説明

調律器

【課題】 従来の調律器に多く起きている音声信号の混信状態に起因する調律性能の悪化を改善することが出来る調律器を提供する。
【解決手段】 楽器の音を入力する第1の入力手段と、前記第1の入力手段から入力された信号を増幅して第1の増幅信号を出力する第1の増幅手段と、前記第1の増幅手段の利得を任意の値に調整可能な利得調整手段と、前記第1の入力手段と異なる位置に設置された第2の入力手段と、前記第2の入力手段から入力された信号を増幅して第2の増幅信号を出力する第2の増幅手段と、前記第1の増幅信号から前記第2の増幅信号を減算する減算手段と、前記減算手段の出力信号と予め設定された基準音とのずれを比較する演算手段と、前記演算手段の演算結果を表示する表示手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器の音を調律する際に用いる調律器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の調律器の多くは、内蔵マイクロフォンと入力端子を備えており、エレキギターのような音声信号を電気的信号に変換して出力する楽器からの信号は入力端子に電気信号として入力される。また、電気的な出力端子を持たない吹奏楽器などは、一般に振動センサーを備えたコンタクトマイクロフォンを楽器に取り付け、楽器が音を発する際に生ずる機械振動をコンタクトマイクロフォンによって電気信号に変換し入力端子に入力する場合と、調律器にあらかじめ備えられている内蔵マイクロフォンによって音声信号を電気信号に変換して調律を行う。
【0003】
近年ではコンタクトマイクロフォンと調律器が一体になった調律器もあり、必ずしも入力端子を持たない調律器も市販されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−255932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エレキギターのような電気的出力装置をあらかじめ備えている楽器を調律する場合は、自らの出力する音声信号と外部のノイズのS/N比は比較的良好であるため、雑音の多い環境下においても調律作業で問題が起きることは稀である。楽器演奏者が個人練習といった単独で調律器を使用する場合、自らの出す楽器音以外の音源が存在しないため、内蔵マイクロフォンを使ったり、コンタクトマイクロフォンを入力端子に接続して使用するなどしてもなんら問題は起こらない。
【0005】
ところが、吹奏楽団のように複数人が楽器を演奏するような状況下で調律器を使用して調律を行う場合、自らの楽器以外の音源が複数あるため、特に内蔵マイクロフォンを使用して調律をしようとすると自分以外の楽器音にも調律器が反応してしまい混信状態となって調律作業に支障をきたすといった問題点がある。
【0006】
このような問題点を改善するために、コンタクトマイクロフォンを調律対象の楽器に取り付け、入力端子に接続することで自らの楽器音だけを収集するといった手段があるが、必ずしも完全に混信状態を解消できるわけではない。
【0007】
特に音楽教室などで同種の楽器の演奏者が複数いる場合、自らの楽器の出す音響的特性と酷似した音響特性を持つ楽器が多数ある。この状況で他の楽器が音を出すと、共鳴現象により自らの楽器も共鳴し調律に支障をきたすことが多い。これは特に共鳴胴を持つギター、バイオリン、琴などの楽器において起こりやすく、使用者は不便さを感じていた。
【0008】
また、参考文献にあるようなコンタクトマイクロフォンと調律器が一体になったタイプの調律器においても、一般的な調律器に比べその形態に違いはあるが、基本的な構成においてはなんら変わることがないので同様の課題を有している。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、従来の調律器に多く起きている混信状態に起因する調律性能の悪化を改善する調律器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の調律器は、楽器の音を入力する第1の入力手段と、前記第1の入力手段から入力された信号を増幅して第1の増幅信号を出力する第1の増幅手段と、前記第1の増幅手段の利得を任意の値に調整可能な利得調整手段と、前記第1の入力手段と異なる位置に設置された第2の入力手段と、前記第2の入力手段から入力された信号を増幅して第2の増幅信号を出力する第2の増幅手段と、前記第1の増幅信号から前記第2の増幅信号を減算する減算手段と、前記減算手段の出力信号と予め設定された基準音とのずれを比較する演算手段と、前記演算手段の演算結果を表示する表示手段と、
を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の調律器は、前記第1の入力手段を、前記第2の入力手段より楽器に近い位置に設置した場合、前記利得調整手段は、前記第1の増幅信号が前記第2の増幅信号よりも大きくなるように増幅率を調整可能なことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の楽音入力装置によれば、一般的な調律器の入力装置に外部マイクロフォンを付加し、且つ本来調律されるべき被調律音と調律において有害なノイズとを減算器によって分離し、S/N比を向上させることによって、ノイズのある環境下においても必要十分な調律性能を得ることが可能な調律器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の調律器の入力装置について図を参照しながら説明する。
【0014】
図1は一般的な調律器の機能の構成をブロック図によって示したものである。内蔵マイクロフォン1は音声を収集し音声信号を電気信号に変換する。入力端子2は電気的な出力手段を持つ楽器やたとえばコンタクトマイクロフォンのような外部の音声信号収集手段から出力される電気信号を受け取る端子である。入力端子2は主にオーディオ用のプラグが接続可能なジャックが用いられる。
【0015】
この入力端子2はジャック内部の接点構造により、入力端子2にプラグが接続されていないときは内蔵マイクロフォン1の電気信号を後述の増幅回路3へ伝達する。また、入力端子2にプラグが接続された場合は、ジャック内部の接点構造により内蔵マイクロフォン1の信号を遮断し、接続されたプラグからの信号を増幅回路へ伝達する構造を持つ。増幅回路3は入力端子から伝達された電気信号を増幅する。
【0016】
演算装置5は増幅装置3により増幅された電気信号を受け取り、この電気信号から音声の基本周期を抽出する。そして、抽出された基本周期とあらかじめ設定されているあるいは、基本周期にもっとも近い基準音とのピッチ誤差を算出する。
【0017】
操作部4はたとえば前述のあらかじめ設定される音名を設定する音名、基準ピッチの選択、モード切替などの操作を行う装置を備えている。
【0018】
表示部6は演算装置5によって算出されたピッチ誤差や音名などを表示する装置を備え、たとえばアナログメーターや液晶ディスプレイなどを利用して誤差の表示を行う。
【0019】
図2は本発明の第一実施形態を備えた調律器の機能の構成をブロック図で示したものである。図3は図2の調律器を使用する場合の例を示す概念図である。
【0020】
外部マイクロフォン7は図3に示すように調律器本体20から分離して設置され、外部マイクロフォン17に備えられる取り付け装置18によって直接楽器19に取り付けたり、あるいは楽器の近傍に設置される。外部マイクロフォン7によって収集される音声信号は本来調律すべき音、つまり被調律音であり、本実施例においては外部マイクロフォン7が主音声収集装置である。
【0021】
なお、図3に示した構成は実施の一例であり、外部マイクロフォン7は音サーマイクロフォンやダイナミックマイクロフォン、振動センサーなどでも良い。また、声信号を電気信号に変換可能なものであればいかなるものでも良く、たとえばコンデン取り付け装置18は概洗濯バサミ形状や面ファスナーなどのバンド類、粘着材などを利用しても良い。さらに、楽器に取り付けずに楽器の近傍に設置する場合はマイクロフォンスタンドや三脚といった装置を利用しても良い。
【0022】
外部マイクロフォン7によって収集された音声信号は電気信号に変換され、増幅回路10によって適当なレベルの信号に増幅される。本図における内蔵マイクロフォン8、入力端子9、増幅回路11のそれぞれは図1の内蔵マイクロフォン1、入力端子2、増幅回路3と機能が同一で重複するため、詳細な説明は省略する。
【0023】
減算器12は増幅回路10の出力信号から増幅回路11の出力信号を減じる。減算器12によって減算された信号は演算装置14に入力される。本図における演算装置14、操作部13、表示部15は図1の演算装置4、操作部4、表示部6と機能が同一で重複するため、詳細な説明は省略する。
【0024】
次に図2を参照しながら各構成要素の動作について説明する。外部マイクロフォン7は本実施形態において主音声収集装置であり、調律したい楽器の音声信号(以下楽器音と称する)内蔵マイクロフォン1は図1に示すような一般的な調律器では主音声収集装置であるが、本実施形態の調律器においては副音声収集装置であり、その役割は主に有害なノイズ成分の収集である。
【0025】
増幅回路10は外部マイクロフォン7によって収集された被調律音の電気信号を適当な信号レベルに増幅する。利得調整部16は増幅回路10の利得を任意の値に調整可能な手段であり、例えば回転ボリュームやスライドボリュームなどを備えて無段階に調整可能としたり、スイッチによって段階的に調整可能にしても良い。つまり、利得調整部16は増幅回路10の利得が調整できる装置であればいなかる物でも良く、また、利得を設計段階で最適化することで利得調整部16を省略しても良い。
【0026】
増幅回路10および増幅回路11からの電気信号は減算器12に入力される。増幅回路10から出力される電気信号は楽器音に加え調律に幾分かの有害なノイズ成分が重畳している。一方、増幅器11から出力される電気信号は調律したい楽器から離れた位置にある調律器に内蔵されているマイクロフォンからの出力であるため増幅回路10が出力する電気信号に比べ調律したい楽器の音声信号と有害なノイズ成分との比率、つまりS/N比が悪い。
【0027】
本発明のS/N比が改善の様子の基本概念を図6を参照しながら説明する。仮に、外部マイクロフォンからの入力29に示すように外部マイクロフォン7が収集する音声信号の成分を楽器音成分の割合が8、ノイズ成分が2とし、増幅回路32の利得が利得調整部31によって5倍に調整されてあったとすると、増幅回路32の出力信号は出力信号34に示すように楽器音成分が40、ノイズ成分が10となる。
【0028】
そして内蔵マイクロフォンが収集する音声信号の成分が内蔵マイクロフォンからの入力30に示すように楽器音成分の割合が5、ノイズ成分が5とし、増幅回路33の利得が2倍であったとすると、増幅回路33の出力信号は出力信号35に示すように楽器音成分が10、ノイズ成分が10となる。
【0029】
減算器36によって出力信号34から出力信号35を減じると減算器36のような計算が成り立つ。(楽器音成分40+ノイズ成分10)−(楽器音成分10+ノイズ成分10)=(楽器音成分30+ノイズ成分0)となり、ノイズ成分が除去されたことになる。
【0030】
次に、本発明の第二実施例として、入力装置を調律器本体内に内蔵せず、外部入力装置として設置する調律器の例を図4のブロック図を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0031】
外部マイクロフォン22は収集した音声信号を電気信号に変換して出力する。また、この外部マイクロフォン22は図3で説明した外部マイクロフォン17と同様の機能及び構成である。外部入力装置21の増幅回路21−bは前記外部マイクロフォン23の出力信号を増幅する。増幅回路21−bは利得調整部21−aによって、増幅回路の利得を調整可能である。
【0032】
この利得調整部22−aは図2で説明した利得調整部16と同様の機能および構成である。増幅回路21−b及び増幅回路21−dの出力信号は減算器21−eに入力される。この減算器21−eは図2で説明した減算器12と同様の機能及び構成である。減算器21−eの出力信号は一般的な調律器22の入力端子22−bに入力される。
【0033】
一般的な調律器22の構成は図1に示す内蔵マイクロフォン1、入力端子2、増幅回路3、操作部4、演算装置5、表示部6と内蔵マイクロフォン22−a、入力端子22−b、増幅回路22−c、操作部22−d、演算装置22−e、表示装置22−fがそれぞれ対応しており、同様の機能及び構成であるので詳細な説明は省略する。
【0034】
図4に示すように本発明の入力装置を調律器本体内に内蔵せず、外部入力装置として設置することで、すでに従来の一般的な調律器を所有している使用者であっても、改めて本発明の入力装置の内蔵された調律器を購入する必要がなく、図4に示した外部入力装置を別途購入し、追加することで最小の費用投資で本発明の効果を得ることができるよう配慮した製品とすることが可能である。
【0035】
図5は図4に示すブロックを実際の構成にした場合の様子を示した一例である。ギター27には振動センサー26が取り付けられていて、振動センサー26は楽器の音声信号を電気信号に変換を変換する。本図では振動センサーを例示したが、前述のとおり、必ずしも振動センサーである必要はなく、音声信号を電気信号に変換可能な装置であればいかなる物でも良い。
【0036】
振動センサー26によって電気信号に変換された音声信号は外部入力装置25に入力される。入力された信号は外部入力装置25に内蔵される増幅装置によって増幅される。この増幅装置の利得は利得調整ボリューム25−bを調整することで適当なレベルに調整が可能である。入力された電気信号と内蔵マイクロフォン25−aの出力する信号は外部入力装置25に内蔵される減算器によって減算され、S/N比の高い信号として一般的な調律器24に入力される。
【0037】
このとき、より効率的にノイズ除去を行うことを目的とする本発明においては振動センサー26と外部入力装置25は可能な限り離して設置することが望ましいが、あまりに遠距離に離してしまうと一般的な調律器24の表示の読み取りが困難となるので概ね1メートルから2メートル程度の距離に設置できるようにケーブル27の長さを設定すると良い。
【0038】
一方で出力ケーブル28は一般的な調律器24との距離を短く設定したほうが使い勝手が良く、20センチメートルから30センチメートル程度にするとよい。また、外部入力装置を周囲のノイズを収集するだけの目的として使用する場合は出力ケーブル28を長く設定することで被調律音以外のノイズ音の収集がより効率的となり効果的なノイズ除去が可能となる。
【0039】
この出力ケーブル28の長さは用途やノイズ環境に合わせて適当な長さに設定すると良い。出力ケーブル28を介して一般的な調律器24に入力される。入力された信号はS/N比が高いため、調律器は本発明の入力装置を備えない調律器に比べ誤表示などが非常に少なく快適に調律作業を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】一般的な調律器のブロック図である。
【図2】本発明の第一実施形態の入力装置を備える調律器のブロック図である。
【図3】本発明の第一実施形態の入力装置を備えた調律器の使用例を示した図である。
【図4】本発明の第二実施形態の入力装置を備える調律器のブロック図である。
【図5】本発明の第二実施形態の入力装置を備えた調律器の使用例を示した図である。
【図6】本発明の第二実施形態によるS/N比改善の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0041】
1 内蔵マイクロフォン
2 入力端子
3 増幅回路
4 操作部
5 演算装置
6 表示部
7 外部マイクロフォン
8 内蔵マイクロフォン
9 入力端子
10 増幅回路
11 増幅回路
12 減算器
13 操作部
14 演算装置
15 表示部
16 利得調整部
17 外部マイクロフォン
18 取り付け装置
19 楽器
20 調律器本体
21 外部入力回路
21−a 利得調整部
21−b 増幅回路
21−c 内蔵マイクロフォン
21−d 増幅回路
21−e 減算器
22 一般的な調律器
22−a 内蔵マイクロフォン
22−b 入力端子
22−c 増幅回路
22−d 操作部
22−e 演算装置
22−f 表示装置
23 一般的な調律器
24 外部入力装置
24−a 内蔵マイクロフォン
24−b 利得調整ボリューム
25 振動センサー
26 ギター
27 センサーケーブル
28 出力ケーブル
29 外部マイクロフォンからの入力
30 内蔵マイクロフォンからの入力
31 利得調整部
32 増幅回路
33 増幅回路
34 出力信号
35 出力信号
36 減算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器の音を入力する第1の入力手段と、
前記第1の入力手段から入力された信号を増幅して第1の増幅信号を出力する第1の増幅手段と、
前記第1の増幅手段の利得を任意の値に調整可能な利得調整手段と、
前記第1の入力手段と異なる位置に設置された第2の入力手段と、
前記第2の入力手段から入力された信号を増幅して第2の増幅信号を出力する第2の増幅手段と、
前記第1の増幅信号から前記第2の増幅信号を減算する減算手段と、
前記減算手段の出力信号と予め設定された基準音とのずれを比較する演算手段と、
前記演算手段の演算結果を表示する表示手段と、
を有することを特徴とする調律器。
【請求項2】
前記第1の入力手段を、前記第2の入力手段より楽器に近い位置に設置した場合、前記利得調整手段は、前記第1の増幅信号が前記第2の増幅信号よりも大きくなるように増幅率を調整可能なことを特徴とする請求項1に記載の調律器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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