説明

走査型プローブ用の金属探針およびその製造方法

走査型プローブ用の金属探針(1)が提供される。この探針(1)は、軸方向長さ(l)と、半径方向幅(d)と、最大半径方向幅の区域(5)から原子レベルで鋭利な端部(9)まで軸方向に延びる尖った区域(B)と、最大半径方向幅の区域(5)から丸みのある端部(7)まで軸方向に延びる丸みのある区域(A)とを有し、尖った区域(B)の軸方向長さが、丸みのある区域(A)の軸方向長さよりも大きい。金属探針(1)は10μg以下の質量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ用の金属探針、およびそのような探針を製造するための方法に関する。さらに、本発明は、走査型プローブ顕微鏡センサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば走査トンネル顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、および関連技法などの走査型プローブ用途において、探針とプローブ対象の表面との間でのトンネル電流または静電気力や磁力などの力を感知するために、原子レベルで鋭利な探針が使用される。第1の形態の走査型プローブ用途では、探針がカンチレバーの端部に位置され、カンチレバーが、プローブ対象の表面に近付けられ、またはその表面に接触させられ、カンチレバーの撓みから測定信号が導出される。別の撮像形態では振動子が使用され、振動子は、その基本共鳴振動数もしくはその高調波で、またはそれに近い振動数で振動する。探針とプローブ対象の表面との相互作用が、振動の振幅、位相、または周波数を変える。したがって、振動周波数、振幅、または位相の変化は、プローブ対象の表面に関する情報を含む。試料を走査し、振動子の振動の変化を監視することによって、試料表面の画像を導出することができる。
【0003】
特に、振動センサが走査型プローブ用途で使用される場合、振動の高い品質係数(Q値)が望ましい。Q値は、振動子の帯域幅、すなわち振動子が共振する振動数範囲に関する尺度であり、また振動の減衰の度合いに関する尺度でもある。Q値が高ければ高いほど、帯域幅および減衰の度合いが小さくなり、これは試料表面の画像をより高品質にする。
【0004】
走査型プローブ用途に必要とされるような原子レベルで鋭利な探針の製造は、様々な方法で行うことができる。第1の方法では、微小の金属ワイヤが、鋏またはメス(scalpel)によって切断される。しかし、探針を製造するこの方法は、切断の結果を再現するのが難しいので、探針を使用する前に探針の試験を必要とする。探針を製造する別の技法はエッチングである。例えば、特許文献1または非特許文献1に、様々なエッチング技法が記載されている。エッチング技法は通常、第1の電極としての金属ワイヤを電解エッチング溶液中に浸漬し、そのワイヤと、エッチング溶液中に位置された第2の電極との間に電圧を印加することに依拠する。電圧が印加されるとき、エッチング溶液と空気との境界層でワイヤから材料が除去される。しばらくすると、ワイヤは境界層において非常に細くなって、エッチング溶液中に浸漬されている部分が滴下する。次いで、ワイヤおよびエッチング溶液を通って流れる電流がすぐに切断されて、ワイヤのその後のエッチングを停止し、このワイヤが後で探針として使用される。他のエッチング技法では、小さなリング電極が使用され、そこを通ってワイヤが延びる。電解質フィルムがワイヤとリング電極の内面との間に位置され、それにより、リング電極によって取り囲まれる領域内でエッチングが行われる。しばらくすると、ワイヤはエッチング区域において非常に細くなって、ワイヤの下側部分が滴下する。その後、この部分が探針として使用される。
【0005】
上記の方法は、原子レベルで鋭利な探針を製造するのに適しているが、音叉または同様の対称形共振子を採用するセンサでのより高いQ値を可能にするエッチング加工された探針が依然として望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,630,932号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Kulawik “A double lamellae drop off etching procedure for tungsten tips attached to tuning fork atomic force microscopy/scanning tunnelling microscopy sensors”, Review of Scientific Instruments, vol. 74, No. 2, February 2003
【非特許文献2】Boon Ping Ng et al. “Improve performance of scanning probe microscopy by balancing tuning fork bronze” Ultramicroscopy, vol. 109, issue 4, March 2009, pages 291 to 295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、振動センサの高いQ値を可能にする走査型プローブ用途で使用するための金属探針を提供することである。本発明のさらなる目的は、走査型プローブ用の金属探針を製造する有利なエッチング方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、有利な走査型プローブ顕微鏡センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目的は、請求項1に記載の走査型プローブ用の金属探針、請求項6に記載の走査型プローブ顕微鏡センサ、および請求項8に記載の走査型プローブ用の金属探針を製造する方法によって解決される。従属請求項は、本発明のさらなる発展形態を含む。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、走査型プローブ用の金属探針が提供される。この探針は、軸方向長さと、半径方向幅と、最大半径方向幅の区域から原子レベルで鋭利な端部まで軸方向に延びる尖った区域と、最大半径方向幅の区域から丸みのある端部まで軸方向に延びる丸みのある区域とを有する。金属探針は、10μg以下、特に5μg以下、好ましくは3μg以下の質量を有する。尖った区域の軸方向長さは、丸みのある区域の軸方向長さよりも長い。
【0011】
本発明による低質量の金属探針は、特に走査型プローブ顕微鏡センサでの対称形水晶振動子のQ値を高めることを可能にし、それによりプローブ対象の表面の高品質画像を実現することができるようにする。さらに、それらの探針は、自己制御式エッチングプロセスによって製造することができる。
【0012】
探針は、周期表の第4〜6周期の第6〜11族に属する金属、または主成分としてこれらの金属の少なくとも1つを含む合金からなることがある。探針を形成することができる例示的な材料は、特に、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、または白金とイリジウムの合金である。
【0013】
今日まで、Q値の改良は、探針の質量とのバランスを取るために対称形振動子に追加の質量を取り付けることによって実現されている。そのようなバランスの取り方は、例えば非特許文献2に記載されている。本発明による探針では、従来技術のエッチング加工された探針よりも質量が低いので、追加の質量を使用することなくQ値を改良することができる。
【0014】
本発明による探針は、走査型プローブ用の金属探針を製造する本発明による方法を使用することによってエッチング加工することができる。この方法は、第1の電極が浸漬された電解質を提供するステップと、第2の電極としてワイヤを電解質中に部分的に浸漬するステップと、電解質中に浸漬されているワイヤの部分が滴下するまで、第1の電極とワイヤの間に電圧を印加するステップと、走査型プローブ用の金属探針として使用するために、滴下された部分を洗浄して電解質を除去するステップとを含む。本発明による探針の製造は、本発明による方法によれば、ワイヤを600μm以下、特に400μm以下の量だけ電解質中に部分的に浸漬することによって可能になる。
【0015】
本発明による方法は、ワイヤが600μm以下、好ましくは400μm以下だけ電解質中に浸漬されるときに、エッチング中にワイヤから非常に微小の部分が滴下するという知見に基づいている。
【0016】
本発明による方法によって製造される金属探針は、典型的には、最大半径方向幅の区域から原子レベルで鋭利な端部まで軸方向に延びる尖った区域に加えて、最大半径方向幅の区域から丸みのある端部まで軸方向に延びる丸みのある区域を有し、尖った区域の軸方向長さは、丸みのある区域の軸方向長さよりも大きく、特に少なくとも3倍、典型的には5〜10倍である。丸みのある区域は、卵形、特に円形または楕円形を有することがあり、したがって探針は細長い滴形を有する。
【0017】
本発明による方法を用いて製造される本発明による探針の最大軸方向長さは、500μm以下、特に350μm以下であり、その最大半径方向幅は50μm以下、特に25μm以下である。
【0018】
金属探針を製造する本発明による方法では、電解質中に浸漬されている部分がワイヤから滴下するとワイヤが電流源に接続されなくなるので、探針のエッチングがすぐに停止する。したがって、探針、すなわち滴下されるワイヤ部分のエッチングは自己制御式であり、また、残りのワイヤのその後のエッチングは大きな問題ではないので、高速の切断スイッチメカニズムを用いて電流を切断する必要はない。
【0019】
本発明による方法のさらなる発展形態によれば、電極中に先に浸漬された金属ワイヤの部分が滴下した後、金属ワイヤの次の部分を電解質中に浸漬するために金属ワイヤが前送りされ、ワイヤと第1の電極の間の電圧が、ワイヤの上記次の部分が滴下するまで再び印加される。これは、所望の個数の探針が製造されるまで、またはワイヤがすべて使い尽くされるまで繰り返すことができる。次いで、金属ワイヤの複数の部分が滴下した後に、洗浄ステップを行うことができる。すなわち、所望の長さのワイヤが使い尽くされた後、複数の探針を一括で洗浄することができる。
【0020】
洗浄ステップは、特に、電解質を溶解する希釈剤によって電解質を希釈することによって行うことができる。電解質を希釈するステップは、ある量の電解質を同量の希釈剤によって置換することによって行うことができる。これもまた1回または複数回繰り返すことができる。
【0021】
電解質へのワイヤの自動前送りを可能にするために、ワイヤを通る電流を監視することによって、電解質中に浸漬されているワイヤの部分があるかどうか監視することができる。電解質中に浸漬されている部分が滴下するとすぐに、ワイヤを通って対向電極に流れる電流が降下し、これが、ワイヤの次の部分を前送りできることを示す。
【0022】
電解質中に部分的に浸漬されるワイヤは、好ましくは直径100μm以下、特に50μm以下であり、したがって探針の質量を不必要に高くしなくて済む。細いワイヤを用いると、本発明による方法から得られる探針は、エッチングプロセスによって元のワイヤに比べて直径が約2分の1に減少される。したがって、元の直径が100μmのワイヤは、直径約50μmの探針をもたらし、元の直径が50μmのワイヤは、直径約25μmの探針をもたらす。
【0023】
本発明のさらなる態様によれば、本発明による金属探針を備える走査型プローブ顕微鏡センサ(SPMセンサ)が提供される。センサは特に、第1の振動子アームと、探針が固定された第2の振動子アームとを備える対称形振動子でよい。本発明によるセンサは、高いQ値を可能にし、これは、第1の振動子アームでの釣合質量(counter mass)を使用せずに、プローブ対象の試料表面の高品質画像を得ることができるようにする。
【0024】
本発明のさらなる特徴、特性、および利点は、添付図面に関連付けた以下の実施形態の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による探針を示す図である。
【図2】図1の探針を製造するためのエッチングシステムの概略図である。
【図3】エッチングが完了する直前の探針を示す図である。
【図4】電子顕微鏡によって見られる複数の完成した探針を示す図である。
【図5】本発明による探針を備えるSPMセンサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による探針の特徴および特性を図1を参照して説明する。図1は概略図にすぎず、半径方向寸法と軸方向寸法の比は、該当する実際の探針の比に必ずしも対応していないことに留意されたい。
【0027】
本発明による探針1は、長手方向軸3に沿って約300〜400μm、典型的には約350μmの軸方向長さlを有する細長い滴形である。探針は、長手方向軸3に対して半径方向対称性を示し、最大半径方向幅dの区域5を有する。丸みのある区域Aが、最大半径方向寸法の区域5から丸みのある端部7まで延び、尖った区域Bが、最大半径方向幅の区域5から原子レベルで鋭利な端部9まで延びる。最大半径方向幅の区域での探針1の直径は、50μm以下の範囲であり、特に20〜30μmの範囲内であり、典型的には25μmである。尖った区域は、丸みのある区域よりもはるかに長い。典型的には、尖った区域の軸方向長さは、丸みのある区域の軸方向長さの約5〜10倍である。
【0028】
探針1は、複数の材料からなることがある。走査型プローブ用の探針を製造するために使用される典型的な材料は、特にタングステン、白金、およびイリジウムである。白金イリジウム合金などの合金もよく使用される。しかし、基本的には他の材料を使用することもできる。そのような他の材料は、例えばマンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)であり、これらは周期表の第4周期の第7〜10族の材料である。基本的に探針を作製するのに適した他の材料は、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、およびパラジウム(Pd)であり、これらは周期表の第5周期の第8〜10族の材料である。既に述べた第6周期の材料、すなわちタングステン、イリジウム、および白金に加えて、この周期の他の材料、例えばオスミウム(Os)および金(Au)またはレニウム(Re)も適している。概して、周期表の第4〜6周期の第6〜11族に含まれる材料が、一般に本発明による探針を製造するのに適している。
【0029】
探針1の質量は10μg以下、特に5μg以下、好ましくは3μg以下である。探針の質量は、その寸法および探針材料の密度によって決まることに留意されたい。この例示的実施形態では、探針1は、19.25g/cmの密度を有するタングステンからなる。長さ350μmであり直径25μmのタングステン円柱体は、約3.3μgの質量を有する。探針の主要部分は概して円錐形であるので、その質量は、円柱体の質量の約1/3となる。したがって、長さ350μmであり最大直径25μmのタングステン探針の質量は、1μgの範囲内となる。タングステン探針と同じ直径および長さの探針1を製造するためにタングステンとは異なる材料が使用される場合、質量はその材料の密度に相関する。しかし、タングステンなど第6周期に属する上に挙げた材料は、すべて約20g/cmの密度を有するので、すべてほぼ同じ質量である。第5周期または第4周期からの材料の場合、これらの材料の密度は第6周期の上記の材料の密度よりも小さいので、同じ寸法の探針はさらに軽くなる。
【0030】
図2は、本発明による金属探針1を製造するための典型的なエッチングシステムを示す。エッチングシステムは、エッチング溶液となる電解質13で満たされた容器11を備える。リング形の第1の電極がエッチング溶液中に浸漬される。さらに、金属探針の原材料である金属ワイヤ17が、600μm以下、特に400μm以下の量だけ電解質13中に部分的に浸漬される。この金属ワイヤ17が第2の電極を成して、電解質13中に浸漬されているワイヤ部分の電解エッチングを可能にする。
【0031】
エッチングプロセスを行うために、2つの電極間にDC電圧が印加され、それにより、電解質13中に浸漬されているワイヤ部分19から材料が剥離除去される。このエッチングプロセスでは、最大剥離速度は、電解質13と周囲雰囲気(典型的には空気)との境界の近くで実現される。ただし、窒素や不活性ガスなど他のガスを雰囲気として使用することもできる。
【0032】
図3に、電解質13中に浸漬されている部分を有する金属ワイヤ17が、エッチングプロセスが完了する直前の状態で示されている。最大エッチング速度の位置が電解質13の表面21の近くであるので、電解質13中に浸漬されているワイヤ部分19での材料減少も電解質表面21の近くで最大であることを見て取ることができる。したがって、電解質13と雰囲気との境界の近くに狭窄部23が生じ、この部分が最終的には非常に細くなって、電解質13中に浸漬されているワイヤ部分19がワイヤ17から滴下して、所望の金属探針が形成される。
【0033】
エッチングプロセスは、電解質13を通って2つの電極間を流れる電流を監視することによって制御される。電解質中に浸漬されているワイヤ部分19が滴下する瞬間に、電解質13を通って流れる電流の急減を観察することができる。ワイヤ17および電解質13を通って流れる電流を測定する電流計25に接続された制御デバイス27がこの電流を監視し、電流の急激な低下を認識した場合に、やはりその制御デバイス27が接続されている制御可能なスイッチ29によってDC電圧を切断する。ただし、残ったワイヤ17ではなく、滴下されたワイヤ部分19が探針として使用されるので、DC電圧を急速に切断することは重要ではないことに留意されたい。したがって、探針のエッチングプロセスは、ワイヤ部分19がワイヤ17から滴下されるとすぐに停止する。DC電圧の切断は、ワイヤ17を消費しすぎないようにするため、およびワイヤ移動中にエッチングが生じないようにしながら次のワイヤ部分を電解質13に供給できるようにするためだけのものである。その後、DC電圧の投入が、エッチングの開始を厳密に定義する。
【0034】
ワイヤ17が前送りされ、それにより、次のワイヤ部分19が600μm以下の量、特に400μm以下の量だけ電解質13中に浸漬されると、制御デバイス27によってスイッチ29が再び閉じられて、別の探針をエッチング加工する。前送りも制御デバイス27によって制御することができるので、探針を作製するプロセス全体を完全に自動化することができる。
【0035】
本発明による方法の使用によって探針を作製するための具体例として、タングステン探針の形成を説明する。直径50μmのタングステンワイヤが、この例では水酸化ナトリウム(NaOH)である電解質中に前送りされる。ワイヤは、400μmの量だけ水酸化ナトリウム中に浸漬される。エッチングを開始するために、アノードを形成するタングステンワイヤと、カソードを形成するリング形電極15との間にDC電圧が印加される。次いで、NaOH中に浸漬されているワイヤ部分19でエッチングが行われ、最大エッチング速度の位置は、雰囲気/電解質界面の近くである。DC電圧の印加中、エッチングプロセスを追跡するために、タングステンワイヤ17を通って流れる電流が監視される。
【0036】
電圧が印加されている限り、浸漬されているワイヤ部分19の全周でワイヤのエッチングが進行し、最大エッチング速度の位置は引き続き雰囲気/電解質界面の近くである。最終的に、浸漬されているタングステンワイヤ部分の雰囲気/液体界面の近くでの直径が非常に細くなって、細長い滴形となった浸漬部分がタングステンワイヤ17から滴下する。この瞬間、タングステンワイヤが電解質と直接接触しなくなるので、電気回路が遮断され、したがってエッチングプロセスが自動的に停止される。他のエッチングプロセスの場合とは異なり、雰囲気側にある残ったタングステンワイヤ17ではなく、滴下された部分19が探針として使用される。さらにいくつかの探針を製造する場合、タングステンワイヤを電解質中に前送りして、ワイヤの次の部分を400μmの量だけ電解質中に浸漬することができる。
【0037】
上記のエッチングプロセスでは、電解質中に浸漬するワイヤの長さを調節することによって、エッチング加工される探針の長さを厳密に調整することができる。金属探針を繰り返し製造するための典型的な自動プロセスは、以下のステップを含む。
1.ワイヤを電解質中に浸すステップであって、規定の長さを電解質中に浸すステップ。
2.DC電圧を印加し、流れる電流を監視するステップ。
3.測定される電流が途切れるまでエッチング加工するステップ。
4.DC電圧を切断するステップ。
5.タングステンワイヤを規定の長さだけ前送りするステップ。
6.望まれる個数の探針が製造されるまで、または金属ワイヤが使い尽くされるまでステップ2〜5を繰り返すステップ。
【0038】
上述した方法に従って製造された複数の探針の写真が図4に示される。電子顕微鏡によって撮影されたこの写真は、本発明によるエッチングプロセスによって実現される再現性を実証する。
【0039】
典型的には電解質容器11の底に沈んだエッチング加工された探針を使用するために、探針の機械的な損傷または湾曲または丸まりを防止するために機械的に接触しないようにしながら、探針を洗浄して電解質を除去する必要がある。これを行うために、電解質13は、電解質13を溶解する希釈剤によって連続的に置換される。典型的には、特に電解質として水酸化ナトリウムが使用される上の例では、希釈剤として蒸留水を使用することができる。電解質13の希釈は複数回繰り返され、典型的には、各希釈サイクルで電解質の3分の2が蒸留水によって置換される。複数回の希釈サイクルの後には、容器11から探針を取り出すときに電解質による探針の汚染がもはや観察されなくなる程に電解質が希釈される。電解質として水酸化ナトリウムが使用され、希釈剤として蒸留水が使用される上の例では、典型的には、探針を洗浄するのに5回または6回の希釈サイクルで十分である。但し、電解質の割合がより多いまたはより少ない場合、例えば2分の1または4分の1とした場合、希釈サイクルによる置換が必要となる。
【0040】
水酸化ナトリウムおよび蒸留水が電解質および希釈剤として使用されているが、他の電解質および希釈剤を使用することもできる。特に、金属ワイヤが形成される材料に鑑みて電解質を選択することができる。同様に、使用される電解質に鑑みて、希釈剤および/または置換の割合を選択することができる。例えば、いくつかの電解質は、水に可溶ではなく、例えばアルコールに可溶である。さらに、エッチングプロセスでDC電圧を使用する必要はない。基本的にはAC電圧を使用することもできる。さらに、特に製造すべき探針の材料および使用される電解質に鑑みて、電解質の温度、電圧の大きさ、電解質中に浸漬される対向電極の材料および幾何形状、または洗浄処理を変えることもできる。
【0041】
本発明による探針1は、走査型プローブ顕微鏡センサの対称形水晶振動子と共に使用することができる。対称形水晶振動子を含む走査型プローブ顕微鏡センサ31の一実施形態が図5に概略的に示されている。センサは、振動子を形成する水晶ロッド33を備え、水晶ロッド33は、その中央で支持フレーム35の2つのアーム35A、35Bによって支持される。水晶ロッド33の第1のアーム33Aはフレーム35内に延び、本発明による探針1が端部に固定された第2のアーム33Bは、フレーム35とは逆方向に延びている。
【0042】
水晶ロッド33は、2つの金コーティング37A、37Bを備え、これらのコーティング37A、37Bは、互いに逆を向いたロッド33の円周領域に塗布される。これらの金コーティング37A、37Bは互いに絶縁され、電極を形成し、これらの電極がそれぞれアーム35A、35Bに電気的に接続される。これらのアーム35A、35Bは導電性材料から形成され、非導電性材料のフレーム区域35Cによって互いに絶縁されている。水晶ロッド33の電極の一方、この例では電極37Aに、フレーム35のアーム35Aを通して正弦波励起電圧Uexcを印加することによって、水晶ロッド33の共鳴振動を励起することができる。印加された電圧は、圧電効果により水晶ロッドを伸縮させる。この圧電効果は、第2の電極37Bにおいてロッド表面上で電荷を誘発し、これを振動電流Ioscとして検出することができる。この電流は、第2の電極37Bによって測定することができる。
【0043】
探針1がプローブ対象の試料表面に非常に近付けられるとき、表面39によって探針1に及ぼされる力がロッド33の共鳴振動に影響を及ぼし、それにより振動電流Ioscが変調される。この変調は、試料の表面構造に関する情報を含み、したがって表面の画像を導出することを可能にする。共鳴振動のQ値が高ければ高いほど、表面構造を高品質で撮像することができる。水晶ロッド33に取り付けられる探針1のより低い質量が、より高いQ値を実現可能にする。したがって、本発明による非常に低い質量の探針1は、非常に高いQ値を有する走査型プローブ顕微鏡センサの製造を可能にする。
【0044】
図5に関して説明したセンサ31は、そのようなセンサの1つの可能な構成にすぎないことに留意されたい。直線形の水晶ロッドではなく音叉形の構造が使用される構成など、他の構成も可能である。さらに、探針1が水晶ロッド33の先端部にある電極によって導電接触される場合、試料表面と探針の間のトンネル電流を測定することができる。したがって、探針は、様々な種類の走査型プローブ顕微鏡に使用することができ、例えば原子間力顕微鏡、または探針に対する上記の電気接触がある場合には走査トンネル顕微鏡に使用することができる。
【0045】
本発明は、走査型プローブ用の非常に低い質量のエッチング加工された探針、およびそのような探針を製造するための方法を提供する。その非常に低い質量により、探針は、高いQ値を有する走査型プローブ顕微鏡センサを製造するために使用することができる。さらに、探針を製造するためのエッチングプロセスは自己制御式のものであり、すなわち、探針が滴下されると自動的に停止する。これは、ワイヤの雰囲気側を探針として使用する他の技法と比べて大きな利点である。なぜなら、そのような他の技法では、エッチングプロセスを停止するのに高速の電子回路が必要となるからである。探針は、自動化されたエッチングプロセスで、非常に高い再現性で製造することができる。
【符号の説明】
【0046】
A 丸みのある区域
B 尖った区域
1 探針
3 長手方向軸
5 最大半径方向幅の区域
7 丸みのある端部
9 原子レベルで鋭利な端部
11 容器
13 電解質
15 電極
17 金属ワイヤ
19 電解質中に浸漬されているワイヤ部分
21 表面
23 狭窄部
25 電流計
27 制御デバイス
29 スイッチ
31 センサ
33 水晶ロッド
35 フレーム
37A 金コーティング
37B 金コーティング
39 試料表面
l 軸方向長さ
d 最大半径方向幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型プローブ用の金属探針(1)であって、軸方向長さ(l)と、半径方向幅(d)と、最大半径方向幅の区域(5)から原子レベルで鋭利な端部(9)まで軸方向に延びる尖った区域(B)と、最大半径方向幅の区域(5)から丸みのある端部(7)まで軸方向に延びる丸みのある区域(A)とを有し、前記尖った区域(B)の軸方向長さが、前記丸みのある区域(A)の軸方向長さよりも大きく、前記金属探針(1)が10μg以下の質量を有する金属探針(1)。
【請求項2】
前記最大軸方向長さ(l)が500μm以下である請求項1に記載の金属探針(1)。
【請求項3】
前記最大半径方向幅(d)が50μm以下である請求項1または2に記載の金属探針(1)。
【請求項4】
周期表の第4〜6周期の第6〜11族に含まれる材料から選択される金属、または主成分として前記金属の少なくとも1つを含む合金からなる請求項1から3のいずれか一項に記載の金属探針(1)。
【請求項5】
走査型プローブ用の探針としての請求項1から4のいずれか一項に記載の金属探針(1)の使用。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の金属探針(1)を備えることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡センサ(31)。
【請求項7】
第1の振動子アーム(33A)と、前記探針(1)が固定された第2の振動子アーム(33B)とを備える対称形振動子(33)を備えることを特徴とする請求項6に記載の走査型プローブ顕微鏡センサ(31)。
【請求項8】
走査型プローブ用の金属探針(1)を製造する方法であって、
第1の電極(15)が浸漬された電解質(13)を提供するステップと、
第2の電極としてワイヤ(17)を前記電解質(13)中に部分的に浸漬するステップと、
前記電解質(13)中に浸漬されているワイヤ(17)の部分(19)が滴下するまで、前記第1の電極(15)と前記ワイヤ(17)の間に電圧を印加するステップと、
走査型プローブ用の金属探針(1)として使用するために、前記滴下された部分(19)を洗浄して前記電解質を除去するステップとを含み、
前記ワイヤ(17)が、600μm以下の量だけ前記電解質中に部分的に浸漬されることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記電極(13)中に先に浸漬された前記金属ワイヤ(17)の部分(19)が滴下した後、前記金属ワイヤ(17)の次の部分を前記電解質(13)中に浸漬するために前記金属ワイヤ(17)が前送りされ、前記第1の電極(15)と前記ワイヤ(17)の間の電圧が、前記ワイヤ(17)の前記次の部分が滴下するまで再び印加されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記洗浄するステップが、前記金属ワイヤ(17)の複数の部分が滴下された後に行われることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記洗浄するステップが、前記電解質(13)を溶解する希釈剤によって前記電解質(13)を希釈することによって行われることを特徴とする請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電解質(13)を希釈するステップが、ある量の電解質(13)を同量の希釈剤によって置換することによって行われることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記電解質(13)を希釈するステップが少なくとも1回繰り返されることを特徴とする請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記電解質(13)中に浸漬されている前記ワイヤ(17)の部分(19)の滴下が、前記ワイヤ(17)を通って流れる電流を監視することによって監視されることを特徴とする請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ワイヤ(17)が直径100μm以下であることを特徴とする請求項8から14のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−501227(P2013−501227A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523249(P2012−523249)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004915
【国際公開番号】WO2011/015378
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(512028770)スペックス サーフェス ナノ アナリシス ゲーエムベーハー (2)