混合原子価錯体を粒子化して分散液を調製する方法等が挙げられる。
また、共押出法により、上記アノードエレクトロクロミック層と、上記電解質層と、上記カソードエレクトロクロミック層とが積層された調光シートを製造してもよい。
なお、アノードエレクトロクロミック層と電解質層とが積層されている調光フィルムと、透明板の導電膜上に部分的に形成されたカソードエレクトロクロミック層とを、電解質層とカソードエレクトロクロミック層とが接するように、積層してもよい。
【0043】
本発明の調光シートは、上記電解質層、アノードエレクトロクロミック層、カソードエレクトロクロミック層以外に、必要に応じて、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層や、熱線吸収剤を含有する赤外線吸収層等を有してもよい。
【0044】
本発明の調光シートは、表面にエンボスが形成されていてもよい。
上記エンボスの粗さは特に限定されないが、JIS B 0601で定義される十点平均粗さの好ましい下限が20μm、好ましい上限が50μmである。
【0045】
本発明の調光シートが、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれている調光体もまた、本発明の1つである。
本発明の調光体においては、上記アノードエレクトロクロミック層は、上記導電膜と接するように積層され、上記カソードエレクトロクロミック層も同様に、上記導電膜と接するように積層されていることが好ましい。
【0046】
本発明の調光シートは、合わせガラス用中間膜として使用することができる。上記調光シートを用いる合わせガラス用中間膜もまた、本発明の1つである。
本発明の合わせガラス用中間膜は、本発明の調光シートの構成以外に、必要に応じて、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層や、熱線吸収剤を含有する赤外線吸収層等を有してもよい。
【0047】
本発明の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板とで、本発明の調光シート又は合わせガラス用中間膜を挟持した調光体又は合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0048】
上記導電膜は、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等を含む透明導電膜が好ましい。
【0049】
本発明の調光体又は合わせガラスの面密度は特に限定されないが、12kg/m以下であることが好ましい。
本発明の合わせガラスは、自動車用ガラスとして使用する場合は、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして用いることができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シート、該調光シートを用いてなる調光体、該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
(1)電解質層の調製
溶媒としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート2.38gに、支持電解質塩としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)0.67gを溶解して電解質溶液を調製した。得られた電解質溶液の全量と、バインダー樹脂として、平均重合度が2300であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化して得られたポリビニルブチラール樹脂(アセチル基量13mol%、水酸基量22mol%)5.00gとを混合して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートに挟み、厚さ400μmのスペーサを介して、熱プレスにて150℃、100kg/cmの条件で5分間加圧し、厚さ400μmの電解質層を得た。
【0053】
(2)アノードエレクトロクロミック層の形成
導電性高分子として、ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)0.03915gを1.305gのトルエンに溶解して溶液を調製した。この溶液を、得られた電解質層の一方の面に、トルエンが揮発した後の厚さが0.3μmになるようにバーコーターを用いて塗布し、乾燥してアノードエレクトロクロミック層を形成した。
【0054】
(3)カソードエレクトロクロミック層の形成
プルシアンブルー(ACROS ORGANICS社製)0.2gをエタノール19.8gに添加した液中に直径3mmのステンレス球80gを加え、ペイントシェーカー(セイワ技研社製)にて1時間振とうすることでプルシアンブルー粒子がエタノール中に分散した分散液を得た。プルシアンブルー粒子の体積平均粒子径を粒度分布計(Nicomp社製、「380ZLS−S」)で測定したところ、132nm(CV値33.8%)であった。
【0055】
得られた分散液を、上記アノードエレクトロクロミック層が形成された電解質層の他方の面上へ、スクリーン印刷法を用いて、電解質層の面積に対するカソードエレクトロクロミック層の面積が50%となるように網目状に印刷し、乾燥してカソードエレクトロクロミック層を形成して、調光シートを得た。
なお、電解質層の面積に対するカソードエレクトロクロミック層の面積X(%)は、以下の式で算出した。
X(%)=(Amm)/(10mm)×100
カソードエレクトロクロミック層を形成した後の電解質層を光学顕微鏡で観察し、カソードエレクトロクロミック層が形成された、任意の10箇所(1mm/1箇所)における、カソードエレクトロクロミック層の存在する合計面積A(mm)を測定し、カソードエレクトロクロミック層の面積X(%)を算出した。
【0056】
(4)合わせガラスの製造
得られた調光シートを縦5cm×横5cmのサイズに切断し、これを合わせガラス用中間膜とした。
得られた合わせガラス用中間膜を、縦5cm×横5cmの一対のITO透明導電膜が形成されたガラス(表面抵抗120Ω)で、合わせガラス用中間膜がそれぞれの透明導電膜と接するように挟み込んで積層した。得られた積層体を、90℃の真空ラミネーターで圧着し、圧着後140℃、14MPaの条件でオートクレーブを行い、合わせガラスを得た。
【0057】
(5)密着性評価用サンプル
得られた調光シート(縦25mm×横150mm)を、カソードエレクトロクロミック層側が、ITO透明導電膜が形成されたガラス(表面抵抗120Ω、縦25mm×横150mm)側に、アノードエレクトロクロミック層側が、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム側になるようにして、ガラスとPETフィルムA(縦25mm×横150mm)との間に挟み込むことにより、積層体を得た。積層体を作製する際に、調光シートとITO透明導電膜が形成されたガラスとの間に、積層体の横方向の一方の端部とPETフィルムB(縦25mm×横20mm)の横方向の一方の端部とが一致するように、PETフィルムBを挟み込んだ。即ち、積層体の横方向の一方の端部から20mmの領域Aにおいては、ITO透明導電膜が形成されたガラスと、PETフィルムBと、調光シートと、PETフィルムAとがこの順に積層されていた。積層体の他の領域Bにおいては、ITO透明導電膜が形成されたガラスと、調光シートと、PETフィルムAとがこの順に積層されていた。積層体を90℃の真空ラミネーターで圧着し、140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、密着性評価用サンプル(縦25mm×横150mm)とした。
【0058】
(実施例2〜4、比較例1〜2)
電解質層の面積に対するカソードエレクトロクロミック層の面積を、表1に記載したように変更した以外は実施例1と同様にして、調光シート、合わせガラス用中間膜、合わせガラス及び密着性評価用サンプルを得た。
【0059】
(評価)
実施例及び比較例で得られた合わせガラス及び密着性評価用サンプルについて、以下の方法で評価を行った。結果を表1に示した。
【0060】
(1)密着性の評価
得られた密着性評価用サンプルについて、領域AにおけるPETフィルムBを除去した後、JIS K 6854−2に準ずる方法により、透明導電膜と調光シートのカソードエレクトロクロミック層側との180°剥離強度を測定した。試験条件は、温度を25℃、剥離速度を200mm/秒とした。
【0061】
(2)エレクトロクロミック性の評価
完全に着色した状態の合わせガラスの640nmの透過率をTC、完全に消色した状態の合わせガラスの640nmの透過率をTBとする。完全に着色した状態の合わせガラスに+2Vの電圧を印加し、完全に消色した状態とした後、合わせガラスに−2Vの電圧を印加してから、合わせガラスの640nmの透過率がTBからT1=TB−(TB−TC)×0.8まで変化する時間(以下、着色時間ともいう)を確認した。なお、透過率の測定には、日本分光社製の分光光度計「V−670」を用いた。
着色時間が20秒以内であった場合を「○」、20秒を超えた場合を「×]と評価した。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シート、該調光シートを用いてなる調光体、該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、及び、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層の一方の面に形成されたアノードエレクトロクロミック層と、前記電解質層の他方の面に部分的に形成されたカソードエレクトロクロミック層とを有することを特徴とする調光シート。
【請求項2】
電解質層の面積に対するカソードエレクトロクロミック層の面積の割合が10〜99%であることを特徴とする請求項1記載の調光シート。
【請求項3】
カソードエレクトロクロミック層の形状が網目状、線状又は斑点状であることを特徴とする請求項1又は2記載の調光シート。
【請求項4】
アノードエレクトロクロミック層は、芳香環を側鎖に有するポリアセチレン化合物を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の調光シート。
【請求項5】
カソードエレクトロクロミック層は、プルシアンブルー型錯体を含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の調光シート。
【請求項6】
電解質層は、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して支持電解質塩3〜60重量部、溶媒30〜150重量部を含有し、前記ポリビニルアセタール樹脂は、炭素数が4又は5のアルデヒドによりアセタール化して得られた、アセチル基量が15mol%以下、水酸基量が30mol%以下であるポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の調光シート。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の調光シートが、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれていることを特徴とする調光体。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の調光シートを用いることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
請求項8記載の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれていることを特徴とする合わせガラス。


【公開番号】特開2012−68410(P2012−68410A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212713(P2010−212713)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】