説明

貨物搬送用器具、それを用いた航空機の貨物室への荷積み方法、及び航空機の貨物室からの荷降ろし方法

【課題】航空機の貨物室への荷積み、及び航空機の貨物室からの荷降ろしの作業効率を向上させ、かつ簡易な構成の貨物搬送用器具を提供する。さらに、かかる貨物搬送用器具を用いた航空機の貨物室への荷積みを行う荷積み方法、航空機の貨物室からの荷降ろし方法、を提供する。
【解決手段】マット部材20、アクリル板40、及びアクリル板40上に回転可能に支持されており、貨物の移動に伴って従動回転する複数のボール部材10を備え、貨物を搬送するために用いられる携帯式の貨物搬送用器具150であって、マット部材20が折り畳み可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貨物搬送用器具、及びそれを用いた航空機の貨物室への荷積み方法、及び航空機の貨物室からの荷降ろし方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機には機体の下部に貨物室が設けられており、駐機場において貨物室に貨物を荷積みし、または荷降ろしする際は、貨物室に設けられた貨物搬出入口にて、パレットローラ、ベルトローダ等の機器を用いてこれらの作業が行われている。
【0003】
利用者へのサービス向上、輸送効率の向上の観点から、これらの荷積み、荷降ろしの作業は短時間で効率よく行われることが望ましい。そこで従来より、航空機の貨物室への荷積み、貨物室からの荷降ろしに要する時間を短縮し、これらの作業効率を向上させる方法、システムが提案されている。
【0004】
特許文献1には、航空機への貨物搭載時間の短縮を図った航空貨物搬送システムの構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−321699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし従来の航空機の貨物室への荷積み方法や航空機の貨物室からの荷降ろし方法では、以下の課題がある。
【0007】
航空機の貨物室には、大きく分けると「コンテナ貨物室」と「バルク貨物室」の2種類が存在する。コンテナ貨物室とは、貨物を収納したコンテナを1つのユニットとし、ユニット単位での荷積み、荷降ろしが行われる貨物室をいい、一方でバルク貨物室とは、コンテナには収納しないバラの貨物を対象とし、これらの貨物の荷積み、荷降ろしが行われる貨物室をいう。
【0008】
大型・中型の航空機は、コンテナ貨物室とバルク貨物室の双方を備えている場合が多いが、貨物室の大部分はコンテナ貨物室であり、スペースの関係上、コンテナ貨物室として使用することが困難な狭いスペース(例えば機体下部の尾翼側の斜面を有するスペース等)が、バルク貨物室として割り当てられている。
【0009】
一方で小型の航空機(以下、小型機と称する)は、機体のサイズが小さいため、コンテナを荷積み可能なスペースがなく、コンテナ貨物室を設けることができない。よって、多くの場合、小型機にはバルク貨物室しか設けられていない。
【0010】
また、これまでは大型・中型の航空機が航空輸送事業の主流をなしていたが、昨今の航空輸送事業をめぐる環境の変化等に伴い、近年では小型機による航空輸送の割合が増加しており、この傾向は今後も進むものと考えられる。
【0011】
従って、今後は、バルク貨物室への荷積み、バルク貨物室からの荷降ろしを迅速に効率
よく行うシステム、方法がより一層求められる。
【0012】
しかしながら現状では、バルク貨物室への荷積み、バルク貨物室からの荷降ろしは、作業員が直接手で貨物を1つずつ持ち運ぶことによって行われており、効率よく貨物の荷積み、荷降ろしが行われているとは言い難い。
【0013】
例えば、バルク貨物室へ貨物を荷積みする場合は、まず、ターミナルサイドでバラの貨物を1つずつカートに入れて駐機場まで搬送し、それらをベルトローダによって1つずつ貨物室の貨物搬出入口まで搬送する。貨物室内には作業員が待機しており、貨物搬出入口に搬送されてきた貨物を、貨物室内において作業員が直接手で持ち運んで荷積みする。これにより、貨物の荷積みが行われている。
【0014】
一方、バルク貨物室から貨物を荷降ろしする場合は、上記で説明した荷積みとは逆のステップを行う。つまり、作業員が貨物室内に入り込み、直接手で貨物を貨物搬出入口まで持ち運んだ後に、貨物搬出入口からベルトローダで貨物を駐機場まで搬送する。これにより、貨物の荷降ろしが行われている。
【0015】
しかし、かかる方法によって貨物室への荷積み、貨物室からの荷降ろしを行う場合、バルク貨物室の天井高は低い(多くのバルク貨物室の天井高は100cm前後)ので、貨物室内で作業員は中腰での作業を余儀なくされる。また、作業員に身体的負担を強いるので、このことが貨物室への荷積み、貨物室からの荷降ろしに要する時間の短縮化を妨げる要因の1つとなっている。
【0016】
また、バルク貨物室への荷積み、バルク貨物室からの荷降ろしは、専ら人力作業で行われるので、作業効率を向上させるためにはある程度以上の人手を確保する必要があり、従来の方法では、多くの人件費を要するといった課題がある。
【0017】
一方でバルク貨物室の床面にローラ部材等の貨物搬送用設備を設置し、これによってバルク貨物室内における荷積み、荷降ろしを行うことも考えられるが、この場合は次のような課題がある。
【0018】
例えば、貨物搬送用設備を床面に取り付けるための設置コストがかかり、航空機の生産コストが増大するといった課題がある。また、航空機をメンテナンスする際に、整備員等がバルク貨物室に入ってメンテナンス作業を行うことがあるが、その場合、床面に貨物搬送用器具が設置されていると、狭いバルク貨物室内におけるメンテナンス作業の妨げとなるといった課題がある。
【0019】
上記現状に鑑みて本発明は、航空機の貨物室への荷積み、及び航空機の貨物室からの荷降ろしの作業効率を向上させ、かつ簡易な構成の貨物搬送用器具を提供することを目的とする。さらに、かかる貨物搬送用器具を用いた航空機の貨物室への荷積みを行う荷積み方法、及び航空機の貨物室からの荷降ろし方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために本発明にあっては、
基体と、
前記基体上に回転可能に支持されており、貨物の移動に伴って従動回転する複数の回転体と、
を備え、
貨物を搬送するために用いられる携帯式の貨物搬送用器具であって、
前記基体が折り畳み可能に構成されていることを特徴とする。
【0021】
かかる構成によれば、貨物搬送用器具が携帯式であるので、貨物搬送用の設備が設けられていない場所であっても、所望の場所に貨物搬送用器具を敷くことで、貨物の搬送を容易に行うことができる。
【0022】
従って、作業のしにくい狭いスペースで貨物を搬送したい場合でも、予め貨物搬送用の設備を設けることなく、貨物の搬送を容易に行うことができる。
【0023】
また、基体が折り畳み可能に構成されているので、基体を折り畳んだコンパクトな状態で貨物搬送用器具を持ち運びすることができる。
【0024】
また、上記記載の貨物搬送用器具において、
前記基体は、
前記基体の略中央部を境として前記複数の回転体が内側となるように2つ折りに折り畳み可能に構成されており、
前記基体が2つ折りに折り畳まれた状態で前記基体の法線方向に見た場合に、それぞれの前記回転体が互いに重なり合わない位置に配設されていると好適である。
【0025】
かかる構成によれば、基体が2つ折りに折り畳まれた状態で、互いに重なり合わないように回転体が配設されているので、折り畳まれた状態における貨物搬送用器具の厚さをコンパクトにすることができる。よって、貨物搬送用器具の携帯がさらに容易になる。
【0026】
また、上記記載の貨物搬送用器具において、
前記回転体は、
自由な方向にその回転方向を変えることが出来るように支持されていることを特徴とする。
【0027】
かかる構成によれば、貨物搬送用器具上では、貨物を自由な方向へ移動させることができるので、貨物の搬送方向を変える必要がある場合にも対応できる。
【0028】
また、本発明に係る航空機の貨物室への荷積み方法は、
貨物を搬送用箱に収納する第1の荷積みステップと、
前記貨物室の貨物搬出入口まで前記搬送用箱を搬入し、搬入した前記搬送用箱を前記貨物室内に敷かれている上記に記載の貨物搬送用器具上に載置する第2の荷積みステップと、
前記貨物搬送用器具上を移動させて、前記貨物室内において前記搬送用箱を搬送する第3の荷積みステップと、
を有することを特徴とする。
【0029】
かかる方法によれば、まず貨物を搬送用箱に収納するので、バラの貨物を荷積みする場合であっても搬送用箱単位での荷積みが可能になり、荷積み作業の作業効率が向上する。
【0030】
また、上記に記載した貨物搬送用器具を用いて航空機の貨物室への荷積みを行うので、例えば従来のように作業員が直接手で貨物を持ち運び、荷積みを行っていた場合と比較すると、その作業効率が向上する。
【0031】
また、バルク貨物室のような天井高が低い貨物室に荷積みを行う場合も、上記に記載した貨物搬送用器具を用いれば、作業員が直接手で貨物を持ち運ぶことなく、バルク貨物室内において貨物を移動させることができるので、作業員の身体的負担を軽減させることができ、荷積み作業の作業効率が向上する。
【0032】
また、本発明に係る航空機の貨物室からの荷降ろし方法は、
上記に記載した貨物搬送用器具上に載置されている搬送用箱を、前記貨物搬送用器具上で移動させて前記貨物室の貨物搬出入口まで搬送する第1の荷降ろしステップと、
前記貨物搬出入口まで搬送された前記搬送用箱を機外へ搬出する第2の荷降ろしステップと、
を有することを特徴とする。
【0033】
かかる構成によれば、上記に記載した貨物搬送用器具を用いて航空機の貨物室からの荷降ろしを行うので、例えば従来のように作業員が直接手で貨物を持ち運び、荷降ろしを行っていた場合と比較すると、その作業効率が向上する。
【0034】
また、バルク貨物室のような天井高が低い貨物室からの荷降ろしを行う場合も、上記に記載した貨物搬送用器具を用いれば、作業員が直接手で貨物を持ち運ぶことなく、バルク貨物室内において貨物を移動させることができるので、作業員の身体的負担を軽減させることができ、荷降ろし作業の作業効率が向上する。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、航空機の貨物室への荷積み、及び航空機の貨物室からの荷降ろしの作業効率を向上させ、かつ簡易な構成の貨物搬送用器具を提供することが可能になる。さらに、かかる貨物搬送用器具を用いた航空機の貨物室への荷積みを行う荷積み方法、または航空機の貨物室からの荷降ろし方法、を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1の実施形態に係る貨物搬送用器具の概略構成図。
【図2】第2の実施形態に係る貨物搬送用器具の概略構成図。
【図3】本発明に係る貨物搬送用器具を持ち運ぶ際の模式図。
【図4】本発明に係る貨物の荷積み、荷降ろしのプロセスを説明する模式図。
【図5】本発明におけるタイダウンネットの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施形態に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0038】
なお、ここでは[第1の実施形態][第2の実施形態]で本発明に係る貨物搬送用器具について説明し、[第3の実施形態]で本発明に係る航空機の貨物室への荷積み方法、[第4の実施形態]で本発明に係る航空機の貨物室からの荷降ろし方法、について説明する。
【0039】
[第1の実施形態]
図1、図3を参照して、本発明の第1の実施形態に係る貨物搬送用器具について説明する。
【0040】
(貨物搬送用器具の構成)
図1に、本実施形態に係る貨物搬送用器具の概略構成を示す。図1(a)、図1(b)は、本実施形態に係る貨物搬送用器具において、複数のローラ部材10を保持するローラユニットの断面における概略構成図である。また、図1(c)は、本実施形態に係る貨物
搬送用器具150を上面から見た際の概略構成図である。
【0041】
本実施形態に係る貨物搬送用器具150は、所定の間隔で並列に配設された複数のローラユニット100を備えている(図1(c))。それぞれのローラユニット100は、複数のローラ部材(回転体)10と、これらのローラ部材10を直列に並べた状態で各々のローラ部材10の回転軸11を支持するローラ支持部材12とを有している(図1(a)、図1(b))。
【0042】
上記ローラユニット100に加え、貨物搬送用器具150は、ローラユニット100を固定するアクリル板40と、アクリル板40の下面に接着されたマット部材20とを有している。本実施形態では、マット部材20が基体に相当する。
【0043】
かかる構成によると、ローラ部材10上に貨物を載置し、貨物を移動させることで、貨物の移動に伴ってローラ部材10が従動回転し、貨物を所定の位置まで搬送することが可能になる。なお、本実施形態に係る貨物搬送用器具150は、最大で300kg程度の耐荷重を有するように構成されている。
【0044】
アクリル板40は、ローラユニット100を支持するとともに、貨物搬送時に各々ローラ部材10にかかる重量を分散する役割を有している。これにより、貨物搬送時に貨物の重量がマット部材20に局所的にかかることを防ぎ、ローラユニット100のガタつき、床面の損傷を防止することができる。
【0045】
なお、詳細は後述するが、本実施形態に係る貨物搬送用器具150は折り畳めるように構成されており、アクリル板40は、マット部材20を折り畳む際に折れ曲がる部分以外の領域のほぼ全面に設けられているが(図1(c))、アクリル板40を設ける領域はこれに限られるものではない。
【0046】
例えば、アクリル板40をレールの枕木のようにして、隣り合って配設されているローラユニット100の下面に所定の間隔を開けて配設してもよい。また、本実施形態ではローラユニット100を支持する部材としてアクリル板40を用いているが、アクリル板40ではなく、より軽量な硬質塩化ビニル系の材料等を用いてもよい。
【0047】
また、本実施形態では、ローラ部材10に弾性ゴムローラを用い、ローラ支持部材12を軽量なアルミニウム合金によって形成している。しかしローラ部材10、ローラ支持部材12に用いられる材料はこれに限られるものではなく、最大で300kg程度の貨物を搬送可能な耐荷重を有しており、かつ航空機の安全基準を満たす材料であれば、これ以外の材料を用いてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、安全性の観点からマット部材20に難燃性かつ弾力性(柔軟性)を有する材料が用いられており、これにより貨物搬送用器具150を貨物室内で用いる場合の安全性を向上させることができる。また、貨物搬送用器具150の使用時における貨物室の床面の損傷を防ぐことができる。
【0049】
本実施形態に係る貨物搬送用器具150は、折り畳み可能に構成されており、折り畳んだ状態で作業員が一人で携帯できるように構成されている点が特徴である。図3(b)に、作業員が貨物搬送用器具150を携帯する際の模式図を示す。
【0050】
本実施形態に係る貨物搬送用器具150は、略中央部において2つ折りに折り畳めるように構成されている。つまりマット部材20上において隙間を隔てて両側にアクリル板40を設けているので、この隙間を折り曲げる部分(以下、この部分を「折り曲げ部分」と
称する)として、マット部材20を折り畳むことができる。折り畳む方向は、折り曲げ部分を挟んで両側に配設されているローラ部材10が、折り曲げ部分の内側にくる方向である。
【0051】
さらに図1(c)に示すように、本実施形態に係る貨物搬送用器具150は、折り畳まれた状態で容易に携帯できるように把持部21が設けられている。具体的には、マット部材20とアクリル板40の両端縁近傍に孔部を形成し、この孔部を把持部21としている。マット部材20が折り畳まれた状態では、両側にある把持部21(孔部)が重なり合い、折り畳まれた状態で作業員が把持部21に手を入れることによって、貨物搬送用器具150を携帯することができる(図3(b))。
【0052】
また、複数のローラ部材10は、マット部材20が折り畳まれた状態で、マット部材20をその法線方向から見た場合に、折り曲げ部分の両側に配設されているローラ部材10が互いに重なり合わないように、アクリル板40上に配設されている。
【0053】
このようにローラ部材10を配設することで、マット部材20を折り畳んだ状態における貨物搬送用器具150の厚さを薄くすることができるので、作業者が容易に貨物搬送用器具150を携帯することが可能になる。
【0054】
(各部材の寸法・重量・位置関係)
<貨物搬送用器具150>
本実施形態に係る貨物搬送用器具150の長さ、幅寸法は、約1050mm×1005mmに設定されている。なお、以下では貨物の搬送方向(ローラ部材10の回転方向)の寸法を「長さ寸法」、貨物の搬送方向と直交する方向の寸法を「幅寸法」と称して説明を行う。
【0055】
折り曲げ部分を挟んで両側に配設されているアクリル板40の寸法(長さ×幅)は、それぞれ約500mm×1005mmであり、2枚のアクリル板40の間隔は約50mmに設定されている。この間隔は、マット部材20が折り畳み可能であって、かつ貨物の搬送の妨げ(2枚のアクリル板40間の隙間に貨物が落下する等)にならないような寸法に設定されるとよい。
【0056】
また、貨物搬送用器具150の重量は約15kgに設定されている。貨物搬送用器具150の重量を約15kg、またはそれ以内とすることで、作業者が一人で貨物搬送用器具150を携帯することができる。
【0057】
<ローラユニット100>
ローラユニット100に設けられているローラ支持部材12は、高さ寸法が37mm、幅(ローラ部材10の回転軸方向の長さ)の最大寸法が40mmである。また、マット部材20、アクリル板40を含めた高さ寸法は50mmに設定されている。
【0058】
ローラユニット100の長さ寸法は、約500mmである。つまり、アクリル板40の長さ方向のほぼ全域にローラユニット100が配設されるように構成されている(図1(c))。
【0059】
また、折り曲げ部を挟んで両側のアクリル板40には、それぞれ5本ずつのローラユニット100が設けられており、同一のアクリル板40上に配設されているローラユニット100どうしの間隔は約200mm〜250mmに設定されている。
【0060】
ローラユニット100どうしの間隔は、貨物搬送用器具150によって搬送する貨物の
寸法、貨物搬送用器具150の重量等を考慮して決定されるものである。間隔を広げてローラユニット100の設置数を減らせば、貨物搬送用器具150が軽量化され、持ち運びがさらに容易になるが、一方で間隔を広げすぎると、貨物の寸法によっては貨物がローラユニット100間に落下し、貨物の搬送が滞る虞がある。
【0061】
かかる実情に鑑みて、本実施形態では、想定される貨物の寸法、及び貨物搬送用器具150の重量等を考慮して、同一のアクリル板40に設けられているローラユニット100間の間隔を上記のように定めた。
【0062】
また、折り曲げ部を挟んで両側に設けられているローラ部材10は、マット部材20が折り畳まれた状態で、マット部材20の法線方向から見た場合に、折り曲げ部の両側に配設されているローラ部材10が互いに重なり合わないように、アクリル板40上に配設されている。具体的には、図1(c)に示すように、折り曲げ部を挟んで両側に配設されているローラ部材10が、左右で交互にずれるように配設されている。
【0063】
これによれば、マット部材20を折り畳んだ時に折り曲げ部の両側に配設されているローラ部材10どうしが互いに干渉しないので、折り畳まれた状態における貨物搬送用器具150の厚さを薄くすることができ、貨物搬送用器具150の携帯が容易になる。
【0064】
なお、上記に説明した貨物搬送用器具150、ローラユニット100の寸法・重量・位置関係は、これに限られるものではない。上記では貨物搬送用器具150の長さ、幅寸法を、約1050mm×1005mmとしたが、約1600mm×1200mmの寸法とし、ローラユニット100の長さ寸法を約750mmとしても、この貨物搬送用器具150を折り畳んで携帯することは可能である。
【0065】
以上より、本実施形態に係る貨物搬送用器具によれば、航空機の貨物室への荷積み、及び航空機の貨物室からの荷降ろしの作業効率を向上させ、かつ簡易な構成の貨物搬送用器具を提供することが可能になる。
【0066】
[第2の実施形態]
図2、図3を参照して、本発明の第2の実施形態に係る貨物搬送用器具250について説明する。図2(a)は、本実施形態に係る貨物搬送用器具250において、回転体として設けられたボール部材30の断面における概略構成図である。また、図2(b)は、本実施形態に係る貨物搬送用器具250を上面から見た際の概略構成図である。
【0067】
上記第1の実施形態では回転体としてローラ部材10を用いたが、本実施形態では、回転体としてボール部材30を用いたことが特徴である。なお、その他の構成(アクリル板40、マット部材20、把持部21の構成等)は、第1の実施形態と異なるものではないので、同一の符号を付してその説明は省略する。
【0068】
(貨物搬送用器具の構成)
図2(a)に示すようにボールユニット300は、ボール部材(回転体)30と、ボール部材30を回転可能に支持するボール支持部材31とを有している。そしてボール支持部材31がアクリル板40上に固定されている。また、本実施形態では、ボール部材30、ボール支持部材31ともに、金属製の材料によって構成されている。
【0069】
このボールユニット300は、図2(b)に示すように、折り曲げ部を挟んで両側のアクリル板上40に複数配設されている。また、本実施形態に係る貨物搬送用器具250は、第1の実施形態と同様に、耐荷重が約300kgに設定されている。
【0070】
かかる構成によれば、貨物搬送用器具250上に貨物を載置し、ボールユニット300上で貨物を移動させることで、貨物を搬送することができる。なお、本実施形態では回転体としてボール部材30を用いているので、貨物搬送用器具250上における貨物の搬送方向は一方向に限られない。
【0071】
つまり、ボール部材30は自由な方向に回転できるように支持されているので、任意の方向に貨物を搬送することが可能である。例えば、ある方向から搬送されてきた貨物を、貨物搬送用器具250上で方向転換した上で、違う方向に搬送することが可能である。
【0072】
(ボールユニット300の寸法・重量・位置関係)
ボールユニット300の最大の幅寸法は約70mmであり、マット部材20、アクリル板40を含めた高さ寸法は約50mmに設定されている。そしてこのボールユニット300が約200mm間隔でアクリル板40上に配設されている。なお、マット部材20の寸法は約1240mm×900mmであり、貨物搬送用器具250の重量は約15kgである。
【0073】
また、折り曲げ部を挟んで両側に配設されている複数のボール部材30は、マット部材20を折り畳んだ時に互いに重なり合わない位置に配設されている。これにより、折り畳んだ状態における貨物搬送用器具250の厚さを薄くすることができ、容易に貨物搬送用器具250を携帯することが可能になる。
【0074】
以上より、本実施形態によれば、航空機の貨物室への荷積み、及び航空機の貨物室からの荷降ろしの作業効率を向上させ、かつ簡易な構成の貨物搬送用器具を提供することが可能になる。
【0075】
[第3の実施形態]
図4、図5を参照して、本発明の第3の実施形態に係る航空機の貨物室への荷積み方法について説明する。本実施形態に係る航空機の貨物室への荷積み方法は、上記第1、第2の実施形態に係る貨物搬送用器具を用いて、航空機の特にバルク貨物室への荷積みを行う方法である。この航空機のバルク貨物室への荷積み方法は、(第1の荷積みステップ)〜(第3の荷積みステップ)によって構成されている。以下、それぞれの荷積みステップごとに説明を行う。
【0076】
(第1の荷積みステップ)
上記で説明したように、バルク貨物室とは、コンテナには収納しないバラの貨物を対象とした貨物室であり、従来はバラの状態での荷積みが行われていた。本実施形態では、バラの貨物を通箱50(搬送用箱)に収納し、その状態で貨物室への荷積みを行うことが特徴である。
【0077】
本実施形態で用いられる通箱50は、ジュラ板(アルミ板)によって構成されたもので、寸法(長さ×幅×高さ)は、約1200mm×770mm×1050mmであり、上面には蓋部材が設けられている。通箱50に用いられる材料は、ジュラ板(アルミ板)に限られるものではないが、ボール部材30、ローラ部材10との滑りやすさ、強度等を考慮して選択される。
【0078】
かかる構成の通箱50を用いると、バラの状態にある貨物を通箱50に収納し、通箱50としてユニット搬送することが可能になるので、荷積み作業の効率が向上する。
【0079】
また、貨物を通箱50へ収納する作業は、ターミナルサイドで行われ、ターミナルサイドで貨物を通箱50へ収納した後、カート等によって通箱50を駐機場まで搬送し、ベル
トローダ200によって駐機場からバルク貨物室210内へ通箱50を搬入する(図4)。以上のようにして、第1の荷積みステップが行われる。
【0080】
(第2の荷積みステップ)
次に、貨物室内に敷かれている貨物搬送用器具250上に、作業員が貨物を載置する。
【0081】
なお、貨物搬送用器具150、貨物搬送用器具250は、貨物の荷積みを行う際に作業員が予めバルク貨物室内の床面に敷いたものである。また、これらの貨物搬送用器具150、貨物搬送用器具250には、前回の荷降ろし作業後にそのまま貨物室内に保管されていたものを用いてもよいし、機外(例えばターミナルサイド等)から持ち込んでもよい。
【0082】
作業員は、貨物搬送用器具150、貨物搬送用器具250を、それらが折り畳まれた状態で貨物室210内まで携帯し、それを開いて貨物室210の床面に敷く。なお、本実施形態では、貨物室210に設けられた貨物搬出入口付近に、ボールユニット300を備えた貨物搬送用器具250を敷き、そこから貨物室210奥側へ沿って、ローラユニット100を備えた貨物搬送用器具150を敷いている。
【0083】
これによれば、以下の効果を奏する。図4に示すように、バルク貨物室210は一般的に航空機本体の側面にその貨物搬出入口が設けられており、貨物の荷積みはここから行われる。つまり、駐機場からベルトローダ200によって図4中P方向に貨物を搬入した後に、その貨物を貨物室の奥方向(Q方向)へ搬送する際に、P方向に搬入されてきた貨物をQ方向へ搬送するといった「方向換え」を行う必要がある。
【0084】
そこでバルク貨物室210内における貨物搬出入口付近に、ボールユニット300を備えた貨物搬送用器具250を敷くことで、ベルトローダ200によって搬送されてきた貨物の「方向換え」を行うことができる。そしてボールユニット300に続くローラユニット150によって貨物を貨物室210内の所定位置まで搬送することができる。
【0085】
なお、貨物搬送用器具150、貨物搬送用器具250を床面に敷く枚数は、貨物室の大きさ(主に機軸方向の長さ)応じて適宜変更することが可能である。また、「方向換え」を行うためには、少なくとも貨物搬出入口付近にボールユニット300を備えた貨物搬送用器具250を敷く必要があるが、そこから貨物室奥側に向けて、さらに貨物搬送用器具250を敷いてもよい。
【0086】
(第3の荷積みステップ)
第2の荷積みステップにおいて、貨物搬出入口付近に敷かれている貨物搬送用器具250上に載置された通箱50は、作業員によって貨物搬送用器具250上の所定の位置まで移動される。
【0087】
そして貨物搬送用器具250上から貨物搬送用器具150上に搬送され、作業員によってバルク貨物室210の奥方向(図4中Q方向)へ貨物搬送用器具150上を搬送される。従来のように作業員が直接手で貨物を搬送する場合と比較すると、貨物搬送用器具150上を移動させればよいので、作業員の身体的負担は軽減され、作業効率が向上する。
【0088】
バルク貨物室210の所定位置まで搬送された通箱50には、貨物搬送用器具150上において、図5に示すハンモック状のタイダウンネット220が覆い被される。
【0089】
そしてタイダウンネット220の両端に設けられているストラップ221がバックル部材(不図示)で絞られ、その状態でストラップ221に設けられた航空機用のSingle Stud Fittingがバルク貨物室210の床面のAnchor Plate
(不図示)に接続されることで、通箱50をバルク貨物室210の床面に対して固定することができる。
【0090】
タイダウンネット220は、通箱50の側面の少なくとも一部を覆えるように、ネット部分の寸法が約1800mm×1200mm、ストラップ221の長さが約1100mmに設定されている。なお、ストラップ221の長さは調整可能であり、300mm程度まで短くすることができる。また、タイダウンネット220は、例えば250kgの貨物に対して4Gまで耐えられるような強度(約1000kgs)を有している。
【0091】
また、このタイダウンネット220は、少なくとも通箱50の数だけ用意されているとよく、バルク貨物室内210に収納されていてもよいし、通箱50を荷積みする際に機外から持ち運んでもよい。
【0092】
以上、第1の荷積みステップから第3の荷積みステップを行うことにより、バラの貨物を効率よくバルク貨物室210に荷積みすることができる。すなわち、本実施形態に係る荷積み方法によると、上記第1、第2の実施形態で説明した、簡易な構成の貨物搬送用器具を用いて貨物の荷積みを行うので、航空機の貨物室への荷積みの作業効率を向上させることが可能になる。
【0093】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態に係る航空機の貨物室からの貨物の荷降ろし方法について説明する。本実施形態に係る航空機の貨物室からの荷降ろし方法は、上記第1、第2の実施形態に係る貨物搬送用器具を用いて、航空機の特にバルク貨物室からの荷降ろし行う方法である。この航空機のバルク貨物室からの荷降ろし方法は、(第1の荷降ろしステップ)〜(第2の荷降ろしステップ)によって構成されている。以下、それぞれの荷降ろしステップごとに説明を行う。
【0094】
(第1の荷降ろしステップ)
荷降ろし方法は、上記第3の実施形態で説明した「荷積み方法」の逆のステップを行えばよい。つまり、まずタイダウンネット220を取り外し、通箱50を移動可能な状態とする。そして、順に通箱50を貨物搬送用器具150上で貨物搬出入口まで搬送する。
【0095】
(第2の荷降ろしステップ)
貨物搬出入口まで搬送された通箱50は、作業員によって貨物搬送用器具250上からベルトローダ200上に搬出され、ベルトローダ200によって駐機場(機外)まで搬出される。これにより、貨物の荷降ろしが行われる。
【0096】
なお、バルク貨物室210内から荷降ろしすべき貨物を荷降ろしした後、作業員が貨物搬送用器具150、貨物搬送用器具250を回収し、折り畳み、それらを保管場所まで携帯して保管場所に保管することが可能である。なお、貨物の荷降ろし後、次の貨物の荷積みがすぐに行われる場合などは、貨物搬送用器具150、250を回収せずにそのまま床面に敷いていてもよい。
【0097】
以上、第1の荷降ろしステップから第2の荷降ろしステップを行うことにより、バラの貨物を効率よくバルク貨物室210から荷降ろしすることができる。すなわち、本実施形態に係る荷降ろし方法によると、上記第1、第2の実施形態で説明した、簡易な構成の貨物搬送用器具を用いて貨物の荷降ろしを行うので、航空機の貨物室からの荷降ろしの作業効率を向上させることができる。
【0098】
[その他の実施形態]
上記第1〜第4の実施形態では、ローラユニット100、ボールユニット300等の回転体ユニットをアクリル板40上に固定した場合について説明したが、アクリル板40を介さず、これらのユニットをマット部材20に直接取り付ける場合であってもよい。
【0099】
アクリル板40は、主に貨物の荷重を分散させるために設けたものであるが、マット部材20に局所的に荷重がかかった状態で滞りなく貨物の搬送を行うことができるのであれば、アクリル板40を設けない構成であってもよい。
【0100】
この場合、折り畳んだ状態の貨物搬送用器具150、250の厚さをさらに薄くすることができ、作業者の持ち運びをさらに容易にすることができる。
【0101】
また、上記第1〜第4の実施形態では、回転体ユニットとしてローラユニット100、ボールユニット300を用いたが、例えばエンドレス状のベルト部材と、その内周に配設された複数のローラ部材とを備えた回転ベルトユニットを用いても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0102】
また、一方向に回転可能なローラ部材を水平面内に回転可能な支持部材によって軸支することで、ローラ部材が自由な方向に回転できるように構成された、例えばキャスター部材を回転体として用いてもよい。
【符号の説明】
【0103】
10 ローラ部材(回転体)
12 ローラ支持部材
20 マット部材
21 把持部
30 ボール部材(回転体)
31 ボール支持部材
40 アクリル板
50 通箱(搬送用箱)
100 ローラユニット
150 貨物搬送用器具
200 ベルトローダ
210 バルク貨物室
220 タイダウンネット
221 ストラップ
250 貨物搬送用器具
300 ボールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に回転可能に支持されており、貨物の移動に伴って従動回転する複数の回転体と、
を備え、
貨物を搬送するために用いられる携帯式の貨物搬送用器具であって、
前記基体が折り畳み可能に構成されていることを特徴とする貨物搬送用器具。
【請求項2】
前記基体は、
前記基体の略中央部を境として前記複数の回転体が内側となるように2つ折りに折り畳み可能に構成されており、
前記基体が2つ折りに折り畳まれた状態で前記基体の法線方向に見た場合に、それぞれの前記回転体が互いに重なり合わない位置に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の貨物搬送用器具。
【請求項3】
前記回転体は、
自由な方向にその回転方向を変えることが出来るように支持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の貨物搬送用器具。
【請求項4】
航空機の貨物室への荷積み方法において、
貨物を搬送用箱に収納する第1の荷積みステップと、
前記貨物室の貨物搬出入口まで前記搬送用箱を搬入し、搬入した前記搬送用箱を前記貨物室内に敷かれている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の貨物搬送用器具上に載置する第2の荷積みステップと、
前記貨物搬送用器具上を移動させて、前記貨物室内において前記搬送用箱を搬送する第3の荷積みステップと、
を有することを特徴とする航空機の貨物室への荷積み方法。
【請求項5】
航空機の貨物室からの荷降ろし方法において、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の貨物搬送用器具上に載置されている搬送用箱を、前記貨物搬送用器具上で移動させて前記貨物室の貨物搬出入口まで搬送する第1の荷降ろしステップと、
前記貨物搬出入口まで搬送された前記搬送用箱を機外へ搬出する第2の荷降ろしステップと、
を有することを特徴とする航空機の貨物室からの荷降ろし方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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