説明

負荷回路の保護装置

【課題】フューズを模擬して負荷回路を保護することが可能な負荷回路の保護装置を提供する。
【解決手段】負荷回路に用いられる電線の熱容量よりも小さい疑似熱容量Cth*を設定し、電線の発熱量演算式、及び電線の放熱量演算式、タイマで計時される時間、及び疑似熱容量Cth*を用いて、電線の温度を算出する。そして、算出された電線温度が電線の許容温度に達した場合に、半導体リレーS1を遮断して負荷回路を発熱から保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷回路に過電流が流れて電線温度が上昇した際に、即時に負荷回路を遮断して回路を保護する負荷回路の保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるランプやモータ等の負荷に電力を供給する負荷回路は、バッテリと、該バッテリと負荷との間に設けられる電子スイッチ(MOSFET等)とが備えられており、バッテリ、電子スイッチ、及び負荷がそれぞれ電線を含む導体を介して接続されている。更に、電子スイッチをオン、オフ操作する制御回路が設けられており、該制御回路より出力される駆動、停止信号により、電子スイッチがオン、オフ動作して負荷の駆動、停止が切り換えられる。
【0003】
このような負荷回路においては、負荷に過電流が流れた際に、いち早く回路を遮断して、負荷、電線、電子スイッチ等を保護するために、フューズが設けられている。また、フューズを用いずにフューズとほぼ同等の特性を備える電流検出回路として、例えば、特開2007−19728号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
【0004】
特許文献1では、負荷駆動用の電子スイッチとして用いるパワーMOSFETに流れる電流に比例した大きさの電流を生成し、この電流が所定の閾値電流を超え、更に、抵抗とコンデンサからなるRC回路に生じる電圧が所定の閾値電圧に達した場合に、回路を遮断する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−19728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された従来例では、負荷に過電流が流れた場合に回路を遮断する構成としており、実際の電線温度を求めていないので、過電流の発生時に回路を保護することができるものの、従来のフューズを模擬した遮断特性を得ることができない。即ち、負荷回路に設けられるフューズは、過電流を検出して回路を遮断するのではなく、過電流発生時に生じる発熱により溶断して負荷回路を遮断するものであり、上記特許文献1に記載された装置では、フューズの特性を忠実に模擬しているとは言えない。また、フューズには劣化の問題があり、劣化を考慮すると電線径を太くしなければならないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、より忠実にフューズを模擬して負荷回路を保護することが可能な負荷回路の保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、電源より出力される電力を負荷に供給して駆動する負荷回路の電線温度が上昇した際に、前記負荷回路を遮断する負荷回路の保護装置において、経過時間を計時する計時手段と、前記負荷回路の電線に流れる電流を検出する電流検出手段と、前記負荷回路の接続、遮断を切り換えるスイッチ手段と、前記負荷回路に用いられる電線の熱容量よりも小さい疑似熱容量を設定し、電線の発熱量演算式、及び電線の放熱量演算式、前記計時手段で計時される時間、及び前記疑似熱容量を用いて、電線の温度を算出する温度算出手段と、前記温度算出手段で算出される電線温度が電線の許容温度に達した場合に、前記スイッチ手段を遮断する遮断制御手段と、を備え、前記疑似熱容量Cth*を、下記(イ)〜(ニ)の手順で算出することを特徴とする。
【0009】
(イ)所望の溶断特性を有するフューズに通電して、通電電流と溶断時間との関係を示す電流・時間特性データを取得する。
【0010】
(ロ)前記電流・時間特性データから、前記フューズに連続通電可能な最大電流Imaxを求める。
【0011】
(ハ)下記式により、保護回路下流の電線に前記最大電流Imaxを連続通電したときの温度閾値ΔTmaxを求める。
【0012】
ΔTmax=Rth×Ron×Imax
(ニ)前記温度閾値ΔTmaxを下記式に代入して得られる熱容量Cthを、前記疑似前記疑似熱容量Cth*とする。
【数1】

【発明の効果】
【0013】
本発明では、負荷回路に接続される電線を保護するために用いられる一般的なフューズの特性とほぼ同等の溶断特性が得られるように、疑似熱容量Cth*が求められるので、フューズを模擬した過電流保護が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る負荷回路の保護装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る負荷回路の保護装置の、初期化処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係る負荷回路の保護装置の、電線温度異常判定処理を示すフローチャートである。
【図4】通電時間と電線温度との関係を示す特性図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る負荷回路の保護装置で、負荷回路に用いる電線の発煙特性とフューズの溶断特性実測値を示す特性図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る負荷回路の保護装置で、フューズの連続通電可能電流と同等の電流を連続通電可能な電線の発煙特性を示す特性図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る負荷回路の保護装置で、フューズの溶断特性を模擬した発煙特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る負荷回路の保護装置11の構成を示すブロック図である。同図に示すように、負荷回路の保護装置11は、バッテリVBに接続された半導体リレーS1(スイッチ手段)と、電線W1に流れる電流を検出する電流計14と、電流が流れる経過時間を計時するタイマ(計時手段)13と、電流計14で検出される電流値、及びタイマ13で計時される時間に基づいて半導体リレーS1のオン、オフを制御する制御回路12を備えている。
【0016】
そして、本実施形態に係る負荷回路の保護装置11では、制御回路(温度算出手段、遮断制御手段)12により、後述する手法(「疑似熱容量Cth*」用いた電線温度の算出手法)を用いて電線W1の温度を算出し、電線W1の温度が電線W1に対して通常設けられるフューズの溶断温度に達した場合に、電線W1の上流側に設けられた半導体リレーS1を遮断して電線W1、及び該電線W1の下流側に設けられる負荷等の回路構成要素を保護する。なお、負荷回路の保護装置11は、例えばマイコンで構成されている。
【0017】
次に、上述した負荷回路の保護装置11の動作を、図2、図3に示すフローチャートを参照して説明する。図2は、制御回路12の処理化処理の手順を示すフローチャートであり、電線温度の異常判定処理が開始される際に実行される。即ち、図3に示す電線温度の異常判定処理に用いる発熱、放熱温度データ、停止信号フラグF1、及び発熱量データを全てゼロにリセットする(ステップS11)。
【0018】
図3は、電線温度の異常判定処理の手順を示すフローチャートである。図1に示す半導体リレーS1がオンとされ電線W1に電流が流れると、電流計14により通電電流が検出され、制御回路12は検出された電流Iを取得する(ステップS31)。
【0019】
次いで、制御回路12は、電流計14で検出された電流Iに基づき、電流が流れている場合には、次の(1)式を用いて電線の単位長さ当たりの発熱量X1を算出する(ステップS32)。
【0020】
X1=I×Ron×Δt ・・・(1)
(1)式において、「Ron」は電線の単位長さ当たりの電気抵抗、Δtはサンプリング時間(例えば、5[msec])である。
【0021】
また、制御回路12は、次の(2)式を用いて電線の放熱量Y1を算出する(ステップS33)。
【0022】
Y1=Q/(Cth*×Rth/Δt) ・・・(2)
(2)式において「Cth*」は電線の単位長さ当たりの疑似熱容量(詳細は後述)、「Rth」は電線の単位長さ当たりの熱抵抗、Δtはサンプリング時間(例えば、5[msec])、Qは電線の単位長さ当たりの熱量であり電線温度に疑似熱容量Cth*を乗じた値である。
【0023】
そして、制御回路12は、前回測定時の電線温度Tpに基づき、次の(3)式を用いて今回測定時の電線温度Tnを求める(ステップS34)。
【0024】
Tn=Tp+(X1−Y1)/Cth* ・・・(3)
従って、サンプリング時間Δtが経過する毎に、前回測定時の電線温度(初期的にはTpは周囲温度)に対し、逐次発熱温度が加算され、或いは放熱温度が減算されて、今回測定時の電線温度が算出されることになる。
【0025】
次いで、制御回路12は、ステップS34の処理で算出された電線温度Tnと予め設定した遮断閾値温度Tth1(例えば、150℃)とを比較し(ステップS35)、Tn>Tth1となった場合には(ステップS35でYES)、停止信号フラグF1=1とする(ステップS36)。制御回路12は、停止信号フラグF1=1となった場合には、図1に示した半導体リレーS1をオフとして負荷回路を遮断する。また、停止信号フラグF1=1となっている場合には、外部操作等により半導体リレーS1のオン操作が入力された場合でも、半導体リレーS1がオンとならないようにインターロックされる。
【0026】
他方、電線温度Tnと遮断閾値温度Tth1との関係がTn>Tth1とならなかった場合には(ステップS35でNO)、制御回路12は、電線温度Tnと予め設定した遮断解除閾値温度Tth2(Tth2<Tth1;Tth2は例えば、50℃)とを比較し(ステップS37)、Tn≦Tth2となった場合には(ステップS37でYES)、停止信号フラグF1=0とする(ステップS38)。従って、上記のインターロックは解除され、次回半導体リレーS1のオン操作が入力された場合には、半導体リレーS1をオンとすることができる。
【0027】
こうして、所定のサンプリング時間Δt毎に発熱、または放熱による電線温度の変化を累積し、今回測定時の電線温度Tnが遮断閾値温度Tth1を超えた場合には、停止信号フラグF1=1とすることにより、半導体リレーS1をオフとして回路を遮断することができ、更に、電線温度Tnが遮断解除閾値温度Tth2以下に低下するまで半導体リレーS1のオフ状態が維持されるのである。
【0028】
次に、上述した疑似熱容量Cth*の算出方法について説明する。図4は、電線に所定の電流を継続して流したときの、経過時間と電線温度の変化を示す特性図である。一般的に、電線に継続して電流を流したときの電線温度T2は、次の(4)式で示されることが知られている。
【0029】
T2=T1+I×Ron×Rth{1−exp(−t/Cth・Rth)} ・・・(4)
(4)式において、T1は周囲温度、「I」は通電電流、「Ron」は電線の単位長さ当たりの電気抵抗、「Rth」は電線の単位長さ当たりの熱抵抗、「Cth」は電線の単位長さ当たりの熱容量、「t」は経過時間である。
【0030】
従って、(4)式に基づき、電線の温度は図4の曲線S1に示すように変化することになる。ここで、電線の熱容量Cthを、その1/4の値の熱容量Cth*(疑似熱容量)に変更すると(即ち、熱容量を小さくすると)、図4の曲線S2のように変化することになる。そして、曲線S1,S2から明らかなように、熱容量Cthを小さい値に変更することにより、時間経過に対してより早い時点で電線温度が上昇し、飽和温度に達することになる。換言すれば、電線の実際の熱容量Cthを、これよりも小さい疑似熱容量Cth*に変更して電線の温度を求めると、飽和温度に達するまでの間は実際の電線温度よりも高い温度が求められることになる。これは、電線の発煙温度を閾値温度として設定して負荷回路を遮断する場合に、実際には発煙温度に達する前の温度で回路を遮断できることを意味する。
【0031】
図5〜図7は、疑似熱容量Cth*を決定するまでの手順を説明するための、通電電流と通電時間との関係を示す特性図である。図5に示す曲線S11は、横軸を電流、縦軸を時間(対数目盛)としたときの、電線の発煙特性を示す特性図である。この特性図は、前述した(4)式の電流Iに対して、温度T2が電線の発煙温度(例えば、150℃)となるまでの時間tを算出することにより求めることができる。そして、曲線S11より、通電電流が大きいほど短時間で発煙温度に達し、また、通電電流がIa未満であれば、連続的に電流を流してもこの電線は発煙温度に達しないことが判る。そして、本実施形態では、この電線に対して通常用いられる規格のフューズに実際に電流を流し、フューズの特性を調査している。その結果、例えば、図5の丸印のようなフューズの溶断特性実測値(電流・時間特性データ)が得られることになる。そして、図5に示す溶断特性実測値から、このフューズの連続通電可能電流Imaxを求めることができる。
【0032】
次に、上記の処理で求めた連続通電可能電流Imaxに基づいて、次の(5)により温度閾値ΔTmaxを求める。
【0033】
ΔTmax=Rth×Ron×Imax ・・・(5)
ここで、温度閾値ΔTmaxは、周囲温度に対する上昇温度ΔTの上限値であり、上昇温度ΔTがΔTmaxを超えた場合に負荷回路を遮断すれば、上記のフューズとほぼ同等の特性で負荷回路を遮断することができることになる。いま、上述した(4)式において、T2−T1=ΔTとした式を(4′)式として以下に示す。
【0034】
ΔT=I×Ron×Rth{1−exp(−t/Cth・Rth)} ・・・(4′)
そして、(4′)式における電流「I」を適宜変更し、各電流「I」のときに経過時間「t」を増加させていき、上昇温度ΔTが上記の温度閾値ΔTmaxに達するときの時間をプロットすると、図6のS12に示す特性曲線が得られる。
【0035】
更に、上記の(5)式で求められた温度閾値ΔTmaxの値を(4′)式のΔTに代入し、且つ、左辺が熱容量Cthとなるように式を変形し、更に、この熱容量Cthを疑似熱容量Cth*に書き換えると、次の(6)式が得られる。
【数2】

【0036】
そして、この(6)式に、図5、図6に示したフューズの溶断特性実測値(電流・時間特性データ)に対応する電流「I」、及び時間「t」(丸印で示す点)を代入すると、ほぼ一定となる疑似熱容量Cth*を求めることができる。そして、この疑似熱容量Cth*を用いた電線の発煙特性は、図7のS13に示す如くの曲線となり、フューズの溶断特性をほぼ忠実に模擬していることが判る。
【0037】
そして、本実施形態では上記の(6)式で算出した疑似熱容量Cth*を用いて、上述した(1)〜(3)式の演算を行うことにより、フューズと電線通電能力の間にフューズを模擬した温度特性で負荷回路を保護することができる。
【0038】
このようにして、本実施形態に係る負荷回路の保護装置では、サンプリング時間Δtで電線の発熱温度、放熱温度に基づく電線温度Tnを算出する際に、電線の実際の熱容量Cthよりも小さい値に設定した疑似熱容量Cth*を用いている。従って、フューズの溶断特性を模擬した温度特性で負荷回路を遮断することができる。
【0039】
従って、従来のフューズを使用する必要が無い。従って、従来のフューズのように、ラッシュ電流及び負荷のオン、オフの繰り返しにより劣化することがなく、マージンを持ったフューズを選定する必要がないので、電線径を細径化することができ、電線の小型、軽量化を図ることができ、ひいては燃費向上の効果を発揮することができる。
【0040】
また、従来のフューズは5[A]、7.5[A]、10[A]、15[A]、20[A]・・のように決められた電流値が設定されていたが、本実施形態に係る負荷回路の保護装置では、疑似熱容量Cth*を適宜設定することにより、任意の電流値(例えば、6[A]、12.5[A]等)を設定できるので、電線径の細径化に役立てることができる。
【0041】
以上、本発明の負荷回路の保護装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。例えば、本実施形態は、車両に搭載される負荷回路を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の負荷回路にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
負荷回路に用いられるフューズを使用することなく電線を保護する上で極めて有用である。
【符号の説明】
【0043】
11 負荷回路の保護装置
12 制御回路(温度算出手段、遮断制御手段)
13 タイマ
14 電流計(電流検出手段)
S1 半導体リレー
VB バッテリ(電源)
W1 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源より出力される電力を負荷に供給して駆動する負荷回路の電線温度が上昇した際に、 前記負荷回路を遮断する負荷回路の保護装置において、
経過時間を計時する計時手段と、
前記負荷回路の電線に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記負荷回路の接続、遮断を切り換えるスイッチ手段と、
前記負荷回路に用いられる電線の熱容量よりも小さい疑似熱容量を設定し、電線の発熱量演算式、及び電線の放熱量演算式、前記計時手段で計時される時間、及び前記疑似熱容量を用いて、電線の温度を算出する温度算出手段と、
前記温度算出手段で算出される電線温度が電線の許容温度に達した場合に、前記スイッチ手段を遮断する遮断制御手段と、
を備え、
前記疑似熱容量Cth*を、下記(イ)〜(ニ)の手順で算出することを特徴とする負荷回路の保護装置。
(イ)所望の溶断特性を有するフューズに通電して、通電電流と溶断時間との関係を示す電流・時間特性データを取得する。
(ロ)前記電流・時間特性データから、前記フューズに連続通電可能な最大電流Imaxを求める。
(ハ)下記式により、保護回路下流の電線に前記最大電流Imaxを連続通電したときの温度閾値ΔTmaxを求める。
ΔTmax=Rth×Ron×Imax
(ニ)前記温度閾値ΔTmaxを下記式に代入して得られる熱容量Cthを、前記疑似熱容量Cth*とする。
【数3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−85469(P2013−85469A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−268008(P2012−268008)
【出願日】平成24年12月7日(2012.12.7)
【分割の表示】特願2008−155437(P2008−155437)の分割
【原出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】