説明

調味料の製造方法。

【課題】発明が解決しようとする課題は大豆、小麦を使用しないで、マスタードシード単体又はマスタードシードとコーンの混合原料で、大豆、小麦を使用した醸造しょうゆの香味を有する調味料をつくることである。
【解決手段】割砕マスタードシード単体又は割砕マスタードシードと割砕コーンの混合原料に、加水と同時にエタノールを1〜3重量パーセント含有させ、かつpHを3.5〜5.5に調製したものを、中心温度を65℃〜75℃になるように加熱処理して、この原料を使用し製麹、塩水仕込みにより常法どおりのしょうゆの醸造を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大豆、小麦等を使用しないでマスタードシードを単体又はマスタードシードとコーンの混合物を原料として醸造し、香味が大豆、小麦を使用して醸造した醤油に酷似した調味料を製造する方法及び調味料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
公知のごとくしょうゆを製造する技術は原料を大豆、小麦とし、醸造しょうゆ、化学しょうゆがあり、これらの欠点を改良したものとして新式しょうゆ(半化学しょうゆ)の製造技術が開発された。
しかし大豆、小麦を使用しないで、醸造しょうゆに優るとも劣らないものは開発されていない。
またマスタードシードを原料として使用する調味料の製造方法として、香辛料およびハーブ類に、乳酸菌、麹菌および酵母菌から選ばれる一種類以上の菌株により醗酵させて醗酵食品を作り出す方法が提案されており(特許文献1参照)、本発明の原料であるマスタードシードについても記載されているが、この方法はマスタードシードを醗酵原料として使用しているが、醗酵原料の一要素でしかない。したがって実施例のとおりマスタードシード単体で醗酵させた調味料の風味はマスタードシード由来の独特の嫌味が残る為に、調味料としては単体で使用できないものである。
そこでこの味の欠点を解決するために、さらに大豆、小麦等の原料を添加して再度醗酵させているが、やはりからしの辛味は除去されても、からしの風味は残るという特徴を有するし、醗酵も二回、三回と行う必要があり、実験室で小規模に行うには問題ないが、大量生産には不向きである。
よってこの発明は本願発明と目的も構成要件も異なり、本願発明を示唆する記載もないものである。
マスタードシードを破砕し、脱脂した後マスタードの辛味成分の配糖体を除去する処理を行ったのち、プロテアーゼを作用させてつくる調味料について提案されている(特許文献2参照)。
この方法の特徴はまず醗酵、風味を阻害する辛味成分の配糖体を除去することにあり、その除去処理の方法として1.加水保持した後水蒸気蒸留する方法、2.加水保持したエタノール等の有機溶媒で抽出除去する方法、3.有機溶媒又は含水有機溶媒で直接抽出処理する方法、4.アルカリ水溶液で抽出処理する方法が提案されている。そして本願発明の構成要素であるエタノールも2、3で使用しているが、その目的は、エタノールによる配糖体の抽出除去であり、その使用量も加水保持物100重量部あたり60部〜95部程度と非常に多いものである。そしてこの配糖体の除去処理したものに、プロテアーゼで又はプロテアーゼとグルタミナーゼで処理して、旨味を創生する方法であるが、それなりの旨味は出しうるが、天然醸造麹菌で醸造する方法は、酵素、乳酸菌、酵母による複合の旨味であり、この両者を比較した場合は著しい品質上の差がある。したがって本願発明とは目的も構成要件も異なり、示唆する記載さえない。
以上今まで提案された技術を記載したが、いずれも本願発明と目的及び構成要件が異なり、また本願発明を示唆する記載もないものである。
【特許文献1】特開2001−238593号公報
【特許文献2】特開2005−176705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
解決しようとする課題はマスタードシード単体又はマスタードシードとコーンの混合物を原料として使用し、この原料に麹菌を作用させしょうゆ風味の調味料を醸造する際に、麹菌の増殖を阻害する因子を除去し、麹菌の酵素が有効に作用できる状態にすることである。
またマスタードシード単体を醗酵させた場合に生じるマスタードシード由来の独特の嫌味が出ないようにすること、そしてしょうゆの香味を醸成する醗酵調味料をつくることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
課題を解決するための最良の手段としては、マスタードシード単体又はマスタードシードとコーンの混合物に低濃度、即ち1重量パーセント以上3重量パーセント以下のエタノールを含有させ、pHを3.5〜5.5に調製した状態で、中心温度が65℃から75℃になるように加熱処理することにより、エタノールとpHと温度の共同作用で原料の蛋白質の二次変成を防止しつつ、一次変成を促進させて、種麹の酵素の利用率を高め、醗酵を阻害する酵素を失活させ、かつ醗酵阻害物質や呈味阻害物質の作用を排除することが可能であることを見出した。
さらにこの原料を使用し醗酵させて得た調味料は大豆や小麦を原料にしたしょうゆと香味が酷似したものとなることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0005】
これによりしょうゆの原料である大豆、小麦を使用することなく、またマスタードシードの複雑な処理を必要とせず、マスタードシード単体またはマスタードシードとコーンの混合物で、醸造しょうゆの香味を有する調味料を従来の醸造しょうゆと同一工程で簡単につくることが出来るので、調味料業界に益すること大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の最良の実施形態としては原料のマスタードシードとコーンの混合物は、加熱によるコーンの吸水率がマスタードシードのそれよりも大であるので、本発明の方式の場合は、コーンの混合割合が少ないほうが作りやすい。
マスタードシードはオリエンタル、イエロー、ブラウンの3種類あるが、この品種の違いによる品質上の大きい差は見られないので適宜セレクトして使用できる。
次にこの原料を割砕する。それぞれ割砕したもの同士を混合しても良い。割砕する事により反応等がスムーズに進行する。
次に加水と同時にエタノールを1重量パーセントから3重量パーセント原料に含有させる。このときpH調製を行うと良い。pHは3.5〜5.5になるように調製する。また使用する酸、ナトリウム塩の種類は問わない。
次にこのものを加熱処理する。原料の温度を65℃〜75℃になるように加熱するが、温度は達温でよいので適宜規模に見合った機械を選定するとよい。
この条件での処理により原料由来の醸造に不要なバクテリア、酵母、黴は滅菌されると同時に酵素が失活する。さらに原料の蛋白質の二次変性が防止されながら一次変性が促進され、この一次変性蛋白がしょうゆの麹菌の利用率を高める為、香味が良好となる所以である。
ここでエタノールの含有量が多すぎる、またpHが低すぎる、加熱温度が高すぎると蛋白が二次変性を起こし、したがって味が良くならない。
エタノールの含有量が低すぎる、pHが高すぎる、加熱が低すぎた場合も醗酵がうまくすすまず、良い調味料ができない。
かくしてエタノール、酸、熱処理を行った原料は常法どおり、醸造しょうゆの仕込みと同じように仕込みを行う。
即ち前期記載の処理を行った原料を水切りし、種麹を加えて、温度、湿度を調整し製麹をおこなう。これを食塩水と混合しタンクに入れ、時々かくはんして空気を送り、醗酵を助け、3〜8ヶ月間熟成させる。熟成もろみは布にて包み、圧力をかけてしぼり生じょうゆをつくり、殺菌して出来上がりとする。以下実験例にて説明する。
【0007】
実験1 pH、エタノール含有濃度、加熱処理温度との関係を試験した。
1/2カットのマスタードシードブラウン種、マスタードシードイエロー種、オリエンタルマスタードシード種のそれぞれ1000gに3倍量の水を加えながら、エタノールを0.7、1.0、2.0、3.0、3.3重量パーセントになるように添加し、さらにクエン酸で、それぞれのエタノール含有区のpHを、3.3、3.5、4.0、5.5、5.7、になるように調製した。そしてさらにそれぞれの調整区について60℃、65℃、70℃、75℃、80℃になるように加熱処理した。
これらの加熱処理検体を30℃まで冷却し、種麹菌(Aspergillus sojae)2/1000接種して、水切りして72時間26℃〜27℃に保持して培養した。水切りした含水マスタードシードの重量はブラウン種が2,860gで、イエロー種が2,850g、オリエンタル種が2,855gで水分65重量パーセント前後であった。
次にこの麹と食塩濃度30重量パーセントの食塩水を同量混合した。仕込み後25℃で90日 間熟成させたのち、圧搾、ろ過、加熱し、このものを官能判定した。
判定基準
± 香味がコントロールと同等。
− 香味がコントロールより劣る。
+ 香味がコントロールより優れている。
この結果は表1、表2、表3に示す。
【0008】
実験2 原料の混合割合の試験
割砕マスタードブラウン種とコーングリッツの混合割合を4:6、5:5、6:4、7:3、8:2、9:1にして加水しpHを4.5に調製、エタノール含有量を2.0重量パーセントに調製後、加熱温度を65℃の条件で処理し、実験1と同様に製麹を行い、食塩水仕込みをおこなった。仕込み後25℃で90日間熟成させたのち、圧搾、ろ過、加熱し、このものを官能判定した。判定基準は実験1と同じ。
この結果は表4に示す。
【0009】
比較試験
脱脂大豆を重量比で130%散水して吸水させたのち、蒸煮釜で加圧しながら1時間加熱、小麦は炒煎して、種麹を均一にまぶす。大豆と小麦を52:48の比率で混合する。種麹は混合品に対して2/1000を添加し72時間26℃〜27℃に保持して培養する。大豆と小麦を混合して調製した麹1リットルと20%の食塩水1.2リットルで仕込む。仕込み後25℃で90日間熟成させたのち、圧搾、ろ過、加熱し、このものを前記試験の官能判定のコントロールとした。
【実施例1】
【0010】
マスタードシードブラウン種50Kgを1/2にカットした。水150Kgをニーダーに入れ、カットしたマスタードシードを添加し、続いて99%エタノールを2Kg添加した。羽根を攪拌しながら温度を70℃まで上昇させた。
このもののpHは5.4であった。このものを30℃まで冷却した後、種麹を400g添加混合した。篩を通して余分な水を除去し、エタノールを含む67%含水マスタードシード143Kgを得た。このものを麹蓋に盛り込み、培養室にいれ、湿度95%、温度30℃で70時間製麹を行った。つぎにこの麹に食塩水(食塩濃度28.5%)145kg添加して塩水仕込みを行った。このものを3ヶ月間熟成させた後、熟成もろみを袋につめ、水圧機で圧搾し、ろ過して得た生じょうゆを80℃で火入れし、醤油の香味の豊かな調味料を得た。
【実施例2】
【0011】
1/2にカットしたマスタードシードイエロー種30Kgとコーングリッツ20Kgを混合しニーダーに入れ水150Kgを添加し、続いて99%エタノールを3.5Kgとクエン酸20gを添加した。羽根を攪拌しながら温度を65℃まで上昇させた。
このもののpHは3.5であった。このものを30℃まで冷却した後、種麹を400g添加混合した。篩を通して余分な水を除去し、pHが3.5でエタノールを1.75%含む71%含水マスタードシードとコーングリッツの混合物170Kgを得た。このものを麹蓋に盛り込み、培養室にいれ、湿度95%、温度30℃で70時間製麹を行った。つぎにこの麹に食塩水(食塩濃度33%)145kg添加して塩水仕込みを行った。このものを5ヶ月間熟成させた後、熟成もろみを袋につめ、水圧機で圧搾し、ろ過して得た生じょうゆを80℃で火入れし、醤油の香味の豊かな調味料を得た。
【実施例3】
【0012】
マスタードシードブラウン種30Kg、マスタードシードイエロー種10Kg、オリエンタルマスタードシード10Kgを1/2にカットし混合した。
カットしたマスタードシードをニーダーに入れ、水を50Kg添加し、続いて99%エタノールを2.5Kg添加した。羽根を攪拌しながら温度を75℃まで上昇させた後、30℃まで冷却した。このもののpHは5.5であった。次に種麹200gを添加混合し麹蓋に盛り込み、培養室にいれ、湿度95%、温度30℃で70時間製麹を行った。つぎにこの麹に食塩水(食塩濃度23.5%)100kgを添加して塩水仕込みを行った後、3ヶ月間熟成させた。熟成もろみは袋につめ、水圧機で圧搾し、ろ過して得た生じょうゆを80℃で火入れし、醤油の香味の豊かな調味料を得た。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明により,今まで利用されていなかったマスタードシードの利用が可能となり、資源の有効活用が図れ、当該業界に益すること甚大である。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが3.5〜5.5でエタノールを1重量パーセント以上3重量パーセント以下になるように含有させてなる割砕マスタードシード単体又は割砕マスタードシードと割砕コーンの混合物を、中心温度が65℃〜75℃になるように加熱処理した後、常法どおりしょうゆ麹をつくり、これを食塩水と混合して醗酵させ、もろみを熟成させたのち、圧搾してしぼることを特徴とする醸造しょうゆの香味を有する調味料の製造方法。
【請求項2】
pHが3.5〜5.5でエタノールを1重量パーセント以上3重量パーセント以下になるように含有させてなる割砕マスタードシード単体又は割砕マスタードシードと割砕コーンの混合物を、中心温度が65℃〜75℃になるように加熱処理した後、常法どおりしょうゆ麹をつくり、これを食塩水と混合して醗酵させ、もろみを熟成させたのち、圧搾してしぼることを特徴とする醸造しょうゆの香味を有する調味料。