説明

負極および二次電池

【課題】高いサイクル特性を有する二次電池を提供する。
【解決手段】正極と負極とセパレータとの積層構造を有する巻回電極体が電池缶に収容されている。負極は、負極集電体101の上に、層状の第1の領域102Aと第2の領域102Bとを順に有する負極活物質層102が設けられたものである。第1および第2の領域102A,102Bは、いずれも、負極活物質としてケイ素を含む。第1の領域102Aは、ケイ素と共に炭素を必ず含んでおり、第1の領域102Aに含まれる炭素の少なくとも一部がSi−C結合を構成して存在している。これにより、負極集電体101に対する負極活物質層102の密着力が向上すると共に、負極活物質層102が物理的に強固なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成元素としてケイ素(Si)を含む負極活物質を含有する負極およびそれを備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(Videotape Recorder;ビデオテープレコーダ),デジタルスチルカメラ,携帯電話,携帯情報端末あるいはノート型パソコンなどのポータブル電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。それに伴い、これらの電子機器の電源として、軽量で高エネルギー密度を得ることができる二次電池の開発が進められている。中でも、負極に炭素材料を用い、正極にリチウム(Li)と遷移金属との複合材料を用い、電解液に炭酸エステルを用いたリチウムイオン二次電池は、従来の鉛電池およびニッケルカドミウム電池と比べて、大きなエネルギー密度を得ることができるので広く実用化されている。
【0003】
また、最近では、携帯用電子機器の高性能化に伴い、さらなる容量の向上が求められており、負極活物質として、炭素材料に代えてスズあるいはケイ素などを用いることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。スズの理論容量は994mAh/g、ケイ素の理論容量は4199mAh/gと、黒鉛の理論容量の372mAh/gに比べて格段に大きく、容量の向上を期待できるからである。
【0004】
しかし、リチウムを吸蔵したスズ合金あるいはケイ素合金は活性が高いので、電解液が分解されやすく、また、リチウムが不活性化されやすいという問題もあった。そのため、充放電を繰り返すと充放電効率が低下してしまい、十分な充放電サイクル特性を得ることができなかった。
【0005】
そこで、負極活物質の表面に不活性な層を形成することが検討されており、例えば、負極活物質の表面に酸化ケイ素の被膜を形成することが提案されている(特許文献2および特許文献3参照)。
【0006】
また、スズあるいはケイ素などを含む負極活物質は、充放電の繰り返しにより黒鉛などの炭素材料からなる場合よりも大きな膨張収縮を伴う。このため、負極活物質自体の崩壊や負極集電体からの剥離などにより、充放電サイクル特性の劣化を招くこともあった。
【0007】
そのような問題に対し、集電体と活物質層との間に、活物質層と合金化する材料からなる中間層を設けるようにした構造や、集電体上に、集電体との界面近傍に集電体成分が拡散した活物質層を設けるようにした構造を採用し、活物質層と集電体との密着性を高め、充放電サイクル特性の向上を図るようにした技術が提案されている(例えば特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4950566号明細書
【特許文献2】特開2004−171874号公報
【特許文献3】特開2004−319469号公報
【特許文献4】特許第3702224号
【特許文献5】特許第3733071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2,3のように酸化ケイ素の被膜を設ける場合、その厚みを大きくすると反応抵抗が増大し、サイクル特性が不十分となる。よって、活性の高い負極活物質の表面に酸化ケイ素からなる被膜を形成する方法では、十分なサイクル特性を得ることが困難であり、さらなる改善が望まれていた。
【0010】
また、特許文献4では、活物質層の形成過程において活物質層の形成温度が高くなりすぎると過剰量の集電体成分が活物質層内へ拡散し、集電体成分と活物質の構成元素との金属間化合物が形成されやすくなる。このような金属間化合物が形成されると、活物質として作用する成分の割合が減少し、活物質層の充放電容量が低下してしまう。さらに、金属間化合物の形成により、集電体と活物質層との密着性も悪くなってしまう。
【0011】
また、特許文献5では、比較的良好な充放電サイクル特性が得られるものの、さらなる特性改善が望まれる。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、充放電サイクル特性を向上させることができる負極およびこの負極を用いた二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の負極は、負極集電体に、負極活物質としてケイ素を含む負極活物質層が設けられたものであり、負極活物質層が、厚み方向において負極集電体と接する側に、ケイ素と共に炭素を含む接続領域を有し、その接続領域に含まれる炭素の少なくとも一部がSi−C結合を構成するようにしたものである。
【0014】
本発明の二次電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極として上記本発明の負極を用いるようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の負極によれば、負極活物質層において、負極集電体と接する側に位置する接続領域に含まれる炭素の少なくとも一部がSi−C結合を構成するようにしたので、負極集電体に対する負極活物質層の密着力を向上させることができる。また、負極活物質層が物理的に強固なものとなる。このため、この負極を本発明の二次電池などの電気化学デバイスに用いた場合に、優れたサイクル特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る負極の構成を表す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る負極を用いた第1の二次電池の構成を表す断面図である。
【図3】図2に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る負極を用いた第2の電池の構成を表す分解斜視図である。
【図5】図4に示した巻回電極体のV−V切断線に沿った構成を表す断面図である。
【図6】図5に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る負極を用いた第3の電池の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した巻回電極体のXIII−XIII切断線に沿った構成を表す断面図である。
【図9】実施例としてのコイン型の二次電池の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.負極
2.負極を用いた電気化学デバイス(二次電池)
2−1.第1の二次電池(円筒型)
2−2.第2の二次電池(ラミネートフィルム型)
2−3.第3の二次電池(角型)
【0018】
<1.負極>
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極の断面構成を表している。この負極は、例えば電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、対向する一対の面を有する負極集電体101と、その負極集電体101に設けられた負極活物質層102とを有している。負極活物質層102は、負極集電体101の両面に設けられていてもよいし、片面に設けられていてもよい。
【0019】
負極集電体101は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する材料により構成されているのが好ましい。この材料としては、例えば、銅(Cu),ニッケル(Ni)あるいはステンレス鋼などの金属材料が挙げられる。中でも、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
【0020】
負極活物質層102は、負極集電体101の側から順に、第1の領域102Aと第2の領域102Bとを有している。第1の領域102Aは、負極集電体22Aとの界面を形成し、負極集電体22Aと密着している。第1および第2の領域102A,102Bは、それぞれ層状をなしている。第1および第2の領域102A,102Bは、いずれも、負極活物質として電極反応物質を吸蔵および放出することが可能なケイ素(Si)を含む負極材料を含有しており、必要に応じて導電剤あるいは結着剤などを含んでいてもよい。ケイ素はリチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができる。
【0021】
ケイ素を含む材料(ケイ素含有材料)は、ケイ素の単体、合金あるいは化合物でもよいし、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に含むものでもよい。ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の構成元素としてスズ、ニッケル、銅、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛、インジウム、銀、チタン(Ti)、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)あるいはクロム(Cr)のうちの少なくとも1種を含むものなどが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、酸素(O)あるいは炭素(C)を含むものなどが挙げられる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金について説明した一連の元素のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、以下のものなどが挙げられる。SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 あるいはTaSi2 である。VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)、SnOw (0<w≦2)あるいはLiSiOである。
【0022】
負極活物質層102のうち、第1の領域102Aは、ケイ素と共に炭素(C)を必ず含んでおり、第1の領域102Aに含まれる炭素の少なくとも一部がSi−C結合を構成して存在している。なお、第2の領域102Bにも炭素が含まれていてもよいが、第1の領域102Aのほうが第2の領域102Bよりも多くの炭素がSi−C結合を形成していることが望ましい。容量が大幅に低下することなく、負極集電体101との密着性がより向上するからである。第1の領域102Aでは、ケイ素に対する炭素の割合が、例えば原子数比で0.0001以上0.2以下(0.01原子%以上20原子%)であるとよい。
【0023】
第1の領域102Aは、負極集電体101から拡散した銅やニッケルなどの負極集電体101の構成元素をさらに含んでいるとよい。負極活物質層102と負極集電体101との密着性がより向上するからである。負極集電体101が銅からなる場合、第1の領域102Aにおいてケイ素に対する銅の割合(Cu/Si)が原子数比で0.2以上1以下であると、負極活物質層102と負極集電体101との密着性がよりいっそう向上するので特に好ましい。ケイ素に対する銅の割合が0.2以上であれば、銅とケイ素との金属的な結合(Si−Cu結合)が形成され、負極活物質層102と負極集電体101との界面における結合強度が向上する。一方、ケイ素に対する銅の割合が1よりも大きくなると、脆性の高い化合物Cu3 Siの生成が顕著となり、この化合物Cu3 Siを起点とする負極活物質層102と負極集電体101との剥離が発生しやすくなる。こうした理由から、ケイ素に対する銅の割合を1以下とし、Si−C結合の形成を促すことで、化合物Cu3 Siの原因となる必要以上のSi−Cu結合の生成を抑制することが望ましい。
【0024】
第1の領域102Aは、クロム(Cr),鉄(Fe),ニッケル(Ni),亜鉛(Zn),チタン(Ti)およびコバルト(Co)のうちの少なくとも1種の元素をさらに含み、第1の領域102Aに含まれる炭素の一部がX−C結合(Xは、Cr,Fe,Ni,Zn,TiまたはCoを表す)を構成して存在するとよい。負極活物質層102と負極集電体101との密着性がより向上するからである。その場合、第1の領域102Aにおける炭素のうちSi−C結合およびX−C結合を構成するものの割合が全体の20原子%以上であると、負極活物質層102と負極集電体101との密着性がよりいっそう向上するので特に好ましい。
【0025】
負極活物質層102の第1の領域102Aにおける炭素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。ここでは、まず、アルゴン(Ar)イオンによるエッチング処理により負極活物質層102を、その表面から深さ方向に掘削し、銅、ケイ素および炭素を含む第1の領域102Aを露出させる。次いで、第1の領域102AについてX線光電子分光法によりSi−C結合およびSi−Si結合の同定を行い、Si−C結合によるピーク強度とSi−Si結合によるピーク強度との比率から、第1の領域102Aに含まれるケイ素のうち、Si−C結合を構成するものとして存在する割合を求めることができる。具体的には、例えばケイ素と結合した炭素の1s軌道(C1s)ピークのSi−C結合成分と、ケイ素の2p軌道(Si2p)ピークとの強度比により、第1の領域102Aに含まれるケイ素のうちSi−C結合を構成するものとして存在する割合を求めることができる。なお、炭化ケイ素化合物は、Si:C=1:1の組成比を有する化合物(SiC)のみ存在するので、Si−C結合を持つ炭素(C)の量は、Si−C結合をもつケイ素(Si)の量に等しいということができる。全体の炭素量に対するSi−C結合の割合については、X線光電子分光法により第1の領域102Aのうち深さ方向において異なる複数箇所のスペクトルを測定し、Si−C結合によるピーク強度とC−C結合によるピーク強度との比率を各スペクトルに対して求め、その合算値の平均を算出することにより求めることができる。また、X−C結合についてもX線光電子分光法を用いて求めることができる。例えば炭素の1s軌道(C1s)ピークを分離し、そのうちのSi−C結合成分およびC−C結合成分を除いた成分をX−C結合成分とみなすことができる。
【0026】
負極活物質層102を構成する第1および第2の領域102A,102Bは、それぞれ、単層構造であってもよいし多層構造であってもよい。多層構造とする場合、互いに酸素含有率の異なる第1および第2の層が交互に複数積層されたものとするとよい。二次電池などの電気化学デバイスに用いた場合に、より高いサイクル特性を得るのに好適であるからである。さらに、製造する際には、負極活物質層102を数度にわけて形成するため、各層間の酸化の程度を調整するなど、一度の成膜では制御しにくい酸素含有量の調整が容易になる。加えて、負極活物質層102中の酸素含有量が多い場合は負極集電体101に形成した負極活物質の応力が大きいものとなりがちであるが、このように数度にわけて形成することで負極活物質の応力緩和がなされるため、所望の組成において取り扱い性の良い負極の製造が可能となる。
【0027】
第1および第2の領域102A,102Bは、さらに、負極活物質として電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な他の負極材料を1種または2種以上含んでいてもよい。ここでいう他の負極材料としては、例えば、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料が挙げられる。この他の負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またはそれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、ここでいう合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、ここでの合金は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0028】
この他の負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、電極反応物質と合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg),ホウ素(B),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In),ゲルマニウム(Ge),スズ(Sn),鉛(Pb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),銀(Ag),亜鉛(Zn),ハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y),パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。
【0029】
このような構成の負極活物質層102は、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法あるいは焼成法(焼結法)、またはそれらのうちの2種以上の方法により形成される。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を負極結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。気相法の一例としては、物理堆積法あるいは化学堆積法などが挙げられる。具体的には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(CVD:chemical vapor deposition )法あるいはプラズマ化学気相成長法などである。液相法の一例としては、電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などが挙げられる。溶射法とは、負極活物質を溶融状態あるいは半溶融状態で噴き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順で塗布したのち、負極結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法については、公知の手法を用いることができる。一例としては、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法などが挙げられる。中でも、負極活物質層2は、気相法により形成されていることが好ましい。負極集電体1に対して負極活物質層2が連結されるため、その負極活物質層2の密性が高くなるからである。また、負極活物質層102のうち第1の領域102Aについては、イオン注入法を用いて負極集電体101の表面を変質させることより形成してもよい。その場合、例えば負極集電体101の表面を研磨したのち、イオン源から引き出したケイ素イオンおよび炭素イオンを加速して負極集電体101の表面に打ち込むようにする。
【0030】
[負極の製造方法]
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。
【0031】
最初に、電解銅箔などからなる負極集電体101を用意し、必要に応じてその表面に粗面化処理を施す。続いて、イオン注入法や気相法、あるいは焼成法などを用いて負極集電体101の表面に第1の領域102Aを形成したのち、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法あるいは焼成法(焼結法)などを用いて第1の領域102Aを覆うように第2の領域102Bを形成することにより、負極活物質層102を形成する。これにより、負極が完成する。
【0032】
[本実施の形態の作用および効果]
本実施の形態の負極では、負極活物質層102のうち、負極集電体101と接する側に位置する第1の領域102Aに含まれる炭素の少なくとも一部がSi−C結合を構成している。このため、負極集電体101に対する負極活物質層102の密着力を向上させることができる。そのうえ、負極活物質層102が物理的に強固なものとなる。したがって、この負極を二次電池などの電気化学デバイスに用いた場合に、優れたサイクル特性をもたらすことが可能となる。
【0033】
特に、第1の領域102Aが、元素X(クロム,鉄,ニッケル,亜鉛,チタンおよびコバルトのうちの少なくとも1種の元素)をさらに含み、第1の領域102Aに含まれる炭素の一部がX−C結合を構成するようにすれば、より優れたサイクル特性が得られる。
【0034】
<2.負極を用いた電気化学デバイス(二次電池)>
次に、上記した負極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として二次電池を例に挙げると、上記の負極は、以下のようにして用いられる。
【0035】
<2−1.第1の二次電池(円筒型)>
図8および図9は、第1の二次電池の断面構成を表しており、図9では、図8に示した巻回電極体40を拡大している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムイオンの吸蔵および放出により表されるリチウムイオン二次電池である。
【0036】
[第1の二次電池の全体構成]
【0037】
(第1の二次電池)
図2および図3は第1の二次電池の断面構成を表しており、図3では図2に示した巻回電極体120の一部を拡大して示している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極122の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
【0038】
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶111の内部に、セパレータ123を介して正極121と負極122とが巻回された巻回電極体120と、一対の絶縁板112,113とが収納されたものである。この電池缶111を含む電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0039】
電池缶111は、例えば、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料によって構成されており、その一端部は閉鎖されていると共に他端部は開放されている。一対の絶縁板112,113は、巻回電極体120を挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0040】
電池缶111の開放端部には、電池蓋114と、その内側に設けられた安全弁機構115および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)116とがガスケット117を介してかしめられて取り付けられている。これにより、電池缶111の内部は密閉されている。電池蓋114は、例えば、電池缶111と同様の材料によって構成されている。安全弁機構115は、熱感抵抗素子116を介して電池蓋114と電気的に接続されている。この安全弁機構115では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板115Aが反転して電池蓋114と巻回電極体120との間の電気的接続が切断されるようになっている。熱感抵抗素子116は、温度の上昇に応じた抵抗の増大によって電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット117は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0041】
巻回電極体120の中心には、センターピン124が挿入されていてもよい。この巻回電極体120では、アルミニウムなどの金属材料によって構成された正極リード125が正極121に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料によって構成された負極リード126が負極122に接続されている。正極リード125は、安全弁機構115に溶接されて電池蓋114と電気的に接続されており、負極リード126は、電池缶111に溶接されて電気的に接続されている。
【0042】
[正極]
正極121は、例えば、一対の面を有する正極集電体121Aの両面に正極活物質層121Bが設けられたものである。この正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケル、あるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。なお、正極活物質層121Bは、正極活物質を含んでおり、必要に応じて結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0043】
正極活物質は、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特に、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、二次電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0044】
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni(1-z) Coz 2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw 2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe(1-u) Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
【0045】
この他、正極材料としては、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物あるいは導電性高分子などが挙げられる。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどである。
【0046】
もちろん、正極材料は、上記以外のものでもよい。また、上記した一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0047】
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0048】
正極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などでもよい。
【0049】
[負極]
負極122は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体122Aの両面に負極活物質層122Bが設けられたものである。負極集電体122Aおよび負極活物質層122Bの構成は、それぞれ上記した負極における負極集電体101および負極活物質層102の構成と同様である。この負極122では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量が正極121の充電容量よりも大きくなっているのが好ましい。満充電時においても、負極122にリチウムがデンドライトとなって析出する可能性が低くなるからである。
【0050】
[セパレータ]
セパレータ123は、正極121と負極122とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡(ショート)を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ123は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などによって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、ショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による二次電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下でシャットダウン効果を得ることができると共に、電気化学的安定性が優れているので好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であれば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたものや、ブレンド化したものであってもよい。
【0051】
[電解液]
このセパレータ123には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0052】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。以下で説明する一連の溶媒(非水溶媒)は、単独でもよいし、2種以上混合されてもよい。
【0053】
非水溶媒としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタンあるいはテトラヒドロフランである。2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサンあるいは1,4−ジオキサンである。酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルあるいはトリメチル酢酸エチルである。アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノンあるいはN−メチルオキサゾリジノンである。N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルあるいはジメチルスルホキシドである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0054】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0055】
特に、溶媒は、ハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。充放電時において負極122の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。なお、ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として含む鎖状炭酸エステルであり、詳細には、鎖状炭酸エステルのうちの少なくとも一部の水素がハロゲンにより置換されたものである。また、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として含む環状炭酸エステルであり、詳細には、環状炭酸エステルのうちの少なくとも一部の水素がハロゲンにより置換されたものである。
【0056】
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素、塩素あるいは臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0057】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。このハロゲン化環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%以上50重量%以下である。
【0058】
また、溶媒は、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時において負極42の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。なお、不飽和炭素結合環状炭酸エステルとは、不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルであり、詳細には、環状炭酸エステルのうちのいずれかの箇所に不飽和炭素結合が導入されたものである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%以上10重量%以下である。
【0059】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられる。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0060】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物あるいはカルボン酸スルホン酸無水物などが挙げられる。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などである。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0061】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでいる。以下で説明する一連の電解質塩は、単独でもよいし、2種以上混合されてもよい。
【0062】
リチウム塩としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )あるいは六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )である。テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 5 4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )あるいはテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )である。六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)あるいは臭化リチウム(LiBr)である。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0063】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種が好ましい。また、六フッ化リン酸リチウムおよび四フッ化ホウ酸リチウムがより好ましく、六フッ化リン酸リチウムがさらに好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0064】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0065】
なお、電解液は、溶媒および電解質塩と共に、各種の添加剤を含んでいてもよい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。
【0066】
この添加剤としては、例えば、スルトン(環状スルホン酸エステル)が挙げられる。このスルトンは、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどであり、中でも、プロペンスルトンが好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0067】
また、添加剤としては、例えば、酸無水物が挙げられる。この酸無水物は、例えば、コハク酸無水物、グルタル酸無水物あるいはマレイン酸無水物などのカルボン酸無水物や、エタンジスルホン酸無水物あるいはプロパンジスルホン酸無水物などのジスルホン酸無水物や、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物あるいはスルホ酪酸無水物などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などであり、中でも、スルホ安息香酸無水物あるいはスルホプロピオン酸無水物が好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0068】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0069】
まず、正極121を作製する。最初に、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、正極集電体121Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて正極活物質層121Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層121Bを圧縮成型する。この場合には、複数回に渡って圧縮成型を繰り返してもよい。
【0070】
次に、上記した負極と同様の手順により、負極122を作製する。この場合には、負極集電体122Aを準備したのち、その負極集電体122Aの両面に第1および第2の領域を順次形成することにより負極活物質層122Bを作製する。
【0071】
最後に、正極121および負極122を用いて二次電池を組み立てる。最初に、正極集電体121Aに正極リード125を溶接などして取り付けると共に、負極集電体122Aに負極リード126を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ123を介して正極121と負極122とを積層および巻回させて巻回電極体120を作製したのち、その巻回中心にセンターピン124を挿入する。続いて、一対の絶縁板112,113で挟みながら巻回電極体120を電池缶111の内部に収納する。この場合には、正極リード125を安全弁機構115に溶接などして取り付けると共に、負極リード126を電池缶111に溶接などして取り付ける。続いて、電池缶111の内部に電解液を注入してセパレータ123に含浸させる。最後に、ガスケット117を介して電池缶111の開口端部に電池蓋114、安全弁機構115および熱感抵抗素子116をかしめる。これにより、図2および図3に示した二次電池が完成する。
【0072】
[二次電池の動作]
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極121からリチウムイオンが放出され、セパレータ123に含浸された電解液を介して負極122に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極122からリチウムイオンが放出され、セパレータ123に含浸された電解液を介して正極121に吸蔵される。
【0073】
[二次電池の効果]
この第1の二次電池によれば、負極122が図1に示した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。この第1の二次電池に関する他の効果は、上記した負極と同様である。
【0074】
<2−2.第2の二次電池(ラミネートフィルム型)>
図4は、第2の二次電池の分解斜視構成を表しており、図5は、図4に示した巻回電極体130のV−V線に沿った断面を拡大して示している。
【0075】
この二次電池は、例えば、第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材140の内部に、正極リード131および負極リード132が取り付けられた巻回電極体130が収納されたものである。このような外装部材140を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0076】
正極リード131および負極リード132は、例えば、いずれも外装部材140の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。ただし、巻回電極体130に対する正極リード131および負極リード132の設置位置や、それらの導出方向などは、特に限定されない。正極リード131は、例えば、アルミニウムなどにより構成されており、負極リード132は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。これらの材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0077】
外装部材140は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。この場合には、例えば、融着層が巻回電極体130と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外縁部同士が融着、あるいは接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、アルミニウム箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンあるいはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0078】
中でも、外装部材140としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材140は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムでもよい。
【0079】
外装部材140と正極リード131および負極リード132との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム141が挿入されている。この密着フィルム141は、正極リード131および負極リード132に対して密着性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0080】
巻回電極体130は、図5に示したように、セパレータ135および電解質層1366を介して正極133と負極134とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、保護テープ137により保護されている。正極133は、例えば、正極集電体133Aの両面に正極活物質層133Bが設けられたものである。負極134は、例えば、負極集電体134Aの両面に負極活物質層134Bが設けられたものである。
【0081】
図6は、図5に示した巻回電極体130の一部を拡大して表している。正極133は、例えば、一対の面を有する正極集電体133Aの両面に正極活物質層133Bが設けられたものである。負極134は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体134Aの両面に負極活物質層134Bが設けられたものである。正極集電体133A、正極活物質層133B、負極集電体134A、負極活物質層134Bおよびセパレータ135の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体121A、正極活物質層121B、負極集電体122A、負極活物質層122Bおよびセパレータ123の構成と同様である。
【0082】
電解質層136は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、必要に応じて、各種添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層136は、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電解液の漏液が防止されるので好ましい。
【0083】
高分子化合物としては、例えば、以下の高分子材料うちの少なくとも1種などが挙げられる。ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサンあるいはポリフッ化ビニルである。ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートである。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体である。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリフッ化ビニリデン、あるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0084】
電解液の組成は、第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層136において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0085】
なお、高分子化合物により電解液が保持されたゲル状の電解質層136に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、セパレータ135に電解液が含浸される。
【0086】
このゲル状の電解質層136を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0087】
第1の製造方法では、最初に、第1の二次電池における正極121および負極122と同様の手順により、正極133および負極134を作製する。具体的には、正極集電体133Aの両面に正極活物質層133Bを形成して正極133を作製すると共に、負極集電体134Aの両面に負極活物質層134Bを形成して負極134を作製する。続いて、電解液、高分子化合物および溶剤を含む前駆溶液を調製して正極133および負極134に塗布したのち、その溶剤を揮発させてゲル状の電解質層136を形成する。続いて、正極集電体133Aに正極リード131を溶接などして取り付けると共に、負極集電体134Aに負極リード132を溶接などして取り付ける。続いて、電解質層136が形成された正極133と負極134とをセパレータ135を介して積層および巻回したのち、その最外周部に保護テープ137を接着させて巻回電極体130を作製する。最後に、2枚のフィルム状の外装部材140の間に巻回電極体130を挟み込んだのち、その外装部材140の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体130を封入する。この際、正極リード131および負極リード132と外装部材140との間に、密着フィルム141を挿入する。これにより、図4〜図6に示した二次電池が完成する。
【0088】
第2の製造方法では、最初に、正極133に正極リード131を取り付けると共に、負極134に負極リード132を取り付ける。続いて、セパレータ135を介して正極133と負極134とを積層して巻回させたのち、その最外周部に保護テープ137を接着させて巻回電極体130の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材140の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材140の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材140の内部に注入したのち、その外装部材140の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質層136を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0089】
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ135を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材140の内部に収納する。このセパレータ135に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体、あるいは多元共重合体など)が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材140の内部に注入したのち、その外装部材140の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材140に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ135を正極133および負極134に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質層136が形成されるため、二次電池が完成する。
【0090】
この第3の製造方法では、第1の製造方法よりも二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法よりも高分子化合物の原料であるモノマーあるいは溶媒などが電解質層136中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極133、負極134およびセパレータ135と電解質層136との間において十分な密着性が得られる。
【0091】
この二次電池では、充電時において、例えば、正極133からリチウムイオンが放出され、電解質層136を介して負極134に吸蔵される。一方、放電時において、例えば、負極134からリチウムイオンが放出され、電解質層136を介して正極133に吸蔵される。
【0092】
この第2の二次電池によれば、負極134が図1に示した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。この第2の二次電池に関する他の効果は、上記した第1の二次電池と同様である。
【0093】
<2−3.第3の二次電池(角型)>
図7および図8は、第3の二次電池の断面構成を表している。図7に示された断面と図8に示された断面とは、互いに直交する位置関係にある。すなわち、図8は、図7に示したXIII−XIII線に沿った矢視方向における断面図である。この二次電池は、いわゆる角型といわれるものであり、ほぼ中空直方体形状をなす外装缶151の内部に、偏平形状の巻回電極体160を収容したリチウムイオン二次電池である。
【0094】
外装缶151は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、負極端子としての機能も有している。この外装缶151は、一端部が閉鎖され他端部が開放されており、開放端部に絶縁板152および電池蓋153が取り付けられることにより外装缶151の内部が密閉されている。絶縁板152は、ポリプロピレンなどにより構成され、巻回電極体160の上に巻回周面に対して垂直に配置されている。電池蓋153は、例えば、外装缶151と同様の材料により構成され、外装缶151と共に負極端子としての機能も有している。電池蓋153の外側には、正極端子となる端子板154が配置されている。また、電池蓋153の中央付近には貫通孔が設けられ、この貫通孔に、端子板154に電気的に接続された正極ピン155が挿入されている。端子板154と電池蓋153との間は絶縁ケース156により電気的に絶縁され、正極ピン155と電池蓋153との間はガスケット157により電気的に絶縁されている。絶縁ケース156は、例えばポリブチレンテレフタレートにより構成されている。ガスケット157は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0095】
電池蓋153の周縁付近には開裂弁158および電解液注入孔159が設けられている。開裂弁158は、電池蓋153と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合に開裂して内圧の上昇を抑えるようになっている。電解液注入孔159は、例えばステンレス鋼球よりなる封止部材159Aにより塞がれている。
【0096】
巻回電極体160は、正極161と負極162とが、セパレータ163を間にして積層されて渦巻き状に巻回されたものであり、外装缶151の形状に合わせて偏平な形状に成形されている。巻回電極体160の最外周にはセパレータ163が位置しており、そのすぐ内側には正極161が位置している。図8では、正極161および負極162の積層構造を簡略化して示している。また、巻回電極体160の巻回数は、図7および図8に示したものに限定されず、任意に設定可能である。巻回電極体160の正極161にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード164が接続されており、負極162にはニッケルなどよりなる負極リード165が接続されている。正極リード164は正極ピン155の下端に溶接されることにより端子板154と電気的に接続されており、負極リード165は外装缶151に溶接され電気的に接続されている。
【0097】
図7に示したように、正極161は、正極集電体161Aの一方の面または両面に正極活物質層161Bが設けられたものであり、負極162は、負極集電体162Aの一方の面または両面に負極活物質層162Bが設けられたものである。正極集電体161A、正極活物質層161B、負極集電体162A、負極活物質層162Bおよびセパレータ163の構成は、それぞれ上記した第1の電池における正極集電体121A、正極活物質層121B、負極集電体122A、負極活物質層122Bおよびセパレータ123の構成と同様である。セパレータ163には、セパレータ123と同様の電解液が含浸されている。
【0098】
この二次電池は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0099】
上記した第1の電池と同様に、正極161および負極162を、セパレータ163を介して巻回させることにより巻回電極体160を形成したのち、その巻回体160を外装缶151の内部に収容する。次いで、巻回電極体160の上に絶縁板152を配置し、負極リード165を外装缶151に溶接すると共に、正極リード164を正極ピン155の下端に溶接して、外装缶151の開放端部に電池蓋153をレーザ溶接により固定する。最後に、電解液を電解液注入孔159から外装缶151の内部に注入し、セパレータ163に含浸させ、電解液注入孔159を封止部材159Aで塞ぐ。これにより、図7および図8に示した二次電池が完成する。
【0100】
この二次電池によれば、負極162が上記した図1に示した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。
【実施例】
【0101】
本発明の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0102】
(実験例1−1)
以下の手順により、図9に示したコイン型の二次電池を作製した。この際、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出により表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
【0103】
まず、正極171を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中で900℃×5時間焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(メジアン径=5μm)96質量部と、正極導電剤としてカーボンブラック1質量部と、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤とした。続いて、正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて、アルミニウム箔(厚さ=15μm)からなる正極集電体171Aの一面に正極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて正極活物質層171Bを形成した。続いて、ロールプレス機を用いて正極活物質層171Bを圧縮成型した。最後に、正極活物質層171Bが形成された正極集電体171Aを直径15mmのペレット状(円形状)に打ち抜いた。
【0104】
次に、負極172を作製した。最初に、負極集電体172Aとして電解銅箔(厚さ=25μm)を準備し、その表面をダイヤモンド粒によって研磨したのち、アセトンで洗浄してイオン注入装置のチャンバ内に載置した。続いて、イオン注入法により、研磨された負極集電体172Aの表面にSiイオンおよびCイオンを注入し、銅、ケイ素、および炭素からなる第1の領域172B1としての拡散層を形成した。イオン源としてはセシウムスパッタ型を用い、イオン生成物質としてケイ素粉末およびグラファイト粉末を用いた。また、ここではSiイオンを注入したのち、Cイオンを注入するようにした。さらに、注入を行う際のエネルギーについては、SiイオンおよびCイオンが互いに等しい深さに到達するように調整し、負極集電体172Aの表面を変質させて厚さ1μmの拡散層(第1の領域172B1)を形成するようにした。さらに、電子線蒸着法を用い、第1の領域172B1を覆うように負極材料としてケイ素を堆積させて厚さ6μmの第2の領域172B2を形成することにより負極活物質層172Bを得た。その際、蒸着源として表面が窒化硼素(BN)の被膜によって覆われた坩堝に入れた単結晶シリコンを用い、これを電子線で加熱して蒸発させることで第2の領域172B2に炭素が混入しないようにした。このようにして作製した負極172の断面をクロスセクションポリッシャーで切り出し、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて観察および元素分析を行ったところ、負極集電体172Aと第2の領域172B2との間に、銅、ケイ素、および炭素からなる第1の領域172B1の存在が確認された。最後に、負極活物質層172Bが形成された負極集電体172Aを直径16mmのペレット状に打ち抜いた。
【0105】
次に、電解液を調製した。最初に、溶媒として、炭酸エチレン(EC)と、炭酸ビニレン(VC)と、炭酸ジエチル(DEC)とを混合した。この場合には、溶媒の組成(EC:VC:DEC)を重量比で30:10:60とした。こののち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶媒に溶解させた。この場合には、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0106】
最後に、正極171および負極172と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極171を外装缶174に収容すると共に、負極172を外装カップ175に貼り付けた。続いて、セパレータ173(厚さ=23μm)に電解液を含浸させた。このセパレータ173としては、多孔性ポリプロピレンフィルムにより多孔性ポリエチレンフィルムが挟まれたポリマーセパレータを用いた。最後に、電解液が含浸されたセパレータ173を介して正極171と負極172とを積層させたのち、ガスケット176を介して外装缶174および外装カップ175をかしめた。これにより、コイン型の二次電池が完成した。この二次電池を作製する場合には、負極172の充放電容量を正極171の充放電容量よりも大きくし、満充電時において負極172にリチウム金属が析出しないようにした。
【0107】
(実験例1−2)
負極172を以下のように作製したことを除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。具体的には、まず、負極集電体172Aの表面にCイオンのみを注入し、銅および炭素からなる第1の領域172B1としての拡散層を形成した。そののち、電子線蒸着法により、第1の領域172B1を覆うようにケイ素からなる第2の領域172B2を6μmの厚さとなるまで堆積させ、負極活物質層172Bを得た。その際、蒸着源として表面が窒化硼素の被膜によって覆われた坩堝に入れた単結晶シリコンを用い、これを電子線で加熱して蒸発させることで第2の領域172B2に炭素が混入しないようにした。
【0108】
(実験例1−3)
負極集電体172Aの表面にSiイオンのみを注入し、銅およびケイ素からなる第1の領域172B1としての拡散層を形成するようにしたことを除き、他は実験例1−2と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。
【0109】
このようにして作製した実験例1−1〜1−3の二次電池について、サイクル特性(放電容量維持率)を調べると共に負極活物質層172Bの第1の領域172B1に含まれる炭素の結合状態(Si−C結合を構成するものの存在割合)についても調べた。これらの結果を表1に表す。
【0110】
【表1】

【0111】
サイクル特性を調べる際には、以下の手順でサイクル試験を行うことにより、放電容量維持率を求めた。まず、電池状態を安定化させるために25℃の雰囲気中において1サイクル充放電させたのち、再び充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中において198サイクル充放電させることにより、200サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(200サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、最初の1サイクルについては、まず、0.2mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに到達するまで定電流充電したのち、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.05mA/cm2 に到達するまで定電圧充電し、さらに、0.2mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに到達するまで定電流放電した。また、2サイクル目以降の1サイクルについては、まず、2mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに到達するまで定電流充電したのち、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.1mA/cm2 に到達するまで定電圧充電し、さらに、2mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに到達するまで定電流放電した。
【0112】
第1の領域172B1に含まれる炭素の結合状態の調査については、アルバックーファイ社製Quantum2000型光電子分光装置を用いたX線光電子分光法によりSi−C結合およびSi−Si結合の同定を行い、Si−C結合によるピーク強度とSi−Si結合によるピーク強度との比率から、第1の領域172B1に含まれるケイ素のうち、Si−C結合として存在する割合を求めた。具体的には、以下の通りである。まず、スペクトルの測定にあたっては、X線源として出力25WのAlKα線を使用した。また、第1の領域172B1のXPSスペクトルを得るためには、銅、ケイ素および炭素が検出される領域を露出させる必要がある。そこで、ここではアルゴンイオンビームエッチングを行い、負極活物質層172Bを、その表面から掘削することによりその領域を露出させた。アルゴンイオンビームの照射条件は、加速電圧を1kV、入射角を45°とした。酸化膜が十分に除去されたかどうかは、逐次XPSスペクトルを測定し、その変化が見られなくなることで判断した。また、不純物が除去されたかどうかについては、284.5eV付近に観測されるC−H結合およびC−C結合に由来すると考えられるピークが十分に低減されたことを基準として判断した。なお、負極活物質の表面に多少の不純物があったとしても、Si−C結合に由来するピークを分離することは可能である。負極活物質表面に不純物があった場合、炭素の1s軌道(C1s)のスペクトルにおいて、C−H結合およびC−C結合に由来すると考えられるピーク(a)が284.5eV付近に観測され、C−Si結合に由来すると考えられるピーク(b)が282.5eV付近に観測された。また、その他に、C−O結合等に由来すると考えられるピークが286.5eV付近に観測された。それらのピークを各々分離するため、シャーリー(Shirley)関数を用いたバックグラウンド減算を行い、さらにガウス/ローレンツ混合関数を用いたピークフィッティングを行った。このとき、ピーク(a)およびピーク(b)の頂点のエネルギー位置は、それぞれ284.5eV±0.5eVおよび282.5eV±0.5eVとなった。このフィッティング結果を用いて、ピーク(a),ピーク(b)のピーク面積a,bをそれぞれ求めた。なお、XPSスペクトル横軸のエネルギー補正は、炭素の1s軌道(C1s)のピーク位置が284.5eVになるようにした。これによりSi−C結合に起因するピーク面積bの分離が可能となる。なお、炭化ケイ素としてはSi:C=1:1の組成比を有する化合物(SiC)のみが存在するので、C−Si結合のピークにおけるSiとCとの割合は1:1であるとした。また、99.1eV付近に観察されるケイ素の2p軌道(Si2p)のピーク(c)をSi−Si結合に由来するものとし、そのピーク面積cを求めた。ピーク面積cに対するピーク面積bの比から、第1の領域172B1に含まれるケイ素のうち、Si−C結合を構成するものの割合を求めた。全体の炭素量に対するSi−C結合の割合については、X線光電子分光法により第1の領域102Aのうち深さ方向において異なる複数箇所のスペクトルを測定し、Si−C結合によるピーク強度とC−C結合によるピーク強度との比率を各スペクトルに対して求め、その合算値の平均を算出することにより求めた。
【0113】
表1に示したように、実験例1−1では、第1の領域172B1においてSi−C結合を構成する炭素の割合が34%となったのに対し、実験例1−2,1−3では第1の領域172B1においてSi−C結合の存在が確認できなかった。その結果、実験例1−1では実験例1−2,1−3よりも優れた放電容量維持率を示した。
【0114】
(実験例2−1)
負極172を以下のように作製したことを除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。具体的には、まず、電解銅箔(厚さ=20μm)を準備し、その電解銅箔上に炭素とケイ素との混合層を電子線蒸着法により1μmの厚さとなるように形成し、負極集電体172Aを作製した。ここでは蒸着源として炭素からなる坩堝に入れた単結晶シリコンを用いた。そののち、負極集電体172Aを300℃で6時間に亘ってアニールすることにより、炭素とケイ素との混合層へ銅を拡散させ、銅、ケイ素、および炭素からなる第1の領域172B1としての拡散層を形成した。さらに、電子線蒸着法により、第1の領域172B1を覆うようにケイ素からなる第2の領域172B2を6μmの厚さとなるまで堆積させ、負極活物質層172Bを得た。その際、蒸着源として表面が窒化硼素の被膜によって覆われた坩堝に入れた単結晶シリコンを用い、これを電子線で加熱して蒸発させることで第2の領域172B2に炭素が混入しないようにした。このようにして作製した負極172の断面をクロスセクションポリッシャーで切り出し、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて観察および元素分析を行ったところ、負極集電体172Aと第2の領域172B2との間に、銅、ケイ素、および炭素からなる第1の領域172B1の存在が確認された。
【0115】
(実験例2−2)
負極集電体172Aに対してアニール処理を行わなかったことを除き、他は実験例2−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。
【0116】
(実験例2−3)
負極集電体172Aを作製するにあたり、混合層の代わりにケイ素のみからなる被覆層を電解銅箔上に1μmの厚さとなるように形成したことを除き、他は実験例2−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。電解銅箔上への被覆層の形成は電子線蒸着法により行い、蒸着源としては表面が窒化硼素の被膜によって覆われた坩堝へ単結晶シリコンを収容したものを用いた。
【0117】
(実験例2−4)
負極集電体172Aに対してアニール処理を行わなかったことを除き、他は実験例2−3と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。
【0118】
(実験例2−5〜2−8)
負極集電体172Aに対するアニール処理の温度を表2に示したように変更したことを除き、他は実験例2−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。
【0119】
(実験例3−1)
負極172を以下のように作製したことを除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。具体的には、まず、いずれも1μm以下の粒径を有するSiC粉末、炭素粉末および銅粉末を原子比で5:5:1となるように混合して混合粉末を作製した。次に、この混合粉末80質量部と、熱可塑性ポリイミド20質量部とをN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状のスラリーとしたのち、そのスラリーを電解銅箔(厚さ=20μm)の上に2μmの厚さとなるように塗布することで第1の領域172B1を形成した。続いて、以下のようにして第2の領域172B2を形成し、負極活物質層172Bを得た。具体的には、負極活物質としてケイ素(平均粒径=10μm)70質量部と、導電剤として炭素粒子(平均粒径=2μm)10質量部と、負極結着剤として熱可塑性ポリイミド5質量部とを混合した負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーを作製した。そののち、この負極合剤スラリーを、バーコータにより第1の領域172B1の表面を覆うように均一塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機により圧縮成型し、真空雰囲気中において700℃×3時間の条件で加熱した。
【0120】
(実験例3−2)
第1の領域172B1を形成する際、混合粉末にSiC粉末を加えなかったことを除き、他は実験例3−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。
【0121】
(実験例4−1)
負極172を以下のように作製したことを除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。具体的には、まず、電解銅箔(厚さ=20μm)を準備し、その電解銅箔上に炭素とケイ素との混合層を電子線蒸着法により1μmの厚さとなるように形成し、負極集電体172Aを作製した。ここでは蒸着源として炭素からなる坩堝に入れた単結晶シリコンを用いた。そののち、負極集電体172Aを300℃で6時間に亘ってアニールすることにより、炭素とケイ素との混合層へ銅を拡散させ、銅、ケイ素、および炭素からなる第1の領域172B1としての拡散層を形成した。さらに、溶射法により、第1の領域172B1を覆うようにケイ素からなる第2の領域172B2を6μmの厚さで形成し、負極活物質層172Bを得た。ここでは、ガスフレーム溶射法により、溶融材料としてのケイ素粉末(メジアン径=1μm〜300μm)を溶融状態あるいは半溶融状態で、約45m/秒〜55m/秒の噴き付け速度で噴き付けるようにした。なお、溶射炎の発生用ガスとしては酸素ガスおよび水素ガス、噴き付け用ガスとしては窒素ガスを用いた。
【0122】
このようにして作製した実験例2−1〜2−4,3−1,3−2,4−1の二次電池についても、サイクル特性(放電容量維持率)と、負極活物質層172Bの第1の領域172B1に含まれる炭素の結合状態(Si−C結合を構成するものの存在割合)とについて調査した。さらに、EDXにより、第1の領域172B1におけるケイ素に対する銅の割合(Cu/Si)の値を測定した。その結果を表2に示す。
【0123】
【表2】

【0124】
表2に示したように、実験例2−1,2−2,3−1および4−1では、第1の領域172B1においてSi−C結合を構成する炭素の割合が34%もしくは35%となったのに対し、実験例2−3,2−4,3−2では第1の領域172B1においてSi−C結合の存在が確認できなかった。その結果、実験例2−1,2−2,3−1および4−1では実験例2−3,2−4,3−2よりも優れた放電容量維持率を示した。
【0125】
(実験例5−1〜5−10)
第1の領域172B1におけるケイ素に対する炭素の含有率(原子%)を変化させたことを除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。ここで、イオン注入時の拡散深度は1μmに固定した。これらの実験例5−1〜5−10についてもサイクル特性(放電容量維持率)を調べたところ、表3に表した結果が得られた。また、表3には、併せて容量のデータも示す。
【0126】
さらに、サイクル試験後の各二次電池を解体し、各々の負極活物質層172Bの第1の領域172B1に含まれる炭素量を以下の要領で測定した。この際、試料としての負極活物質層172Bは、正極と対向していない、すなわちリチウムの挿入脱離が行われてない部位から切り取るようにした。
【0127】
炭素量については、株式会社堀場製作所製の炭素・硫黄分析装置EMIA−520を用いて測定した。具体的には、第1の領域172B1の一部から取り出した試料(1.0g)を燃焼炉にて酸素気流中で燃焼させ、この際に生成されるCO2、CO、SO2を酸素気流によって搬送し非分散赤外線検出器に導入したのち、CO2、CO、SO2の各々のガス濃度を検出および積算することで炭素含有量(重量%)を測定した。この非分散赤外線検出器では、CO2、CO、SO2の各々のガス濃度に対応して交流信号が発信され、この交流信号がディジタル値に変換されてマイクロコンピュータにより直線化および積算処理される。積算後、所定の校正式によりブランク値補正および試料重量補正をして炭素・硫黄含有量(重量%)が表示される。
【0128】
さらに、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)によって、第1の領域172B1に含まれるケイ素の含有量を測定した。以上の測定結果から、第1の領域172B1に含まれる炭素およびケイ素の存在比率(原子%)を算出した。その結果を表3に併せて示す。
【0129】
【表3】

【0130】
表3に示したように、第1の領域172B1におけるケイ素に対する炭素の割合(原子%)C/Siが0.032以上において特に優れた放電容量維持率を示すことがわかった。また、容量については、C/Siが4.265原子%のときまではほぼ一定の値を示したが、それを超えると低下する傾向がみられた。特に、20原子%を超えた実験例5−10では、やや大きな低下がみられた。
【0131】
(実験例6−1〜6−4)
負極集電体172Aへのイオン注入時の拡散深度を調整することにより第1の領域172B1の厚みを変化させたことを除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。これらの実験例6−1〜6−4についてもサイクル特性(放電容量維持率)を調べたところ、表4に表した結果が得られた。
【0132】
【表4】

【0133】
表4に示したように、放電容量維持率は第1の領域172B1の厚みに依存して変化し、厚みが3μmの場合において特に優れた放電容量維持率を示すことがわかった。
【0134】
(実験例7−1〜7−7)
負極172の作製時において、SiイオンおよびCイオンの注入量を調整することにより第1の領域172B1に含まれる炭素のうちSi−C結合を構成するものの割合を変化させた。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。これらの実験例7−1〜7−7についてもサイクル特性(放電容量維持率)を調べたところ、表5に表した結果が得られた。
【0135】
【表5】

【0136】
表5に示したように、放電容量維持率はSi−C結合を構成する炭素の割合に依存して変化し、その割合が21%以上となると、ほぼ一定の値を示すことがわかった。
【0137】
(実験例8−1〜8−18)
負極172の作製時において、SiイオンおよびCイオンと共に鉄(Fe)イオンを注入することにより、第1の領域172B1がSi−C結合と共にFe−C結合を含むようにした。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。ここでは、第1の領域172B1に含まれる炭素のうち、Si−C結合を構成するものの割合、およびFe−C結合を構成するものの割合をそれぞれ表6に表したように変化させた。具体的には、実験例8−1〜8−7では、Fe−C結合を構成する炭素の割合を20%とする一方、Si−C結合を構成する炭素の割合を80%から5%まで変化させた。実験例8−8〜8−14では、Fe−C結合を構成する炭素の割合を40%とする一方、Si−C結合を構成する炭素の割合を60%から5%まで変化させた。実験例8−15〜8−18では、Fe−C結合を構成する炭素の割合を60%とする一方、Si−C結合を構成する炭素の割合を40%から15%まで変化させた。これらの実験例8−1〜8−18についてもサイクル特性(放電容量維持率)を調べたところ、表6に表した結果が得られた。
【0138】
【表6】

【0139】
表6に示したように、Fe−C結合を構成する炭素の割合が高いほど、高い放電容量維持率を示した。また、Si−C結合を構成する炭素の割合が高いほど、放電容量維持率も高くなり、あるいは一定の値を示す傾向が確認された。なお、Fe−C結合を構成する炭素の割合が60%を超えると、放電容量維持率は低下する傾向が確認された。これは、Si−C結合を構成する炭素の割合が相対的に減少しすぎることが影響しているものと考えられる。
【0140】
(実験例9−1)
負極172の作製時において、SiイオンおよびCイオンの注入量を調整することにより第1の領域172B1に含まれる炭素のうちSi−C結合を構成するものの割合を35.5%とした。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。
【0141】
(実験例9−2)
負極172の作製時において、SiイオンおよびCイオンと共にFeイオンを注入することにより、第1の領域172B1がSi−C結合と共にFe−C結合を含むようにした。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。ここでは、第1の領域172B1に含まれる炭素のうち、Si−C結合を構成するものの割合と、Fe−C結合を構成するものの割合との合計を35.0%とした。
【0142】
(実験例9−3)
負極172の作製時において、SiイオンおよびCイオンと共にクロム(Cr)イオンを注入することにより、第1の領域172B1がSi−C結合と共にCr−C結合を含むようにした。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。ここでは、第1の領域172B1に含まれる炭素のうち、Si−C結合を構成するものの割合と、Cr−C結合を構成するものの割合との合計を34.5%とした。
【0143】
(実験例9−4)
負極172の作製時において、SiイオンおよびCイオンと共にニッケル(Ni)イオンを注入することにより、第1の領域172B1がSi−C結合と共にNi−C結合を含むようにした。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。ここでは、第1の領域172B1に含まれる炭素のうち、Si−C結合を構成するものの割合と、Ni−C結合を構成するものの割合との合計を36.0%とした。
【0144】
(実験例9−5)
負極172の作製時において、SiイオンおよびCイオンと共にチタン(Ti)イオンを注入することにより、第1の領域172B1がSi−C結合と共にTi−C結合を含むようにした。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。ここでは、第1の領域172B1に含まれる炭素のうち、Si−C結合を構成するものの割合と、Ti−C結合を構成するものの割合との合計を35.5%とした。
【0145】
(実験例9−6)
負極172の作製時において、SiイオンおよびCイオンと共に亜鉛(Zn)イオンを注入することにより、第1の領域172B1がSi−C結合と共にZn−C結合を含むようにした。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。ここでは、第1の領域172B1に含まれる炭素のうち、Si−C結合を構成するものの割合と、Zn−C結合を構成するものの割合との合計を35.5%とした。
【0146】
(実験例9−7)
負極172の作製時において、SiイオンおよびCイオンと共にコバルト(Co)イオンを注入することにより、第1の領域172B1がSi−C結合と共にCo−C結合を含むようにした。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。ここでは、第1の領域172B1に含まれる炭素のうち、Si−C結合を構成するものの割合と、Co−C結合を構成するものの割合との合計を35.5%とした。
【0147】
これらの実験例9−1〜9−7についてもサイクル特性(放電容量維持率)を調べたところ、表7に表した結果が得られた。
【0148】
【表7】

【0149】
表7に示したように、第1の領域172B1が、Si−C結合に加えてX−C結合(Xは、Cr,Fe,Ni,Zn,TiまたはCoを表す)をさらに含むことにより、Si−C結合のみを含む場合(実験例9−1)と比べて高い放電容量維持率を示した。特に、Fe−C結合を構成する炭素を含む場合(実験例9−2)やCr−C結合を構成する炭素を含む場合(実験例9−3)には、放電容量維持率がいっそう向上することが確認された。これは、鉄やクロムがケイ素と比べて炭化物を形成する傾向(炭化物形成傾向)が大きい(Si−C結合よりもFe−C結合やCr−C結合を形成しやすい)のに対し、その他の金属元素(ニッケル、亜鉛、チタン、またはコバルト)は、炭化物形成傾向がケイ素よりも小さいためと考えられる。
【0150】
(実験例10−1〜10−4)
負極172の作製時において、負極集電体172Aの表面粗さ(10点平均粗さ)Rz値を表8に示したように変化させた。この点を除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。具体的には、実験例1−1では、電解銅箔(厚さ=25μm)の表面をダイヤモンド粒によって研磨したものを用いた。これに対し、実験例10−1〜10−4では、銅イオンが溶解された電解液中に金属製の電解ドラムを浸漬し、この電解ドラムを回転させながら電流を流すことにより、その表面に析出させた電解銅箔を用いた。
【0151】
これらの実験例10−1〜10−4についてもサイクル特性(放電容量維持率)を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0152】
【表8】

【0153】
表8に示したように、負極集電体172Aの表面粗さRz値が大きくなるほど放電容量維持率が向上した。少なくとも5.5μm程度のRz値に至るまでは、負極集電体172Aの表面の凹凸の存在により負極集電体172Aと負極活物質層172Bとの密着性向上の効果が十分に得られた結果と考えられる。
【0154】
(実験例11−1〜11−5)
表9に示したように、電解液の組成を変化させたことを除き、他は実験例1−1と同様にして図9に示したコイン型の二次電池を作製した。ここでは、溶媒として4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を用いた。他の溶媒として、無水スルホ安息香酸(SBAH)あるいは無水スルホプロピオン酸(SPAH)を用いた。電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )を用いた。他の溶媒については、溶媒を混合したのち、それに対して所定の割合となるように加えた。これらの実験例11−1〜11−5の二次電池についてもサイクル特性(放電容量維持率)を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0155】
【表9】

【0156】
表9に示したように、電解液の組成を変更しても、実験例1−1と同様に、高い放電容量維持率が得られた。この場合には、溶媒としてFEC等、他の溶媒としてSBAH等、電解質塩としてLiBF4 を加えれば、放電容量維持率がより高くなった。これらのことから、本発明の二次電池では、電解液の組成に依存することなくサイクル特性の向上の効果が得られることが確認された。
【0157】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極あるいは集電体の使用用途は、必ずしも二次電池に限らず、それ以外の他の電気化学デバイスでもよい。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
【0158】
また、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類としてリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出による容量とリチウム金属の析出および溶解による容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される二次電池についても、同様に適用可能である。この場合には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料が用いられると共に、負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0159】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型、ラミネートフィルム型あるいはコイン型である場合や、電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこれに限られない。本発明の二次電池は、電池構造が角型あるいはボタン型などである場合や、電池素子が積層構造などを有する場合についても、同様に適用可能である。
【0160】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質の元素としてリチウムを用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。電極反応物質の元素は、例えば、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1族元素や、マグネシウムあるいはカルシウムなどの2族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。本発明の作用および効果は、電極反応物質の種類に依存せずに得られるはずである。
【符号の説明】
【0161】
101,122A,134A,162A,172A…負極集電体、102,122B,134B,162B,172B…負極活物質層、102A,172B1…第1の領域、102B,172B2…第2の領域、111…電池缶、112,113…絶縁板、114…電池蓋、115…安全弁機構、115A…ディスク板、116…熱感抵抗素子、117…ガスケット、120,130,160…巻回電極体、121,133,161,171…正極、121A,133A,161A…正極集電体、121B,133B,161B…正極活物質層、122,134,162,172…負極、123,135,163,173…セパレータ、124…センターピン、125,131,164…正極リード、126,132,165…負極リード、136…電解質、137…保護テープ、140…外装部材、141…密着フィルム、151…外装缶、152…絶縁板、153…電池蓋、154…端子板、155…正極ピン、156…絶縁ケース、157…ガスケット、158…開裂弁、159…電解液注入孔、159A…封止部材、174…外装缶、175…外装カップ、176…ガスケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体に、負極活物質としてケイ素(Si)を含む負極活物質層が設けられた負極であって、
前記負極活物質層は、厚み方向において前記負極集電体と接する側に、ケイ素と共に炭素(C)を含む接続領域を有し、
前記接続領域に含まれる炭素の少なくとも一部がSi−C結合を構成している
負極。
【請求項2】
前記負極集電体は銅(Cu)からなり、前記接続領域が銅を含んでいる請求項1記載の負極。
【請求項3】
前記接続領域において、ケイ素に対する銅の割合が原子数比で0.2以上1以下である請求項2記載の負極。
【請求項4】
前記接続領域において、ケイ素に対する炭素の割合が原子数比で0.0001以上0.2以下である請求項1記載の負極。
【請求項5】
前記接続領域は、クロム(Cr),鉄(Fe),ニッケル(Ni),亜鉛(Zn),チタン(Ti)およびコバルト(Co)のうちの少なくとも1種の元素をさらに含み、
前記接続領域に含まれる炭素の一部がX−C結合(Xは、Cr,Fe,Ni,Zn,TiまたはCoを表す)を構成している
請求項1記載の負極。
【請求項6】
前記接続領域における炭素のうちSi−C結合およびX−C結合を構成するものの割合が、全体の20原子%以上である
請求項5記載の負極。
【請求項7】
正極および負極と共に電解質を備えた二次電池であって、
前記負極は、負極集電体に、負極活物質としてケイ素(Si)を含む負極活物質層が設けられたものであり、
前記負極活物質層は、厚み方向において前記負極集電体と接する側に、ケイ素と共に炭素(C)を含む接続領域を有し、
前記接続領域に含まれる炭素の少なくとも一部がSi−C結合を構成している
二次電池。
【請求項8】
前記接続領域は、クロム(Cr),鉄(Fe),ニッケル(Ni),亜鉛(Zn),チタン(Ti)およびコバルト(Co)のうちの少なくとも1種の元素をさらに含み、
前記接続領域に含まれる炭素の一部がX−C結合(Xは、Cr,Fe,Ni,Zn,TiまたはCoを表す)を構成している
請求項7記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−108600(P2011−108600A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265510(P2009−265510)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】