説明

赤色系魚介肉加工食品の製造方法

【課題】 赤色を呈する魚介肉加工原料を、変色を防止して加工する方法の提供。
【解決手段】 赤色系魚介肉を常温の食塩水に浸漬する工程(I)、魚介肉を食塩水から取り出し、保冷下で静置熟成させる工程(II)、熟成後の魚介肉を、保冷下にて金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類に接触させる工程(III)を含む、魚介肉加工食品の製造方法を実施する。この方法は、特に、魚介肉冷凍食品の製造において、変色防止策として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色系魚介肉加工食品を、その加工原料である魚介肉の赤色の変色を防止して製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
刺身用や寿司用として、マグロ、ブリ、カツオ等の赤色系魚肉が使用されるが、これら赤色系魚肉の多くにおいては、食肉繊維の中にミオグロビンが含まれており、このミオグロビンが赤色を決する主要因となっている。
【0003】
ミオグロビンはヘム構造を有する色素蛋白質であり、還元型ミオグロビン、酸素型ミオグロビン(オキシミオグロビン)、酸化型ミオグロビン(メトミオグロビン)という3種類の状態を取り得るとともに、それらの状態によって異なる色を呈する。
【0004】
魚肉の新鮮な切り口やその肉塊の内部では、ミオグロビンは暗赤色の還元型ミオグロビンの状態で存在する。魚肉の切り口が空気に触れると、還元型ミオグロビンが空気中の酸素により酸化され、15乃至30分程で鮮赤色のオキシミオグロビン(酸素型ミオグロビン)に変化する。オキシミオグロビンの分子内には、ヘム構造を有する鉄イオンが二価の状態で存在する。オキシミオグロビンがさらに酸素に晒されると、ヘム構造の鉄イオンが酸化されて3価に変化し、暗褐色のメトミオグロビンが生じる。魚肉の表面に存在するオキシミオグロビンの30乃至50%がメトミオグロビンに変化すると、色調は赤色から褐色へと変わることが確認されている。
【0005】
魚介類加工食品の外観、特に色調は、消費者がそのような加工食品を購入する際の、重要な判断要因である。通常、消費者は、赤色系の食品を新鮮なものとして好み、褐色に変化したものは、古くて硬いものとして敬遠する傾向がある。したがって、魚肉加工原料中のオキシミオグロビンの酸化を防止し、その色調の変化を出来るだけ防止することが望まれる。
【0006】
非特許文献1には、魚肉を含む食肉の変色防止のため、硝酸や亜硝酸或いはそれらの塩からなる発色剤を食肉加工原料に加え、化学的に不安定なミオグロビンを安定なニトロソミオグロビンに変えるという手法が記載されており、この手法は広く用いられている。しかし、上記発色剤を摂取した場合には、ニトロソミオグロビンが体内でアミンと反応し、強力発ガン物質であるニトロソアミンを生じる可能性がある。したがって、上記発色剤の食品への使用を控えることに対する要望が高まってきている。
【0007】
また、特許文献1には、炭酸水素ナトリウム等のガス発生化合物及び各種無機塩等の金属イオン遊離化合物を含む無機化合物と天然多糖類との共存下、食肉加工原料を加熱処理する工程を含む、食肉加工食品の製造方法が開示されている。この方法によれば、上記発色剤を使用しなくても、食肉加工原料の変色を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−77651
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】指定品目食品添加物便覧(改訂第34版)、岸直邦編集、株式会社食品と科学社発行、2005年、102乃至104頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の如く、特許文献1には、発色剤を使用しなくても、食肉加工原料の変色を防止することが可能な方法が提案されている。しかし、そのような変色防止手段として、更に異なる方法も待ち望まれている、即ち、変色防止手段の豊富化が望まれているのである。
【0011】
このような実情に鑑み、本発明は、赤色を呈する魚介肉加工原料の変色を防止しつつ、それらを加工することが可能な魚介肉加工食品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意努力し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、赤色系魚介肉を常温の食塩水に浸漬する工程(I)、魚介肉を食塩水から取り出し、保冷下で静置熟成させる工程(II)、熟成後の魚介肉を、保冷下にて金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類に接触させる工程(III)を含むことを特徴とする魚介肉加工食品の製造方法に関する。魚介肉加工食品の一例として、冷凍魚介肉が挙げられる。本発明はまた、上記三工程を含む、赤色系魚介肉の変色防止方法であるということもできる。
【0013】
金属イオン遊離能を有する無機化合物によって遊離される金属イオンは、鉄イオンよりもイオン化傾向の高い金属イオンであることが好ましい。
【0014】
本発明の方法は、硝酸及び亜硝酸並びにそれらの塩といった、従来公知の発色剤の使用を排除するものではないが、そのような発色剤を使用せずに実施することもできる。なお、発色剤を使用する場合には、熟成後の魚介肉を、金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類に接触させる工程よりも後の工程において、発色剤を魚介肉加工原料に添加することが好ましい。
【0015】
静置熟成工程の後に、魚介肉の表面積を大きくする工程、例えば薄く切断する工程を実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加工原料である赤色系魚介肉の変色が防止されるので、美しい赤色を保持した魚介肉加工食品が提供される。よって、本発明により、商品価値の優れた魚介肉加工食品を製造し、提供することが可能となる。
【0017】
本発明の方法は、硝酸、亜硝酸ならびにそれらの塩を用いることなく実施することができ、その場合には、体内における強力発ガン物質であるニトロソアミンの生成の虞を回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の魚介肉加工食品の製造方法は、赤色系魚介肉を常温の食塩水に浸漬する工程(I)、魚介肉を食塩水から取り出し、保冷下で静置熟成させる工程(II)、熟成後の魚介肉を、保冷下にて金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類に接触させる工程(III)を含む。
【0019】
本発明の方法によってミオグロビンの酸化に伴う変色が防止される理由は定かではないが、以下のメカニズムによるものと推測される。
【0020】
即ち、加工原料である魚介肉内外に存在する酸素が酸化防止剤と反応すること、酸化防止剤と反応しなかった酸素は、金属イオン遊離能を有する無機化合物から遊離された金属イオンによって封鎖され、それがさらに高分子である天然多糖類により形成される三次元的網目構造の中に包摂されることにより、ミオグロビンと反応できる酸素の量が低下するものと推定される。ここで、ミオグロビン分子内の鉄イオンと金属イオン遊離能を有する無機化合物から遊離された金属イオンとの間には電位差が生じる。後述のように、本発明において無機化合物から遊離される金属イオンは、通常は鉄イオンよりもイオン化傾向が高い。このように、魚介肉加工原料に接触する電解質中の陽イオンが、イオン化傾向の高い金属主体で構成され、且つ、当該電解質中の陰イオンが、ミオグロビンをニトロソミオグロビンに変換する硝酸及び亜硝酸並びにその塩を含有しないものであれば、金属イオン間の電位差によって犠牲陽極が形成され、ミオグロビン分子内の鉄イオンは電気化学的に不活性となる。これによって魚介肉加工原料中のミオグロビンが安定化され、酸化による変色がより一層抑制されるものと推測される。
【0021】
本発明において、「赤色系魚介肉」とは、マグロ、ブリ、カツオ、赤貝等の、ヘモグロビンを含有する赤色系魚介類の食肉部分が挙げられる。そのような食肉の性状は限定されず、製造される加工食品の種類に応じ、ブロック肉、薄切り肉、ぶつ切り肉、細切れ肉、ひき肉、すり身等の多種多様な性状から選択される。
【0022】
本発明において、「加工食品」とは、原料食品に何らかの処理が施されてなる食品をいい、「加工」には、加熱を伴う及び伴わない処理が包含される。本発明の方法は、加熱を伴わない加工、例えば冷凍処理が実施され、そのまま流通されるような加工食品の製造に、特に適する。
【0023】
本発明は、原料である赤色系魚介肉を常温の食塩水に浸漬する工程(I)を含む。ここで、「常温」とは、生の魚介肉の蛋白変性が生じないような温度、即ち5乃至40℃をいうが、5乃至35℃(日本工業規格において定義された「常温」)であることが好ましく、10乃至30℃であることがさらに好ましい。この工程(I)に供する赤色系魚介肉が保冷されている場合には、工程(I)で使用する食塩水を常温に保持するため、通常の方法にて加温を行ってもよい。また、必要な場合には、食塩水を常温に保持するために冷却を行ってもよい。
【0024】
食塩水の塩濃度は限定されないが、8乃至15質量%程度である。加工原料である魚介肉が食塩水に浸漬される時間は、魚介肉の大きさにもよるが、5乃至10分間程度が好ましい。この工程(I)では、魚介肉に対する、食塩によるコーティングが行われる。
【0025】
次いで、魚介肉を食塩水から取り出し、保冷下で静置熟成させる(工程(II))。「保冷」とは、加工原料である魚介肉を、凍結せず且つ変性や腐敗が生じない温度に保つことをいい、その温度は、通常は0乃至10℃であり、0乃至5℃が好ましい。静置熟成は、1乃至2時間程度行うことが好ましい。
【0026】
製造される加工食品が、魚介肉を切断した形態のものである場合には、切断はどの時点で行ってもよいが、工程(II)の後に、魚介肉の表面積を大きくする工程として実施することが好ましい。ここで切断を実施することにより、魚介肉の食塩濃度が高まりすぎることがなく、且つ、次の工程(III)の効果が効率的に得られる。
【0027】
工程(III)は、熟成後の魚介肉を、常温にて、金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類に接触させる工程である。「保冷」の定義は、工程(II)同様、通常は0乃至10℃である。工程(III)を実施する温度は、2乃至10℃が好ましく、5乃至10℃がさらに好ましい。
【0028】
金属イオン遊離能を有する無機化合物が遊離し得る金属イオンの種類は制限されるものではないが、イオン化傾向の高い金属イオンが好ましい。金属のイオン化傾向は、金属の種類によって異なる。金属とそのイオン化傾向の強い順に並べたイオン化列によれば、主な金属のイオン化傾向はカリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄の順となる。したがって、ミオグロビン中に存在する金属イオンである鉄イオンよりもイオン化傾向の高い、カリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び亜鉛イオンからなる群より選択される少なくとも一種のイオンを遊離し得る無機化合物が好ましい。そのような無機化合物の具体例としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。金属イオン遊離能を有する無機化合物は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0029】
酸化防止剤は、食品に使用することが許されているものであればよい。また、水溶性であっても油溶性であってもよい。酸化防止剤の具体例を挙げると、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、カテキン、クエン酸、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール及びジブチルヒドロキシトルエンがある。これらの中、酸類は魚介肉のpHを低下させるが、そのようなpHの低下が好ましくない場合には、ナトリウム塩を使用する。
【0030】
工程(III)を、水溶液を使用して実施する場合には、水溶性の酸化防止剤を使用し、魚介肉への直接塗布で実施する場合には、酸化防止剤は水溶性でも油溶性でもよい。特に好ましい酸化防止剤は、アスコルビン酸ナトリウムである。酸化防止剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明で使用する天然多糖類は、天然原料に由来し、食品に使用することが許されているものであれば、その種類は任意である。例えば、「指定品目食品添加物便覧 第34版(株式会社食品と科学社発行)」に記載された各種天然多糖類を使用することができる。
【0032】
天然多糖類の好ましい具体例としては、アルギン酸、アルギン酸塩、寒天、カラギーナン、カードラン、ジェランガム、グルコマンナン、ペクチン、キサンタンガム、シクロデキストリン、プルラン等が挙げられる。これらは、一種のみを用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせで使用してもよい。
【0033】
なお、天然多糖類の架橋形成を補助する等の目的で、単糖類やオリゴ糖類等の低分子糖類を併用してもよい。ここで、本明細書における「オリゴ糖」とは、2分子以上6分子以下の単糖が結合してなる糖分子及びその誘導体を指す。使用できる低分子糖類の種類は特に制限されないが、一例としてトレハロースが挙げられる。
【0034】
工程(III)は、例えば、金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類を含有する水性の溶液又は分散液に魚介肉を浸漬して行う。「水性」とは、ここで使用する液体が水を含有することをいう。「水性の溶液又は分散液」としたのは、金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類として、水を含有する液体に溶解しないものを、当該液体に分散させて使用することもできるからである。ここで使用する液体は、好ましくは水溶液又はエタノール濃度が70乃至95%程度の水エタノールである。この工程は、静置でもよいが、金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類の魚介肉内部への浸透を促進するために、溶液又は分散液を撹拌したり、液槽に振動を与えてもよい。
【0035】
水性の溶液又は分散液中における各成分の好ましい濃度は、次の通りである。金属イオン遊離能を有する化合物は、好ましくは1乃至10質量%程度、より好ましくは2乃至8質量%程度である。酸化防止剤は、好ましくは0.05乃至1.0質量%程度、より好ましくは0.08乃至0.5質量%程度である。天然多糖類は、好ましくは0.01乃至2.0質量%程度、より好ましくは0.05乃至1.0質量%程度である。好ましい浸漬時間は、魚介肉の大きさに依存するが、通常は5乃至60分間、好ましくは10乃至40分間である。なお、低分子糖類を併用する場合の水性溶液又は分散液中におけるその好ましい濃度は、0.01乃至2.0質量%程度である。
【0036】
工程(III)は、例えば、金属イオン遊離能を有する化合物、酸化防止剤及び天然多糖類を、そのままで或いはそれらの濃厚な(粘稠な)ペーストを調製して、魚介肉の表面に塗布し、静置することによって行うことができる。工程(III)終了後に、魚介肉の表面をさっと洗い流してもよい。このような方法で工程(III)を実施する場合には、好ましくは、魚介肉100質量部あたり、金属イオン遊離能を有する無機化合物は0.05乃至2質量部程度、酸化防止剤は0.01乃至1質量部程度、天然多糖類は0.01乃至1質量部程度、低分子糖類(使用する場合)は0.01乃至1質量部程度を使用する。静置時間は、魚介肉の大きさに依存するが、通常は5乃至60分間、好ましくは10乃至40分間である。
【0037】
本発明の方法では、上述の魚介肉加工原料に、必要に応じてその他の原料や成分を併用してもよい。その他の原料や成分の例としては、魚介肉以外の動物由来食材(卵類、乳類等)、植物由来食材(野菜類、果実類、穀類、いも類、澱粉類、豆類、種実類、きのこ類、海藻類等)、各種の加工食材(穀粉類、油脂類等)、調味料・香辛料類(砂糖、醤油、食塩、天然塩等)、添加剤(重曹等)などが挙げられる。これらの原料や成分の種類や量は特に制限されず、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、任意に選択することができる。
【0038】
なお、以上列記した原料や成分の中には、上述の金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤又は天然多糖類としての機能を有するものも存在する。そのような原料や成分を併用する場合には、工程(III)で使用する無機化合物、酸化防止剤又は天然多糖類の量を、併用される成分の機能や量を考慮して決定することが好ましい。
【0039】
本発明の魚介肉加工食品の製造方法は、上記工程(I)乃至(III)以外に、通常の魚介肉加工食品の製造において実施される加工工程を含んでよい。そのような加工工程で実施される処理の例としては、凍結、加熱、乾燥、燻製(スモーク)、混合、混錬、粉砕、結着、切断、圧縮(プレス)、成形、包装(容器包装、真空パック等)等が挙げられる。必要に応じ、これらの処理のうちの一種又は二種以上を、適宜選択して実施すればよい。
【0040】
凍結処理は、工程(III)の終了後、あるいは工程(III)の後に魚介肉の切断工程を実施し、その後に行う。具体的には、例えば−40℃の冷凍庫での急速冷凍である。冷凍された加工食品は、通常の冷凍物流工程で流通される。
【0041】
加熱処理は、工程(III)の終了後に行う。具体的な加熱の手法は限定されず、魚介肉加工原料の種類や性状、製造する加工食品の種類等に応じて選択される。加熱の温度や時間は、魚介肉加工原料の種類や性状、製造する加工食品の種類等に応じて一般的に選択されている温度でよい。また、減圧或いは加圧下で加熱処理を行ってもよい。
【0042】
凍結処理、加熱処理以外の処理も、通常当該分野で行われている条件に従って実施すればよい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明について、実施例により詳細に説明するが、これらは説明のために用いるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
超低温(−40℃)で凍結され、保存された本マグロフィーレ2kgを、−10乃至−15℃の冷凍庫に放置して通常の冷凍状態とした。通常の冷凍状態となった本マグロフィーレを、食塩濃度10質量%の食塩水に入れ、約5分間浸漬した。この浸漬の間、食塩水は撹拌され、且つ、約25℃となるように加温された。
【0045】
次に、本マグロフィーレを取り出し、水切り後、約2℃の冷蔵庫にて2時間、静置熟成させた。その後、この本マグロフィーレを柵状に切り、さらに、一片が10±2gとなるようにスライスした。
【0046】
常温の水道水3Lに、あまじお(天然塩)110g、重曹(炭酸水素ナトリウム)25g、アスコルビン酸ナトリウム4.2g、塩化カリウム1.3g、カラギーナン3.5g、キサンタンガム2.1g、グルコマンナン2.0gを溶解、分散させ、均一な溶液とした。この溶液に、上記のスライスした本マグロフィーレを投入し、浸漬させた。この工程は、5乃至10℃にて行った。15分後、スライスした本マグロフィーレを引き上げ、液切りを行い、真空包装した。この真空包装品を、超低温(−40℃)の冷凍庫にて再凍結した。
【0047】
[比較例1]
超低温(−40℃)で凍結され、保存された本マグロフィーレ2kgを、−10乃至−15℃の冷凍庫に放置して通常の冷凍状態とした。通常の冷凍状態となった本マグロフィーレを、柵状に切り、さらに、一片が10±2gとなるようにスライスした。
【0048】
常温の水道水3Lに食塩110gを溶解させ、均一な溶液とした。この食塩水に、上記のスライスした本マグロフィーレを投入し、浸漬させた。この工程は、5乃至10℃にて行った。15分後、スライスした本マグロフィーレを引き上げ、液切りを行い、真空包装した。この真空包装品を、超低温(−40℃)の冷凍庫にて再凍結した。
【0049】
(評価1)
実施例1及び比較例1の本マグロのスライス冷凍品の色調を目視で観察し、その後冷凍庫で3日間保存し、保存後の色調も目視で観察した。
【0050】
保存前の観察において、実施例1のマグロは、赤色系の美しい色調を呈していた。比較例1のマグロは、赤色にやや退色が見られた。これは、原料から冷凍品を製造するまでの時間経過において、比較例1ではミオグロビンの酸化が生じたためと考えられる。一方、保存後の観察によれば、実施例1は赤色系の美しい色調を維持していたが、比較例1は茶褐色系であり、食材としての価値は大きく低下していた。
【0051】
[実施例2]
本マグロフィーレの代わりに養殖ブリのフィーレ2kgを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、真空包装された凍結ブリスライスを得た。
【0052】
[比較例2]
本マグロフィーレの代わりに養殖ブリのフィーレ2kgを使用した以外は、比較例1と同様の操作を行い、真空包装された凍結ブリスライスを得た。
【0053】
(評価2)
実施例2及び比較例2のブリフィーレのスライス冷凍品の色調を目視で観察し、その後冷凍庫で3日間保存し、保存後の色調も目視で観察した。
【0054】
保存前及び保存後のいずれも、本マグロフィーレのスライス冷凍品についての観察結果と同様の結果であった。
【0055】
[実施例3]
超低温(−40℃)で凍結され、保存されたカツオフィーレ3kg(1kg×3枚)を、−10乃至−15℃の冷凍庫に放置して通常の冷凍状態とした。通常の冷凍状態となったカツオフィーレを、食塩濃度10質量%の食塩水に入れ、約5分間浸漬した。この浸漬の間、食塩水は撹拌され、且つ、約25℃となるように加温された。
【0056】
次に、カツオフィーレを取り出し、水切り後、約2℃の冷蔵庫にて2時間、静置熟成させた。
【0057】
常温の水道水3Lに、あまじお(天然塩)110g、重曹(炭酸水素ナトリウム)25g、アスコルビン酸ナトリウム4.2g、塩化カリウム1.3g、カラギーナン3.5g、キサンタンガム2.1g、グルコマンナン2.0gを溶解、分散させ、均一な溶液とした。この溶液に、上記のカツオフィーレを投入し、浸漬させた。この工程は、5乃至10℃にて行った。30分後、カツオフィーレを引き上げ、液切りを行い、真空包装した。この真空包装品を、超低温(−40℃)の冷凍庫にて再凍結した。
【0058】
[比較例3]
超低温(−40℃)で凍結され、保存されたカツオフィーレ3kg(1kg×3枚)を、−10乃至−15℃の冷凍庫に放置して通常の冷凍状態とした。常温の水道水3Lに食塩110gを溶解させ、均一な溶液とした。この食塩水に、通常の冷凍状態となったカツオフィーレを投入し、浸漬させた。この工程は、5乃至10℃にて行った。30分後、カツオフィーレを引き上げ、液切りを行い、真空包装した。この真空包装品を、超低温(−40℃)の冷凍庫にて再凍結した。
【0059】
(評価3)
実施例3及び比較例3のカツオフィーレ冷凍品の色調を目視で観察し、その後冷凍庫で3日間保存し、保存後の色調も目視で観察した。
【0060】
保存前及び保存後のいずれも、カツオフィーレ冷凍品の色調は、本マグロフィーレのスライス冷凍品及び養殖ブリフィーレのスライス冷凍品についての観察結果と同様の結果であった。
【0061】
以上述べたとおり、本発明の方法により製造された実施例1のマグロ、実施例2のブリ、及び実施例3のカツオは、いずれも、硝酸・亜硝酸系発色剤を使用していないにも係わらず、冷凍保存3日後においても美しい赤色系の色調を維持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色系魚介肉を常温の食塩水に浸漬する工程(I)、魚介肉を食塩水から取り出し、保冷下で静置熟成させる工程(II)、熟成後の魚介肉を、保冷下にて金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類に接触させる工程(III)を含むことを特徴とする魚介肉加工食品の製造方法。
【請求項2】
工程(III)を、熟成後の魚介肉を、金属イオン遊離能を有する無機化合物、酸化防止剤及び天然多糖類を含有する水性の溶液又は分散液に浸漬することによって行う、請求項1に記載の魚肉加工食品の製造方法。
【請求項3】
金属イオン遊離能を有する無機化合物が、カリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び亜鉛イオンからなる群より選択される少なくとも一種のイオンを遊離する能力を有する無機化合物である、請求項1又は2に記載の魚肉加工食品の製造方法。
【請求項4】
酸化防止剤がアスコルビン酸ナトリウムである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の魚肉加工食品の製造方法。
【請求項5】
天然多糖類が、アルギン酸、アルギン酸塩、寒天、カラギーナン、カードラン、ジェランガム、グルコマンナン、ペクチン、キサンタンガム、シクロデキストリン及びプルランからなる群より選択される少なくとも一種の化合物である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の魚肉加工食品の製造方法。
【請求項6】
硝酸及び亜硝酸並びにそれらの塩を使用しない、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の魚肉加工食品の製造方法。