説明

貯蔵安定性を改善した貼付剤包装品

【課題】貯蔵安定性に優れた貼付剤包装品を提供すること。
【解決手段】(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬、及び(B)飽和脂肪酸モノ又はジアルカノールアミドを含む粘着剤層を有する貼付剤を包装袋に封入した貼付剤包装品であって、前記包装袋内部の相対湿度が60℃において1.5〜20%の範囲にあることを特徴とする貼付剤包装品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性を改善した貼付剤包装品に関する。
【背景技術】
【0002】
チアジド系利尿薬及びチアジド系類似薬は、遠位尿細管の起始部で管腔側膜に存在するNa+/Cl-(ナトリウムイオン/塩化物イオン)共輸送系を阻害し、Na+の再吸収を抑制することが知られており、降圧利尿薬として特に頻用されている。現在、チアジド系利尿薬としては、トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジド等が経口投与製剤の形態で本態性高血圧症の治療に使用されており、中でもトリクロルメチアジドは最も頻用される薬物の一つである。降圧利尿薬は食塩摂取量の多い日本では、降圧薬の併用療法において有用と考えられ、薬価が比較的低いことから医療経済面においてもメリットが大きいと考えられている。
【0003】
近年の大規模臨床試験の結果から、チアジド系利尿薬及びチアジド系類似薬は比較的低用量で降圧作用を示すことが判明してきた。一方で、代謝系への副作用(低カリウム血症、高尿酸血症、高脂血症、耐糖能低下等)は用量依存的に増加することが明らかになってきた。このため、既に欧米ではチアジド系利尿薬を低用量で使用することがガイドラインにおいて推奨されている。
【0004】
さらに、一般的に経口投与は投与後に急激な血漿中濃度の立ち上がりが見られるが、高齢者における急激な利尿は循環動態に悪影響を及ぼし、血漿量の減少、脱水、低血圧等による立ちくらみ、めまい等を引き起こすことがある。特に、心疾患等を有する高齢者に急激な利尿作用があらわれた場合、急激な血漿量の減少による血液濃縮を来たし、血栓塞栓症を誘発する恐れがある(非特許文献1参照)。このようなことから、利尿薬は、一過性の急激な血漿中濃度の上昇を抑えつつ、有効成分を一定の血漿中濃度に持続させることで、緩徐な利尿を目指すことが望ましいと考えられる。
【0005】
一般に、経皮吸収製剤、中でも特に、プラスチックフィルム等の支持体の一面に薬物を含有する貼付剤、特に粘着性マトリックス層を設けたテープ製剤は、肝臓の初回通過効果による薬物代謝や薬物投与後の一過性の血漿中濃度上昇等による各種副作用を回避でき、薬物を長時間にわたって持続的に投与可能であることが知られている。さらに、投与回数の減少や、コンプライアンスの向上、投与及びその中止の容易さ等の利点も期待され、特に高齢者や小児の患者で有用であることが知られている。
【0006】
しかしながら、一般的に薬物の皮膚透過性は著しく低く、これまで全身作用を目的に実用化された薬物は硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、スコポラミン、エストラジオール等の限られた薬物のみである。現在まで、利尿薬を含有した経皮吸収製剤に関する技術がいくつか提案されているに過ぎない。
【0007】
ロポットらはループ利尿薬の経皮治療系用組成物及びその製法の中で、脂肪酸アルカノールアミドとカルボン酸エステルの混合比により、浸透系からのループ利尿薬の放出遅延の度合いが決定されることを開示している(特許文献1参照)。
しかしながら、この技術は、実施例として懸濁液組成物を用いた例が挙げられているように、液剤やクリーム剤を意図したものと考えられる。液剤やクリーム剤は、利尿薬のような投与量の正確なコントロールが求められる全身性の薬物を投与し、長時間にわたって有効成分を一定の血漿中濃度に保ちつつ持続的に投与するには実用的ではない。また、リザーバー型経皮投与製剤で使用できることが述べられているが具体的な検討はなされておらず、テープ製剤のようなマトリックス型経皮吸収製剤については記載も示唆もされていない。
【0008】
レンらは、チアジド系類似薬であるインダパミドを含有した経皮吸収型の貼付剤(非特許文献2参照)を開示している。
しかしながら、この貼付剤は、投与後、経口剤と同様の一過性の急激な血漿中濃度の上昇が見られている。また、この貼付剤はインダパミドの経皮吸収性を高めるためにN−ドデシルアゼパン−2−オン(エイゾン)が使用されているが、エイゾンはそれ自身が生体内に経皮吸収され、抗ウィルス効果を有する可能性があることから、米国食品医薬品局(FDA)において添加剤として承認されなかったという事実があり、安全性の面から実用化には大きな障害があると考えられる(非特許文献3及び4参照)。
【0009】
このように、経皮吸収性に優れる、チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬を含有した経皮吸収製剤は、未だに完成されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−283936号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】内科 循環器プロトコール、75巻、5号、pp.747−761、1995
【非特許文献2】International journal of pharmaceutics、USA、ELSEVIER、in press(Available online 7 December 2008)
【非特許文献3】Advanced Drug Delivery Reviews、56(5)、pp.603−618、2004
【非特許文献4】Drug Development And Industrial Pharmacy、32(3)、pp.267−286、2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、種々の経皮吸収促進剤の中で、飽和脂肪酸モノ又はジアルカノールアミド、特にラウリン酸ジエタノールアミドが、チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬に対して非常に高い経皮吸収促進効果を示すことを見出した。
さらに、(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬(以下、「成分(A)」とも云う)、及び(B)飽和脂肪酸モノ又はジアルカノールアミド(以下、「成分(B)」とも云う)に、粘着基剤等を配合した貼付剤、特にテープ製剤とした場合に、有効成分である前記(A)の経皮吸収性に優れていることを明らかにした。
【0013】
しかしながら、当該製剤を60℃の過酷条件下で一定期間保存し、安定性を評価したところ、成分(A)について分解が認められた。特にトリクロルメチアジドについてはその分解が顕著であった。
一般的にチアジド系利尿薬は水溶液中及び高含水率の溶液中で加水分解反応を起こすことが報告されているが、経口投与製剤の保存において、加水分解反応は特に問題とされていなかった。ところが、非水系である当該貼付剤での加水分解反応は意外な現象であった。これはおそらく、経皮吸収促進効果を高めるラウリン酸ジエタノールアミドが、トリクロルメチアジドの加水分解反応に何らかの形で関与したものと考えられる。
【0014】
斯様な点から、本発明者らは、成分(A)と成分(B)とを併用した貼付剤は、成分(A)の経皮吸収性向上等の上記課題を解決したものの、貯蔵安定性の面においてさらに改善の余地があると云う問題点を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明者らは、さらに上記の如く、貼付剤中で有効成分が加水分解されると云う問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、トリクロルメチアジドとラウリン酸ジエタノールアミドを組み合わせた非水系の貼付剤について、保存中の相対湿度が高くなるほど貯蔵安定性が低下する傾向にあり、60℃における相対湿度が20%以下であれば、成分(A)の含量残存率を80%以上とすることができ、貯蔵安定性に優れることを見出した。
【0016】
一方で、本発明者らは、加水分解反応を抑制すべく、相対湿度がほぼ0%となるような過度の乾燥状態で前記貼付剤を保存し検討したところ、加水分解反応が抑制される代わりに構造不明の不純物(不純物I)が生成し、却って貯蔵安定性を低下させると云う問題点を見出した。なお、これまでのところ、トリクロルメチアジドにおける不純物Iの生成は報告されておらず、この不純物がどのような
ものであるか不明であるが、トリクロルメチアジド以外の成分(A)についても同様に不純物が生成するものと考えられる。
そこで、本発明者らは、さらに上記の如く、不純物が生成すると云う問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、保存時にある程度の湿度にすること、具体的には60℃における相対湿度が1.5%以上であれば、前記不純物の生成を防ぐことができ、貯蔵安定性に優れることを見出した。
【0017】
したがって、本発明者らは、(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬、及び(B)飽和脂肪酸モノ又はジアルカノールアミドを含む粘着剤層を有する貼付剤と、当該貼付剤を封入する包装袋とを有する貼付剤包装品において、包装袋内部の湿度を、前記特定の範囲内に制御することにより、貼付剤に含まれる成分(A)の、保存中における湿度に依存した加水分解を抑制しつつ、かつ不純物の生成を防ぐことができるので、成分(A)を効率よく経皮吸収させると共に、貯蔵安定性が良好な貼付剤を提供可能なことを見出し、本発明を完成するに到った。
【0018】
すなわち、本発明は、(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬及び(B)飽和脂肪酸モノ又はジアルカノールアミドを含む粘着剤層を有する貼付剤を包装袋に封入した貼付剤包装品であって、包装袋内部の相対湿度が60℃において1.5〜20%の範囲にあることを特徴とする貼付剤包装品に関する。
【0019】
なお、本明細書において貼付剤包装品とは、貼付剤とそれを封入する包装袋とが組み合わさった形態を意味する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、成分(A)及び成分(B)の併用により、成分(A)の高い経皮吸収性を有し、また、成分(A)の分解が抑制されるので、貯蔵安定性にも優れた貼付剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に用いられる貼付剤には、少なくとも粘着剤層が含まれており、適宜、粘着剤層を支持する支持体、粘着剤層を保護する剥離ライナーが含まれていてもよい。
【0022】
本発明の貼付剤に用いられる粘着剤層には、成分(A)及び成分(B)と、粘着基剤とが含まれており、更に、これ以外に必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、充填剤、薬物溶解補助剤、抗菌剤、皮膚刺激低減化剤等が適宜含まれていてもよい。
【0023】
本発明の粘着剤層に含まれる(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬は、上述の如く降圧利尿作用等を発揮する有効成分である。前記成分(A)のうちのチアジド系利尿薬としては、例えば、エチアジド、シクロペンチアジド、トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、ベンチルヒドロクロロチアジド、ペンフルチジド、ポリチアジド、メチクロチアジド等が挙げられる。また、前記成分(A)のうちのチアジド系類似薬としては、インダパミド、クロルタリドン、トリパミド、メチクラン、メトラゾン及びメフルシド等が挙げられる。これらを1種で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
前記成分(A)のうち、下記成分(B)との併用によって、経皮吸収性に優れる点かつ一定の血漿中濃度が長時間持続する点で、チアジド系利尿薬がより好ましく、このなかでも、トリクロルメチアジドが特に好ましい。
【0024】
前記成分(A)の含有量は、薬理効果が得られれば特に限定されるものではないが、少なすぎると十分な薬効を確保が難しく、多すぎると薬物が粘着剤層に析出し易くなり、粘着物性を低下させるおそれがあるので、粘着剤層の全組成量を100重量部としたとき0.1〜30重量部含有するのが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10重量部であり、特に好ましくは0.1〜5重量部である。
【0025】
本発明の粘着剤層に含まれる(B)飽和脂肪酸モノ又はジアルカノールアミドとしては、例えば、C6−C22飽和脂肪酸モノ又はジC1−C4アルカノールアミドが挙げられる。
前記成分(B)の具体例としては、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノイソプロパノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸モノイソプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等を挙げることができる。これらを1種で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
前記成分(B)うち、前記成分(A)の経皮吸収性を向上できる点で、C6−C22飽和脂肪酸ジC1−C4アルカノールアミドがより好ましく、このなかでも、ラウリン酸ジエタノールアミドが特に好ましい。
【0026】
前記成分(B)の含有量は、特に限定されるものではないが、少なすぎると薬物の経皮吸収促進効果を得ることが難しく、多すぎると基剤との相溶性が低下し粘着物性を低下させ易くするので、粘着剤層の全組成量を100重量部としたとき、このうち0.1〜30重量部含有するのが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10重量部であり、特に好ましくは0.1〜5重量部である。
【0027】
また、粘着剤層に含まれる前記成分(A)と前記成分(B)との重量比(A/B)は、経皮吸収促進効果の点及び皮膚刺激性の点から、0.1〜10、さらに0.5〜5、特に0.5〜3であるのが好ましい。
【0028】
本発明の貼付剤に用いられる粘着基剤は、特に限定されず、種々の粘着基剤を用いることができるが、当該粘着基剤としては、例えばアクリル系粘着基剤、ゴム系粘着基剤、シリコーン系粘着基剤及びビニルエーテル系粘着基剤を挙げることができる。このうち、アクリル系粘着基剤が好ましい。
【0029】
このアクリル系粘着基剤のなかで、モノマー構成単位中の側鎖にヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む共重合体が特に好ましい。
当該モノマー構成単位中の側鎖にヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む共重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを含む共重合体等が挙げられる。
前記共重合体の具体例としては、アクリル酸−2−エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・アクリル酸・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン・アクリル酸ヒドロキシルエチル・アクリル酸・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル・アクリル酸ヒドロキシルエチル・アクリル酸グリシジル・酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
前記粘着基剤として商業的に入手可能な市販製品としては、DURO−TAK(登録商標)87−2510、87−2287,87−4287、87−2516、87−2525(National Starch & Chemical Company)、GMS(登録商標)737、788(Cytec Industries Inc.)等が利用可能である。
【0030】
また、必要に応じて粘着基剤に架橋剤を加えてもよい。架橋剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、アミノ化合物、フェノール化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、有機過酸化物、金属アルコラート及び金属キレート化合物等が挙げられ、これらを1種又は2種以上粘着剤層に配合することができる。
具体的には、前記イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物や三官能性イソシアネートが挙げられる。前記有機金属アルコラートとしては、例えばテトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムブチレート等が挙げられる。前記金属キレート化合物としては、例えば、ジ−i−プロポキシビス(アセチルアセトン)チタネート、テトラオクチレングリコールチタネート、アルミニウムイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等が挙げられる。
【0031】
また、前記可塑剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリン等の油脂類;流動パラフィン等の炭化水素類;アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、安息香酸ベンジル、2−エチルヘキサン酸セチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、酢酸ベンジル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、トリオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル類等が挙げられ、これらを1種又は2種以上粘着剤層に配合することができる。
【0032】
また、前記酸化防止剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、エデト酸ナトリウムのようなキレート剤、亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、テトライソパルミチン酸アスコルビルのようなアスコルビン酸誘導体、酢酸トコフェロールのようなトコフェロール誘導体、硫酸オキシキノリンのようなキノリン誘導体等が挙げられ、これらを1種又は2種以上粘着剤層に配合することができる。
【0033】
また、前記充填剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、カオリン、ベントナイト、二酸化チタン等が挙げられる。前記薬物溶解補助剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等が挙げられ、これらを1種又は2種以上粘着剤層に配合することができる。
また、前記抗菌剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ベンサルコニウム、安息香酸、メチルパラヒドロキシベンゾエート等が挙げられ、これらを1種又は2種以上粘着剤層に配合することができる。
また、前記皮膚刺激低減化剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、無水ケイ酸等が挙げられる。
【0034】
また、本発明の貼付剤において前記粘着剤層の支持体としては、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体等からなる合成樹脂フィルム、天然繊維、合成樹脂繊維、又はこれらの複合繊維からなる布帛・織物、織布、不織布、紙、合成紙、金属箔等の単層体やこれらの積層体等が用いられる。支持体は、必要に応じてプライマー処理や撥水処理等の表面処理が施されたものであってもよい。
【0035】
さらに、本発明の貼付剤において前記粘着剤層の皮膚表面に粘着させる面は、剥離可能なライナー(以下、「剥離ライナー」と云う)によって、使用直前まで保護されていることが望ましい。本発明の剥離ライナーの素材としては、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の塗布によって剥離処理を施した紙、ポリエチレン樹脂等の合成樹脂をラミネートした紙、合成樹脂フィルム等が用いられる。
【0036】
本発明の貼付剤は、上記成分を用いて通常の貼付剤を製造する方法によって製造することができる。
例えば、上記成分(A)及び成分(B)の薬物、更に適宜上記粘着基剤を含む粘着剤組成物をアセトン、酢酸エチル等の適当な有機溶媒に溶解させ、得られた粘着剤溶液を支持体の片面上に塗工し、有機溶媒を乾燥・除去して粘着剤層を形成し、その後、粘着剤層上に剥離ライナーを貼り合せることで、製造することができる。
また、前記粘着剤溶液を剥離ライナー上に塗工し、有機溶媒を乾燥・除去して粘着剤層を形成し、その後、粘着剤層上に支持体の片面を貼り合せることで、製造してもよい。
なお、粘着剤層を形成する際に粘着剤溶液を一度に厚く塗工すると均一に乾燥することが困難な場合があるため、粘着剤層の厚みを充分なものにするために、2度以上に分けて塗工してもよい。
【0037】
本発明の貼付剤を封入する包装袋は、製剤を周囲環境と隔離する防湿包装材料を使用し、かつ包装袋内の湿度を一定に保つものである。
【0038】
上記包装袋は、互いに対向配置された一対の略矩形のシート材料から構成されている。互い対向配置されたシート材料は、これらの外縁部において接合されており、これにより周囲が全周にわたって閉じられ、前記貼付剤を封入できる空間が設けられている。なお、この外縁部の接合は、ヒートシールにより行なうか、又は接着剤を用いて行なってもよい。
上記包装袋に用いるシート材料の素材としては、周辺湿度環境と隔離することができるもの(場合によっては光透過を遮断するもの)であれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)のようなポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、セロハン、紙、アルミニウムが挙げられる。
上記包装袋に用いるシート材料は、上記素材を用いて、単層構造又は多層構造にしたものであってもよいが、外層と内層、場合によっては内層、中間層及び外層から主に構成される多層構造としたものが好ましい。このとき、内層にポリエチレンを用いるのが好ましい。
好ましくはPET、アルミニウム、ポリエチレンを積層したシート材料を有する包装袋が挙げられる。
【0039】
本発明の貼付剤包装品は、前記成分(A)及び(B)を含む粘着剤層を形成した貼付剤と、貼付剤を封入するための包装袋とを有する貼付剤包装品であって、包装袋内の相対湿度が60℃において1.5〜20%の範囲にあるように調整されているものである。当該相対湿度は、60℃において、2.0〜19%の範囲であるのがより好ましい。
【0040】
本発明の貼付剤包装品の包装袋内部を前記の相対湿度条件に保持するための手段としては、例えば、貼付剤を包装袋に封入する際に前記相対湿度の範囲内に調整した気体を注入し包装袋を密封する方法;乾燥剤を使用する方法等が挙げられる。
前記気体としては、空気;窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス等の不活化ガスが挙げられるが、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
前記乾燥剤としては、本発明の貼付剤包装品の包装袋内の相対湿度が60℃において前記特定の範囲となるよう制御できるものであれば特に限定されず、例えば、シリカゲル、塩化カルシウム、アロフェン、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。好ましくはアロフェン、塩化カルシウム、シリカゲル等が挙げられる。ゼオライトやアルカリ金属の酸化物及びアルカリ土類金属の酸化物等も乾燥剤として使用してもよいが、包装袋内の相対湿度を低下させる作用が強いことから、シリカゲル等の前記例示のものを使用した方が、包装袋内の相対湿度を調整し易い点で好ましい。本発明の効果を損なわない範囲で、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0041】
前記乾燥剤にて包装袋内部を前記特定の相対湿度に調整する場合には、前記乾燥剤を透湿パッケージに封入したものを、貼付剤と共に包装袋内の空間に同封するか、または包装袋の内層のシート材料自体に乾燥剤を備えてもよい。一例として、包装袋の内層と貼付剤の支持体との間に、透湿パッケージに封入した乾燥剤を配置するか、包装袋の内層として透湿シート層を配置し、内層と中間層との間に乾燥剤(吸湿層)を配置してもよい。作業性や簡便性の点から、透湿パッケージに封入した乾燥剤を同封するのが好ましい。
透湿パッケージや透湿シートの素材としては、水分を透過可能で湿度を制御できるものであれば特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレンからなる樹脂フィルム、織布や不織布等の布剤、紙等が挙げられる。
前記乾燥剤は、包装袋内部を本発明の前記特定の相対湿度範囲内に保持するために、適当量を使用する。その量は、包装袋中に存在する水の量、選択された乾燥剤の吸湿能力等に依存して決めればよい。
【実施例】
【0042】
以下に本発明について、実施例及び比較例とともにさらに詳細に説明する。これは本発明を限定するものではなく、技術的思想を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0043】
製造例1
〔貼付剤の製造〕
トリクロルメチアジド2.0重量部、ラウリン酸ジエタノールアミド3.0重量部、ミリスチン酸イソプロピル40.0重量部、アルミニウムアセチルアセトナート0.4重量部及びアクリル系粘着基剤(National Starch & Chemical Company社製、商品名:DURO−TAK 87−2516)54.6重量部を容器内で均一になるように混合・攪拌し、均一な塗工液を得た。
【0044】
この塗工液をポリエチレンテレフタレートフィルム製の支持体(厚さ12μm)の片面に乾燥後の厚みが約90μmとなるように塗工し、これを60℃で約1時間乾燥して粘着剤層を形成した。
【0045】
次に、前記にて形成した粘着剤層に、片面にシリコンコート処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム製の剥離ライナー(厚さ75μm)のシリコンコート面を貼り合せ、これを4.5cm×2cmの大きさに裁断し、各貼付剤(1枚当たりの粘着剤層130mg)を得た。
【0046】
製造例2
製造例1に使用されるラウリン酸ジエタノールアミドの代わりにオレイン酸ジエタノールアミドを用い製造例1と同じ条件及び方法で製造例2の貼付剤を得た。
【0047】
実施例1
〔貼付剤包装品の製造〕
PET(外層)、アルミニウム、ポリエチレン(内層)を積層した包装用シート(生産日本社製)の外周約0.5cmをヒートシールして10cm×10cmの袋状とし、1袋中に製造例1の貼付剤1枚を、シリカゲル2.3g(ドライヤーン、山仁薬品社製)1個とともに封入し、実施例1の貼付剤包装品とした。
【0048】
実施例2
PET(外層)、アルミニウム、ポリエチレン(内層)を積層した包装用シート(生産日本社製)の外周約0.5cmをヒートシールして10cm×10cmの袋状とし、1袋中に製造例1の貼付剤1枚を、アロフェンにパルプ及び適量のバインダーを添加してシート状に成形・加工された乾燥剤(アロフェン:パルプ= 50 : 50)0.84g(アローシート、品川化成社製)1個とともに封入し、実施例2の貼付剤包装品とした。
【0049】
比較例1
PET(外層)、アルミニウム、ポリエチレン(内層)を積層した包装用シート(生産日本社製)の外周約0.5cmをヒートシールして10cm×10cmの袋状とし、1袋中に製造例1の貼付剤1枚を封入し、比較例1の貼付剤包装品とした。
【0050】
比較例2
PET(外層)、アルミニウム、吸湿層(ゼオライト)、ポリエチレン(内層)を積層した乾燥剤と一体化した包装用シート(モイストキャッチ、共同印刷社製)の外周約0.5cmをヒートシールして10cm×10cmの袋状とし、1袋中に製造例1の貼付剤1枚を封入し、比較例2の貼付剤包装品とした。
【0051】
試験例1〔経皮吸収性試験〕
(ヘアレスマウス皮膚を用いたin vitro皮膚透過試験)
前記製造例1及び2にて得た各貼付剤を直径13mmの円形に打ち抜いたものを試験に用いた。7週齢の雄性へアレスマウスをジエチルエーテルで麻酔致死させた後、直ちに全身の皮膚を剥離した。その後、皮下脂肪を除去し、外皮側にドーナツ状のポリエチレンテレフタレート製フィルムを貼り付けた。得られた皮膚片を37℃に加温したリン酸塩緩衝液7mLが充填されている拡散セルに装着し、1時間水和した後、前記の直径13mmに打ち抜いた各貼付剤を外皮側に貼付した。試験開始後、レセプター液1mLをオートサンプラーで経時的にサンプリングし、同量の試験液を補充した。採取した試験液中の薬物量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC条件1)により定量し、定常状態透過速度を算出した。結果を表2に示した。
【0052】
HPLC分析条件1
検出器:紫外吸光光度計
検出波長:268nm
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのオクタデシルシリル化シリカゲルカラム(5μm)。
カラム温度:40℃
移動相:pH3.5に調整した80mM酢酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル/2−プロパノール=65/30/5
【0053】
試験例2〔保存安定性評価試験〕
実施例1、2及び比較例1、2の貼付剤包装品を60℃に設定した恒温槽内で1箇月間保存した。
保存前及び保存後の貼付剤(粘着剤層約20mg)中の成分をメタノール(20mL)で抽出した。抽出液について前記高速液体クロマトグラフィー(HPLC条件1)で測定し、貼付剤中のトリクロルメチアジド(保持時間約4分のピーク)を定量し、保存の前後におけるトリクロルメチアジド含量の変化を含量残存率として表3に示した。
また、抽出液について高速液体クロマトグラフィー(HPLC分析条件2)で測定し、加水分解生成物(保持時間約4分のピーク)及び不純物I(保持時間約37分のピーク)の生成量を、検出され
たピークの総面積に対する割合として表3に示した。
【0054】
HPLC分析条件2
検出器:紫外吸光光度計
検出波長:268nm
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのオクタデシルシリル化シリカゲルカラム(5μm)。
カラム温度:40℃
移動相A:0.1%トリフルオロ酢酸溶液
移動相B:アセトニトリル
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表1に従って変えて濃度勾配制御する。
【0055】
【表1】

【0056】
なお、包装袋内の相対湿度については、温湿度ロガー(ハイグロクロン、KNラボラトリーズ社製)を包装袋内に同封して測定し、包装袋内の湿度が定常状態に達したときから測定終了点までの平均相対湿度±標準偏差として示した。
【0057】
経皮吸収性試験の結果、表2に示すように、ラウリン酸ジエタノールアミドを用いることによって、トリクロルメチアジドの経皮吸収性が良好であった。
更に、表3に示すように、包装袋内の相対湿度が60℃において1.5%〜20%の範囲であった本発明の実施例1及び2の貼付剤包装品では、含量残存率80%以上となり、貯蔵安定性に優れることが示された。また、実施例1、2の貼付剤は保存後も外観及び物性に変化はなかった。
一方、乾燥剤を封入しなかった比較例1の貼付剤包装品では、保存中の包装袋内の相対湿度が約38%であったため、貼付剤中のトリクロルメチアジドが約40%も減少し、貯蔵安定性が不安定であった。また、乾燥剤としてゼオライトを使用した比較例2の貼付剤包装品では、保存中の包装袋内の相対湿度はほぼ0%を示し、過度の乾燥状態にあったため、加水分解反応物の生成は低く抑えられていたにも拘わらず、不純物Iが生成し、トリクロルメチアジドが約30%も減少し、貯蔵安定性が不安定であった。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
このことから、本発明の貼付剤包装品は、有効成分である前記(A)の経皮吸収性に優れ、しかも貯蔵安定性にも優れている。また、この有効成分を一定の血漿中濃度に保ちつつ持続的に投与することができ、かつ、一過性の急激な血漿中濃度の上昇を抑えることが可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の貼付剤包装品は、有効成分の経皮吸収性に優れ、かつ貯蔵安定性にも優れており、そして、一過性の急激な血漿中濃度の上昇を回避しながら、一定の血漿中濃度に保ちつつ持続的投与でき、急激な利尿作用の発現等による循環動態への悪影響等が抑えられた製剤として、医薬産業分野に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬、及び(B)飽和脂肪酸モノ又はジアルカノールアミドを含む粘着剤層を有する貼付剤を包装袋に封入した貼付剤包装品であって、包装袋内部の相対湿度が60℃において1.5〜20%の範囲にあることを特徴とする貼付剤包装品。
【請求項2】
成分(A)が、トリクロルメチアジドである請求項1記載の貼付剤包装品。
【請求項3】
成分(B)が、ラウリン酸ジエタノールアミドである請求項1又は2記載の貼付剤包装品。
【請求項4】
前記相対湿度が、60℃において2.0〜19%の範囲である請求項1〜3の何れか1項記載の貼付剤包装品。
【請求項5】
前記貼付剤が、支持体を有し、支持体の少なくとも片面に粘着剤層が塗工されている請求項1〜4の何れか1項記載の貼付剤包装品。

【公開番号】特開2011−51947(P2011−51947A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203729(P2009−203729)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000109831)トーアエイヨー株式会社 (25)
【Fターム(参考)】