説明

貯血槽

【課題】医療従事者が、貯血量をより正確に把握できるようにする。
【解決手段】貯血槽1は、ハウジング10と濾過手段50とを備えている。濾過手段50は、ハウジング10との間に濾過前の血液を貯留するための空間CS1,CS2を設けて、ハウジング10に配置される。そして、濾過手段50は、この空間CS1,CS2に貯留された血液を濾過する。また、ハウジング10および濾過手段50の少なくともいずれか一方には、上記の空間CS1,CS2の容積を小さくするための容積調整部111a,111a’が、設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯血槽、特に、静脈血および/または吸引血を貯留するための貯血槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の心臓手術においては、人工心肺装置が用いられる。人工心肺装置は、主に、貯血槽、送血ポンプ、熱交換器、血液回路および人工肺等から構成されている。このような人工心肺装置では、まず、患者の静脈より脱血した血液(静脈血)および術野より吸引した血液(吸引血)が、貯血槽に送り込まれ、貯血槽において、一時的に貯留される。そして、この血液が、送血ポンプにより熱交換器に送り込まれ、熱交換器において、血液の温度調節が行われる。また、人工肺において、温度調節が行われた血液のガス交換(二酸化炭素除去、酸素添加)が行われる。最後に、この血液が、動脈血として、患者の体内に戻される。
【0003】
このような人工心肺装置は、心臓手術において一時的に心臓と肺の機能を代行するものである。このため、人工心肺装置では、血液を患者に送り返す前に、手術時に血液に混入した異物や気泡等を、取り除く必要がある。たとえば、特許文献1には、気泡を血液から取り除くことができる貯血槽が、示されている。
【特許文献1】特開平6−343694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の貯血槽は、底部の一部が外方に突出した突出部を有している。そして、この突出部の斜め上方には、気泡を取り除くための中空円柱状のフィルタ部材が配置されている。このフィルタ部材の内部に血液が流入すると、この血液がフィルタ部材を通過するときに、この血液から気泡が取り除かれる。すると、血液は、貯血槽の突出部に流れ込み、突出部の内部空間に貯留される。
【0005】
このタイプの貯留槽では、血液から気泡を取り除くために、血液は、一旦、中空円柱状のフィルタ部材の内部に溜まる。そして、血液が中空円柱状のフィルタ部材の内部に溜まるにつれて、血液がフィルタ部材に作用する圧力が大きくなる。そして、この圧力があるポイントに達すると、血液がフィルタ部材を通過する。
【0006】
言い換えると、このタイプの貯留槽では、血液がフィルタ部材に溜まっていても、血液が所定の貯留高さにまで溜まらないと、血液はフィルタ部材をスムーズに通過することができない。このため、血液が所定の貯留高さにまで溜まるまでは、血液が貯血槽に取り込まれているにもかかわらず、この血液が貯血量として反映されるまでに時間がかかるという問題があった。このため、このような貯血槽が使用される現場では、この貯血槽を管理する臨床工学技士、看護師、又は医師等の医療従事者が、手術中に貯血量を正確に把握しにくいという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、医療従事者が、貯血量をより正確に把握できるようにする、ことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る貯血槽は、静脈血および/または吸引血を貯留するための貯血槽である。この貯血槽は、ハウジングと濾過手段とを備えている。濾過手段は、ハウジングとの間に濾過前の血液を貯留するための空間を設けて、ハウジングに配置される。そして、濾過手段は、この空間に貯留された血液を濾過する。また、ハウジングおよび濾過手段の少なくともいずれか一方には、上記の空間の容積を小さくするための容積調整部が、設けられている。
【0009】
ここでは、容積調整部が、ハウジングおよび濾過手段の少なくともいずれか一方に、設けられている。このような容積調整部を、ハウジングおよび濾過手段の少なくともいずれか一方に、設けることにより、上記の空間の容積を小さくすることができる。すると、血液が上記の空間の高さ方向に溜まる速度を、速くすることができる。すなわち、血液が濾過手段に与える圧力が、血液が濾過手段を通過できる圧力に到達するまでの時間を、短くすることができる。これにより、濾過手段に取り込まれた血液を、スムーズに濾過しハウジングに、貯血することができる。このため、この貯血槽を管理する医療従事者が、手術中に貯血量をより正確に把握することができる。
【0010】
請求項2に係る貯血槽では、請求項1に記載の貯血槽において、空間の少なくとも一部が、ハウジングの底部と濾過手段の下部との間に設けられる第1空間で構成される。ここでは、容積調整部が、ハウジングの底部および濾過手段の下部の少なくともいずれか一方から、第1空間の内部に向けて、突出している。
【0011】
この場合、容積調整部が、ハウジングの底部および濾過手段の下部の少なくともいずれか一方から、第1空間の内部に向けて突出しているので、第1空間の容積を、容積調整部により小さくすることができる。これにより、第1空間に取り込まれた血液を、スムーズに濾過しハウジングに、貯血することができる。このため、この貯血槽を管理する医療従事者が、手術中に貯血量を正確に把握することができる。
【0012】
請求項3に係る貯血槽では、請求項2に記載の貯血槽において、第1空間が、濾過前の静脈血を貯留するための空間になっている。
【0013】
この場合、濾過前の静脈血を貯留するための空間を、容積調整部により小さくすることができる。これにより、濾過手段に取り込まれた静脈血を、スムーズに濾過しハウジングに、貯血することができる。このため、この貯血槽を管理する医療従事者が、手術中に貯血量をより正確に把握することができる。
【0014】
請求項4に係る貯血槽では、請求項1又は2に記載の貯血槽において、空間の少なくとも一部が、ハウジングの上部と濾過手段の下部との間に設けられる第2空間で構成される。ここでは、容積調整部が、濾過手段の下部および濾過手段の中央部の少なくともいずれか一方から、第2空間の内部に向けて、突出している。
【0015】
この場合、容積調整部が、濾過手段の下部および濾過手段の中央部の少なくともいずれか一方から、第2空間の内部に向けて突出しているので、第2空間の容積を、容積調整部により小さくすることができる。これにより、第2空間に取り込まれた血液を、スムーズに濾過しハウジングに、貯血することができる。このため、この貯血槽を管理する医療従事者が、手術中に貯血量をより正確に把握することができる。
【0016】
請求項5に係る貯血槽では、請求項4に記載の貯血槽において、第2空間が、濾過前の吸引血を貯留するための空間になっている。
【0017】
この場合、濾過前の吸引血を貯留するための空間を、容積調整部により小さくすることができる。これにより、濾過手段に取り込まれた吸引血を、スムーズに濾過しハウジングに、貯血することができる。また、この貯血槽を管理する医療従事者が、手術中に貯血量をより正確に把握することができる。
【0018】
請求項6に係る貯血槽では、請求項1から5のいずれかに記載の貯血槽において、ハウジングが、ハウジングの底部の一部を外方に突出させた突出部と、濾過後の血液を迂回させるためにハウジングの底部に設けられた血液誘導部と、を有している。
【0019】
この場合、ハウジングには、濾過後の血液を迂回させるための血液誘導部が、設けられている。このため、この血液誘導部によって、濾過手段により濾過された血液が、突出部の近辺に直接的に流れ込むことを、規制することができる。すなわち、血液が突出部の近辺に直接的に流れ込んだときに発生する気泡の混入を、防止することができる。すなわち、濾過後の血液に気泡を混入させることなく、濾過後の血液を貯留することができる。
【0020】
請求項7に係る貯血槽では、請求項6に記載の貯血槽において、迂回させた血液を排出する排出口が、血液誘導部に設けられている。また、血液誘導部の排出口は、突出部側に開口しないように設けられている。
【0021】
この場合、血液誘導部の排出口は、突出部側に開口しないように設けられているので、濾過手段により濾過された血液が、突出部の近辺に直接的に流れ込むことを、確実に規制することができる。すなわち、血液が突出部の内部に直接的に流れ込んだときに発生する気泡の混入を、確実に防止することができる。すなわち、濾過後の血液に気泡を混入させることなく、濾過後の血液を貯留することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の貯血槽では、容積調整部が、ハウジングおよび濾過手段の少なくともいずれか一方に、設けられている。このような容積調整部を、ハウジングおよび濾過手段の少なくともいずれか一方に、設けることにより、上記の空間の容積を小さくすることができる。すると、血液が上記の空間の高さ方向に溜まる速度を、速くすることができる。すなわち、血液が濾過手段に与える圧力が、血液が濾過手段を通過できる圧力に到達するまでの時間を、短くすることができる。これにより、濾過手段に取り込まれた血液を、スムーズに濾過しハウジングに、貯血することができる。また、この貯血槽を管理する医療従事者が、手術中に貯血量を正確に把握することができる。
【0023】
また、本発明の貯血槽では、ハウジングには、濾過後の血液を迂回させるための血液誘導部が、設けられている。このため、この血液誘導部によって、濾過手段により濾過された血液が、突出部の内部に直接的に流れ込むことを、規制することができる。すなわち、この血液誘導部によって、血液が突出部の内部に直接的に流れ込んだときに発生する気泡の混入を、防止することができる。すなわち、濾過後の血液に気泡を混入させることなく、濾過後の血液を貯留することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明では、静脈血とは、患者の血管からカニューレを介して脱血された血液を示し、吸引血とは、術野である心臓内外から吸引した血液(ベント血およびサクション血)を示す。
【0025】
図1および図4に示すように、貯血槽1は、ハウジング10と濾過ユニット50とを備えている。
【0026】
ハウジング10は、図1に示すように、ハウジング本体11と、蓋体12とを有している。ハウジング本体11の外面は、透明な部材により形成されているが、図1では、外面から透けて見える内部の部材が示されていない。ハウジング10の内部には、図2に示すように、血液を貯留する貯血空間Sが、形成されている。この貯血空間Sは、ハウジング本体11に蓋体12を装着することにより形成されるハウジング10の内部空間である。
【0027】
ハウジング本体11は、図2および図3に示すように、一部が開口した箱形形状に形成されている。このハウジング本体11の開口は、略楕円形状すなわち小判形状に形成されている。また、ハウジング本体11は、箱形部111と、突出部211とを有している。箱形部111は、血液が流入する側の貯血空間、すなわち上部貯血空間Saを、形成する。突出部211は、血液が流出する側の貯血空間、すなわち下部貯血空間Sbを、形成する。突出部211は、箱形部111の底部の一部が外方に突出した部分であり、箱形部111に一体に形成されている。突出部211の底部には、貯血空間Sから外部に連通する管状の血液流出口211aが設けられている。この血液流出口211aは、たとえば、体外血液循環回路の送血ラインのチューブ(図示しない)に接続される。
【0028】
また、ハウジング本体11には、図2および図3に示すように、濾過ユニット50との間に設けられる空間の容積を小さくするための容積調整部たとえば突起部111aが、設けられている。突起部111aは、ハウジング本体11の底部すなわち箱形部111の底部111c(突出部を除く底部、非突出部の底部)に、設けられている。突起部111aは、箱形部111の底部111cから貯血空間Sに向けて突出する柱状に、形成されている。ここでは、3つの突起部111aが、箱形部111の底部111cに一体に形成されている。3つの突起部111aは、箱形部111の底部111cの所定の位置Pを中心とした円周上において、互いに間隔を隔てて配置されている。また、3つの突起部111aは、後述するC字状の血液誘導部111bの内側において、箱形部111の底部111cに一体に形成されている。
【0029】
ここで、箱形部111の一側壁と突出部211の一側壁とは、同一面に形成されている。この同一面には、貯血量を確認するための目盛り(図示せず)が設けられている。また、箱形部111の底部111cは、ハウジング本体11の開口に対向している。なお、以下では、ここに示した一側壁は、記号111dで表される(図3を参照)。
【0030】
また、ハウジング本体11には、図2および図3に示すように、濾過後の血液を迂回させるための血液誘導部111bが、設けられている。血液誘導部111bは、ハウジング本体11の底部すなわち箱形部111の底部111cに、設けられている。血液誘導部111bは、箱形部111の底部111cから貯血空間Sに向けて突出した壁状に、形成されている。具体的には、血液誘導部111bは、端部が対向した帯状に、形成されている。より具体的には、血液誘導部111bは、箱形部111の底部111cの所定の位置Pを中心とした円周上においてC字状の帯状に形成され、箱形部111の底部111cに一体に形成されている。また、血液誘導部111bは、3つの突起部111aを取り囲むように、C字状に箱形部111の底部111cに設けられている。
【0031】
なお、ここでは、図3に示すように、箱形部111の底部111cの所定の位置Pと血液誘導部111bとを結ぶ距離r2は、箱形部111の底部111cの所定の位置Pと突起部111aとを結ぶ距離r1より、長くなるように設定されている。
【0032】
また、血液誘導部111bには、迂回させた血液を排出する排出口111b’が、設けられている。また、血液誘導部111bの排出口111b’は、突出部211側に開口しないように設けられている。具体的には、突出部211の側壁を兼ねるハウジング本体11の側壁111d(上記の箱形部111の一側壁および突出部211の一側壁)を除いたハウジング本体の側壁111e,111f,111gに向かって、開口するように、血液誘導部111bの排出口111b’は、設けられている。すなわち、箱形部111の底部111cから立ち上がる側壁111e,111f,111gに向かって開口するように、血液誘導部111bの排出口111b’は、形成されている。ここでは、血液誘導部111bの排出口111b’は、突出部211の側壁を兼ねるハウジング本体11の側壁111dに対向する側壁111gに向かって開口している。
【0033】
蓋体12は、図1に示すように、ハウジング本体11の開口を覆うようにハウジング本体11に嵌合され装着される。蓋体12には、第1血液流入口12aと第2血液流入口12bとが、設けられている。第1血液流入口12aは、たとえば、体外血液循環回路における静脈血用の脱血ラインのチューブ(図示しない)に接続される。また、第1血液流入口12aは、蓋体12がハウジング本体11に装着された状態において、外部から後述する中央立設部353の管内に連通する。第2血液流入口12bは、たとえば、体外血液循環回路における吸引血用の吸引ラインのチューブ(図示しない)に接続される。また、第2血液流入口12bは、蓋体12がハウジング本体11に装着された状態において、外部から後述する吸引血用の貯留空間CS2(第2空間)に連通する(図6を参照)。
【0034】
ハウジング本体11および蓋体12の構成材料としては、たとえば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等を挙げることができる。このような材料で形成されるハウジング本体11は、貯血槽1の内部に貯留された貯血量や内部の血液の状態を、目視で確認することができるように、実質的に透明になっている。
【0035】
濾過ユニット50は、血液から骨片・肉片等の異物や気泡等を取り除くためのものである。濾過ユニット50は、ハウジング本体11の底部すなわち箱形部111の底部111cと、蓋体12との間に、配置される。
【0036】
濾過ユニット50は、図4から図6に示すように、第1フィルタ部材150と、第2フィルタ部材250と、ユニット本体350と、を有している。
【0037】
第1フィルタ部材150は、静脈血および吸引血から異物および気泡を取り除くためのものである。第1フィルタ部材150は、図4および図5に示すように、筒状のフィルタ部材である。本実施形態では、第1フィルタ部材150がハウジング本体11の内部に配置された状態において、後述のユニット本体350の円盤部352よりも高さの低い部分を部材下部151とし、円盤部352よりも高さの高い部分を部材上部152と定義する(図5を参照)。
【0038】
ここで、静脈血は、第1フィルタ部材150の部材下部151を通過する。静脈血が第1フィルタ部材150の部材下部151を通過するときには、第1フィルタ部材150の目(微細孔)のサイズに対応した所定のサイズ以上の気泡が、静脈血から取り除かれる。ここでは、血液が第1フィルタ部材150を通過することにより、たとえば、40ミクロン以上のサイズの気泡が、静脈血から取り除かれる。
【0039】
また、吸引血は、第1フィルタ部材150の部材上部152を通過する。吸引血が第1フィルタ部材の部材上部152を通過するときには、後述する第2フィルタ部材250で取り除くことができなかった異物が取り除かれる。また、このときには、第2フィルタ部材250で取り除くことができなかった気泡が、血液から取り除かれる。すなわち、第1フィルタ部材150の目(微細孔)のサイズに対応した所定のサイズ以上の異物および気泡が、吸引血から取り除かれる。ここでは、血液が第1フィルタ部材150を通過することにより、たとえば、40ミクロン以上のサイズの異物および気泡が、吸引血から取り除かれる。
【0040】
第2フィルタ部材250は、吸引血から異物および気泡を取り除くためのものである。第2フィルタ部材250は、図4および図6に示すように、ユニット本体350の外周に取り付けられる。
【0041】
ユニット本体350は、脚部351と、円盤部352と、中央立設部353とを有している。
【0042】
脚部351は、円盤部352に一体に形成される。また、脚部351は、ハウジング本体11の底部すなわち箱形部111の底部111cに当接する。具体的には、脚部351は、血液誘導部111bの内側において、箱形部111の底部111cに当接する。より具体的には、脚部351は、血液誘導部111bと突起部111aとの間において、箱形部111の底部111cに当接する。
【0043】
円盤部352は、脚部351および中央立設部353と一体に形成される。円盤部352は、静脈血および吸引血が混ざらないように、各血液が貯留される貯留空間を分離する。
【0044】
中央立設部353は、円盤部352に一体に形成されている。具体的には、中央立設部353は、円盤部352の中心部において、管状に円盤部352に一体に形成されている。言い換えると、中央立設部353は、円盤部352の中心部において、円盤部352の面外に延びている。また、中央立設部353は、円盤部352の中心部を貫通している。この中央立設部353は、静脈血を、後述する静脈血用の貯留空間CS1(第1空間)に導く役割を担っている(図6を参照)。
【0045】
第2フィルタ部材250は、吸引血から異物および気泡を取り除くためフィルタである。第2フィルタ部材250は、図6に示すように、ユニット本体350の外側に装着される。具体的には、第2フィルタ部材250は、筒状に形成されており、ユニット本体350の脚部351の上部に装着される。第2フィルタ部材250がユニット本体350に装着された状態において、吸引血が第2フィルタ部材250を通過すると、吸引血から異物および気泡が、取り除かれる。
【0046】
第2フィルタ部材250の内面には、気泡を消泡する消泡剤たとえばシリコーンが、塗布されている。このため、血液が第2フィルタ部材250を通過する前に、血液が第2フィルタ部材250に接触すると、血液に含まれる気泡が、消泡剤により破裂させられる。そして、血液が第2フィルタ部材250を通過した後には、第2フィルタ部材250の目のサイズに対応した所定のサイズ以上の気泡が、血液から取り除かれる。ここでは、血液が第2フィルタ部材250を通過した後には、たとえば、500ミクロン以上のサイズの気泡が、吸引血から取り除かれる。なお、血液が第2フィルタ部材250を通過するときには、血液から異物も取り除かれる。たとえば、第2フィルタ部材250の目のサイズより大きな異物が、吸引血から取り除かれる。
【0047】
上記のような貯血槽1は、次のようにして、組み立てられる。
【0048】
まず、濾過ユニット50のユニット本体350に、第2フィルタ部材250が装着される。たとえば、ユニット本体350に、筒状の第2フィルタ部材250が装着される。より具体的には、ユニット本体350の脚部351の上部に、筒状の第2フィルタ部材250が巻き付けられ装着される。
【0049】
なお、本実施形態の装着方法とは異なる装着方法としては、ユニット本体350と第2フィルタ部材250をインサート成形する方法や、ユニット本体350に第2フィルタ部材250を高周波や超音波を用いて溶着する方法などがある。
【0050】
次に、第2フィルタ部材250が装着されたユニット本体350が、ハウジング本体11の内部に装着される。具体的には、ユニット本体350の脚部351が、ハウジング本体11の底部すなわち箱形部111の底部111cに設置される。より具体的には、ユニット本体350の脚部351が、箱形部111の底部111cに形成された突起部111aと血液誘導部111bとの間に、設置される。続いて、ユニット本体350がハウジング本体11の内部に装着された状態において、第1フィルタ部材150がユニット本体350の外側に被せられ装着される。なお、装着を強固なものにするために、第1フィルタ部材150の底面とハウジング本体111の底部111cとが嵌合されるようにしても良い。続いて、蓋体12がハウジング本体11に装着される。すると、蓋体12とハウジング本体11の底部(箱形部111の底部111c)との間に濾過ユニット50が配置され、貯血槽1が組み立てられる。
【0051】
このようにして、貯血槽1が組み立てられると、貯血槽1には、濾過前の静脈血を貯留するための静脈血用の貯留空間CS1(第1空間)と、濾過前の吸引血を貯留するための吸引血用の貯留空間CS2(第2空間)とが、形成される(図6を参照)。
ここでは、貯血槽1が組み立てられた状態において、ユニット本体350の円盤部352より下方の空間が、静脈血用の貯留空間CS1になる。また、貯血槽1が組み立てられた状態において、ユニット本体350の円盤部352より上方の空間が、吸引血用の貯留空間CS2になる。より具体的には、蓋体12の裏面、ユニット本体350の円盤部352の上面、ユニット本体350の中央立設部353の外面、および第2フィルタ部材250の内面によって取り囲まれた空間が、吸引血用の貯留空間CS2になる。また、円盤部352の下面、ハウジング本体11の底部(箱形部111の底部111c)、第1フィルタ部材150の内面によって取り囲まれた空間が、静脈血用の貯留空間CS1になる。
【0052】
なお、図6では、濾過ユニット50がハウジング10に装着された状態の図ではない。しかしながら、静脈血用の貯留空間CS1および吸引血用の貯留空間CS2を図上で視認することができるように、ここでは、図6を用いて、静脈血用の貯留空間CS1および吸引血用の貯留空間CS2が形成されうる空間を示した。
【0053】
ここで、貯血槽1が組み立てられた状態においては、蓋体12に設けられた第1血液流入口12aは、ユニット本体350の中央立設部353の管内の空間に、通じている。そして、この管内の空間は、静脈血用の貯留空間CS1に通じている。また、蓋体12に設けられた第2血液流入口12bが、吸引血用の貯留空間CS2に、通じている。
【0054】
以下に、本貯血槽1における血液の貯留形態について、説明する。
【0055】
静脈血が、体外血液循環回路における静脈血用の脱血ラインのチューブに接続された血液流入口すなわち第1血液流入口12aに流入すると、この静脈血が、ユニット本体350の中央立設部353の管内を通って、静脈血用の貯留空間CS1(第1空間)に貯留される。すると、この静脈血が、静脈血用の貯留空間CS1に溜まり始める。ここでは、静脈血用の貯留空間CS1には、突起部111aが配置されているので、静脈血が静脈血用の貯留空間CS1において高さ方向に溜まる速度は、突起部111aが配置されていない場合と比較して速くなる。そして、静脈血が静脈血用の貯留空間CS1に溜まるにつれて、静脈血が、第1フィルタ部材150に作用する圧力が、大きくなる。そして、この圧力があるポイントに達すると、静脈血が第1フィルタ部材150を通過し、静脈血から気泡が取り除かれる。
【0056】
また、吸引血が、体外血液循環回路における吸引血用の吸引ラインのチューブに接続された血液流入口すなわち第2血液流入口12bに流入すると、この吸引血が、吸引血用の貯留空間CS2(第2空間)に貯留される。すると、この吸引血が、吸引血用の貯留空間CS2に溜まり始める。そして、吸引血が吸引血用の貯留空間CS2に溜まるにつれて、吸引血が、第2フィルタ部材250に作用する圧力が、大きくなる。そして、この圧力があるポイントに達すると、吸引血が第2フィルタ部材250を通過し、吸引血から異物および気泡が取り除かれる。また、第2フィルタ部材250を通過した吸引血は、第1フィルタ部材150に到達する。そして、第2フィルタ部材250を通過した吸引血は、第1フィルタ部材150を通過し、吸引血から異物および気泡が取り除かれる。
【0057】
なお、第2フィルタ250では、骨片や肉片等の異物および比較的大きな気泡が、取り除かれる。また、第1フィルタ部材150では、第2フィルタ部材250で取り除くことができなかった、異物および比較的小さな気泡が、取り除かれる。
【0058】
このようにして、静脈血および吸引血が濾過ユニット50により濾過されると、濾過後の血液(静脈血および吸引血)は、濾過ユニット50すなわち第1フィルタ部材150と、血液誘導部111bとの間に流れ込む。すると、濾過後の血液が、血液誘導部111b(壁部)により、突出部211の側壁を兼ねるハウジング本体11の側壁111dに対向する側壁111gの方向に誘導される。そして、濾過後の血液が、血液誘導部111bの排出口111b’から側壁111gの方向に向けて流出する。すると、この血液は、血液誘導部111bとハウジング本体11の側壁111e,111fとの間を通って、ハウジング本体11の突出部211へと流れ込む。このようにして、濾過後の血液は、貯血槽1に貯血される。
【0059】
以下に、本貯血槽1の特徴について、説明する。
【0060】
本実施形態では、ハウジング10に突起部111aが設けられており、この突起部111aが静脈血用の貯留空間CS1に向けて突出しているので、静脈血用の貯留空間CS1の容積を小さくすることができる。このため、静脈血が静脈血用の貯留空間CS1の高さ方向に溜まる速度を、速くすることができる。すなわち、静脈血があるポイントに到達するまでの時間を、短くすることができる。これにより、濾過ユニット50に取り込まれた静脈血を、スムーズに濾過しハウジングに、貯血することができる。また、この貯血槽を管理する医療従事者が、手術中に貯血量をより正確に把握することができる。
【0061】
また、本実施形態では、ハウジング10に血液誘導部111bが設けられている。また、本実施形態では、血液誘導部111bの排出口111b’が、突出部211側に開口しないように設けられている。このため、濾過ユニット50より濾過された血液が、ハウジング10の突出部211の内部に直接的に流れ込むことを、確実に規制することができる。すなわち、血液が突出部211の内部に直接的に流れ込んだときに発生する気泡を混入させることなく、濾過後の血液を突出部211の内部に貯留することができる。
【0062】
〔他の実施形態〕
(a)前記実施形態では、容積調整部111aが、3つの柱状の突起である場合の例を示したが、容積調整部の形状や個数は、前記実施形態に限定されず、どのようにしても良い。
(b)前記実施形態では、容積調整部111aが、ハウジング10に形成される場合の例を示したが、容積調整部111aが形成される部材は、貯留空間CS1,CS2の容積を小さくすることができれば、どの部材に形成しても良い。
【0063】
たとえば、容積調整部が、図7に示すように、濾過ユニット50に形成されるようにしても良い。具体的には、容積調整部111a’が、濾過ユニット50の中央立設部353に形成されるようにしても良い。より具体的には、容積調整部111a’が、ユニット本体350の中央立設部353の外周面に形成されるようにしても良い。ここでは、ユニット本体350の中央立設部353の外周面において軸方向に延びる容積調整部111a’(突起部)が、周方向に所定の間隔を隔てて設けられている。このため、吸引血用の貯留空間CS2を、この容積調整部111a’により小さくすることができる。これにより、濾過ユニット50に取り込まれた吸引血を、静脈血と同様に、スムーズに濾過しハウジングに、貯血することができる。また、この貯血槽を管理する医療従事者が、手術中に貯血量をより正確に把握することができる。
【0064】
なお、この場合、容積調整部111a,111a’は、ハウジング10と濾過ユニット50(ユニット本体350の中央立設部353)との両方に形成されるようにしても良い。この場合は、濾過ユニット50に取り込まれた静脈血および吸引血を、スムーズに濾過しハウジングに、貯血することができる。また、この貯血槽を管理する医療従事者が、手術中に貯血量をより正確に把握することができる。
【0065】
たとえば、容積調整部が濾過ユニット50に形成される場合の他の例として、ユニット本体350の脚部351の下部を、容積調整部の代用として、利用しても良い。具体的には、脚部351の太さを、前記実施形態の脚部351の太さより太くすることにより、ユニット本体350の脚部351を、容積調整部として代用することができる。
【0066】
たとえば、容積調整部が濾過ユニット50に形成される場合の他の例として、容積調整部が、濾過ユニット50に形成されるようにしても良い。具体的には、容積調整部が、ユニット本体350の円盤部352に形成されるようにしても良い(図示しない)。そして、この容積調整部を静脈血用の貯留空間CS1に配置すると、静脈血用の貯留空間CS1を、容積調整部により小さくすることができる。これにより、上述した効果と同様の効果を得ることができる。
【0067】
なお、容積調整部は、ハウジング10と濾過ユニット50(ユニット本体350の円盤部352)との両方に形成されるようにしても良い。この場合は、上述した効果をより効果的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態による貯血槽の外観図。
【図2】貯血槽のハウジング内部を示す図(その1)。
【図3】貯血槽のハウジング内部を示す図(その2)。
【図4】ハウジングに対する濾過ユニットの設置状態を示す図。
【図5】濾過ユニットの第1フィルタ部材を示す図。
【図6】濾過ユニットの第2フィルタ部材およびユニット本体を示す図。
【図7】他の実施形態のユニット本体を示す図。
【符号の説明】
【0069】
1 貯血槽
10 ハウジング
111a,111a’ 容積調整部、突起部
111b 血液誘導部
111b’ 排出口
50 濾過ユニット(濾過手段)
150 第1フィルタ部材
250 第2フィルタ部材
350 ユニット本体
353 中央立設部(中央部)
211 突出部
CS1 静脈血用の貯留空間(第1空間)
CS2 吸引血用の貯留空間(第2空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静脈血および/または吸引血を貯留するための貯血槽であって、
ハウジングと、
前記ハウジングとの間に濾過前の血液を貯留するための空間を設けて、前記ハウジングに配置され、前記空間に貯留された血液を濾過する濾過手段と、
を備え、
前記空間の容積を小さくするための容積調整部が、前記ハウジングおよび前記濾過手段の少なくともいずれか一方に、設けられる、
貯血槽。
【請求項2】
前記空間の少なくとも一部は、前記ハウジングの底部と前記濾過手段の下部との間に設けられる第1空間で構成され、
前記容積調整部は、前記ハウジングの底部および前記濾過手段の下部の少なくともいずれか一方から、前記第1空間の内部に向けて、突出している、
請求項1に記載の貯血槽。
【請求項3】
前記第1空間は、濾過前の静脈血を貯留するための空間である、
請求項2に記載の貯血槽。
【請求項4】
前記空間の少なくとも一部は、前記ハウジングの上部と前記濾過手段の下部との間に設けられる第2空間で構成され、
前記容積調整部は、前記濾過手段の下部および前記濾過手段の中央部の少なくともいずれか一方から、前記第2空間の内部に向けて、突出している、
請求項1又は2に記載の貯血槽。
【請求項5】
前記第2空間は、濾過前の吸引血を貯留するための空間である、
請求項4に記載の貯血槽。
【請求項6】
前記ハウジングは、前記ハウジングの底部の一部を外方に突出させた突出部と、濾過後の血液を迂回させるために前記ハウジングの底部に設けられた血液誘導部と、を有している、
請求項1から5のいずれかに記載の貯血槽。
【請求項7】
前記血液誘導部には、迂回させた血液を排出する排出口が設けられており、
前記血液誘導部の前記排出口は、前記突出部側に開口しないように設けられる、
請求項6に記載の貯血槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−88738(P2010−88738A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263102(P2008−263102)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】