説明

調色用テストピース、補修塗装方法

【課題】異なる色を重ね塗りする場合に、少ない労力にて下色と上色の組み合わせを自由に変更することが可能な調色用テストピースを提供する。
【解決手段】無色透明なフィルム基材10aからなる調色用テストピース10を提供する。重ね塗りされる色毎に、個々の色の塗料が塗布された複数の調色用テストピース10を作成し、各色の調色用テストピース10を脱脂材等で重ねて車体等に張り付けることで重ね塗りの色状態を再現し、車体のオリジナルの色との比色を行う。調色用テストピース10は耳部11と治具孔12を備えるとともに、必要に応じて積層され、耳部11を除く周辺部を接着材13によって固定されることにより積層体10bを構成し、塗装した最上部の1枚の耳部11を摘んで順に剥離して用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調色用テストピース、補修塗装方法に関し、たとえば、自動車等の車両の補修工程や改造工程における補修塗装技術等に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば自動車等の車両においては、車体の色はユーザの嗜好等に応じて多様化している。このため、車体の損傷部位の修理に際して行われる補修塗装においては、多様な元の車体色を忠実に再現した塗料を調合して補修塗装を行うことが、損傷部位を他のオリジナルの部位から目立たなくして、修理後の車両の商品価値を維持したり、美観の維持向上のために不可欠である。
【0003】
このような補修塗装においては、元の車体色と同一色の塗料を調合する過程で、テストピースを作成することが行われる。すなわち、調合後の塗料をテストピースに塗布して乾燥させたのち、このテストピースの色と車体のオリジナルの色とを比較することで、調合された塗料の塗色の可否を判定するものである。
【0004】
従来、このようなテストピースとしては、紙、磁石板、ブリキ板等の素材が用いられ、これらの素材に補修塗装用に調合された塗料を塗布した後、車台に押し付けて元の色と比較(以下、比色と記す)し、目的の塗色が得られるまで、テストピースの作成および比色を反復していた。
【0005】
しかしながら、上述の従来技術の場合には、下色と上色を組み合わせた塗色の場合、調合をやり直す度に、新たなテストピースに対して、下色と上色を毎回必ず塗布する必要があり、テストピースの作成作労力が大きくなる、という技術的課題がある。
【0006】
また、磁石素材以外の紙やブリキ板等のテストピースでは可撓性が低く、比色の対象となる自動車ボディの曲面に忠実に湾曲させることが困難であるため、テストピースが車体の曲面から浮いた状態となり、同一平面での観察ができず、またテストピースの周辺に影ができるため、比色の精度が低くなる、という技術的課題がある。
【0007】
また、磁石素材以外の紙やブリキ板等のテストピースでは、車体に簡易に固定することができないため、粘着テープで固定する煩雑な作業が必要となったり、作業者が手でテストピースを車体に押し付けた姿勢で観察する必要があり、比色に際して車体から離れた位置でテストピースと車体を観察することができず、やはり比色の精度や作業性は低下する。
【0008】
一方、磁石素材をテストピースに用いた場合には、テストピースを車体の曲面に簡易に固定することはできるが、塗料の種類によっては磁力が塗料の粒子の溶媒内における分散状態に影響を与えて発色を変化させる懸念があり、やはり正確な比色が困難になる、という技術的課題がある。
【0009】
さらに、上述の従来技術のいずれの素材の場合にも、補修箇所の下地色に対応した正確な染まり回数(すなわち、補修箇所の下地色が完全に補修塗装の塗色に隠蔽されて目立たなくなるまでの塗り重ね回数)を確認することができず、適切な染まり回数の決定には作業者の熟練が必要であった。
【0010】
この染まり回数(塗り重ね回数)に不足がある場合には、補修箇所が外部から目立つため、補修塗装全体のやり直しが必要となり、塗料や塗装労力の多大なロスにつながる。
【0011】
なお、この種の従来技術として特許文献1には調色補助カードが開示されている。すなわち、白色と黒色の混色により明度が固定された明度の異なる塗色の色見本を1枚のシート上に配列し、この色見本の上にカラー上塗り塗料を塗装して当該カラー上塗り塗料の塗色を判定するものである。
【0012】
しかし、この特許文献1の場合には、上述の技術的課題については認識されていない。
【特許文献1】特開2002−371206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、異なる色を重ね塗りする場合に、少ない労力にて下色と上色の組み合わせを自由に変更することが可能な調色用テストピースおよび補修塗装方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、補修塗装の対象物の様々な表面形状に影響されることなく、正確な比色を行うことが可能な調色用テストピースおよび補修塗装方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、熟練を必要とすることなく、下地色に応じた適切な染まり回数(塗り重ね回数)を決定することが可能な調色用テストピースおよび補修塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様は、無色透明な可撓性のフィルム基材からなる調色用テストピースを提供する。
【0017】
この第1の態様によれば、異なる色を重ね塗りする場合に、各色毎に調色用テストピースを作成して重ね合わせることで重ね塗り時の塗色を再現して比色を行うことができ、各色の組み合わせ毎に調色用テストピースに対して全ての色を塗り直す必要がなくなり、少ない労力にて下色と上色の組み合わせを自由に変更することが可能となる。
【0018】
また、フィルム基材は可撓性を有するので、塗膜に影響しない脱脂材等の溶剤を用いて補修塗装の対象物に張り付けることで、対象物の表面形状に忠実に密着させた状態で自由な距離から観察して比色を行うことができ、補修塗装の対象物の様々な表面形状に影響されることなく、正確な比色を行うことができる
また、フィルム基材が透明であるため、対象物の補修箇所の下地色等を、フィルム基材に塗布された補修塗装の塗膜を介して観察できるため、補修箇所の下地色が見えなくなったときの塗り重ね回数を染まり回数と決定することができ、熟練等を要することなく、下地色に応じた適切な染まり回数(塗り重ね回数)を決定することが可能となる。
【0019】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の調色用テストピースにおいて、剥離用の耳部を備えた複数の前記フィルム基材が積層され、前記耳部を除く積層側面に無色透明な接着材を塗布してなり、前記耳部を摘むことにより個々の前記フィルム基材が枚葉毎に剥離されて前記調色用テストピースとして用いられる調色用テストピースを提供する。
【0020】
この第2の態様によれば、上から順に調色用テストピース10を個別に剥がして用いることができ、調色用テストピースの取り扱いが容易になり、調色用テストピースの作成作業の作業性が向上する。
【0021】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載の調色用テストピースにおいて、さらに、前記フィルム基材が載置される板状の基体部と、前記基体部に固定された把手部と、前記フィルム基材を厚さ方向に貫通して挿通されるフィルム固定突起と、を含む保持治具を備えた調色用テストピースを提供する。
【0022】
この第3の態様によれば、保持治具に複数の調色用テストピースを載置し、まとめて取り扱うことができるとともに、作業者は保持治具の把手部を一方の手で把持して、他方の手で塗装用のスプレーガンを操作して調色用テストピースに塗料を塗布することができ、調色用テストピースの作成時の作業性が向上する。
【0023】
本発明の第4の態様は、第1の態様に記載の調色用テストピースにおいて、補修対象物の補修塗装領域に重ね塗りされる複数の異なる第1塗装色および第2塗装色が個別に塗布された複数の前記調色用テストピースが、重ね塗りの順に重ね合わされ、前記補修塗装領域に張り付けられて用いられる調色用テストピースを提供する。
【0024】
この第4の態様によれば、下色と上色の重ね塗りを必要する塗料において、下色に対応する調色用テストピースを再作成することなく、上色に対応した調色用テストピースを再作成するだけで、少ない労力で比色作業を行うことができる。
【0025】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の調色用テストピースにおいて、前記第1塗装色は、下地塗装色であり、前記第2塗装色は、上塗り塗装色である調色用テストピースを提供する。
【0026】
この第5の態様によれば、たとえば赤色のように、下地塗装色として疑似色を塗装する必要がある場合でも、上塗り塗装色に対応した調色用テストピースを作り直すだけの少ない労力で簡単に下地塗装色と上塗り塗装色の組み合わせを確認できる。
【0027】
本発明の第6の態様は、第4の態様に記載の調色用テストピースにおいて、前記第1塗装色は、パール塗装のベース色であり、前記第2塗装色は、パール塗装のパール色である調色用テストピースを提供する。
【0028】
この第6の態様によれば、たとえば、3コートパールのような補修塗装における比色を簡便かつ正確に行うことができる。
【0029】
本発明の第7の態様は、第4の態様に記載の調色用テストピースにおいて、前記補修塗装領域に対する前記調色用テストピースの張り付けおよび複数の前記調色用テストピースの重ね合わせに無色透明な脱脂材が用いられる調色用テストピースを提供する。
【0030】
この第7の態様によれば、塗膜を侵さない脱脂材を用いて調色用テストピースの全面を対象物の補修箇所に密着させることで正確な比色を行うことができる。
【0031】
本発明の第8の態様は、第1の態様に記載の調色用テストピースにおいて、前記フィルム基材は、厚さが10μm乃至100μmの樹脂フィルムからなる調色用テストピースを提供する。
【0032】
この第8の態様によれば、フィルム基材に適切な透明性と可撓性を付与できる。
【0033】
本発明の第9の態様は、補修塗装の補修対象物を準備する第1工程と、補修用塗料を調合する第2工程と、前記補修用塗料を無色透明な可撓性のフィルム基材に塗布して調色用テストピースを作成する第3工程と、前記調色用テストピースを前記補修対象物における補修塗装領域に張り付ける第4工程と、を含む補修塗装方法を提供する。
【0034】
この第9の態様によれば、異なる色を重ね塗りする場合に、各色毎に調色用テストピースを作成して重ね合わせることで重ね塗り時の塗色を再現して比色を行うことができ、各色の組み合わせ毎に調色用テストピースに対して全ての色を塗り直す必要がなくなり、少ない労力にて下色と上色の組み合わせを自由に変更することが可能となる。
【0035】
また、フィルム基材は可撓性を有するので、対象物の表面形状に忠実に密着させた状態で自由な距離から観察して比色を行うことができ、補修塗装の対象物の様々な表面形状に影響されることなく、正確な比色を行うことができる
また、フィルム基材が透明であるため、対象物の補修箇所の下地色等を、フィルム基材に塗布された補修塗装の塗膜を介して観察できるため、補修箇所の下地色が見えなくなったときの塗り重ね回数を染まり回数と決定することができ、熟練等を要することなく、下地色に応じた適切な染まり回数(塗り重ね回数)を決定することが可能となる。
【0036】
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載の補修塗装方法において、前記第3工程では、下塗り用塗料が塗布された第1調色用テストピースと、上塗り用塗料が塗布された第2調色用テストピースとを準備し、前記第4工程では、脱脂材を用いて前記第1および第2調色用テストピースを重ね合わせて前記補修塗装領域に張り付ける補修塗装方法を提供する。
【0037】
この第10の態様によれば、下色と上色の重ね塗りを必要する塗料において、下色に対応する調色用テストピースを再作成することなく、上色に対応した調色用テストピースを再作成するだけで、少ない労力で比色作業を行うことができる。
【0038】
本発明の第11の態様は、第9の態様に記載の補修塗装方法において、さらに、補修塗装領域に張り付けられた前記調色用テストピースの色と、前記補修対象物における補修塗装領域の周囲の元の塗装色とを比較する第5工程、および前記補修塗装領域の領域が、補修塗装領域に張り付けられた前記調色用テストピースを透過して見えるか否かを判別する第6工程、を含み、前記第5工程において、前記調色用テストピースの色と、前記補修対象物における補修塗装領域の周囲の元の前記塗装色とが異なると判定された場合には、前記第2工程に戻って前記補修用塗料の調合をやり直し、当該補修用塗料を新たな前記調色用テストピースに塗布する前記第3工程を実行し、前記第6工程において、前記補修塗装領域の領域が、補修塗装領域に張り付けられた前記調色用テストピースを透過して見えると判定された場合には、前記第3工程にもどり、前記補修用塗料の塗布回数を増やした新たな前記調色用テストピースの作成を実行すること、を特徴とする補修塗装方法を提供する。
【0039】
この第11の態様によれば、オリジナルの部位の塗色と補修塗装部位の塗色の一致不一致や、塗り重ね回数の過不足を個別に判定して、的確な調色を実現できる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、異なる色を重ね塗りする場合に、少ない労力にて下色と上色の組み合わせを自由に変更することが可能な調色用テストピースおよび補修塗装方法を提供することができる。
【0041】
また、補修塗装の対象物の様々な表面形状に影響されることなく、正確な比色を行うことが可能な調色用テストピースおよび補修塗装方法を提供することができる。
【0042】
また、熟練を必要とすることなく、下地色に応じた適切な染まり回数(塗り重ね回数)を決定することが可能な調色用テストピースおよび補修塗装方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0044】
図1は、本発明の一実施の形態である調色用テストピースの構成の一例を示す斜視図であり、図2は、本実施の形態の調色用テストピースを取り扱うために用いられる保持治具の構成の一例を示す斜視図である。
【0045】
図1に例示されるように、本実施の形態の調色用テストピース10は、たとえばポリエチレンフィルム等からなる矩形のフィルム基材10aが構成されている。
【0046】
このフィルム基材10aは無色で透明であり、その厚さは、たとえば、厚さが10μm乃至100μm、望ましくは、たとえば、略30μmである。これにより、フィルム基材10aからなる調色用テストピース10は、充分な可撓性と強度を備えている。
【0047】
矩形の調色用テストピース10の一方の短辺の両端部には、一対の耳部11が突設されており、作業者が指等で調色用テストピース10を容易に摘むことが可能になっている。
【0048】
また、調色用テストピース10の耳部11の近傍には、一対の治具孔12が穿設されており、後述の保持治具17のフィルム固定突起16が挿通可能になっている。
【0049】
本実施の形態の場合には、複数の調色用テストピース10を積層した積層体10bを構成し、この積層体10bの周辺部において耳部11を除く領域に接着材13を塗布することで、当該複数の調色用テストピース10を積層体10bとして一体に取り扱うことが可能になっている。
【0050】
そして、たとえば、作業者は、積層体10bの耳部11を摘んで個々の調色用テストピース10を枚葉毎に剥がして使用する。
【0051】
一方、図2に例示されるように、調色用テストピース10を取り扱うために用いられる保持治具17は、調色用テストピース10が載置される基体部14と、この基体部14の一端に設けられた把手部15と、基体部14において把手部15の配置側とは反対の端部に配置された一対のフィルム固定突起16を備えている。
【0052】
そして、本実施の形態の場合には、図1に例示される調色用テストピース10の積層体10bの治具孔12を、保持治具17の基体部14に設けられたフィルム固定突起16に嵌合させることで、基体部14上に調色用テストピース10の積層体10bを安定に載置して用いることができる。
【0053】
たとえば、作業者は、一方の手で調色用テストピース10が載置された保持治具17の把手部15を把持し、他方の手で塗装用のスプレーガン300を保持して、スプレーガン300から任意の塗料を調色用テストピース10に吹き付けることで、無色透明のフィルム基材10aに任意の色のテスト用の塗料を塗布した調色用テストピース10を良好な作業性をもって作成することができる。
【0054】
テスト用の塗料が塗布された調色用テストピース10を積層体10bから剥離すると、下側に新たな調色用テストピース10が現れ、次の他のテスト用の塗料の塗布を行うことができる。
【0055】
以下、本実施の形態の調色用テストピース10を用いた補修塗装工程の一例について、図3のフローチャート、および図4、図5、図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14の工程図等を参照して説明する。
【0056】
本実施の形態では、補修塗装の一例として自動車のドア板金100の中央部の損傷(補修部位101)を補修するための補修塗装に適用する場合について説明する。
【0057】
まず、図4に例示されるように、対象物であるドア板金100の補修部位101を除く領域をマスキング部材200で隠蔽し、当該マスキング部材200から露出した補修部位101に対して、スプレーガン300を用いて下地塗料102を吹き付けて塗装する。
【0058】
この下地塗料102は、たとえば、下地素材(この場合、ドア板金100の鉄板)との付着性の向上を目的として塗布されるプライマーと、上塗塗料の仕上がりをよくするために、下地の表面を調整するために塗布されるサフェイサーの機能を兼ね備えた、いわゆる「プラサフ」である。
【0059】
この下地塗料102の塗布した後、図5のように、ドア板金100からマスキング部材200を除去して下地塗料102を乾燥させ、下地塗料102の塗布が完了する(ステップ501)。
【0060】
一方、ステップ501の工程の前または後、あるいはステップ501の工程と並行して、補修塗装に用いる塗料の調合を行う。
【0061】
すなわち、必要に応じて補修塗装に下塗りが必要な場合は(ステップ502)、色データから調合量を選択して重さを計り調合することで、下塗り用の塗料(この場合、下塗り塗料21)を準備し(ステップ503)、図6に例示されるように、調合済みの下塗り塗料21(下色)が、実際の補修塗装の場合と同様の条件で塗布された調色用テストピース10−1を作成する(ステップ504)。
【0062】
また、同様に、色データから調合量を選択して重さを計り調合することで、補修塗装に用いられる上塗り塗料22の調製を行い(ステップ505)、図7のように、調合済みの上塗り塗料22(上色)が、実際の補修塗装において予定されているのと同じ回数だけ重ね塗り塗布された調色用テストピース10−2を作成する(ステップ506)。
【0063】
このように、下塗り塗料21と上塗り塗料22を重ねて用いる補修塗装としては以下のような場合が考えられる。
【0064】
すなわち、赤色等のように彩度(透明性)の高い色は、何度も(10回以上)塗らないと色が染まらないので、補修塗装に際しては、最初に擬似色(下色)を塗装し、後に上色を塗装することが行われる。また、色によっては下色の指定がある場合も有り、この場合にも下塗り塗料21と上塗り塗料22の重ね塗りが必要となる。
【0065】
このように本実施の形態の場合には、図8のように、補修塗装において下塗り塗料21および上塗り塗料22の重ね塗りを行う場合には、下塗り塗料21および上塗り塗料22の各々用に別の調色用テストピース10−1および調色用テストピース10−2を用意する。
【0066】
なお、図8には、上塗り塗料22の調色用テストピース10−2が満足できないと判定された場合に、上塗り塗料22の塗り重ね回数等の条件を変えて新たに作成された調色用テストピース10−3も並べて例示されている。
【0067】
上述のようにして、下塗り塗料21の調色用テストピース10−1および下塗り塗料21の調色用テストピース10−2が準備できたら以下のようにして、ドア板金100に調色用テストピース10を張り付ける(ステップ507)。
【0068】
単色の場合(下塗り塗料21を用いず、上塗り塗料22のみで補修塗装を行う場合)には、ドア板金100に脱脂材スプレー400を用いて脱脂材401または塗面を侵さない無色透明な溶剤を接着材として塗布し、その上に上塗り塗料22を用いて作成された調色用テストピース10−2を密着させて貼り付け、調色用テストピース10−2と周囲のオリジナル塗装部103との色の一致の有無を判別する比色を行う(ステップ507)(図10参照)。
【0069】
なお、本実施の形態の場合、脱脂材401は、通常の補修塗装で一般に用いられているものであり、調色用テストピース10をドア板金100に張り付けるために特別な接着材等を必要としない、という利点もある。
【0070】
このとき、従来の紙のテストピースでは貼り付ける方法が無くテープで貼り付ける必要があるが、本実施の形態の場合には、可撓性のフィルム基材10aからなる調色用テストピース10−2を、脱脂材401を介して密着させて張り付けるので、どんな形状のドア板金100の形状にも密着でき比色しやすい。
【0071】
また、調色用テストピース10−1および調色用テストピース10−2がドア板金100に密着して浮き上がることがなく、調色用テストピース10−1および調色用テストピース10−2の周囲に影ができず、周囲のオリジナル塗装部103との間で、同一平面上での正確な比色を行うことができる。
【0072】
また、図11に示されるように、下地塗料102が塗布されている補修部位101と、周囲のオリジナル塗装部103の部分に調色用テストピース10−2を半分ずつ重ねる事により、下塗り塗料21を何回塗り重ねれば補修部位101の下地塗料102が目的のオリジナル塗装部103の色(たとえば赤色)に染まるか(塗り重ね回数N)の確認も調色と同時に行える。
【0073】
一方、下塗り塗料21と上塗り塗料22を重ね塗りする場合の比色は以下のようにして行われる。
【0074】
この場合には、脱脂材401を用いて最初に下塗り塗料21で作成された調色用テストピース10−1をドア板金100に密着するように張り付け(図12参照)、さらにその上に、脱脂材スプレー400を用いて調色用テストピース10−2を密着させて張り付ける(図13参照)(ステップ507)。
【0075】
これにより、調色用テストピース10−1および調色用テストピース10−2によって、下塗り塗料21および上塗り塗料22を重ね塗りした状態をドア板金100上に密着した状態に再現できるため、周囲のオリジナル塗装部103の色と比較する比色を正確に行うことができる(ステップ508)。
【0076】
また、調色用テストピース10−1や調色用テストピース10−2を作業者が手で押さえる必要もなく、作業者は離れた位置から比色部位を観察することもできる。
【0077】
この場合も、図14に例示されるように、補修部位101の下地塗料102の上に、調色用テストピース10−1および調色用テストピース10−2を半分重ね合わせることで、下地塗料102の「染まり」(上塗り塗料22の塗り重ね回数Nが適切か否か)を確認することができる。
【0078】
そして、下地塗料102が、上塗り塗料22の調色用テストピース10−2(単色の場合)、または下塗り塗料21の調色用テストピース10−1および上塗り塗料22の調色用テストピース10−2の重なり(重ね塗りの場合)から透けて見えるか否か(すなわち「染まり」が充分か否か)を判別し(ステップ509)、「染まり」が不足(上塗り塗料22の塗り重ね回数Nが不足)の場合には、上塗り塗料22の塗り重ね回数Nを増やした調色用テストピース10−3(上述の図8参照)を作成して、調色用テストピース10−1の上に重ね合わせて、再び比色を行う。
【0079】
この場合、従来技術では、テストピースに対して下塗り塗料21および上塗り塗料22の両方を、再作成のたびに繰り返す必要があった。
【0080】
これに対して、本実施の形態の場合には、上塗り塗料22の塗り重ね回数Nを変えた調色用テストピース10−3のみを作成するだけでよく、下塗り塗料21の調色用テストピース10−1はそのまま用いることができる。このため、調色用テストピース10の作成労力や時間を大幅に削減できる。
【0081】
また、上塗り塗料22の調色用テストピース10−2の色(単色の場合)、または下塗り塗料21の調色用テストピース10−1および上塗り塗料22の調色用テストピース10−2の重なりの色(重ね塗りの場合)が、周囲のオリジナル塗装部103の色と一致するか否かを判別し(ステップ510)、不一致の場合には、ステップ505に戻って上塗り塗料22の調合をやり直して新たに上塗り塗料22が塗布された調色用テストピース10−2を作成して比色を行う。
【0082】
上述のステップ509とステップ510の判定順序は便宜的なものであり、順不同でよい。
【0083】
こうして、上塗り塗料22(調色用テストピース10−2)、または下塗り塗料21(調色用テストピース10−1)と上塗り塗料22(調色用テストピース10−2)に対する下地塗料102の「染まり」が良く、かつ、上塗り塗料22(調色用テストピース10−2)の色、または下塗り塗料21(調色用テストピース10−1)と上塗り塗料22(調色用テストピース10−2)の重ね色が周囲のオリジナル塗装部103と一致する場合に、補修塗装の条件が確定したと判断し、実際に上塗り塗料22のみ、または下塗り塗料21と上塗り塗料22を用いた補修塗装を、ドア板金100の全体に対して実行する(ステップ511)。
【0084】
これにより、ドア板金100においては、補修部位101の下地塗料102が透けて見えず、かつ塗色が以前のオリジナル塗装部103と一致した状態で補修塗装が行われ、補修前と区別がつかない状態に的確に補修される。
【0085】
以上説明したように、本実施の形態の場合には、以下のような効果を奏する。
【0086】
すなわち、補修部位101の下地塗料102の上に、調色用テストピース10−2や、調色用テストピース10−1および調色用テストピース10−2を重ねて下地塗料102が透けて見えるか否かを観察することで、熟練を要することなく、染まり回数、すなわち適切な上塗り塗料22の塗り重ね回数Nの確認が出来る。
【0087】
このため、テストピースで決定した塗り重ね回数Nが不適切なことに起因して、ドア板金100の補修塗装をやり直す回数が減少し、補修塗装のコスト低減、納期短縮を実現できる。
【0088】
また、下塗り塗料21および上塗り塗料22を重ね塗りする補修塗装を行う場合には、下塗り塗料21の調色用テストピース10−1はそのまま繰り返して使用でき、上塗り塗料22の調色用テストピース10−2のみを再作成すればよいので、調色用テストピース10に対してその都度に下塗り塗料21(下色)を塗装しなくても色あわせが可能となる。
【0089】
調色用テストピース10が薄く可撓性に富むフィルム基材10aで構成されているため、たとえば溶剤や脱脂材401等で簡単かつ確実にドア板金100に密着して固定できるため、テストピースを車体(ドア板金100)に固定するのにテープ等を用いたり、作業者が手で押さえる等の煩雑な操作が不要な為、比色作業を簡便に行うことができる。
【0090】
調色用テストピース10が薄く可撓性に富むフィルム基材10aで構成されているため、調色用テストピース10が複雑な表面形状を呈する車体(ドア板金100)と同一曲面となり、比色作業を行いやすい。
【0091】
次に、下色および上色を重ねて補修塗装する別の例として、3コートパールの例を説明する。3コートパールでは、下色(ベース色)の塗料に、上色としてパ−ル色(たとえばパールマイカ)を重ね、最後に透明なクリアを重ねた3層構造である。この場合、補修塗装に際しては、最上層のクリアは透明なので調色は必要なく、下色の塗料と上色のパールマイカを重ね塗りした状態の比色を行う必要がある。
【0092】
以下では、下色として白色塗料31、上色としてパール色塗料32を用いた場合の比色を行う例を説明する。
【0093】
まず、図15に例示されるように、調色用テストピース10に下色である白色塗料31を塗布して調色用テストピース10−1を作成する(工程1)。
【0094】
また、図16に例示されるように、調色用テストピース10−1とは別に、上色としてパール色塗料32が塗布された調色用テストピース10−2を作成する(工程2)。
【0095】
その後、図17に例示されるように、工程1で作成した調色用テストピース10−1の上に、工程2で作成した調色用テストピース10−2を重ね合わせ、車体(ドア板金100)に貼り付ける(工程3)。
【0096】
このとき、ドア板金100と調色用テストピース10−1との間、および2枚の調色用テストピース10−1と調色用テストピース10−2の間に上述の脱脂材401等の透明な溶剤を塗布した後に重ね合わせる。
【0097】
そして、図18のように、調色用テストピース10−1および調色用テストピース10−2を重ねて見える色と、周囲のオリジナル塗装部103の色を比較する比色を行う(工程4)。
【0098】
この比色において、調色用テストピース10−1および調色用テストピース10−2とオリジナル塗装部103との色が合わない場合は、白色塗料31および/またはパール色塗料32の微調色後、工程1、工程2、工程3、または工程1および工程3、または工程2および工程3を行う。白色塗料31のみ、パール色塗料32のみ微調色の場合は、微調色したものだけを、調色用テストピース10−1または調色用テストピース10−2に塗装するだけでよい(図19)。
【0099】
このように、本実施の形態の場合には、透明なフィルム基材10aからなる調色用テストピース10−1、調色用テストピース10−2を、白色塗料31およびパール色塗料32にそれぞれ使用するため、下色(白色塗料31)と、上色(パール色塗料32)の組み合わせが自由に行え、下色、上色の多様な組み合わせによる比色が可能であり、従来技術のように、白色塗料31およびパール色塗料32の両方を不透明な一つのテストピースにその都度塗りなおす必要がないので、調色用テストピース10の作成を含めた、比色工程や補修塗装工程における時間短縮を実現できる。
【0100】
その他の、染まり回数の確認が出来る、調色用テストピース10を車体に固定するのにテープ等が不要なため比色しやすい、調色用テストピース10が車体と同一曲面となり比色がしやすい、等の利点は、上述の下塗り塗料21および上塗り塗料22を用いた場合と同様である。
【0101】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の一実施の形態である調色用テストピースの構成の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを取り扱うために用いられる保持治具の構成の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態である調色用テストピース、補修塗装方法の作用の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図13】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の一例を示す説明図である。
【図15】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の変形例を示す説明図である。
【図16】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の変形例を示す説明図である。
【図17】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の変形例を示す説明図である。
【図18】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の変形例を示す説明図である。
【図19】本発明の一実施の形態である調色用テストピースを用いた補修塗装作業の変形例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0103】
10 調色用テストピース
10−1 調色用テストピース
10−2 調色用テストピース
10−3 調色用テストピース
10a フィルム基材
10b 積層体
11 耳部
12 治具孔
13 接着材
14 基体部
15 把手部
16 フィルム固定突起
17 保持治具
21 下塗り塗料
22 上塗り塗料
31 白色塗料
32 パール色塗料
100 ドア板金
101 補修部位
102 下地塗料
103 オリジナル塗装部
200 マスキング部材
300 スプレーガン
400 脱脂材スプレー
401 脱脂材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無色透明な可撓性のフィルム基材からなることを特徴とする調色用テストピース。
【請求項2】
請求項1記載の調色用テストピースにおいて、
剥離用の耳部を備えた複数の前記フィルム基材が積層され、前記耳部を除く積層側面に無色透明な接着材を塗布してなり、前記耳部を摘むことにより個々の前記フィルム基材が枚葉毎に剥離されて前記調色用テストピースとして用いられることを特徴とする調色用テストピース。
【請求項3】
請求項1記載の調色用テストピースにおいて、
さらに、前記フィルム基材が載置される板状の基体部と、前記基体部に固定された把手部と、前記フィルム基材を厚さ方向に貫通して挿通されるフィルム固定突起と、を含む保持治具を備えたことを特徴とする調色用テストピース。
【請求項4】
請求項1記載の調色用テストピースにおいて、
補修対象物の補修塗装領域に重ね塗りされる複数の異なる第1塗装色および第2塗装色が個別に塗布された複数の前記調色用テストピースが、重ね塗りの順に重ね合わされ、前記補修塗装領域に張り付けられて用いられることを特徴とする調色用テストピース。
【請求項5】
請求項4記載の調色用テストピースにおいて、
前記第1塗装色は、下地塗装色であり、前記第2塗装色は、上塗り塗装色であることを特徴とする調色用テストピース。
【請求項6】
請求項4記載の調色用テストピースにおいて、
前記第1塗装色は、パール塗装のベース色であり、前記第2塗装色は、パール塗装のパール色であることを特徴とする調色用テストピース。
【請求項7】
請求項4記載の調色用テストピースにおいて、
前記補修塗装領域に対する前記調色用テストピースの張り付けおよび複数の前記調色用テストピースの重ね合わせに無色透明な脱脂材が用いられることを特徴とする調色用テストピース。
【請求項8】
請求項1記載の調色用テストピースにおいて、
前記フィルム基材は、厚さが10μm乃至100μmの樹脂フィルムからなることを特徴とする調色用テストピース。
【請求項9】
補修塗装の補修対象物を準備する第1工程と、
補修用塗料を調合する第2工程と、
前記補修用塗料を無色透明な可撓性のフィルム基材に塗布して調色用テストピースを作成する第3工程と、
前記調色用テストピースを前記補修対象物における補修塗装領域に張り付ける第4工程と、
を含むことを特徴とする補修塗装方法。
【請求項10】
請求項9記載の補修塗装方法において、
前記第3工程では、下塗り用塗料が塗布された第1調色用テストピースと、上塗り用塗料が塗布された第2調色用テストピースとを準備し、
前記第4工程では、脱脂材を用いて前記第1および第2調色用テストピースを重ね合わせて前記補修塗装領域に張り付けることを特徴とする補修塗装方法。
【請求項11】
請求項9記載の補修塗装方法において、
さらに、補修塗装領域に張り付けられた前記調色用テストピースの色と、前記補修対象物における補修塗装領域の周囲の元の塗装色とを比較する第5工程、
および前記補修塗装領域の領域が、補修塗装領域に張り付けられた前記調色用テストピースを透過して見えるか否かを判別する第6工程、を含み、
前記第5工程において、前記調色用テストピースの色と、前記補修対象物における補修塗装領域の周囲の元の前記塗装色とが異なると判定された場合には、前記第2工程に戻って前記補修用塗料の調合をやり直し、当該補修用塗料を新たな前記調色用テストピースに塗布する前記第3工程を実行し、
前記第6工程において、前記補修塗装領域の領域が、補修塗装領域に張り付けられた前記調色用テストピースを透過して見えると判定された場合には、前記第3工程にもどり、前記補修用塗料の塗布回数を増やした新たな前記調色用テストピースの作成を実行すること、
を特徴とする補修塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−723(P2008−723A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174664(P2006−174664)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【特許番号】特許第3920312号(P3920312)
【特許公報発行日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(592018320)あいおい損害保険株式会社 (21)
【出願人】(501242022)株式会社あいおい保険自動車研究所 (1)
【Fターム(参考)】