説明

赤血球生成刺激剤(ESA)の投薬量決定

赤血球生成刺激剤(ESA)投薬システム/方法は、ESA治療の恩恵を受ける可能性がある、不十分なヘモグロビン生成によって影響を受ける患者用の患者特有のESA治療を決定する。ESA投薬システムは、赤血球が人間の中で生成されるプロセスを表現するモデルを含む。モデルは、その値が患者特有である、1つ又は複数のパラメータを含むことができる。モデルは、患者特有のヘモグロビン(Hgb)履歴データ及び対応するESA投薬量履歴データを考慮に入れてモデルパラメータの患者特有の値を推定し、患者のHgbを目標範囲内に維持することができるESAの目標治療量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薬物の投薬量を決定する生物物理学的パラメータのモデリングに関する。
【背景技術】
【0002】
貧血は、疲労感の増加、スタミナ及び運動耐性の減少、疲労、息切れ、食欲の減退、並びにCNS機能の低下の原因となる。貧血は、赤血球(RBC)の輸血の必要性につながる可能性があるが、細菌及びウイルスの感染、循環血液量の増加、鉄分過剰、並びにさまざまな輸血反応を含む危険を伴う。
【0003】
RBCの恒常性が正常な腎臓機能を必要としているので、慢性腎疾患(CKD)及び末期腎疾患(ESRD)の患者には貧血の危険がある。腎臓は赤血球生成において重要な役割を果たす。赤血球生成刺激剤(ESA)は、主に健康な腎臓によって、且つわずかに肝臓によって生成される(肝臓EPO)ホルモンのエリスロポエチン(EPO)の薬理学的代用品として、これらの患者の間で使用される。また、癌患者を含む他の患者集団は、ヘモグロビンの低下を経験し、ESA治療から恩恵を受ける可能性がある。
【0004】
ヘモグロビン(Hgb)の値は、貧血の主要な指標である。メディケア&メディケイドサービスセンター(CMS)及び全米腎臓基金(NKF)は、10g/dLと12g/dLの間である、ESRD患者の間のHgb値の目標範囲を確立した。所望の最小値未満のHgb値は、疲労感の増加及びスタミナの減少につながり、ESRD患者の心血管疾患の罹患率及び死亡率が増加する危険因子であると考えられる。10g/dL未満のHgb値をもつ患者は、疲労、並びにスタミナ及び運動耐性の減少、息切れ、食欲の減退、並びにCNS機能の低下、並びにコンプライアンスの低下を含む、貧血の影響に苦しむ。貧血は、赤血球(RBC)の輸血の必要性につながる可能性があるが、細菌及びウイルスの感染、循環血液量の増加、鉄分過剰、並びにさまざまな輸血反応を含む危険を伴う。
【0005】
12.0g/dLを超えるHgb値は、脳卒中及び心筋梗塞などの心血管系イベントの危険、すなわち脳血管及び心血管の死亡率及び罹患率を増加させるものと考えられる。12.0g/dLを超えるHgb値をもつ患者は、血栓症、(効果的な透析療法を損なう)血管アクセス凝固、高血圧症を起こす危険性があり、急性冠症候群又は脳血管障害の危険が増加する。これらの知見は、開業医がESRD患者のヘモグロビン値を10.0〜12.0g/dLの狭い範囲内に試行し維持するように導く、規制及び品質の規格策定につながった。
【0006】
ESRD患者において、並びにヘモグロビンの低下を経験した他の患者集団において、エリスロポエチンの生成を調整する生物物理学的組織は適切に機能しない。ESAは、しばしば、ESRD患者及び他の患者集団の中のヘモグロビン濃度(貧血)を管理するために処方される。ESAの処方には、例えば、ダルベポエチンアルファ(Aranesp(登録商標))又は組み換えヒトエリスロポエチン(rHuEPO)の静脈注射が含まれ得る。ESAの処方を策定するための現行のプロトコルは、目標Hgb値のオーバーシュート及びアンダーシュートのサイクルに患者を従わせるヘモグロビン(Hgb)変動のパターンを作成する。例えば、患者が低いHgbを示すと、Hgb濃度を急速に上げようとして、投薬量は劇的に増加され得る。患者が高いHgbを示すと、(投薬の著しい削減又は投与の差し控えによる)ESA治療の中断がESAの不十分な投薬につながり、その結果、Hgb値のアンダーシュートにつながる。結果は、目標範囲を上回ったり下回ったりするHgb濃度の望ましくない変動になる。高〜低〜高の期間は、完全なサイクルでは9ヶ月かかる可能性がある。Hgb値は、しばしば月毎に計測され、Hgbのサイクルを実質上ごくわずかにする。
【0007】
ESRD患者に対する低いHgb値又は高いHgb値の影響に加えて、Hgb値が所望の範囲内に維持されない場合、透析施設に対する管理上及び財政上の多大な影響がある。例えば、現行のプロトコルは、ESAの処方を患者毎に毎月1回策定することを要求する。Hgb濃度とESA投薬量のどちらの周期的変化によっても、ESA投薬量を見直し調整するために多大な職員の時間が使われる。
【0008】
また、現行のプロトコルは、将来の実際のESAの需要を予測することができず、ESAの在庫管理の困難さにつながる。この不確実性の結果、透析施設は、しばしば大量のESAの在庫を保持する。しかしながら、ESAは比較的高価なので、大量の未使用のESA在庫の保持は、財政上最適ではあり得ない。加えて、メディケア及び/又は他の保険業者は、それぞれ異なる期間患者のHgb濃度が12.0g/dLを超えるとペナルティを課す。これらの拒否は遡って、すなわち、ESAがすでに投与され、透析施設がコストを負担した後、起こる可能性がある。
【0009】
加えて、患者のHgb値は、しばしば監督官庁によって毎月モニタされる。高いHgb値の規則正しいパターンは制裁が適用される原因となり、制裁は、モニタ対象になるコンプライアンス計画の作成、又はコンプライアンスを達成する計画が承認されるまでの透析施設の閉鎖さえも含む可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、本開示は、赤血球生成刺激剤(ESA)の投薬を決定するためのシステム(単数又は複数)及び/又は方法(単数又は複数)を記載する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの例では、本開示は、赤血球が人間の中で生成されるプロセスを表現する生物物理学的シミュレーションエンジンを含むシステムに関し、生物物理学的シミュレーションエンジンは、患者特有の値をもつ複数のパラメータ、並びに、患者特有のヘモグロビン(Hgb)の履歴データ及び対応する赤血球生成刺激剤(ESA)投薬量履歴データを受信し、Hgbデータ及びESA投薬量データを生物物理学的シミュレーションエンジンに適用して複数のパラメータの患者特有の値を推定し、複数のパラメータの患者特有の値に基づいてESAの目標治療量を決定する処理装置を含む。さらに、システムは、目標治療量に基づいて、利用可能な市販薬に滴定された同等の投薬計画を識別する。パラメータには、赤芽球生成率、芽細胞死亡画分、網状赤血球死亡画分、肝臓EPO、RBC平均寿命、EC50、及びセットアップEPOのうちの1つ又は複数が含まれる。或いは、パラメータには、芽細胞形成単位の投入量、コロニー形成単位生存率、網状赤血球生存率、エリスロポエチン受容体乗数、赤血球寿命、及びエリスロポエチンセットアップ比率のうちの1つ又は複数が含まれる。処理装置は最適化アルゴリズムを適用して、複数のパラメータの患者特有の値を推定することができる。
【0012】
別の例では、本開示は、患者特有のヘモグロビン(Hgb)履歴データ及び対応する患者特有の赤血球生成刺激剤(ESA)投薬量履歴データを受信すること、赤血球が人間の中で生成されるプロセスを表現する生物物理学的シミュレーションモデルの複数のパラメータそれぞれの患者特有の値を患者特有のHgb履歴データ及び対応する患者特有のESA投薬量履歴データに基づいて推定すること、及び、結果的に予測されるHgb濃度を目標範囲内に安定させる治療量を複数のパラメータの患者特有の値に基づいて決定することを含む、方法に関する。
【0013】
別の例では、本開示は、記述期間の間取得される患者特有のヘモグロビン(Hgb)履歴データ及び対応する患者特有の赤血球生成刺激剤(ESA)投薬量履歴データを受信すること、赤血球が人間の中で生成されるプロセスを表現する生物物理学的シミュレーションモデルの複数のパラメータそれぞれの患者特有の値を患者特有のHgb履歴データ及び対応する患者特有のESA投薬量履歴データに基づいて推定すること、処方期間の間患者特有のシミュレートされたHgb値を患者特有の値に基づいて決定すること、及び、処方フェーズの間患者特有のシミュレートされたHgb値を目標範囲内に維持するESAの目標治療量を識別することを含む、方法に関する。
【0014】
1つ又は複数の例の詳細は、添付図面及び下記説明の中に明記される。他の特徴及び利点は、説明及び図面から、並びに特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】結果的に患者のHgbを目標濃度に安定させるESAの週間治療量を決定するシステムの例を示すブロック図である。
【0016】
【図2】既存のESA投薬プロトコルの下での患者用のHgb濃度履歴及び経時的なESA投薬量のチャートである。
【0017】
【図3】毎週の治療投薬の下での図2の患者用のHgb濃度及び経時的なESA投薬量のチャートである。
【0018】
【図4】市販の動的モデリングアプリケーションの構成要素の4つの例を示す図である。
【0019】
【図5】生物物理学的シミュレーションエンジンのコアモデルを示す図である。
【0020】
【図6】生物物理学的シミュレーションエンジンの中で使用される7個のパラメータのうちの5個の構成を示す図である。
【0021】
【図7】生物物理学的シミュレーションエンジンの中で使用される7個のパラメータのうちの2個である、肝臓EPO及びセットアップEPO比率の構成を示す図である。
【0022】
【図8】モデルパラメータの使用を制御する、生物物理学的シミュレーションモデルのユーザインタフェースの一部の画面コピーを含む図である。
【0023】
【図9】生物物理学的シミュレーションモデルの、部分モンテカルロシミュレーションを制御する部分の画面コピーである。
【0024】
【図10】生物物理学的シミュレーションモデルの例の中で任意で使用される、患者特有の出血を指定するために使用される画面コピーである。
【0025】
【図11】特定の患者の週間治療量と結果的に得られた定常状態のHgb値との関係を示すグラフである。
【0026】
【図12】週間治療量と特定の投薬計画との関係を示すグラフを、投薬計画を指定するために使用される装置の画面コピーとともに含む合成図である。
【0027】
【図13】本明細書に記載されたESA投薬技法がESA治療を受けるESRD患者のために安定的なHgb濃度を達成し維持するプロセスの例を示す図である。
【0028】
【図14】選択された変数を表示する経時的挙動チャートの画面コピーである。
【0029】
【図15】記述フェーズ用の曲線適合結果の例を示すグラフである。
【0030】
【図16】週間治療量(WTD)の計算結果の例を示すグラフである。
【0031】
【図17A】プロセッサが、結果的にHgbを目標濃度に安定させる週間治療量(WTD)を決定し、患者の反応をモニタするプロセスの例を示す流れ図である。
【図17B】プロセッサが、結果的にHgbを目標濃度に安定させる週間治療量(WTD)を決定し、患者の反応をモニタするプロセスの例を示す流れ図である。
【0032】
【図18】個別の患者パラメータが決定され得るプロセスの例を示す流れ図である。
【0033】
【図19】週間治療量(WTD)が決定され得るプロセスの例を示す流れ図である。
【0034】
【図20】ESA投薬システムの別の例を示すブロック図である。
【0035】
【図21】ESA投薬システムのデータ収集/管理コンポーネントの一部を示す図の例である。
【0036】
【図22】患者のヘモグロビン履歴データに最も適合する患者特有のパラメータ値を決定する、モンテカルロシミュレーションの例のためのセットアップを示す図である。
【図23】患者のヘモグロビン履歴データに最も適合する患者特有のパラメータ値を決定する、モンテカルロシミュレーションの例のためのセットアップを示す図である。
【0037】
【図24】モンテカルロシミュレーションの1回の実行における平均平方誤差(MSE)の計算例を表す図である。
【0038】
【図25】シミュレートされた投薬量と同等な処方計画に基づく処方間隔で投与されたAranespの量の例を表す図である。
【0039】
【図26】推奨Aranesp処方計画を規定するために使用することができる一組の変数の可能な例を表す図である。
【0040】
【図27】循環Aranesp濃度の決定の例を表す図である。
【0041】
【図28】シミュレートされた投薬量と同等な推奨処方計画に基づく処方間隔で投与されたEpogenの量の例を表す図である。
【0042】
【図29】Epogen処方計画を規定するために使用することができる一組の変数の可能な例を表す図である。
【0043】
【図30】循環Epogen濃度の決定の例を表す図である。
【0044】
【図31】EpogenとAranespを結合するためのEPOR(エリスロポエチン受容体)の例を示す図である。
【0045】
【図32】骨髄の中で網状赤血球を生成するモデルの例を示す図である。
【0046】
【図33】循環中の赤血球の総数をシミュレートするモデルの例の図である。
【0047】
【図34】ユーザがESA投薬システムのさまざまな態様と相互作用し、且つ/又はさまざまな態様を制御することができるユーザインタフェースの例である。
【0048】
【図35】Hgb濃度履歴、ESA投薬量履歴、並びに、患者のプレ記述セットアップ期間、記述期間及び処方期間にシミュレートされたHgb濃度を表示するグラフの例である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本開示は、一般に、患者特有の赤血球生成刺激剤(ESA)投薬計画を設計するシステム及び/又は方法に関する。本明細書に記載されたESA投薬のシステム及び/又は方法は、ESA治療を受ける患者のために適切なHgb値を達成し持続させる患者特有のESA投薬を、結果的に決定することができる。
【0050】
本明細書に記載されたESA投薬技法は、いかなる利用可能なESA治療においても患者特有のESA投薬を決定するために使用することができる。これらのESAには、エリスロポエチン、エポエチンアルファ(Procrit(登録商標)、Epogen(登録商標)、Eprex(登録商標))、エポエチンベータ、ダルベポエチンアルファ(Aranesp(登録商標))、メトキシポリエチレングリコールエポエチンベータ、ダイネポ、シャンポエチン、ジロップ、ベータポエチンなどが含まれ得るが、それらに限定されない。
【0051】
加えて、本明細書に記載されたESA投薬技法は、また、例えば、末期腎疾患(ESRD)患者、慢性腎疾患(CKD)患者、癌治療患者、又はHIV感染に続発する貧血などのESA療法から恩恵を受ける可能性があるヘモグロビン生成が不十分なその他の患者集団を含む、多種多様の患者集団に適用可能である。加えて、本明細書に記載されたESA投薬技法は、また、静脈内(IV)投与、皮下投与、経口投与、生物ポンプ、埋め込み式薬物投与装置などを含む、ESA治療薬投与の複数の方式に適用可能であり得る。
【0052】
ここ数年、ESRD患者の最適なHgb目標値に関する多くの論争、並びにHgb値の変動の影響についての論争があった。現在利用可能な臨床データに基づいて、Hgbの目標値は10グラム/デシリットル(g/dL)と12g/dLの間のどこかであるべきであり、ほぼ確実な所望の最適範囲は11.0〜12.0g/dLであることに幅広い合意がある。また、安定的なHgb値は広く変動するHgb値よりも患者の幸福に貢献するという合意が高まっている。本明細書に記載されたシステムによって、医療提供者が彼らの患者の大多数のためにHgb値を目標範囲内に確立し維持する投薬計画を識別することが可能になる。
【0053】
システムは、ESA治療に対する患者の反応履歴に基づいて、利用可能な市販薬に滴定された投薬計画に変換することができる目標投薬濃度を決定する、患者特有の生物物理学的シミュレーションモデルを含む。そのように取得された投薬計画は、同時に適切で安定的なHgb値を長期間達成し持続して、並びに(一般にHgbサイクリングとして知られている)Hgb変動を最小化又は解消するように構成することができる。また、投与されたESAの総量(及びコスト)は削減又は最小化することができる。患者の全体的な病状が安定している場合、本明細書に記載された技法を使用して、Hgb値は所与の目標濃度で安定しているように見られた。患者の根本的な病状が変わる場合、システムは、最短時間でHgb値を所望の目標濃度に回復させることができる新しい目標投薬濃度を確立するために使用することができる診断システムを含む。
【0054】
一部の例では、システム/方法は、投薬濃度及び投薬頻度を含む、推奨された静脈内(IV)ESA投薬計画を作成する。医療提供者は、サポート職員の時間の効果的及び効率的な使用を可能にすることで、ESA投与の頻度を調整することができる。
【0055】
図1は、結果的に患者のHgbを目標濃度に安定させるESAの週間治療量を決定するシステム10の例を示すブロック図である。システム10は、処理装置20、並びにデータ処理ツールと管理ツールの組合せを含む。例えば、システム10は、赤血球(RBC)の生成(HgbはRBCの内部に含まれるので、RBCの生成及びヘモグロビンの生成はこのドキュメント内で区別なく使用される)を予測する生物物理学的シミュレーションエンジン24、ESA処方ツール26、患者データ管理ツール28、結果追跡ツール30、レポーティングツール32、及び、指示された治療に対する調整によって適切で安定的なHgb値を維持するための変更管理ツール34を含む。ユーザインタフェース22によって、1人又は複数のユーザが患者の履歴データを(手動又は電子的手段により)入力し、ツールを実行し、結果を閲覧し操作することが可能になる。
【0056】
システム10の目的は、医療提供者が、既存のプロトコルによって特徴的に作成された患者用のHgb値の中の変動の作成を回避し、目標のHgb範囲内に安定したHgb濃度を提供するESA投薬方針の策定を助けることである。
【0057】
ESRDの患者は、ホルモンのエリスロポエチン(内生ESA)が欠乏し、結果的に彼らは重い貧血症である。貧血(ヘモグロビン<10.0g/dL)は、ESRD患者が死亡する場合の危険因子であり、貧血の患者は貧血でない患者よりも生活の質が劣っている。また、ESAを受けている患者は、彼らのヘモグロビンが12.0g/dLを超えると、心血管系イベント(脳卒中、心筋梗塞)の危険が増加する。これらの知見は、開業医がESRD患者のヘモグロビン値を10.0〜12.0g/dLの範囲内に試行し維持するように導く、規制及び品質の規格策定につながった。加えて、CKD患者、癌治療患者、及びESA治療から恩恵を受ける他の患者を含む他の患者集団もESA治療を受けることができ、また、ESA投薬システム10は上記その他の患者集団に適用可能であることが理解されよう。したがって、この説明の一部が特にESRD又はCKDの患者に言及しても、ESA投薬システム10及びその中に実装された技法は、他の患者集団にも適用可能であることが理解されよう。
【0058】
ESA治療に対する患者特有の反応は、全身鉄分蓄積状況、細胞外容積体液状態、炎症、残存する腎臓の機能、出血、及び、ESRD患者の中のESA治療効果における変化を含むさまざまな因子に依存する。
【0059】
ESA治療を必要とするESRD患者の大多数は、現在、1985年に慢性腎不全の患者における貧血治療のためにFDAが認可したrHuEPO、又は、2001年にFDAが認可したダルベポエチンアルファ(Aranesp(登録商標))の2つの製剤のうちの1つを受けている。rHuEPOは、平均半減期が5から7時間であり、迅速な投与を必要とする。ダルベポエチンアルファは、25から27時間のより長い半減期をもつように設計された。シミュレーションエンジンの例は、ダルベポエチンアルファに対する患者の反応をモニタするように設計された。しかしながら、シミュレーションエンジンに対する調整は、rHuEPOからダルベポエチンアルファ、又は他のESA治療への移行段階において、同様のシミュレーションがrHuEPOを受ける患者のために実行されることを可能にする。
【0060】
その長い半減期が原因で、ダルベポエチンアルファを完全に除去するのに約5日を必要とする。これによって、医療提供者が薬物をそれほど頻繁に処方する必要がなくなる。しかし、ダルベポエチンアルファの延長された半減期は、赤血球の動態と相まって、混乱する生理学的影響の一因となる。ダルベポエチンアルファの投与後、RBCの生成は26日間まで拡張される。この遅延は、処方の設計に織り込まれていない場合、Hgbの変動を引き起こす。医療提供者が既存のプロトコルに従って適切で安定的なHgb濃度を再確立するように試みるとき、患者がHgbの「オーバーシュート」及び「アンダーシュート」の12〜18箇月を経験することは珍しいことではない。
【0061】
図2は、2007年5月から2008年12月の期間、既存のESAプロトコルに従って生成された、ESRD患者用の実際に変動しているHgbパターンの例を示すグラフである。図2は、(曲線52によって表された)ESA投薬量と(曲線50によって表された)Hgbの計測値との間の遅延反応を示す。遅延反応は、医療提供者が最新のHgb値のみを考慮すると、適切な投薬量を識別することを困難にする。加えて、上述したように、ESA治療に対する反応はきわめて患者特有であり、より大きな集団に一般化することはできない。このケースは、ダルベポエチンアルファを受ける透析中のESRD患者の間で観察された通常のパターンである。
【0062】
システムは、患者のHgb値を生成するすべての因子を含む動作可能な手法を使用する。本明細書に記載されたシステム並びに関連するプロセス及びモデルは、医療提供者がHgbの変動を解消し、目標濃度以内の適切で安定的なHgb値を達成する、ESA治療を設計する助けになる。
【0063】
図3は、「記述期間」と「処方期間」の両方の期間の、図2のESRD患者用のHgb濃度及び経時的なESA投薬量のチャートである。図3では、2008年3月1日と2009年1月11日の間の期間が「記述期間」として定義される。記述期間は、モニタされた実際のHgb濃度(曲線50)及び経時的なESA投薬量(曲線52)を含む、特定のESRD患者用の履歴データを含む。記述期間中に収集されたデータは、ESA治療に対するESRD患者の反応を定義する(この例では)7個の患者特有のパラメータ用の値を計算する、生物物理学的シミュレーションの中で使用される。生物物理学的シミュレーションは、(曲線54によって表される)シミュレートされた記述Hgb値が記述期間中の実際のHgb値の履歴に、指定されたエラーを伴って適合するように、これらの患者特有のパラメータを計算する。次いで、患者特有のパラメータ値は、「処方期間」の間、ESA処方のための基準として使用される。処方期間は、その間に推奨処方(数ある中でも処方される特定のESAに応じて、診療毎の治療量又は週間治療量(WTD)であり得る治療量)が設計されるシミュレーション用に、Hgb値を目標範囲内に安定させる投薬計画を決定する目的で選択された期間である。この例では、処方期間は2009年1月から2009年6月までである。図3は、図2の患者用に最適化されたESA投薬量を使用して取得された(曲線56によって表される)シミュレートされた処方Hgb値を示す。図3は、最適化されたESA投薬量が、処方期間の間、目標範囲内に適切で安定的なHgb濃度を作成したことを示す。
【0064】
その長い半減期が原因で、ダルベポエチンアルファを血清から完全に除去するのに約5日を必要とし、薬理作用の期間が延長される。これによって、医療提供者が薬物をそれほど頻繁に処方する必要がなくなる。しかし、ダルベポエチンアルファの延長された半減期は、赤血球の動態と相まって、生理学的影響をもたらす。ダルベポエチンアルファの投与後、RBCの生成は26日間まで拡張される。この遅延は、処方の設計に織り込まれていない場合、Hgbサイクリングを引き起こす。医療提供者が既存のプロトコルに従って適切で安定的なHgb濃度を再確立するように試みるとき、患者がHgbの「オーバーシュート」及び「アンダーシュート」の12〜18箇月を経験することは珍しいことではない。システムは、目標投薬濃度の確立、投薬計画の設計支援、及び、経時的な結果のモニタリングにより、赤血球生成プロセスにおけるフィードバック及び遅延の責任を負う。
【0065】
現行方式では、しばしば、投与コストを削減するために、投与頻度を減少させることが望ましい。例えば、患者が隔週の投薬から毎月の投薬に切り換えられると、現行方式では投薬量を2倍にし、次いで、現行のプロトコルを使用して最適な計画を求める。これはHgbサイクリングの潜在的な繰り返しを招く。しかしながら、投与頻度を2分の1に減少させることは以前の投薬量の2倍をはるかに超える投薬量を必要とすることが、本明細書に記載された生物学的シミュレーション技法を使用して発見された。そのような頻度の減少が他の点で望ましい場合、システムは適切なHgb値を持続させるために必要な投薬量の識別を可能にする。他の例では、システムは、最適な投薬量を伴う投与頻度の増加が、投与コストの増加にかかわらず、必要な薬物の量が著しく減少することにより総コストを削減することができると判定する場合がある。
【0066】
ここに記載された生物学的シミュレーション技法は、動的モデリングを利用する。動的モデリングは枠組みであって、言語及び一組の概念から構成される。これらは、動的システム(例えば、赤血球生成)がどのように働くか、どのように経時的に機能するか、(ESA投与などの)投入にどのように反応するかを、表現、理解、説明及び改良するためのプロセスの中に組み込まれる。
【0067】
Isee Systems,Inc.から入手できるiThink(登録商標)、Isee Systems,Inc.から入手できるStella(登録商標)、Ventana Systems,Inc.から入手できるVensim(登録商標)、Powersim Software ASから入手できるPowersim Studio 8、カリフォルニア大学バークレー校のロバート・マッケイ及びジョージ・オスターによって開発されたBerkeley Madonna(商標)、並びに他の市販のソフトウェアパッケージを含む、動的モデルを作成しシミュレートするために利用できるいくつかの商用パッケージが存在する。本明細書に記載された例は、iThinkバージョン9.3を使用して実装され、本明細書で提供された例は、iThinkの構文及び規約を使用して記載される。しかしながら、本明細書に記載された特定の実装形態は、生物学的シミュレーションモデルがどのように実装することができるかの1つの例であり、同等のモデルは、前述の市販パッケージそれぞれにおいて、他の市販のパッケージにおいて、カスタマイズされたソフトウェアパッケージにおいて、又は、特定用途向けのソフトウェアプログラム及び/若しくはシステムにおいて構成することができ、本開示はこの点において限定されないことが理解されよう。
【0068】
モデルは、RBC連鎖の動態に関する疑問についてESAの薬物動態学と薬力学の間に存在する動的結合を管理する。さらに、モデルは、個体レベルとグループレベルのどちらでも効果的なESRDの貧血管理を可能にする、データ処理システムの中に組み込むことができる。
【0069】
図4は、選択された市販パッケージ(この例ではiThink)の中で使用される構文の4つの構成要素を示す。ストック(301)はある時点での総RBC数などの蓄積を表す。フロー(302)は経時的な流速を表す。図4は、それぞれ1日に作成されたRBC及び1日に破壊されたRBCなどの、インフロー及びアウトフローの2つのフローを含む。ストック及びフローの値は、シミュレーションの中の各時点で、ユーザ提供の数学的表現を使用して評価される。コンバータ(303)は、定数のように簡単か、又は、汎用サブシステムの集合体のように複雑であり得る、数学的表現を表し含む。コネクタ(304)は、図式的と数学的の両方でモデルの中の変数間の関係を示す。クラウドアイコン(305)はモデルの境界を表す。モデル設計に必要なすべての数学的関係が記述されると、モデル化された組織の挙動は一定期間シミュレートすることができる。このシミュレーションは、シミュレーション期間の初めから終わりまで組織の現在の状態を、選択された時間増分である、DTと呼ばれるデルタtを使用して段階的及び増分的に算出することによって実行される。さまざまな変数(例えば、RBC数及びHgb値)の動的挙動を観察することにより、モデルのユーザは、彼らの赤血球生成がどのように機能するかの理解を確認又は洗練し、シミュレートされた挙動が既知のデータに効果的に適合するまで、引き続きモデルの改良版を作成することができる。
【0070】
図5は、生物物理学的シミュレーションモデルの例を示す図である。モデルは、個別の患者用の経時的なダルベポエチンアルファの濃度とHgb値の間の関係をシミュレートする。他の例では、モデルは、他のESAの濃度とHgb値の間の関係をシミュレートすることができる。
【0071】
図6は、生物物理学的シミュレーションモデルの中で使用される7個のパラメータのうちの5個である、千万単位の赤芽球生成数(609)、ベースライン芽細胞死亡画分(610)、ベースライン網状赤血球死亡画分(611)、EC50(607)、及び平均生存期間(606)の構成を示す図である。図6は、ベースライン芽細胞死亡画分(610)に関して、図5が芽細胞死亡画分(404)の説明の中で提供されたよりも詳しい説明を提供することに留意されたい。一方、図6において、アイコンAranesp濃度(612)は、図5で示された詳細のすべてである、Aranesp投薬及び薬物動態(412)を表す。図6の目的は、生物物理学的シミュレーションモデルこの例において、上に列記された5つのパラメータの構成を示すことである。
【0072】
モデルの例を構築するプロセスは、主題の専門家に相談して選択された変数がどのように関係するかを学び、次いで、これらの関係を選ばれた構文で特定のモデルに変換することであった。モデルの目的を達成するために必要な集約/分離のレベルに関するさまざまな決定が、モデル構築プロセスの中でなされた。他の例では、集約/分離のレベルは、異なる生物物理学的挙動を経時的に表しながら、同じ目的を達成するために修正することができる。
【0073】
モデル構築プロセスは、モデルの目的と一致するモデルの境界に関する決定を含む。これはモデルの拡張性の確立と呼ばれる。モデルの他の例は、下記に記載するようにモデルの拡張性に対する変更を含むことができる。
【0074】
図5に関して記載されたモデルの具体例は、以下の境界を含む。骨髄の中の前駆細胞の動態は除外される。除去されたRBCの影響は除外される。組織酸素化は除外される。鉄代謝は除外される。モデルは鉄分が十分な患者のHgbの反応特性をシミュレートすることを目的とする。血漿液は除外される。しかしながら、図20〜35に関して図示及び記載されるモデルなどの、モデルの他の例では、これらの因子の1つ又は複数が考慮されることが理解されよう。例えば、モデルの他の例は、血漿液、及び、しばしばHgb値の代わりに使用される測定値であるヘマトクリット値のシミュレーションを含むことができる。ESA治療に対する個別の患者の反応をシミュレートする基本目的を維持しながら、これらの境界の一部若しくは全部、又は関連する境界を含むことができる。加えて、モデルは、また、鉄分が十分でない患者の中のHgb反応特性のシミュレーションを含むことができる。
【0075】
通常、いわゆる従属変数に関係する因子の科学的研究において、相関関係、変動解析、主成分などのさまざまな研究を行う。しかしながら、動的モデルのパラメータは識別され、静的な研究とは異なる使われ方をする。動的モデルの境界が定義されると、パラメータはモデルへの外生投入量を表現する。動的モデルのパラメータは、操作変数を(一般に、内生モデル変数も)表現し、操作変数の中でシミュレートされる動作の原因となる因子を表現する。例として、パラメータ赤芽球生成率(EPR)は、生物学的シミュレーションモデルに対する1つのパラメータである。このパラメータは、赤芽球が1日に作成される比率を表現する。このパラメータ値は、RBC数に関係するだけでなく、他のすべてのパラメータに等しく関係し、EPRの所与の値は、ある特定の数のRBCが存在する原因となる。パラメータは、定数、又は、外部サブシステムの集合体を表す複雑な数学的表現であり得ることに留意されたい。動的モデル用に選択され定義されたパラメータは、モデルの境界の定義に依存することに留意されたい。
【0076】
システムは、目標とされる投薬計画を開発し、次いで、Hgbの変動を削減又は回避する、等しく目標とされた反応を可能とする、ESA治療に対する患者の反応の中の変化を予測する。結果は、より多くのESA治療患者が10.0〜12.0g/dLの所望の範囲内、又は11.0〜12.0g/dL以内に維持されたヘモグロビン値を有することであり得る。
【0077】
モデリングプロセスは、赤血球(ヘモグロビン)値を調整する内生生理学的因子だけでなく、適切で安定的なHgb濃度を達成し維持するために患者も考慮に入れる。このモデルは、個別の患者毎に特有であり、貧血管理の患者特有の構成要素を含めることができる。
【0078】
表1は、この例で利用される7個の患者特有のパラメータを列記し、それぞれの定義を提供し、モデルのこの例の中で使用されるデフォルトの最小値及び最大値の例を説明する。代替例は異なるパラメータセットを使用する可能性があるし、それでもまだ、さまざまな投薬計画に対するHgb反応の動態を表現する可能性がある。
【表1】

【0079】
赤芽球生成率(EPR)は、骨髄内部で、しかしモデルのこの例の境界の外側で、1日に作成された赤芽球の数を表す。図5は、EPR(403)が成熟赤芽球(401)を蓄積するコンベアへのインフローであることを示す。この例では、EPRの値は固定されている。代替例は、EPR用の時間的に変化する値を含むことができる。さらに他の例は、パラメータを、定数、複雑な数学的表現、又は、他のモデルの変数若しくはパラメータに依存する変数であり得る内生モデル変数に変えて包含することができる。モデルの代替例に関するこれらの解説は、下記に記載されるパラメータそれぞれに同じように良く適合する。EPR値の通常の範囲は、例えば、血液学における主題の専門家から得られた。
【0080】
芽細胞死亡率という名前の漏出フロー(図6の602)は、毎日プログラムされた細胞死を通過する成熟赤芽球の画分を表す。下記に記載されるその他のパラメータだけでなく、この画分の通常範囲は、血液学における主題の専門家から得られた。当技術分野における一般的な誤解は、ESAが骨髄における赤芽球の生成を、又は図6におけるように赤芽球生成を千万単位で(609)向上させるというものである。ESAは赤芽球生成を刺激するが、出願人は、ESAの比較的より重要な効果が、成熟赤芽球が生存する画分を大きくし、したがってより多くのRBCを生成して、他のすべての因子が等しくなる、(下記に記載される他の因子だけでなく)芽細胞死亡画分(602)の抑制であることを識別した。モデルのこの例では、ダルベポエチンアルファは、前駆細胞の生存率を高めることにより、RBC生成を刺激する。図6は、特に、モデルのこの例がこの関連でどのように機能するかを示す。(図5に比べて)詳細を表した図6は、実際のモデルパラメータとしてベースライン芽細胞死亡画分(610)を提供する。芽細胞死亡画分(601)は、変数Aranesp画分効果(605)によって調整された、ベースライン芽細胞死亡画分(610)の値によって決定される値である。モデルの代替例では、Aranesp画分効果(605)は、ESA画分効果と命名され(且つ数学的に正しく変更され)、したがって同様に機能するESAの異なるタイプを表現する。
【0081】
網状赤血球死亡画分(RMF)はBMFに作用が似ている。モデルのこの例では、ダルベポエチンアルファは、骨髄の中の網状赤血球の生存率を高めることにより、RBC生成を刺激する。図6は、特に、モデルの例のこの態様がどのように機能するかを示す。パラメータはより正確にベースライン網状赤血球死亡画分(603)と命名される。RMF(604)は、モデルの代替例ではESA画分効果と命名され得る、したがって同様に機能する異なるタイプのESAに適合する、Aranesp画分効果(605)と命名された変数によって調整されるベースライン網状赤血球死亡画分(603)の組合せによって決定される。モデルのこの例では、変数Aranesp画分効果(605)は、BMFとRMFのどちらにとっても同じであることに留意されたい。他の例では、BMF及びRMFと比べてAranesp画分効果用の異なる値を使用することができる。
【0082】
肝臓EPOが図7(701)に示される。肝臓EPOは肝臓によって生成された内生エポエチンの一形態である。下記に説明するように、パラメータ肝臓EPOは、ESAの血清濃度へのいくつかの投入物の1つである。最初は外生のモデルパラメータとして思い描かれるが、モデルのこの例を経験して、医学文献から明らかになった以下のことを確認した。肝臓EPOの影響は投与されたダルベポエチンアルファの影響と比べて不十分である。したがって、この例では、肝臓EPOのパラメータは一律ゼロに固定される。モデルの他の例は、肝臓EPO用のゼロでない値を含むことができる。
【0083】
RBCの平均寿命は、モデルのこの例のためのパラメータとして含まれる。健康な個体では、RBCの寿命は約120日であるが、透析中のESRD患者の場合、RBCの寿命は継続時間でより短いことが知られている。RBC平均寿命は図6の中で平均生存期間(606)と命名される。モデルの代替例は、異なる成熟度のRBC用のさまざまなRBC死亡率を考慮して、RBCの寿命をさまざまに表すことができる。
【0084】
実際には、薬物のEC50は、所与の期間ベースライン反応と最大反応の間の中間の反応を生み出す濃度である。通常、薬効の測定値、このパラメータはモデルのこの例の中で、EPO抵抗値として当技術分野で知られているものの測定値として、さまざまに使用される。炎症、感染、及びESA抗体の存在などの、さまざまな病状は、ESA治療に対する個別の患者の反応を減少させる可能性がある。モデルのこの例は、EPO抵抗値の単一の測定値を使用する。代替例は、改良されたシミュレーションを潜在的に作成することができるEPO抵抗の各原因用に別個の値を使用することができる。図6(骨髄)は、モデルの中でどのようにEC50(607)が構成されるかを示す。Aranesp画分効果(605)を評価するために使用される数学的表現は、EC50(607)に関連する因子を含む。
【0085】
上記に説明したように、RBC連鎖は、RBC細胞の12個のいわゆるビンの配列として、モデルのこの例の中で表される。シミュレーションのセットアップフェーズと命名される初期フェーズにおいて、定常状態のRBC数が12個のビンそれぞれの中で確立され、シミュレーションの第2フェーズである記述フェーズにおける個別の患者用の最初の実際のHgb値に対応する。(記述フェーズは下記に記載される。)定常状態のRBC数を確立するために、モデルのこの例は、外部から投与された投薬量に数学的に同等のものが提供される。図6は、パラメータのセットアップEPO比率(702)が、この結果を獲得するために、モデルのこの例の中でどのように構成されるかを示す。下記に記載されるように、セットアップEPO比率(702)は、シミュレーションのセットアップフェーズの間効力があり、その値は、シミュレーションの次の記述フェーズ及び処方フェーズの間ゼロに減少する。
【0086】
下記に記載されるように、モデルのユーザ、又はモデルが統合されたソフトウェアシステムは、患者特有のパラメータ値の最初の推定値を策定する。パラメータ値の最初の推定値は、生物物理学的シミュレーションエンジンへのインタフェースを使用して、手動で調整することができる。図8は、この例の中のパラメータ値の手動操作を可能にする、ユーザインタフェースの一部を描写する。インタフェースは、所与のシミュレーションがパラメータ値の最初の推定値又は手動で変更された推定値を使用することができるように、構築される。図8において、チルド記号(310)はオフの位置にあり、値73.8(311)が最初のパラメータ値の推定値に対する置換としてシミュレーションの中に適用されることを示す。表現「eqn on」(312)は、最初の推定値が対応するパラメータ値として使用されることを示す。
【0087】
選択された市販のシミュレーションパッケージ又は上に列記されたその他のうちの任意のパッケージを使用して表現される動的モデルは、選択された変数、モデルの境界、外生のパラメータ値、シミュレートされる期間、及び、シミュレーション用に使用する時間増分(DT)の中のその集合度によって定義される。そのように表現されたモデルは、相関関係は除外して、その構成要素の間の提案された原因関係をシミュレートする。したがって、そのように定義されたモデルは、研究所の中で試験し、確認し、洗練することができる、組織の動的挙動の理論を表現する。動的モデリングのプロセスは、しばしば、提案された動的仮説の特定のモデルを使用したシミュレーション及び試験、並びに、動的仮説の試験及び検証、続いて、モデル性能を改善するための任意のモデル構成要素に対する変更を含む。動的モデリングは、研究中の、この場合ダルベポエチンアルファを受ける透析中の鉄分が十分なESRD患者用の赤血球生成の動的システムのシミュレーションを改良するために、組織の動態を表現し、理解し、説明する、反復型プロセスである。下記に提示される特許請求の範囲の範囲は、本明細書に記載され、且つ将来の例で発展することができるモデルの例のすべての繰り返しを含む。
【0088】
再び図5に示したコアモデルの例を参照すると、コアモデルの一部ではない全体としてのモデルの構成要素は、一般に、コアモデル内にある構成要素の値について通知し、制御し、報告する構成要素である。適切な患者特有のパラメータ値及び投薬計画(409)が与えられると、コアモデルは総RBC数(410)の観点から個別の患者の反応をシミュレートする。次いで、総RBC数はHgb値に変換される。モデルの代替例では、末梢網状赤血球(411)の寄与は、Hgb値の計算の中に含むことができる。血漿液を含むためのモデルの境界の拡張は、Hgbに加えてヘモトクリットの値についての報告を可能にする。
【0089】
図5は、前に記載されていない2つの構文項目、すなわちコンベア(例えば401)及びストックアレイ(402)を含む。コンベアは、1つのインフロー及び2つまでのアウトフローをもつ専用ストックである。コンベアは、コンベアに流入する量が指定されたコンベア経過時間の後、入るときと同じ順序でコンベアを出る、先入れ先出しルールに従う。また、アウトフロー及びコンベアの内容物は、漏出フローと命名された、第2の任意のアウトフローによって修正することができる。漏出フローを通るフローの比率は、DTの各時間増分でのインフローの画分として指定される。ストックアレイ(402)は、この例で実装されたように、シーケンスの中の第1のストックのアウトフローが第2のストックへのインフローになる、などの12個のストックのシーケンスである。図5の中のコアモデルは、RBCを12個の連続ストックとして表す。アレイの中の第1のストックは、時間定数(408)を12で割った値から1日古いRBCを表す。アレイの中の次にくるストックは、時間定数(408)によって決定されるように、それに応じて古い成熟度のRBCを表す。
【0090】
表2は、表1に列記された7個の患者特有のパラメータと図5に示された変数との間の対応関係を列記する。
【表2】

【0091】
以下は、市販のモデリングアプリケーション(この例では、Isee Systems,Inc.から入手できるiThink(登録商標))の構文の中で表現された、図5〜図7に示されたモデルの例のための例示的な計算式である。計算式は、特定の患者用のモデル変数間の関係を表現する。また、コアモデル変数用の定義が示され、それらの一部は図5に示されていない。iThink(登録商標)を使用する実装形態の例が示されるが、本明細書に記載されたESA投薬技法は、また、他の市販又はカスタマイズされたソフトウェアアプリケーションを使用して実装できることが理解されよう。
【0092】









【0093】
上述の計算式を使用して実行されたシミュレーションは、それぞれの(微分係数を表す)インフロー及びアウトフローによって決定される、選択された(積分を表す)ストックの中の蓄積を表現する一組の微分方程式に対する解答の数値近似をもたらす。特に、このモデルのユーザは、個別の患者用に、Hgb値の履歴、ダルベポエチンアルファ投薬量の履歴、シミュレートされる時間間隔、及び時間増分DTを与える。シミュレーションは(下記に記載される)簡略最適化ルーチンに組み込まれ、次いで、患者の現在の病状が比較的変化しないかぎり所望のHgb値を取得する目標投薬濃度及び関連投薬計画をユーザが決定することを可能にする。
【0094】
1つの例では、生物物理学的シミュレーションモデルは、パラメータ値を推定するためにモンテカルロ方法の適用を採用することができる。しかしながら、他の非線形最適化ルーチンも使用することができ、本開示がこの点で限定されないことが理解されよう。図9は、集合の中の最良適合が(モデルに対する)外部の処理によって選ぶことができる、シミュレーションの実行に関連するパラメータ値の集合を生成する構造(501)を提示する。ユーザ、又は、その中にモデルが統合されたソフトウェアシステムは、シミュレーション番号(502)と命名されたコンバータに値を与えることにより、シミュレーションの実行回数を指定する。部分モンテカルロスイッチ(503)と命名されたコンバータは、シミュレータのモード、単一のシミュレーション又は複数のシミュレーション、を制御するオンオフスイッチである。モンテカルロスイッチはモデルパラメータ毎に複製され(508)、それぞれの制御コンバータ(506)に、単一のシミュレーションの場合のCALCコンバータ(507)の中の値、又は、部分モンテカルロスイッチ(503)がオンの位置にある場合のそれぞれのストック(505)の中の値のうち、どのパラメータ値が所与のシミュレーションの中で使用されるかを通知する。部分モンテカルロシミュレーションによって生成されたパラメータ値の集合は、市販の表計算ソフトウェアにエクスポートすることができる。表計算ソフトウェアは、下記に記載されるように、シミュレーションの記述フェーズの間シミュレートされたHgb値と患者の履歴値との間の最良適合を作るパラメータ値のセットを選択するために使用することができる。次いで、選択されたパラメータ値は、下記に記載されるように、シミュレーションの処方フェーズの中のさらなる処理及び使用のために、モデルに再インポートすることができる。或いは、完全自動化ソフトウェアシステムは、これらのタスクを実行することができる。その場合、データは外部のソフトウェアアプリケーションにエクスポートされる必要はない。モデル(501)内のモンテカルロ構造の代替例、最良適合選択の方法、並びに、モデルからエクスポートされるデータ及びモデルにインポートされるデータの移動は、完全自動化ソフトウェアシステムを含むさまざまな方法によって実行することができる。すべては、これらの値又は他のパラメータ値を識別し、次いで、所望の投薬計画につながる(下記に記載される)週間治療量を見つけるためにパラメータを使用するという、同じ目的を達成する。
【0095】
この例では、モンテカルロ方法の100回以下のシミュレーションが最適値を選ぶためであり得る。しかしながら、モデルの代替例では、一千回又は一万回のシミュレーションが妥当な時間内に実行され、7個のパラメータそれぞれの配分をより完全に評価することが可能になる。さらに、モデルのこの例は唯一のソリューションを提供することはできない。高いEPR、BMF及びRMFをもつ患者用と同じ提案された投薬計画が、低いEPR、BMF及びRMFをもつ1人の患者用に策定される。モデルの代替例は、患者を第1のタイプ又は第2のタイプに潜在的に選別することを可能にする。しかしながら、実際には、提案された投薬計画は、唯一ではないがきわめて十分であり、結果的に60%から90%以上のDCFの患者が目標範囲内のHgb値を達成し持続する。
【0096】
各シミュレーションは、セットアップ、記述、及び処方の3つのフェーズで実行される。各フェーズは、特定の数の日数によって定義される。下記に記載されるように、セットアップフェーズはDay−200からDay1まで及び、記述フェーズは(分析者によって選ばれるか、又は自動化ソフトウェアシステムによって自動的に選ばれた)患者の第1のHgb値履歴に関連する日の番号から、ごく最近の利用可能なHgb値又は処方されたダルベポエチンアルファ投薬量に関連する日の番号まで及ぶ。処方フェーズは、最初の投薬の日付(一般的には記述フェーズの終わりから1週間後)のシミュレーション日の番号から、提案された投薬計画が、選択されたパラメータ値が与えられると所望の目標値で安定したシミュレートされたHgb値を作るシミュレーション日の番号まで及ぶ。各フェーズの範囲は、シミュレーションの2つのモードである、ランダムなパラメータ値及び関連するシミュレートされたHgb値の集合を生成するモンテカルロモード、並びに、提案された投薬計画が策定又は変更される単一シミュレーションモードについて同一である。
【0097】
個別の患者にとって、記述フェーズは、記述フェーズの間にわたる投薬量履歴に応じた履歴観察されたHgb値に適合する、シミュレートされたHgb値を作るパラメータ値のセットを選択するために使用される。パラメータ値(例えば、ベースライン前駆細胞投入量、ダルベポエチンアルファなしの場合のベースライン前駆細胞死亡率、ダルベポエチンアルファのEC50、提供された保護レベル、及び循環RBCの寿命)の結合セットが存在する。このフェーズは、患者の「病態生理学的状態」及び薬物への患者の感度を定義する働きをする。
【0098】
セットアップフェーズは「−200日」、すなわち履歴データが利用可能になる日(記述フェーズの始まり)である「Day1」より前に始まる。セットアップフェーズの目的は、Day1の前にシステムを定常状態(患者の最初のHgb値に等しいフラットラインHgb濃度)に至らせ、次いで、同時に記述フェーズの間システムがダルベポエチンアルファに対する患者の反応を追うことを可能にする、パラメータのセットを識別することである。パラメータのセットアップEPO(表1参照)は、セットアップフェーズの間に動作中の他のパラメータ値とともに、すぐ上に記載された結果を達成する、ダルベポエチンアルファの数学的投薬量を表すために、主にセットアップフェーズの中で使用される。パラメータのセットアップEPOは、次のフェーズには何の影響もないが、むしろ(記述フェーズの中の)投薬量履歴、又は(処方フェーズの中で)提案された投薬量によって置き換えられる。
【0099】
適切なパラメータ推定値のセットが与えられると、シミュレートされたHgb値は、Hgb値の満ち欠けを概算するシミュレートされたHgb値を生成することにより、記述フェーズの間の投薬量履歴に対応する。部分モンテカルロ方法は、別の手動調整及び/又は自動調整によって補完され、必要なら、上述の最良適合を識別するために使用される。さらに、最良適合は、約0.25g/dLの、記述フェーズにおける実際のHgb値に関する平均平方誤差をもつシミュレーションの集合から選択された、記述フェーズの範囲内でシミュレートされたHgb値として定義される。
【0100】
処方フェーズの間、以下のステップのうちの1つ又は複数は、固定パラメータ値を使って実行することができる。(処方される特定のESAに応じて、数ある中でも診療毎の治療量又は週間治療量(WTD)であり得る)治療量を決定することができる。加えて、WTDの場合、分析者又は自動化システムは、最低コストでWTDの同等物を投与する投薬計画(投薬量及び頻度)を探して、「サンプル」の投薬計画を導入することができる。頻繁な投薬「パルス」は、Hgb値を迅速に上昇させるか、又は予測されるアンダーシュートを回避するために必要であり得る。投薬計画は、患者を迅速且つ円滑に目標Hgb範囲内に至らせ、その値を持続させるために洗練される。選択された投薬計画は、将来に向けて数ヶ月延長され、患者の根本的な病状が比較的安定しているかぎり、効果的であり続ける。代替例では、WTDの検索及び選択された投薬計画は、自動化ソフトウェアアルゴリズムを使用して実装することができる。
【0101】
上述したように、生物物理学的シミュレーションモデルのこの例では、パラメータ値は、セットアップフェーズ及び記述フェーズ全体にわたって、(モンテカルロ技法などの)非線形最適化方法を使用して最適化される。しかしながら、本開示はこの点で限定されないことが理解されよう。代替例は、当業者には既知の、例えば、シンプレックスアルゴリズム及び最尤推定量などの他の最適化手順、又は、他の非線形コンピュータアルゴリズムを含むことができる。
【0102】
モデルの薬物動態学(PK)セクション(図7、「Aranesp投薬量及び薬物動態学」)は、投薬計画のさまざまなタイプ(数学的、履歴的、提案型)及びシミュレートされた除去率に応じて、循環薬物濃度の動態を経時的にシミュレートする。モデルの代替例は、より広範囲の、又はより洗練されたPK表現を含むことができる。薬力学(PD)セクションは、RBC数の経時変化及び大きさにおけるダルベポエチンアルファの濃度反応影響、並びに血液循環中への放出をシミュレートする。RBCが血液循環に入ると、臨床医はそれらの寿命に対して何の影響ももたない。効果的な治療は、赤血球生成のプロセス内部の2つの重要な遅延を認識することに依存する。第1に、ダルベポエチンアルファの即効は、骨髄内部の複製プロセス及び熟成プロセスによってHgb値を(予想通り遅れて)増加させる。第2に、Hgb濃度の減少は、循環RBCの永続的な寿命の結果的に(予想通り)遅れる。
【0103】
別の病態生理学的下位組織(及び併発状態)は経時的にHgb濃度に影響を及ぼす場合があると認識される。モデルの代替例は、例えば、鉄分の有効性及び治療計画、出血、並びに、EPO抵抗値への炎症の影響を含むことができる。
【0104】
モデルの他の例は、これらの変更がモデルの目的の達成を改善すると、生物物理学的下位組織の分離をサポートする別のパラメータの細分を含むことができる。
【0105】
透析中のESRD患者は、患者の血流へのアクセスポイントからの出血、又は胃腸の出血などのさまざまな理由で、頻繁に失血を患う。また、他の患者集団は、さまざまな理由で出血を経験する可能性がある。モデルのこの例は、患者が出血を経験する期間を4つまで指定する機能を含む。図6は、モデルの中で変数HEM(608)がどのように構成されるかを示す。この図から、出血が循環中のRBC数及び周辺の網状赤血球に適用されることに留意されたい。図10で示されるユーザインタフェースの一部は、出血を指定するために使用される制御装置を示す。代替ツールは、異なるが同等な表現を有する。図10で示される説明的な例では、値1にセットされた値、すなわち(803)及び(807)を有する、(801)及び(802)で指定された、2つの進行中の出血、A及びBが存在する。これら2つの出血の大きさは、それぞれ出血A大きさ(804)及び出血B大きさ(807)に並んだ値によって示される、1日に2%及び1日に4%と指定される。項目(805)、(806)、(809)及び(810)は、2つの出血の開始日及び終了日を指定する。出血A及び出血Bは、日170と日192の間で重なっていることに留意されたい。この場合、累積効果がモデルによって使用される。例えば、透析中のESRD患者に頻繁に投与される輸血の効果をシミュレートするために、負の大きさも指定することができる。
【0106】
経時的にHgb値に影響を及ぼす個別の因子を識別することは可能であるが、ダルベポエチンアルファ及び他のESAに応じてHgb値の経時変化及び大きさに影響を及ぼすのは、これらの因子の間の相互作用である。本ESA投薬システムは、個別の構成要素の定義を提供し、次いで、分析者によって、又は、自動的に自動化ソフトウェアシステムによって、体系的に導入することができる摂動の結果として組織の挙動を確実に予測するシミュレーションを、コントローラが実行することを可能にする、数学モデルを含む。
【0107】
「週間治療量」(WTD)は、最終的に患者のHgb値を目標範囲の中間点で維持する、週間投薬量を定義する理論値である。WTDは、シミュレーションの処方フェーズの間、体系的に、決まった週間投薬量を変更しHgb濃度を観察することによって決定される。ESA投薬システムによって決定された治療量は、数ある中でも処方される特定のESAに応じて、診療毎の治療量(PSTD)又は週間治療量(WTD)であり得る。Aranesp(登録商標)の場合、システムはWTDを決定し、次いで、WTDの同等物を投与する投薬計画を決定する。他のESAの場合、システムによって決定された治療量は、患者用に推奨された実際の投薬計画に同等であり得る。
【0108】
図11は、処方フェーズの間に以前得られたパラメータ値を使用してシミュレートされたHgb値における、ダルベポエチンアルファの投薬量履歴及び実際のHgb値から生じる、それぞれダルベポエチンアルファの8mcg、12mcg及び16mcgのWTDに適用される、3つの反応を描写する。(901)、(902)、及び(903)は、それぞれシミュレーションのセットアップフェーズ、記述フェーズ及び処方フェーズである。WTDは、処方フェーズの間のみモデルの中に適用される。シミュレーションの処方フェーズ内でシミュレートされたHgb値である曲線(904)、(905)、及び(906)の一部は、記載された3つのWTDに応じて、それぞれ11.5g/dL、12.3g/dL、及び13.0g/dLで安定した。モデルのこの例は、さまざまなWTD及び関連する投薬計画に応じた、将来のHgb値の予測をユーザに提供する。
【0109】
シミュレーションの処方フェーズで導かれたWTDは、投薬計画策定への臨床医のガイドである。次いで、投薬濃度及び選ばれた投薬量を投与する頻度は市販の投薬量から選ぶことができる。一部のESAについて、WTDは市販の投薬量(例えばAranesp(登録商標)の場合)に等しくない可能性があり、ともにWTDと同等な投薬量を投与する、さまざまな頻度で適用される複数の投薬量を必要とする可能性がある。さらに、投薬計画が開始される日に、現状、患者はHgb値における上向き傾向又は下向き傾向を伴って、目標範囲を上回るか下回っている可能性がある。そのような場合、迅速且つ円滑に目標範囲内のHgb値を達成する「パルス」投薬量を見つけなければならない。図12は完全なシナリオを表示する。
(1001)はセットアップフェーズを指す
(1002)は記述フェーズを指す
(1003)は処方フェーズを指す
(1004)は各フェーズの中でシミュレートされたHgb値を描く
(1005)は記述フェーズの中で投与されたESA投薬量の履歴を伝える
(1006)は記述フェーズの間計測されたHgb値の履歴を伝える
(1007)はHgb値における併発の下向き傾向を阻止するように設計された、処方フェーズを開始する3回のパルス投薬量を伝える
(1008)はHgb値を11.5g/dLで持続させる、提案された投薬計画を伝える
(1009)は3回の投薬パルス(1007)のうちの最初の投薬のシミュレーション日の番号である
(1010)は投薬Aとして投与された投薬量である
(1011)は投薬Aの間隔日数である
(1012)は投薬Aの最終日である
(1013)〜(1016)は投薬Bとして適用される、投薬Aの明細の相似物である
(1017)〜(1020)は投薬Cとして適用される、投薬Aの明細の相似物である
【0110】
したがって、この場合、定常状態投薬計画は「day125に始まり、25mcgの週間投薬量を3回与え、続いて21日毎に25mcg及び40mcgの投薬量を交互に与える」であるとわかる。
【0111】
本明細書に記載されたシステムの例における動的モデリングの1つの概念は、推奨手順(すなわち投薬計画)が「ブラックボックスアンサー」に反対する仮説であるということである。これらの仮説は、患者の実際の将来のHgb値の経過観察測定によって検査され、立証又は却下される。仮説の立証と却下のどちらも、研究中のプロセスがどのように実際に機能するかの識見及び理解を与え、それは一般的及び具体的に動的モデリングの視点から得られる主要目標である、そのためには、システムは、例えば、経過観察、分析、学習、変更、改良された貧血管理技能、及び最終的には患者の幸福のための、構成要素及びツールをも含むことができる。
【0112】
記載されたシステムの例は、Hgbサイクリングに対処してそれを解決するように設計された、臨床的に適用可能なツールのセットである。システムの例は、さまざまなソフトウェアコンポーネントの手段によって緩やかに結合された構成要素の集合を含む。システムの代替例は、1つ又は複数の透析介護施設(DCF)で治療を受ける個別の患者用の貧血管理をサポートする情報システムを提供する機能の緊密に統合されたモジュールであり得る。
【0113】
システムの目的は、個別の患者集団用の貧血問題を効果的に管理するために臨床医に必要なデータ及び情報を、捕捉、洗浄、維持、変換、分析、及び作成することである。
【0114】
図13は、システムがESA治療を受ける患者のために安定的なHgb濃度を達成し維持する、全体的なプロセスの例を示す図である。プロセスの最初の態様は、特定の患者用のヘモグロビン(Hgb)履歴データ及びESA投薬データの収集及び保持を含む。測定された実際のHgb濃度履歴及び対応するESA投薬量履歴は、すべてのESRD患者用の識別情報及び(入院期間、鉄分調査、輸血、感染、及び、Hgb濃度に影響を与える他の因子などの)他の関連情報とともに、例えば、DCF又はDCFのグループで、データベース又は他の格納及び情報検索用媒体の中に取得し格納することができる。(図2及び図3で示されるチャートなどの)経時的挙動(BOT)チャートは、シミュレーションの3つのフェーズそれぞれの中で分析者を助けるように生成される。
【0115】
患者集団を治療する中での最初のステップは、適用できる患者を選択することである。1つの例では、システムは、最低限6回記録されたHgb値を有する、鉄分が十分な患者を治療するように設計される。上述の患者データは、処理及び保守用に組み立てられ組織化される。他の例では、システムは鉄代謝成分を含むことができ、Hgb値が取得される期間中鉄分が十分でない患者を含むことを潜在的に可能にする。
【0116】
個別化されたシミュレーションパラメータを取得し保持して、上述のパラメータ、又は、細分及びパラメータ改良点のいずれであれ、データベースに格納される。代替例はHgb反応特性の効果的な分類を含むことができ、治療の改良された方法を潜在的に作成する。
【0117】
個別化された推奨処方は、ESA消費量の全体分析及び関連コストの改良された管理を可能にするデータベースの中に格納される。システムのこの例では、データベースは市販の表計算プログラムの中に実装される。代替例は、市販のデータベースエンジン、データ変換ツール、分析及びレポーティングを使用してカスタマイズされたデータベースアプリケーションの実装を含むことができる。
【0118】
推奨処方は、公認された医療提供者によってレビューされ承認される。システムの例は、推奨投薬計画を提供する。加えて、臨床医の貧血管理技能はシステムの使用によって改善することができる。
【0119】
承認された処方は、医療提供者のオーダ管理システムに入力することができる。ESA投薬システムは、医療オーダ管理システムと緩やかに結合することができる。代替例は、データ及び情報の視点からプロセスの中の各ステップと緊密に統合するソフトウェアコンポーネントを含むことができる。また、代替例は、削減された薬物消費量、削減された維持在庫量、削減された損傷物、削減された管理費、及び削減された予防可能な緊急医療問題に関連する管理費などの、さまざまな運用コストを著しく削減することができる、改良されたESA消費量管理を提供することができる。
【0120】
また、ESA投薬システムは、医療オーダによる薬物投与のコンプライアンスを監視するように設計されたデータ収集ツールを含むことができる。Hgbサイクリングは、しばしば投薬量の誤投与から起こる。これらのツールを使用して、ESA投薬システムは投薬量の誤投与を検出し、設計是正介入を適切に促すことができる。
【0121】
上述したように、推奨投薬計画は、承認されオーダされると立証又は却下を待つ仮説であり、それぞれが識見を改善する。ESA投薬システムは、例えば、最低12週間のHgb値の週間モニタリングを含むことができ、臨床医がシミュレーションによって予測されたHgb値からの実際のHgb値の観察された逸脱の原因を検出し診断することを可能にする。
【0122】
BOTチャートは、システムによってサポートされる方法論の実装形態の中で、臨床医によって使用されるツールである。図14は、貧血管理の有効性の説明を語る個別のBOTチャートの例を示す。図14は、10ヶ月の期間の以下の情報を含む。
1101 投与された鉄分(Venofer(登録商標))
1102 平均血球体積(MCV)
1103 記述期間の一部でシミュレートされたHgb値
1104 実際のHgb値
1105 計画された治療に応じた予測Hgb値
1106 肺炎のため入院した7日間
1107 トランスフェリン飽和率及び鉄分値(お互いの上に、しかし異なるスケールで)
1108 推奨され承認された投薬計画を表す箱
1109 投与された実際のaranesp投薬量を表す箱の中の点
1110 抜かされたかまだ投与されていない、推奨され承認された投薬量を表す開放箱
1111 目標Hgb範囲の上限(13.0g/dL)
1112 最適な目標Hgb範囲の上限(12.0g/dL)
1113 最適な目標Hgb範囲の下限(11.0g/dL)
1114 目標Hgb範囲の下限(10.0g/dL)
【0123】
所与の患者のBOTは、(生存兆候の経時変化などの)上記その他のデータを含み、臨床医が患者の全身状態の総合描写を策定することを可能にする。軸のラベル及びスケールは簡潔さのために図14には示されていない。システムの例は、期待値から逸脱するHgb値をもつ患者をすばやく隔離するさまざまなフィルタとともに、患者の結果及びウェブベースの報告書(BOT)の根本的なデータベースを含む。システムの例は、1人の医師助手が370人の患者の状況をモニタし、4時間で介入を助言することを可能にした。
【0124】
また、プロセスは、構造化された変更制御プロセスを含むことができる。ESA投薬システムは、システム構成要素の一部又は全部に対する変更又は交換を予想するように設計することができる。例えば、ESA投薬システムは、個別の患者の根本的な病状における変化を予想することができる。これらの変化は、新しい推奨処方の再シミュレーション又は、パラメータ値の新しいセットの探求、次いで、新しい推奨処方の策定を必要とする可能性がある。ESA投薬システムは、分析者が以前にモデル化された患者を検索して、再度開始することができるツールを含むことができる。代替例は、識別されたパラメータ値、処方、及び、患者の病状の経時変化の履歴を保持する、情報システムの構成要素を含むことができる。この情報は、透析中のESRD患者用のCKDの進行とHgb反応特性の間の関係の、識見及び運用上の理解を向上することができる。
【0125】
図15は、プレ記述セットアップ期間及び記述期間用のシミュレーションエンジン制御盤の画面コピーの例である。これは、ユーザインタフェース22(図1)に表示することができる画面コピーの例である。制御盤152によって、ユーザが患者特有のパラメータそれぞれのための最小及び最大の検索値を設定することが可能になる。グラフ領域154は、Hgb濃度履歴、ESA投薬量履歴、及び、プレ記述セットアップ期間及び記述期間にシミュレートされたHgb濃度をグラフィックで表示する。また、現在表示中のシミュレーション用の、患者ID156、臨床Hgb数157、及び平均標準誤差(MSE)が表示される。一連の機能ボタン160によって、ユーザが実行、一時停止、再開、停止、グラフ及びテーブルを復元すること、並びに/又は、生物物理学的シミュレーションに関連する他の関連機能を実行することが可能になる。特定のデータ、グラフ、及び機能インタフェースが図6に示されるが、本開示はこの点において限定されず、他の関連するデータ、グラフ、テーブル、チャート、又は他のデータ表示方法を表示することができ、タッチスクリーン、マウス、スタイラス、キーボード、マルチタッチ、モバイル装置、又は他のプログラムとの対話方法などの他のタイプの機能インタフェースを本開示の範囲から逸脱することなく使用できることが理解されよう。
【0126】
図15のグラフ154は、記述フェーズでの結果に適合する曲線の例を示す。この例では、この患者用の記述期間は継続時間で371日間であった。その期間中、18個の実際のHgb値が測定され、それらの値は通常の変動を表す。ダルベポエチンアルファの37回の投薬量が記述フェーズの中で投与された。Hgb値が高すぎるとダルベポエチンアルファは抑制された。Hgb値が低すぎると、ダルベポエチンアルファの投薬量は増加された。
【0127】
モデルはいわゆるプレ記述期間を使用して、記述期間に最初に観察されたHgb結果に近いHgb濃度を反映する、赤血球生成のRBC数との平衡を確立する。この例では、モデルの中のプレ記述期間は、day−200からday0まで及ぶ、継続時間で201日間である。これは、理論的な(数学的に適用された)日毎のESA投薬量の存在下で、体が平衡を確立する必要がある期間である。モデルは図15の左側に表示されたパラメータ値を使用して、Day−200からDay371までのHgb値をシミュレートする。
【0128】
パラメータ値の探求は、記述期間にシミュレートされたHgb値と観察されたHgb値との間の平均平方誤差(MSE)が十分に小さいと終了する。図15において、MSEは0.22と記録され、平均して、シミュレートされたHgb値は実際のHgb値の+/−0.47g/dL以内であることを意味する。
【0129】
シミュレーションベースの手法は、ESA濃度における投与後の指数関数的減衰を赤血球生成に関係する遅延に関係づけることにより、オーバーシュート及びアンダーシュート問題を解決する。モデルは、RBC前駆細胞の生成及び死亡の責任を負う。「パイプラインの中の」RBCの推定数を提供することにより、医療提供者は、目標範囲内の適切で安定的なHgb値を達成する投薬計画を作成する助言を、生物物理学的シミュレーションエンジンから引き出すことができる。
【0130】
上述したように、プロセスの出力は、目標値又は目標範囲内の安定的なHgbのために必要な週間治療量(WTD)の計算値である。WTDは、所期の治療反応を達成するために必要な、理論的な週間投薬量である。すなわち、毎週投与される場合、投薬濃度は患者のHgbを目標濃度で安定させるはずである。
【0131】
図16は、図15に示された同じ患者用のWTD計算結果の例を示すグラフである。このグラフは、図15の制御盤150のグラフィック部分154の中に表示することができる。この例では、記述期間は継続時間で370日間(day1からday371)である。処方期間はday0から700日間(又は合計330日間)まで延長される。通常、これは、提案された一定のWTDに応じてRBC生成連鎖が安定するのに十分な時間であるべきである。18個の実際のHgb値が記述期間に収集された。37回のダルベポエチンアルファの投薬量が記述フェーズで投与された。Hgb値が高すぎるとダルベポエチンアルファは抑制された。Hgb値が低すぎると、ダルベポエチンアルファの投薬量は増加された。これらの結果は、10〜12g/dLの目標範囲をはるかに上下する値をもつ、通常の変動を示す。
【0132】
患者の処方フェーズのシミュレーションは、毎週25mcgのダルベポエチンアルファの同等物を投与するように滴定された週間投薬量を含んだ。処方期間用にシミュレートされたHgb濃度によって示されたように、Hgbは60日を少し過ぎると11.5g/dLで安定する。
【0133】
システムが最適化されたWTDを決定すると、システムは、医療提供者が必要なWTDを投与し、結果的に所望のHgb値を達成及び維持する、最適な投与頻度で利用可能な投薬濃度の最も効果的な組合せを見つける助けをするができる。これは、例えば、WTDの同等物を投与する、利用可能な投薬濃度の滴定を含むことができる。図16に示された例は、25mcgのWTDを示す。25mcgは標準の利用可能な単位の投薬量なので、これはシステムが推奨することができる処方である。
【0134】
他の患者のシミュレーションのために、利用可能な単位の投薬量に等しくないWTD値は、最適な投薬手順を決定するために実験を必要とする。これらの患者のために、プロセスは、所期の結果を達成する滴定方式に医療提供者を導くことができる。
【0135】
提案された処方が承認され、投与が始まった後、患者の状況は常に変化する。入院、ESA治療に対する抵抗値を増加させる感染、又は、ESA治療に対する患者の反応を変更する出血が起こる可能性がある。
【0136】
ESA投薬システムの例の別の態様によれば、予測された(シミュレートされた)反応とは異なる、処方期間に取られたHgb測定値は、少なくとも1つの患者特有のパラメータの値が変化したことの信頼できる指標であると判定された。観察されたHgb濃度の予測された反応からの変化の識別は、効果的な修正に導くことができる、患者の状態の中の変化に関する集中した評価を促すために使用することができる。
【0137】
例えば、Hgb濃度における予測された反応からの差異は、記述フェーズの間は存在しなかった状態又は状況に関連する可能性がある。代替の患者特有のパラメータ値のセットを探求するために、再モデリングはこの時点で使用することができる。次いで、新しく更新されたパラメータは、効果的な修正処置、すなわち更新されたWTDをもたらして十分で安定的なHgb値を回復させるために使用することができる。
【0138】
したがって、処方期間中のHgb濃度のモニタリングは全身的ソリューションの一部であり得る。プロセスのこの部分は、患者の状態における変化をスキャンし、修正処置を策定し、適時且つ効果的な方法で必要な変更を伝えるプローブである。
【0139】
図17Aは、結果的にHgbを目標濃度に安定させるか、又はそれを目標範囲内に保持する治療量を、システム10(図1)又はシステム1240(図20)が決定することができるプロセスの例200を示す流れ図である。Hgb履歴データ及び対応するESA投薬量履歴データが受信される(202)。患者特有のパラメータが推定される(204)。1つの例では、本明細書に記載された方法などのモンテカルロ方法、又は他の非線形最適化ルーチンは、個別の患者用のモデルパラメータの推定値に達するために使用することができる。パラメータは、履歴と選ばれた記述期間のためにシミュレートされたHgb値との間の適合性を改善するように、手動又は自動で調整することができる。
【0140】
システムは、結果的にHgbを目標範囲内に安定させる治療量を決定する(206)。治療量がWTDである場合、システムはWTDの同等物を投与する、1つ又は複数の投薬計画を識別することができる(208)。1つ又は複数の同等物の投薬計画は、例えば、6ヶ月までの30日、60日、90日又は他の日数の計画用に策定することができる。同等物の投薬計画用の他の変数には、透析診療毎に与えられる投薬量、並びに/又は、投薬量の数及び頻度が含まれ得る。ESA治療の利用可能な滴定からの複数の投薬計画、及び、透析診療毎に与えられる投薬量、投薬量の数若しくは頻度、コスト、又は他の適切な因子などの、1つ又は複数の変数を最小化する投薬計画を識別することができる。
【0141】
図17Bは、システム10が識別された投薬計画に対する患者の反応をモニタし、必要なら変更する、プロセスの例を示す流れ図(210)である。治療量に対する患者の反応がモニタされる(212)。処方期間中に測定されたHgb濃度は、予測されたHgb濃度と比較される。予測された反応からの変化が識別される(214)。変化の原因が評価される。必要なら、更新された治療量及び同等の投薬計画を得るために、モデルは再シミュレートすることができる(216)。
【0142】
加えて、矯正治療を識別し、診断をオーダし、統計値を要約し、且つグループ実績報告を策定することができる。
【0143】
図18は、モデルパラメータの患者特有の値、及び患者のHgbを目標範囲内に維持することができる治療量を、ESA投薬システムが決定することができる、別のプロセスの例240を示す流れ図である。患者特有のHgb濃度履歴及び対応するESA投薬履歴データが受診される(232)。システムは患者特有のパラメータ値を最適化して、患者のHgb履歴データとの最良適合を決定する(234)。例えば、モンテカルロ又は他の最適化方法は、最適化された患者特有のパラメータ値を決定するために使用することができる。パラメータは、結果的に最小の平均平方誤差(MSE)になるように最適化することができる。この説明として、MSEは、シミュレートされたHgb値の実際の値を所与のHgb値の時系列の中の観察の数によって割った値からの偏差の2乗の総和を意味する。一部の例では、パラメータは、履歴と選ばれた記述期間シミュレートされたHgb値との間の適合性を改善するように、手動又は自動で調整することができる。
【0144】
該当する場合、患者特有のパラメータ値は、既知の出血(236)又は輸血(238)の原因のなるように、手動又は自動で調整することができる。次いで、システムは、最適化された患者特有のパラメータ値に基づいて、患者のHgbを目標範囲に維持することができる治療量を決定する(240)。
【0145】
図19は、患者のHgbを目標範囲内に維持することができる治療量を、処理装置20(図1)又は処理装置1260(図20)が決定することができる、プロセスの例250を示す流れ図である。目標Hgb範囲が受信される(252)。目標Hgbは、ユーザインタフェース22(図1)を介してユーザによって入力することができるか、又は自動的に決定することができる。また、患者特有のパラメータ値が受信される(254)。システムは、患者特有のパラメータ値に基づいて、一連の提案された治療量に対する患者のHgb反応を、シミュレートされたHgbが目標範囲内に維持されるまで繰り返しシミュレートすることができる(256)。結果的にHgb濃度を目標範囲内に安定させる提案された治療量は、治療量として識別される(258)。
【0146】
1つの例では、「最適な」患者特有のパラメータ値は、シミュレートされたHgb値と患者の実際のHgb実験履歴との間の平均平方誤差を最小化する、モンテカルロシミュレーションの1つのタイプによって識別される。モンテカルロシミュレーションは、多数のシミュレーションの結果から選択された最適な値を求めるために、シミュレーションの中で使用されるモデルパラメータ値をランダムに選択する方法である。
【0147】
モンテカルロシミュレーションの簡易化された(例えば、より少ない処理集中の)バージョンは、わずか100かそこらのシミュレーションを実行することしかできないが、より強固なバージョンは、千又は一万のシミュレーションを可能にすることができる。モンテカルロ標本空間を桁違いに拡張させることは、提案された処方の信頼性を改善し、且つ/又は、専門家の判定の必要性を減少させることができる。加えて、本明細書に記載されたように、他の非線形最適化ルーチンも患者特有のパラメータ値を取得するために使用することができ、本開示はこの点において限定されない。
【0148】
上述の生物物理学的シミュレーションエンジンの例は、彼らの記述期間を通して鉄分が十分であったESRD患者に限定された。これによって、シミュレーションエンジンから鉄代謝コンポーネントを除外することが可能になる。しかしながら、鉄分不足、及び起こり得るESA治療に対する反応性の減少の期間を経験する患者を収容するために、鉄代謝コンポーネントをシステムの例に追加できることが理解されよう。
【0149】
上述したように、生物物理学的シミュレーションエンジンは、赤血球数に基づいてHgb値を推定する。代替のシミュレーションエンジンは、全血液ヘモトクリット計算を含むモデルの構成要素を追加するものである。例えば、血漿及び血液の動態モデル構成要素を追加することができる。これら代替のシミュレーションエンジンは、いかなる血液希釈及び血液濃縮の効果にも責任を負うことができる。ヘモトクリットが知られると、Hgb濃度の推定は現在の推定よりも正確なものを得ることができる。
【0150】
上述したように、予測されたHgb濃度からの差異は、診断用に使用することができ、ユーザが望ましくない結果を予想し、ことによると防止することを可能にする。著しい差異が観察されたそれぞれの場合では、患者の新しい事実に基づいたモデルが最構築され、システムが変更された処方を作成し、変更された治療により適切で安定的なHgb濃度を追求し続けることを可能にする。
【0151】
貧血管理における改良に加えて、達成された適切で安定的なHgb値により、患者は透析中の生活の厳しさに適合するより多くのスタミナを有する。結果として、入院期間を短縮し、診療ミスを減少させ、死亡率を削減し、且つ、食事制限がより尊重され観察されるようにすることができる。患者は、沈着冷静さを得て、彼ら自身の健康の成果を作ることの詳細を管理することに効果的に関与することができる。抜けたESA投薬量はHgb値を混乱させるので、プロセスによって提供された情報は、抜けた投薬量が修正されない危険を大いに減少させる。
【0152】
個別の患者のためのHgbサイクリングの除去は、複数の患者の健康リスクを取り除く。Hgbサイクリングは、体の全組織が過度の酸素供給及び減少した酸素供給の期間を交互に経験していることのしるしである。この酸素負荷における変化は、入院率及び死亡率の増加につながると考えられる。安定的なHgb値は患者の生活の質を改善し、全体的な健康リスクを減少させる。加えて、一般に新しい内科的疾患はHgbの減少につながるので、ヘルスケア提供者が治療の間安定的なHgbを有する彼らの患者における新しい併存疾患の発病を認識することがより簡単になる。
【0153】
1つの例では、ESA投薬システムは、透析及びダルベポエチンアルファ(又は他のESA)治療を受ける患者に適用される。しかしながら、透析中でないCKD患者もESA治療を必要とする。CKDは進行性疾患であり、一般に腎代替療法、最も頻繁には透析の開始につながる。透析中でないCKD患者の間のHgbサイクリングも観察された。したがって、他の例では、システムは現在透析中でないそれらのCKD患者にも適用することができ、彼らの全体的な健康及びスタミナを改善し、且つ、透析及び関連する困苦及びコストの開始を延期する治療法を設計する。
【0154】
他の例では、ESA投薬システムはESA治療を必要とするいかなる患者にも適用することができる。
【0155】
一般に、適切で安定的なHgb値をもつESRD、CDK、及び他の患者は、医療提供者が管理することがより簡単である。加えて、ESA投薬システムは、医療提供者のためのRBCの恒常性に関する新しい視点を作ることができる。本明細書に記載されたシステム及び方法を使用して成功したHgb値の管理によって得られた識見は、本明細書に記載されたESA投薬システムを使用した評価を受けていない患者に、少なくとも一部は移すことができる。例えば、そのような識見は、より正確で最適な投薬計画が設計されることを可能にすることができる。したがって、ESA投薬システムは、患者治療の複雑さ、時間、及びコストを削減し、同時に効率を改善することができる。
【0156】
また、本明細書に記載されたESA投薬のシステム及び方法は、透析治療施設でのESAの在庫管理を改善することができる。このシステムを使用して、過剰在庫を削減するESA需要の正確な予測を作成することができる。ESAは比較的高価なので、在庫のこの減少は、結果的に在庫コストの大きな年間の節約になり得る。将来(例えば90日間)透析治療施設(DCF)で透析を受ける各患者用の予測された精密な投薬計画は、DCFに必要なESA在庫レベルの正確な推定を授ける。これは、無駄のコスト及び過剰な在庫を抱えることに関連する他のコストを削減することができる。
【0157】
本明細書に記載されたシステム及び方法は、適切で安定的なHgb値を達成し、ESA薬物の最小限の消費をも達成する投薬計画の作成を可能にする。データの遡及評価は、ESAコストを46%以上も削減することができると推定した。
【0158】
システムは、例えば、目標Hgb値を下回るか、目標Hgb値の範囲内か、又は目標Hgb値を上回る「一見しただけの」患者の概況を提供する、分析報告サブシステムを含むことができる。高い割合の患者を適切で安定的なHgb値に維持することによって、医療提供者が患者毎に費やす時間を短くし、救急患者の治療に多くの時間を割り当てることが可能になり得る。
【0159】
ESA投薬システムは、適切で安定的なHgb値を達成しながら、投与されたESAの効果及び効率を増大させるために使用することができる。これはCMSの主要な関心事であり、著しいコストの節約を意味することができる。
【0160】
ESA投薬システムは、さまざまな投薬計画又はプロトコルの有効性(又は不備な点)の実証済みの根拠に基づく評価を提供することができる。本明細書に記載されたESA投薬システムによって、医療提供者はこれまで知られていなかった目標投薬濃度を授けられる。ESA投薬システムの他の例は、医療提供者に彼らの貧血管理の技量を常に向上させるために必要なデータを与える、投薬計画の品質メトリクスを含むことができる。
【0161】
国営及び私営の保険業者は、実績払いポリシーによる支払いを要求する。ESA投薬システムの他の例は、貧血管理用の目標実績測定システムを使って手助けするツールを含むことができる。
【0162】
結果的により安定的なHgb濃度をもたらすことによって、本明細書に記載されたESA投薬システムは、投与された、払い戻されないESAの量を減少させることもできる。要するに、得られた治療法は、患者の結果、医療提供者の財務実績、及び学際的医療チームの有効性を常に改善することができる。
【0163】
経験は、rHuEpoを使用する医療提供者が、ダルベポエチンアルファを使用する医療提供者よりも、目標Hgb値をよりいっそう達成できることを示した。しかしながら、rHuEpoアルファは1週間に3回まで投与する可能性があるのに対して、ダルベポエチンアルファは毎週、隔週、又は毎月でも投与することができる。運営費を削減するためだけにダルベポエチンアルファの使用に切り換えることを試みた医療提供者は、しばらく経って、制御できないHgbサイクリングが原因でダルベポエチンアルファに戻ることを決定する。ESA投薬システムの他の例は、エポエチンアルファからダルベポエチンアルファに移行し、同時に適切で安定的なHgb値を維持する医療提供者を手助けするツールを含むことができる。
【0164】
遺伝子組み換え型ヒトエリスロポエチン(rHuEPO、Epogen、EPO)は、ダルベポエチンアルファよりも短い半減期をもち、したがって投与するのがより簡単である。しかしながら、rHuEPOをESAとして利用する透析医療提供者は、透析診療毎に、結果的に運営費を増加させ、感染の危険を増やし、彼らのESA在庫の回転率を高める、rHuEPOを管理し投与しなければならない。ダルベポエチンアルファに関して技法が本明細書に記載されるが、本技法はESAのいかなる形態にも適用できることが理解されよう。ESA投薬システムは、世界中の透析医療提供者がrHuEPOからダルベポエチンアルファへの移行を成功させることを手助けし、より少ない頻度のESA投与の運営費を削減するとともに、適切で安定的なHgb値を達成することの利点を保証するために使用することができる。
【0165】
本明細書に記載された、成功したモデリングの利用は、患者へのESAの使用を超えて拡大する可能性がある影響をもつ。例えば、本明細書に記載されたシステム、方法、及び技法は、長期の半減期又は徐放性製剤を有する他の薬物の投与に拡張することができる。FDAによって要求された薬物動態学的研究は、腎臓又は肝臓の機能を提供しない。同様に、薬物代謝における遺伝学的に判定された差異は、薬物の摂取不足又は過剰摂取の逆効果が確認されるまで、臨床医に明白ではない。この方法論の薬物投与への応用は、最適な薬物投薬量のより早い決定及び使用を可能にし、薬物のクリアランス及び代謝における個別の患者の差異を強調することができる。腎臓疾患及び肝臓疾患の発病率が増加し、より長い半減期をもつ薬物の利用が増加する患者集団において、より安全に薬物を投与する場合、現在の薬物投与の試行錯誤方式は改良を必要とする。
【0166】
図5に関して記載されたESA投薬モデルの例は、ESAダルベポエチンアルファ(Aranesp(登録商標))の投薬の決定に対する例示目的のみに関する。しかしながら、上述したように、本明細書に記載されたESA投薬技法は、任意の利用可能なESA治療においても患者特有のESA投薬量を決定するために使用することができる。これらのESAには、エリスロポエチン、エポエチンアルファ(Procrit(登録商標)、Epogen(登録商標)、Eprex(登録商標))、エポエチンベータ、ダルベポエチンアルファ(Aranesp(登録商標))、メトキシポリエチレングリコール−エポエチンベータ、ダイネポ、シャンポエチン、ジロップ、ベータポエチンなどが含まれ得るが、それらに限定されない。
【0167】
加えて、本明細書に記載されたESA投薬技法は、例えば、ESRD患者、CKD患者、癌治療患者、HIV患者、又は、ESA治療から恩恵を受けることができる、不十分なヘモグロビン生成能力をもつその他の患者集団を含む、多種多様の患者集団にも適用可能であり得る。加えて、本明細書に記載されたESA投薬技法は、静脈内(IV)投与、皮下投与、経口投与、生物ポンプ、埋め込み式薬物投与装置などを含む、ESA治療薬投与の複数の方式にも適用可能であり得る。
【0168】
図20〜図35は、ESA治療の投薬量を決定するために使用することができる、ESA投薬システムの別の例1240、及びその中に実装された技法を示す。本例では、ESA投薬システム1240は、ダルベポエチンアルファ(Aranesp(登録商標))又はエポエチンアルファ(Epogen(登録商標))に関して記載される。しかしながら、ESA投薬システムの例は、他のESA治療の投薬量を決定するためにも使用できることが理解されよう。
【0169】
図20はESA投薬システム1240のブロック図である。ESA投薬システム1240は、図1に示されたESA投薬システム10に多くの点で似ている。システム1240は、処理装置1260、並びに、データ処理ソフトウェアモジュールと管理ソフトウェアモジュールの組合せを含む。例えば、ESA投薬システム1240は、いくつかのコンポーネントソフトウェアモジュールである、データ管理モジュール1242、最適化モジュール1244、薬物動態学(PK)シミュレーション/モデリングモジュール1246、薬力学(PD)シミュレーション/モデリングモジュール1248、及びレポーティングモジュール1250を含む。データ管理モジュール1242は、システムのデータ入出力に関係している。最適化モジュール1244は、患者特有のESA治療に対する赤血球生成反応をモデルにシミュレートさせる、患者特有のパラメータの決定に関係している。PKシミュレーションモジュール1246は、薬物に対する体の作用、例えば、吸収、代謝、及び除去をモデル化しシミュレートする。PDシミュレーションモジュール1248は、体に対する薬物の影響、例えば、アポトーシス節約をモデル化しシミュレートする。レポーティングモジュール1250は、分析者又は医療提供者にとって意味のある方法で、シミュレーションの結果をレポート、グラフ及び/又は他の出力の形で提示することに関係する。
【0170】
図21は、ESA投薬システムのデータ取得/管理コンポーネントの一部である図の例1200を示す。図1200は、個別の患者履歴データの移入を示す。患者ID1202は、患者の識別番号を表す。図1200の左上の部分は、履歴データに関するカレンダ日付を受信し、シミュレーション日番号を記述期間及び処方期間の実際のカレンダ日にマップする(例えば、シミュレーション日476は2009年12月4日に同等であり、次いで、シミュレーション日477は2009年12月5日に同等であり得る、など)。最後の記述日番号1204は記述期間の最終カレンダ日を表し、最初の処方日番号1206はESA投薬量を投与することができる最初のカレンダ日を表す。(記述期間は履歴であり、将来のESA治療に対する最もありそうな患者の反応を決定するために使用される。処方期間はESA治療に対する患者の反応履歴の分析に基づいて策定された将来の予測である。)記述期間の中のシミュレーション日数1207は、記述期間の中の合計日数、すなわち、履歴データがモデルに入力される合計日数である。シミュレーション開始日番号1208は、記述期間が始まる日番号である。本明細書に与えられた例では、この日はDay0と呼ばれる。最初の処方シミュレーション日番号1212は、最初の処方日番号1206のカレンダ日に対応する日番号であり、患者がESA投薬を受けることができる最初の日である。現在の日番号1210は、day−200からシミュレーションの最終日まで進行する、全体的なシミュレーションの現在の日番号を表す。週間治療量1216は、図5に関して上述のモデルから決定されたWTDが、必要なら図32及び図33に関して下記に記載されるモデルの結果と比較されることを可能にすることができる。
【0171】
モデル入力1222は、モデルに入力される、患者のヘモグロビン履歴データ1226及び患者のESA投薬量履歴データを表す。この例では、ESA履歴データは、特定の患者によって使用されたESA治療に応じて、Aranesp履歴データ1228又はEpogen履歴データ1230を含むことができる。他のESA投薬量データも入力することができ、本開示はこの点で限定されない。
【0172】
Fe(鉄)状況インジケータ1224は、モデルに入力される、患者の鉄分履歴データ1232、及び/又は、もしあれば患者のトランスフェリン飽和率履歴データを表す。これによって、ESA投薬量シミュレーションを実行するときにユーザが患者の鉄分濃度を考慮に入れることが可能になる。一部は20パーセントを下回るトランスフェリン飽和率値によって示された鉄分不足の患者は、ヘモグロビンを含む十分な数の成熟赤血球を作成するために骨髄によって生成された成熟網状赤血球と結合するのに十分な鉄分を血液中にもたない可能性がある。シミュレーションが履歴データに適合できない場合、Fe状況インジケータ1224は、ユーザが患者の臨床状態をより適切に解釈し、矯正療法を定義するのを助けることができる。
【0173】
Hgb low1218及びHgb high1220は、所望のヘモグロビン範囲の下限値及び上限値を示す。例えば、メディケア&メディケイドサービスセンター(CMS)及び全米腎臓基金(NKF)は、ESRD患者の間のHgb値についての目標範囲を10g/dLと12g/dLの間であると確立した。患者及び患者の状態についてのこれら又は他の適切なヘモグロビン値は、それぞれ低ヘモグロビン値及び高ヘモグロビン値として入力することができる。
【0174】
上述したように、生物物理学的シミュレーションは、モンテカルロ方法の適用を採用して、患者特有のパラメータ値を推定することができる。他の最適化ルーチンを採用することができ、本開示はこの点で限定されないことが理解されよう。図22及び図23は、患者特有のパラメータ値のヘモグロビン履歴データに対する最良適合を決定する、モンテカルロシミュレーションの例のためのセットアップを示す図である。ESA投薬モデルのこの例では、患者の赤血球生成連鎖のさまざまなパラメータを表す1つ又は複数のパラメータを使用することができる。これらは、例えば、以下の6個の患者特有のパラメータのうちの1つ又は複数を含むことができる。
【0175】
芽細胞形成単位投入量(BFU投入量):毎日赤血球生成プロセスに入る赤芽球バースト形成単位の数。
【0176】
コロニー形成単位生存率(CFU生存率):ESAがない場合にアポトーシスを生き残るコロニー形成単位の画分。
【0177】
網状赤血球生存率(網状赤血球生存率):数ある中でも、鉄分、葉酸、又はビタミンB12などのヘモグロビンビルディングブロックにおける欠乏が原因となり得る網状赤血球萎縮を生き残る網状赤血球の画分。
【0178】
エリスロポエチン受容体(EpoR)乗数(EPOR乗数):アポトーシスを防止するのに十分に強い反応を発生中のRBC細胞内に養成するためにKdが増幅される値。
【0179】
赤血球寿命(RBC寿命):赤血球の平均寿命(日)。
【0180】
エリスロポエチンセットアップ比率(EPOセットアップ比率):記述期間の最初の日にシミュレートされるヘモグロビンを観察されたヘモグロビンに等しい濃度に引き上げる、セットアップ期間中に適用される数学的な値。
【0181】
図22及び図23に示された6個のパラメータそれぞれについて、モンテカルロスイッチ1282、1292、1302、1312、1322及び1332は、ユーザが選択した値、以前モンテカルロの実行から取得された以前に決定されたパラメータ値、又はランダムに生成された値のいずれが各シミュレーション用に使用されるかを決定する。特定のパラメータ用のモンテカルロスイッチがオフにされる場合、シミュレーションは、対応するユーザが選択した値、又は以前モンテカルロの実行から取得された以前に決定されたパラメータ値からそのパラメータの値を取る。これらのユーザが選択した値は、任意の適切なユーザインタフェースを介して、例えば、図34に示されたスライダ1602、1604、1606、1608、1610、及び1612を介して、入力することができる。これによって、ユーザが、ヘモグロビン履歴データにより適切に適合するために、1つ又は複数のパラメータ値を手動で制御することが可能になる。
【0182】
特定のパラメータ用のモンテカルロスイッチがオンにされる場合、シミュレーションは、下記に記載される乱数発生器を介してモンテカルロシミュレーションの各実行用パラメータ値を取得する。
【0183】
図22及び図23に示された6個のパラメータそれぞれについて、MIN1281、1291、1301、1311、1321、及び1331、並びにMAX1283、1293、1303、1313、1323、及び1333は、ランダムに生成されたパラメータ値がモンテカルロシミュレーションの個別のシミュレーション用に取り出される範囲を表す。例えば、BFU投入量MIN1281及びBFU投入量MAX1283は、パラメータBFU投入量用のモンテカルロシミュレーションの各実行用に使用されるランダムな数が得られる、それぞれ最小値及び最大値である。
【0184】
各パラメータについて、MC1285、1295、1305、1315、1325、及び1335は、モンテカルロシミュレーションの各実行用に、MINの値とMAXの値の間で、ランダムな数を生成する機能を表す。例えば、BFU投入量MC1285は、モンテカルロシミュレーションの各実行用に、BFU投入量MIN1281とBFU投入量MAX1283の間で、ランダムな数を生成する機能を表す。
【0185】
BFU投入量1280、CFU生存率1290、網状赤血球生存率1300、EPOR乗数1310、RBC寿命1320及びEPOセットアップ比率1330は、モンテカルロの実行から取得した、以前に決定されたパラメータ値か、又は、モンテカルロスイッチが対応するパラメータ用にオフにされると使用される(例えば、上述の図34で示されたスライダが以前に取得したパラメータ値を上書きするモードに設定されていると、それらのスライダを介して入力された。)ユーザが選択したパラメータ値である。
【0186】
BFU投入量CALC1284、CFU生存率CALC1294、網状赤血球生存率CALC1304、EPOR乗数CALC1314、RBC寿命CALC1324、EPOセットアップ比率CALC1334は、モンテカルロシミュレーションの最良適合実行から取得された値である。最良適合実行が決定されると、その最良適合実行から決定されたパラメータ値は、処方期間に投与することができる治療量を決定するために使用することができる。ESAの治療量は、患者の臨床状態が安定し続けるかぎり、患者のヘモグロビン値に目標ヘモグロビン値を達成させ持続させる投薬量である。しかしながら、ユーザは、1つ又は複数のパラメータ用の値を(図34で示されたスライダなどを介して)手動で選択し、別のシミュレーションを実行することで、最初に取得した最良適合結果を改良しようと試みることを望む場合がある。或いは、又は加えて、ユーザは、1つ又は複数のパラメータ用の(BFU投入量MIN1281及び/又はBFU投入量MAX1283、CFU生存率MIN1291及び/又はCFU生存率MAX1293などの)MIN値及びMAX値の調整によりランダムな数が生成される範囲を狭めることによって、最初の、又は中間の最良適合結果を改良しようと試みる場合がある。狭められたパラメータ範囲用に提案された値は、図22〜図23の1286、1288、1296、1298、1306、1308、1316、1318、1326、1328、1336、及び1338によって与えることができる。
【0187】
提案されたBFU最小値(提案BFU min)1286及び提案されたBFU最大値(提案BFR max)1288、提案CFU生存率min1296及び提案CFU生存率max1298、提案網状赤血球生存率min1306及び提案網状赤血球生存率max1308、提案EPOR乗数min1316及び提案EPOR乗数max1318、提案RBC寿命min1326及び提案RBC寿命max1328、並びに、提案EPOセットアップmin1336及び提案EPOセットアップmax1340は、モンテカルロの実行から取得した結果であり得る。ユーザが次のモンテカルロの実行を選ぶ場合、これらの値は、次のモンテカルロの実行でランダムな値が得られる下限及び上限として使用するために、それぞれの最小値及び最大値用に使用する提案された値であり得る。
【0188】
図24は、モンテカルロシミュレーションの1回の実行についての平均平方誤差(MSE)の計算例を表す図1340である。この例では、モンテカルロシミュレーションの各実行のMSEは、記述期間のシミュレートされたヘモグロビン値及び観察されたヘモグロビン値の適合度を決定するために使用される。例えば、100回の個別シミュレーションから得られる最小のMSEを伴う実行は、最良適合実行であると決定することができる。しかしながら、MSEを最小化する他の方法も使用することができ、本開示はこの点で限定されない。
【0189】
各実行用のMSEを決定するために、記述期間内のヘモグロビン値の総数がカウントされる(1341、1344)。シミュレートされたヘモグロビン1348と患者特有のHgb履歴データ1226との平方差が決定される(1350)。平方差は記述期間の全日にわたって合計される(1352、1354)。MSE1356は、その2乗を(この例では箱1342で表示される)記述期間1344におけるヘモグロビン値の総数で割った値の総和である。各実行用のMSEが決定され、最小のMSEを伴う実行が「最良適合実行」であると決定される。
【0190】
図25は、シミュレートされた治療量と同等な処方計画に基づいて、処方期間に投与されたAranespの量を表す図1360である。例えば、患者用の治療のAranesp投薬量は、毎週32mcgであると決定することができる。同等のAranesp投薬計画である、利用可能な投薬量の滴定は、week 1に25mcg、続いて、week 2に40mcg、1週間後に25mcg、などであり得る。この例はAranespに関して記載されるが、このモデルが、それらそれぞれのPKパラメータ、Kd、及び/又は半減期に基づく同様の滴定方法を必要とする他のESA治療にも適用可能であることが理解されよう。
【0191】
EPOセットアップ比率1330は、シミュレーション中に決定される、患者特有のパラメータの1つである。臨床ARANESPデータ1228は、記述期間中の患者特有のAranesp投薬量履歴データである。この例では、Aranesp用の推奨投薬計画は、シミュレーションによって決定された週間治療量(WTD)の同等物を投与するために、所与の日数投与される3回の別個の投薬、投薬A1370、投薬B1371、及び投薬C1372に分割される。投薬A開始1368は、投薬Aを与えることができる最早日であり、並びに投薬Aが始まる日である。ARANESP投入量(マイクログラム)1376は、すべてのソース、EPOセットアップ比率1330、臨床Aranespデータ1364、及びRxプロトコル1374からのシミュレーションの所与の日の総投薬量である。Rxプロトコル1374は、WTDスイッチ1371の値に応じて、Aranesp投薬量A1370、Aranesp投薬量B1371、及びAranesp投薬量C1372の総和、又は、Aranesp WTD137の、2つのタイプであり得る。Aranesp WTD1373は、最初の処方シミュレーション日番号1212(図21参照)に、及びシミュレーションの次の7日毎に始まるシミュレーションの中で適用される、ユーザが入力した投薬量である、例2週間Aranesp治療量1377の値に等しい。患者のパラメータが見つかると、例2週間Aranesp治療量1377とは異なる値をもつシミュレーション試験によって、ユーザが、この患者用の所望のヘモグロビン濃度を達成し持続させる、週間治療Aranesp投薬量の値を識別することを可能にすることができる。Aranesp投入量(ピコモル)1378は、投薬のソースである、セットアップ、履歴、WTD、又は推奨投薬計画にかかわらず、投薬毎のマイクログラム単位の投薬量を投薬毎のピコモルに変換する数値変換である。或いは、ユーザ入力を許可又は要求するよりむしろ、モデルの上記その他の構成要素は、自動化ソフトウェアシステムを介して実装することができる。
【0192】
図26は、推奨Aranesp処方計画を定義するために使用することができる一組の可能な変数を表す図1380である。この図はAranespに関して記載されるが、他のESA治療にも適用可能であり得る。図1382はAranesp投薬A1370を決定する因子を表し、図1384はAranesp投薬B1371を決定する因子を表し、図1386はAranesp投薬C1372を決定する因子を表す。例えば、投薬A、投薬B、及び投薬C各々は、それぞれ、投薬量1391A〜1391C、投薬開始1392A〜1392C、投薬間隔1393A〜1393C、及び投薬終了1394A〜1394Cを含む。これはESA投薬システムによって決定されたAranespWTDに基づいて決定される適切な滴定を可能にする。投薬A、投薬B、及び/又は投薬Cの期間は、ESA投薬システムによって決定されたAranespWTDを取得するために必要な投薬量と、並びに低いヘモグロビン値で処方期間に入る患者によって要求されるはずの任意の最初の矯正投薬量に基づいて、重なるか、又は重ならない可能性がある。
【0193】
図27は、循環Aranesp濃度の決定を表す図1400である。また、この図はAranespに関して記載されるが、モデルは他のESA治療に等しく適用可能である。理想体重1402(例えば70kg)は、理想の配分容積1404(血漿と体の残りの部分との間の投薬配分)を決定するために使用される。望むなら、患者の実際の体重を使用することができる。Aranesp投入量(ピコモル)1378は、図26に関して上述したように取得される値であり、ESA投入モル1412で投入される。ARANESP量1414は、Aranesp半減期1418によって決定されたように、体から除去される。Aranesp除去1416は、Aranesp半減期1418に基づくARANESP量1414の日毎の数学的減少量を表す。減少したAranespの量、及び配分容積1404は、結果的にAranesp濃度(ピコモル)1406を決定する。
【0194】
図28は、シミュレートされた治療量と同等な推奨処方計画に基づいて、処方期間に投与されるEpogenの量を表す図1420である。この例はEpogenに関して記載されるが、このモデルは他のESA治療にも適用可能であり得ることが理解されよう。図1420は、図25の図1360と同じ構造をもつ。したがって、同様の図は他のESA治療にも適用することができる。EPOセットアップ比率1330は、シミュレーション中に決定される患者特有のパラメータの1つである。このパラメータはセットアップEPO投入量1424で入力される。臨床EPOGENデータ1230は、記述期間中の患者特有のEpogen投薬量履歴データである。このデータは、Epogen投薬量履歴1428で入力される。この例では、Epogen用の推奨投薬計画は、所与の日数で投与される3つの別個の投薬、投薬A1432、投薬B1433、及び投薬C1434に分割されて、シミュレーションによって決定された所望の診療毎の治療量(PSTD)に達する。投薬A開始1430は、投薬Aを与えることができる最早日であり、並びに投薬Aが始まる日である。EPOGEN投入量(単位)1440は、すべてのソース、EPOセットアップ比率1330、臨床EPOGENデータ1426、及びEpogen Rxパルス1436からの、シミュレーションの所与の日での総投薬量である。Epogen Rxパルス1436は、WTDスイッチ1371の値に応じて、Epg Rx計画A1432、Epg Rx計画B1433、及びEpg Rx計画C1434の総和、又は、Epogen PSTD1446の、2つのタイプであり得る。Epogen PSTD1446は、最初の処方シミュレーション日番号1448に、及びシミュレーションの次の透析診療毎に始まるシミュレーションの中で適用される、ユーザが入力した投薬量である、例2診療毎Epogen治療量1444の値に等しい。(治療上の投薬慣習における違いの故に、通常、Epogenは各透析診療で週に3回投与され、Aranespは少なくとも毎週投与される。他のESAは、基本的にそれぞれのKd及び半減期に基づいて、異なる治療上の投薬慣習をもつ可能性がある。)患者のパラメータが見つかると、例2診療毎Epogen治療量1444のさまざまな値をもつシミュレートされた試験によって、ユーザがこの患者用の所望のヘモグロビン濃度を達成し持続させるPSTDの値を識別することが可能になる。Epogen投入量(ピコモル)1438は、投薬のソースである、セットアップ、履歴、PSTD、又は推奨投薬計画にかかわらず投薬毎の単位投薬量を投薬毎のピコモルに変換する数値変換である。或いは、ユーザ入力を許可又は要求するよりむしろ、モデルの上記その他の構成要素は、自動化ソフトウェアシステムを介して実装することができる。
【0195】
図29は、Epogenの処方計画を定義するために使用することができる、一組の可能な変数を表す図1450である。この図はEpogenに関して記載されるが、他のESA治療にも適用可能であり得る。この例では、Epogenは、3つまでの異なる投薬、投薬A、投薬B、及び投薬Cにおいて与えることができる。図1452はEpogen投薬A1432を決定する因子を表し、図1454はEpogen投薬B1433を決定する因子を表し、図1456はEpogen投薬C1434を決定する因子を表す。この例では、投薬A、B及びCは、それぞれ月曜日、水曜日、及び金曜に投薬するようにスケジュールされる。例えば、投薬A、投薬B、及び投薬C各々は、それぞれ、投薬量1461A〜1461C、投薬開始1462A〜1462C、及び投薬終了1463A〜1463Cを含む。Epogen投薬A1 1464、Epogen投薬A2 1465、及びEpogen投薬A3 1466によって、カスタマイズされた投薬計画のセットアップにおけるユーザの柔軟性が可能になる。しかしながら、週の異なる日の異なる投薬量よりも、むしろ同じ投薬量を毎回与えることができる。
【0196】
図30は、循環Epogen濃度の決定を表す図1470である。この図は図27の図1400と同じ構造をもつ。また、この図はEpogenに関して記載されるが、他のESA治療にも適用可能であり得る。理想の配分容積1472がシステムに入力される。Epogen投入量(ピコモル)1438は、図28に関して上述のように取得された値であり、Epogen投入量1480で入力される。EPOGEN量ピコモル1482は、Epogen半減期1486によって決定されたように体から除去される。Epogen除去1484は、Epogen半減期1486に基づくEPOGEN量ピコモル1482の日毎の数学的減少を表す。減少したEpogen量及び配分容積1472は、結果的にEpogen濃度(ピコモル)1476を決定する。
【0197】
図31は、EpogenとAranespのためのEPOR(エリスロポエチン受容体)結合を示す図1490である。しかしながら、この図は他のESA治療にも適用可能であり得ることが理解されよう。他のESA治療が使用される場合、ESA投薬システムは、それら他のESA治療に対応する同様の図及び機能を含むことができる。図1500は、ARANESPスイッチ1504及びEPOGENスイッチ1508を含む。スイッチ1504、1508によって、記述期間中にどちらの薬物が患者によって使用されるか、且つ処方期間中に提案された処方がどちらのために決定されるべきかをユーザが選択することが可能になる。
【0198】
「ESA Kd」と呼ばれる公表されたパラメータは、ESA投薬システムによって格納され、モデルの中に適用される。ESA Kdは、ユーザによって入力することができ、システムによって格納することができる、各ESA用の既知の値である。Kdは、使用されるESA及びエリスロポエチン受容体(EPOR)の解離定数を意味する。
【0199】
この例では、図31に示されるESA Kdの値は、Aranesp Kd1494及びEpogen Kd1516である。例えば、問題の薬物がAranespであると、ESA投薬システムはAranesp Kd1494と(図27に示したように決定された)Aranesp濃度1408とを結合し、「EPOR結合画分」(エリスロポエチン受容体結合画分)1510と呼ばれる計算値を決定する。同様に、問題の薬物がEpogenであると、ESA投薬システムはEpogen Kd1516と(図30に示したように決定された)Epogen濃度1476とを結合し、EPOR結合画分1510を決定する。同様の計算は他のESAがシミュレートされるときにも実行される。
【0200】
計算値「EPOR結合画分」は、治療用に使用されるESAを結合した、BFU−E細胞の表面上のepo受容体の比率を意味する。最小比率に達すると、プログラムされた細胞死(アポトーシス)の割合は、細胞の表面上に結合されたepo受容体に応答する細胞内の反応によって減少する。
【0201】
例えば、EPOR結合画分1510が(10%などの)最小比率より大きい場合、アポトーシスの割合は減少する。一方、EPOR結合画分1510が最小比率より小さい場合、アポトーシスの割合は増加する。アポトーシスの割合に対するEPOR結合画分の効果は、図32に関して下記により詳細に記載される。
【0202】
図32は、骨髄の中の網状赤血球生成のモデルの例を示す図1530である。図1530は、一般に、モデルの薬力学(PD)コンポーネントを表す。図27の図1400及び図30の図1470は、一般に、モデルの薬物動態学(PK)コンポーネントを表す。ESA投薬モデルの骨髄1530の中の赤血球生成に入力される患者特有のパラメータには、例えば、BFU投入量1280、CFU生存率1290、EpoR乗数1310、及び網状赤血球生存率1300が含まれ得る。
【0203】
CFU/E連鎖1536は、複数の世代を通して起こる細胞複製を表す。モデルによって考察される世代の数は、指定された範囲、例えば12世代から31世代の中で変わる可能性がある。BFU投入量1280は、1534でモデルに入力される、赤血球の形成に関与する芽細胞形成単位の数である。細胞分裂が原因で、CFU/E連鎖1536の中で連続する各世代の入力は、前の世代の出力の2倍である。複製間隔1538は、各世代が複製するために必要な時間の長さを表現する。例えば、複製間隔は0.75日から1.25日の範囲内、又は他の適切な間隔であり得る。CFU/E細胞は、アポトーシスを受けやすく、且つアポトーシス温存のESA治療に反応する、赤血球の血統内の細胞である。CFU/E連鎖1536内の細胞の総数は、ESA濃度によって抑えられるように、アポトーシス1543によって削減される。CFU生存率1290は、ESAがない場合アポトーシスを生き残るコロニー形成単位の画分として定義される、患者特有のパラメータである。EPOR結合画分1510及びEPOR乗数1310は、ESAがある場合のアポトーシス温存画分量1541を定義する。これはアポトーシス1543の割合を低下させ、アポトーシスを生き残り、赤芽球1542に、そして最終的に赤血球になる分裂細胞1540の数を増加させる。
【0204】
赤芽球/網状赤血球発生連鎖1544は、アポトーシスを生き残った赤芽球1542、1544の数の成熟を表す。成熟時間1546は、赤芽球の各世代が成熟するために必要な時間の長さを表現する。例えば、成熟時間は、3日から5日の範囲内、又は他の適切な成熟時間であり得る。発生連鎖1544を離れる網状赤血球の総数は、網状赤血球萎縮1548によって削減される。網状赤血球萎縮1548は、例えば、鉄分、葉酸、及びB12などの必要な補完成分の存在下で成熟に成功した網状赤血球の画分として定義された、患者特有のパラメータ網状赤血球生存率1300によって決定される。また、網状赤血球の生存は感染及び炎症によって影響される。感染の場合、細菌は鉄分を得ようと成熟細胞と競合し、成熟細胞の中のヘモグロビンの形成に利用可能な鉄分を削減する。炎症の場合、利用可能な鉄分は隔離され、成熟細胞に対する鉄分の可用性を効果的に削減する。ESA投薬システム1240の現在の実施形態では、補完成分、炎症、及び感染の状況評価は、専門家のモデルユーザによって実行される。ESA投薬モデルは、網状赤血球の生存に関して、補完成分、炎症、及び感染の状況をシミュレートするソフトウェアアルゴリズムを含むことができ、本開示はこの点で限定されない。網状赤血球萎縮を生き残る成熟細胞の数は、骨髄によって生成された網状赤血球1550の数である。
【0205】
図33は、循環中の赤血球の数をシミュレートするモデルの例の図1551である。(図32に関して上述のように決定された)網状赤血球生成1550は、循環連鎖の中の網状赤血球1554に入る。HEM1562は、患者が経験する出血(任意の理由による血液損失)に関する情報である。出血は、循環中の網状赤血球の数及び循環中の赤血球(RBC)の数、したがってヘモグロビンの数を減少させる。これらの出血の減少効果は、(例えば画分として表現される)循環からの出血網状赤血球減少1560、及び(また、例えば画分として表現される)循環からの出血RBC減少1564によって表される。成熟網状赤血球1556の数は、RBC連鎖1558に入る。RBC連鎖1558を離れるRBCの数は、任意の出血効果(1564)によって削減される。成熟RBCの総数は、赤血球の平均寿命(日)として定義される、患者特有のパラメータRBC寿命1320によって影響される。循環中のRBCの総数は、循環中の網状赤血球1554とRBC1558の和である、循環中の細胞合計1566によって表される。
【0206】
循環中の細胞合計1566(循環中の網状赤血球+循環中のRBC)は、配分容積1472とともに、シミュレートされたヘモトクリット1568を与える。ヘモトクリットに定数をかけると、シミュレートされたヘモグロビン1570が与えられる。
【0207】
図34は、それによってユーザがESA投薬システムのさまざまな態様を制御し、さまざまなパラメータ値を入力し、シミュレーションを実行、制御することなどができる、ユーザインタフェースの例1600である。これらのユーザが選択した患者特有のパラメータ値は、1つ又は複数の患者特有のパラメータ値用のスライダ1602、1604、1606、1608、1610、及び1612を介して入力することができる。ボタン1614はユーザをモンテカルロセットアップ画面に連れて行き、ボタン1616はユーザをESA投薬画面に連れて行き、ボタン1618はユーザをホーム画面に連れて行き、ボタン1620はユーザがシミュレーションを実行することを可能にし、ボタン1621はユーザがシミュレーションを停止することを可能にする。本開示は、本明細書に記載された方法の代わりに、又はそれに加えて他の方法を使用することができるので、本明細書に記載されたシミュレーションモデルのさまざまな構成要素の中のナビゲーション方法の具体例に限定されないことが理解されよう。
【0208】
図35は、プレ記述セットアップ期間1630、記述期間1632、及び処方期間1634についての、Hgb濃度履歴1622、ESA投薬量履歴1626、及びシミュレートされたHgb濃度1624を表示するグラフの例1620である。また、グラフ1620は、上述のシミュレートされた試験によって決定された処方期間についての推奨ESA投薬量1628を表示する。グラフ1620は、例えば、ユーザインタフェース1252(図20)又は他の適切なユーザインタフェースに表示することができる。特定のデータ及びグラフが図35に示されるが、本開示がこの点で限定されないこと、及び、他の関連するデータ、グラフ、テーブル、チャート又は他のデータ表示方法も表示され得ること、及び、タッチスクリーン、マウス、スタイラス、キーボード、マルチタッチ、モバイル装置、又は他のプログラムと対話する方法などの、他のタイプの機能インタフェースが、本開示の範囲から逸脱することなく使用され得ることが理解されよう。
【0209】
図35のグラフ1620は、記述期間1632についての結果に適合する曲線の例を示す。この例では、この患者用の記述期間は、継続時間で約690日であった。その期間中、実際のHgb値が30回測定され、それらの値は通常のHgb変動を表す。Aranespの92回の投薬量は、記述フェーズにおいて投与された。モデルはいわゆるプレ記述期間1630を使用して、この例では12.8g/dLに等しい、記述期間中に最初に観察されたHgb結果のHgb値をシミュレートする赤血球生成の平衡を確立する。この例では、モデルの中のプレ記述期間1630は、day−200からday0に及ぶ、継続時間で201日である。これは、理論的な(数学的に適用された)日毎のESA投薬量の存在下で平衡を確立するために必要な、シミュレーションモデルの期間である。システムが特定のESA用に最適化された治療量を決定すると、システムは、さらに医療提供者が、必要な治療量を投与し、結果的に所望のHgb値を達成し維持する、投与の最適な頻度で利用可能な投薬濃度の最も効果的な組合せを見つけるのを助けることができる。処方期間1634用の推奨投薬計画は1628によって示される。
【0210】
上述したように、Aranesp及びEpogenに関して例が本明細書に記載されたが、本明細書に記載されたESA投薬技法は、他のタイプのESA治療、他の患者集団、及び代替の投与経路にも提供可能であることが理解されよう。一般に、ESA投薬モデルを他のESA治療に適用するためには、ESA特有の定数であるESA半減期及びESA KdがESA投薬モデルに入力される。例えば、特定のESA用のESA半減期は、図27の中のAranesp半減期1418、又は図30の中のEpogen半減期1486と同じポイントで、モデルにおいて考慮に入れられるはずである。同様に、特定のESA用のESA Kdは、図31に示されたAranesp Kd1494又はEpogen Kd1516と同じポイントで、モデルにおいて考慮に入れられるはずである。当業者は、本明細書に記載されたESA投薬モデルが、多種多様のESA治療、並びに多種多様の患者集団(ESRD患者、CKD患者、癌治療患者、HIV患者、又は、ヘモグロビンが不十分でESA治療から恩恵を受けるその他の患者集団)に適用可能であり得ることを理解されよう。加えて、ESA投薬モデルは、静脈内(IV)投与、皮下投与、経口投与、生物ポンプ、埋め込み式薬物投与装置などを含む、投与の複数の方式にも適用可能であり得る。
【0211】
以下は、市販のモデリングアプリケーション(この例では、Isee Systems,Inc.から入手できるiThink(登録商標))の構文の中で表現された、図21〜図33に示されたモデルの例のための例示的な計算式である。iThink(登録商標)を使用する実装形態の例が示されるが、本明細書に記載されたESA投薬技法は、また、他の市販の、又はカスタマイズされたソフトウェアアプリケーションを使用して実装できることが理解されよう。
【0212】













【0213】
本開示に記載された技法は、プロセッサ、コントローラ、制御装置、又は制御システムによって実行される機能を含み、汎用マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブル論理回路装置(PLD)、又は他の同等な論理回路装置のうちの1つ又は複数の内部に実装することができる。したがって、本明細書で使用される用語である「プロセッサ」、「処理装置」又は「コントローラ」は、前述の構造物、又は本明細書に記載された技法の実装形態に適切なその他の構造物のうちの任意の1つ又は複数を意味することができる。
【0214】
本明細書に示されたさまざまな構成要素は、ハードウェア、ソフトウェア、又はファームウェアの任意の適切な組合せによって実現することができる。図では、さまざまな構成要素が別個のユニット又はモジュールとして描写される。しかしながら、これらの図を参照して記載されたさまざまな構成要素のすべて又はいくつかは、一般のハードウェア、ファームウェア、及び/又はソフトウェア内で結合されたユニット又はモジュールの中に統合することができる。したがって、構成要素、ユニット又はモジュールとしての特徴の表現は、説明を容易にするために特定の機能的特徴を強調することが意図され、別個のハードウェア、ファームウェア、又はソフトウェアの構成要素によるそのような特徴の実現を必ずしも必要としない。場合によっては、さまざまなユニットは、1つ又は複数のプロセッサ又はコントローラによって実行されるプログラム可能なプロセスとして実装することができる。
【0215】
モジュール、装置、又は構成要素として本明細書に記載された任意の特徴は、統合された論理回路装置の中で一緒に、又は、分離しているが相互使用可能な論理回路装置の中で別々に、実装することができる。さまざま態様では、そのような構成要素は、少なくとも一部は集積回路のチップ又はチップセットなどの、ひとまとめに集積回路装置と呼ぶことができる、1つ又は複数の集積回路装置として形成することができる。そのような回路は、単一の集積回路チップ装置の中、又は複数の相互使用可能な集積回路チップ装置の中に提供することができ、さまざまな製薬のアプリケーション及び装置のいずれにおいても使用することができる。
【0216】
一部はソフトウェアによって実装される場合、本技法は、少なくとも一部は1つ又は複数のプロセッサ又はコントローラによって実行されると、本開示に記載された方法のうちの1つ又は複数を実行する命令をもつコードを含む、コンピュータ可読データ格納媒体によって実現することができる。コンピュータ可読格納媒体は、包装材料を含むことがあるコンピュータプログラム製品の一部を形成することができる。コンピュータ可読媒体は、同期型ダイナミックランダムアクセスメモリ(SDRAM)などのランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、組込み型ダイナミックランダムアクセスメモリ(eDRAM)、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、フラッシュメモリ、磁気式又は光学式データ格納媒体を含むことができる。利用される任意のソフトウェアは、1つ又は複数のDSP、汎用マイクロプロセッサ、ASIC、FPGA、又は他の同等な統合された又は分離した論理回路などの、1つ又は複数のプロセッサによって実行することができる。
【0217】
さまざまな例が記載された。上記その他の例は以下の特許請求の範囲の範囲内である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球が人間の中で生成されるプロセスを表現する生物物理学的シミュレーションエンジンであって、その値が患者特有である複数のパラメータを含む上記生物物理学的シミュレーションエンジンと、
患者特有のヘモグロビン(Hgb)履歴データ及び対応する赤血球生成刺激剤(ESA)投薬量履歴データを受信し、前記Hgbデータ及び前記ESA投薬量データを前記生物物理学的シミュレーションエンジンに適用して前記複数のパラメータの前記患者特有の値を推定し、前記複数のパラメータの前記患者特有の値に基づいて前記ESAの治療量を決定する処理装置と
を含むシステム。
【請求項2】
前記処理装置がさらに、前記治療量に基づいて利用可能な市販の投薬量に滴定された同等の投薬計画を識別する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記パラメータが、赤芽球生成率、芽細胞死亡画分、網状赤血球死亡画分、肝臓EPO、RBC平均寿命、EC50、及びセットアップEPOのうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記パラメータが、芽細胞形成単位投入量、コロニー形成単位生存率、網状赤血球生存率、エリスロポエチン受容体乗数、赤血球寿命、及びエリスロポエチンセットアップ比率のうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記処理装置が最適化アルゴリズムを適用して前記複数のパラメータの前記患者特有の値を推定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
記述フェーズ中の前記患者特有のヘモグロビン(Hgb)履歴データ及び前記対応する赤血球生成刺激剤(ESA)投薬量履歴データのグラフを表示するユーザインタフェースをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記ユーザインタフェースが処方フェーズ中の患者特有のシミュレートされたヘモグロビンデータ及び前記ESAの前記治療量のグラフをさらに表示する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
患者特有のヘモグロビン(Hgb)履歴データ及び対応する患者特有の赤血球生成刺激剤(ESA)投薬量履歴データを受信するステップと、
前記患者特有のHgb履歴データ及び対応する患者特有のESA投薬量履歴データに基づいて、赤血球が人間の中で生成されるプロセスを表現する生物物理学的シミュレーションモデルの複数のパラメータそれぞれの患者特有の値を推定するステップと、
前記複数のパラメータそれぞれの前記患者特有の値に基づいて、予測されたHgb濃度を目標範囲内に結果的に安定させる治療量を決定するステップと
を含む方法。
【請求項9】
前記複数のパラメータそれぞれの患者特有の値を推定するステップがモンテカルロ方法を適用して前記患者特有の値を推定するステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記治療量の同等物を投与する1つ又は複数の投薬計画を識別するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記識別された投薬計画のもとでの前記患者の実際のHgb濃度に関する患者の反応データを受信するステップと、
前記識別された投薬計画のもとでの前記患者の実際のHgb濃度を前記予測された安定したHgb濃度と比較するステップと、
前記予測された安定したHgb濃度からの差異を識別するステップと、
前記識別された差異に基づいて前記生物物理学的シミュレーションモデルの前記複数のパラメータそれぞれの前記患者特有の値を再推定して治療量を更新するステップと
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記治療量を決定するステップが、
目標Hgb濃度を受信するステップと、
前記目標Hgbが得られるまで前記パラメータそれぞれの前記患者特有の値を一連の提案された治療投薬に繰り返し適用するステップと
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
記述期間中に取得された患者特有のヘモグロビン(Hgb)履歴データ及び対応する患者特有の赤血球生成刺激剤(ESA)投薬量履歴データを受信するステップと、
前記患者特有のHgb履歴データ及び対応する患者特有のESA投薬量履歴データに基づいて、赤血球が人間の中で生成されるプロセスを表現するモデルの複数のパラメータそれぞれの患者特有の値を推定するステップと、
前記患者特有の値に基づいて処方期間についての患者特有のHgb値をシミュレートするステップと、
前記処方フェーズ中に前記患者特有のシミュレートされたHgb値を目標範囲内に維持する前記ESAの治療量を識別するステップと
を含む方法。
【請求項14】
前記パラメータが、芽細胞形成単位投入量、コロニー形成単位生存率、網状赤血球生存率、エリスロポエチン受容体乗数、赤血球寿命、及びエリスロポエチンセットアップ比率のうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
患者特有のヘモグロビン(Hgb)履歴データ及び対応する患者特有の赤血球生成刺激剤(ESA)投薬量履歴データを受信するステップと、
赤血球が人間の中で生成されるプロセスを表現するモデルの複数のパラメータそれぞれの患者特有の値を最適化して、前記患者特有のHgb履歴データ及び対応する患者特有のESA投薬量履歴データとの最良適合を決定するステップと、
患者特有のシミュレートされたHgb値を目標範囲内に維持する前記ESAの治療量を決定するステップと
を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17A】
image rotate

【図17B】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate


【公表番号】特表2013−516680(P2013−516680A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547335(P2012−547335)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【国際出願番号】PCT/US2011/020120
【国際公開番号】WO2011/082421
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(595166011)メイオウ ファウンデイション フォア メディカルエジュケイション アンド リサーチ (1)
【Fターム(参考)】