説明

貼り合わせシリコンウェーハおよび製造方法

【課題】酸化膜が接合界面になく表面が荒れていない貼り合わせウェーハを提供する。
【解決手段】接着後に一方のウェーハを0.1μm以上20μm以下に薄厚化する薄厚化工程と、
塩素・酸素混合雰囲気で熱処理することで、表面酸化膜の増厚を促進することにより接合界面付近からの酸素を吸い上げて接合界面酸化物を除去する内部酸素吸い上げ工程と、
を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼り合わせシリコンウェーハおよび製造方法に係り、特に、本発明は、酸化膜を介さずに2枚のシリコンウェーハを接着する貼り合わせに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、2枚のウェーハが接着されて形成される貼り合わせウェーハとして、2枚のウェーハの間に酸化膜層を介在させたSOI(Silicon on Insulator)ウェーハと、直接又は部分的に酸化膜を介在させて接着させる貼り合わせウェーハが知られている。2枚のウェーハが接着されて形成される貼り合わせウェーハは、不純物の種類や不純物の濃度が異なるウェーハを貼り合わせる、あるいは、異なる結晶方位を有するウェーハを貼り合わせて、一体化し性質の異なる2相を有するか、厚さ方向に急峻な不純物濃度などの特性分布を有する貼り合わせウェーハを形成することができる。
【0003】
また、特許文献1および2には、ウェーハどうしを直接接着する場合においても、接着界面に酸化物が極めて少ない貼り合わせウェーハの形成が可能であることが記載されている。
【0004】
特許文献1には、貼り合わせの後、酸化性以外の雰囲気で熱処理する不活性ガスによる自然酸化膜除去が記載されている。
【0005】
特許文献2には、界面に酸化膜を形成し、貼り合わせたあと不活性ガス、水素、またはこれらの混合ガスのいずれかを含む雰囲気下においてアニール工程をおこなってウェーハ間にある酸化膜を除去しウェーハを直接接合するという、界面ボイド低減のために酸化膜付与後不活性ガスによる酸素除去をおこなうことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−036445号公報
【特許文献2】特開2006−156770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの特許文献に記載された技術では、いずれも還元雰囲気で処理をおこなっているため、ウェーハ表面付近の酸素濃度が低下することなどによって表面強度が低下してしまい、後工程でのダメージ、熱処理による基板割れ、スリップ発生などのリスクがあるという問題があった。
同時に、高温で処理することによりウェーハ中に鉄、銅などの金属汚染が発生する可能性があるがこれを解決したいという要求があった。
また、熱処理による表面粗さの増大を低減したいという要求があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.酸化膜等のない状態で直接接合した貼り合わせシリコンウェーハを製造可能とすること。
2.表面酸素濃度の低減を防止し酸素濃度の維持を図ること。
3.処理後の強度低下を防止すること。
4.金属汚染の発生を低減すること。
5.表面粗さの低下を防止すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の貼り合わせシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハの各接合表面を直接接着する貼り合わせシリコンウェーハの製造方法において、
一方のシリコンウェーハと他方のシリコンウェーハとの鏡面研磨された接合表面を貼り合わせる貼り合わせ工程と、
接着後に一方のウェーハを0.1μm以上20μm以下に薄厚化する薄厚化工程と、
塩素・酸素混合雰囲気で熱処理することで、表面酸化膜の増厚を促進することにより接合界面付近からの酸素を吸い上げて接合界面酸化物を除去する内部酸素吸い上げ工程と、
を有してなることにより上記課題を解決した。
本発明において、前記内部酸素吸い上げ工程における塩素濃度が、
塩化水素に換算した濃度雰囲気として0.1%以上、5%以下の範囲に設定されることがより好ましい。
本発明の前記内部酸素吸い上げ工程における塩素雰囲気が、
1−,2−トランスジクロロエチレン、HCl、Cl、CCl、CHCl、CHCl、CCl、あるいは、Cl原子を含む有機系ガスから選択される1以上を含有することが可能である。
また、本発明において、前記内部酸素吸い上げ工程における処理温度が、
1100℃以上、1380℃以下の範囲で設定される手段を採用することもできる。
また、本発明の貼り合わせシリコンウェーハは、上記の製造方法によって製造され接合界面酸化物が除去された貼り合わせシリコンウェーハであって、
接合界面付近の酸素濃度が、他方のウェーハの酸素濃度を[Oi]×1018atoms/cmとした場合に、
[Oi]−0.1[Oi]×1018atoms/cm以上、
[Oi]+0.1[Oi]×1018atoms/cm以下の範囲とされてなることができる。
【0010】
発明者らは、貼り合わせシリコンウェーハの製造中にウェーハを貼り合わせた直後において、その接合界面に、酸化膜あるいは内壁酸化膜を有する空孔欠陥および微小酸素析出物が存在した場合に、簡便な熱処理によって、これら酸化膜あるいは酸化物(欠陥)を消失させる方途について鋭意究明したところ、酸化性雰囲気にて行う熱処理において該雰囲気に塩素を含ませることによって、ウェーハ表面の酸化膜は塩素の効果により酸化が加速され、ウェーハ内部の酸素と表面酸化膜との酸素濃度勾配が大きくなって表面酸化膜に向かって内部酸素が拡散してくる結果、この急激な拡散過程において界面酸化膜あるいは空孔欠陥の内壁酸化膜および微小酸素析出物は溶解して表面酸化膜に吸い上げられ、これら界面酸化膜や欠陥が最終的に消失することを見出した。
【0011】
また、この酸素濃度勾配に起因した酸素の表面酸化膜への拡散は、熱処理条件の制御によってウェーハ表層に適度の酸素を残存させてウェーハ強度を維持すること、さらには表層での欠陥を消滅させる一方、この無欠陥層および界面より内側(厚いウェーハ側)にゲッタリングに寄与させるべく欠陥を残存させること、さらに、熱処理雰囲気中に塩素が存在することによりウェーハへの重金属汚染を防止することが可能であるとの知見も得られた。さらに、表面酸化膜が存在した状態での熱処理をおこなうため、ウェーハ表面粗さが悪化してしまうことを防止できる。
【0012】
本発明の貼り合わせシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハの各接合表面を直接接着する貼り合わせシリコンウェーハの製造方法において、
一方のシリコンウェーハと他方のシリコンウェーハとの鏡面研磨された接合表面を貼り合わせる貼り合わせ工程と、
接着後に一方のウェーハを0.1μm以上20μm以下に薄厚化する薄厚化工程と、
塩素・酸素混合雰囲気で熱処理することで、表面酸化膜の増厚を促進することにより接合界面付近からの酸素を吸い上げて接合界面酸化物を除去する内部酸素吸い上げ工程と、
を有してなることにより、表面酸化膜が存在した状態で、一方のウェーハ内部の酸素濃度を過剰に低下させることなく接合界面付近の酸化物を消滅させることができ、界面付近に酸化物あるいは酸化膜を有することのない貼り合わせシリコンウェーハを製造することが可能となる。
【0013】
ここで、内部酸素吸い上げ工程において表面酸化膜の増厚により減厚する一方のウェーハが、貼り合わせる直前に接合面に存在する酸化膜を消滅させるのに充分な膜厚を有し、かつ、内部酸素を表面酸化膜側に吸い上げるのに必要な薄さを確保することができる。
【0014】
本発明において、前記内部酸素吸い上げ工程における塩素濃度が、
塩化水素に換算した濃度雰囲気として0.1%以上、5%以下の範囲に設定されることにより、表面が酸化膜に覆われていても高塩素濃度だと熱処理中にエッチングされることを防止するとともに、酸素の吸い出しを充分可能とする表面の増速酸化を可能とすることができる。これにより、表面粗さの悪化防止と、確実な酸化物又は酸化膜の消滅を実現することが可能となる。
【0015】
本発明の前記内部酸素吸い上げ工程における塩素雰囲気が、
1−,2−トランスジクロロエチレン、HCl、Cl、CCl、あるいは、Cl原子を含む有機系ガスから選択される1以上を含有することが可能である。
Cl原子を含む有機系ガスとしては、CHCl、CHCl、CClなどがある。
【0016】
酸素濃度は1%以上、100%以下が良く、15%程度が好ましい。酸素濃度が1%に満たない場合、半導体基板表面は酸化膜によって保護されずエッチングされてしまい、表面荒れが起こるためである。
【0017】
また、本発明において、前記内部酸素吸い上げ工程における処理温度が、
1100℃以上、1380℃以下の範囲で設定される手段を採用することもできる。
ここで、処理温度を1100〜1380℃に限定した理由は、1100℃未満の場合には温度が低いため酸素の吸い上げが怒りにくく長い処理時間が必要となり好ましくないためであり、1380℃を越える場合には高温によりウェーハが変形し平坦度が悪化する可能性やスリップなど欠陥が発生する可能性が高いためである。
【0018】
また、本発明の貼り合わせシリコンウェーハは、上記の製造方法によって製造され接合界面酸化物が除去された貼り合わせシリコンウェーハであって、
接合界面付近の酸素濃度が、他方のウェーハの酸素濃度を[Oi]×1018atoms/cmとした場合に、
[Oi]−0.1[Oi]×1018atoms/cm以上、
[Oi]+0.1[Oi]×1018atoms/cm以下の範囲とされてなることにより、接合界面より一方のウェーハ側においても過度な酸素濃度の低下を引き起こさずに接合界面付近における酸化物または酸化膜を消滅させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ウェーハ表面強度の低下を防止して、表面酸素濃度を維持し、金属汚染の発生を低減し、表面粗さの低下を防止しつつ、酸化膜等のない状態で直接接合した貼り合わせシリコンウェーハを製造可能とするという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る貼り合わせシリコンウェーハの製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る貼り合わせシリコンウェーハの製造方法の一実施形態における工程を示す模式断面図である。
【図3】内部酸素吸い上げ工程による酸素濃度の変化を示す図である。
【図4】本発明に係る貼り合わせシリコンウェーハの製造方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る貼り合わせシリコンウェーハの一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における貼り合わせシリコンウェーハの製造方法を示すフローチャートであり、図2は、本実施形態における貼り合わせシリコンウェーハの製造方法の工程を示す模式断面図であり、図において、符号10は、貼り合わせシリコンウェーハである。
【0022】
まず、本実施形態の貼り合わせシリコンウェーハ10は、図2(f)に示すように、CZ法などにより製造されたシリコン単結晶から得られる厚いシリコンウェーハ11と薄いシリコンウェーハ12Aとを接合界面10aによって貼り合わせたものである。
本実施形態の貼り合わせシリコンウェーハ10は、接合界面10a付近の酸素濃度が、厚いシリコンウェーハ11の酸素濃度を[Oi]×1018atoms/cmとした場合に、
[Oi]+0.1[Oi]×1018atoms/cm以上、
[Oi]−0.1[Oi]×1018atoms/cm以下の範囲とされる。
【0023】
これらのシリコンウェーハ11とシリコンウェーハ12Aとは、同じ特性を有していてもよいし、異なる特性を有するものとすることもできる。異なる特性としては、例えば、その組成として、ドーパント濃度、ドーパント種類、酸素濃度、引き上げ速度Vと熱勾配Gとの比であるV/Gの制御で決定される空孔・格子間シリコンの濃度及びその分布、強度、スリップ耐性、結晶方位、研削・研磨・エッチング・洗浄等の表面処理履歴および表面状態、熱履歴等を含むものとする。
【0024】
次に、上記した構成の貼り合わせシリコンウェーハの製造方法について、図1、図2に基づいて説明する。
本実施形態の貼り合わせシリコンウェーハの製造方法は、図1に示すように、鏡面研磨工程S01、貼り合わせ工程S02、薄厚化工程S03、内部酸素吸い上げ工程S04、表面酸化膜除去工程S05を有する。
【0025】
まず、鏡面研磨工程S01においては、図2(a)に示すように、CZ法により製造されたシリコン単結晶からウェーハ加工を経て得られるシリコンウェーハ11およびシリコンウェーハ12において、互いに貼り合わせるシリコンウェーハ11の接合面11aおよびシリコンウェーハ12の接合面12aをいずれも鏡面研磨処理する。
【0026】
次に、貼り合わせ工程S02においては、図2(b)に示すように、接合界面10aを形成するようにシリコンウェーハ411及びシリコンウェーハ12を貼り合わせる。この接合界面10a付近には、図2(b)に模式的に示すように、酸化膜3が残留している。
【0027】
次に、薄厚化工程S03においては、図2(c)に示すように、シリコンウェーハ12を研磨・研削・H注入によるスマートカットなどの手段により、0.1μm〜20μmの厚さとなるように薄厚化してウェーハ12Aとする。なお、厚さの設定および表面粗さの制御が可能であれば、上記以外のどのような手段によって薄厚化してもかまわない。
【0028】
シリコンウェーハ12を薄膜化する程度は、表面への酸素拡散を容易にするために、0.1μm以上、20μm以下が望ましい。これは、後工程である内部酸素吸い上げ工程S04において薄膜化されたウェーハ12Aを酸化して上薄膜化する際のダメージを排除するため、0.1μm以下では酸化により薄膜化したウェーハ12Aの残り代を制御することが難しく、逆に20μm以上である場合は表面に酸素が拡散しにくくなるため、上記の範囲とすることが好ましい。さらに、酸素吸い上げ効果を最大にするために、3μm程度、2〜5μmとされることがより好ましい。
【0029】
次に、内部酸素吸い上げ工程S04においては、図2(d)に示すように、シリコンウェーハ11およびシリコンウェーハ12Aを、塩素が含まれる酸化性雰囲気にて熱処理を施すことが肝要である。すなわち、塩素が含まれる酸化性雰囲気にて熱処理を施すと、シリコンウェーハ12Aの表面に酸化膜4が形成されるが、酸化雰囲気に塩素が含まれていることから、この表面の酸化膜4は塩素(Cl)の作用により酸化が加速される。この酸化の加速によりウェーハ表面からの酸素拡散だけでは追いつかなくなった分はウェーハ内部から酸素が酸化膜4に向かって拡散してくる。
【0030】
その結果、図2(e)に示すように、自然酸化膜に起因した酸化膜3は溶解して酸化膜4に吸い上げられる。
最後に、表面酸化膜除去工程S05においては、図2(f)に示すように、例えばフッ酸(HF)洗浄にて酸化膜4を除去すれば、表面荒れがなく無欠陥のシリコンウェーハ10を作製することができる。
【0031】
また、内部酸素吸い上げ工程S04において塩素を含む酸化性雰囲気で処理することにより、ウェーハ中の鉄や銅の金属汚染も除去できる。すなわち、FeやCuなどの金属汚染は、高温で塩素と結合して塩化物となり、該塩化物は熱処理中に蒸発する結果、ウェーハから除去されることになる。
【0032】
ここで、内部酸素吸い上げ工程S04における塩素が含まれる酸化性雰囲気は、まず、酸素濃度:1vol%以上90vol%以下が好ましい。すなわち、酸素濃度が1vol%に満たないと、半導体基板表面は酸化膜によって保護されずエッチングされてしまい、表面荒れが起こる可能性があり、一方90vol%を超えると、酸化の速度が速すぎてウェーハ12Aが酸化膜中に取り込まれてなくなる可能性があるためである。より好ましくは、15vol%程度、10〜20vol%である。また、雰囲気の残部成分は、アルゴン、窒素またはヘリウムなどを用いることができる。
【0033】
次に、塩素濃度は0.1vol%以上5vol%以下が好ましく、より好ましくは0.2vol%程度とすることができる。すなわち、塩素濃度が0.1vol%に満たないと、塩素による増速酸化が起こりにくく、つまり結晶欠陥内部の酸化膜の吸い上げが起こりにくくなる。一方、5vol%を超えると、ウェーハ表面が荒れてデバイス形成などの製品としての規格条件を満たせなくなる。
【0034】
さらに、この熱処理に使用する塩素含有ガスとしては、1−,2−トランスジクロロエチレン、HCl、Cl、CCl、CHCl、CHCl、CCl、あるいは、Cl原子を含む有機系ガスから選択される1以上を含有することができる。
【0035】
特に、トランス−1,2ジクロロエチレン(DCE)、トリクロロエチレン(TCE)及び塩酸のいずれかから選択することが好ましい。このなかでも安定で利用しやすい点からDCEであることがより好ましい。この場合、内部酸素吸い上げ工程S04をおこなう熱処理炉への塩素の導入は、塩素含有溶液、例えばDCE溶液が入っている容器にアルゴンガスを通過させてバブリングすることにより行い、導入する塩素の量は、キャリアガスであるアルゴンガスの流量で制御することができる。
塩素含有溶液を通過させるアルゴンガスの流量は、10〜300cc/分、好ましくは30〜150cc/分とし、アルゴンガスの分圧が0.1〜3%となるようにすることができる。このアルゴンガス流量の限定理由は、10cc/分未満では酸化物または酸化膜の減少率が低いために熱処理時間が長くなりすぎ、300cc/分を超えると塩化水素濃度が高くなりすぎ表面荒れの可能性があるためである。
【0036】
内部酸素吸い上げ工程S04における塩素が含まれる酸化性雰囲気熱処理の熱処理温度は、1100℃以上1380℃以下が好ましい。すなわち、熱処理温度が1100℃に満たないと、空孔欠陥内部の酸化膜の吸い上げが起こりにくく、一方1380℃を超えると、ウェーハが変形して平坦度が悪くなる、おそれがある。より好ましくは、1200℃以上1350℃以下である。
【0037】
内部酸素吸い上げ工程S04における塩素が含まれる酸化性雰囲気熱処理の熱処理時間は、1h以上10h以下が好ましい。すなわち、熱処理時間が1h未満では、析出物消滅が不十分になる、おそれがあり、一方10hを超えると当該処理に要するコストが高くなる。しかし、酸素析出物3が充分消滅する処理時間であれば短いほど好ましい。
【0038】
さらに、内部酸素吸い上げ工程S04における塩素が含まれる酸化性雰囲気熱処理を施すに先立ち、すなわち薄厚化工程S03と内部酸素吸い上げ工程S04との間に、塩素を含まない酸化性雰囲気における予備熱処理を施すことによって、ウェーハ12Aの表面に酸化膜を予め形成しておくことが好ましい。このように酸化膜を予め形成しておけば、塩素が含まれる酸化性雰囲気にウェーハ表面を直接晒すことが避けられる結果、ウェーハ表面の荒れを未然に防ぐことができる。
なお、この予備熱処理における雰囲気および温度は、前記追加酸化熱処理と同様でよい。
【0039】
さらに、内部酸素吸い上げ工程S04における塩素が含まれる酸化性雰囲気熱処理を施した後、ゲッタリング層を形成するための熱処理を施すことも可能である。ここでの処理条件は、Ar雰囲気中に酸素を1vol%程度混入した雰囲気にて、温度:700℃以上1000℃以下および時間:10h以上30h以下であることが好ましい。
【0040】
なお、本発明の方法においては、内部酸素吸い上げ工程S04における塩素が含まれる酸化性雰囲気熱処理を行うことによって欠陥を排除しているが、上記したいずれか1または2以上の熱処理条件を制御すれば、表層域を無欠陥にし、残りの部分の微小酸素析出物などを残存させることが可能であり、この場合、微小酸素析出物などはゲッタリングサイトとして機能する。
【0041】
さらに、表面酸化膜除去工程S05の後、ウェーハ表面の研磨処理を施すことが好ましい。すなわち、内部酸素吸い上げ工程S04における塩素が含まれる酸化性雰囲気での熱処理による、ウェーハ表面の荒れを除去するためである。なお、この研磨では、0.05μm〜1μm程度の厚みを除去するとよい。
【0042】
本実施形態によれば、貼り合わせをおこなった接合面付近に酸素析出物のある場合でもそのシリコンウェーハを熱処理することにより、スリップを発生させず、表面の酸素濃度を適度に保ったまま、金属汚染が少なく、接合界面10aに酸化膜あるいは酸素析出物のない貼り合わせシリコンウェーハを製造することができる。同時に、酸化雰囲気で熱処理をおこなうことで表面に酸化膜が存在した状態で熱処理を施すことができるため、熱処理中の表面ダメージの影響を抑えることができる。その上、酸化膜の存在により処理後のウェーハにおいても適度な表面酸素濃度を保っていることが可能なため、ウェーハ強度を確保することができ、後工程でのダメージ、熱処理による基板割れ、スリップ発生などというリスクの発生を低減することができる。
また、塩化水素雰囲気で熱処理することにより、この熱処理によってウェーハ中のFe
、Cuといった金属汚染を除去することができる。
【0043】
本実施形態においては、貼り合わせ工程S02において自然酸化膜を除去してウェーハを貼り合わせたが、図4(b)に示すように、自然酸化膜1を接合界面10aの全面に残して、貼り合わせ工程S02におけるウェーハどうしの密着度を向上した後、内部酸素吸い上げ工程S04により、図4(d)に示すように、この自然酸化膜1を除去してもよい。
これにより、ウェーハの密着性を向上することができる。
【0044】
さらに、図4(c)に示す薄厚化工程S03までは結晶育成中に生じる内壁酸化膜2aを持つ空孔欠陥2が含まれていた場合でも、内部酸素吸い上げ工程S04においては、図4(d)に示すように、表面酸化膜4が塩素雰囲気で形成されると、空孔欠陥2の内壁酸化膜2aは溶解して酸化膜4に吸い上げられる。
【0045】
そして、内部酸素吸い上げ工程S04においては、図4(e)に示すように、ウェーハ表面は酸化しているため、その界面からは格子間シリコンが注入され、このシリコンがウェーハ内へ拡散し、先の内壁酸化膜2aが消失した空孔欠陥2に至りここで結合する結果、図4(f)に示すように、空孔欠陥2も消滅させることができる。
【0046】
そして、図3に示すように、界面酸化膜があった場合でも、その酸化膜をなくすとともに、表面酸素濃度の低下を抑制した状態で貼り合わせシリコンウェーハを接着することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0048】
第1実験例として、酸素濃度が1.5×1018atoms/cmに設定されて表面粗さがRa0.40nm(4オングストローム)となるように鏡面研磨されたシリコンウェーハを、自然酸化膜を介して室温で貼り合わせ、その後一方のシリコンウェーハを3μmまで研削により薄くした。この後、酸素15vol%、塩化水素0.2vol%、Ar84.8vol%雰囲気中で、1350℃10Hrの処理を行った。その後表面酸化膜をHFにて除去した。その後1μm分研磨を行った。
【0049】
第2実験例として、酸素濃度が1.5×1018atoms/cmに設定されて表面粗さがRa0.40nm(4オングストローム)となるように鏡面研磨されたシリコンウェーハを、自然酸化膜を介して室温で貼り合わせ、その後一方のシリコンウェーハを3μmまで研削により薄くした。この後、酸素15vol%、塩化水素1vol%、Ar84vol%雰囲気中1200℃20Hrの処理を行った。その後表面酸化膜をHFにて除去した。
【0050】
第3実験例として、酸素濃度が1.5×1018atoms/cmに設定されて表面粗さがRa0.40nm(4オングストローム)となるように鏡面研磨されたシリコンウェーハのうち一枚を酸素雰囲気中で1000℃1Hrの酸化処理を行った後、酸化膜を介して室温で貼り合わせ、その後一方のシリコンウェーハを1μmまで研削により薄くした。この後、酸素15vol%、塩化水素0.2vol%、Ar84.8vol%雰囲気中1350℃20Hrの処理を行った。その後表面酸化膜をHFにて除去した。
【0051】
第4実験例として、酸素濃度が1.5×1018atoms/cmに設定されて表面粗さがRa0.40nm(4オングストローム)となるように鏡面研磨されたシリコンウェーハのうち両方を酸素雰囲気中で1000℃1Hrの酸化処理を行った後、酸化膜を介して室温で貼り合わせ、その後一方のシリコンウェーハを1μmまで研削により薄くした。この後、酸素15vol%、塩化水素0.2vol%、Ar84.8vol%雰囲気中1350℃20Hrの処理を行った。その後表面酸化膜をHFにて除去した。
【0052】
第5実験例として、酸素濃度が1.5×1018atoms/cmに設定されて表面粗さがRa0.40nm(4オングストローム)となるように鏡面研磨された面方位(100)シリコンウェーハと鏡面研磨された面方位(110)シリコンウェーハを、自然酸化膜を介して室温で貼り合わせ、その後面方位(110)シリコンウェーハを3μmまで研削により薄くした。この後、酸素15vol%、塩化水素0.2vol%、Ar84.8vol%雰囲気中1350℃10Hrの処理を行った。その後表面酸化膜をHFにて除去した。その後1μm研磨を行った。
【0053】
第6実験例として、酸素濃度が1.5×1018atoms/cmに設定されて表面粗さがRa0.40nm(4オングストローム)となるように鏡面研磨された高抵抗p形シリコンウェーハと鏡面研磨された低抵抗p形シリコンウェーハを、自然酸化膜を介して室温で貼り合わせ、その後高抵抗p形シリコンウェーハを3μmまで研削により薄くした。この後、酸素15vol%、塩化水素0.2vol%、Ar84.8vol%雰囲気中1350℃10Hrの処理を行った。その後表面酸化膜をHFにて除去した。その後1μm研磨を行った。
【0054】
第7実験例として、酸素濃度が1.5×1018atoms/cmに設定されて表面粗さがRa0.40nm(4オングストローム)となるように鏡面研磨された高抵抗p形シリコンウェーハと鏡面研磨された低抵抗n形シリコンウェーハを、自然酸化膜を介して室温で貼り合わせ、その後高抵抗p形シリコンウェーハを3μmまで研削により薄くした。この後、酸素15vol%、塩化水素0.2vol%、Ar84.8vol%雰囲気中1350℃10Hrの処理を行った。その後表面酸化膜をHFにて除去した。その後1μm研磨を行った。
【0055】
比較のため第8実験例として、酸素濃度が1.5×1018atoms/cmに設定されて表面粗さがRa0.40nm(4オングストローム)となるように鏡面研磨されたシリコンウェーハを、自然酸化膜を介して室温で貼り合わせ、その後一方のシリコンウェーハを3μmまで研削により薄くした。その後1μm研磨を行った。
【0056】
比較のため第9実験例として、酸素濃度が1.5×1018atoms/cmに設定されて表面粗さがRa0.40nm(4オングストローム)となるように鏡面研磨されたシリコンウェーハを、自然酸化膜を介して室温で貼り合わせ、その後一方のシリコンウェーハを3μmまで研削により薄くした。この後、100%Ar雰囲気中1200℃1Hrの処理を行った。その後1μm研磨を行った。
【0057】
それぞれの実験例で得られたウェーハにおいて、界面酸素濃度、表面酸素濃度、最表面から10μmまでの深さにおける金属汚染量を測定した。これらの結果を表1に示す。
ここで、界面酸素濃度は、SIMS(Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)によって、表面酸素濃度も、SIMSにより測定した。
また、金属汚染量は、ウェーハ中の不純物分析でバルクを溶かした液体を原子吸光法により測定した。
【0058】
なお、表において、界面酸素量「なし」とは、薄厚化しない方の厚いシリコンウェーハ11の酸素濃度を[Oi]×1018atoms/cmとした場合に、
[Oi]−0.1[Oi]×1018atoms/cm以上、
[Oi]+0.1[Oi]×1018atoms/cm以下の範囲にあることを意味し、界面酸素量「あり」とは、上記の範囲よりも酸素濃度が多いこと意味する。
また、表において表面酸素濃度とは、 ×1017atoms/cmの値である。
また、表面粗さは、Raで、×10−1nm(オングストローム)の値である。
【0059】
【表1】

【0060】
この結果から、実験例1〜7においては、接合界面に酸化膜あるいは酸素析出物は存在しておらず、また、表面酸素濃度が必要以上に低下していないことが解る。
【0061】
また、表面粗さは、実験例1〜8においては、Raで、2×10−1nm(オングストローム)以下となっており荒れていないことが解る。
【符号の説明】
【0062】
1,3…自然酸化膜、2…欠陥、10…貼り合わせシリコンウェーハ、11,12…シリコンウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハの各接合表面を直接接着する貼り合わせシリコンウェーハの製造方法において、
一方のシリコンウェーハと他方のシリコンウェーハとの鏡面研磨された接合表面を貼り合わせる貼り合わせ工程と、
接着後に一方のウェーハを0.1μm以上20μm以下に薄厚化する薄厚化工程と、
塩素・酸素混合雰囲気で熱処理することで、表面酸化膜の増厚を促進することにより接合界面付近からの酸素を吸い上げて接合界面酸化物を除去する内部酸素吸い上げ工程と、
を有してなることを特徴とする貼り合わせシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記内部酸素吸い上げ工程における塩素濃度が、
塩化水素に換算した濃度雰囲気として0.1%以上、5%以下の範囲に設定されることを特徴とする請求項1記載の貼り合わせシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記内部酸素吸い上げ工程における塩素雰囲気が、
1−,2−トランスジクロロエチレン、HCl、Cl、CCl、CHCl、CHCl、CCl、あるいは、Cl原子を含む有機系ガスから選択される1以上を含有することを特徴とする請求項1記載の貼り合わせシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記内部酸素吸い上げ工程における処理温度が、
1100℃以上、1380℃以下の範囲で設定されることを特徴とする請求項1記載の貼り合わせシリコンウェーハの製造方法。
【請求項5】
請求項1から5のいずれか1項に記載された製造方法によって製造され接合界面酸化物が除去された貼り合わせシリコンウェーハであって、
接合界面付近の酸素濃度が、他方のウェーハの酸素濃度を[Oi]×1018atoms/cmとした場合に、
[Oi]−0.1[Oi]×1018atoms/cm以上、
[Oi]+0.1[Oi]×1018atoms/cm以下の範囲とされてなることを特徴とする貼り合わせシリコンウェーハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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