説明

走査型プローブ顕微鏡用探針の作成方法

【課題】本発明の課題は、構造的に耐磨耗性が高いと共に必要な剛性を持ち、試料面に対してチップが垂直になるようにカンチレバー先端に取り付け形成され、また素材が導電性を有し、分解能が安定で測定再現性がよいプローブ顕微鏡の探針を提供すること、また、溝部側壁位置を測定できるプローブを提供することにある。
【解決手段】本発明のプローブ顕微鏡用の探針作成方法は、カンチレバー先端部に集束イオンビームを用いた化学蒸着法により、タングステンあるいはダイヤモンドライクカーボンといった導電性素材の堅固な円筒柱状のチップを形成させたものであって、プローブ走査時に探針が試料面に垂直となる方向に成長形成させ、また、該探針先端部の形状が略球形形状となるように形成させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡の探針を作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子間力顕微鏡(AFM)のカンチレバー先端部の探針は、シリコンナイトライド(窒化ケイ素)あるいはシリコンを母材として、リソグラフィー、エッチング等のマイクロファブリケーション技術を用いてカンチレバー部を作成していた。特にセンサ部である探針先端は、原子間力顕微鏡のプローブとして先端を鋭くすることが求められてきた。具体的な加工法としては酸化させその後のエッチングにより酸化膜を除去し先鋭化を行なっていた。この場合、針先先端の形状は、図4に示されるように円錐形状(結晶状態により角錐形状)である。(非特許文献1)この他AFMの探針としては、走査型電子顕微鏡(SEM)の真空チャンバー中でカンチレバーのチップ先端に電子ビームを照射し、該照射部分に電子ビームによってカーボン分解物を堆積させて形成するデポジションチップも提示されている。これは、円筒形状のチップを形成することができるが、衝撃に弱くAFMのチップとしての強度が不足した。また、2〜数10層のグラファイト状の炭素が積み重なってできた多重のチューブであるカーボンナノチューブを、AFMの探針として用いる試みもなされている。しかし、このカーボンナノチューブをAFMのカンチレバーの先端に取り付ける加工が困難である上、うまく取りつけられても剛性が低いため側壁に吸着され、段差試料の測定には不向きである。
【0003】
前記シリコンナイトライドあるいはシリコン素材のカンチレバーの探針は、図4に示されるように針先先端の形状が鋭い円錐(角錐)形状であるために、画像を採取する目的で探針が試料と接触するたびに針先先端部より磨耗し、針先先端径が変化してしまう。プローブ顕微鏡の画像分解能は、原理上針先径で決まるため、これらの画像は測定中に分解能が劣化してしまうことになる。また針先径が磨耗によって変わる状態が検知できないため、LSIの線幅などの測定には再現性が得られず、また精度が不十分であった。また従来の探針は、図1のAに示されるようにカンチレバー面に垂直方向に形成されており、走査に際してはカンチレバーが試料面に斜め上方から接触する形態となるため、探針の接触角度が試料面に対して垂直とはならない。そのため、側壁の角度が正しく測定されず、垂直に切り立った側壁の測定は困難であった。ちなみに理想の探針方向は図1のBのように試料面に対して垂直となることである。また従来の探針は、導電性を得るために表面に金属膜をコーティングしていたが、画像測定の走査途中に金属膜が剥離しやすく、また金属膜をコートするために、探針先端径が増加し画像の分解能が低下してしまうという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記問題を解決するもので、構造的に耐磨耗性が高いと共に必要な剛性を持ち、試料面に対してチップが垂直になるようにカンチレバー先端に取り付け形成され、また素材が導電性を有し、分解能が安定で測定再現性がよいプローブ顕微鏡の探針を提供すること、また、溝部側壁位置を測定できるプローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のプローブ顕微鏡用の探針は、カンチレバー先端部に集束イオンビーム(FIB)を用いた化学蒸着法(CVD)により、タングステンあるいはダイヤモンドライクカーボン(DLC)といった導電性素材の堅固な円筒柱状のチップを形成させたものであって、プローブ走査時に探針が試料面に垂直となる方向に成長形成させ、また、該探針先端部の形状が略球形形状となるように形成させたものである。また、電気量を検出するプローブ顕微鏡の場合には、電気信号をピックアップする為にシリコンまたはシリコンナイトライドのカンチレバー上に導電性の金属をコートするようにし、根元の強度を補強するためには、従来のシリコン探針先端部の面積を広く平らに加工した土台を基部にしたFIB−CVDにより円筒状のチップを成長させた構造とした。また、応用例として同一カンチレバー上に長さの異なる円筒状のチップを複数本立てた構造とすることにより、第一の針が損傷しても次の針により測定が出来るように、先端部に円筒状チップ間の角度が既知である2本のチップを形成することにより、試料の側壁の測定を可能とする工夫を加えた。更に、カーボンナノチューブの探針に剛性をもたせる為、FIB−CVDによって周囲を補強する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の走査型プローブ顕微鏡用探針は、カンチレバーの探針先端に、FIB−CVDによって有機ガスを分解させ、分解したDLCや金属の堆積物によって先端径が細い上に堅固な円柱状のチップを形成させたものであるため、針先の磨耗による針先先端径の変化が少なく、線幅、側壁の角度の測定精度が向上した。また、形成されたダイヤモンドライクカーボンや金属の円柱状のチップはそれ自体が導電性であるため、金属膜をコーティングしたときのような剥離もなく、堅牢で導電性の良い探針が得られらた。形成された円柱状のチップ自体が導電性である構成に、カンチレバーの素材としてシリコンまたはシリコンナイトライドを用い、導電性の金属をコートする構成を採用したことにより試料の電気的情報を測定する走査型プローブ顕微鏡のプローブとして最適である。また、形成された円柱状のチップが磁性体であるものは、試料の磁気的情報を測定する走査型プローブ顕微鏡のプローブとして局部的情報を高感度に検出できると共に、剥離などの問題が無く機械的にも安定した探針を提供できる。カーボンの堅固な円柱状チップを形成させた先端に金属円柱状チップを継いで形成させた走査型プローブ顕微鏡用探針は所望特性の金属を試料と接触する部分のみに存在させることが出来るので高分解能のプローブとして好適である。
【0007】
本発明の走査型プローブ顕微鏡用探針は、従来のシリコン探針先端部の面積を広く平らに加工した土台の上に、FIB−CVDにより円筒状のチップを成長させた構造としたので、探針特に根元部分の強度を堅牢にすることができた。更に、その基礎となる平坦面を試料表面と平行となるように形成することで更にその固着が堅固となる。また、円柱状チップの先端形状が半球形状になるようにデポジションを行なったことにより、測定した顕微鏡像の像ボケの補正が容易であると共に、試料面に対する接触状態が面接触となって安定で導電性等の測定再現性が高くなった。また、試料面に傷がつき難く先端部に圧力をかけることができる。本発明の走査型プローブ顕微鏡用探針は、探針先端部をFIB−CVDによって円柱状チップが形成されるものであるため、試料ステージをカンチレバーの傾き分だけチルトしてイオンビームを照射するだけで走査時には試料面に垂直に接触する理想形態が実現できる。
【0008】
本発明の走査型プローブ顕微鏡用探針は、同一カンチレバー上に長さの異なる円柱状チップを複数個立てた構造とすることにより、第一の針が損傷しても次の針により測定が出来る。また、探針先端部に方向を異にする複数本の円柱状ティップを形成するか、探針先端部をベル形状としたものは、ベースチップに対する該チップの先端の位置が既知であることにより、試料の溝部或いは穴部側壁の測定を可能とした。更に、円柱状チップの太さを部分的に細く形成し、所定の場所で折れるようにしたことにより、測定途上で先端部が不都合に変形したり、異物が付着したような場合に意識的に負荷をかけ先端部分を折って次の節を先端部として使用することができる。
また、細い円筒状のCNTの周囲に本発明のFIB−CVD技術でタングステン又はDLCを堆積させた構造の探針である本発明の走査型プローブ顕微鏡用探針は、CNTを用いたAFMの探針の剛性に欠ける欠点を補強し実用化を果たした。
【0009】
本発明の走査型プローブ顕微鏡用探針の作成方法は、探針の先端に、集束イオンビーム装置の真空チャンバー内でイオンビームによって有機ガスを分解させ、分解した堆積物によって堅固な円柱状のチップを作成する工程において、成長する探針部のガスの分圧を一定に保ちかつイオンビーム電流を一定にした条件の下で成長させるようにすることで、探針の長さをイオンビーム照射時間によって管理することができる。また、本発明の走査型プローブ顕微鏡用探針の検査方法は、探針の先端に、集束イオンビーム装置の真空チャンバー内でイオンビームによって有機ガスを分解させ、分解した堆積物によって堅固な円柱状のチップを作成する工程において、カンチレバーに流れ込むイオン電流を検出することにより、該検出電流値例えばカンチレバーに流れ込むイオン電流の積算値より導電性カンチレバーの導通の良否を判定することができる。したがって作成後に改めて導通試験を行なわなくても不良品の選別ができる。本発明の走査型プローブ顕微鏡用探針の作成方法は、探針の先端に、集束イオンビーム装置の真空チャンバー内でイオンビームによって有機ガスを分解させ、分解した堆積物によって堅固な円柱状のチップを形成させた後、集束イオンビームの集束状態を変化させることにより、太さの異なる円筒を連続して成長させることができる。
また、探針の先端に、集束イオンビーム装置の真空チャンバー内でイオンビームによって有機ガスを分解させ、分解した堆積物によって堅固な円柱状のチップを形成させた後、集束イオンビームの集束状態を変化させ、スパッタリング作用により、堆積させた円筒状チップを微細加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】走査型プローブ顕微鏡のカンチレバー傾斜角度と試料面に対する探針の接触角の関係を説明する図である。
【図2】本発明における探針先端部の加工ステップを説明する図である。
【図3】異なる条件で製作した円筒状チップの走査型イオン顕微鏡による観察像。
【図4】従来のシリコン探針の走査型イオン顕微鏡による観察像。
【図5】本発明の1実施例である探針先端部の走査型イオン顕微鏡による観察像。
【図6】本発明の応用例である側壁測定用枝分かれ探針を説明する図である。
【図7】本発明の応用例である側壁測定用ベル形探針を説明する図である。
【図8】Aは本発明の応用例である複数本の円筒状チップを備えた探針を説明する図であり、Bは本発明の応用例である円筒状チップの太さを部分的に細く形成した探針を説明する図である。
【図9】本発明の応用例であるCNTに剛性を持たせた探針を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、従来の走査型プローブ顕微鏡の探針の持つ欠点をカバーするものとして、集束イオンビームを用いた化学蒸着法(FIB−CVD)による最新の超微細立体構造物(ナノ構造体)を作成する技術(特許文献1)を用いて探針を製造することに想到したものである。すなわち、既製の走査プローブ針、例えばシリコンカンチレバーの針先にFIB−CVD法で追加工して柱状の強固な突起を形成するものである。その素材としては、FIB−CVDによるタングステンまたはDLCとする。ここで用いる超微細立体構造物を作成するFIB−CVD法は、従来のFIB−CVD法におけるよりもガスの吹き付け濃度を5〜10倍ほど高くして実行する点に特徴がある。これらの材料は、シリコンよりも硬く強固であることが確認されている。また、FIB−CVD法による加工では、イオンビームによるミキシングの為に基板との付着強度が極めて高い探針が形成できる。
さらに、このFIB−CVD法によれば突起成長の場所出し、形成する突起の形状・寸法制御も容易である。突起の成長方向をイオンビーム照射方向に対し垂直方向までとることが可能であり、試料ステージの駆動と協働させればあらゆる三次元構造が形成できる。したがって、この技術を用いれば所望形状の探針を容易に作成することが可能となる。試料面に対して垂直方向の探針接触が得られることはCD(Critical Dimension)計測にとって極めて重要なことである。加工も比較的短時間で実行できる。例えば、高さ1μm・直径80nmのタングステン突起の成長時間は約100秒である。最新のソフトを備えたFIB装置によれば、個別に切離す前のシリコンカンチレバーアレイ(ウエハー)を連続自動加工することによって、数時間で100個以上という高アスペクトレシオで試料測定用の走査プローブ針を作成することが可能である。また、2μm以上の長いチップや100nm以上の太い探針も形成可能であり、新たな走査型プローブ顕微鏡の測定分野も広がる。
【0012】
具体的な形成手順は次のとおりである。
ステップ1.FIB装置の試料台上に既製の走査プローブ、例えば探針部まで形成されているシリコンカンチレバーアレイ(個別でも可)を取付けて真空チャンバー内に入れる。
ステップ2.走査イオン顕微鏡機能等によって、突起を形成する場所を特定しその位置出しを行う。図2のAに示すように探針1の先端部に集束イオンビーム2が照射されるように試料(プローブ)の位置決めがなされる。図中の3はガス銃でこのノズルから原料ガスが試料面に噴射される。
ステップ3.必要に応じてFIB−CVD法による突起の形成前に、突起形成を行なう基板側(シリコン突起先端部)を土台として整形する。シリコン突起先端部に直接デポジションを実行し円柱状のチップを形成することもできるが、根元部分の機械的強度を得るためには平坦面上にデポジションを実行し円柱状のチップを形成することが望ましい。試料ステージを倒し側面から集束イオンビームを照射し、図2のBに破線で示した部分から先をスパッタリングで削り落し平坦部を形成する。平坦部は図2のDに示すようにFIB−CVD法によって土台5を形成してもよい。その場合にはイオンビーム2はスポット照射では無く走査しながらデポジションを実行することになるが、広い平坦部を形成することが可能である。
ステップ4.FIB−CVD法により、突起を成長させる。スポットビームで成長させる時のビーム電流は0.3〜1pA程度とする。図2のCは先端部をカットした平坦部に円柱状のチップ4を形成したものであり、Dは先端部にまず土台を形成し、その平坦部に円柱状のチップ4を形成したものである。いずれも平坦部にイオンビームが垂直方向から照射されるように試料ステージをチルトする。このようにすればイオンビームの方向を固定したままで円柱状のチップが成長して図1のBに示した理想形態で形成できる。ステージを傾斜させないでビームの方向を徐々にシフトして所望角度の柱状チップを形成することもこのFIB−CVD法では可能であるが、制御が厄介となるので先の方法がベターである。上記の先端部をカットした平坦部または土台の面を図2のE,Fに示したように試料面と平行となるように加工し、その面上に垂直に円柱状のチップをデポジションで形成させると、円柱状のチップの固着性がより堅固となる。突起の素材としてタングステンを選択した場合は材料ガスとしてタングステンヘキサカルボニル:W(CO)を用いる。ガス圧(ガス銃ノズルから遠く離れたFIB試料室真空計での計測値)は3×10−3Pa程度で噴射すると突起高さの成長速度は、10nm/秒程度である。突起の素材としてダイヤモンドライクカーボン(DLC)を選択した場合は材料ガスとして炭化水素ガス、例えばフェナントレンガス:C1410を用いる。突起高さの成長速度は、100nm/秒程度まで可能であるが、より硬さを出すためには、20nm/秒程度の成長速度とする。成長速度はガス供給量(ガス圧は×10−5〜10−6Pa)によってコントロールする。また、突起素材として磁性体の突起を作成する場合は、テトラニッケルカルボニルNi(CO)、オクタカルボニルダイコバルトCo(CO)、ニッケルセンNi(C)、コバルトセンCo(C)、フェロセンFe(C)などを材料ガスと使用し、同様に成長速度はガス供給量(ガス圧は×10−3〜10−6Pa)によってコントロールする。探針先端部を磁性体とすることにより試料の磁性特性を検出するプローブとして適用することができるわけであるが、従来のこの種の探針はプローブ全体をコートする形態が採られていた。したがって広い試料面の情報の影響を拾ってしまい探針先端部の局所的情報を検出できなかった。また、コートが剥離し易いという欠点もあったのであるが、本発明によってこれらの問題を解決することができた。また、有機ガスとして、炭化水素系のガスとを使用しカーボンの堅固な円柱状チップを形成させた先端に、有機ガスとして、金属系のガスを使用し金属円柱状チップを継いで探針を形成させることもできる。このような探針は所望特性の金属を探針の先端部分にだけ存在させることができるため、走査型プローブ顕微鏡用探針として局所情報を感度よく、すなわち高分解能のプローブを提供できる。
ステップ5.必要に応じてFIB−CVD法による突起の形成後に、さらに、形成された突起自体に集束イオンビームを用いたスパッタエッチング加工による整形を施す。このFIB−CVD法による突起形成は素材によって綺麗な円柱状とはならないで不揃い形状が出来る場合があり、例えば、タングステンヘキサカルボニルを用いたタングステン形成をさせる場合には、木耳形態の薄いぴらぴらの膜が周りに形成される。この部分はスパッタリングによって簡単に削り落すことができる。このFIB−CVD法による突起の形成は、ビーム照射位置を停止したスポットビームによる円柱形状成長形態の他に、ライン走査ビームによる薄板形状成長形態にすることが出来る。さらに必要に応じてFIB−CVD法とトリミングとによって突起先端形状を色々な形状に加工することが可能である。
【0013】
本発明では、円筒状チップの先端部を半球状であるように形成する。それは次に挙げるメリットがあるためである。すなわち、
1.探針先端のが半球状であるため、試料面の凹凸に対し該先端部における接触位置の割り出し(デコンボリューション)が容易であることから、測定像の像ぼけの補正が容易である。
2.探針先端を半球形状になるように作成した場合、接触圧力を一定に制御すると、試料面に対する接触面積が安定して一定値を保つようになり、導電性測定における再現性が増す。
3.探針先端を半球形状になるように作成した場合、試料面に押し付け走査した時、試料面に傷が付きにくく先端部に所望圧力をかけることができる。この円筒状チップの先端部を半球状であるように形成する手法は本発明のFIB−CVD法によって作成すればほぼこの形状ができるのであるが、必要に応じてスパッタエッチングで整形する。
【0014】
次に、FIB−CVD法による本発明の突起を形成した実験例を示す。65/86℃(前者はリザーバでの温度、後者はノズル部分での温度を示す。)のW(CO)を用い、ガス圧は3×10−3Pa程度で噴射し、4分間のデポジションを実行した。根元径が470nm/φ,先端径が90nm/φで高さ寸法が2.6μmのテーパー状の柱状チップが形成された。成長速度は0.65μm/分で、このW(CO)を用いたCVDでは円柱状にはならず根元側が太くなる。また、柱状体の周りにぴらぴら膜が付着したような形態となった。プローブ顕微鏡の探針としては磨耗によって先端径が変わらないことが望ましく、テーパーのない円柱状のチップが形成されることが望ましい。試料の電気的特性(電流、電圧、抵抗、静電容量)を計測する際のプローブは導電性であることが求められ、試料と対向するこの探針も導電性素材であることが必要となる。タングステン、ルテニュームのような金属の他カーボンも一応導電性ではあるが、比抵抗は異なる。カーボンの場合デポジションによる構造物形成は成長速度も速くとれ、加工も容易である反面、導電性の点で金属に敵わない。そこで、本発明では原料ガスとしてW(CO)とフェナントレン(C1410)とを用いたCVDで、タングステンとカーボンの混合素材からなるチップを形成することを着想した。2つのガス銃を試料に向けて配置し、同時噴射によってデポジションを実行するものである。単一のガス銃から混合気体を噴射する方法もあるが、それぞれの原料ガスに適した温度で噴射出来る点で前者方式が勝る。
【0015】
一方のガス銃からW(CO)をもう一方のガス銃からC1410を同時に噴射させて形成したカーボンとタングステンの混合チップとそれぞれ一方のみを噴射させて形成したカーボンチップとタングステン3種類のチップ、タングステンチップについてはトリミングを施したものと施さないものを作成し、従来のシリコン探針と電子ビーム照射によるCVDで形成したカーボンチップとの比較を行った。カーボンとタングステンの混合チップは45秒のデポジションで長さ寸法1.00μm×太さ寸法(先端径113nmφ,根元寸法127nmφ)のものが形成された。テーパーは0.80°(片側角は0.4°)である。カーボンチップは同じく45秒のデポジションで長さ寸法1.01μm×太さ寸法(先端径117nmφ,根元寸法129nmφ)のものが形成された。テーパーは0.69°(片側角は0.35°)である。タングステンチップは120秒のデポジションで長さ寸法1.39μm×太さ寸法(先端径113nmφ,根元寸法285nmφ)のものが形成された。テーパーは7.0°(片側角は3.5°)と大きい。そこで、スパッタリングでトリミングを実行して側面を削り、テーパー角を小さくする加工を加える方法を採用し、スパッタリングで削られる分大きめにデポジションした後、トリミングした。長さ寸法1.55μm×太さ寸法(先端径65nmφ,根元寸法170nmφ)のものが形成され、テーパーは3.88°(片側角は1.9°)のものが形成された。加工時間は240秒であった。この結果を表1に示す。
【表1】

【0016】
次に円筒状チップを7種類試験製作したものを比較提示する。Aのガス銃からは原料ガスとしてW(CO)を噴射させ、Bのガス銃にはC1410を噴射させる。原料ガス濃度はデポジションに大きな影響を施すものであるから、ガス圧の他ノズル試料間の距離も重要なデータとなる。
【表2】

試料のa,f,gについてはぴらぴら膜が形成されたので上方からのイオンビーム照射によってトリミングを施した。長さ寸法でaは0.2μm、fは0.06μm、gは0.2μm削られている。この試料をイオンビーム顕微鏡で観察したものを図3に示す。上段は斜め上方からの観察像であり、下段は上方からの観察像である。
【実施例】
【0017】
従来のプローブ顕微鏡のシリコン探針の先端部を加工してタングステンとカーボン混合の円柱状チップを形成した実施例を示す。
ステップ1.土台作りFIB装置の試料ステージにプローブ顕微鏡のシリコン探針を載置し、試料ステージをイオンビーム方向に対して垂直方向にし、一方のガス銃からリザーバ、ノズルの温度を60℃/85℃としてW(CO)を、もう一方のガス銃から同じく70℃/73℃としたC1410を噴射させてCVDを88秒実行し、0.2μm四方で厚みが0.09μmの土台を形成させた。ガス吹き付け密度を高くしたFIB−CVDでは、ビーム方向に対して垂直の方向までの成長が可能であるから、上方からのビーム走査で探針先端部の幅よりも広い土台形成が可能である。
ステップ2.円柱状チップの形成試料ステージの傾斜をプローブ走査時の傾斜角11°にしてビーム照射位置が土台の中央部にくるように位置決めする。集束イオンビームのスポット位置を土台の中央部に固定した状態を保ち、ガス銃からW(CO)とC1410を噴射させてFIB−CVDを30秒実行し、根元部分の径が0.18μmφ,先端部分の0.08μmφのテーパー状の円柱チップを形成した。このときの円柱チップの軸方向はカンチレバー面に対し90°−11°=79°となっており、プローブ走査時に探針が試料面に対して垂直に接触する角度とされている。
ステップ3.形状を整えるトリミングこのとき形成された円柱チップは周りにぴらぴら膜がついており、テーパー角も大きいので試料ステージをビーム方向に対し垂直では無く若干傾斜させ、上方からのビーム照射により形状を整えるトリミングを実行した。整形された円柱状チップは高さ寸法が1.20μm,根元径が120nmφ,先端径が60nmφ、そして先端部形状は30nmRの半球面であった。図5はこの実施例をイオン顕微鏡像で撮影したものであり、シリコン探針部の先端に土台が形成され、その上に79°の方向に立てられたタングステンとカーボンの円柱状チップが観察できる。この観察像からタングステンデポジションの場合にはシャープペンの芯のような円柱状にはならずテーパー角が生じることが見て取れる。しかし、寸法を更に長く成長させると、太さは次第に一定となってくる。
【0018】
上記の手法で79°の方向に立てられたタングステンとカーボンの円柱状チップが作られるのであるが、その円柱状チップの基礎となる土台部分の面が円柱軸と直交面でないことによりチップの固着性において若干脆いという問題がある。そこでこの問題を解決し堅固な固着性を確保できる作成手法を次ぎに示す。加工のベースとなるシリコンカンチレバーは、通常4インチのウエハー上に長方形状に300−400個が等間隔配列されて作り込まれている。従って精密に移動可能なXYステージと取り付け角度補正用のβステージを有する集束イオンビームチャンバー内で連続加工を行なう。具体的な作成手順は次のとおりである。
ステップ1.FIB装置の試料台に既製のウエハー上に作り込まれた、カンチレバー群を取付けて真空チャンバー内に入れる。
ステップ2.前記と同様に走査イオン顕微鏡機能等によって、突起を形成する場所を特定しその位置出しを行う。事前に加工する複数個のカンチレバー探針先端を観察し、そのXY座標を記録する。ステージを移動しても、ガス銃のノズルから加工する個々の探針先端の距離が変らないようにステージを移動する。
ステップ3.ウエハーをθステージで傾けイオンビームで探針先端を切断し、測定試料面と平行になるように平坦部を作成する。あるいは、当初から先端が平らで測定試料面と平行になるように面の角度を作成した探針をウエハー上に作成したものを使用し、導電性探針を作成する場合は、チャンバーに導入前に、探針部を含むプローブを金属(たとえば金、白金など)でスパッターコートしておく。θステージをカンチレバー取り付け角度補正分だけ傾け、ガス銃より材料ガスを噴射させ突起形成を行なう基板側(シリコン突起先端部)を土台として整形する。これは根元部分の機械的強度を得るためと下部の導電性コート材と導通を得るためである。その場合には前記のようにイオンビームはスポット照射では無く走査しながらデポジションを実行することになるが、広い平坦部を形成することが可能である。導電性カンチレバーの場合は、土台作成時にウエハーに流れ込むイオンビーム電流を高感度電流計で測定し、土台と探針の導通状態を確認し、導通のないカンチレバーはウエハー上の位置を特定し不良品として選別記録する。
ステップ4.前記と同様にFIB−CVD法により、この土台上に突起を成長させる。スポットビームで成長させる時のビーム電流は0.3〜1pA程度とする。成長速度はガス供給量(ガス圧はガスの種類にもよるが×10−3〜10−6Torr)によってコントロールし、最適条件をもとめ、通常はイオンビーム照射時間を制御して円筒の高さを制御する。あるいは導電性カンチレバーの場合は、円柱(探針)成長時にウエハーに流れ込むイオンビーム電流を高感度電流計で測定し、探針の導通状態を確認し、導通のない探針はウエハー上の位置を確定し不良品として選別記録する。また円柱チップの成長長さを制御する方法として、ウエハーに流れ込むイオンビーム電流を積算し一定の電荷量になったときイオンビームの照射を停止することで行なうようにしてもよい。デポジションの量はFIBのビーム電流積算量に対応すると考えられるからである。
ステップ5.前記と同様でこのとき形成された円柱チップは周りにぴらぴら膜がついており、必要に応じてFIB−CVD法による突起の形成後に、さらに、作成された突起自体に集束イオンビームを用いたスパッタエッチング加工による整形を施す。
ステップ6.ウエハーをθステージで傾け、成長した円柱(探針)の長さをSIM像で計測する。あるいは、電子ビームカラムのあるデュアルビーム装置の場合は、SEM像で円柱の長さを計測する。
ステップ7.ウエハー上の次のカンチレバーの位置に移動し、各カンチレバー毎にステップ2−6の加工を繰り返す。上記方法は1箇所で1つのカンチレバーを順次工程ごとに作成していく手順を示したが、同一の工程を位置をずらして複数個のカンチレバーで作成していく方法も可能である。この場合集束イオンビームの設定変更やステージの傾き変更が不要になり、作成加工時間の短縮が計られる。
【0019】
次に、本発明の応用例を示す。
「側壁測定用枝分かれ探針」図6のAに示したような二股形状の探針を用いて試料における溝のような凹部の側壁測定用の探針を本発明のデポジション技術を使って作成した。探針先端部は、図のようにベースチップ部より一定の長さlの二つの円筒状チップを有し2つの円筒状チップ間の角度θが既知である。この二股形状の探針を用いて図6のA,Bの示すように垂直壁に対し一方の円筒状チップが先端接触を実現することができるため、従来プローブ顕微鏡で困難とされていたCD計測が可能となる。本数は必ずしも2本である必要はなく、それぞれのチップのベースチップ部に対する長さと角度が既知であればそれ以上の数でもよい。
「側壁測定用ベル形探針」上記枝分かれ探針の他、先端形状をベル形状に形成し、先端両端部を尖らせた側壁測定用探針を提示する。図7に示すようにシリコン探針の先端部をカットしてそこに土台をデポジションし、その土台を基礎として円筒状体をデポジションで作成する。その円筒状体の側周面部をFIBエッチング加工により図に示すように削り取り先端裾部を尖らせてベル形状を作る。この尖った先端裾部が溝の側壁に接触してプローブ機能を果たす。図に示した構造は土台とベル状体間を円柱状体で継ぐようになっているが、これは被測定溝或いは穴が深い場合には長くするとよく、必要に応じて形成される。加工方法としてはデポジションによる円柱状探針を形成途中でイオンビームの照射条件を変え太めの探針を作成し、さらにイオンビームの照射条件を変えて微細なイオンビームで先端を切断し次に側周面を斜めに削り出し、先端裾部に側壁測定用の尖った突起を作成するようにすればよい。
【0020】
「複数本の円筒状チップを備えた探針」
図8のAに示したように同一カンチレバー上に長さの異なる円筒状チップを複数本立てた構造の探針である。このような構成とすることにより、一番長い第一の針が損傷した場合にも次の針により測定が出来るようにした。探針寿命を長くできるだけでなく、測定途上で探針が折れるという事故があってもそのまま測定を継続して行なうことが出来る。真空チャンバーを開けて探針の交換を行ない再度測定条件を整えるということは、大変に手間と時間の掛かることであるため、この応用例は実施効果が高い。
「円筒状チップの太さを部分的に細く形成した探針」
図8のBに示したように円柱状チップの太さを部分的に細く形成した構造の探針である。このような構成とすることにより、構造的に径の細くなった所で折れ易くなっている。測定途上で先端部が不都合に変形したり、異物が付着したような場合に意識的に負荷をかけ先端部分を折って次の節を先端部として使用することができる。先の例と同様に真空チャンバーを開けて探針の交換を行なうことなく、測定を続行することができる。
【0021】
「CNTに剛性を持たせた探針」
自然界にも存在している2〜数十層のグラファイト状の炭素が積み重なってできた多重のチューブであるカーボンナノチューブ(CNT)を、AFMの探針として用いる試みもなされているが、このCNTをAFMのカンチレバーの先端に取り付ても剛性が低いため段差試料の測定には不向きであることは既に述べた。そこで本発明のデポジション技術を応用し、図9に示したような探針を想到した。すなわち、細い円筒状のCNTの周囲に本発明のFIB−CVD技術でタングステン又はDLCを堆積させた構造の探針である。このデポジションにより、CNTを用いたAFMの探針の欠点を補強し実用化を果たした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】国際公開公報WO2002/044079 「超微細立体構造の作成方法とその装置」 平成14年6月6日(2002.6.6)国際公開日
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】O.Wolter,Th Bayer,J.Greschner:“Micromachined silicon sensors for Scanning Force Microscopy”J.Vac.Sci.Technol.B 9(2), Mar/Apr 1353−1357 (1991)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンチレバーのたわみ信号より試料表面の形状、物性情報を得る走査型プローブ顕微鏡に用いられる探針の先端に、集束イオンビーム装置の真空チャンバー内でイオンビームによって有機ガスを分解させ、分解した堆積物によって堅固な円柱状のチップを作成する工程において、前記チップはカンチレバーの傾き分だけずらした角度でデポシションによる成長を行なわせて、走査時には試料面に垂直に接触するように形成するべく成長する探針部のガスの分圧を一定に保ちかつイオンビーム電流を一定にした条件の下で成長する探針の長さをイオンビーム照射時間によって管理することにより堅固な円柱状の探針先端部を形成することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡用探針の作成方法。
【請求項2】
堅固な円柱状の探針先端部は、イオンビームによって有機ガスを分解させ、分解した堆積物によって長さ寸法が1.55μm以下、根元寸法が300nm以下、先端までのテーパー角が片側角で1.9°以下に形成させるものとした請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡用探針の作成方法。
【請求項3】
堅固な円柱状の探針先端部は、集束イオンビームの集束状態を変更し、円柱状チップの先端形状が半球形状になるようにデポジションを行なうことを特徴とするに請求項1または2に記載の走査型プローブ顕微鏡用探針の作成方法。
【請求項4】
堅固な円柱状の探針先端部は、集束イオンビームの集束状態を変更し、円柱状チップの太さを部分的に細く形成するようにデポジションを行なうことを特徴とするに請求項1乃至3のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡用探針の作成方法。
【請求項5】
有機ガスとして一方のガス銃からW(CO)をもう一方のガス銃からC1410を同時に噴射させて形成したカーボンとタングステンの混合チップを形成させるようにしたことを特徴とするに請求項1乃至4のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡用探針の作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−60577(P2010−60577A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284004(P2009−284004)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【分割の表示】特願2002−342286(P2002−342286)の分割
【原出願日】平成14年11月26日(2002.11.26)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)