説明

調光装置

【課題】
2枚の透明板の内の温度変化を抑制し、そこに配置された光学素子の特性変化を抑制する。
【解決手段】
本発明の一態様に係る調光装置10は、外装使用に好適な態様として、複層構造を備えている。第1透明板11と第2透明板12とが離間して配置され、これらの間の空間が密封状態にある。第1透明板11と第2透明板12との間には気体層もしくは真空層が形成される。液晶光学素子13は、第1透明板11上に固着されている。これによって、環境温度変化による液晶光学素子13の温度変化が抑制され、その光学特性が維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は調光装置に関し、特に、2枚の透明板の間に電気的制御により光透過状態を可変可能な光学素子を備える調光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的制御によって光の透過状態を制御する光学素子を備えた調光装置が知られている。このような調光装置は、光の透過状態をコントロールすることにより、利用者の視野を遮蔽したり開放したりすることができるので、室内の間仕切り、外窓等の建材用途として用いられている。このような調光装置に用いられる光学素子としては、エレクトロクロミック素子を使用したものや、透過−散乱型の動作モードを備えた液晶/高分子複合体を用いた液晶光学素子(Liquid Crystal Polymer Composite)が知られている(特許文献1)。液晶/高分子複合体は、高分子と液晶間や液晶内部のドメインでの屈折率差によって光の制御を行う。
【0003】
また、液晶/高分子複合体を用いた液晶光学素子を内蔵した調光装置として、光学素子の両側に二枚の透明板を配設するものが開示されている(特許文献2)。図9は、上記特許文献2に記載の調光装置の構成を模式的に示した断面図である。この調光装置300は、前面と背面に筐体として機能する二枚の透明板301を備えている。そして、この二枚の透明板301の間隙には、これより一回り小さい液晶光学素子303が備えられている。
【0004】
液晶光学素子303には、透明電極433をそれぞれ備える一対の透明基板331、この間に挟持された液晶/高分子複合体からなる調光層435等を備えている。通常の合わせガラスの製造と同様に、液晶光学素子303と二枚の透明板301とをポリビニルブチラールシートを介して積層し、減圧下で脱泡して、その後に加熱加圧することにより一体化している。
【0005】
調光装置の別の例として、二枚の透明板に複数の液晶光学素子を挟持した例が提案されている(特許文献3)。特許文献3によれば、液晶光学素子と、二枚の透明板の端部に設けられた太陽電池とを、二枚の透明板上に形成された透明導電膜を介して電気的に接続することにより可視光の透過率を制御可能である旨が記載されている。
【特許文献1】米国特許第5188760号明細書
【特許文献2】特開平2−24630号公報
【特許文献3】特開昭62−115416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、調光装置は、様々な用途への応用展開が期待されている。そこで、上記特許文献2もしくは3に記載のように、二枚の透明板内に光学素子を内蔵させることが考えられる。ここで、二枚の透明板の間隙に、透明基板等を備える液晶光学素子を搭載させる場合、液晶光学素子の光学特性の温度依存性を考慮することが重要である。液晶光学素子は動作温度範囲が存在し、特に、低温において応答速度が低下する特性を有する。従って、二枚の透明板に配置された液晶光学素子の光学特性温度変化を抑制する構成が望まれる。特に、屋外使用での使用を前提とする場合に、温度変化の影響を考慮することが重要となる。しかし、上述の先行文献はこの点について考慮がなされていない。
【0007】
なお、上記においては、二枚の透明板の間隙に複数の液晶光学素子を内蔵させる場合について述べたが、液晶光学素子を一つ内蔵する場合についても共通の課題が生じ得る。あるいは、液晶光学素子以外の電気的に透過特性が制御される光学素子を使用する場合についても同様である。
【0008】
本発明は上述のような背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、二枚の透明板の間隙に配置された光学素子の光学特性に対する環境温度の影響を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様に係る調光装置は、第1及び第2の透明板の間に形成された密閉空間内に一つまたは複数の光学素子が備えられ、前記光学素子には一対の透明板が対向して備えられ、前記一対の透明板の間に電極とその電極への電気的制御により光透過状態を可変可能な調光層とが配置され、前記光学素子は前記第1の透明板に固着され、前記第2の透明板から離間して配置されているものである。
【0010】
本発明の第2の態様に係る調光装置は、上述の調光装置において、前記第2の透明板に遮熱性を有する層が配置されているものである。これによって、光学素子の温度変化をより効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る調光装置は、上述の調光装置において、前記第2の透明板に紫外遮光性を有する層が配置されているものである。これによって、光学素子の光学特性が紫外線によって劣化することを抑制することができる。
【0012】
本発明の第4の態様に係る調光装置は、上述の調光装置において、前記第1及び第2の透明板の一つもしくは双方にヒータを備えているものである。これによって、環境温度が低下しても光学素子の温度低下を抑制することができる。
【0013】
本発明の第5の態様に係る調光装置は、上述の調光装置において、前記第1及び第2の透明板の間に形成された密閉空間内を通気する通気部をさらに備えるものである。これにいって、環境温度が変化しても光学素子の温度変化を効果的に抑制することができる。
【0014】
本発明の第6の態様に係る調光装置は、上述の調光装置において、前記光学素子は前記第1の透明板にゲル状透明樹脂層によって固着しているものである。これによって、光学素子に加わる第1の透明板の変形による応力を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、二枚の透明板の間隙に配置された光学素子の光学特性に対する環境温度の影響を抑制することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を適用可能な実施の形態が説明される。以下の説明は、本発明の実施形態を説明するものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、以下に説明する図中の各部材のサイズは、説明の便宜上のものであり、各部材の比率等は実際とは異なる。
【0017】
本実施形態に係る調光装置10は、図1に示すように、自動車用の調光サンルーフに特に好適である。調光装置10は、操作者の操作によってその透過光量を変化させる。操作者は、例えば、調光装置10を透明状態にセットして外の景色や入射する自然光を楽しみ、あるいは、その透明性を失わせて透過光量を低下させ、やわらかな光で満たされた室内空間を享受することができる。以下において、自動車用の調光サンルーフを好適な例として、本実施形態の調光装置10を説明する。
【0018】
図2(a)及び図2(b)は、本実施形態に係る調光装置10の構成を模式的に示す斜視図である。図2において、調光装置10の凹面が車内側となり、凸面が車外側となる。本実施形態に係る調光装置10は、同図に示すように、二枚の透明板たる第1透明板11及び第2透明板12、これら透明板11、12の間に配置された光学素子たる複数の液晶光学素子13を備えている。調光装置10は複数の調光領域131を備え、それぞれの調光領域131が各液晶光学素子13に対応している。
【0019】
各調光領域131は黒色の遮光部132によって囲まれている。黒色の遮光部132は、有色のセラミック粒子を含有したペースト状インクをスクリーン印刷によって形成して焼結させたものを使用することが好ましい。これにより、遮光部132の変質を防止できる。さらに黒色の遮光部132の少なくとも一部の境界部分を斑点状の印刷形態とするなどしてグラデーション化することもできる。さらに遮光部132の色を黒以外の、例えば白や灰色などの液晶光学素子が光散乱時に呈する外観色と類似の色とすることもできる。また、遮光部132の幅は、隣接する液晶光学素子13のエッジ間距離よりも長くすることが好ましい。
【0020】
図2(a)は、液晶光学素子13への電圧非印加時の調光装置1を示し、図2(b)は、液晶光学素子13に電圧を印加したときの調光装置10の概観斜視図である。図2(b)において、調光領域131は光線散乱状態を示している。なお、本実施形態においては、電圧非印加時に光線透過状態、電圧印加時に光線散乱状態となるモードの例について説明したが、必要に応じてこの逆に、電圧印加時に光線透過状態となるモードとなるように構成してもよい。また、透過・散乱の2値変化ではなく、透過率を変化させるようにすることが好ましい。例えば、透過率100%〜透過率10%の範囲を任意に変化させるように構成することが好ましい。
【0021】
第1透明板11及び第2透明板12(以降、これらをまとめて「第1透明板11等」とも言う)は、略同一の大きさの矩形状の曲面体からなり、互いに対向配置されている。第1透明板1等は、調光装置10の内部を保護する筐体として機能するように調光装置10の前面(車内側)と背面(車外側)に配置されている。第1透明板11等は、液晶光学素子13のための保護プレートとして機能するため、不撓性透明板が使用される。特に、自動車用サンルーフの用途において、第1透明板11等は車両用に使用される強化ガラスを使用することが好ましい。また、二枚のガラスを樹脂層を介して積層したガラス構造を用いてもよい。
【0022】
本形態の第1透明板11等は、3次元曲面を有しており、本例においては、互いに直交する2方向において湾曲している。このように、第1透明板11等が曲面を有することで、外力に対する強度を高めることができる。また、第1透明板11等は3mm以上の厚みを備えることが好ましい。第1透明板11等のサイズは、例えば、横750mm×縦750mm、液晶光学素子13のサイズは横240mm×縦240mmとすることができる。調光装置10の厚みは、例えば20mm程度とすることができる。
【0023】
液晶光学素子13は、第1透明板11と第2透明板12との間隙に配設されている。本実施形態においては、縦3×横3の合計9個の略同一サイズの矩形状の液晶光学素子13が並設されている。各液晶光学素子13のそれぞれを第1透明板11あるいは第2透明板12を介して視認可能なように互いに重ならないように配設されている。調光装置10内部に並設する液晶光学素子13の数としては、上記図2に示すように縦3×横3の9個とする他、縦4×横3の12個、縦4×横4の16個、縦5×横4の20個、縦5×横5の25個等任意に設けることができる。また、意匠上の設計に従い、縦、横に配列させずにランダムに配設してもよい。液晶光学素子13の詳細な構造については後述する。
【0024】
液晶光学素子13には、それぞれ調光領域131が設けられている。各液晶光学素子13は、設計によって、単数若しくは複数の調光領域131を備えることができる。この調光領域131は、電気的制御により光線透過状態と光線散乱状態とを制御することができ、利用者は第1透明板11または第2透明板21を介して光線透過状態と光線散乱状態とを視認することができる。図2(a)は、液晶光学素子13への電圧非印加時の調光装置10の概観斜視図である。調光領域131は光線透過状態を示しており、第1透明板11等と一体的になって透明な一枚のガラスであるかのように見える。
【0025】
第1透明板11と第2透明板12の各内側において、黒色の遮光部132と重なる位置に接続配線(不図示)が配設されている。接続配線は、液晶光学素子13の内部において後述する透明電極と導電接続されている。第1透明板11と第2透明板12には、接続配線と外部駆動回路(不図示)を接続するための端子部(不図示)が設けられ、この端子部を介して外部駆動回路と接続される。この外部駆動回路からの信号によって、接続配線を介して液晶光学素子13に電圧が印加される。このように、遮光部132と重なる位置に接続配線を配設することによって、接続配線が車内から視認されず、意匠上好ましい効果を奏する。なお、遮光部132は第2透明板12の内側にも設けてもよい。
【0026】
図3は、図2(a)のA−A'切断部断面図である。なお、図2(a)のB−B'切断部断面図も同様となる。同図に示すように、第1透明板11と液晶光学素子13、第2透明板12と液晶光学素子13とは、それぞれ距離を持って対向配置されており、第1透明板11と液晶光学素子13との間に形には、弾性を有する透明樹脂層14(以下において、弾性透明樹脂層14)が充填されている。弾性透明樹脂層14は、第1透明板11と液晶光学素子13とが対向する間に充填されており、第2透明板12と液晶光学素子13との間には充填されておらず、液晶光学素子13は第2透明板12から離間し、第2透明板2側が露出している。
【0027】
図3に示すように、各液晶光学素子13は第1透明板11の凸面上に配置されており、その第1透明板11側の表面が、第1透明板11の湾曲面に沿うように配置される。つまり、各液晶光学素子13の表面が平行ではなく、R面に従って互いの表面が所定の傾斜角度をもつように各液晶光学素子13が配置される。図3にあらわれているように、互いに隣接する二つの液晶光学素子13は凸面上でハの字を描くように配置されている。
【0028】
本例の第1透明板11は3次元曲面を有しているので、2つの配列方向において複数の液晶光学素子13が配置され(図の例において3×3)、各方向において各液晶光学素子13が第1透明板11の湾曲面に沿うように配置されている。これによって、第1透明板11と第2透明板12との間の厚み及び調光装置10の厚みが大きくなることを抑え、レンズ効果により各調光領域131の調光が異なって見えることを抑制することができる。
【0029】
また、車外側から観察した際に、液晶光学素子13のエッジが目立つのを防止するため、第2透明板12の車内側面に遮光部121を設けている。遮光部121と液晶光学素子13とは一定の距離だけ離れているため、斜めに観察した際に液晶光学素子13のエッジが見えてしまうおそれがある。そのため、遮光部121の幅は、隣接する液晶光学素子13のエッジ間距離よりも長くすることが好ましく、さらには遮光部132の幅よりも広くすることが好ましい。図3においては、遮光部121の幅方向の両端にグラデーション領域(ドットの集合)を設けているが、遮光部132のようにベタ領域であってもよい。
【0030】
本実施形態に係る調光装置10によれば、任意の数の光学素子を配設する構造を採用することにより、調光装置の設計自由度を大幅に上げることができる。その結果、様々なニーズに応じた調光装置を提供することができる。また、複数の光学素子を備えることにより、調光領域を複数の光学素子により分割することができる。その結果、調光装置内に搭載される光学素子自体を大型化する必要がなく、特別の製造装置を必要としない。また、大型の光学素子を製造する場合に比して、製造歩留まりを向上させることができる。
【0031】
弾性透明樹脂層14は、第1透明板11の背面と液晶光学素子13との間及び各液晶光学素子13間に形成され、液晶光学素子13の第2透明板12側表面は、弾性透明樹脂層14によって覆われることなく、第2透明板12とは固着されていない。このように、液晶光学素子13を、弾性透明樹脂層14を介して、その片面のみ1つの透明板(本例において内装側の第1透明板1)に接合(固着)することによって、両面を接合する場合と比べ、液晶光学素子13を第1透明板11へ接合する際に、液晶光学素子13へのダメージを抑制することができる。
【0032】
また、外装側の第2透明板12への外力が直接に液晶光学素子13に伝播することがないので、不要な応力に起因して液晶配向が乱れ、透過時のヘイズが増加することを抑制することができる。ここで、各調光領域131の第2透明板12側表面には、弾性透明樹脂層14がその一部も覆うことなく、露出していることが好ましい。これによって、屈折率差に起因する調光領域131における光透過特性の変化を避けることができる。
【0033】
また、弾性を有する透明樹脂層14によって、第1透明板11が変形した場合にも液晶光学素子13に大きな応力が加わることなく、液晶光学素子13の特性が損なわれることがない。特に、弾性透明樹脂層14によって第1透明板11と液晶光学素子13との間の間隙を充填することによって、本例のように曲面を有している第1透明板11に容易に液晶光学素子13を接合することができると共に、液晶光学素子13への好ましくない応力を抑制することができる。
【0034】
液晶光学素子13へ加えられうる応力を効果的に低減するため、弾性透明樹脂層14は低弾性率の材料によって形成することが好ましい。低弾性率の透明樹脂としては、樹脂のガラス転移温度が0℃以下、さらに好ましくは−20℃以下であることが好ましい。また常用温度(25℃)での引っ張り弾性率は100MPa以下好ましくは10MPa以下がさらに好ましい。特に、1MPa以下がさらに好ましい。
【0035】
弾性樹脂の材料として、シリコーン、アクリル、ウレタンなどが考えられるが、好ましい透明弾性樹脂材料のひとつは、シリコーン樹脂である。シリコーン樹脂の好ましい一例として、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製の2液型熱硬化性シリコーンSE1885(A/B)を挙げることができる。また、高温時の特性安定性からは架橋した分子構造を持つ樹脂が好ましいが、若干流動可能なゲル状の透明樹脂を用いることもできる。
【0036】
この他、弾性透明樹脂層14として特に好ましい材料として、透明ゲル状樹脂が挙げられる。ゲル状樹脂は、ゴム状樹脂などの硬い弾性樹脂と比較して、応力の吸収に極めて優れている。このため、例えば、ヒートサイクル試験における熱膨張の相違に起因する液晶光学素子13への残留応力、あるいは、第1透明板1が変形することに起因する応力などを効果的に吸収し、液晶光学素子13の特性劣化を効果的に抑制することができる。
【0037】
透明ゲル状樹脂を使用する場合、液晶光学素子13と第1透明板11とを効果的に固着するため、透明ゲル状樹脂による弾性透明樹脂層14のちょう度は、適切な値に設定される。特に、ゲル状の弾性透明樹脂層14のちょう度の決定においては、液晶光学素子13への応力の抑制、あるいは、液晶光学素子13の位置ずれを考慮することが重要である。液晶光学素子13へ加えられる応力を可能な限り抑制するためにはちょう度が大きいことが好ましい。しかし、ちょう度が大きすぎる場合、液晶光学素子13を保持することができず、液晶光学素子13ずれが起きる。そのため、ゲル状の弾性透明樹脂層14の1/4ちょう度が、5〜800(JIS K2220)であることが好ましい。さらに好ましくは、10〜500(JIS K2220)である。
【0038】
ゲル状の弾性透明樹脂層14の材料としては、シリコーン、アクリル、ウレタンなどが考えられるが、製造工程における気泡の発生を抑制する観点から、表面張力が小さい材料であるシリコーン樹脂を使用することが好ましい。また、ゲル型シリコーン樹脂の好ましい一例として、硬化後にゲル状態を示す2液型硬化性シリコーンが挙げられる。閉空間に硬化樹脂層を形成することから、揮発性溶媒を含む1液型の硬化樹脂ではなく、揮発性溶媒を含まない2液型硬化性シリコーンが好ましい。例えば、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製の2液型熱硬化性シリコーンSE1885(A/B)を使用することによって、弾性透明樹脂層14を形成することができる。
【0039】
弾性透明樹脂層14を熱硬化により得る場合には、硬化温度が調光装置10を使用する温度範囲内にあるものであることがより好ましい。これにより異なる部材間での熱膨張係数差による残留応力の発生を低減させ、液晶光学素子13にかかる応力を低減することができる。この残留応力は、調光装置10を大型化するにつれて深刻となるが、硬化温度が調光装置10を使用する温度範囲内のものを用いることによりこの問題をより効果的に回避することができる。
【0040】
充填される弾性透明樹脂層14の厚みは、用途に応じた構造上の強度、液晶光学素子13への応力の低減の観点などから適切な値となるように設定する。例えば、第1透明板11と液晶光学素子13との離間距離を2mmとし、この間隙に弾性透明樹脂層14を充填することができる。また、弾性透明樹脂層14は、液晶光学素子13と第1透明板11とを固着するように接着能を有している。ここで「固着」とは、実質的に剥離不能に固定される場合のみならず、所定以上の外力によって剥離可能に接着されている場合を含む。
【0041】
本実施形態に係る弾性透明樹脂層14は、第1透明板11と各液晶光学素子13との間においての全面にわたって形成されているので、調光領域全面への第1透明板11等を介した外力の印加を効果的に抑制することができ、調光領域内において調光状態が異なるものとなるのを防止することができる。弾性透明樹脂層14は、可視域において光透過性が高いものが好ましいが、設計によって無色透明、有色透明のいずれを選択することもできる。また、第1透明板11及び第2透明板12と、液晶光学素子13とが一体となって一枚のガラス板であるかのように見えるように、弾性透明樹脂層14の屈折率は、液晶光学素子13、第1透明板11の接触面の屈折率に近似するものであることが好ましい。
【0042】
本形態の調光装置10は、外装使用に好適な態様として、複層構造を備えている。第1透明板11と第2透明板12とが離間して配置され、これらの間の空間が密封状態にある。第1透明板11と第2透明板12との間には気体層もしくは真空層が形成される。図3に示すように、第1透明板11と第2透明板12との間には、その外周部において複数の液晶光学素子13を囲むように、アルミニウム等の金属からなるスペーサ151が配置されている。スペーサ151によって、第1透明板11と第2透明板12との間隔が一定に保たれる。さらに、スペーサの外周には、ブチルまたはチオコール等の一次シールとその外周に接着のための2次シールとからなるシール材152があり、第1透明板11と第2透明板12との間の空間を密封している。
【0043】
液晶光学素子13と第2透明板12との間には空間が存在し、そこには乾燥した気体が充填され、もしくは真空状態となっている。典型的には、スペーサ151内に乾燥剤が充填されている。なお、調光装置10は複層ガラス構造であることから分厚くなりがちのため、車体に組み付ける際にエッジに硬質のガスケットを取り付け、さらにその外周に自動車のボディとの隙間を埋めるために軟質のガスケットを設けるようにしてもよい。
【0044】
このように、第1透明板11と第2透明板12とが複層構造を備え、これらの間が密閉空間となっていると共に、液晶光学素子13と外装側の第2透明板12との間に空間を形成することによって、外部温度が第2透明板12を介して液晶光学素子13に直接に伝わらないようにする。これによって、第1透明板11と第2透明板12との間における液晶光学素子13の温度変化を抑制し、その温度変化に伴う液晶光学素子13の光学性能の低下を抑制することができる。
【0045】
第1透明板11と第2透明板12との間の空間及び液晶光学素子13の温度変化をさらに抑制するため、外装側第2透明板12の面上、好ましくは第2透明板12の外装面(外側表面)にLow−E(Low Emission)膜を設けることが好ましい。Low−E膜は金属膜により表面輻射率を小さくする膜であって、赤外線をカットし遮熱性を備えている。
【0046】
液晶光学素子13は、紫外線による液晶材料の変質を考慮することが重要である。効果的に紫外線をカットするため、第2透明板12上、好ましくはその内装側(液晶光学素子13側)に、紫外線を遮るUVカット層を設けることが好ましい。UVカット層は、400nm以下において、急峻な紫外線遮断特性を備えるものであることが好ましい。また用いる液晶材料種類によっては、410nm以下の波長の入射光を急峻に遮断するように選択することが好ましい。さらに液晶光学素子13の外観品位を損なわない範囲でさらに長波長の入射光を吸収するようにしてもよい。また、液晶光学素子13の第1の透明板11と接合していない面(第2の透明板12側)にUVカット層を設けてもよい。
【0047】
第1透明板11の外側表面(反液晶光学素子13側表面)に、反射防止膜を形成すことでさらに透明時の液晶光学素子13の透過率を向上させることができる。反射防止膜としては、シリケートや金属酸化物の薄膜を所定膜厚でスパッタリング法や蒸着法にてガラス表面に直接形成することや、フッ素樹脂などの低屈折率の樹脂薄膜を粘着層などを介してガラス表面に張り合わせることで形成する。特に最外層をフッ素樹脂としたものは、防汚性能や易清浄性を付与できるので好ましい。
【0048】
なお、液晶光学素子13と第1透明板11との間には、弾性透明樹脂層14以外の光学部材を配置することができるが、液晶光学素子13と第1透明板11との間において、各部材間には空気層を形成しないことが好ましい。これによって、各層の間における屈折率の変化による光の反射を抑制することができる。
【0049】
複層構造を有する調光装置10は、好ましい他の態様として、第1透明板11と第2透明板12との間の中間層を通気する。これによって、透明板間及び液晶光学素子13の夏季の温度上昇を抑制することができ、液晶光学素子13の光学特性の低下を抑制することができる。あるいは、冬季に暖気通気することによって、液晶動作速度の低下を抑制することができる。
【0050】
例えば、調光装置10は、図4に示すように、通気配管161と第1、第2及び第3の通気バルブ162、163、164と、各通気バルブ162、163、164の開閉を制御するコントローラ165と、温度検出器166を備えている。第1通気バルブ162は、通常通気用バルブであり、例えば、車内の空気が第1通気バルブ162を介して第1透明板11と第2透明板12との間の気密空間内に送り込まれる。
【0051】
第2通気バルブ163は暖気通気用のバルブであって、暖気が第2通気バルブ163を介して第1透明板11と第2透明板12との間の気密空間内に送り込まれる。自動車に備えられたヒータを使用し、あるいはエンジンの稼動によって発生する熱を使用して暖められた暖気を使用することができる。第3バルブ164は排気用のバルブであって、第1透明板11と第2透明板12との間の気密空間から気体を外部に排出する。なお、通気に使用される気体は乾燥気体であることが好ましい。
【0052】
コントローラ165は、温度検出器166が検出した温度に従って、各通気バルブ162、163、164の開閉制御を行う。温度検出器166は、典型的には、車内のいずれかの位置に配置される。例えば、温度検出器166の検出温度が予め定められた高温基準温度よりも高い場合、コントローラ165は第1バルブ162及び第3バルブ164を開き、第1透明板11と第2透明板12との間の気密空間を通気する。
【0053】
あるいは、検出温度が予め定められた低温基準温度より低い場合、コントローラ165は第2バルブ163及び第3バルブ164を開き、調光装置10の暖気通気を行う。これら以外の温度領域である通常状態において、全ての通気バルブ162、163、164が閉じている。このように、環境温度に応じて調光装置10を通気することによって、環境温度の変化によらず調光装置10の光学特性を一定レベル以上に維持することができる。
【0054】
上述の複層構造を有する調光装置の例においては、調光装置10を通気することによって環境温度変化による光学特性の変動を抑制しているが、他の好ましい態様として、第1透明板11及び第2透明板12の一方、もしくはそれら双方に電熱線を設けることができる。電熱線は典型的にはニクロム線または銀ペーストからなるパタンを焼結してできた導電性発熱線など金属線で形成され、冬季に、第1透明板11及び第2透明板12内部の加温し、液晶動作速度を改善するヒータとして機能する。
【0055】
調光装置10は、図5の例に示すように、第2透明板12の内側(液晶光学素子13側)に、電熱線171を備えることができる。好ましくは、電熱線171は第2透明板12の車内側面において遮光部121と重なる位置に配設される。さらに、視認側、つまり、内装側からみて、遮光部132と重なる位置に配置される。電熱線171の発熱によって、透明板11及び第2透明板12間の空間内温度及びそこに配置された液晶光学素子13の温度が上昇し、環境温度が低温である場合であっても、液晶動作速度の低下を抑制することができる。
【0056】
電熱線171への電力供給制御は、例えば、図4を参照して説明したように、温度検出器の検出温度を基準としてコントローラが実行する。温度検出器の検出温度が予め定められた基準温度未満である場合に、コントローラが電熱線171へ設定された電力を供給する。なお、上述の通気制御やヒータ制御は、操作者によって行われてもよい。
【0057】
なお、電熱線171を第1透明板11の内面(液晶光学素子13側)に設けることもできる。この場合においても、調光機能及び意匠的美観を損なわないように、電熱線171は遮光部132と重なる位置に配置することが好ましい。電熱線171からの高い熱が液晶光学素子13になんらかの影響を及ぼしうる場合は、液晶光学素子13との間の空間が形成されている第2透明板12上に電熱線171を設けることが好ましい。
【0058】
なお、本例においては、複層構造を有する調光装置の内部に電熱線が設けられているが、1枚の透明板とその上に配置された液晶光学素子を備える調光装置に電熱線を設けてもよい。また、本例の調光装置に限らず、例えば、カイラルネマチック液晶などを使用するメモリ性表示素子を備える装置に電熱線を設け、低温時における液晶動作速度を向上することも可能である。
【0059】
次に、液晶光学素子13の構造について説明する。図6は、本実施形態に係る液晶光学素子13の構成の一例を示す模式的断面図である。同図に示すように、本実施形態に係る液晶光学素子13は、第1の透明基板31、第2の透明基板32、第1透明電極33、第2透明電極34、調光層35、スペーサ36、周辺シール37、第1配向膜38、第2配向膜39等を備えている。
【0060】
第1の透明基板31と第2の透明基板32とは、略同一の大きさの矩形状のものからなり、互いに所定の間隙を持って対向配置されている。また,第1の透明基板31及び第2の透明基板32の一辺近傍に互いに非対向領域が形成されるように、透明基板を平行にずらして対向配置されている。すなわち、第1の透明基板31上の一辺近傍に第2の透明基板32と対向しない第1非対向領域31aが、第2の透明基板32上の一辺近傍に第1の透明基板31と対向しない第2非対向領域32aが形成されている。この第1非対向領域31a、第2非対向領域32aには接続配線が固設されている。
【0061】
第1の透明基板31及び第2の透明基板32としては、高品位な光学特性を実現する観点から、透明なガラスからなる不撓性の基板を用いることが好ましい。このほか、ポリエステルなどの不撓性の樹脂基板、あるいは、フィルム基板を使用することもできる。なお、第1の透明基板31及び第2の透明基板32の形状として、矩形状のものを例に挙げて説明したが、これに限定されず、例えば円形状でもよい。第1の透明基板31及び第2の透明基板32のそれぞれの主面のうち双方が対向する面上には、それぞれ第1透明電極33、第2透明電極34のパタンが形成されている。第1透明電極33及び第2透明電極34としては、ITO(Indium Tin Oxide)や酸化スズなどの金属酸化物膜等を用いることができる。
【0062】
第1透明電極33及び第2透明電極34上には、調光層35と接し、かつ調光層35中の液晶を配向せしめる第1配向膜38、第2配向膜39がそれぞれ設けられている。第1配向膜38及び第2配向膜39は、液晶を基板面に対して垂直の方向に配向せしめる役割を担う。なお、必ずしも配向膜使用せずともよい。例えば、第1透明電極33または第2透明電極34の表面を直接研磨したものや、電極表面に液晶を配向させる機能を付与したものを用いてもよい。
【0063】
第1の透明基板31と第2の透明基板32の間には、図6に示すように、電気光学機能層たる調光層35及びスペーサ36が挟持せしめられている。スペーサ36によって基板間に挟持される調光層35の厚みが規定される。スペーサ36の材料としては、例えば、ガラス粒子、樹脂粒子、ガラスファイバー、フィルム、フォトリソグラフィー法により形成されるスペーサ等を用いることができる。
【0064】
調光層35の厚さは、本実施形態のように液晶/高分子複合体層からなる場合には、典型的には1〜50μmである。調光層35に含有される高分子は、複数の柱状樹脂の集合体からなる。調光層35の構成成分である液晶は、光線透過状態における液晶の配向方向が、基板面の法線方向に略一致するようにする。液晶を垂直配向にすることにより、液晶光学素子の光線透過状態をより良好に保つことができる。本実施形態においては、リバースモードを採用しているので、第1透明電極33及び第2の電極に電圧を印加していないときには、液晶が配向して光線透過状態となる。
【0065】
一方、第1透明電極33及び第2透明電極34に電圧を印加すると電極間の電界により液晶がランダムに配向し、光線散乱状態となる。このように電圧の印加、非印加によって光線散乱状態と光線透過状態とを制御することができるので、第1透明電極33及び第2透明電極34の形成パタンに応じて所望の形状を表示することができる。
【0066】
液晶の種類としては、ネマチック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶及び強誘電性液晶などを用いることができる。ネマチック液晶は、他の液晶に比して液晶温度範囲が広く粘性が小さいため、液晶素子の動作温度範囲を広くかつ動作速度を大きくすることができる点で好ましい。液晶の誘電率異方性は負とした場合は、液晶の配向性を垂直配向として用いる。
【0067】
液晶化合物としては、一般的な表示材料として、あるいは電界駆動型表示素子の材料として使用される種々のものを使用可能である。具体的には、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、シクロヘキシルベンゼン系、アゾキシベンゼン系、アゾベンゼン系、アゾメチン系、ターフェニル系、ビフェニルベンゾエート系、シクロヘキシルビフェニル系、フェニルピリジン系、シクロヘキシルピリミジン系、コレステロール系等を挙げることができる。液晶化合物は、二種類以上の液晶化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
調光層35は、種々の化合物が添加されていてもよい。例えば、コントラストの向上を目的として、アントラキノン系、スチリル系、アゾメチン系、アゾ系等の各種二色性色素を使用できる。このほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種可塑剤も、安定性や耐久性向上の点から好ましい。調光層35は、調光層の前駆体の混合液から形成される。この前駆体の混合液の状態から、相分離のプロセスを経て、光学的に機能し得る良好な調光層35を形成することが重要である。なお、相分離構造とは、相分離プロセスを経て形成され、電気光学的特性・機能を発現することができる液晶セル内部の構造を意味している。
【0069】
液晶/高分子複合体の相分離構造の微細形状は、調光層35の前駆体の混合液を構成する化合物の種類、性質、混合比等によって種々変えることができる。材料の組み合わせや混合比は、光学特性、駆動電圧の大きさ、求められる信頼性の程度を考慮して決定する。この前駆体の混合液は、液晶化合物と重合性化合物が含有されたものから形成される。
【0070】
本形態の調光装置は、自動車のサンルーフに特に好適であるが、この他に用途に利用することができる。例えば、窓(自動車用(サイドウインドウ、ドアガラス、リアクウォータ等)、建築用、航空機用、船舶用、鉄道車両用等)、天窓、間仕切り、扉等の建築の内装・外装の材料、サイン、広告層用媒体、大型の間仕切り装置等に適用することができる。冷蔵庫の扉に用いることによって、冷蔵庫の扉を開けることなく、内部に収容されている食品を確認することができる。あるいは、図形やパタンを組み合わせて表示しあるいは文字などを表示させて、利用者に情報を提供するようにすることができる。また、透明板に必要に応じて、文字等の装飾を施してもよい。
【0071】
第1透明板1等は、調光装置10の設置場所や用途に応じて、ガラス若しくはポリカーボネートなど適切な材料を選択することができる。軽量化の観点からは、樹脂を利用することが好ましい。公共的な場所に設置する場合などにおいては、表面に傷がつきにくく、強度の点で優れたガラス板を使用することが好ましい。風冷強化法や化学強化法で製造した通常の強化ガラスを適用してもよい。また、用途に応じて第1透明板11及び第2透明板12は、例えばそれぞれ独立に異なる形状のものを用いてもよく、第1透明板11及び第2透明板12はフラットであってもよい。
【0072】
なお、図1に示す調光装置10は一例であって、これに限定されるものではない。例えば、液晶光学素子13の形成位置は、第1透明板11と第2透明板12との間隙内の少なくとも一部の領域に形成されていればよい。また、各液晶光学素子13の調光領域131の形状も、液晶光学素子13毎に変更可能である。各液晶光学素子13の調光領域131は1つである必要は無く複数に分割されていてもよい。調光領域131の形状としては、円形状等の図形の他、会社のロゴ等の記号や文字等の様々なパタンとすることができる。
【0073】
上記実施形態においては、光学素子として液晶/高分子複合体からなる透過−散乱型の液晶光学素子の例について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば以下のものを用いることができる。すなわち、液晶と偏光膜とを組み合わせた透過率可変型液晶光学素子、2色性染料入の液晶による透過率可変型液晶光学素子、エレクトロクロミック物質を用いたエレクトロクロミック光学素子、電気泳動現象を利用した電気泳動光学素子等である。また、光学素子としてドットマトリックス型の光学素子またはセグメント方式の光学素子を用いることができる。また、液晶光学素子13はガラス基板を用いて作られた液晶パネルであるが、樹脂フィルム等で作られたいわゆるフィルム液晶パネルを用いてもよい。
【実施例】
【0074】
図7は、本発明に係る調光装置の実施例を示す斜視図である。同図に示すように、調光装置400は、2枚のガラス板401および402と、これらのガラス板の間隙を一定に保持するための複数のスペーサ403と、ガラス板402の上面に配設された複数の液晶光学素子405と、これらの液晶光学素子405を駆動するための制御装置410等で構成されている。ガラス板402の上面には、格子模様のパタン404が設けられ、格子の開口部に合わせて9枚の液晶光学素子405が透明シリコーンにより固着されている。
【0075】
ガラス板401および402は、そのサイズが400[mm]×564[mm]×4[mm]の風冷強化ガラスであり、また同図の左右方向に沿って曲率半径が900mmとなるように曲げ加工(いわゆる単曲)が施されている。ガラス板401および402の間隔は7mmである。また、ガラス板の間隔保持のため、アクリルフォーム基材の両面テープ(3M社製:Y-4910J)厚さ1mmを7枚貼り合せて作られたスペーサ403が、ガラス板の周縁に沿って計12箇所設けられている。液晶光学素子405のサイズは、100mm□、板厚が2.2mmである。
【0076】
ここで、液晶光学素子405をガラス板402の貼り付ける手順について説明する。スペーサ403を作製したのと同じ両面テープを2枚貼り合せ、2mm角程度に裁断し、液晶光学素子405の4隅に接着し、それをガラス板402の上面に貼り付けた。液晶光学素子405とガラス板402との間には完全にシリコーンが充填されてる。パタン404は、ブラックプライマー(横浜ゴム社製:ハマタイトG(MS-90))により形成した。なお、パタン404と対向して、ガラス板401の下面にも同様のパタンを設けるのが好ましいが、本実施例では設けていない。
【0077】
また、ガラス402と各液晶光学素子405との間に充填したシリコーンが漏れ出さないようにするため、各液晶光学素子405の4辺に沿って封止部材406をシリコーン(東レ・ダウコーニング社製:SE-960)を塗布し形成した。但し、液晶光学素子405の外周の一辺は、シリコーン樹脂注入のため開けておき、注入後に塗布して閉じた。なお、封止部材406が目立つのを防止するため、上方に突出した部位を剃刀で切り取り、斜めから観察してもなるべく見えないようにした。
【0078】
次に、制御装置410は、コード420および液晶光学素子405同士を接続する図示しない配線を介して、各液晶光学素子405と電気的に接続されている。制御装置410は、入力がAC100Vであり、出力が0〜50Vの範囲で可変であり、周波数が30〜200Hzの範囲で可変である矩形波を生成する一般的な装置である。これにより各液晶光学素子405の透過−散乱状態が制御される。
【0079】
以上のように本発明者らは、複層ガラス構造の調光装置400を製作し、液晶光学素子405の透過−散乱状態を可変するなどした結果、本装置が調光窓としての機能を発現することを確認した。特に本実施例で用いた液晶光学素子405は一般的な透過散乱型の液晶パネルと比べて応答時間が短く、このような液晶光学素子を用いることで、透過−散乱状態を瞬間的に切り替えられる調光窓を実現したといえる。なお、スペーサ403として上述の簡易的な部品を使用したが、実際に窓として使用する場合には、金属スペーサおよびブチルゴムを用いて液晶光学素子405が配設された領域が密閉空間を構成することが好ましい。また、この密閉構造に温風や乾燥空気等を送風するための送風機等と連通してもよい。
【0080】
図8は、調光装置400の自動車のボディへの取り付け構造の一例を示す断面図である。調光装置400を自動車に取り付ける場合、以下に示すような構成を採用することができる。調光装置400は、ガラス板401および402を金属製のスペーサ403aを介して貼りあわせられている。車外側に位置するガラス板401の車内側面には、液晶光学素子405のエッジが車外から観察した際に視認されないようにするためのパタン407が設けられている。パタン407はガラス板401の表面に暗色セラミックを焼結することで形成され(いわゆる黒セラ)、この例ではベタ領域とドットの集合からなるグラデーション領域とを有する。
【0081】
また、同様にガラス板402の車外側面にもパタン404が設けられ、ガラス板402に貼り付けられた液晶光学素子405のエッジが、自動車の搭乗者によって視認されるのを防ぐ構造となっている。液晶光学素子405は図8で説明したとおり、透明シリコーンによって貼りあわせられており、液晶光学素子405の四辺には、貼りあわせ時に注入した透明シリコーンが流れ出すのを防ぐために、シリコーン製の封止部材406が設けられている。
【0082】
また、図7で示したスペーサ403は簡易的なものに過ぎないため、例えば図8に示す構造を用いることが好ましい。すなわち、内部に乾燥剤(図示せず)を封入した金属管で作られたスペーサ403aを1次シールであるブチルゴム(図示せず)を介して2枚のガラス板401および402の間に挟みこみ、さらにスペーサ403aの外周側にシリコーン系またはポリサルファイド系の2次シールを設けることが好ましい。
【0083】
調光装置400は、自動車のボディに設けられた開口フランジ501に接着剤504を介して固定される。開口フランジ501とガラス板402との間には、接着剤504が流れ出すのを防ぐために、発泡樹脂等からなるダムウォール505が設けられている。また、調光装置400のエッジには、金属または硬質樹脂からなるガスケット503が被せられ、開口フランジ501とガスケット503との間には、TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)等の弾性のある樹脂モールディング502が両面テープ等(図示せず)で取り付けられている。なお、液晶光学素子405と図7に示した制御装置410とを接続する配線は、ガラス板402に設けた貫通孔を介して引き出してもよいし、スペーサ403aに貫通孔を設けて引き出すようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本実施形態に係る調光装置を自動車のサンルーフとして使用した例を示す模式図
【図2】本実施形態に係る調光装置の構成を示す模式的斜視図。
【図3】図2のA−A'(B−B')切断部断面図。
【図4】本実施形態に係る通気機構を有する調光装置の構成を模式的に示す図。
【図5】本実施形態に係る調光装置において使用される電熱線を模式的に示す図。
【図6】本実施形態に係る液晶光学素子の一例を示す断面図。
【図7】本発明に係る調光装置の実施例を示す斜視図である。
【図8】調光装置400の自動車のボディへの取り付け構造の一例を示す断面図である。
【図9】従来例に係る調光装置の構成を示す模式的断面図。
【符号の説明】
【0085】
10 調光装置
11 第1透明板
12 第2透明板
13 液晶光学素子
14 弾性透明樹脂層
121 遮光部
131 調光領域
132 遮光部
151 スペーサ
152 シール
161 通気管
162 第1の通気バルブ
163 第2の通気バルブ
164 第3の通気バルブ
400 調光装置
401、402 ガラス板
403 スペーサ
404 パタン
405 液晶光学素子
410 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の透明板の間に形成された密閉空間内に、一つまたは複数の光学素子が備えられ、
前記光学素子には、一対の透明板が対向して備えられ、前記一対の透明板の間に電極とその電極への電気的制御により光透過状態を可変可能な調光層とが配置され、
前記光学素子は前記第1の透明板に固着され、前記第2の透明板から離間して配置されている、調光装置。
【請求項2】
前記第2の透明板に遮熱性を有する層が配置されている請求項1に記載の調光装置。
【請求項3】
前記第2の透明板に紫外遮光性を有する層が配置されている請求項1または2に記載の調光装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の透明板の一つもしくは双方にヒータを備えている請求項1、2または3に記載の調光装置。
【請求項5】
前記第1及び第2の透明板の間に形成された密閉空間内を通気する通気部をさらに備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の調光装置。
【請求項6】
前記光学素子は前記第1の透明板にゲル状透明樹脂層によって固着している、1〜5のいずれか1項に記載の調光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−78870(P2007−78870A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264381(P2005−264381)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】