説明

赤外線遮蔽材料微粒子分散液、赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材およびプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター

【課題】太陽光等が照射されたときに青白色に変色する現象(ブルーヘイズ)を抑制できる赤外線遮蔽材料微粒子分散液と赤外線遮蔽膜等を提供する。
【解決手段】一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に含まれる赤外線遮蔽材料微粒子分散液であって、動的光散乱法で測定した赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、50%径が10nm〜30nm、95%径が20nm〜50nmおよび平均粒径が10nm〜40nmであることを特徴とする。また、赤外線遮蔽膜は、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂等の媒体が添加された赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子を溶媒中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散液とこの分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜に係り、特に、形成された赤外線遮蔽膜に太陽光やスポットライト等が照射されたときに青白色に変色する現象(以後、ブルーヘイズと称する)を抑制できる赤外線遮蔽材料微粒子分散液の改良と、この分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜並びに赤外線遮蔽光学部材およびプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線遮蔽体の需要が急増しており、赤外線遮蔽体に関する特許が多く提案されている。機能的観点からは、例えば、各種建築物や車両の窓材等の分野において、可視光線を十分に取り入れながら近赤外領域の光を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的としたもの、プラズマディスプレイパネル(以下PDPと記す場合がある)から前方に放射される近赤外線が、コードレスフォンや家電機器のリモコンに誤動作を引き起こしたり、伝送系光通信に悪影響を及ぼしたりすることを防止することを目的としたもの等がある。
【0003】
また、遮光部材の観点からは、例えば、窓材等に使用される遮光部材として、可視光領域から近赤外線領域に吸収特性があるカーボンブラック、チタンブラック等の無機顔料、可視光領域のみに強い吸収特性のあるアニリンブラック等の有機顔料等黒色系顔料を含有する遮光フィルムや、アルミ等の金属を蒸着したハーフミラータイプの遮光部材が提案されている。
【0004】
特許文献1では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、上記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設け、当該第2層上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、かつ、上記第2層の透明誘電体膜の屈折率を第1層および第3層の複合酸化タングステン膜の屈折率よりも低くすることにより、高い可視光透過率および良好な赤外線遮断性能が要求される部位に好適に使用できる赤外線遮断ガラスが提案されている。
【0005】
特許文献2では、特許文献1と同様の方法で、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、当該第1層上に第2層として酸化タングステン膜を設け、当該第2層上に第3層として第2の誘電体膜を設けた赤外線遮断ガラスが提案されている。
【0006】
特許文献3では、特許文献1と同様な方法で、透明な基板上に、基板側より第1層として同様の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、上記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0007】
また、特許文献4では、水素、リチウム、ナトリウムまたはカリウム等の添加元素を含有する三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、五酸化バナジウム(V)および二酸化バナジウム(VO)の1種以上から選択された金属酸化物膜を、CVD法またはスプレー法でガラスシートに被覆しかつ250℃程度で熱分解して形成された太陽光遮蔽特性を有する太陽光制御ガラスシートが提案されている。
【0008】
特許文献5には、タングステン酸を加水分解して得られた酸化タングステン(タングステン酸化物)を用い、当該酸化タングステンに、ポリビニルピロリドンという特定の構造の有機ポリマーを添加することにより、太陽光が照射されると光線中の紫外線が酸化タングステンに吸収されて励起電子とホールとが発生し、少量の紫外線量により5価タングステンの出現量が著しく増加して着色反応が速くなり、これに伴って着色濃度が高くなると共に、光を遮断することによって5価タングステンが極めて速やかに6価に酸化されて消色反応が速くなる特性を用い、太陽光に対する着色および消色反応が速く、着色時に近赤外域の波長1250nmに吸収ピークが現れ、太陽光の近赤外線を遮断することができる太陽光可変調光断熱材料が提案されている。
【0009】
また、特許文献6には、六塩化タングステンをアルコールに溶解し、そのまま溶媒を蒸発させるか、または加熱還流した後溶媒を蒸発させ、その後100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物または両者の混合物から成る粉末を得ること、当該酸化タングステン微粒子を用いてエレクトロクロミック素子が得られること、多層の積層体を構成し膜中にプロトンを導入したときに当該膜の光学特性を変化させることができること等が提案されている。
【0010】
また、特許文献7には、メタ型タングステン酸アンモニウムと水溶性の各種金属塩を原料とし、その混合水溶液の乾固物を約300〜700℃の加熱温度で加熱し、この加熱中に不活性ガス(添加量;約50vol%以上)または水蒸気(添加量;約15vol%以下)が添加された水素ガスを供給することにより、MWO(M;アルカリ、アルカリ土類、希土類等の金属元素、0<x<1)で表される種々のタングステンブロンズを作製する方法が提案されている。また、同様の操作を支持体上で行わせ、種々のタングステンブロンズ被覆複合体を製造する方法が提案され、燃料電池等の電極触媒材料として用いることが提案されている。
【0011】
更に、特許文献8には、赤外線遮蔽材料微粒子が樹脂やガラス等の媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子で構成され、かつ、当該赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径が1nm以上800nm以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体、およびこの赤外線遮蔽材料微粒子分散体の光学特性や導電性、製造方法等について開示されている。
【特許文献1】特開平8−59300号公報
【特許文献2】特開平8−12378号公報
【特許文献3】特開平8−283044号公報
【特許文献4】特開2000−119045号公報
【特許文献5】特開平9−127559号公報
【特許文献6】特開2003−121884号公報
【特許文献7】特開平8−73223号公報
【特許文献8】国際公開WO2005/37932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、これ等赤外線遮蔽体において、特許文献8に開示された一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を用いた赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、可視光透過率を高く保ったまま赤外線の透過率を低くできるという優れた機能を発揮することから、窓ガラスやプラズマディスプレイパネルにハードコート処理等を加えて用いることが検討されている。
【0013】
そして、これ等用途においては、赤外線遮蔽特性と高い透明性(低いヘイズ値)が要求されているため、ヘイズ値を低下させることを目的としてタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子の粒子径を更に微細化する試みがなされており、これ等微粒子の微細化によりヘイズ値を低下させることが可能になっている。
【0014】
しかし、上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が分散された赤外線遮蔽材料微粒子分散体においては、太陽光やスポットライト等が照射されたときに青白色に変色する現象(ブルーヘイズ)が確認され、この赤外線遮蔽材料微粒子分散体を車のフロントガラス等に用いた場合、太陽光を受けると青白く変色して視界不良となるため安全上問題となることが懸念されている。また、建材用の窓ガラス等ではブルーヘイズの発生により美観を損ねてしまい、プラズマディスプレイパネル等においてはブルーヘイズの発生によりコントラストを大きく低下させ、鮮やかさや見易さを損ねてしまう問題が懸念される。
【0015】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、上記ブルーヘイズの発生を抑制できる赤外線遮蔽材料微粒子分散液を提供し、かつ、この分散液を用いてブルーヘイズの発生が抑制された赤外線遮蔽材料微粒子分散体(赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材等)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本発明者は、上記課題を解決するため、ブルーヘイズの現象についてその発生原因から調査を行った。
【0017】
通常のヘイズは、入射光が媒体中のフィラー等により散乱されることに起因しており、フィラーの粒子径が200nmよりも大きいときには、幾何学散乱またはミー散乱により400nm〜780nmの可視光線領域の光を散乱して曇りガラスのようになることが知られている。
【0018】
他方、粒子径が200nm以下になると、幾何学散乱またはミー散乱は低減し、散乱の大部分は散乱係数が下記式(1)で定義されるレイリー散乱に従うことが知られている。
【0019】
S=[16π56/3λ4]・[(m2−1)/(m2+2)]2・[m] (1)
[但し、上記式(1)中、Sは散乱係数、λは波長、rは粒子径、m=n/n、nは基質の屈折率、および、nは分散物質の屈折率である]
上記レイリー散乱は、光の波長よりも小さいサイズの粒子による光の散乱で、透明な液体や固体中でも起きるが、典型的な現象は気体中の散乱である。因みに、太陽光が大気で散乱されて空が青く見える現象はレイリー散乱によるものとして知られている。
【0020】
そして、上記式(1)から、レイリー散乱は波長(λ)の4乗に反比例するため、固体中においても、波長の短い青い光を多く散乱して青白色に変色させることが推測される。従って、本発明者は、これがブルーヘイズ発生の原因であると推定した。また、このレイリー散乱領域では、上記式(1)から、散乱光は粒子径(r)の6乗に比例するため、粒子径を小さくすることで、レイリー散乱が低減してブルーヘイズを改善できることが予測される。このため、フィラーの粒子径を小さくして実験を試みたが、粒子径を単に小さくする(すなわち、平均粒径を小さくする)だけではブルーヘイズの大きな改善は確認されなかった。
【0021】
このような経緯から、本発明者は、赤外線遮蔽材料微粒子における平均粒径の調整に加えて粒度分布の分析も試みたところ、上記微粒子の平均粒径を小さくしても分散液中には粗大粒子が残存していることが確認され、粗大粒子によるレイリー散乱が大きいためにブルーヘイズを改善できないことが確認された。そこで、赤外線遮蔽材料微粒子における粒度分布の更なる分析を行った結果、動的光散乱法で測定した赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布において、50%径が10nm〜30nm、95%径が20nm〜50nm、および、平均粒径が10nm〜40nmである条件を具備させた場合、上記ブルーヘイズの発生が抑制されることを見出すに至った。本発明はこのような技術的検討を経て完成されている。
【0022】
すなわち、請求項1に係る発明は、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に含まれる赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
動的光散乱法で測定した赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、50%径が10nm〜30nm、95%径が20nm〜50nm、および、平均粒径が10nm〜40nmであることを特徴とする。
【0023】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
動的光散乱法で測定した赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、30%径が5〜20nm、80%径が12〜32nmであることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1〜2のいずれかに記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項3に記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
一般式MxWyOzで表記される上記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶若しくは立方晶の結晶構造の1つ以上を含むことを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項4に記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
上記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内の1種類以上を含み、かつ、六方晶の結晶構造を有することを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽材料微粒子分散液の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が1.5%以下であることを特徴とする。
【0024】
次に、請求項7に係る発明は、
赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜において、
紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物から選択される1種類以上の媒体が添加された請求項1〜6のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜において、
粘着剤が添加された請求項1〜6のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項7または8に記載の発明に係る赤外線遮蔽膜において、
可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が1.5%以下であることを特徴とする。
【0025】
また、請求項10に係る発明は、
赤外線遮蔽光学部材において、
基材と、この基材表面に形成された請求項7〜9のいずれかに記載の赤外線遮蔽膜とで構成されることを特徴とし、
請求項11に係る発明は、
プラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターにおいて
請求項10の赤外線遮蔽光学部材が組み込まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に含まれる本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散液によれば、動的光散乱法で測定した上記赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布において、50%径が10nm〜30nm、95%径が20nm〜50nm、および、平均粒径が10nm〜40nmに設定されているため、太陽光やスポットライト等が照射されたときに青白色に変色するブルーヘイズの発生を抑制することができる。
【0027】
また、本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材においても上記ブルーヘイズの発生が抑制されるため、各種建築物や車両の窓材、PDP(プラズマディスプレイパネル)、窓材等に使用される遮光フィルム、遮光部材等に適用できる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
まず、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に含まれると共に、動的光散乱法で測定した上記赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布において、50%径が10nm〜30nm、95%径が20nm〜50nm、および、平均粒径が10nm〜40nmであることを特徴としている。
【0030】
1.タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子
一般に、自由電子を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmを有する太陽光線等の電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このような材料の粉末を、光の波長より小さい微粒子とすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて可視光領域の透明性が得られることが知られている。尚、本明細書において、「透明性」とは、可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高いという意味で用いている。
【0031】
そして、WO中には有効な自由電子が存在しないため、WOは近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、赤外線遮蔽材料としては有効ではない。一方、酸素欠損を持つ3酸化タングステンや、3酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加した所謂タングステンブロンズは、導電性材料で自由電子を持つ材料であることが知られており、これ等材料の単結晶等の分析により赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。そして、タングステンと酸素との化合物における組成範囲の特定部分において、赤外線遮蔽材料として特に有効な範囲があり、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子が見出され、当該タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子を樹脂やガラス等の媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体より製造した赤外線遮蔽体等が得られている(特許文献8参照)。
【0032】
まず、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、溶媒中に含まれる赤外線遮蔽材料微粒子は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される。
【0033】
そして、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子において、タングステンと酸素との好ましい組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、更に、当該赤外線遮蔽材料微粒子をWyOzと記載したとき2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が2.2以上であれば、赤外線遮蔽材料中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することができると共に、材料としての化学的安定性を得ることができるため有効な赤外線遮蔽材料として適用できる。一方、このz/yの値が2.999以下であれば、必要とされる量の自由電子が生成され、効率のよい赤外線遮蔽材料となる。
【0034】
また、WyOzへ、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素)を添加することで、z/y=3.0の場合も含めて当該WyOz中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となるため好ましい。ここで、WyOzに対し、上述した酸素量の制御と自由電子を生成する元素の添加とを併用することでより効率の良い赤外線遮蔽材料を得ることができる。酸素量の制御と自由電子を生成する元素の添加とを併用した赤外線遮蔽材料の一般式をMxWyOz(但し、Mは、上記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と表記したとき、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0の関係を満たす赤外線遮蔽材料が望ましい。
【0035】
まず、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。x/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線遮蔽効果を得ることができる。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線遮蔽効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、当該赤外線遮蔽材料中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0036】
また、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上であることが好ましい。
【0037】
ここで、元素Mが添加された当該MxWyOzにおける安定性の観点からは、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。そして、赤外線遮蔽材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点からは、上記元素Mにおいて、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものが更に好ましい。
【0038】
次に、酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。z/yの値については、MxWyOzで表記される赤外線遮蔽材料においても、上述したWyOzで表記される赤外線遮蔽材料と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、更に好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0039】
更に、複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造を模式的に示す図1の平面図を参照しながら説明する。図1において、符号10で示すWO単位にて形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に符号20で示す元素Mが配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0040】
本発明において可視光領域の透過を向上させ、近赤外領域の吸収を向上させる効果を得るためには、複合タングステン酸化物微粒子中に、図1で説明した単位構造(WO単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に元素Mが配置した構造)が含まれていればよく、当該複合タングステン酸化物微粒子が結晶質であっても非晶質であっても構わない。この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Feを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これ等以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよく、上記元素に限定される訳ではない。
【0041】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0042】
また、六方晶以外では、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも赤外線遮蔽材料として有効である。そして、これ等の結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。よって、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。但し、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0043】
本発明に係るタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するためその透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0044】
また、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、当該赤外線遮蔽材料の耐候性向上の観点から好ましい。
【0045】
また、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子において、一般式WyOzと表記したとき、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」は化学的に安定であり、近赤外線領域の吸収特性も良いので赤外線遮蔽材料として好ましい。
【0046】
2.タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子、および、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気若しくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0047】
そして、上記タングステン化合物出発原料として、3酸化タングステン粉末、酸化タングステンの水和物粉末、6塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0048】
ここで、タングステン酸化物微粒子を製造する場合、製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、若しくは、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末を用いることが更に好ましく、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や6塩化タングステン溶液を用いることが更に好ましい。これ等原料を用い、これ等を不活性ガス雰囲気若しくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径のタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0049】
また、上記元素Mを含む一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、上述した一般式WyOzで表されるタングステン酸化物微粒子のタングステン化合物出発原料と同様であり、更に元素Mを、元素単体または化合物のかたちで含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これ等に限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0050】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し赤外線遮蔽材料微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがHが好ましい。また還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元雰囲気の組成として、Hが体積比で0.1%以上が好ましく、更に好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0051】
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な赤外線遮蔽特性を示し、この状態で赤外線遮蔽材料微粒子として使用可能である。しかし、酸化タングステン中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む酸化タングステン化合物を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、更に安定な赤外線遮蔽材料微粒子を得ることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、赤外線遮蔽材料微粒子中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0052】
上述したように、得られた赤外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該赤外線遮蔽材料微粒子を分散した溶液中へ、上記金属のアルコキシドを添加することで、赤外線遮蔽材料微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0053】
3.溶媒
次に、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液で適用される溶媒は、特に限定されることなく公知の有機溶剤を使用することができる。具体的には、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、3−メチル−メトキシ−プロピオネート(MMP)等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)等のグリコール誘導体、フォルムアミド(FA)、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、エチレンクロライド、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等を挙げることができる。中でも極性の低い有機溶剤が好ましく、特にMIBK、MEK等のケトン類や、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、PGMEA、PE−AC等のグリコールエーテルアセテート類等、疎水性の高いものがより好ましい。これ等溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
4.粒度分布
本発明に係る粒度分布について説明する。
【0055】
粒度分布の測定には多種多様な測定原理が存在する。その中でも「レーザ回折・散乱法を測定原理」とする粒度分布測定装置や、「動的光散乱法を測定原理」とする粒度分布測定装置が急速な進歩を遂げ、現在では粒度分布測定装置の主流となっている。
【0056】
粒度分布とは、測定対象となるサンプル粒子群の中に、どのような大きさ(粒子径)の粒子が、どのような割合(全体を100%とする相対粒子量)で含まれているかを示す指標(表現手段)である。粒子量の基準(次元)としては、体積、面積、長さ、個数があるが、一般的には、体積基準を用いることが多い。対象となる粒子径の範囲を分割し、それぞれの粒子径区間に存在する粒子量を%で表示するのが、頻度分布である。
【0057】
粒度分布という概念を導入するためには、まず、粒子径を定義する必要がある。しかし、ほとんどの粒子の形状は、球や立方体といった単純かつ定量的に表現できるものではなく、複雑かつ不規則であり、直接的に粒子径を定義することはできない。そこで、球相当径という間接的な定義を用いる。これは、特定の粒子を測定した場合、同じ結果(測定量またはパターン)を示す球体の直径をもってその被測定粒子の粒子径とするという考え方に基づくものである。例えば、沈降法では、被測定粒子と同じ物質の直径1μmの球と同じ沈降速度をもった被測定粒子の粒子径は1μmであるとしている。「レーザ回折・散乱法」や「動的光散乱法」の場合には、直径1μmの球と同じ回折・散乱光のパターンを示す被測定粒子の粒子径は、その形状に関わらず1μmとしている。
【0058】
そして、上記「レーザ回折・散乱法を測定原理」とする粒度分布測定装置(レーザ回折式粒度分布測定装置)の場合、その基盤となるのはミー散乱理論である。この理論によって計算される粒子径と回折・散乱光の光強度分布パターンとの関係が根本的なスケールとなる。この関係こそが標準器に該当するものであり、パラメータテーブルとしてそれぞれの装置に記憶され、粒度分布計算に用いられている。上記レーザ回折式粒度分布測定装置は、測定装置自体としては測定の再現性はよいといえる。十分な再現性が得られない場合は、サンプリングや分散条件等を含めて多角的に原因を検討する必要がある。
【0059】
また、上記「動的光散乱法を測定原理」とする粒度分布測定装置の場合、その基礎となるのはブラウン運動である。粒子が数μm以下になると、溶媒分子運動の影響を受け、粒子が運動する。これをブラウン運動と呼ぶ。この運動の速さは粒子の大きさによって異なる。小さい粒子は速く、大きい粒子はゆっくり動く。これ等の運動している粒子へレーザ光を照射すると、その速度に応じた位相の違う光の散乱が生じる。これをドップラーシフトと呼ぶが、このドップラーシフトされた粒子径情報を検出して粒度分布を求めている。
【0060】
これ等粒度分布測定装置を用いて測定できるのは、全体を100%とする相対的な粒度分布データある。従って、測定対象の粒子群の濃度が変化しても、サンプリングエラー等の問題がなければ、理論的には粒度分布データは変化しない。現実においても、多重散乱が発生しない適正な濃度範囲であれば、粒度分布の測定結果は、濃度の影響をほとんど受けない。
【0061】
粒度分布データは粒子径スケールに対する積算%や頻度%として表現されるが、逆に、積算%のスケールに対する粒子径として表現される場合もある。図2に示すように積算%の分布曲線が10%の横軸と交差するポイントの粒子径を10%径、50%の横軸と交差するポイントの粒子径を50%径、更に90%の横軸と交差するポイントの粒子径を90%径という。10%、50%、90%に特に固定されているわけではなく、必要に応じて、任意の積算%が用いられる。50%粒子径はメディアン径とも呼ばれ、ごく一般的に用いられている。複数のサンプルの粒度分布の大きさを比較するとき、測定対象の大きさを一つの数値で代表する必要があるため、このメディアン径がよく用いられる。このため、メディアン径は、平均粒径とよく混同されることがあるが、定義が異なり、通常この2つの径は一致しない。中心(50%径)に対して粒度分布が左右対称である場合に限って、これ等2つの径は一致する。本発明において、平均粒径は体積平均粒径のことである。
【0062】
そして、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に含まれる本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散液によれば、動的光散乱法で測定した上記赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布において、50%径が10nm〜30nm、95%径が20nm〜50nm、および、平均粒径が10nm〜40nmに設定されていることから、上述したレイリー散乱が低下してブルーヘイズの発生が大幅に改善されたものと推測される。尚、上記要件に加え、動的光散乱法で測定した赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布において、30%径が5〜20nm、80%径が12〜32nmに設定されると更にブルーヘイズの発生を抑制でき好ましい。
【0063】
5.拡散透過プロファイル
上述した「ブルーヘイズ」を、従来のヘイズメーター(例えば、特開2000−211063号公報の段落0015参照)で直接測定することができないため、本発明者は、試料である赤外線遮蔽材料微粒子分散体に光を当てたときの透過光の成分として直線入射光と散乱光とに着目し、波長毎の拡散透過率を求めることにより「ブルーヘイズ」を直接評価する方法を既に提案している(特願2007−327177参照)。以下、波長毎の拡散透過率(すなわち、拡散透過プロファイル)を測定する原理を図3および図4を用いて説明する。
【0064】
まず、拡散透過プロファイルを測定する測定装置は、図3および図4に示すように球状本体内面が拡散反射性を有しかつ測定試料(赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材)2が取り付けられる第一開口部(図示せず)、標準反射板5またはライトトラップ部品6が取り付けられる第二開口部(図示せず)、受光器3が取り付けられる第三開口部(図示せず)を球状本体外面に有する積分球4と、上記第一開口部を介し球状空間内に入射される直線光を出射する光源1と、上記受光器3に取り付けられかつ受光された反射光または散乱光を分光する分光器(図示せず)と、上記分光器に接続されかつ分光された反射光または散乱光の分光データを保存するデータ保存手段(図示せず)と、保存された上記ブランク透過光強度と拡散透過光強度の各分光データから拡散透過光強度とブランク透過光強度の波長毎の比をそれぞれ演算して波長毎の拡散透過率を得る演算手段(図示せず)を具備している。
【0065】
ここで、球状本体外面に第一、第二および第三開口部(図示せず)を有する積分球4は、球状本体内面に硫酸バリウム若しくはスペクトラロン(SPECTRALON:登録商標)等が塗布されて拡散反射性を有するもので、標準反射板5への入射角は、標準側、対照側とも10°であればよい。また、上記受光器3としては、例えば、光電子倍増管(紫外・可視域)、冷却硫化鉛(近赤外域)を使用したものを用いることができる。また、受光器3に取り付けられる分光器(図示せず)については、紫外・可視域の波長測定範囲、測光正確さ(±0.002Abs)が必要である。
【0066】
次に、球状空間内に入射される直線光を出射する光源1としては、例えば、紫外域は重水素ランプ、可視・近赤外域は50Wハロゲンランプが適用される。
【0067】
また、標準反射板5には、例えば材質がスペクトラロン(SPECTRALON:登録商標)の白板を用いることができ、上記ライトトラップ部品6には、入射された直線光を反射させずにトラップする機能が必要で、例えば、入射された直線光をほぼ完全に吸収するダークボックスが用いられる。
【0068】
そして、上記拡散透過プロファイルの測定装置を用いて、測定試料である赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜の拡散透過プロファイルの極大値を評価するには、ブランク透過光強度測定工程と、拡散透過光強度測定工程と、拡散透過率演算工程との各工程を要する。
【0069】
まず、上記ブランク透過光強度測定工程においては、図3に示すように積分球4の第二開口部に標準反射板5を取り付け、第一開口部に測定試料(赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材)を取り付けない状態で外部光源1からの直線光を第一開口部を介し球状空間内に入射させると共に、標準反射板5で反射された反射光を受光器3で受光し、かつ、受光器3に取り付けられた分光器(図示せず)により分光して上記反射光の分光データを得る。
【0070】
次に、上記拡散透過光強度測定工程においては、図4に示すように積分球4の第二開口部にライトトラップ部品6を取り付け、第一開口部に測定試料(赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材)2を取り付けた状態で外部光源1からの直線光を測定試料2と第一開口部を介し球状空間内に入射させると共に、ライトトラップ部品6でトラップされた光以外の散乱光を上記受光器3で受光し、かつ、受光器3に取り付けられた分光器(図示せず)により分光して散乱光の分光データを得る。
【0071】
上記拡散透過率演算工程において、データ保存手段(図示せず)により保存されたブランク透過光強度と拡散透過光強度の各分光データに基づき、演算手段(図示せず)により拡散透過光強度とブランク透過光強度の波長毎の比をそれぞれ演算して波長毎の拡散透過率を求めると共に、得られた波長毎の拡散透過率から、測定試料である赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材の拡散透過プロファイルにおける波長360nm〜500nm領域の極大値を求めることができる。
【0072】
そして、可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽材料微粒子分散液の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が、1.5%以下となっていることが好ましい。この条件を満たしている場合、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽材料微粒子分散体(赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材)では、ブルーヘイズがほとんど観測されないことが確認されている。
【0073】
尚、拡散透過プロファイルを測定する上記測定装置においては、上記光源1と測定試料(赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材)2との間に光線調整用の光学系を設けてもよい。そして、この光学系では、例えば複数枚のレンズを組み合わせて平行光を調整し、絞りにより光量の調整を行う。場合によっては、フィルターによって特定波長のカットを行ってもよい。
【0074】
6.赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材およびその製造方法
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液の好ましい使用方法としては、この分散液に、紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物から選択された1種類以上の媒体を添加して塗布液を構成し、かつ、この塗布液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜から溶媒を蒸発させて赤外線遮蔽膜を得る方法がある。尚、赤外線遮蔽光学部材は、基材とこの基材表面に形成された上記赤外線遮蔽膜とで構成される。
【0075】
そして、この使用方法では、予め高温で焼成した赤外線遮蔽材料微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて、上記赤外線遮蔽材料微粒子が含まれる赤外線遮蔽膜を基材表面に結着させることができる。このため、耐熱温度の低い基材への適用が可能となり、赤外線遮蔽膜形成の際に大型の装置を必要とせず安価であるという利点があり、また、上記赤外線遮蔽光学部材を用いることにより太陽光を受ける屋外用途等への用途の拡大が図れ、極めて有用である。
【0076】
赤外線遮蔽材料微粒子分散液に添加される上記媒体としては、上述したように紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂等が目的に応じて選定可能である。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。また、上記媒体として、上述したように金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物を利用することも可能であり、上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。
【0077】
また、上記赤外線遮蔽材料微粒子分散液に粘着剤を添加して塗布液を構成し、この塗布液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られる赤外線遮蔽膜も有用である。そして、粘着剤の主要材料としては、エストラマーや合成樹脂等の高分子物質が挙げられ、被接着材料や接着後の部材の使用条件等によって適宜選定される。例えば、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル・アクリル樹脂、酢酸ビニル・塩化ビニル樹脂、エチレン・酢酸ビニル樹脂、エチレン・アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、天然ゴム、クロロプレンゴム等が挙げられる。
【0078】
また、上述した塗布液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)が塗布される基材としては所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。透明基材の材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ふっ素樹脂等が各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0079】
そして、可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が、1.5%以下となっていることが好ましい。この特性を具備する場合、この赤外線遮蔽膜では、ブルーヘイズがほとんど観測されないことが確認されている。
【0080】
尚、上記紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物から選択された1種類以上の媒体を赤外線遮蔽材料微粒子分散液に添加した塗布液、あるいは、上記粘着剤を赤外線遮蔽材料微粒子分散液に添加した塗布液の塗布方法としては、基材表面に塗布膜を均一に形成できればよく、特に限定されないが、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が例示される。
【0081】
7.本発明に係る赤外線遮蔽光学部材が組み込まれたプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター
近年、ディスプレイの大型化、薄型化に伴い、PDPが注目を集めている。PDPの発光原理は、放電空間において、電圧を印加することにより放電させ、放電空間に導入していたキセノンとネオンの混合ガスを励起して真空紫外線を放射させ、これが、赤、緑、青のそれぞれの蛍光体を発光させてカラー表示を可能にさせている。
【0082】
このとき、キセノンガスから真空紫外線以外に近赤外線が発生し、PDP前方に一部が放射される。特に800nm〜1100nmの波長域は、コードレスフォンや家電機器のリモコンの誤動作を引き起こしたり、伝送系光通信に悪影響を及ぼす等の問題が生じている。このため、PDPの前面には、上記誤動作等を防止する目的で、近赤外線の遮蔽加工が施されている。
【0083】
これ等近赤外線の遮蔽加工に用いられる近赤外線吸収剤には、ディスプレイの輝度に悪影響を及ぼさないよう可視光線領域(約380nm〜780nm)の光は十分透過し、800nm〜1100nmの近赤外線を遮蔽するような特性が要求される。
【0084】
そして、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に含まれる本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散液は優れた赤外線遮蔽特性を有すると共に、動的光散乱法で測定した上記赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布において、50%径が10nm〜30nm、95%径が20nm〜50nm、および、平均粒径が10nm〜40nmに設定されているため、太陽光やスポットライト等が照射されたときに青白色に変色するブルーヘイズの発生を抑制することができる。従って、本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材においても上記ブルーヘイズの発生が抑制されるため、各種建築物や車両の窓材、PDP(プラズマディスプレイパネル)、窓材等に使用される遮光フィルム、遮光部材等に適用できる効果を有する。
【実施例】
【0085】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれ等実施例に当然のことながら限定されるわけではない。
【0086】
また、実施例中の可視光透過率とは、試料に垂直入射する昼光の光束について透過光束の入射光束に対する比である。ここで、上記昼光とは、国際照明委員会が定めたCIE昼光を意味する。このCIE昼光では、観測データに基づき黒体放射の色温度と同じ色温度の昼光の分光照度分布を波長560nmの値に対する相対値で示している。また、上記光束とは、放射の波長ごとの放射束と視感度(人の目の光に対する感度)の値の積の数値を波長について積分したものである。つまり、可視光透過率とは、波長380nm〜780nmの領域の光透過量を人の目の視感度で規格化した透過光量の積算値で人の目の感じる明るさを意味する値である。
【0087】
透過率測定は、分光光度計(日立製作所製U−4000)を使用して、波長300nm〜2600nmの範囲において1nmの間隔で測定している。
【0088】
拡散透過率測定は、分光光度計(日立製作所製U−4000)を使用し、上述した方法により波長300nm〜800nmの範囲で1nmの間隔で測定している。
【0089】
赤外線遮蔽膜のヘイズ値は、JIS K 7105に基づき測定を行なった。
【0090】
また、平均粒径、粒度分布は、動的光散乱法に基づく粒度分布測定装置(日機装株式会社製 UPA-150)により測定した。
【0091】
粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形を用いた。バックグラウンドはメチルイソブチルケトンで測定し、溶媒屈折率は1.4とした。
【0092】
ブルーヘイズは、人口太陽光ランプ[セリック(株)社製 XC-100]を照射し目視で確認した。
[実施例1]
赤外線遮蔽材料として、粒度分布が、50%径で1.2μm、95%径で4.8μmのCs0.33WO粉末を20重量部、メチルイソブチルケトン70重量部、分散剤10重量部を混合し、3kgのスラリーを調製した。
【0093】
このスラリーをビーズと共に媒体攪拌ミルに投入し、スラリーを循環させて粉砕分散処理を行った。使用した媒体攪拌ミルは横型円筒形のアニュラータイプ(アシザワ株式会社製)であり、ベッセル内壁とローター(回転攪拌部)の材質はZrOとした。また、上記ビーズには、直径0.1mmのYSZ(Yttria-Stabilized Zirconia:イットリア安定化ジルコニア)製のビーズを使用した。ローターの回転速度は13m/秒とし、スラリー流量1kg/分にて粉砕した。
【0094】
また、フィラーの滞留を防ぐためにアキュムレイター(ポンプの脈動を吸収する小部屋)は用いず、その代わりに脈動率の小さいスムースプローダイヤフラムポンプを用いて送液した。また、冷却タンク内でのフィラーの滞留を防ぐためにタンクに邪魔板を設置し攪拌効率を上げた。
【0095】
そして、フィラーの粒度分布が、30%径が14nm、50%径が16nm、80%径が19nm、95%径が22nm、平均粒径が19nmに減少した時点で粉砕を終了し、分散液を回収した。尚、分散液中における上記フィラーの頻度分布を図5のグラフ図に、上記フィラーの累積分布を図6のグラフ図にそれぞれ示す。
【0096】
得られた分散液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)の可視光透過率を56%に設定した時の、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は0.8%であり、人口太陽光を照射したときのブルーヘイズ(着色)は観測されなかった。
【0097】
次に、得られた分散液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)を紫外線硬化樹脂と混合し、バーコーターを用いガラス基板上に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜から溶媒を蒸発させた後、紫外線を照射し硬化させて赤外線遮蔽膜を得た。
【0098】
得られた赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は55%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.2%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。また、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は、図7に示す通り0.8%であり、人口太陽光を照射したときのブルーヘイズ(着色)は、図8に示すように観測されなかった。
[実施例2]
フィラー(赤外線遮蔽材料)をRb0.33WO粉末に変更し、フィラーの粒度分布が、30%径が16nm、50%径が17nm、80%径が20nm、95%径が25nm、平均粒径が22nmに粉砕された時点で、分散液を回収した以外は実施例1と同様にして分散液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)および赤外線遮蔽膜を作製した。尚、分散液中における上記フィラーの頻度分布を図5のグラフ図に、上記フィラーの累積分布を図6のグラフ図にそれぞれ示す。
【0099】
得られた赤外線遮蔽材料微粒子分散液の可視光透過率を53%に設定した時の、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は1.2%であり、人口太陽光を照射したときのブルーヘイズ(着色)は観測されなかった。
【0100】
次に、赤外線遮蔽膜について、実施例1と同様の評価を行った。可視光透過率は49%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。また、ヘイズは0.2%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。更に、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は、図7に示す通り1.2%であり、人口太陽光を照射したときのブルーヘイズ(着色)は、図8に示すように観測されなかった。
[比較例1]
赤外線遮蔽材料として実施例1と同一のCs0.33WO粉末を適用し、かつ、粉砕装置にはアキュムレイターを設置し、シングルダイヤフラムポンプを用い、冷却タンクには邪魔板を設置せずに粉砕し、フィラー(赤外線遮蔽材料)の粒度分布が、30%径が19nm、50%径が22nm、80%径が30nm、95%径が58nm、平均粒径が28nmに減少した時点で、分散液を回収した以外は実施例1と同様にして分散液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)および赤外線遮蔽膜を作製した。尚、分散液中における上記フィラーの頻度分布を図5のグラフ図に、上記フィラーの累積分布を図6のグラフ図にそれぞれ示す。
【0101】
得られた赤外線遮蔽材料微粒子分散液の可視光透過率を52%に設定した時の、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は2.1%であり、人口太陽光を照射したときのブルーヘイズ(着色)は観測された。
【0102】
次に、赤外線遮蔽膜について、実施例1と同様の評価を行った。可視光透過率は53%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。また、ヘイズは0.4%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。更に、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は、図7に示す通り2.1%であり、また、人口太陽光を照射すると図8に示すように青白色に着色した。
[比較例2]
赤外線遮蔽材料として実施例1と同一のCs0.33WO粉末を適用し、かつ、粉砕装置にはアキュムレイターを設置し、シングルダイヤフラムポンプを用い、冷却タンクには邪魔板を設置せずに粉砕し、フィラー(赤外線遮蔽材料)の粒度分布が、30%径が20nm、50%径が23nm、80%径が36nm、95%径が220nm、平均粒径が62nmに減少した時点で、分散液を回収した以外は実施例1と同様にして分散液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)および赤外線遮蔽膜を作製した。尚、分散液中における上記フィラーの頻度分布を図5のグラフ図に、上記フィラーの累積分布を図6のグラフ図にそれぞれ示す。
【0103】
得られた赤外線遮蔽材料微粒子分散液の可視光透過率を57%に設定した時の、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は3.5%であり、人口太陽光を照射したときのブルーヘイズ(着色)は強く観測された。
【0104】
次に、赤外線遮蔽膜について、実施例1と同様の評価を行った。可視光透過率は56%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。また、ヘイズは0.8%であり、透明性が高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。更に、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は、図7に示す通り3.5%であり、また、人口太陽光を照射すると図8に示すように青白色に強く着色した。
[比較例3]
フタロシアニン系色素からなる有機の赤外線遮蔽材料と粘着剤とを混合し、ガラス基板上に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜から溶媒を蒸発させた後、熟成させて赤外線遮蔽膜を作製した。
【0105】
得られた赤外線遮蔽膜について、実施例1と同様の評価を行った。可視光透過率は52%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。また、ヘイズは0.8%であり、透明性が高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。更に、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は、図7に示す通り0.7%であり、人口太陽光を照射したときのブルーヘイズ(着色)は、図8に示すように観測されなかった。
【0106】
[評 価]
(1)以下の表1に示すように、動的光散乱法で測定した実施例1および2における赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、50%径がそれぞれ16nmと17nm(10nm〜30nmの範囲)、95%径がそれぞれ22nmと25nm(20nm〜50nmnmの範囲)、平均粒径がそれぞれ19nmと22nm(10nm〜40nmの範囲)に設定されているため、以下の表2と表3に示されているように、実施例1および2の「赤外線遮蔽材料微粒子分散液」と「赤外線遮蔽膜」に人口太陽光を照射しても青白色に着色しない(すなわち、ブルーヘイズが抑制されている)ことが確認される。
【0107】
従って、実施例1および2の赤外線遮蔽膜を有する赤外線遮蔽光学部材は、窓ガラスやプラズマディスプレイパネル等に適用できることが分かる。
(2)他方、比較例1における赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、表1に示すように、50%径が22nm(10nm〜30nmの範囲)、平均粒径が28nm(10nm〜40nmの範囲)と実施例1〜2と同様に設定されているにもかかわらず、「赤外線遮蔽材料微粒子分散液」と「赤外線遮蔽膜」に人口太陽光を照射すると、表2と表3に示すように青白色に着色(すなわち、ブルーヘイズを生ずる)してしまう。
【0108】
この原因は、比較例1における赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、95%径が58nm(20nm〜50nmnmの範囲外)と大きく、これ等粗大粒子に起因したレイリー散乱によるものと考えられる。
(3)また、比較例2における赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、表1に示すように、95%径が220nm(20nm〜50nmnmの範囲外)、平均粒径が62nm(10nm〜40nmの範囲外)と大きいため、比較例1と同様の原因から、「赤外線遮蔽材料微粒子分散液」と「赤外線遮蔽膜」に人口太陽光を照射すると、表2と表3に示すように青白色に強く着色(すなわち、ブルーヘイズを生ずる)してしまうことが確認される。
(4)尚、比較例3はフタロシアニン系色素からなる有機の赤外線遮蔽材料が適用されているため、ブルーヘイズを発生しない。
【0109】
そして、実施例1と2の「赤外線遮蔽膜」に人口太陽光を照射したときのブルーヘイズは、図8の写真図並びに表2と表3に示されているように比較例3の変色と同レベルであり、実施例1と2の赤外線遮蔽光学部材は有機系赤外線遮蔽材料と同じ透明性を有していることが確認される。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0113】
一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に含まれる本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散液は優れた赤外線遮蔽特性を有すると共に、動的光散乱法で測定した赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布において、50%径が10nm〜30nm、95%径が20nm〜50nm、および、平均粒径が10nm〜40nmに設定されているため、太陽光やスポットライト等が照射されたときに青白色に変色するブルーヘイズの発生を抑制することができる。従って、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材においてもブルーヘイズの発生が抑制されるため、各種建築物や車両の窓材、PDP(プラズマディスプレイパネル)、窓材等に使用される遮光フィルム、遮光部材等に適用される産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明において適用される六方晶を有する複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造の模式図。
【図2】粒度分布における任意%粒子径を求める方法を示す説明図。
【図3】本発明に係る赤外線遮蔽膜等の拡散透過プロファイルの測定原理を示す説明図。
【図4】本発明に係る赤外線遮蔽膜等の拡散透過プロファイルの測定原理を示す説明図。
【図5】赤外線遮蔽材料微粒子分散液中のフィラー(赤外線遮蔽材料)の頻度分布を示すグラフ図。
【図6】赤外線遮蔽材料微粒子分散液中のフィラー(赤外線遮蔽材料)の累積分布を示すグラフ図。
【図7】波長と拡散透過率との関係を示す拡散透過プロファイルのグラフ図。
【図8】実施例1〜2および比較例1〜3に係る赤外線遮蔽膜のブルーヘイズ現象を示す写真図。
【符号の説明】
【0115】
1 光源
2 測定試料
3 受光器
4 積分球
5 標準反射板
6 ライトトラップ部品
10 WO単位
20 元素M

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に含まれる赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
動的光散乱法で測定した赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、50%径が10nm〜30nm、95%径が20nm〜50nm、および、平均粒径が10nm〜40nmであることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項2】
動的光散乱法で測定した赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、30%径が5〜20nm、80%径が12〜32nmであることを特徴とする請求項1に記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項3】
上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項4】
一般式MxWyOzで表記される上記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶若しくは立方晶の結晶構造の1つ以上を含むことを特徴とする請求項3に記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項5】
上記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内の1種類以上を含み、かつ、六方晶の結晶構造を有することを特徴とする請求項4に記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項6】
可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽材料微粒子分散液の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が1.5%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項7】
紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物から選択される1種類以上の媒体が添加された請求項1〜6のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とする赤外線遮蔽膜。
【請求項8】
粘着剤が添加された請求項1〜6のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とする赤外線遮蔽膜。
【請求項9】
可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が1.5%以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の赤外線遮蔽膜。
【請求項10】
基材と、この基材表面に形成された請求項7〜9のいずれかに記載の赤外線遮蔽膜とで構成されることを特徴とする赤外線遮蔽光学部材。
【請求項11】
請求項10の赤外線遮蔽光学部材が組み込まれていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−215487(P2009−215487A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62559(P2008−62559)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】