説明

調光素子

【課題】面積が増大しても応答速度の均一性を確保できる可撓性調光素子を廉価に提供すること。
【解決手段】透明導電膜11と、透明導電膜11よりも抵抗率が小さい導電性材料からなる線幅が50μm以下であり、厚みが200Å以上である網目状に配列した導電ネットワーク12と、が可撓性透明基板10の上に積層された透明電極基板1を少なくとも一方の電極としている。この導電ネットワーク12は、印刷太りを考慮して互いに隣接されるマスク部間に形成される隙間の幅が50μm以下になるように溶剤溶解性材料でマスク部を島状に印刷する(a)マスク部印刷工程、全面に導電性材料を積層させる(b)導電材料積層工程、マスク部の表面に積層された導電性材料とともにマスク部を溶剤で除去する(c)ネットワーク生成工程により形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
面積が増大しても応答速度の均一性を確保できる可撓性(フレキシブル)調光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的な入力により材料の色が変化する現象であるエレクトロクロミズムを利用した調光ガラスなどの調光素子が古くから提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
このようなエレクトロクロミック型の調光ガラスは、ガラス板上に付着させたITO(インジウム/スズ−酸化物)、SnO2 などの透明電極膜を互いに対向配置させた2枚のガラス板の内側面(透明電極膜の付着面)の外周辺に、銀、銅などの導体性ペースト、箔、板などから形成される電極が設置されて構成されている。2枚のガラス板のうち1枚のガラス板の透明電極膜の上に更に酸化タングステンなどのエレクトロクロミック剤を付着させ、これら2枚のガラス板間の周辺をシール剤で密封し、シール剤の内周側に電解質を封入している。
【0003】
この電解質に、それぞれのガラス板の外周辺に設置された電極を介して通電することにより、電解質とエレクトロクロミック剤との間における反応により、エレクトロクロミック剤の着色、変色、消色がなされる。
このような調光素子は、近年の環境問題の高まりを受けて、そのニーズが増し、例えば、自動車や建築物の窓に利用し、夏の暑い日差しを防ぐことで冷房効果を高めることなどが期待されている。
【0004】
しかしながら、このような調光素子は、ITOなどの金属酸化物を透明ガラス基板に蒸着した透明電極を用いたものが、高級自動車に搭載されるなどで、すでにごく一部に使用されているものの、材料および製造プロセスに関するコストの問題などから、十分には普及されていない。
透明ガラス基板に代えてPETフィルムのようなプラスチック基板を用いれば、製造コストの低減化が図れ、また、フレキシブルデバイスに対するニーズも満足させることができると期待される。
【0005】
ガラス基板上へのITO薄膜の作製では、通常、250℃程度に加熱した基板上にITO薄膜を堆積させている。これにより、ITOは、結晶粒が数百nmに大きく成長した多結晶薄膜とされる。しかしながら、ITO薄膜の作製で、基板温度が低下すると(例えば、50℃以下の低温)、非晶質相や微細な結晶粒からなる膜となる。そのため加熱基板上に形成した膜とは構造も特性も異なったものとなり、抵抗率が増大する(例えば、非特許文献1参照。)。
【特許文献1】特公平6−93067号公報
【非特許文献1】「透明導電膜II」株式会社シーエムシー出版、澤田豊監修、2007年10月25日発行、第73頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板をガラスに代えてプラスチック材料とすると、プラスチック材料は、一般に軟化温度が低く、金属酸化物を蒸着する際の基板温度を高温にできないため、金属酸化物の結晶化がうまく生起しない。それ故、ガラス基板で適用される技術をそのままプラスチック基板に適用したのでは、調光素子の応答速度が低下するなどの課題がある。
【0007】
例えば、ITO/PET系の透明導電基板は、ITO/ガラス系の透明導電基板に比べて表面抵抗値が50倍以上大きくなる。PETフィルムのようなプラスチックフィルムは、大面積化が容易であり、また、ガラス基板に比べて価格が低いという特徴を有する。しかしながら、外周辺に電極を備え、外周辺から供給される電圧により駆動する調光素子では、透明導電膜の抵抗率の低下は、調光素子の面積を増大させた場合の周辺電極から遠ざかる中央部での応答速度の極端な低下をもたらし、重要な課題となる。
【0008】
金属酸化物の堆積層の厚みを大きくすれば抵抗率をある程度低下させることができるが、光線透過率が膜厚に比例して小さくなるに加えて、抵抗率の低下には限界がある。
一方、抵抗率が小さい金属でも薄膜にすれば、光線透過性能を有する。例えば、数拾Åよりも薄い厚みのアルミニウム蒸着膜では、光線を透過させる。しかしながら、抵抗率が小さい金属でも、光線が十分に透過する薄膜とすると抵抗率が著しく増大する。それ故、金属薄膜では、十分な光線透過率を確保しつつ表面抵抗率を下げることはできない。
【0009】
特許文献1によれば、調光素子の少なくとも一方の透明電極に低抵抗の金属などの導電性の線状物を積層して、透明電極膜による電圧低下を防ぎ、着消色に要する応答時間を短縮させることが提案されている。また、この線の幅を10μm〜200μm程度とすることにより目に見えにくくすることができるとの提案がある。
また、特許文献1には、「この線状物は、蒸着、スパッタリング、メッキ等により所望のパターンに形成させればよく、導電性組成物の場合には、それらの材料を印刷、ディスペンサーによる供給等の方法により形成されればよい。また、このパターニングは、最初から所望のパターンに形成してもよいし、全面に形成した後にパターニングしてもよい。」旨の説明がある。
【0010】
さらに特許文献1の実施例では、ITOの透明導電膜を付与ガラス基板上に、金属細線を配設した上で、シリコンゴムを印刷によりオーバーコートさせて金属細線をITO膜上に固定する技術が開示されている。
しかしながら、繊維径として10μm前後の金属細線を用いれば、実質的に細線の存在が気になることは少なくなるが、製造しようとする調光素子の面積が増大するに連れて、また、金属細線の太さが細くなるに連れて、金属細線を等間隔で再現性よく配設させることが困難となり、また、コスト高となるという課題がある。
【0011】
一方、蒸着、スパッタリング、メッキの技術をそのまま採用したのでは、線状物の太さを細くして、目に見えにくくするのは困難である。また、導電性組成物をそのまま印刷により付与させる場合の線幅の安定は80μm程度であり、安定して細線を直接印刷することは一般的に困難である。
半導体デバイスの技術で適用されているフォトリソグラフィーの技術を用いれば、数μm程度の線幅のパターニングも可能であるが、A4サイズ乃至はそれ以上の大面積化が要求される用途では、半導体デバイスで適用されているフォトリソグラフィーの技術の転用では、廉価に製造することはできない。
【0012】
本発明の目的は、面積が増大しても応答速度の均一性を確保できる可撓性の調光素子を廉価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の調光素子は、透明導電膜と、透明導電膜よりも抵抗率が小さい導電性材料からなる線幅Dが50μm以下であり、厚みtが200Å(0.02μm)以上である線状導電層が網目状に配列した導電ネットワークと、が可撓性透明基板の上に積層された透明電極基板を少なくとも一方の電極としている。
ここで、厚みtに対する線幅Dの比(D/t)で定義されるアスペクト比が2以上であり、かつ、可撓性透明電極基板の全面積Saに対する導電ネットワークが積層されていない部分の面積Stの比(St/Sa)で定義される開口率Aが80%以上であることが好ましい。
このような導電ネットワークは、次の工程を含んで製造される。
(a:マスク部印刷工程)前記可撓性透明基板上または該可撓性透明基板上に積層された透明導電層の上に、印刷太りを考慮して互いに隣接されるマスク部間に形成される隙間の線幅が50μm以下になるように溶剤溶解性材料でマスク部を島状に印刷する工程。
(b:導電性材料積層工程)前記マスク部を含んでもよい前記可撓性透明基板の全面に導電性材料を厚みが200Å(0.02μm)以上となるように積層させる工程。
(c:ネットワーク生成工程)前記マスク部を該マスク部の表面に積層された導電性材料とともに溶剤で除去して前記導電ネットワークを生成させる工程。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従えば、微細加工の工程が基本的に印刷に基づくので、廉価なプラスチックフィルムを透明可撓性基板として採用することにより、大幅なコストダウンを図ることが可能となる。
これにより、調光素子であって、透明ガラス基板に代えてPETフィルムのようなプラスチック基板を用いることが可能となり、製造コストの低減化が図れ、また、フレキシブルデバイスに対するニーズも満足させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
一般に、透明導電膜の抵抗率が大きくなると、調光素子の大面積化に伴って中央付近での応答速度が低下する。これは、周囲の電極から電圧が印加されても、電極から遠ざかるに連れて透明導電膜の抵抗による電圧降下が増大するためである。
これに対し、本発明の調光素子では、抵抗率の大きな透明導電膜に接触して該透明導電膜を構成する材料よりも抵抗率が小さい導電性材料からなる導電ネットワークが積層されている。これにより、調光素子の面積が増大しても、電極から遠ざかった位置での導電ネットワークでの電圧降下は少ない。
すなわち、本発明の調光素子では、導電ネットワークを構成する一つの網目が1ユニットのモジュールとして駆動させることができる。これにより、調光素子の面積が増大しても駆動セルの数を増大させることにより、1ユニットの駆動セルの面積を小さくすれば、中央付近でも実質的な応答速度の低下を抑制できる。これにより、透明電極膜の外周囲のすべてに電極を設ける必要がなく、例えば、1箇所または数箇所からの通電でもよく、また、一辺、二辺、または三辺であり、周囲の少なくとも一辺に電極が配設されない構成を採用することもできる。
【0016】
また、この導電ネットワークは、(a):マスク部印刷工程、(b):導電性材料積層工程及び(c):ネットワーク生成工程(マスク部除去工程)により生成される。
すなわち、マスク部を印刷するに際して予め画線部の印刷太りを考慮してマスク部を印刷することにより、マスク部間に形成される隙間の寸法が所定の設定値となるようにすることができる。
また、導電性材料の薄層を全面に積層させた後にマスク部表面の導電性材料をマスク部とともに溶剤により洗い流せば所定の線幅のネットワークのみが残る。
また、このように構成すれば、微細な線幅(10μm〜50μm)の範囲内でも、線幅の精度は±10%程度以内に形成させることができる。
【0017】
このような製造工程により導電ネットワークを生成すれば、つぎの利点を有する。
(1)
導電ネットワークと透明導電層とが線接触ではなく、面接触であるので接合部での電圧降下も少なく、また、調光素子を繰り返し屈曲させた場合でも接触部での電圧降下が少ない。
(2)
印刷工程を含むネットワークの生成は一般にコストを低減させた大量生産に好適であると言われている。しかしながら、印刷法により導電性を確保するためは、必要な印刷厚みを確保する必要がある。このため、印刷法により導電層を形成する場合の細線の太さの限界は80μm(0.08mm)程度であるといわれている。これに対し、本発明では印刷工程を含むが、「微細な細線を直接描くことがないマスク部印刷工程」が採用されているので、50μm以下という、通常の印刷では実現が困難な細線幅を備えたネットワークを生成することができる。また、印刷太りを考慮した印刷が行えるように構成されているので、印刷太りの課題点を含むことがない。
(3)
印刷工程を含むので、線幅を細くすればするほど、細線の断線も懸念されるが、細線は網目状(格子状を含む)により形成されているので、断線箇所が少ない場合には、周囲の他の回路が断線部位を含む駆動ユニットの補完をすることができる。
(4)
細線幅を細く構成できるので、開口部の面積を十分に確保でき、これにより、全体としての透明性を確保することが容易となる。
(5)
本発明に類似の導電ネットワークの形成方法として、ケミカルエッチングを行う手法も考えられる。このケミカルエッチングを行う手法では、金属薄膜がプラスチック基板上に熱圧着または蒸着される。ついで、フォトレジストの島状に開口部を備えた微細パターンをマスキングした後、ケミカルエッチングを行う。これにより金属薄膜に開口部が設けられ、金属薄膜のネットワークが生成する。しかしながら、この場合のネットワークを形成する細線の幅の限界は100μm程度である。100μm程度であれば、目に見えるに加えて、ネットワークを細かくしてユニット数を増大させると、開口部の面積を十分に確保することが困難となる。
(6)
導電性材料積層工程では、導電性を確保できる膜厚を自由にコントロールできる周知の手法(真空蒸着など)をそのまま採用できるという特徴を備える。
(7)
例えば、マスク部印刷工程で使用する材料が水溶性の材料であれば、ネットワーク生成工程は水に浸漬させるだけで余剰に積層された導電性材料がマスク部を構成する水溶性材料とともに除去されて導電ネットワークを生成できるという特徴を備えている。
(8)
プラスチック材料は一般的に線膨張率が金属材料に比べて一桁大きいといわれている。線膨張率が小さく、かつ、ガラス転移温度が300℃を超えるフレキシブルディスプレイ用の透明基板も提案されているが、価格が高い。これに対し、本発明によれば、製造工程で基板温度を200℃を超えて高める必要がない。これにより、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのような汎用プラスチックフィルムの採用が可能となり、また、金属材料とプラスチック材料との複合材料でありながら、耐久性を備えた可撓性(フレキシブル)透明電極基板を得ることができる。
【0018】
以下、本発明に係る調光素子の実施例について図面を参照しつつ説明する。なお、図面は、本発明の調光素子の特徴を説明するために、強調したい部分が寸法的に拡大され、かつ、模式的に説明されている。
【0019】
まず、本発明の調光素子は、図1〜図3に示すように、透明導電層11と、該透明導電層11よりも抵抗率が小さい導電性材料からなる線幅Dが1μm以上50μm以下の範囲内、厚みtが200Å(0.02μm)以上である線状導電層が網目状に配列した導電ネットワーク12と、が高分子透明フィルムのような可撓性透明基板の上に積層された透明電極基板10を少なくとも一方の電極としている。
【0020】
ここで、各層の積層順序は、例えば、図1に示すように、可撓性透明基板10の上に、透明導電層11と、導電ネットワーク12とが順次積層された積層構造体であっても、また、図2に示すように、可撓性透明基板10の上に導電ネットワーク12と、透明導電層11とが順次積層された積層構造体であってもよい。
また、導電ネットワーク12が透明導電層11の間に介在されてサンドイッチ状となって可撓性透明基板10の上に積層されていてもよい。
また、ITO膜は高分子フィルムに直接成膜されていてもよいが、高分子フィルムとITO膜との間にアンダーコート層を介在させてもよく、このようなアンダーコート層を形成することにより高分子フィルムに対する透明導電膜の密着性を高め、透明導電膜の剥離を一層防止することができる。
【0021】
ここで、導電ネットワーク12とは、線幅Wが1μm以上50μm以下の範囲内であり、厚みtが200Å(0.02μm)以上である線状の導電層が網目状に配列した構造体である。このような構造体は、金属の多数の帯が縦、横又は斜め等に交差して互いの交差点が電気的に接続された構造体であり、例えば、図3に示すような互いに直交した縦条と横条とから構成され、交差点が電気的に接続されている格子を含む。
【0022】
本発明に係る導電ネットワーク12は、金属細線が網目状に配列されて形成されているので、断線箇所が少ない場合には、周囲の他の回路が断線部位を含む駆動ユニットの補完をすることができるものである。このような観点から本発明に係る導電ネットワーク12とは、マスク部20の形状が正方形の格子模様である図3に示す模様に限定されず、マスク部20の形状が長方形、六角形(ハニカム状)、三角形などの多角形が包含される。また、マスク部20は、円形、楕円形をなどの曲線部を含む構成でもよい。
このような調光素子の一例では、図5に示すように、透明電極基板1上に酸化型若しくは還元型エレクトロクロミック層2を有する発色極3と、電解質4とを構成に含み、電解質4が対向電極5と発色極3との間に介在している。
【0023】
エレクトロクロミック層2を構成する材料としては、例えばWO3、MoO3、V25、Nb25、TiO2等の還元発色型材料;NiO、Cr23、MnO2、CoO、IrO2、プルシアンブルー等の酸化発色型材料が例示される。これらは真空蒸着法、電子ビーム真空蒸着法、スパッタリング法、電解重合法、ポリマー溶液塗布法、電着法等の公知の方法で成膜することができる。
安定性の高いエレクトロクロミック剤としてよく知られているプルシアンブルー(PB)のような不溶、不融の顔料の場合には、電着法やPB微粒子分散インクを調製して電極表面に塗布する方法が例示される。また、三酸化タングステン(WO3)のようなエレクトロクロミック剤は、真空蒸着法或いはスパッタリング法で基板に固定するのが一般的である。
【0024】
プルシアンブルーの結晶構造を基本とし、遷移金属の置換や欠陥の存在、空隙への各種イオン、水の侵入したプルシアンブルー型金属錯体結晶またはプルシアンブルー類縁体(シアノ其架橋型混合原子価多核金属錯体)などを用いることもでき、このようなエレクトロクロミック剤は、RGBなど多彩な色を発現させることができ、また、溶剤に溶解させることにより、また、バインダーに分散させることによって、廉価なスピンコートにより付与させることもできる。その一例は、例えば、特開2006−256954公報明細書に詳細に記載されている。
【0025】
本発明において対向極5は特には限定されず、公知の対向極をそのまま採用することができる。また、この対向極5には、後述する本発明にかかる透明電極基板を用いてもよい。
本発明において対向極5には、レドックス活性な物質を付与して用いてもよい。ここで、レドックス活性な物質(レドックス剤)とは、電子、ホールを受け取る電気化学的活性を有する化合物の総称である。このようなレドックス剤では、2つあるいはそれ以上の電気化学的な酸化状態を安定にとることができ,かつ,これらの酸化状態を電気化学的酸化反応あるいは電気化学的還元反応を用いることにより,任意に変化させることが可能である。レドックス剤を付与(固定化)することにより対向極5に十分な電気化学安定性を確保し、これにより、多数回におよぶエレクトロクロミック駆動に対しても調光素子を安定駆動させることでき、素子の寿命を増大させることができる。
【0026】
このようなレドックス剤としては、フェロセン、ヒドロキノン、キノン、カテコール、ビオローゲン、フェノチアジン、ニコチン酸アミド、などの有機系化合物、プルシアンブルー、三酸化タングステン、などの金属含有化合物、或いは、その他の電子受容性または電子供与性基を有する化合物を挙げることができる。このような化合物は、共有結合で有機高分子の骨格に導入されていてもよい。
【0027】
このようなレドックス剤は塗布、蒸着などの手法により電極表面に固定させることもできる。また、このようなレドックス剤は、ポリマー中に分散させるなどの適宜の方法で電極表面に塗布するなどしてレドックス層を形成させてもよい。
レドックス剤の固定の一例は、例えば、フェロシアンアニオンをカチオン性基含有ポリマーに分散またはイオン架橋したものを挙げることができる。カチオン性基含有ポリマーとしては、例えば、日東紡績株式会社製のポリアミンスルホン(PAS),ポリアリルアミン(PAA)などの合成高分子、または大日精化株式会社製のダイキトサン(グリッセリル化キトサン、カチオン化キトサンなど)のような天然高分子を例示することができる。
【0028】
また、本発明に係る可撓性透明基板では、プルシンブルーのような不溶、不融のエレクトロクロミック剤において、ITO膜の表面に電着法によりプルシアンブルーを生成しつつ薄膜を付与する方法を採用した場合でも、透明電極基板1上での印加電圧の均一性が確保されているので、電着膜を均一に付与させることができるという特徴を備えている。これにより、本発明の好ましい調光素子の一例は、電着法によりエレクトロクロミック層を付与した透明電極基板を発色極3として利用することである。このような電着法の一例は、K.Itaya et al.,J.Am.Chem.Soc.,1982,104,4767に記載されている。
【0029】
電界質4
は、エレクトロクロミック層2 の酸化還元反応が円滑に進行することを妨害することなく、その逆反応( いわゆる自己放電) が生起しないように電荷分離を効果的に行う目的で適用される。電界質4 には、例えば液体電解質、固体電解質、ゲル状電解質等を目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0030】
液体電解質としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、スルホラン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアマイド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等の有機溶媒又はこれらの混合物に、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩等を溶解させた溶液等が挙げられる。
また固体電解質としては、例えばポリエチレンオキシド、ポリオキシエチレングリコールポリメタクリレート等のポリマーマトリックスにアルカリ金属塩、4級アンモニウム塩等を溶解させた高分子固体電解質等が挙げられる。
半固体(ゲル状)電解質としては、高分子ゲル膜が挙げられる。このような高分子ゲル膜は、アクリル系モノマー、支持塩、溶媒及び重合開始剤を含有する溶液を加熱または光照射などにより架橋重合させて、シート状に成形することにより製造することができる。溶媒としては、例えば、炭酸プロプレン、炭酸エチレン、アセトアミド、ジメチルフォルムアミド、などの高誘電率であり、高沸点のものが好適に用いられる。
ゲル状電解質を電解質として用いれば、繰り返しの屈曲しても、液漏れのおそれが少ない。また、このようなゲル状電解質は容易に薄膜化できる。これにより、可撓性の一対の可撓性透明電極基板間に高分子ゲル膜をRoll-to-Roll法で圧着して調光素子を造ることもできる。このようにして得られた調光素子は屈曲させて用いるためにも液漏れが少ないので有利である。
【0031】
このようにして得られた高分子ゲル膜には、必要に応じて、レドックス剤を含有させることもできる。このようなレドックス剤は、フェロシアン化カリウムのような無機化合物、ヘプチルビオロゲンのような有機化合物、フェロセンのような金属化合物などを例示することができるが、これに限定されるものではない。上述した対向極に固定されるレドックス剤の代替法として適用が可能であり、これにより素子の安定化が図れる。
【0032】
また、このような調光素子の他の例では、図6に示すように、一対の透明電極基板1,1´上にそれぞれ酸化型または還元型エレクトロクロミック層2を有する発色極3,3と、電解質4とを構成に含み、電解質4が一対の発色極3,3の間に介在している。ここで、一方の発色極3側の視認性を向上させる場合には、一方の発色極3を表示極と呼称して、他方の発色極3を対向極5と呼称する場合もある。
【0033】
本発明の好ましい調光素子の一例は、酸化型発色材料と還元型発色材料との相補的利用である。すなわち、例えば、表示極(一方の発色極3)に付与されるエレクトロクロミック剤として酸化型発色材料が選択され、対向極(他方の発色極3または対向極5)として還元型発色材料が選択された調光素子では、両極表面で相補的に酸化または還元反応が進行し、着色・消色が相補的に生起する。この好ましい組み合わせの一例は、表示極側のエレクトロクロミック剤としてプルシアンブルーまたはプルシアンブルー型金属錯体結晶を選択し、対向極側のエレクトロクロミック剤として三酸化タングステンを選択する組み合わせである。このようなエレクトロクロミック剤の好ましい組み合わせの詳細は、例えば、K.Honda et al. J. Electrochem. Soc., 135,3151 (1988)などに詳細に開示されている。
【0034】
つぎに本発明における特徴部分である透明電極基板について説明する。
本発明に係る透明電極基板1の一例は、図1に示すように、可撓性透明基板10と、透明導電層11と、導電ネットワーク12とが順次積層された積層構造体である。
また、本発明に係る透明電極基板1の他の一例は、図2に示すように、可撓性透明基板10と、導電ネットワーク12と、透明導電層11とが順次積層された積層構造体である。
【0035】
ここで、可撓性透明基板10としては、可撓性と透明性を有していれば特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができる。
また、このような可撓性透明基板10を構成する素材としては、耐熱性、耐薬品性が優れた材料が望ましいが、例えば、300℃を超える耐熱性が要求される必要がないことは本発明の趣旨から明らかである。また、例えば、本発明によれば、製造工程(特に導電性材料積層工程)における可撓性透明基板の温度を高める必要がないという特徴を有し、例えば、可撓性透明基板温度が200℃を超えて高める必要がないプロセスの採用が行えるという特徴を有する。
【0036】
具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリスルホン、トリ酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等のプラスチックフィルム、シート等が挙げられ、透明な可撓性フィルムの製造が容易な熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0037】
また、透明導電層11としては、In23:Sn(ITO)、SnO2:F、ZnO:Al等の酸化物半導体薄膜が使用できる。
透明基板に透明導電膜を積層する方法はスパッタ法、真空蒸着法などの適宜の手法を採用できるが、成膜温度が200℃程度を超えない、好ましくは150℃以下、または素材によっては100℃以下または80℃以下の低温成膜により積層する方法が採用される。それらの一例は、例えば成膜温度が常温(40℃)〜200℃であるRF(高周波)スパッタ、DC(直流)+RF(高周波)スパッタ、DC(直流)スパッタなどの低温スパッタ法または真空蒸着である。
【0038】
このような透明導電層11は単層であっても、また、同種または異種の透明導電膜が積層された複層構造であってもよい。
つぎに、導電ネットワーク13は、透明導電層11を構成する材料よりも遥かに抵抗率が小さい導電性材料から形成される。
このような導電ネットワークの線幅は、最大線幅が50μm以下であり、その厚みtは200Å(0.02μm)以上である。
細線の幅dが50μmを超えると細線が視認しやすくなる。また、この線幅Dは一般には細いのが好ましので、平均線幅が30μm以下、特には20μm以下が好ましい。
【0039】
一方、線幅の下限値は限定されないが、後述する本発明に従う製造方法によっても平均線幅が1μmを超えて細くなると、細線の連続性を十分に確保できなくなるおそれがある。幅20μmの細線の描画の変動率が約10%程度で形成できることから想像すると、平均線幅が2μmまたは3μm程度であれば、再現性よく導電ネットワークを試作できるが、実用的には平均線幅が5μm以上20μmの範囲内である。
一方、線の厚みtは、あまり薄いと、どんな材料を選択しても十分に抵抗率を下げることができない。例えば、金属薄膜としてのアルミニウムの蒸着膜では、600Å(0.06μm)の厚みtの薄膜では0.3Ω/□程度である抵抗率は、200Å(0.002μm)の厚みtの薄膜では電気抵抗は1Ω/□までさらに上昇する。それ故、200Åを超えてさらに薄い薄膜を付与しても、本発明の効果を十分に発揮するのは困難となる。
【0040】
一方、ある程度の厚み(例えば、t=0.1μm〜1μm程度)を確保すれば、抵抗率を十分に低下させることができる。また、線の厚みtを必要以上に厚くすることは、透明電極基板1の内表面に不要の凹凸を付与することになる。また、線の厚みtが、例えば、10μmを超えて十分に厚くなると、屈曲した場合の耐久性が悪くなる場合がある。それ故、通常10μm以下の厚みであり、1μmあれば十分であり、好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.2μm(2000Å)以下である。
また、厚みtに対する線幅Dのアスペクト比(D/t)が2以上であることが好ましい。アスペクト比(D/t)が小さいと、透明導電層との密着性が低下し、繰り返しの屈曲に耐える程度に導電ネットワークを透明導電層の上に固定するのが困難となる。好ましいアスペクト比(D/t)は、10以上である。
【0041】
導電ネットワーク13は、基本的には、透明電極基板としての透明性を確保しつつ、大面積の調光素子の駆動単位を小さくすること、及びそれに伴い一部の細線が断線しても他の回路から駆動電圧の補完が可能であることが必要である。細線の幅を太くすれば細線の断線の確率は低下し、また、細線の数を増やせば、細線の一部が断線した場合の迂回回路も充実して駆動電圧の補完が可能である。しかしながら、細線の幅を太くすればするほど、また、細線の数を増やせば増やすほど透明電極基板としての透明性の確保が困難となる。
本発明において、可撓性透明電極基板の全面積Saに対する導電ネットワークが積層されていない部分の面積Stで定義される開口率A(=St/Sa)が80%以上であることが好ましい。
本発明に係る導電ネットワーク13では、通常、100μm以上のピッチWを有している。導電ネットワーク13の形体が互いに直交する格子模様である場合、線幅DとピッチWと、開口率Aとの関係は表1のとおりとなる。
【0042】
【表1】

【0043】
ピッチWが100μmである場合、80%以上の開口率Aを確保するには、線幅Dは10μmよりも細くなければならず、また、95%以上の開口率Aを確保するには、線幅Dが1μmよりも細くなければならない。
また、ピッチWが500μmである場合、80%以上の開口率Aを確保するには、線幅Dは50μmよりも細くなければならず、また、95%以上の開口率Aを確保するには、線幅Dが10μmよりも細くなければならない。
一方、ピッチWが10000μm(1cm)以上ある場合、線幅が50μmであれば99%以上の開口率Aを確保することができる。
【0044】
この点、例えば、線幅Dが20μm以下の範囲内でピッチWが1mm以上であれば、常に95%以上の開口率Aを確保できる。また、例えば、線幅Dが10μm以下の範囲内でピッチWが0.5mm以上であれば、常に98%以上の開口率Aを確保できる
導電ネットワーク13の付与による透明性の低下は少ないほどよい。それ故、本発明において好ましい開口率Aは、80%以上であり、さらに好ましくは90%または95%以上である。
【0045】
つぎに、一般に、透明導電膜の抵抗率が大きくなると、調光素子の大面積化に伴って応答速度が低下する。これは、周囲の電極から電圧が印加されても、電極から遠ざかるに連れて透明導電膜の抵抗による電圧降下が増大するためである。
これに対し、本発明の調光素子では、抵抗率の大きな透明導電膜(透明導電層11)に接触して透明導電膜(透明導電層11)を構成する材料よりも抵抗率が小さい導電性材料からなる導電ネットワーク12が積層されている。これにより、電極から遠ざかった位置での導電ネットワークでの電圧降下は少なくなり、また、実質的になくなる。
ここで、本発明において導電ネットワーク12を構成する一つの網目の大きさ(=ピッチW)を所定の大きさに設定すれば、調光素子の面積を増大させても駆動セルの数が増大されるだけで1ユニットのモジュールの大きさは一定となる。これにより、1ユニットの駆動セルの面積が一定(=ピッチWが一定)となって、調光素子の面積を増大させても、実質的な応答速度の低下を抑制できる。
【0046】
本発明において、ピッチWが小さければ小さいほど応答速度の低下抑制効果が得られる。しかしながら、このピッチWが10cm程度以下であれば本発明の効果が得られると考えられるので、本発明におけるピッチWの上限は10cm程度と考えられる。しかしながら、ネットワークでの迂回回路を考慮すると、好ましいピッチWは5cm以下、特に好ましくは1cm以下である。ピッチWに対する迂回回路の数は、指数関数的にピッチWの幅が狭まるに連れて増大する。その一方で、ピッチWの幅が狭まるほど開口率Aは低下する。開口率Aは、線幅Dを狭めれば増大するので、線幅Dを狭めて開口率Aが確保できれば、ピッチWは5mm以下であってもよい。
一般的に開口率Aを確保して実用的な線幅を確保するには、このピッチWの下限は0.5mmであり、好ましくは1mmである。
【0047】
つぎにこのような導電ネットワークの製造方法について図3及び図4を参照しつつ説明する。
本発明に係る導電ネットワークは、図4に示すように、(a):マスク部印刷工程、(b):導電性材料積層工程及び(c):ネットワーク生成工程により生成される。
(a):マスク部印刷工程は、可撓性透明基板10上または該可撓性透明基板10上に積層された透明導電層11の上にマスク部20を印刷する工程である。このマスク部は、溶剤溶解性材料を用いることにより、印刷太りを考慮して互いに隣接されるマスク部間に形成される隙間の最大線幅が50μm以下になるように島状に印刷する。ここで、島状とは、隣接するマスク部間が全て独立しているということである。これにより島部(マスク部)を取り除くことにより網状部(ネットワーク)が形成される。
【0048】
マスク部20の模様が正方形であれば、図3に示すように、無印刷部分21は、マスク部20により互いに格子模様に離間して生成する。この無印刷部分(格子模様)21の線幅Dのうち、中央21b付近の線幅Dbは、格子の交差点21a付近の線幅21Dbに比べて印刷太りの影響により細くなっている。
このような場合における本発明に係る最大線幅とは、この格子の交差点21a付近の線幅Daを示す。また、本発明に係る平均線幅とは、開口部の面積を計算する上で便利な単純平均の値である。
【0049】
溶剤溶解性材料としては、水、その他の溶剤に可溶性であって、印刷に適した材料であれば特には限定されない。水溶性インク、油溶性インクなどがそのまま用いることができる。また、インクとして用いるための顔料、染料などの着色剤は本質的に不要であるので、溶剤溶解性の樹脂を主成分としたインクとは異なる材料を用いてもよい。印刷特性や工程管理性を考慮した添加剤としては、各種有機、無機顔料、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ポリエチレンコンパウンド、サイロイドが挙げられる。
水溶性樹脂は、有機溶剤に比べて取り扱い性がよい。このような樹脂成分としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを用いることができる。水溶性のアクリル樹脂を主成分として、無機顔料を5質量%〜30質量%含む印刷材料は、印刷太りを極力抑えて厚みを確保できる一方で、容易に溶解除去できるので好ましい。このような顔料は、例えば、酸化チタン、炭酸マグネシウム及び沈降性硫酸バリウムから選択することができる。
【0050】
印刷する方法は特には限定されないが、グラビア印刷またはインクジェット印刷であれば、マスク部20のパターンを精度よく印刷することができる。また、特にグラビア印刷では、印刷されるマスク部20の厚みを十分に確保することができるので最も好適である。その他、フレキソ印刷、スクリーン印刷などの印刷方法であってもよい。
【0051】
(b):導電性材料積層工程は、マスク部を含んでもよい可撓性透明基板の全面に導電性材料12Aを厚みが200Å(0.02μm)以上となるように積層させる工程である。
導電性材料12Aとしては、透明導電層11を構成する材料よりも遥かに抵抗率が小さい導電性材料が選択される。このような導電性材料12Aとしては、金、銀、銅、アルミニウムなどが用いられるが、アルミニウムや銀などは真空蒸着などによりプラスチック基板の上に後から付与が容易な安価な材料として特に好ましく用いられる。
【0052】
導電性材料12Aの膜厚tは、少なくとも200Å(0.02μm)を確保する必要がある。膜厚tが薄い場合には、透明電極基板の低抵抗率化という目的を十分に達成させることが困難である。この膜厚tは、通常0.02μm〜1μm程度の範囲内である。好ましい膜厚tは、0.06μm〜0.5μmの範囲内であり、特に好ましくは0.1μm〜0.2μmの範囲内である。このような厚膜を確保するのに真空蒸着では通常数回に分けた真空蒸着工程が行われる。
導電性材料積層工程は、真空蒸着による他、例えば、必要により常法により導電化乃至は活性化処理の後、金、銀、銅、ニッケルなどの金属材料を電解または無電解メッキにより積層すればよい。
導電性金属粉を含有する導電性塗料を全面にコーティング方式で塗布してもよい。導電性金属粉としては、蒸着またはメッキの場合と同様な金属が用いられ、塗料中の金属粉の含有量は通常50〜90質量%である。
【0053】
(c):ネットワーク生成工程は、マスク部20をマスク部20の表面に積層された導電性材料12Aとともに溶剤で除去して導電ネットワーク12を生成させる工程である。
マスク部20が水溶性であれば、水または温水に浸漬させるなどによりマスク部20を除去すればよい。マスク部20の除去と同時に、マスク部20の上に積層されていた導電性材料12Aは除去され、図4(c)に示すように、導電ネットワーク12が生成する。
【0054】
このマスク部20の除去工程では、マスク部20が除去可能であればよい。このためには、マスク部印刷工程で使用された溶剤と同一溶剤で除去するのが一般的であるが、マスク部20が除去可能であれば、印刷工程で使用した溶剤とは異なってもよい。いずれにしても、導電性材料の薄層を全面に積層させた後にマスク部表面の導電性材料をマスク部20とともに溶剤により洗い流せば所定の線幅のネットワークのみが残る。
また、このように構成すれば、50μm以下の微細な線幅の導電ネットワークが形成でき、例えば、平均線幅が20μm程度でも、線幅の精度は±10%程度以内に形成させることができる。
【0055】
なお、以上の例では、導電性材料積層工程とネットワーク生成工程とを分けて説明したが、本発明においてこれらの工程は厳密な意味で分かれている必要はない。例えば、マスクされた透明電極基板の表面に金属を含むベース溶液が吹き付け、この表面に銀イオンなどの金属イオンを含む水溶液(A)と還元剤を含む水溶液(B)とを同時に吹き付け、銀鏡反応により金属イオンを還元して金属を析出した後、純水にて余剰分を水洗し、水酸化ナトリウムなどの特定の定着剤を吹き付ける工程でマスク部を除去すればよい。このような無電解めっき方法によれば、銀の薄膜の定着と同時に導電ネットワークが形成される。
【0056】
(a):マスク部印刷工程において、可撓性透明基板10上に直接導電ネットワーク12を生成させた場合には、この表面に透明導電層11を積層する。この場合の透明導電層11の積層方法は、上述したとおりの従来法がそのまま採用可能である。それらは、例えば、スパッタ法、真空蒸着法などの適宜の手法を採用できるが、製膜温度が200℃を越えない、好ましくは、150℃以下、または素材によっては100℃以下または80℃以下の低温製膜により積層する方法が採用される。それらの一例は、例えば成膜温度が常温(40℃)〜200℃であるRF(高周波)スパッタ、DC(直流)+RF(高周波)スパッタ、DC(直流)スパッタなどの低温スパッタ法または真空蒸着である。これにより、導電ネットワーク12が付与された表面に、In23:Sn(ITO)、SnO2:F、ZnO:Al等の酸化物半導体による透明導電層11を付与させ、図2に示すような透明電極基板1を作製することができる。
【0057】
このような製造工程により導電ネットワーク12では、透明導電層11とが線接触ではなく、面接触であるので接合部での電圧降下も少なく、また、調光素子を繰り返し屈曲させた場合でも接触部での電圧降下が少ない。これに対し、図7に示すように、金属細線のネット12´を透明導電層11に積層させたのでは、断面が円形の金属細線12´と透明導電層11との接点が線接触となる。シリコンゴムを印刷によりオーバーコートさせて金属細線を透明導電層11上に固定しても、断面が円形の金属細線12´と透明導電層11との接点が線接触となるので、屈曲させた場合の剥がれに金した電圧降下が懸念される。
【0058】
また、印刷工程を含むネットワークの生成は一般にコストを低減させた大量生産に好適であると言われている。しかしながら、印刷法により導電性を確保するためは、必要な印刷厚みを確保すると必要がある。このため、印刷法により導電層を形成する場合の細線の太さの限界は80μm(0.08mm)程度であるといわれている。これに対し、本発明では印刷工程を含むが、印刷工程では微細な細線を直接描くことがない(a)マスク部印刷工程が採用されているので、50μm以下という、通常の印刷では実現が困難な細線幅を備えたネットワークを生成することができる。また、印刷太りを考慮した印刷が行えるように構成されているので、印刷太りの課題点を含むことがない。
【0059】
また、本発明に係る導電ネットワークの作製には、印刷工程を含むので、線幅を細くすればするほど、細線の断線も懸念されるが、細線は網目状(格子状を含む)により形成されているので、断線箇所が少ない場合には、周囲の他の回路が断線部位を含む駆動ユニットの補完をすることができる。
また、細線幅を細く構成できるので、開口部の面積を十分に確保でき、これにより、全体としての透明性を確保することが容易となる。
また、導電性材料積層工程では、導電性を確保できる膜厚を自由にコントロールできる周知の手法(真空蒸着など)をそのまま採用できるという特徴を備える。
【0060】
また、本発明によれば、製造工程で基板温度を200℃を超えて高める必要がない。これにより、PETフィルムのような汎用プラスチックフィルムの採用が可能となり、また、金属材料とプラスチック材料との複合材料でありながら、耐久性を備えた可撓性(フレキシブル)透明電極基板を得ることができる。
これにより、本発明に従えば、微細加工の工程が基本的に印刷に基づくので、廉価なプラスチックフィルムを透明可撓性基板として採用することにより、大幅なコストダウンを図ることが可能となる。また、調光素子であって、透明ガラス基板に代えてPETフィルムのようなプラスチック基板を用いることが可能となり、製造コストの低減化が図れ、また、フレキシブルデバイスに対するニーズも満足させることができる。
【0061】
このようにして得られた導電ネットワークが電解質と反応する懸念がある場合には、導電ネットワークの酸化還元反応を防ぐ目的で導電ネットワークの表面をオーバーコートなどにより保護してもよい。オーバーコートの一例は、特許文献1に詳細に述べられているが、それらは、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリシリコーンなどの弾性を有する有機材料である。また、アルミニウムのように酸化により不動態化できるものであれば、空気中または酸素中などの雰囲気下で表面に薄い酸化膜を形成させてもよい。もちろん、導電ネットワークの表面にさらに透明導電膜の薄層を付与してもよい。
【0062】
以下、実施例により本発明を説明する。
[対照例1]
20cm×20cmの市販のITO/PETフィルムのITO膜の表面に直径1mmの銅の細線を十文字に配設し(開口率97%)、その銅細線の上をシリコンゴムを用いた印刷によりオーバーコートして、銅細線をITO膜の上に固定して一対の電極基板とする。
一方の電極基板上にさらに三酸化タングステン(WO3)を蒸着して表示電極とし、他方の電極を対向電極基板として用い、内部に挟む高分子ゲル膜としてγ-ブチロラクトン溶液に脱水したポリビニルブチラールを溶解したゲル状電解質を封入して調光素子を作製する。
この調光素子は、ITO/PETフィルムのみを電極として用いた場合に比べて応答速度が速くなり、周辺部分のみが早く着色するという色むら現象は低下するが、調光素子の屈曲性が悪く、無理に繰り返し屈曲すると、銅細線がITO膜から剥がれるのが目視で観察される。
【0063】
[実施例1]
対照例1において使用したと同一のITO/PETフィルムを用意し、以下の工程によりアルミ細線処理を施す。
(マスク部印刷工程)
溶剤溶解性材料としてのマスク部材料は、沈降性硫酸バリウム25g、イソプロピルアルコール18g、二酸化珪素2gを水溶性アクリル樹脂(WDW−859)の55gをよく分散させたものを用いる。
グラビア版深が30μm、マスク部のサイズ(正方形の一辺)が480μm、マスク間の間隔が20μmであるグラビア印刷機を用いて、印刷スピード50m/分で印刷した後80℃で十分に乾燥させる。
【0064】
(真空蒸着工程)
蒸着工程は、マスク部の印刷で得られたマスクパターンを形成したフィルムに、厚みが1000Åとなるようにアルミニウムの真空蒸着を複数回行う。
(ネットワーク形成工程)
このフィルムを40゜Cの温水に浸漬し、ウエス等でふき取る方法で水洗することにより、マスク部がマスク部上に蒸着されたアルミニウム層とともに除去される。
これにより、線幅が20μmよりも狭い、厚み0.1μmの導電ネットワークが形成される。線幅の変動率は、10%未満である。また、この導電ネットワークの開口率は92%以上であり、実質的に透明である。
得られた導電ネットワークは、酸素雰囲気下に曝した後、導電ネットワークの上をシリコンゴムを用いた印刷によりオーバーコートして、アルミニウムの導電ネットワークを保護して一対の電極基板とする。
【0065】
一方の電極基板上にさらに三酸化タングステン(WO3)を蒸着して表示電極とし、他方の電極を対向電極基板として用い、内部に挟む高分子ゲル膜としてγ-ブチロラクトン溶液に脱水したポリビニルブチラールを溶解したゲル状電解質を封入して調光素子を作製する。
この調光素子は、ITO/PETフィルムのみを電極として用いた場合に比べて応答速度が速くなり、また、中央部分と周辺部分との応答むら(色むら)現象はほとんど観察されない。また、アルミニウムの導電ネットワークが目視では気にならず、さらに、屈曲を繰り返した後でも導電ネットワークがITO膜から剥がれることはなく、耐久性に優れたものである。
【0066】
[実施例2]
市販のPETフィルム(東洋紡績(株)社製)のポリエステルフィルム(PETフィルム)を用い、以下の工程によりアルミ細線処理を施す。
(マスク部印刷工程)
溶剤溶解性材料としてのマスク部材料は、沈降性硫酸バリウム25g、イソプロピルアルコール18g、二酸化珪素2gを水溶性アクリル樹脂(WDW−859)の55gをよく分散させたものを用いる。
グラビア版深が30μm、マスク部のサイズ(正方形の一辺)が480μm、マスク間の間隔が20μmであるグラビア印刷機を用いて、印刷スピード50m/分で印刷した後80℃で十分に乾燥させる。
【0067】
(真空蒸着工程)
蒸着工程は、マスク部の印刷で得られたマスクパターンを形成したフィルムに、厚みが1000Åとなるようにアルミニウムの真空蒸着を複数回行う。
(ネットワーク形成工程)
このフィルムを40゜Cの温水に浸漬し、ウエス等でふき取る方法で水洗することにより、マスク部がマスク部上に蒸着されたアルミニウム層とともに除去される。
これにより、線幅が20μmよりも狭い、厚み0.1μmの導電ネットワークが形成される。線幅の変動率は、10%未満である。また、この導電ネットワークの開口率は92%以上であり、実質的に透明である。
得られた透明導電性基板の導電ネットワーク形成面の上に、ITO膜を常温スパッタ法により蒸着した後、対照例1と同様に一方の基板に三酸化タングステンを蒸着して表示電極とする。
以下、同様にして、周囲にアルミニウム電極枠を固定して、A4サイズの調光素子を作製すると、調光素子のサイズを大きくしても応答速度の均一性は確保される。
【0068】
[実施例3]
溶剤用溶解性材料として、水溶性のポリビニルアルコール樹脂を主成分とし、サイロイドを3重量%添加したインキ組成物を用いる。フレキソ印刷により1辺が180μmの正方形状のマスク部を、マスク間隔が20μm、乾燥塗膜厚が1μmとなるように市販のPETフィルムの上に印刷する。
アルミニウムを実施例1と同様にして蒸着後、温水によりマスク部を除去する。平均線幅が19μm程度の導電ネットワークが形成され、この開口率は82%以上である。
実施例2と同様に、A4サイズの調光素子を作製しても、中央部での応答速度の低下は著しく改良されている。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る透明電極基板の構成を端面により説明する模式図である。
【図2】本発明に係る透明電極基板の構成を端面により説明する模式図である。
【図3】図1又は図2に係る透明電極基板の構成を平面により説明する模式図である。
【図4】本発明に係る透明電極基板の製造方法を説明する図である。
【図5】本発明に係る調光素子の構成を断面により説明する模式図である。
【図6】本発明に係る調光素子の構成を断面により説明する模式図である。
【図7】対照例に係る透明電極基板の構成を端面により説明する模式図である。
【符号の説明】
【0070】
1:透明電極基板
2:エレクトロクロミック層
3:発色極(表示極)
4:電解質
5:対向極
10:可撓性透明基板
11:透明導電層
12:導電ネットワーク
12A:導電性材料
20:マスク部
21:無印刷部分(格子模様)
21a:交差点
21b:中央部
(a):マスク部印刷工程
(b):導電性材料積層工程
(c):ネットワーク生成工程
W:ピッチ
D:線幅
Da:頂点付近の線幅
Db:中央付近の線幅
t:厚み
S:面積
Sa:可撓性透明電極基板の面積
Sn:導電ネットワークの面積
St:導電ネットワークが積層されていない部分の面積
Sa=St+Sn
A:開口率(St/Sa)
D/t:アスペクト比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜と、該透明導電膜よりも抵抗率が小さい導電性材料からなる線幅Dが50μm以下であり、厚みtが200Å(0.02μm)以上である線状導電層が網目状に配列した導電ネットワークと、が可撓性透明基板の上に積層された透明電極基板を少なくとも一方の電極とした調光素子であって、
前記導電ネットワークは、
(a)前記可撓性透明基板上または該可撓性透明基板上に積層された透明導電層の上に、印刷太りを考慮して互いに隣接されるマスク部間に形成される隙間の線幅Dが50μm以下になるように溶剤溶解性材料でマスク部を島状に印刷する工程、
(b)前記マスク部を含んでもよい前記可撓性透明基板の全面に導電性材料を厚みtが200Å(0.02μm)以上となるように積層させる工程、
(c)前記マスク部を該マスク部の表面に積層された導電性材料とともに溶剤で除去して前記導電ネットワークを生成させる工程、
を含んで製造されることを特徴とする調光素子。
【請求項2】
前記透明電極基板は、前記可撓性透明基板の表面に前記透明導電層を付与した後に前記導電ネットワークが付与されていることを特徴とする請求項1記載の調光素子。
【請求項3】
前記透明電極基板は、前記可撓性透明基板の表面に前記導電ネットワークを付与した後に前記透明導電層が付与されていることを特徴とする請求項1記載の調光素子。
【請求項4】
前記厚みtに対する線幅Dの比で定義されるアスペクト比(D/t)が2以上であり、かつ、前記可撓性透明電極基板の全面積Saに対する前記導電ネットワークが積層されていない部分の面積Stの比(St/Sa)で定義される開口率Aが80%以上であることを特徴とする請求項1記載の調光素子。
【請求項5】
前記透明電極基板の内表面にエレクトロクロミック剤が固定されたことを特徴とする請求項1に記載の調光素子。
【請求項6】
前記エレクトロクロミック剤が電着法によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の調光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−134015(P2010−134015A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307246(P2008−307246)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(708005312)
【Fターム(参考)】