説明

識別装置および識別方法

【課題】ベルトコンベア等の搬送装置により所定幅内に識別対象物が配列されて搬送される場合に、識別対象物の大きさに関わらず、識別対象物を漏れなく識別することが可能な識別装置および識別方法の提供。
【解決手段】ベルトコンベア4により搬送される被識別プラスチックPに対してレーザ光Lを照射して被識別プラスチックPを識別するプラスチック識別装置において、レーザ光Lを被識別プラスチックPに照射する複数の検出部ヘッド10aが被識別プラスチックPの搬送面に対して平行に配列された検出部ヘッドユニット10と、この検出部ヘッドユニット10を被識別プラスチックPの搬送面に対して垂直方向の軸周りに回転させる回転機構11とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック、木や紙等の識別対象物を識別する識別装置および識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭ごみや産業廃棄物として廃棄されるプラスチックの処理に際して、廃棄プラスチックの材質が不明な場合がある。このような廃棄プラスチックの大部分は、粉砕後、焼却処理するしかない。しかしながら、プラスチックは、その材質(原料の種類)が何であるかを識別することで、融解、再成形することが可能であるという特徴を有するので、付加価値の高い製品に再利用することが可能である。また、焼却する場合でも、例えばポリ塩化ビニルが存在していれば有毒ガス発生の恐れがあるので、事前にその存在を検出する必要がある。
【0003】
このような廃棄プラスチックの材質を識別する方法の一つとして、ラマン散乱スペクトルを利用した方法が提案されている。例えば、特許文献1には、レーザ光源から発した単色のレーザ光を、光ファイバを介してファイバヘッドに導き、このファイバヘッドを介してプラスチック素材にレーザ光を照射し、ファイバヘッドに備えられるファイバヘッド対物レンズを介して分光器に導き、分光分析することによりラマン散乱スペクトルを決定し、データベースに格納された既知のバンドパターンと照合することによりプラスチック素材の種類を識別することが記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、ベルトコンベア上に載って運ばれてくる素材が未知の被識別プラスチックに、レーザ装置からレーザ光を照射して、分光器でラマン散乱スペクトルを測定し、このラマン散乱スペクトルから複数のラマンピークの波数およびその波数での相対強度値を抽出し、素材が既知のプラスチックのラマンピークの波数およびその波数での相対強度値と測定されたラマン散乱スペクトルのラマンピークの波数およびその波数での相対強度値とを比較し、この比較結果から被識別プラスチックの素材を識別することが記載されている。
【0005】
上記特許文献1,2に記載のプラスチックの識別方法は、いずれも未知の被識別プラスチックから得たラマン散乱スペクトルと、既知のラマン散乱スペクトルとを直接比較することにより被識別プラスチックの種類を識別するものである。従来の方法では、ラマン散乱スペクトル同士を直接比較するため、ラマン散乱スペクトルをSN比が大きくなるように測定する必要がある。そのため、通常の分光装置によるラマン散乱スペクトルの測定では、レーザ光を数秒照射し続けて行う必要があるため、従来の方法では1個のプラスチックを識別するのに長い時間が必要となる。
【0006】
また、測定されたラマン散乱スペクトルからピークを抽出する数学的処理は、複雑で計算量の多いものであり、この操作にも長い時間を必要とする。上記特許文献1,2には測定時間についての記述はないが、最も良い条件で測定したとしても1秒間に数個程度の識別しか行うことができず、実用的ではない。多くの廃棄プラスチックが、粉砕して処理されていることを考えると、実用的なプラスチックの選別には、1秒間に数十個以上の識別を行うことが必要である。
【0007】
そこで、本出願人は、特許文献3に記載の高速でプラスチックの材質を識別することが可能なラマン散乱に基づくプラスチックの識別方法を開発している。この識別方法では、ベルトコンベアにより被識別プラスチックを搬送しながらレーザ光を照射して、この被識別プラスチックから散乱されたラマン散乱光からラマン散乱信号を得て、予め既知のプラスチックのラマン散乱スペクトルを測定することにより設定した1点以上の既知ピーク位置のラマン散乱強度および既知ベースライン位置のラマン散乱強度と、被識別プラスチックのラマン散乱信号から得た識別したいプラスチックの材質ごとの既知ピーク位置に対応するラマンシフト波数におけるラマン散乱強度および既知ベースライン位置に対応するラマンシフト波数におけるラマン散乱強度とに基づいて被識別プラスチックの材質を識別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−356595号公報
【特許文献2】特開平10−38807号公報
【特許文献3】特許第4203916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のようにベルトコンベアにより被識別プラスチックを搬送しながらレーザ光を照射して識別を行う場合、被識別プラスチックを1列に整列させて行うと大量のプラスチックを識別するのに時間が掛かってしまう。このような問題を解決するため、被識別プラスチックをベルトコンベアの所定の幅内に配列し、被識別プラスチックの搬送方向に対して垂直方向に複数の検出部ヘッドを配列して一度に複数列の被識別プラスチックを識別することが考えられる。
【0010】
ところが、このように複数の検出部ヘッドを被識別プラスチックの搬送方向に対して垂直方向に配列した場合、複数の検出部ヘッドの間隔が問題となる。廃棄プラスチックは、多くの場合、最終的に破砕されてシュレッダーダストとして流通するが、そのサイズは流通形態やその後の利用形態に合わせて破砕機の設定により数ミリメートルから数十センチメートルとして幅広く調整されている。したがって、廃棄プラスチックを識別する場合に、廃棄プラスチックのサイズによっては、この複数の検出部ヘッドの間隔よりも小さく、検出部ヘッドにより識別されなくなる可能性がある。
【0011】
そこで、本発明においては、ベルトコンベア等の搬送装置により所定幅内に廃棄プラスチック等の識別対象物が配列されて搬送される場合に、識別対象物の大きさに関わらず、識別対象物を漏れなく識別することが可能な識別装置および識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の識別装置は、搬送装置により搬送される識別対象物に対してレーザ光を照射して識別対象物を識別する識別装置において、レーザ光を識別対象物に照射する複数の検出部ヘッドが識別対象物の搬送面に対して平行に配列された検出部ヘッドユニットと、この検出部ヘッドユニットを識別対象物の搬送面に対して垂直方向の軸周りに回転させる回転機構とを有するものである。
【0013】
本発明の識別装置によれば、回転機構により検出部ヘッドユニットを回転させることにより、複数の検出部ヘッドの識別対象物の搬送方向に対して垂直方向の間隔を調整することができ、この間隔の調整後、複数の検出部ヘッドからそれぞれレーザ光を識別対象物に照射して識別対象物を識別することができる。
【0014】
本発明の識別方法は、搬送装置により搬送される識別対象物に対してレーザ光を照射して識別対象物を識別する識別方法であって、レーザ光を識別対象物に照射する複数の検出部ヘッドが識別対象物の搬送面に対して平行に配列された検出部ヘッドユニットを、識別対象物の搬送面に対して垂直方向の軸周りに回転させて、複数の検出部ヘッドの識別対象物の搬送方向に対して垂直方向の間隔を調整すること、間隔の調整後、複数の検出部ヘッドからそれぞれレーザ光を識別対象物に照射して識別対象物を識別することを含む。
【発明の効果】
【0015】
レーザ光を識別対象物に照射する複数の検出部ヘッドが識別対象物の搬送面に対して平行に配列された検出部ヘッドユニットを、識別対象物の搬送面に対して垂直方向の軸周りに回転させる構成により、識別対象物の大きさに応じて複数の検出部ヘッドの間隔を調整して、それぞれの検出部ヘッドのレーザ光により識別対象物を識別することができるため、1台の識別装置により、識別対象物の大きさに関わらず、識別対象物を漏れなく識別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態におけるプラスチック識別装置の概略構成図である。
【図2】図1のラマン散乱識別装置の検出部ヘッドユニットの拡大図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】図1のラマン散乱光識別装置の光学系を示す構成図である。
【図5】図4のデータ処理装置のブロック図である。
【図6】図4のマルチチャンネル分光器の概略構成図である。
【図7】図4のマルチチャンネル分光器の別の実施形態を示す概略構成図である。
【図8】図4のマルチチャンネル分光器のさらに別の実施形態を示す概略構成図である。
【図9】ラマン散乱スペクトルの例を示す図である。
【図10】既知のプラスチックのラマン散乱スペクトルの例を示す図である。
【図11】識別手段によるPSの識別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の実施の形態におけるプラスチック識別装置の概略構成図、図2は図1のラマン散乱識別装置の検出部ヘッドユニットの拡大図、図3は図2の平面図、図4は図1のラマン散乱識別装置の光学系を示す構成図、図5は図1のラマン散乱識別装置のブロック図、図6は図4のマルチチャンネル分光器の概略構成図である。
【0018】
図1において、本発明の実施の形態におけるラマン散乱に基づく識別装置としてのプラスチック識別装置1は、搬入された粉砕プラスチックを異物とプラスチック片とに選別する風力選別や比重選別のような前処理設備2と、前処理設備2により選別されたプラスチック片を振動させて整列させる振動整列フィーダ3と、振動整列フィーダ3により整列させたプラスチック片を載置台としてのベルト4a上に載置して搬送する搬送装置としてのベルトコンベア4と、ベルトコンベア4上のプラスチック片、すなわち識別対象物である被識別プラスチックにレーザ光を照射し、この被識別プラスチックから散乱されたラマン散乱光を得て被識別プラスチックの材質を識別する識別手段としてのラマン散乱識別装置5とを備える。
【0019】
また、このプラスチック識別装置1は、ラマン散乱識別装置5による識別の結果に応じて圧縮空気を噴出することにより被識別プラスチックを材質ごとに選別する選別用エアガン6と、選別用エアガン6を駆動するエアガン駆動装置7と、ラマン散乱識別装置5とエアガン駆動装置7との動作を同期させて制御する同期制御装置8とを備える。また、このプラスチック識別装置1は、ベルトコンベア4の搬送速度を調整するコンベア速度調整装置9を備えており、同期制御装置8は、ラマン散乱識別装置5とエアガン駆動装置7とともにコンベア速度調整装置9の動作を同期させて制御する。
【0020】
ラマン散乱識別装置5は、図2に示すように、レーザ光Lをベルト4a上に載置された被識別プラスチックPに照射するとともに、この被識別プラスチックPから散乱されたラマン散乱光および被識別プラスチックPにより反射されたレーザ光を集光する複数の検出部ヘッド10aからなる検出部ヘッドユニット10と、検出部ヘッドユニット10を回転させる回転機構11とを有する。
【0021】
検出部ヘッドユニット10は、図2および図3に示すように、被識別プラスチックPの搬送面、すなわちベルトコンベア4のベルト4aの上面に対して平行に配列されている。検出部ヘッドユニット10は、初期状態において図3に実線で示すように各検出部ヘッド10aが搬送方向に対して垂直となっている。回転機構11は、この検出部ヘッドユニット10を被識別プラスチックPの搬送面に対して垂直方向の軸周りに回転させるものであり、図3の実線で示す位置を初期状態として回転機構11により時計回りおよび反時計回りに回転可能となっている。
【0022】
そして、検出部ヘッドユニット10の各検出部ヘッド10aには、図4に示すように、光ファイバ21により接続されるマルチチャンネル分光器22と、マルチチャンネル分光器22から出力される電気信号を入力して処理するデータ処理装置30と、後述の半導体レーザ発生装置12を駆動するための半導体レーザ駆動電源40とが接続されている。
【0023】
なお、各検出部ヘッド10aは、レーザ光Lを識別対象物である被識別プラスチックPに照射するレーザ照射系、および、レーザ光Lの照射により被識別プラスチックPから散乱されたラマン散乱光Rと被識別プラスチックPにより反射されたレーザ光とを集光する集光系を構成する。
【0024】
また、各検出部ヘッド10aは、半導体レーザ発生装置12と、集光レンズ13と、半導体レーザ発生装置12により発生したレーザ光Lを反射して集光レンズ13まで導くミラー14aおよびダイクロイックミラー14bとを備える。ダイクロイックミラー14bは、レーザ光Lを反射し、かつラマン散乱光Rを透過するものである。なお、ミラー14aは、半導体レーザ発生装置12の向きを調整することで省略することも可能である。また、ダイクロイックミラー14bは、レーザ光Lを反射し、かつラマン散乱光Rを透過するハーフミラーに代えることも可能である。
【0025】
半導体レーザ発生装置12は、例えば、波長600〜1064nmの範囲で100mW以上の出力が得られる高出力のものを用いる。半導体レーザ発生装置12により発生したレーザ光Lは、ミラー14aにより反射され、さらにダイクロイックミラー14bにより反射されて集光レンズ13へ導かれ、集光レンズ13により集光されて被識別プラスチックPへと照射される。
【0026】
各検出部ヘッド10aは、このレーザ光Lの照射により被識別プラスチックPから散乱されたラマン散乱光Rを集光レンズ13により集光して光ファイバ21へ導く。ラマン散乱光Rは、ダイクロイックミラー14bを透過して光ファイバ21の入射口へ集光される。また、集光レンズ13には被識別プラスチックPにより反射されたレーザ光も入射し、一部はダイクロイックミラー14bを透過して光ファイバ21の入射口へ集光される。
【0027】
光ファイバ21は、このように検出部ヘッド10aの集光レンズ13により集光したラマン散乱光Rおよび反射されたレーザ光をマルチチャンネル分光器22へ導くものである。なお、光ファイバ21を省略し、検出部ヘッド10aにマルチチャンネル分光器22を内蔵して、集光レンズ13により集光したラマン散乱光Rおよび反射されたレーザ光を直接マルチチャンネル分光器22に入光させる構成とすることも可能である。
【0028】
マルチチャンネル分光器22は、図6に示すように、ラマン散乱光Rおよび反射されたレーザ光を反射および分光する反射型回折格子等の分光器23と、分光器23により分光された光を検出して電気信号へ変換するCCD(Charge Coupled Device)やリニアアレイフォトダイオード等の例えば1024画素の2次元の光検出器24と、分光器23により分光されたレーザ光Lの反射光を減光するフィルタとしての減光フィルタ25とから構成される。
【0029】
分光器23により反射および分光されたラマン散乱光Rは、光検出器24の大部分である一部の画素群24aへ入射されるように調整されている。光検出器24の画素群24aに入射されたラマン散乱光Rは、光検出器24により電気信号へ変換され、データ処理装置30へ入力される。データ処理装置30は、この入力されたラマン散乱信号からラマン散乱情報を得るためのラマン散乱情報取得手段31(図5参照。)を有している。
【0030】
また、分光器23により反射されたレーザ光は、減光フィルタ25により減光された後、光検出器24の小部分である一部の画素群24bへ入射されるように調整されている。光検出器24の画素群24bに入射されたレーザ光は、光検出器24により電気信号へ変換され、データ処理装置30へ入力される。データ処理装置30は、この入力されたレーザ信号からレーザ情報を得るためのレーザ情報取得手段32(図5参照。)を有している。
【0031】
データ処理装置30は、パーソナルコンピュータやCPUボード等であり、マルチチャンネル分光器22は、例えばPCI(Peripheral Component Interconnect)インタフェースにより接続される。図5に示すように、データ処理装置30は、上記ラマン散乱情報取得手段31およびレーザ情報取得手段32の他、レーザ情報に基づいてラマン散乱情報を補正する補正手段33と、予め設定された基準値等を記憶する記憶手段34と、ラマン散乱情報に基づいて被識別プラスチックPの材質を識別する識別手段35と、識別結果を出力する出力手段36とを有する。
【0032】
ラマン散乱情報取得手段31は、光検出器24の画素群24aから入力された電気信号からラマン散乱情報としての所定のラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度を得るものである。レーザ情報取得手段32は、光検出器24の画素群24bから入力された電気信号からレーザ情報としてのレーザ光の波長および強度を得るものである。
【0033】
補正手段33は、レーザ情報に基づいてラマン散乱情報を補正するものである。前述のように、レーザ光Lの波長が変動するとラマン散乱スペクトルは変化する。具体的には、図9に示すようなラマン散乱スペクトルの各ピークの横軸上の位置(ラマンシフトの波数)および縦軸上の位置(強度)が、レーザ光の波長および強度の変化(波数0のピーク位置に相当)に応じて変化する。そこで、補正手段33は、レーザ情報取得手段32により取得したレーザ光の波長および強度に基づいて、ラマン散乱情報取得手段31により取得する所定のラマンシフトの波数およびそのラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度を補正する。
【0034】
記憶手段34に記憶される基準値は、識別したいプラスチック、例えば、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、LDPE(低密度ポリエチレン)やHDPE(高密度ポリエチレン)等の既知のプラスチックの材質ごとに予めラマン散乱スペクトルを測定することにより設定した1点以上の既知ピーク位置および既知ベースライン位置のそれぞれのラマン散乱強度である。
【0035】
図10は本実施形態におけるプラスチック識別装置により参照資料としての既知のプラスチック(アクリル、PC、ABS、PS、PVC)のそれぞれのラマン散乱スペクトルを取得した結果を示している。図10の横軸はラマンシフトの波数(cm-1)、縦軸はラマン散乱強度(任意強度)である。
【0036】
図10において、PSを例に説明すると、PSでは点A1と点A2の位置にピークがあるので、これらの2点A1,A2またはその近傍をPS識別のためのピーク位置とする。また、これらのピーク位置A1,A2間にベースライン上の点Bがあるので、この点BをPS識別のためのベースライン位置とする。なお、ベースラインの位置と強度には、ピーク位置からあまり離れていないラマン散乱強度が弱く、底になった部分の値を用いることが望ましい。また、強度の算出には、ピーク位置やベースライン位置を含む近傍の測定点の平均値を算出して、これを用いることでSN比の向上を図ることができる。
【0037】
識別手段35は、識別したいプラスチックの材質ごとの既知ピーク位置(PSの例では2点A1,A2)に対応するラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度および既知ベースライン位置(PSの例では点B)に対応するラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度をラマン散乱情報取得手段31によって得るものであるが、このとき、識別手段35は、前述のようにレーザ光の波長および強度に基づいて補正手段33により補正された対応するラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度を得る。また、識別手段35は、これらの得られたラマン散乱強度と記憶手段34に記憶された基準値とに基づいて被識別プラスチックの材質を識別するものである。
【0038】
例えば、識別手段35は、識別したいプラスチックの材質ごとの既知ピーク位置(2点
1,A2)に対応するラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度RA1,RA2と既知ベースライン位置(点B)に対応するラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度RBとのそれぞれの差(RA1−RB),(RA2−RB)と、基準値としての既知のプラスチックの既知ピーク位置のラマン散乱強度RA10,RA20と既知ベースライン位置のラマン散乱強度RB0との差(RA01−RB0),(RA20−RB0)とを、直接またはそれぞれの比(RA1−RB)/(RA2−RB),(RA10−RB0)/(RA20−RB0)によって比較することにより被識別プラスチックの材質を識別する。なお、直接比較する際の基準値(RA10−RB0),(RA20−RB0)、または、比によって比較する際の基準値(RA10−RB0)/(RA20−RB0)は、予め記憶手段34に記憶しておく。
【0039】
図11はこの識別手段35によるPSの識別例を示している。図11に示すように、PSの2点A1,A2の既知ピーク位置に対応するラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度RA1,RA2と点Bの既知ベースライン位置に対応するラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度RBとのそれぞれの差(RA1−RB),(RA2−RB)の比(RA1−RB)/(RA2−RB)は、他の材質のものとは大きく相違している。したがって、PSの既知ピーク位置のラマン散乱強度RA10,RA20と既知ベースライン位置のラマン散乱強度RB0との差(RA01−RB0),(RA20−RB0)の比(RA10−RB0)/(RA20−RB0)から設定した基準値としての閾値SPSによってフィルタリング(図示例では(RA10−RB0),(RA20−RB0)>SPS=2.5のみ抽出)することにより、PS、PP、PET、LDPE、HDPEが混在した試料からPSのみを識別して抽出することが可能である。
【0040】
なお、図示しないが、他の種類のプラスチックにおいても同様にそれぞれのプラスチックの既知ピーク位置に対応するラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度と既知ベースライン位置に対応するラマンシフトの波数におけるラマン散乱強度とのそれぞれの差や比等に基づいて被識別プラスチックの材質を識別することが可能である。
【0041】
上記構成のプラスチック識別装置1では、搬入された粉砕プラスチック(異物が含まれている場合もある。)を前処理風選機2により異物とプラスチック片とに選別し、この選別されたプラスチック片を振動整列フィーダ3により振動させて所定幅内に整列させ、ベルトコンベア4により搬送する。そして、ラマン散乱識別装置5によりベルトコンベア4のベルト4a上の被識別プラスチックPにレーザ光を照射してプラスチックの材質を識別し、識別結果に応じて選別用エアガン6により選別して材質ごとに回収する。
【0042】
ここで、ラマン散乱識別装置5は、予め被識別プラスチックPの大きさに応じて回転機構11により検出部ヘッドユニット10を被識別プラスチックPの搬送面に対して垂直方向に軸周りに回転させることにより、複数の検出部ヘッド10aの被識別プラスチックPの搬送方向に対して垂直方向の間隔を調整する。例えば、図3に実線で示す状態から二点鎖線で示す状態まで回転させた場合、この間隔はaからbへ変化する。そして、この間隔の調整後、複数の検出部ヘッド10aからそれぞれレーザ光Lを被識別プラスチックPに照射して被識別プラスチックPの識別を行う。
【0043】
このように、このラマン散乱識別装置5では、被識別プラスチックPの大きさに応じて複数の検出部ヘッド10aの間隔を調整して、それぞれの検出部ヘッド10aのレーザ光Lにより被識別プラスチックPを識別することができるため、被識別プラスチックPの大きさに関わらず、ベルト4a上の被識別プラスチックPを漏れなく識別することが可能である。
【0044】
なお、本実施形態においては、検出部ヘッドユニット10は複数の検出部ヘッド10aを搬送方向に対して垂直方向に一列のみ配列した構成であるが、複数列を配列した構成とすることも可能である。この場合、検出部ヘッドユニット10を回転させることで、複数の検出部ヘッド10aの間隔をさらに狭くすることができるため、より細かな被識別プラスチックPを漏れなく識別することが可能となる。
【0045】
なお、本実施形態におけるラマン散乱識別装置5では、強力なレーザ光を発生する半導体レーザ発生装置12を光源として、このレーザ光を試料である被識別プラスチックPの表面に凸レンズ13により集光照射し、その散乱光に含まれるラマン散乱光を、レーザ光の集光に使用した同じ凸レンズ13により同軸で集光し、光ファイバ21でマルチチャンネル分光器22に導き、マルチチャンネル分光して光検出器24の画素群24aに入射させることによりラマン散乱情報を得る。
【0046】
このとき、このラマン散乱識別装置5では、同時に被識別プラスチックPに反射されたレーザ光を光検出器24の画素群24bに入射させることにより検出してレーザ情報を得て、このレーザ情報に基づきラマン散乱情報を補正し、補正後のラマン散乱情報に基づいて被識別プラスチックPを識別する。なお、ここで得る補正後のラマン散乱情報は、予め設定したピーク位置とベースライン位置のみを得るだけで良いため、従来のようにラマン散乱スペクトル全体を正確に測定する必要はない。
【0047】
このように、本実施形態におけるラマン散乱識別装置5では、レーザ光を被識別プラスチックPに照射し、この被識別プラスチックPから散乱されたラマン散乱光を検出してラマン散乱情報を得るとともに、レーザ光を検出してレーザ情報を得て、得られたレーザ情報に基づいてラマン散乱情報を補正し、補正後のラマン散乱情報に基づいて被識別プラスチックPを識別するので、被識別プラスチックPに照射するレーザ光の波長の変動によりラマン散乱情報が変化した場合であっても、より正確に識別対象物の識別を行うことが可能である。
【0048】
また、このプラスチック識別装置1では、識別したいプラスチックごとに予め決められたピーク位置(例えば、PSの場合のA1,A2)に対応するラマンシフトの波数の1点または2点のラマン散乱強度と、ベースライン位置(例えば、PSの場合のB)に対応する補正後のラマンシフトの波数のラマン散乱強度とを求め、その比を計算するなど簡単な演算処理を行い、その値と参照試料のプラスチックで求めた基準値とを比較するという簡便な方法によって毎秒50個以上のプラスチックを識別することが可能である。なお、本実施形態においては、ピーク位置に対応するラマンシフトの波数を1点または2点使用しているが、3点以上とすることも可能である。
【0049】
なお、このプラスチック識別装置1では、図6に示すようにマルチチャンネル分光器22が、ラマン散乱光およびレーザ光を分光する分光器23と、分光器23により分光されたレーザ光を減光する減光フィルタ25と、分光器23により分光されたラマン散乱光および減光フィルタ25により減光されたレーザ光を検出する光検出器24とから構成されるものとし、ラマン散乱信号の取得およびレーザ光の測定を1つの光検出器24により行っているので、低廉な識別装置を得ることが可能であるが、これに代えて図7または図8に示す構成とすることも可能である。
【0050】
図7は図4のマルチチャンネル分光器の別の実施形態を示す概略構成図、図8は図4のマルチチャンネル分光器のさらに別の実施形態を示す概略構成図である。なお、図7および図8において図6と共通の構成部分については同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0051】
図7に示すマルチチャンネル分光器22aでは、分光器23により分光されたレーザ光を光検出器26の所定の位置の画素群26bへ反射するミラー27を備えた構成である。画素群26bは、分光器24により分光されたラマン散乱光Rのうち各プラスチックにおいて特徴が現れない部分(図9の例では波数1600〜2200cm-1の範囲)である。ラマン散乱光Rの特徴が現れる他の部分は、光検出器26の画素群26a,26cに入射される。
【0052】
このような構成を採用することにより、光検出器26の分解能を有効に利用して、ラマン散乱信号の取得およびレーザ光の測定を1つの光検出器26により行うことができるので、高精度で低廉な識別装置を実現することが可能となる。
【0053】
一方、図8に示すマルチチャンネル分光器22bでは、ラマン散乱光Rを入射させる第1光検出器28aとは別に、レーザ光を入射させる第2光検出器28bを設けた構成である。分光器23により分光されたレーザ光はミラー29によって反射させる。
【0054】
このような構成を採用することにより、ラマン散乱光を検出する第1光検出器28aとは別の第2光検出器28bにより検出してラマン散乱信号の取得およびレーザ光の測定を行うので、ラマン散乱信号を取得する第1光検出器28aは分解能の高いものを使用し、レーザ光を測定する第2光検出器28bは分解能の低いものを使用して、低コスト化を図ることが可能である。
【0055】
なお、以上の説明においては、分光器23は反射型の回折格子(グレーティング)を用いた例について説明したが、透過型の回折格子を使用することも可能である。また、減光フィルタ25に代えて、分光器23により分光する前にレーザ光を減光する目的でノッチフィルタ等のフィルタを設置し、フィルタ25を省略したり併用したりすることも可能である。
【0056】
なお、上記のように本実施形態においては、プラスチックの材質を識別するプラスチック識別装置1について説明したが、プラスチック以外にも木や紙などの識別対象物の識別にも応用することが可能である。また、本実施形態における検出部ヘッドユニット10および回転機構11の構成は、ラマン散乱を利用した識別装置だけでなく、レーザ光を利用して識別する他の識別装置にも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、プラスチック、木や紙等の識別対象物をレーザ光を利用して識別する識別装置および識別方法として有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 プラスチック識別装置
2 前処理設備
3 振動整列フィーダ
4 ベルトコンベア
4a ベルト
5 ラマン散乱識別装置
6 選別用エアガン
7 エアガン駆動装置
8 同期制御装置
9 コンベア速度調整装置
10 検出部ヘッドユニット
10a 検出部ヘッド
11 回転機構
12 半導体レーザ発生装置
13 集光レンズ
14a ミラー
14b ダイクロイックミラー
21 光ファイバ
22,22a,22b マルチチャンネル分光器
23 分光器
24,26 光検出器
25 減光フィルタ
27,29 ミラー
28a 第1光検出器
28b 第2光検出器
30 データ処理装置
31 ラマン散乱情報取得手段
32 レーザ情報取得手段
33 補正手段
34 記憶手段
35 識別手段
36 出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送装置により搬送される識別対象物に対してレーザ光を照射して前記識別対象物を識別する識別装置において、
前記レーザ光を前記識別対象物に照射する複数の検出部ヘッドが前記識別対象物の搬送面に対して平行に配列された検出部ヘッドユニットと、
この検出部ヘッドユニットを前記識別対象物の搬送面に対して垂直方向の軸周りに回転させる回転機構と
を有する識別装置。
【請求項2】
前記識別対象物はプラスチックであり、
前記複数の検出部ヘッドは、それぞれ前記レーザ光を前記プラスチックに照射するとともに、前記プラスチックから散乱されたラマン散乱光を集光するものである請求項1記載の識別装置。
【請求項3】
前記ラマン散乱光からラマン散乱信号を取得して前記プラスチックの材質を識別する識別手段を有する請求項2記載の識別装置。
【請求項4】
搬送装置により搬送される識別対象物に対してレーザ光を照射して前記識別対象物を識別する識別方法であって、
前記レーザ光を前記識別対象物に照射する複数の検出部ヘッドが前記識別対象物の搬送面に対して平行に配列された検出部ヘッドユニットを、前記識別対象物の搬送面に対して垂直方向の軸周りに回転させて、前記複数の検出部ヘッドの前記識別対象物の搬送方向に対して垂直方向の間隔を調整すること、
前記間隔の調整後、前記複数の検出部ヘッドからそれぞれ前記レーザ光を前記識別対象物に照射して前記識別対象物を識別すること
を含む識別方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図11】
image rotate

【図1】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−226821(P2011−226821A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94259(P2010−94259)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(502437791)株式会社サイム (6)
【Fターム(参考)】