説明

貴金属または銅のコロイド溶液を塗布するためのペン型塗布器

【課題】貴金属または銅のコロイド溶液を手軽に塗布することができる簡易な手段を提供する。
【解決手段】コロイド溶液は、貴金属または銅の化合物を、溶媒に溶解し、高分子量顔料分散剤を加えた後、貴金属または銅に還元したものからなり、高濃度の、数nm〜数10nmの粒径の貴金属または銅のコロイド粒子を含む。ペン型塗布器は、一端開口が閉じた筒状の本体1と、揮発性溶媒で希釈されたコロイド溶液が含浸され、本体内に収容された合成繊維製中綿体2と、本体の他端開口に嵌め込まれ、先細りに突出する筒状の固定部材3と、固定部材の先端に差込まれ、固定部材の先端から突出するペン先4と、固定部材内に差込まれ、一端側がペン先と接合され、他端側が合成繊維製中綿体内に突出し、合成繊維製中綿体からペン先に前記コロイド溶液を供給する中継芯5と、本体の他端に着脱自在に取り付けられ、ペン先を被覆するキャップ6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金および銀等の貴金属または銅のコロイド溶液を対象物に塗布し、メッキ調の光沢面を形成するためのペン型塗布器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デザインやイラストの製作現場においては、金または銀メッキ調の光沢面を得るために箔押し(ホットスタンプ)加工がなされていた(例えば、特許文献1、2参照)。箔押し加工は、箔押し機を使用して、金箔や銀箔を対象物の表面に転写することによって実行され、このため、箔押し加工には、手間と時間を要し、また、箔押し機を予め用意しておく必要もあり、コストもかかっていた。
【0003】
ところで、デザインやイラストの製作においては、通常、完成品が得られるまでに何度も試作品が製作されるが、この場合、製作対象が金または銀メッキ調の光沢面を有していると、試作品の製作の度に箔押し加工が必要となり、完成品が出来上がるまでにかなりの手間と時間とコストがかかっていた。
【0004】
一方、最近、金、銀等の貴金属または銅のコロイド溶液を製造する技術が開発されている(例えば、特許文献3、4参照)。このコロイド溶液は、高濃度の、数nm〜数10nmの粒径の貴金属または銅のコロイド粒子(いわゆるナノ粒子)と、高分子量顔料分散剤を含んでおり、彩度が高く、十分な着色性を有し、塗料に添加しても凝集しないという特性を有している。そして、このコロイド溶液を塗料の着色剤として使用し、対象物の表面に塗布することで、メッキ調の光沢面を形成することができる。
【0005】
しかし、この場合、貴金属または銅のコロイド溶液は、専ら刷毛やスプレーガンを用いて塗布され、いずれにおいても、コロイド溶液を収容する容器と、塗布する手段を別々に用意する必要がある等、塗布作業に手間がかかっていた。このため、デザインやイラストの製作現場において、箔押し加工する代わりに、例えばペンで手書きするような感覚で、このコロイド溶液を手軽に使用することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3159769号公報
【特許文献2】特開平6−178635号公報
【特許文献3】特許第3594803号公報
【特許文献4】特許第4346510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、貴金属または銅のコロイド溶液を手軽に塗布することができる簡易な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、貴金属または銅のコロイド溶液を塗布するためのペン型塗布器であって、前記コロイド溶液は、貴金属または銅の化合物を溶媒に溶解し、高分子量顔料分散剤を加えた後、貴金属または銅に還元したものからなり、前記高分子量顔料分散剤は、顔料親和性基を主鎖および/または複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子、または主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子であり、前記複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子は、数平均分子量が2000〜1000000であり、前記複数の顔料親和部分を有する高分子は、数平均分子量が2000〜1000000であり、前記顔料親和性基は、第3級アミノ酸、第4級アンモニウム、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基であり、前記溶媒は、水または有機溶媒またはそれらの組合せであり、前記溶媒が水である場合は、前記貴金属または銅の化合物の濃度が50mM以上であり、前記溶媒が有機溶媒である場合は、前記貴金属または銅の化合物の濃度が10mM以上であり、前記ペン型塗布器は、一端開口が閉じた筒状の本体と、揮発性溶媒によって1.2〜20倍に希釈された前記コロイド溶液が含浸され、前記本体内に収容された合成繊維製中綿体と、前記本体の他端開口に嵌め込まれ、前記本体の他端から先細りに突出する筒状の固定部材と、前記固定部材の先端に差込まれて固定され、前記固定部材の先端から突出するペン先と、前記固定部材の内部に差込まれて固定され、一端側が前記ペン先と接合される一方、他端側が前記合成繊維製中綿体内に突出し、前記合成繊維製中綿体から前記ペン先に前記コロイド溶液を供給する中継芯と、前記本体の他端に着脱自在に取り付けられ、前記ペン先を被覆するキャップと、を備えたことを特徴とするペン型塗布器を構成したものである。
【0009】
上記構成において、前記揮発性溶媒によって希釈された前記コロイド溶液の粘度が、5〜25℃の温度下において、3〜8mPa・sであることが好ましい。
また、好ましくは、前記ペン先は、合成繊維のストレート繊維と異形断面繊維とを混ぜて集束したものからなっており、さらに好ましくは、前記ペン先を形成する前記合成繊維は、ナイロン繊維またはポリエステル繊維またはそれらの組合せである。
【0010】
また、前記中綿体を形成する合成繊維は、アクリル繊維であることが好ましく、また、前記揮発性溶媒は、エチルアルコールであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、貴金属または銅の化合物を溶媒に溶解し、高分子量顔料分散剤を加えた後、貴金属または銅に還元したものからなり、高濃度の、数nm〜数10nmの粒径の貴金属または銅のコロイド粒子と、高分子量顔料分散剤を含むコロイド溶液を、揮発性溶媒によって適度に希釈し、希釈したコロイド溶液を合成繊維性中綿体に含浸させて筒状本体内に収容し、毛細管現象を利用して、筒状本体の先端に取り付けたペン先に常時供給するようにした。こうして、通常のペンと同様の形態のペン型塗布器とすることで、貴金属または銅のコロイド溶液を塗布するための非常にコンパクトで簡易な手段を提供することができる。
そして、通常のペンを使用する感覚で対象物に手書きするだけで、貴金属または銅のコロイド溶液を簡単かつ手軽に塗布することができる。この場合、ペン先からのボタ漏れを生じさせることなく、細い線やかすれ線まで容易に引くことができ、また、文字やイラストも簡単に描くことができる。そして、この貴金属または銅のコロイド溶液は、彩度が高く、十分な着色性を有し、凝集しないという特性を備えており、コロイド溶液が塗布された面はメッキ調の光沢面となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の1実施例による貴金属または銅のコロイド溶液を塗布するためのペン型塗布器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例を説明する。
本発明によれば、貴金属または銅のコロイド溶液を塗布するためのペン型塗布器が提供される。貴金属または銅のコロイド溶液は、貴金属または銅の化合物を、溶媒に溶解し、高分子量顔料分散剤を加えた後、貴金属または銅に還元したものからなっている。
【0014】
高分子量顔料分散剤は、顔料親和性基を主鎖および/または複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子、または主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子である。そして、複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子は、数平均分子量が2000〜1000000であり、複数の顔料親和部分を有する高分子は、数平均分子量が2000〜1000000である。
【0015】
また、顔料親和性基は、第3級アミノ酸、第4級アンモニウム、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基である。溶媒は、水または有機溶媒またはそれらの組合せである。
溶媒が水である場合は、貴金属または銅の化合物の濃度が50mM以上であり、溶媒が有機溶媒である場合は、前記貴金属または銅の化合物の濃度が10mM以上である。
【0016】
このコロイド溶液は、高濃度の、数nm〜数10nmの粒径の貴金属または銅のコロイド粒子(いわゆるナノ粒子)と、高分子量顔料分散剤を含んでおり、彩度が高く、十分な着色性を有し、凝集しないという特性を備えている。
【0017】
図1は、本発明の1実施例による貴金属または銅のコロイド溶液を塗布するためのペン型塗布器の縦断面図である。図1に示すように、本発明によれば、一端側1bの開口が尾栓7によって閉じられた筒状の本体1が備えられる。この実施例では、本体1の他端側1aは、本体1の残りの部分よりも小径になっており、残りの部分との境界に環状の段差1cを形成している。なお、この実施例では、筒状の本体1の一端側1bの開口が栓で閉じられているが、本体1は、一端開口が閉じた筒状として一体形成したものからなっていてもよい。
【0018】
本体1内には、揮発性溶媒によって1.2〜20倍に希釈された上記コロイド溶液が含浸された合成繊維製中綿体2が収容される。揮発性溶媒としては、公知の任意のものが使用可能であるが、エチルアルコールを使用することが好ましく、また、中綿体2を形成する合成繊維としては、公知の任意のものが使用可能であるが、アクリル繊維であることが好ましい。
さらに、希釈後のコロイド溶液の粘度が、5〜25℃の温度下において、3〜8mPa・sであることが好ましい。
【0019】
本体1の他端側1aの開口には、筒状の固定部材3が嵌め込まれる。固定部材3の先端は、本体1の他端から先細りに突出している。そして、固定部材3の先端には、ペン先4が差込まれて固定される。ペン先4は、合成繊維のストレート繊維と異形断面繊維とを混ぜて集束したものからなっており、この場合、ペン先4を形成する合成繊維は、ナイロン繊維またはポリエステル繊維またはそれらの組合せであることが好ましい。
なお、この実施例では、ペン先4は合成繊維の集束体からなっているが、ペン先4をウレタン樹脂の不織布から形成された芯体からなっていてもよい。
【0020】
固定部材3の内部には、中継芯5が差込まれて固定される。中継芯5は、一端側5aがペン先4と接合される一方、他端側5bが本体1内の合成繊維製中綿体2内に突出し、毛細管現象を利用して、合成繊維製中綿体2からペン先4にコロイド溶液を供給するようになっている。中継芯5は、公知の任意の合成樹脂製不織布から形成され得るが、好ましくは、ポリプロピレン樹脂の不織布から形成される。
【0021】
本体1の他端には、ペン先4を被覆するキャップ6が着脱自在に取り付けられるようになっている。この場合、図示はしないが、キャップ6の内周面および本体1の他端部1aの外周面には、環状の係合突起と対応する環状の凹部とがそれぞれ設けられており、キャップ6の環状の後端面が本体1の環状の段差1cに当接した状態で、キャップ6が本体1にスナップ係合することで、キャップ6が本体1に取り付けられるようになっている。
【0022】
こうして、本発明によれば、通常のペンと同様の形態のペン型塗布器とすることで、貴金属または銅のコロイド溶液を塗布するための非常にコンパクトで簡易な手段を提供することができる。
そして、塗布塗付ペン型塗布器の使用時には、本体1からキャップ6を外し、本体1を手に持ち、通常のペンを使用する感覚で対象物に手書きするだけで、非常に簡単かつ手軽に貴金属または銅のコロイド溶液を対象物表面に塗布し、メッキ調の光沢面を形成することができる。この場合、細い線やかすれ線まで容易に引くことができ、また、文字やイラストを簡単に描くことができるので、従来の箔押し加工よりも繊細なデザインのメッキ調の光沢面を極めて簡単に得ることができる。
【符号の説明】
【0023】
1 本体
1a 他端側
1b 一端側
1c 環状段差
2 合成繊維製中綿体
3 固定部材
4 ペン先
5 中継芯
5a 一端側
5b 他端側
6 キャップ
7 尾栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属または銅のコロイド溶液を塗布するためのペン型塗布器であって、
前記コロイド溶液は、貴金属または銅の化合物を溶媒に溶解し、高分子量顔料分散剤を加えた後、貴金属または銅に還元したものからなり、前記高分子量顔料分散剤は、顔料親和性基を主鎖および/または複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子、または主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子であり、前記複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子は、数平均分子量が2000〜1000000であり、前記複数の顔料親和部分を有する高分子は、数平均分子量が2000〜1000000であり、前記顔料親和性基は、第3級アミノ酸、第4級アンモニウム、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基であり、前記溶媒は、水または有機溶媒またはそれらの組合せであり、前記溶媒が水である場合は、前記貴金属または銅の化合物の濃度が50mM以上であり、前記溶媒が有機溶媒である場合は、前記貴金属または銅の化合物の濃度が10mM以上であり、
前記ペン型塗布器は、
一端開口が閉じた筒状の本体と、
揮発性溶媒によって1.2〜20倍に希釈された前記コロイド溶液が含浸され、前記本体内に収容された合成繊維製中綿体と、
前記本体の他端開口に嵌め込まれ、前記本体の他端から先細りに突出する筒状の固定部材と、
前記固定部材の先端に差込まれて固定され、前記固定部材の先端から突出するペン先と、
前記固定部材の内部に差込まれて固定され、一端側が前記ペン先と接合される一方、他端側が前記合成繊維製中綿体内に突出し、前記合成繊維製中綿体から前記ペン先に前記コロイド溶液を供給する中継芯と、
前記本体の他端に着脱自在に取り付けられ、前記ペン先を被覆するキャップと、を備えたことを特徴とするペン型塗布器。
【請求項2】
前記揮発性溶媒によって希釈された前記コロイド溶液の粘度が、5〜25℃の温度下において、3〜8mPa・sであることを特徴とする請求項1に記載のペン型塗布器。
【請求項3】
前記ペン先は、合成繊維のストレート繊維と異形断面繊維とを混ぜて集束したものからなっていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のペン型塗布器。
【請求項4】
前記ペン先を形成する前記合成繊維は、ナイロン繊維またはポリエステル繊維またはそれらの組合せであることを特徴とする請求項3に記載のペン型塗布器。
【請求項5】
前記中綿体を形成する合成繊維は、アクリル繊維であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のペン型塗布器。
【請求項6】
前記揮発性溶媒は、エチルアルコールであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のペン型塗布器。

【図1】
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