説明

質量分析計

【課題】試料導入パイプは細管であるため試料による汚れが生じて詰まりやすく、またパイプを取り外して洗浄もしくは交換するとき、真空チャンバーの真空を破壊して大気圧にする必要がある。
【解決手段】パイプ5の挿脱を容易にするパイプホルダ14を真空チャンバーA側に一体的に形成するとともに、このパイプホルダ14にはパイプ5を挿脱できる内孔部と、この内孔部と真空チャンバーAを連結する細孔を穿設したものである。内孔部はネジ14c孔に形成されパイプ5を保持したネジ体がこの内孔部に挿入される。パイプホルダ14の先端14aの細孔はパイプ5の内径と同等にする。したがってパイプ5はパイプホルダ14から容易に離脱できる。パイプ5の交換時、細孔からの空気流入は少なく装置は排気状態を保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液状試料をイオン化して質量分析する質量分析計に係り、とくに液体クロマトグラフからの液体試料を導入して測定する液体クロマトグラフ質量分析計のインタフェースに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ質量分析計(以下LC/MSと称する)は、液体クロマトグラフと質量分析計がインタフェースを介して構成される。液体クロマトグラフと接続される質量分析計におけるインタフェース部は図2に示すような構造になっている。すなわち図2において液体クロマトグラフ1で分離された試料はエレクトロスプレーイオン化プローブ(以下ESIプローブと称する)2に導入される。3は試料導入部であり、インタフェース部はこのESIプローブ2と試料導入部3により構成される。レンズ系6とスキマー7とオクタポール8は、ESIプローブ2によりイオン化されて試料導入部3に取込まれて導入された試料イオンを効率良く質量分離のための四重極電極9に導入する作用をする。10はイオン検出器であり11は分析室の排気を行うロータリポンプである。また12および13は高真空排気用のターボ分子ポンプである。スキマー7は試料イオンが通過するだけのオリフィスを設けておりレンズ系6とオクタポール8が装着されている真空チャンバーBおよび真空チャンバーCを差動排気できるようにしている。
【0003】
試料導入部3の拡大図を示す図3において、4はパイプ5を保持するパイプホルダでありパイプホルダ固定プレート20により図2に示す真空チャンバーAの外壁19に固定される。これらの部品により試料導入部3が構成されている。LC/MSでは、液体クロマトグラフ1で分離された試料成分をESIプローブ2でイオン化し質量分析計に導入する。ESIプローブ2で霧化およびイオン化された試料はパイプ5内で試料中に含まれている溶媒を高温に熱して蒸発させ(脱溶媒)、かつ他の粒子との衝突等を経ることによりさらに微小化してイオン化が促進されパイプ5から引き出されて分析室側に導入される。試料により汚染されパイプ5を交換あるいは洗浄する場合は、排気系を停止し装置を大気圧にして試料導入部3を外壁19から取り外し交換する構造である。
【0004】
【特許文献1】特開平11−51902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パイプ5は細管であるため試料による汚れが生じて詰まりやすく、詰まりが生じたときはパイプ5を取り外して洗浄もしくは交換する必要がある。またパイプ5を交換する場合は、パイプホルダ4と一体構造になっている試料導入部3を真空チャンバーAから取り外すが、そのために図2の真空チャンバーAおよび装置全体の真空を破壊し大気圧に開放する必要がある。そのため試料導入部3のメンテナンスのための時間およびメンテナンスの後真空チャンバーAおよび装置が試料の分析が可能な真空度に再現するまで排気が必要であり、そのための時間がかかり作業効率が悪いことに問題がある。また、パイプ5は試料導入部3に一体となって組み込まれているため、試料導入部3を交換する必要があり交換部品のコストもかかる。本発明は以上の問題点を解消しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解消するために、パイプの挿脱を容易にするパイプホルダを真空チャンバー側に一体的に形成するとともに、このパイプホルダにはパイプを挿脱できる内孔部と、この内孔部と真空チャンバーを連結する細孔を穿設したものである。内孔部はネジ孔に形成されパイプを保持したネジ体がこの内孔部に挿入される。パイプホルダの先端の細孔はパイプの内径と同等以下にする。したがってパイプはパイプホルダから容易に離脱できる。パイプ交換時、細孔からの空気流入は少なく装置は排気状態を保持することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば試料導入部のパイプの洗浄あるいは交換がパイプホルダを取り外す必要もなく、しかも真空チャンバーを大気圧にすることなく容易に行えるので作業効率が向上しメンテナンスの費用も大幅に軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1および図2は本発明の実施例1を示す。図1は図2における試料導入部3の拡大図を示す。図1で5はパイプ、14はパイプホルダ、15はフェルール、16はカラー、17は押しネジ、18はパイプ固定プレートで試料導入部3を構成する部品であり、ステンレスでつくられている。
【0009】
フェルール15はステンレスなどの金属あるいは耐熱性が高く延性に富むポリイミドなどで作られている。パイプホルダ14は真空チャンバーAの外壁19と一体構造になっており、パイプホルダ14の先端14aにはパイプ5の内径とほぼ同じ値の細孔が開いており、さらにパイプホルダ14にはパイプ5の先端がパイプホルダ14に密接して、かつ大気圧側と真空チャンバーAとの間の真空シールを確実にするようにフェルール15とカラー16と押しネジ17でパイプ5を装着できるようにテーパー溝14bとネジ14cを設けている。パイプ5の試料導入側の先端がぶれてESIプローブ2で生成した試料イオンの収集効率が低下しないようにパイプ固定プレート18でパイプ5を真空チャンバーAの外壁19に固定している。
【0010】
図2で液体クロマトグラフ1に注入された液体試料はカラムで成分毎に分離されてESIプローブ2に送られる。大気圧下のESIプローブ2で生成された試料イオンは試料導入部3のパイプ5に印加した高電圧による電界によりパイプ5内に取込まれる。パイプ5はヒータにより加熱されており、試料イオンがパイプ5内を通過する間にその熱で試料を移動する溶媒を蒸発させ除去する。パイプ5内で脱溶媒されイオン化が促進された試料イオンは、分析室側に導入される。パイプ5は脱溶媒(余分な移動相を蒸発させ、除去する)と他の粒子との衝突などによるイオンの微小化促進の機能を有する。
【0011】
パイプ5が試料により汚染されたときは、パイプ固定プレート18を真空チャンバーAの外壁19から取り外し、押しネジ17を緩めてパイプ5およびカラー16とフェルール15をパイプホルダ14から取り外してパイプ5の洗浄あるいは交換を行う。パイプ5を取り外したとき、パイプホルダ14の先端14aの孔はパイプ5の内径とほぼ同じ大きさであるため真空チャンバーAの真空は大気圧になることはなくロータリポンプ11が正常に稼動する真空度を保持する。
実施例1では、液体試料をESIプローブでイオン化する例を示したが大気圧イオン化プローブを用いることも可能である。パイプホルダの形状については図示例のようなコーン形状が接合を密着させやすく有利であるが、これに限定されるものではなく大小のパイプの接合型でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は液状試料をイオン化して質量分析装置に導入して測定する液体クロマトグラフ質量分析装置のインタフェースに関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による試料導入部を示す。
【図2】液体クロマトグラフ質量分析計の構造を示す。
【図3】従来の試料導入部を示す。
【符号の説明】
【0014】
1 液体クロマトグラフ
2 ESIプローブ
3 試料導入部
4 パイプホルダ
5 パイプ
6 レンズ系
7 スキマー
8 オクタポール
9 四重極電極
10 イオン検出器
11 ロータリポンプ
12 ターボ分子ポンプ
13 ターボ分子ポンプ
14 パイプホルダ
14a 先端
14b テーパー溝
14c ネジ
15 フェルール
16 カラー
17 押しネジ
18 パイプ固定プレート
19 外壁
20 パイプホルダ固定プレート
A 真空チャンバー
B 真空チャンバー
C 真空チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化された試料を加熱されたパイプを介して分析室側に導入する試料導入部を備えた質量分析計において、前記分析室の壁面の一部にパイプを保持するパイプホルダを形成するとともに、前記パイプホルダにはパイプを挿脱できる内孔部と、前記内孔部と分析室内側とを連通するパイプの内径と同等以下の細孔が穿設されていることを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
内孔部の内周に設けられたネジにネジ体がねじ込まれこのネジ体にパイプが挿脱可能に挿入されることを特徴とする請求項1記載の質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−122175(P2008−122175A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304871(P2006−304871)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】