説明

質量分析装置および質量分析方法

【課題】 飛行時間型の質量分析装置におけるADC方式のデータ処理機能において、データ転送時間の短縮化を実現すると共にノイズデータの除去を同時に行うことも可能とし、また、解析効率の向上を実現することが可能な質量分析技術を提供する。
【解決手段】 質量分析装置におけるデータ収集回路5は、A/D変換器51と、イオン信号を所定の時間範囲、および測定回数のデータの格納および積算処理を行う信号積算メモリ53、それと並行して所定の時間範囲、および測定回数の電圧値の頻度を積算格納する電圧値頻度積算メモリ54、そのメモリの格納結果より、所定のしきい値を演算するしきい値演算回路56、信号積算メモリに格納したデータの内、しきい値以上のデータだけを抽出する圧縮メモリ55、また、データ収集の測定時間や各回路の動作制御を行うカウンタ52を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析技術に関し、特に、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換器を用いた質量分析用データ処理技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に、本発明者が本発明の前提として検討した、データ収集回路を用いた飛行時間型質量分析装置(TOF−MS:Time Of Flight Mass Spectrometry)の概要を示す。
【0003】
TOF−MSは、試料をイオン化して加速・飛行させ、その質量に応じた飛行時間を測定することで試料に含まれる成分を分析する装置である。試料は、導入部1でイオン化され、TOF部2に送り込まれる。
【0004】
TOF部2に入ったイオンは、イオン打出し信号発生器11から発生されるイオン打出し信号11aのタイミングで加速される。加速されたイオンは、TOF部2の内部を図中の矢印のような軌道で飛行した後、検出器21に到達(衝突)し、検出信号2aを発生する。検出信号2aは、データ収集回路5の前段に接続されたゲイン調整器4によって振幅が調整され、振幅調整後の検出信号4aは、データ収集回路5に入力される。
【0005】
データ収集回路5では、この検出信号4aによってイオンの飛行時間を繰り返し計測し、収集した積算データ(測定結果)5bはCPU61を介してユーザインタフェース部62に出力する。
【0006】
ここで、前記データ収集回路5における飛行時間データの収集方式には、TDC(Time to Digital Converter)方式と、ADC(Analog to Digital Converter)方式があり、試料に含まれる各成分の定量的解析を行う装置の場合、ADC方式を用いることが多い。
【0007】
検出信号2aは、検出器21に到達(衝突)したイオンの個数に応じて振幅が異なり、TDC方式では、この検出信号2aの振幅の大小に関わらず、ある値(しきい値)を超えた場合の時間と検出回数を収集するが、ADC方式では、この振幅データを一定の時間刻みで収集する。
【0008】
検出信号2aは、データ収集回路5の前段に接続されたゲイン調整器4によって振幅を調整し、振幅調整後の検出信号4aをデータ収集回路5のA/D変換器51に入力する。振幅調整後の検出信号4aは、A/D変換器51において、クロック発生器50が発生する基準クロック50aの時間刻みで、電圧値を表すデジタルデータ51aに変換して、信号積算メモリ53に格納していく。図9にその一例を示す。続いて、ユーザが設定した回数まで繰り返し測定を行った後、積算されたデータをCPU61へ転送し、CPU61にてデータ解析を行う。但し、データ転送中は次の測定が開始できないため、データ転送時間は全て測定休止時間となる。
【0009】
図10に、前記ADC方式における処理手順の一例を示す。本例では、処理1で、100回の測定と積算演算を行い、処理2で、処理1において格納したデータを全てCPU61へ転送する。また、1回の測定時間は1ms、A/D変換器51のサンプル速度は1Gsps、CPU転送時のバス速度は25MHz/ポイントとし、信号積算メモリ53のアドレス領域は1M(メガ)ポイントとした。このとき、本例の処理1に要する時間は100ms(=1ms×100回)となり、処理2の時間は40ms(=1Mポイント/25MHz)となる。
【0010】
ここで、データ転送中は次の測定(処理1)が開始できないため、処理2の時間は全て測定休止時間となる。本例では、測定時間の約40%に相当する時間が測定休止時間となり、測定効率を低下することにつながる。
【0011】
また、前記ADC方式においては、TDC方式に比べて、検出信号の振幅を表わすA/D変換器51からのnビットサンプリングデータをMポイントのオーダで取得し、さらにそれらのデータを積算処理する必要があるため、全体のデータ量が増大する。このため、例えば、特許文献1に記載の技術のように、不要なサンプリングデータを間引く手法や、特許文献2に記載の技術のような、しきい値によるノイズリダクションなどのデータ圧縮処理が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−287807号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003−0173514号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図11に、前記特許文献2に関連する技術として、本発明者が本発明の前提として検討したデータ圧縮(ノイズ除去)手法について示す。
【0014】
A/D変換器からのサンプリングデータには、ピークのスペクトラム以外に、例えばノイズレベルのような不要なデータが多く含まれているため、しきい値を設定し、そのしきい値以下のサンプリングデータはメモリに書き込まずに切り捨て、しきい値以上のデータだけを転送するデータ圧縮手法である。
【0015】
前記しきい値以下となって切り捨てられた点のデータについての処理方式には、図11(a)に示すように、あるレベル(図中ではしきい値)以下のデータをしきい値レベルに一律にオフセットさせるオフセット方式や、図11(b)に示すように、あるレベル(しきい値)以下のデータをすべて0レベルとして扱うしきい値方式など、色々な処理方法がある。
【0016】
これらのデータ圧縮処理において、積算データに対してデータ圧縮を行う場合、すべての測定データをCPUに転送し、その後にCPUで圧縮処理を行う必要があるため、測定休止時間(データ転送時間)が大きくなってしまうという問題がある。
【0017】
また、前記特許文献1,2に記載の技術では、プロセッサ処理、または、ハードの多重化を行うものであるため、処理が複雑またはコスト高になるという問題もある。
【0018】
そこで、本発明は、前述した問題を解決し、飛行時間型の質量分析装置におけるADC方式のデータ処理機能において、しきい値以上となるデータだけを抽出して転送することで、データ転送時間の短縮化を実現することが可能な質量分析技術を提供することを目的とする。なお、本発明においては、データ転送時間の短縮化と共にノイズデータの除去を同時に行うことも可能とする。
【0019】
また、本発明では、解析に必要な格納データだけを抽出することで、解析効率の向上を実現することが可能な質量分析技術を提供することを目的とする。
【0020】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0022】
本発明は、飛行時間型の質量分析装置におけるADC方式のデータ処理機能において、解析に必要な信号だけを短時間で取り出す手段として、電圧値の頻度を積算する電圧値頻度積算用のメモリ回路を設けて、そのメモリ回路の格納内容が示すノイズ分布より所定の処理を行い、しきい値を決定し、そのしきい値以上となるデータだけを抽出して転送することで、データ転送時間の短縮化を実現するものである。
【0023】
また、本発明では、前述した電圧値頻度積算用のメモリ回路と、信号積算用のメモリ回路の格納内容を装置ユーザが参照し、その結果から、ノイズ成分と信号成分を識別するしきい値を設定後、解析に必要な格納データだけを抽出することにより、解析効率の向上を実現するものである。
【0024】
具体的には、試料をイオン化して加速・飛行させ、この飛行したイオンを検出した検出信号を処理するデータ処理機能を持った飛行時間型の質量分析装置、およびこの質量分析装置における質量分析方法に適用され、以下のような特徴を有するものである。
【0025】
(1)検出信号をサンプリングするA/D変換器と、A/D変換器からのサンプリングデータを積算処理しながら格納する第1のメモリ回路と、A/D変換器からの電圧値の頻度を積算処理して格納する第2のメモリ回路と、第2のメモリ回路での積算処理結果より、所定の処理を行ってしきい値を算出する演算器と、第1のメモリ回路での積算処理結果に対して、演算器からの出力信号であるしきい値以上となるデータだけを抽出して格納する第3のメモリ回路とを備える。
【0026】
(2)前記(1)に対して、演算器は、第2のメモリ回路での積算処理結果より、所定の処理を行ってしきい値とオフセット値を算出するものであり、また、第3のメモリ回路は、第1のメモリ回路での積算処理結果に対して、演算器からの出力信号であるしきい値以上となるデータに対してオフセット値分の加減算処理をしたデータだけを抽出して格納するものである。
【0027】
(3)前記(1)に対して、演算器に代えてレジスタを備え、レジスタは、第2のメモリ回路での積算処理結果を装置ユーザが読み出し、所定の処理を行ってしきい値を算出して、そのしきい値を設定するものであり、また、第3のメモリ回路は、レジスタに設定したしきい値以上となるデータだけを抽出して格納するものである。
【0028】
(4)前記(1)に対して、演算器に代えてレジスタ群を備え、レジスタ群は、第2のメモリ回路での積算処理結果を装置ユーザが読み出し、所定の処理を行ってしきい値とオフセット値を算出して、そのしきい値とオフセット値を設定するものであり、また、第3のメモリ回路は、レジスタ群に設定したしきい値以上となるデータに対してオフセット値分の加減算処理をしたデータだけを抽出して格納するものである。
【発明の効果】
【0029】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0030】
本発明によれば、ADC方式のデータ処理機能において、しきい値を決定するための電圧値頻度積算用のメモリ回路と、しきい値以上の信号だけを取り出すデータ圧縮用のメモリ回路を設けることで、解析に必要なデータに圧縮が容易に可能となり、データ転送時間を短縮することができ、この結果、装置の測定休止時間を低減することが可能となる。
【0031】
また、本発明によれば、データ圧縮時のしきい値決定を装置ユーザが時間軸電圧値積算結果と電圧値頻度積算結果より任意の演算を行い、しきい値の設定が可能となるので、ユーザが任意のノイズ成分と信号成分の識別値を設定することができ、解析作業の高効率化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1における、データ処理機能を持った飛行時間型の質量分析装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるデータ処理手法において、(a)は信号積算メモリの格納例、(b)は電圧値頻度積算メモリの格納例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるデータ処理手法において、時間データと電圧値データの抽出例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるデータ処理手法において、処理手順の一例を示すフロー図である。
【図5】本発明の実施の形態2における、データ処理機能を持った飛行時間型の質量分析装置の一例を示す構成図である。
【図6】本発明の実施の形態2におけるデータ処理手法において、(a)は信号積算メモリの格納例、(b)は(a)の信号成分の無い時間帯の格納例、(c)は電圧値頻度積算メモリの格納例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態3における、データ処理機能を持った飛行時間型の質量分析装置の一例を示す構成図である。
【図8】本発明の前提として検討した飛行時間型の質量分析装置の一例を示す構成図である。
【図9】本発明の前提として検討したデータ処理手法において、電圧値データの抽出例を示す図である。
【図10】本発明の前提として検討したデータ処理手法において、処理手順の一例を示すフロー図である。
【図11】本発明の前提として検討したデータ圧縮手法において、(a)はオフセット方式、(b)はしきい値方式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(本発明の概念)
本発明では、飛行時間データの測定・収集を行うADC方式の質量分析用データ処理技術において、1回測定毎のサンプリングデータに対して、時間軸方向の電圧値の積算処理用のメモリ回路と、これと同時に測定中の電圧値の頻度を積算する電圧頻度積算用のメモリ回路を設けて、全測定終了後に電圧値の頻度データより所定の処理後しきい値を決定し、さらに、そのしきい値より上の信号だけを取り出すデータ圧縮用のメモリ回路を設け、その圧縮データのみをCPUへ転送することによりデータ転送時間の短縮を実現するものである。
【0034】
また、本発明におけるデータ圧縮処理では、時間軸の電圧値積算用のメモリ回路と電圧値の頻度積算用のメモリ回路を使用して測定終了後、電圧値頻度積算結果だけをCPUに転送し、装置ユーザがその積算結果より所定の処理を行ってしきい値を決定して、データ圧縮用のメモリ回路により圧縮したデータを生成するものである。
【0035】
以下において、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、前述した本発明の前提として検討した技術や、各実施の形態では、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0036】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における、データ処理機能を持った飛行時間型の質量分析装置の一例を示す。
【0037】
本実施の形態における質量分析装置は、試料の導入部1、イオン打出し信号発生器11、検出器21を備えたTOF部2、ゲイン調整器4、データ収集回路5、CPU61、ユーザインタフェース(I/F)部62などから構成される。
【0038】
データ収集回路5には、基準クロック50aを発生するクロック発生器50、検出信号4aをサンプリングするA/D変換器51、測定開始信号5aおよびデータ格納、演算、抽出などの制御信号52aを発生するカウンタ52、サンプリングデータ51aを積算処理しながら格納する信号積算メモリ(第1のメモリ回路)53、サンプリングデータ51aにおける電圧値の頻度を積算処理して格納する電圧値頻度積算メモリ(第2のメモリ回路)54、サンプリングデータ51aの積算処理結果53aに対して、しきい値56a以上となるデータだけを抽出して格納する圧縮メモリ(第3のメモリ回路)55、電圧値の頻度の積算処理結果54aより、所定の処理を行ってしきい値56aを算出するしきい値演算回路(演算器)56が備えられている。
【0039】
この質量分析装置において、導入部1、イオン打出し信号発生器11、TOF部2、ゲイン調整器4は、前述した図8で示した各要素と同一の機能を持つので、ここでの説明は省略する。また、データ収集回路5において、クロック発生器50、A/D変換器51、カウンタ52、信号積算メモリ53も、前述した図8で示した各回路と同一の機能を持つのでここでの説明は省略し、新たに追加された、電圧値頻度積算メモリ54、圧縮メモリ55、しきい値演算回路56の各回路の動作例を、以下において説明する。
【0040】
電圧値頻度積算メモリ54の動作は、A/D変換器51から出力されるデジタル化された電圧値自体をメモリのアドレスとして、その電圧値が何度A/D変換器51より出力されたかを計数する。例えば、A/D変換器51のサンプリング速度が1GHz、サンプリング時間が1μsec、A/D変換器51への電圧入力が0Vであった場合、A/D変換器51より1k個の0Vを示すデジタル化された電圧値が出力される。電圧値頻度積算メモリ54では、0Vを示すアドレスに1k回のカウント値が残ることとなる。
【0041】
次に、しきい値演算回路56の動作について、図2を用いて説明する。図2は、データ処理手法を示し、(a)に信号積算メモリ53の格納例、(b)に電圧値頻度積算メモリ54の格納例を示す。図中(a)の横軸が格納範囲である時間を示し、縦軸がn回の積算を行った結果の電圧平均値を示す。また、図中(b)の縦軸が電圧値を示し、横軸がその電圧値の頻度を示す。図中の平均値は、電圧値頻度積算メモリ54で積算した全データの平均値を示し、σはこの電圧値頻度積算メモリ54のヒストグラム結果を正規分布近似した曲線から、算出した標準偏差値である。
【0042】
ここで、しきい値演算回路56からの出力56aがσであり、次に説明する圧縮メモリ55のしきい値として使用する。次に、圧縮メモリ55では、n回の積算を行い、さらにしきい値演算回路56でσ値演算を行った後に、信号積算メモリ53よりσ値以上のイオン強度(電圧値)を持つ時間データとそのイオン強度を示す電圧値データを抽出する。図3にその一例を示す。本例におけるσ値が0.01Vの場合であり、0.01Vより大きい電圧値データと時間データを対で抽出している。このσ値以上のデータだけを取り出してCPU61へ転送する。
【0043】
次に、図4に、本実施の形態における処理手順の一例を示す。ここでは、前述した図10で説明した従来例と同じ条件において、処理時間の見積を行う。本例では、測定後のしきい値以上のデータは、測定ポイント数の1/10あったものとした。
【0044】
処理1では、100回の測定、測定範囲1ms、A/D変換器51のサンプル速度1Gsps、信号積算メモリ53は1Mポイントのアドレスを持つ例であり、処理1に要する時間は、100msとなる。また、処理1では、100回目の測定終了と同時に電圧値頻度積算メモリ54としきい値演算回路56により、A/D変換器51から出力される電圧値の平均値とσ値を算出するため、99回の測定までの結果から、この平均値とσ値を算出する。従って、100回目の測定が終了した時点で、平均値とσ値も得られる。次に、処理2において、σ値(しきい値)以上の電圧値を抽出するが、これは、信号積算メモリ53を1回読み出す処理と同じ時間で行うので、1回分の測定時間である1msである。
【0045】
次に、CPU61へのデータ転送処理は、上述したように1Mポイントの1/10であるので、ポイント数は、100kポイントであり、ここで、抽出したデータは、時間データと電圧値データがそれぞれあるので、2データ転送する必要があり、ここでは、2ポイント転送することとする。従って、CPU61へのデータ転送速度は、8ms(100Kポイント×2データ/25MHz)となる。
【0046】
以上より、前述した図10で説明した従来例は測定終了後のデータ転送に要する時間が40msであったのに対して、本実施の形態では、圧縮処理、データ転送処理を合計しても9msであり、データ処理時間の短縮を図ることができる。
【0047】
なお、本実施の形態においては、しきい値演算回路56は標準偏差値(σ)を演算することとしたが、このσ値演算だけを行うものではなく、装置仕様などから決まる所望の演算を行えばよい。
【0048】
さらに、本実施の形態では、しきい値演算回路56からの出力であるしきい値56aを圧縮メモリ55に入力したが、これを信号積算メモリ53にも入力してもよい。この際は、測定において、予め電圧値頻度積算メモリ54だけを使用してしきい値測定を行い、その後、信号積算メモリ53を使用して、しきい値以上の信号を格納してもよい。さらに、信号積算メモリ53を使用しての測定終了後、同一しきい値を使用して圧縮メモリ55により、データを抽出してデータをCPU61へ転送してもよい。
【0049】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2における、データ処理機能を持った飛行時間型の質量分析装置の一例を示す。図5は、データ収集回路5、CPU61、ユーザI/F部62を示しており、図1と比較して記載していない部位は、基本的に同一機能のものが接続されるものである。
【0050】
また、データ収集回路5においても、圧縮メモリ55−1としきい値演算回路59以外はほぼ同一機能である。しきい値演算回路59の機能は、実施の形態1とほぼ同じであるが、電圧値の頻度の積算処理結果54aより、所定の処理を行ってしきい値59a、オフセット値を算出し、このしきい値演算回路59から出力する信号が異なり、本例においては、しきい値59aと、平均値(オフセット値)59bを出力する。
【0051】
次に、圧縮メモリ55−1の動作について、図6を用いて説明する。図6(a)は、図2(a)と同じであり、図6(b)は図6(a)の信号成分の無い時間帯を示している。また、図6(c)は、図2(b)と同様に電圧値毎の頻度を示す。本例においては、信号のないノイズ成分のデータから平均値(オフセット値)を求める。すなわち、ノイズ成分の平均値が、あるオフセット値を持つ場合を示しており、信号成分にも本オフセット値は含まれる。従って、本オフセット値は、本来の信号レベル(電圧振幅)に対する誤差であり、本実施の形態においては、圧縮メモリ55−1において、データを抽出する際に本オフセット値を差し引いた電圧値を抽出する機能を持つものである。
【0052】
この結果、本実施の形態では、イオンのスペクトル解析を行う際に、より実際の電圧値に近い値によりスペクトル解析が可能となる。
【0053】
なお、本実施の形態においては、しきい値演算回路59から出力されるオフセット値59bを圧縮メモリ55−1に入力したが、信号積算メモリ53に入力してもよい。この際は、信号積算メモリ53にデータ格納する前にオフセット値を出力するための測定を行うこととなる。また、信号積算メモリ53にデータ格納後は、しきい値59aのみを使用してデータの抽出を行ってもよい。
【0054】
(実施の形態3)
図7は、本発明の実施の形態3における、データ処理機能を持った飛行時間型の質量分析装置の一例を示す。図7に示す構成においても、新たな部位の説明だけを行う。本例においては、実施の形態2で説明したしきい値とオフセット値を装置ユーザが設定可能なレジスタを設けて、圧縮メモリに入力する場合について説明する。
【0055】
まず、通常の測定を行い、信号積算メモリ53と電圧値頻度積算メモリ54にデータを格納する。その後、電圧値頻度積算メモリ54(および信号積算メモリ53)の内容をユーザがCPU61を介して読み出し、ノイズ成分のヒストグラム結果から、オフセット値としきい値を決定し、しきい値設定レジスタ57、オフセット値設定レジスタ58にそれぞれ値を設定して、圧縮メモリ55−2を使用してしきい値以上のデータの抽出を行うものである。これは、イオン信号やノイズレベルの量、分布を装置ユーザが判断し(または、ソフトウエアによる判断を行い)、所望のしきい値やオフセット値を設定してデータを得る場合を想定したものである。
【0056】
この結果、本実施の形態によれば、装置ユーザに対して柔軟な測定を可能にすることができる。
【0057】
なお、しきい値やオフセット値を信号積算メモリ53でのデータを格納する時の判定や補正値として使用してもよい。
【0058】
また、しきい値を装置ユーザが設定可能なレジスタのみを設ける場合についても適用可能である。
【0059】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1…導入部、11…イオン打出し信号発生器、2…TOF部、21…検出器、4…ゲイン調整器、5…データ収集回路、50…クロック発生器、51…A/D変換器、52…カウンタ、53…信号積算メモリ、54…電圧値頻度積算メモリ、55,55−1,55−2…圧縮メモリ、56,59…しきい値演算回路、57…しきい値設定レジスタ、58…オフセット値設定レジスタ、61…CPU、62…ユーザインタフェース部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をイオン化して加速・飛行させ、この飛行したイオンを検出した検出信号を処理するデータ処理機能を持った飛行時間型の質量分析装置であって、
前記検出信号をサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器にて変換したn回分のサンプリングデータについて、何回目のサンプリングデータであるかを示す時間と該時間におけるサンプリングデータの電圧値とを対応付けて格納する第1のメモリ回路と、
前記第1のメモリ回路における1〜(n−1)回目までのサンプリングデータの対応付け処理と同じタイミングで、前記A/D変換器からの1〜(n−1)回目までのサンプリングデータの電圧値の頻度をヒストグラムにして格納する第2のメモリ回路と、
前記第1のメモリ回路におけるn回目のサンプリングデータの電圧値の対応付け処理のタイミングと同じタイミングで、前記第2のメモリ回路での(n−1)回目までのヒストグラムの格納結果に基づきしきい値を算出し、前記第1のメモリ回路におけるn回目の対応付け処理が終了するのと同時に該しきい値を送信する演算器と、
前記第1のメモリ回路での対応付け処理の結果に対して、前記演算器から受信したしきい値以上となるデータのみを抽出して格納する第3のメモリ回路と、を有するデータ収集回路と、
前記データ収集回路から送信した該しきい値以上のデータを受信するCPUと、を備えたことを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の質量分析装置であって、
前記演算器で算出するしきい値は、前記第2のメモリ回路での(n−1)回目までのヒストグラムの分布に基づき算出された平均値に標準偏差値を加算した値であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の質量分析装置であって、
前記第3のメモリ回路では、前記演算器から受信したしきい値に基づき、前記第1のメモリ回路から該しきい値以上の電圧値を有する時間データと電圧値データとを対にして抽出することを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の質量分析装置であって、
データ格納、演算、抽出の制御を行うカウンタを備えたことを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
試料をイオン化して加速・飛行させ、この飛行したイオンを検出した検出信号を処理するデータ処理機能を持った飛行時間型の質量分析装置における質量分析方法であって、
前記検出信号をA/D変換器でサンプリングするサンプリング工程と、
前記A/D変換器にて変換したn回分のサンプリングデータについて、何回目のサンプリングデータであるかを示す時間と該時間におけるサンプリングデータの電圧値とを対応付けて第1のメモリ回路に格納する第1のメモリ回路格納工程と、
前記第1のメモリ回路における1〜(n−1)回目までのサンプリングデータの対応付け処理と同じタイミングで、前記A/D変換器からの1〜(n−1)回目までのサンプリングデータの電圧値の頻度をヒストグラムにして第2のメモリ回路に格納する第2のメモリ回路格納工程と、
前記第1のメモリ回路におけるn回目のサンプリングデータの電圧値の対応付け処理のタイミングと同じタイミングで、前記第2のメモリ回路での(n−1)回目までのヒストグラムの格納結果に基づきしきい値を算出し、前記第1のメモリ回路におけるn回目の対応付け処理が終了するのと同時に該しきい値を演算器に送信する演算工程と、
前記第1のメモリ回路での対応付け処理の結果に対して、前記演算器から受信したしきい値以上となるデータだけを抽出して第3のメモリ回路に格納する第3のメモリ回路格納工程と、を有するデータ収集工程と、
前記第3のメモリ回路格納工程において格納した該しきい値以上となるデータをCPUに送信する送信工程と、を有することを特徴とする質量分析方法。
【請求項6】
請求項5記載の質量分析方法であって、
前記演算工程では、前記第2のメモリ回路格納工程にて格納した(n−1)回目までのヒストグラムの分布に基づき、平均値に標準偏差値を加算したしきい値を算出することを特徴とする質量分析方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の質量分析方法であって、
前記第3のメモリ回路格納工程では、前記演算器から受信したしきい値に基づき、前記第1のメモリ回路から該しきい値以上の電圧値を有する時間データと電圧値データとを対にして抽出する、ことを特徴とする質量分析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−219053(P2010−219053A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107858(P2010−107858)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願2005−50102(P2005−50102)の分割
【原出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】