説明

走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡において用いる統合可能な(integrable)磁界補償

【課題】電子顕微鏡において、試料観察領域への干渉磁界の影響を軽減する装置及び方法を提供する。
【解決手段】電子顕微鏡10の試料チャンバー20のチャンバー壁21に、X、Y、Zそれぞれの方向の磁界補償コイル41を収容する領域を設け、試料30やレンズアパーチャ18近傍の高感度領域に於ける外部の干渉磁界を磁気センサー42により計測して、それぞれの磁界補償コイル41の磁界を調整し補償する磁界補償用のシステム40を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子を用いて試料を結像、検査及び/又は処理する装置(arrangement)及び方法であって、該装置が透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡と磁界補償用のシステムとを備える、装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィードバック制御原理による磁界補償が知られている。本明細書において補償容積部とも呼ぶ空間容積部は、弱め合う干渉により事実上又は実質的に無磁界(field free)となる。
【0003】
このために、フィードバックセンサーが、保護すべき対象物の近くの干渉磁界、例えば地球磁場を測定し、この信号を制御ユニットに供給する。制御ユニットは、このセンサー信号に基づき、補償コイルに送られる補償電流を算出する。これらのコイルは次いで、理想的な場合では干渉の振幅が最小になるか又は少なくとも実質的に減少するように干渉場に相殺的に重畳する磁界を発生させる。
【0004】
特に、走査型電子顕微鏡及び/又は透過型電子顕微鏡のような、加速電子を扱う装置は、電磁干渉を受けるが、その理由は、電磁干渉が、結像に必要とされる電子の軌道に直接影響し、ひいてはその結果の品質に直接影響するためである。
【0005】
そのような装置の一般的な設備(installation)は、通常は立方体として設計される、3軸ツインコイル(three-axes twin-coil)システムの形態の補償構造を含む。この場合、立方体のそれぞれの対向する側面が、可能な限り均質な補償磁界を発生させる一対のコイルとして用いられる。
【0006】
次いで、これらのコイルによって包囲されたこの容積部の内部に、保護すべき装置が設置され、その結果、該装置が事実上無磁界のスペース内で動作することができる。
【0007】
別の従来技術によれば、空間方向毎のそれぞれの対のコイルの代わりに、空間方向すなわち軸毎に単一のコイルのみが設けられる。その場合、補償磁界はより一層不均質となるが、通常はそれで十分であり、3つのコイル構造が節約となる。
【0008】
従来技術の構造は全て、制御部が一般にフィードバックプロセスに従って動作することから、容積部内にセンサーを設けている。したがって、床面に敷設することができるとともに補償コイルを設けるか又は巻き付けるのに用いられるケーブルに加え、装置のすぐ近傍にセンサーがある。このように、装置の構成に起因して、装置の動作快適性が損なわれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この背景を踏まえ、本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を少なくとも軽減する、磁界補償用の、特に、走査型電子顕微鏡(SEM)及び/又は透過型電子顕微鏡(TEM)用のシステム及び方法を提供することである。
【0010】
特に、本発明は、本発明を既存の制御概念に統合すること又は既知の制御概念を改善することを可能にするものである。
【0011】
特に、装置の動作快適性と装置の特定の特性とに関して特定の条件が考慮される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述のこれらの目的は、独立請求項に記載の、帯電粒子、特に電子を用いてウェーハのような試料を結像、検査及び/又は処理する装置及び方法によって達成される。
【0013】
有利な実施の形態はそれぞれの従属請求項に記載されている。
【0014】
概して、本発明は、磁界補償用のシステム、特に補償コイルを、既存のデバイス又は装置に該装置の動作快適性が著しく影響を受けないように統合するという主旨で説明することができる。
【0015】
本明細書では、試料が配置されるチャンバー、例えば真空チャンバー自体、好ましくは真空チャンバー単独を補償容積部とみなすことが提案される。特に、本明細書では、補償容積部を例えばSEM装置及び/又はTEM装置の高感度点若しくは高感度領域と関係させるか、又は該高感度点若しくは該高感度領域に縮小することが提案される。これは、例えば、電子ビームは、外部の電磁干渉を受けると、最終的な集束及び/又はフィルタリングのすぐ後に、真空チャンバーにおいて像品質に関して最も高感度に影響を受けることが分かっているためである。
【0016】
まず、本願は、帯電粒子、特に電子を用いて試料を結像、検査及び/又は処理する装置であって、
帯電粒子を供給するデバイスと、
試料ホルダーを有するチャンバーであって、前記デバイスによって供給可能な前記粒子を用いて試料を結像、検査及び/又は処理することができるように前記試料ホルダー上に前記試料を位置決め可能である、チャンバーと、
少なくとも1つの空間方向における磁界補償用のシステムであって、少なくとも1巻きの導体によって提供される少なくとも1つの補償コイルを含む、システムと、
を備え、
前記チャンバーの少なくとも1つの壁は、該壁の少なくとも幾つかのセクションに、前記補償コイルの少なくとも一部分のための少なくとも1つの収容領域を有する、装置を請求するものである。
【0017】
好ましい実施の形態では、帯電粒子を供給するデバイスは、電子顕微鏡、例えば走査型電子顕微鏡及び/又は透過型電子顕微鏡の形態で提供される。別の実施の形態では、帯電粒子を供給するデバイスはリソグラフィック装置の形態で提供される。
【0018】
チャンバーは好ましくは、真空チャンバーとして提供される。補償コイル、特にその導体がチャンバーの壁と関連付けられる。本文脈での壁とは、チャンバーの側壁、底面及び蓋と理解すべきである。
【0019】
本発明の1つの実施の形態では、導体を受け入れる領域すなわち収容領域がチャンバー壁の外側面及び/又は内側面によって提供される。補償コイル、特にその導体は、チャンバー壁の外側面及び/又は内側面上に少なくとも部分的に配置される。例えば、少なくとも1巻きの導体がチャンバー壁に沿って敷設される。
【0020】
代替的又は補足的な実施の形態では、補償コイル、特にその導体を受け入れる収容領域又は収容セクションは、チャンバー壁内に少なくとも部分的に延在している凹部によって提供される。
【0021】
凹部は例えば、チャンバー壁の外側面及び/又は内側面内の或る種の溝又は窪みとして提供することができる。本発明のこの変形例では、一種の開口凹部が設けられ、この凹部内に導体若しくは補償コイルの幾つかの部分又は導体若しくは補償コイルの全体を埋設することができる。
【0022】
しかしながら、好ましくは、凹部はチャンバー壁内のキャビティとして形成される。この変形例では、一種の閉鎖凹部、例えば或る種の管が設けられ、この管内に導体若しくは補償コイルの幾つかの部分又は導体若しくは補償コイルの全体を挿入することができる。
【0023】
補償コイル、特にその導体は、例えばチャンバー壁に導体を直接配置すること及び/又はチャンバー壁に導体を導入することによって、チャンバーに直接接続することができる。
【0024】
しかしながら、補償コイル、特に導体を、例えば巻きを与えるために該導体が周りに巻き付けられているフレームを介して、チャンバーと間接的に連結させることも同様に可能である。
【0025】
帯電粒子の飛行又はビーム方向に対して垂直な1つの平面のみにおける干渉磁界を補償するにはそれで十分であろう。この平面は概して水平面によって提供される。
【0026】
しかしながら、干渉磁界をほぼ完全に補償することができるようにするために、好ましくは、干渉磁界を水平面において、及び垂直線に沿っての両方において補償する。X座標とY座標とが水平面を画定し、Z座標が垂直線を画定する。
【0027】
1つの実施の形態では、各空間方向X、Y、Zが少なくとも1つの補償コイルと関連付けられているため、干渉磁界を3つの、すなわち全ての空間方向X、Y及びZにおいて補償することができる。
【0028】
この場合、各空間方向X、Y及びZ又は少なくとも1つの空間方向X、Y若しくはZが単一の補償コイルのみと関連付けられていることが可能であろう。
【0029】
各単一の補償コイルが、好ましくは同軸の別のコイルと関連付けられていることも可能である。このようにして、一対の補償コイルが形成される。1つの実施の形態では、各空間方向が少なくとも一対の補償コイルと関連付けられているため、干渉磁界を3つの空間方向X、Y及びZの全てにおいて補償することができる。
【0030】
補償磁界を発生させる少なくとも1つの補償コイルに加え、磁界補償用のシステムは、干渉磁界を検出又は測定する少なくとも1つのセンサーと、少なくとも1つの補償コイル用の少なくとも1つの電源と、検出又は測定された干渉磁界に応じて少なくとも1つの補償コイルにおける電流を制御及び/又は調節する手段とを備える。
【0031】
一対の補償コイルは、該一対の補償コイルのうちの1つの単一の補償コイルのみに給電することを可能にするように接続され、かつ/又はそのように制御可能であるものとすることができる。
【0032】
補償コイル又は該補償コイルが発生させる補償磁界は、干渉磁界が実質的に補償される補償容積部をもたらすか又は画定する。補償容積部は、好ましくは十分に均質な、干渉磁界を補償するのに適した、補償コイルが発生させる磁界の領域を表す。
【0033】
本発明は、特に、もたらされる補償容積部を必要最小限にとどめるか、又は、少なくとも、該補償容積部をSEM装置/TEM装置の高感度点を含む領域に縮小することを提案する。本発明によれば、補償容積部の縮小は特に、少なくとも1つの補償コイルをチャンバーと関連付けることによって達成される。本明細書では、試料が配置されるチャンバー自体、好ましくはチャンバー単独を補償容積部とみなすことが提案される。したがって、従来技術において慣例であったように装置全体が補償容積部とみなされることがもはやない。補償容積部は好ましくはチャンバー内の領域に限定される。
【0034】
さらに、本発明によって包含されるのは、帯電粒子、特に電子を用いて試料を結像、検査及び/又は処理する方法であって、
前記帯電粒子が供給され、チャンバーの内部に配置されている試料に方向付けられ、
少なくとも1つの補償コイルが作り出した補償容積部において、干渉磁界を前記粒子の軌道の一部分に沿って補償することができるように磁界がもたらされ、
前記補償容積部は、集束及び/又はフィルタリングのような、前記帯電粒子への最終的な影響の後で、或る領域にもたらされる、方法である。
【0035】
本発明の方法は特に、上述した本発明による装置を用いて実施可能である。本発明による装置は特に、本発明の方法を行うように構成されている。
【0036】
コイルがもたらす補償容積部は、帯電粒子と試料との間の相互作用領域を含む。特に、補償容積部は、例えば粒子の軌道及び/又は粒子ビームの形状を外部からそれ以上制御することを意図されない領域に実質的に限定される。
【0037】
試料の最も正確な結像、検査及び/又は処理を可能にするために、装置は概して、防振的に取り付けられる。
【0038】
防振は、システムが受ける、妨げとなる動き又は振動を相殺するものと理解すべきである。理想的な場合では、動き又は振動は補償される。これは好ましくは動きの6つの自由度全てでなされる。したがって、多くの場合、振動補償と呼ばれる。
【0039】
本発明の範囲内には、防振的に取り付けられる本発明による少なくとも1つの装置を含む防振システムも含まれる。この防振システムは、能動型防振システム及び/又は受動型防振システムとして提供することができる。
【0040】
受動型防振システムは、防振すべき荷重体への外部振動の伝達を低減するように機械的剛性が最小限である「簡単な」取り付けを特色とする。取り付け目的のエアベアリングとポリマーばね要素とが受動型防振システムの2つの例である。
【0041】
振動の或る種の減衰又は荷重体の或る種の「防振された」取り付けを特徴とする受動型防振とは対照的に、能動型防振は、振動を能動的に補償することを特色とする。振動によって誘起される動きは対応する逆の動きによって補償される。例えば、質量体の振動誘起加速度は、同じ大きさであるが逆符号の加速度によって相殺される。その結果得られる荷重体の全体加速度はゼロである。荷重体は静止状態、すなわち所望の位置にあるままである。
【0042】
したがって、機械的剛性が最小限である取り付け装置と任意選択的に組み合わされる、能動型防振システムは、センサー及びアクチュエーターとともにコントローラーを備える制御システムをさらに含み、外部からシステムに伝わる振動を選択的に相殺する。センサーは取り付けられるべき荷重体の動きを検出する。コントローラーは補償信号を生成し、この補償信号によってアクチュエーターが駆動され、これにより、補償する動きが生まれる。デジタル制御経路若しくはアナログ制御経路を用いること、又は双方の経路をいわゆるハイブリッド制御経路に組み合わせることが可能である。
【0043】
ここで本発明を以下の例示的な実施形態によって詳細に説明する。このために、添付の図面の参照を行う。個々の図面における同じ参照符号は同じ部品を指す。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1.a】例示的な走査型電子顕微鏡の概略断面図である。
【図1.b】関連するビーム誘導部(guidance)の概略図である。
【図1.c】一対のコイルが発生させる補償磁界の概略図である。
【図2.a】真空チャンバーの壁にある補償コイルの位置の例示的な実施形態の概略図である。
【図2.b】真空チャンバーの壁にある補償コイルの位置の例示的な実施形態の概略図である。
【図3.a】単一の補償コイルがもたらす補償磁界の分布を装置とともに平面で示す概略図である。
【図3.b】単一の補償コイルがもたらす補償磁界の分布を空間的に示す概略図である。
【図4.a】一対の補償コイルがもたらす補償磁界の分布を装置とともに平面で示す概略図である。
【図4.b】一対の補償コイルがもたらす補償磁界の分布を空間的に示す概略図である。
【図5】本発明による装置が防振的に取り付けられている例示的な能動型防振システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
ここで、本発明を走査型電子顕微鏡10の例として説明する。この目的から、図1.aは走査型電子顕微鏡10の断面を示す。図1.bは関連する電子ビーム誘導部1を示す。電子ビーム誘導部1の機能を、簡単にだけ概説する:電子1を帯電粒子として電子ガン11によって生成する。引出電圧と加速電圧とを印加することによって、電子1を試料30に方向付ける。複数のビーム集束手段及び/又は偏向手段及び/又はアパーチャが、電子ビーム1の軌道及び/若しくは形状並びに/又はそれに応じた結像特性を調整することができるようにビーム経路内に配置されている。
【0046】
この目的から設けられている例示的な手段は、ビームを監視する(monitor)ための第1のアパーチャ12と、集光レンズ13と、特に試料30を走査するための第1の偏向器15及び第2の偏向器16と、対物レンズ17と、試料30の前の最後のアパーチャとして、好ましくは試料30を走査するために可動に配置されているレンズアパーチャ18とがある。ビーム経路には弁14も配置されている。
【0047】
試料30は、チャンバー20内の試料ホルダー23上に(on or at)載置される。電子ビーム1に対する試料30の位置又は試料ホルダー23の位置は、例えばマニピュレーター24によって変更されることができる。
【0048】
装置100は電子顕微鏡10とチャンバー20とを備える。走査型電子顕微鏡10の内部及びチャンバー20の内部は真空にされる。電子1が試料30に衝突し、そこで二次電子を放出する。二次電子は、検査すべき試料30の特性について判断することを可能にする。試料30を走査することによって、該試料をポイントごとに検査することができる。例えば、後方散乱電子を検出器(図示せず)によって検出することができ、次いで検査することができる。
【0049】
加えて、ここでは2つの補償コイル41が示されている。これらの2つのコイル41はともに、ここではシート平面X−Zにおける干渉磁界を補償するために一対の補償コイルを形成する。好ましくは、それぞれの対の補償コイルが3つの空間方向X、Y及びZのそれぞれに関して設けられる。補償コイル41は少なくとも1巻きの導体によって提供される。補償コイル41は磁界補償用のシステム40の構成部材である。システム40は装置100の構成部材である。
【0050】
補償コイル41はここでは、装置100全体の周りに延在している。図示の装置100は、従来技術から既知の装置100である。弱め合う干渉により、補償コイル41が包囲している空間容積部全体を事実上無磁場にすることが意図される。装置100全体が補償容積部とみなされている。特に補償コイル41の寸法が大きいことに起因して、装置100の動作快適性が影響を受ける。図1.cは、X軸に沿った空間容積部全体についての補償磁界を示す。
【0051】
本発明は、補償容積部を装置100の最も高感度な領域に縮小することを提案する。電子ビーム1は、外部の電磁干渉を受けると、特に対物レンズ17及び/又はレンズアパーチャ18による特に最後の集束及び/又はフィルタリングのすぐ後に、装置の真空チャンバー20において像品質に関して最も高感度に影響を受けることが分かっている。
【0052】
コイル41が作り出す補償容積部は実質的に、対物レンズ17又は最後のアパーチャ18と試料30の上側面との間の容積部にのみもたらされ、この上側面上に電子ビーム1が衝突する。もたらされる補償容積部は、電子ビーム1と試料30との間の相互作用領域を含む。この目的から、コイル41又は1巻きの導体の少なくとも一部がチャンバー20の壁21と関連付けられている。チャンバー20の壁21の内部及び/又は該壁21には、その少なくとも幾つかの部分に、コイル41、特にその導体のための収容領域が設けられている。
【0053】
図2.a及び図2.bは、真空チャンバー20の壁21に及び/又は該壁21の内部に補償コイル41を配置するための、チャンバー壁21の内部及び/又は該壁21にある収容領域の2つの例を示す。
【0054】
第1の実施形態では、収容領域はチャンバー壁21の外側面21aによって提供される。コイル41又は導体はチャンバー20の壁21に沿って敷設される。補償コイルケーブルが真空チャンバー20に沿って外側に、好ましくはチャンバー壁21の外側面21aに直接、敷設される。図2.aにおいて、第1のコイル41がチャンバー壁21の上側の外側面21aに設置され、第2のコイル41がチャンバー壁21の下側の外側面21bに設置されている。第1のコイル41と第2のコイル41は一対のコイルを形成する。
【0055】
第2の実施形態では、収容領域はチャンバー壁21内のキャビティ22によって作られ提供される。補償ケーブルの設置用に真空チャンバー20の壁21内にキャビティが設けられる。
【0056】
補償コイル41はチャンバー20のサイズに適合したサイズを有する。概して、少なくとも1つの補償コイル41は100cm未満、好ましくは50cm未満、より好ましくは30cm未満の平均直径を有する。
【0057】
図2.a及び図2.bは双方とも、チャンバー20の内部の磁界を検出又は測定するセンサー42と、コイル41用の電源44と、コイル電流を調節及び/又は制御するコントローラーユニット43とを更に示す。コイル電流、ひいてはコイル41が発生させる補償磁界は、測定された磁界に応じて調節される。磁界補償用のシステム40は、補償コイル41と、センサー42と、コントローラーユニット43と、電源44とによって形成される。
【0058】
双方の構成を用いて、空間方向毎にコイル対を動作させること、又は空間方向毎に単一のコイル41のみを駆動することが可能である。これは例えば、コントローラーユニットにおける動的なコンフィギュアビリティ(configurability)によって実施することができる。適切な動作モードを選択することができる。この選択は装置の特定の特徴及びそれに必要とされる補償磁界の性質に応じて決まる。
【0059】
単一のコイル41は幾分不均質な磁界を発生させる。この磁界は真空チャンバー20の上方へ垂直方向Zに放射することによって水平方向から逸れる。これは、Z方向に感度が低い装置に関しては一対のコイルよりも良好な選択肢となり得る。
【0060】
説明目的から、図3.a及び図3.bは、単一の補償コイル41のみがもたらす補償磁界の分布を示す。
【0061】
対照的に、図4.a及び図4.bは、一対の補償コイルがもたらす補償磁界の分布を示す。実際、一対のコイルは均質な磁界を生む。しかしながら、この磁界はその向きが、双極場のように真空チャンバー20の上方で逆になる。外部干渉は小さい容積部全体の中で均一であることを前提とすることができるため、ここでは増幅されることになる。これは、この影響が真空チャンバーの上方、特に真空チャンバーの高さの約2倍で、関係しているかどうかにかかわらず、装置自体で決まる。なぜならば、最終的な集束及び/又はフィルタリングは真空チャンバー20に入った後すぐに行われるためである。加えて、双極場の振幅は、2つの渦上かつ2つの渦間の領域で最小を示す。最終的に、振幅は更に遠視野でも著しく減少する。
【0062】
どの励磁が選択されるべきかは個々の場合に応じて決まる。励磁の選択は例えば、設定可能なソフトウェアによって行うことができる。好ましくは、磁界補償はフィードバック制御の原理に基づく。コントローラー43は、干渉磁界に比例する、受信したセンサー信号に依存する。このために、センサー42は補償容積部すなわち電子1と試料30との間の相互作用ゾーン内に配置される(図2.a及び図2.bを参照のこと)。センサー42はフィードバックセンサーと呼ぶこともできる。
【0063】
ここで提供されるフィードバックセンサー42は、真空適合性設計、例えばセラミックケーシングを有する磁界センサー42である。好ましくは、センサー42は可能な限り小さいサイズにすべきである。特に、センサー42はチップベースのセンサー42の形態である。そのようなセンサー42の一例が例えば独国特許出願公開第102009024268号に記載されている。コントローラー43の一例が例えば欧州特許出願公開第1873543号に記載されている。引用したこの2つの特許出願の主題は参照により本願に完全に援用される。
【0064】
補償容積部は10cm未満、好ましくは125000cm未満、より好ましくは27000cm未満の範囲内にある。対応する縁の長さの例は、100cm×100cm×100cm;50cm×50cm×50cm;及び/又は30cm×30cm×30cmである。補償容積部の寸法が小さく、したがってこの容積部を包囲する補償コイルのインピーダンスが小さいことにより、例えば50kHzを超える非常に大きな調整帯域幅をもたらすことができる。さらに、伝達関数がトリビアル(trivial)であるため、任意のトリビアルな電子回路をフィードバックコントローラー43として用いることが特に可能である。
【0065】
最後に、図5は、ここでは例として空気式アイソレーター202に基づく能動型防振システム200の形態で提供されている防振システム200とともに本発明の装置100を示す。防振すべき質量体である装置100は、空気式アイソレーター202によって床面203に対して防振取り付けされている。
【0066】
能動型防振に関して、システム200は例えば4つの空気式アイソレーター202と、複数のアクチュエーター207及び208と、振動信号送信器として複数のセンサー204、205及び206とを備える。センサー204、205及び206は、振動、又はより包括的には、防振すべきベース質量体201の動き及び防振すべき荷重体100の動きを検出し、それらの動きを制御システム(ここでは図示せず)に渡すべき信号に変換することを可能にする。したがって、センサー204、205及び206は振動信号送信器として、振動を表すセンサー信号を供給する。
【0067】
空気式アイソレーター202には、例えば任意選択的に電子制御可能な弁が備わっている。したがって、空気式アイソレーター202はこの弁とともに、垂直動作方向Zを有するアクチュエーターを形成する。アイソレーター202とアクチュエーター207及び208が振動を相殺する。
【0068】
より良好に概説するために、図には構成部材の一部しか示されていない。図示の例では、センサー204、205及び206並びにアクチュエーター207及び208は、2つの自由度であるX及びZのみに関して示されている。
【0069】
センサーは例えば速度センサー、加速度センサー及び/又は位置センサーから構成される。例示的な目的から、図5は、位置センサー204、垂直方向の速度及び/若しくは加速度センサー205、並びに/又は水平方向の速度及び/若しくは加速度センサー206を示す。センサー204、205及び206の例は受振器センサー及び/又は圧電センサーである。アクチュエーター又は力アクチュエーター207及び208の例は、ローレンツモーター及び/又は圧電アクチュエーターである。
【0070】
当業者には、記載の実施形態は例として理解されるべきであることが明らかであろう。本発明はこれらの実施形態に限定されるのではなく、むしろ本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに多くの方法で変更することができる。個々の実施形態の特徴は互いに組み合わされるとともに、本明細書の概説部分に述べた特徴と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 帯電粒子、電子又は電子ビーム
10 帯電粒子を供給するデバイス又は電子顕微鏡
11 電子源又は電子ガン
12 ビームを監視するための第1のアパーチャ
13 集光レンズ
14 弁
15 磁気又は電気的偏向手段
16 磁気又は電気的偏向手段
17 対物レンズ
18 レンズアパーチャ又は最後のアパーチャ
20 試料用のチャンバー又は真空チャンバー
21 チャンバー壁
21a チャンバー壁の外側面
21b チャンバー壁の内側面
22 チャンバー壁内の凹部又はキャビティ
23 試料ホルダー
24 マニピュレーター
30 試料又は標的
40 磁界補償用のシステム
41 コイル、補償コイル、一対のコイル又は一対の補償コイル
42 磁界を検出するセンサー
43 コイルにおける電流を調節及び/又は制御する手段
44 電源
100 試料を結像、検査及び/又は処理する装置
200 防振システム
201 防振すべき質量体、ベース質量体又は防振すべきテーブル
202 空気式アイソレーター、振動アイソレーター又は弁を有する空気軸受
203 床面又はベース
204 位置センサー
205 垂直方向の速度センサー又は加速度センサー
206 水平方向の速度センサー又は加速度センサー
207 垂直動作方向を有するアクチュエーター
208 水平動作方向を有するアクチュエーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電粒子(1)、特に電子を用いて試料(30)を結像、検査及び/又は処理する装置(100)であって、
帯電粒子(1)を供給するデバイス(10)と、
試料ホルダー(23)を有するチャンバー(20)であって、前記デバイス(10)によって供給可能な前記粒子(1)を用いて試料(30)を結像、検査及び/又は処理することができるように前記試料ホルダー(23)上に前記試料(30)を位置決め可能である、チャンバー(20)と、
少なくとも1つの空間方向(X、Y、Z)における磁界補償用のシステム(40)であって、少なくとも1巻きの導体によって提供される少なくとも1つの補償コイル(41)を含む、システム(40)と、
を備え、
前記チャンバー(20)の少なくとも1つの壁(21)が、該壁(21)の少なくとも幾つかのセクションに、前記補償コイル(41)の少なくとも一部分のための少なくとも1つの収容領域(21a、21b、22)を有する、装置。
【請求項2】
前記収容領域(21a、21b)は、前記チャンバー壁(21)の外側面及び/又は内側面によって提供され、さらに、
前記補償コイル(41)は、前記チャンバー壁(21)の前記外側面及び/又は前記内側面上に少なくとも部分的に配置される、請求項1に記載の装置(100)。
【請求項3】
前記収容領域(22)は、前記チャンバー壁(21)内に少なくとも部分的に延在している凹部によって提供される、請求項1又は2に記載の装置(100)。
【請求項4】
前記凹部(22)は前記チャンバー壁(21)内のキャビティとして形成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項5】
各空間方向(X、Y、Z)は少なくとも1つの補償コイル(41)と関連付けられているため、3つの前記空間方向(X、Y、Z)において干渉磁界を補償することができる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項6】
各空間方向(X、Y、Z)は少なくとも一対の補償コイルと関連付けられているため、3つの前記空間方向(X、Y、Z)において干渉磁界を補償することができる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項7】
前記磁界補償用のシステム(40)は、前記一対の補償コイルのうちの1つの単一の補償コイル(41)又は前記一対の補償コイルを励磁するように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項8】
防振システム(200)であって、防振的に取り付けられている、前請求項のいずれか一項に記載の少なくとも1つの装置(100)を含む、防振システム。
【請求項9】
帯電粒子(1)、特に電子を用いて試料(30)を結像、検査及び/又は処理する方法であって、
前記帯電粒子(1)は供給され、チャンバー(20)の内部に配置されている試料(30)に方向付けられ、
少なくとも1つの補償コイル(41)が作り出した補償容積部において、前記粒子(1)の軌道の一部分に沿って干渉磁界を補償することができるように磁界がもたらされ、さらに、
前記補償容積部は、集束及び/又はフィルタリングのような、前記帯電粒子(1)への最終的な影響の後で、或る領域にもたらされる、方法。

【図1.a】
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【図1.c】
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【図3.a】
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【図3.b】
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【図4.a】
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【図4.b】
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【図5】
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【図1.b】
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【図2.a】
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【図2.b】
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【公開番号】特開2013−16492(P2013−16492A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−150279(P2012−150279)
【出願日】平成24年7月4日(2012.7.4)
【出願人】(502296338)インテグレイテッド ダイナミクス エンジニアリング ゲーエムベーハー (27)
【Fターム(参考)】