説明

調整方法

【課題】画像劣化を抑制する流体噴射装置の調整方法を提供。
【解決手段】複数のヘッドを媒体に対して移動方向の一の側から他の側に移動させながら複数のヘッド41から流体を噴射させる第1動作によって第1パターンを形成し、他の側から一の側に移動させながら流体を噴射させる第2動作によって第2パターンを形成し、第1パターンに基づいて、複数のヘッド41のうちの所定方向と交差する方向に離れて配置された2個のヘッドにより形成されたラインの間隔である第1の間隔を算出し、第2パターンに基づいて、複数のヘッド41のうちの所定方向と交差する方向に離れて配置された2個のヘッドにより形成されたラインの間隔である第2の間隔を算出し、第1の間隔および第2の間隔に基づいて、第1動作時にノズル列が移動方向と交差する方向に対して傾く角度で、第2動作時にノズル列を移動方向と交差する方向に対して逆の方向に傾かせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置の一つとして、媒体に対してインク(流体)を噴射するヘッドを有するインクジェットプリンター(以下、プリンター)が知られている。ヘッドにはインクを噴射する複数のノズルが所定方向に並んだノズル列が設けられており、ヘッドを媒体に対して移動方向に移動させながらインクを噴射させることによって、媒体に画像が印刷される。
【0003】
プリンターの高速印刷を実現するために、複数のヘッドがノズル列方向に並んで配置されたプリンターが提案されている。ノズル列方向に並ぶ複数のヘッドは構造上の問題により千鳥状に配置される場合がある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−18639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のプリンターでは、印刷を行う際に複数のヘッドが傾いてしまうと、各ヘッドにて形成される移動方向に沿うドット列の間隔がずれてしまい、画像が劣化してしまう。また、単一のヘッドのプリンターの場合でも、印刷を行なう際にヘッドが傾いてしまうと、同様に画質が劣化してしまう。
そこで、本発明は画像劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する為の主たる発明は、(1)媒体に流体を噴射するノズルが所定方向に並んだノズル列を有する複数のヘッドが前記所定方向の異なる位置に配置された流体噴射装置の調整方法であって、(2)前記複数のヘッドを前記媒体に対して移動方向の一の側から他の側に移動させながら前記複数のヘッドから流体を噴射させる第1動作によって、前記移動方向に沿うラインが前記移動方向と交差する方向に並ぶ第1パターンを形成することと、(3)前記複数のヘッドを前記媒体に対して前記移動方向の前記他の側から前記一の側に移動させながら前記複数のヘッドから流体を噴射させる第2動作によって、前記移動方向に沿うラインが前記移動方向と交差する方向に並ぶ第2パターンを形成することと、(4)前記第1パターンに基づいて、前記複数のヘッドのうちの前記所定方向と交差する方向に離れて配置された2個の前記ヘッドにより形成された前記ラインの間隔である第1の間隔を算出することと、(5)前記第2パターンに基づいて、前記複数のヘッドのうちの前記所定方向と交差する方向に離れて配置された2個の前記ヘッドにより形成された前記ラインの間隔である第2の間隔を算出することと、(6)前記第1の間隔および前記第2の間隔に基づいて、前記第1動作時に前記ノズル列が前記移動方向と交差する方向に対して傾く角度で、前記第2動作時に前記ノズル列を前記移動方向と交差する方向に対して逆の方向に傾かせることと、を有することを特徴とする調整方法である。
【0007】
本発明の他の特徴は、本明細書、及び添付図面の記載により、明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】印刷システムの構成ブロック図である。
【図2】図2Aはプリンターの断面図であり、図2Bは上面図である。
【図3】ヘッドユニットにおける複数のヘッドの配置を示す図である
【図4】ヘッドユニットが移動中に傾斜する様子を示す図である。
【図5】図5A及び図5Bはヘッドが傾いた時に形成されるラインを示す図である。
【図6A】ベースプレートの傾き調整機構を説明する図である。
【図6B】ノズル列の傾きの調整方法の変形例を説明するための図である。
【図7】比較例のドット形成位置の補正方法を説明するための図である。
【図8】図8Aは移動中に傾くヘッドユニットによって形成されたテストパターンを示す図であり、図8Bは比較例の補正方法によって補正されたラインを示す図である。
【図9】本実施形態におけるドット形成位置の補正方法のフローである。
【図10A】第1テストパターンを示す図である。
【図10B】第1ヘッドの往路ラインと第3ヘッドの往路ラインを補正した様子を示す図である。
【図10C】ヘッドの噴射タイミングを補正して形成されるラインを示す図である。
【図11】各ヘッドによるドット形成位置の別の比較例の補正方法を示す図である。
【図12】図12Aは往路時と復路時のベースプレートの傾きが異なる場合のラインを示し、図12Bは往路時と復路時のベースプレートの傾きが等しい場合のラインを示す。
【図13】図13Aは第2テストパターンを示す図であり、図13Bは補正された往路ラインと復路ラインを示す図である。
【図14】第2補正値の別の算出方法を示す図である。
【図15】テストパターンの変形例を示す図である。
【図16】テストパターンの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
===開示の概要===
本明細書の記載、及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかとなる。
【0010】
即ち、(1)媒体に流体を噴射するノズルが所定方向に並んだノズル列を有する複数のヘッドが前記所定方向の異なる位置に配置された流体噴射装置の調整方法であって、(2)前記複数のヘッドを前記媒体に対して移動方向の一の側から他の側に移動させながら前記複数のヘッドから流体を噴射させる第1動作によって、前記移動方向に沿うラインが前記移動方向と交差する方向に並ぶ第1パターンを形成することと、(3)前記複数のヘッドを前記媒体に対して前記移動方向の前記他の側から前記一の側に移動させながら前記複数のヘッドから流体を噴射させる第2動作によって、前記移動方向に沿うラインが前記移動方向と交差する方向に並ぶ第2パターンを形成することと、(4)前記第1パターンに基づいて、前記複数のヘッドのうちの前記所定方向と交差する方向に離れて配置された2個の前記ヘッドにより形成された前記ラインの間隔である第1の間隔を算出することと、(5)前記第2パターンに基づいて、前記複数のヘッドのうちの前記所定方向と交差する方向に離れて配置された2個の前記ヘッドにより形成された前記ラインの間隔である第2の間隔を算出することと、(6)前記第1の間隔および前記第2の間隔に基づいて、前記第1動作時に前記ノズル列が前記移動方向と交差する方向に対して傾く角度で、前記第2動作時に前記ノズル列を前記移動方向と交差する方向に対して逆の方向に傾かせることと、を有することを特徴とする調整方法である。
このような調整方法によれば、第1動作時と第2動作時におけるノズル列の傾きを出来る限り小さくすることができ、画像劣化を抑制することができる。
【0011】
かかる調整方法であって、前記流体噴射装置では前記複数のヘッドが1つのプレートに取り付けられ、前記第1の間隔および前記第2の間隔に基づいて、前記移動方向と交差する方向に対する前記プレートの傾きを調整するであること。
このような調整方法によれば、第1動作時と第2動作時のノズル列の傾きを調整できる。
【0012】
かかる調整方法であって、前記プレートに取り付けられた前記複数のヘッドの各前記ノズル列が平行であること。
このような調整方法によれば、第1動作時と第2動作時のノズル列の傾きをプレートの傾きを調整することによって調整できる。
【0013】
かかる調整方法であって、前記第1の間隔および前記第2の間隔に基づいて、前記移動方向と交差する方向に対する各前記ヘッドの傾きを調整すること。
このような調整方法によれば、第1動作時と第2動作時のノズル列の傾きを調整できる。
【0014】
かかる調整方法であって、前記第1動作によって第3パターンを形成し、前記第2動作によって第4パターンを形成し、前記第3パターン及び前記第4パターンに基づいて、前記複数のヘッドのうちの或るヘッドの前記所定方向の一方側の端部ノズルから前記第1動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、前記第1動作時の前記或るヘッドから噴射される流体の着弾位置に前記第2動作時に流体を噴射する前記ヘッドと前記所定方向の前記一方側に並ぶ前記ヘッドの他方側の端部ノズルから前記第2動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、を揃えるための補正値を取得し、前記補正値を前記流体噴射装置の記憶部に記憶させること。
このような調整方法によれば、第1動作時に形成される画像の端部と第2動作時に形成される画像の端部のずれを抑えて画像劣化を抑制できる。複数のヘッド全体で形成されるラインの傾きを小さくすることができる。
【0015】
かかる調整方法であって、前記第3パターン及び前記第4パターンに基づいて、前記或るヘッドの中央部ノズルから前記第1動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、前記第1動作時の前記或るヘッドから噴射される流体の着弾位置に前記第2動作時に流体を噴射する前記ヘッドの中央部ノズルから前記第2動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、を揃えるための別の補正値を取得し、前記別の補正値を前記記憶部に記憶させること。
このような調整方法によれば、媒体上の同じ領域に第1動作時に形成される画像と第2動作時に形成される画像のずれを抑えて画像劣化を抑制できる。
【0016】
かかる調整方法であって、前記第3パターン及び前記第4パターンに基づいて、前記或るヘッドの前記所定方向の一方側の端部ノズルから前記第2動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、前記第2動作時の前記或るヘッドから噴射される流体の着弾位置に前記第1動作時に流体を噴射する前記ヘッドと前記所定方向の前記一方側に並ぶ前記ヘッドの他方側の端部ノズルから前記第1動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、を揃えるための別の補正値を取得し、前記別の補正値を前記記憶部に記憶させること。
このような調整方法によれば、第1動作時に形成される画像の端部と第2動作時に形成される画像の端部のずれを抑えて画像劣化を抑制できる。
【0017】
また、(1)媒体に流体を噴射するノズルが所定方向に並んだノズル列を有するヘッドを備えた流体噴射装置の調整方法であって、(2)前記ヘッドを前記媒体に対して移動方向の一の側から他の側に移動させながら前記ノズルから流体を噴射させる第1動作によって、前記移動方向に沿うラインである第1のラインを形成することと、(3)前記ヘッドを前記媒体に対して前記移動方向の前記他の側から前記一の側に移動させながら前記ノズルから流体を噴射させる第2動作によって、前記移動方向に沿うラインである第2のラインを形成することと、(4)前記第1のラインの前記移動方向と交差する方向の位置と前記第2のラインの前記交差する方向の位置とに基づいて、前記第1動作時に前記ノズル列が前記交差する方向に対して傾く角度で、前記第2動作時に前記ノズル列を前記交差する方向に対して逆の方向に傾かせることと、を有することを特徴とする調整方法である。
このような調整方法によれば、第1動作時と第2動作時におけるノズル列の傾きを出来る限り小さくすることができ、画像劣化を抑制することができる。
【0018】
===印刷システムについて===
以下、流体噴射装置としてインクジェットプリンター(以下、プリンター1)を例に挙げ、プリンター1とコンピューター60が接続された印刷システムについて説明する。
【0019】
図1は、印刷システムの構成ブロック図である。図2Aは、プリンター1の概略断面図であり、図2Bは、プリンター1の概略上面図である。外部装置であるコンピューター60から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー10により、各ユニット(搬送ユニット20、駆動ユニット30、ヘッドユニット40)を制御し、印刷領域に位置する媒体S(連続用紙)に画像を形成する。また、プリンター1内の状況を検出器群50が監視し、その検出結果に基づいて、コントローラー10は各ユニットを制御する。
【0020】
搬送ユニット20は、媒体Sが連続する方向(以下、搬送方向)に、媒体Sを、上流側から下流側に搬送するものである。モータによって駆動する搬送ローラー21によって印刷前のロール状の媒体Sを印刷領域に供給し、その後、印刷済みの媒体Sを巻取機構によりロール状に巻き取る。なお、印刷中の印刷領域では、媒体Sが下からバキューム吸着され、媒体Sは所定の位置に保持される。
【0021】
駆動ユニット30は、ヘッドユニット40を、搬送方向に対応するX方向と、媒体Sの幅方向に対応するY方向とに自在に移動させるものである。駆動ユニット30は、ヘッドユニット40をX方向(移動方向に相当)に移動させるX軸ステージ31と、X軸ステージ31をY方向に移動させるY軸ステージ32と、これらを移動させるモータ(不図示)とで、構成されている。
【0022】
ヘッドユニット40は、画像を形成するためのものであり、複数のヘッド41を有する。ヘッド41の下面には、インク噴射部であるノズルが複数設けられ、各ノズルにはインクが入ったインク室が設けられている。
【0023】
次に、印刷手順について説明する。まず、搬送ユニット20により印刷領域に供給された媒体Sに対して、X軸ステージ31によりヘッドユニット40がX方向(搬送方向)に移動し、この移動中にノズルからインクが噴射され、媒体SにはX方向に沿ったドット列が形成される。その後、ヘッドユニット40は、Y軸ステージ32により、X軸ステージ31を介して、Y方向(紙幅方向)に移動し、その後、再び、ヘッドユニット40がX方向に移動しながら印刷を行う。このように、ヘッドユニット40のX方向への移動によるドット形成動作と、ヘッドユニット40のY方向への移動を交互に繰り返すことで、先のドット形成動作により形成されたドットの位置とは異なる位置にドットを形成することができ、画像が完成する(画像形成動作)。このように、印刷領域に供給された媒体Sの印刷が終了すると、搬送ユニット20により印刷が未だなされていない媒体Sの部分を印刷領域に供給し(搬送動作)、再び、印刷領域の媒体Sに画像が形成される。本実施形態のプリンター1では、この画像形成動作と媒体Sの搬送動作が交互に繰り返される。
【0024】
===ヘッド41の配置について===
図3は、ヘッドユニット40における複数のヘッド41の配置を示す図である。なお、実際にはヘッドユニット40の下面にノズル面が形成されるが、図3は上面からノズルを仮想的に見た図である(以下の図も同様)。紙幅方向に多数のノズルが並ぶことで、ヘッドユニット40の搬送方向への1回の移動により、大きな幅の画像を印刷することができる。そうすることで、印刷の高速化を図れる。ただし、製造上の問題により長尺のヘッドを形成することが出来ない。そこで、プリンター1では、複数の短尺ヘッド41(n個)を紙幅方向に並べて配置する。図示するように複数のヘッド41はベースプレートBPに取り付けられている。プリンター1の製造工程において、複数のヘッド41が取り付けられたベースプレートBP(プレートに相当)がプリンター1の本体部に取り付けられる。
【0025】
各ヘッド41のノズル面には、イエローインクを噴射するイエローノズル列Yと、マゼンタインクを噴射するマゼンタノズル列Mと、シアンインクを噴射するシアンノズル列Cと、ブラックインクを噴射するブラックノズル列Kが形成されている。各ノズル列はノズルを180個ずつ備え、180個のノズルは紙幅方向に一定の間隔(180dpi)で整列している。図示するように紙幅方向の奥側のノズルから順に小さい番号を付す(#1〜#180)。
【0026】
また、紙幅方向に隣り合う2つのヘッド(例えば41(1)・41(2))のうちの奥側のヘッド41(1)の最も手前側のノズル#180と、手前側のヘッド41(2)の最も奥側のノズル#1との間隔も一定の間隔(180dpi)となっている。つまり、ヘッドユニット40の下面では、ノズルが紙幅方向に一定の間隔(180dpi)で並んでいることになる。なお、異なるヘッド41の端部ノズルが重複していてもよい。
【0027】
図3に示すように、異なるヘッド41の端部ノズルの間隔を180dpiにするためには、ヘッド41の構造上の問題により、ヘッド41を千鳥状に配置する必要がある。このように複数のヘッド41が千鳥状に並ぶ場合、紙幅方向に沿う一直線のラインを形成するためには、搬送方向の下流側のヘッド41(奇数番号のヘッド、例えば41(1))から流体を噴射するタイミングと、搬送方向の上流側のヘッド41(偶数番号のヘッド、例えば41(2))から流体を噴射するタイミングを補正する必要がある。以下、搬送方向の位置がずれているヘッド41からの噴射タイミング(ドット形成位置)を補正する方法を示す。
【0028】
===ベースプレートBPの傾き調整について===
図4は、本実施形態のヘッドユニット40が搬送方向への移動中に傾斜する様子を示す図である。図2B及び図3に示すように、本実施形態のプリンター1では、紙幅方向の奥側のX軸ステージ31(駆動モータが取り付けられた駆動軸)によってのみ、ヘッドユニット40を搬送方向に移動させる。即ち、ヘッドユニット40の紙幅方向の片側端部だけを駆動している。また、ヘッドユニット40には多くのヘッド41が搬送方向に並んで配置されているので、ヘッドユニット40は比較的に重く、紙幅方向に長い構造となっている。そのため、ヘッドユニット40を搬送方向に移動する際に、X軸ステージ31側とは逆側(紙幅方向の手前側)のヘッドユニット端部に強く慣性力が働き、図示するようにヘッドユニット40が傾き易くなってしまう。
【0029】
また、本実施形態のプリンター1は、ヘッドユニット40が搬送方向の下流側から上流側へ移動する時(以下、往路時)にも、ヘッドユニット40が搬送方向の上流側から下流側へ移動する時(以下、復路時)にも、印刷を行うとする(双方向印刷)。そして、図4に示すように、往路時にはヘッドユニット40は時計回り方向に傾き、復路時にはヘッドユニット40は反時計回り方向に傾く。即ち、往路時と復路時において、ヘッドユニット40の傾く方向が異なる。なお、図4では説明の為にヘッドユニット40を大きく傾かせて描いているが、実際は微小な傾きである。
【0030】
ヘッドユニット40が搬送方向への移動中に紙幅方向に対して傾く現象は、ヘッドユニット40の一方側だけを駆動する場合に発生し易い。特に、本実施形態のプリンター1のように、X軸ステージ31(駆動軸)の逆側にガイドレールなども設けていない場合には、ヘッドユニット40がより傾き易くなる。
【0031】
図5Aおよび図5Bは、印刷中にヘッド41のノズル列が紙幅方向に対して傾いた場合に形成されるラインを示す図である。図6Aは、ベースプレートBPの傾き調整機構を説明する図である。ここで、プリンター1の製造工程において、図6Aに示すように、ベースプレートBPのセンターラインCL2とヘッド41のノズル列方向(所定方向に相当)が平行になるように、複数のヘッド41がベースプレートBPに取り付けられる。なお、図6Aでは説明の簡略のためヘッド41の数を4個としている。そして、複数のヘッド41が取り付けられたベースプレートBPをプリンター1の本体部(ヘッドユニット40の本体部)に組み込むときに、ヘッドユニット40のセンターラインCL1とベースプレートBPのセンターラインCL2が平行となるようにする。即ち、印刷用紙Sの紙幅方向と、ヘッドユニット40のセンターラインCL1と、ベースプレートBPのセンターラインCL2と、ヘッド41のノズル列方向と、が平行となるように、各部品が組み立てられる。
【0032】
ヘッド41のノズル列方向と紙幅方向(移動方向と交差する方向に相当)が平行となるようにプリンター1が組み立てられたとしても、ヘッドユニット40の搬送方向(移動方向に相当)への移動中には、図4に示すように、ヘッドユニット40(のセンターラインCL1)は紙幅方向に対して傾いてしまう。即ち、ヘッドユニット40の搬送方向への移動中に、図5に示すように、ベースプレートBPのセンターラインCL2及びヘッド41のノズル列は紙幅方向に対して傾いてしまう。図5には、ヘッドユニット40の移動中に傾くヘッド41から所定時間おきにインク滴を噴射することによって形成されるライン(以下、ラスターライン)を示す。
【0033】
ヘッドユニット40が移動中に紙幅方向に対して傾くと、ヘッド41のノズル列も紙幅方向に対して傾く。ノズル列が紙幅方向に対して傾く時に形成されるラスターラインは、ノズル列が紙幅方向に沿う時に形成されるラスターライン(例えば設計上のラスターラインの形成位置)に対して、紙幅方向の位置がずれてしまう。そのため、印刷中のノズル列(ヘッド41)の紙幅方向に対する傾き、即ち、搬送方向への移動中のベースプレートBP(センターラインCL2)の紙幅方向に対する傾きは、出来る限り小さいことが好ましい。
【0034】
また、図3に示すように、本実施形態のプリンター1では、紙幅方向に並ぶ複数のヘッド41が千鳥状に配置されている。即ち、紙幅方向に並ぶヘッド41が搬送方向に離れて配置されている。そのため、ヘッドユニット40が搬送方向への移動中に傾くと、図5に示すように、各ヘッド41の端部ノズルに形成されるラスターラインの間隔D1,D2が所定のラスターライン間隔(例えばノズルピッチ=180dpi)よりも狭くなったり広くなったりする。
【0035】
往路時に図5Aに示すように印刷中のヘッド41が時計回り方向に傾く場合、第1ヘッド41(1)の紙幅方向手前側の端部ノズルによるラスターラインと第2ヘッド41(2)の紙幅方向奥側の端部ノズルによるラスターラインの間隔D1(第1の間隔に相当)が、ノズルピッチよりも広くなる。一方、第2ヘッド41(2)の紙幅方向手前側の端部ノズルによるラスターラインと第3ヘッド41(3)の紙幅方向奥側の端部ノズルによるラスターラインの間隔D2(第1の間隔に相当)が、ノズルピッチよりも狭くなる。
【0036】
逆に、復路時に図5Bに示すように印刷中のヘッド41が反時計回り方向に傾く場合、第1ヘッド41(1)の紙幅方向手前側の端部ノズルによるラスターラインと第2ヘッド41(2)の紙幅方向奥側の端部ノズルによるラスターラインの間隔D1(第2の間隔に相当)が、ノズルピッチよりも狭くなる。一方、第2ヘッド41(2)の紙幅方向手前側の端部ノズルによるラスターラインと第3ヘッド41(3)の紙幅方向奥側の端部ノズルによるラスターラインの間隔D2(第2の間隔に相当)が、ノズルピッチよりも広くなる。そして、印刷中のヘッド41の紙幅方向に対する傾きが大きくなるほど、端部ノズルに形成されるラスターラインの間隔D1,D2のノズルピッチからのずれ量が大きくなる。
【0037】
このように、ヘッドユニット40の搬送方向への移動中の傾きによって、印刷中のヘッド41が紙幅方向に対して傾くと、各ヘッド41の端部ノズルに形成されるラスターラインの間隔が広くなったり、狭くなって重なったりしてしまう。そうすると、画像が劣化してしまう。ただし、ヘッドユニット40をスムーズに搬送方向へ移動させるためには、X軸ステージ31の移動軸とヘッドユニット40の間に多少の隙間が必要である。そのため、ヘッドユニット40の移動中の傾きを完全に防止することは出来ない。
【0038】
そこで、本実施形態では、印刷中のヘッド41(ノズル列)の紙幅方向に対する傾きを出来る限り小さくすることを目的とする。言い換えれば、ヘッドユニット40の移動中におけるベースプレートBP(センターラインCL2)の紙幅方向に対する傾きを出来る限り小さくすることを目的とする。なお、製造工程において、ベースプレートBP(ノズル列)の傾きを調整するに限らない。プリンター1がユーザーの元に出荷された後に、プリンター1のメンテナンスを行う際にも、下記の調整方法によってベースプレートBPの傾きを調整してもよい。
【0039】
また、本実施形態のプリンター1は双方向印刷を行うため、往路時にも復路時にもベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを出来る限り小さくする必要がある。ヘッドユニット40やX軸ステージ31の特性により、ヘッドユニット40の紙幅方向に対する傾きが往路時と復路時に一定になるとは限らない。また、ヘッドユニット40のセンターラインCL1に対してベースプレートBPのセンターラインCL2が傾いてプリンター1が組み立てられる場合もある。つまり、往路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きと復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きが異なる場合がある。この場合、往路時と復路時のうちの一方においてベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きが大きくなってしまい、画像を劣化してしまう。
【0040】
そこで、双方向印刷を行う本実施形態では、往路時と復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを等しくすることを目的とする。言い換えれば、往路時(第1動作時)にベースプレートBP(ノズル列)が紙幅方向に対して傾く角度で、復路時(第2動作時)にベースプレートBP(ノズル列)を紙幅方向に対して逆方向に傾かせる。
【0041】
そうすることで、ヘッドユニット40に対してベースプレートBPが傾いて取り付けられたり、往路時と復路時においてヘッドユニット40の紙幅方向に対する傾きが異なったりしたとしても、往路時と復路時におけるベースプレートBP(ノズル列)の紙幅方向に対する傾きを最小にすることができる。その結果、往路時と復路時にそれぞれ形成される画像の劣化を同じ様に抑制することができる。
【0042】
そのために、本実施形態のヘッドユニット40は、図6Aに示すように、ベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを調整するための調整機構を有する。調整機構は、ベースプレートBPの紙幅方向奥側の端面BPaに当接されたマイクロメーター60と、ベースプレートBPの紙幅方向手前側の端面BPbとヘッドユニット40の筐体42との間に設けられた圧縮バネ63と、回転軸64と、を有する。マイクロメーター60および圧縮バネ63は、ベースプレートBPのセンターラインCL1よりも搬送方向の下流側に位置し、ベースプレートBPを挟んで対向している。
【0043】
マイクロメーター60の操作部61を回動させることによりスピンドル62が伸縮する。スピンドル62が伸びるとベースプレートBPの端面BPaが押され、圧縮バネ63が紙幅方向の手前側に縮む。そうすると、ベースプレートBPは回転軸64を支点として、反時計回り方向に傾く。操作部61を逆に回動させるとスピンドル62が縮み、圧縮バネ63が紙幅方向の奥側に伸びる。そうすると、ベースプレートBPが回転軸64を支点として、時計回り方向に傾く。このように、マイクロメーター60のスピンドル62の伸縮を調整することによって、ベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを調整することができる。言い換えれば、マイクロメーター60によって、ヘッドユニット40のセンターラインCL1に対するベースプレートBPのセンターラインCL2の傾きを調整することができる。
【0044】
そして、本実施形態では、往路時と復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを等しくするために、プリンター1の製造時において、ヘッドユニット40のセンターラインCL1に対するベースプレートBPのセンターラインCL2の傾き調整を行う。そのために、まず、ヘッド41が取り付けられたベースプレートBPをプリンター1本体部に組み込んだ後、プリンター1にテストパターンを印刷させる。テストパターンとして、図5に示すように搬送方向に移動するヘッドユニット40から所定の時間間隔でインク滴を噴射させて、ヘッド41が有する各ノズルにラスターライン(移動方向に沿うラスターラインに相当)を形成させる。図5では、ヘッド41が有する全てのノズルからインク滴を噴射させるため、テストパターンとして、ノズル数分だけラスターラインが紙幅方向に並んで形成される。また、往路時のテストパターン(第1パターンに相当)と復路時のテストパターン(第2パターンに相当)を形成する。
【0045】
次に、印刷したテストパターン(紙幅方向に並ぶラスターラインの集まり)に基づき、紙幅方向に隣り合うヘッド41の端部ノズルにて形成されたラスターラインの間隔(図5のD1,D2)を算出する。そのために、印刷したテストパターンをスキャナーで読み取るとよい。また、テストパターンを印刷する時に、各ヘッド41の端部ノズルに形成させるラスターラインは他のノズルに形成させるラスターラインよりも長くするとよい。そうすることで、テストパターン結果から端部ノズルに形成されたラスターラインを正しく認識することができる。また、ヘッド41が有する全てのノズルからインク滴を噴射するに限らず、少なくとも、ヘッド41の端部ノズルからインク滴を噴射させるとよい。
【0046】
ヘッドユニット移動中のベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きθの大きさに応じて、紙幅方向に並ぶヘッド41の端部ノズルによるラスターラインの間隔D1,D2が変化する。往路時(図5A)には奇数ヘッド41(1)の紙幅方向手前側の端部ノズルによるラスターラインと偶数ヘッド41(2)の紙幅方向奥側の端部ノズルによるラスターラインとの第1ライン間隔D1がノズルピッチよりも広くなる。逆に、復路時(図5B)には偶数ヘッド41(2)の紙幅方向手前側の端部ノズルによるラスターラインと奇数ヘッド41(3)の紙幅方向奥側の端部ノズルによるラスターラインとの第2ライン間隔D2がノズルピッチよりも広くなる。そのため、往路時における第1ライン間隔D1(第1の間隔に相当)と復路時における第2ライン間隔D2(第2の間隔に相当)を等しくするとよい。同様に、往路時における第2ライン間隔D2と復路時における第1ライン間隔D1を等しくする。そうすることで、往路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きと復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを等しくすることができる。
【0047】
例えば、復路時のテストパターン(図5B)における第2ライン間隔D2が、往路時のテストパターン(図5A)における第1ライン間隔D1よりも広いとする。この場合、復路時のベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きの方が、往路時のベースプレートBPの傾きよりも大きいということである。そこで、マイクロメーター60の調整によりスピンドル62を紙幅方向奥側に縮めて、ベースプレートBPを時計回り方向に傾かせるとよい。そうすることで、復路時のベースプレートBPの紙幅方向(又はヘッドユニット40のセンターラインCL1)に対する傾きが小さくなり、逆に往路時のベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを大きくすることができる。その結果、往路時と復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを等しくすることができる。
【0048】
そうすることで、ヘッドユニット40が搬送方向への移動中に傾くとしても、印刷中のヘッド41(ノズル列)の紙幅方向に対する傾きを最小にすることができる。その結果、往路時と復路時において、各ヘッド41の端部ノズルに形成されるラスターラインの間隔D1,D2とノズルピッチのずれを小さくすることができ、画像劣化を抑制できる。
【0049】
また、ベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを調整したとしても、ベースプレートBPに取り付けられる複数ヘッド41の各ノズル列が平行でなく、相対的に傾いていると、画像劣化の抑制効果が低減してしまう。そこで、各ヘッド41(ノズル列)の相互の傾きを調整できるようにしてもよい。そのために、ベースプレートBPに取り付けられる各ヘッド41にも、ベースプレートBPの傾き調整機構と同様に、マイクロメーター60、圧縮バネ63、回転軸64を設けてもよい。そして、ベースプレートBPにヘッド41を取り付けた後に、例えば、各ヘッド41から同時にインク滴を噴射し、各ヘッド41のノズル列方向に沿うラインを形成させる。そのラインに基づき、ベースプレートBPに取り付けられた複数ヘッド41の各ノズル列の方向が平行になるように、各ヘッド41の傾きを調整するとよい。その後、図5に示すテストパターンを印刷させて、ベースプレートBPの紙幅方向に対する傾き調整を行うとよい。
【0050】
なお、ヘッド41ごとに傾き調整機構を有する場合には、ベースプレートBPの傾き調整機構を有さなくても良い。即ち、往路時と復路時において、ベースプレートBPのセンターラインCL2の紙幅方向に対する傾きθを等しくするに限らない。往路時と復路時において、複数ヘッド41の各ノズル列の紙幅方向に対する傾きを等しくしてもよい。この場合、図5に示すテストパターンを印刷した後に、各ヘッド41の端部ノズルによるラスターライン間隔D1,D2に基づいて、各ヘッド41(のノズル列)の紙幅方向に対する傾きを調整するとよい。
【0051】
また、図6Aに示すベースプレートBPの傾き調整機構に限らない。例えば、マイクロメーター60の代わりに圧電アクチュエータを用いてもよい。圧電アクチュエータは、駆動電圧を印加することにより、印加した駆動電圧に応じて伸縮する圧電素子を有する。そして、圧電素子の伸縮によりベースプレートBPの端面BPaを押したり元に戻したりすることによって、ベースプレートBPの傾きを調整してもよい。
【0052】
===変形例===
図6Bは、ノズル列(ヘッド41)の傾きの調整方法の変形例を説明するための図である。ここまでヘッドユニット40が複数のヘッド41を有するプリンター1(図3)を例に挙げているが、これに限らない。ヘッドユニット40が1個のヘッド41を備えるプリンターであってもよい。1個のヘッド41を備え、双方向印刷を行うプリンターでは、往路時と復路時におけるノズル列(ヘッド41)の紙幅方向(ヘッドユニット40の移動方向と交差する方向)に対する傾きを等しくするとよい。言い換えれば、往路時(第1動作時)にノズル列が紙幅方向に対して傾く角度で、復路時(第2動作時)にノズル列を紙幅方向に対して逆方向に傾かせるとよい。
【0053】
そうすることで、ヘッド41(ノズル列)がヘッドユニット40の移動方向と交差する方向に対して傾いて取り付けられたり、往路時と復路時においてヘッドユニット40の紙幅方向に対する傾きが異なったりしたとしても、往路時と復路時におけるノズル列の紙幅方向に対する傾きを最小にすることができる。その結果、往路時と復路時にそれぞれ形成される画像の劣化を同じ様に抑制することができる。
【0054】
複数のヘッド41を有するプリンター1では、図5に示すように、各ヘッド41の端部ノズルにより形成されたラスターライン(搬送方向に沿うライン)の間隔D1,D2に基づいて、傾きの調整を行っている。これに対して、この変形例では、図6Bに示すように、ヘッド41が有するノズル#11に、往路時と復路時に、搬送方向に沿うライン(ラスターライン)を形成させて、傾きの調整を行う。
【0055】
図6Bの上図は、往路時におけるノズル列の紙幅方向に対する傾きθ1と復路時におけるノズル列の紙幅方向に対する傾きθ1とが等しい場合(ノズル列が左右対称に傾く場合)を示している。この場合、往路時にノズル#11に形成される第1ライン(第1のライン)の紙幅方向の位置と、復路時に同じノズル#11に形成される第2ライン(第2のライン)の紙幅方向の位置と、が等しくなる。即ち、2つのラインが重なる。
【0056】
一方、図6Bの下図は、往路時におけるノズル列の傾きθ1よりも復路時におけるノズル列の傾きθ2が大きい場合を示している。この場合、往路時の第1ラインよりも、復路時の第2ラインの方が、紙幅方向の奥側に位置する。そのため、図6Bの下図のようなラインが形成された場合には、ヘッド41の傾き調整機構(不図示)によって、ヘッドユニット40(の移動方向と交差する方向)に対して、ヘッド41(ノズル列)を時計回り方向に傾かせる調整を行うとよい。
【0057】
このように、往路時の或るノズル(#11)に形成されるラスターラインの紙幅方向の位置と、復路時の或るノズル(#11)に形成されるラスターラインの紙幅方向の位置と、に基づいて(目視やスキャナーにより位置を取得することによって)、往路時と復路時の各ノズル列の傾き方を判断できる。そうして、往路時と復路時におけるノズル列(ヘッド41)の紙幅方向に対する傾き(角度)が等しく、逆方向に傾くように調整するとよい。
【0058】
なお、図6Bでは、1つのノズル#11にラスターラインを形成させているがこれに限らず、複数のノズルにラスターラインを形成させてもよい。また、図6Bでは、ノズル列のうち、紙幅方向における最も手前側の端部ノズル#11にラスターラインを形成させている。これは、ノズル#11がX軸ステージ31(駆動軸)に対して最も反対側に位置し、ヘッドユニット40の移動中の傾きの影響を最も受けるので、傾きを精度よく判断できるからである。しかし、端部のノズル#11に限らず、他のノズルにラスターラインを形成させてもよい。ただし、ノズル列のうち、駆動軸と反対側の少なくとも半分のノズルにラスターラインを形成させることが好ましい。
【0059】
また、図3のような複数のヘッドを有するプリンターにおいても、図6Bに示すように、複数のヘッド41のいずれかのノズルで往路時と複路時に搬送方向(ヘッドユニット40の移動方向)に沿うラスターラインを形成させることによって、傾きの調整を行うことができる。
【0060】
===比較例:ドット形成位置の補正方法について===
図7は、比較例のドット形成位置の補正方法を説明するための図である。以下、説明の簡略のため、ヘッドユニット40が有するヘッド41の数を4個とする。本実施形態のプリンター1ではヘッドユニット40にヘッド41が千鳥状に配置されている(図3)。搬送方向の下流側のヘッド41(1)(3)と搬送方向の上流側のヘッド41(2)(4)の設計上における搬送方向のずれ量は予め分かっている。ここでは図示するように、下流側ヘッド41の搬送方向取付位置と上流側ヘッド41の搬送方向取付位置との違いを「ずれ量ΔX」とする。
【0061】
例えば、ヘッドユニット40が搬送方向の下流側から上流側に移動する時に、上流側ヘッド41及び下流側ヘッド41から媒体S上における搬送方向の同じ位置に対してインクを噴射する場合、上流側ヘッド41(2)(4)の方が下流側ヘッド41(1)(3)よりも先に、その目標噴射位置と対向する。そして、上流側ヘッド41(2)(4)が目標位置と対向してから、ヘッドユニット40が搬送方向に「ずれ量ΔX」だけ移動した後に、下流側ヘッド41(1)(3)が目標位置と対向する。
【0062】
そのため、設計上では、上流側ヘッド41(2)(4)から流体を噴射させてから、ヘッドユニット40が搬送方向にΔXだけ移動するために要する時間の経過後に、下流側ヘッド41(1)(3)から流体を噴射させる。そうすることで、上流側ヘッド41(2)(4)における搬送方向のドット形成位置と下流側ヘッド41(1)(3)における搬送方向のドット形成位置を揃えることが出来る。そうすると、ヘッドユニット40が有する千鳥状に配置された複数のヘッド41によって、紙幅方向に沿う一直線のラインを形成することが出来る。
【0063】
ただし、実際には、ヘッド41をベースプレートBPに取り付ける際に発生する取付誤差や、各ヘッド41の噴射特性の違いなどにより、設計上の噴射タイミングでは目標位置からドットがずれて形成される場合がある。そこで、プリンター1の製造工程などにおいて、各プリンター1にテストパターンを実際に印刷させて、そのテストパターンに基づき、各ヘッド41の搬送方向におけるドット形成位置の補正値を算出する。
【0064】
以下、比較例におけるドット形成位置の補正値取得方法を示す。図7には、印刷領域に位置する媒体Sに形成されたテストパターンが示されている。このようなテストパターンを形成するために、まず、媒体S上に目標位置を設定する。そして、千鳥状に並ぶ各ヘッド41から噴射されるインク滴がその目標位置に着弾するように、設計上の噴射タイミングにて各ヘッド41からインクを噴射させる。ここでは、テストパターンとして、各ヘッド41が有する180個の全ノズルからインク滴噴射させるとするが、これに限らず、例えば1個おきのノズルからインク滴を噴射させてもよい。その結果、図7示すように、各ヘッド41(1)〜41(4)によって紙幅方向(ノズル列方向)に沿うドット列が形成される。
【0065】
テストパターンを具体的に見ると、第1ヘッド41(1)によって形成されたラインは目標位置からずれることなく形成されている。このことから、第1ヘッド41の噴射タイミングは設計上の噴射タイミングから補正する必要がないことが分かる。
一方、第2ヘッド41(2)及び第4ヘッド41(4)によって形成されたラインは、目標位置よりも搬送方向の上流側にずれて、目標位置を超えて形成されている。このことから、第2ヘッド41(2)及び第4ヘッド41(4)では、設計上の噴射タイミングよりも早いタイミングでインク滴を噴射させる必要があることが分かる。
逆に、第3ヘッド41(3)によって形成されたラインは、目標位置よりも搬送方向の下流側にずれて、目標位置よりも手前側に形成されている。このことから、第3ヘッド41(3)では、設計上の噴射タイミングよりも遅いタイミングでインク滴を噴射させる必要があることが分かる。
【0066】
そして、テストパターン結果から、目標位置と実際に形成されたラインのずれ量を取得することで、噴射タイミングをどの程度補正すればよいかを知ることが出来る。例えば、図7の第4ヘッド41(4)のラインは、目標位置よりも「ΔY」だけ搬送方向の上流側にずれて形成されている。そのため、ヘッドユニット40が「ずれ量ΔY」を移動する時間だけ、設計上の噴射タイミングよりも第4ヘッド40(4)の噴射タイミングを早めるとよい。そうすることで、第4ヘッド40(4)によるラインを目標位置に形成することが出来る。
【0067】
この「ずれ量ΔY(テストパターンとして形成されたラインの位置と目標位置の差)」をヘッドユニット40が移動するために要する時間が、設計上の噴射タイミングからどれだけ早めるか又は遅くするかの補正値に相当する。なお、ずれ量ΔYを取得するために、印刷したテストパターンをスキャナーに読み取らせ、読取データ上において目標位置とラインの位置との差を算出してもよいし、テストパターン上から目標位置とラインの位置との差を計測してもよい。
【0068】
そして、この比較例では、目標位置と各ヘッド41により形成されたラインの位置とのずれ量ΔYを取得する際に、各ヘッド41により形成されたラインの中央部を基準とする。即ち、ノズル列の中央部(例えばノズル#90)によって形成されたライン部分(図7中に丸で囲われた部分)と目標位置との搬送方向のずれ量ΔYによって、ヘッド41の噴射タイミングを調整する。こうして、噴射特性や取付誤差にも応じて、各ヘッド41のドット形成位置を補正することが出来る。なお、双方向印刷を行う場合には、往路時のテストパターンと復路時のテストパターンを形成するとよい。
【0069】
図8Aは、搬送方向への移動中に傾くヘッドユニット40によって形成されたテストパターンを示す図であり、図8Bは、図8Aのテストパターン結果に基づき比較例の補正方法によって補正されたラインを示す図である。図8Aは往路時のテストパターン結果である。図4に示すように本実施形態のプリンター1では、ヘッドユニット40の搬送方向への移動中にヘッドユニット40が紙幅方向に対して傾く。
【0070】
比較例におけるドット形成位置の補正方法では、テストパターンとして各ヘッド41に形成されたラインの中央部(図中に丸で囲われた部分)を基準に搬送方向のずれ量(目標位置からのずれ量)を補正する。例えば、第2ヘッド41(2)に形成されたラインの中央部は搬送方向の上流側に位置する。そのため、第2ヘッド41(2)のラインの中央部が目標位置に位置するように噴射タイミングを補正した結果、図8Bに示すように第2ヘッド41(2)によるライン全体が搬送方向の下流側にずれて形成される。そのため、比較例の補正方法によれば、図8Bに示すように、各ヘッド41によって形成されるラインの中央部は目標位置に一直線上に位置する。
【0071】
しかし、紙幅方向に対して傾いたヘッド41によって形成されるラインは、ラインの場所によって搬送方向の位置が異なり、目標位置とのずれ量も異なってくる。例えば、図8Bにおいて、第1ヘッド41(1)によるラインの中央部は目標位置に位置するが、ラインの上端部(奥側の端部)は目標位置よりも搬送方向の上流側に位置し、ラインの下端部(手前側の端部)は目標位置よりも搬送方向の下流側に位置する。
【0072】
そのため、紙幅方向に並んで形成されるラインが同じ方向に傾いて形成される場合に、ラインの繋ぎ目部分が搬送方向に大きくずれてしまう。例えば、第1ヘッド41(1)のラインの第2ヘッド41(2)側の端部は目標位置よりも搬送方向の下流側に位置するのに対して、第2ヘッド41(2)のラインの第1ヘッド41(1)側の端部は目標位置よりも搬送方向の上流側に位置する。このように異なるヘッド41のラインの繋ぎ目が搬送方向にずれるということは、各ヘッド41に形成される画像が搬送方向にずれるということであり、画質が劣化してしまう。
【0073】
図4に示すようにヘッドユニット40全体が搬送方向への移動中に傾いてしまったり、ヘッド41が同じ方向に傾いて取り付けられてしまったりすると、紙幅方向に並んで形成されるラインが同じ方向に傾いてしまう。この場合、比較例のドット形成位置補正方法では、ヘッド41の繋ぎ目部分の画像が劣化してしまう。
そこで、本実施形態では、ノズル列方向(紙幅方向)に並ぶヘッド41の繋ぎ目(端部ノズル)による搬送方向のドット形成位置のずれを抑制し、画像劣化を抑制することを目的とする。
【0074】
===本実施形態:ドット形成位置の補正方法===
図9は、本実施形態におけるドット形成位置の補正方法のフローである。前述のように、各プリンター1の特性に合わせて、ヘッドユニット40が有する各ヘッド41からの噴射タイミングを補正する補正値を取得するために、プリンター1の製造工程などにおいてプリンター1に実際にテストパターンを印刷させる。その補正値によって、千鳥状に配置され、また、噴射特性の異なる各ヘッド41の搬送方向におけるドット形成位置を揃える。なお、補正値を取得するのは製造工程に限らない。例えば、プリンター1の出荷後にユーザーの元でメンテナンスの際に補正値を取得してもよい。
【0075】
本実施形態のプリンター1は、双方向印刷を行い、往路時と復路時の間においてヘッドユニット40が紙幅方向に移動しない印刷方法を行うとする。また、図3に示すヘッドユニット40において、搬送方向の下流側に配置されたヘッド(例えば41(1))を「奇数ヘッド」と呼び、搬送方向の上流側に配置されたヘッド(例えば41(2))を「偶数ヘッド」と呼ぶ。また、奇数ヘッド41の往路時の補正値Haと偶数ヘッド41の復路時の補正値Hbとをまとめて「第1補正値」と呼び、奇数ヘッド41の復路時の補正値Hbと偶数ヘッド41の往路時の補正値Haとをまとめて「第2補正値」と呼ぶ。また、説明の簡略のため、比較例と同様に(図7)、ヘッドユニット40に4つのヘッド41が設けられた場合を例に挙げて説明する。
【0076】
<第1補正値の取得>
図10Aは、第1補正値(奇数ヘッドの往路補正値Ha・偶数ヘッドの復路補正値Hb)を算出するための第1テストパターンを示す図である。図10Aに示すように、用紙S上の目標位置にラインが形成されるように、往路時に奇数ヘッド41から設計上の噴射タイミングでインク滴を噴射する。そして、用紙S上の同じ目標位置にラインが形成されるように、復路時に偶数ヘッド41から設計上の噴射タイミングでインク滴を噴射する。その結果、第1テストパターンとして、奇数ヘッド41の往路ライン(第3パターンに相当)と偶数ヘッド41の復路ライン(第4パターンに相当)が形成される(S001)。そして、第1テストパターンをスキャナーに読み取らせる(S002)。なお、本実施形態のプリンター1では、往路時のヘッドユニット40は紙幅方向に対して時計回り方向に傾き易く、復路時のヘッドユニット40は紙幅方向に対して反時計回り方向に傾き易い。そのため、往路時に形成されたラインは時計回り方向に傾き、復路時に形成されたラインは反時計回り方向に傾く。
【0077】
そして、前述の比較例の補正方法では(図8B)、各ヘッド41により形成されたラインの中央部を基準に補正を行う。これに対して、本実施形態の補正方法では、紙幅方向に隣り合うヘッド41により形成されたラインの端部を基準に補正を行う。また、紙幅方向に隣り合うヘッド41のうち、一方のヘッド41の往路時の端部ノズルによるドット形成位置と、他方のヘッド41の復路時の端部ノズルによるドット形成位置とを揃えるための補正値を算出する。まとめると、紙幅方向に並ぶ複数のヘッドのうちの或るヘッド(例えば第1ヘッド41(1))の手前側の端部ノズルから往路時(第1動作時)に噴射されるインク滴の搬送方向(移動方向)の着弾位置と、往路時に或るヘッドから噴射されるインク滴の着弾位置に復路時(第2動作時)に流体を噴射するヘッド(例えば第1ヘッド41(1))と紙幅方向の手前側(一方側)に並ぶ他のヘッド(例えば第2ヘッド41(2))の奥側(他方側)の端部ノズルから復路時に噴射されるインク滴の搬送方向の着弾位置と、を揃えるための補正値を取得する。そうすることで、往路時に一方のヘッド41に形成される画像と復路時に他方のヘッド41に形成される画像の繋ぎ目を揃えることができ、画像劣化を抑制することができる。
【0078】
そのため、第1テストパターンをスキャナーで読み取った結果において、奇数ヘッド41による往路ラインの端部の搬送方向の位置と偶数ヘッド41による復路ラインの端部の搬送方向の位置を取得する(S003)。「ライン端部の搬送方向の位置」は、ノズル列の複数の端部ノズルに形成されたドットの各搬送方向の位置の平均位置とする。ここでは、ノズル列の最端ノズル(#1・#180)を含む10個のノズル(#1〜#10若しくは#171〜#180)に形成されたドットの搬送方向の位置の平均位置を算出する。なお、第1テストパターンをスキャナーに読み取らせるに限らず、例えば、用紙S上で各ライン端部の搬送方向の位置を計測してもよい。また、複数の端部ノズル(10個)によるドット形成位置の平均位置を基準として補正値を算出するに限らず、ノズル列の最端ノズル(#1,#180)のドット形成位置を基準に補正値を算出してもよい。
【0079】
そして、紙幅方向に並ぶヘッド41(1)〜41(4)のうち、基準となるヘッド41を決定する。ここでは、紙幅方向の中央部に位置する第2ヘッド41(2)を基準のヘッドとする。基準となる第2ヘッド41(2)の復路ラインにおいて、紙幅方向奥側の端部ノズル(#1〜#10)に形成されたライン端部の搬送方向の位置を「2f」とする。そして、第2ヘッド41(2)と紙幅方向奥側に並ぶ第1ヘッド41(1)の往路ラインにおいて、紙幅方向手前側の端部ノズル(#171〜#180)に形成されたライン端部の搬送方向の位置を「1b」とする。本実施形態の補正方法では、第1ヘッド41(1)による往路ラインの紙幅方向手前側端部の搬送方向の位置「1b」と、第2ヘッド41(2)による復路ラインの紙幅方向奥側端部の搬送方向の位置「2f」とを揃えるように、第1ヘッド41(1)と第2ヘッド41(2)の噴射タイミングを補正する。
【0080】
図10Aに示すように、第1ヘッド41(1)の往路ラインは、基準となる第2ヘッド41(2)の復路ラインに比べて、搬送方向の下流側に形成されている。そのため、第2ヘッド41(2)の復路ラインの奥側端部の位置「2f」と第1ヘッド41(1)の往路ラインの手前側端部の位置「1b」との差分「Δx1」だけ、第1ヘッド41(1)のラインが搬送方向の上流側に形成されるように、第1ヘッド41(1)の噴射タイミングを補正する。即ち、設計上の噴射タイミング(基準の第2ヘッド41(2)の噴射タイミング)よりも、ヘッドユニット41が「差分Δx1」を移動するために要する時間だけ、第1ヘッド41(1)の噴射タイミングを遅くする。その結果、第1ヘッド41(1)の紙幅方向手前側の端部ノズル(即ち第2ヘッド側の端部ノズル)による往路時の搬送方向のドット形成位置と、第2ヘッド41(2)の紙幅方向奥側の端部ノズル(即ち第1ヘッド側の端部ノズル)による復路時の搬送方向のドット形成位置とを揃えることが出来る。
【0081】
同様に、基準の第2ヘッド41(2)の復路ラインにおいて紙幅方向手前側の端部の搬送方向の位置を「2b」とし、第2ヘッド41(2)と紙幅方向の手前側に並ぶ第3ヘッド41(3)の往路ラインにおいて、紙幅方向奥側の端部の搬送方向の位置を「3f」とする。そして、各ライン端部2b,3fの差分「Δx2」をヘッドユニット40が移動するために要する時間だけ、第3ヘッド41(3)の噴射タイミングを設計上の噴射タイミングよりも遅くする。そうすることで、第2ヘッド41(2)の紙幅方向手前側の端部ノズル(即ち第3ヘッド側の端部ノズル)の復路時の搬送方向のドット形成位置と、第3ヘッド41(3)の紙幅方向奥側の端部ノズル(即ち第2ヘッド側の端部ノズル)の往路時の搬送方向のドット形成位置とを揃えることが出来る。
【0082】
図10Bは、第2ヘッド41(2)の復路ラインを基準に、第1ヘッド41(1)の往路ラインと第3ヘッド41(3)の往路ラインを補正した様子を示す図である。前述のように第1ヘッド41(1)と第3ヘッド41(3)の噴射タイミングを補正することによって、第1ヘッド41(1)から第3ヘッド41(3)に形成されるライン端部の搬送方向の位置が揃う。こうして、基準の第2ヘッド41(2)と紙幅方向に並ぶ第1ヘッド41(1)及び第3ヘッド41(3)の噴射タイミングを算出した後、残りの第4ヘッド41(4)の噴射タイミングも算出する。
【0083】
第3ヘッド41(3)の手前側端部ノズルのドット形成位置と第4ヘッド41(4)の奥側端部ノズルのドット形成位置が揃うように、第4ヘッド41(4)の噴射タイミングを決定する。第4ヘッド41(4)による復路ラインの紙幅方向奥側の端部の搬送方向の位置を「4f」とする。一方、第3ヘッド41(3)による往路ラインは、基準の第2ヘッド41(2)の復路ラインに合わせて、図10Bに示すように、搬送方向の上流側にずれて形成される。そのため、第3ヘッド41(3)による補正後の往路ラインの手前側端部の位置「3b’」と、第4ヘッド41(4)による復路ラインの奥側端部の位置「4f」が揃うように、第4ヘッド41(4)の噴射タイミングを決定する。
【0084】
このように、紙幅方向に隣り合うヘッド41において、一方のヘッド41の端部ノズルによる往路時のドット形成位置と他方のヘッド41の端部ノズルによる復路時のドット形成位置とが揃うように、設計上の噴射タイミングに対する補正値(噴射タイミングの調整量)を算出する。その結果、奇数ヘッド41(1)(3)による往路ラインの端部の搬送方向の位置と、偶数ヘッド41(2)(4)による復路ラインの端部の搬送方向の位置とを揃えることができる。
【0085】
また、図10Bに示すように、第2ヘッド41(2)による復路ラインは目標位置よりも搬送方向上流側に形成される。そこで、第2ヘッド41(2)の復路ラインの中央部が目標位置に形成されるように、更に、ヘッド41(1)から41(4)の噴射タイミングを補正してもよい。例えば、第2ヘッド41(2)による復路ラインの中央部を目標位置に形成するために、第2ヘッド41(2)の噴射タイミングを設計上の噴射タイミングよりも時間αだけ遅くしたとする。この第2ヘッド41(2)の噴射タイミングを遅くする時間αが第2ヘッド41(2)の復路補正値Hbに相当する。
【0086】
そのため、第2ヘッド41(2)を基準に決定した他のヘッド41の噴射タイミングも時間αだけずらす。例えば、ここまで、図10Aに示すように、第1ヘッド41(1)による往路ラインの手前側端部と第2ヘッド41(2)による復路ラインの奥側端部の差ΔX1をヘッドユニット40が移動する「時間T」だけ、第1ヘッド41(1)の噴射タイミングを設計上の噴射タイミングよりも遅くするとしている。ここで更に、第2ヘッド41(2)の復路ラインの中央部を目標位置にずらす場合、第1ヘッド41(1)の往路ラインも搬送方向の下流側にずらして形成することになる。そのため、第1ヘッド41(1)の往路時の噴射タイミングを設計上の噴射タイミングよりも、時間Tと時間αの差「T−α」だけ遅くなるようにする。第1ヘッド41(1)の噴射タイミングを設計上の噴射タイミングよりも遅くする時間T−αが、第1ヘッド41(1)の往路補正値Haに相当する。その他の奇数ヘッド41に関する往路補正値Haと偶数ヘッド41に関する復路補正値Hbも同様に算出する。
【0087】
なお、基準となる第2ヘッド41(2)の復路ラインの中央部を目標位置に揃えるに限らず、第2ヘッド41(2)の復路ラインの位置は補正しなくともよい。この場合、第1ヘッド41(1)による往路ラインの手前側端部と第2ヘッド41(2)による復路ラインの奥側端部の差ΔX1をヘッドユニット40が移動する「時間T」が、第1ヘッド41(1)の往路補正値Haに相当する。また、例えば、各ヘッド41に形成されるライン中央部の搬送方向における平均位置に第2ヘッド41(2)の復路ラインの中央部を揃えてもよい。また、図10Aに示す第1テストパターンをスキャナーで読み取ったデータ上において、第2ヘッド41(2)による復路ラインに対応するデータを目標位置にずらした後に、他のヘッド41の噴射タイミングを決定してもよい。
【0088】
図10Cは、ヘッド41(1)から41(4)の噴射タイミングを補正して形成されるラインを示す図である。こうして算出された奇数ヘッド41の往路補正値Ha及び偶数ヘッド41の復路補正値Hbに基づいて、奇数ヘッド41の往路ライン端部の搬送方向位置と偶数ヘッド41の復路ライン端部の搬送方向位置を揃えることができる。そうすることで、往路時に奇数ヘッド41に形成される画像の端部と復路時に偶数ヘッド41に形成される画像の端部の搬送方向のずれを防止できる。そのため、ヘッドユニット40の移動中の傾きによって、各ヘッド41に形成されるラインが紙幅方向に対して傾くと、比較例の補正方法(図8B)では各ラインの端部が搬送方向にずれてしまうのに対して、本実施形態の補正方法では各ラインの端部の搬送方向のずれを防止できる。そのため、本実施形態では比較例に比べて画像劣化を抑制することができる。
【0089】
図11は、各ヘッド41によるドット形成位置の別の比較例の補正方法を示す図である。別の比較例では、各ヘッド41(1)から41(4)による往路ラインの端部を基準に補正値を算出する。例えば、第1ヘッド41(1)による往路ラインの紙幅方向手前側の端部と、第2ヘッド41(2)による往路ラインの紙幅方向奥側の端部とが揃うように、第1ヘッド41(1)と第2ヘッド41(2)の噴射タイミングを補正する。その他のヘッド41も同様に、紙幅方向に並ぶヘッド41により往路時に形成されるラインの端部が揃うように各ヘッド41の噴射タイミングを補正する。本実施形態のプリンター1では、ヘッドユニット40が搬送方向の移動中に傾き、往路時に各ヘッド41により形成されるラインが同じ方向(時計回り方向)に傾く。そのため、往路時のラインの端部を揃えると、図11に示すように、ヘッドユニット40全体で形成されるラインが紙幅方向に対して時計回り方向に傾いてしまう。特に、紙幅方向奥側の第1ヘッド41(1)によるドット形成位置と紙幅方向手前側の第4ヘッド41(4)によるドット形成位置の搬送方向のずれが大きくなってしまう。
【0090】
これに対して本実施形態の補正方法では、紙幅方向に並ぶヘッド41のうち、一方のヘッド41の往路ラインの端部と他方のヘッド41の復路ラインの端部を揃える。また、本実施形態のプリンター1は、図4に示すように、往路時と復路時において、ヘッドユニット40の傾く方向が異なり、往路ラインと復路ラインの傾きが異なる。そのため、本実施形態の補正方法によれば図10Cに示すようにヘッドユニット40全体で形成されるラインが、別の比較例によるヘッドユニット40全体で形成されるライン(図11)に比べて、紙幅方向に沿っている。これは、例えば、第1ヘッド41(1)の手前側端部ノズルのドット形成位置が搬送方向の下流側にずれたとしても、第2ヘッド41(2)のドット形成位置が徐々に搬送方向の上流側にずれるため、ヘッドユニット40全体で形成されるラインが紙幅方向に対して大きく傾いてしまうことを防止できる。つまり、本実施形態の補正方法によれば、各ヘッド41(1)から41(4)に形成される往路ラインまたは復路ラインを、別の比較例に比べて、目標位置に近い位置に形成することができる。そのため、本実施形態の補正方法によれば別の比較例に比べて、画像劣化を抑制することができる。
【0091】
図12Aは、往路時と復路時のベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きが異なる場合に形成されるラインを示し、図12Bは、往路時と復路時のベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きが等しい場合に形成されるラインを示す。前述のように、本実施形態では、各ヘッド41によるドット形成位置の補正を行う前に、図6Aに示すベースプレートBPの調整機構によって、往路時と復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを等しくしている。
【0092】
仮に、ベースプレートBPの傾き調整を行わずに、図12Aに示すように、往路時のベースプレートBPは紙幅方向に対して時計回り方向に角度θ1で傾くのに対して、復路時のベースプレートBPは紙幅方向に対して傾かないとする。そうすると、往路時に形成されるラインは時計回り方向に傾き、復路時に形成されるラインは紙幅方向に沿うことになる。そして、本実施形態のドット形成位置の補正方法によれば、時計回り方向に傾く往路ラインと紙幅方向に沿う復路ラインの端部を揃えることになる。その結果、図12Aに示すように、ヘッドユニット40全体で形成されるラインが比較的に時計回り方向に傾く。これは、奇数ヘッド41による往路ラインが搬送方向の下流側にずれるが、偶数ヘッド41による復路ラインが逆の方向に傾かないため、ヘッドユニット40全体で形成されるラインが時計回り方向に対して傾いてしまう。
【0093】
これに対して、図12Bに示すように、往路時と復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きが逆方向に等しくなるように調整した場合、往路時に形成されるラインと復路時に形成されるラインが逆方向に傾く。その結果、奇数ヘッド41による往路ラインが搬送方向の下流側にずれたとしても、偶数ヘッド41による復路ラインがそのずれを戻す。そして、偶数ヘッド41による復路ラインの搬送方向の上流側にずれたとしても、奇数ヘッドの往路ラインがそのずれを戻す。その結果、図12Aにてヘッドユニット40全体で形成されるラインに比べて、図12Bにてヘッドユニット40全体で形成されるラインの方が、紙幅方向に対する傾きが小さくなる。更に、本実施形態では、往路時と復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きθ2を等しくしているため、往路ラインによる搬送方向下流側へのずれと復路ラインによる搬送方向上流側へのずれが等しくなり、ヘッドユニット40全体で形成されるラインの紙幅方向に対する傾きをより小さくできる。
【0094】
つまり、本実施形態の補正方法のように、往路ラインの端部と復路ラインの端部が揃うように、各ヘッド41のドット形成位置を補正する場合、往路ラインと復路ラインが紙幅方向に対して逆方向に傾いているとよい。そうすることで、ヘッドユニット40全体で形成するラインの紙幅方向に対する傾きを小さくすることができ、画像劣化を抑制することができる。そのために、各ヘッド41の搬送方向におけるドット形成位置の補正値を取得する前に、往路時と復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きが逆になるように調整する。また、往路時と復路時におけるベースプレートBPの紙幅方向に対する傾きを均等にして、その傾きを出来るだけ小さくすることで、ヘッドユニット40全体で形成するラインの紙幅方向に対する傾きをより小さくすることができる。
【0095】
<第2補正値の取得>
図13Aは、第2補正値を算出するための第2テストパターンを示す図である。奇数ヘッド41の往路補正値Haと偶数ヘッド41の復路補正値Hbである第1補正値を算出した後、奇数ヘッド41の復路補正値Hbと偶数ヘッド41の往路補正値Haである第2補正値を算出するために、第2テストパターンを形成する(図9のS005)。第2テストパターンとして、往路時に、奇数ヘッド41から往路補正値Haにより噴射タイミングを補正して用紙S上の目標位置に対してインク滴を噴射し、偶数ヘッド41から設計上の噴射タイミングで同じ目標位置に対してインク滴を噴射する。そして、復路時に、奇数ヘッド41から設計上の噴射タイミングで同じ目標位置に対してインク滴を噴射し、偶数ヘッド41から復路補正値Hbにより噴射タイミングを補正して同じ目標位置に対してインク滴を噴射する。なお、第2テストパターンを形成する際に、往路と復路の間でヘッドユニット40は紙幅方向に移動しないとする。
【0096】
その結果、図13Aに示すように、各ヘッド41により往路ライン(第3パターンに相当)と復路ライン(第4パターンに相当)が形成される。そうして、印刷した第2テストパターンをスキャナーで読み取らせ、読取データを取得する(S006)。奇数ヘッド41の往路ラインと偶数ヘッド41の復路ライン(細線)は、ライン端部の搬送方向の位置が揃っており、目標位置からのずれが小さい。これに対して、奇数ヘッド41の復路ラインと偶数ヘッド41の往路ライン(太線)は、搬送方向にずれて形成されている。
【0097】
ところで、本実施形態の印刷方法では、往路と復路の間でヘッドユニット40が紙幅方向に移動しない。そのため、媒体上の或る領域に対して、往路時にインク滴を噴射するヘッド41も復路時にインク滴を噴射するヘッド41も同じヘッド41となる。媒体上の同じ領域に往路時に形成されるラインと復路時に形成されるラインが搬送方向にずれていると、画像が劣化してしまう。そこで、図13Aに示す第2テストパターンに基づいて、同じヘッド41により往路と復路でそれぞれ形成されたラインの搬送方向の位置が揃うように第2補正値を決定する。ここでは、同じヘッド41により往路と復路で形成されたラインの中央部が揃うように第2補正値を決定する。そのために、第2テストパターンをスキャナーで読み取った結果において、ライン中央部の搬送方向の位置を取得する(S007)。まとめると、往路時の或るヘッド(例えば第1ヘッド41(1))の中央部ノズルの搬送方向におけるドット形成位置と、往路時の或るヘッドのドット形成位置に復路時にインク滴を噴射するヘッド(例えば第1ヘッド41(1))の中央部ノズルの搬送方向におけるドット形成位置と、を揃えるための第2補正値(別の補正値に相当)を算出する。
【0098】
例えば、図13Aに示すように、第2ヘッド41(2)により往路時に形成されたライン中央部は、第2ヘッド41(2)により復路時に補正されて形成されたライン中央部に対して、搬送方向の下流側に距離「Δx3」だけずれて位置する。そこで、ヘッドユニット40が距離Δx3を移動するために要する時間分だけ、第2ヘッド41(2)の往路時の噴射タイミングを設計上の噴射タイミングよりも遅らせると良い。そうすることで、第2ヘッド41(2)により、往路時に形成されるライン中央部と復路時に形成されるライン中央部の搬送方向の位置を揃えることが出来る。この設計上の噴射タイミングから第2ヘッド41の往路時の噴射タイミングを遅らせる時間が、第2ヘッド41(2)の往路補正値Haに相当する(S008)。同様に、その他のヘッド41に関しても、各ヘッド41によって往路時と復路時に形成されるラインの中央部の搬送方向の位置が揃うように、第2補正値(奇数ヘッドの復路補正値Hbと偶数ヘッドの往路補正値Ha)を算出する。
【0099】
図13Bは、第1補正値および第2補正値により補正された往路ラインと復路ラインを示す図である。本実施形態の補正方法によれば、奇数ヘッドの往路ラインの端部と偶数ヘッドの復路ラインの端部の搬送方向の位置が揃い、また、同じヘッド41にて形成される往路ラインと復路ラインの中央部の搬送方向の位置が揃う。こうして算出された第1補正値および第2補正値をプリンター1のメモリー13(記憶部)に記憶させる。
【0100】
以上をまとめると、本実施形態のドット形成位置の補正方法によれば、紙幅方向に並ぶヘッド41において、一方のヘッド41の往路ラインの端部と他方のヘッド41の復路ラインの端部の搬送方向の位置を揃える。そのため、奇数ヘッド41に往路時に形成される画像端部と偶数ヘッド41に往路時に形成される画像端部が搬送方向にずれてしまうことを防止できる。そして、各ヘッド41による往路ラインの中央部と復路ラインの中央部の搬送方向の位置を揃える。そのため、用紙S上の同じ領域に往路時に形成される画像と復路時に形成される画像が搬送方向にずれてしまうことを防止できる。その結果、比較例の補正方法(図8B)に比べて、各ヘッド41によるライン端部の搬送方向のずれ量を小さくすることができる。
【0101】
ただし、本実施形態では往路時と復路時においてベースプレートBPが紙幅方向に対して逆に傾くように調整するため、図13Bに示すように、同じヘッド41に形成される往路ラインと復路ラインがクロスしてしまう。これは、比較例の補正方法(図8B)で形成されるラインも同じである。しかし、本実施形態の補正方法によれば、奇数ヘッド41の往路ラインの端部と偶数ヘッド41の復路ラインの端部を揃えることができるため、比較例の補正方法に比べて、画像劣化を抑制できる。
【0102】
図14は、第2補正値の別の算出方法を示す図である。前述の図10Cに示すように、奇数ヘッド41の往路ラインの端部と偶数ヘッド41の復路ラインの端部を揃えた後、第2補正値(奇数ヘッドの復路補正値Hb・偶数ヘッドの往路補正値Ha)を算出する際に、図13Bに示すように、各ヘッド41による往路ラインと復路ラインの中央部を揃えるに限らない。例えば、第2補正値を算出する際にも、第1補正値を算出する際と同様に、紙幅方向に隣り合うヘッド41に形成されるラインの端部を基準にしてもよい。図14に示すように、奇数ヘッド41の復路ライン端部と偶数ヘッド41の往路ライン端部との搬送方向の位置を揃えるように、各ヘッド41の噴射タイミングを補正する第2補正値(別の補正値に相当)を算出してもよい。この場合、奇数ヘッドが或るヘッドに相当し、偶数ヘッドが、第2動作時の或るヘッドのドット形成位置に第1動作時にインク滴を噴射するヘッドと所定方向の一方側に並ぶヘッドに相当する。
【0103】
そうすることで、ヘッドユニット40が搬送方向への移動中に傾いたとしても、奇数ヘッド41の往路ラインの端部と偶数ヘッド41の復路ラインの端部との搬送方向の位置が揃い、また、奇数ヘッド41の復路ラインの端部と偶数ヘッド41の往路ラインの端部との搬送方向の位置が揃う。そのため、比較例の補正方法(図8B)に比べて、図14に示す補正方法によれば、紙幅方向に並ぶヘッド41のうち、一方のヘッド41により往路時に形成される画像の端部と他方のヘッド41により復路時に形成される画像の端部が搬送方向にずれてしまうことを防止でき、画像劣化を抑制できる。
【0104】
なお、ここまで、奇数ヘッド41の往路ラインの端部の位置と偶数ヘッド41の復路ラインの端部の位置を揃えているが、これに限らない。逆に、奇数ヘッド41の復路ラインの端部の位置と偶数ヘッド41の往路ラインの端部の位置を揃えるように、各ヘッド41の噴射タイミングを補正してもよい。
【0105】
また、本実施形態のプリンター1では、往路時と復路時の間でヘッドユニット40が紙幅方向に移動しないとしている。しかし、これに限らず、往路時と復路時の間でヘッドユニット40を紙幅方向に微小送りしてもよい。例えば、往路時と復路時の間にて、ノズルピッチ180dpiの半分のピッチだけヘッドユニット40を紙幅方向に微小送りして、高解像度の画像を印刷してもよい。この場合にも、同じ領域に対して往路時と復路時にインク滴を噴射するヘッドは同じヘッド41となる。そのため、復路時の補正値を算出する際には、同じヘッド41によって往路時と復路時にそれぞれ形成されるラインの中央部を基準にするとよい。
【0106】
また、印刷方法によっては、媒体S上のある領域に対して、往路時にインク滴を噴射するヘッド41と、復路時にインク滴を噴射するヘッド41が異なる場合がある。例えば、媒体S上のある領域に対して往路時には第3ヘッド41(3)と第4ヘッド31(4)からインクが噴射され、その後、ヘッドユニット40が紙幅方向に2ヘッド分を移動し、媒体上のある領域に対して復路時には第1ヘッド41(1)と第2ヘッド41(2)からインク滴が噴射されるとする。この場合、往路時に第3ヘッド41(3)によって形成されるライン端部と復路時に第2ヘッド41(2)によって形成されるライン端部を揃え、往路時の第3ヘッド41(3)によって形成されるライン中央部と復路時の第1ヘッド41(1)によって形成されるライン中央部を揃えるように、補正値を算出するとよい。
【0107】
また、往路時および復路時の補正値H1,H2を、ノズル列YMCKごと(色ごと)に算出してもよいし、ヘッド41ごとに算出してもよい。カラーインクYMCは特にドットが重ね合わせて形成されるため、ノズル列ごとに異なる補正値を用いるとしても、同じ画素内に各色のドットが形成されるようにする。また、ヘッド41ごとに補正値を算出するために図10Aに示すようなテストパターンを形成する際に、代表色(例えばブラック)のみを用いても良いし、複数色のインクにてラインを形成しても良い。複数色のインクでテストパターンを形成することで、各色のインクの噴射特性を加味した補正値を算出することが出来る。
【0108】
===テストパターンの変形例について===
前述のテストパターンでは、まず、図10Aに示すように、奇数ヘッド41の往路ラインと偶数ヘッド41の復路ラインのみを印刷し、各ライン端部の搬送方向の位置が揃うように第1補正値を算出する。その後、図13Aに示すように、奇数ヘッド41によって、補正した往路ラインと復路ラインを形成し、偶数ヘッド41によって、往路ラインと補正した復路ラインを形成することによって、第2補正値を算出しているが、これに限らない。第2補正値を算出するためのテストパターンを形成する際に、噴射タイミングを補正したラインは印刷せずに、奇数ヘッド41による復路ラインと偶数ヘッド41による往路ラインだけを印刷してもよい。第1補正値を算出する際に、奇数ヘッド41による往路ラインの目標位置に対する位置および偶数ヘッド41による復路ラインの目標位置に対する位置は把握できている。そのため、奇数ヘッド41による復路ラインの目標位置に対する位置および偶数ヘッド41による往路ラインの目標位置に対する位置を取得すれば、往路時と復路時に同じヘッド41により形成されるライン中央部の搬送方向の位置を揃えることができる。
【0109】
図15Aおよび図15Bは、テストパターンの変形例を示す図である。同じ印刷領域に各ヘッド41の往路ラインと復路ラインを形成したテストパターンでもよい。ただし用紙S上の同じ目標位置に対して多くのラインを形成すると、ラインが重なって、目標位置に対するラインの位置を取得できない虞がある。そこで、用紙S上に2つの目標位置1,2を設ける。そして、目標位置1に対して、紙幅方向に並ぶヘッド41のうち、奥側のヘッド41により往路ライン1を形成し、手前側のヘッド41により復路ライン2を形成する。また、目標位置2に対して、奥側のヘッド41により復路ライン1を形成し、手前側のヘッド41により往路ライン2を形成する。
【0110】
そうして印刷したテストパターンに基づいて、手前側のヘッド41による復路ライン2を基準とし、基準の復路ライン2の端部と奥側ヘッド41による往路ライン1の端部の搬送方向の位置が揃うように、奥側のヘッド41の往路時の噴射タイミングの補正値を算出する。具体的には、往路ライン1の端部と復路ライン2の端部の搬送方向のずれ量d1だけ、往路ライン1が搬送方向の下流側にずれて形成されるように、奥側のヘッド41の往路時の噴射タイミングを補正する。その結果、図15Bに示すように、紙幅方向に並ぶヘッド41による往路ライン1と復路ライン2の端部の位置が揃うため、画像劣化を抑制できる。
【0111】
そして、奥側のヘッド41による補正後の往路ライン1の中央部と復路ライン1の中央部の位置が揃うように、奥側のヘッド41の復路時の噴射タイミングを補正する。補正後の往路ライン1は目標位置1に対して「距離d1−d2」だけ搬送方向の下流側にずれて形成される。そのため、奥側のヘッド41による復路ライン1も目標位置2よりも「距離d1−d2」だけ搬送方向の下流側にずれて形成されるように、奥側のヘッド41の復路時の噴射タイミングを補正するとよい。同様に、手前側のヘッド41による復路ライン2の中央部と往路ライン2の中央部の位置が揃うように、手前側のヘッド41の往路時の噴射タイミングを補正するとよい。なお、基準とした復路ライン2の中央部が目標位置に位置するように調整してもよい。
【0112】
このように、同じ印刷領域に位置する用紙Sにテストパターンを形成し、目標位置に対する各ラインの位置を把握することで、前述の実施例のテストパターンに比べて、テストパターンの印刷回数やスキャナーの読取回数などを削減できる。
【0113】
図16Aおよび図16Bは、テストパターンの変形例を示す図である。図16Aのテストパターンでは、同じ目標位置に対して、紙幅方向に並ぶ奥側のヘッド41のラインと手前側のヘッド41のラインを形成する。まず、往路時において、同じ目標位置に対して、奥側のヘッド41の端部ノズルによる往路ライン1と、手前側のヘッド41の中央部ノズルによる往路ライン2を形成する。そして、復路時に、同じ目標位置に対して、奥側のヘッド41の中央部ノズルによる復路ライン1と、手前側のヘッド41の端部ノズルによる復路ライン2を形成する。
【0114】
そうして印刷したテストパターンに基づいて、奥側のヘッド41による往路ライン1の端部と手前側のヘッド41による復路ライン2の端部の搬送方向の位置が揃うように補正値を算出する。図16Bは、往路ライン1の端部と復路ライン2の端部を揃えた様子を示す図である。そして、往路ライン1の間に復路ライン1が位置するように、奥側のヘッド41の復路時の補正値を算出し、復路ライン2の間に往路ライン2が位置するように、手前側のヘッド41の往路時の補正値を算出するとよい。
【0115】
このように、紙幅方向に並ぶヘッド41のうちの一方のヘッド41による往路ラインの端部と他方のヘッド41による復路ラインの端部を揃える場合、往路時に、一方のヘッド41の端部ノズルからインク滴を噴射し、他方のヘッド41の中央部ノズルからインク滴を噴射する(即ち、或るヘッドの端部ノズルからインク滴を噴射し、第2動作時の他のヘッドのドット形成位置に第1動作時にインク滴を噴射するヘッドの中央部ノズルからインク滴を噴射する)。そして、復路時に、一方のヘッド41の中央部ノズルからインク滴を噴射し、他方のヘッド41の端部ノズルからインク滴を噴射する(即ち、第1動作時の或るヘッドのドット形成位置に第2動作時にインク滴を噴射するヘッドの中央部ノズルと他のヘッドの端部ノズルからインク滴を噴射する)。
【0116】
このようなテストパターンによれば、前述の実施例のテストパターンに比べて、テストパターンの印刷回数やスキャナーの読取回数などを削減できる。また、同じ目標位置に対して往路ラインの位置と復路ラインの位置を取得することができるため補正値の算出処理が容易となる。また、テストパターンを印刷するためのインク消費量も削減できる。
【0117】
===その他の実施の形態===
上記の各実施形態は、主としてインクジェットプリンターを有する印刷システムについて記載されているが、ドット形成位置の調整方法等の開示が含まれている。また、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0118】
<ドット形成位置の調整について>
図3に示すようにヘッドユニット40に属する複数のヘッド41が千鳥状に配置されているため、前述の実施形態では、各ヘッド41の噴射特性も考慮して、搬送方向の位置が異なるヘッド41のドット形成位置を揃えるための補正値を算出しているが、これに限らない。少なくとも、図5に示すように、往路時のノズル列の紙幅方向に対する傾きと復路時のノズル列の紙幅方向に対する傾きが逆方向であり、傾斜角が等しければ、各ヘッド41の端部ノズルのラスターライン間隔D1,D2のずれを抑制できる効果が得られるため、図10Aなどに示すテストパターンを印刷して、各ヘッド41の噴射タイミングを補正する補正値を算出しなくてもよい。
【0119】
また、前述の実施形態では、紙幅方向に並ぶヘッド41において、一方のヘッド41の端部ノズルのドット形成位置と、他方のヘッド41の端部ノズルのドット形成位置と、を揃える補正値を算出しているが、これに限らない。例えば、図7に示す比較例の補正方法のように各ヘッド41の中央部ノズルのドット形成位置を揃える補正値を算出してもよいし、図11に示す別の比較例の補正方法のように、紙幅方向に並ぶヘッド41の端部ノズルの往路時(又は復路時)のドット形成位置を揃える補正値を算出してもよい。ただし、本発明では、往路時のノズル列の紙幅方向に対する傾きと復路時のノズル列の紙幅方向に対する傾きを均等の角度で逆方向となるように調整する。そのため、前述の実施形態の補正方法のように、紙幅方向に並ぶヘッド41において、往路ラインの端部ノズルと復路ラインの端部ノズルのドット形成位置を揃える補正値を算出することで、図10Cに示すように、ヘッドユニット40全体で形成されるラインが、比較的に紙幅方向に沿って形成され、画像劣化をより抑制できる。
【0120】
<その他のプリンターについて>
前述の実施形態では、印刷領域に搬送された連続用紙に画像を形成するために、連続用紙の搬送方向に沿ってヘッド41が移動しながらインクを吐出する動作とヘッド41が搬送方向と交差する紙幅方向に移動する動作を繰り返し、その後、連続用紙を搬送方向に搬送して新たな用紙部分を印刷領域に搬送するプリンターを例に挙げているがこれに限らない。
例えば、連続用紙の紙幅長さに亘ってノズルが並んだヘッドを有し、ヘッドが紙幅方向に移動しないプリンターでもよい。このプリンターでは、ヘッドが搬送方向に移動して画像を形成する動作と、連続用紙を搬送方向に搬送する動作が交互に繰り返される。
また、ヘッドをノズル列方向と交差する移動方向に移動しながらバンド画像を形成する動作と、ノズル列方向に用紙を搬送する動作とを交互に繰り返すシリアル式のプリンターでもよい。
【0121】
<流体噴射装置について>
前述の実施形態では、流体噴射装置としてインクジェットプリンターを例示していたが、これに限らない。流体噴射装置であれば、プリンター(印刷装置)ではなく、様々な工業用装置に適用可能である。例えば、布地に模様をつけるための捺染装置、カラーフィルター製造装置や有機ELディスプレイ等のディスプレイ製造装置、チップへDNAを溶かした溶液を塗布してDNAチップを製造するDNAチップ製造装置等であっても、本件発明を適用することができる。また、インクなどの流体に限らず、粉体などを噴射する流体噴射装置でもよい。
また、流体の噴射方式は、駆動素子(ピエゾ素子)に電圧をかけて、インク室を膨張・収縮させることにより流体を噴射するピエゾ方式でもよいし、発熱素子を用いてノズル内に気泡を発生させ、その気泡によって液体を噴射させるサーマル方式でもよい。
【符号の説明】
【0122】
1 プリンター、10 コントローラー、11 インターフェース部、
12 CPU、13 メモリー、14 ユニット制御回路、
20 搬送ユニット、21 搬送ローラー、
30 駆動ユニット、31 X軸ステージ、32 Y軸ステージ、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、
50 検出器群、60 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)媒体に流体を噴射するノズルが所定方向に並んだノズル列を有する複数のヘッドが前記所定方向の異なる位置に配置された流体噴射装置の調整方法であって、
(2)前記複数のヘッドを前記媒体に対して移動方向の一の側から他の側に移動させながら前記複数のヘッドから流体を噴射させる第1動作によって、前記移動方向に沿うラインが前記移動方向と交差する方向に並ぶ第1パターンを形成することと、
(3)前記複数のヘッドを前記媒体に対して前記移動方向の前記他の側から前記一の側に移動させながら前記複数のヘッドから流体を噴射させる第2動作によって、前記移動方向に沿うラインが前記移動方向と交差する方向に並ぶ第2パターンを形成することと、
(4)前記第1パターンに基づいて、前記複数のヘッドのうちの前記所定方向と交差する方向に離れて配置された2個の前記ヘッドにより形成された前記ラインの間隔である第1の間隔を算出することと、
(5)前記第2パターンに基づいて、前記複数のヘッドのうちの前記所定方向と交差する方向に離れて配置された2個の前記ヘッドにより形成された前記ラインの間隔である第2の間隔を算出することと、
(6)前記第1の間隔および前記第2の間隔に基づいて、前記第1動作時に前記ノズル列が前記移動方向と交差する方向に対して傾く角度で、前記第2動作時に前記ノズル列を前記移動方向と交差する方向に対して逆の方向に傾かせることと、
を有することを特徴とする調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の調整方法であって、
前記流体噴射装置では前記複数のヘッドが1つのプレートに取り付けられ、
前記第1の間隔および前記第2の間隔に基づいて、前記移動方向と交差する方向に対する前記プレートの傾きを調整する、
調整方法。
【請求項3】
請求項2に記載の調整方法であって、
前記プレートに取り付けられた前記複数のヘッドの各前記ノズル列が平行である調整方法。
【請求項4】
請求項1に記載の調整方法であって、
前記第1の間隔および前記第2の間隔に基づいて、前記移動方向と交差する方向に対する各前記ヘッドの傾きを調整する、
調整方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の調整方法であって、
前記第1動作によって第3パターンを形成し、前記第2動作によって第4パターンを形成し、
前記第3パターン及び前記第4パターンに基づいて、前記複数のヘッドのうちの或るヘッドの前記所定方向の一方側の端部ノズルから前記第1動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、前記第1動作時の前記或るヘッドから噴射される流体の着弾位置に前記第2動作時に流体を噴射する前記ヘッドと前記所定方向の前記一方側に並ぶ前記ヘッドの他方側の端部ノズルから前記第2動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、を揃えるための補正値を取得し、
前記補正値を前記流体噴射装置の記憶部に記憶させる、
調整方法。
【請求項6】
請求項5に記載の調整方法であって、
前記第3パターン及び前記第4パターンに基づいて、前記或るヘッドの中央部ノズルから前記第1動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、前記第1動作時の前記或るヘッドから噴射される流体の着弾位置に前記第2動作時に流体を噴射する前記ヘッドの中央部ノズルから前記第2動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、を揃えるための別の補正値を取得し、
前記別の補正値を前記記憶部に記憶させる、
調整方法。
【請求項7】
請求項5に記載の調整方法であって、
前記第3パターン及び前記第4パターンに基づいて、前記或るヘッドの前記所定方向の一方側の端部ノズルから前記第2動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、前記第2動作時の前記或るヘッドから噴射される流体の着弾位置に前記第1動作時に流体を噴射する前記ヘッドと前記所定方向の前記一方側に並ぶ前記ヘッドの他方側の端部ノズルから前記第1動作時に噴射される流体の前記移動方向の着弾位置と、を揃えるための別の補正値を取得し、
前記別の補正値を前記記憶部に記憶させる、
調整方法。
【請求項8】
(1)媒体に流体を噴射するノズルが所定方向に並んだノズル列を有するヘッドを備えた流体噴射装置の調整方法であって、
(2)前記ヘッドを前記媒体に対して移動方向の一の側から他の側に移動させながら前記ノズルから流体を噴射させる第1動作によって、前記移動方向に沿うラインである第1のラインを形成することと、
(3)前記ヘッドを前記媒体に対して前記移動方向の前記他の側から前記一の側に移動させながら前記ノズルから流体を噴射させる第2動作によって、前記移動方向に沿うラインである第2のラインを形成することと、
(4)前記第1のラインの前記移動方向と交差する方向の位置と前記第2のラインの前記交差する方向の位置とに基づいて、前記第1動作時に前記ノズル列が前記交差する方向に対して傾く角度で、前記第2動作時に前記ノズル列を前記交差する方向に対して逆の方向に傾かせることと、
を有することを特徴とする調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−264721(P2010−264721A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120162(P2009−120162)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】