説明

赤かび病抵抗性イネ科植物の判定キットおよびその利用

【課題】赤かび病抵抗性イネ科植物の判定キット、および赤かび病抵抗性イネ科植物の判定方法を提供する。
【解決手段】Russia6とH.E.S.4の交配から育成したRI系統(RHI集団)、Harbin 2-rowとTurkey 6の交配から育成したRI系統(RI2集団)、およびはるな二条とH602の交配から育成したDH系統(DHHS集団)を材料として、赤かび病抵抗性に関するQTL解析を行なった結果、2H、4H、5Hおよび6H染色体上に、QTLをそれぞれ検出した。さらに当該QTLに連鎖する遺伝マーカーを見出した。本発明は上記遺伝マーカーを増幅するためのプライマーセットを含む赤かび病抵抗性イネ科植物の判定キット、および当該プライマーセットを用いた赤かび病抵抗性イネ科植物の判定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はムギ類をはじめとするイネ科植物、特にオオムギのゲノムDNA中に存在し、かつ赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座、赤かび病抵抗性を付与する遺伝子)に連鎖する遺伝マーカー、およびその利用に関するものである。より具体的には上記遺伝マーカーを増幅するためのプライマーセットを含む赤かび病抵抗性イネ科植物の判定キット、および当該プライマーセットを用いた赤かび病抵抗性イネ科植物の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オオムギの赤かび病は、オオムギの品質、収穫量を低下させるのみならず、人体にも有害なデオキシニバレノールなどのカビ毒を生じさせる重大な病害であることが知られている。現在、世界中でその感染が増加しているため、赤かび病抵抗性品種の育成が強く望まれている。
【0003】
オオムギの赤かび病は、Fusarium graminearum(フザリウム・グラミネアルム), F.roseum(フザリウム・ロゼウム), F.culmorum(フサリウム・クルモルム)等の一般的にみられる腐生菌が原因となって起こる病害である。当該病原菌は、不完全世代においてイネ科雑草、稲ワラ、麦ワラ、地中の有機物などに腐生的に寄生しているが、温度や日長などの条件が整うと子のう殻を形成する。かかる子のう殻が、水にぬれて膨張・裂開すると子のう胞子が飛散してオオムギ等のムギ類に感染する。ムギ類への感染は、開花期前後の比較的短い期間に起こり、罹病性穂に形成される分生子が第2の感染源となって感染をさらに広げる。また分生子は粘物質を有するため、雨露によって懸濁液となって拡散し、さらに感染を拡大する。オオムギの赤かび病の感染機構は、頴の中に残った葯の残骸や退化した組織を通じて最初の感染が起こり、菌糸が成長して殻粒に侵入するか、あるいは頴よりはみ出した葯を通じて侵入するなど、いずれにせよ葯がその感染に大きく関わっていることがわかっている。
【0004】
また、オオムギの中には、赤かび病に対する抵抗性を有する品種が存在している。かかるオオムギの赤かび病抵抗性品種の抵抗性機構について研究がなされ、条性・穂長・出穂時期・穂軸節間長等の形質の関与が示唆されている(例えば、非特許文献1ないし5参照)。またオオムギには赤かび病に対する免疫的抵抗性は無いとされ、比較的少数の遺伝子がその抵抗性に関与する量的形質であることがいわれている(例えば非特許文献6参照)。
【0005】
ところで、従来、農業作物の優良品種の育種は、目標形質を有する品種や野生種等を交配し、多数の個体を実際に栽培して目標形質を有する個体を選抜し、当該目標形質を遺伝的に固定化しなければならなかった。したがって広大な圃場や多大な人力、相当の年月が必要であった。例えば、赤かび病抵抗性を目標形質とした場合には、選抜対象集団を栽培し、各個体毎に赤かび病抵抗性を評価することにより、選抜すべき個体を特定しなければならなかった。また、目標形質が栽培環境因子に影響を受けやすい形質であれば、選抜個体が発現している目標形質が遺伝子の表現型であるか否かの判定が困難であった。
【0006】
そこで、近年は育種期間の短縮、労働力および圃場面積の縮減、有用遺伝子の確実な選抜を図るため、遺伝マーカーを指標とした選抜による育種法が用いられるようになってきた。このような遺伝マーカーによる育種では、マーカーの遺伝子型により幼苗段階で選抜が可能となり、目標形質の有無の確認も容易となる。したがって、遺伝マーカーを利用すれば効率的な育種が実現可能である。そして、遺伝マーカーを利用した育種を実現するためには、目標形質に強く連鎖した遺伝マーカーの開発が必須となる。
【0007】
ところで、農業上重要な形質の多くは、雑種後代で連続的な変異を示すものが多い。このような形質は、重さや長さなどの量的な尺度で測定されるので量的形質と呼ばれている。量的形質は一般に、単一主働遺伝子支配の形質ではなく、複数の遺伝子の作用によって決定されている場合が多い。作物の育種において改良対象とされる形質の多く、例えば収量や品質・食味等はこの量的形質であることが多い。
【0008】
このような量的形質を司る遺伝子が染色体上に占める遺伝的な位置をQTL(Quantitative Trait Loci、量的形質遺伝子座)と称する。QTLを推定する方法として、QTLの近傍に存在する遺伝マーカーを利用するQTL解析が用いられる。1980年代後半に遺伝マーカーが登場すると、遺伝マーカー利用による詳細な連鎖地図作成が大きく進み、その地図に基づいて多くの生物でQTL解析が行われるようになった。
【0009】
以上のように、目標形質に連鎖する遺伝マーカーの開発は、染色体全体をカバーできる詳細な連鎖地図に基づいた精度の高いQTL解析により可能となり、得られた遺伝マーカーを利用することにより、効率的な育種が実現できるといえる。
【0010】
上記遺伝マーカーに関する技術としては、オオムギを例に挙げると、1)オオムギにアルミニウム耐性を付与する遺伝子に連鎖する遺伝マーカーとその利用に関する技術(特許文献1参照)や、2)オオムギ染色体由来の核酸マーカーをコムギの背景で検出するための新規なプライマーセット(特許文献2参照)とその利用に関する技術等が、本発明者らによって提案されている。
【非特許文献1】Steffen BJ. 1998. “Fusarium head blight of barley: epidemics, impact, and breeding for resistance.” NBAA Tech Quart 35: 177-184.
【非特許文献2】Stuchlakova E and Sip V. 1996. “Resistance of Czech and Slovak winter wheat varieties to Fusarium head blight.“ Genet a Slecht Praha (Genetics and plant Breeding ) 32:79-94.
【非特許文献3】部田 英雄、日浦 運治.1962.「赤かび病に対する抵抗性の品種間差異.オオムギの耐病性に関する研究 第13報」農学研究 49:177−187
【非特許文献4】武田 和義、部田 英雄.1989.「オオムギにおける赤かび病検定法の開発と耐病性品種の検索」育種学雑誌 39
【非特許文献5】Zhu, H., L. Gilchrist, P. Hayes, A. Kleinhofs, D. Kudruna, Z. Liu, L. Porm, B. Steffenson, T. Toojinda, P. Vivar. 1999. “Does function follow form ? Principal QTLs for Fusarium head bright (FHB) resistance are coincident with QTLs for inflorescence trits and plant height in a doubled-haploide population of barley.”Theor Appl Genet 99: 1221-1232.
【非特許文献6】堀 真雄.1985.「コムギおよびオオムギ赤かび病の発生生態と防除法」農業および園芸 60:431−436
【特許文献1】特開2002−291474号公報(2002(平成14)年10月8日公開)
【特許文献2】特開2003−111593号公報(2003(平成15)年4月15日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
オオムギの赤かび病抵抗性品種の抵抗性機構について研究がなされているが、オオムギの赤かび病抵抗性に関与する遺伝子および抵抗性のメカニズムの詳細についてはいまだ明らかにされていない。
【0012】
そこで本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、オオムギのゲノムDNA中に存在し、かつ赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する遺伝マーカーを見いだすことによって、オオムギの赤かび病抵抗性に関与する遺伝子の単離、オオムギ赤かび病抵抗性のメカニズム解明、赤かび病抵抗性植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))の育種、および赤かび病抵抗性植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))の判定法等その利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、赤かび病に対する抵抗性が大きく異なるオオムギ品種Russia6(二条、抵抗性)とH.E.S.4(六条、罹病性)の交配から育成した組み換え近交系統(RI系統(以下、適宜「RHI集団」という))を材料として、赤かび病抵抗性にかかわるQTL解析を行なった。
【0014】
その結果、赤かび病抵抗性に関するQTLを2H染色体上に2つ、5H染色体上に1つ検出した。ただし2H染色体で検出されたQTLのうち1つは、公知の条性遺伝子(vrs1)の位置と一致したことより、vrs1遺伝子の多面発現の可能性が示唆された。よってそれ以外の赤かび病抵抗性に関するQTLに着目して解析を進め、これらQTLにそれぞれ連鎖する遺伝マーカー(DNAマーカー等)を見いだした。
【0015】
また本発明者らは、上記RHI集団、Harbin 2-row(抵抗性)とTurkey 6(羅病性)の交配から育成したRI系統(以下、「RI2集団」という)、およびはるな二条(抵抗性)とH602(罹病性)の交配から育成した倍加半数体系統(以下、倍加半数対系統の略称を「DH」、当該系統を「DHHS集団」という)を材料として、赤かび病抵抗性にかかわるQTL解析をさらに行なった。
【0016】
その結果、新たにRHI集団では2Hおよび4H染色体に、RI2集団では2H、4Hおよび6H染色体に、DHHS集団では2H、4Hおよび5H染色体に、それぞれ1つずつのQTLを検出した。また当該QTLに連鎖する遺伝マーカーを見出した。本発明は上記検討に基づき完成されたものである。すなわち本発明は以下の発明を包含する。
【0017】
赤かび病抵抗性イネ科植物を判定するために用いられる赤かび病抵抗性イネ科植物の判定キットであって、以下に示される第十五および十六プライマーセットのうち、少なくとも1つ以上が含まれることを特徴とする当該判定キット:
配列番号40に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号41に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十五プライマーセット;
配列番号42に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号43に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十六プライマーセット。
【0018】
また上記判定キットは、以下に示される第一〜十三および十七〜十八プライマーセットのうち、少なくとも1つ以上がさらに含まれていてもよい:
配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセット;
配列番号3に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセット;
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット;
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセット;
配列番号21に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号20に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第五プライマーセット;
配列番号22に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号23に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第六プライマーセット;
配列番号24に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号25に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第七プライマーセット;
配列番号26に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号27に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第八プライマーセット;
配列番号28に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号29に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第九プライマーセット;
配列番号30に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号31に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十プライマーセット;
配列番号32に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号33に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十一プライマーセット;
配列番号34に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号35に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十二プライマーセット;
配列番号36に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号37に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十三プライマーセット;
配列番号44に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号45に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十七プライマーセット;および
配列番号46に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号47に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十八プライマーセット。
【0019】
また本発明にかかる赤かび病抵抗性イネ科植物の判定方法は、イネ科植物のゲノムDNAを鋳型とし、以下に示される第十五および十六プライマーセットのうち、少なくとも1つ以上のプライマーセットを用いて増幅される増幅断片の多型を検出する工程を含むことを特徴とする赤かび病抵抗性イネ科植物の判定方法である:
配列番号40に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号41に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十五プライマーセット;
配列番号42に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号43に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十六プライマーセット。
【0020】
また上記判定方法は以下に示される第一〜十三および十七〜十八プライマーセットのうち、少なくとも1つ以上をさらに用いることを特徴とする方法であってもよい:
配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセット;
配列番号3に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセット;
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット;
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセット;
配列番号21に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号20に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第五プライマーセット;
配列番号22に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号23に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第六プライマーセット;
配列番号24に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号25に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第七プライマーセット;
配列番号26に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号27に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第八プライマーセット;
配列番号28に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号29に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第九プライマーセット;
配列番号30に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号31に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十プライマーセット;
配列番号32に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号33に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十一プライマーセット;
配列番号34に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号35に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十二プライマーセット;
配列番号36に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号37に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十三プライマーセット;
配列番号44に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号45に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十七プライマーセット;および
配列番号46に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号47に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十八プライマーセット。
【0021】
また本発明には、以下の発明も含まれる。すなわち本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、イネ科植物のゲノムDNA中に存在し、赤かび病抵抗性因子に連鎖する遺伝マーカーであって、上記赤かび病抵抗性因子から0ないし10センチモルガンの範囲内の距離に位置することを特徴としている。
【0022】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記イネ科植物がムギ類であってもよい。
【0023】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記ムギ類がオオムギであってもよい。
【0024】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記ゲノムDNAが2H染色体であることを特徴とするものであってもよい。
【0025】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0026】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、上記赤かび病抵抗性因子から約0センチモルガンの距離に位置するものであってもよい。
【0027】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号3に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0028】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、上記赤かび病抵抗性因子から約0.6センチモルガンの距離に位置するものであってもよい。
【0029】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号8に示される塩基配列、または配列番号9に示される塩基配列を有するものであってもよい。
【0030】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号22に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号23に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第六プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0031】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号24に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号25に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第七プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0032】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号26に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号27に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第八プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0033】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記ゲノムDNAが5H染色体であることを特徴とするものであってもよい。
【0034】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0035】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、上記赤かび病抵抗性因子から約9センチモルガンの距離に位置するものであってもよい。
【0036】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号10に示される塩基配列、または配列番号11に示される塩基配列を有するものであってもよい。
【0037】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0038】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、上記赤かび病抵抗性因子から約9センチモルガンの距離に位置するものであってもよい。
【0039】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号12に示される塩基配列、または配列番号13に示される塩基配列を有するものであってもよい。
【0040】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、イネ科植物のゲノムDNAを制限酵素MseIおよびEcoRIで消化して得られるDNA断片に、配列番号16および17に示される塩基配列を有するMseIアダプター、並びに配列番号14および15に示される塩基配列を有するEcoRIアダプターをライゲーションし、前記ライゲーション後のDNA断片を配列番号19に示される塩基配列を有するMseIユニバーサルプライマーおよび配列番号18に示される塩基配列を有するEcoRIユニバーサルプライマーを用いて予備増幅を行ない、さらに、前記予備増幅によって得られた予備増幅断片を配列番号21に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号20に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第五プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0041】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、上記赤かび病抵抗性因子から約2.2センチモルガンの距離に位置するものであってもよい。
【0042】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号28に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号29に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第九プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0043】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号30に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号31に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0044】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記ゲノムDNAが4H染色体であることを特徴とするものであってもよい。
【0045】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、イネ科植物のゲノムDNAを制限酵素MseIおよびEcoRIで消化して得られるDNA断片に、配列番号16および17に示される塩基配列を有するMseIアダプター、並びに配列番号14および15に示される塩基配列を有するEcoRIアダプターをライゲーションし、前記ライゲーション後のDNA断片を配列番号19に示される塩基配列を有するMseIユニバーサルプライマーおよび配列番号18に示される塩基配列を有するEcoRIユニバーサルプライマーを用いて予備増幅を行ない、さらに、前記予備増幅によって得られた予備増幅断片を配列番号32に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号33に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十一プライマーセットを用いて増幅されることを特徴とするものであってもよい。
【0046】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、イネ科植物のゲノムDNAを制限酵素MseIおよびEcoRIで消化して得られるDNA断片に、配列番号16および17に示される塩基配列を有するMseIアダプター、並びに配列番号14および15に示される塩基配列を有するEcoRIアダプターをライゲーションし、前記ライゲーション後のDNA断片を配列番号19に示される塩基配列を有するMseIユニバーサルプライマーおよび配列番号18に示される塩基配列を有するEcoRIユニバーサルプライマーを用いて予備増幅を行ない、さらに、前記予備増幅によって得られた予備増幅断片を配列番号34に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号35に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十二プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0047】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、イネ科植物のゲノムDNAを制限酵素MseIおよびEcoRIで消化して得られるDNA断片に、配列番号16および17に示される塩基配列を有するMseIアダプター、並びに配列番号14および15に示される塩基配列を有するEcoRIアダプターをライゲーションし、前記ライゲーション後のDNA断片を配列番号19に示される塩基配列を有するMseIユニバーサルプライマーおよび配列番号18に示される塩基配列を有するEcoRIユニバーサルプライマーを用いて予備増幅を行ない、さらに、前記予備増幅によって得られた予備増幅断片を配列番号36に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号37に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十三プライマーセットを用いて増幅されることを特徴とするものであってもよい。
【0048】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号38に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号39に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十四プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0049】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号40に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号41に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十五プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0050】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号42に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号43に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十六プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0051】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記ゲノムDNAが6H染色体であることを特徴とするものであってもよい。
【0052】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、イネ科植物のゲノムDNAを制限酵素MseIおよびEcoRIで消化して得られるDNA断片に、配列番号16および17に示される塩基配列を有するMseIアダプター、並びに配列番号14および15に示される塩基配列を有するEcoRIアダプターをライゲーションし、前記ライゲーション後のDNA断片を配列番号19に示される塩基配列を有するMseIユニバーサルプライマーおよび配列番号18に示される塩基配列を有するEcoRIユニバーサルプライマーを用いて予備増幅を行ない、さらに、前記予備増幅によって得られた予備増幅断片を配列番号44に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号45に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十七プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0053】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、上記課題を解決するために、上記構成に加え、配列番号46に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号47に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十八プライマーセットを用いて増幅されるものであってもよい。
【0054】
上記本発明にかかる遺伝マーカーは、イネ科植物、特にムギ類(オオムギ)のゲノムDNA中に存在し、かつ赤かび病抵抗性因子(例えば、赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖している。つまり当該遺伝マーカーと赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座間で分離して組み換えが起こる確率は低い。それゆえ上記遺伝マーカーを用いることによって、赤かび病抵抗性因子(例えば赤かび病抵抗性に関与する遺伝子)を含むDNA断片の取得、赤かび病抵抗性の有無の判定、赤かび病抵抗性イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類)の判定等を行なうことが可能となる。
【0055】
一方、本発明にかかるDNA断片の単離方法は、上記いずれかの本発明にかかる遺伝マーカーを用いて目的のDNA断片を単離する工程を含んでいる。上記遺伝マーカーは、赤かび病抵抗性因子(例えば、赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖しているため、上記DNAを目標にクローニングを行なえば、目的とするDNA断片を容易に単離することが可能となる。
【0056】
一方、本発明にかかる赤かび病抵抗性植物の生産方法は、上記本発明にかかるDNA断片の単離方法により得られた上記赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を、植物のゲノムDNAに導入する工程を含むことを特徴としている。
【0057】
また、本発明にかかる赤かび病抵抗性植物の生産方法は、上記植物がイネ科植物であってもよい。
【0058】
また、本発明にかかる赤かび病抵抗性植物の生産方法は、上記イネ科植物がムギ類であってもよい。
【0059】
また、本発明にかかる赤かび病抵抗性植物の生産方法は、上記ムギ類がオオムギであってもよい。
【0060】
上記いずれかの赤かび病抵抗性植物の生産方法は、上記赤かび病抵抗性因子(例えば、赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を植物(例えば、イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))のゲノムDNA中に導入する工程を含んでいる。赤かび病抵抗性因子(例えば、赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片は、赤かび病に対する抵抗性を付与する特性を有するため、赤かび病に対して罹病性の植物(例えば、イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))に抵抗性を付与、または抵抗性を増強することが可能となる。
【0061】
一方、本発明にかかる赤かび病抵抗性植物は、上記いずれかの本発明にかかる赤かび病抵抗性植物の生産方法によって得られた赤かび病抵抗性植物である。
【0062】
上記本発明にかかる赤かび病抵抗性植物は、上記赤かび病抵抗性植物の生産方法によって得られた植物(例えば、イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))である。それゆえ赤かびによる病害を防止することができ、該植物(例えば、イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))の収穫量の向上、品質の向上等を図ることができる。
【0063】
一方、本発明にかかる赤かび病抵抗性植物の判定方法は、上記いずれかの本発明にかかる遺伝マーカーを検出する工程を含むことを特徴としている。
【0064】
上記本発明にかかる遺伝マーカーは、赤かび病抵抗性因子(例えば、赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖しているものであり、当該遺伝マーカーを検出することによって、試験対象植物(例えば、イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))が赤かび病抵抗性植物(例えば、イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))か否かを容易かつ高確率で判定することができる。また上記判定方法は、幼苗段階で判断できるため労力をかけることなく、迅速な判定を行なうことができる。
【0065】
一方、本発明にかかる赤かび病抵抗性植物の判定キットは、上記赤かび病抵抗性植物の判定方法を行なうために用いられるものである。
【0066】
上記赤かび病抵抗性植物の判定方法を行なうために必要な試薬、酵素類をキット化することによって、赤かび病抵抗性植物の判定キットを構成することが可能である。よって、当該赤かび病抵抗性植物の判定キットによれば、より簡便に赤かび病抵抗性植物を判定(判別)することできるという効果を奏する。
【0067】
一方、本発明にかかる遺伝子検出器具は、上記の本発明にかかる遺伝マーカーのうち、少なくとも一つ以上が、固定されていることを特徴としている。
【0068】
上記本発明にかかる遺伝子検出器具に対して、試験対象の植物から調製したプローブを反応させ、その時に発するシグナルを検出することで、複数の本発明にかかる遺伝マーカーを容易かつ同時に検出することが可能である。したがって当該遺伝子検出器具は、本発明にかかる遺伝マーカーの多型を検出する手段として用いることができ、例えば赤かび病抵抗性植物(例えば、イネ科植物)の判定を容易に行なうことができるという効果を奏する。
【0069】
一方、本発明にかかるプライマー群は、上記本発明にかかる遺伝マーカーを検出するために用いられるプライマー群であって、配列番号1〜7及び配列番号20〜47のいずれかに示される塩基配列を有するプライマーのうち、少なくとも2つ以上のプライマーを包含することを特徴としている。
【0070】
上記本発明にかかるプライマーセットによれば、上記本発明にかかる遺伝マーカーをPCR等の増幅反応によって増幅することが可能となる。それゆえ、本発明にかかる遺伝マーカーの多型を検出することにより、例えば赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)の判定を容易に行なうことができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0071】
本発明にかかる赤かび病抵抗性因子に連鎖する遺伝マーカーおよびその利用によれば、赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を単離することができる。それゆえ当該DNA断片を用いることによってオオムギの赤かび病抵抗性に関与する遺伝子、および赤かび病抵抗性のメカニズム等の解明を行なうことが可能となるという効果を奏する。
【0072】
また本発明によれば、赤かび病抵抗性を有する植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))または赤かび病抵抗性がさらに増強された植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))を生産することができる。それゆえ食用作物として重要なオオムギ等の赤かび病によるオオムギの収穫量の低下、および品質低下等の被害を減少させることが可能となるという効果を奏する。
【0073】
また本発明にかかる遺伝マーカーは、赤かび病抵抗性因子に連鎖するため、当該遺伝マーカーを指標として赤かび病抵抗性イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類)の育種を可能とする。したがって、赤かび病抵抗性イネ科植物の効率的な育種が実現できるという効果を奏する。より具体的には、幼苗段階で目的個体を選抜できるため、実際に植物個体の赤かび病抵抗性を評価した後に目的の個体を選抜する必要がなくなり、育種期間を短縮できるという効果を奏する。また、複数の遺伝子座を同時に選抜できるために、観察によって選抜するよりも、確実に目的とする遺伝子型を得ることができる。さらに、労働力および圃場面積を縮減できるという効果を奏する。
【0074】
さらに、本発明にかかる遺伝マーカーを指標として選抜育種を行なえば、栽培環境因子による表現型への影響を排除することが可能となる。したがって、有用遺伝子(遺伝子座)の確実な選抜ができるという効果を奏する。
【0075】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、次の説明で明白になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について図1ないし図7に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0077】
本発明は、赤かび病抵抗性因子に連鎖する遺伝マーカー(例えば、DNAマーカー)およびその利用の一例に関するものである。以下それぞれについて説明を加える。
【0078】
〔1.本発明にかかる遺伝マーカー〕
本発明にかかる遺伝マーカーは、イネ科植物(ムギ類(例えばオオムギ))のゲノムDNA中に存在し、赤かび病抵抗性因子に連鎖している。
【0079】
なお本発明においてムギ類とは、例えばオオムギ、コムギ、ライムギ、ライコムギ等を意味する。
【0080】
<1−1.赤かび病および赤かび病抵抗性因子>
「赤かび病」とは、前述のとおりフザリウム属菌類がムギ類に感染して起こる病害である。該赤かび病は、登熟不良・減収を引き起こすばかりでなく、カビ毒(例えば、デオキシニバレノール)を生産し、発病したムギを食用・飼料にすると中毒症状を起こすという重大な病害である。
【0081】
オオムギには、かかる赤かび病に対して抵抗性を示す品種が存在している。赤かび病抵抗性の詳細なメカニズムは明らかにされていないが、これまでの研究によって、条性・穂長・出穂時期・穂軸節間長等の形質の関与が示唆されている。またオオムギには赤かび病に対する免疫的抵抗性は無いとされ、比較的少数の遺伝子がその抵抗性に関与する量的形質であることがいわれている。このようにオオムギのゲノムDNA中に存在し、赤かび病に対する抵抗性を付与する特性を有する遺伝子、または赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座のことを本発明において「赤かび病抵抗性因子」という。
【0082】
赤かび病抵抗性因子の検索の手段としては、QTL解析が好適である。上述したごとく、発明者等は該赤かび病抵抗性因子を検索するため、オオムギの赤かび病抵抗性に関するQTL解析を行なっている。具体的には、以下のとおりである。材料としては、赤かび病に対する抵抗性が大きく異なるオオムギ品種Russia6(二条、抵抗性)とH.E.S.4(六条、罹病性)の交配から育種した組み換え近交系統(RI系統)を用いて行なっている。また赤かび病抵抗性の評価方法は、「切り穂検定法」(非特許文献4参照)を改変した0(抵抗性)〜10(罹病性)のスコアで評価している。また解析のアルゴリズムには、simple interval mapping (SIM)とcomposite interval mapping (CIM)を用い、解析ソフトウエアにはそれぞれ、MAPMAKER/QTLとQTL Cartographerを用いて行なっている。
【0083】
かかるQTL解析の結果、オオムギの2H染色体上に2つ、5H染色体上に1つの赤かび病抵抗性に関するQTLが検出されている。オオムギの2H染色体で検出されたQTLのうち1つは、公知の条性遺伝子(vrs1)の位置と一致したことより、vrs1遺伝子の多面発現の可能性が示唆されている。この結果は、これまでの赤かび病抵抗性に対する条性の関与を支持するする結果である。しかし上記vrs1遺伝子が存在するQTL以外の遺伝子座に存在するであろう赤かび病抵抗性因子については未知であり、条性遺伝子以外の赤かび病抵抗性因子が存在しているものと考えられる。ここで特にオオムギの2H染色体上に存在しvrs1遺伝子の位置とは異なる遺伝子座に存在する赤かび病抵抗性因子を「2H―2因子」と命名し、オオムギの5H染色体上に座乗するそれを「5H―1因子」と命名する。なお、オオムギの2H染色体上に存在しvrs1遺伝子の位置と一致した赤かび病抵抗性因子を便宜上「2H−1因子」と称する。
【0084】
<1−2.遺伝マーカー>
発明者等が作成した高密度連鎖地図の情報を元に、上記赤かび病抵抗性因子2H―2因子、5H−1因子の遺伝子座の近傍に位置する遺伝マーカーを検索し、特に上記赤かび抵抗因子に強連鎖する遺伝マーカー、すなわち本発明にかかる遺伝マーカーを発見するに至った。また該遺伝マーカーのクローニングを行なってSTS化し、その情報からそれぞれの遺伝マーカーを増幅するためのプライマーを設計した。
【0085】
より具体的には、2H−2因子に連鎖する遺伝マーカーとしてMM314、FM677を発見した。
【0086】
MM314は、AGAGATCCCTGCTCAGCTTG(配列番号1)に示される塩基配列を有するプライマー、およびTCGTATTAAGGCCGCATAGG(配列番号2)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、2H−2因子から約0センチモルガン(以下cMと表示する)の距離に位置している、つまり2H−2因子にほぼオーバーラップする位置に座乗するものである。
【0087】
またFM677は、GCACGTAGCGTTCAACATCA(配列番号3)に示される塩基配列を有するプライマー、およびAACTTTTCCCAACCCTTTCC(配列番号4)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、2H−2因子から約0.6cMの距離に座乗するものである。
【0088】
また上記第二のプライマーセットを用いて増幅されるFM677には、赤かび病に対して抵抗性型と罹病性型が存在し、それぞれの塩基配列は配列番号8および配列番号9に示されるものである。
【0089】
一方、5H−1因子に連鎖する遺伝マーカーとしてFM426、MM1057を発見した。
【0090】
FM426は、CCGTGTGTCGTCTAGGTCAA(配列番号5)に示される塩基配列を有するプライマーおよびCAACTTTGGTGGGACGTAGG(配列番号6)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット、またはCCGTGTGTCGTCTAGGTCAA(配列番号5)に示される塩基配列を有するプライマーおよびGTTTTCGCCATCACTCTTCC(配列番号7)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、5H−1因子から約9cMの距離に座乗するものである。
【0091】
また上記第三のプライマーセットを用いて増幅されるFM426には、赤かび病に対して抵抗性型と罹病性型が存在し、それぞれの塩基配列は配列番号10および配列番号11に示されるものである。
【0092】
また上記第四のプライマーセットを用いて増幅されるFM426には、赤かび病に対して抵抗性型と罹病性型が存在し、それぞれの塩基配列は配列番号12および配列番号13に示されるものである。
【0093】
またMM1057は、5H−1因子から約2.2cMの距離に座乗するものである。
【0094】
上記遺伝マーカーと赤かび病抵抗性因子(2H−2因子,5H−1因子)との位置関係を図1に示す。図1(a)には2H染色体上の遺伝マーカーおよび2H−2因子の位置関係を示し、図1(b)には5H染色体上の遺伝マーカーおよび5H−1因子の位置関係を示している。なお、図中左側は染色体上の短腕(5’端)を示し、右側は長腕(3’端)を示す。また2H−2因子または5H−1因子の座から短腕側にある遺伝マーカーの位置をマイナス値で示し、長腕側にある遺伝マーカーの位置をプラス値で示す。
【0095】
図1(a)によるとMM314は2H−2因子とほぼオーバーラップする位置(約0cM)に座乗し、FM677は2H−2因子に対して長腕側に約0.6cMの位置に座乗していることがわかる。一方、図1(b)によるとFM426は5H−1因子に対して短腕側に約9cMの位置(約−9cM)に座乗し、MM1057は5H−1因子に対して長腕側に約2.2cMの位置に座乗していることがわかる。
【0096】
ここで、モルガン(M)について説明する。1モルガン(M)とは、減数分裂1回あたり平均1回の交叉を起こす染色体上の距離の単位である。例えば、2.2cMは、赤かび病抵抗性因子と遺伝マーカーとの間で染色分体あたり平均して1000分の22回乗換えが起こることを示している。すなわちこの時は、約2.2%の組み換え率であることを示している。
【0097】
ところで、増幅に際して鋳型として用いられるゲノムDNAは、オオムギの植物体より従来公知の方法で抽出可能である。具体的には、植物体からゲノムDNAを抽出するための一般法(Murray,M.G. and W.F.Thompson(1980) Nucleic Acids Res.8:4321-4325. など参照)が好適な例として挙げられる。また、上記のゲノムDNAは、根、茎、葉、生殖器官など、オオムギの植物体を構成するいずれの組織を用いても抽出可能である。また、場合によってはオオムギのカルスから抽出してもよい。なお、上記生殖器官には、花器官(雄性・雌性生殖器官を含む)や種子も含まれる。ゲノムDNAの抽出は、例えば、オオムギの芽生え期の葉を用いて行われる。この理由としては、組織の摩砕が比較的容易であり、多糖類などの不純物の混合割合が比較的少なく、また、種子から短期間で育成可能である点が挙げられる。
【0098】
またオオムギのゲノムDNAを鋳型とし、上記プライマーの組み合わせを用いて増幅する方法は、従来公知のDNA増幅法を採用することができる。一般には、PCR法(ポリメラ−ゼ連鎖反応法)や、その改変法が用いられる。PCR法や、その改変法を用いる際の反応条件は特に限定されるものではなく、通常と同様の条件下で増幅することができる。
【0099】
本発明にかかる遺伝マーカーを用いることによって、赤かび病抵抗性因子(2H−2因子、5H−1因子)を含むDNA断片を単離することが可能となり、上記DNA断片を用いることによって、オオムギの赤かび病抵抗性に関与する遺伝子、および赤かび病抵抗性のメカニズムの解明に利用が可能である。また上記DNA断片を植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)のゲノムDNAの導入することによって赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)を生産(育種)することが可能となる。
【0100】
また上記遺伝マーカーは、赤かび病抵抗性因子(2H−2因子、5H−1因子)に連鎖しているため、試験対象である植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)のゲノムDNA中における該遺伝マーカーの多型を検出することによって、該植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)が赤かび病抵抗性因子を有するか否かを判定することが可能となる。また同様に赤かび病抵抗性因子(2H−2因子、5H−1因子)に連鎖しているため、試験対象である植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)のゲノムDNA中における該遺伝マーカーの多型を検出することによって、該植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)が、赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)であるか否かを判定することができる。また、上記遺伝マーカーを増幅することができるプライマーまたは、上記遺伝マーカーを固定したDNAマイクロアレイをキット化すれば、植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)の赤かび病抵抗性因子の有無判定キット、および赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)の判定キットを提供することが可能となる。
【0101】
上述のごとく、本発明にかかる遺伝マーカーは、様々な用途に利用が可能であることは明らかである。上述した本発明にかかる遺伝マーカーの用途の一例については、後に詳細に説示する。
〔2.本発明にかかる遺伝マーカーの利用〕
<2−1.本発明にかかる赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片の単離方法>
上述のとおり本発明にかかる遺伝マーカー(MM314、FM677)は、赤かび病抵抗性因子のうち2H−2因子に連鎖するものである。一方本発明にかかる遺伝マーカー(FM426、MM1057)は、赤かび病抵抗性因子のうち5H−1因子に連鎖するものである。よって、MM314、FM677の遺伝マーカーを用いることによって2H−2因子を含むDNA断片を単離することができ、FM426、MM1057の遺伝マーカーを用いることによって5H−1因子を含むDNA断片を単離することができる。
【0102】
本発明の遺伝マーカーを用いて赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を単離する方法としては特に限定されるものではないが、例えば次のような方法を挙げることができる。
【0103】
オオムギではゲノムDNAのBACライブラリーが1種類作成されており、現在複数のBACライブラリーが開発中である。そこで、このようなBACライブラリーを用いて、従来公知のマップベースクローニングの手法にしたがって、赤かび病抵抗性因子と該因子に連鎖する本発明の遺伝マーカーとで当該マーカーを含むBACクローンを同定し、そこからBACのコンティグを作成して塩基配列を確定することにより、最終的に赤かび病抵抗性因子に到達することができる。
【0104】
なお、上記方法をはじめとする赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を単離する際には、目的とする赤かび病抵抗性因子に対してなるべく近傍に座乗する遺伝マーカーを選択して用いることが好ましい。目的とする赤かび病抵抗性因子と遺伝マーカーの間で組み換えが起こる確率がより低くなり、より確実に該赤かび病抵抗性因子を単離することができるからである。例えば、2H−2因子をMM314(2H−2因子からの距離:約0cM)、FM677(2H−2因子からの距離:約0.6cM)を用いて単離する場合は、MM314の方がFM677より好適であるといえる。また5H−1因子をFM426(5H−1因子からの距離:約9cM)、MM1057(5H−1因子からの距離:約2.2cM)を用いて単離する場合は、MM1057の方がFM426より好適であるといえる。
【0105】
<2−2.本発明にかかる赤かび病抵抗性植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))の生産方法、および該生産方法によって得られた赤かび病抵抗性植物(例えば、イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))>
上記本発明にかかる赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片の単離方法によって得られた赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を植物のゲノムDNAに導入することによって、赤かび病抵抗性植物を生産することが可能である。また特にイネ科植物のゲノムDNAに、上記DNA断片を導入することによって、赤かび病抵抗性イネ科植物を生産することが可能である。さらにオオムギのゲノムDNAに、上記DNA断片を導入することによって、赤かび病抵抗性オオムギを生産することが可能である。
【0106】
より具体的には、公知の方法(例えばアグロバクテリウム法またはパーティクルガン法)を用いて植物(例えば、イネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))のゲノムDNAに導入することによって赤かび病抵抗性植物を生産すればよい。これにより、赤かび病抵抗性品種が得られることとなる。例えば、雑誌The Plant Journal(1997) 11(6),1369-1376 には、Sonia Tingay等により、Agrobacterium tumefaciens を用いてオオムギを形質転換する方法が開示されており、この方法を利用して形質転換オオムギを生産可能である。
【0107】
またオオムギ以外に赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を導入する植物としては、特に限定されるものではないが、例えば、食用作物、果実や野菜、花・木その他の有効樹木を含む園芸作物、工芸作物、さらには飼肥料作物等が挙げられる。なお、上述した食用作物園芸作物、工芸作物、飼肥料作物にそれぞれ含まれる具体的な作物については、例えば、農学大辞典改訂第4版(養賢堂・1997年4月30日発行)の目次8〜16頁にも詳細に記載されている。赤かび病は、特にムギ類(オオムギ、コムギ、ライムギ、ライコムギ等)の植物で問題となっており、このような植物について本発明を適用することはさらに有効である。
【0108】
また、植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))に導入する赤かび病抵抗性因子は、2H−2因子を含むDNA断片または5H−1因子を含むDNA断片のうちいずれか一方単独であっても赤かび病抵抗性植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))を生産することは可能であるが、両者のDNA断片(2H−2因子を含むDNA断片、5H−1因子を含むDNA断片)が同一植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))のゲノムDNAに導入されることによれば、さらに赤かび病に対する抵抗性をさらに向上させることができるため、より好ましい。
【0109】
また2H−2因子以外に2H染色体上に存在する赤かび病抵抗性因子2H−1因子(条性遺伝子vrs1の遺伝子座と一致した赤かび病抵抗性因子)を、上記2H−2因子を含むDNA断片または5H−1因子を含むDNA断片をそれぞれ単独導入した植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)に導入しても赤かび病抵抗性が単独導入の場合に比して向上する。さらには、上記2H−1因子を、上記2H−2因子を含むDNA断片および5H−1因子を含むDNA断片とを両方を導入した植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)に導入しても赤かび病抵抗性が2つの赤かび病抵抗性因子を導入した場合に比べてさらに向上する。
【0110】
本発明者等は上記2H−2因子を含むDNA断片または5H−1因子を含むDNA断片のいずれかのDNA断片を単独で導入した場合のオオムギの赤かび病抵抗性に対する効果と、両者のDNA断片を導入した場合のそれ、並びに上記3つの赤かび病抵抗性因子を導入した場合のそれを解析ソフトウエア(MAPMAKER/QTLおよびQTL Cartographer)を用いて計算し比較している。以下表1にMAPMAKER/QTLを用いて解析した結果の一例を示す。
【0111】
【表1】

表1は、2H−2因子を含むDNA断片または5H−1因子を含むDNA断片のいずれかのDNA断片を単独で導入した場合のオオムギの赤かび病抵抗性を向上させる効果と、両者のDNA断片を導入した場合それを示している。さらに2H−1因子を含むDNA断片、または2H−2因子を含むDNA断片、または5H−1因子を含むDNA断片のいずれかのDNA断片を単独で導入した場合のオオムギの赤かび病抵抗性を向上させる効果と、上記3つのDNA断片を全て導入した場合それを示している。
【0112】
表1の結果より、上記2H−2因子を含むDNA断片を単独で導入した場合のオオムギの赤かび病抵抗性を向上させる効果は1.8076であり、5H−1因子を含むDNA断片のいずれかのDNA断片を単独で導入した場合のオオムギの赤かび病抵抗性を向上させる効果は,1.1733であるのに対して、両者のDNA断片を導入した場合は、2.7338と明らかな累積効果が見られるということがわかる。さらに2H−1因子を加えて3つの赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を導入することで顕著に赤かび病抵抗性が向上することがわかる(2H−1因子を含むDNA断片単独導入の場合1.3234、2H−2因子を含むDNA断片単独導入の場合1.5319、5H−1因子を含むDNA断片単独導入の場合1.6083、上記3因子を含むDNA断片の導入の場合3.6759)。なお、表1中の「赤かび病抵抗性を向上させる効果」の値が大きいほど当該効果が大きいということを示している。
【0113】
上記方法によって得られた本発明にかかる赤かび病抵抗性オオムギをはじめとする赤かび病抵抗性植物によれば、これまで赤かび病によって品質・収穫量の低下、赤かび病に感染した植物を食することによる人体・家畜への危害を効果的に回避することが可能となり、農業・畜産業等に極めて有効である。また食糧難の問題も改善することができる。
【0114】
なお上記「赤かび病抵抗性植物」、「赤かび病抵抗性イネ科植物」および「赤かび病抵抗性オオムギ」とは、赤かび病に対して全く抵抗性を有していなかった植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))に赤かび病の抵抗性を付与することによって生産された植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))、および元来赤かび病に抵抗性を有する植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))に赤かび病抵抗性をさらに増強させることによって生産された植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))を含む意味である。
【0115】
<2−3.本発明にかかる赤かび病抵抗性因子に連鎖する遺伝マーカーの検出方法>
上述のごとく本発明者等は赤かび病抵抗性因子に連鎖する遺伝マーカーを発見し、該遺伝マーカーの増幅用プライマーの設計を行なっている。
【0116】
具体的には、MM314は、AGAGATCCCTGCTCAGCTTG(配列番号1)に示される塩基配列を有するプライマー、およびTCGTATTAAGGCCGCATAGG(配列番号2)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーである。該遺伝マーカーは2H−2因子に連鎖している。
【0117】
またFM677は、GCACGTAGCGTTCAACATCA(配列番号3)に示される塩基配列を有するプライマー、およびAACTTTTCCCAACCCTTTCC(配列番号4)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーである。該遺伝マーカーは2H−2因子に連鎖している。
【0118】
またFM426は、CCGTGTGTCGTCTAGGTCAA(配列番号5)に示される塩基配列を有するプライマーおよびCAACTTTGGTGGGACGTAGG(配列番号6)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット、またはCCGTGTGTCGTCTAGGTCAA(配列番号5)に示される塩基配列を有するプライマーおよびGTTTTCGCCATCACTCTTCC(配列番号7)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーである。該遺伝マーカーは5H−1因子に連鎖している。
【0119】
よって上記第一プライマーセットないし第四プライマーセットのいずれかを用いて増幅反応を行なうことによって、赤かび病抵抗性因子(2H−2因子または5H−1因子)に連鎖する遺伝マーカーを検出することができる。特に第一プライマーセットを用いることによって2H−2因子に連鎖するMM314を検出することができ、第二プライマーセットを用いることによって2H−2因子に連鎖するFM677を検出することができる。また第三プライマーセットまたは第四プライマーセットを用いることによって5H−1因子に連鎖するFM426を検出することができる。
【0120】
したがってプライマーセットは、上記4セットのうち少なくとも一組を用いることによって上記いずれかの遺伝マーカーを検出することが可能であるが、第一プライマーセットおよび/または第二プライマーセットを用い、かつ第三プライマーセットおよび/または第四プライマーセットを用いることによって、2H−2因子および5H−1因子を両者検出することができるためより好ましい。
【0121】
上記赤かび病抵抗性因子に連鎖する遺伝マーカーの検出を行なうことによって、以下に示す赤かび病抵抗性因子の有無の判定および赤かび病抵抗性植物の判定を行なうことができる。なお上記赤かび病抵抗性因子に連鎖する遺伝マーカーの検出の具体的方法は、「本発明にかかる赤かび病抵抗性因子の有無の判定方法」および「赤かび病抵抗性植物の判定方法」においてあわせて説明する。
【0122】
(2−3−1.本発明にかかる赤かび病抵抗性因子の有無の判定方法)
本発明にかかる赤かび病抵抗性因子の有無の判定方法(以下適宜「本抵抗性因子判定方法」と称する)は、上記本発明にかかる赤かび病抵抗性因子に連鎖する遺伝マーカー(MM314、FM677、FM426、MM1057)の検出方法において検出された遺伝マーカーのうち、少なくとも1つの遺伝マーカーについて多型を検出することによって行なう。かかる遺伝マーカーは赤かび病抵抗性因子に連鎖するため、試験対象である植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)のゲノムDNA中に赤かび病抵抗性型の遺伝マーカーが存在すれば、試験対象植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)が赤かび病抵抗性因子を有するか否かを高確率で判定することができる。ここで、MM314またはFM677の多型を検出することで2H−2因子の有無を判定することができ、FM426またはMM1057の多型を検出することで5H−1因子を検出することができるということは言うまでもない。
【0123】
なお本抵抗性因子判定方法は、在来のオオムギについて行なってもよいし、薬剤等で変異処理をしたオオムギや交配によって育種されたオオムギ(植物)について行なってもよい。また上記2−2で説示した赤かび病抵抗性因子(2H−2因子、5H−1因子)を含むDNA断片が導入されてなるオオムギおよび植物に適用することが可能である。よって本抵抗性因子判定方法は、幅広く植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)に適用することができる。
【0124】
ここで本抵抗性因子判定方法の判定の精度(確率)については、以下のとおりである。赤かび病抵抗性因子から2.2cMの距離に位置する遺伝マーカーは、赤かび病抵抗性因子と遺伝マーカーとの間で染色分体あたり平均して1000分の22回乗換えが起こる。すなわち約2.2%の確率で組み換えが起こる。よってこの遺伝マーカーうち赤かび病抵抗性型のものを検出すれば、97.8%の確率で赤かび病抵抗性因子を有しているということがいえる。よって赤かび病抵抗性因子と遺伝マーカーとの距離が近いほど、高確率をもって赤かび病抵抗性因子の有無を判定することができるといえる。
【0125】
よって上記理由により、多型を検出する遺伝マーカーは、上記遺伝マーカーのいずれであっても赤かび病抵抗性因子の有無を判定することが可能であるが、各赤かび病抵抗性因子に対してなるべく近傍に座乗する遺伝マーカーを検出することが好ましい。すなわち本抵抗性因子判定方法において2H−2因子を検出する場合は、MM314(2H−2因子からの距離:約0cM)の方がFM677(2H−2因子からの距離:約0.6cM)より好適であるといえる。特にMM314は2H−2因子にほぼ一致するため、該遺伝マーカーの多型を検出すればほぼ100%の確率をもって判定することができる。また5H−1因子を検出する場合は、MM1057(5H−1因子からの距離:約2.2cM)のほうがFM426(5H−1因子からの距離:約9cM)より好適であるといえる。
【0126】
また本検出方法においては、複数の遺伝マーカーの多型を検出してもよい。特に判定の精度(確率)を向上させるためには、赤かび病抵抗性因子を挟む関係にある遺伝マーカーを選択して多型を検出すればよい。ここで2H−2因子を挟む関係にある遺伝マーカーの組み合わせとしては、MM314とFM677がある(図1(a)参照)。他方、5H−1因子を挟む関係にある遺伝マーカーの組み合わせとしては、FM426とMM1057がある(図1(b)参照)。
【0127】
FM426とMM1057を例にして、該遺伝マーカーをそれぞれ単独で多型を検出した場合と、両方の多型を検出した場合とにおける本抵抗性因子判定方法の精度(確率)についてより具体的に説明する。FM426は、5H−1因子から短腕側に約9cMの位置に座乗しており、該遺伝マーカーの多型を単独で検出したときの本判定方法の精度(確率)は、(1−90÷1000)×100=約91%である。一方MM1057は、5H−1因子から長腕側に約2.2cMの位置に座乗しており、該遺伝マーカーの多型を単独で多型を検出したときの本抵抗性因子判定方法の精度(確率)を同様に計算すると97.8%である。当該2つの遺伝マーカーの多型を両方検出すると、(1−(90÷1000)×(22÷1000))×100=99.802%となり高確率を持って5H−1の有無を判定することができる。よって、本抵抗性因子判定方法において上記赤かび病抵抗性因子を挟む関係にある遺伝マーカーを検出して判定することは好ましい。
【0128】
ここで本抵抗性因子判定方法において遺伝マーカーの検出には、従来公知のDNA増幅法を採用することができる。一般には、PCR法(ポリメラ−ゼ連鎖反応法)や、その改変法が用いられる。PCR法や、その改変法を用いる際の反応条件は特に限定されるものではなく、通常と同様の条件下で増幅することができる。上記増幅反応によって得られた遺伝マーカーが抵抗性型か罹病性型かを判断することにより試験対象植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)が赤かび病抵抗性因子を有するか否かを判定することができるというものである。
【0129】
本発明にかかる遺伝マーカーは前述のとおり、以下のプライマーの組み合わせによって増幅することが可能である。
【0130】
MM314は、AGAGATCCCTGCTCAGCTTG(配列番号1)に示される塩基配列を有するプライマー、およびTCGTATTAAGGCCGCATAGG(配列番号2)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセットを用いてゲノムDNAを鋳型として増幅することができる。
【0131】
またFM677は、GCACGTAGCGTTCAACATCA(配列番号3)に示される塩基配列を有するプライマー、およびAACTTTTCCCAACCCTTTCC(配列番号4)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセットを用いてゲノムDNAを鋳型として増幅することができる。
【0132】
またFM426は、CCGTGTGTCGTCTAGGTCAA(配列番号5)に示される塩基配列を有するプライマーおよびCAACTTTGGTGGGACGTAGG(配列番号6)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット、またはCCGTGTGTCGTCTAGGTCAA(配列番号5)に示される塩基配列を有するプライマーおよびGTTTTCGCCATCACTCTTCC(配列番号7)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅することができる。
【0133】
以下表2に上記プライマーの組み合わせを用いた増幅反応によって増幅されてくるDNA断片長(増幅断片サイズ)を示す。
【0134】
【表2】

上記プライマーの組み合わせによって増幅されてくるDNA断片には、赤かび病抵抗性オオムギ品種のRussia6、Harbin2等を鋳型とした場合に増幅されてくる抵抗性型のもの(多型)と、赤かび病罹病性オオムギ品種のH.E.S.4、Turkey6等を鋳型とした場合に増幅されてくる罹病性型)のもの(多型)が存在する。本抵抗性因子判定方法において抵抗性型の遺伝マーカー(MM314、FM677、FM426、MM1057)が検出されてくれば、試験対象植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))が赤かび病抵抗性因子を有すると判断することができる。一方罹病性型の遺伝マーカー(MM314、FM677、FM426、MM1057)が検出されてくれば、試験対象植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))が赤かび病抵抗性因子を有しないと判断することができる。
【0135】
ここでMM314の場合のように両者間で増幅断片サイズに差が有るものについては、アガロースゲル電気泳動等を用いてその断片サイズを比較することにより、増幅されてきたM314が抵抗性型か罹病性型かを容易に判定することが可能である。つまり、>524bpの増幅断片が確認された場合は、抵抗性型のMM314が増幅されてきたことがわかり、試験対象の植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))が赤かび病抵抗性因子を有すると判断することができる。一方、>581bpの増幅断片が確認された場合は、罹病性型のMM314が増幅されてきたことがわかり、試験対象の植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))が赤かび病抵抗性因子を有しないと判断することが可能である。このことについては後述する実施例2においてさらに説明する。
【0136】
しかしFM677、FM426については、表2から明らかなように増幅断片サイズに差が無いため、アガロースゲル電気泳動等では増幅された遺伝マーカーが抵抗性型か罹病性型かを容易に判断することが困難である。この場合は増幅断片についてシークエンスを行ない、その塩基配列情報から抵抗性型か罹病性型かを確認することによって判断すればよい。あるいは、遺伝マーカーの制限酵素サイト情報から増幅断片が抵抗性型か罹病性型かを判断してもよい。
【0137】
上記塩基配列情報および制限酵素サイト情報を利用して、増幅断片が抵抗性型か罹病性型かを判断する方法について、図2を用いて具体的に説明する。図2(a)には抵抗性型(Harbin2)のFM677の全塩基配列(配列番号8)を示し、図2(b)には罹病性型(Turkey6)のFM677の全塩基配列(配列番号9)を示している。また図2(c)には抵抗性型(Russia6)のFM426の全塩基配列(配列番号10)を示し、図2(d)には罹病性型(H.E.S.4)のFM426の全塩基配列(配列番号11)を示している。図2(a)および(b)中の下線部はセンスプライマー(配列番号3)設定部分を示しており、2重下線部はアンチセンスプライマー(配列番号4の相補配列)の設定部分を示している。一方、図2(c)および(d)の下線部はセンスプライマー(配列番号5)設定部分を示しており、2重下線部はアンチセンスプライマー(配列番号6の相補配列)設定部分を示しており、波下線部は同じくアンチセンスプライマー(配列番号7の相補配列)設定配列を示している。図2(a)〜(d)における四角囲み文字で示した塩基は、抵抗性型と罹病性型間での塩基配列の異なる箇所を示している。よって増幅反応によって得られた増幅断片のシークエンスを行なえば、その増幅断片が抵抗性型のものか罹病性型のものかを判断できるということである。
【0138】
また図2(b)中の破線部分は制限酵素AluIの認識配列を示し、図2(c)中の破線部分は制限酵素HhaIの認識配列を示し、図2(d)中の破線部分は制限酵素AciIの認識配列を示している。また図2(b)の矢印で示す箇所は制限酵素AluIの切断箇所を示し、図2(c)の矢印で示す箇所は制限酵素HhaIの切断箇所を示し、図2(d)の矢印で示す箇所は制限酵素AciIの切断箇所を示している。よって、抵抗性型のFM677にはAluIサイトは無く、罹病性型のFM677にはAluIサイトが1つ存在するということがわかる。一方、抵抗性型のFM426にはHhaIサイトが1つ存在し、罹病性型のFM426にはAciIサイトが1つ存在するということがわかる。
【0139】
これらの情報をもとにして、配列番号3および配列番号4に示す第二プライマーセットを用いた増幅反応、つまりFM677を検出するために行なった増幅反応で得られた増幅断片についてAluIで消化した際に、切断されずに208bpの断片のみが検出されれば抵抗性型のFM677であると判断でき、1箇所切断され118bpと90bpの断片が検出されれば罹病性型のFM677であると判断することができる。
【0140】
他方、配列番号5および配列番号6に示す第三プライマーセットを用いた増幅反応、つまりFM426を検出するために行なった増幅反応で得られた増幅断片(335bp)についてHhaIで消化した際に、一箇所切断され194bpと141bpの断片が検出されれば抵抗性型のFM426であると判断でき、切断されずに335bpの断片のみが検出されれば罹病性型のFM426であると判断することができる。
【0141】
逆に同様の増幅反応で得られた増幅断片についてAciIで消化した際に切断されずに335bpの断片のみが検出されれば抵抗性型のFM426であると判断でき、一箇所切断され196bpと139bpの断片が検出されれば罹病性型のFM426であると判断することができる。
【0142】
また配列番号5および配列番号7に示す第四プライマーセットを用いた増幅反応を用いてもFM426を検出することができる。この増幅反応で得られた増幅断片(254bp)についてHhaIで消化した際に、一箇所切断され194bpと60bpの断片が検出されれば抵抗性型のFM426であると判断でき、切断されずに254bpの断片のみが検出されれば罹病性型のFM426であると判断することができる。
【0143】
逆に同様の増幅反応で得られた増幅断片についてAciIで消化した際に切断されずに254bpの断片のみが検出されれば抵抗性型のFM426であると判断でき、一箇所切断され196bpと58bpの断片が検出されれば罹病性型のFM426であると判断することができる。
【0144】
上記事項については後述する実施例2においてより具体的に説明する。
【0145】
また、遺伝マーカーの多型を検出する方法として、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphisms)分析を用いることも可能である。以下に本発明にかかる遺伝マーカーMM1057についてAFLP分析を行なって、該遺伝マーカーの多型を検出することについて説明する。
【0146】
AFLP分析の手順は特に限定されるものではないが、例えば文献(Pieter Vos, Rene Hogers, Marjo Bleeker, Martin Reijans, Theo van de Lee, Miranda Hornes, Adrie Frijters, Jerina Pot, Johan Peleman, Martin Kuiper and Marc Zabeau. (1995) AFLP:a new technique for DNA fingerprinting. Nucleic Asids Research. 23:21:4407-4414.)の方法またはその改変法に従って行なえばよい。以下に発明者等が遺伝マーカーMM1057についてAFLP分析を行なった一例を示す。
【0147】
50ngのゲノムDNAを各1.5UのEcoRI(タカラバイオ社製)およびMseI(NEW ENGLAND BioLabs社製)により、合計25μlの反応系において37℃で12時間ダブルダイジェストを行なった。制限酵素処理後のDNAに5μM EcoRIアダプター(塩基配列は配列番号14および配列番号15に示す)と50μM MseIアダプター(塩基配列は配列番号16および配列番号17に示す)を25UのT4 ligase(タカラバイオ社製)によって37℃、3時間ライゲーションを行なった。上記ライゲーション後のDNA断片をEcoRIのユニバーサルプライマー(塩基配列は配列番号18に示す)とMseIのユニバーサルプライマー(塩基配列は配列番号19に示す)を用いてプレアンプリフィケーションを行なった。0.06ng/μlプレアンプリフィケーションの反応溶液について、配列番号20に示される塩基配列を有するEcoRIのセレクティブプライマー、および配列番号21に示される塩基配列を有するMseIのセレクティブプライマーを用いて増幅反応を行なった。なお上記配列番号20に示される塩基配列を有するEcoRIのセレクティブプライマー、および配列番号21に示される塩基配列を有するMseIのセレクティブプライマーとの組み合わせを、特に「第五プライマーセット」と称する。
【0148】
上記増幅反応によって得られたDNA断片について電気泳動を行った結果を図7に示す。図7中で「R」を付したレーンが赤かび病抵抗性オオムギ品種であるRussia6について上記AFLP分析を行なった結果を示す図であり、同図中「H」を付したレーンは、赤かび病罹病性オオムギ品種のH.E.S.4について上記AFLP分析を行なった結果を示す図である。その他のレーンについては、Russia6とH.E.S.4の交配から育種した組み換え近交系統(RI系統)について上記AFLP分析を行った結果を示している。
【0149】
図7のRussia6の結果とH.E.S.4の結果を比較すると、赤かび病抵抗性オオムギ品種のRussia6のみに約1057bp(同図中の矢印で示す)のDNA断片が確認された。つまり赤かび病抵抗性品種と赤かび病罹病性品種とで多型があるということである。この多型を示す遺伝マーカーをMM1057と称する。よってRI系統についてAFLP分析を行なって約1057bpのサイズのDNA断片が確認されれば、そのRI系統は赤かび病抵抗抵抗性因子を有すると判断することができ、逆に該DNA断片が確認されなければそのRI系統は赤かび病抵抗性因子を有しないと判断することができる。なお、図7中でMを付したレーンはDNAサイズマーカーである。
【0150】
(2−3−2.本発明にかかる赤かび病抵抗性植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))の判定方法)
上記本発明にかかる赤かび病抵抗性因子の有無の判定方法(本抵抗性因子判定方法)と同様にして、試験対象の植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))が赤かび病抵抗性か否かを判断することができる。赤かび病抵抗性因子を有する植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))は赤かび病抵抗性を有することから、上記本抵抗性因子判定方法を行なうことによって、該植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))が、赤かび病抵抗性植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))であるか否かを判定することができるといえる。換言すれば、本抵抗性因子判定方法を用いて赤かび病抵抗性因子の有無を判定することによって赤かび病抵抗性植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))の判定方法(以下適宜「本判定方法」と称する)とすることができるということである。
【0151】
本判定方法は、赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)の育種の際の有効なスクリーニング手段として利用することができる。例えば、上記2−2において説示した本発明にかかる赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)の生産方法を行なった際に、赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片が導入された形質転換体植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)を多数の形質転換体候補から容易にスクリーニングすることができる。その他薬剤等の変異処理、交配などの育種処理を行なった植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)のスクリーニング手段としても利用可能である。
【0152】
また本別方法は、本判定方法の項において説明したように2H−2因子、5H−1因子の有無をそれぞれ別個に判断することができるため、2H−2因子を含むDNA断片または5H−1因子を含むDNA断片がそれぞれ単独で導入されている植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)であるか、両者が導入されている植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)であるかまで区別して赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)判定することができる。
【0153】
なお本判定方法の精度(確率)は、上記本抵抗性因子判定方法の項において説示したものと同様である。要するになるべく赤かび病抵抗性因子(2H−2因子、5H−1因子)の近傍に位置する遺伝マーカーを検出することによって、試験対象植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)が赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)であるか否かをより高い精度(確率)をもって判定することができるということである。さらには、赤かび病抵抗性因子を挟む関係にある遺伝マーカーを選択して検出すれば、さらに高い精度(確率)をもって試験対象植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)が赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)であるか否かを判定することができるといえる。
【0154】
<2−4.本発明にかかるプライマー群>
本発明にかかるプライマー群は、上記本発明にかかる遺伝マーカーを検出するために用いられるプライマー群であって、配列番号1〜7及び配列番号20〜47のいずれかに示される塩基配列を有するプライマーのうち、少なくとも2つ以上包含することを特徴としている。
【0155】
本発明にかかるプライマー群に含まれるプライマーの組み合わせは、特に限定されるものではないが、例えば、配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセット;配列番号3に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセット;配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット;配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセット;配列番号20に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号21に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第五プライマーセット;配列番号22に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号23に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第六プライマーセット;配列番号24に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号25に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第七プライマーセット;配列番号26に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号27に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第八プライマーセット;配列番号28に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号29に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第九プライマーセット;配列番号30に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号31に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十プライマーセット;配列番号32に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号33に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十一プライマーセット;配列番号34に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号35に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十二プライマーセット;配列番号36に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号37に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十三プライマーセット;配列番号38に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号39に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十四プライマーセット;配列番号40に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号41に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十五プライマーセット;配列番号42に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号43に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十六プライマーセット;配列番号44に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号45に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十七プライマーセット;および配列番号46に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号47に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十八プライマーセットのいずれかのプライマーセットが、少なくとも1セット以上含まれていることが好ましい。
【0156】
本発明にかかるプライマー群は、赤かび病抵抗性因子(2H−2因子、5H−1因子等)に連鎖する遺伝マーカーを検出するために用いられるプライマー群である。
【0157】
上述のごとく、第一プライマーセットを用いることによって2H−2因子に連鎖するMM314を増幅し検出することができ、第二プライマーセットを用いることによって2H−2因子に連鎖するFM677を増幅し検出することができる。また第三プライマーセットまたは第四プライマーセットを用いることによって5H−1因子に連鎖するFM426を増幅し検出することができる。また第五プライマーセットを用いることによって、5H−1因子に連鎖するMM1057を検出することができる。なお、第六プライマーセット〜第十八プライマーセットを用いて検出することができる遺伝マーカーについては〔実施の形態2〕において後述する。
【0158】
したがって本発明にかかるプライマー群は、上記18セットのうち少なくとも1組からなれば上記いずれかの遺伝マーカーを検出することが可能であるが、例えば本発明にかかるプライマー群が、第一プライマーセットおよび第二プライマーセットのうち少なくとも1組と、第三プライマーセットおよび第四プライマーセットのうち少なくとも1組とからなれば、2H−2因子に連鎖する遺伝マーカー(MM314、FM677)および5H−1因子連鎖する遺伝マーカー(FM426)を両者増幅し、検出することができるためより好ましい。また本発明にかかるプライマー群が上記全てのプライマーセットからなれば、本発明にかかる全ての遺伝マーカーが増幅し、検出することができるために最も好ましい。
【0159】
上記本発明にかかるプライマー群は、本発明にかかる遺伝マーカーを検出することができるため、上述の「2−3−1.本発明にかかる赤かび病抵抗性因子の有無の判定方法」および「2−3−2.本発明にかかる赤かび病抵抗性植物の判定方法」にDNA増幅するためのプライマーとして利用することが可能である。それゆえ本発明にかかるプライマー群を含むことによって、後述する赤かび病抵抗性因子の有無判定キット、および赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)の判定キットとすることができる。
【0160】
<2−5.本発明にかかる赤かび病抵抗性因子の有無判定キット、および赤かび病抵抗性植物の判定キット>
本発明にかかる赤かび病抵抗性因子の有無判定キット(以下適宜「本抵抗性因子判定キット」と称する)は、上述の「2−3−1.本発明にかかる赤かび病抵抗性因子の有無の判定方法」に用いられるキットであって、遺伝マーカーを増幅するためのプライマーセットとして上記「2−4.本発明にかかるプライマー群」含むことよりなる。
【0161】
よって上述のごとく、例えば第一プライマーセットが本抵抗性因子判定キットに含まれることによって2H−2因子に連鎖するMM314を検出することができ、第二プライマーセットが本抵抗性因子判定キットに含まれることによって2H−2因子に連鎖するFM677を検出することができる。また第三プライマーセットまたは第四プライマーセットが本抵抗性因子判定キットに含まれることによって、5H−1因子に連鎖するFM426を検出することができる。また第五プライマーセットが本抵抗性因子判定キットに含まれることによって、5H−1因子に連鎖するMM1057を検出することができる。
【0162】
したがって本抵抗性因子判定キットに含まれるプライマー群は、上記18セットのうち少なくとも1組からなれば上記いずれかの遺伝マーカーを検出することが可能であるが、例えば、第一プライマーセットおよび第二プライマーセットのうち少なくとも1組と、第三プライマーセット、第四プライマーセットおよび第五プライマーセットのうち少なくとも1組とからなれば、2H−2因子に連鎖する遺伝マーカー(MM314、FM677)および5H−1因子連鎖する遺伝マーカー(FM426、MM1057)を両者検出することができるためより好ましい。また本発明にかかるプライマー群が上記全てのプライマーセットからなれば、本発明にかかる全ての遺伝マーカーが検出することができるために最も好ましい。
【0163】
この他本判定キットには、PCRを行なうための酵素、試薬類が含まれていてもよいし、鋳型となるゲノムDNAの調製するために必要な試薬、バッファー類、遠心チューブが含まれていてもよいし、目的のDNAサイズバンドの検出に必要となる遺伝マーカー(MM314、FM677、FM426等)または、適当なDNAサイズマーカーが含まれていてもよい。
【0164】
なお、本判定キットと同じ構成によって赤かび病抵抗性植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))の判定キットとすることができる。このことについては、上述したとおり本抵抗性因子判定キットを用いて赤かび病抵抗性因子の有無を判定することにより、試験対象植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)が赤かび病抵抗性因子を持っているか否かを判定、すなわち赤かび病抵抗性植物(例えばイネ科植物(オオムギをはじめとするムギ類))であるかどうかを判定できるということに起因する。
【0165】
<2−6.本発明にかかる遺伝子検出器具>
本発明にかかる遺伝子検出器具(例えば、DNAマイクロアレイ)(以下適宜、「本遺伝子検出器具」と称する)は、本発明にかかる遺伝マーカー(MM314、FM677、FM426、MM1057)を適当な基板(ガラス、シリコンウエハ、ナイロンメンブレン等)上に固定されてなる。本遺伝子検出器具に対して、試験対象の植物から調製したプローブを反応させ、その時に発するシグナルを検出することで、複数の遺伝マーカーを容易かつ同時に検出することが可能である。したがって本遺伝子検出器具は、本発明にかかる遺伝マーカーの多型を検出する手段として用いることができる。よって、赤かび病抵抗性因子の有無の判定方法、赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)の判定方法における検出手段として利用可能である。また、本遺伝子検出器具を赤かび病抵抗性因子の有無判定キット、または赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)の判定キットに加えることもできる。なお上記キットには遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ)からのシグナルを検出するために用いる試薬・器具・装置等が含まれていてもよい。
【0166】
本遺伝子検出器具の基板上には、本発明にかかる遺伝マーカー(MM314、FM677、FM426、MM1057等)のうち少なくとも1つ以上の遺伝マーカーが固定されていればよい。また抵抗性型の遺伝マーカー、罹病性型の遺伝マーカーのいずれか一方もしくは両方が固定されてもよい。さらにより高精度(確率)をもって赤かび病抵抗性因子の有無を判断するためには、各赤かび病抵抗性因子(2H−2因子、5H−1因子等)を挟む関係にある複数の遺伝マーカーの組み合わせが固定されていることが好ましい。より具体的には、2H−2因子を挟む関係にある遺伝マーカーの組み合わせとしては、MM314とFM677の組み合わせがあり、5H−1因子を挟む関係にある遺伝マーカーの組み合わせとしては、FM426とMM1057の組み合わせがある。
【0167】
また上記組み合わせのうち少なくとも1つ以上の組み合わせが基板上に固定されていれば、2H−2因子または5H-1因子の有無を判定することが可能であるが、2H−2因子および5H−1因子ともに検出することができるという意味では、MM314とFM677の組み合わせが基板上に固定され、かつFM426とMM1057の組み合わせが含まれていることが最も好ましい。
【0168】
上記複数の遺伝マーカーが固定された本遺伝子検出器具を用いることによって、一度の試行で複数の遺伝マーカーを簡便に検出することができる。さらに赤かび病抵抗性因子の有無の判断を高い精度(確率)をもって行なうことができる。
【0169】
なお、本遺伝子検出器具には、本発明にかかる遺伝マーカーのみならずその近傍に位置するその他の遺伝マーカーが固定されていてもよい。
【0170】
さらに本遺伝子検出器具には、本発明にかかる遺伝マーカーがオオムギの染色体上に並んでいる順序で固定されているか、あるいはオオムギの染色体上に並んでいる順序に対応する配列位置情報が付与されて固定されていることが好ましい。試験対象がオオムギである際に検出の精度をさらに向上させることが可能となるからである。つまり、従来のDNAマイクロアレイ等の遺伝子検出器具を用いた解析において、あるスポットに対するシグナルが得られなかった場合、本当に検出しようとする遺伝マーカーが存在しないのか、または解析の実験上のミスによりシグナルが得られていないのかについては、改めて確認しなければ正確には判定することはできなかった。これに対して、上記本遺伝子検出器具を用いる場合においては、固定化されている遺伝マーカーの染色体上の順序が確認できるように配列されているため、上記のような実験上でのミスか否かを容易に判定することが可能となる。
【0171】
具体的には、例えば、シグナルが得られなかったスポットの前後のスポットでシグナルが得られたとする。本発明にかかるアレイでは、各スポットは、染色体上に並んでいる順序が確認できるように配列されている。通常、染色体上に直線上に近接して並んでいる遺伝子のうち一つの遺伝子のみが組み換わるためには2つの組み換えがごく近傍で起こらなくてはならない。このような現象が起こる確率が極めて低いため、シグナルを得られなかったという結果は、実験上のミスによるものであると判断される。このように、本遺伝子検出器具では、あるスポットに対するシグナルが得られなかった場合でも、実験上でのミスか否かを容易に判定することが可能となるため、解析の精度を向上することができる。
【0172】
なお本発明は、以下の発明をも包含する。
【0173】
(1)ムギ類のゲノムDNA中に存在し、赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーであって、
赤かび病抵抗性因子から約0ないし9センチモルガンの範囲内の距離に位置することを特徴とするDNAマーカー。
【0174】
(2)上記ムギ類がオオムギであることを特徴とする(1)に記載のDNAマーカー。
【0175】
(3)上記ゲノムDNAが2H染色体であることを特徴とする(2)に記載のDNAマーカー。
【0176】
(4)配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセットを用いて増幅されることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載のDNAマーカー。
【0177】
(5)上記赤かび病抵抗性因子から約0センチモルガンの距離に位置することを特徴とする(4)に記載のDNAマーカー。
【0178】
(6)配列番号3に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセットを用いて増幅されることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載のDNAマーカー。
【0179】
(7)上記赤かび病抵抗性因子から約0.6センチモルガンの距離に位置することを特徴とする(6)に記載のDNAマーカー。
【0180】
(8)配列番号8に示される塩基配列、または配列番号9に示される塩基配列を有する(7)に記載のDNAマーカー。
【0181】
(9)上記ゲノムDNAが5H染色体であることを特徴とする(2)に記載のDNAマーカー。
【0182】
(10)配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセットを用いて増幅されることを特徴とする(1)または(2)または(9)に記載のDNAマーカー。
【0183】
(11)上記赤かび病抵抗性因子から約9センチモルガンの距離に位置することを特徴とする(10)に記載のDNAマーカー。
【0184】
(12)配列番号10に示される塩基配列、または配列番号11に示される塩基配列を有する(11)に記載のDNAマーカー。
【0185】
(13)配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセットを用いて増幅されることを特徴とする(1)または(2)または(9)に記載のDNAマーカー。
【0186】
(14)上記赤かび病抵抗性因子から約9センチモルガンの距離に位置することを特徴とする(13)に記載のDNAマーカー。
【0187】
(15)配列番号12に示される塩基配列、または配列番号13に示される塩基配列を有する(14)に記載のDNAマーカー。
【0188】
(16)上記赤かび病抵抗性因子から約2.2センチモルガンの距離に位置することを特徴とする(9)に記載のDNAマーカー。
【0189】
(17)上記(1)ないし(16)のいずれかのDNAマーカーを用いて赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を単離することを特徴とするDNA断片の単離方法。
【0190】
(18)上記(17)の単離方法により得られた赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を、植物のゲノムDNAに導入することを特徴とする赤かび病抵抗性植物の生産方法。
【0191】
(19)上記植物がムギ類であることを特徴とする(18)に記載の赤かび病抵抗性植物の生産方法。
【0192】
(20)上記ムギ類がオオムギであることを特徴とする(19)に記載の赤かび病抵抗性植物の生産方法。
【0193】
(21)上記(18)ないし(20)のいずれかの赤かび病抵抗性植物の生産方法によって得られた赤かび病抵抗性植物。
【0194】
(22)上記(1)ないし(16)のいずれかのDNAマーカーのうち、少なくとも1つのDNAマーカーが基板上に固定されていることを特徴とするDNAマイクロアレイ。
【0195】
(23)植物のゲノムDNA中から赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーを検出する方法であって、
配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセット、
配列番号3に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセット、
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット、および
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセットのうち、
少なくとも1組のプライマーセットを用いて増幅されるDNAを、赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーとすることを特徴とするDNAマーカーの検出方法。
【0196】
(24)上記第一プライマーセットおよび第二プライマーセットのうちの少なくとも1組を用いるとともに、
上記第三プライマーセットおよび第四プライマーセットのうちの少なくとも1組を用いることを特徴とする(23)に記載のDNAマーカーの検出方法。
【0197】
(25)上記植物がムギ類であることを特徴とする(23)または(24)に記載のDNAマーカーの検出方法。
【0198】
(26)上記ムギ類がオオムギであることを特徴とする(25)に記載のDNAマーカーの検出方法。
【0199】
(27)上記(23)ないし(26)のいずれかの検出方法により植物のゲノムDNA中から検出されるDNAマーカーのうち、少なくとも1つのDNAマーカーについて多型を検出することを特徴とする赤かび病抵抗性因子の有無の判定方法。
【0200】
(28)上記(23)ないし(26)のいずれかのDNAマーカーの検出方法により植物のゲノムDNA中から検出されるDNAマーカーのうち、少なくとも1つのDNAマーカーについて多型を検出することを特徴とする赤かび病抵抗性植物の判別方法。
【0201】
(29)配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセット、
配列番号3に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセット、
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット、および
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセットのうち、
少なくとも1組からなることを特徴とするプライマー群。
【0202】
(30)上記第一プライマーセットおよび第二プライマーセットのうちの少なくとも1組と、
上記第三プライマーセットおよび第四プライマーセットのうちの少なくとも1組とからなることを特徴とする(29)記載のプライマー群。
【0203】
(31)赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーについて多型を検出することにより、赤かび病抵抗性因子の有無を判定する判定方法に用いられるキットであって、
DNAマーカーを増幅するためのプライマーセットとして、(29)または(30)に記載のプライマー群を含むことを特徴とする、赤かび病抵抗性因子の有無の判定キット。
【0204】
(32)赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーについて多型を検出することにより、赤かび病抵抗性植物を判別するために用いられるキットであって、
DNAマーカーを増幅するためのプライマーセットとして、(29)または(30)に記載のプライマー群を含むことを特徴とする、赤かび病抵抗性植物の判別キット。
【0205】
上記(1)ないし(16)のDNAマーカーは、ムギ類(オオムギ)のゲノムDNA中に存在し、かつ赤かび病抵抗性因子に連鎖している。つまり該DNAマーカーと赤かび病抵抗性因子間で分離して組み換えが起こる確率は低い。それゆえ上記DNAマーカーを用いることによって、例えば赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片の取得、赤かび病抵抗性因子の有無の判定、赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)の判別等を行なうことが可能となる。
【0206】
上記(17)の赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片の単離方法は、上記(1)ないし(16)のいずれかのDNAマーカーを用いて該DNA断片を単離することよりなる。上記DNAマーカーは、赤かび病抵抗性因子に連鎖しているため、上記DNAを目標にクローニングを行なえば、目的とするDNA断片を容易に単離することが可能となる。
【0207】
上記(18)ないし(20)のいずれかの赤かび病抵抗性植物の生産方法は、上記赤かび病抵抗性因子を含むDNA断片を植物(ムギ類、オオムギ)のゲノムDNA中に導入することよりなる。赤かび病抵抗性因子は、赤かび病に対する抵抗性を付与する特性を有する遺伝子であるため、赤かび病に対して罹病性の植物(ムギ類、オオムギ)に抵抗性を付与、または抵抗性を増強することが可能となる。
【0208】
上記(21)の赤かび病抵抗性植物は、上記赤かび病抵抗性植物の生産方法によって得られた植物(ムギ類、オオムギ)である。それゆえ赤かびによる病害を防止することができ、該植物(ムギ類、オオムギ)の収穫量の向上、品質の向上等を図ることができる。
【0209】
上記(22)のDNAマイクロアレイは、(1)ないし(16)に記載のDNAマーカーが基板上に固定されていることよりなる。かかるDNAマイクロアレイによれば、1回の試行で複数のDNAマーカーの検出が可能となり、少ない労力でより大量の試料をより短時間で処理することが可能となる。
【0210】
上記(23)のDNAマーカーの検出方法において、第一プライマーセットまたは、第二プライマーセットを用いて増幅反応を行なえば2H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーを検出することが可能であり、第三プライマーセットまたは第四プライマーセットを用いて増幅反応を行なえば5H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーを検出することが可能である。
【0211】
また(24)に記載のDNAマーカーの検出方法によれば、上記第一プライマーセットおよび第二プライマーセットのうちの少なくとも1組を用いるとともに、上記第三プライマーセットまたは第四プライマーセットのうちの少なくとも1組を用いることよりなるため、2H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカー、および5H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーをともに検出することが可能となる。
【0212】
なお上記(25)または(26)に記載のDNAマーカーの検出方法は、上記(23)または(24)の検出方法をムギ類またはオオムギに適用することよりなる。検出する上記DNAマーカーは、オオムギをはじめとするムギ類のゲノムDNA中に存在し赤かび病抵抗性因子に連鎖しているため、当該DNAマーカーの検出方法はオオムギをはじめとするムギ類に好適に用いることができる。
【0213】
上記(27)の赤かび病抵抗性因子の有無判定方法は、上記(23)ないし(26)のいずれかの検出方法により植物のゲノムDNA中から検出されるDNAマーカーのうち、少なくとも1つのDNAマーカーについて多型(赤かび病抵抗性型か赤かび病罹病性型か)を検出することによって、試験対象植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)中の赤かび病抵抗性因子の有無を判断している。該DNAマーカーは赤かび病抵抗性因子に連鎖しているため、該マーカーの型を指標とすれば、高確率で赤かび病抵抗性因子の有無を判定することが可能となる。
【0214】
上記(28)の赤かび病抵抗性植物の判別方法は、上記(23)ないし(26)のいずれかの検出方法により植物のゲノムDNA中から検出されるDNAマーカーのうち、少なくとも1つのDNAマーカーについて多型(赤かび病抵抗性型か赤かび病罹病性型か)を検出することによって、試験対象植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)が赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)か否かを判別している。該DNAマーカーは赤かび病抵抗性因子に連鎖しているため、該マーカーの型を指標とすれば、高確率で赤かび病抵抗性植物か否かを判別することが可能となる。
【0215】
上記(29)または(30)のプライマー群は、2H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーの検出、および/または5H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーの検出に用いることが可能となり、上記赤かび病抵抗性因子の有無の判定、赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)の判別等に利用が可能である。
【0216】
上記(31)に記載の赤かび病抵抗性因子の有無判定キットは、2H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーの増幅、および/または5H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーの増幅に用いるためのプライマーが含まれてなる。それゆえ試験対象植物中の赤かび病抵抗性因子の有無の判定をより簡便に行なうことが可能となる。
【0217】
上記(32)に記載の赤かび病抵抗性植物の判別キットは、2H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーの増幅、および/または5H染色体中に存在する赤かび病抵抗性因子に連鎖するDNAマーカーの増幅に用いるためのプライマーが含まれてなる。それゆえ試験対象植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)が、赤かび病抵抗性植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)か否かの判別をより簡便に行なうことが可能となる。
【0218】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図8ないし図22に基づいて説明すれば以下の通りである。
【0219】
本発明は、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座等)に連鎖する遺伝マーカーおよびその利用の一例に関するものである。以下それぞれについて説明を加える。
【0220】
(1)本発明にかかる遺伝マーカー
本発明にかかる遺伝マーカーは、イネ科植物のゲノムDNA中に存在し、赤かび病抵抗性に連鎖しているものであればよい。イネ科植物としてはムギ類であることが好ましく、オオムギであることが特に好ましい。イネ科植物とは、オオムギ属、コムギ属、イネ等の植物であればよく、特に限定されるものではない。また、ムギ類とは、例えばオオムギ、コムギ、ライムギ、ライコムギ等を意味する。
【0221】
「赤かび病」とは、前述のとおりフザリウム属菌類がムギ類に感染して起こる病害である。該赤かび病は、登熟不良・減収を引き起こすばかりでなく、カビ毒(例えば、デオキシニバレノール)を生産し、発病したムギを食用・飼料にすると中毒症状を起こすという重大な病害である。
【0222】
オオムギには、かかる赤かび病に対して抵抗性を示す品種が存在している。赤かび病抵抗性の詳細なメカニズムは明らかにされていないが、これまでの研究によって、条性・穂長・出穂時期・穂軸節間長等の形質の関与が示唆されている。またオオムギには赤かび病に対する免疫的抵抗性は無いとされ、比較的少数の遺伝子がその抵抗性に関与する量的形質であることがいわれている。
【0223】
かかる量的形質はQTL解析により、当該量的形質に関与している遺伝子座の染色体上の位置を推定することができる。以下本発明者らがオオムギにおいて開発した赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座と連鎖する遺伝マーカーについて詳細に説明する。なお本発明にかかる遺伝マーカーはこれらに限定されるものではない。
【0224】
発明者等は該赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を検索するため、オオムギの赤かび病抵抗性に関するQTL解析を行なった。具体的には、以下のとおりである。材料としては、Russia6(二条、抵抗性)とH.E.S.4(六条、罹病性)の交配から育成したRI系統(RHI集団)、Harbin 2-row(抵抗性)とTurkey 6(羅病性)の交配から育成したRI系統(RI2集団)、およびはるな二条(抵抗性)とH602(罹病性)の交配から育成したDH系統(DHHS集団)を用いて行なった。また赤かび病抵抗性の評価方法は、「切り穂検定法」(非特許文献4参照)を改変した0(抵抗性)〜10(罹病性)のスコアで評価している。また解析のアルゴリズムには、composite interval mapping (CIM)を用い、解析ソフトウエアにはそれぞれ、MAPMAKER/QTLとQTL Cartographerを用いて行なっている。
【0225】
かかるQTL解析の結果、RHI集団では2H、4H染色体に、RI2集団では2H、4H、6H染色体に、DHHS集団では2H、4H、5H染色体に、それぞれ1つずつのQTLを検出した。これら検出したQTLのうち、RHI集団から検出された2H染色体上で検出されたものは、上記〔実施の形態1〕において説示したものと一致するものであった。
【0226】
それぞれの分離集団について発明者らが作成した高密度連鎖地図の情報を元に、上記赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する新規な遺伝マーカーを見出した。
【0227】
RHI集団から検出された4H染色体上の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する新規遺伝マーカーとしては、「MMtgaEatc128」、「FMgcgEatc530」が挙げられる。
【0228】
「MMtgaEatc128」は、オオムギ等のイネ科植物のゲノムDNAを制限酵素MseIおよびEcoRIで消化して得られるDNA断片に、GACGATGAGTCCTGAG(配列番号16)およびTACTCAGGACTCAT(配列番号17)に示される塩基配列を有するMseIアダプター、並びにCTCGTAGACTGCGTACC(配列番号14)およびAATTGGTACGCAGTCTAC(配列番号15)に示される塩基配列を有するEcoRIアダプターをライゲーションし、前記ライゲーション後のDNA断片をGATGAGTCCTGAGTAA(配列番号19)に示される塩基配列を有するMseIユニバーサルプライマーおよびGACTGCGTACCAATTC(配列番号18)に示される塩基配列を有するEcoRIユニバーサルプライマーを用いて予備増幅を行ない、さらに、前記予備増幅によって得られた予備増幅断片をGATGAGTCCTGAGTAAATC(配列番号32)に示される塩基配列を有するプライマーと、GACTGCGTACCAATTCTGA(配列番号33)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十一プライマーセットを用いて増幅される、いわゆるAFLP(Amplified Fragment Length Polymorphisms)によって検出される遺伝マーカーである。当該遺伝マーカーは、上記4H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から短腕側(5’末端側)に約0.1センチモルガン(以下cMと表示する)の位置に座乗している。
【0229】
なお上記AFLP、および以下の説明におけるAFLPの検出の手順は特に限定されるものではなく、例えば文献(Pieter Vos, Rene Hogers, Marjo Bleeker, Martin Reijans, Theo van de Lee, Miranda Hornes, Adrie Frijters, Jerina Pot, Johan Peleman, Martin Kuiper and Marc Zabeau. (1995) AFLP:a new technique for DNA fingerprinting. Nucleic Asids Research. 23:21:4407-4414.)の方法またはその改変法に従って行なえばよい。またPCR等の増幅反応の諸条件は、通常の条件で行なうか、あるいは最適な条件を検討の上、適宜採用すればよい。
【0230】
上記第十一プライマーセットを用いて最終的に増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Russia6型)と罹病性型(H.E.S.4型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Russia6型)のものが約128bpであり、罹病性型(H.E.S.4型)のものは0bpである。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Russia6型)は、約128bpの増幅断片が得られるのに対して、罹病性型(H.E.S.4型)は約128bpの増幅断片が得られないということである。よって、上記AFLPの検出操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0231】
また「FMgcgEatc530」は、オオムギ等のイネ科植物のゲノムDNAを制限酵素MseIおよびEcoRIで消化して得られるDNA断片に、GACGATGAGTCCTGAG(配列番号16)およびTACTCAGGACTCAT(配列番号17)に示される塩基配列を有するMseIアダプター、並びにCTCGTAGACTGCGTACC(配列番号14)およびAATTGGTACGCAGTCTAC(配列番号15)に示される塩基配列を有するEcoRIアダプターをライゲーションし、前記ライゲーション後のDNA断片をGATGAGTCCTGAGTAA(配列番号19)に示される塩基配列を有するMseIユニバーサルプライマーおよびGACTGCGTACCAATTC(配列番号18)に示される塩基配列を有するEcoRIユニバーサルプライマーを用いて予備増幅を行ない、さらに、前記予備増幅によって得られた予備増幅断片をGATGAGTCCTGAGTAAATC(配列番号34)に示される塩基配列を有するプライマーと、GACTGCGTACCAATTCGCG(配列番号35)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十二プライマーセットを用いて増幅される、いわゆるAFLP(Amplified Fragment Length Polymorphisms)によって検出される遺伝マーカーである。当該遺伝マーカーは、上記4H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から長腕側(3’末端側)に約8.0cMの位置に座乗している。
【0232】
上記第十二プライマーセットによって最終的に増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Russia6型)と罹病性型(H.E.S.4型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Russia6型)のものが0bpであり、罹病性型(H.E.S.4型)のものは約530bpである。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Russia6型)は約530bpの増幅断片が得られないのに対して、罹病性型(H.E.S.4型)は約530bpの増幅断片が得られるということである。よって、上記AFLPの検出操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0233】
また、RI2集団から検出された2H染色体上の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する新規遺伝マーカーとしては、「FXLRRfor_XLRRrev119」が挙げられる。
【0234】
「FXLRRfor_XLRRrev119」は、CCGTTGGACAGGAAGGAG(配列番号22)に示される塩基配列を有するプライマー、およびCCCATAGACCGGACTGTT(配列番号23)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第六プライマーセットを用いて増幅される遺伝マーカー、いわゆるRGA(Resistant Gene Analogs)マーカーであり、上記2H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から短腕側に約0.2cMの距離に座乗するものである。なお、上記プライマー配列は、イネ縞葉枯病抵抗性遺伝子Xa21の塩基配列情報(gene bank Accession No:U37133)から設計した。
【0235】
なお上記RGAマーカーの検出の手順は特に限定されるものではないが、例えば文献(Chen XM, Line RF, Leung H (1998) Genome scanning for resistance-gene analogs in rice, barley, and wheat by high-resolution electrophoresis. Theor Appl Genet 98: 345-355)の方法またはその改変法に従って行なえばよい。またPCR等の増幅反応の諸条件は、通常の条件で行なうか、あるいは最適な条件を検討の上、適宜採用すればよい。
【0236】
上記第六プライマーセットによって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row 型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row 型)のものが0bpであり、罹病性型(Turkey 6型)のものは約119bpである。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row 型)は約119bpの増幅断片が得られないのに対して、罹病性型(Turkey 6型)は約119pの増幅断片が得られるということである。よって、上記操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該2H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0237】
また、RI2集団から検出された4H染色体上の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する新規遺伝マーカーとしては、「FMacgEcgt288」、「HVM67」が挙げられる。
【0238】
「FMacgEcgt288」は、オオムギ等のイネ科植物のゲノムDNAを制限酵素MseIおよびEcoRIで消化して得られるDNA断片に、GACGATGAGTCCTGAG(配列番号16)およびTACTCAGGACTCAT(配列番号17)に示される塩基配列を有するMseIアダプター、並びにCTCGTAGACTGCGTACC(配列番号14)およびAATTGGTACGCAGTCTAC(配列番号15)に示される塩基配列を有するEcoRIアダプターをライゲーションし、前記ライゲーション後のDNA断片をGATGAGTCCTGAGTAA(配列番号19)に示される塩基配列を有するMseIユニバーサルプライマーおよびGACTGCGTACCAATTC(配列番号18)に示される塩基配列を有するEcoRIユニバーサルプライマーを用いて予備増幅を行ない、さらに、前記予備増幅によって得られた予備増幅断片をGATGAGTCCTGAGTAAACG(配列番号36)に示される塩基配列を有するプライマーと、GACTGCGTACCAATTCCGT(配列番号37)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十三プライマーセットを用いて増幅される、いわゆるAFLP(Amplified Fragment Length Polymorphisms)によって検出される遺伝マーカーである。当該遺伝マーカーは、上記4H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から短腕側に約0.3cMの位置に座乗している。
【0239】
上記第十三プライマーセットによって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row型)のものが0bpであり、罹病性型(Turkey 6型)のものは約288bpである。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row型)は約288bpの増幅断片が得られないのに対して、罹病性型(Turkey 6型)は約288bpの増幅断片が得られるということである。よって、上記AFLPの検出操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0240】
また「HVM67」は、GTCGGGCTCCATTGCTCT(配列番号38)に示される塩基配列を有するプライマー、およびCCGGTACCCAGTGACGAC(配列番号39)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十四プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、上記4H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から長腕側に約46.8cMの距離に座乗するものである。当該遺伝マーカーは、いわゆるSSR(Simple Sequence Repeat)マーカーである。
【0241】
「HVM67」の増幅方法は特に限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0242】
上記第十四プライマーセットによって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row型)のものが160bpであり、罹病性型(Turkey 6型)のものは約140bpである。よって、上記操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0243】
また、RI2集団から検出された6H染色体上の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する新規遺伝マーカーとしては、「FMataEagc408」、「HVM11」が挙げられる。
【0244】
「FMataEagc408」は、オオムギ等のイネ科植物のゲノムDNAを制限酵素MseIおよびEcoRIで消化して得られるDNA断片に、GACGATGAGTCCTGAG(配列番号16)およびTACTCAGGACTCAT(配列番号17)に示される塩基配列を有するMseIアダプター、並びにCTCGTAGACTGCGTACC(配列番号14)およびAATTGGTACGCAGTCTAC(配列番号15)に示される塩基配列を有するEcoRIアダプターをライゲーションし、前記ライゲーション後のDNA断片をGATGAGTCCTGAGTAA(配列番号19)に示される塩基配列を有するMseIユニバーサルプライマーおよびGACTGCGTACCAATTC(配列番号18)に示される塩基配列を有するEcoRIユニバーサルプライマーを用いて予備増幅を行ない、さらに、前記予備増幅によって得られた予備増幅断片をGATGAGTCCTGAGTAAATA(配列番号44)に示される塩基配列を有するプライマーと、GACTGCGTACCAATTCAGC(配列番号45)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十七プライマーセットを用いて増幅される、いわゆるAFLP(Amplified Fragment Length Polymorphisms)によって検出される遺伝マーカーである。当該遺伝マーカーは、上記6H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から短腕側に約4.1cMの位置に座乗している。
【0245】
上記第十七プライマーセットによって最終的に増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row型)のものが0bpであり、罹病性型(Turkey 6型)のものは約408bpである。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row型)は約408bpの増幅断片が得られないのに対して、罹病性型(Turkey 6型)は約408bpの増幅断片が得られるということである。よって、上記AFLPの検出操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該6H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0246】
また「HVM11」は、CCGGTCGGTGCAGAAGAG(配列番号46)に示される塩基配列を有するプライマーと、AAATGAAAGCTAAATGGGCGATAT(配列番号47)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十八プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、上記6H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から長腕側に約9.4cMの距離に座乗するものである。当該遺伝マーカーは、いわゆるSSR(Simple Sequence Repeat)マーカーである。
【0247】
「HVM11」の増幅方法は特に限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0248】
上記第十八プライマーセットによって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row型)のものが144bpであり、罹病性型(Turkey 6型)のものは約100bp−160bpに増幅断片が見られる。よって、上記操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該6H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0249】
また、DHHS集団から検出された2H染色体上の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する新規遺伝マーカーとしては、「Bmag125」、「k04002」が挙げられる。
【0250】
「Bmag125」は、AATTAGCGAGAACAAAATCAC(配列番号24)に示される塩基配列を有するプライマー、およびAGATAACGATGCACCACC(配列番号25)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第七プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、上記2H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から短腕側に約0cMの距離に座乗するものである。当該遺伝マーカーは、いわゆるSSR(Simple Sequence Repeat)マーカーである。
【0251】
「Bmag125」の増幅方法は特に限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0252】
上記第七プライマーセットによって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(はるな二条型)と罹病性型(H602型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(はるな二条型)のものが約142bpであり、罹病性型(H602型)のものは約134bpに増幅断片が見られる。よって、上記操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該2H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0253】
また「k04002」は、GACACAGGACCTGAAGCACA(配列番号26)に示される塩基配列を有するプライマー、およびCGGCAGGCTCTACTATGAGG(配列番号27)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第八プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、上記2H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から長腕側に約10cMの距離に座乗するものである。上記プライマー配列は、発明者らが独自に開発したオオムギEST配列の1つ(ESTクローン名:bah32c06、配列番号55、56)に基づいて設計されている。なお配列番号40は、5’末端側からの塩基配列を示し、配列番号41は、3’末端側からの塩基配列を示す。
【0254】
「k04002」の増幅方法は特に限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0255】
上記第八プライマーセットを用いて増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(はるな二条型)と罹病性型(H602型)が存在し、抵抗性型(はるな二条型)の増幅断片の断片長が約350bpであるのに対し、罹病性型(H602型)のものは約440bpに増幅断片が見られる。よって、上記検出操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該2H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0256】
また、DHHS集団から検出された4H染色体上の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する新規遺伝マーカーとしては、「k05042」、「k03289」が挙げられる。
【0257】
「k05042」は、ATACATGCATGCCATTGTGG(配列番号40)に示される塩基配列を有するプライマー、およびATCCATCCACTGTTTGAGGG(配列番号41)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十五プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、上記4H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から短腕側に約1.2cMの距離に座乗するものである。上記プライマー配列は、発明者らが独自に開発したオオムギEST配列の1つ(ESTクローン名:basd1e04、配列番号48)に基づいて設計されている。
【0258】
「k05042」の増幅方法は特に限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0259】
また上記第十五プライマーセットを用いて増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型と罹病性型が存在し、両者間にSNP(single nucleotide polymorphism;一塩基多型)がある。図21に両者の増幅産物の塩基配列のうち、上記SNPを含む部分の塩基配列を示した。下が罹病性型(はるな二条型)の塩基配列(配列番号51)であり、上が抵抗性型(H602型)の塩基配列(配列番号52)である。□で囲んだ塩基がSNPである。下線部が制限酵素HapIIの認識配列(CCGG)を示す。図21から明らかなように、抵抗性型の増幅産物は制限酵素HapIIの認識配列(CCGG)を有しているためHapIIで切断されるが、罹病性型の増幅産物は上記認識配列部分のCがAに変異しているため(CAGG)、制限酵素HapIIで切断されない。すなわち、本遺伝マーカーk05042は、CAPS(cleaved amplified polymorphic sequence)マーカーであり、上記第十五プライマーセットによる増幅と、増幅産物の制限酵素HapII切断により、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0260】
なお、本遺伝マーカーが連鎖する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)は、赤かび病罹病性型品種であるH602が有する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)である。よって、本遺伝マーカーを検出する場合は、はるな二条型が罹病性型となり、H602型が抵抗性型となる。
【0261】
また「k03289」は、TGCTCTGCATTTCATTCAGC(配列番号42)に示される塩基配列を有するプライマー、およびCAGCGTTACAGGCATTCTCA(配列番号43)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十六プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、上記4H染色体上に検出された赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座から長腕側に約4.0cMの距離に座乗するものである。上記プライマー配列は、発明者らが独自に開発したオオムギEST配列の1つ(ESTクローン名:bags3h19、配列番号49)に基づいて設計されている。
【0262】
「k03289」の増幅方法は特に限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0263】
また上記第十六プライマーセットを用いて増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型と罹病性型が存在し、両者間にSNP(single nucleotide polymorphisms;一塩基多型)がある。図22に両者の増幅産物の塩基配列のうち、上記SNPを含む部分の塩基配列を示した。下が罹病性型(はるな二条型)の塩基配列(配列番号53)であり、上が抵抗性型(H602)の塩基配列(配列番号54)である。□で囲んだ塩基がSNPである。下線部が制限酵素SacIIの認識配列(CCGCGG)を示す。図22から明らかなように、罹病性の増幅産物は制限酵素SacIIの認識配列(CCGCGG)を有しているためSacIIで切断されるが、抵抗性型の増幅産物は上記認識配列部分のCがTに変異しているため(CCGTGG)、制限酵素SacIIで切断されない。すなわち、本遺伝マーカーk03289は、CAPSマーカーであり、上記第十六プライマーセットによる増幅と、増幅産物の制限酵素SacII切断により、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0264】
なお、本遺伝マーカーが連鎖する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)は、赤かび病罹病性型品種であるH602が有する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)である。よって、本遺伝マーカーを検出する場合は、はるな二条型が罹病性型となり、H602型が抵抗性型となる。
【0265】
また、DHHS集団から検出された5H染色体上の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する新規遺伝マーカーとしては、「HvLOX」、「k00835」が挙げられる。
【0266】
「HvLOX」は、CAGCATATCCATCTGATCTG(配列番号28)に示される塩基配列を有するプライマー、およびCACCCTTATTTATTGCCTTAA(配列番号29)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第九プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、上記5H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から短腕側に約0.5cMの距離に座乗するものである。当該遺伝マーカーは、いわゆるSSR(Simple Sequence Repeat)マーカーである。
【0267】
「HvLOX」の増幅方法は特に限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0268】
上記第九プライマーセットを用いて増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(はるな二条型)と罹病性型(H602型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(はるな二条型)のものが約155bpであり、罹病性型(H602型)のものは約157bpである。よって、上記操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該5H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0269】
また「k00835」は、TCCATGTTCCCAGCTACACA(配列番号30)に示される塩基配列を有するプライマー、およびAGGAACACATTGGTTCTGGC(配列番号31)に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十プライマーセットを用いてオオムギゲノムDNAを鋳型として増幅される遺伝マーカーであり、上記5H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から長腕側に約1.9cMの距離に座乗するものである。上記プライマー配列は、発明者らが独自に開発したオオムギEST配列の1つ(ESTクローン名:baak46e06、配列番号50)に基づいて設計されている。
【0270】
「k00835」の増幅方法は特に限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0271】
上記第十プライマーセットを用いて増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(はるな二条型)と罹病性型(H602型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(はるな二条型)のものが約900bpであり、罹病性型(H602型)のものは約880bpである。よって、上記操作によって得られた増幅産物の断片長を電気泳動等の公知の手段を用いて確認することにより、対象植物個体が当該5H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0272】
ここで、モルガン(M)について説明する。1モルガン(M)とは、減数分裂1回あたり平均1回の交叉を起こす染色体上の距離の単位である。例えば、2.2cMは、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)と遺伝マーカーとの間で染色分体あたり平均して1000分の22回乗換えが起こることを示している。すなわちこの時は、約2.2%の組み換え率であることを示している。
【0273】
ところで、増幅に際して鋳型として用いられるゲノムDNAは、オオムギの植物体より従来公知の方法で抽出可能である。具体的には、植物体からゲノムDNAを抽出するための一般法(Murray,M.G. and W.F.Thompson(1980) Nucleic Acids Res.8:4321-4325. など参照)が好適な例として挙げられる。また、上記のゲノムDNAは、根、茎、葉、生殖器官など、オオムギの植物体を構成するいずれの組織を用いても抽出可能である。また、場合によってはオオムギのカルスから抽出してもよい。なお、上記生殖器官には、花器官(雄性・雌性生殖器官を含む)や種子も含まれる。ゲノムDNAの抽出は、例えば、オオムギの芽生え期の葉を用いて行われる。この理由としては、組織の摩砕が比較的容易であり、多糖類などの不純物の混合割合が比較的少なく、また、種子から短期間で育成可能である点が挙げられる。
【0274】
またオオムギのゲノムDNAを鋳型とし、上記プライマーの組み合わせを用いて増幅する方法は、従来公知のDNA増幅法を採用することができる。一般には、PCR法(ポリメラ−ゼ連鎖反応法)や、その改変法が用いられる。PCR法や、その改変法を用いる際の反応条件は特に限定されるものではなく、通常と同様の条件下で増幅することができる。
【0275】
本発明にかかる遺伝マーカーを用いることによって、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を単離することが可能となり、上記DNA断片を用いることによって、オオムギの赤かび病抵抗性に関与する遺伝子、および赤かび病抵抗性のメカニズムの解明に利用が可能である。また上記DNA断片を植物(特にイネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))のゲノムDNAの導入することによって赤かび病抵抗性植物(特にイネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))を生産(育種)することが可能となる。
【0276】
また上記遺伝マーカーは、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖しているため、試験対象である植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))のゲノムDNA中における該遺伝マーカーの多型を検出することによって、該植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))が赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を有するか否かを判定することが可能となる。また同様に赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖しているため、試験対象である植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))のゲノムDNA中における該遺伝マーカーの多型を検出することによって、該植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))が、赤かび病抵抗性植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))であるか否かを判定することができる。また、上記遺伝マーカーを増幅することができるプライマーまたは、上記遺伝マーカーを固定したDNAマイクロアレイをキット化すれば、植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の有無判定キット、および赤かび病抵抗性植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))の判定キットを提供することが可能となる。
【0277】
上述のごとく、本発明にかかる遺伝マーカーは、様々な用途に利用が可能であることは明らかである。上述した本発明にかかる遺伝マーカーの用途の一例については、後に詳細に説示する。
【0278】
(2)本発明にかかる遺伝マーカーの利用
<赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片の単離方法>
上述のとおり本発明にかかる遺伝マーカー、「FXLRRfor_XLRRrev119」、「Bmag125」、「k04002」はオオムギ2H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖するものであり、「MMtgaEatc128」、「FMgcgEatc530」、「FMacgEcgt288」、「HVM67」、「k05042」、「k03289」はオオムギ4H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖するものであり、「HvLOX」、「k00835」はオオムギ5H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖するものであり、「FMataEagc408」、「HVM11」はオオムギ6H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖するものである。
【0279】
よって、「FXLRRfor_XLRRrev119」、「Bmag125」、「k04002」の遺伝マーカーを用いることによってオオムギ2H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を単離することができ、「MMtgaEatc128」、「FMgcgEatc530」、「FMacgEcgt288」、「HVM67」、「k05042」、「k03289」の遺伝マーカーを用いることによってオオムギ4H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を単離することができ、「HvLOX」、「k00835」の遺伝マーカーを用いることによってオオムギ5H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を単離することができ、「FMataEagc408」、「HVM11」の遺伝マーカーを用いることによってオオムギ6H染色体上に検出された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を単離することができる。
【0280】
単離とは、目的のDNA断片、すなわち赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片をクローニングすることを意味することはいうまでもないが、広義には交雑F1集団から戻し交配等により、両親のうち一方の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を有する個体を選抜し、その遺伝子座領域のみを目的品種に導入する同質遺伝子系統の作製も単離に含まれる。
【0281】
本発明にかかる遺伝マーカーを用いて赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を単離する方法としては特に限定されるものではないが、例えば次のような方法を挙げることができる。
【0282】
オオムギでは本発明者らが開発を進めている「はるな二条」を含めて、ゲノムDNAのBACライブラリーが2種類作成されており、現在複数のBACライブラリーが開発中である。そこで、このようなBACライブラリーを用いて、従来公知のマップベースクローニングの手法にしたがって、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)と当該遺伝子座に連鎖する本発明の遺伝マーカーとで当該マーカーを含むBACクローンを同定し、そこからBACのコンティグを作成して塩基配列を確定することにより、最終的に赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に到達することができる。
【0283】
また、上述のように、交雑F1に一方の親を戻し交配することにより、他方の親の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を目的品種に導入して(広義の)単離をすることができる。
【0284】
なお、上記方法をはじめとする赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を単離する際には、目的とする赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に対してなるべく近傍に座乗する遺伝マーカーを選択して用いることが好ましい。目的とする赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)と遺伝マーカーの間で組み換えが起こる確率がより低くなり、より確実に赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含む断片を単離することができるからである。
【0285】
<赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)の生産方法、および当該生産方法によって得られた赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)>
上記本発明にかかる赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片の単離方法によって得られた赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を植物(イネ科植物)のゲノムDNAに導入することによって、赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)を生産することが可能である。植物としてはイネ科植物が好ましく、また当該イネ科植物としてはムギ類であることが好ましく、オオムギであることが特に好ましい。また、例えば、オオムギから単離された赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片をオオムギ以外の植物(イネ科植物)に導入することも可能であり、同一属間のみでの単離、導入に限定されるものではない。
【0286】
上記DNA断片を導入する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して用いることができる。より具体的には、例えばアグロバクテリウムまたはパーティクルガンを用いて植物(イネ科植物)のゲノムDNAに導入することによって生産すればよく、これにより、赤かび病抵抗性品種が得られることとなる。例えば、雑誌The Plant Journal(1997) 11(6),1369-1376 には、Sonia Tingay等により、Agrobacterium tumefaciens を用いてオオムギを形質転換する方法が開示されており、この方法を利用して形質転換オオムギを生産可能である。
【0287】
また、目的とする赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を有する植物個体と、当該DNA断片を導入しようとする植物個体との交雑により、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片を、植物に導入することも可能である。この方法では、交雑が可能である限りにおいて、他の種や属の植物が有する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片の導入が可能である。
【0288】
本発明にかかる赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)は、上記本発明にかかる生産方法により得られるものである。当該赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)は、赤かび病抵抗性の表現型(赤かび病抵抗性型)を有する遺伝子座を含むDNA断片を導入した場合には、元の品種の赤かび病抵抗性より高い品種となり、赤かび病罹病性の表現型(赤かび病罹病性型)を有する遺伝子座を含むDNA断片を導入した場合には、元の品種の赤かび病抵抗性より弱い品種となる。よって、赤かび病抵抗性型を有する遺伝子座を含むDNA断片を導入することが好ましい。
【0289】
また、植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類)に導入する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片は、2H染色体上のDNA断片、4H染色体上のDNA断片、5H染色体上のDNA断片、6H染色体上のDNA断片の内、いずれのDNA断片であっても赤かび病抵抗性植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))を生産することは可能であるが、複数のDNA断片を同一の植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))のゲノムDNAに導入されることによって、さらに赤かび病抵抗性が向上した植物(イネ科植物)を生産することが可能である。
【0290】
本発明者等は、条性遺伝子vrs1の遺伝子座と一致した赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片(以下、vrs1断片という。)を、2H染色体上のDNA断片または5H染色体上のDNA断片をそれぞれ単独導入したオオムギに導入することによって赤かび病抵抗性が単独導入の場合に比して向上することを確かめている。さらには、上記vrs1断片を、2H染色体上のDNA断片および5H染色体上のDNA断片を両方導入したオオムギに導入すると、さらに赤かび病抵抗性が向上することを確かめている。
【0291】
上記方法によって得られた本発明にかかる赤かび病抵抗性オオムギをはじめとする赤かび病抵抗性イネ科植物によれば、これまで赤かび病によって品質・収穫量の低下、赤かび病に感染した植物を食することによる人体・家畜への危害を効果的に回避することが可能となり、農業・畜産業等に極めて有効である。また食糧難の問題も改善することができる。
【0292】
なお上記「赤かび病抵抗性植物」、「赤かび病抵抗性イネ科植物」および「赤かび病抵抗性オオムギ」とは、赤かび病に対して全く抵抗性を有していなかった植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))に赤かび病の抵抗性を付与することによって生産された植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))、および元来赤かび病に抵抗性を有する植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))に赤かび病抵抗性をさらに増強させることによって生産された植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))を含む意味である。
【0293】
<赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)の判定方法>
本発明にかかる赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)の判定方法(選抜方法)は、上記本発明にかかる遺伝マーカーを検出する工程を含む方法であればよく、その他の工程、条件、材料等は特に限定されるものではない。例えば、従来公知の作物育種法を利用することができる。
【0294】
より具体的には、例えば、交配等により作出した植物のゲノムDNAを抽出し、本発明に係る遺伝マーカーの遺伝子型を指標として植物を判定(選抜)する方法が挙げられる。遺伝マーカーを検出する手段としては、例えば、対象とする植物から抽出したゲノムDNAを鋳型として上記第一ないし第十八プライマーセットのいずれかを用いて増幅したDNA断片について、断片長または断片の制限酵素消化パターンの観察を挙げることができる。増幅断片から試験対象植物個体が、赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを、各遺伝マーカーを指標として判定する方法については、上記本発明にかかる遺伝マーカーの項で説明したとおりである。
【0295】
ここで本判定方法の判定の精度(確率)については、以下のとおりである。赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から1.2cMの距離に位置する遺伝マーカーは、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)と遺伝マーカーとの間で染色分体あたり平均して1000分の12回乗換えが起こる。すなわち約1.2%の確率で組み換えが起こる。よってこの遺伝マーカーのうち赤かび病抵抗性型のものを検出すれば、98.8%の確率で赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を有しているということがいえる。よって赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)と遺伝マーカーとの距離が近いほど、高確率をもって赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の有無を判定することができる、すなわち赤かび病抵抗性イネ科植物を判定(選抜)することができるといえる。
【0296】
上記理由により、多型を検出する遺伝マーカーは、上記遺伝マーカーのいずれであっても赤かび病抵抗性の有無を判定することが可能であるが、各赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に対してなるべく近傍に座乗する遺伝マーカーを検出することが好ましい。例えば、本判定方法において4H染色体上の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)に連鎖する遺伝マーカーを検出する場合は、「k05042」(赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)からの距離:約1.2cM)の方が「k03289」(赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)からの距離:約4.0cM)より好適であるといえる。
【0297】
また本検出方法においては、複数の遺伝マーカーの多型を検出してもよい。特に判定の精度(確率)を向上させるためには、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を挟む関係にある遺伝マーカーを選択して多型を検出すればよい。例えば、「k05042」(赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から短腕側に約1.2cM)と「k03289」(赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)からの距離:約4.0cM)との組み合わせが有る。かかる組み合わせを例にして、該遺伝マーカーをそれぞれ単独で多型を検出した場合と、両方の多型を検出した場合とにおける本判定方法の精度(確率)についてより具体的に説明する。
【0298】
「k05042」は赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)から短腕側に約1.2cMの位置に座乗しており、該遺伝マーカーの多型を単独で検出したときの本判定方法の精度(確率)は、(1−12÷1000)×100=約98.8%である。一方「k03289」は赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)からの距離:約4.0cMの位置に座乗しており、該遺伝マーカーの多型を単独で多型を検出したときの本判定方法の精度(確率)を同様に計算すると96.0%である。当該2つの遺伝マーカーの多型を両方検出すると、(1−(12÷1000)×(40÷1000))×100=99.952%となり高確率を持って4H上の赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の有無を判定することができる。
【0299】
したがって赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を挟む関係にある遺伝マーカーを検出して判定することは好ましい。上記「k05042」と「k03289」以外の組み合わせとしては、「MMtgaEatc128」と「FMgcgEatc530」との組み合わせ、「FMacgEcgt288」と「HVM67」との組み合わせ、「FMataEagc408」と「HVM11」との組み合わせ、「Bmag125」と「k04002」との組み合わせ、「HvLOX」と「k00835」との組み合わせ等が挙げられる。
【0300】
なお本判定方法は、赤かび病抵抗性植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))の育種の際の有効なスクリーニング手段として利用することができる。例えば、上記本発明にかかる赤かび病抵抗性植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))の生産方法を行なった際に、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を含むDNA断片が導入された形質転換体植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))を多数の形質転換体候補から容易にスクリーニングすることができる。その他薬剤等の変異処理、交配などの育種処理を行なった植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))のスクリーニング手段としても利用可能である。
【0301】
<赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)の判定キット>
また上記「赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)の判定方法」を行なうために必要な試薬、酵素類をキット化することによって、赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)の判定キット(以下適宜「判定キット」と称する)を構成することが可能である。上記「赤かび病抵抗性植物(イネ科植物の判定方法)」の項で説示したごとく、本発明にかかる遺伝マーカーを利用することによって、試験対象イネ科植物個体が、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定することができる。すなわち、試験対象植物個体(試験対象イネ科植物固体)が赤かび病抵抗性か罹病性であるかを判断することができるということである。よって、当該判定キットによれば、より簡便に赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)を判定できるという効果を奏する。
【0302】
なお当該判定キットには、少なくとも本発明にかかる遺伝マーカーを検出することができる、プライマーセット(第一から第十八プライマーセット)が少なくとも一つ以上含まれていることが好ましい。さらに好ましくは、上記プライマーセット(第一から第十八プライマーセット)全てが含まれていることが好ましい。この他、公知の赤かび病抵抗性に連鎖するマーカーを検出するために必要なプライマーが含まれていてもよい。
【0303】
さらには当該判定キットには、PCRを行なうための酵素、試薬類が含まれていてもよいし、鋳型となるゲノムDNAの調製するために必要な試薬、バッファー類、遠心チューブが含まれていてもよいし、目的のDNAサイズバンドの検出に必要となる遺伝マーカー(MMtgaEatc128、FMgcgEatc530、FXLRRfor_XLRRrev119、FMacgEcgt288、HVM67、FMataEagc408、HVM11、Bmag125、k04002、k05042、k03289、HvLOX、k00835等)または適当なDNAサイズマーカーが含まれていてもよい。
【0304】
<遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)>
本発明にかかる遺伝マーカー(MMtgaEatc128、FMgcgEatc530、FXLRRfor_XLRRrev119、FMacgEcgt288、HVM67、FMataEagc408、HVM11、Bmag125、k04002、k05042、k03289、HvLOX、k00835等)を適当な基板(ガラス、シリコンウエハ、ナイロンメンブレン等)上に固定さることによって、DNAマイクロアレイを始めとする遺伝子検出器具を構成することができる。当該遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)に対して、試験対象の植物から調製したプローブを反応させ、その時に発するシグナルを検出することで、複数の本発明にかかる遺伝マーカーを容易かつ同時に検出することが可能である。したがって当該遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)は、本発明にかかる遺伝マーカーの多型を検出する手段として用いることができる。よって、上記赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)の判定方法における検出手段として利用可能である。また、当該遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)を上記赤かび病抵抗性植物(イネ科植物)の判定キットに加えることもできる。この場合、当該キットには遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)からのシグナルを検出するために用いる試薬・器具・装置等が含まれていてもよい。
【0305】
本遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)の基板上には、本発明にかかる遺伝マーカー(MMtgaEatc128、FMgcgEatc530、FXLRRfor_XLRRrev119、FMacgEcgt288、HVM67、FMataEagc408、HVM11、Bmag125、k04002、k05042、k03289、HvLOX、k00835等)のうち少なくとも1つ以上の遺伝マーカーが固定されていればよい。また抵抗性型の遺伝マーカー、罹病性型の遺伝マーカーのいずれか一方もしくは両方が固定されてもよい。さらにより高精度(確率)をもって赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の有無を判断するためには、赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)を挟む関係にある複数の遺伝マーカーの組み合わせが固定されていることが好ましい。かかる遺伝マーカーの組み合わせとしては、例えば、「k05042」と「k03289」の組み合わせ、「MMtgaEatc128」と「FMgcgEatc530」との組み合わせ、「FMacgEcgt288」と「HVM67」との組み合わせ、「FMataEagc408」と「HVM11」との組み合わせ、「Bmag125」と「k04002」との組み合わせ、「HvLOX」と「k00835」との組み合わせ等が挙げられる。全ての遺伝マーカー(抵抗性型および罹病性型)が固定されている事が最も好ましいことはいうまでもない。
【0306】
上記複数の遺伝マーカーが固定された遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)を用いることによって、一度の試行で複数の遺伝マーカーを簡便に検出することができる。さらに赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の有無の判断を高い精度(確率)をもって行なうことができる。
【0307】
なお、上記遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)には、本発明にかかる遺伝マーカーのみならずその近傍に位置するその他の遺伝マーカーが固定されていてもよい。
【0308】
さらに上記遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)には、本発明にかかる遺伝マーカーがオオムギの染色体上に並んでいる順序で固定されているか、あるいはオオムギの染色体上に並んでいる順序に対応する配列位置情報が付与されて固定されていることが好ましい。試験対象がオオムギである際に検出の精度をさらに向上させることが可能となるからである。つまり、従来のDNAマイクロアレイを用いた解析において、あるスポットに対するシグナルが得られなかった場合、本当に検出しようとする遺伝マーカーが存在しないのか、または解析の実験上のミスによりシグナルが得られていないのかについては、改めて確認しなければ正確には判定することはできなかった。これに対して、上記のごとく遺伝マーカーがオオムギの染色体上に並んでいる順序で固定されているか、あるいはオオムギの染色体上に並んでいる順序に対応する配列位置情報が付与されて固定されている遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)を用いる場合においては、固定化されている遺伝マーカーの染色体上の順序が確認できるように配列されているため、上記のような実験上でのミスか否かを容易に判定することが可能となる。
【0309】
具体的には、例えば、シグナルが得られなかったスポットの前後のスポットでシグナルが得られたとする。当該遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)では、各スポットは、染色体上に並んでいる順序が確認できるように配列されている。通常、染色体上に直線上に近接して並んでいる遺伝子のうち一つの遺伝子のみが組み換わるためには2つの組み換えがごく近傍で起こらなくてはならない。このような現象が起こる確率が極めて低いため、シグナルを得られなかったという結果は、実験上のミスによるものであると判断される。このように、当該遺伝子検出器具(DNAマイクロアレイ等)では、あるスポットに対するシグナルが得られなかった場合でも、実験上でのミスか否かを容易に判定することが可能となるため、解析の精度を向上することができる。
【0310】
なお本発明の説明において使用したプライマー等の塩基配列は、本発明にかかる遺伝マーカーを増幅することができるものであれば、1または数個の塩基が置換、欠失、付加がされた塩基配列を有するプライマーを用いてもよいことは言うまでもない。
【実施例】
【0311】
以下実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0312】
〔実施例1:オオムギの赤かび病抵抗性に関するQTL解析〕
オオムギの赤かび病抵抗性因子を検索するためにQTL解析を行なった。
【0313】
<材料>赤かび病に対する抵抗性が大きく異なるオオムギ品種Russia6(二条、抵抗性)とH.E.S.4(六条、罹病性)の交配から育種した組み換え近交系統(RI系統)を用いて行なった。
【0314】
<赤かび病抵抗性の評価方法>
「切り穂検定法」(非特許文献4参照)の改変法で評価した。簡単には以下のとおりにして行なった。
【0315】
材料を慣行法で栽培し、それぞれの系統の開花期に止葉をつけて上から2番目の節間で穂を切り取ったものを、水道水をかけ流しにしたステンレス製のバットに立てた。これに対して、赤かび病菌の分生子が顕微鏡200倍視野当たり15個程度になるように調整した懸濁液を十分に噴霧した。分生子接種後2日間は25℃・湿度100%の条件下、その後の6日間は18℃・湿度90%前後の人工気象室にて栽培した。光条件は日長14時間・照度約10,000luxとした。分生子接種後8日目に肉眼で観察して黄褐色に変色した頴花を罹病粒として罹病性小穂歩合を調査し、表3に示す基準に従って0(抵抗性)〜10(罹病性)のスコアで評価している。
【0316】
【表3】

またQTL解析のアルゴリズムには、simple interval mapping (SIM)とcomposite interval mapping (CIM)を用い、解析ソフトウエアにはそれぞれ、MAPMAKER/QTLとQTL Cartographerを用いて行なった。
【0317】
上記QTL解析の結果、特にCIMの結果を図3に示す。QTL解析は同じ集団について2回行なっており、それぞれの結果を示している(1回目の結果を実線で、2回目の結果を破線で示す)。図3(a)は2H染色体についてのQTL解析の結果を示し、図3(b)は5H染色体についてQTL解析を行なった結果を示している。また横軸は染色体上の座を示し、左側が短腕側(5’端側)で右側が長腕側(3’端側)を示している。一方縦軸はLODスコア(LOD score:対数尤度)を示している。このLODスコアは、赤かび病抵抗性の形質を支配する遺伝子(赤かび病抵抗性因子)とその座に存在する遺伝マーカーの連鎖の尺度であり、一般にLODスコアが2または3を超えた場合に、その遺伝マーカーとQTLと連鎖関係にあることが推定される。つまりその遺伝子座に赤かび病抵抗性因子が存在すると推定することができるということである。
【0318】
図3(a)の結果より、オオムギの2H染色体上に2つ赤かび病抵抗性に関するQTLが検出され、図3(b)の結果より5H染色体上に1つの赤かび病抵抗性に関するQTLが検出された。オオムギの2H染色体で検出されたQTLのうち1つは、公知の条性遺伝子(vrs1)の位置(図3(a)矢印で示す)と一致したことより、vrs1遺伝子の多面発現の可能性が示唆された。この結果は、これまでの赤かび病抵抗性に対する条性の関与を支持する結果であった。しかしその他のQTLの遺伝子座に存在する遺伝子については未知であり、条性遺伝子以外の赤かび病抵抗性因子が存在しているものと考えられた。ここで特にオオムギの2H染色体上に存在しvrs1遺伝子の位置とは異なる遺伝子座に存在する赤かび病抵抗性因子を「2H―2因子」と命名し、オオムギの5H染色体上に座乗するそれを「5H―1因子」と命名した。
【0319】
発明者等が作成した高密度連鎖地図の情報をもとに、上記赤かび病抵抗性因子2H―2因子、5H−1因子の遺伝子座の近傍に位置する遺伝マーカーを検索し、特に上記赤かび抵抗因子に強連鎖する遺伝マーカー、すなわち本発明にかかる遺伝マーカーを発見するに至った。2H−2因子に連鎖する遺伝マーカーとして、MM314およびFM677を発見した。また5H−1因子に連鎖する遺伝マーカーとして、FM426、MM1057を発見した。
【0320】
これらの遺伝マーカーはいずれもAFLPマーカーであるため、それぞれをSTS化し、そのシークエンス情報から各遺伝マーカーの増幅用プライマーを設計した。MM314は配列番号1および配列番号2に示す第一プライマーセットを用いて増幅することができ、FM677は配列番号3および配列番号4に示す第二プライマーセットを用いて増幅することができる。一方FM426は配列番号5および配列番号6に示す第三プライマーセット、または配列番号5および配列番号7に示す第四プライマーセットを用いて増幅することができる。
【0321】
〔実施例2:遺伝マーカーの検出による赤かび病抵抗性因子の有無の判断(赤かび病抵抗性オオムギの判定)〕
本発明にかかる遺伝マーカーを検出することによって、試験対象オオムギが赤かび病抵抗性因子を有するか否かを判断した。またその結果から赤かび病抵抗性オオムギの判定を行なった。
【0322】
<試験対象オオムギ>
赤かび病に対する抵抗性が大きく異なるオオムギ品種Russia6(二条、抵抗性)とH.E.S.4(六条、罹病性)の交配から育種した組み換え近交系統(RI系統)を用いた。
【0323】
<DNAの抽出>
温室で育成した前記RI系統の葉身からLanbrigeらの方法(Peter Langrige, Angelo Karakousis and Jan Nield. (1997) Practical Workshop in Basic Recombinant DNA Techniques Course Manual. Waite Agricultural Research Institute University of Adelaide.参照)によってDNAを抽出した。DNA濃度は分光光度計および1%アガロースゲル電気泳動によって測定し、RNaseと1×TEを加えて1μg/μlに調整した。
【0324】
<PCR>
PCR反応液の組成は5U/μl TaKaRa Ex TaqTM(タカラバイオ社製)0.05μl, 10×PCR Buffer 1μl,2.5mM dNTPs 0.8μl,10μM Primer(センスプライマー、アンチセンスプライマー) 各0.25μl,鋳型DNA1μlを混合し、蒸留水にて全量10.0μlとした。
【0325】
増幅反応は、図4に示す条件にて行なった。
【0326】
<HhaI消化>
PCR産物10μl、10×M buffer(タカラバイオ社製) 1μl、HhaI(タカラバイオ社製) 0.2μlを混合し、蒸留水にて全量10μlとした。
【0327】
反応は、37℃で一晩行なった。
【0328】
<DNAバンドの検出>
PCR産物に等量のホルムアミドダイを加え95℃・5分間加熱後、氷中で急冷した。このサンプルを7%ポリアクリルアミドゲル(アクリルアミド:ビスアクリルアミド=19:1、尿素:8.5M、0.5×TBE)で電気泳動(280V、3時間)を行なった。DNAの染色は、TMVistra Green nucleic acid gel stain (Amersham pharmacia biotech co.) により行なった。また、DNAバンドの検出には、LAS-1000plus (富士フィルム社製)を用いる方法か、あるいはsil-Best Stain for Protein/PAGE (ナカライテスク社製)を用いた銀染色法(菅野 康吉、1997、「増幅断片の検出と標識5 銀染色、PCR法最前線 基礎技術から応用まで」、関谷 剛男・藤永 編、共立出版、p85〜87参照)により行なった。
【0329】
なお、必要に応じてPCR産物を適当な制限酵素で消化したものを上記方法によりDNAバンドを検出した。
【0330】
<結果>
配列番号1および2に記載のプライマーを用いて、Russia6、H.E.S.4、およびRI系統からのゲノムDNAを鋳型としてPCRを行ない、得られたPCR産物について電気泳動を行なった結果を図5(a)に示した。
【0331】
図5(a)は配列番号1および配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーを用いてPCRを行なった結果であることより、本発明にかかる遺伝マーカーMM314の多型を検出したものである。図5(a)の左のレーンから順にRussia6、H.E.S.4、および各RI系統(RI lines)の結果を示している。よって抵抗性のRussia6のレーンに見られる>524bpの断片が抵抗性型のMM314である。よってRI系統においてかかる>524bpの断片が検出されれば、そのRI系統は2H−2因子を持つ可能性が高いということが判断でき、さらにはそのRI系統は赤かび病抵抗性オオムギである可能性が高いということが判断できる。すなわち、図5(a)中のRI系統のうちa1、a2、a4およびa5は、2H−2因子を持つ可能性が高いということが判断でき、さらにはそのRI系統は赤かび病抵抗性オオムギである可能性が高いということが判断できた。
【0332】
一方、罹病性のH.E.S.4のレーンで見られる>581bpの断片を持つRI系統は、2H−2因子を持っていない可能性が高く、赤かび病罹病性オオムギである可能性が高いと判断できる。すなわち、図5(a)中のRI系統のうちa3は、2H−2因子を持っていない可能性が高く、赤かび病罹病性オオムギである可能性が高いと判断できた。
【0333】
次に配列番号5および配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーを用いて、Russia6、H.E.S.4、およびRI系統からのゲノムDNAを鋳型としてPCRを行ない得られたPCR産物をHhaI消化したものについて電気泳動を行なった結果を図5(b)に示した。
【0334】
配列番号5および配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーを用いてPCRを行なっていることより、本発明にかかる遺伝マーカーFM426の多型を検出したものである。ただしFM426は、表2に示したように得られる増幅断片のサイズが同一であるため、増幅産物そのものを電気泳動にかけても該遺伝マーカーの多型を検出することができない。そこで図2(c)、(d)に示したように、赤かび病抵抗性オオムギRussia6の増幅産物を切断するが赤かび病に対する罹病性オオムギH.E.S.4の増幅産物を切断しない制限酵素、つまりHhaIにて消化を行ない、その切断断片のサイズを確認することによって、本発明にかかる遺伝マーカーであるか否かを判断することとした。
【0335】
より具体的には、この増幅反応で得られた増幅断片(254bp)についてHhaIで消化した際に、一箇所切断され194bpと60bpの断片が検出されれば抵抗性型の遺伝マーカー(FM426)であると判断でき、切断されずに254bpの断片のみが検出されれば罹病性型の遺伝マーカー(FM426)であると判断することができる。
【0336】
図5(b)には、上記各増幅断片のHhaI消化物の電気泳動結果を示しており、左のレーンから順にRussia6、H.E.S.4、および各RI系統(RI lines)の結果を示している。図5(b)の結果によれば、抵抗性オオムギ品種であるRussia6のレーンには、確かに194bpと60bpの断片が見られ、罹病性オオムギ品種であるH.E.S.4のレーンでは254bpの断片のみが見られるということがわかる。よって各RI系統においてかかる194bpと60bpの断片が検出されれば、そのRI系統は5H−1因子を持つ可能性が高いということが判断でき、さらにはそのRI系統は赤かび病抵抗性オオムギである可能性が高いということが判断できる。すなわち、図5(b)中のRI系統のうちb3およびb4は、5H−1因子を持つ可能性が高いということが判断でき、さらにはそのRI系統は赤かび病抵抗性オオムギである可能性が高いということが判断できる。
【0337】
一方、254bpの断片を持つRI系統は、5H−1因子を持っていない可能性が高く、赤かび病罹病性オオムギである可能性が高いと判断できる。すなわち、図5(b)中の各RI系統のうちb1、b2およびb5は、5H−1因子を持っていない可能性が高く、赤かび病罹病性オオムギである可能性が高いと判断できる。
【0338】
〔実施例3:本発明にかかる赤かび病抵抗性オオムギの判定結果と赤かび病抵抗性スコアとの関係〕
遺伝マーカーを指標として赤かび病抵抗性オオムギか否かを判断した結果と、赤かび病抵抗性スコアの関係を検討した。
【0339】
<試験対象オオムギ>
赤かび病に対する抵抗性が大きく異なるオオムギ品種Russia6(二条、抵抗性)とH.E.S.4(六条、罹病性)の交配から育種した組み換え近交系統(RI系統)を用いた(n=121)。
【0340】
<赤かび病抵抗性スコア>
赤かび病抵抗性スコア(Scab score)は、「切り穂検定法」(非特許文献4参照)の改変法で評価した。簡単には以下のとおりにして行なった。
【0341】
試験対象オオムギ(RI系統)をそれぞれ慣行法で栽培し、それぞれの系統の開花期に止葉をつけて上から2番目の節間で穂を切り取ったものを水道水をかけ流しにしたステンレス製のバットに立てた。これに対して、赤かび病菌の分生子が顕微鏡200倍視野当たり15個程度になるように調整した懸濁液を十分に噴霧した。分生子接種後2日間は25℃・湿度100%の条件下、その後の6日間は18℃・湿度90%前後の人工気象室にて栽培した。光条件は日長14時間、照度約10,000luxとした。分生子接種後8日目に肉眼で観察して黄褐色に変色した頴花を罹病粒として罹病性小穂歩合を調査し、表3に示す基準に従って0(抵抗性)〜10(罹病性)のスコアで評価した(表3参照)。
【0342】
<遺伝マーカーの検出>
遺伝マーカーを上記実施例2に示した方法と同様にして遺伝マーカーが抵抗性型か、罹病性型かを判断することによって行なった。判断対象とする赤かび病抵抗性因子は、2H−2因子、5H−1因子およびvrs1遺伝子について行なった。
【0343】
<結果>
図6に結果を示す。図6の横軸は赤かび病抵抗性スコア(Scab score)を示し、縦軸は個体数(No. of RI lines)を示している。また矢印赤かび病抵抗性のRussia6、および赤かび病に罹病性のH.E.S.4の赤かび病抵抗性スコアを示している。また図中黒塗りのシンボルは3つ全ての遺伝マーカーが赤かび病抵抗性型を示したRI系統についての赤かび病抵抗性スコアの結果を示し、斜線のシンボルは3つ全ての遺伝マーカーが罹病性型を示したRI系統についての赤かび病抵抗性スコアを示し、白抜きのシンボルは、遺伝マーカーが抵抗性型、罹病性型の両方混在していたRI系統についての赤かび病抵抗性スコアを示している。
【0344】
図6の結果によると、3つ全ての遺伝マーカーが赤かび病抵抗性型を示したRI系統は赤かび病抵抗性スコア値が低い、つまり赤かび病抵抗性品種である確率が高く、逆に3つ全ての遺伝マーカーが罹病性を示したRI系統は赤かび病抵抗性スコアが高い、つまり赤かび病に対して罹病性品種である確率が高いということがわかった。
【0345】
よって、本発明にかかる遺伝マーカーを指標として、赤かび病抵抗性オオムギか否かを判断する方法は極めて有効であるということがわかった。
【0346】
〔実施例4:オオムギの赤かび病抵抗性に関するQTL解析〕
オオムギの赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座を検索するためにQTL解析を行なった。
【0347】
<材料>
赤かび病に対する抵抗性が異なるオオムギ品種Russia6(二条、抵抗性)とH.E.S.4(六条、罹病性)の交配から育成したRI系統(RHI集団)、Harbin 2-row(抵抗性)とTurkey 6(羅病性)の交配から育成したRI系統(RI2集団)、およびはるな二条(抵抗性)とH602(罹病性)の交配から育成したRI系統(DHHS集団)を用いた。
【0348】
<赤かび病抵抗性の評価方法>
「切り穂検定法」(非特許文献4参照)の改変法で評価した。簡単には以下のとおりにして行なった。
【0349】
材料を慣行法で栽培し、それぞれの系統の開花期に止葉をつけて上から2番目の節間で穂を切り取ったものに対し、水道水をかけ流しにしたステンレス製のバットに立てた。これに対して、赤かび病菌の分生子が顕微鏡200倍視野当たり15個程度になるように調整した懸濁液を十分に噴霧した。分生子接種後2日間は25℃・湿度100%の条件下、その後の6日間は18℃・湿度90%前後の人工気象室にて栽培した。光条件は日長14時間・照度約10、000luxとした。分生子接種後8日目に肉眼で観察して黄褐色に変色した頴花を罹病粒として罹病性小穂歩合を調査し、表1に示す基準に従って0(抵抗性)〜10(罹病性)のスコアで評価している。
【0350】
【表4】

またQTL解析のアルゴリズムには、composite interval mapping (CIM)を用い、解析ソフトウエアにはそれぞれ、MAPMAKER/QTLとQTL Cartographerを用いて行なった。LODスコアの閾値を2に設定し、LODスコアが2を超えた場合に当該2つのマーカー区間内の最もLODの大きな位置にQTLの存在を推定した。
【0351】
<結果>
RHI集団の結果を表5に、RI2集団の結果を表6に、DHHS集団の結果を表7に示した。
【0352】
【表5】

表5から明らかなように、RHI集団において、赤かび病抵抗性に関与するQTLを2H染色体上に1つ、4H染色体上に1つ検出した。このうち2H染色体上に検出された赤かび病抵抗性に関与するQTLは、発明者らのこれまでの検討により既に検出したものであった。したがって、今回の検討によって、新たに4H染色体上に1つ赤かび病抵抗性に関与するQTLを発見したことになる。
【0353】
上記QTLは、遺伝マーカーMMtgaEatc128から0.0cMの距離、遺伝マーカーFMgcgEatc530から短腕側に8.0cMの距離で、両遺伝マーカーに挟まれる位置に座乗しており、LODスコアは2.7である。このQTLで表現型の分散の12.4%を説明できる。また、このQTLの存在で上記「切り穂検定法」のスコアが1.1下がる(すなわち抵抗性が上がる)。
【0354】
【表6】

RI2集団については2回QTL解析を行なっており、1回目のQTL解析では、赤かび病抵抗性に関与するQTLを2H染色体上に1つ検出した。また2回目のQTL解析により、4H染色体上に1つ、6H染色体上に1つ検出した。
【0355】
上記2H染色体上に検出したQTLは、遺伝マーカーFXLRRfor_XLRRrev119から長腕側に0.2cMの距離で、遺伝マーカーFegtaMacg677から短腕側に3.3cMの距離で両遺伝マーカーに挟まれる位置に座乗しており、LODスコアは2.6である。このQTLで表現型の分散の10.1%を説明できる。また、このQTLの存在で上記「切り穂検定法」のスコアが1.3下がる(すなわち抵抗性が上がる)。
【0356】
また上記4H染色体上に検出したQTLは、遺伝マーカーFMacgEcgt288から長腕側に0.3cMの距離で、遺伝マーカーHVM67から短腕側に46.8cMの距離で両遺伝マーカーに挟まれる位置に座乗しており、LODスコアは2.2である。このQTLで表現型の分散の25.5%を説明できる。また、このQTLの存在で上記「切り穂検定法」のスコアが0.9下がる(すなわち抵抗性が上がる)。
【0357】
また上記6H染色体上に検出したQTLは、遺伝マーカーFMataEagc408から長腕側に4.1cMの距離で、遺伝マーカーHVM11から短腕側に9.4cMの距離で両遺伝マーカーに挟まれる位置に座乗しており、LODスコア2.7である。このQTLで表現型の分散の28.6%を説明できる。また、このQTLの存在で上記「切り穂検定法」のスコアが1.0下がる(すなわち抵抗性が上がる)。
【0358】
【表7】

表7から明らかなように、DHHS集団においては、赤かび病抵抗性に関与するQTLを2H染色体上に1つ、4H染色体上に1つ、5H染色体上に1つ検出した。
【0359】
上記2H染色体上に検出したQTLは、遺伝マーカーBmag125から0.0cMの距離で、遺伝マーカーk04002から短腕側に10.0cMの距離で両遺伝マーカーに挟まれる位置に座乗しており、LODスコアは2.0である。このQTLで表現型の分散の12.2%を説明できる。また、このQTLの存在で上記「切り穂検定法」のスコアが2.2下がる(すなわち抵抗性が上がる)。
【0360】
また上記4H染色体上に検出したQTLは、遺伝マーカーk05042から長腕側に1.2cMの距離で、遺伝マーカーk03289から短腕側に4.0cMの距離で両遺伝マーカーに挟まれる位置に座乗しており、LODスコアは3.2である。このQTLで表現型の分散の27.7%を説明できる。また、このQTLの存在で上記「切り穂検定法」のスコアが2.8上がる(すなわち抵抗性が下がる)。
【0361】
また上記5H染色体上に検出したQTLは、遺伝マーカーHvLoxから長腕側に0.5cMの距離で、遺伝マーカーk00835から短腕側に1.9cMの距離で両遺伝マーカーに挟まれる位置に座乗しており、LODスコア3.1である。このQTLで表現型の分散の19.7%を説明できる。また、このQTLの存在で上記「切り穂検定法」のスコアが2.4下がる(すなわち抵抗性が上がる)。
【0362】
なお上記表5〜7中の「Chromosome」は「遺伝マーカーが座上する染色体」を意味し、「Marker interval(M1-A-QTL-B-M2)」は「QTLの近傍に座上し、該QTLを挟む2つの遺伝マーカー(M1、M2)」を意味し、「Distance(cM)A+B」は「QTLを挟む2つの遺伝マーカー間の距離」を意味し、「Positiona」(cM)A」は「遺伝マーカーM1とQTL間の距離」を意味し、「Position(cM)B」は「遺伝マーカーM2とQTL間の距離」を意味し、「LODb」Score」は「LODスコアのピーク値」を意味し、「Var.(%)c」」は「QTLの存在により表現型の分散の何(%)を説明することができるかを示す値」を意味し、「Weightd)」は「QTLの存在により上記『切り穂検定法』のスコアがどれだけ上がるかを示す値」を意味している。
【0363】
〔実施例5:遺伝マーカー「MMtgaEatc128」の検出〕
(方法)
50ngの試験対象オオムギのゲノムDNAを各1.5UのEcoRI(タカラバイオ社製)およびMseI(NEW ENGLAND BioLabs社製)により、合計25μlの反応系において37℃で12時間ダブルダイジェストを行なった。制限酵素処理後のDNAに5μM EcoRIアダプター(塩基配列は配列番号14および配列番号15に示す)と50μM MseIアダプター(塩基配列は配列番号16および配列番号17に示す)を25UのT4 ligase(タカラバイオ社製)によって37℃、3時間ライゲーションを行なった。上記ライゲーション後のDNA断片をEcoRIのユニバーサルプライマー(塩基配列は配列番号18に示す)とMseIのユニバーサルプライマー(塩基配列は配列番号19に示す)を用いてプレアンプリフィケーション(予備増幅)を行なった。0.07mg/mlプレアンプリフィケーションの反応溶液について、配列番号33に示される塩基配列を有するEcoRIのセレクティブプライマー、および配列番号32に示される塩基配列を有するMseIのセレクティブプライマーを用いて増幅反応(本増幅)を行なった。なお増殖反応には、TaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社製)を用いた。
【0364】
上記予備増幅の反応サイクルは、94℃2分間の後、94℃30秒間→56℃1分間→72℃1分間の工程を20回行なった。
【0365】
また本増幅の反応サイクルは、94℃30秒間→68℃30秒間→72℃1分間の後、94℃30秒間→68℃30秒間→72℃30秒間→94℃30秒間→67.3℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→66.6℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→65.9℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→65.2℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→64.5℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→63.8℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→63.1℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→62.4℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→61.7℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→61.0℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→60.3℃30秒→72℃1分間→94℃30秒間→59.6℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→58.9℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→58.2℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→57.5℃30秒間→72℃1分間→94℃30秒間→56.8℃30秒間→72℃1分間の後、94℃30秒間→56℃30秒間→72℃1分間の工程を23回行なった。
【0366】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図8に示す。図8中の左端レーンおよび右端レーンはサイズマーカーを示し、同図中左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種であるRussia6について上記AFLPの検出を行なった結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のH.E.S.4について上記AFLPの検出を行なった結果を示す。その他のレーンについては、Russia6とH.E.S.4の交配から育成した組み換え近交系統(RI系統)RHI集団について上記AFLPの検出を行なった結果を示している。
【0367】
図8の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Russia6型)と罹病性型(H.E.S.4型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Russia6型)のものが約128bp(図中矢印で示す)であり、罹病性型(H.E.S.4型)のものは0bpである。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Russia6型)は、約128bpの増幅断片が得られるのに対して、罹病性型(H.E.S.4型)は約128bpの増幅断片が得られないということである。よって、試験対象植物について上記AFLPの検出操作を行ない、約128bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0368】
〔実施例6:遺伝マーカー「FMgcgEatc530」の検出〕
(方法)
方法については、配列番号35に示される塩基配列を有するEcoRIのセレクティブプライマー、および配列番号34に示される塩基配列を有するMseIのセレクティブプライマーを用いて増幅反応(本増幅)を行なう以外は、上記実施例5に示した方法と同様にした。
【0369】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図9に示す。図9中の左端レーンおよび右端レーンはサイズマーカーを示し、同図中左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種であるRussia6について上記AFLPの検出を行なった結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のH.E.S.4について上記AFLPの検出を行なった結果を示す。その他のレーンについては、Russia6とH.E.S.4の交配から育成した組み換え近交系統(RI系統)RHI集団について上記AFLPの検出を行なった結果を示している。
【0370】
図9の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Russia6型)と罹病性型(H.E.S.4型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Russia6型)のものが0bpであり、罹病性型(H.E.S.4型)のものは約530bp(図中矢印で示す)である。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Russia6型)は、約530bpの増幅断片が得られないのに対して、罹病性型(H.E.S.4型)は約530bpの増幅断片が得られるということである。よって、試験対象植物について上記AFLPの検出操作を行ない、約530bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0371】
〔実施例7:遺伝マーカー「FXLRRfor_XLRRrev119」〕の検出〕
(方法)
配列番号22および23に示される塩基配列を有するプライマーを用い、試験対象オオムギのゲノムDNAを鋳型として、増幅反応を行なった。反応サイクルは、94℃5分間の後、94℃1分間→45℃1分間→72℃2分間を45回行なった後、72℃7分間とした。
【0372】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図10に示す。図10中の左端レーンおよび右端レーンはサイズマーカーを示し、同図中左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種であるHarbin 2-rowについての増幅断片の結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のTurkey 6の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、Harbin 2-row(抵抗性)とTurkey 6(羅病性)の交配から育成した組み換え近交系統(RI系統)RI2集団についての増幅断片の結果を示している。
【0373】
図10の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row 型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row 型)のものが0bpであり、罹病性型(Turkey 6型)のものは約119bp(図中矢印で示す)である。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row 型)は約119bpの増幅断片が得られないのに対して、罹病性型(Turkey 6型)は約119pの増幅断片が得られるということである。よって、試験対象植物について上記AFLPの検出操作を行ない、約119bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該2H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0374】
〔実施例8:遺伝マーカー「FmacgEcgt288」の検出〕
(方法)
方法については、配列番号37に示される塩基配列を有するEcoRIのセレクティブプライマー、および配列番号36に示される塩基配列を有するMseIのセレクティブプライマーを用いて増幅反応(本増幅)を行なう以外は、上記実施例5に示した方法と同様にした。
【0375】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図11に示す。図11中の左端レーンおよび右端レーンはサイズマーカーを示し、同図中左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種であるHarbin 2-rowについての増幅断片の結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のTurkey 6の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、Harbin 2-row(抵抗性)とTurkey 6(羅病性)の交配から育成した組み換え近交系統(RI系統)RI2集団についての増幅断片の結果を示している。
【0376】
図11の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row 型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row 型)のものが0bpであり、罹病性型(Turkey 6型)のものは約288bp(図中矢印で示す)である。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row 型)は約288bpの増幅断片が得られないのに対して、罹病性型(Turkey 6型)は約288pの増幅断片が得られるということである。よって、試験対象植物について上記AFLPの検出操作を行ない、約288bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0377】
〔実施例9:遺伝マーカー「HVM67」の検出〕
(方法)
配列番号38および39に示される塩基配列を有するプライマーを用い、試験対象オオムギのゲノムDNAを鋳型として、増幅反応を行なった。反応サイクルは、94℃3分間の後、94℃1分間→64℃1分間(1サイクルごとに1℃低下させる)→72℃1分間を10回行なった後、94℃1分間→55℃1分間→72℃1分間を30回行なった後、72℃5分間とした。
【0378】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図12に示す。図12中の左端レーンはサイズマーカーを示し、同図中左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種であるHarbin 2-rowについての増幅断片の結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のTurkey 6の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、Harbin 2-row(抵抗性)とTurkey 6(羅病性)の交配から育成した組み換え近交系統(RI系統)RI2集団についての増幅断片の結果を示している。
【0379】
図12の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row型)のものが160bp(図中矢印で示す)であり、罹病性型(Turkey 6型)のものは約140bp(図中白抜き矢印で示す)である。よって、試験対象植物について上記の検出操作を行ない、約160bpあるいは約140bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0380】
〔実施例10:遺伝マーカー「FMataEagc408」の検出〕
(方法)
方法については、配列番号45に示される塩基配列を有するEcoRIのセレクティブプライマー、および配列番号44に示される塩基配列を有するMseIのセレクティブプライマーを用いて増幅反応(本増幅)を行なう以外は、上記実施例5に示した方法と同様にした。
【0381】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図13に示す。図13中の左端レーンおよび右端レーンはサイズマーカーを示し、同図中左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種であるHarbin 2-rowについての増幅断片の結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のTurkey 6の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、Harbin 2-row(抵抗性)とTurkey 6(羅病性)の交配から育成した組み換え近交系統(RI系統)RI2集団についての増幅断片の結果を示している。
【0382】
図13の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row 型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row 型)のものが0bpであり、罹病性型(Turkey 6型)のものは約408bp(図中矢印で示す)である。換言すれば、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row 型)は約408bpの増幅断片が得られないのに対して、罹病性型(Turkey 6型)は約408pの増幅断片が得られるということである。よって、試験対象植物について上記AFLPの検出操作を行ない、約408bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該6H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0383】
〔実施例11:遺伝マーカー「HVM11」の検出〕
(方法)
配列番号46および47に示される塩基配列を有するプライマーを用い、試験対象オオムギのゲノムDNAを鋳型として、増幅反応を行なった。反応サイクルは、94℃3分間の後、94℃1分間→64℃1分間(1サイクルごとに1℃低下させる)→72℃1分間を10回行なった後、94℃1分間→55℃1分間→72℃1分間を30回行なった後、72℃5分間とした。
【0384】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図14に示す。図14中右端レーンは赤かび病抵抗性オオムギ品種であるHarbin 2-rowについての増幅断片の結果を示し、同図中右端レーンから2レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のTurkey 6の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、Harbin 2-row(抵抗性)とTurkey 6(羅病性)の交配から育成した組み換え近交系統(RI系統)RI2集団についての増幅断片の結果を示している。
【0385】
図14の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(Harbin 2-row型)と罹病性型(Turkey 6型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(Harbin 2-row型)のものが144bp(図中矢印で示す)であり、罹病性型(Turkey 6型)のものは罹病性型のものは約100bp−160bp(図中白抜き矢印で示す)に増幅断片が見られる。よって、試験対象植物について上記検出操作を行ない、約144bpあるいは約100bp−160bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該6H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0386】
〔実施例12:遺伝マーカー「Bmag125」の検出〕
(方法)
配列番号24および25に示される塩基配列を有するプライマーを用い、試験対象オオムギのゲノムDNAを鋳型として、増幅反応を行なった。反応サイクルは、94℃3分間、55℃1分間、72℃1分間の後、94℃1分間→55℃1分間→72℃1分間を30回行なった後、72℃5分間とした。
【0387】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図15に示す。図15中左端レーンおよび右端レーンはサイズマーカーを示し、左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種である、はるな二条についての増幅断片の結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のH602の増幅断片の結果を示し、4レーン目はこれらのF1の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、はるな二条(抵抗性)とH602(羅病性)の交配から育成した倍加半数体系統(DH系統)DHHSについての増幅断片の結果を示している。
【0388】
図15の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(はるな二条型)と罹病性型(H602型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(はるな二条型)のものが142bp(図中矢印で示す)であり、罹病性型(H602型)のものは罹病性型のものは約134bp(図中白抜き矢印で示す)に増幅断片が見られる。よって、試験対象植物について上記の検出操作を行ない、約142bpあるいは約134bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該2H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0389】
〔実施例13:遺伝マーカー「k04002」の検出〕
(方法)
配列番号26および27に示される塩基配列を有するプライマーを用い、試験対象オオムギのゲノムDNAを鋳型として、増幅反応を行なった。反応サイクルは、94℃2分間の後、94℃30秒間→65℃30秒間(1サイクルごとに1℃低下させる)→72℃2分間を5回行なった後、94℃30秒間→60℃30秒間→72℃2分間を35回行なった後、72℃7分間とした。
【0390】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図16に示す。図16中左端レーンおよび右端レーンはサイズマーカーを示し、左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種である、はるな二条についての増幅断片の結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のH602の増幅断片の結果を示し、4レーン目はこれらのF1の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、はるな二条(抵抗性)とH602(羅病性)の交配から育成した倍加半数体系統(DH系統)DHHSについての増幅断片の結果を示している。
【0391】
図16の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(はるな二条型)と罹病性型(H602型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(はるな二条型)のものが約350bp(図中矢印で示す)であり、罹病性型(H602型)のものは罹病性型のものは約440bp(図中白抜き矢印で示す)に増幅断片が見られる。よって、試験対象植物について上記検出操作を行ない、約350bpあるいは約440bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該2H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0392】
〔実施例14:遺伝マーカー「k05042」の検出〕
(方法)
配列番号40および41に示される塩基配列を有するプライマーを用い、試験対象オオムギのゲノムDNAを鋳型として、増幅反応を行なった。反応サイクルは、94℃2分間の後、94℃30秒間→65℃30秒間(1サイクルごとに1℃低下させる)→72℃2分間を5回行なった後、94℃30秒間→60℃30秒間→72℃2分間を35回行なった後、72℃7分間とした。
【0393】
上記増幅産物を1.6UのHapII(タカラバイオ社製)を用いて、37℃15時間制限酵素消化を行なった。
【0394】
(結果)
上記制限酵素消化後の増幅断片について電気泳動を行なった結果を図17に示す。図17中左端レーンは赤かび病抵抗性オオムギ品種である、はるな二条についての増幅断片の結果を示し、同図中左端レーンから2レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のH602の増幅断片の結果を示し、3レーン目はこれらのF1の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、はるな二条とH602の交配から育成した倍加半数体系統(DH系統)DHHSについての増幅断片の結果を示している。
【0395】
当該遺伝マーカーは、既述の通りCAPSマーカーである。よって、制限酵素(HapII)の消化パターンが異なる。図17の結果によれば、上記操作による消化断片には、赤かび病に対してはるな二条型と抵抗性型H602型が存在し、それぞれの消化断片の断片長は、はるな二条型のものが約150bp、約350bp、約500bpであり、H602型のものは約300bp、約340bp、約360bpに増幅断片が見られる。なお、H602型の約340bp、約360bpの増幅断片は電気泳動の解像度が低い場合重複して見える場合がある。よって、試験対象植物について上記操作を行ない、消化断片のパターンを指標にすれば、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0396】
ただし既述の通り、本遺伝マーカーが連鎖する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)は、赤かび病罹病性型品種であるH602が有する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)である。よって、本遺伝マーカーを検出する場合は、はるな二条型が罹病性型となり、H602型が抵抗性型となる。
【0397】
〔実施例15:遺伝マーカー「k03289」の検出〕
(方法)
配列番号42および43に示される塩基配列を有するプライマーを用い、試験対象オオムギのゲノムDNAを鋳型として、増幅反応を行なった。反応サイクルは、94℃2分間の後、94℃30秒間→65℃30秒間(1サイクルごとに1℃低下させる)→72℃2分間を5回行なった後、94℃30秒間→60℃30秒間→72℃2分間を35回行なった後、72℃7分間とした。
【0398】
上記増幅産物を1.6UのSacII(タカラバイオ社製)を用いて、37℃15時間制限酵素消化を行なった。
【0399】
(結果)
上記制限酵素消化後の増幅断片について電気泳動を行なった結果を図18に示す。図18中右端レーンは、はるな二条についての増幅断片の結果を示し、同図中右端レーンから2レーン目はH602の増幅断片の結果を示し、3レーン目はこれらのF1の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、はるな二条(抵抗性)とH602(羅病性)の交配から育成した倍加半数体系統(DH系統)DHHSについての増幅断片の結果を示している。
【0400】
当該遺伝マーカーは、既述の通りCAPSマーカーである。よって、制限酵素(SacII)の消化パターンが異なる。図18の結果によれば、上記操作による消化断片には、赤かび病に対してはるな二条型とH602型が存在し、それぞれの消化断片の断片長は、はるな二条型のものが約250bp、約250bpであり、H602型のものは約500bpに増幅断片が見られる。よって、試験対象植物について上記操作を行ない、消化断片のパターンを指標にすれば、対象植物個体が当該4H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0401】
ただし、既述の通り、本遺伝マーカーが連鎖する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)は、赤かび病罹病性型品種であるH602が有する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)である。よって、本遺伝マーカを検出する場合は、はるな二条型が罹病性型となり、H602型が抵抗性型となる。
【0402】
〔実施例16:遺伝マーカー「HvLOX」の検出〕
(方法)
配列番号28および29に示される塩基配列を有するプライマーを用い、試験対象オオムギのゲノムDNAを鋳型として、増幅反応を行なった。反応サイクルは、94℃3分間、58℃1分間、72℃1分間の後、94℃30秒間→58℃30秒間→72℃30秒間を30回行なった後、72℃5分間とした。
【0403】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図19に示す。図19中左端レーンおよび右端レーンはサイズマーカーを示し、左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種である、はるな二条についての増幅断片の結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のH602の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、はるな二条(抵抗性)とH602(羅病性)の交配から育成した倍加半数体系統(DH系統)DHHSについての増幅断片の結果を示している。
【0404】
図19の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(はるな二条型)と罹病性型(H602型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(はるな二条型)のものが155bp(図中矢印で示す)であり、罹病性型(H602型)のものは約157bp(図中白抜き矢印で示す)に増幅断片が見られる。よって、試験対象植物について上記の検出操作を行ない、約155bpあるいは約157bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該5H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0405】
〔実施例17:遺伝マーカー「k00835」の検出〕
(方法)
配列番号30および31に示される塩基配列を有するプライマーを用い、試験対象オオムギのゲノムDNAを鋳型として、増幅反応を行なった。反応サイクルは、94℃2分間の後、94℃30秒間→65℃30秒間(1サイクルごとに1℃低下させる)→72℃2分間を5回行なった後、94℃30秒間→60℃30秒間→72℃2分間を35回行なった後、72℃7分間とした。
【0406】
(結果)
上記増幅反応によって得られた増幅断片について電気泳動を行なった結果を図20に示す。図20中左端レーンおよび右端レーンはサイズマーカーを示し、左端レーンから2レーン目は赤かび病抵抗性オオムギ品種である、はるな二条についての増幅断片の結果を示し、同図中左端レーンから3レーン目は赤かび病罹病性オオムギ品種のH602の増幅断片の結果を示し、4レーン目はこれらのF1の増幅断片の結果を示す。その他のレーンについては、はるな二条(抵抗性)とH602(羅病性)の交配から育成した倍加半数体系統(DH系統)DHHSについての増幅断片の結果を示している。
【0407】
図20の結果によれば、上記操作によって増幅される増幅断片には、赤かび病に対して抵抗性型(はるな二条型)と罹病性型(H602型)が存在し、それぞれの増幅断片の断片長は、抵抗性型(はるな二条型)のものが約900bp(図中矢印で示す)であり、罹病性型(H602型)のものは約880bp(図中白抜き矢印で示す)に増幅断片が見られる。よって、試験対象植物について上記の検出操作を行ない、約900bpあるいは約880bpの増幅断片の有無を指標にすれば、対象植物個体が当該5H染色体に座乗する赤かび病抵抗性因子(赤かび病抵抗性に関与する遺伝子座)の対立遺伝子について、抵抗性の遺伝子型を有するか、罹病性の遺伝子型を有するかを判定できる。
【0408】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0409】
本発明によれば、オオムギの赤かび病抵抗性のメカニズムの解明;赤かび病抵抗性植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))の生産;赤かび病抵抗性因子の有無の判断;赤かび病抵抗性植物(イネ科植物(例えばオオムギをはじめとするムギ類))の判定等を行なうことが可能となる。よって、これまで赤かびが原因で収穫量の低下・品質の低下・人体被害等を被っていたオオムギをはじめとする植物(イネ科植物)に対して適用すればその病害を減少させることができる。従って、園芸農業をはじめとする農業全般に利用可能である。さらには、オオムギ等を原料とする食品産業においても有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0410】
【図1(a)】2H染色体上のDNAマーカー(MM314,FM677)および2H−2因子の位置関係を示す図である。
【図1(b)】5H染色体上のDNAマーカー(FM426,MM1057)および5H−1因子の位置関係を示す図である。
【図2(a)】抵抗性型(Harbin2)のFM677の全塩基配列(配列番号8)を示す図である。
【図2(b)】罹病性型(Turkey6)のFM677の全塩基配列(配列番号9)を示す図である。
【図2(c)】抵抗性型(Russia6)のFM426の全塩基配列(配列番号10)を示す図である。
【図2(d)】罹病性型(H.E.S.4)のFM426の全塩基配列(配列番号11)を示す図である。
【図3(a)】オオムギの2H染色体について、オオムギの赤かび病抵抗性に関するQTL解析(CIM)を行なった結果を示すグラフである。
【図3(b)】オオムギの5H染色体について、オオムギの赤かび病抵抗性に関するQTL解析(CIM)を行なった結果を示すグラフである。
【図4】実施例2におけるPCRの反応条件を示す図である。
【図5(a)】配列番号1および2に記載のプライマーを用いて、Russia6、H.E.S.4、およびRI系統からのゲノムDNAを鋳型としてPCRを行なった際に得られたPCR産物について電気泳動を行なった結果を示す写真図である。
【図5(b)】配列番号5および7に記載のプライマーを用いて、Russia6、H.E.S.4、およびRI系統からのゲノムDNAを鋳型としてPCRを行なった際に得られたPCR産物を、さらにHhaI消化したものについて電気泳動を行なった結果を示す写真図である。
【図6】DNAマーカーを指標として赤かび病抵抗性オオムギか否かを判断した結果と、赤かび病抵抗性スコアの関係を示すヒストグラムである。
【図7】遺伝マーカー「MM1057」についてAFLP分析を行なって多型検出を行った結果を示す電気泳動図である。
【図8】実施例5において遺伝マーカー「MMtgaEatc128」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図9】実施例6において遺伝マーカー「FMgcgEatc530」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図10】実施例7において遺伝マーカー「FXLRRfor_XLRRrev119」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図11】実施例8において遺伝マーカー「FmacgEcgt288」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図12】実施例9において遺伝マーカー「HVM67」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図13】実施例10において遺伝マーカー「FMataEagc408」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図14】実施例11において遺伝マーカー「HVM11」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図15】実施例12において遺伝マーカー「Bmag125」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図16】実施例13において遺伝マーカー「k04002」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図17】実施例14において遺伝マーカー「k05042」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図18】実施例15において遺伝マーカー「k03289」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図19】実施例16において遺伝マーカー「HvLOX」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図20】実施例17において遺伝マーカー「k00835」の多型検出を行なった結果を示す電気泳動図である。
【図21】遺伝マーカー「k05042」における、はるな二条とH602間のSNP、およびSNP周辺の塩基配列を示す図である。
【図22】遺伝マーカー「k03289」における、はるな二条とH602間のSNP、およびSNP周辺の塩基配列を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤かび病抵抗性イネ科植物を判定するために用いられる赤かび病抵抗性イネ科植物の判定キットであって、
以下に示される第十五および十六プライマーセットのうち、少なくとも1つ以上が含まれることを特徴とする当該判定キット:
配列番号40に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号41に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十五プライマーセット;
配列番号42に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号43に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十六プライマーセット。
【請求項2】
以下に示される第一〜十三および十七〜十八プライマーセットのうち、少なくとも1つ以上がさらに含まれることを特徴とする請求項1に記載の赤かび病抵抗性イネ科植物の判定キット:
配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセット;
配列番号3に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセット;
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット;
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセット;
配列番号21に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号20に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第五プライマーセット;
配列番号22に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号23に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第六プライマーセット;
配列番号24に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号25に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第七プライマーセット;
配列番号26に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号27に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第八プライマーセット;
配列番号28に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号29に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第九プライマーセット;
配列番号30に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号31に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十プライマーセット;
配列番号32に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号33に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十一プライマーセット;
配列番号34に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号35に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十二プライマーセット;
配列番号36に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号37に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十三プライマーセット;
配列番号44に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号45に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十七プライマーセット;および
配列番号46に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号47に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十八プライマーセット。
【請求項3】
イネ科植物のゲノムDNAを鋳型とし、
以下に示される第十五および十六プライマーセットのうち、少なくとも1つ以上のプライマーセットを用いて増幅される増幅断片の多型を検出する工程を含むことを特徴とする赤かび病抵抗性イネ科植物の判定方法:
配列番号40に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号41に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十五プライマーセット;
配列番号42に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号43に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十六プライマーセット。
【請求項4】
イネ科植物のゲノムDNAを鋳型とし、
以下に示される第一〜十三および十七〜十八プライマーセットのうち、少なくとも1つ以上を用いて増幅される増幅断片の多型を検出する工程をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の赤かび病抵抗性イネ科植物の判定方法:
配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第一プライマーセット;
配列番号3に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第二プライマーセット;
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第三プライマーセット;
配列番号5に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第四プライマーセット;
配列番号21に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号20に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第五プライマーセット;
配列番号22に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号23に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第六プライマーセット;
配列番号24に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号25に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第七プライマーセット;
配列番号26に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号27に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第八プライマーセット;
配列番号28に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号29に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第九プライマーセット;
配列番号30に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号31に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十プライマーセット;
配列番号32に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号33に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十一プライマーセット;
配列番号34に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号35に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十二プライマーセット;
配列番号36に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号37に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十三プライマーセット;
配列番号44に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号45に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十七プライマーセット;および
配列番号46に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号47に示される塩基配列を有するプライマーとの組み合わせである第十八プライマーセット。

【図1(a)】
image rotate

【図1(b)】
image rotate

【図2(a)】
image rotate

【図2(b)】
image rotate

【図2(c)】
image rotate

【図2(d)】
image rotate

【図3(a)】
image rotate

【図3(b)】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5(b)】
image rotate

【図6】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図5(a)】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2007−312795(P2007−312795A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232098(P2007−232098)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【分割の表示】特願2005−517286(P2005−517286)の分割
【原出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】