説明

調味料及びその製造方法

【課題】 チーズ様或いはクリーム様の新規な風味を有する調味料として、また、スープ用素材などとして、和食、洋食を問わず広範に適用でき、味噌や醤油などの醸造調味料より栄養学的に優れると共に機能性が向上又は新たな機能性を有する物質を含む新規な調味料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 調味料の製造方法は、豆類蒸煮物及び/又は穀類蒸煮物に麹菌を培養し製麹された麹と、乳及び/又は乳加工処理物とを含む材料を非加熱状態で混合し麹混合材料を得る麹混合工程と;麹混合材料を5℃以上、40℃未満の温度で7日以上、180日以下の期間醸造発酵し醸造物を得る醸造発酵工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調味料及び調味料の製造方法に係り、特に、チーズ様或いはクリーム様の風味を持ち、味噌や醤油等の醸造調味料や乳酸菌発酵調味料とは異なる栄養学的特性を有すると共に新規機能性物質を含む調味料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
味噌や醤油は日本における伝統的な醸造調味料であり、植物性原料を用いた代表的発酵食品として全国各地において多種多様なものが製造されている。味噌(みそ)品質表示基準(農水省告示第1664号、改正告示第1821号)では、「大豆若しくは大豆及び米、麦等の穀類を蒸煮したものに、米、麦等の穀類を蒸煮して麹菌を培養したものを加えたもの又は大豆を蒸煮して麹菌を培養したもの若しくはこれに米、麦等の穀類を蒸煮したものを加えたものに食塩を混合し、これを発酵させ、及び熟成させた半個体状のもの」を味噌と定義している。麹菌を培養する豆類や穀類の種類(麹の種類)とこれに混合する蒸煮豆類、蒸煮穀類の種類により、米味噌、麦味噌、豆味噌に大別される。醤油(しょうゆ)品質表示基準(農水省告示第1665号、改正告示第1704号)では、「大豆若しくは大豆及び麦、米等の穀類(小麦グルテンを加えたものを含む)を蒸煮その他の方法で処理して、麹菌を培養したもの(醤油麹)又は醤油麹に米を蒸し、若しくは膨化したもの若しくはこれを麹菌により糖化したものを加えたものに食塩水又は生揚げを加えたもの(諸味)を発酵させ、及び熟成させて得られた清澄な液体調味料(製造工程においてセルラーゼ等の酵素(蛋白分解酵素を除く)を補助的に使用したものを含む)」を本醸造方式による醤油と定義し、大豆は、脱脂加工大豆を含むものとされている。この外、「諸味にアミノ酸液(大豆等の植物性蛋白質を酸により処理したもの)、酵素分解調味液(大豆等の植物性蛋白質を蛋白分解酵素により処理したもの)又は発酵分解調味液(小麦グルテンを発酵させ、分解したもの)を加えて発酵、及び熟成させて得られた清澄な液体調味料」を混合醸造方式による醤油としている。
【0003】
さらに、味噌としては、特定用途食品としての扱いを受けるナトリウム含量を半減した減塩味噌や低食塩化味噌などの外、加工味噌と呼ばれ副食用の嘗(なめ)味噌がある。嘗味噌では、味噌に鯛や蛤などの魚介類、鶏のような肉類、柚、蕗、ナッツ等を添加混合した加工嘗味噌、又は混合・発酵・熟成させた醸造嘗味噌がある。また、大豆、米、麦などの味噌原料の外に、凍結磨砕法により得たかぼちゃ、人参、ほうれん草、グリーンピースなどの野菜ペーストを混合し野菜の色素により着色させた味噌も開発されている(例えば、特許文献1参照)。そして、牛乳若しくは練乳、全脂粉乳や脱脂粉乳等の粉乳、濃縮乳などの添加物を含まない加工乳と味噌を混合し、液状、ペースト状、粉末状、個体状としたスープの素がある(例えば、特許文献2参照)。また、リゾープス属の微生物により製麹した麹と、糖化麹菌により製麹した麹を、45℃内外に加温した脱脂乳に加え、保温しつつ発酵せしめ、15%内外の食塩を加えて熟成後、濾過火入れした液に酵母を添加、更に数日間発酵熟成させた後に食塩を追加飽和せしめる濃厚調味液の速醸法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
なお、味噌はガン予防、血中コレステロールの上昇抑制、抗酸化作用や血栓防止効果などの機能を有することが明らかとなっている(例えば非特許文献1参照)。また、高血圧予防治療薬の一つに、レニン−アンジオテンシン系血圧制御系におけるアンジオテンシン変換酵素(ACE)の活性を阻害して、アンジオテンシンI(デカペプチド:DRVYIHPFHL)から血圧上昇作用を有するアンジオテンシンII(DRVYIHPF)への変換を阻害するACE阻害剤があり、麦味噌や豆味噌にはこのようなACE阻害能が認められているが、大豆発酵食品の中では、醤油や納豆に比してACE阻害能が低いことが知られている(例えば非特許文献2参照)。米味噌において、仕込後発酵の進行につれACE阻害能が上昇し、7日後最大となること、また、味噌中に生成したACE阻害物として、ジペプチド(SW)を同定したことが報告されている(非特許文献3参照)。また、豆類発酵食品以外でもACE阻害活性を有するラクトトリペプチド(VPP及びIPP)が、乳酸菌の中でもラクトバチルス・ヘルベチカス(Lacto−bacillus helveticus)の発酵乳に特異的に見られることが知られている(非特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−269659号公報
【特許文献2】特開昭58−47475号公報
【特許文献3】特公昭38−2773号公報
【非特許文献1】(1994年、日本食料新聞発行、海老根英雄・廣瀬義成共著、「味噌・醤油入門」93頁)
【非特許文献2】Okamoto A. et al 、Bioscience Biotechnology and Biochemistry:59、p1147、(1995)
【非特許文献3】Takahama A. et al 、International News on Fats、Oils and Related Materials:4、p525、(1993)
【非特許文献4】中村康則ら、ジャパンフードサイエンス:Vol.37、2月号、pp37−41、(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の味噌は、磨砕された野菜独特の色、風味が加わり、野菜の栄養素がそのまま含有されるが、味噌に加えられる栄養素は植物性であり、栄養学的な改善の点では不充分であった。また、特許文献2のスープの素は、単に味噌と混合されたものであり、混合以上の新規な風味や栄養学的な改善を得ることはできず、食品としての機能性向上や新たな機能性物質を生むものではなかった。そして、特許文献3のような「脱脂牛乳より調味液の速醸法」では、45〜50℃に加温した脱脂乳に、リゾープス属の微生物により製麹した麹と米麹を加え保温発酵することから、濾過火入れにより半日程度で麹発酵を終了させることができ、添加酵母による発酵熟成は数日間と短時間の内に濃厚粘稠の調味液は得られるが、濾過火入れにより麹が除去されてしまい、また麹菌からの各種酵素が殆んど失活するなど、酵母発酵作用主体の醸造物となり、実質的に麹醸造の特徴を生かした醸造物の製造は期待できないものであった。
【0007】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、チーズ様或いはクリーム様の新規な風味を有する調味料として、また、スープ用素材などとして、和食、洋食を問わず広範に適用でき、味噌や醤油などの醸造調味料より栄養学的に優れると共に機能性が向上又は新たな機能性を有する物質を含む新規な調味料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明による調味料は、豆類蒸煮物及び/又は穀類蒸煮物に麹菌を培養し製麹された麹と、乳及び/又は乳加工処理物とを含み混合された麹混合材料が醸造発酵された醸造物を含んでなる調味料であって;麹混合材料が非加熱状態で混合されたものであり、且つ、前記醸造物が5℃以上、40℃未満の温度で7日以上、180日以下の期間醸造発酵されたものであることを特徴とする。
【0009】
このような調味料において、醸造物を含む材料が、ペースト状又は粉末状又は細粒状又は顆粒状又は板状に成形されていることが好ましく、また、乳及び/又は乳加工処理物が牛由来であることが良く、さらに、乳加工処理物が脱脂粉乳であることが好適である。そして、麹混合材料が、塩材料を含み混合されていることが好ましく、また、麹混合材料が、アルコール含有材料を含み混合されていても良く、さらに、醸造物が、醸造発酵により生成されアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有し乳及び/又は乳加工処理物の乳酸菌発酵においては生成することのない血圧上昇抑制作用物を含んでなることが好適であり、さらにまた、麹混合材料100重量部に対し、乳及び/又は乳加工処理物が乾燥物として10重量部以上、90重量部以下配合され、前記麹が、10重量部以上、90重量部以下配合されていることが好ましい。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明による調味料の製造方法は、豆類蒸煮物及び/又は穀類蒸煮物に麹菌を培養し製麹された麹と、乳及び/又は乳加工処理物とを含む材料を非加熱状態で混合し麹混合材料を得る麹混合工程と;麹混合材料を5℃以上、40℃未満の温度で7日以上、180日以下の期間醸造発酵し醸造物を得る醸造発酵工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
この調味料の製造方法において、醸造物を含む材料を、ペースト状又は粉末状又は細粒状又は顆粒状又は板状に成形することが好ましく、また、乳及び/又は乳加工処理物が牛由来であることが良く、さらに、乳加工処理物が脱脂粉乳であることが好適である。そして、麹混合工程は、塩材料を加えて混合することにより麹混合材料を得ることが好ましく、また、麹混合工程は、アルコール含有材料を加えて混合することにより麹混合材料を得ることもでき、さらに、麹混合工程は、麹混合材料100重量部に対し、乳及び/又は乳加工処理物を乾燥物として10重量部以上、90重量部以下配合し、麹を、10重量部以上、90重量部以下配合することが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の調味料及び調味料の製造方法によれば、製麹された麹と、乳及び/又は乳加工処理物とを含み混合された麹混合材料が非加熱状態で充分時間をかけて醸造発酵されるため、主に麹菌が産生するプロテアーゼ、アミラーゼ、プロティナーゼ、ヘミセルラーゼ、リパーゼ等各種酵素の作用、また、複次的なアミノ−カルボニル反応、エステル化反応などにより、植物性及び動物性の各原料が分解、発酵・熟成されて、チーズ様あるいはクリーム様の新規な風味を持った醸造物が得られる。このような醸造物を含む調味料は、そのまま和食、洋食を問わず適用でき、さらにソース、ドレッシング、スープなどの素材として利用範囲が広い。
【0013】
麹混合材料は、乳及び/又は乳加工処理物原料に由来するカゼインなどを主体とする乳蛋白成分などについても乳酸菌発酵とは発酵・熟成条件が全く異なる醸造発酵工程を経ることとなる。したがって得られる醸造物は乳酸菌発酵品とは栄養学的特性が異なり、乳酸菌発酵品には存在し得ない新規機能性物質を生成させることが可能となる。また、味噌や醤油などの麹醸造物に比して特に遊離アミノ酸としてアミノ酸バランスが向上する。また、麹の豆類原料から移行するアントシアニジン、イソフラボンなどのフラボノイド、サポニン、トコフェロール等による抗血栓作用、抗酸化作用やエストロゲン様作用などの生理活性機能に加え、骨機能代謝関連成分としてイソフラボンと増強されたカルシウムとにより、骨粗鬆症の防止機能の相乗的向上効果が期待できる。さらに、麹混合材料が非加熱状態で混合され、充分時間をかけて醸造発酵された場合には、得られる醸造物中に新規なACE阻害物が生成してACE阻害能等が向上することにより、調味料として実質的な血圧上昇抑制作用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による調味料及びその製造方法を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0015】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態による調味料の製造方法は、製麹された麹と、乳及び/又は乳加工処理物とを含む材料を混合し麹混合材料を得る麹混合工程と;麹混合材料を醸造発酵し醸造物を得る醸造発酵工程と;を備えている。麹としては、豆類蒸煮物、又は穀類蒸煮物、又は豆類蒸煮物と穀類蒸煮物を混合したものに麹菌を培養して製麹した麹を用いることができる(製麹工程)。この麹原料として豆類を使用する場合、例えば、大豆、ルピンマメ、緑豆、エンドウマメ、ヒラマメ、ソラマメ、インゲンマメ、モスビーン、シーバービーン、ピーナッツなど如何なる豆類をも用いることができ、少なくとも大豆を含むこれら豆類から一以上選ばれたものであることが好ましい。本実施形態において、麹原料として大豆を使用する場合、大豆の品種や育種、色形状、産地などについても特に限定されるものではなく、如何なる大豆であっても良い。また、上述の醤油品質表示基準に規定される脱脂加工大豆のように脱脂加工された豆類を使用することもできる。
【0016】
また、麹原料として穀類を使用する場合、例えば、米、麦、トウモロコシ、ソバ、モロコシ、アワ、ヒエなど如何なる穀類をも用いることができ、少なくとも米及び/又は麦を含むこれらの穀類から一以上選ばれたものであることが好ましい。また、本実施形態において、麹原料として、米を使用する場合、用いる米の品種や育種、色形状、産地などについても特に限定されるものではなく、如何なる米であっても良い。麹原料として、麦を用いる場合、例えば、大麦、裸麦の外、鳩麦、ライ麦、小麦など食用に供される麦であれば如何なる麦であっても使用することができ、少なくとも大麦又は裸麦を含むこれらの麦から一以上選ばれたものであることが好ましい。また、上述の醤油品質表示基準に規定される小麦グルテンのような穀類グルテンを併せて使用しても良い。
【0017】
豆類は、従来から行われている各味噌の製造法に準じて、精選、脱皮、洗浄(研磨)、浸漬(水切り)、蒸煮することができ、脱皮は省略することも可能である。得られた豆類蒸煮物は、殺菌、軟化されると共に、蛋白質の変性、多糖類の可溶化、トリプシン活性阻害物の不活化の外、生の豆臭が除去されている。豆類蒸煮物は冷却後、例えば粉砕機に通して潰し、味噌玉成形機で所定の大きさ(径15mm〜70mm程度)の味噌玉にすることができる。この味噌玉にした豆類蒸煮物に麹菌を種付け培養し麹(豆麹)を得るが、種付けと同時又は培養時に、麦を炒って粉状とした香煎を加えることができる。製麹工程では得られる玉状の麹(豆麹)の玉潰しをすることができる。
【0018】
米は、従来から行われている各味噌の製造法に準じて、精白、洗浄(研磨)、浸漬(水切り)、蒸煮することができる。これにより得られた米蒸煮物は、殺菌され、また、軟化されると共に、β−デンプンはα−デンプンとなり、麹菌を種付け培養する際に繁殖されやすく、酵素反応が順調に行われることとなる。この米蒸煮物を冷却後、麹菌を種付け培養し麹(米麹)を得ることができる。また、麦は、米蒸煮物の場合と同様にして、精白、洗浄(研磨)、浸漬(水切り)、蒸煮すれば良く、この麦蒸煮物を冷却後、麹菌を種付け培養し麹(麦麹)を得ることができる。
【0019】
このような製麹工程において用いる麹菌としては、食品に適用可能でアミラーゼ、プロテアーゼ、プロティナーゼ、グルタミナーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼなどの酵素を産生する麹菌であれば如何なる麹菌であっても良く、一般的に良く使用されるアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)のような黄麹菌の外、リゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)等のくものすカビとも呼ばれる麹菌が好適に使用でき、所望する製造対象醸造物の種類、品質に応じた麹菌種、菌株を選択すれば良い。また、上述のような製麹工程における豆類蒸煮物、米蒸煮物や麦蒸煮物などの穀類蒸煮物の2種以上の蒸煮物を混合したものに、麹菌を種付け培養したり、さらに豆麹、米麹、麦麹などの2種以上を適宜混合した麹を、麹混合工程において用いても良く、製造対象醸造物の種類、品質に応じた配合とすることができる。麹菌の種付け数(量)や種付け条件、培養条件については、従来から行われている味噌や醤油などの製造法における製麹法に準じて適宜設定し行うことができ、特に限定されないが、例えば、味噌技術ハンドブック;1995年全国味噌技術会発行や、食品微生物学ハンドブック;好井久雄ら編著、1995年技報堂出版株式会社発行などの記載に準じて行うことができる。また、市販の味噌麹や醤油麹、又は、上述のようにして製麹した麹と混合して用いても良い。
【0020】
本実施形態の麹混合工程においては、上述のような麹に、乳、又は、乳及び乳加工処理物、又は、乳加工処理物を含む材料を混合して麹混合材料を得る。乳としては、食用又は食品材として利用される哺乳動物であれば、如何なる哺乳動物由来の乳であっても良く、例えば牛、山羊、羊、水牛などの乳が好適に使用でき、牛由来の乳がより好ましい。乳加工処理物としては、これらの哺乳動物由来の乳を加工処理したものであれば如何なる乳加工処理物であっても良く、例えば、全(脂)粉乳の外、脱脂乳、部分脱脂乳、濃縮乳、練乳、発酵乳、ホエイ、蛋白質濃縮ホエイ、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、濃縮乳粉乳、練乳粉乳、発酵乳粉乳、濃縮ホエイ、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダーなどいずれの乳加工処理物も好適に使用でき、これらの2種以上を混合して用いることもできる。このような乳、乳加工処理物の品質、成分組成などについては特に限定されるものではないが、例えば、「乳及び乳製品の成分規格に関する省令(厚生省令第52号)」に適合するものを使用することができる。これら乳、乳加工処理物のうちでは、麹などとの混合や醸造する際の作業がより効率的となる点においては、固体、粉末状の上記各種粉乳や濃縮ホエイ、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダーが好ましく、また、発酵・醸造の際における麹との相性や栄養バランス、動物性脂質含量を抑えることができる点で脱脂粉乳、蛋白質濃縮ホエイパウダーを用いることがより好ましい。本実施形態では、牛由来の脱脂粉乳を用いた。
【0021】
このような乳及び/又は乳加工処理物と、麹との混合割合としては、麹、乳及び/又は乳加工処理物以外の添加物を除く麹混合材料100重量部に対し、乳及び/又は乳加工処理物を乾燥物として10重量部以上、90重量部以下配合し、麹を、10重量部以上、90重量部以下配合することが好ましく、乳及び/又は乳加工処理物を乾燥物として25重量部以上、75重量部以下配合し、麹を、25重量部以上、75重量部以下配合することがより好ましい。新規機能性物質等の生成量を増加させることがある点では、乳及び/又は乳加工処理物を乾燥物として35重量部以上、65重量部以下配合し、麹を、35重量部以上、65重量部以下配合することがさらに好ましい。麹の添加が10重量部未満では充分に発酵、醸造が進行しない場合があり、また、乳及び/又は乳加工処理物の添加が10重量部未満では醸造発酵工程後に得られる醸造物に濃厚な味を付与する遊離アミノ酸の生成が不充分となる場合がある。
【0022】
また、麹混合工程において、麹混合材料として塩材料を添加し混合することができる。塩材料を加える場合、本実施形態では食塩又は並塩を用いるが、食品に適用可能な塩であれば如何なる塩であっても使用することができ、例えば、食塩、並塩、天日製塩などの原塩、粉砕塩、焼塩の外、にがり添加塩や塩化カリウム添加塩、酢酸塩添加塩などの加工塩から一以上選ばれたものを使用することが好ましい。このような塩材料を麹混合材料に加えた場合、後段の醸造発酵工程において異常発酵、変敗などの原因となる雑菌の繁殖を抑制できることがある点で好ましい。塩材料を加える場合の添加量としては、得られる麹混合材料100重量部につき、1重量部以上、30重量部以下が好ましく、2重量部以上、15重量部以下がより好ましく、3重量部以上、10重量部以下がさらに好適である。塩材料の添加量が1重量部未満では雑菌繁殖の抑制が不充分となる場合があり、30重量部を超えると、後段の醸造発酵工程において得られる醸造物の塩味が強く旨味に欠ける場合がある。
【0023】
さらに、麹混合工程において、アルコール含有材料を加えて混合することにより麹混合材料を得ることができる。麹混合材料としてアルコール含有材料を添加する場合、本実施形態ではエタノール含有液を用いるが、食品に適用可能なアルコール含有材料であれば如何なるアルコール含有材料であっても使用することができ、例えば、エタノール含有液、ウォッカ、焼酎、ブランデー等の蒸留酒や清酒、ワイン等の醸造酒から一以上選ばれたものを使用することが好ましい。このようなアルコール含有材料を麹混合材料に加えた場合、塩材料の添加と同様に、後段の醸造発酵工程において異常発酵、変敗などの原因となる雑菌の繁殖を抑制できることがある点で好ましい。また、アルコール含有材料としては、アルコール含量の高い、例えば70%(V/V)以上のものがより効果的である。アルコール含有材料を加える場合の添加量としては、得られる麹混合材料100重量部につき、0.1重量部以上、20重量部以下が好ましく、1重量部以上、10重量部以下がより好ましい。アルコール含有材料の添加量が0.1重量部未満では雑菌繁殖の抑制が不充分となる場合があり、20重量部を超えると、後段の醸造発酵工程において得られる醸造物のアルコール臭が残る場合がある。以上説明した麹混合工程において、麹、乳及び/又は乳加工処理物などを混合する際には、後段の醸造発酵工程も含め発熱するなど急激に反応が進み酵素が失活したり、機能性物質の生成などを阻害するような場合もあり、このような状態を防ぐためにも非加熱状態で実施することが必要であり、40℃未満の温度に冷却又は温度制御することが好ましい。
【0024】
このような麹混合工程で得られた麹混合材料を、醸造発酵することによって醸造物を得る醸造発酵工程を実施する。本実施形態においては、5℃以上、40℃未満の温度で7日以上、180日以下の期間行うことが好ましく、10℃以上、40℃未満の温度で7日以上、90日以下がより好ましい。また、これにより、主に麹菌が産生するプロテアーゼ、アミラーゼ、プロティナーゼ、ヘミセルラーゼ、リパーゼ等各種酵素の作用、また、複次的なアミノ−カルボニル反応、エステル化反応などにより、植物性の麹原料及び動物性の乳原料等が分解、発酵・熟成されて、チーズ様或いはクリーム様の新規な風味を持った醸造物を得ることができる。また、麹混合材料は、乳及び/又は乳加工処理物原料に由来するカゼインなどを主体とする乳蛋白成分などについても乳酸菌発酵とは発酵・熟成条件が全く異なる醸造発酵工程を経ることとなる。したがって得られる醸造物は乳酸菌発酵品とは栄養学的特性が異なり、乳酸菌発酵品には存在し得ない新規機能性物質を生成させることが可能となる。また、味噌や醤油などの麹醸造物に比して特に遊離アミノ酸としてアミノ酸バランスが向上している。また、麹の豆類原料から移行するアントシアニジン、イソフラボンなどのフラボノイド、サポニン、トコフェロール等による抗血栓作用、抗酸化作用やエストロゲン様作用などの生理活性機能に加え、骨機能代謝関連成分としてイソフラボンと増強されたカルシウムとにより、骨粗鬆症の防止機能の相乗的向上効果が期待できる。さらに、麹混合材料が非加熱状態で混合され、充分時間をかけて醸造発酵され、得られる醸造物中にVY(L−バリル−L−チロシン)、YP(L−チロシル−L−プロリン)のようなアミノ酸配列を有するジペプチド等のACE阻害物が生成してACE阻害能が向上することにより、実質的な血圧上昇抑制作用が期待できる。
【0025】
なお、上述のような麹混合工程及び/又は醸造発酵工程においては、必要に応じて耐塩性酵母や乳酸菌を添加することができ、また、例えば醸造発酵工程の初期と後期に添加するなど各工程において複数回に分割して添加することも可能である。ただし、この場合においても、上記した麹混合工程、醸造発酵工程の温度や時間(期間)の条件の範囲内とすることが必要である。耐塩性酵母を麹混合工程及び/又は醸造発酵工程において麹混合材料に混合する場合には、例えば、チゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、カンジダ・バーサチリス(Candida versatilis)、カンジダ・エチェルシー(Candida etchellsii)から1以上選ばれた耐塩性酵母を用いることが好ましく、チゴサッカロミセス・ルキシーを含む1種以上を使用することがより好ましい。これら耐塩性酵母は、産膜酵母の発生を抑制し、麹菌により生成されたグルコースを発酵してアルコール類を生成し芳香を与える作用などを有する。また、耐塩性乳酸菌を麹混合材料に混合する場合には、食品に適用可能な耐塩性の乳酸菌であればいずれの耐塩性乳酸菌も使用できるが、例えば、ペディオコッカス・ハロフィラス(Pediococcus halophilus)が好適に使用可能であり、所望する製造対象醸造物の種類、品質に応じた菌株を選択すれば良い。このような耐塩性酵母、耐塩性乳酸菌を麹混合材料に混合する量、混合法や装置などの添加条件については、特に限定されず、従来から行われている各味噌の場合における添加条件に準じて行うことができる。また、乳及び/又は乳加工処理物は、上述の麹混合工程のみならず、醸造発酵工程中に添加することもでき、例えば、初期、中期、後期などいずれの醸造発酵工程において混合しても良い。さらに、例えば、麹混合工程と醸造発酵工程、醸造発酵工程における初期と後期などのように複数回に分けて乳及び/又は乳加工処理物を添加混合することも可能である。ただし、このように乳及び/又は乳加工処理物を添加混合する場合においても、上述した添加量の範囲内とし、麹混合工程、醸造発酵工程の温度や時間(期間)の条件の範囲内で行なうことが必要である。
【0026】
以上のような醸造発酵工程で得られた醸造物は、そのままペースト状の調味料として、又は乾燥或いは加水することによりペースト状の調味料とすることができる。なお、加水する場合には、製造対象の調味料に応じて添加量を調節すれば良く、また、麹混合工程や醸造発酵工程などにおいて種水として添加しても良い。さらに、一般的な製剤化法により、粉末状、又は細粒状、又は顆粒状、又は板状などの形態に成形することができる。これにより、醸造物の有する風味と栄養学的特性を損なうことなく生かしたチーズ様或いはクリーム様の風味を有する調味料が得られる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明による調味料及びその製造方法について、実施例、比較例を示して具体的に説明するが、これによって本発明を限定するものではない。
【0028】
〔実施例1〕
第1の実施形態の製造方法に準じて醸造物を調製した。ただし、麹原料としての穀類には米を使用した。塩材料としては国内産の食塩を使用した。乳加工処理物として牛乳由来の脱脂粉乳(水分:4重量%、脂質:1重量%、蛋白質34重量%、炭水化物:53重量%、カルシウム:1重量%)を用いた。麹菌にアスペルギルス・オリゼを用いて製麹した米麹と同重量の脱脂粉乳を混合し、麹混合材料中の食塩含量を6重量%、アルコール含量を3重量%とした。アルコール含有材料として70%エタノールを用い、麹混合工程は非加熱状態で40℃未満の温度条件とし、醸造発酵工程は、30℃以上、40℃未満の温度条件とした。なお、醸造発酵工程開始時において、通常味噌醸造に使用する酵母液と同様の酵母量濃度に調整した耐塩性酵母(チゴサッカロミセス・ルキシー)を麹使用量100重量部に対して3容量部添加し、麹混合工程及び醸造発酵工程において、乳酸菌の添加は行なわず、醸造発酵工程は180日まで継続したが、醸造発酵期間7日以上の醸造物はチーズ様或いはクリーム様の均一なペースト状であり良好な外観性状を保持していた。
【0029】
〔実施例2〕
麹混合材料にアルコール含有材料無添加とした以外は、実施例1と同様にして醸造物を調製した。得られた醸造発酵期間7日以上の醸造物は実施例1の醸造物と同様良好な外観性状を保持していた。
【0030】
〔実施例3〕
麹混合材料中の食塩含量を4重量%、アルコール含量を3.5重量%とした以外は、実施例1と同様にして醸造物を調製した。得られた醸造発酵期間7日以上の醸造物は実施例1の醸造物と同様良好な外観性状を保持していた。
【0031】
〔実施例4〕
麹混合材料中の食塩含量を12重量%、アルコール含有材料無添加とした以外は、実施例1と同様にして醸造物を調製した。得られた醸造発酵期間7日以上の醸造物は実施例1の醸造物と同様良好な外観性状を保持していた。
【0032】
〔比較例1〕
麹混合材料中の食塩含量を10重量%とし、麹混合工程において45〜50℃の加温条件で12時間維持した後、醸造発酵工程として、通常味噌醸造に使用する酵母液と同様の酵母量濃度に調整した耐塩性酵母(チゴサッカロミセス・ルキシー)を麹使用量100重量部に対して3容量部添加し、水(種水)を麹使用量100重量部に対して157容量部添加して40℃で醸造発酵した以外は、実施例4と同様にして醸造物を調製した。醸造物は、醸造発酵工程開始8日後において、塊状物が混在したドロドロ状態であり、しかも麹には芯が残り、同条件にて醸造発酵工程を引き続き行なったが均一で良好な外観性状の醸造物は得られなかった。
【0033】
〔比較例2〕
麹混合材料に大豆蒸煮物を40重量%混合し、米麹含量20重量%、脱脂粉乳含量16重量%とし、食塩含量を12重量%、アルコール含有材料無添加とした以外は、実施例1と同様にして、味噌様の醸造物を調製した。
【0034】
〔比較例3〕
麹混合材料中の食塩含量を6重量%、アルコール含量を3重量%とした以外は、比較例2と同様にして、味噌様の醸造物を調製した。
【0035】
〔一般項目分析試験(1)〕
実施例2の醸造物ついて、基準みそ分析法(味噌技術ハンドブック、1995年全国味噌技術会発行、付録pp1〜35)に準じ、水分、蛋白質、脂質、灰分、炭水化物、カルシウム等の各項目の測定を行った。この結果は、表1に示すとおりであった。
【0036】
【表1】

【0037】
〔アミノ酸分析〕
実施例2の醸造物(醸造発酵期間8日)及び原料として用いた脱脂粉乳について、衛生試験法、食品成分試験法、飲食物試験法アミノ酸(衛生試験法・注解、日本薬学会編、1990年金原出版株式会社発行、pp281−284)に準じて、遊離アミノ酸量(g/100g)の測定を行った。ただし、トリプトファンはHPLC法により、他は、アミノ酸自動分析法により試験を行った。アミノ酸分析の結果は表2に示すとおりであり、実施例2の醸造物は、脱脂粉乳原料に比して、遊離アミノ酸量が大量に増加しており、これらには呈味性のあるグルタミン酸、アラニン、バリン、メチオニン、グリシン等が含まれていた。これらが製品に濃厚な味を与え、醸造発酵により充分な呈味性が発現した。また、アミノ酸組成比における必須アミノ酸の比率も高く、アミノ酸バンランスの向上が確認された。
【0038】
【表2】

【0039】
〔一般項目分析試験(2)〕
実施例1〜4の醸造物(醸造発酵期間25日乃至35日)及び比較例2、3(醸造発酵期間40日)の味噌様醸造物について、基準みそ分析法(味噌技術ハンドブック、1995年全国味噌技術会発行、付録pp1〜35)に準じ、pH、色(Y%)、フォルモール窒素(FN)、酸度I、一般生菌数、大腸菌群、などの各項目の測定を行った。この結果は、表3に示すとおりであった。
【0040】
【表3】

【0041】
〔官能評価(1)〕
実施例1、2、4の醸造物(醸造発酵期間25日乃至35日)、比較例1(醸造発酵期間8日)の醸造物及び比較例2、3(醸造発酵期間40日)の味噌様醸造物について官能評価を行った。官能評価は専門パネル5名により主に風味について評価した。官能評価の結果は表4に示すとおりであり、実施例1の醸造物は、パンやクラッカーなどに直接塗ったり、グラタンやシチュー、スパゲッティの味付け、チーズの代替品として利用可能と判断された。
【0042】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆類蒸煮物及び/又は穀類蒸煮物に麹菌を培養し製麹された麹と、乳及び/又は乳加工処理物とを含み混合された麹混合材料が醸造発酵された醸造物を含んでなる調味料であって、
前記麹混合材料が非加熱状態で混合されたものであり、且つ、前記醸造物が5℃以上、40℃未満の温度で7日以上、180日以下の期間醸造発酵されたものであることを特徴とする調味料。
【請求項2】
前記醸造物を含む材料が、ペースト状又は粉末状又は細粒状又は顆粒状又は板状に成形されていることを特徴とする請求項1に記載の調味料。
【請求項3】
前記乳及び/又は乳加工処理物が牛由来であることを特徴とする請求項1又は2に記載の調味料。
【請求項4】
前記乳加工処理物が脱脂粉乳であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の調味料。
【請求項5】
前記麹混合材料が、塩材料を含み混合されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の調味料。
【請求項6】
前記麹混合材料が、アルコール含有材料を含み混合されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の調味料。
【請求項7】
前記醸造物が、醸造発酵により生成されアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有し前記乳及び/又は乳加工処理物の乳酸菌発酵においては生成することのない血圧上昇抑制作用物を含んでなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の調味料。
【請求項8】
前記麹混合材料100重量部に対し、前記乳及び/又は乳加工処理物が乾燥物として10重量部以上、90重量部以下配合され、前記麹が、10重量部以上、90重量部以下配合されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の調味料。
【請求項9】
豆類蒸煮物及び/又は穀類蒸煮物に麹菌を培養し製麹された麹と、乳及び/又は乳加工処理物とを含む材料を非加熱状態で混合し麹混合材料を得る麹混合工程と、
前記麹混合材料を5℃以上、40℃未満の温度で7日以上、180日以下の期間醸造発酵し醸造物を得る醸造発酵工程とを備えることを特徴とする調味料の製造方法。
【請求項10】
前記醸造物を含む材料を、ペースト状又は粉末状又は細粒状又は顆粒状又は板状に成形することを特徴とする請求項9に記載の調味料の製造方法。
【請求項11】
前記乳及び/又は乳加工処理物が牛由来であることを特徴とする請求項9又は10に記載の調味料の製造方法。
【請求項12】
前記乳加工処理物が脱脂粉乳であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の調味料の製造方法。
【請求項13】
前記麹混合工程は、塩材料を加えて混合することにより麹混合材料を得ることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載の調味料の製造方法。
【請求項14】
前記麹混合工程は、アルコール含有材料を加えて混合することにより麹混合材料を得ることを特徴とする請求項9乃至13のいずれかに記載の調味料の製造方法。
【請求項15】
前記麹混合工程は、麹混合材料100重量部に対し、前記乳及び/又は乳加工処理物を乾燥物として10重量部以上、90重量部以下配合し、前記麹を、10重量部以上、90重量部以下配合することを特徴とする請求項9乃至14のいずれかに記載の調味料の製造方法。

【公開番号】特開2006−296421(P2006−296421A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79737(P2006−79737)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000118497)伊藤ハム株式会社 (57)
【出願人】(391019049)宮坂醸造株式会社 (8)
【Fターム(参考)】