説明

走査型プローブ顕微鏡

【課題】本発明は走査型プローブ顕微鏡に関し、更に詳しくは溶液として金属イオン源を用いることなく、またカンチレバー背面に高価なコートをする必要がなく、かつ試料を確実に基板に付着させることができる走査型プローブ顕微鏡を提供することを目的としている。
【解決手段】溶液が入れられた容器中に試料とカンチレバーを配設し、液中で試料表面の観察及び/又は分析を行なう走査型プローブ顕微鏡であって、基板7上に観察すべき試料8を付着させるようにした走査型プローブ顕微鏡において、前記基板7を絶縁物12を介して、電源13が接続された電極板11上に載置させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査型プローブ顕微鏡に関し、更に詳しくは溶液中に試料を入れて、溶液中の試料をプローブでなぞりながら、その表面状態を観察・解析する走査型プローブ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
試料表面をプローブでなぞりながら、プローブで検出される試料の情報信号を画像処理
して試料状態を観察・解析する走査型プローブ顕微鏡が知られている。通常の試料の状態では、このような試料観察方法で問題がないが、例えばDNA(Deoxyribo nucleic acd:デオキシリボ核酸)等の生体分子は生体内に近い環境、即ち溶液内での形状をそのまま観察したいという要求がある。そのため、DNAの表面観察をする場合、溶液中にDNAを浸して観察することが行われる。
【0003】
図2は走査型プローブ顕微鏡の要部の概念図である。5は試料ホルダであり、この試料ホルダ5の中には試料1が配設されており、周囲を溶液3で覆っている。このような状態で、カンチレバー4で試料1の表面をなぞる(走査する)。なぞった時のカンチレバー4の物理的変化を半導体レーザ6からの入射光でカンチレバー4の背面を照射し、その反射光を検出器7で検出し、検出した信号を処理することで、試料1の表面の情報を得ることができる。
【0004】
従来のこの種の装置としては、検出系として光学顕微鏡と走査型プローブ顕微鏡とを具備し、これらの顕微鏡は切り換え機構に固定され、該切り換え操作によって各顕微鏡が試料の同一箇所を観察できる位置に移動できるようにして、先に光学顕微鏡によってDNAの位置を確認しておき、走査型プローブ顕微鏡によるDNAの高精度形状検出や物性情報検出をスムーズに開始するものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−71534号公報(段落0021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3は従来の走査型プローブ顕微鏡の問題点の説明図である。図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。DNA等をプローブ顕微鏡を用いて観察する際には、ガラスやマイカ等の平坦な基板7上にDNA試料8を分散させて付着させる必要がある。付着が弱いと、カンチレバー4でDNA試料8を動かしてしまい、観察することができない。
【0007】
DNA観察で一般的に使用されるマイカ基板7の場合、DNAもマイカも表面が負の電荷を帯びており、反発しあい、基板7上に付着させることが困難で、プローブ顕微鏡で観察する際に、カンチレバー4でDNA試料8を動かしてしまい、観察することが困難である。図3に示す例の場合、DNA試料8と基板7が共に負に帯電しているため、互いに反発しあい、基板7上に付着させることができない。
【0008】
そこで、このような不具合を解決するために考え出された例を 図4に示す。図4において、図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。図4の実施例では、溶液3の代わりに、金属イオン溶液9が充填されている。この金属イオン溶液としては、例えばマンガン(Mg)やニッケル(Ni)が用いられる。
【0009】
このように構成された装置だと、溶液として金属イオン溶液9を用いて、金属イオン溶液中で観察を行なう。負に帯電しているDNA試料8と、マイカ基板7に対して、正の電荷を持つプラスの金属イオンがDNA試料8とマイカ7表面の負の電荷を打ち消すことで、DNA試料8をある程度基板7上に付着させることができる。
【0010】
しかしながら、金属イオンの濃度が高すぎると、DNAの構造を破壊してしまう可能性がある。一方で、濃度が薄いと付着される力が弱くなり、観察不可能となってしまう。更に、使用するサンプルや基板によって、最適な金属イオンの種類や濃度は異なり、それぞれにイオン濃度を変化させながら、最適条件を調べる必要がある。また、一般的にカンチレバー4の背面には光の反射効率を上げるためにアルミニウム(Al)等が用いられる。
【0011】
しかしながら、イオン溶液9中ではAlが溶け出してしまい、使用することができず、カンチレバー4の背面に金(Au)とか白金(Pt)といった特殊なコートがされているカンチレバーや背面コートの無いカンチレバーを使用する必要がある。AuやPtコートされているカンチレバーは高価であり、背面コートのないカンチレバーを使用した場合には、レーザの反射光の出力が低下し、プローブ顕微鏡の感度が低下してしまうという問題があった。
【0012】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、溶液として金属イオン源を用いることなく、またカンチレバー背面に高価なコートをする必要がなく、かつ試料を確実に基板に付着させることができる走査型プローブ顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の問題点を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
(1)請求項1記載の発明は、溶液が入れられた容器中に試料とカンチレバーを配設し、液中で試料表面の観察及び/又は分析を行なう走査型プローブ顕微鏡であって、基板上に観察すべき試料を付着させるようにした走査型プローブ顕微鏡において、前記基板を絶縁物を介して、電源が接続された電極板上に載置させるように構成したことを特徴とする。
【0014】
(2)請求項2記載の発明は、前記電源から供給される電位は、試料の電位と逆極性となるようにしたことを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記試料としてDNAを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下のような効果を奏する。
(1)請求項1記載の発明によれば、前記基板を絶縁物を介して、電源が接続された電極板上に載置させるように構成したので、試料と基板の付着がよくなり、試料を正確に観察及び/又は分析することができる。
(2)請求項2記載の発明によれば、前記電源から供給される電位を試料の電位と逆極性となるようにしたので、基板と試料は引き合うようになり、試料の基板上への付着性を高めることができる。
(3)請求項3記載の発明によれば、試料がDNAである場合に、DNAを正確に観察及び/又は分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例を示す構成概念図である。
【図2】走査型プローブ顕微鏡の要部の概念図である。
【図3】従来の走査型プローブ顕微鏡の問題点の説明図である。
【図4】従来の走査型プローブ顕微鏡の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例を示す構成概念図である。図4と同一のものは、同一の符号を付して示す。5は試料をホールドする試料ホルダであり、例えば各種の樹脂が用いられる。8はDNA試料である。11は試料ホルダ5の上に載置された電極で、この電極11には電源13から電位が供給されるようになっている。電極11には電源13から正又は負の電位が印加されるようになっている。
【0018】
12はこの電極11の上に載置され電極11を覆っている絶縁物である。該絶縁物12としては、各種樹脂製のモールドが好適に用いられる。7はこの絶縁物12の上に載置された基板である。該基板7としては、例えばマイカが好適に用いられる。該基板7の上にはDNA試料8が付着している。15はDNA試料8とカンチレバー4がその内部に浸かった溶液である。この溶液15は、DNA試料8と親和性のよいものが用いられる。例えば蒸留水や生理食塩水が好適に用いられる。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0019】
DNA試料8を観察する際には、電極11に正の電圧を印加する。電極11を溶液15から絶縁している絶縁物12は十分に薄いため、マイカ基板7の表面の負の電荷は打ち消され、表面は正に帯電する。すると、負の電荷を帯びたDNA試料8は基板7に引きつけられ、基板7上に固定(付着)される。
【0020】
本発明では、溶液15として金属イオン溶液を使用していないので、DNA試料8を破壊することはなく、Al反射コートを施したカンチレバー4を使用できるので、プローブ顕微鏡の感度を上げることができる。また、DNA試料8や基板7の種類が変わったり、状態が変化しても、電極11に印加する電圧を調整することで、簡単に付着の最適条件を見つけることができる。
【0021】
本発明によれば、前記基板7を絶縁物12を介して、電源13が接続された電極板11上に載置させるように構成したので、試料8と基板7の付着性がよくなり、試料を正確に観察及び/又は分析することができる。
【0022】
また、前記電源13から供給される電位を試料の電位と逆極性となるようにしたので、基板と試料は引き合うようになり、試料の基板上への付着性を高めることができる。
更に、試料がDNAである場合に、DNAを正確に観察及び/又は分析することができる。
【0023】
上述の実施例では、試料としてDNA試料を用いたが、本発明はこれに限るものではなく、各種の細胞とかの試料の観察/及び又は分析をすることができる。
また、上述の実施例では試料としてDNA試料を用いて、電極に正の電位を与えて基板と細胞を付着させる場合について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、試料が正に帯電している場合には、電極に負の電位を与えて、基板と細胞を付着させるようにすることができる。
【0024】
以上、説明した本願発明は以下のような効果を有している。
走査型プローブ顕微鏡の液中観察用試料ホルダ内部に電極を設け、その電極への印加電圧をコントロールすることで、電荷を帯びている試料や基板に対して、金属イオン溶液を使用することなく、試料を基板表面に付着させることができる。また、金属イオン濃度の最適条件を見つけるための作業が簡略化でき、市販の汎用カンチレバーを用いて、プローブ顕微鏡の感度を落とすことなく使用することができる。
【符号の説明】
【0025】
4 カンチレバー
5 試料ホルダ
7 基板
8 DNA
11 電極
12 絶縁物
13 電源
15 溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液が入れられた容器中に試料とカンチレバーを配設し、液中で試料表面の観察及び/又は分析を行なう走査型プローブ顕微鏡であって、基板上に観察すべき試料を付着させるようにした走査型プローブ顕微鏡において、
前記基板を絶縁物を介して、電源が接続された電極板上に載置させるように構成したことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記電源から供給される電位は、試料の電位と逆極性となるようにしたことを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記試料としてDNAを用いたことを特徴とする請求項1又は2記載の走査型プローブ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−164006(P2011−164006A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28658(P2010−28658)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)