貴金属吸着剤及び貴金属の回収方法
【課題】特定種類の貴金属を、他の貴金属と分離して回収することができる貴金属吸着剤、及び貴金属の回収方法を提供すること。
【解決手段】アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を強酸(例えば、硫酸、塩酸等)により処理して得られる成分を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を炭化処理して得られる成分を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。
【解決手段】アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を強酸(例えば、硫酸、塩酸等)により処理して得られる成分を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を炭化処理して得られる成分を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属吸着剤及び貴金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属のメッキ加工工程や電子部品の製造工程において、製品の洗浄液等として、貴金属を含む溶液が排出される。経済性の点から、この溶液中の貴金属を回収することが求められている。
【0003】
従来、溶液中の貴金属を回収する方法として、活性炭を用いる方法、イオン交換法、溶媒抽出法が実用化されている。そのうち、活性炭を用いる方法やイオン交換法は、貴金属に対する選択性に乏しいという問題がある。また、溶媒抽出法は、比較的高濃度の溶液しか対象に出来ない。さらに、溶媒抽出法では、抽出溶媒が水中に溶解するため、環境負荷の点で問題があり、廃水処理に高い費用を要してしまう。
【0004】
特許文献1において、藍藻類、紅藻類、褐藻類、双鞭藻類、緑藻類等の藻類を150〜300μmの乾燥粉末として成る貴金属の吸着剤が開示されている。この特許文献1には、溶液中の金、銀、白金を上記の吸着剤に吸着させ、回収できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−15133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の回収方法では、複数種類の貴金属が混合された状態で回収されてしまうので、特定種類の貴金属を、他の貴金属と分離して回収することができない。
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、特定種類の貴金属を、他の貴金属と分離して回収することができる貴金属吸着剤、及び貴金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の貴金属吸着剤は、アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を含むことを特徴とする。本発明の貴金属吸着剤を用いれば、卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)に混じっている貴金属(例えば、Au、Pd等)を選択的に回収することができる。また、請求項2〜4のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤と組み合わせて使用することで、複数種類の貴金属(例えばAu、Pd、Pt)を、元素ごとに分離して回収することができる。
【0008】
請求項2記載の貴金属吸着剤は、アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を強酸(例えば、硫酸、塩酸等)により処理して(不溶化処理して)得られる成分を含むことを特徴とする。本発明の貴金属吸着剤を用いれば、卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)に混じっている貴金属(例えば、Au、Pd等)を選択的に回収することができる。また、貴金属が含まれている溶液の塩酸濃度を調整しながら、複数回にわたって本発明の貴金属吸着剤を使用することにより、特定種類の貴金属(例えばAu)を、他の貴金属(例えば、Pd)と分離して回収することができる。
【0009】
前記強酸(例えば、硫酸、塩酸等)による処理は、アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を強酸(例えば、濃硫酸、濃塩酸等)と接触させる(例えば混合する)処理である。強酸(例えば、硫酸、塩酸等)による処理は、常温で行っても、加熱しながら行ってもよい。加熱した方が、処理時間が短くて済む。強酸(例えば、硫酸、塩酸等)による処理の時間は、1秒間以上が好ましい。また、使用する強酸(例えば、硫酸、塩酸等)の温度は、80℃以上が好ましい。強酸(例えば、硫酸、塩酸等)による処理では、藻類又はその残渣物における水酸基が脱水縮合してエーテル結合が形成される。請求項2記載の貴金属吸着剤は、請求項3記載の貴金属吸着剤のように、FTIRの測定結果において、エーテル結合を示す吸収部位を持つことが好ましい。エーテル結合を示す吸収部位を持つことにより、貴金属を選択して回収できる効果が一層高い。
【0010】
請求項4記載の貴金属吸着剤は、アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を炭化処理して得られる成分を含むことを特徴とする。本発明の貴金属吸着剤を用いれば、卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)に混じっている貴金属(例えば、Au、Pd、Pt等)を選択的に回収することができる。また、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤と組み合わせて使用することで、複数種類の貴金属(例えばAu、Pd、Pt)を、元素ごとに分離して回収することができる。
【0011】
前記炭化処理は、実質的に酸素が存在しない環境で酸化を防ぎながら加熱し、炭化させる処理である。炭化処理における温度は、例えば、800℃以上とすることができる。
前記藻類は微細藻類であることが好ましい。この微細藻類とは、単細胞藻類を意味する。微細藻類の大きさは、例えば、数μm以下の範囲が好ましい。前記藻類としては、例えば、緑藻類、紅藻類、藍藻類、褐藻類、双鞭藻類等に属する単細胞藻類が挙げられる。
【0012】
前記残渣物とは、例えば、有機溶媒を用いた溶媒抽出の方法等で、藻類からオイルを取り出した後の残渣物が挙げられる。
貴金属吸着剤の剤型は、例えば、粉末とすることができる。粉末の粒径は、装置の目詰まり、吸着表面積を考慮すると10〜150μmの範囲が好ましく、50〜120μmの範囲が一層好ましい。
【0013】
請求項6記載の貴金属の回収方法は、溶液中に溶解した貴金属を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする。本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、貴金属(例えば、Au、Pd、Pt等)を選択的に回収することができる。また、複数種類の貴金属吸着剤を組み合わせて使用したり、溶液の塩酸濃度を工程ごとに変化させることで、複数種類の貴金属(例えばAu、Pd、Pt)を、元素ごとに分離して回収することができる。
【0014】
請求項7記載の貴金属の回収方法は、Auを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収することを特徴とする。本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、Auを選択的に回収することができる。また、Auを、他の貴金属(例えば、Pd)と分離して回収することができる。
【0015】
請求項8記載の貴金属の回収方法は、Pdを含み、塩酸濃度が2mol/L未満である溶液と、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収することを特徴とする。本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、Pdを選択的に回収することができる。本発明における塩酸濃度は、0.1mol/L以下であることが好ましい。
【0016】
請求項9記載の貴金属の回収方法は、AuとPdとを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収する第1工程と、前記第1工程の後、前記溶液の塩酸濃度を2mol/L未満としてから、前記溶液と請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収する第2工程とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、AuとPdを選択的に回収することができる。また、第1工程でAuを回収し、第2工程でPdを回収できるので、AuとPdを分離して回収できる。第2工程における塩酸濃度は、0.1mol/L以下であることが好ましい。
【0018】
請求項10記載の貴金属の回収方法は、Au、Pd、及びPtを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収する第1工程と、前記第1工程の後、前記溶液の塩酸濃度を2mol/L未満としてから、前記溶液と請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収する第2工程と、前記第2工程の後、前記溶液と請求項4記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPtを吸着させて回収する第3工程とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、Au、Pd、Ptを選択的に回収することができる。また、第1工程でAuを回収し、第2工程でPdを回収し、第3工程でPtを回収できるので、Au、Pd、Ptをそれぞれ分離して回収することができる。
【0020】
第2工程における塩酸濃度は、0.1mol/L以下であることが好ましい。
請求項11記載の貴金属の回収方法は、Pdが吸着した貴金属吸着剤にアンモニア処理を施し、Pdを貴金属吸着剤から脱離させることを特徴とする。本発明によれば、Pdを容易に回収することができる。
【0021】
上述した各貴金属の回収方法において、貴金属を貴金属吸着剤に吸着させるときは、貴金属を含む溶液と貴金属吸着剤とを混合し、攪拌することが好ましい。攪拌時の液温は30℃以上が好ましく、50℃以上が一層好ましい。液温を高くするほど貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着速度が向上する。また、液温を高くするほど貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着容量が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】貴金属吸着剤1Aの吸着率を表すグラフである。
【図2】貴金属吸着剤2Aの吸着率を表すグラフである。
【図3】貴金属吸着剤3Aの吸着率を表すグラフである。
【図4】沈殿物Xを表す写真である。
【図5】FTIRによる貴金属吸着剤1A、2A、3Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【図6】貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着速度と液温との関係を表すグラフである。
【図7】貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着容量と液温との関係を表すグラフである。
【図8】貴金属吸着剤2Cの吸着率を表すグラフである。
【図9】FTIRによる貴金属吸着剤4A−1〜4A−4、1Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【図10】FTIRによる貴金属吸着剤4A−5〜4A−7、1A、2Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【図11】FTIRによる貴金属吸着剤4A−8〜4A−10、1Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【図12】FTIRによる貴金属吸着剤1C、2C、2Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例】
【0024】
1.貴金属吸着剤の製造
(1−1)貴金属吸着剤1A
以下のように特定される微細藻類を用意した。
【0025】
寄託番号:FERM BP-10484
属:シュードコリシスティス(pseudochoricystis)
種:エリプソイディア(ellipsoidea)
株:MBIC11204
上記の微細藻類を、遠心分離により回収した。なお、遠心分離の代わりに、凝集剤を使用して回収してもよい。凝集剤としては、硫酸アルミニウム系凝集剤、カチオン性高分子
凝集剤、両性高分子凝集剤等が挙げられる。
【0026】
回収した微細藻類を乾燥させてから、粒径が100μm程度となるまで、乳鉢で粉砕した。その後、粉砕した微細藻類を、有機溶媒(クロロホルムとメタノールとを2:1の割合で混合したもの)に浸して、微細藻類中のオイル成分を有機溶媒に溶かし込んだ。その後、有機溶媒を蒸発させてオイル成分を回収した。オイルを除いた後に残った微細藻類の残渣物を貴金属吸着剤1Aとした。
(1−2)貴金属吸着剤1B
使用する微細藻類を、以下のように特定されるものとした点以外は、貴金属吸着剤1Aの場合と同様として、貴金属吸着剤1Bを製造した。
【0027】
寄託番号:FERM BP-10485
属:シュードコリシスティス(pseudochoricystis)
種:エリプソイディア(ellipsoidea)
株:MBIC11220
(1−3)貴金属吸着剤2A
貴金属吸着剤1Aを、100℃の濃硫酸に24時間浸漬した。このとき、貴金属吸着剤1Aにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を貴金属吸着剤2Aとした。
(1−4)貴金属吸着剤2B
貴金属吸着剤1Bを、100℃の濃硫酸に24時間浸漬した。このとき、貴金属吸着剤1Bにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を貴金属吸着剤2Bとした。
(1−5)貴金属吸着剤3A
貴金属吸着剤1Aを、実質的に酸素が存在しない環境で酸化を防ぎながら、800℃に加熱し、炭化させた(炭化処理)。炭化処理には、電気炉を用いることができる。炭化処理後の物質を貴金属吸着剤3Aとした。
(1−6)貴金属吸着剤3B
貴金属吸着剤1Bを、実質的に酸素が存在しない環境で酸化を防ぎながら、800℃に加熱し、炭化させた(炭化処理)。炭化処理には、電気炉を用いることができる。炭化処理後の物質を貴金属吸着剤3Bとした。
(1−7)貴金属吸着剤4A−1〜4A−10
貴金属吸着剤1Aを、濃硫酸に浸漬した。浸漬の条件(濃硫酸の温度、及び浸漬時間)は、表1に示すとおりとして、各条件での浸漬処理をそれぞれ実行した。
【0028】
【表1】
【0029】
濃硫酸に浸漬したとき、貴金属吸着剤1Aにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を、濃硫酸への浸漬条件に応じて、それぞれ、貴金属吸着剤4A−1〜4A−10とした。
(1−8)貴金属吸着剤1C
使用する微細藻類を、クロレラとした点以外は、貴金属吸着剤1Aの場合と同様として、貴金属吸着剤1Cを製造した。
【0030】
このクロレラは、クロレラ工業株式会社の生クロレラV12(製品名)である。また、このクロレラの属種株は、クロレラ・ブルガリス・チクゴ株(Chlorella vulgaris)である。
(1−9)貴金属吸着剤2C
貴金属吸着剤1Cを、100℃の濃硫酸に24時間浸漬した。このとき、貴金属吸着剤1Cにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を貴金属吸着剤2Cとした。
【0031】
2.貴金属吸着剤を用いる貴金属の回収方法
(2−1)貴金属吸着剤1Aを用いる場合
Au、Pd、Cu、Zn、Fe、及びNiをそれぞれ0.2mmol/Lずつ含むとともに、王水を含む溶液を用意した。この溶液5mlに貴金属吸着剤1Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿を回収した。
【0032】
貴金属吸着剤1Aの投入前における溶液中の貴金属の濃度(以下、初期濃度とする)と、沈殿回収後における溶液中のその貴金属の濃度(以下、回収後濃度とする)を、それぞれ、原子吸光光度、又はICP原子発光分光分析装置を用いて測定し、それらの差を算出した。そして、その差と貴金属吸着剤1Aの投入量とから吸着量を算出した。また、初期濃度と回収後濃度との差を、初期濃度で除した値を、吸着率(at%)とした。
【0033】
上記の吸着率の測定を、溶液における塩酸濃度(すなわち王水中の塩酸濃度)を変えながら繰り返し行った。測定を行った塩酸濃度は、5、4、3、2、1、0.5、0.1mol/Lである。その結果を図1に示す。図1に示すように、Au、Pdを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が低いときに、Au、Pdの吸着率が高くなった。また、貴金属吸着剤1Aの代わりに、貴金属吸着剤1Bを用いた場合も、略同様の結果となった。
(2−2)貴金属吸着剤2Aを用いる場合
貴金属吸着剤1Aの代わりに、貴金属吸着剤2Aを用いた点以外は、前記(2−1)と同様にして、貴金属の回収を行った。その結果を図2に示す。図2に示すように、Au、Pdを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が高い場合は、PdよりもAuを選択的に回収することができた。また、貴金属吸着剤2Aではなく、貴金属吸着剤2Bを用いた場合も、略同様の結果となった。
(2−3)貴金属吸着剤3Aを用いる場合
Au、Pd、Pt、Cu、Zn、Fe、及びNiをそれぞれ0.2mmol/Lずつ含むとともに、王水を含む溶液を用意した。この溶液5mlに貴金属吸着剤3Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿を回収した。
【0034】
貴金属吸着剤3Aの投入前における溶液中の貴金属の濃度(初期濃度)と、沈殿回収後における溶液中のその貴金属の濃度(回収後濃度)を、それぞれ、原子吸光光度、又はICP原子発光分光分析装置を用いて測定し、それらの差を算出した。そして、その差と貴金属吸着剤3Aの投入量とから吸着量を算出した。また、初期濃度と回収後濃度との差を、初期濃度で除した値を、吸着率(at%)とした。
【0035】
上記の吸着率の測定を、溶液の塩酸濃度(すなわち王水中の塩酸濃度)を変えながら繰り返し行った。測定を行った塩酸濃度は、5、4、3、2、1、0.5、0.1mol/Lである。その結果を図3に示す。図3に示すように、Au、Pd、Ptを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が低いときに、Au、Pd、Ptの吸着率が高くなった。また、貴金属吸着剤1A、1B、2A、2Bでは回収することが困難であるPtを回収することができた。また、貴金属吸着剤3Aの代わりに、貴金属吸着剤3Bを用いた場合も、略同様の結果となった。
(2−4)貴金属吸着剤1A、2A、3Aを組み合わせて用いる場合
(i)第1工程
Au、Pd、Pt、Cu、Zn、Fe、及びNiをそれぞれ0.2mmol/Lずつ含むとともに、王水を含む溶液を用意した。この溶液における塩酸濃度は5mol/Lである。この溶液5mlに、貴金属吸着剤2Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿物(以下では沈殿物Xとする)を回収した。沈殿物Xは、Auを選択的に含んでいた。この結果は、図2に示すように、塩酸濃度が高い溶液においては、Auを選択的に吸着するという貴金属吸着剤2Aの性質と符合する。図4に、Auを含む沈殿物Xを示す。沈殿物Xには、Auが含まれていた。
【0036】
なお、この第1工程において、貴金属吸着剤2Aの代わりに、貴金属吸着剤2Bを用いても、貴金属吸着剤2Aを用いた場合と略同様の結果が得られた。
(ii)第2工程
沈殿物Xの回収後、溶液に水を加えて希釈し、塩酸濃度を0.1mol/Lとした。そして、再度、溶液に貴金属吸着剤2Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿物(以下では沈殿物Yとする)を回収した。沈殿物Yを分析したところ、Pdを選択的に含んでいた。これは、図2に示すように、貴金属吸着剤2Aは、塩酸濃度が0.1mol/Lの場合、AuとPdに対する吸着能が高く、Auは第1工程において既に溶液から回収されていることによる。
【0037】
沈殿物YからPdを分離する方法は以下のとおりである。すなわち、沈殿物Yに濃度10%のアンモニア水を加えて攪拌した後、加熱乾燥する。この結果、Pdが貴金属吸着剤2Aから分離し、粉末として回収できる。
【0038】
なお、この第2工程において、貴金属吸着剤2Aの代わりに、貴金属吸着剤2B、1A、1Bのうちのいずれかを用いても、貴金属吸着剤2Aを用いた場合と略同様の結果が得られた。
(iii)第3工程
沈殿物Yの回収後、溶液に貴金属吸着剤3Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿物(以下では沈殿物Zとする)を回収した。沈殿物Zを分析したところ、Ptを選択的に含んでいた。これは、図3に示すように、貴金属吸着剤3Aは、Au、Pd、Ptに対する吸着能が高く、Auは第1工程において既に溶液から回収され、Pdは第2工程において既に溶液から回収されていることによる。
【0039】
なお、この第3工程において、貴金属吸着剤3Aの代わりに、貴金属吸着剤3Bを用いても、貴金属吸着剤3Aを用いた場合と略同様の結果が得られた。
(2−5)貴金属吸着剤4A−1〜4A−10を用いる場合
Au、Pd、Cu、Zn、Fe、及びNiをそれぞれ0.2mmol/Lずつ含むとともに、王水を含む溶液を用意した。この溶液10mlに貴金属吸着剤4A−1を10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿を回収した。
【0040】
貴金属吸着剤4A−1の投入前における溶液中の貴金属の初期濃度と、沈殿回収後における溶液中のその貴金属の濃度(回収後濃度)を、それぞれ、原子吸光光度、又はICP原子発光分光分析装置を用いて測定し、それらの差を算出した。そして、その差と貴金属吸着剤4A−1の投入量とから吸着量(mol/g)を算出した。
【0041】
上記の吸着率の測定を、溶液における塩酸濃度(すなわち王水中の塩酸濃度)を変えながら繰り返し行った。測定を行った塩酸濃度は、0.1M、2Mである。
また、貴金属吸着剤4A−2〜4A−10についても、貴金属吸着剤4A−1の場合と同様に貴金属の回収を行い、吸着率を測定した。それらの結果を上記表1に示す。
【0042】
表1に示すように、貴金属吸着剤4A−1〜4A−10のいずれを用いた場合でも、Au、Pdを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が高い場合は、PdよりもAuを選択的に回収することができた。
(2−6)溶液温度を変えた試験
(i)Auを、Au濃度2.2mmol/Lとなるように溶解し、王水を含む溶液を用意した。この溶液100mlに貴金属吸着剤1Aを100mg投入し、溶液の温度を所定の温度Tに維持しながら、所定時間Lの間攪拌し、その後、5分間静置した。試験を行った塩酸濃度は、0.1mol/Lである。このとき生じた沈殿を回収し、沈殿から貴金属を分離して、その量(吸着量)を測定した。上記の温度Tを30、40、45、50℃のいずれかとし、また、時間Lを0〜48時間のいずれかとして、上記の実験を繰り返し行った。その結果を図6に示す。図6における横軸は時間Lであり、縦軸は吸着量である。図6から明らかなように、温度Tが高いほど、貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着速度が向上した。
(ii) Au濃度がXとなるようにAuを溶解し、王水を含む溶液を用意した。この溶液10mlに貴金属吸着剤1Aを10mg投入し、溶液の温度を所定の温度Tに維持しながら、100時間攪拌し、その後、5分間静置した。試験を行った塩酸濃度は、0.5mol/Lである。このとき生じた沈殿を回収し、沈殿から貴金属を分離して、その量(吸着容量)を測定した。上記のAu濃度Xを0.01〜9mmol/Lのいずれかとし、また、上記の温度Tを20、30、40、50℃のいずれかとして、上記の実験を繰り返し行った。その結果を図7に示す。図7における横軸はAu濃度Xであり、縦軸は吸着量である。図7から明らかなように、温度Tが高いほど、貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着容量が向上した。
(2−7)貴金属吸着剤2Cを用いる場合
貴金属吸着剤1Aの代わりに、貴金属吸着剤2Cを用いた点以外は、前記(2−1)と同様にして、貴金属の回収を行った。その結果を図8に示す。図8に示すように、Au、Pdを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が高い場合は、PdよりもAuを選択的に回収することができた。
【0043】
3.貴金属吸着剤及び貴金属の回収方法が奏する効果
(3−1)貴金属吸着剤1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A−1〜4A−10、1C、2C及びそれらを用いた貴金属の回収方法によれば、卑金属であるCu、Zn、Fe、Niに混じっている貴金属Au、Pd、Ptを選択的に回収することができる。しかも、前記(2−4)の回収方法のように、複数の工程を組み合わせれば、特定種類の貴金属を、他の貴金属と分離して回収することができる。
【0044】
よって、本発明は、例えば、銅鉱石などの鉱石に含まれる貴金属の回収、メッキ廃液、電子部品を溶かし込んだ処理廃液などからの貴金属の回収、リサイクル技術として使用できる。
(3−2)本発明は、従来の溶媒抽出法とは異なり、天然物(藻類)を用いるものであるから、環境負荷が小さく、廃水処理に高い費用を要してしまうようなことがない。
(3−3)本発明の貴金属吸着剤は、大量培養可能な藻類を原料として製造できるので、製造が容易であり、製造コストが低い。
(3−4)貴金属吸着剤2A、2B、4A−1〜4A−10、2Cは、乾燥粉末を硫酸処理しているので腐敗しにくく、長期保存が可能である。
(3−5)貴金属吸着剤3A、3Bは、乾燥粉末を炭化処理しているので腐敗しにくく、長期保存が可能である。
【0045】
4.貴金属吸着剤の分析
貴金属吸着剤1A、1B、2A、2B、3A、3Bのそれぞれについて、FTIR測定を行った。貴金属吸着剤1A、2A、3Aについての測定結果を図5に示す。
【0046】
なお、貴金属吸着剤1Bの測定結果は、貴金属吸着剤1Aの測定結果と略同様であり、貴金属吸着剤2Bの測定結果は、貴金属吸着剤2Aの測定結果と略同様であり、貴金属吸着剤3Bの測定結果は、貴金属吸着剤3Aの測定結果と略同様であった。
【0047】
また、貴金属吸着剤4A−1〜4A−4、1Aのそれぞれについて、FTIR測定を行った。その測定結果を図9に示す。
また、貴金属吸着剤4A−5〜4A−7、1A、2Aのそれぞれについて、FTIR測定を行った。その測定結果を図10に示す。
【0048】
また、貴金属吸着剤4A−8〜4A−10、1Aのそれぞれについて、FTIR測定を行った。その測定結果を図11に示す。
また、貴金属吸着剤1C、2C、2Aのそれぞれについて、FTIR測定を行った。その測定結果を図12に示す。
【0049】
貴金属吸着剤1A、1B、1Cには、官能基としてアルコール性水酸基、アミノ基、メチル基のピークが見られた。貴金属吸着剤2A、2B、4A−1〜4A−10には、官能基としてアルコール性水酸基、アミノ基、メチル基、エーテルのピークが見られた。貴金属吸着剤3A、3Bには、官能基としてアルコール性水酸基、アミノ基のピークが見られた。
【0050】
貴金属吸着剤1A、1B、1Cと貴金属吸着剤2A、2B、2C、4A−1〜4A−10との比較から、硫酸処理により水酸基が脱水縮合してエーテル結合が形成されたことがわかる。また、貴金属吸着剤1A、1Bと貴金属吸着剤3A、3Bとの比較から、炭化処理によりメチル基が消滅したことがわかる。また、いずれの貴金属吸着剤にもアルコール性水酸基とアミノ基が存在し、貴金属の吸着、還元に寄与していると推測される。
【0051】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、貴金属吸着剤1A、1B、1Cの製造においては、有機溶媒によるオイルの抽出を行わず、粉砕した微細藻類を、そのまま貴金属吸着剤1A、1B、1Cとしてもよい。また、そのような貴金属吸着剤1A、1B、1Cを用いて、貴金属吸着剤2A、2B、3A、3B、4A−1〜4A−10、2Cを製造してもよい。この場合でも、略同様の効果を奏することができる。
【0052】
貴金属吸着剤2A、2B、2Cの製造においては、常温の強酸(例えば、濃硫酸、塩酸等)に、貴金属吸着剤1A、1B、1Cを長時間浸漬してもよい。この方法でも同様の反応が生じる。
【0053】
また、貴金属を含む溶液は、王水ではなく、塩素ガスを吹き込んだ塩酸を含むものであってもよい。この場合も、溶液の塩酸濃度により、貴金属吸着剤による貴金属の吸着特性は、図1〜図3、図8に示すように変化する。
【0054】
また、貴金属を含む溶液は、さらにAgを含むものであってもよい。この場合、溶液に塩化物が存在すると、塩化銀が沈殿するので、銀を回収することができる。
また、前記(2−4)の貴金属の回収方法は、第2工程までとしてもよい(第3工程はなくてもよい)。この場合でも、AuとPdを分離して回収することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属吸着剤及び貴金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属のメッキ加工工程や電子部品の製造工程において、製品の洗浄液等として、貴金属を含む溶液が排出される。経済性の点から、この溶液中の貴金属を回収することが求められている。
【0003】
従来、溶液中の貴金属を回収する方法として、活性炭を用いる方法、イオン交換法、溶媒抽出法が実用化されている。そのうち、活性炭を用いる方法やイオン交換法は、貴金属に対する選択性に乏しいという問題がある。また、溶媒抽出法は、比較的高濃度の溶液しか対象に出来ない。さらに、溶媒抽出法では、抽出溶媒が水中に溶解するため、環境負荷の点で問題があり、廃水処理に高い費用を要してしまう。
【0004】
特許文献1において、藍藻類、紅藻類、褐藻類、双鞭藻類、緑藻類等の藻類を150〜300μmの乾燥粉末として成る貴金属の吸着剤が開示されている。この特許文献1には、溶液中の金、銀、白金を上記の吸着剤に吸着させ、回収できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−15133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の回収方法では、複数種類の貴金属が混合された状態で回収されてしまうので、特定種類の貴金属を、他の貴金属と分離して回収することができない。
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、特定種類の貴金属を、他の貴金属と分離して回収することができる貴金属吸着剤、及び貴金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の貴金属吸着剤は、アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を含むことを特徴とする。本発明の貴金属吸着剤を用いれば、卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)に混じっている貴金属(例えば、Au、Pd等)を選択的に回収することができる。また、請求項2〜4のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤と組み合わせて使用することで、複数種類の貴金属(例えばAu、Pd、Pt)を、元素ごとに分離して回収することができる。
【0008】
請求項2記載の貴金属吸着剤は、アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を強酸(例えば、硫酸、塩酸等)により処理して(不溶化処理して)得られる成分を含むことを特徴とする。本発明の貴金属吸着剤を用いれば、卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)に混じっている貴金属(例えば、Au、Pd等)を選択的に回収することができる。また、貴金属が含まれている溶液の塩酸濃度を調整しながら、複数回にわたって本発明の貴金属吸着剤を使用することにより、特定種類の貴金属(例えばAu)を、他の貴金属(例えば、Pd)と分離して回収することができる。
【0009】
前記強酸(例えば、硫酸、塩酸等)による処理は、アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を強酸(例えば、濃硫酸、濃塩酸等)と接触させる(例えば混合する)処理である。強酸(例えば、硫酸、塩酸等)による処理は、常温で行っても、加熱しながら行ってもよい。加熱した方が、処理時間が短くて済む。強酸(例えば、硫酸、塩酸等)による処理の時間は、1秒間以上が好ましい。また、使用する強酸(例えば、硫酸、塩酸等)の温度は、80℃以上が好ましい。強酸(例えば、硫酸、塩酸等)による処理では、藻類又はその残渣物における水酸基が脱水縮合してエーテル結合が形成される。請求項2記載の貴金属吸着剤は、請求項3記載の貴金属吸着剤のように、FTIRの測定結果において、エーテル結合を示す吸収部位を持つことが好ましい。エーテル結合を示す吸収部位を持つことにより、貴金属を選択して回収できる効果が一層高い。
【0010】
請求項4記載の貴金属吸着剤は、アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を炭化処理して得られる成分を含むことを特徴とする。本発明の貴金属吸着剤を用いれば、卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)に混じっている貴金属(例えば、Au、Pd、Pt等)を選択的に回収することができる。また、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤と組み合わせて使用することで、複数種類の貴金属(例えばAu、Pd、Pt)を、元素ごとに分離して回収することができる。
【0011】
前記炭化処理は、実質的に酸素が存在しない環境で酸化を防ぎながら加熱し、炭化させる処理である。炭化処理における温度は、例えば、800℃以上とすることができる。
前記藻類は微細藻類であることが好ましい。この微細藻類とは、単細胞藻類を意味する。微細藻類の大きさは、例えば、数μm以下の範囲が好ましい。前記藻類としては、例えば、緑藻類、紅藻類、藍藻類、褐藻類、双鞭藻類等に属する単細胞藻類が挙げられる。
【0012】
前記残渣物とは、例えば、有機溶媒を用いた溶媒抽出の方法等で、藻類からオイルを取り出した後の残渣物が挙げられる。
貴金属吸着剤の剤型は、例えば、粉末とすることができる。粉末の粒径は、装置の目詰まり、吸着表面積を考慮すると10〜150μmの範囲が好ましく、50〜120μmの範囲が一層好ましい。
【0013】
請求項6記載の貴金属の回収方法は、溶液中に溶解した貴金属を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする。本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、貴金属(例えば、Au、Pd、Pt等)を選択的に回収することができる。また、複数種類の貴金属吸着剤を組み合わせて使用したり、溶液の塩酸濃度を工程ごとに変化させることで、複数種類の貴金属(例えばAu、Pd、Pt)を、元素ごとに分離して回収することができる。
【0014】
請求項7記載の貴金属の回収方法は、Auを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収することを特徴とする。本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、Auを選択的に回収することができる。また、Auを、他の貴金属(例えば、Pd)と分離して回収することができる。
【0015】
請求項8記載の貴金属の回収方法は、Pdを含み、塩酸濃度が2mol/L未満である溶液と、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収することを特徴とする。本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、Pdを選択的に回収することができる。本発明における塩酸濃度は、0.1mol/L以下であることが好ましい。
【0016】
請求項9記載の貴金属の回収方法は、AuとPdとを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収する第1工程と、前記第1工程の後、前記溶液の塩酸濃度を2mol/L未満としてから、前記溶液と請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収する第2工程とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、AuとPdを選択的に回収することができる。また、第1工程でAuを回収し、第2工程でPdを回収できるので、AuとPdを分離して回収できる。第2工程における塩酸濃度は、0.1mol/L以下であることが好ましい。
【0018】
請求項10記載の貴金属の回収方法は、Au、Pd、及びPtを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収する第1工程と、前記第1工程の後、前記溶液の塩酸濃度を2mol/L未満としてから、前記溶液と請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収する第2工程と、前記第2工程の後、前記溶液と請求項4記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPtを吸着させて回収する第3工程とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明の貴金属の回収方法を用いれば、溶液中に卑金属(例えば、Cu、Zn、Fe、Ni等)が混在していても、Au、Pd、Ptを選択的に回収することができる。また、第1工程でAuを回収し、第2工程でPdを回収し、第3工程でPtを回収できるので、Au、Pd、Ptをそれぞれ分離して回収することができる。
【0020】
第2工程における塩酸濃度は、0.1mol/L以下であることが好ましい。
請求項11記載の貴金属の回収方法は、Pdが吸着した貴金属吸着剤にアンモニア処理を施し、Pdを貴金属吸着剤から脱離させることを特徴とする。本発明によれば、Pdを容易に回収することができる。
【0021】
上述した各貴金属の回収方法において、貴金属を貴金属吸着剤に吸着させるときは、貴金属を含む溶液と貴金属吸着剤とを混合し、攪拌することが好ましい。攪拌時の液温は30℃以上が好ましく、50℃以上が一層好ましい。液温を高くするほど貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着速度が向上する。また、液温を高くするほど貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着容量が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】貴金属吸着剤1Aの吸着率を表すグラフである。
【図2】貴金属吸着剤2Aの吸着率を表すグラフである。
【図3】貴金属吸着剤3Aの吸着率を表すグラフである。
【図4】沈殿物Xを表す写真である。
【図5】FTIRによる貴金属吸着剤1A、2A、3Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【図6】貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着速度と液温との関係を表すグラフである。
【図7】貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着容量と液温との関係を表すグラフである。
【図8】貴金属吸着剤2Cの吸着率を表すグラフである。
【図9】FTIRによる貴金属吸着剤4A−1〜4A−4、1Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【図10】FTIRによる貴金属吸着剤4A−5〜4A−7、1A、2Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【図11】FTIRによる貴金属吸着剤4A−8〜4A−10、1Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【図12】FTIRによる貴金属吸着剤1C、2C、2Aの官能基評価結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例】
【0024】
1.貴金属吸着剤の製造
(1−1)貴金属吸着剤1A
以下のように特定される微細藻類を用意した。
【0025】
寄託番号:FERM BP-10484
属:シュードコリシスティス(pseudochoricystis)
種:エリプソイディア(ellipsoidea)
株:MBIC11204
上記の微細藻類を、遠心分離により回収した。なお、遠心分離の代わりに、凝集剤を使用して回収してもよい。凝集剤としては、硫酸アルミニウム系凝集剤、カチオン性高分子
凝集剤、両性高分子凝集剤等が挙げられる。
【0026】
回収した微細藻類を乾燥させてから、粒径が100μm程度となるまで、乳鉢で粉砕した。その後、粉砕した微細藻類を、有機溶媒(クロロホルムとメタノールとを2:1の割合で混合したもの)に浸して、微細藻類中のオイル成分を有機溶媒に溶かし込んだ。その後、有機溶媒を蒸発させてオイル成分を回収した。オイルを除いた後に残った微細藻類の残渣物を貴金属吸着剤1Aとした。
(1−2)貴金属吸着剤1B
使用する微細藻類を、以下のように特定されるものとした点以外は、貴金属吸着剤1Aの場合と同様として、貴金属吸着剤1Bを製造した。
【0027】
寄託番号:FERM BP-10485
属:シュードコリシスティス(pseudochoricystis)
種:エリプソイディア(ellipsoidea)
株:MBIC11220
(1−3)貴金属吸着剤2A
貴金属吸着剤1Aを、100℃の濃硫酸に24時間浸漬した。このとき、貴金属吸着剤1Aにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を貴金属吸着剤2Aとした。
(1−4)貴金属吸着剤2B
貴金属吸着剤1Bを、100℃の濃硫酸に24時間浸漬した。このとき、貴金属吸着剤1Bにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を貴金属吸着剤2Bとした。
(1−5)貴金属吸着剤3A
貴金属吸着剤1Aを、実質的に酸素が存在しない環境で酸化を防ぎながら、800℃に加熱し、炭化させた(炭化処理)。炭化処理には、電気炉を用いることができる。炭化処理後の物質を貴金属吸着剤3Aとした。
(1−6)貴金属吸着剤3B
貴金属吸着剤1Bを、実質的に酸素が存在しない環境で酸化を防ぎながら、800℃に加熱し、炭化させた(炭化処理)。炭化処理には、電気炉を用いることができる。炭化処理後の物質を貴金属吸着剤3Bとした。
(1−7)貴金属吸着剤4A−1〜4A−10
貴金属吸着剤1Aを、濃硫酸に浸漬した。浸漬の条件(濃硫酸の温度、及び浸漬時間)は、表1に示すとおりとして、各条件での浸漬処理をそれぞれ実行した。
【0028】
【表1】
【0029】
濃硫酸に浸漬したとき、貴金属吸着剤1Aにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を、濃硫酸への浸漬条件に応じて、それぞれ、貴金属吸着剤4A−1〜4A−10とした。
(1−8)貴金属吸着剤1C
使用する微細藻類を、クロレラとした点以外は、貴金属吸着剤1Aの場合と同様として、貴金属吸着剤1Cを製造した。
【0030】
このクロレラは、クロレラ工業株式会社の生クロレラV12(製品名)である。また、このクロレラの属種株は、クロレラ・ブルガリス・チクゴ株(Chlorella vulgaris)である。
(1−9)貴金属吸着剤2C
貴金属吸着剤1Cを、100℃の濃硫酸に24時間浸漬した。このとき、貴金属吸着剤1Cにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を貴金属吸着剤2Cとした。
【0031】
2.貴金属吸着剤を用いる貴金属の回収方法
(2−1)貴金属吸着剤1Aを用いる場合
Au、Pd、Cu、Zn、Fe、及びNiをそれぞれ0.2mmol/Lずつ含むとともに、王水を含む溶液を用意した。この溶液5mlに貴金属吸着剤1Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿を回収した。
【0032】
貴金属吸着剤1Aの投入前における溶液中の貴金属の濃度(以下、初期濃度とする)と、沈殿回収後における溶液中のその貴金属の濃度(以下、回収後濃度とする)を、それぞれ、原子吸光光度、又はICP原子発光分光分析装置を用いて測定し、それらの差を算出した。そして、その差と貴金属吸着剤1Aの投入量とから吸着量を算出した。また、初期濃度と回収後濃度との差を、初期濃度で除した値を、吸着率(at%)とした。
【0033】
上記の吸着率の測定を、溶液における塩酸濃度(すなわち王水中の塩酸濃度)を変えながら繰り返し行った。測定を行った塩酸濃度は、5、4、3、2、1、0.5、0.1mol/Lである。その結果を図1に示す。図1に示すように、Au、Pdを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が低いときに、Au、Pdの吸着率が高くなった。また、貴金属吸着剤1Aの代わりに、貴金属吸着剤1Bを用いた場合も、略同様の結果となった。
(2−2)貴金属吸着剤2Aを用いる場合
貴金属吸着剤1Aの代わりに、貴金属吸着剤2Aを用いた点以外は、前記(2−1)と同様にして、貴金属の回収を行った。その結果を図2に示す。図2に示すように、Au、Pdを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が高い場合は、PdよりもAuを選択的に回収することができた。また、貴金属吸着剤2Aではなく、貴金属吸着剤2Bを用いた場合も、略同様の結果となった。
(2−3)貴金属吸着剤3Aを用いる場合
Au、Pd、Pt、Cu、Zn、Fe、及びNiをそれぞれ0.2mmol/Lずつ含むとともに、王水を含む溶液を用意した。この溶液5mlに貴金属吸着剤3Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿を回収した。
【0034】
貴金属吸着剤3Aの投入前における溶液中の貴金属の濃度(初期濃度)と、沈殿回収後における溶液中のその貴金属の濃度(回収後濃度)を、それぞれ、原子吸光光度、又はICP原子発光分光分析装置を用いて測定し、それらの差を算出した。そして、その差と貴金属吸着剤3Aの投入量とから吸着量を算出した。また、初期濃度と回収後濃度との差を、初期濃度で除した値を、吸着率(at%)とした。
【0035】
上記の吸着率の測定を、溶液の塩酸濃度(すなわち王水中の塩酸濃度)を変えながら繰り返し行った。測定を行った塩酸濃度は、5、4、3、2、1、0.5、0.1mol/Lである。その結果を図3に示す。図3に示すように、Au、Pd、Ptを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が低いときに、Au、Pd、Ptの吸着率が高くなった。また、貴金属吸着剤1A、1B、2A、2Bでは回収することが困難であるPtを回収することができた。また、貴金属吸着剤3Aの代わりに、貴金属吸着剤3Bを用いた場合も、略同様の結果となった。
(2−4)貴金属吸着剤1A、2A、3Aを組み合わせて用いる場合
(i)第1工程
Au、Pd、Pt、Cu、Zn、Fe、及びNiをそれぞれ0.2mmol/Lずつ含むとともに、王水を含む溶液を用意した。この溶液における塩酸濃度は5mol/Lである。この溶液5mlに、貴金属吸着剤2Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿物(以下では沈殿物Xとする)を回収した。沈殿物Xは、Auを選択的に含んでいた。この結果は、図2に示すように、塩酸濃度が高い溶液においては、Auを選択的に吸着するという貴金属吸着剤2Aの性質と符合する。図4に、Auを含む沈殿物Xを示す。沈殿物Xには、Auが含まれていた。
【0036】
なお、この第1工程において、貴金属吸着剤2Aの代わりに、貴金属吸着剤2Bを用いても、貴金属吸着剤2Aを用いた場合と略同様の結果が得られた。
(ii)第2工程
沈殿物Xの回収後、溶液に水を加えて希釈し、塩酸濃度を0.1mol/Lとした。そして、再度、溶液に貴金属吸着剤2Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿物(以下では沈殿物Yとする)を回収した。沈殿物Yを分析したところ、Pdを選択的に含んでいた。これは、図2に示すように、貴金属吸着剤2Aは、塩酸濃度が0.1mol/Lの場合、AuとPdに対する吸着能が高く、Auは第1工程において既に溶液から回収されていることによる。
【0037】
沈殿物YからPdを分離する方法は以下のとおりである。すなわち、沈殿物Yに濃度10%のアンモニア水を加えて攪拌した後、加熱乾燥する。この結果、Pdが貴金属吸着剤2Aから分離し、粉末として回収できる。
【0038】
なお、この第2工程において、貴金属吸着剤2Aの代わりに、貴金属吸着剤2B、1A、1Bのうちのいずれかを用いても、貴金属吸着剤2Aを用いた場合と略同様の結果が得られた。
(iii)第3工程
沈殿物Yの回収後、溶液に貴金属吸着剤3Aを10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿物(以下では沈殿物Zとする)を回収した。沈殿物Zを分析したところ、Ptを選択的に含んでいた。これは、図3に示すように、貴金属吸着剤3Aは、Au、Pd、Ptに対する吸着能が高く、Auは第1工程において既に溶液から回収され、Pdは第2工程において既に溶液から回収されていることによる。
【0039】
なお、この第3工程において、貴金属吸着剤3Aの代わりに、貴金属吸着剤3Bを用いても、貴金属吸着剤3Aを用いた場合と略同様の結果が得られた。
(2−5)貴金属吸着剤4A−1〜4A−10を用いる場合
Au、Pd、Cu、Zn、Fe、及びNiをそれぞれ0.2mmol/Lずつ含むとともに、王水を含む溶液を用意した。この溶液10mlに貴金属吸着剤4A−1を10mg投入し、30℃にて5時間攪拌し、その後、5分間静置した。このとき生じた沈殿を回収した。
【0040】
貴金属吸着剤4A−1の投入前における溶液中の貴金属の初期濃度と、沈殿回収後における溶液中のその貴金属の濃度(回収後濃度)を、それぞれ、原子吸光光度、又はICP原子発光分光分析装置を用いて測定し、それらの差を算出した。そして、その差と貴金属吸着剤4A−1の投入量とから吸着量(mol/g)を算出した。
【0041】
上記の吸着率の測定を、溶液における塩酸濃度(すなわち王水中の塩酸濃度)を変えながら繰り返し行った。測定を行った塩酸濃度は、0.1M、2Mである。
また、貴金属吸着剤4A−2〜4A−10についても、貴金属吸着剤4A−1の場合と同様に貴金属の回収を行い、吸着率を測定した。それらの結果を上記表1に示す。
【0042】
表1に示すように、貴金属吸着剤4A−1〜4A−10のいずれを用いた場合でも、Au、Pdを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が高い場合は、PdよりもAuを選択的に回収することができた。
(2−6)溶液温度を変えた試験
(i)Auを、Au濃度2.2mmol/Lとなるように溶解し、王水を含む溶液を用意した。この溶液100mlに貴金属吸着剤1Aを100mg投入し、溶液の温度を所定の温度Tに維持しながら、所定時間Lの間攪拌し、その後、5分間静置した。試験を行った塩酸濃度は、0.1mol/Lである。このとき生じた沈殿を回収し、沈殿から貴金属を分離して、その量(吸着量)を測定した。上記の温度Tを30、40、45、50℃のいずれかとし、また、時間Lを0〜48時間のいずれかとして、上記の実験を繰り返し行った。その結果を図6に示す。図6における横軸は時間Lであり、縦軸は吸着量である。図6から明らかなように、温度Tが高いほど、貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着速度が向上した。
(ii) Au濃度がXとなるようにAuを溶解し、王水を含む溶液を用意した。この溶液10mlに貴金属吸着剤1Aを10mg投入し、溶液の温度を所定の温度Tに維持しながら、100時間攪拌し、その後、5分間静置した。試験を行った塩酸濃度は、0.5mol/Lである。このとき生じた沈殿を回収し、沈殿から貴金属を分離して、その量(吸着容量)を測定した。上記のAu濃度Xを0.01〜9mmol/Lのいずれかとし、また、上記の温度Tを20、30、40、50℃のいずれかとして、上記の実験を繰り返し行った。その結果を図7に示す。図7における横軸はAu濃度Xであり、縦軸は吸着量である。図7から明らかなように、温度Tが高いほど、貴金属吸着剤に対する貴金属の吸着容量が向上した。
(2−7)貴金属吸着剤2Cを用いる場合
貴金属吸着剤1Aの代わりに、貴金属吸着剤2Cを用いた点以外は、前記(2−1)と同様にして、貴金属の回収を行った。その結果を図8に示す。図8に示すように、Au、Pdを選択的に回収することができた。特に、塩酸濃度が高い場合は、PdよりもAuを選択的に回収することができた。
【0043】
3.貴金属吸着剤及び貴金属の回収方法が奏する効果
(3−1)貴金属吸着剤1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A−1〜4A−10、1C、2C及びそれらを用いた貴金属の回収方法によれば、卑金属であるCu、Zn、Fe、Niに混じっている貴金属Au、Pd、Ptを選択的に回収することができる。しかも、前記(2−4)の回収方法のように、複数の工程を組み合わせれば、特定種類の貴金属を、他の貴金属と分離して回収することができる。
【0044】
よって、本発明は、例えば、銅鉱石などの鉱石に含まれる貴金属の回収、メッキ廃液、電子部品を溶かし込んだ処理廃液などからの貴金属の回収、リサイクル技術として使用できる。
(3−2)本発明は、従来の溶媒抽出法とは異なり、天然物(藻類)を用いるものであるから、環境負荷が小さく、廃水処理に高い費用を要してしまうようなことがない。
(3−3)本発明の貴金属吸着剤は、大量培養可能な藻類を原料として製造できるので、製造が容易であり、製造コストが低い。
(3−4)貴金属吸着剤2A、2B、4A−1〜4A−10、2Cは、乾燥粉末を硫酸処理しているので腐敗しにくく、長期保存が可能である。
(3−5)貴金属吸着剤3A、3Bは、乾燥粉末を炭化処理しているので腐敗しにくく、長期保存が可能である。
【0045】
4.貴金属吸着剤の分析
貴金属吸着剤1A、1B、2A、2B、3A、3Bのそれぞれについて、FTIR測定を行った。貴金属吸着剤1A、2A、3Aについての測定結果を図5に示す。
【0046】
なお、貴金属吸着剤1Bの測定結果は、貴金属吸着剤1Aの測定結果と略同様であり、貴金属吸着剤2Bの測定結果は、貴金属吸着剤2Aの測定結果と略同様であり、貴金属吸着剤3Bの測定結果は、貴金属吸着剤3Aの測定結果と略同様であった。
【0047】
また、貴金属吸着剤4A−1〜4A−4、1Aのそれぞれについて、FTIR測定を行った。その測定結果を図9に示す。
また、貴金属吸着剤4A−5〜4A−7、1A、2Aのそれぞれについて、FTIR測定を行った。その測定結果を図10に示す。
【0048】
また、貴金属吸着剤4A−8〜4A−10、1Aのそれぞれについて、FTIR測定を行った。その測定結果を図11に示す。
また、貴金属吸着剤1C、2C、2Aのそれぞれについて、FTIR測定を行った。その測定結果を図12に示す。
【0049】
貴金属吸着剤1A、1B、1Cには、官能基としてアルコール性水酸基、アミノ基、メチル基のピークが見られた。貴金属吸着剤2A、2B、4A−1〜4A−10には、官能基としてアルコール性水酸基、アミノ基、メチル基、エーテルのピークが見られた。貴金属吸着剤3A、3Bには、官能基としてアルコール性水酸基、アミノ基のピークが見られた。
【0050】
貴金属吸着剤1A、1B、1Cと貴金属吸着剤2A、2B、2C、4A−1〜4A−10との比較から、硫酸処理により水酸基が脱水縮合してエーテル結合が形成されたことがわかる。また、貴金属吸着剤1A、1Bと貴金属吸着剤3A、3Bとの比較から、炭化処理によりメチル基が消滅したことがわかる。また、いずれの貴金属吸着剤にもアルコール性水酸基とアミノ基が存在し、貴金属の吸着、還元に寄与していると推測される。
【0051】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、貴金属吸着剤1A、1B、1Cの製造においては、有機溶媒によるオイルの抽出を行わず、粉砕した微細藻類を、そのまま貴金属吸着剤1A、1B、1Cとしてもよい。また、そのような貴金属吸着剤1A、1B、1Cを用いて、貴金属吸着剤2A、2B、3A、3B、4A−1〜4A−10、2Cを製造してもよい。この場合でも、略同様の効果を奏することができる。
【0052】
貴金属吸着剤2A、2B、2Cの製造においては、常温の強酸(例えば、濃硫酸、塩酸等)に、貴金属吸着剤1A、1B、1Cを長時間浸漬してもよい。この方法でも同様の反応が生じる。
【0053】
また、貴金属を含む溶液は、王水ではなく、塩素ガスを吹き込んだ塩酸を含むものであってもよい。この場合も、溶液の塩酸濃度により、貴金属吸着剤による貴金属の吸着特性は、図1〜図3、図8に示すように変化する。
【0054】
また、貴金属を含む溶液は、さらにAgを含むものであってもよい。この場合、溶液に塩化物が存在すると、塩化銀が沈殿するので、銀を回収することができる。
また、前記(2−4)の貴金属の回収方法は、第2工程までとしてもよい(第3工程はなくてもよい)。この場合でも、AuとPdを分離して回収することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。
【請求項2】
アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を強酸により処理して得られる成分を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。
【請求項3】
FTIR測定を行った場合、エーテル結合を示す吸収部位を持つことを特徴とする請求項2に記載の貴金属吸着剤。
【請求項4】
アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を炭化処理して得られる成分を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。
【請求項5】
前記藻類は微細藻類であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤。
【請求項6】
溶液中に溶解した貴金属を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項7】
Auを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項8】
Pdを含み、塩酸濃度が2mol/L未満である溶液と、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項9】
AuとPdとを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収する第1工程と、
前記第1工程の後、前記溶液の塩酸濃度を2mol/L未満としてから、前記溶液と請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収する第2工程と、
を有することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項10】
Au、Pd、及びPtを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収する第1工程と、
前記第1工程の後、前記溶液の塩酸濃度を2mol/L未満としてから、前記溶液と請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収する第2工程と、
前記第2工程の後、前記溶液と請求項4記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPtを吸着させて回収する第3工程と、
を有することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項11】
Pdが吸着した貴金属吸着剤にアンモニア処理を施し、Pdを貴金属吸着剤から脱離させることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の貴金属の回収方法。
【請求項1】
アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。
【請求項2】
アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を強酸により処理して得られる成分を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。
【請求項3】
FTIR測定を行った場合、エーテル結合を示す吸収部位を持つことを特徴とする請求項2に記載の貴金属吸着剤。
【請求項4】
アミノ基を官能基として有する藻類又はその残渣物を炭化処理して得られる成分を含むことを特徴とする貴金属吸着剤。
【請求項5】
前記藻類は微細藻類であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤。
【請求項6】
溶液中に溶解した貴金属を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項7】
Auを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項8】
Pdを含み、塩酸濃度が2mol/L未満である溶液と、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項9】
AuとPdとを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収する第1工程と、
前記第1工程の後、前記溶液の塩酸濃度を2mol/L未満としてから、前記溶液と請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収する第2工程と、
を有することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項10】
Au、Pd、及びPtを含み、塩酸濃度が2mol/L以上である溶液と、請求項2又は3記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にAuを吸着させて回収する第1工程と、
前記第1工程の後、前記溶液の塩酸濃度を2mol/L未満としてから、前記溶液と請求項1〜3のいずれか1項に記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPdを吸着させて回収する第2工程と、
前記第2工程の後、前記溶液と請求項4記載の貴金属吸着剤とを接触させ、その貴金属吸着剤にPtを吸着させて回収する第3工程と、
を有することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項11】
Pdが吸着した貴金属吸着剤にアンモニア処理を施し、Pdを貴金属吸着剤から脱離させることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の貴金属の回収方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−24752(P2012−24752A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23114(P2011−23114)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月6日 社団法人化学工学会発行の「化学工学会第42回秋季大会 研究発表講演要旨集(CD−ROM)」に発表
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月6日 社団法人化学工学会発行の「化学工学会第42回秋季大会 研究発表講演要旨集(CD−ROM)」に発表
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
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