貯水槽
【課題】貯水槽本体の側壁にステンレススチール製のパネルを容易に装着できるとともに、各パネルの溶接部及びその付近のパネルの溶接時の熱による変形を抑制できる貯水槽を提供する。
【解決手段】コンクリート側壁13の内壁面に対し接着剤25を介してパネル26を接着する。上側に位置するパネル26の下端縁26aの表面に対し、下側に位置するパネル26の上端部の段差状の上端縁26bを重ね合わせ、上端縁26bの上端を前記下端縁26aの表面に溶接部27によって連結する。前記溶接部27と対応する前記コンクリート側壁13の内壁面とパネル26の内側面との間に、前記接着剤25が存在しない非接着領域28を形成する。非接着領域28によって溶接部27の形成作業時に、熱が前記コンクリート側壁13のコンクリート17に伝達されて、溶接部27に熱が籠もるのを防止し、溶接部27付近のパネル26の熱変形を防止する。
【解決手段】コンクリート側壁13の内壁面に対し接着剤25を介してパネル26を接着する。上側に位置するパネル26の下端縁26aの表面に対し、下側に位置するパネル26の上端部の段差状の上端縁26bを重ね合わせ、上端縁26bの上端を前記下端縁26aの表面に溶接部27によって連結する。前記溶接部27と対応する前記コンクリート側壁13の内壁面とパネル26の内側面との間に、前記接着剤25が存在しない非接着領域28を形成する。非接着領域28によって溶接部27の形成作業時に、熱が前記コンクリート側壁13のコンクリート17に伝達されて、溶接部27に熱が籠もるのを防止し、溶接部27付近のパネル26の熱変形を防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート製の貯水槽に係り、詳しくは貯水槽本体の内壁面に接着剤を介して複数枚のパネルを接着するとともに、各パネルの端縁を互いに溶接部によって連結した漏水防止パネルを備えた貯水槽に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート製の貯水槽においては、貯水槽本体を構築する鉄筋コンクリートが経年劣化して、貯水槽本体に微細なクラックが生じて、水が外部に漏出する虞れがある。このため、貯水槽本体の内壁面に漏水防止対策が施される。この漏水防止対策として、貯水槽本体の内壁面に対しステンレススチール製の複数枚のパネルを接合し、隣接するパネルの端縁を溶接部によって連結する方法がとられている。この内張りパネル式の漏水防止構造を、図10及び図11に基づいて説明する。鉄筋コンクリート製の側壁31の内側面に所定のピッチで縦方向及び横方向に係止孔32を形成する。四角形状のパネル33の四辺に対し、前記各係止孔32と対応するように貫通孔34を複数箇所に形成し、各貫通孔34から前記係止孔32に係止ピン35を挿入する。そして、該係止ピン35をハンマー等により打ち込み、その係止ピン35の円錐台形状の頭部を前記係止孔32に係合するとともに、係止ピン35の先端部に設けた係止爪36を、図11に示すように前記貫通孔34の内奥の内周面に食い込ませて、パネル33を前記側壁31に装着する。同様に、パネル33の下方に別のパネル33を係止ピン35により装着する。その後、上側に位置する前記パネル33の下端縁に対し前記係止ピン35を被覆するように下側に位置するパネル33の上端縁を重ね合わせて、該パネル33の上端を溶接部37によって上側に位置するパネル33の表面に連結する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記従来の貯水槽の漏水防止構造は、前記各パネル33の端縁に貫通孔34を形成するとともに、該貫通孔34に係止ピン35を挿入して、該係止ピン35を側壁31に形成した係止孔32に挿入固定する面倒な作業が必要になるので、施工作業能率が低下するという問題があった。又、上側に位置するパネル33と下側に位置するパネル33とを互いに重ね合わせて溶接部37により連結する際に、次のような問題が生じた。即ち、上側に位置するパネル33の下端縁は、側壁31に対し係止ピン35によって複数箇所で連結されているが、各係止ピン35の間のパネル33は、側壁31の表面に連結されていない。このため、前記溶接部37の溶接時に発生する高温度の熱によって上側に位置するパネル33の下端縁及び下側に位置するパネル33の上端縁が図11に二点鎖線で示すように側壁31の上面から浮き上がり、溶接部37及び該溶接部37の付近のパネル33が熱変形して波打ち状態となり、外観が損なわれるという問題があたった。
【0004】
上記の問題を解消するため、前記係止ピン35に代えて、図12に示すように側壁31の内壁面に接着剤25を介してパネル33を接着することも考えられるが、この場合には、側壁31とパネル33との間の全域に熱伝導率が低い接着剤25が介在されているので、次のような問題が生じた。即ち、溶接部27の溶接作業時における高温度の熱によって該溶接部27付近の接着剤25aが高温度になって劣化され、接着機能が損なわれ、接着剤25aを用いる意味がなくなる。又、この接着剤25aが存在することにより、該接着剤25aによって、溶接時の熱が側壁31側へ伝達されるのが抑制され、結果的に接着剤25a付近に熱が籠もり易くなる。さらに、接着剤25aが高温に加熱されて熱膨張されることによってパネル33が図12の二点鎖線で示すように側壁31の壁面から遠ざかる方向に押されるので、パネル33が変形される。そして、前述したように前記接着剤25aにより溶接部27付近に熱が籠もり易く、これらの各要因によってパネル33が浪打ち状態に熱変形するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の技術に存する問題点を解消して、コンクリート製の貯水槽本体の内壁面にステンレススチール製のパネルを容易に装着することができるとともに、各パネルの溶接部及びその付近のパネルの溶接時の高温度の熱による変形を抑制して、パネルの溶接部の外観を向上することができる貯水槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、コンクリート製の貯水槽本体の内壁面に接着剤によりステンレススチール製の複数枚のパネルを接着し、各パネルの端縁を溶接部により連結した貯水槽において、前記貯水槽本体の内壁面と、溶接部が施されたパネルの裏面との間に、前記溶接部を起点として該溶接部から前記パネルの裏面に沿って反対方向に離隔する所定幅の帯状の非接着領域を設け、該非接着領域を帯状の空隙部としたことを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記帯状の空隙部には、金属製の帯状の伝熱板が収容されていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記伝熱板は、鉄、アルミニウム、銅の中から少なくとも1種が選択されたものであることを要旨とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記接着剤はコーキング剤であることを要旨とする。
(作用)
請求項1記載の発明は、貯水槽本体の内壁面に接着剤によってパネルが接着されるので、パネルの接着作業を容易に行うことができる。又、隣接するパネルの端縁を溶接する際に、溶接部付近に非接着領域として帯状の空隙部が存在し、接着剤は存在しないため、接着剤の熱膨張によりパネルが貯水槽本体の表面から離隔する方向に押されて隆起し、パネルを変形させることもない。さらに、前記空隙部の空気は前記溶接時に加熱されるが、この熱はコンクリート製の貯水槽本体に伝達される。このため、前記空隙部に高温度の熱が籠もり難くなり、溶接部及び該溶接部付近のパネルの高温の熱による変形が抑制され、パネルの接合部の外観を向上することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記空隙部に金属製の帯状の伝熱板が収容されているので、パネルの端部の溶接時に発生する熱が前記伝熱板を介して貯水槽本体側に伝達される。このため、パネルの溶接部の温度上昇が抑制され、パネルの熱変形が空隙部のみの構成と比較してさらに抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コンクリート製の貯水槽本体の内壁面にステンレススチール製のパネルを容易に装着することができるとともに、各パネルの溶接部及びその付近のパネルの溶接時の高温度の熱による変形を抑制して、各パネルの溶接部の外観を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の貯水槽を具体化した側壁側のパネルの溶接部付近の縦断面図。
【図2】側壁側のパネルの溶接部付近の部分斜視図。
【図3】底壁側のパネルの溶接部の縦断面図。
【図4】貯水槽の縦断面図。
【図5】貯水槽の平面図。
【図6】この発明の別の実施形態を示す要部の縦断面図。
【図7】図6に示すパネルの斜視図。
【図8】パネルの別の実施形態を示す斜視図。
【図9】この発明の別の実施形態を示す要部の縦断面図。
【図10】従来の貯水槽の漏水防止構造を示す側壁及びパネルの部分斜視図。
【図11】図10に示す貯水槽の漏水防止構造の平断面図。
【図12】従来の貯水槽の漏水防止構造を示す部分縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した貯水槽の一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
この実施形態の貯水槽11は、図4及び図5に示すように、鉄筋コンクリート製の底壁12と、鉄筋コンクリート製の4つの側壁13〜16によって、有底四角筒状に構築されている。前記底壁12は、コンクリート17と鉄筋網18とにより構成されている。前記鉄筋網18は多数本の縦鉄筋19と多数本の横鉄筋20を縦横に溶接によって連結することにより製造されている。前記底壁12には上下二箇所に鉄筋網18が所定の間隔をおいて埋設され、両鉄筋網18は多数本の連結鉄筋21の両端部を縦鉄筋19又は横鉄筋20に溶接することによって連結されている。
【0013】
前記側壁13〜16も前記底壁12と同様に、コンクリート17と、内外二箇所に埋設された鉄筋網18と、両鉄筋網18を連結する連結鉄筋21とによって構成されている。
前記底壁12の上面には接着剤25によってステンレススチール製の複数枚のパネル26が接着されている。同様に前記側壁13〜16の内面にも、接着剤25によってステンレススチール製の複数枚のパネル26が接着されている。前記パネル26は図4及び図5に示すように四角形状に形成され、パネル26の重ね合わされた端縁又は突き合わされた端縁は、それぞれ溶接部27によって連結されている。前記各パネル26の装着作業は、パネル26の裏面側に前記接着剤25を塗布した後、該パネル26を接着剤25によって前記底壁12の上面及びコンクリート側壁13〜16の内面に接着することにより行われる。このとき、四角形状のパネル26の四辺の端縁の裏面には接着剤25を塗布しないで行われる。(図2参照)
この実施形態においては、前記コンクリート17として、セメント、骨材(砂や砂利等)、水、混和材及び(化学)混和剤により成型された普通のコンクリートを用いている。又、前記接着剤25として、例えばシリコーンシーラント等のコーキング剤を用いているが、これ以外に例えばアクリル系樹脂接着剤等がある。さらに、前記接着剤25として、コンクリート17とパネル26のそれぞれの材料に対して、共に接着力に優れたものが用いられてもよい。この一例として、エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂系接着剤(Epoxy resin adhesives) がある。
【0014】
一方、この実施形態においては、パネル26として、JIS規格のマルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼のうちのいずれか一種を用いている。
【0015】
図1及び図2に示すように、前記側壁13の内壁面に接着剤25によって接着された上側に位置する前記パネル26の下側の端縁26aの表面に対し、下側に位置するパネル26の上側の端縁26bを段差状に変形する。そして、前記上側の端縁26bを前記下側の端縁26aに重ね合わせ、該下側の端縁26aの上端を電気溶接により溶接棒を用いて肉盛溶接して溶接部27を形成している。
【0016】
図3及び図4に示すように、底壁12の上面の隣接するパネル26の端縁は、互いに突き合わされ、この突合部が溶接部27によって連結されている。コンクリート側壁13〜16の互いに隣接するパネル26の縦方向に指向する端縁も互いに突き合わされ、溶接部27によって連結されている。さらに、図4及び図5に示すように、水平のパネル26と垂直のパネル26との直交する突合部も溶接部27によって溶接され、この溶接部27を起点として、非接着領域28及び空隙部29が形成されている。
【0017】
図1に示すように、前記接着剤25の層厚T寸法は、所定の範囲に設定されている。又、前記溶接部27を起点として該溶接部27から前記パネル26の裏面に沿って反対(上下)方向に離隔する所定の形成幅Wの領域を前記接着剤25が存在しない非接着領域28としている。この非接着領域28は空気が存在するのみで、この非接着領域28内の帯状の空隙部29が熱伝導部としての機能を発揮するものである。そして、前記溶接部27の形成作業において、溶接部27に発生した高温度の熱が非接着領域28の接着剤25の存在しない空隙部29に伝達され、該空隙部29からコンクリート側壁13、底壁12のコンクリート17に伝達されて、溶接部27に高い温度の熱が籠もるのを抑制し、高熱によるパネル26の溶接部27及び該溶接部27付近のパネル26の熱変形を抑制するようにしている。
【0018】
図1に示すように、前記帯状の非接着領域28(空隙部29)の形成幅Wは、前記溶接部27を起点Cとして、パネル26に沿って所定寸法に設定されている。形成幅Wは前記溶接部27の高熱によって前記接着剤25が劣化しない程度の寸法に設定されている。
【0019】
図3に示すパネル26の突合部の溶接部27と対応する部分にも前述した非接着領域28及び空隙部29と同様に非接着領域28及び空隙部29が設けられている。
前記のより構成された貯水槽11の上部には、図示しないが鉄筋コンクリート製の蓋壁が構築され、該蓋壁には水の供給と排出を行うポンプが配設されている。
【0020】
上記実施形態の貯水槽によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、コンクリート側壁13のコンクリート17の内壁面に接着剤25介して複数枚のパネル26を接着し、隣接する各パネル26の端縁を互いに重ね合わせて溶接部27によって連結した。又、前記溶接部27と対応して、前記接着剤25が存在しない非接着領域28を設け、該非接着領域28に帯状の空隙部29を形成した。このため、前記空隙部29にも接着剤25が存在する従来の構成と異なり、接着剤25が熱により膨張してパネル33を変形させることはない。又、溶接部27の形成作業時において、パネル26の端縁の溶接部27に発生する高温度の熱が非接着領域28内の空隙部29を介してコンクリート側壁13のコンクリート17に円滑に伝達され、溶接部27付近のパネル26の端縁に熱が籠もって高温度になり、パネル26の端縁が熱変形されて波打ち状態となるのが抑制される。
【0021】
又、前記非接着領域28以外の領域のパネル26は接着剤25によってコンクリート17の内壁面に接着されているので、この接着力によってパネル26の端縁26a,26bの溶接時に、端縁26a,26bが所定位置に保持され、この結果、溶接時にパネル26の端縁26a,26bがコンクリート17の内壁面から浮き上がることによる熱変形が防止される。
【0022】
(2)上記実施形態では、側壁13〜16側の上部に位置するパネル26の下側の端縁26aに対し下部に位置するパネル26の上側の端縁26bを重ね合わせて、該上側の端縁26bの端面を上部のパネル26の表面に溶接部27によって連結するようにした。このため溶接作業を容易に行うことができる。
【0023】
(3)上記実施形態では、前記底壁12の上面及び側壁13〜16の内面に接着剤25を介してパネル26を接着する構造であるため、貯水槽本体に対するパネル26の装着を容易に行うことができる。
【0024】
(4)上記実施形態では、貯水槽11の内壁面全域にわたってステンレススチール製のパネル26を装着したので、コンクリート17に亀裂が生じても、貯水槽11内の水が外部に漏出するのを防止することができる。
【0025】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・図6及び図7に示すように、互いに接合されるパネル26の上下両端縁にフランジ部26cを直角に折り曲げ形成し、フランジ部26cを上下に重ね合わせてその先端縁を溶接部27により連結するようにしてもよい。又、図8に示すようにパネル26の左右両側端縁にもフランジ部26cを直角に折り曲げ形成し、互いに接触されたフランジ部26cの先端縁を溶接部27により連結するようにしてもよい。
【0026】
・図9に示すように、前記非接着領域28に対し、前記パネル26の材料(ステンレススチール)と比較して、例えば、鉄、銅、アルミニウム又はそれらの合金等の熱伝導率の高い金属製の伝熱板30を収容するようにしてもよい。この場合には、単なる非接着領域28(空隙部29)の場合よりも、溶接部27の形成作業時における熱が伝熱板30を介してコンクリート17に伝達され易くなり、溶接部27及びその付近のパネル26の熱による変形が効果的に抑制される。
【0027】
・前記パネル26の内面に対し接着面積を増大させるための例えば細かい凹凸、溝、突条等を形成して、全体として粗面に形成してもよい。
・前記貯水槽11を有底円筒状、楕円筒状、三角筒状、五角筒状、六角筒状等に形成してもよい。
【0028】
・前記コンクリート17として、高強度コンクリートを用いてもよい。
・前記鉄筋網18をコンクリート17の一箇所に埋設したり、三箇所以上に埋設したりしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
C…起点、11…貯水槽、25…接着剤、26,33…パネル、26a,26b…端縁、27…溶接部、28…非接着領域、29…空隙部、30…伝熱板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート製の貯水槽に係り、詳しくは貯水槽本体の内壁面に接着剤を介して複数枚のパネルを接着するとともに、各パネルの端縁を互いに溶接部によって連結した漏水防止パネルを備えた貯水槽に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート製の貯水槽においては、貯水槽本体を構築する鉄筋コンクリートが経年劣化して、貯水槽本体に微細なクラックが生じて、水が外部に漏出する虞れがある。このため、貯水槽本体の内壁面に漏水防止対策が施される。この漏水防止対策として、貯水槽本体の内壁面に対しステンレススチール製の複数枚のパネルを接合し、隣接するパネルの端縁を溶接部によって連結する方法がとられている。この内張りパネル式の漏水防止構造を、図10及び図11に基づいて説明する。鉄筋コンクリート製の側壁31の内側面に所定のピッチで縦方向及び横方向に係止孔32を形成する。四角形状のパネル33の四辺に対し、前記各係止孔32と対応するように貫通孔34を複数箇所に形成し、各貫通孔34から前記係止孔32に係止ピン35を挿入する。そして、該係止ピン35をハンマー等により打ち込み、その係止ピン35の円錐台形状の頭部を前記係止孔32に係合するとともに、係止ピン35の先端部に設けた係止爪36を、図11に示すように前記貫通孔34の内奥の内周面に食い込ませて、パネル33を前記側壁31に装着する。同様に、パネル33の下方に別のパネル33を係止ピン35により装着する。その後、上側に位置する前記パネル33の下端縁に対し前記係止ピン35を被覆するように下側に位置するパネル33の上端縁を重ね合わせて、該パネル33の上端を溶接部37によって上側に位置するパネル33の表面に連結する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記従来の貯水槽の漏水防止構造は、前記各パネル33の端縁に貫通孔34を形成するとともに、該貫通孔34に係止ピン35を挿入して、該係止ピン35を側壁31に形成した係止孔32に挿入固定する面倒な作業が必要になるので、施工作業能率が低下するという問題があった。又、上側に位置するパネル33と下側に位置するパネル33とを互いに重ね合わせて溶接部37により連結する際に、次のような問題が生じた。即ち、上側に位置するパネル33の下端縁は、側壁31に対し係止ピン35によって複数箇所で連結されているが、各係止ピン35の間のパネル33は、側壁31の表面に連結されていない。このため、前記溶接部37の溶接時に発生する高温度の熱によって上側に位置するパネル33の下端縁及び下側に位置するパネル33の上端縁が図11に二点鎖線で示すように側壁31の上面から浮き上がり、溶接部37及び該溶接部37の付近のパネル33が熱変形して波打ち状態となり、外観が損なわれるという問題があたった。
【0004】
上記の問題を解消するため、前記係止ピン35に代えて、図12に示すように側壁31の内壁面に接着剤25を介してパネル33を接着することも考えられるが、この場合には、側壁31とパネル33との間の全域に熱伝導率が低い接着剤25が介在されているので、次のような問題が生じた。即ち、溶接部27の溶接作業時における高温度の熱によって該溶接部27付近の接着剤25aが高温度になって劣化され、接着機能が損なわれ、接着剤25aを用いる意味がなくなる。又、この接着剤25aが存在することにより、該接着剤25aによって、溶接時の熱が側壁31側へ伝達されるのが抑制され、結果的に接着剤25a付近に熱が籠もり易くなる。さらに、接着剤25aが高温に加熱されて熱膨張されることによってパネル33が図12の二点鎖線で示すように側壁31の壁面から遠ざかる方向に押されるので、パネル33が変形される。そして、前述したように前記接着剤25aにより溶接部27付近に熱が籠もり易く、これらの各要因によってパネル33が浪打ち状態に熱変形するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の技術に存する問題点を解消して、コンクリート製の貯水槽本体の内壁面にステンレススチール製のパネルを容易に装着することができるとともに、各パネルの溶接部及びその付近のパネルの溶接時の高温度の熱による変形を抑制して、パネルの溶接部の外観を向上することができる貯水槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、コンクリート製の貯水槽本体の内壁面に接着剤によりステンレススチール製の複数枚のパネルを接着し、各パネルの端縁を溶接部により連結した貯水槽において、前記貯水槽本体の内壁面と、溶接部が施されたパネルの裏面との間に、前記溶接部を起点として該溶接部から前記パネルの裏面に沿って反対方向に離隔する所定幅の帯状の非接着領域を設け、該非接着領域を帯状の空隙部としたことを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記帯状の空隙部には、金属製の帯状の伝熱板が収容されていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記伝熱板は、鉄、アルミニウム、銅の中から少なくとも1種が選択されたものであることを要旨とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記接着剤はコーキング剤であることを要旨とする。
(作用)
請求項1記載の発明は、貯水槽本体の内壁面に接着剤によってパネルが接着されるので、パネルの接着作業を容易に行うことができる。又、隣接するパネルの端縁を溶接する際に、溶接部付近に非接着領域として帯状の空隙部が存在し、接着剤は存在しないため、接着剤の熱膨張によりパネルが貯水槽本体の表面から離隔する方向に押されて隆起し、パネルを変形させることもない。さらに、前記空隙部の空気は前記溶接時に加熱されるが、この熱はコンクリート製の貯水槽本体に伝達される。このため、前記空隙部に高温度の熱が籠もり難くなり、溶接部及び該溶接部付近のパネルの高温の熱による変形が抑制され、パネルの接合部の外観を向上することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記空隙部に金属製の帯状の伝熱板が収容されているので、パネルの端部の溶接時に発生する熱が前記伝熱板を介して貯水槽本体側に伝達される。このため、パネルの溶接部の温度上昇が抑制され、パネルの熱変形が空隙部のみの構成と比較してさらに抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コンクリート製の貯水槽本体の内壁面にステンレススチール製のパネルを容易に装着することができるとともに、各パネルの溶接部及びその付近のパネルの溶接時の高温度の熱による変形を抑制して、各パネルの溶接部の外観を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の貯水槽を具体化した側壁側のパネルの溶接部付近の縦断面図。
【図2】側壁側のパネルの溶接部付近の部分斜視図。
【図3】底壁側のパネルの溶接部の縦断面図。
【図4】貯水槽の縦断面図。
【図5】貯水槽の平面図。
【図6】この発明の別の実施形態を示す要部の縦断面図。
【図7】図6に示すパネルの斜視図。
【図8】パネルの別の実施形態を示す斜視図。
【図9】この発明の別の実施形態を示す要部の縦断面図。
【図10】従来の貯水槽の漏水防止構造を示す側壁及びパネルの部分斜視図。
【図11】図10に示す貯水槽の漏水防止構造の平断面図。
【図12】従来の貯水槽の漏水防止構造を示す部分縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した貯水槽の一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
この実施形態の貯水槽11は、図4及び図5に示すように、鉄筋コンクリート製の底壁12と、鉄筋コンクリート製の4つの側壁13〜16によって、有底四角筒状に構築されている。前記底壁12は、コンクリート17と鉄筋網18とにより構成されている。前記鉄筋網18は多数本の縦鉄筋19と多数本の横鉄筋20を縦横に溶接によって連結することにより製造されている。前記底壁12には上下二箇所に鉄筋網18が所定の間隔をおいて埋設され、両鉄筋網18は多数本の連結鉄筋21の両端部を縦鉄筋19又は横鉄筋20に溶接することによって連結されている。
【0013】
前記側壁13〜16も前記底壁12と同様に、コンクリート17と、内外二箇所に埋設された鉄筋網18と、両鉄筋網18を連結する連結鉄筋21とによって構成されている。
前記底壁12の上面には接着剤25によってステンレススチール製の複数枚のパネル26が接着されている。同様に前記側壁13〜16の内面にも、接着剤25によってステンレススチール製の複数枚のパネル26が接着されている。前記パネル26は図4及び図5に示すように四角形状に形成され、パネル26の重ね合わされた端縁又は突き合わされた端縁は、それぞれ溶接部27によって連結されている。前記各パネル26の装着作業は、パネル26の裏面側に前記接着剤25を塗布した後、該パネル26を接着剤25によって前記底壁12の上面及びコンクリート側壁13〜16の内面に接着することにより行われる。このとき、四角形状のパネル26の四辺の端縁の裏面には接着剤25を塗布しないで行われる。(図2参照)
この実施形態においては、前記コンクリート17として、セメント、骨材(砂や砂利等)、水、混和材及び(化学)混和剤により成型された普通のコンクリートを用いている。又、前記接着剤25として、例えばシリコーンシーラント等のコーキング剤を用いているが、これ以外に例えばアクリル系樹脂接着剤等がある。さらに、前記接着剤25として、コンクリート17とパネル26のそれぞれの材料に対して、共に接着力に優れたものが用いられてもよい。この一例として、エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂系接着剤(Epoxy resin adhesives) がある。
【0014】
一方、この実施形態においては、パネル26として、JIS規格のマルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼のうちのいずれか一種を用いている。
【0015】
図1及び図2に示すように、前記側壁13の内壁面に接着剤25によって接着された上側に位置する前記パネル26の下側の端縁26aの表面に対し、下側に位置するパネル26の上側の端縁26bを段差状に変形する。そして、前記上側の端縁26bを前記下側の端縁26aに重ね合わせ、該下側の端縁26aの上端を電気溶接により溶接棒を用いて肉盛溶接して溶接部27を形成している。
【0016】
図3及び図4に示すように、底壁12の上面の隣接するパネル26の端縁は、互いに突き合わされ、この突合部が溶接部27によって連結されている。コンクリート側壁13〜16の互いに隣接するパネル26の縦方向に指向する端縁も互いに突き合わされ、溶接部27によって連結されている。さらに、図4及び図5に示すように、水平のパネル26と垂直のパネル26との直交する突合部も溶接部27によって溶接され、この溶接部27を起点として、非接着領域28及び空隙部29が形成されている。
【0017】
図1に示すように、前記接着剤25の層厚T寸法は、所定の範囲に設定されている。又、前記溶接部27を起点として該溶接部27から前記パネル26の裏面に沿って反対(上下)方向に離隔する所定の形成幅Wの領域を前記接着剤25が存在しない非接着領域28としている。この非接着領域28は空気が存在するのみで、この非接着領域28内の帯状の空隙部29が熱伝導部としての機能を発揮するものである。そして、前記溶接部27の形成作業において、溶接部27に発生した高温度の熱が非接着領域28の接着剤25の存在しない空隙部29に伝達され、該空隙部29からコンクリート側壁13、底壁12のコンクリート17に伝達されて、溶接部27に高い温度の熱が籠もるのを抑制し、高熱によるパネル26の溶接部27及び該溶接部27付近のパネル26の熱変形を抑制するようにしている。
【0018】
図1に示すように、前記帯状の非接着領域28(空隙部29)の形成幅Wは、前記溶接部27を起点Cとして、パネル26に沿って所定寸法に設定されている。形成幅Wは前記溶接部27の高熱によって前記接着剤25が劣化しない程度の寸法に設定されている。
【0019】
図3に示すパネル26の突合部の溶接部27と対応する部分にも前述した非接着領域28及び空隙部29と同様に非接着領域28及び空隙部29が設けられている。
前記のより構成された貯水槽11の上部には、図示しないが鉄筋コンクリート製の蓋壁が構築され、該蓋壁には水の供給と排出を行うポンプが配設されている。
【0020】
上記実施形態の貯水槽によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、コンクリート側壁13のコンクリート17の内壁面に接着剤25介して複数枚のパネル26を接着し、隣接する各パネル26の端縁を互いに重ね合わせて溶接部27によって連結した。又、前記溶接部27と対応して、前記接着剤25が存在しない非接着領域28を設け、該非接着領域28に帯状の空隙部29を形成した。このため、前記空隙部29にも接着剤25が存在する従来の構成と異なり、接着剤25が熱により膨張してパネル33を変形させることはない。又、溶接部27の形成作業時において、パネル26の端縁の溶接部27に発生する高温度の熱が非接着領域28内の空隙部29を介してコンクリート側壁13のコンクリート17に円滑に伝達され、溶接部27付近のパネル26の端縁に熱が籠もって高温度になり、パネル26の端縁が熱変形されて波打ち状態となるのが抑制される。
【0021】
又、前記非接着領域28以外の領域のパネル26は接着剤25によってコンクリート17の内壁面に接着されているので、この接着力によってパネル26の端縁26a,26bの溶接時に、端縁26a,26bが所定位置に保持され、この結果、溶接時にパネル26の端縁26a,26bがコンクリート17の内壁面から浮き上がることによる熱変形が防止される。
【0022】
(2)上記実施形態では、側壁13〜16側の上部に位置するパネル26の下側の端縁26aに対し下部に位置するパネル26の上側の端縁26bを重ね合わせて、該上側の端縁26bの端面を上部のパネル26の表面に溶接部27によって連結するようにした。このため溶接作業を容易に行うことができる。
【0023】
(3)上記実施形態では、前記底壁12の上面及び側壁13〜16の内面に接着剤25を介してパネル26を接着する構造であるため、貯水槽本体に対するパネル26の装着を容易に行うことができる。
【0024】
(4)上記実施形態では、貯水槽11の内壁面全域にわたってステンレススチール製のパネル26を装着したので、コンクリート17に亀裂が生じても、貯水槽11内の水が外部に漏出するのを防止することができる。
【0025】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・図6及び図7に示すように、互いに接合されるパネル26の上下両端縁にフランジ部26cを直角に折り曲げ形成し、フランジ部26cを上下に重ね合わせてその先端縁を溶接部27により連結するようにしてもよい。又、図8に示すようにパネル26の左右両側端縁にもフランジ部26cを直角に折り曲げ形成し、互いに接触されたフランジ部26cの先端縁を溶接部27により連結するようにしてもよい。
【0026】
・図9に示すように、前記非接着領域28に対し、前記パネル26の材料(ステンレススチール)と比較して、例えば、鉄、銅、アルミニウム又はそれらの合金等の熱伝導率の高い金属製の伝熱板30を収容するようにしてもよい。この場合には、単なる非接着領域28(空隙部29)の場合よりも、溶接部27の形成作業時における熱が伝熱板30を介してコンクリート17に伝達され易くなり、溶接部27及びその付近のパネル26の熱による変形が効果的に抑制される。
【0027】
・前記パネル26の内面に対し接着面積を増大させるための例えば細かい凹凸、溝、突条等を形成して、全体として粗面に形成してもよい。
・前記貯水槽11を有底円筒状、楕円筒状、三角筒状、五角筒状、六角筒状等に形成してもよい。
【0028】
・前記コンクリート17として、高強度コンクリートを用いてもよい。
・前記鉄筋網18をコンクリート17の一箇所に埋設したり、三箇所以上に埋設したりしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
C…起点、11…貯水槽、25…接着剤、26,33…パネル、26a,26b…端縁、27…溶接部、28…非接着領域、29…空隙部、30…伝熱板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の貯水槽本体の内壁面に接着剤によりステンレススチール製の複数枚のパネルを接着し、各パネルの端縁を溶接部により連結した貯水槽において、
前記貯水槽本体の内壁面と、溶接部が施されたパネルの裏面との間に、前記溶接部を起点として該溶接部から前記パネルの裏面に沿って反対方向に離隔する所定幅の帯状の非接着領域を設け、該非接着領域を帯状の空隙部としたことを特徴とする貯水槽。
【請求項2】
請求項1において、前記帯状の空隙部には、金属製の帯状の伝熱板が収容されていることを特徴とする貯水槽。
【請求項3】
請求項2において、前記伝熱板は、鉄、アルミニウム、銅の中から少なくとも1種が選択されたものであることを特徴とする貯水槽。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、前記接着剤はコーキング剤であることを特徴とする貯水槽。
【請求項1】
コンクリート製の貯水槽本体の内壁面に接着剤によりステンレススチール製の複数枚のパネルを接着し、各パネルの端縁を溶接部により連結した貯水槽において、
前記貯水槽本体の内壁面と、溶接部が施されたパネルの裏面との間に、前記溶接部を起点として該溶接部から前記パネルの裏面に沿って反対方向に離隔する所定幅の帯状の非接着領域を設け、該非接着領域を帯状の空隙部としたことを特徴とする貯水槽。
【請求項2】
請求項1において、前記帯状の空隙部には、金属製の帯状の伝熱板が収容されていることを特徴とする貯水槽。
【請求項3】
請求項2において、前記伝熱板は、鉄、アルミニウム、銅の中から少なくとも1種が選択されたものであることを特徴とする貯水槽。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、前記接着剤はコーキング剤であることを特徴とする貯水槽。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−202221(P2010−202221A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47202(P2009−47202)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(396003434)株式会社森松総合研究所 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(396003434)株式会社森松総合研究所 (11)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]