説明

貫通孔閉塞構造

【課題】 火災時に熱膨張性耐火シール材が外部に膨張流出することを抑制して、貫通孔を効率良く閉塞することのできる貫通孔閉塞構造を提供する。
【解決手段】 区画体W側に属する貫通孔Hとこれに挿通される貫通体Kの外周面とで形成される開口部Ha又は貫通体Kの開口部Ha近傍箇所に、この開口部Haを閉塞する、又はほぼ閉塞する熱膨張性耐火シール材Aが設けられているとともに、熱膨張性耐火シール材Aの外側面を被覆して熱膨張性耐火シール材Aの貫通孔H外方への膨張を抑制する膨張抑制手段Tが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁や床などの区画体に形成された貫通孔や区画体に貫通固定された金属製スリーブをもって形成される貫通孔など、区画体側に属する貫通孔とこれに挿通されるケーブル等の貫通体の外周面とで形成される開口部又は貫通体の開口部近傍箇所に、この開口部を閉塞する、又はほぼ閉塞する熱膨張性耐火シール材が設けられている貫通孔閉塞構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の貫通孔閉塞構造としては、壁や床等の区画体に貫通させた金属製スリーブと区画体との間にモルタル等を挿入して金属製スリーブを区画体に固定し、この金属スリーブの外周面の両端部に形成された雄ネジ部に、金属製スリーブの端面に軸芯方向から当接可能な環状突起が内周面の軸芯方向中間位置に形成されているプラスチック製等のケーブル保護用のブッシングを夫々螺合し、金属製スリーブと各ブッシングをもって区画体側に属する貫通孔を形成するとともに、ケーブル等の貫通体の外周に対して薄帯状の熱膨張性耐火シール材を貫通孔の内周面と貫通体の外周面との間の略円環状の開口部の径方向長さよりも長くなるまで巻回したのち、この巻回された熱膨張性耐火シール材を貫通体の外周面に沿って開口部に押し込むことにより、熱膨張性耐火シール材を開口部に充填する技術が知られている。(下記特許文献1参照)
【0003】
【特許文献1】実開平3−104026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の記載の貫通孔閉塞構造では、ブッシングの開口に望む熱膨張耐火シール材の外側面(すなわち、軸芯方向の一端面)が全く被覆されていないために、火災時の熱によって熱膨張性耐火シール材が膨張する際に、熱膨張性耐火シール材が貫通孔内方だけでなくブッシングの円筒部を通じて貫通孔外方にも膨張流出することによって熱膨張耐火シール材の一部を失うことになり、このことにより、開口部内に存在する隙間や貫通体が融解又は焼失して発生する隙間を確実に閉塞できない虞がある。
【0005】
本発明は、この実情に鑑みて為されたものであって、その主たる課題は、火災時に熱膨張性耐火シール材が外部に膨張流出することを抑制して、貫通孔を効率良く閉塞することのできる貫通孔閉塞構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、貫通孔閉塞構造に係り、その特徴は、
区画体側に属する貫通孔とこれに挿通される貫通体の外周面とで形成される開口部又は貫通体の開口部近傍箇所に、この開口部を閉塞する、又はほぼ閉塞する熱膨張性耐火シール材が設けられているとともに、
前記熱膨張性耐火シール材の外側面を被覆して熱膨張性耐火シール材の貫通孔外方への膨張を抑制する膨張抑制手段が設けられている点にある。
【0007】
つまり、この構成であれば、区画体側に属する貫通孔とこれに挿通される貫通体の外周面とで形成される開口部を閉塞する、又はほぼ閉塞する熱膨張性耐火シール材により、貫通孔を通して火炎や煙が区画体に進入する、又は熱や音が区画体に伝達することを抑制することができるとともに、熱膨張性耐火シール材の外側面を被覆して熱膨張性耐火シール材の貫通孔外方への膨張を抑制する膨張抑制手段により、火災が発生した際の熱膨張性耐火シール材の熱膨張方向を貫通孔内方に誘導することができる。
【0008】
従って、貫通孔と貫通体の外周面とで形成される開口部を確実に閉塞することができるとともに、火炎によって貫通体が軟化融解又は焼失した際に発生する隙間を効率良く閉塞することができ、これらのことにより、貫通孔を効率良く閉塞することが可能となる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の実施において好適な構成であり、その特徴は、
前記膨張抑制手段が、前記貫通孔を形成する貫通孔形成部の外面から前記貫通体の外周面に亘って周方向に巻回可能で、且つ、前記貫通孔形成部及び前記貫通体の外周面に粘着可能なテープ状体である点にある。
【0010】
つまり、この構成であれば、テープ状体を貫通孔形成部の外面から前記貫通体の外周面に亘って周方向に巻回して粘着させることにより、容易、且つ簡単に熱膨張性耐火シール材の外側面を被覆することができ、施工性の良い貫通孔閉塞構造とすることができる。
【0011】
本発明の第3特徴構成は、第1、第2特徴構成のいずれか1つの特徴構成の実施において好適な構成であり、その特徴は、
前記熱膨張性耐火シール材が、貫通体の径方向に積層可能で、且つ、径方向に縮変形可能な複数の閉塞材と、積層された状態の前記複数の閉塞材を隣接層間の周方向相対移動を許容する状態で拘束する拘束手段とから構成されている点にある。
【0012】
つまり、この構成であれば、貫通体の径方向に積層された閉塞材を曲げ変形させて開口部又は貫通体の開口部近傍箇所に設けたとき、各層が隣接層間で周方向相対移動を行うことができるが故に、閉塞材の内方層に周方向圧縮力、及び外方層に周方向引張力が作用することがなく、貫通体の外周面に押し付けられた場合に径方向の縮変形性能を十分に発揮することができるから、熱膨張耐火シール材を貫通体の外周面の凹凸に対応させて変形させることができ、開口部の閉塞精度を向上させることができる。
【0013】
しかも、複数の閉塞材が径方向に積層した状態で拘束されているから、例えば、複数の閉塞材を拘束していない場合のように夫々別々に開口部に装備させる必要がなく、一層施工性の良い貫通孔閉塞構造とすることができる。
【0014】
本発明の第4特徴構成は、第3特徴構成の実施において好適な構成であり、その特徴は、
前記拘束手段が、前記閉塞材を積層した状態で内包可能で、且つ、この閉塞材よりも周方向長さの大きな防水性素材製の袋状体であるとともに、この袋状体における閉塞材挿入用の挿入口が、その開口縁部を重合させることにより閉止可能に構成されている点にある。
【0015】
つまり、この構成であれば、閉塞材の周囲を被覆する袋状体によって積層された状態の複数の閉塞材を隣接層間の相対移動を許容する状態に拘束することができながらも、閉塞材を装備させる際に閉塞材が貫通孔や貫通体に接触して損傷することを抑制することができ、さらに、閉塞材を直接手で触れることなく貫通孔閉塞作業を行うことができるから、閉塞材の科学的性質等に係わらず貫通孔閉塞作業を行うことができ、一層施工性の良い貫通孔閉塞構造とすることができる。
【0016】
しかも、積層された状態の複数の閉塞材を防水性素材製の袋状体に内包させた状態で袋状体における閉塞材挿入用の挿入口を閉止することができるから、水が袋状体内部に侵入して閉塞材が水に濡れることを抑制することができるとともに、防水性素材製の袋状体で貫通孔とこれに挿通される貫通体とで形成される開口部をほぼ閉塞することができるから、貫通孔を通して水が区画体内又は隣室に進入することを抑制することができ、これらのことにより、熱膨張性耐火シール材、及び区画体が水を含むことによる区画体の防音性能及び断熱性能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。尚、便宜上、後述する熱膨張耐火シール材Aを構成する複数の閉塞材2のうち、使用時に最も内側に位置する閉塞材を内側層、最も外側に位置する層を外側層、それらの中間に位置する閉塞材を中間層として説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明に係わる貫通孔閉塞構造の第1実施形態を示したもので、区画体の一例である壁Wに貫通固定された金属製スリーブ(金属製配設管)H1と、この金属製スリーブH1の外周面の両端部に形成された雄ネジ部に螺合接続可能で、且つ、螺合接続操作に連れて金属製スリーブH1の端面に軸芯方向から当接する該スリーブの内径と同径又は
ほぼ同径の環状保護部を備えた一対のケーブル保護用のブッシング(端末保護リング)H2とをもって壁W側に属する貫通孔Hを構成し、この貫通孔Hに貫通体の一例である複数のケーブルKを挿通するとともに、貫通孔Hの内周面とケーブルKの外周面との間の略円環状の開口部Haの両開口側の外方近傍箇所で、夫々、開口部Haの半径よりも大なる厚みに形成された略長方形状の一対の熱膨張耐火シール材AをケーブルKの外周面に沿って曲げ変形させ、開口部Haの開口を軸芯方向外方側から被覆閉塞するように開口部Haの端面(詳しくは、ブッシングH2の端面)に当て付けた状態で、この熱膨張耐熱シール材Aの外側面を被覆するようにブッシングH2の外周面H2a(貫通孔形成部の外面の一例)からケーブルKの外周面に亘って粘着性を備える拘束テープT(膨張抑制手段のテープ状体の一例)を周方向に巻き付けることにより、熱膨張性耐火シール材Aに径方向の圧縮力を作用させた状態で熱膨張耐火シール材Aを夫々開口部Haの両端面(開口部Ha近傍箇所の一例)に設けた貫通孔閉塞構造を構成してある。
【0018】
前記熱膨張性耐火シール材Aは、図2〜図4に示すように、薄板状の複数の閉塞材2を厚み方向(貫通体の径方向)に対象とする開口部Haの径方向長さよりも大きな径方向長さ(厚み)になるまで積層した状態で拘束袋1(拘束手段の袋状体の一例)に内包させてあり、前記閉塞材2は、耐火性材料、防音性材料の一例である断熱性を備えたロックウールを主体に、火災時に膨張するように熱膨張性材料の一例である未焼成バーミキュライト粉末を含有させて構成され、円環状に湾曲変形可能な可撓性と圧縮性が備えられている。そして、その幅d2は、耐火や防音等の目的に合わせた適当幅で形成され、その長手方向長さ(周方向長さ)lは、径方向に積層した状態でケーブルKの外周面に沿って円筒状に曲げ変形させた際に最内側層に位置する閉塞材2の長手方向両端部2dの端面同士が周方向から当接(接触)して貫通体の外周面を被覆できるように、ケーブルKの外周長さと同じ又は略同じ長さで形成されている。
【0019】
前記拘束袋1は透光性不織布の内面に防水性材料の一例である透明のポリエチレンフィルムをラミネートして透光性、且つ、防水性を備えさせるとともに、一側面を開口させた挿入口1aを除く接合部(収納空間周りの重合部分)を熱溶着して袋状に構成され、前記複数の閉塞材2を挿入口1aを通じて内部に挿入した状態で挿入口1aの開口縁部を重合させることにより挿入口1aを閉止してあり、袋状体1の防水性により閉塞材2が水に濡れることを抑制するとともに、開口部Ha又は貫通体の開口部Ha近傍箇所に装備させた際に、袋状体1の透光性により内部の閉塞材2による開口部Haの閉塞状態を確認できるようにしてある。
【0020】
拘束袋1の径方向長さD1は、前記複数の閉塞材2の径方向長さd1よりも若干大なる長さで、且つ、その幅D2が、閉塞材2の幅d2よりも若干大なる幅で形成されているとともに、閉塞材2を内包した状態で閉塞材2の長手方向両端部2dと拘束袋1の長手方向両端部との間に夫々余剰空間S1、S2が形成されるように、その長手方向長さLが閉塞材2の長手方向長さlよりも大なる長さで形成され、余剰空間S1、S2を用いて積層された状態の複数の閉塞材2が長手方向(周方向)に隣接する各層間で相対移動することを許容するとともに、余剰空間S1、S2に対応する拘束袋1の両側部分を熱膨張性耐熱シール材Aを取り扱うための握持部に兼用構成することにより、内包された閉塞材2に圧縮などの外力を加えることなく、開口部Ha又は貫通体の開口部Ha近傍箇所に設けることを可能にして閉塞材2の損傷を抑制する。
【0021】
図5に示すように、開口部Haに設けられた熱膨張性耐熱シール材Aは、その外側層2aが中間層2bに比して曲径が大きくなるために(換言すれば、曲率が小さくなるために)中間層2bと同じ角度をカバーするための必要周方向長さが不足して、中間層2bに比して、その長手方向両端部2dが周方向中央寄りに相対移動しているとともに、内側層2cが中間層2bに比して曲径が小さくなるために(換言すれば、曲率が大きくなるために)中間層2bと同じ角度をカバーするための必要周方向長さが余剰して、中間層2bに比して、その長手方向両端部2dが周方向外方に相対移動しており、熱膨張性耐熱シール材Aには、熱膨張性耐熱シール材Aの径方向縮変形に対する拘束力となる周方向圧縮力や周方向引張力が作用していない状態にある。
【0022】
そして、拘束テープTによる径方向への一様な圧縮力によって、熱膨張性耐熱シール材AのケーブルKの外周面に接する部分(挟圧部2e)が径方向に縮変形する一方で、ケーブルKの外周面に接していない部分(非挟圧部2f)には圧縮力が作用せず、非挟圧部2fは全く縮変形しないから、非挟圧部2fがケーブルKの外周面に極力近づいた状態を保持して開口部Haに隙間ができることを抑制する。
【0023】
前記拘束テープTは、アルミ箔に断熱性を備えるガラスクロスをラミネートして形成した基材にアクリル系の接着層を設けて構成してある。
【0024】
このように構成した貫通孔閉塞構造は、開口部Haを通じて火炎、煙、水が壁W内、又は隣室側に進入すること、及び、音、熱が壁W又は隣室側に伝達することを抑制することができ、さらに、火災が発生した時には、熱膨張耐熱シール材Aの外周面を被覆する拘束テープTにより、熱膨張耐熱シール材Aを構成する閉塞材2に含有された未焼成バーミキュライト粉末の熱膨張を障害物の存在しない壁Wの内面側に向けることができ、これにより、熱膨張性耐火シール材Aが開口部Haから貫通孔H外方に膨張流出することを抑制して、開口部Haの隙間、及びケーブルKが火炎や熱によって軟化融解又は焼失して形成された隙間を効率良く閉塞することができる。
【0025】
次に、第1実施形態の貫通孔閉塞構造を構成する工法について説明する。
まず、金属製スリーブH1とブッシングH2を螺合接続して形成された壁Wの貫通孔H内にケーブルKを挿通する。
【0026】
次に、一対の熱膨張性耐火シール材AをケーブルKの外周面に沿って円筒状に曲げ変形させて、開口部Haの開口を軸芯方向外方側から被覆閉塞するように貫通孔Hの両端面(詳しくは、ブッシングH2の両端面)に夫々当て付けた状態で押し付け、夫々の熱膨張性耐火シール材Aを構成する拘束袋1の余剰空間S1、S2に対応する両端部を重合させた状態に保持する、或いは、拘束袋1の余剰空間S1、S2に対応する両端部を重合させた状態でこれらをテープ又はホッチキスなどの結束具で仮止めして、熱膨張性耐火シール材を円環状の形態でケーブルK及び開口部Haの両外面(ケーブルKの開口部近傍箇所の一例)に仮固定する。
【0027】
最後に、夫々の熱膨張性耐火シール材Aの外方で貫通孔HのブッシングH2の外周面H2aからケーブルKの外周面に亘って熱膨張耐火シール材の外側面を被覆する状態で拘束テープTを周方向に巻き付ける。
【0028】
本発明の貫通孔閉塞構造は、上述のような工法で施工することができるので、例えば、硬化性パテなどを用いる貫通孔閉塞構造などに比べて、作業内容が簡単であり、また、硬化させるまでの時間を必要としないために施工時間も短く済むという利点がある。また、硬化性パテを用いない貫通孔閉塞構造であっても、小型の熱膨張性耐火シール材を複数押し込んで形成する貫通孔閉塞構造や薄帯状の熱膨張性耐火シール材Aを複数回巻回させて形成する貫通孔閉塞構造などに比べて、作業内容が簡単であるために作業時間が短くて済む。
【0029】
〔第2実施形態〕
前述の第1実施形態では、一対の熱膨張性耐火シール材Aを夫々開口部Haの両端面に設けていたが、一対の熱膨張性耐火シール材Aを開口部Ha内の両開口側に介装してもよい。
【0030】
この実施形態では、図6に示すように、一対の熱膨張性耐火シール材Aを貫通孔Hに挿通されたケーブルKの外周面に沿って円筒状に曲げ変形させて、ケーブルKの外周面を被覆する状態で略円環状の開口部Ha内に軸芯方向の両外方から夫々押し込み、この熱膨張耐熱シール材Aの外側面を被覆するように貫通孔Hを構成するブッシングH2の外周面H2aからケーブルKの外周面に亘って粘着性の拘束テープTを周方向に巻き付けることにより、熱膨張耐火シール材Aに貫通孔Hを構成する金属製スリーブH1及びブッシングH2の内周面とケーブルKの外周面によって径方向への圧縮力を作用させた状態で、熱膨張耐火シール材Aを開口部Ha内の両開口側に夫々介装した貫通孔閉塞構造を構成してある。
【0031】
開口部Haに介装された熱膨張性耐火シール材Aの状態は、熱膨張性耐火シール材Aの外方層2aが中間層2bに比して曲径が大きくなるために中間層2bと同じ角度をカバーするための必要周方向長さが不足して、中間層2bに対して、その両端部2dが周方向中央寄りに相対移動しているとともに、内方層2cが中間層2bに比して曲径が小さくなるために中間層2bと同じ角度をカバーするための必要周方向長さが余剰して、中間層2bに対して、その両端部2dが周方向外方に相対移動しており、閉塞材2の径方向縮変形に対する拘束力となる周方向圧縮力や周方向引張力が作用していない状態にある。
【0032】
そして、前述の径方向への圧縮力により、熱膨張性耐火シール材Aの貫通孔Hの内周面及びケーブルKの外周面の双方に接する部分が径方向に縮変形する一方で、貫通孔Hの内周面、又はケーブルKの外周面の双方に接していない部分、或いは貫通孔Hの内周面、又はケーブルKの外周面の一方に接する部分には圧縮力が作用せず、この部分は全く縮変形しないから、この部分が貫通孔Hの内周面、及びケーブルKの外周面に極力近づいた状態を保持して開口部Haに隙間ができることが抑制される。
【0033】
次に、第2実施形態の貫通孔閉塞構造を構成するための工法について説明する。
まず、第1実施形態と同様に、金属製スリーブH1と一対のブッシングH2を螺合接続して形成された壁Wの貫通孔H内にケーブルKを挿通する。
【0034】
次に、一対の熱膨張性耐火シール材Aを夫々ケーブルKの外周面に沿って円筒状に曲げ変形させて、熱膨張性耐火シール材の余剰空間S1、S2に対応する拘束袋1の両端部を重合させた状態で、貫通孔Hの内周面(詳しくは、ブッシングH2の内周面)とケーブルKの外周面との間の開口部Haに軸芯方向の両外方から押し込む。
【0035】
最後に、夫々の熱膨張性耐火シール材Aの外方で熱膨張耐火シール材Aの外側面を被覆するようにブッシングH2の外周面H2aからケーブルKの外周面に亘って拘束テープTを周方向に巻き付ける。
【0036】
尚、その他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同一であるから、同一の構成箇所には、第1実施形態と同一の番号を付記してそれの説明は省略する。
【0037】
〔第3実施形態〕
前述の第1実施形態では、貫通孔Hを壁Wに貫通固定された金属製ケーブルH1と金属性スリーブH1の両端部に螺合接続されたブッシングH2とから構成し、一対の熱膨張性耐火シール材Aを夫々開口部Haの両端面に設けていたが、貫通孔Hを壁Wに貫通形成し、一対の熱膨張性耐火シール材Aを夫々開口部Haの両開口外縁Wa(開口部Ha近傍箇所の一例)に設けてもよい。
【0038】
この実施形態では、図7に示すように、壁Wに貫通形成した貫通孔Hに複数のケーブルKを挿通して、貫通孔Hの内周面とケーブルKの外周面との間に略円環状の開口部Haを形成するとともに、一対の熱膨張性耐火シール材AをケーブルKの外周面に沿って曲げ変形させ、開口部Haの開口を軸芯方向外方側から被覆閉塞するように貫通孔Hの両開口外縁Wa、換言すれば、開口部Haの両開口外縁Waに夫々当て付けた状態で、この熱膨張性耐火シール材Aの外側面を被覆するように壁Wにおける開口部Haの開口外縁Wa(貫通孔形成部の外面の一例)からケーブルKの外周面に亘って周方向に巻き付けることにより、熱膨張性耐火シール材Aに径方向の圧縮力を作用させた状態で熱膨張耐火シール材Aを夫々開口部Haの両開口外縁Waに設けた貫通孔閉塞構造を構成してある。
【0039】
尚、その他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同一であるから、同一の構成箇所には、第1実施形態と同一の番号を付記してそれの説明は省略する。又、第3実施形態の貫通孔閉塞構造を構成する工法についても、第1実施形態で説明した工法とほぼ同様であるからその説明は省略する。
【0040】
〔第4実施形態〕
前述の第2実施形態では、貫通孔Hを壁Wに貫通固定された金属製ケーブルH1と金属性スリーブH1の両端部に螺合接続されたブッシングH2とから構成し、一対の熱膨張性耐火シール材AをブッシングH2の内周面とケーブルKの外周面との間の開口部Haの両開口側に夫々介装していたが、貫通孔Hを壁Wに貫通形成して、一対の熱膨張性耐火シール材Aを壁Wの貫通孔Hの内周面とケーブルKの外周面との間の開口部Ha内の両開口側に夫々介装してもよい。
【0041】
この実施形態では、図8に示すように、壁Wに貫通形成した貫通孔Hに複数のケーブルKを挿通して、貫通孔Hの内周面とケーブルKの外周面との間に開口部Haを形成するとともに、一対の熱膨張性耐火シール材AをケーブルKの外周面に沿って円筒状に曲げ変形させて、ケーブルKの外周面を被覆する状態で略円環状の開口部Ha内に両外方から夫々押し込み、この熱膨張耐熱シール材Aの外側面を被覆するように壁Wの開口部Haの開口外縁WaからケーブルKの外周面に亘って周方向に巻き付けることにより、熱膨張性耐火シール材Aに径方向の圧縮力を作用させた状態で熱膨張耐火シール材Aを開口部Ha内の両開口側に夫々介装した貫通孔閉塞構造を構成してある。
【0042】
尚、その他の構成は、第2実施形態で説明した構成と同一であるから、同一の構成箇所には、第2実施形態と同一の番号を付記してそれの説明は省略する。又、第4実施形態の貫通孔閉塞構造を構成する工法についても、第2実施形態で説明した工法とほぼ同様であるからその説明は省略する。
【0043】
〔その他の実施形態〕
(1)前述の各実施形態では、一対の熱膨張性耐火シール材Aを壁Wの両側方に夫々設けた場合を例に挙げて説明したが、壁Wの一側方だけに設けてもよい。
【0044】
(2)前述の各実施形態では、貫通孔Hとこれに挿通されるケーブルKの外周面とで形成される開口部Haが略円環状である場合を例に挙げて説明したが、どのような形状であっても本発明の貫通孔閉塞構造を適用することができる。
【0045】
(3)前述の各実施形態では、膨張抑制手段として、拘束テープTを貫通孔形成部及びケーブルKの外周面に粘着させる構成を例に挙げて説明したが、例えば、開口部Haの開口よりも大きなシート状体や開口部Haと同じ又は略同じ、或いは開口部Haよりも大きな形状の金属製又はプラスチック製などの剛性部材を貫通孔形成部及びケーブルKの外周面に取付ける構成であってもよい。要するに、膨張抑制手段としては、熱膨張耐火シール材Aの外側面を被覆する状態で固定することができればどのような構成であってもよい。
【0046】
(4)前述の第1、第2実施形態では、区画体側に属する貫通孔Hを、壁Wに貫通固定された金属製スリーブ(金属製配設管)H1と、この金属製スリーブH1の両端部に螺合接続された貫通孔Hと同径又はほぼ同径の内径を備えた一対のケーブル保護用のブッシング(端末保護リング)H2とで構成した場合を例に挙げて説明したが、例えば、ブッシングH2を用いずに壁Wに貫通固定された金属製スリーブ(金属製配設管)H1のみで構成してもよく、プラスチック製など金属以外の素材で形成されたスリーブで構成してもよい。
要するに、区画体側に属する貫通孔としては、区画体と一体的に構成されているものであればどのような構成であってもよい。
(5)前述の各実施形態では、熱膨張性耐火シール材Aを構成する複数の閉塞材2が、同一の形状に形成されている場合を例に挙げて説明したが、夫々異なる形状に形成されていてもよい。
【0047】
図9に示すように、この実施形態では、径方向に積層されている複数の閉塞材2が、内側層2cから外方に向かうに連れて、その層を構成している閉塞材2の長手方向長さlを長くして形成されている。詳しくは、各層を形成する閉塞材2が、径方向に積層した状態でケーブルK等の貫通体の外周面に沿って曲げ変形させた際に長手方向両端部2dの端面同士が周方向から当接(接触)する長さで形成されている。
【0048】
そのため、図10に示すように、熱膨張性耐火シール材AをケーブルKの外周面に沿って曲げ変形させた状態で円環状の開口部Haに装備させた場合に、外側層2aの長手方向両端部2dが周方向中間寄りに相対移動しても、長手方向長さlを長く形成した分、外側層2aの長手方向両端部2dがそれより内側の層の長手方向両端部2dよりも周方向中間部に移動することがなく、各層の長手方向両端部2dの端面同士が周方向から当接して各層が円環状になるから、開口部Haに隙間ができることを一層抑制することができる。
【0049】
(6)前述の各実施形態では、熱膨張性耐火シール材Aを構成する複数の閉塞材2の長手方向長さlが、ケーブルK等の貫通体の外周長さと同じ又は略同じ長さで形成されている場合を例に挙げて説明したが、複数の閉塞材2の長手方向長さlを貫通体の外周長さよりも大なる長さで形成して、熱膨張性耐火シール材Aの貫通体への巻回時に閉塞材2の両端側が径方向で重合するように構成してもよい。
【0050】
この実施形態では、閉塞材2の長手方向長さlが、貫通体の外周長さよりも大なる長さ、換言すれば、熱膨張性耐火シール材Aを貫通体の外周面に沿って巻回させた際に、閉塞材2の長手方向両端部2dの一端側(巻回状態における外方側)の内側面と長手方向端部2dの他端側(巻回状態における内方側)の外側面又は長手方向中間部の外側面とが接触する長さで形成されている。
【0051】
そのため、閉塞材2の長手方向両端部2dと拘束袋1の長手方向両端部との間の余剰空間S1、S2を用いて複数の閉塞材2の夫々を内側層2cから外方に向かうに連れて徐々に長手方向の一方側に移動させて複数の閉塞材2を側面視略平行四辺形状にした状態で、熱膨張性耐火シール材Aを貫通体の外周面に沿って巻回させて円環状の開口部Haに装備させることで、図11、図12に示すように、熱膨張性耐火シール材Aの周方向の端部側(換言すれば、閉塞材2の長手方向端部2d側)ほど閉塞材2の積層数を少なくして、熱膨張性耐火シール材Aの周方向の端部側ほどその厚みを薄くすることができ、そのことで、熱膨張性耐火シール材Aを円環状に沿い易くして円環状の開口部Haに隙間ができることを一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の貫通孔閉塞構造の第1実施形態を示す側面断面図
【図2】本発明の貫通孔閉塞構造を構成する熱膨張性耐火シール材を示す斜視図
【図3】図2のI−I線断面図
【図4】図2のII−II線断面図
【図5】本発明の貫通孔閉塞構造を構成する熱膨張性耐火シール材の使用時の状態を示す正面説明図
【図6】本発明の貫通孔閉塞構造の第2実施形態を示す側面断面図
【図7】本発明の貫通孔閉塞構造の第3実施形態を示す側面断面図
【図8】本発明の貫通孔閉塞構造の第4実施形態を示す側面断面図
【図9】本発明の貫通孔閉塞構造のその他の実施形態(5)における熱膨張性耐火シール材を示す側面断面図
【図10】本発明の貫通孔閉塞構造のその他の実施形態(5)における熱膨張性耐火シール材の使用時の状態を示す正面説明図
【図11】本発明の貫通孔閉塞構造のその他の実施形態(6)における熱膨張性耐火シール材の使用時の状態を示す正面説明図
【図12】本発明の貫通孔閉塞構造のその他の実施形態(6)における熱膨張性耐火シール材の使用時の状態を示す正面説明図
【符号の説明】
【0053】
W 壁(区画体、貫通孔形成部)
Wa 開口外縁(貫通孔形成部の外面)
H 貫通孔
H1 貫通スリーブ(貫通孔、貫通孔形成部)
H2 ブッシング(貫通孔、貫通孔形成部)
H2a 外周面(貫通孔形成部の外面)
Ha 開口部
K ケーブル(貫通体)
T 拘束テープ
A 熱膨張性耐火シール材
1 拘束袋(袋状体、拘束手段)
1a 挿入口
L 長手方向長さ(周方向長さ)
2 閉塞材
l 長手方向長さ(周方向長さ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画体側に属する貫通孔とこれに挿通される貫通体の外周面とで形成される開口部又は貫通体の開口部近傍箇所に、この開口部を閉塞する、又はほぼ閉塞する熱膨張性耐火シール材が設けられているとともに、
前記熱膨張性シール材の外側面を被覆して熱膨張性耐火シール材の貫通孔外方への膨張を抑制する膨張抑制手段が設けられている貫通孔閉塞構造。
【請求項2】
前記膨張抑制手段が、前記貫通孔を形成する貫通孔形成部の外面から前記貫通体の外周面に亘って周方向に巻回可能で、且つ、前記貫通孔形成部及び前記貫通体の外周面に粘着可能なテープ状体である請求項1記載の貫通孔閉塞構造。
【請求項3】
前記熱膨張性耐火シール材が、径方向に積層可能で、且つ、径方向に縮変形可能な複数の閉塞材と、積層された状態の前記複数の閉塞材を隣接層間の周方向相対移動を許容する状態で拘束する拘束手段とから構成されている請求項1又は2記載の貫通孔閉塞構造。
【請求項4】
前記拘束手段が、前記閉塞材を積層した状態で内包可能で、且つ、この閉塞材よりも周方向長さの大きな防水性素材製の袋状体であるとともに、この袋状体における閉塞材挿入用の挿入口が、その開口縁部を重合させることにより閉止可能に構成されている請求項3記載の貫通孔閉塞構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−32631(P2007−32631A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214040(P2005−214040)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000119830)因幡電機産業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】