説明

貝殻を原料とする抗ウイルス剤

【課題】ヒト・環境にやさしく無害なものであり、廃棄物の有効利用の一環として豊富に得ることができる抗ウイルス剤を提供することにあり、また、それを含有した、例えばマスク、フィルター、飼料等の抗ウイルス材を提供すること。
【解決手段】貝殻又は貝殻を荒潰ししたものを焼成及び粉砕して得られる微細焼成粉砕物を含有することを特徴とする抗ウイルス剤であり、特に該微細焼成粉砕物の体積平均粒径が15μm以下であり、特に該貝殻がホタテガイの貝殻である抗ウイルス剤によって課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻を原料とする抗ウイルス剤に関するものであり、より詳しくは、貝殻又は貝殻を荒潰ししたものを焼成及び粉砕して得られる微細焼成粉砕物を含有する抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の貝類の生産量は、年間約90万トンあり、そのうちの約65質量%が貝殻である。そして、我が国の貝類の生産量のうち、特にホタテガイの生産量は年間約80万トンであり、そのうちその貝殻が約52万トンであり、約15万トンが廃棄物として処理されている。
【0003】
近年、この廃棄物の有効利用の観点から、ホタテガイの貝殻の焼成粉末の水懸濁液の抗菌作用が注目されている。例えば、ホタテガイ貝殻焼成粉末水懸濁液が、大腸菌、黄色ブドウ球菌及び枯草菌に抗菌性を示すことが報告されている(非特許文献1)。また、該懸濁液が真菌類及びメリシチン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、ビブリオ属細菌等にも抗菌性があることが報告されている(非特許文献2及び3)。更に、特許文献1には、ホタテ貝殻の焼成物が、除菌剤、抗菌剤又は防カビ剤として有効であることが示されている。
【0004】
一方、ヒトや環境にやさしい抗ウイルス剤の開発が望まれている。しかしながら、貝殻由来のものであって、ウイルスに対して感染力を減弱させる等の効果を奏する抗ウイルス剤に関しては、ヒトや環境にやさしい貝殻焼成物等を利用した報告は知られていない。上記抗菌作用等を示す貝殻焼成物であっても、抗ウイルス活性を示すとは限らず、そのためには、更なる技術が必要とされていた。
【0005】
【非特許文献1】Sawai. J., Shiga. H.,Kojima. H.: Kinetic analysis of the bactericidal actionof heated scallop-shell powder. Int. J. Food Microbiol., 71, 211〜218(2001)
【非特許文献2】小山信治、他:ホタテ貝殻のバイオニックデザイン、八戸工業大学食品工学研究紀要、12、pl,(2001)
【非特許文献3】岡重美、他:Vibrio属細菌に対するホタテガイ貝殻焼成カルシウムの抗菌作用について、日本食品衛生学会 第83回学術講演会講演要旨集、30,(2002)
【特許文献1】特開2002−255714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、ヒトや環境にやさしく無害なものであり、しかも廃棄物の有効利用の一環として豊富に得ることができる抗ウイルス剤を提供することにあり、またそれを含有した抗ウイルス材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、貝殻に特定の処理を施すことによって、得られたものが抗ウイルス活性を示すようになることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、貝殻又は貝殻を荒潰ししたものを焼成及び粉砕して得られる微細焼成粉砕物を含有することを特徴とする抗ウイルス剤を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記抗ウイルス剤を含有する抗ウイルス材を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウイルスに対して感染力を減弱させる効果等に優れた抗ウイルス剤を提供することができる。更に、ヒトや環境にやさしく無害であり、しかも廃棄物の有効利用ができ、また豊富に得ることができる抗ウイルス剤を提供することができる。また、上記した抗ウイルス剤を含有し、上記効果を有する抗ウイルス材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0012】
本発明の抗ウイルス剤は、貝殻を焼成及び粉砕して得られる微細焼成粉砕物を含有することを特徴とする。本発明において使用される貝殻は、多板類、単板類、腹足類、掘足類、二枚貝類、頭足類等の何れの貝類の貝殻であれば特に制限はされないが、人体に安全で、炭酸カルシウムを含有し、大量に入手が可能なホタテガイ、カキ又はホッキガイの貝殻が好ましく、日本国内で最も多く生産されており、白色度や純度が高く、組成の変動が少ない点で特にホタテガイの貝殻が好ましい。
【0013】
貝殻から微細焼成粉砕物を得るための処理方法については、少なくとも、焼成及び粉砕の両工程が必須である。微細焼成粉砕物は、少なくとも、焼成及び粉砕をして得られたものであれば、その他の処理については特に限定はなく、更に焼成と粉砕の順序も問わない。ただし、微細に粉砕するために、焼成後に粉砕することが好ましい。
【0014】
貝殻は、そのまま焼成又は粉砕を行ってもよいが、それらの工程の前に、貝殻に対し直接「荒潰し」をすることが、その後の焼成及び粉砕を効率よくするために好ましい。荒潰し後の形状は特に限定はないが、体積平均粒径で0.1mm〜20mmが好ましく、0.5mm〜14mmがより好ましく、2mm〜10mmが特に好ましい。
【0015】
荒潰しの方法としては特に限定はないが、人力で潰したり、クラッシャー、ハンマーミル等を用いて行ったりすることが好ましい。
【0016】
本発明においては焼成することが必須である。本発明における「焼成」とは、加熱により貝殻の成分である炭酸カルシウムの少なくとも一部を酸化カルシウムにする処理である。なお、焼成で得られるものを、以下、「焼成物」ということがある。
【0017】
本発明における焼成方法や焼成条件としては特に限定されるものではないが、焼成温度については、好ましくは600℃〜1500℃、より好ましくは700℃〜1400℃、特に好ましくは800℃〜1300℃、最も好ましくは1000℃〜1100℃である。焼成時間は焼成条件にも依存し特に限定はないが、好ましくは30分〜15時間、より好ましくは1時間〜10時間、特に好ましくは1.5時間〜6時間、最も好ましくは2時間〜4時間である。焼成温度が高すぎたり焼成時間が長すぎたりすると、ガラス化する場合があり、また、その必要性がなくコスト的に不利となる場合もある。一方、焼成温度が低すぎたり焼成時間が短すぎたりすると、貝殻の成分である炭酸カルシウムから酸化カルシウムが十分に生成されない場合があり、本発明の抗ウイルス効果が発揮できなかったり、また、その後に粉砕をする場合、粉砕が十分にできず、所定の平均粒径のものが得られ難くなったりする場合がある。
【0018】
焼成時の雰囲気は、空気中、窒素等の不活性気体中、真空中等何れでもよく特に限定はないが、空気中で焼成するのが貝殻中の炭酸カルシウムが酸化カルシウムに変換し易い点で好ましい。
【0019】
本発明においては粉砕することが必須である。本発明における「粉砕」とは、平均粒径を小さくすることをいい、粉砕は1回だけでもまた2回以上でもよい。2回以上粉砕を行う場合には、それぞれ別の粉砕方法で粉砕することが好ましい。以下、粉砕を2回以上行う場合、最後の粉砕を微粉砕といい、微粉砕の前に行う粉砕を粗粉砕という。本発明においては、焼成をしてから1回又は2回以上の粉砕をしてもよく、粗粉砕をした後に焼成を行い、その後に微粉砕をしてもよい。粉砕のし易さ、均一な微細粒子が得られる点で、焼成をしてから粗粉砕をし、その後に微粉砕をすることが好ましい。
【0020】
粗粉砕をする場合、粗粉砕後の体積平均粒径は特に限定はないが、好ましくは10μm〜300μm、より好ましくは12μm〜200μm、特に好ましくは15μm〜100μmである。粗粉砕に用いられる粉砕機ではこれより小さい体積平均粒径にするには効率が悪すぎたり、粉砕全体の粉砕効率を考えるとこれより小さくしておく必要性がない場合があり、一方、大きすぎる場合は、その後の微粉砕の効率が落ちたり、十分に微粉砕できなかったりする場合がある。
【0021】
ここで、粗粉砕後の体積平均粒径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製)を用いて、常法に従って得られた体積平均粒径として定義される。
【0022】
粗粉砕に用いられる粉砕機としては特に限定はないが、乾式ボールミル、乾式ビーズミル、クラッシャー等を用いて行うことが、上記の体積平均粒径の範囲内に効率よく粉砕でき、粉砕工程全体の粉砕効率の点で好ましい。
【0023】
焼成後又は焼成に続く粗粉砕後に微粉砕をして、本発明の抗ウイルス剤に含有される微細焼成粉砕物を得る。微粉砕後の体積平均粒径、すなわち本発明の抗ウイルス剤に含有される微細焼成粉砕物の体積平均粒径は、好ましくは15μm以下、より好ましくは0.1μm〜10μm、特に好ましくは0.3μm〜7μm、最も好ましくは1μm〜5μmである。微細焼成粉砕物の体積平均粒径が大きすぎる場合は、使用に際して微細焼成粉砕物を懸濁する時にむらが生じたり、懸濁に時間がかかったりする場合がある。また、ウイルスとの接触が悪くなる等、抗ウイルス効果が十分に発揮できない場合がある。一方、小さすぎる場合は、そこまで十分に微粉砕できなかったり、粉砕の効率が悪くなったりする場合がある。
【0024】
本発明の抗ウイルス剤に含有される微細焼成粉砕物の個数平均粒径は、好ましくは7.5μm未満、より好ましくは0.01μm〜6μm、特に好ましくは0.1μm〜5μm、最も好ましくは0.5μm〜3μmである。微細焼成粉砕物の個数平均粒径が大きすぎる場合や小さすぎる場合は、上記した体積平均粒径の場合と同様の問題点が発生する場合がある。
【0025】
ここで、微細焼成粉砕物の体積平均粒径と個数平均粒径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製)にて、常法に従って得られる、それぞれ体積平均粒径、個数平均粒径として定義される。
【0026】
微細焼成粉砕物の比表面積は、0.4m/cm以上が好ましく、0.6〜100m/cmが好ましく、より好ましくは0.8〜30m/cm、特に好ましくは1〜10m/cmである。微細焼成粉砕物の比表面積が小さすぎる場合は、ウイルスとの接触が悪くなる等、抗ウイルス効果が十分に発揮できない場合があり、一方、大きすぎる場合は、そこまで十分に微粉砕できなかったり、粉砕の効率が悪くなったりする場合がある。
【0027】
ここで、微細焼成粉砕物の比表面積は、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製)を用いて測定され、そのようにして得られたものとして定義される。
【0028】
微粉砕の方法としては特に限定はないが、微粉砕に用いられる粉砕装置としては、具体的には例えば、乾式ボールミル、湿式ボールミル、乾式ビーズミル、湿式ビーズミル、ペイントシェーカー等のメディアミル;ジェット式ミル、高速ローター回転式ミル等の乾式粉砕装置;三本ロール、プラネタリーミキサー等の他の媒体と共に粉砕する装置が挙げられる。このうち、粉砕効率、コスト等の点でメディアミルが好ましく、抗ウイルス効果を発揮する体積平均粒径まで効率よく粉砕できる点、得られた抗ウイルス剤の用途等を考慮して、湿式ボールミル、湿式ビーズミル等が特に好ましい。かかる湿式ボールミルや湿式ビーズミルとしては、回転式のものでも震盪式のものでも好ましく用いられる。
【0029】
例えば、湿式ビーズミルを用いるときの例を以下に挙げる。すなわち、焼成物又は焼成物を粗粉砕したものを、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは2〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%となるように分散媒に懸濁した後、湿式ビーズミルを用いて、好ましくは30分〜3時間、より好ましくは1.5時間〜2時間粉砕する。湿式ビーズミル粉砕機を使用するときの分散媒としては、特に限定はないが、水、エタノール、イソプロパノール又は、それらの混合分散媒が、その後の取り扱い、得られた微細焼成粉砕物含有抗ウイルス剤の用途等を考慮すると好ましい。また、無菌的に保存できる点で好ましい。分散メディアも特に限定はないが、シリカ、酸化ジルコニウム等の金属酸化物;ガラス;セラミックス;ステンレス、鋼等の金属等が挙げられる。このうち、酸化ジルコニウム(ZrO)が、上記した好ましい平均粒径に効率よく粉砕でき、また、酸化ジルコニウム自体が磨耗しにくい点で好ましい。分散メディアの直径も特に限定はないが、0.03mm〜10mmが好ましく、0.05mm〜5mmがより好ましく、0.1mm〜0.5mmが特に好ましい。
【0030】
本発明の抗ウイルス剤は、上記微細焼成粉砕物を含有するが、それ以外に、水、エタノール、プロパノール等の分散媒;澱粉等の分散促進剤を含有させることができる。かかる「その他の物質」は、微細焼成粉砕物の効果を減じない範囲で配合できる。「その他の物質」は、本発明の抗ウイルス剤全体に対して、0質量%(抗ウイルス剤が微細焼成粉砕物のみからなる場合)〜70質量%が好ましく、0.1質量%〜50質量%がより好ましく、1質量%〜30質量%が特に好ましい。
【0031】
本発明の抗ウイルス剤が適用されるウイルスについては特に制限はなく、全てのウイルスが対象にされる。そのウイルスの科に関しては、例えば具体的には、マイオウイルス科(Myoviridae)、サイフォウイルス科(Siphovirida)、ポドウイルス科(Podoviridae)、アデノウイルス科(Adenoviridae)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、パポーバウイルス科(Papovaviridae)、ポックスウイルス科(Poxviridae)、イノウイルス科(Inoviridae)、ミクロウイルス科(Microviridae)、パルボウイルス科(Parvoviridae)、レオウイルス科(Reoviridae)、コロナウイルス科(Coronaviridae)、フラビウイルス科(Flaviviridae)、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)、トガウイルス科(Togaviridae)、カリシウイルス科(Caliciviridae)、へペウイルス科(Hepeviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、レトロウイルス科(Lentivirinae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)、カリモウイルス科(Caulimoviridae)等が考えられる。
【0032】
本発明の抗ウイルス剤の適用されるウイルスは、上記何れのウイルスでもよいが、オルトミクソウイルス科、コロナウイルス科、パラミクソウイルス科が、新興感染症、人蓄共通感染症、新型ウイルス感染症を予防等するため好ましく、特にオルトミクソウイルス科のインフルエンザウイルスが、高病原性トリインフルエンザウイルスの蔓延を阻止できる等の点で好ましい。
【0033】
例えば具体的には、
A型インフルエンザウイルスPR/8/34(ソ連型)、A型インフルエンザウイルスHR/K5/01(H9N2)、A型インフルエンザウイルス愛知/2/68(H3N2)(人分離株)、A型インフルエンザウイルスコハクチョウ/島根/499/83(H5N3)(鳥分離株)等のA型インフルエンザウイルスやB型インフルエンザウイルスSingapore/222等のB型インフルエンザウイルス等のオルトミクソウイルス科
鶏伝染性気管支炎ウイルス ボーデット株42や重症呼吸器感染症(SARS)ウイルス等のコロナウイルス科
ニューカッスル病ウイルス ラソーダ株及びKrKJW/49株等のパラミクソウイルス科
のウイルスに適用されることが好ましい。
【0034】
本発明の抗ウイルス剤を含有させて、各種抗ウイルス材として使用に供される。かかる抗ウイルス材としては、本発明の抗ウイルス剤を含有すれば、固体であっても、液体であっても、また、それらの混合、複合であってもよい。
【0035】
かかる抗ウイルス材としては、ブタ、ウシ、ヒツジ等の家畜類の飼料;ニワトリ、ガチョウ、アヒル等の家禽類の飼料;エアコンディショナー、空気清浄機、掃除機等のフィルター;家庭用、医療用、作業用等のマスク;接着剤;床拭き材、壁拭き材等の拭き材;消臭材;キッチン用部材;水虫治療薬、うがい薬、褥瘡の感染予防剤等の薬剤;不織布、糸、織布、壁材等の部材等が好ましいものとして挙げられる。
【0036】
例えば、本発明の抗ウイルス剤を含有するフィルターであれば、このフィルターに接触したインフルエンザウイルス等のウイルスの感染力を減弱させることができる。これにより、例えばエアコンディショナー等に使用すれば、インフルエンザウイルス等のウイルス感染を防ぐことができる。
【0037】
また、本発明の抗ウイルス剤を飼料に含有させれば、ウイルス感染を防止し、発育促進効果がある。飼料に用いる場合は、特に制限されないが、本発明の抗ウイルス剤の粉末をそのまま飼料に混合する方法や、本発明の抗ウイルス剤を水に懸濁させ、飼料と混ぜ合わせる方法等が用いられる。本発明の抗ウイルス剤を飼料に混合する場合、飼料100重量部に対して、本発明の抗ウイルス剤を微細焼成粉砕物換算で、0.005重量部〜0.15重量部混合することが好ましく、0.075重量部〜0.1重量部混合することが特に好ましい。微細焼成粉砕物が少なすぎると、抗ウイルス効果が得られない場合があり、多すぎると、細胞毒性が生じたり、環境を汚染したりする場合がある。
【0038】
抗ウイルス剤を含有する液体として用いる場合では、床拭き剤等の拭き材等に用いるだけではなく、ウイルスに感染するのを予防するために、動物に摂取させることも可能である。ペットや、ブタ、ウシ、ニワトリ、ヒツジ等の家畜に継続して飲ませ続けることで、有益な菌を殺さずに、有害なウイルスを不活性化させ、ペットや家畜はもとより、人の健康も守ることが可能である。
【0039】
本発明の貝殻の微細焼成粉砕物を含有する抗ウイルス剤が優れた抗ウイルス活性を示す作用・原理は明らかではなく、また本発明はかかる作用・原理の範囲に限定されるわけではないが、以下のことが考えられる。すなわち、貝殻の主成分である炭酸カルシウムが焼成されて生成する酸化カルシウム、それと水との反応物(水酸化カルシウム)、及び/又は、貝殻に含有されるその他の化合物が、更に形状が微細化されることによって、インフルエンザウイルス等のウイルスに対して即効的に作用するためであると考えられる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
(1)微細焼成粉砕物Aの製造方法
青森県産のホタテガイの貝殻を、粒径5mm程度に乾式ボールミルを用いて荒潰しをしてから、空気中で1050℃〜1100℃で3時間焼成した。この焼成物を、乾式ビーズミル粉砕機(アジサワ・ファインテック社製)で約2時間処理し、焼成粉砕物aを得た。この「焼成粉砕物a」の体積粒径分布を図1、個数粒径分布を図2に示す。焼成粉砕物aの10%(体積)粒径は8.5μm、50%(体積)粒径は18.4μm、90%(体積)粒径は43.7μm、体積平均粒径は18.4μmであり、10%(個数)粒径は3.3μm、50%(個数)粒径は6.1μm、90%(個数)粒径は13.2μm、個数平均粒径は6.1μmであった。また、比表面積は0.39m/cmであった。
【0042】
焼成粉砕物aの、「水で10質量倍に希釈して懸濁攪拌した液の室温におけるpH」、灰分及び含有元素を表1に示す。ただし、表1以外にも微量成分を含有する可能性が考えられ、従って、本発明は、抗ウイルス効果が表1に記載されたものに起因して奏されているものには限定されない。焼成粉砕物aの主成分は酸化カルシウム(CaO)であった。この酸化カルシウムはホタテガイの貝殻の主成分である炭酸カルシウム(CaCO)が焼成により脱炭酸して生成したものである。
【0043】
【表1】

【0044】
その後、焼成粉砕物aを10質量%となるように水に懸濁して、湿式ビーズミル粉砕機(アジサワ・ファインテック社製)で約2時間処理し、10%(体積)粒径2.1μm、50%(体積)粒径3.5μm、90%(体積)粒径5.7μm、体積平均粒径3.5μmであり、10%(個数)粒径1.3μm、50%(個数)粒径2.2μm、90%(個数)粒径3.7μm、個数平均粒径2.2μm、比表面積1.85m/cmの微細焼成粉砕物Aを得た。この微細焼成粉砕物Aの体積粒径分布を図3、個数粒径分布を図4に示す。
この微細焼成粉砕物Aの、「水で10質量倍に希釈して懸濁攪拌した液の室温におけるpH」、灰分及び含有元素の種類は、当然上記表1に示すものと同じである。
【0045】
(2)抗ウイルス活性の評価方法
(a)試験溶液の調製
貝殻の微細焼成粉砕物Aを、0.15質量%になるように、減菌生理食塩水(0.9質量%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液)に分散し、攪拌子を入れて、20℃で1時間攪拌して、抗ウイルス活性の試験に用いる「試験溶液原液」とした。
【0046】
(b)供試ウイルス液の調製
A型インフルエンザウイルスPR/8/34(A/PR/8)(ソ連型)をウイルス株として使用した。ウイルス株は、10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔に接種し、35℃、3日間培養後、採取した感染漿尿液を−80℃で保存したものを、用時解凍後、減菌生理食塩水で希釈してウイルス液として用いた。
【0047】
(c)抗ウイルス活性の試験
減菌したマイクロチューブに、上記のウイルス液0.1mLと、上記「試験溶液原液」を、減菌生理食塩水(0.9質量%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液)で希釈した「0.75質量%試験溶液」0.9mLを加えた。その1分後に、上記のウイルス液と「0.075質量%試験溶液」の混合液を採取し、イヌ腎由来のMardin-Darby canine kidney(MDCK)細胞を用いて生残ウイルス量をプラック法で求め、プラック形成単位(plaque forming unit;PFU)/mLで生残ウイルス量(PFU/mL)を表し、抗ウイルス活性の評価を行った。この評価方法は、「Tobita,K., 1975, Permanent canine kidney(MDCK) cells for isolation
and plaque assay of influenzaB virus. Med.Microbiol.Immunol.,62; p.23〜27.」に従って行った。その結果を図5に示す。
【0048】
図5において、「対照」は、上記のウイルス液0.1mLと、減菌生理食塩水(0.9質量%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液)0.9mLを混合し、5分後に、この混合液を採取し、上記と同様にして生残ウイルス量(PFU/mL)を求めたものである。なお、図6、図7及び図8における「対照」についても同様である。
【0049】
また、図5ないし図8において、縦軸の「1.E+n」(nは3〜9の整数)なる表現は、「10」(nは3〜9の整数)を意味する。また、縦軸は「1.E+03」の下で切れているが、そこまで棒が達していないものは、全て「500PFU/mL未満」であることを意味する。
【0050】
実施例2
実施例1において、抗ウイルス活性の試験を、「0.05質量%試験溶液」及び「0.025質量%試験溶液」で行った以外は、実施例1と同様にして抗ウイルス活性の評価を行った。その結果を図5に合わせて示す。
【0051】
実施例3
実施例1において、混合1分後に上記のウイルス液と「0.075質量%試験溶液」の混合液を採取したことに代えて、混合30秒後、5分後、10分後及び15分後にも、ウイルス液と各濃度の試験溶液の混合液を採取して、実施例1と同様にして抗ウイルス活性の評価を行った。その結果を図5に合わせて示す。
【0052】
実施例4
実施例1、実施例2及び実施例3において、ウイルス株として、A型インフルエンザウイルスPR/8/34(A/PR/8)(ソ連型)の代わりに、B型Singapore/222株(B/Singapore)を用いた以外は実施例1と同様にして抗ウイルス活性の評価を行った。その結果を図6に合わせて示す。なお、図6には記載されていないが、15分後には「生き残りウイルス量」が全ての濃度で500PFU/mL未満となった。
【0053】
比較例1
実施例1において、貝殻の微細焼成粉砕物Aの「0.075質量%試験溶液」の代わりに、微細粉砕を施していない貝殻の焼成粉砕物aの0.075質量%試験溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして抗ウイルス活性の評価を行った。その結果を図7に示す。
【0054】
比較例2
比較例1において、混合後1分混合液を採取したことに代えて、30秒後、5分後及び10分後にもウイルス液と試験溶液の混合液を採取して、比較例1と同様にして抗ウイルス活性の評価を行った。その結果を、実施例1、実施例3の微細焼成粉砕物Aの「0.075質量%試験溶液」での結果と合わせて、図7に合わせて示す。
【0055】
比較例3
比較例1及び比較例2において、ウイルス株として、A型インフルエンザウイルスPR/8/34(A/PR/8)(ソ連型)の代わりに、B型Singapore/222株(B/Singapore)を用いた以外は、比較例1及び比較例2と同様にして、抗ウイルス活性の評価を行った。その結果を図8に合わせて示す。
【0056】
図5及び図6の結果から明らかなように、本発明の貝殻の微細焼成粉砕物Aを用いたもの(実施例1ないし実施例6)では、ウイルスに対して感染力を減弱させる性質を有していた。特に、A型インフルエンザウイルスPR/8/34(A/PR/8)(ソ連型)に対しては、より即効的に作用して、ウイルスの感染力を消失させることが明らかになった。
【0057】
一方、本発明の微細焼成粉砕物Aではなく、焼成粉砕物aを含有するもの(比較例1ないし比較例3)では、実施例と比較して何れも抗ウイルス活性が低かった。例えば、図7に示すように、0.075質量%試験溶液、A型インフルエンザウイルスPR/8/34(A/PR/8)(ソ連型)について、生残ウイルス量を対照と比較すると、微細焼成粉砕物Aは、30秒間で既に約3000分の1まで低下したのに対して、焼成粉砕物aは30秒間で約10分の1までしか低下しなかった。また、0.075質量%試験溶液、B型Singapore/222株(B/Singapore)についても同様に生残ウイルス量を対照と比較すると、微細焼成粉砕物Aは、30秒間で既に約400分の1に低下したのに対して、焼成粉砕物aは30秒間で約50分の1までしか低下しなかった(図8)。
【0058】
このことは、微細粉末である微細焼成粉砕物Aの平均粒径が焼成粉砕物aに比べて小さいこと、比表面積が焼成粉砕物aに比べて大きいことが、抗ウイルス活性に大きく寄与することを示すものであり、抗ウイルス活性を得るには、焼成粉砕物aではなく、より微細粉末である微細焼成粉砕物Aであることが必須であることが分かった。なお、焼成粉砕物aのカルシウム含量は、微細焼成粉砕物Aのその含量の約1/2と低かったことも抗ウイルス活性が弱い一つの原因であると考えられる。
【0059】
実施例5
実施例1に記載の製造方法と同様にして、微細焼成粉砕物Aを得た。その微細焼成粉砕物Aを、減菌生理食塩水(0.9質量%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液)で希釈して、0.1質量%、0.4質量%、1質量%試験溶液を調製した。この各試験溶液を3種の濃度の違うインフルエンザウイルスに感染させた各グループのマウス各10匹にそれぞれ注入し、感染させるために4時間放置し、マウスの発病や死亡を21日間毎日観察した。
【0060】
比較例4
実施例5において、試験溶液をマウスに注入しなかった以外は、実施例5と同様にしてマウスの発病や死亡を21日間毎日観察した。
【0061】
参考例1
実施例5において、5質量%試験溶液を用いた以外は、実施例5と同様にしてマウスの発病や死亡を21日間毎日観察した。
【0062】
その結果、0.1質量%、0.4質量%、1質量%試験溶液を与えたマウス(実施例5)は、何も与えていないマウス(比較例4)と比較して、明らかに死亡率も発病率も減少した。このことから、本発明の微細焼成粉砕物Aを含有した試験溶液がマウスの体内に存在するインフルエンザウイルスの感染力を弱める又は殺す作用があることが分かった。
【0063】
なお、5質量%試験溶液を与えたマウス(参考例1)は、何も与えていないマウス(比較例5)と比較すると、21日後に死亡率、発病率が増加していた。この結果から、5質量%試験溶液はマウスには多すぎる摂取量であったことが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の貝殻の微細焼成粉砕物Aを用いた抗ウイルス剤は、ウイルスに対して感染力を減弱させる作用に優れているため、抗ウイルス剤をはじめ、抗ウイルス剤を含有するフィルター、飼料等の抗ウイルス材として広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】焼成粉砕物aの体積粒径分布を示す図である。
【図2】焼成粉砕物aの個数粒径分布を示す図である。
【図3】本発明の抗ウイルス剤に含有される微細焼成粉砕物Aの体積粒径分布を示す図である。
【図4】本発明の抗ウイルス剤に含有される微細焼成粉砕物Aの個数粒径分布を示す図である。
【図5】本発明の抗ウイルス剤に含有される微細焼成粉砕物Aの抗ウイルス活性(A型インフルエンザウイルスPR/8/34(A/PR/8)(ソ連型))の試験結果を示す図である。
【図6】本発明の抗ウイルス剤に含有される微細焼成粉砕物Aの抗ウイルス活性(B型Singapore/222株(B/Singapore)の試験結果を示す図である。
【図7】本発明の抗ウイルス剤に含有される微細焼成粉砕物A、及び焼成粉砕物aの抗ウイルス活性(A型インフルエンザウイルスPR/8/34(A/PR/8)(ソ連型))の試験結果を示す図である。
【図8】本発明の抗ウイルス剤に含有される微細焼成粉砕物A、及び焼成粉砕物aの抗ウイルス活性(B型Singapore/222株(B/Singapore)の試験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻又は貝殻を荒潰ししたものを焼成及び粉砕して得られる微細焼成粉砕物を含有することを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
該微細焼成粉砕物の体積平均粒径が15μm以下である請求項1記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
該微細焼成粉砕物の体積平均粒径が0.1μm〜10μmの範囲である請求項1又は請求項2記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
該微細焼成粉砕物の比表面積が、0.4m/cm以上である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
該貝殻が、ホタテガイの貝殻である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
該粉砕が、湿式ビーズミル粉砕を含むものである請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
該焼成の温度が700℃〜1500℃の範囲である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項記載の抗ウイルス剤。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れかの請求項記載の抗ウイルス剤を含有することを特徴とする抗ウイルス材。
【請求項9】
該抗ウイルス材が、飼料、フィルター、マスク、接着剤、拭き材、消臭材、キッチン用部材、薬剤、布又は壁材である請求項8記載の抗ウイルス材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−179555(P2008−179555A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13596(P2007−13596)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(507025434)東京ナノ・バイオテクノロジー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】